Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

『碧海の都アレトゥーザ』 交差する風

 街道を碧海の都アレトゥーザに向けて歩むものがいる。
 
 “風を纏う者”である。
 
 一行は先日立ち寄った『魔剣工房ヘフェスト』の話題で盛り上がっていた。
 
 シグルトが工房の主であるブレッゼンの作業が終わるのを待っていた間に日が暮れてしまい、一行はブレッゼンの妻サンディの計らいで一泊させてもらったのである。
 
 ブレッゼンは一見無愛想だったが、サンディの話では一行、ことにシグルトをとても気に入ったらい。
 
 ロマンがブレッゼンの作った武具や魔法の道具がいかに貴重か興奮して話し、サンディとラムーナが意気投合し、レベッカがアレトゥーザに輸入されたという珍しい外国の酒を振舞うと、ブレッゼンが酒に目が無いことも判り、結局酒盛りと談話で夜を明かしてしまった。
 
 サンディの作ってくれた朝食を御馳走になった一行は昼近くになってようやく旅立ったのである。
 
「…また来るといい」
 
 灰色の髭をなでながらニヤリと笑い、ブレッゼンが送ってくれた。
 シグルトは新しい愛剣を軽く握ると、ああ、と呟いて工房から出発したのだった。
 
 
「ねっ、私の勘は当たったでしょう?」
 
 レベッカは工房を訪れる前にシグルトがブレッゼンに気に入られるだろうことを予測していた。
 
「サンディさんの話だと、あんなに嬉しそうな顔をする爺さんは最近見たこと無かったそうよ。
 
 お酒を飲んでるときも無言で二人並んでて、まるで親子みたいだったわ」
 
 しかも出発のときは目で会話してるし、とレベッカがからかう。
 
「…そうだな。
 
 また来るさ、こいつのために」
 
 シグルトは武骨な腰の剣の柄を撫でた。
 
「でも、どうみても鋳物や骨董品と大して変わらない鉄の塊に見えるわ。
 
 なんだか切れにくそうね。
 
 それに銀貨二千枚なら、普通じゃ怒るわよ。
 …あのすごい武具を事前に見てなかったらね」
 
 そういって、レベッカはシグルトを待つ間、サンディに武具を見せてもらっていた時のことを話し出した。
 
 
「す、すごい!
 
 この鎧、真なる銀だよ!!」
 
 ロマンが興奮して言った。
 
 銀には攻撃的な魔法を遮り、実体の無い存在にその光を及ばせ、影響する力を持つ。
 鏡に映らない吸血鬼も銀製の鏡に映り、幽霊や精霊のような存在も銀の武器で倒すことが可能なのだ。
 しかし、銀は鉄の2倍近い重さがあり柔らかい。
 銀の有用性を知りながら、高価なことに加え加工の難しさに使い勝手の悪さから、それほど銀の武具は普及していなかった。
 
 だが、銀の効果をそのままに軽く頑丈になったものが真なる銀である。
 
 本来、魔法の金属ミスリルは銀貨一枚分の量で銀貨千枚に匹敵する価値がある。
 ミスリルはすごく貴重なレアメタルでめったに手に入らず、それのみで出来た鎖帷子は龍の鱗よりも固く羽根のように軽い…それ一つで国が買えると噂になったぐらいだ。
 
 だが生成が難しいものの、ミスリルと銀で合金を作ると堅牢な固さと鉄よりやや軽い魔法の金属になる。
 これがミスリル銀、あるいは真なる銀と呼ばれるものである。
 
 含有するミスリルの量によって効果が違うが、銀に対して1%を切る割合でもかなり優秀な金属となる。
 極めてまれだがミスリルを含んだ銀の鉱石が発見されることもあり、これは加工すると真なる銀になるので、真なる銀そのものをミスリルと呼ぶ場合もある。
 ミスリルはそれほど世に出回らない幻の金属なのだ。
 
 基部になる銀そのものの価値、ミスリル含有の希少性、合成して真なる銀を作り出す手間、それを鎧に加工する技巧。
 
 ロマンが驚いた軽量の金属鎧は、銀貨三千枚でよいという。
 しかし、市場に出たらどれほど天井知らずな価格になるだろうか。
 
「いいのよ~
 
 あの人と私が食べていく蓄えはあるし、私たちが損をしない程度お金をもらえば充分。
 ただ、これらの武具は市場に出さないでほしいの。
 
 もし必要なくなったら、うちで半額で買い取るわ。
 
 この“子”たちは、あの人の作った子供のようなものだから。
 貴方たちを見込んでのことよ、お願いね」
 
 サンディは愛おしそうに武具を眺めて言った。
 
 ロマンたちは頷き、武具を見ていく。
 ある道具を見てロマンの動きが固まった。
 
「う、嘘…!
 
 これ、アスクレピオスの知恵の杖じゃないかっ!!」
 
 アスクレピオス…人のために医学を発展させた異国の賢人。
 後に人間を死から蘇生させた咎で主神の雷で打たれて死んだが、天に昇って医学の神になったという。
 
「うちにある武具は、伝説ほどの力は出さないの。
 
 前に夫が忠実に魔法の武具を再現したら、あまりに凄まじい効果で、その威力を狙う人たちが現れて、戦争が起きそうになったことがあったのよ。
 
 それ以来、あの人は作る武具の理不尽すぎる力は眠らせて、売る相手も選ぶようになったわ。
 人の手に余る武具は持つ人の運命を歪め不幸を呼んじゃうから。
 
 でも、人に扱える状態にしただけでもその効果はすごいわ。
 
 その杖も、人を生き返らせることはできないけど、魔術師の知恵が込められていてたくさんの魔術を使うことができるらしいわ」
 
 ロマンはサンディの言葉にいちいち頷いて、その杖をしっかりと手に取った。
 
「…カドゥケウス。
 
 原典は魔術師の頂点を象徴するヘルメスの双頭の蛇の杖。
 ヘルメスの杖ケリュケイオンとも、医学と蘇生の象徴であるアスクレピオスの一蛇(いちだ)の杖とも、本来は別のものなんだけど形が似てるから同一に見られることもあるね。
 
 アスクレピオスはヘルメスの知恵を模すために同じような一蛇(いちだ)の杖を持ったとの異説が残ってるほどだよ。
 
 だから、あらゆる魔法を封じ、両方の杖の由来を模して生み出され、ヘルメスの杖の別名カドゥケウスの名をあえて冠して、大魔術師が傍らにおいたのがこれ。
 その杖は形をかえても、偉大な魔法の杖の名を冠したままだったんだ。
 翼の形をした杖の先は知識への飽くなき探究心と飛躍を表してる。
 
 アスクレピオスの【知恵の杖】とも呼ばれた伝説の杖だよ。
 人であったアスクレピオスが知識の研鑽の果てに神になった、その業績と知識を讃えてつけられた異名だね。
 
 人を蘇生したりできないけど、いろんな魔法の力を魔術書の助けなく、魔術師の付帯領域…自身の深遠にある魔術回路の要所に喚起することができる。
 
 まさに偉大なる知恵と技術の証。
 この歳で見ることが、触れることが出来るなんて、僕は、僕は…!」
 
 拳を握り締め、ロマンは感涙していた。
 
 横で他の者たちは、そうすごいんだね、と意味も分からず目を点にしながら、なんとなく相槌を打っておいた。
 
 
「あの時のロマンは目が怪しかったわよ。
 
 残念ながらお金が足りなくて買えなかったけど、まだロマンには早いってことよね~」
 
 レベッカにからかわれてロマンがむっとしている。
 
「あの杖がどれほど貴重か分かってないから、そんなことが言えるんだ…
 
 あれだけで複数の魔法が使えるんだよっ!
 それに杖に込められた太古の魔術の知恵…すごいんだよ、あれはっ!!」
 
 むきになったロマンはむせてしまい、ラムーナに背をさすってもらう。
 
「…いつかお前の手に来るさ、その杖が求めるなら。
 
 お前が持つべき友だといいな」
 
 シグルトはそういってロマンの肩を軽く叩いた。
 
「薀蓄はそのあたりにしておけぃ。
 
 もう、アレトゥーザが見えてきたわい」
 
 傾きかけた日差しの下で、碧海の都は赤く染まりつつあった。
 
 
「さて、と。
 
 じゃ、私はしばらくこの都市でやりたいことがあるから。
 今回は私が銀貨を使うわね」
 
 レベッカがアレトゥーザの門をくぐった直後、一行にそう告げる。
 
「噂だが、ここの盗賊ギルドの技術はリューンのそれに勝るものもあるらしいからな。
 
 俺たちは『悠久の風亭』を中心に仕事でも探しながら時間をつぶしているよ。
 
 …しっかりな」
 
 シグルトの許可を得たレベッカは、ニッと口の端を吊り上げてウインクすると、路地の暗がりに消えていった。
 
「さて、じゃあわしらは宿にでも行くかのう」
 
 スピッキオが、よっこいせ、と掛け声をかけて『悠久の風亭』を目指そうとする。
 
「すまん、俺は少し寄るところがあるから、先に行って部屋を取っておいてくれ」
 
 シグルトはそういうと、レベッカから預った滞在費をロマンに渡す。
 
「また『蒼の洞窟』?
 
 シグルトのこと、『悠久の風亭』のマスターが怪しんでるよ。
 あのおじさん、レナータさんっていう精霊術師さんのこと、ほとんど父親のノリで心配してるみたいだから」
 
 そうだな、と苦笑いしてシグルトが頷く。
 
「…シグルトよ、おぬしそのレナータさんとやらに気があるのかの?」
 
 本来レベッカが言いそうなことをスピッキオが聞く。
 
 シグルトは軽く左右に首を振って否定する。
 
「…普通の男なら妻にと望んでおかしくはない、美人で気立ての良い娘だがな。
 
 男と女の話になると、『小さき希望亭』の娘さんみたいに誰でもくっつけたがる人もいるみたいだが、俺にとっては気の許せる同じ年の知人…彼女に、友人と思ってもらえていれば光栄なんだが。
 
 …今日は彼女の19歳の誕生日なんだ。
 
 何とか今日中にアレトゥーザに着けてよかったよ。
 日が変わらないうちに贈り物だけは届けておきたいんでな」
 
 シグルトは親しいものにはとても義理堅く優しい。
 女心には恐ろしく鈍感な方だが、相手の心をとても大切にするし、贈り物のような行為はきちんとする。
 
「シグルトってこういうことはまめだよね…」
 
 ロマンが肩をすくめる。
 
 シグルトのこういう行為が女性にさらに受けるのだ。
 純粋に相手に喜んでほしいという気持ちの送り方なので、それがまた相手の心の琴線に触れて感動させる。
 
 宿の娘さんなど、シグルトからお土産をもらって感激し、しばらく彼にだけ食事をサービスしていたぐらいだ。
 
 前に何故こんなにまめなの、と聞くと、妹や周囲の女性たちに散々鈍感だの唐変木だと怒られて鍛えられたからだな、と苦笑いしていた。
 話によると誕生日には欠かさず妹にも贈り物をしていたらしい。
 
「…それにしても、側にいると誰でもくっつけたがるのはやめてほしいよね。
 
 この前なんか危うく僕、シグルトの愛人にされるところだったんだよ」
 
 幾分引きつった表情で、げっそりとした雰囲気のロマンが言った。
 
 あの時は娘さんに危うく女装させられそうになったし、と大きなため息をついた。
 『小さき希望亭』の宿の娘は、ロマンにとって天敵だ。
 隙あらば抱きつかれそうになるし、可愛い格好をするようせがむのだ。
 
 ラムーナが慰めるように頭を撫でてくれる。
 女顔を密かにコンプレックスにしているロマンであった。
 
 
 レナータは夕暮れの町並みを独り歩いていた。
 
 今日で19歳になる。
 前の年は『悠久の風亭』のマスターや女将さんが祝ってくれたが、今回は独りになりそうだな、とぼんやり思っていた。
 
 普段は買い物以外めったに外出せず、『蒼の洞窟』にいることが多いレナータだが、今日はなんとなく外に出る気になった。
 
 今まで独りでいることは平気だった。
 何とか生きてきたし、普通の人に精霊使いという珍しい力や感覚を無理に理解してほしいという気持ちでもなかった。
 孤独という状況には慣れていたはずだ。
 
 でも最近、ふと無性に寂しくなって思い出す人たちがいた。
 
 自分と同じ精霊使いとしての才能に溢れ、もうすぐレナータを凌ぐのではないか、と思わせる人物がいる。
 レナータに精霊術を学ぶため、『蒼の洞窟』に時々やってくる冒険者の若者である。
 
 最初の頃は気弱な気配があったその若者は、最近再会したときは瞳に自信がみなぎっているのを感じた。
 
 その若者とは共通の感覚や知識を持っていることから、あまりしゃべらなくても分かり合える、親近感のようなものがある。
 おそらくそれが“同属”の共感なのだろうとなんとなく思う。
 
 互いに理解し合える、同じ何かを持った者同士。
 
 言葉で表現するのはとても難しいが、その若者に精霊術を教えるときは自分の中の何かが刺激されてとても充実した気分になった。
 新しい精霊術を使えるようになって、嬉しそうに笑顔になったその若者を思い出し、レナータは頬を緩めた。
 
 他に親しい人、と言えば『悠久の風亭』のマスターと女将さんである。
 
 この都市に来たばかりの頃、真っ青な顔をした女性をかき抱いて教会の門を必死に叩いている大きな男の人がいた。
 
 女性はたちの悪い毒の病気にかかっていて、医者では手遅れの状態だった。
 生憎そのとき、この都市のほとんどの聖職者は近くの都市の式典にでかけていて、女性を救える神聖術が使える者はいなかった。
 
 教会の留守番をしていた助祭から、癒すことが不可能だと告げられた大柄な男の人は女性を抱いて泣いていた。
 
 レナータはその女性を、今の自分にとってもたった一度だけしか召喚できない水の精霊ウンディーネの力を用いて癒し、何とか救うことができた。
 
 大柄の男は『悠久の風亭』のマスターで、レナータが助けた女性は女将ラウラだったのである。
 
 マスターはラウラの命の恩人だ、と言ってそれからいつも良くしてくれる。
 女将のラウラにもあまった食材をくれたり、夕食に呼んでくれたりと優しくしてくれる。
 
 ぶっきらぼうで乱暴な口調だが正直で根は優しいマスターと、陽気でレナータの師を思い出させるラウラは、レナータにとって今では掛替えのない大切な人たちである。
 
 聖海教会で神聖術の指導をしているマルコ司祭も好人物である。
 
 紳士的で精霊術に関しても理解があるそのマルコ司祭は、何度か絡んできた他の聖職者からレナータを庇ってくれた。
 自分の信仰をしっかり持ちながら、違う考えとしっかり共存できるという思想。
 それを備えた聡明なマルコ司祭を、レナータは尊敬している。
 
 そこでレナータは独りの男を思い出して歩みを止めた。
 
「シグルトさん…」
 
 レナータは時々独り言のように呼んでしまう冒険者の若者の名を、大切そうに呟いた。
 
 不思議な若者だった。

 シグルトはレナータが暴徒に襲われていたとき助けてくれた。
 レナータより数ヶ月年上で、冒険者のリーダーをしていると聞いている。
 
 涼める場所を探していたというシグルトは、助けてくれたことを恩着せがましく言わなかったし、知り合ってからもレナータのことを根掘り葉掘り聞いたりしなかった。
 レナータはラウラの言葉で言わせればかなり美人なのだそうだが、シグルトはレナータが男から時折向けられて気持ち悪くなる好色な視線も気持ちも感じさせない。
 だが深く青黒い色の真っ直ぐな眼差しは、レナータを見つめるときはいつも優しい。
 
 男女の恋愛には疎いほうだと自覚しているレナータも、シグルトが魅力的な男性だとよくわかる。
 前にラウラがしてくれた話では、周囲の町娘たちが宿に集団で覗きに来て、マスターに怒鳴られて蜘蛛の子を散らすように逃げていったらしい。
 
 髪型はかなり無頓着みたいだが黒いそれは獣の鬣のように野生的に見えるし、北方出身だというその肌は女性でも羨ましくなるくらい白い。
 背が高くがっしりしているが、手足はしなやかで猫科の猛獣のように強靭でスマートな印象がある。
 顔立ちは女の子が騒いでも無理がないくらい端整で凛々しい。
 
 でもレナータは老いと一緒にあせてしまうそういった外見的な美しさにはあまり関心を持っていなかった。
 もちろんシグルトを含め、端整な顔立ちの男性は魅力的とも思うが、精霊という異形の存在と交信するレナータにとって、外面的なものはさして重要には感じられないのだ。
 
