Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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『夜の風』

 ならず者と乱闘騒ぎを起こした次の日…
 ラングは、まだ暗い街道を歩いていた。

 今まで何をしていたかと言えば、明け方近くまで飲ませてもらい、助けたフランチェスカという娼婦の男…盗賊ギルドの幹部と親交を深めていた。
 
 ギックと呼ばれているその男は、情報屋の部門で台頭してきた人物で、公正な性格から部下にも慕われている。
 ラングとは仕事でも何度か関わり、互いに貸し借りを作っていた。
 それを除けば、ときおり共に酒を飲む関係になっていた。

 ギックとの会話を思い出し、苦い顔になる。

「…また世話になったな、ラングの旦那。
 
 どうだい?
 金は弾むから、俺の用心棒にならねぇか?
 
 あんたは鼻も利くし、隙がねぇからうってつけなんだが」

 ギックの誘いに、ラングは即答で断った。

「用心棒なんて、一所に留まるだけの仕事はごめんだぜ。

 だいたい、顎で使われる仕事は向かねぇんだよ。
 俺は、気に入らなきゃ王様でもぶん殴る性質だからよ。

 まぁ、今の仕事で食って飲めることだし、遠慮しとくわ」

 ラングの言葉に、ギックは残念そうに肩をすくめた。

「旦那ほどの腕なら、仕事はよりどりなのによ。

 なんでまた、いつのたれ死ぬか分からねぇ冒険者なんて続けてるんだい?」

 ラングは少し考えてから、さぁなと答えた。

「…俺も分からねぇんだ。

 冒険者なんて、扱いはならず者扱いで、金だって大して得られ無ぇ。
 俺みたいに荒事専用の単独で活動する冒険者は、仕事だって限りがあるし、きつい仕事の割に報われてる感じもねぇ。
 
 だが、なんでか止められないんだよ。
 なんでか、な…」

 
 ケチがついたのか、その後の酒は味気なかった。
 朝が明けるには早かったが、早々に切り上げて、ラングは夜道を歩いていた。

 やがて廃墟ばかりが目につく場所に出る。
 街灯も無く、すえた石の薫りと濁ったドブ水の悪臭が鼻を突く。

 そこは〈宵闇通り〉と呼ばれる、貧民街の一角だった。
 
 ラングはかつてこの地区に住んでいたが、酷い疫病が流行り、一区画丸ごと廃棄されたのだ。
 陰惨な話だが、生き残りはラングしかいなかったので、覚えている者も少ないだろう。
 
 父も母も幼馴染みも、皆苦しむ暇もなく死んで行った。
 
 ラングは、廃棄に踏み切ったリューンの役人を恨んではいない。
 それほどに、その疫病は強力で、あっという間に死を蔓延させたのだ。

 ラングもまたその病に罹ったが、偶然と幸運が重なり助かった。
 何もかもを失ったラングは、そこからたった一人で冒険者を志し、今がある。
 
「そういや、俺が冒険者になったのは、ここで元冒険者の男の話を聞いたから、なんだよな」

 ちょっとした広場に着くと、ラングは朽ちた杭の跡を軽く蹴って、一人呟いた。

「…重そうな棒きれを軽々と振り回す様子が、魔法みてぇだった。

 俺が剣の素質を見込まれて技を習うようになって…
 だからこうやって食っていけるようになったんだよな。

 あの頃の俺は、夢ばっか追いかけてた…」

 そして、独り言を言った直後の空しさから、照れたように頭を掻く。
 周りには誰もいないのに、だ。

「…ついでだ。

 姐さんとこにでも寄ってくか」

 照れ隠しのように、ラングは大きな身体をゆすって歩きだした。


 もう少し歩くと、古びてはいるが人の手の入った建物が見えて来る。
 壁に香草で作られた輪が掛かり、悪戯書きに見せかけて見たことも無いような文字が描かれていた。
 それらが魔除けと人除けの結界であることを知らなければ、この場所に近づくすら出来ないだろう。

 入口に近づけば、そこには道具屋を示す看板が傾いで掛けてあった。

 ラングは感慨深げな顔で看板を直し、正確に四度ノックすると、扉を無造作に開けた。
 途端に香草の何とも言えない香りが鼻を突く。
 奥からロッキングチェアの軋む音が、規則的に聞こえて来る。

「…朝早くわりぃな。

 近くまで来たからよ。
 姐さん、いるか?」

 乱暴な口ぶりでラングが奥に声をかけると、ゆったりとその女は、腰かけていたロッキングチェアから身体を起こした。
 彼女が手を一振りすると、壁に掛かった蜀台の蝋燭に火が灯る。

「…よく来たねラング。

 相変わらず婆が一人いるだけさ。
 酒は出せないが、お茶でよければ飲んでお行き」

 椅子に腰かけたまま、その女性は穏やかに微笑みかけた。

 長い黒髪に、蝋燭の炎を反射して爛々と輝く赤い瞳。
 丹を塗ったような紅い唇の下に一つ小さな黒子があるが、それが彼女をますます妖艶に見せている。

 日焼けや垢の汚れ一つ無い白い肌は白磁のようで、整った顔立ちは若々しくラングと同い年ぐらいにも見える。
 だが、纏った気だるげな雰囲気が、もっと老いた年寄りのような印象も与える女性だった。

「やっぱり休んでたのか?

 起こして悪かったな」

 頭を掻くラングに、女性は微笑んで首を横に振った。

「病んだ身体だから、大半は眠ってるさ。
 珍しい客が来た時ぐらい、起きなきゃね。

 それに、ここはあんたの家だろう?

 私は、間借りしてるだけの居候さね。
 遠慮はいらないさ」
 
 喋りながらゆっくりと起き上がり、慣れた様子で湯沸かしに水を入れ炉に懸けると、ひとりでに火が付く。
 彼女が歩くと、誰が持っているわけでもないのに、ふわりと茶葉の入った小瓶がテーブルに降りて来た。
 
 ポットに茶葉を掬い、湯を入れて蒸らしはじめると、女性はラングに椅子をすすめて、自分もその前に座る。

「…身体はどうだ、姐さん。

 欲しいものがあれば、買ってくるから、言ってくれよ」

 普段の荒っぽさからは予測できない優しげな口調で、ラングは問うた。
 
「…ふふ。
 身体は相変わらずさ。

 お前さんが温めてくれるなら、少しは良くなるかもしれないがね」

 唇をぺろりと舐めて、誘う様に流し眼を送る女性。
 敬虔な僧侶でも誘惑されそうなその仕草に、ラングはやめろとばかり手を振った。

「…それは残念。

 誘って断られるなんて、やっぱり私も耄碌したかねぇ」

 しなやかに腰を振り、女性はさっとお茶を煎れる。
 甘い香草の香りがあたりに漂った。

「姐さんは十分魅力的だよ。

 だから止めとくんだ。
 骨抜きにされるのが見え見えだからな。

 そんなに色っぽく誘うのは勘弁してくれ」

 苦笑いをしながら、ラングは美味そうに茶を啜った。

 
 この女性の名は、シルヴェリア。
 だが、世には別の名…悪名の方が轟いている。

 希代の大魔女“夜の風(ナイトウインド)”。
 
 聖北教会から最大級の異端として指名手配され、異端の討滅を生業とする者たちが血眼になって捜している人物だった。
 
 年の頃は20代半ばから後半にしか見えないが、この女性が数百年生きている隠者であり、伝説的なまじない師であることは、古い書物にも書かれていることだ。

 数々の悪魔を使役し、人を呪う術を究め、辺りに災いを振りまく…
 教会の書物にはそのように描かれ、恐れられている人物である。

 だが、ラングの知るシルヴェリアは、そういった妖術師の類ではなかった。
 古今の様々な知識に通じ、占いから錬金術まで極めているが、人を呪うよりも遠くから観察しているだけの隠者である。

 聞けば、とある歴史書にも出てこないような古い神を父親に持つ半神の神仙で、古い月の女神を崇敬する巫女の末裔だという。
 敵対者には徹底的に冷酷だが、望んで殺戮や暴虐を働く様な邪悪さは無い。

 先ほど淫蕩な様子で誘って見せたが、それはあくまでもラングを気に入っているから、からかった程度。
 前に聞いた話では、身体を許すほど恋をしたのは、数百年の中で数える程らしい。

 そんな彼女とのなれそめは、数年前。
 
 シルヴェリアが大規模な異端狩りに遭い、酷い怪我を負って息絶え絶えだったところをラングが救ったのだ。
 その時の傷が元で、シルヴェリアは今でも一日の大半を眠って過ごしている。

 ラングは、廃棄され後貧民街と化したこの地区の自分の生家に彼女を匿うことにした。
 
 恐ろしい疫病が流行ったという事実は、迷信深いものを近づけない理由として十分だったからだ。
 実際は、住む場所を追われた一部のストリートキッズや貧民が逃げ込んでいるが、病気が再発したという噂は聞いていない。
 加えて、伝説の隠者が人払いの結界を張れば、隠蔽においては最高の場所であった。

 以来、シルヴェリアは穏やかな時を過ごし現在に到るというわけだ。
 
 その礼だとでもいうのか、シルヴェリアはラングに様々な手助けをしてくれる。
 冒険で行き詰った時、治療が必要な時、知識が必要な時…
 シルヴェリアは惜しむことなく、その知識と技術で窮地を救ってくれた。

 子供と呼べる時分に天涯孤独になったラングにとって、今やシルヴェリアは母や姉のような存在である。
 
 ラングは、何か悩みが出来た時はここを訪れるようにしていた。
 帰る場所があることで、戻ってくることで、失ったモチベーションを取り戻すのだ。

 シルヴェリアもまたラングに対して、独特の愛情表現をしてくれる。
 超倫理的な考えの持ち主である彼女は、時に誘惑してラングを困らせることもあるが、必要な時には叱り抱擁し支えてくれる存在だった。

 本人は、自分を年寄りだといって憚らないが、ラングは親しみをこめて「姐さん」と呼んでいる。
 最初の頃は照れた様子だったが、それでも先輩格として慕ってのらえることが嬉しいのか、シルヴェリアはラングの呼ぶにまかせていた。


「…ラング、疲れた顔をしているね。
 冒険者を続けることに、迷っているのかい?

 まぁ、現状に倦むことはよくあることさ。
 私みたいに隠者なんぞやってると、悲観的になることは日常だけどね。
 でも、茶を飲んで忘れられることもあるものさね。
 
 どれ、久しぶりに占ってあげよう」

 黙って茶を啜っていたラングに、表情一つでその心を見抜いたシルヴェリアは、革袋から小さな貴石を数個取り出す。
 テーブルに不思議な文字の書かれた羊皮紙を敷き、呪文を唱えながらそこに貴石を一つ一つ転がした。

 呪術に通じるシルヴェリアは、占いや星読みにおいても一流の使い手である。

 俄かにシルヴェリアの表情が曇り、溜息を吐く。
 結果が気にくわない、というか、何かに拗ねているような様子もあった。

「…大いなる試練と、白い女。
 
 もうじきお前は、世に知れ渡る偉業を成し得るようだ。
 出逢った時から強い運命を持つ男だと思っていたけど…お前は伝説に残ることを成すかもしれないね。
 
 その傍らには、運命の女がいる。
 それが私でないのはちょっと癪だがね。

 禍々しい忌まわしいものがお前の敵となるが、お前はそれに挑むだろう。
 その時、白い刃と紅い炎、闇色の虎がお前を助けてくれる。

 おや、女難の相があるね。
 お前は好い男だから、さぞ振り回されるだろう。

 運命の先は見えないけれど、それは可能性を失わないお前の強さ故のこと。

 私の星も関わっている、助言者として。
 これは、あの娘も…

 私のしてあげられることは、随分ありそうだね」

 意味深なシルヴェリアの言葉に、ラングは肩をすくめた。
 抽象的な言葉が多いが、それが占いであり、その意味は自分で見つけて行くものだとシルヴェリアは言う。

「絶対を謳う託宣に振り回される時、その者は運命に負けるということさ。

 不幸が分かっていることに懊悩し、可能性を無くしてしまったものが辿るのは悲劇でしかない。
 そんなもの、知らない方がいいのさ。

 分からないからこそ意味を探求し、見つけ出すのが占いを行う上での意味になる。
 
 宿命なんてものは、科すものじゃない。
 過ぎ去ってから気付いても遅くはないよ」

 シルヴェリアは、その気になれば未来のあらゆることを見通す業も持っている。
 だが、あえてそれをしないという。

 分かっている未来に振り回された結果は、つまらないものになるからだ。
 外れる可能性を残すことで、運命の逃げ道を作るのも占いのコツらしい。

「…この運命は、お前が冒険者を続ける上で到る道だよ。

 止めるもよし、続けるもよし。
 なんなら、此処でしばらく休んで決めればいい。
 焦っても見逃す道の方が多いのさ。
 
 たまには私の話し相手になって、冒険の自慢話でもしてお行き。
 婆の一人暮らしは、人肌が恋しくなるしね」

 軽くウインクして、シルヴェリアは占いを終えた。

「それもそうか。

 じゃあ、二、三日世話になるよ。
 ついでに町から買い物でもして来てやるから、欲しいものがあれば言ってくれよ」

 慣れたようにシルヴェリアの冗談じみた誘惑を躱すと、ラングは身につけていた漆黒の鎧を脱ぎ、背負っていた黒塗りの大剣をテーブルに置く。
 
 愛用の黒い鎧は、実は黒く塗りつぶすほどの呪文によって、鋼鉄以上の硬さを得た魔法の革鎧だ。
 この鎧の魔力付与も、シルヴェリアが行ってくれた。
 オーガの棍棒やグリフォンの鉤爪に耐え、ラングの命を何度も救ってくれた逸品である。

 再生の魔力によって、傷一つ無い鎧を見つめながら、ラングはしばしの休息を願うのだった。


 久しぶりの小説更新です。
 今回登場するのは、Y2つの世界観で重要な役目を果たす大魔女“夜の風”シルヴェリアです。

 彼女は放浪する風の龍神リヴレルムを父に持つ、半神の隠者で、“風唄い”と呼ばれる魔女集団の頂点に位置するまじない師です。
 “風唄い”は、自然と月の女神ディアナを崇敬する古い魔女の一団であり、風の精霊に関わりが深いことからこの名で呼ばれます。
 魔女といっても、現代的なウィッカに近い善でも悪でもない集団であり、異端者として語られる邪悪で淫蕩にふける魔女からすれば、自然崇拝系のシャーマンに近いかもしれません。
 最も、何百年も生きたシルヴェリアは、優れたまじない師であり、数多くの精霊…魔神を使役する術師でもあり、聖北教会には否定的ですから、異端者として追われています。
 
 もっとも、シルヴェリアは教会組織そのものを憎んではいません。
 盲信が生み出す狂気は、教会勢力に限らず、信仰や宗教についてまわる弊害であり、穏やかに信仰の違いをも保ちながらも分かり合える人間もいると分かっているからです。
 ある意味、排他的で偏屈な印象のあるものが多い隠者の中では、変わり者かもしれません。

 私の大好きなキャラクターであり、いつかシナリオに登場させたいと思っています。
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『ダンピール』

 薄暗い教会の廊下を、女は歩いていた。
 
 着ているのは白と紫を基調とした、男物の簡易法衣に黒いストラ(首掛帯)。
 
 白は純粋な信仰を表し、職務にかける信念を示している。
 紫は改悛の色で、不浄を滅するために武器を持つこと、血を流すことへの懺悔を表す。
 そして漆黒のストラは、人の罪と異端を嘆く悲しみを意味する。
 そのストラには、女が司教であることを表す紋章が刺繍されていた。 
 
 彼女はフェリス ラザハッド。
 異端討滅組織“神の鉄鎚”の指令であった。
 
 普通司教の位は、都市レベルの教区を統べる高僧に与えられるものである。
 しかし、異端を見つけ場合によっては討伐するその特殊な仕事柄、超法規的行動が取れるように法王庁から特権を与えられた“神の鉄鎚”の指令官は、司教を兼任することが通例だった。
 特別な任務で与えられる聖職、名義司教である。
 
 吸血鬼や悪魔といった恐るべき邪悪は、時に都市や国家レベルの滅亡を招くことがある。
 素早く、確実にそういった邪悪を滅ぼす力。
 状況次第では、一都市の教会の戦力をそのまま指揮できる権力。
 必要だからこそ与えられた特権であった。
 
 しかし、フェリスとすれ違う者たちはその誰もが羨望と同時に、侮蔑と軽蔑の視線をその法衣に注ぐ。
 
「…く、あの“灰もどき”がっ!」
 
「…女の分際で、司教座など、何と嘆かわしい…」
 
「…呪われた化け物め…」
 
 怨嗟をこめて、すれ違う者たちが聞こえる声で陰口を吐く。
 それを、風を切るように無視して進む。
 
 やがて、ある一室にたどり着くと扉をノックする。
 そして、中から聞こえた入室の許可を受け、その扉をくぐった。
 
 そこは調度品の類も無く、祈りのための小さな祭壇以外は神学の書がずらりと本棚に置かれた、少し手狭な部屋だった。
 中では1人、緋の僧衣を着た初老の僧侶が、机でペンを走らせていた。
 
「…マグヌス閣下。
 
 “第七の鎚”討滅指令官フェリス、聖務を終え、ただ今帰還致しました」
 
 机の前で簡易の礼をとる。
 
「…ふむ、御苦労。
 
 楽にして、少し待ちたまえ。
 この書類の印を終えたら、報告を聞くとしよう」
 
 しばらくは紙の上をペンが走る、小気味良い音が鳴っていた。
 
 やがて男が書類を巻き、赤い蝋を熔かして封印を終えると、それを机の脇に置く。
 
「これでいい。
 
 さて、話をしよう。
 おおまかなことは報告書で知っているよ。
 
 相手は〈騎士〉並の異端だったようだね。
 デップ〝元〟司祭は、昨日の裁判で、東の修道院に派遣されることに決まった。
 …体のよい追放だが、あのビール樽には少し甘い処分かもしれないな。
 さすがに司祭を破門するには、教会の体裁が悪い、ということだ。
 
 書類を見れば、破門にすべきだと私は思うのだがね。
 
 彼は最後まで君のことを悪魔だの、異端だのと叫んでいたそうだが…
 終いには、罵詈雑言の言葉も尽きてしまった様子だよ。
 
 ただ、殴りつけるのは遠慮したほうがよいな。
 つまらない詮索をするものもいる。
 今回の場合は、君の信仰ゆえの〈愛の鞭〉ということにしておいたから、今後は自重するように。
 
 私個人としては、喝采したいところだがね。
 
 安心したまえ。
 君はよくやっている。
 
 さすがはエリヤ君の秘蔵っ子だけはある。
 
 私も先代の無能者を放逐して、君を推挙した甲斐があるというものだよ」
 
 男はマグヌス。
 西方の聖北教会において、その中枢となる人物の1人である。
 
 40代で緋の僧衣…枢機卿まで登り詰めた手腕からも、その実力が伺い知れた。
 緋は、信仰のためならば、いつでもすすんで命を捧げるという決意を表す色である。
 
 枢機卿とは、法王庁から称号を与えられた貴族のような者だ。
 多くは僧侶としての位階も持ち、その多くが司教座である。
 マグヌスの場合、フェリスと同じ司教だが、格が違う。
 大都市の教区を統べる大司教でさえ、それに及ばない権力を持っていた。
 
 彼は西方に客分として滞在しているが、その目的は広大な西方各教区の監督であり、同時に他の要職にある枢機卿や司教に法王の命を伝える、法王直下の監視官であった。
 あらゆる聖北の組織が円滑に動けるように、法王庁からお目付け役として派遣された橋渡しのような職務をこなしている。
 面だって活動したり、名が残るような仕事ではないが、教会組織を裏で支える要職であった。
 
 若い頃から次期法王候補の1人と目されていたが、自身は聖北の正義に尽くすと宣言し、城塞都市ベルンでその辣腕を振るっている。
 彼がリューンなどの大都市にいないのは、ベルンが地理的に法王庁にも近いからだ。
 
 またベルンは、西方のあちこちに伝令や命令を行き渡らすのにも都合が良い場所にあった。
 東方の異教徒の進行を阻止し、宗教都市であるラーデックやペルージュに通じる街道の要所を守っているのがベルンである。
 
 マグヌスの性格は、合理的で実力主義。
 かつ、差別や偏見を、人間の持つ心理として視野に入れながら、それに囚われて大局を見誤らない聡明さ。
 この時代にあって、稀有な気質の聖職者であり、英明な人物であった。
 
 彼は、数十年前まで燻っていた悪習の魔女狩りと異端審問のありかたに異を唱え、活動してきた。
 彼の登場によって、西方における魔女狩りで、誤って殺される女性は激減したと言われている。
 