 だが、レナータは外見をおいて有り余る魅力をシグルトの内面に感じていた。
 
 レナータには精霊の力の動きを感じ取ることができる。
 
 レナータの直感だが、シグルトにもその才能がある。
 精霊使いであるレナータのそれほどではないが、シグルトは精霊を感じ取る能力を持っている。
 
 シグルトが周囲の精霊になんとなく気を配っているのがレナータにははっきり分かるし、精霊の多くがシグルトを好んでいる。
 精霊使いは性格によって精霊との相性があるのだが、シグルトのそれは稀有なものだ。
 彼は武具の精とも通じ合うことが出来るのである。
 
 金属、ことに鉄の精霊は孤高で気難しい。
 
 精霊使いは鉄の精霊が苦手なものも多い。
 鉄は他の精霊の力を弱くしてしまうのである。
 
 しかし鉄の精霊からも、他の精霊からもシグルトを嫌う気配はあまり感じなかった。
 
 シグルトは『蒼の洞窟』がとても落ち着くといっていたが、彼に向けられる精霊の好意を知れば納得がいく。
 『蒼の洞窟』は癒しを与えてくれる水の精霊たちの力で満ちているのだ。
 
 同じように精霊に愛される人物をレナータは何人か知っていた。
 主としてあげるならレナータの師、そして自分のところに学びに来る冒険者の青年である。
 
 レナータはシグルトと交流を持つうちに、この人物の傍らにいることがとても快いことに気がついた。
 おそらくは彼の周囲の精霊の動きのせいでもあるのだろうが、レナータの奥底にある何かがシグルトをとても好ましく感じさせるのだ。
 
 最近それが何かなんとなく分かるようになった。
 
「レナータ、よく憶えておいてね。
 
 精霊使いの本質とも言えるもの。
 それは自身の中にある精霊としての性質なのよ。
 
 生きている人間のなかにも、精霊としての性(さが)というか、核というか、そういうものが少ないけれどあるものなの。
 それを私たちの精霊術の系統では《霊格》と呼ぶわ。
 『霊格』という言葉にはもっと深く広い意味もあるから、仮に使う言葉だと思ってね。
 
 私は精霊術を学んだ師からこう教えられたわ。
 自身の《霊格》を高め、他の精霊のそれと同調するのが精霊との真の交感だって。
 
 自分を精霊と同じものだと覚り、同じような視点で精霊を感じること。
 私たちエルフみたいな、妖精と呼ばれる存在はほとんどそれが当たり前にできるから、優れた精霊使いが多いのよ。
 
 あなたはとても優れた《霊格》をもっているわ。
 
 でも、世の中にはその《霊格》がとてつもなく美しい人がいるの。
 多くは英雄や、後に超常的な仙人や神人になるって言われているのよ。
 
 世界という精霊に愛されているその人たちは、必ずしも精霊使いになるとは限らないけれど、困難や苦難を自分自身の努力と激しい運によって乗り切って、偉大な存在になるわ。
 
 そして精霊使いのあなたには出会えばきっと分かる。
 
 そういう人は側にいるだけで《霊格》に心地よさを与え、何かしてあげたい気持ちを起こさせるから。
 
 これをカリスマ、と呼ぶ人もいるわね。
 
 英雄が幼少期に死にそうなところを幸運で救われるのは、実は周囲の精霊が助けてくれるからだともいうわ。
 
 もっとも、私はそういう生まれたときからある才能や宿命一辺倒な考え方は、納得がいかないんだけどね…」
 
 レナータの師レティーシャの言葉である。
 
 おそらくシグルトは師の言うように《霊格》が常人離れして美しいのだろう。
 
 でも、レティーシャはこうも言っていた。
 精霊使いとしての究極は、精霊を深く理解し愛してあげることだ、と。
 また、《霊格》の美しいものは多くの場合、自分の運命を御しきれずに自滅したり不幸な最後をとげるのだとも。
 
 シグルトにとても惹かれるのはきっと、シグルトの《霊格》から受ける暖かな心地よさからなのだろう、とレナータは自己分析している。
 
 でもそれだけではなかった。
 
 シグルトはアレトゥーザにいるとき、頻繁にレナータの元を訪れ、親しくしてくれた。
 この間、お土産だといって陶器のカップをもらったとき泣きそうになるほど嬉しかった。
 
 シグルトの裏表の全く無い厚意が、孤独だったレナータの心の寂寥(せきりょう)を癒し、幸福感で満たしてくれた。
 内向的であまり必要なこと以外話さないレナータも、シグルトには気兼ねなく話すことができる。
 
 それは恋愛や依存といった感情とは違う。
 “親しみ”というとても単純な好意であった。
 
 レナータはそれを恋や愛、友情に昇華するほどシグルトを知らない。
 
 でも、レナータは感情云々は考えずに単純に思う。
 シグルトに逢いたい、と。
 
「シグルトさん…」
 
 呼ぶと名前に宿った精霊が応えてくれるような安堵感がある。
 
 シグルトにとってもレナータにとっても、癒し合う柔らかな“親しみ”が互いの心に宿っていた。
 
 
 見れば周囲が薄暗くなっている。
 
 レナータは寂しげな暗い苦笑を浮かべると、『蒼の洞窟』に帰ろうと踵を返し、途中で人の気配を感じて振り向く。
 
 そこには冷たい目の僧服の男と薄ら笑いを浮かべる数人のごろつきの様な男、そして独り剣を腰に下げた傭兵ふうの男がいた。
 
 僧服の男はよく知っている。
 聖海教会の保守派に属する侍祭でジョドといったか。
 上品な口調で話すが、気障で嫌味、レナータを目の仇にしている。
 前に絡まれたときはシグルトが追い払ってくれた。
 
 周囲のごろつき風の男たちに見覚えはないが、決して友好的な気持ちではなにだろう。
 
 そして傭兵風の男。
 その目を見てレナータは背筋が寒くなった。
 サディスティックな狂気を宿した三白眼。
 血を見なくてはいられない好戦的で悪辣な雰囲気。
 
 レナータの直感は警鐘を鳴らしている。
 今回はとてもまずいと。
 
 走って逃げようとして、喉に猛烈な圧迫感を感じ、身体が吊り上げられる。
 
 後ろから迫った男がレナータを捕まえ、腕で喉を締め上げている。
 次の瞬間、あげようとしたレナータの声が完全に途絶えた。
 
 見ればジョドが何か言い終わったような顔をしている。
 
 沈黙をもたらす神聖術【封言の法】である。
 捕まえられて気をとられた瞬間を狙われてしまった。
 
 これでは精霊を呼ぶことが出来ない。
 
 ごろつきたちがレナータに殺到し押さえ込む。
 口にはいつ【封言の法】の効果が切れてもいいように猿轡をされ、手足は男たちに押さえ込まれている。
 
 ジョドと傭兵風の男が近寄って来た。
 
 言葉が出ないし、身動きがまったくできない。
 レナータは毅然とした目でジョドを睨み見た。
 
「ようやくこれで魔女の征伐が出来るというものです。
 
 この間はおかしな男が邪魔をしましたが、今回はあの男に備えて準備をしたというのに、取り越し苦労だったみたいですね」
 
 周囲を調べた後、ジョドは汚物でも見るような蔑んだ目でレナータを見た。
 
「ジョドの旦那~
 
 俺は殺しが出来るっていうから、張り切ってやってきたんだぜぇ。
 
 これじゃぁ、俺の滾る血がおさまんねぇぜ」
 
 傭兵風の男は剣を抜いたり戻したりして不愉快な金属音を立てながら言った。
 
「まったくだぜ。
 
 これじゃ、安い金で請け負った意味がねぇ」
 
 頭を太い腕でかきながら、ぼさぼさ頭の盗賊風の男が出てくる。
 この腕はさきほどレナータを押さえ込んだものだ。
 
「そんなことを言われても、報酬以上は払いませんよ。
 
 いいから早く魔女を殺しなさい」
 
 ジョドは苛々したように2人に命じた。
 
「…ちっ。
 
 つまらんぜぇ」
 
 そういって剣に手をかけた傭兵風の男は、レナータを見下ろして剣を抜くのを止め、歯茎をむき出して凶悪に嗤う。
 まるで虫を分解する子供が、新しい遊び方を思いついたように。
 
「なぁ、ジョドの旦那~
 
 魔女にはやっぱり罰を与えなきゃいかんだろ?」
 
 それを聞いた盗賊風の男も手を打って頷く。
 
 男たちを見ていたジョドが、なるほど、と頷いた。
 
「分かりました。
 
 この魔女を責め、その後に殺しなさい。
 
 …手段は問いませんよ」
 
 男たちはニヤニヤ好色そうに嗤っている。
 
 レナータは若い女で、周りは悪漢たち。
 つまり、レナータは男たちの慰み者にされて殺されるのだろう。
 
 悔しさや悲しさと一緒に、レナータの心にどっと虚しさが押し寄せる。
 自分の今まではこんな奴らに汚されるためにあったのか、と。
 
 この格好では抵抗すらろくに出来ないだろう。
 
 せめてこいつらを喜ばせるような表情だけはすまい…
 レナータはぎゅっと目を閉じる。
 
 男の一人がベルトの金具を弄る音がする。
 きっとさっきの盗賊風の男だろう。
 
「へへへ、白くて綺麗な肌だねぇ~」
 
 男が生臭い息を吐きかけて、レナータにのしかかってきた。
 
(…シグルトさん!!!)
 
 心の中で最後にもう一度会いたい男の顔を浮かべ、その名を呼んだ。
 
「…じゃ、いただきま、ふぐぇ!!!!」
 
 鈍い音と共に、レナータの上に乗っていた重さが無くなる。
 恐る恐る目を開けると、先ほどの男が股間を押さえて泡を吹いて、レナータの横に転がっていた。
 
 バキッ!!
 
 レナータの腕を押さえていた男が転がりながら転倒する。
 彼女の側に、奴らの中には無かった逞しい足がしっかりと踏み下ろされていた。
 
 男たちがレナータから離れて得物を抜く。
 
「…やっぱり来ましたか!」
 
 ジョドが目を血走らせて怨嗟の視線で睨みつけている。
 
「…もうするなといったぞ、俺は」
 
 底冷えするようなよく通る恫喝の声。
 その声も、この頼もしく長い足もレナータはよく知っている。
 
「すまん、遅くなったな」
 
 完全に日が沈もうとしている瞬間、見えたのは心配そうにこちらを見つめる深く青黒い双眸だった。
 
(…シグルトさん!!!)
 
 大地をしっかり踏みしめ、レナータを背に庇うように立ったシグルトは腰の剣を抜き放つ。
 
「…こんな奴らにお前を振るうのは気が引けるな、相棒」
 
 そういったシグルトに応えるように、その鋼は澄んだ咆哮を上げた。
 
 叩き潰すような一撃だった。
 鎖骨を砕かれたちんぴらの1人が白目を剥いて失神する。
 
「…ふむ、確かに斬り難いな」
 
 シグルトの凄まじい膂力はチンピラの肩にあった金属製の防具ごと、骨を粉砕したのである。
 
 チンピラたちは蒼白な顔立ちで退いた。
 
「おお、すげぇ。
 
 強いって噂だったが、お前“風を纏う者”のシグルトだな?」
 
 チンビラの間から傭兵風の男が出てくる。
 
「俺は雑魚とは違うぜぇ!!!」
 
 鋭い踏み込みをした傭兵風が重い斬撃を放つ。
 シグルトがそれを剣で受け止める。
 
 ガイィィィィン!!
 
 闇に赤い火花が散る。
 一合、二合と打ち合う刃と刃。
 
「ハッハァッ!!
 
 いかすぜ、あんた。
 違うぜぇ、前殺した奴とはよぉ!!!」
 
 シグルトが防戦一方になる。
 傭兵風はかなり腕が立った。
 
 そんな中、閃光がシグルトの脇腹を打つ。
 
「ぬぅっ!」
 
 数歩後退してシグルトが脇腹を押さえている。
 その手のひらの間から血が滴っていた。
 
「…旦那~、いいところなんだから邪魔せんでくれよなぁ」
 
 そう言いつつ傭兵風は額の汗をぬぐっている。
 勝負はかなり膠着していたのだ。
 
 レナータは、はっとして猿轡を外そうとするが手足が思うように動かない。
 体重をかけられて押さえられていた手足はうっ血して痣になり、痺れている。
 レナータは必死に猿轡の縛り目を手でこすって外そうとするが、固く結ばれたそれは解けない。
 
「何をやっているんです!
 
 早く倒しなさい、人が来るでしょう!!」
 
 ジョドが叫ぶと傭兵風はやれやれ、興が冷めたぜ、とちんぴらに命じてシグルトを囲ませる。
 
「わりぃな、雇い主がうるさくてよ。
 
 あの魔女のねぇちゃんはたっぷり可愛がってから、おめぇの後を追わせてやっから…死ねや!」
 
 ちんぴらたちがシグルトへの距離をつめる。
 
 レナータは声にならない叫びを猿轡の下から上げそうになった。
 だがその頬に張り詰めた精霊の気配を感じ、驚いてそちらを見た。
 
「…死ぬのはお前らだ!
 
 風の友よ、奴らを薙ぎ払え!!!」
 
 突風が吹き、ちんぴらたちが血煙を上げて倒れる。
 
 剣を構え、その若者はレナータとシグルトを庇うように立った。
 
「ニコロさん!!!」
 
 ようやく緩んで外れた猿轡。
 レナータは青年の名を呼んでいた。
 
「『悠久の風亭』のマスターに、レナータさんを呼んできてくれって頼まれたから来たんだけど、あいつら…
 
 待ってて、今やっつけ…うわっ!」
 
 ニコロと呼ばれた若者を護っていた風の障壁が軋む。
 傭兵風が襲い掛かってきたのだ。
 
「ちぃ…おかしな魔法を使いやがってぇ。
 
 俺の必殺剣で真っ二つにしてやるぜ!」
 
 その構えを見てニコロの顔の血が引く。
 
(やばい…【居合斬り】だ!)
 
 リューンの闘技場でも教えている剣技だが、威力は凄まじい。
 直撃したら【風刃の纏い】の風の障壁でも護りきれないだろう。
 
「おらぁぁぁぁ!!!」
 
 傭兵風が振るう空を切り裂く刃。
 
 ギシィィィィン!!
 
 だが放たれた剣閃を若者の前に割り込んだシグルトががっしりと剣で受けた。
 負傷した状態で行った防御は力が入らなかったのだろう、数歩下がり脇腹から血がしぶく。
 
 距離をとって傭兵風が舌打ちして距離をとる。
 そのシグルトを白い閃光が打ち据える。
 
「っ!!」
 
 肩で受け、何とか耐えるシグルト。
 
「くそ、あいつら…」
 
 ニコロが魔法を使おうとすると、シグルト素早く声をかける。
 
「俺が一回だけ敵の攻撃をひきつける。
 
 そこを君の魔法で薙ぎ払えるか?」
 
 初めてその目を合わせる。
 2発の【聖なる矢】を受けてなお、男の青黒い目は静かな闘志を宿していた。
 
「はい、でも大丈夫ですか?」
 
 その応えにシグルトはニッと笑うと剣を構えて敵陣の真っ只中に踏み込んだ。
 
 どう見てもそれは自殺行為だった。
 レナータが悲痛な声でシグルトを呼ぶ。
 
「おめぇ、格好つけて馬鹿か。
 
 まぁいい、おめぇら!」
 
 ちんぴらたちが一斉にシグルトに襲い掛かる。
 
 ニコロが風の精霊を従えつつ、まずい、と思ったとき、唐突にシグルトの姿が消えた。
 
「…ぁぁぁがあぁっ!!!」
 
 そして身体をくの字に曲げた傭兵風が驚愕の顔でシグルトを見ている。
 信じられない速度の踏み込みだった。
 シグルトのとっておき、【影走り】である。
 
 反撃しようと剣を振り上げる傭兵男の顔面を、シグルトの手にある鉄塊の平が殴打した。
 
 豪快な音を立てて倒れる傭兵男を見つつ、シグルトは眉をひそめた。
 
「くそ、血で滑った…」
 
 舌打ちするシグルトの後ろで、ニコロの放った風の精霊の刃がちんぴらを残らず薙ぎ倒していた。
 
「ば、ばかな…」
 
 ジョドが真っ青な顔で後ずさっていく。
 シグルトはずかずか歩いていくと、腰の引けているジョドの腹を無言で殴りつけた。
 
 口から吐瀉物を撒き散らしつつ、転がったジョドをシグルトは引き起こし顔面を数回張る。
 
 惨めな顔で震えているジョドを放り出し見下ろすシグルト。
 
「今度レナータに手を出そうとしたら、他も全部へし折って海に捨てる…」
 
 シグルトは容赦なくジョドの右手を踏み砕く。
 その手に隠し持ったナイフが握られていた。
 
 泣き喚いているジョドを殴って気絶させると、シグルトはレナータたちのところに向かった。
 
「…レナータ?」
 
 ニコロと呼ばれた若者がレナータを助け起こしていた。
 やってきた痛々しいシグルトの脇腹と肩口の傷を見てレナータはぽろぽろと涙を流していた。
 
「…あの、大丈夫ですか?
 