 加えて、男女の差別もしない男だった。
 
 本来女性であるフェリスの、異端討滅官指令=司教という大抜擢は、前代未聞のことである。
 教義的な理由によるのだが、女性の聖職者は少なく、司祭以上の位階のものなど無いに等しい。
 しかもフェリスは普通の人間ではない。
 そんな彼女を、今の地位に押すほどの発言権が、マグヌスにはあった。
 フェリスの役職が、公表された役職ではなかったことも、その要因ではあったのだが。
 
「…君は優秀だよ、フェリス君。
 
 しかし、あまり過激には動かないでくれたまえ。
 君の信仰は、秘蹟の発現からも十分証明されている。
 …が、それすらできない愚か者たちにも言い分はあるらしい。
 
 君の出自はそれだけ特殊なのだ。
 その銀の歯が、君の信仰の証だと言っても、愚か者たちは聞こうともしないが、ね。
 
 私が君を庇えるのはあと20年ほどだ。
 それまでに愚かな因習が改革できるかは、分からないが…
 君の寿命なら、20年など、我々の数年に過ぎないね。
 
 もっとも、聖戦という激務で、私より先に殉教されてしまうと話は違うが、ね。
 そのようなことが無いように、日々神に祈っているよ。
 
 君が神に召される時は、エリヤ君やアンゼルムス君と同じ形で無いことを願うばかりだ」
 
 そう言って、優しげな目でフェリスを見つめるマグヌス。
 出会った時に比べ、髪には白いものが目立ち、顔にも随分と皺が増えていた。
 
「お気遣い感謝いたします、閣下。
 …呪われたこの身、“ダンピール(半吸血鬼)”である私が、主の御膝元で戦えるのは閣下のおかげです。
 
 ですが、この身が役尽きるその時まで…不浄と戦うのは、私が主より賜った使命。
 そして、このような形でしか、私には閣下やエリヤ元指令、そしてわが師父の大恩に報いることができないのです」
 
 フェリスはそう言って苦笑する。
 
「ふふ、私が思うに…
 
 聖地の総大司教より、君の方がよほどその聖職に相応しいよ」
 
 マグヌスの言葉を聞きながら、フェリスは遠い過去に思いを馳せていた。
 
 
「…迷わず神の御許に行くがいい」
 
 それは双剣を構えた大男であった。
 
 赤いちぢれたくせ毛は炎のように風になびき、その眼光は稲妻のように激しい。
 左右に持つのは、十字架を模した黄金の剣。
 鋼のような筋肉と、厳つい髭面。
 
 対するは、不浄の存在、グールたち。
 人の屍肉を漁る亡者である。
 
 男が一刀を振るう度、グールは次々に灰となっていく。
 動く度に、胸に下げた聖印が揺れて煌いた。
 
 そして男は、そこにいた最後の亡者を浄化した。

 
 
 汗を拭い、大男はその村に足を踏み入れた。
 西方東部の辺境にある小さな村である。
 
 近くに家から飛び出すように現れた老人が、男の前に跪く。
 
「あ、ありがたやぁ~!!」
 
 大男は、薄汚れていたが、司祭の僧衣を纏っていた。
 僧職に不釣合いな双剣を除けば、外見こそ厳ついが、一応は聖職者である。
   
 この周辺に出没するという亡者(アンデッド)を倒すためにやってきた。
 すでにこのグールたちの原因だった死霊術師は、男が倒していた。
 
「御老人、面を上げられよ。
 
 自分は、自分の責務を全うしたのみ。
 さあ、立たれるがよい」
 
 なおも畏まる老人の肩を抱いて抱き起こし、大男は微笑んだ。
 
「失礼。
 
 自分はアンゼルムス ラザハッド。
 この地に現れた不浄を討つために、聖北教会から派遣された者。
 
 御老人はこの村の?」
 
 老人は、アンゼルムスと名乗った男に頷く。
 
「そうですじゃ。
 
 他の連中は、あの鬼たちを恐れて、今は籠もっております」
 
 油断無く周囲をうかがいながら、アンゼルムスは、出てきた家の方に老人を連れて行く。
 
「おそらくもう、グールどもはおらぬでしょうが…
 
 自分はもう少し、周囲を調べてきます。
 村の衆は、それまで家の中で待っておられよ」
 
 アンゼルムスがそう言うと、老人は村はずれの丘を指差した。
 
「この鬼どもは、丘に住む鬼子の仕業に違いありません。
 
 まったく、あんな鬼子を村に入れるからじゃ…」
 
 苦々しい声で、老人は毒づいた。
 
「…鬼子?
 
 はて、御老人。
 それはいかな?」
 
 アンゼルムスの目が鋭くなる。
 
「…5年ほど前のことじゃ。
 
 1人の若い女が、子供を伴ってこの村に来たんじゃ。
 若い女は、それは美しい女子での。
 
 随分さまよってきたのじゃろう、その親子を、村長が哀れに思って村はずれの空き小屋に住まわせたのじゃ。
 
 ところが、その子供は鋭い牙を持ち、血のような赤い瞳をしておった。
 しかも、薄気味悪いほど白い肌は、日に当たると肌が火ぶくれを起こすんじゃ。
 噂に聞く吸血鬼に違いあるまい。
 
 わしは、あんな鬼子は追い出すべきじゃといったんじゃが、村長の息子が母親の色気に毒されての。
 おそらく、美人の母親とねんごろにななっておったんじゃろうが…
 
 それからじゃ…
 日照りが続き、疫病が流行り、ついには化け物がやってきおった。
 
 あの親子は、化け物じゃっ!」
 
 アンゼルムスはふむ、と目を閉じ考え込んだ。
 そして老人に頷く。
 
「まことにその親子が悪鬼の類であるなら、自分が退治いたそう。
 
 あの丘の小屋でよろしいのか?」
 
 老人は、ところどころ抜けて黄ばんだ乱杭歯をむき出して、何度も頷いた。
 
 
 老人の言った丘には、粗末な小屋があった。
 
 隙間だらけで、屋根が傾いでいる。
 人が住んでいるのかも、怪しかった。
 
「…失礼。
 
 少しばかり聞きたいことがあるのだが、この家の主殿は御在宅か?」
 
 律儀に扉をノックし、アンゼルムスは家主を呼んだ。
 
 しばらくして戸が開き、みすぼらしい格好の子供が現れた。
 
「…おかあさまはびょうきです。
 
 このいえには、わたしとおかあさましかいません」
 
 見つめ返したのは、紅玉のような赤い瞳だった。
 くすんだ髪は真っ白で、肌も病的に白い。
 覇気の無い、怯えたような、あきらめたような表情。
 
 力無い様子の子供は、しかし端整な顔立ちの女の子だった。
 
 アンゼルムスは屈んで、その娘の口元に手をやった。
 娘がびくりと後ずさる。
 
 アンゼルムスは逃げられないように、娘の肩を掴むと、その唇を指で押し上げた。
 子供には似つかわしくない、鋭い犬歯。
 
(これは…、ただの白子(アルビノ)かと思ったが、本物のダンピールかっ!)
 
 娘は少し抵抗したが、やがてあきらめたように動かなくなった。
 
「娘…
 
 お前、血が飲みたいと思ったことはないか?」
 
 娘の肩を掴んだまま、アンゼルムスは聞く。
 
 娘は少し考えると、首を横に振った。
 
「…そうか。
 ならばまだ間に合う。
 
 自分は、お前たちを殺しに来たのではない。
 話がしたい。
 
 それに、この家の様子では、母上にまともな薬など与えておらぬのだろう?
 
 自分の薬をわけてやろう。
 家に、入れてくれないか?」
 
 アンゼルムスは笑顔を浮かべて薬を見せ、娘の頭を撫でた。
 娘はまた少し考えて、小さく頷いた。
 
「自分はアンゼルムスという。
 
 娘よ、お前の名は?」
 
 扉を開けてくれた娘に問うと、娘は下を向いてぼそりと言った。
 
「…ウルヴェチカ。
 
 でも、このなまえはきらいです。
 おかあさまはエリカとよんでくれます」
 
 エリカとはこの地方の言葉で、愛娘を呼ぶ愛称だ。
 因習の多い地方であり、本名で呼ぶと悪魔に攫われる、といった伝承がたくさんある。
 
 アンゼルムスは厳つい髭面を、さらにしかめた。
 
(ウルヴェチカ…だと?!
 
 淫蕩で殺戮を好み、悪魔に国を明け渡したという伝説の王女の名。
 このあたりでは、口に出すのも避けられる忌み名ではないか。
 
 このような悪趣味なことをするのは、おそらくこの子供の…)
 
 そして、アンゼルムスはその娘の出生がどんなものか、およその見当がついた。
 
 
 小屋の奥に進むと、粗末な藁葺きのベッドに、やせた女性が横たわっていた。
 くすんだ髪、こけた頬。
 しかし、そうなってさえ、美しいと感じさせる女性だった。
 
「お休みのところを、失礼する。
 
 自分はアンゼルムス。
 ある使命のために、この村までやってきた。
 
 貴方は、この子の母上か?」
 
 アンゼルムスが問うと、女性は薄く眼を開けて弱々しく頷いた。
 
「…聞きたいことがあるのだが、まずはこの薬を。
 
 滋養となり、すぐに効く。
 …うむ、失礼」
 
 とても起き上がれないと知ったアンゼルムスは、口移しで薬を飲ませた。
 この時代、道具の無い場所で口移しの投薬は、それほど珍しいことではなかった。
 加えてアンゼルムスは、そのようなことに躊躇っては命を落とすほど、死が近い生活をしている。
 
「…いけ、ません。
 
 お坊様の、身体が汚れます」
 
 構わずアンゼルムスは、水筒で湿らせた布で女性の口元や汚れた頬を拭った。
 
「汚れるというのは、病のことか?
 
 あいにくと、この身は神にささげておるゆえ、簡単には汚れぬ。
 
 そなたを不幸にした悪鬼の類ならば、この聖なる剣で打ち払ってみせよう。
 
 それに、娘御の悪趣味な名はそなたがつけたのではなく、父親がつけたのだな?
 
 そなたを汚すことは何人にもできぬ。
 心と魂の汚れぬ者は清いのだ。
 心清く無い者が、どうしてこの子を育てられよう。
 娘をエリカ(愛子)と呼ぶ母に、汚れた者がいるものか。
 
 この娘がヴァンピール(吸血鬼)の子ということも知っている。
 
 安心されよ、殺す気は無い。
 信仰と神に誓って、だ。
 
 ただ、そなたにきちんと話が聞きたいのだ。
 
 私ならば、この娘に呪われた宿命と戦う術を与えられるかもしれぬ。
 
 だから教えてほしい、あの娘のことを…」
 
 アンゼルムスは真摯な瞳で、女性を見つめた。
 
 
 ダンピール(半吸血鬼)と呼ばれる者がある。
 
 蘇った死者の伝説は、西方東部に多いが、ダンピールもそんな中で生まれた種である。
 
 西方東部からその東、中東、中原にかけて、古代の神話の神々は血を好む性質が多い。
 生贄、虐殺、破壊…
 血なまぐさい伝説がたくさんある。
 
 ウガリッドの主神バアルの妻、鮮血の女神アナトは悪名高い女悪魔リリスのモデルとも言われる。
 夫を奪った神を、その武勇で八つ裂きにしている。
 その妹アシュタロトは、悪魔として有名である。
 
 生贄を求め、敵を残忍なやりかたで殺す神も多い。
 そういった古の神々の多くは、聖北教会の登場によって悪魔に変えられていった。
 
 神とは本来自然の化身であり、土着の精霊でもある。
 残虐性は自然の暴威そのものだ。
 聖北の唯一神を受け入れた人は、その暴威を神として畏怖することから、悪魔として忌み嫌うようになった。
 
 血なまぐさい信仰は、聖北の登場で掃討されたかに見えた。
 しかし、長く信仰で培われてきた恐れの念がある。
 土着の神を悪魔とした民衆は、悪鬼となった神の復讐を恐れ、その恐怖が歪んだ因習を残していった。
 
 死後、首を刈り取る葬儀。
 心臓に杭を打ち込む行為。
 
 邪神や悪魔に魅入られて、怪物にならないようにするための行為。
 
 だが、そういった人々の恐怖と歴史の影に、本当の悪鬼邪神が付け入り、おぞましい怪物が現れることになる。
 
 吸血鬼。
 古今様々に呼ばれるが、その特徴の本質は同じだった。
 
 曰く、人の生血を糧にする。
 曰く、蘇った亡者である。
 
 血を啜る悪霊(悪鬼)だから吸血鬼、というわけだ。
 
 怪力、邪眼、飛行能力、魅了の力…
 数々の欠点と共に、それを補ってあまりありたくさんの能力を持つ、恐るべき不死の怪物。
 
 様々な状況で生まれるとされるが、その多くは呪いで生まれるという。
 何かによって魂を呪われ、汚された者は、死に切れずに人の命とその欠片である生血を奪う怪物となる。
 
 死者に呪いをかけるのは、人に放逐された邪神や悪魔。
 死という尊厳を奪われたものは、血を啜る亡者に堕ちる。
 
 この呪われた亡者は、何度も人間社会を脅かしてきた。
 
 そして、この亡者は戯れに人と交わって子供を残すことがあった。
 
 亡者の生殖ゆえ、命を育むのは、決まって命を孕むことができる女。
 母体に注ぎこまれた魔性が育ち、生まれるのは矛盾した存在。
 死者の、生きた子供。
 
 それはダンピールと呼ばれる。
 
 ダンピールには子をなす能力が無い。 
 なぜなら、半分は死人だからである。
 命を作り出すのは、正しい命の表れ。
 対して、歪んだ命。
 
 一代限りの特異な鬼子である。
 
 ダンピールは、亡者の不死性を持つ故に寿命が長い。
 吸血鬼の種類にもよるが、その寿命は人間の5倍とも10倍とも言われる。
 老いも遅い。
 
 中途半端に親の吸血鬼の欠点を引き継ぐが、同時にその怪力や異能を得る。
 
 加えて、思春期を過ぎると、親のように血を求めるようになる。
 呪われた悪鬼の子供…
 
 アンゼルムスが出逢ったアルビノの少女は、そういったダンピールの1人であった。
 
「…この子の父親はグラウス。
 
 不死の王を名乗る、大吸血鬼の継嗣です。
 
 グラウスは、戯れに私を辱め、この子を身ごもらせました。
 でも、私にはこの子を殺すことが出来なかった。
 
 生まれて目も開かない、子兎のように小さな赤子を…どうして殺すことなど出来ましょう。
 私は女であり、母なのです。
 
 だから、私は生家を出て、放浪しながらこの子を育てました。
 慣れない生活をしながら、ついにこの村にたどり着きました。
 
 私を捕まえた村人は、私に食べ物と住処を与えるかわり、生活の場を与えるかわりにこの身体を求めました。
 
 このような場所の村人に、色町で遊ぶ金などありませんから。
 それに、私はもう子供が出来ない身体…都合がよかったのでしょう。
 
 まるで家畜のような生活でした。
 逃げ出さないように足の腱を切られ、歩くことも出来ません。
 
 この子が生かされているのは、村人の慈悲ではなく、私が命を絶たないようにするためです」
 
 アンゼルムスは眉をひそめた。
 
 おそらく、村の者がこの女性の美しさに懸想し、このような暴挙に出たのだろう。
 辺境の貧しい村では、歪んだ心を持つ人間たちも多い。
 このような暴挙を止める人間も、罪を裁く人間も、いないのだ。
 
「地獄のような毎日でしたが、それでもこの子がいたから耐えてきました。
 どんなにこの身が汚れても、私にとってこの子と生きることがすべてだったのです。
 
 でも、私の身体はもう長くないでしょう…
 こうやって死を待つ身です。
 
 この子は私が死ねば殺されてしまいます…きっとひどい方法で。
 この村に来た時から呪われた子供だと蔑まれ、そして1人で生きていく力もありません。
 
 母として、それだけは、それだけは耐えられないのです…
 
 この私の衰えた身は、魔女として罰してくださって結構です。
 でも、娘だけはどうかお助け下さい。
 
 この子に罪があるというなら、産んだ私こそが罪。
 
 どうか、どうか、この子の命ばかりはお助け下さい」
 
 涙ながらに話す女、名をエレーニアという。
 
 かつては貴族の娘であり、その美貌と気品から、若い貴族の若者たちの憧れであった女性である。
 しかし、彼女は呪われた者に蹂躙され、その地位を追われた。
 
「グラウス。
 
 知っているとも。
 我が天敵、悪魔アガウスの眷属、不死の王デルフトが継嗣。
 呪われた〈夜の貴族〉…しかも〈王族〉だ。
 
 生れ落ちてより、邪神に見入られ、邪術を行うクドラク(妖術師)となった。
 そして、最凶のヴァンピール(吸血鬼)デルフトに気に入られ、その継嗣となった邪悪な男。
 
 彼の下劣な輩に出会うとは、貴女の心中と苦労の数々、お察しする。
 
 安心なされよ。
 この娘はまだ〈血の渇き〉を覚えておらぬ。
 今ならば、その呪われた疼きを封じることができる。
 
 この娘は、自分が責任もって預ろう。
 
 自分が育て、神の子としての生き方を教えるつもりだ。
 呪われた出生は取り払えぬが、己が運命は切り開ける者に育てると約束いたそう」
 
 アンゼルムスの言葉に、エレーニアは思わず、「ああ神様…」と呟いた。
 
「…お坊様はなぜ、私たちのような者に、こんなにも良くしてくださるのですか?
 
 私の出会った聖職者は、皆、私を娘を殺すか追放しようとしました。
 見ず知らずの私たちに、なぜ…?」
 
 エレーニアの問いに、アンゼルムスは大きく息を吐く。
 そして語りだした。
 
「ここよりさらに東。
 
 中原に差し掛かる場所に、ヒョルドと呼ばれる大地がある。
 自分はその地の小さな村で生まれた。
 
 彼の地には、吸血鬼を作り出すという、亡者の主にして混沌…アガウスという邪神の伝承が伝わっている。
 古き神ゆえ、その名も知る者は少ないが。
 
 自分の出生は、その邪神に呪われたものだったのだ。
 
 自分は、生まれた時に血のように赤い、呪われた胞衣(えな)につつまれて生まれてきた。
 自分のような者を、ヴィエドゴニヤ(赤の申し子)と言う。
 邪神に見入られ、クドラクとなり、最後はヴァンピールに堕ちる宿命を与えられた鬼子だ。
 
 ゆえに、迫害され、泥を啜り砂を齧って生きてきた。
 
 そんな自分を引き取り、育ててくださった方が、聖者と呼ばれたドミニク様だ。
 
 ドミニク様は、自分に戦う術と生きる道を与え、そして信仰を教えてくださった。
 
 このような身の上だからこそ、人事とは思えぬ。
 この娘との出会いは、主が与え賜うた奇跡。
 
 必ずや、立派な神の使徒として育てて見せよう」
 
 アンゼルムスもまた、呪われた宿命と戦い続けている男だった。
 エレーニアは安心したように、微笑んだ。
 
「私は何年も神様を憎んできました。
 
 そんな神様も、私を見捨てなかったのですね…
 主よ、感謝いたします。
 思い残すことは、もう…」
 
 そう言うと、エレーニアは愛娘を呼び、抱きしめた。
 
「私のエリカ。
 かわいそうな娘。
 
 どうかお前は生きて、幸せになって。
 
 貴女を産んだせいで、貴女に不幸な死を与えたなら、私は死んでも死に切れません。
 
 貴女には神様が道を下さった。
 だから、どうか生きて…
 私が貴女を産んだことが、過ちではないということを、生きて示して。
 
 貴女の幸せな生が、私の最後のお願いよ」
 
 母は娘を強く抱きしめた。
 
 そして数時間後、エレーニアは神に召されたのだった。
 
 
「行くぞ、娘よ」
 
 エレーニアの葬儀を終え、アンゼルムスは娘を連れて村を後にする。
 母子を忌み嫌う村人に死体を蹂躙されぬよう、火葬にした。
 
 村人は、厄介者を追い払えると思ったのか、アンゼルムスが娘を連れて行くことに異は唱えなかった。
 
 襤褸を纏い、娘はアンゼルムスに手を引かれて歩き出す。
 
 村が見渡せる場所まで来た時、娘は村を振り返った。
 そこにはまだエレーニアを焼いた煙の残りが、霞のように漂っている。
 
 娘はじっとそれを眺め、一雫、涙を流した。
 
 アンゼルムスは、聖水の瓶を返して娘にふりかけ、己が掛けていた聖印を娘の首に掛けた。
 
「今日からお前は使徒フェリスだ。
 
 フェリスとは、不屈の祈りで人を救う奇跡を起こしながら、魔女として列聖されなかった不遇の聖女の名。
 それでも信仰を捨てず、愛を説いて生きた、わが師の友だ。
 その生き方は、私の目に焼きついている。
 
 お前に、その信念と、優しさを願ってこの聖名を送ろう。
 
 名に恥じぬ生を、神と母に誓うがよい」
 
 その娘、姓はアンゼルムスの『ラザハッド』をもらった。
 
 …20年以上昔、フェリスが10歳になる前の話である。

 
 
 フェリスの過去その1です。
 
 ところどころ、やばい表現がありますが、フィクションということで。
 登場人物、人名や地名、宗教や組織は、現実のものとは一切関係ありません。
 
 アンゼルムスのモデルは洗礼者ヨハネで、髭面の屈強な神父さんのイメージです。
 彼はフェリスの師であり、養父として彼女を育てます。
 フェリスの登場した話で、彼女が使っている黄金の柄の剣はアンゼルムスのものです。
 
 フェリスの母エレーニアは、元貴族の御令嬢で、フェリスも5歳ぐらいまでは、実家で幽閉されて過ごしていました。
 かなり不幸な生い立ちです。
 
 私、こういう主人公ばかり書きますね…Sかも。
 
 アンゼルムス、キャラクター的にすごく好きです。
 髭親父、萌えません?
 