 薬を持ってますけど使いますか?」
 
 ニコロが言うとシグルトは、たいした傷じゃない、といって苦笑いして見せた。
 
 レナータがすぐに水の精霊を呼び出してシグルトの傷を癒し始める。
 
(痛くないわけ無い。

 【魔法の矢】にも匹敵する攻撃を二発も受けてるんだ、同じ状況ならうちのオーベだってきついだろうな…)
 
 そう言いつつ、あらためてシグルトを見たニコロは、噂通りの外見にそれが誰だか理解した。
 
(この人が“風を纏う者”のシグルト…)
 
 会った人は見れば分かるといったが、その通りだった。
 美しいが、それ以上にものすごい存在感がある。
 
 そしてニコロは不思議とこの男を信頼してしまう安堵感のようなものを感じていた。
 
「…どうして、どうしてこんな無茶をしたんですか!!」
 
 レナータが怒ったようにシグルトの胸を叩く。
 傷は彼女の精霊術で綺麗に消えていた。
 
「無茶といってもな…
 
 敵が強かったし、君に大きな怪我が無くて俺は不幸中の幸いだと思ってるくらいなんだが」
 
 泣かせるつもりは無かったんだ、とほつれたレナータの前髪を整えて、シグルトは優しそうな目で触れている精霊術師の娘を見つめていた。
 
「でも、でも…」
 
 そう言って首を振るレナータにシグルトは頭をかくと、意を決したようにレナータの首に何かかけた。
 
「あっ…」
 
 声を上げてレナータはそれを見る。
 小さな女神をかたどった細工のペンダントだった。
 女神は手に小さな石を抱いている。
 瑠璃(ラピスラズリ)の欠片だろうか。
 
「これからずっと君に幸運がありますように…
 
 19歳おめでとう、レナータ。
 俺の用事は、君に今日中にこれを渡したかっただけなんだ」
 
 先ほどの鬼のような強さを欠片も見せず、シグルトは穏やかに微笑んだ。
 
「そうだ、マスターがレナータさんの誕生祝いをするから連れてこいって…」
 
 それを聞いたレナータは、涙をぬぐうと大切そうにぎゅっとペンダントヘッドを握って頷いた。
 
 安心したようにシグルトは息を吐くとニコロの方を見る。
 
「礼が遅れてすまない。
 
 俺は冒険者パーティ“風を纏う者”のシグルトという。
 
 助けてくれてありがとう」
 
 そういって頭を下げたシグルトに、ニコロも自己紹介する。
 
「“風を駆る者たち”のニコロです。
 
 噂は伺ってます。 
 
 会えて光栄です、シグルトさん」
 
 シグルトは、君が、と言って大きく頷く。
 
 2人はどちらかともなく互いの手を差し出し、しっかりと握手する。
 
「敬語はいいさ。
 
 同じ冒険者同士、気軽に声をかけてくれると助かるよ」
 
 シグルトはそういうとレナータを見て歩けるか?と聞く。
 
 レナータは歩き出そうとして顔をゆがめた。
 足を捻ったのだろう、少し腫れている。
 
 シグルトはさっと応急処置をすませるとレナータを抱き上げた。
 びっくりして、降ろすように言うレナータに、この方が早いと黙らせると、ニコロにも急ぐよう催促する。
 
「レナータの誕生日は数時間しか残ってないが、こいつらを自警団に突き出して話していたら夜が明けてしまうからな。
 
 死んだ奴も、死にそうなやつもいないみたいだし、退散したほうが得策だと思うんだが?」
 
 それに、こんなむさ苦しいやつらに構うのは時間がもったいない、と続ける。
 
「言えてる…」
  
 2人は頷き合うと、『悠久の風』に向けて足早に歩き出した。
 
 これこそが後に語られる“風を纏う者”と“風を駆る者たち”2つの風の最初の交差、眠れる両雄の邂逅である。

 
 
 大変長らくお待たせしました…
 
 ついに、ついにシグルトとニコロの邂逅です。
 一応シグルトは今回の主役なので、順番が先になってごめんなさい…
 
 長かったです。
 書いてるうちにキーボードが軋んで鈍くなりました。
 
 ええと、Martさんごめんなさいっ!!!(土下座)
 
 レナータの誕生日と年齢、勝手に使っちゃいました…
 
 Djinnさんも、ミスリルとか魔剣とか、かなりこっちで解釈して薀蓄をたれてますが、ご勘弁~
 
 ミスリルは指輪物語っぽく高価にしました。
 話中のミスリルの鎖帷子のモデルは映画でフロドが着てたアレです。
 
 カドゥケウス、ウィキペディアに載ってる記事を参考にして勝手に内容変更してます…苦しいですね。
 
 今回は設定狂気質が暴走してました。
 
 気合入れて書きましたが、更新されたMartさんのブログに合わせて急遽マルコ司祭を使ったり、口調がはっきり分からないニコロをぶっつけ本番で使ったり…無理と無茶がたたって、気がついたらPCの前で爆睡していたという恐ろしい状況に…
 
 次回は何とかもう少し早くあげるようにしますね。
 
 それとレナータ、怖い思いをさせてごめんね~
 
 シグルト、美形すぎる描写ですが、どうか嫌わないであげてください。
 こいつが美形だったり、心憎い行動をするのは思いっきり天然なので。
 プレゼントアタックも、彼なりの素朴な好意の行動ってことで。
 
 次はレベッカ姐さんと、ユーグがクロスの予定です。
 レベッカ姐さんのファンがいらしたら、彼女の過去が語られます。
 
 次回も楽しみにしてくださると、いいなぁ…
 
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『魔剣工房』 アロンダイト

「…ハァァァァ!!!」
 
 気合とともにラムーナが空中でトンボをきった。
 迫ってきた海賊の一撃を避けると、鞭のような腕のしなりで1人の脇腹を裂き、そのまま勢いを利用して真横にいるもう1人の顎を剣の柄で突き上げて砕く。
 
「…絶好調じゃない、ラムーナ!」
 
 横で1人の海賊を倒していたレベッカが驚嘆する。
 
「《張り巡らすは白蜘(はくち)の楼閣、呪詛が羅網(らもう)で絡み捕らえよ…》
 
 《縛れ!》」
 
 ロマンが唱えた呪文が完成し、盗賊1人が雁字搦めになる。
 冒険の途中で手に入れた【蜘蛛の糸】という魔法である。
 
 首領との戦いでできたシグルトの傷が、スピッキオの神への祈りで見る間に消えていく。
 
 シグルトが肘撃ちで首領を打ち据え、よろめかせる。
 
「シグルトっ!!!」
 
 ラムーナの掛け声でシグルトが身体を屈める。
 唖然とした海賊の首領は、ラムーナの回し蹴りを喰らって吹っ飛び、盛大な水音を立てて海に落ちた。
 
 
 “風を纏う者”は数日フォーチュン=ベルで仕事をしていた。
 一度とある冒険者たちによって撃退されたが、最近また出現するようになったという海賊を討伐し、意気揚々と宿に凱旋した。
 
「…五百枚、っと。
 
 うん、確かに」
 
 レベッカが宿の主人から約束の報酬を受け取っていた。
 
「…おい、あいつらだろ?
 
 今売り出し中の冒険者“風を駆る者たち”って」
 
 酒を飲んでいた男たちが、シグルトたちを指差して噂していた。
 
「違うっての。
 
 “風を駆る者たち”にはゴツイ体格のドワーフや黒い肌のねえちゃんがいるはずだ。
 
 あいつらは“風を纏う者”さ」
 
 そう言った男がシグルトを指差す。
 
「あれが“風を纏う者”のリーダー、シグルトだよ。
 
 金勘定をしてた女が副長で盗賊のレベッカ。
 
 近くのテーブルで座ってる子供の方が、リューンで噂になったことがある天才少年のロマンで、もう1人のでっかい爺様がスピッキオっていう坊さん。
 
 今、仲間の飲み物をテーブルに持ってきたあの可愛い娘が軽戦士のラムーナさ。
 何でもあの娘が今回の海賊退治の撃墜王だったって話だぜ…」
 
 フムフムと頷いていたもう1人が、名前が似てて紛らわしいな、とぼやく。
 
「でも、“風を纏う者”って美形ぞろいだよな~
 
 ラムーナちゃんのぴっちぴっちの若さもいいけど、レベッカおねえ様のあの腰つきのいろっぺーこと。
 お近づきになりたいぜ~」
 
 そういった男は、お前じゃ無理無理、といわれて真っ赤になって怒っていた。
 
 
「“風を駆る者たち”、か。
 
 また聞いたな、この名前」
 
 銀貨をしまい終えたレベッカにシグルトが呟くように言う。
 
「私たちの前に、海賊討伐や怪物退治をやってたことがあるらしいわ。
 例の海賊連中を追い払った冒険者っていうのも、彼らみたいね。
 
 活動拠点も同じリューンだし、アレトゥーザやフォーチュン=ベル近郊で仕事をしてるのもよく似てる。
 
 …思い出せないんだけど、“風を駆ける者たち”のユーグって盗賊、なんとなく名前に聞き覚えがあるのよね。
 
 目下私たちの仕事上でのライバルってところね。
 まだ仕事でかち合ってないけど、いずれ一緒に仕事をしたり、競ったりすることがあるかもしれないわ」
 
 さて、私たちも戻って飲みましょ、とレベッカはそこで話を終わらせた。
 彼女に続いて席に戻ると、ラムーナが、はい、とエールを渡してくれる。
 シグルトは礼を言って一口飲むと、今回の仕事の功労者である少女を見た。
 
 あかぬけて美しくなったラムーナは、よく男に声をかけられるようになっていた。
 もともとが愛らしい容貌と、闘舞術で培ったスレンダーだが要所は最近丸みを帯びてきた身体つき。
 健康的な小麦色の肌と陽気な性格。
 
 出会った当時の痩せた子供のような印象はすでにない。
 
 最近はラムーナに絡んでくる軟派な男たちから彼女をそれとなく護るのも、シグルトの新しい仕事である。
 まだ外見の成長ほど、この娘の心は異性というものになじんでいない。
 数ヶ月の付き合いで、この少女の心には見かけよりも繊細で脆い部分があることを、女心に極めて鈍感なシグルトでも気付き始めていた。
 
 陽気なこの少女はシグルトに妹を思い出させる。
 実際ラムーナはシグルトを兄のように慕ってくれる。
 
 顔立ちの端整なシグルトは、この年頃の異性にどうしても色目で見られがちである。
 男女の関係に疎いやや幼いともいえるラムーナの性格が、辛い恋愛を経験したシグルトにとってパーティという人間関係の構築の上でありがたかった。
 
「どうしたの?」
 
 ラムーナが可愛らしく小首をかしげる。
 鈍い自分と違って、この少女は本当に人の表情の変化に敏感である。
 
「たいしたことじゃないさ。
 
 今回の仕事では俺の新しい技の披露をする必要もないぐらい、ラムーナが頑張ったからな。
 俺も今度は負けないように励もうと思ってな」
 
 そういってシグルトはエールをあおる。
 
「大丈夫、シグルトは強いもん。
 
 今回だって、シグルトが隙を作ってくれたから戦いやすかったんだよ。
 私はシグルトほど力がないから、派手な動きと手数の多さで攻めるしかないし。
 それに揺れる船の上では、私みたいに身軽だと有利だったから」
 
 大きな目を瞬いて、ラムーナがふんわりと微笑む。
 
 この少女の謙虚で献身的な態度と優しさは、仲間にとってもありがたいものだった。
 厳しく劣悪な環境の仕事をして心がささくれてきたとき、彼女の明るさと気遣いが何度場を和ませてくれただろうか。
 
 シグルトも優しげな笑みをうかべて、愛おしげにラムーナの頭を撫でた。
 
  
「おぉぉぉぉ!!!!!」
 
 シグルトの渾身の一撃が最後のオーガの頭蓋を叩き割り、止めを刺す。
 
 バキィィィィィン!!
 
 しかしもらい物の剣は連日の酷使に耐え切れず、ついに折れた。
 
 
 フォーチュン=ベルに戻った一行はオーガ討伐を終えて報酬をもらい、飲んでいるところだった。
 
「すまんな、また剣を折ってしまった」
 
 シグルトが申し訳なさそうに言うと、仕方ないよ、とロマンが首を振ってくれる。
 
「おぬしは常人離れした膂力を持っておる。
 
 並の剣ではそれに耐えられまい。
 剣の手入れをまめにしておったのはわしらも知っておるからの」
 
 スピッキオが、ほっほ、と苦笑する。
 
「しかし、困ったな。
 
 ここでお古をくれそうな先輩はいないし、新しい武器を買うのは…」
 
 それ以上言うな、とレベッカが制した。
 
「シグルトの豪腕は私たちにとって絶対必要よ。
 
 でもその腕力に耐えられない武器じゃ、今回みたいにいつ折れるか分からないし、無駄になるわ。
 
 そこで、よ…
 この際、銘工の剣というやつを奮発して買ってみない?」
 
 そういうとレベッカはこのフォーチュン=ベルに住んでいるという、噂の銘工について語りだした。
 
 
「…ブレッゼンっ!?
 
 もしかして“神の槌”か!!!」
 
 レベッカが語った銘工の名にシグルトが目を丸くした。
 
「…?
 
 何、シグルト…知ってるの?」
 
 誰も知るまい、と自慢げに話していたレベッカは鼻白んだ。
 
「…北方の一部の地方では有名人だ。
 
 “神の槌”ブレッゼンの《魔剣》か、ドワーフの銘匠“生み出すもの”マクラホンの《獣の銘》。
 武具の、中でも刀剣はこの2つが不動の銘だった。
 
 俺が生まれた国では、まともな剣は騎士か優れた戦士しか持てない法があったんだが…
 ブレッゼンの銘を持つものは、その中でも別格扱いだったよ」
 
 シグルトが冒険者になるまで剣を持たなかったのも、故郷の習慣からだった。
 彼の故郷では刀剣は神聖なものとして珍重されていた。
 
 そして半世紀もない期間で、シグルトの故郷を含め北方に名を知らしめた銘工にブレッゼンがいる。
 “神の槌”と呼ばれていたこの人物は、かつて太古から存在してきたという伝説の武具を再生させることが出来るという噂だった。
 彼の作った武具、特に刀剣は《魔剣》と称され、その威力と不可思議な力ゆえに、天井知らずの値段で取引されるという。
 
「ブレッゼンは気難しい人物で、貴族から身を隠すためにどこかに工房を変えたと聞いていたが…」
 
 シグルトの話を聞いていたレベッカは、その件の銘工がこのフォーチュン=ベルにいるのよ、と続けた。
 
「噂じゃブレッゼンは自分の造った武具を認めた人にしか売らないらしいのよ。
 
 さすがに本物の魔剣は無理かもしれないけど、ダメで元々、一度覗いてみましょうよ。
 それに、私の勘だとシグルトはそういう職人気質の人に気に入られそうな雰囲気があるのよね~」
 
 その言葉を聞いて苦笑しながらも、シグルトは頷く。
 
「武具は関係なくとも、偉大な銘工なら俺も会ってみたい。
 
 武器はどう振るうべきか、それを語ってくれるかもしれないしな」
 
 決まりね、とレベッカが手を打った。
 
 
 魔剣工房と呼ばれるブレッゼンの工房は、フォーチュン=ベルの郊外にひっそりと在った。
 
 とりあえずは、と「武具の修理、販売承ります」と書かれた販売所の方に顔を出す。
 呼び鈴をならすと、陽気そうな婦人が出てきて対応してくれた。
 
「いらっしゃいませ!

 初めてのお客さんね」
 
 サンディと名乗った人のよさそうなその婦人は、ニコニコと微笑んでお茶を出してくれた。
 
「ここの噂を耳にしてやってきたんです。
 
 活動拠点はリューンなんですが、フォーチュン=ベルには仕事でよく来ます。
 
 今回は仕事で武器を破損してしまったので、修理か購入を、とやってきたのですが…」
 
 シグルトが事情を正直に話すと婦人は相槌をうちながら聞いていたが、それなら、と工房の方を指差した。
 ここにいても鋼を打つ甲高い音が響いてくる。
 
「シグルトさんっておっしゃったわね。
 
 あなたなら主人も武器を打ってくれると思うわ。
 腰の剣、折れてしまったっていうけれど、とても大切に手入れをしていたのがわかるもの…」
 
 他の方はここでお茶でも飲んでゆっくりなさってね、とサンディは手作りの茶菓子を用意してくれた。
 なんなら、待つ間、商品でもみせましょうか?
 と親しげに話してくれている。
 
 シグルトは一礼すると販売所を後にして工房に向かった。
 
 そこはむっとする熱気のこもった空間だった。
 
 シグルトが戸口をくぐると今まで鳴っていた金槌の音が不意に止む。
 
「…何者じゃ?
 