 『灰色の嵐』、ぼちぼちと書いていく予定です。
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『黒い稲妻』

 ラングは適当な酒場を探して、交易都市を歩いていた。
 
 真昼からやっている酒場は意外と少なく、ましてゆっくり飲めそうな穴場はなかなか無い。
 たいてい酒場というものは、前日の酔っ払いの酸っぱい残り香を消すために、昼間は準備中である。
 
 冒険者のように自由な時間を持つ職業は、意外に少ないものだ。
 交易都市の多くの職人や商人たちは定期的な労働の後、夕方以降に酒を飲むのだから。
 このせいか、冒険者にはだらけた職業だ、という印象を抱く者も少なくない。
 

 貸切で高い酒を飲む手もあるが、しない。
 それを可能にするぐらいの金はあったが、そこまでして飲みたいわけでもなかった。
 
 飲酒は13歳で、女は14歳で。
 博打は幼少の頃に幼馴染と菓子を賭けた遊戯を除外するなら、15歳の時に初体験を済ましている。
 
 どれも、心を揺さぶるほどの快楽は得られなかった。
 飲酒だけは、酒精のもたらす高揚と熱さが、ラングの心の寂寥を埋めてくれる。
 でも、酔いから醒めた後は決まって虚しい。
 
 酒に溺れるほど、ラングは弱いくない。
 加えて知り合いの中では一級の酒豪と言われている。
 
 だが、ラングが他に酔えるものはない。
 生来の鈍感さと無頓着な気質が、快楽や好奇心を止めてしまうのだ。
 
 …無性に虚しかった。
 仕事である冒険でも、生甲斐を感じてはいなかった。
 
 食べるために冒険者となった。
 ラングは天涯孤独の身であり、子供の頃から一人で生きてきた。
 
 初めての冒険で壮絶な命のやり取りをして、小便を漏らした経験もある。
 背筋の凍るような思いをして、盗賊団を一人で叩き潰したこともある。
 
 しかし、戦いの奮えも死への恐れも、10代のうちに磨り減ってしまった。
 
 子供の死体に取り付いた亡霊を、死体ごと叩き斬ったこともある。
 巻き込まれた戦場で、妻子の名を唱えながら襲い掛かってくる新兵の頭蓋を砕いたこともある。
 
 命を重んじる聖北の僧侶たちがラングの過去を知れば、懺悔もしないこの男は地獄に落ちると言うだろう。
 
 冒険者になって、10数年。
 子供の頃に焦がれた、心許せる仲間と血湧き肉踊る冒険など、今の彼の現実にはまるで無かった。
 まして、正義の味方などにはなれないと思っていた。
 さらに加えるなら、ラングは《正義》という言葉はこそばゆくて嫌いだった。
  
 今では熟練の冒険者として、生き甲斐もないまま、呼吸するように仕事を淡々とこなしている。
 殺人の罪悪感で泣いた夜が懐かしいとさえ感じていた。
 
 …とどのつまり、ラング グリードという冒険者。
 現在は磨り減った心と、老い始める大きな体躯を引きずっているだけのような冒険者だった。
  
 空虚な日々にうんざりとなって増えた彼の眉間の皺は、ラングを余計に強面にしていた。
 
 
 ぼんやりと酒場を探してうろついていたラング。
 
 数人の男たちが並んで歩いてくるのが見えた。
 …肩を切って歩いている、そんな感じの連中だった。
 
 男の一人が、派手な女の腕をつかみ、周囲の人間を睨むようにしている。
 腰の下げた剣や服装から見て戦士風…傭兵か冒険者の集団だろう。
 
 派手な女は、そっぽを向いて俯いている。
 かなりの美人で、服装は良い物だ。
 化粧の仕方から、昼間の職業ではない。
 娼婦の類だろう。
 彼女をひっぱている男たちが買えるほど、安い女には見えなかった。
 
 女の右頬が腫れている。
 この男たちに殴られた、と男たちの女の扱いから予測する。
 
 昼間から酒場を探すような男でも、ラングは冷徹な意志を常に心のどこかに置いている。
 即座に分析をして、状況を把握する。
 
 女の身体を撫で回し、あるいは頬を緩めて下卑な表情を浮かべている男たちの様子は、何かの依頼で女を拘束しているという雰囲気ではない。
 
 ラングが最初に考えた仮説は、「初めてこの交易都市にやってきた傭兵崩れの荒くれが、気に入った美人の娼婦を昼間からひっかけようとして見事に振られ、頭にきて拉致した」といったところだ。
 
(もし、そうだとしたらよほど阿呆な連中か世間知らずだな…)
 
 このまま行けば巻き込まれるかもしれない。
 厄介ごとに首を突っ込むのは、賢明な冒険者のすることではないのだ。
 
 しかしラングにはこのとき、密かな期待があった。
 たまには喧嘩も悪くない、と。
 
 この手の連中は気に入らなければ因縁を吹っかけてくる。
 そのついでにぶちのめせば、ついでに女は逃げられるだろう。
 鬱屈した虚しさを、少しは解消できるかもしれない。
 
 …加えて女はラングの知り合いだった。
 
 ラングは娼婦を買ったことが数回ある。
 ずっと昔、好色な冒険者の先輩に勧められてのことだが。
 
 女はその時に知り合った古いなじみだ。
 ラングが買った娼婦の、友人だった人物である。
 
 磨り減った心の中にも、ラングはお人好しと呼ばれる気質は残している。
 知り合いが苦難にあれば、その味方をすべきだと当然思う。
 
 周囲の者たちが目を合わせないようにして、顔を背けて道を空ける中、ラングは真っ直ぐに歩いていった。
 
 
 距離にして十歩。
 戦士風の男たちは、立ち止まってラングを注視した。
 
 ラングは軽く片手を挙げて女にだけ声をかけた。
 
「よう、フランチェスカ。
 
 今日は随分と不機嫌な顔じゃねぇか。
 客は選んだほうがいいぞ」
 
 完全に男たちを無視して、陽気な声で、だ。
 
 女の顔がぱっと希望に明るくなる。
 
「ラングの旦那っ!
 
 助けておくれよ。
 絡まれてこまってるんだ」
 
 女を掴んでいた男が、激怒した様子で女の腕を引き殴ろうとする。
 ラングはすっと近付いて、その男の足を蹴り払う。
 男がこける前に、女を掴んでいた腕も払いのける。
 
 何か行動しようとしている時に、軸足を不意討ちで思いっきり払われると実に見事にすっころぶ。
 顔面から受身も取れずに転倒した男は、ぐぇ、と無様な声を上げた。
 
 よろけた女は上手く抱きとめて、すぐ背後に庇う。
 
「…てめぇ、何のつもりだ?!」
 
 いきなりのラングの行動に、戦士風の男たちは激昂して歯をむいた。
 
 一方、ラングはため息を吐きながら、起きようと呻いていた男の頭を地面に押し付けるように踏みつけた。
 再び頭を大地に叩き付けられた男は、失神して動かなくなる。
 
「…知り合いが困ってたから助けただけだ。
 
 大方、この都市の流儀をしらねぇおのぼりの傭兵あたりだろうが、あんまりオイタはいけねぇな。
 お前等が、勝ち戦でやり放題出来る場所とは違うんだぜ?
 
 女を買うときは、売ってくれた時だけ買う権利がある。
 力で手に入れようなんて、餓鬼のすることだぜ?
 
 “鼠”に齧られねぇうちに、とっとと消えろ。
 この女は、穴倉の大鼠と同じ釜の飯食ってんだ」
 
 ラングは最後の部分で隠語で使う。
 助けたフランチェスカという娼婦は、今では盗賊ギルドの幹部の女である。
 そこいらの雑魚が抱ける女ではない。
 
 “鼠”というのは盗賊のことである。
 盗賊ギルドは、こういった都市の暗黒面を、裏で司る犯罪組織のようなものだ。
 やくざやマフィアに近いが、もう少し複雑で偏って秩序的な組織である。
 
 ラングの言葉の意味が分からない奴は、ただの世間知らずだ。
 
「何、言ってるかわからねぇぞ、黒んぼ。
 
 あぁん、殺すぞ!」
 
 男たちの莫迦な反応に、ラングは確認を終える。
 どうやら本物のおのぼりらしい。
 
 後ろに嫌な組織は無いだろうと予測する。
 この都市の冒険者であれば、こんな無茶をするのは鼻つまみ者ぐらいだし、兵隊なら派手なことは出来ないはずだ。
 面倒な組織関係が無い連中なら、復讐があったとしてもたいしたことはない。
 
「なぁ、フランチェスカ。
 
 後でギックの野郎に口ぞえ頼むわ」
 
 この娼婦はラングのこの一言で何のことか理解し、大きく頷いた。
 
 万一、問題が起きたときの大義名分を作っておく。
 ギックというのはこの女の男で、盗賊ギルドの幹部である。 
   
「…てめぇ、無視すんじゃねえっ!」
 
 のらりくらりとして見えるラングの行動に、男たちの一人が痺れを切らして殴りかかってきた。
 実に単純な拳打である。
 
 ラングがさっと避ける。
 つんのめり、体勢が低くなった男。
 すれ違い様に鎖骨に肘を一発。
 
 メキャ…
 
 骨の砕けた鈍い音。
 絶妙の角度で、完璧ともいえる力加減で強打すると、骨は脆い。
 加えて延髄にも手刀を打ち込んでおく。
 男は白目をむいて昏倒した。
 
 万一おきたとしても、鎖骨の骨折ですぐには動けないはずだ。
 
「…ゆっくり酒が飲みたいから、場所を確保してくれ。
 助ける駄賃はそれでいい」
 
 そこまで言って、ラングはようやく男たちを見た。
 
 あっけなく、屈強の男を2人も倒してしまったラングの手際に、悪漢たちは緊張した顔立ちである。
 
「…いい面だ。
 一応は人殺しで飯食ってる連中ってことか。
 
 忠告しとくが、殺し合いは戦場以外でも結構あるもんだ。
 この手の荒事なんて、この大都市じゃ数しれねぇ。
 
 俺は冒険者で、《こういうの》が得意なんだよ。
 一応依頼を受けた形だから、あんまり容赦はできねぇぞ?
 
 あと、死にたくないなら、こういったでかい都市のルールぐらい覚えておきな。
 
 好い女にはたいてい強い男ってのがついてるもんだ。
 女って縄張りを荒らされると、男って連中はとたんに莫迦みたいに暴れるぜ。
 
 つまらない面子のことは考えるなよ。
 すぐにこの寝てる連中を担いで逃げるならよし。
 
 そうでなきゃ、全員寝首を掻かれるぜ。
 この女の男は、そのぐらいの力を持った野郎だ。
 
 その前に、かかってきたら俺が相手になるがな」
 
 男たちのリーダー風の男に、ゆっくりそう告げる。
 男たちはしかし、ラングの忠告を無視し全員腰の剣を抜いた。
 
「…ど阿呆め。
 こんな場所でダンビラ抜きやがって。
 
 商売が出来ね体になっても、後悔するなよ?」
 
 ラングはそう言って即座に一人の男を殴り、よろめいたその男を盾にタックルする。
 
 戦士風の男たちは全部で6人。
 そのうち2人は先ほど気絶させた。
 
 そして、今2人をまとめて叩きのめす。
 絡まるように鼻血を吹いて倒れる男たち。
 
 人間の頭蓋骨は、ことのほか優れた鈍器になる。
 武器扱いされる方は、たまったものではないのだが。
 容赦なく、両方の膝を砕いておいた。
 気絶したから痛まない分だけ、良心的なはずだ。
 
 先ほどと同じく、起きても行動不能の状態にしておく。
 
 この手の傭兵はタフである。
 あまり手を抜くと、起き上がって不意討ちで大怪我をさせられることがある。
 
 絡む際、盾兼鈍器にした男に、犠牲者の剣が当たって出血していたが、致命傷にはならない場所だったからよしとする。
 
 間髪入れずに、剣の間合いより一歩深く入って鎧の隙間から抉りこむように膝を入れて、一人を戦闘不能にしていた。
 
 ラングの戦い方は殺さない程度、という実に破壊的な戦い方である。
 確実な手段を行う、冷徹な戦い方だった。
 
 相手は刃物を抜き、殺すつもりになった。
 脅したが襲い掛かってくる連中だ。
 ならば、最後まで中途半端はよくない。
 ある程度壊すつもりで戦わないと、こちらが殺されるのだ。
 
 ラングは仲間を持たない。
 フォローしてくれる仲間がない分、ラングの行動は隙が無かった。
 
 力をつけて有名になり、そのくせなんでもない雑魚に殺された一流は多い。
 
 冷徹になった分、油断しない分、それがラングの生存率を高めている。
 生き残る冒険者とはそういうものだ。
 
 勢いでもう一人、と思った矢先、凄まじい剣閃がラングの頬を抉っていた。
 じくりと溢れる血と痛み。
 
「…いい技だな」
 
 ラングは相手の技量に少し感嘆した。
 この実力なら、中規模の隊をまとめるぐらいは出来るだろう。
 
 距離をすっと取り、腰を落とす。
 
 相手が剣を高く上げる。
 剣術の上段、【鷹の構え】だ。
 
 上段に構えた剣を、その重さを加えて次の技を出せる状態にする、古典的で効果的な構えである。
 かつてラングは、北方のある傭兵がこの技を使っていたところを見たことがあるが、次の一撃は激烈なものになるだろう。
 
 ラングの目が鋭く細められる。 
 そして、相手が間合いに踏み込んでくる前に腕を振るった。
 
 バチバチィッ!!!
 
 一瞬で走った眩い閃光。
 最後の敵は悲鳴をあげることも出来ず、剣を構えたまま煙を上げて昏倒した。
 
「…あつつ。
 
 やっぱ、素手でやるもんじゃねぇな」
 
 焦げた袖を押さえつつ、ラングは痛みに眉をしかめた。
 
「…すごいね、旦那。
 
 魔法ってやつかい?」
 
 フランチェスカが目を丸くしている。
 周囲の者には、ラングが稲妻を放ったように見えたのだ。
 
「はは、ちょっと違う。
 一応は体術の一種だ。
 
 面倒な呪文がいらねぇ分、こっちの方が便利だしな」
 
 ラングは放電の後遺症でわずかに痺れる手を揉み解しながら、にやりと唇を吊り上げた。
 
 秘剣【轟雷放】。
 
 昔、一緒に仕事をした東方出身の剣士に学んだ技を、ラングなりに改良、強化した技だ。
 
 丹田…臍の下にある器官に電気を集めて、剣から稲妻として撃ち放つ技である。
 本来は剣先を放電の装置にするのだが、今回のように素手で放つことも可能だ。
 …だが、たんぱく質で出来た人体は放電には向かないため、その箇所が焦げる。
 電撃を放つ箇所に負担がかかる技だった。
 
 体内から出て、空気に触れた瞬間、電気は凶器に変わる。
 その接点である放出場所は、当然影響を受ける。
 ラングほどの熟練した使い手が手加減して使ったからこそ、多少の腕の痺れで済んでいるのだ。
 
 もしラングが本気で稲妻を放っていたら、敵もラングの腕も黒焦げになっていただろう。
 
「なるほど。
 
 旦那が“黒い稲妻”って呼ばれてるのは、こいつのおかげなんだね」
 
 軽く頷くラング。
 
 ラングはこの技の習得で一流に慣れたといってもいい。
 放電による遠距離攻撃は、剣士の欠点である間合いを掌握することが出来る。
 
 空飛ぶ敵、高台から狙撃する敵。
 遠距離にある敵を焼き、不意討ちで使用して数多くの困難な戦闘を生き抜いてきた。
 
 加えて電撃には短時間相手を縛り、筋肉の硬直で動きを阻害できる。
 生物は、電気で筋組織を動かしている。
 感電は、全身の筋肉を全方向に無理やり動かすようなものだ。
 結果は痺れたようになる。
 
 この技で切り崩し、重い必殺剣で敵を粉砕することは、ラングの得意な戦い方の一つだった。
 騎士が数人でも勝てなかった巨大な目玉の怪物を、この技で縛って屠ったこともある。
 
 《稲妻を使う黒い鎧の戦士》
 
 ラングはいつしか、“黒い稲妻(ブラック・ライトニング)”と呼ばれるようになっていた。

 
 
 ラングの戦闘編です。
 
 冷静沈着で分析的な戦い方をする、熟練冒険者の雰囲気が出てればいいのですが…
 
 ラングは狡猾ではありませんが、効果的で合理的な戦い方が得意です。
 
 二人目の敵に対する粉砕攻撃は、威嚇と恫喝の意味もあります。
 多少ダーティに見せて敵の戦意を削ぐことは、集団戦では必要になることです。
 加えて後の憂いをしっかり断つのはあたりまえ。
 
 ラングはお人好しですが、敵には厳しいという誠実さを持ちます。
 戦う以上は容赦しねぇ…このへんがシングル冒険者でありながら、生き残ってきた彼らしさだったり。
 
 戦場では子供にも容赦しません。
 ラングの師匠は、そういう戦いの黒い面も最後に教えています。
 油断していなければ、相手の子供を殺さずに処理できる可能性があることをことを、ラングは身をもって知っています。
 彼自身、そういう油断ならない子供から身を立てた冒険者でして。
 
 
 ラングは娼婦を買ったり、数人の女性と肉体交渉を持った過去があります。
 彼の娼婦に対する考え方も、昔の恋人の影響があります。
 こういう描写が苦手な方はすみません。
 でも、SEXに関する倫理や色恋って、エロティック宣言した以上、もっと出るので悪しからず。
 
 
 ラングの【轟雷放】は【剣叫ぶ雷霆】の上位スキルです。
 2Rの呪縛効果付きで、7レベル。
 カードワースの呪縛って、実は2Rが強力かつ合理的に使えるんですよね。
 相手が遅ければ、怪力で解除される前に集中砲火で倒すコンボにも使えます。
 【剣叫ぶ雷霆】は、最近のプレイ、特にソロプレイで活躍しています。
 遠距離の奇襲攻撃が出来るのですごく便利です。
 カードワース、【遠距離攻撃】のキーコードに対応したシナリオ、多いですからね。
 
 ラングは【居合斬り】の上位スキルや、やや強い全体攻撃のスキルを持っています。
 装備品が濃いことも、彼が熟練である特徴です。
 
 加えて、こういう得意スキルから2つ名をつけられる冒険者って、けっこう多いのではないでしょうか。
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『白い殲滅者』