 わしはここに入ることを許してはおらんぞ」
 
 厳つい、見るからに頑固そうな老人であった。
 不躾にシグルトを見ると、ふんと吐息を吐く。
 
「サンディめ、また勝手なことをしおって…
 
 貴様はそこの腰掛に座っておれ。
 今は手が離せん」
 
 そういうと老人はシグルトのことは、いないものかのようにまた作業を再開した。
 
 シグルトは黙って老人の言葉に従い、その作業を静かに眺めていた。
 
 かまどの炎によってぼさぼさにちぢれた灰色の髪と立派な髭。
 眼光鋭い瞳が、太い眉の下で一心に赤く熱せられた鋼を睨み、武骨で逞しい腕がハンマーを振り下ろす。
 
 火花を散らして響く金属の声。
 
 シグルトは子供の頃に見た鍛冶屋の風景を思い出していた。
 外で皆で騒ぐ子供たちと違い、シグルトは1人で身体を鍛えたり、こうやって鍛冶屋や細工師の作業を眺めるのが好きだった。
 そこには匠と材料との会話があり、何かが形作られていく様は魔法のようだと思ったものだ。
 
 …どれくらい時間がたっただろうか。
 老人はやっとこではさんだ赤く焼けた鉄塊を、慎重に水につける。
 
 ジュッゥゥゥゥウ!!! 
 
 もうもうと蒸気が立ち上る。
 老人は取り出したそれをじっと窓にかざして見つめ、その後一心に磨き始めた。
 
 また地味な作業が続く。
 やがてその手がようやく止まった。
 
 老人は手に持ったそれを見つめ、一つ頷くと石でできた台の上に同じように置かれたものと一緒にそっと並べる。
 それはまるで子供をベッドに寝かせようとする父親のようであった。
 
「…待たせたな。
 
 最近の若い者にしては珍しいものよ」
 
 そう言って肩を叩きながら、ぎろりとシグルトを見た匠は、隙の無い足取りで側にやってきた。
 
 かつて戦士だったのだろう。
 老人の鋼鉄のような腕には、火傷や作業でついたものとは明らかに違う刀傷や鏃を引き抜いた痕があった。
 
(…この人は武具を愛している。
 
 俺のように武器をよく折る奴は嫌われるかも知れんな)
 
 そんなことを思いつつ、シグルトは名乗り、ここにやってきた理由を簡単に告げた。
 
 老人は黙って聞いていたが、その武骨な腕をぐいと前に突き出した。
 
「…折れた剣を見せてみろ」
 
 低く恫喝するような声であった。
 シグルトは、鞘に入ったままの折れた剣を差し出した。
 
 老人はそれを受け取ると折れた部分や剣の全体を丁寧に調べていく。
 いや、調べるというよりはいたわっているかのような手つきであった。
 
「…こやつの親は未熟者よ。
 
 そして前の主もそうだった。
 
 だが、鋼がちゃんと教えてくれるわ。 
 本望だったと。
 
 そして満足して役目を終えたから折れただけだ」
 
 その剣を静かに石の台に乗せると、老人は幾分優しげな目でシグルトを見た。
 
「お前は腕は未熟だが、武器に愛されている。
 
 鋼の声が聞こえるだろう?」
 
 シグルトはだまって頷いた。
 
 剣が折れる瞬間、シグルトは握っていた剣の悲鳴と、同時に主を守りきったという誇らしげな音を聞いたのだ。
 戦い続ける間、剣はシグルトに武骨な歌と頼もしい重さでいつも応えてくれた。
 握り締めるたびに呼び覚まされる勇気と力。
 だからこそ、恐れることも無く剣を振るい続けられた。
 
 シグルトがそう語ると、老人はシグルトの肩に手を置いた。
 
「…選べ、シグルト。
 
 ここに並んだ鉄の子供らはお前と同じ未熟な子供よ。
 しかし、貴様が腕を磨くうちに、その精が高まっていく。
 そしてお前と共に強くなるだろう。
 時が来たら、それをわしが磨こう。
 
 お前が鋼の声を聞き取れる限り、鍛えてやる」
 
 シグルトは、先ほどまで老人が打っていた両刃の長剣を迷わず掴んだ。
 
「かつて不倫の不名誉を負って、王国を去った最強の騎士ランスロット。
 理不尽の中で、王への忠義と王妃への愛に生きた武骨な心の英傑よ。
 
 これはその騎士の武における伴侶。
 名はアロンダイトという。
 
 お前が来たときに鍛えておったのは必然だったな…」
 
 にやり、と老人…“神の槌”と呼ばれたブレッゼンは笑った。
 
 握った武骨で黒い鉄の塊。
 
 だがシグルトはその産声と歓喜の声を確かに感じていた。
 愛おしげにその剣を撫でる。
 
「アロンダイト。
 お前の主となるために励むことを誓おう。
 
 そして生涯の友になれるように願う、幾久しく…」
 
 そっと刃に口付ける。
 
 コォォォン…
 
 震えるように啼き、その黒い刃は主の誓いを受け入れた。

 
 
 Djinnさんの『魔剣工房』です。
 
 シグルトだったので【グラム】かなぁ、とも思ったのですが、『魔剣工房』のグラムは形が曲刀だったのと、地味な戦い方をするシグルトにはあってるかな、と思って【アロンダイト】を選びました。
 
 このシナリオにはいつもお世話になってます。
 製作で武器のアイデアを出したりしたので(このシナリオの【神鳴る大斧】は私がそれっぽいエピソードを考えてでっちあげたものです)思い出深いです。
 
 最近、このシナリオで売りたい鉱石がすっかり数を減らしてしまったので悩ましいのですが。
 
 ブレッゼンの職人気質が少しでも表現できてればいいなぁ、と思います。
 
 “風を駆る者たち”も再び登場です。
 レベッカ姐さん、どこでユーグのこと知ったんでしょうかね?
 Martさん、考えてくれないかな~ ←他力本願
 
 
 今回でフォーチュン=ベル編は一旦終えて、アレトゥーザに向かいます。
 以下に今回の動向など…

 
『海賊討伐』+500SP
(ラムーナの【連捷の蜂】大活躍。ジャド撃沈)
『オーガ討伐』+500SP
 
・【知恵の果実+】売却 +1000SP
・【治癒の軟膏+】売却 +500SP


『魔剣工房』
 
・【鉄塊】(アロンダイト -2000SP シグルト)
 
 
◇現在の所持金 3131SP◇(チ~ン♪)
 
 大ポカをやらかしました。
 Martさんのパーティは“風を駆る者たち”です。
 寝ぼけてミスを致しました。
 もしまた誤字を見かけたら教えてくださいね。
 
 申し訳ありません。(平謝り+土下座)
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『冒険者の余暇』 その弐

 “風を纏う者”は希望の都フォーチュン=ベルへと向かう街道を歩んでいた。
 
 黙々と歩くシグルトの逞しい背をレベッカはじっと眺めながらついてきていたが、突然彼を追い越した。
 怪訝そうに立ち止まったシグルトに、レベッカは銀貨が詰まった袋を投げ渡す。
 
「…何のつもりだ?」
 
 首をかしげるシグルト。
 
「あんたの番、ってこと。
 
 私たちはフォーチュン=ベルで時間をつぶしているわ。
 それだけあれば貴方が満足する技が学べるでしょう?」
 
 レベッカは後ろの仲間たちに、いいわよね?と確認する。
 
「当然だね。
 
 というか、シグルトはリーダーなんだからもう少し貪欲でもいいと思うよ」
 
 ロマンがうんうんと、頷いている。
 
「シグルトもすごい必殺技を習うのね!
 
 今度見せてね~」
 
 ラムーナがニコニコと笑顔で飛び跳ねた。
 
「…おぬしの禁欲にはわしも感嘆させられたが、望まぬことも求めぬことも、必ずしも美徳とは限らんぞ?
 
 おぬしはわしらをよくまとめておる。
 だからこそ、もっと必要になるものがあるじゃろうて」
 
 スピッキオは杖で街道の石をはじき出しながら、細い目を瞬いた。
 
「皆…」
 
 唖然とするシグルトの鼻をチョン、と指先で突くレベッカ。
 
「正直、みんな腕を上げてるわ。
 
 貴方が強くなることは私たちに必要なことなの。
 ここから、あの爺さんがいる古城は近いわ。
 
 …私たちのために強くなってきなさい。
 
 そう言えばあなたは聞いてくれるでょ、シグルト?」
 
 シグルトはいつも自分のことを最後にしてきた。
 欲が全く無いわけではないが、自分が我慢すれば円滑にことが運ぶと思えば、修行僧を凌ぐほど禁欲的になれるのである。
 
 けっして豊かではないパーティの資金を節約するため、レベッカの提案を率先して行い、仲間がしたがらない決断や行動をシグルトはいつも真っ先にやってきた。
 戦闘では最も危ない前線で闘い、水不足のときはシグルトが一番少なく最後に飲む。
 
 シグルトはそれを恩着せがましく語ることなく、当然の義務とばかりにやってきた。
 仲間たちはシグルトのそういうところに一目おき、リーダーとして認めていた。
 
 各個が個性的で個人の能力が飛び出した“風を纏う者”のメンバーが見事に協力できるのはシグルトの存在あってである。
 
 だが、このリーダーはストイック過ぎる。
 仲間が皆同じことを考えていたのだ。
 
 皆がレベッカの言葉に頷いているのを見たシグルトは、いつものように苦笑して、分かった、と首肯した。
 
 
 三日後、シグルトは古城の老兵グロアの元で鍛錬をしていた。
 
 上半身裸で岩を背負い、ひたすら膝の屈伸運動をしている。
 月光に反射して汗が光っていた。
 
 グロアは一昨日突然訪ねてきたシグルトに請われるままに、剣術の指導をしていた。
 
(…大したものだな。
 
 わしがこの国の兵士にこの訓練法をさせた時は、今の半分の回数で泣き喚くか岩に敷かれてのびてしまったが)
 
 無表情のまま、グロアはシグルトの意志力に驚嘆していた。
 
(この男には甘えがない。
 
 昨夜の鍛錬の疲労もとれていまいに…)
 
 黙々と屈伸するシグルトの首筋やこめかみに血管が浮いている。
 足が、腕が小刻みに震え、食いしばった唇が切れて血が滲む。
 夜風にシグルトの身体から立ち上る蒸気が溶けていく。
 
 だが、シグルトの目は静かな落ち着きを湛えていた。
 
 グロアはこの男のような目をするものを知っていた。
 歴戦の傭兵、達人と呼ばれた武芸者…
 修羅場と絶望を経験し、そしてそこから這い上がってきた戦士たちが持つそれは、グロアが何年も戦場を駆けて手に入れたものだ。
 
 岩を持つシグルトの腕。
 いつもは手首を守るために巻いている布があるが、邪魔だからと今は外している。
 そこに見えるのは、引き攣れた痛々しい傷痕だ。
 
 肉が抉れ、膿んだのだろう。
 ケロイド状の傷痕はおそらく縄の痕。
 
「…やめよ。
 
 今夜はここまでだ」
 
 その声にシグルトは慎重に岩を地面に下ろすと、黙って立ち上がった。
 背中は背負っていた岩の凹凸でこすれて擦り傷が多い。
 
 荒い息をしながらも、シグルトはへたりこんで休んだりはしない。
 
(ふん…、へばったら喝をいれてやるつもりだったが、この男には不要か)
 
 最初シグルトが剣を学びに来たとき、グロアは自分が教える訓練の仕方はかなり厳しいものだと告げた。
 シグルトはそれで強くなれるのか一度尋ね、それからは一切質問も口答えもしない。
 
 シグルトの持つものは諦観という境地である。
 あらゆる現実を受け入れ、そこを進んでいく意志と覚悟。
 
 それは敗北、嘆き、不条理などの辛い経験を味わい、砂を齧るような思いをしてやっと至る。
 
(この若さでこんな目ができる奴がおるとはな…)
 
 グロアは優れた資質と、それを腐らせない勤勉さ、そして鋼鉄のような意志を持っているシグルトを教えるにつけ、錆び付いていた導き手としての好奇心と、わずかに湧き起こる嫉妬の情の滑稽さに厳つい頬を少しだけ緩めた。
 
(惜しむべきは、幼少のときに出会えなかったことよ。
 
 いや、もし心ができる前に出会っておれば、慢心に支配されておったかも知れんな。
 今はあらわれたせっかくの玉、磨くのみよ…)
 
 老いて鈍っていた戦士としての高ぶりを感じ、グロアはシグルトを興味深げに見つめていた。
 
 
 そこは心地よい春の日の光が差し込む巨木の下だった。
 
 シグルトは吹き抜けるそよ風を感じながら、巨木の下で柔らかな草の上に腰をおろし、飽きることも無く故郷の街を見下ろしていた。
 
「シグルト…」
 
 横からそっとかけられた声に頬が緩む。
 
 金色の柔らかな巻き毛が春の風になびいている。
 北方の民らしい雪花石膏(アラバスター)の様に白い肌。
 形のよい細い眉の下で、少し切れ長のエメラルドのように神秘的な眼差しが優しげな光をシグルトに届けている。
 紅を注す必要のない薔薇色の唇も、微笑の形に緩んでいた。
 
「ブリュンヒルデ…」
 
 万感の思いを込めて、シグルトはその娘の名前を呼んだ。
 そしてすぐに寂しげな眼差しになる。
 
「これは、夢か。
 
 未練だな…」
 
 いつもの苦笑をしながら、シグルトは娘に手を伸ばし、自分の方に抱き寄せた。
 何度も梳いた甘い髪の匂いも、その華奢な身体の柔らかさも、まだ忘れてはいなかった。
 
「…ええ、夢よシグルト。
 
 だから、目を覚まさなくてはいけないわね」
 
 からかう様な口調に、シグルトは、ああ、と頷く。
 
「でも、目覚めたくない…」
 
 そっと愛しい女を抱きしめて、シグルトは目を閉じた。
 

 一方、ここは希望の都フォーチュン=ベル。
 
 “風を纏う者”一行は、美しいこの都でシグルトを待つことにしていた。
 
 道中、どこか居心地の悪そうな顔をしていたラムーナが、またため息をついた。
 
「どうしたの…
 
 シグルトがいないとやっぱり、寂しい?」
 
 レベッカが聞くとラムーナは首を振って否定した。
 
「シグルトとはまた逢えるから平気。
 シグルトは約束は破らないでしょ。
 
 あのね、そうじゃなくて…」
 
 ラムーナはレベッカの耳元で何かを一言二言囁いた。
 それを聞いていたレベッカが目を丸くしてラムーナを見る。
 
「…もしかして!?」
 
 レベッカはラムーナをじっと見ていたが、最後には優しげな微笑を浮かべてラムーナを抱きしめた。
 
「大丈夫。
 
 それは必要だからそうなったのよ…」
 
 それを見ていたロマンが怪訝そうな顔をする。
 
「何、さっきから…
 
 ラムーナがどうかしたの?」
 
 ふむ、と頷いてスピッキオも同様に答えを求める。
 
 レベッカはラムーナの横に並んで立つと、自分の肩の位置を指差しラムーナも指差す。
 
「あっ!!!」
 
 聡明なロマンはその動作で気がついていた。
 しばらく、なんじゃ…と見ていたスピッキオも、やがて気付いたように細い眼を見開いた。
 
「…うむ、背が伸びておる!」
 
 よく見れば、ラムーナの衣装はやや窮屈そうである。
 出会った当初はレベッカの肩のあたりまでだったラムーナの背は、何時の間にかその口元の高さまで伸びていた。
 
「大きくなったわね~
 
 そういえばなんか違和感を感じていたんだけど、ラムーナ、顔も少し大人っぽくなってるわ。
 最近ラムーナをじっと見てる男共が増えたから少し変だと思ってたけど、身内同然の私たちが気付かないなんてどうかしてるわね」
 
 よく見ると華奢なラムーナの腰や大腿部のあたりが随分丸みをおびてきている。
 
 先ほどラムーナがレベッカに囁いたのは、自分が少し太ったかもしれない、ということだった。
 踊りを戦闘に用いるラムーナにとって、素早さを削ぐ体重の増加はかなり深刻な問題だから焦っていたのだ。
 
 それに貧しい生活をしていたラムーナにとって、服を新しく買うことなど考えられなかったのだが、さすがにこれだけ体格が変わってくると簡単な調整では無理が出てくるのだ。
 
「しかし、横に丸みを帯びてくるのは年頃の娘じゃから頷けるが、ここまで急激に背が伸びるものかの?」
 
 顎をさすりながらスピッキオが首をかしげている。
 
 そこでロマンが、それはね…と続ける。
 
「ラムーナって、出会った頃は少し猫背だったでしょ?
 足の怪我のせいもあって腰や足の骨格も少し歪んでいたかもしれないし。
 
 たぶん闘舞術を習って姿勢が矯正されたのと、あの踊りで必要になる激しい手足の伸縮が体格の成長を促したんじゃないかな?」
 
 体格を矯正すると、姿勢が悪いものは5cmぐらい身長が伸びることもある。
 
 加えて最近のラムーナは食欲旺盛だ。
 貧しかったラムーナは栄養不足で、年代のわりにはかなり発育不足だった。
 しっかり食事を取ることで、遅れていた体格の成長がやってきたのだろう。
 
「よ~し!
 