 そこは醜悪な場所だった。
 
 血肉を貪る怪物たち。
 かつては同じ村人だった者たちが、死んだ後に喰らう側と喰らわれる側に回った壮絶な地獄絵図。
 
 もはや、この村には生きる人間はいない。
 
 血の饗宴を眺めながら、杯に注いだ生き血をすすり、かしずく女の頭を撫でる男。
 
 女はかつて、村一番の美女だったものだ。
 血の気の無い青白い顔は、先ほどまで恐怖に歪んでいた。
 今ではただ奴隷のように男に従っている。
 
 この女は、明日は他の男と結婚する予定だったという。
 一目見て気に入った男は、村に女を要求した。
 
 男は奪うことが好きだった。
 気に入ったものは、何が何でも手に入れて来た。
 
 女も村人も、男を拒絶した。
 だから、村を滅ぼして女を奪った。
 
 女の婚約者だった男は、グールたちに貪り食われ、引き裂かれた。
 それを見て失禁して震える女を男は犯し、血を全て啜って夜の眷属に迎え入れたのだ。
 
 男は満足気に笑う。
 
 男には絶大な力があった。
 力を得る前は、ただの強欲な人間だったが、今の男は欲望のままに振舞える。
 その力の前に、この小さな村は一瞬で滅んだ。
 
 男は己の強さに酔って楽しげに笑い、女の冷たい肌を撫でた。
 
「…聖者は云った。
 
 死者は死すべきであると」
 
 唐突に闇から澄んだ声が聞こえてくる。
 
「死者には墓標と花束を。
 
 生者には恩寵と安寧を」
 
 夜の闇から現れたのは、白い外套を纏った者。
 声は女のものだった。
 
「…亡者には引導と鉄鎚を。
 
 見つけたわ、《塵》の亡者」
 
 外套の女は手前で十字を切った。
 
「…ディーン ベラル。
 
 貴方を、異端と認定し、御身を討滅する」
 
 武骨な籠手をぬっと突き出し、それに刻まれた十字の聖印にそっと口付けすると、女は闇に映える赤い眼光で男を射抜いた。
 
「…ふん、聖北の犬か。
 
 面白い。
 貴様も尻を振る奴隷、私の椅子にでもしてやろう」
 
 男はニタリと笑う。
 
 同時にグールたちが、外套の女に襲い掛かる。
 
 ヒュッ…
 
 風を切る音がした。
 そして、一体のグールが動きを止め、灰になった。
 
「…灰は灰に」
 
 女は白刃を躍らせた。
 グールが首を断たれ、見る間に崩れ去る。
 
「…塵は塵に」
 
 女の手に握られた鉄塊がグールの頭を半ば粉砕しつつ、かち割った。
 
「…土は土に」
 
 近寄るグールを、武骨な籠手で殴り飛ばし、即座に切り捨てる。
 
 外套の女が聖句を唱えると、残った亡者たちは蒼い炎に包まれて見る間に燃え尽きた。
 
「なんとっ!」
 
 男は目を見張った。
 
 外套の女は、金色の美しい柄の剣と、鉄の武骨な長剣を構えていた。
 その双剣を十字にクロスさせる。
 
「我は狩人、聖なる殲滅者。
 朽ちよ邪悪、滅びよ忌まわしき者。
 主よ、誇らしく称えん。
 
 主は偉大なり。
 
 我は主の御名において主の怨敵を滅し去る者。
 
 …聖なる鉄鎚なり」
 
 初めて男は恐怖を覚える。
 
 男はかしずいていた女の後ろに立った。
 
「行けっ!
 
 アイツを…」
 
 女がゆっくりと立ち上がり、牙をむいて外套の女に襲い掛かった。
 だが、その牙と爪が届く前に、外套の女は金色の柄の剣で、哀れな女の心臓を貫いていた。
 
 見る間に灰になって崩れていく女。
 女が掴みかけた外套からわずかに覗く、赤い瞳。
 
「…そうか、貴様、同族殺しかっ!」
 
 男は後ずさる。
 
「…主よ、許したまえ。
 
 この身の不浄を。
 煉獄の扉を開く、罪深きこの腕を…」
 
 祈るように双剣を打ち鳴らす。
 そして、一瞬で間合いをつめた。
 驚愕に歪んだ男の首を、双剣で挟むように跳ねる。
 
「煉獄にある者よ。
 地獄に堕ちる者よ。
 
 汝らにも主の恩恵があらんことを。
 願わくば主の慈悲があらんことを。
 
 主よ、罪深きこの身とともに救いたまえ。
  
 …主よ、哀れみたまえ」
 
 男が見る間に灰になっていく。
 
 ただ朗々と、外套の女の葬送の祈りが、夜の闇に融けていった。
 
 
 炎に包まれる村を後に、外套の女は振り返らず歩いていく。
 
 やがて、大きな広場に出ると、そこには数人の僧服の男たちが待っていた。
 
「…どうやら、無事任務を終えられたようですね」
 
 僧服の一人が、引きつった顔で言う。
 
「…あれを無事、というなら、貴方は聖職者を辞めたほうがいいわ」
 
 赤々と夜の闇に火の粉を吹く、吸血鬼に滅ぼされた村。
 
「口が過ぎますぞ、フェリス様。
 
 犠牲者を哀れむ気持ちは、皆同じはずですからな」
 
 でっぷりと太った男が、どこか蔑みを含んだ目で、外套の女を睨む。
 
「そう思うなら、吸血鬼が出たという話をなぜすぐに伝えなかったの?
 
 伝令が一日はやければ、犠牲者はほとんど出なかったでしょう。
 私が聞いたところでは…
 
 デップ司祭、貴方が独断で確認をさせたそうね?」
 
 外套の女はにらみ返すように、太った男を見る。
 男は慌てて目をそらした。
 
「…それは、ちゃんとした…」
 
 視線を泳がせる太った男に、外套の女はつかつかと歩み寄り、唐突に殴り飛ばした。
 
「…あぎゃぁっ!」
 
 まさに吹っ飛ぶ勢いで、太った男は無様に地面に叩きつけられる。
 歯が数本折れ、顔が歪んでいた。
 
「…貴方が法王庁のお偉い方に、私のことをあること無いこと吹き込むのは構わないわ。
 
 でも、貴方の身勝手な行動で、村が一つ滅んだ。
 
 吸血鬼のことは、我々“神の鉄鎚”に一任されているわ。
 この地区の指令をしているのは私よ。
 
 そして、私の指令着任の際も言ったはず。
 どんなガセでも、吸血鬼の出現は必ず報告し、速やかに行動するようにと。
 
 吸血鬼を敵にするときは、迅速さを最も尊ぶ。
 だからこそ、厳命しておいたはずなのに。
 
 異端討滅組織“神の鉄鎚”とは、異端審問で破門にする程度では危険な存在を、力で粉砕する破邪の鎚。
 柄の腐った鎚など、何の役にも立たないわ。
 
 命令を遅らせて、村が滅んだ責任問題で私の失脚を狙ったようだけど、残念ね。
 貴方は今回のことで、宗教裁判を受け、確実に破門になるでしょう。
 
 証拠の書類も、私の部下が押収しているわ。
 
 …くだらない貴方の権威欲で、一つの村が滅んだのだから。
 その身が極刑に処されない幸運をあたえたもう、主に感謝しなさい」
 
 あまり迫力に、周囲の僧服たちは皆腰を抜かしていた。
 
「貴方たちも、デップ司祭に加担した罪の責任はとってもらうわ。
 
 今後、こんな腐ったことをしたなら…
 私自ら鉄鎚をその頭に振り下ろすつもりだから、肝に銘じなさい」
 
 がくがくと頷く僧服たち。
 
 外套の女は、素早く踵を返すと、いらいらした足取りで去って行った。
 
「がぁ…
 
 くぅ、おのれ、おのれっ、あの“灰もどき”めがぁ!!!」
 
 殴られた顔を押さえ、太った男は怨嗟の叫びを上げた。
 
 
 聖北教会には非公式の組織がある。
 
 異端討滅組織、“神の鉄鎚”もそのひとつだ。
 
 異端討滅組織とは、異端審問では処理できない特別な宗教的敵を、文字通り討伐し滅する組織である。
 聖北の教えが表の上では平和的布教である以上、教会組織の異端審問など、できることはたかが知れている。
 
 せいぜい聖北の社会から破門する程度。
 
 処刑や拷問を行うイメージに取られがちな異端審問の組織は、実のところ一部の暴走した狂信者でもない限り、宗教上の問題を解決するために組織されたものでしかなく、破壊的な力はあまりないのだ。
 その組織が特別な権力や軍隊と結びついた場合は別なのだが。
 
 かつて行われた魔女狩りと称されるいわれのない異端狩りのせいで、教会は歴史上大きな汚名を背負うことになった。
 教会組織はイメージ改善のために慎重になり、異端審問を行う者にも同様の義務が課せられた。
 
 しかし、世の中には宗教的な過激犯や、邪悪で破門などまるで恐れない闇の住人たちがいるのも確かだった。
 そういった危険すぎる異端的存在は、放っておけば聖北の社会そのものを害することになる。
 
 そして、教会はそういった危険な存在を叩き潰す力を必要とし、公ではない形で力を持った組織を作り出した。
 
 迅速かつ徹底的に邪悪を叩き潰す、破壊の鎚。
 教会の闇を司る、いわゆる《潰し屋》である。
 
 “神の鉄鎚”が生まれたばかりの頃、教会は公ではないこの組織を体のよい暗殺組織のように利用した。
 組織には荒くれものばかりが集まり、神の名において恐ろしい破壊活動を命じられるままに行う。
 問題が起きた時、非公開のその組織の事はただ知らん振りをすればよい。
 教会にとって、実に都合の良い力であった。
 
 彼らはただ命じられるままに破壊し、蹂躙した。
 
 だが、この力に驕った時代は長く続かなかった。
 間もなく本物の邪悪…邪教や吸血鬼といった歴史の闇に蠢く恐ろしい存在とぶつかり合うことになったのである。
 
 本当に力在る一部の者以外、真の邪悪に対して“神の鉄鎚”は全く役に立たなかった。
 あせった教会は、失態を埋め合わせるために《毒》に手を出した。
 
 敵とする邪悪と同じ異形や異能の力を求めたのである。
 聖北教圏のあらゆる場所から、邪悪から厚生させることを名目に様々な子供たちが集められた。
 
 曰く、悪魔憑きの子供。
 曰く、淫魔の子供。
 曰く、呪われた子供。
 
 そういった子供たちは、所属する社会によってほとんどは抹殺されてしまうのだが、わずかに生き残ったものたちが集結させられた。
 
 神の教えと、成すべき義務を叩き込まれた子供たちは、真の邪悪への強大な反撃の牙となった。
 戦うべき力は、元々持っていたものをさらに磨かれて、戦地に送り込まれる。
 まるで、呪われた存在を生み出したものに復讐するように、新しい“神の鉄鎚”は異端を粉砕した。
 
 <毒を持って毒を征す>
 
 呪われた生まれの者たちが、神の名と正義のために善行を行える。
 その大義名分は、荒んだ心を持った子供たちを狂信という枷で縛り、ためらいのない戦いをさせた。
 殉教者となれる恍惚に、異能の聖戦士は死地でも恐れなかった。
 
 半世紀で、“神の鉄鎚”は教会の恐るべき力になった。
 
 
「…指令、お帰りなさい!」
 
 金髪の愛らしい顔立ち少年が、笑顔で外套の女を出迎えた。
 
「ありがとう、ロト。
 
 アレクたちは?」
 
 少年の髪をなで、周囲を見回す外套の女。
 
「ゲブル教の追いたてをやってるよ。
 
 僕も行きたかったんだけど、留守番しろだってさ。
 馬鹿にしてるよね。
 僕だって強いのに…」
 
 不満そうな少年に、外套の女はため息をついた。
 
「討滅は遊びではないのよ。
 
 気を抜けば殺されてしまうの。
 貴方はまだ子供だわ。
 特に心の部分が、ね。
 
 それに、戦いを求めるのは聖職者のすることではないわ。
 私たちの出番は、少ないに越したことはないの。
 
 加えて、貴方は次代を担う大切な戦力よ。
 奥の手なんだから、出番が来るまでは待たなきゃね」
 
 そう言うと、少年は不満そうな顔で頷いた。
 
 周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、女は外套のフードを脱いだ。
 月の光に照らされて、真っ白な髪が露になる。
 その瞳は血のように赤い。
 白兎を連想させる容貌…アルビノである。
 