 私が見繕ってあげるから、服を買いに行きましょう!!」
 
 レベッカはラムーナの襟をむんずと掴むと、引きずるようにラムーナを引っ張っていく。
 心なしか目がキラキラしている。
 
 レベッカは一度だけ立ち止まって、『運命の呼鈴亭』の部屋を確保しておくから、と言い残すと、状況が分からずに目をくりくりさせているラムーナを連れて雑踏の中に消えていった。
 
「…女の人って、服とか装飾品とか好きだよね」
 
 付き合いきれないよ、とロマンは肩をすくめた。
 
 
 時の過ぎるのは早い。
 
 シグルトは2週間ほどグロアの元で剣を学んでいた。
 そしてその集大成である一つの技を試そうとしている。
 
 グロアが手に持った大量の石礫をシグルトに向かって投げつけた。
 だがそれらはシグルトの残像をすり抜けて、ばらばらと地面に落ちる。
 
 そのときシグルトはすでにグロアの喉元に剣を突きつけていた。
 
「必中にして、全ての攻撃の外に踏み出すの秘剣【影走り】。
 
 よくぞたった2週間で習得したものよ」
 
 グロアが大きく頷く。
 
 2週間、ひたすら足腰の瞬発力と腕力を鍛えるために岩をかついでの鍛錬をやり遂げたシグルトは、やや頬がこけていたものの、目の光は穏やかだ。
 
 約束の対価をグロアに手渡すと、シグルトは仲間を待たせているからとそのまますぐに旅発った。
 一つの目的を達成したシグルトを、見送るように夜が明けようとしていた。
 
 
 久しぶりに会う仲間たち。
 
 シグルトと出あったとたん、ぼろぼろね~と言ったレベッカは、ラムーナと一緒に秋に備えた服装である。
 
 シグルトすら、再会したラムーナを見て目を見張った。
 
 服装と一緒に化粧をするようになったラムーナはぐっと大人っぽく、美しい娘になっていた。
 
 もともと愛らしかったエキゾチックな彫りの深い顔立ちは、その柔らかな愛嬌をそのままに、理知的な美しさも備えるようになっていた。
 すっとひいた口紅が艶かしく、体格に合った瀟洒な新しい服は身体のラインを強調して、瑞々しい色気をかもし出している。
 柔らかに波打つ髪は丁寧に手入れされて、香油で磨かれて生まれた輝きが美しい。
 
「背が伸びて、美人になったなラムーナ」
 
 優しげな笑みを浮かべたシグルトに、ラムーナはえへへ、とはにかんでみせた。
 
「たいしたもんでしょう?
 
 ここまでお化粧できるようになるまで苦労したのよ~」
 
 そう言いながらレベッカは満足そうである。
 
「こっちもなかなかだよ」
 
 ロマンが重そうな革の鞄を、大げさにテーブルに置いた。
 
「一度やってみたかったんだ、本格的な薬の調合って」
 
 最初に取り出したそれは、この都市の交易所で売られている貴重な【治癒の軟膏】と【聖別の葡萄酒】であった。
 他にも見たことが無いようなものがいくつかある。
 
「もらったり、仕事中に見つけた薬や葡萄酒がたくさんあったでしょ?
 
 この都市にいる魔法使いのお婆さんと知り合いになってね。
 工房を借りて効果の高くてかさばらない薬を調合したんだ。
 
 買うと高いけど、使用期限が迫ってそうな道具から作ったんだからお徳だよね」
 
 そしてロマンは黄金に輝く美しい果実を取り出す。
 
「この【知恵の果実】はすごいよ。
 
 使わなくても売れば結構なお金になるし」
 
 仲間の役に立てたことは嬉しいだろうに、解説で照れ臭さを隠して、ロマンは道具の薀蓄を始めた。
 
「とっておきがこれ。
 
 年寄りも若返るって噂の秘薬なんだ。
 会心の出来だから、5回は使えるし。
 
 効果はあの貴重な【魔法薬】と同じだよ。
 
 すごいでしょ!」
 
 ピンク色の美しい液体の入った小瓶を大切そうに掲げた。
 
 シグルトはしっかりと頷いてロマンの頭を撫でた。
 
 子供扱いしないでよ~と言いつつ、ロマンは頬を緩めてされるにまかせていた。
 
「そういえば、スピッキオはどうしたんだ?」
 
 周囲を見回し、あの大きな身体を捜すシグルト。
 
「あの爺さんならもうじき来るわよ。
 
 何でも小さな信徒にお説法なんだって…」
 
 レベッカの話では、このあたりにある孤児院に通って子供と遊んだり、勉強を教えているらしい。
 
「あの爺さんのことだから、子供にも容赦なく説法するんでしょうよ」
 
 冗談めかせて首を振りながら、仕方ないわね~、という仕草をするレベッカ。
 
 シグルトは順番に仲間を見渡し、戻るべき場所に帰ってきたんだという安堵と心地よさを感じていた…

 
 
 『冒険者の余暇』その弐、いかがだったでしょうか。
 
 今回はSIGさんの『古城の老兵』とDjinnさんの『希望の都フォーチュン=ベル』での活動を中心に、スキルアップや小道具の整理をしました。
 
 今回ラムーナが可愛いから、美人になる表現をしました。
 成長と心理的な変化は一番著しいキャラクターです。
 でも、今までのお茶目な性格は健在ですので、どうぞ新ラムーナも応援してやってくださいね。
 彼女、実は白兵戦の主力になりつつあります。
 
 スキルは偉大ですねぇ。
 
 もちろんシグルトも、アクションカードが強いし、今回のパワーアップでかなり強くなりました。
 でも、3レベルまでスキルなしのリーダーって一体…
 貧乏が悪いんですよね、みんな。←いじけている
 実際はアクションカードだけで何とかなってました、シグルトの場合。
 
 実時間で、パーティ結成から今回の最後の終結まで三ヶ月ぐらいたっています。
 パーティの各員のレベルも全員3になり、戦力的にかなり強くなってきました。
 
 次回にかけてもう少しフォーチュン=ベル滞在編をやります。
 
 今回もちょっぴり出てきたブリュンヒルデ、憶えておいででしょうか?
 そう、シグルトの最愛の恋人だった貴族の御令嬢です。
 
 なんとなく分かってらっしゃる方もいるかと思いますが、シグルトとブリュンヒルデは肉体的な関係まで進んでいたカップルです。
 
 グールデンとの悶着があったころ、シグルトとブリュンヒルデは婚約していて、ブリュンヒルデの父親に結婚の許しを請いに行く直前でした。
 2人とも十代やや後半ぐらいの年齢ですが、昔は性に関して早熟でわりとおおらかだったみたいですね。
 
 性描写、露骨な、まではやらないと思いますが、洋画のベットシーン並にはやるかもしれませんので悪しからず。
 
 というか、文章にはこういう愛も必要かと。
 もちろん私は割とスケベですよ。←開き直り
 
 今回大きなデータ変動がありました。
 以下のとおり。
 
 
『古城の老兵』
 
・【影走り】(-1400SP シグルト)
 
 
 【影走り】、まだたった2回しか使えませんが、このスキルはすんごいスキルです。
 なにしろ必中+絶対回避。
 欠点は幽霊とかには効かないことでしょうか。
 ソロシナリオをプレイするとき持ってるととっても重宝します。
 でも威力より雰囲気がかっこいいのですよ、このスキル。
 
 シグルトの切札になる予定です。
  
 
『希望の都 フォーチュン=ベル』
 
消費【傷薬】×4
消費【葡萄酒】×2
消費【解毒剤】×3
消費【魔法薬】×2
 
・【治癒の軟膏+】×2
・【聖別葡萄酒+】×1
・【若返りの雫+】×1
(作るときの秘訣はわざと普通の【聖別の葡萄酒】を作ること。そうしないとアイテムの違いから練れなくなります)
・【知恵の果実+】×1
 
・【鏡】×1(-50SP)
・【火口箱】×1(-50SP)
・【ランタン】×1(-20SP)
 

 フォーチュン=ベル名物《練る》。
 やたらと傷薬や解毒剤なんかがたまってきたら練りましょう。
 売るときにお得ですし、【治癒の軟膏+】など回数5回で使いやすくなります。
 回復要員が少ないパーティは、ここで回復アイテムを揃えるのもよいですよ。
 思わずクリックしすぎて、失敗することも、いい緊張感になります。
 今回は回数を憶えてて、なんとか全部成功させました。
 
 キーコード用にちょこっと小道具も買いました。
 
 お金結構使いましたね。
 
 
◇現在の所持金 2631SP◇(チ~ン♪)
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『鳥籠を抜け出して』

 “風を纏う者”はその日、リューンから南にある都市アライスに到着した。
 
 依頼の内容は《領主の息子を守ること》。
 
 領主の息子ケヴィンは何者かに付け狙われてるらしい。
 
 ケヴィンを守り、彼を付け狙う犯人を捕らえること。
 それが依頼の全容であった。
 
 領主からの急ぎの依頼ということと、宿の亭主からの特別な頼みとあって、仕事を終えた後、強行軍でやってきた。
 しかし、リューンからアライスまでは徒歩で3日はかかる。
 
 一行がアライスに着いたときにはケヴィンは白昼堂々と誘拐されていた。
 
 まだ依頼の調印もしていないのに依頼主の領主は一行を契約違反扱いし、シグルトは即座に帰ることを決めたが、領主は都市を閉鎖し、一行はアライスから出られないようにされてしまう。
 結局、長い交渉の末に報酬をちゃんと払うという契約をレベッカがねじ込み、ケヴィン捜索を受けることになったのである。
 
 領主の私兵が虱潰しに探しても見つからなかったケヴィンと犯人を、レベッカはたった一日で発見し、一行は逃げる犯人を追い詰めてしまう。
 
 ラムーナの驚異的な足の速さによって挟み撃ちにされた3人組の犯人は、袋小路に追い込まれ、やけになったように攻撃してきた。
 
「《…穿て!》」
 
 ロマンの魔法で1人がふらふらになる。
 そこをレベッカが足払いで転倒させた。
 
 シグルトが剣の平で1人の顔面を打ち据え、吹き飛ばす。
 
 リーダー格の男も、シグルトとラムーナの連携攻撃であっという間に地べたに這うことになった。
 
「つ、強い…
 
 こいつら人間か?」
 
 最初に倒れた目つきの悪いバンダナ男が、低くうめいた。
 
「ちっ…
 
 てめぇら!
 ここは一旦引くぞ!」
 
 首領格の男は“風を纏う者”で一番華奢な体格のロマンに体当たりすると、3人で散り散りになって逃走した。
 
「ごめんね、僕じゃ押さえきれなかったよ」
 
 尻餅をついたロマンをシグルトが助け起こす。
 
 レベッカはケヴィンを気遣い、無事を確かめる。
 そして彼を領主の館に連れ帰ったのだった。
 
 
 ケヴィンを連れ帰った後、領主がケヴィンと一緒に会うというので、一行は案内された部屋に向かった。
 
「ふん…遅かったな。
 
 リューンの冒険者は優秀だと聞いていたが、所詮はこんなものか。
 わざわざ使いを出してまで依頼したのは失敗だったな」
 
 出会い頭、挨拶もせず依頼主の領主は言い放った。。
 
「随分失礼だな。
 
 粗悪なチンピラでももう少し礼節は尽くすものだが?」
 
 シグルトは腕を組むと、椅子に座ったままの領主を見下ろした。
 
「ふん、冒険者のように下賎な、しかも受けた仕事を遂行できないような“屑”に尽くす礼などないわ」
 
 吐き捨てるような領主の態度に、何と無礼な、とスピッキオが怒りをあらわにする。
 シグルトはそれを手で制した。
 
「俺たちは、貴方の侮蔑の言葉を聞くために来たのではない。
 
 この契約書にある通り、御子息を連れ戻したのだから報酬を支払ってもらうし、この都市からは失礼させてもらおう」
 
 シグルトが証書の文面を示す。
 
「報酬は払わん。
 
 出て行くならとっとと出で行くがいい」
 
 領主はそう言うと、虫でも追い払うかのように手を振った。
 
「…それは契約違反だ、領主殿。
 
 犯人は捕まえられなかったが、御子息を取り戻すことができたら、銀貨五百枚並びにアライスの閉鎖を解除する、とある」
 
 しかし、領主はそれを鼻で笑った。
 
「私は《息子を守れ》と依頼したんだ、それをおめおめと攫われ、挙句のはてに犯人を取り逃がしたそうだな?
 
 無能な貴様らに払う金は無い!」
 
 横暴な言葉にシグルトはあきれたように苦笑した。
 
「俺たちは貴方の依頼をアライスに来るまで受けた憶えはない。
 
 それを契約不履行だの、無責任だの文句を言って、城門を閉鎖して足止めしてまで御子息を探させたのは誰だったかな、領主殿?」
 
 シグルトは鋭い眼光で領主を睨みつける。
 文句を言おうとする領主を制し、シグルトは証文を突きつけた。
 
「ここにはちゃんと状況ごとに報酬を支払うよう条件が書き込まれている。
 
 支払わないなら、貴方を領主に任命している国の上層部に証書を持ち込んで請求するまでだ」
 
 それを領主は、無理だなと嘲った。
 
「それは部下が勝手に調印したものだ。
 
 私の知ったことではない。
 その部下は無能の咎で謹慎させている」
 
 ではその部下に会わせろ、というシグルトの言葉も領主は取り合わない。
 
「罪人の部下に会うことは許さん。
 
 話すことはもう無い。
 さあ、失せろ!」
 
 完全に料金を踏み倒すつもりなのだろう。
 
「…なるほど、部下の無能を見逃した貴方の失態の責任はとらないのだな?」
 
 シグルトの物言いに一同は随分溜飲が下がる思いだった。
 
「く、冒険者などというチンピラまがいの身分のくせに、口だけは達者なようだな!」
 
 ケヴィンがあまりに無礼な父親の物言いを留めようとする。
 それをシグルトは目で制すると、ぎろりと領主を睨みつけた。
 
「我々は、領主殿の部下でも奴隷でもない。
 身分を問われるのは心外だな。
 
 それと本当に口先だけかお見せしようか?
 お望みなら、領主殿を絞め落とすか殴り倒すぐらいの力は示して差し上げるが」
 
 くぅ、と領主がたじろく。
 
 シグルトたちは不敬罪を理由に逮捕されそうになったら、本気で暴れて脱出する腹だった。
 仲間内ですでにその打ち合わせを終えている。
 
 彼らがこれだけ強硬な態度でいられるのは、領主が契約を破ったという大義名分や、レベッカがこの領主の後ろ暗い行いの情報を押さえているからである。
 もっとも、本気で領主の私兵と戦闘になればシグルトたちにも犠牲が出る恐れもあるので、その反抗的な態度には、領主を牽制する意味もあった。
 
「このクズどもめっ!!!
 
 と、とにかく、貴様らに払う金は一銭もない無い。
 すぐに、この屋敷から出て行け!
 
 わしとしては、違約金をもらい、リューンまで使いをやった人件費の賠償もしてもらいたいところだぞ!
 
 それを貴様らに払う報酬で相殺してやったのだ!
 これ以上いちゃもんをつけるなら、衛兵を呼び、貴様らを牢にぶち込むぞ!」
 
 その言葉にレベッカがすっと前に出た。
 
「結構。
 
 別にあんたみたいな耄碌じじいから金を取ろうなんて思ってないわよ、私たちは。
 
 ただし憶えておきなさい、アライスの領主殿…
 
 我々真っ当な冒険者は、あんたみたいな酷い奴の依頼は受けないわ。
 貴方が私たちにした仕打ちは、あっという間に冒険者たちに伝わるでしょう。
 
 今後冒険者を頼ることがあったとしても、ほとんどの真っ当な冒険者の宿は貴方の依頼を拒否するでしょうし、貴方がどんな大金を積んでも、受けに来るのはただのチンピラか金の亡者よ。
 
 私たちは仕事にそれなりの仁義を持って当たるわ。
 その仁義に裏切りと不誠実で応え、私たちを侮辱したこと…絶対後悔するわよ」
 
 それ以上話すことはないというふうに、“風を纏う者”は領主の前から去って行った。
 
 
 結局夕刻を過ぎていたのでアライスに宿を取り、“風を纏う者”は休むことになった。
 
「しかし、驚いたの。
 
 レベッカのことじゃから、絶対に金を払わせるかと思ったのじゃが」
 
 スピッキオが、まあ、あれはあれで愉快じゃったがの、と続ける。
 
「ふふん、この私がただで泣き寝入りすると思う?
 
 あの領主の情報を売るなり、領主の反勢力に屋敷の見取り図の写しでも売りさばいて、旅費と食費と宿代と『小さき希望亭』のツケ分はせしめてやるわよ。
 ま、あんなむちゃくちゃなじじいから金もらって恩を売られるくらいなら、子供から銀貨一枚のお使いを受けたほうがまだいいわ」
 
 レベッカは今回の依頼が特別なつながりから無理に頼まれたことや、あまりに高い報酬額から、どうも怪しいと仲間と別行動で調査を行っていたのである。
 
 一行は無茶な契約内容を持ってきた領主の使いを糾弾し、それを受けないと宿の名声や信頼が傷つくことを避けるために、いろいろな手を打っていた。
 
 そしてこの都市に来て領主の態度から、報酬は回収できないとさとったレベッカは、無報酬だと割り切った上で、アライスの領主が二度とまともに冒険者を雇えないように仲間と一芝居打ったのである。
 
 あとレベッカは、しっかり屋敷に忍びこんで、金になりそうな情報を仕入れていた。
 
 普段はこんなことは面倒くさがってしないのだが、最初にこの都市に来たときの領主の態度がよほど頭にきたのだろう。
 
 一行は一見無報酬だった今回のことを、和気藹々といった様子で話している。
 強引な依頼主に泣き寝入りする冒険者たちも多い中、このように報酬をふいにして言いたい放題言うパーティは珍しいだろう。
 
 シグルトたちもそろそろ後輩を持つパーティである。
 後輩が泣かないように、酷い依頼主はふるいにかけて宿の親父に情報を渡しておく。
 ほとんど金にならないことだが、こういう地味な仕事をやっている冒険者はその分仕事に誠実であり、金だけで動かないという“評価”を得るのだ。
 
 それが後の仕事につながり、優れたコネクションを得るきっかけになるということを、シグルトたちは優秀な先輩冒険者から聞いて知っていた。
 
 それに“風を纏う者”のはレベッカがいる。 
 彼女のすごいところは、どんな失敗や敗北も無駄にならないようにできることである。
 
 “風を纏う者”は生活のためだけに結成した当時のものから、誇りと自由を重んじる冒険者パーティに変わりつつあった。
 
 仲間の名誉を重んじる武勇に長けたリーダーのシグルト。
 巧みな交渉術と生存術でパーティの維持を可能にするレベッカ。
 子供とは思えない知恵と知識で困難に答えを見出す賢者ロマン。
 パーティを常に明るい雰囲気に保つムードメーカーのラムーナ。
 宗教知識と聖職による信頼を持つ老獪な司祭スピッキオ。
 
 一行に共通していることは、皆仲間を大切にし、それなりの誇りと仁義を重んじるようになったことだろう。
 
 シグルトたちはチンピラ扱いされることも多い冒険者である。
 だからこそ、その不名誉に甘んじていないで、自分たちの持つ信念を示すことができる冒険者になろうとしていた。
 その高潔な考えが、彼らの冒険者としての確固たる地位を築くことに繋がっていた。
 
 そして、その誠実なやり方も依頼主に高い評価を受けているのである。
 
 結成してまだ数ヶ月という“風を纏う者”であったが、すでにプロの冒険者として認められつつあった。
 
 
 “風を纏う者”が領主の話で盛り上がっていると、宿に男が入ってきた。
 
「…やっぱりこの宿にいたのか。
 
 この街で冒険者を泊めるような宿は他にねぇからな」
 
 宿に入ってきて話しかけてきた男は、先ほどの誘拐犯のリーダーだった。
 
「なんだ、お前か。
 
 もうあの領主と俺たちは無関係だから、お前たちを追う気は無い。
 …気をつけないとあのへぼ領主の手先がかぎまわってるかも知れんぞ、気をつけるんだな」
 
 シグルトはさらりと言って男を驚かした。
 
「あんたら、驚かないのか?
 
 いや、あいつが言ってた通り型破りというか…」
 
 複雑な表情をしたその男は、ティコと名乗った。
 
「ここに来た用は…他でもねぇ。
 
 お前らに仕事を頼みてぇってやつがいるもんでな、連れてきてやったんだよ」
 
 内密の話らしく、ティコは一行の泊まっている部屋で話すことを望んだ。
 
 
 一行の部屋に入るとティコはまず頭を下げ、先ほどの戦闘のことを詫びた。
 
 そのとき、廊下に足音がして、誰かが一行の部屋の扉をノックした。
 
「来たみてぇだな」
 
 ティコが招き入れた人物はケヴィンだった。
 
「な~る。
 
 なんとなく読めたわ。
 貴方たちを追いかけたとき、彼が全く抵抗したり嫌がってる様子が無かったけど、あんたたちはグルで、今回の事は狂言誘拐ってところかしら?」
 
 レベッカの読みにティコとケヴィンが目を丸くした。
 ほぼその通りだったのである。
 
 ケヴィンはポツリポツリと、今回の騒動のわけを話し始めた。
 
 悪辣で強引な性格の父親。
 家を継ぐことを強要され、それが嫌になっていたこと。
 自分が何を言ってもおそらく聞いてくれない父親に愛想が尽いたこと。
 ケヴィンはそんな父の元から逃げ出したかったということ。
 そして今回の《誘拐》騒ぎは父の元から逃げ出すためにうった芝居だったこと。
 
 付け足すようにティコがいう。
 ティコは個人的に領主に恨みを持っていた。
 領主の鼻をあかしてやりたいという考えもあったらしい。
 
「俺はこの街の貧民街で生まれ育ったんだが…
 
 俺が七つの時、あのクソ領主が貧民街に火を放ったんだ」
 
 悔しそうに言うティコ。
 
「たしか、貧民街で強引に囲ってた女性が身ごもったから、殺して丸ごと隠蔽するためにやったって話よね?」
 
 あんた何でも知ってるんだな、と半ば呆れ顔でレベッカを見つつ、ティコはその通りだ、と頷いた。
 
「その事実をティコから聞かされたときはショックでしたよ…

 そして僕の父への不信感は、どうやっても拭いきれるものではなくなったんです。

 これ以上あの父の元にはいたくない。
 子供じみた衝動に思われるかもしれませんが、僕は耐えきれなかったのです」
 
 ケヴィンはそこまで一気に言うと、一呼吸置いて姿勢を正した。
 
「そこで、です。
 ここからが本題になるのですが…

 皆さんには新しい作戦に協力して頂きたいのです」
 
 神妙な顔で言うケヴィンに皆が注目する。
 
「皆様もお気づきかとは思いますが、この街は城塞都市。

 門をくぐらなければ街から出られません。
 ですが…

 貧民街の南側に、城壁が崩れているところがあるのです。
 そこを通れば、門を通らなくてもアライスを出ることが出来ます」
 
 そるとティコが補足するように身を乗り出して語り出す。
 
「但し、ここに一つ問題がある。

 ケヴィンが屋敷を抜け出した事はそろそろ領主も気付きやがるだろう。
 そうなってくると、恐らく街中を虱潰しに探されちまう。

 問題の抜け道も封鎖されてる可能性が高い。
 で、お前らにやってもらいてえのは…」
 
 要は、件の抜け道にいる衛兵を退け、強行突破を手伝ってほしい、という依頼であった。
 報酬は銀貨六百枚である。
 
 ケヴィンとティコは揃って深々と頭を下げた。
 
 黙って聞いてたシグルトは、仲間を見回す。
 
「今回はこの仕事の前振りだったと思えば損はないだろう。
 
 どうせ、この2人が見つかるまでは門は閉じられて、あの忌々しい領主から離れられなくなる。
 俺はこの依頼を受けて、すぐにでもこの都市を脱出したいが、皆はどうだ?」
 
 それにロマンが頷く。
 
「あの失礼な領主を困らせると思えば、なかなか好い仕事だよね」
 
 ラムーナもうんうんと大きく頷いている。
 
「お前のもくろみ通りじゃの、レベッカ。
 
 あの領主、絶対後悔するじゃろうて」
 
 スピッキオがにやりと笑ってみせる。
 
「当然ね。
 
 2人とも、安心なさいな、この依頼は受けてあげる。
 
 あのじじいがいるこの街からは、すぐにおさらばよっ!」
 
 レベッカはウインクして笑ってみせる。
 
「あ、ありがとうございます…!!!」
 
 何度も礼を言うケヴィン。
 
「そうと決まれば…行くぞ。
 
 今は少しの時間も惜しいからな」
 
 ティコが急かすように言う。
 
「では、これから貧民街に真っ直ぐ向かえば良いのじゃな?」
 
 スピッキオが聞くとティコとケヴィンは顔を見合わせた。
 
「いえ…

 地上を歩いていくとなると見つかる危険性が高まります。
 なるべく見つからない場所を通って行こうかと」
 
 ケヴィンが遠慮がちに言った、その言葉の間に、一行は嫌な予感を覚えていた。
 
 
 一行は隠れていくために地下、すなわち下水道を通ることになった。
 
「臭いな…」
 
 吐き気を催す異臭に顔をしかめつつ一行はグネグネと曲がった下水道の中を、鼠や蝙蝠と戦いながら南下していった。
 
 その途中、ケヴィンはシグルトに何故冒険者を続けるのか、と聞いた。
 
「そうだな。
 
 最初は生きるために選んだ。
 自分の腕だけで生きていくつもりだったよ。
 
 でも今は…好きだからだな。
 嫌なことはたくさんあるけど、仲間がいて一生懸命生きてる。
 
 いろんな出会いがあって、自分たちで道を切り開く。
 生き方そのものが好ましいんだ。
 
 曲げずにいたい自由な意思と仲間がある。
 それが今の俺の誇りなんだ」
 
 爽やかに微笑むシグルトを、ケヴィンはまぶしそうに見つめた。
 
 
 下水道を出た一行は、ひたすら目的地向けて言葉も無く走り続けた。
 そして件の裂け目に着く。
 
 し予想通り、そこには屈強な衛兵が三人いた。
 
 こちらを捕らえようと向かってくる衛兵に、一行は迎え撃つ構えを取った。
 
「ロマン!」
 
 シグルトは剣で1人の衛兵の身につけている金属の脛当ての上から強打し隙を作る。
 そこにロマンの唱えた魔法が炸裂し、一体は壁に叩きつけられて気を失った。
 
 ラムーナが後ろ回し蹴りで衛兵の1人の延髄を強打する。
 ふらついたその衛兵にケヴィンが体当たりをして気絶させた。
 
 ラムーナの返す足がシグルトの剣で押しやられていた衛兵の股間を強打し、最後の衛兵も昏倒する。
 
「やっぱ、強いな、あんたら…」
 
 ティコが目を丸くしている。
 
「あの銀貨六百枚の投資は間違いなかったわね。
 
 ラムーナのダンスは最高よ!」
 
 最近の闘いでは闘舞術を習得したラムーナの活躍が素晴らしい。
 レベッカはこの娘が愛らしくてしっかりと抱きしめた。
 
 ちょっと嬉しそうにラムーナがはにかんでいる。
 
「さて、他の衛兵が来ないうちに脱出しよう」
 
 抜け穴に向かおうとする。
 
「待て!」
 
 それを止める者がいた…この都市の領主である。
 
「そこまでだ、ケヴィンは返してもらおうか。
 
 ケヴィンはわしの後を継ぎ、このアライスを治める身。
 貧民街に巣食う貴様が近づいていい人間ではない!」
 
 領主はケヴィンと並んでいるティコを睨みつけた。
 侮辱の言葉に、ティコが目を剥いて拳を握り締める。
 
 そして領主は蔑んだ目で冒険者を見る。
 
「…それにそこの汚らわしい冒険者ども!
 わしから金が取れないとなったらケヴィンの誘拐の手助けか!
 
 どこまでも金に汚い奴らめ!」
 
 シグルトたちは冷めた目で、がなっている領主を見ていた。
 
「もう…

 もうやめてください!!」
 
 耐え切れなくなったケヴィンが叫んだ。
 
 いつでも領主を殴り倒して脱出するつもりだった一行は、暴走しそうだったティコを留める。
 
「やめろだと?
 
 何をやめると言うのだ。
 ケヴィン、お前はまさかこの汚らわしい誘拐犯の肩を持つつもりでは…」
 
 驚いた顔で領主がケヴィンを見つめる。
 
「汚らわしいのはどちらですか。
 
 己が全て、他人の事など人間とも思わないような父上の方が僕から見れば余程汚らわしい!
 僕は全部知っているんです!

 アライスの人々を虐げ、自分だけが得をするような悪政を敷いて来た事も!
 自分の立場を守るために、貧民街に火を放ったことも!」
 
 ケヴィンの言葉は、まるで胸に溜め込んでいたものを吐き出すようだった。
 
「ケヴィン、お前、何故それを…」
 
 領主の表情に動揺の色が走る。
 しかしケヴィンは止めることなく言葉を続けた。
 
「僕に対してもそうです。
 
 あなたは僕を《自分の後継者》としか思っていなかった。
 僕の意思を尊重してくれた事など一度もなかったでしょう。
 
 もううんざりなんです。
 父上にも、アライスにも、決められた道しか歩く事ができない自分自身にも…。
 
 僕は父上のようにはなりたくない。
 僕は《僕》なんです。
 
 …領主の地位というのは、罪を犯してまで守るべきものなんですか?
 仮にそうだとしたら僕はそんなものには興味はありません。
 
 これ以上…
 そんな些細なものにしがみついている人を自分の父だとは思いたくありません。
 
 この街にいる以上それが避けられない事だから…僕はアライスを出る。

 ただそれだけのことです」
 
 そこまで言い切ると、ケヴィンは領主に背を向けた。
 
「それでは…

 さようなら、父上」
 
 ケヴィンが一足先に抜け穴に向かい、ティコがその後に続く。
 
 続く冒険者たち。
 
「親の心を子は知らず…
 
 まあ、おぬしの場合は子供の心を知らなかったようじゃがな」
 
 スピッキオは悠々と領主の前を通り過ぎる。
 
「あのね、あんまり怒ってると禿げちゃうのよ」
 
 気をつけてね~とラムーナが駆けていった。
 
「可哀想だから一つ教えてあげるよ。
 
 おじさんのやった悪いことの中に、他の都市の領主たちを怒らせることたくさんあったよね。
 最近証拠つきでいくつかの大都市にその悪事がばれたみたいだから、これから糾弾されるかもしれないよ。
 
 おじさんみたいに領主って強欲な人が多そうだから、これを機会に攻められるとか、王様に訴えておじさんから領地没収とか、されそうだよね」
 
 首切られないように気をつけてね、とロマンが続く。
 
「言ったでしょ、絶対後悔するってね。
 
 私たちは依頼を受けてやっただけ。
 ケヴィン君は報酬を払ってくれる分、あんたよりはるかに好い依頼主だったけど。
 
 あんたのところ、私たちも居心地が悪かったけど、彼にはもっと悪かったんでしょうね。
 まあ、身から出た錆よね~」
 
 レベッカは舌をだしてあかんべえをすると去って行った。
 
「別に追って来てもかまわんぞ、領主殿。
 
 敵になる刺客は倒すだけだ。
 
 それに俺たちが持ってる証文はあんたの不正を証明できる。
 俺たちに払うはずだった報酬の数倍を役人に貢いでも、俺たちに臭い飯を食わせることは無理だろうな。
 
 あと、あんたが何をしようがもうケヴィンは戻らん。
 人は心に譲れないものを持つことがある。
 
 誇りと自由だ。
 
 あんたに教えられなくてもケヴィンはそれを手に入れたんだ。

 ケヴィンは巣立っただけだ。
 俺たちは閉じ込められていた雛鳥に応えただけだよ」
 
 シグルトは剣を鞘に収めると、最後に抜け道をくぐった。
 領主は何事か叫んでいたが、もうこの男の言葉を聞くものはいなかった。
 
 
 アライスを抜け出して、暫くは誰も何も言わないまま歩き続けていた。
 誰も口を開くことなく、黙々と。
 
 そしてやがて、一行の前には橋が見えてきた。
 この橋を渡ると大きな街道がある。
 
 橋の手前で、不意にケヴィンが立ち止まった。
 
「…皆さんは、どちらに向かうのですか?」
 
 シグルトはしばし考える。
 
「そうだな…
 
 あちこち経由してフォーチュン=ベルあたりで一仕事か。
 あとは南に来てることだし、西の街道を回ってアレトゥーザに行ってもいいな。
 
 もう少しアライスから離れて、街道の分かれ目で決めるよ」
 
 宿の親父には、お前ら留守が多いぞ、とよくぼやかれる。
 
「…そうですか。
 では、僕は南に向かう事にします。
 
 皆さんのお仕事はここまでです。
 
 僕はこれから…自分で歩き始める事にします。
 この分かれ道が、丁度いいお別れのきっかけですね」
 
 ケヴィンが差し出した手をシグルトは一度強く握って、彼の肩を励ますように、ぽんっと叩いた。
 
「俺はケヴィンについていくからな。
 
 どうせ俺もアライスには戻れねえし。
 一人旅になるよりゃ、連れがいたほうがいいんじゃねえの?
 