 メラニンなどの色素がなく、白髪赤目に生まれつく、白子と呼ばれる色素欠乏症のことだ。
 紫外線に弱く肌が火ぶくれをおこすため、強い光は天敵となる。
 いつもこうやってフードを目深に被ることで、光から身を守る。
 しかし、外套には容姿を隠すためにも使われていた。
 
 赤い目は血を連想させ、同時に知識の無い輩が呪いのように忌み嫌う。
 事実、赤い目を持つ子供には攻撃的な異能を持つ者も多い。
 
 外套という被いは、偏見という刃から身を守る鎧でもあった。
 
 “神の鉄鎚”には現在7人の指令職がある。
 その一つ、異彩異能の輩を束ねる女傑。
 名はフェリス ラザハッドという。
 聖北にあって、殉教した聖女と同じ名を冠する聖戦士であった。
 
 外見は20歳ほど。
 
 アルビノになるものは、基本的に美しい容貌のものが多いが、彼女は抜きん出ていた。
 若々しいその姿を見たものは、白い魔女と評するか、あるいは雪の妖精のようだと言う。
 
 アラバスターのように白い肌。
 端整で、穏やかな美貌。
 柔らかな長い白髪が、流れるように夜風になびいていた。
 
 ほっそりとした体格である。
 たった一人で不死者たちを瞬殺したと言っても、彼女を知らない者は信じないだろう。
 
 少年にフェリスが微笑むと、その犬歯の部分に銀色の光が現れる。
 純銀の差し歯であった。
 
 よく見れば、聖印が刻まれていることに気づくだろう。
 
 それは彼女の背負った、呪われた十字架そのものであった。

 
 
 本編のヒロイン、尼さん戦士フェリスの登場です。
 性格はだんだん明らかになりますが、説教臭い性格をしています。
 
 Djinnさんの小説を読んでいる方は彼女がどんな種族か、もう分かったと思いますが、純粋な人間ではありません。
 
 アルビノで双剣使いなんて、こてこてですが、彼女の原形が生まれたのはなんとまだ世紀が変わる前だったり。
 私がカードワースを知った頃、雑誌付属のエディタで作ったNPCでした。
 その時には伊達眼鏡をかけていて、戦闘時には眼鏡を取ってスイッチが入り、薀蓄モードで眼鏡を直すインテリモードがありました。
 
 まだ出ていませんが、強力な決めスキルを所持しています。
 
 オールマイティで、秘蹟と剣術を両方使いこなします。
 彼女のセリフは、ほとんどが適当なんですが。
 
 私、仏教徒なので、聖書はあんまり読みません。←ある意味不心得者
 格好良いセリフ、募集中です。
 
 彼女の能力値は…
 
◇フェリス ラザハッド◇
 
・年代:若者(32歳)
・性別:♀
・勇将型(能力的には英雄型相当) 
・レベル7 
 
 器用度:5 敏捷度:6 知力:9 筋力:9 生命力:6 精神力:10
 平和性+1 勇猛性+3 慎重性+2 正直性+2

秀麗     高貴の出   厚き信仰
誠実     冷静沈着   無欲
献身的    秩序派    神経質
穏健     勤勉     謙虚
武骨     硬派     お人好し
 
 
 老化がゆっくりなので、身体能力は若者のままです。
 ばればれですが、彼女が何でこんなに優秀なのかはまた説明しますね。
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『黒い鎧の男』

 一人の男が酒を飲んでいた。
 
 湿気た木の生臭い香りがする、宿兼酒場。
 
 そのカウンターで、色気も無い三十路前の宿の主人に注がれた安酒を、ぐびりぐびりとやっている背の高い男。
 
 眼つきの鋭い男だった。
 一睨みで獅子でも怯みそうな眼光である。
 
 刃渡りだけで1mある大剣が、カウンターの彼の傍らに立てかけられていた。
 それを振るう腕は、程よく締まった強靭な筋肉の固まりだ。
 傷痕が多数あり、彼の戦歴を物語っている。
 
 腕ばかりでなく、筋骨隆々というわけではないが、野獣のしなやかさを連想させる身体つき。
 背丈は180cmを越える。
 そして、その体躯を覆う漆黒の革鎧。
 
 強面からか、側には誰も近寄ろうとしない。
 
 この宿は『冒険者の宿』と呼ばれる、何でも屋のたまり場である。
 そして、この宿で黒い鎧を着た剣士と言えばこの男。
 知らない者は少ない。
 
「…おい、ラング。
 
 あんまり昼から飲んでると、次の仕事に障るぞ?」
 
 宿の主人が不機嫌そうに言うと、男は外見通りの低い声で、ああそうだな、と生返事をした。
 
「…かといって、俺が出張る仕事もすぐにはねぇだろ。
 
 あの《牛退治》みたいなのが、頻繁に起きるわけもねぇ。
 ちったぁ、酒飲んでごろごろしたって、聖北の神様とやらだって勘弁してくれるさ」
 
 宿の主人はため息をつくと、八つ当たりするように手近な食器を取ってゴシゴシと磨き始める。
 
 ラング、と呼ばれた男は、木製のジョッキに残っていたエールを飲み干すと、銀貨を数枚カウンターにおいて席を立った。
 
「親父ぃ。
 そんな仏頂面じゃ、客が逃げるぜ。
 
 …河岸を変えて、もう少し飲んでくらぁ」
 
 男はそう言って、外見と口調からは想像できないような、滑らかな動作で宿の入り口に歩いていく。
 
 ドアを閉めて、男が去って行った後。
 宿の主人は大きなため息を吐いた。
 
「…お前みたいないかめしいのが、昼間っから管巻いて酒を飲んでると、客も寄り付かないんだよ。
 
 一人でミノタウロスを屠るような奴が、な」
 
 
 宿を出て、のんびりと歩いている黒い鎧の男。
 名をラング グリードという。
 
 性別は男で、職業は冒険者。
 
 粗野で、信仰心はからっきし。
 腕っ節はめっぽう強く、度胸もある。
 
 愛用の大剣は、鎧に合わせて黒くつやを消したもの。
 切れ味より、耐久力を重んじた半分鈍器のような代物だ。
 だが、よく手入れされている。
 柄に巻かれた革は汗と返り血を吸ったのか、どす黒い。
 剣の飾りや護拳の鍔は、やすりをかけたものではない磨耗で丸くなり、良く見れば細かい傷が無数にある。
 
 他の様々な装備の磨り減り方からも、熟練冒険者であることが予測できた。
 
 事実、ラングは冒険者の宿『希望の扉亭』で最高の冒険者だった。
 
 数日前にはミノタウロス…牛頭の怪力巨人…をたった一人で倒すという荒業をやってのけたほどだ。
 
 しかし、彼が倒したミノタウロスは、実は通算3匹目である。
 1匹目はまぐれだったが、2匹目からは実力で倒した。
 妖魔や魔物退治だけなら、百を越す討伐数を誇っていた。
 
 しかも、ラングはあまり長く仲間と組まないことで知られる冒険者だった。
 普通の冒険者が数人で成し遂げることも難しい依頼を、ラングは淡々とこなしてきた。
 
 一見柄が悪く、厳しい雰囲気を持つ、孤高の冒険者。
 その勇名は、冒険者たちの間に知れ渡っていた。
 
 だが、この男が運と腕っ節だけの男かというと、彼を知るものは皆首を横に振る。
 
 外見に似合わない堅実さ。
 冷静沈着かつ、常識に囚われない柔軟な思考。
 義理を重んじる誇り高さ。
 決して挫けない不屈の意志。
 そして憎めない人の好さ。
 
 付き合った者は、不思議とこの男に惹かれていくという。
 強面に似あわず、笑うと爽やかで子供っぽく、魅力的な顔になる。
 決して美形ではないが。
 
 総じて彼を知る者は《好漢》と彼を評した。

 
 
 最近、文章が上手く(元々駄文ですが)書けない、深刻なスランプ状態のY2つです。
 シナリオ製作も停滞して、申し訳ありません。
 
 リプレイも、新しいシナリオが形になるまでお休みします。
 そのうち復活すると想いますので…
 
 文章のリハビリがてら、新シリーズを書くことにします。
 
 粗野な黒ずくめ戦士と、白い尼さん聖戦士のお話。
 私がカードワースを始めて、初期の頃から考えていた小説です。
 
 タイトルの『灰色の嵐』というのは、主人公のラングが組むコンビにつけられる名前です。
 
 シグルトが格好好い英雄タイプだとすれば、ラングは渋い路線で行こうかと思っています。
 彼が英雄型なのは、シグルトのルーツが彼にあるからでして。
 あと、組む相棒がとんでもない設定の人物だからです。
 能力の調整で結局英雄型になってしまいました。
 知力の高い戦士を作りたかったからです。
 勇将型や豪傑型だとちょっと難しかったので。
 
 粗野でクールな鋼鉄の香りのする戦士のお話です。
 バイオレンスで、ちょっとエロス…かもしれません。
 中学生程度の描写のつもりです。
 
 まぁ、呆れずにお付き合い頂ければ幸いです。
 
 舞台は『鬼媛傳』の5、600年後くらい。
 シグルトたちが活躍する20年以上前のお話です。
 Djinnさんのリプレイと大体同じ世代でしょうか。
 ブレッゼンが冒険者やってる頃ですね。
 微妙に『風屋』や小説とクロスオーバーします。
 
 『鬼媛傳』もチョコチョコと書いてますので、そのうち…
 
 リプレイではちょっと出来ない、ばりばりの高レベルアクションで行こうと思っています。
 
 主人公、ラングのデータは…
 
◇ラング グリード◇
 
・年代:大人(25歳)
・性別:♂
・英雄型 
・レベル7
 
 器用度:5 敏捷度:5 知力:7 筋力:11 生命力:8 精神力:9
 好戦性+1 勇猛性+2 正直性+1

不心得者   誠実     冷静沈着
進取派    鈍感     無頓着
勤勉     地味     粗野
武骨     硬派     お人好し
 
 宿のエースで、実際にミノタウロスとガチンコバトルで勝てる実力です。
 スキルや、彼のトレードマーク、黒い鎧のデータは何れ…
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