 ケヴィンも俺も、お互いさ…」
 
 後ろでにやりと笑ってティコが言う。
 
「…どうぞ、ご自由に。
 
 ティコが決めた事ならついてくるなとは言えませんからね、僕には」
 
 やれやれという風にケヴィンは頷いた。
 そして互いに橋を渡ったら別れようと心に決める。
 
 ケヴィンは報酬の銀貨六百枚を一行に差し出した。
 先ほど下水道で拾った一枚を放り込んで財布の紐を締めるレベッカ。
 
「そういえば、ケヴィン。
 
 おぬしはこれからどうするんじゃ?」
 
 スピッキオが細い目を少し開いて尋ねる。
 
「…僕、ですか?」
 
 ケヴィンにうむと頷く。
 
「下水道では、巡礼の旅に出るなどと言っておったな。
 
 もしそうなら少しは導いてやれれば、と思っての」
 
 ああ、とケヴィンは思い出したように手を打った。
 
「…そんなことも言いましたね。

 ですが、気が変わりました」
 
 頭を振ってケヴィンは一度シグルトたちを見回した。
 
「僕、冒険者になろうと思っています。
 
 今まで僕は、自分でその生き方を決める事が許されなかった…
 でも、ようやくその権利を手に入れたんです。
 
 それならば、自分にしか出来ない誇りを持った生き方をしてみたいんです」
 
 ケヴィンの瞳は眩しそうにスグルトに向けられる。
 
「こんな話を知っていますか?

 鳥は、生まれて初めて見たものを親だと思う、と」
 
 ロマンが、すり込みのことだよね、という。
 
「僕はずっと鳥籠の中に閉じ込められてきました。
 外の世界を見ることなく。

 その僕が鳥籠を抜け出して初めて見たものが、皆さんだった。
 
 皆さんを見て、その生き方を目標にしたいと思った…子供じみた理由かもしれませんが」
 
 そういった横ですねた様にティコが呟く。
 
「…俺はどうでもいいのかよ。

 ま、俺も暫くはケヴィンにくっついていってみるわ。
 《俺なりの生き方》が見つかるまではな」
 
 そんなティコを、ケヴィンは苦笑して見つめた。
 そしてシグルト以外の冒険者とも握手する。
 
「次に会うときには、お互い《冒険者》として会えたらいいですね」
 
 そう言ったケヴィンに、それは違う、とシグルトが頭を振った。
 
「《冒険者》は、《冒険者》だって心に覚悟を決めればなれる。
 
 ただし、命がけで危険な仕事だ。
 俺に言えることは、頑張れというぐらいだが…
 
 もし行き先が交わることがあったなら、きっとまた逢おう」
 
 そういってシグルトは強く頷いてみせた。
 
「もし南にいくなら、アレトゥーザの『悠久の風亭』に行きなさい…好い宿よ。
 
 リューンなら私たちの『小さき希望亭』か、他に『風の旅路亭』にも優秀な冒険者が集まると聞いたことがあるわ。
 留守ばかりだけど、リューンに来ることがあったら私たちの宿にも顔を出してね。
 
 …エールの一杯ぐらいは奢ってあげるわ」
 
 そういってレベッカは軽くウインクして、ケヴィンの手に旅装一式が入った袋を渡した。
 
「お古だけど、ちゃんと手入れしてあるから充分使えるわ。
 
 私たちはフォーチュン=ベルあたりで補給するから気にしないでね。
 また逢いましょう」
 
 ケヴィンはその言葉に力強く頷き、そして…しっかりとした足取りで歩き出した。
 
 ティコはひらひらと一行に手を振りながらその後に続く。
 
「まーたーねー!!!」
 
 ぶんぶん手を振ってラムーナが別れを惜しむ。
 
 ケヴィンは振り返り、大きく頷いてこちらに手を振っている。

 冒険者たちはその背中が見えなくなるまでずっと見送っていた。
 
 そしてシグルトたちも自分たちの行く街道を確認する。
  
「さあ、旅立とうよ。
 
 まだ知らない冒険をするために…」
 
 ロマンが最初に歩き出す。
 
 “風を纏う者”は優しく絡む新しい風を感じながら、また歩み出した。

 
 
 あんずあめさんの『鳥籠を抜け出して』です。
 
 たまには新ものを、ということで、UPされたその日にリプレイをしようとやってみたシナリオです。
 
 私のリプレイはPCの性格を表現するために、かなり内容をかえて文章にする場合があります。
 今回も、本来なら駆け出しの冒険者が領主の横暴なやり方で泣き寝入りするところ、別物に変えて表現してます。
 こういうの気に入らない方、御容赦くださいね。
 
 でも、レベッカがかなり細かく手を回し、きちんとした確約をとって行動してますが、これがプロらしい冒険者だと思います。
 
 あと領主に対して「あんたの依頼を受ける冒険者がいなくなる」という脅しをレベッカがしていましたが、信頼商売である冒険者にあまりに不誠実なことをすれば、当然その依頼主はやばいと総スカンにされるでしょう。逆も然りということです。
 
 冒険者の宿は依頼料の一部を納めてもらうかわりに、冒険者を斡旋するわけですから、その職員をないがしろにするような依頼人はブラックリストにおそらく載せておくでしょう。
 
 それに、こういうことをされれば冒険者は酒を飲みながら噂を振りまくでしょうから、そんな依頼主から依頼を受ける冒険者は少ないはずです。
 
 依頼人のなりや情報から、依頼を受けるかどうか考えることは、世知辛い冒険者の中で生き抜くために必要だと思います。
 
 とまあ、冒険者の仁義やら仕事を請けるためのポイントなど表現してみた今回はいかがだったでしょうか。
 
 
 それなりに評価できるシナリオだと思います。
 ダンジョンや微妙な会話の結果などよくできていますし、さっとプレイでき、下水道のアイテムやお金など出し方がよかったです。
 
 ただ、下水のモンスター出現率は高すぎかもしれません。
 
 
 今回は以下のものを手に入れました。
 下水道、侮れませんね。
 
入手アイテム 

・【指輪】×1
・【魔法薬】×1
 

お金
 
・拾い物 +1SP
・報酬 +600SP
・指輪売却 +50SP
 
 
◇現在の所持金 4151SP◇(チ~ン♪)
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『教会の妖姫』


 シグルトたちが久しぶりに宿でくつろいでいると、ふと新しい張り紙に気がつく。
 それは宿の親父が出した、依頼書だった。
 
「親父さん、この張り紙って?」
 
「ああ、北のラーデックまでお使いを頼もうと思ってな。
 
 ちょっと待ってろ…」
 
 親父の依頼というのは、親父の祖父が使っていたという古い煙草用のパイプを、宗教都市として有名なラーデックに住む友人に届けるというものだった。
 親父の友人というのは、ラーデックで『猫の額亭』という宿を営んでいるらしい。
 無類の煙草好きで、、件のパイプはいつか譲るという約束だったのだそうだ。
 
「報酬なら、届け先の親父からたっぷりふんだくってくるといい…」
 
 無責任な依頼ではある。
 だが、普段から宿代のツケや荷物の管理で世話になっている親父の依頼である。
 
「俺はいいと思うが、皆はどう思う?」
 
 シグルトは必要でない限りは必ず仲間を優先する。
 シグルトの指揮官ぶりは板についてきており、親父も頼もしく思うようになっていた。
 
(おそらく次代のエースとして活躍してくれるだろう。
 
 惜しむらくは人数としてもう1人ぐらい、仲間がいると良いんだが…)
 
 剛勇で豪腕の剣士シグルト、交渉上手のやり手盗賊レベッカ、慎重派で賢明な魔術師ロマン、優しくムードメーカーの軽戦士ラムーナ、理知的で気骨のある僧侶スピッキオ…
 
 バランスも良く、的確に依頼をこなしている彼らは、一部の行商人や村ですでにそれなりのコネクションをつくり、宿の名を売ることに貢献し始めていた。
 
 『小さき希望亭』の“風を纏う者”は誠実な仕事をする…
 
 宿としては実に嬉しい評価である。
 親父としては見込んだ甲斐があるというものだ。
 
 ふと彼らのことを考えて、ぼーっとしていたことに気付き、あらためて“風を纏う者”を見ると、一行は話をまとめつつあった。
 
「私はかまわないわよ。

 今はそれなりに貯金にも余裕があるし、ちょっと遠出して新しい人脈を作っておくのもいいんじゃない?
 親父さんの友人で宿の主人ってぐらいなんだから、その宿も『冒険者の宿』なんでしょ?」
 
 さすが、と親父は思う。
 レベッカは手先だけでなく、こういうことに聡い。
 
「僕も興味があるね。
 
 ラーデックは歴史のある都市だっていうし、行ってみて見聞を広げるのもいいと思う」
 
 ロマンは勤勉である。
 
「新しい町?
 
 うんうん、行こう!」
 
 ラムーナはこういう時とても協力的で助かる。
 
「ふむ、ラーデックか。
 
 聖北の重要な巡礼地じゃ。
 行くのであれば、是非あそこの教会には寄らねばのう」
 
 全員賛成だな、とシグルドはこの依頼を受けることを親父に告げた。
 
 
 数日の道のりを経てラーデックに着く。
 
 シグルトたちはまず、親父の依頼を果たすことと宿の確保のため、『猫の額亭』に向かった。
 洒落でなく、その宿の中は狭い。
 大柄のスピッキオなど窮屈そうだ。
 
「いらっしゃいませ!」
 
 元気な声で迎えてくれたこの宿の従業員らしき娘が、シグルトやロマンを見てぽぅっとなる。
 美丈夫と美少年が一緒なのだ、年頃の娘ならそれなりの興味をもつだろう。
 
「いらっしゃい。
 
 何か御用かね?」
 
 宿の主人らしき人物が声をかけてくる。
 パイプを咥えたまま…この人物に違いない。
 
「あなたがこの宿の御主人だな?
 
 俺たちは“風を纏う者”。
 『小さき希望亭』を中心に仕事をしてる冒険者だ。
 
 あそこの親父さんに頼まれて、届け物をしに来たんだが…」
 
 シグルトが簡潔に要点を伝え、パイプの入った箱を親父の前におく。
 親父は中身を確認し、満足げにパイプをしまうと、銀貨が詰まった袋を出して冒険者たちをねぎらった。
 
「…うん、銀貨五百枚。
 
 届け物の依頼としてはまずまずね」
 
 レベッカがきちんと銀貨を数えてしまいこむ。
 
 親父に宿を頼むと、遠路はるばる来た友人の知り合いだから、とこの一晩は無料にしてくれた。
 もちろん今後ラーデックに来たときは、是非この宿を使うように言い含められたが。
 
 適度に重い荷物を預け、身軽になった冒険者たちは都市の散策に出ようと扉を開ける。
 
 すると2人の若者が息を切らせて宿に入ってきた。
 
「あら、アルにトビーじゃない…」
 
 16、7歳だろうか。
 一方は少し華奢な感じの美男子だ。
 上品な服装からしてそれなりの家のお坊っちゃんだろう。
 
 もう1人はそばかすが目立つ、ごつい剣を背負った粗野な感じの少年だ。
 対照的な2人組みである。
 
「………」
 
 2人は、エマというらしいさっきの従業員の女の子に話をしていたが、彼女がこちらを指差すと声をかけてきた。
 
「こんにちは…冒険者の方々ですよね?」

 華奢な美男子の方が依頼をしたいと、続けた。
 
「…どうする?」
 
 シグルトが一応という感じで皆に確認する。
 とりあえず話を、ということで一行は狭い宿の奥の一角を陣取った。
 
「僕はアルフレート。
 この町の領主ウィルヘルムの息子です。
 
 で、こっちはトービアス…幼馴染です」
 
 
 アルという少年の依頼はリアーネという少女を探すことだった。
 報酬は銀貨一千枚。
 
「まあ、旅先のコネ作りってところでいいんじゃない?」
 
 調査は得意なレベッカである。
 高額報酬の依頼であるし、聞けば領主の息子だという。
 
 一同は旅の疲れがそれほどでもないということもあってか、急かすアルたちを伴って調査を始めることにした。
 
 
 聞き込みをしつつあちこちを探索するがあまりこれといった情報は得られなかった。
 
「とりあえず、その娘とアル君が会ったところにいってみようか…」
 
 レベッカの提案に従い、一行は不可侵とされる教会の『聖園』に向かった。
 
 3mはあろうかという塀に囲まれたそこは、どうやって入っていいのか見当すらつかない。
 アルフレートにどうやって入ったか尋ねると、茂みの向こうにある50cm四方の小さな穴が開いている場所を指し示した。
 
「むう、わしにはちと狭いのう」
 
 スピッキオがうめく。
 華奢なアルフレートなら平気だろうが、体格の大柄なシグルトたち男性2人にはちょっとつらいサイズの穴である。
 
 一行は聖域にこんなところから進入するアルフレートの行動力にあきれていたが、意を決してトービアスが穴に向かう。
 
 ゴッ!
 
 突然鈍い音がしてトービアスが吹き飛んだ。
 
「な、何をしやがる!」
 
 激痛にうめきながらトービアスが怒りの視線を向けた。
 
 そこには横幅だけならスピッキオよりも立派なごつい体躯を僧服に包んだ大男が立っていた。
 
 男はさらに文句を言おうとするトービアスを問答無用で打ち据えた。
 金属製の鎚矛(メイス)という打撃武器でだ。
 
「…その塀の向こうは聖園と呼ばれる区域だ。お前ら庶民が入っていい場所ではない」
 
 高慢そうなその男は自分の言葉に酔ったように言う。
 
「だ、だからって…ここまでする必要はないだろう!?」
 
 トービアスに駆け寄っていたアルフレートが抗議の声を上げる。
 
「おや、異端審問官たるこの私に逆らう積もりかね?なんという罰当たりな…」
 
 大男は凶暴な表情を浮かべ、アルフレートに歩み寄ろうとする。
 
「…罰当たりはおまえじゃ。
 
 聖なる場所を薄汚いそれで、血に染めるつもりか?
 異端審問官が聞いてあきれるわい」
 
 間に入ったのはスピッキオだった。
 司祭の僧服を着ているスピッキオを見て、大男の歩みがとまる。
 
「む?
 見かけぬが、その僧服は…」
 
 眉をひそめる大男に、さらにあきれたようにスピッキオは言う。
 
「ふん、異端審問を語るものがこの体たらくか。
 
 わしは聖海教会の司祭じゃ。
 そんなことも判らず、威張るでないわ。
 
 これ以上の暴挙はわしの名と聖職をもって、断じて許さぬ。 
 わしがこの都市での異端審問官の権限を知らぬと思うのか?
 おまえのやっておることは明らかに越権行為じゃ!!!」
 
 スピッキオの一喝に一瞬怯み、真っ赤になって怒りを顕にした大男だが、一言二言捨て台詞を言うと去っていった。
 
「うぐぐ…」
 
 トービアスが呻いている。
 すぐにスピッキオが癒しの秘蹟を与えるが、傷が重かった。
 
「…ひどい奴だな、警告もなしに鎚矛で殴打するなんて」
 
 シグルトがトービアスを背負う。
 
「…ひとまず宿に戻りましょ」
 
 レベッカの言葉に頷くと、一行は『猫の額亭』を目指した。
 
 
 宿に戻った一行はわけを話し、トービアスを休ませる。
 
 一時間後、いくらか腫れの引いたトービアスは気がついたあと、猛然と怒りをあらわにした。
 
「あの野郎…ぶっ殺してやる!
 
 あ、いてててて…」
 
 慌ててそれをアルフレートとエマがとめている。
 
「それにしてもあの大男、やりすぎだよね」
 
 ロマンが一同に同意を求める。

「大男?」
 
 何か心当たりでもあるのか、宿の親父が怪訝な顔をした。
 一行がわけを話すと、親父は納得したように頷いた。
 
「なるほど、そいつはたぶんバルドゥアだな。
 奴に関しちゃいろいろとよくない噂を聞いている」
 
「なんじゃと!?
 
 …あの鬼畜か!!!」
 
 スピッキオが知っている風だった。 
 
「去年の秋ごろから教会に出入りしてるらしいが。
 
 聖職者とは思えないほど乱暴な男でね…知ってるのか」
 
 スピッキオは苦々しい顔で頷いた。
 
「…悪名高い極悪人じゃ。
 
 役職をかさに着て、強姦に殺人、挙句は罪のない結婚目前の娘を魔女の疑いで捕らえ、拷問し殺してしまったんじゃが…
 平然と正義を遂行した、などとほざいた外道じゃ。
 
 本来異端審問官は宗教内における問題の調停や神前裁判などのために調査を行う調査官にすぎぬ。
 
 倒すべき相手が《吸血鬼》や《悪魔》といった強大な力を持った恐るべき異端である場合にそれを討滅する、特別な聖務を授けられる機関が存在すると聞いたことはあるが、の。
 異端審問官が所属するのは、それとは完全に別の組織なのじゃ。
 
 審問官自体に拷問や裁きを行う権限などない。
 
 奴のやったことは越権どころか、異端にも劣るわい!」
 
 スピッキオはバルデゥアの悪行の数々を苦々しく語った。
 それは人間の行為とは思えないほど聞くに堪えない話であった。
 
「なんでそんな男を教会に置いているのか…エルンスト様の真意を計り兼ねるよ」
 
 親父も眉をひそめた。
 
 その後、トービアスの回復を待ち、一行はまた調査に乗り出した。
 
 
 教会で応対をしていたのは、ライン司祭という温厚そうな人物だった。
 
 一行の来訪を快く出迎えてくれた司祭からさまざまなことを聞く。
 
 スピッキオがこの教会の代表であるエルンスト司教への面談を申し込むと、執務室で仕事をしているとのことだった。
 父親が司教の友人であるアルフレートの存在とスピッキオの司祭の肩書きもあってか、すんなりと面会を許された。
 
 執務室の窓際にある粗末な机で書類整理をしていたエルンスト司教は、一行を穏やかな笑顔で迎えてくれた。
 
 先ほどのバルドゥアの件でトービアスが食ってかかる。
 
 エルンスト司教はそれをじっと聞き、責任を持って何とかすると約束してくれた。
 
 
 教会ではろくな情報が手に入らず、結局また聞き込みをすることになった。
 
 街で情報収集していたときのことである。
 中年の女性が思い出したように手を打った。
 
「…そうよ、思い出したわ。

 教会のエルンスト司教のお孫さんが確かそんな名前だったはずよ!」
 
 それは驚くべき話だった。
 何年も前に亡くなったという司教の孫の名前がリアーネだという。
 
 アルフレートは真っ青になって教会に向かって走り出した。
  
 
 教会についたアルフレートは取り乱して、エルンスト司教につめよった。
 
 エルンスト司教は黙って話を聞いていたが、アルフレートには本当のことを話そうといい、一同は緊張した面持ちになる。
 
「失礼する。
 
 エルンスト司教はいらっしゃるかな?」
 
 そうやってノックもそこそこに勝手に入ってきたのはバルドゥアだ。
 
 いきりたってバルドゥアに襲い掛かろうとするトービアスを皆でおさえる。
 
 司教は用事を急ぐバルドゥアにわかったと告げると、一行と夜の礼拝堂で会うことを約束し、鍵を渡してくれた。
 
 夜まで待とうと一行は宿への帰途につくのだった。
 
 
 しかし、帰る途中のこと、でっぷり太った派手な衣装の男が数人のチンピラを連れて歩いてきた。
 
「ちっ、ブルーノかよ…」
 
 トービアスが舌打ちする。
 
 ブルーノと呼ばれた太った男はこちらに気がついて近寄ってきた。
 
「おや…弱虫のアルフレートに腰巾着のトビーじゃないか!?」
 
 嫌味な口調で言ってきた男はかなり性格が悪そうだ。
 
 ブルーノはラーデックで五指に入る豪商の放蕩息子で、冒険者を気取って威張りくさっているただのチンピラらしい。
 
 トービアスが道を空けるようにいうと、ブルーノはつまらない因縁を吹っかけてきた。
 
 切れたトービアスがブルーノを豚と罵ると、相手も真っ赤に激昂して襲いかかって来た。
 
「やれやれ…」
 
 シグルトたちはあきれたように前にでて2人を庇う。
 
 揃って襲い来る敵に、ロマンが【眠りの雲】を唱えると一斉に地に伏した。
 よろめいたブルーノにラムーナの刺すような蹴りがきまり、吹き飛ばす。
 その踏み込みの鋭さは【連捷の蜂】の最初の動作である。
 
 不利を悟ったブルーノたちが逃げ出す。
 
「拙いわ、誰かが通報したみたいね。
 
 官憲の連中が来る前にずらかりましょう!」
 
 レベッカの声に頷くと、一行は『猫の額亭』目指して逃げ出した。
 
 
 時間を宿でつぶし、夜、約束の礼拝堂にやってくると人の気配がした。
 
 しかしそこにいたのは…
 
「バルドゥア!!!」
 
 怯えて下がったバルドゥアの足元、血溜まりに老人が倒れていた。
 それはエルンスト司教である。
 すでに事切れているようだ。
 
 アルフレートが悲痛な声をあげる。
 
「ち、違う、俺がやったんじゃない!」
 
 動揺して言い訳するバルドゥアの手から鎚矛がごとり、と落ちた。
 
「貴様…
 
 エルンスト閣下をよくも!!!」
 
 スピッキオが怒りの表情で杖を構えた。
 
 その叫び声に、ライン司祭が駆けつけてきた。
 
「いったい何事…!?」
 
 倒れ伏したエルンスト司教と、バルドゥアを見て司祭も凍りつく。
 
 教会の僧兵たちも駆けつけた。
 
「違うっ、俺がやったんじゃない…
 
 そ、そうだ、こいつらの仕業だ!」
 
 バルドゥアはシグルトたちを指差すが、スピッキオは堂々とその前に出た。
 
「おぬしの僧服についた閣下の返り血が、すべてを明らかにしておるわ…」
 
 バルドゥアは見苦しく、違う、違うといっていたが、どう見てもバルドゥアの犯行であることは明らかである。
 
 ライン司祭はバルドゥアの足元に転がっている凶器を調べ、怒りのあまり青ざめた顔でバルデゥアを睨む。
 
「弁解する必要があるのは卿の方のようですな、バルドゥア殿!?」
 
 うっ、と追い詰められたバルドゥアは、今度は、エルンストが悪いんだ!とさっきとは全く違う言い訳を叫びだす。
 
「…ひっ捕らえろ!」
 
 ライン司祭は動転しているバルドゥアを無視して僧兵に命じる。
 暴れるバルドゥアだが、人数には勝てずにすぐ押さえられ、引っ立てられていった。
 
 司祭は跪くと、司教の遺体を見つめ沈痛な面持ちでかぶりを振った。
 
 アルフレートが声をかけると、司祭は立ち上がって一行を見る。
 そして今回の事件の参考人として彼らの同行を要請した。
 
 
 事件より二日経つ。
 身柄を教会に留められていた一行は、やつれた顔でやってきたライン司祭に自由を告げられた。
 
「それで、バルドゥアはどうなったのですか?」
 
 それにライン司祭は、法王庁より神前裁判の許可がおり、本日断罪されるだろうこと、バルドゥアは死刑になるだろうことを一行に告げた。
 
 複雑な気持ちで外に出ると教会の入り口で、『猫の額亭』の主人の娘、エマが迎えてくれた。
 
 一旦『猫の額亭』に戻った一行は、やはり一度家に行くべき、とアルフレートの父、ウィルヘルム卿の屋敷へと向かった。
 ウィルヘルム卿は少し呆れ顔で、身の程をわきまえないからこんなことになるのだ、とアルフレートをたしなめたが、事情は一通りわかっている様子でそれ以上は一行を責めなかった。
 
 その後、少し時間を潰した一行は、神前裁判の結果を知るために教会に向かった。
 
 
「なんじゃと…ではあの鬼畜めは平然と自由にうろついておるのか!」
 
 教会でうな垂れたライン司祭が話してくれた内容に、スピッキオが怒りの声を上げた。
 
 それは荒唐無稽でとんでもない話であった。
 バルドゥアは司教が魔物に操られていたと言い張り、無罪を主張したのだ。
 そしてリアーネがいたという聖園に誰かをかくまっていただろう、とそれを証拠に言い逃れを始めたのだ。
 
 しかし、司教はここ数年頻繁に聖園に出入りし、食料なども持ち込んでいた、という話が持ち上がった。
 そして、調べるに当たって証拠もいくつか発見され、下された裁判の結果は、バルドゥアに一週間の猶予を与え、魔物をつれて教会に示せというものだった。
 
「なんという愚かなことを…
 
 アロントの事件を知っておってそんな暴挙を許すのか!
 あやつは必要ならば平気で罪のない人を魔女にできる男じゃぞ。
 
 いかん、何としてもそのようなことは食い止めねば…」
 
 スピッキオの言葉に一同は頷く。
 なにより一番危険なのはアルフレートの探しているリアーネであろう。
 
 教会を出た一行はさらに情報を集めようと聞き込みをする。
 リアーネの情報はまったく手に入らなかったが、バルドゥアがブルーノを手下にして街を闊歩しているという噂であった。
 
「豚は豚同士ってわけね…」
 
 レベッカがあきれたように呟いた。
 
 一端休息するために『猫の額亭』に戻った一行だが、なんとそこで件のバルドゥアが待っていた。
 
 バルドゥアは自分の正義を熱く語り、アルフレートと一行に協力を要請してきたのだ。
 自分の弁に陶酔する風のバルドゥアを、一行はしらけた目で見つめていた。
 アルフレートは自分に出された飲み水をバルドゥアめがけてぶちまけた。
 
 バルドゥアは怒りと屈辱に顔を歪めると、去って行った。
 
「けっ、二度と来るな、ぼけ!」
 
 下品に親指で地面を指し、トービアスが怒鳴る。
 
「あれで頭の醒める奴ではないわい…」
 
 スピッキオも苛立たしげに杖の先で床を小突いていた。
 
 現状でリアーネの行方はまだわからない。
 焦る一行に、宿のマスターは『黒犬亭』という情報屋のいる店を教えてくれた。
 
 そこは色っぽいがどこか退廃的な雰囲気の女が経営する酒場だった。
 一行が情報屋を探していると伝えると、奥の黒服の男を指差す。
 
 男は一行に情報を求める理由を尋ねようとした。
 しかし、レベッカがそれを制した。
 
「ここの鼠(情報屋のこと)は礼儀知らずね。
 
 私たちは情報を買いに来ただけ。
 何も話すことはできないわ」
 
 それじゃ話せんな、という男にレベッカは時間の無駄ね、といって一行に帰ることを促した。
 
「どうしてですか?
 
 情報が必要なんじゃ…」
 
 驚いて食って掛かるアルフレートに、レベッカは頭を振って、あれはダメ、といった。
 
「たぶん、私たちの素性も聞き出して情報として売るつもりよ、あの男。
 
 下手に素性を話すと、バルドゥアに私たちの動きを知られることになるわ」
 
 びっくりしているアルフレートとトービアスに、レベッカは片目をつぶってみせた。
 
「仕方ないわねぇ。
 
 ま、そろそろ撒いた種が収穫できるころね」
 
 レベッカは伸びをすると当りがついているという風に、一行を連れて調査を始めた。
 
 それからのレベッカは実に巧みに情報収集をし、8年前に起こった《吸血鬼事件》と呼ばれる怪事件を探り当てた。
 
 巧みな手腕にアルフレートたちが驚いていた。
 
 その後、聖園に進入し、レベッカが赤い布キレを見つける。
 
「…この手の切れ端、見覚えがあるわ」
 
 レベッカは司教の部屋にも侵入して、そこにタイマ草という植物を見つけてきた。
 このあたりの山岳に生える植物だそうである。
 
「お主…もう少し早く本気を出さぬか」
 
 スピッキオがあきれて言うと。
 
「最初から裏で情報は集めていたのよ。
 
 確証がないまま動き回ると『黒犬亭』の黒い鼠が喜ぶだけ。
 私は仕事ではいつでも本気よ。
 そういう暑苦しい姿はみせたりしないけどね。
 
 まあ、ようやく小道具も揃ったし、行きましょうか」
 
 レベッカはわけがわからないという一行をつれてウィルヘルム卿の屋敷に向かった。
 
 レベッカは先ほど聖園で手に入れた布キレを屋敷の入り口にいた衛兵に見せる。
 衛兵が驚いた顔をする。
 
「確かこれってラーデック騎士団の近衛隊が使うマントの模様、よね?」
 
 衛兵は目を丸くして頷いた。
 
 アルフレートがあっ、とさけんだ。
 
「なるほど、ね。
 
 あとは領主様に聞きましょ。
 どこの山にリアーネちゃんをかくまっているか、ね」
 
 
 アルフレートは走るようにウィルヘルム卿の部屋へと向かった。
 
 布キレを示してウィルヘルム卿を問い詰める。
 興奮したアルフレートは一行が止めるのも聞かず、今まで心に凝っていただろう、父への不満もぶちまけた。
 
 ウィルヘルム卿はついにどなり、落ち着かんか、とアルフレートを叱りつけた。
 
 そして疲れたように椅子にどっかりと座り込むと、すべてを語りだした。
 
 リアーネがエルンスト司教の孫であること。
 8年前の吸血鬼騒動の折、司教が死んだと偽って聖園にリアーネを幽閉したこと。
 そしてそれがバルドゥアにばれてしまい、脅迫されていたこと。
 バルドゥアの蛮行に耐えかねて、司教がウィルヘルム卿を頼ってきたこと。
 そして司教から聞いた話で、アルフレートがリアーネのもとに足繁く通っていたことを知ったこと。
 友人である司教のために協力してリアーネを聖園から移動させたこと。
 司教に条件としてアルフレートをリアーネに近づかないように計らう約束をさせたこと。
 
 最後の言葉に激高するアルフレート。
 
 なら、すべてを自分で確かめろ、とウィルヘルム卿はリアーネがヴェヒトファイエル山の山荘にいることを告げた。
 
 一行は肩を落としてうな垂れるウィルヘルム卿を残し、山荘を目指した。
 
 その山荘はウィルヘルム卿の持ち物のようで、アルフレート亡くなった母と共に来たことがあるらしい。
 
 そしてそこにはリアーネがいた。
 
 
「リアーネ!!」
 
 アルフレートがリアーネに駆け寄る。
 
「アル…!?
 
 どうしてここに?」
 
 有無を言わささず抱きしめるアルフレートを、戸惑ったように見る赤い目の少女。
 
「熱く抱擁し合うのはいいんだけど、場所と人目を考えたほうがいいわよ、アルフレート君」
 
 レベッカがからかうように言うとアルフレートは真っ赤になってリアーネを開放した。
 
 
 一行はリアーネに招かれて、彼女が入れてくれたお茶を啜っていた。
 急いで山道を移動し、水分を失った身体に熱いお茶が染み渡る。
 
 アルフレートが近日起きた出来事をリアーネに話して聞かせた。
 
「そう…おじいちゃん、死んじゃったんだ…」
 
 少し悲しげだが特別驚いた様子もない。
 リアーネは司教からこんなことになるかもしれないと知らされて、覚悟していたのだといった。
 
「アルは、知らないのね…」
 
 一通りの事情を聞いたリアーネは意味深げなことを言ってアルフレートを困惑させた。
 
 
 一息ついたあと、アルフレートに帰ることを促すシグルト。
 この少女はあのバルドゥアに追われているのだ。
 
 アルフレートがリアーネを連れ帰ろうとすると彼女はそれを拒んだ。
 リアーネは行けないの一点張りで、話が膠着している。
 
「…痴話喧嘩は後。
 
 連中が来たわよ」
 
 レベッカが短剣の抜き具合を確かめながら、窓の外を促す。
 
 そこには武器を持ったバルドゥアと、彼に率いられたブルーノや手下たちが集結していた。
 
「皆、戦う準備だ」
 
 シグルトは剣を確認し、衣服に解けて邪魔になる部分がないか確認している。
 ロマンは、いつでもいいよ、と愛用の魔導書を抱きしめた。
 ラムーナは身体の柔軟をしてウォームアップしている。
 
「よし、皆に守りの加護を施す。
 
 順番じゃ」
 
 スピッキオは【聖別の法】の秘蹟を成し、一行の身体が薄っすらと特別な力に護られる。
 
「どうじゃ、レベッカ。
 
 ちゃんと役に立ったであろうが」
 
 そう言うスピッキオに、はいはい、と投げやりに手で応えると、レベッカはシグルトを見た。
 シグルトは撃って出る、と告げ、一行が頷くと扉を開け放った。
 
 
「ほぉ、これは、これは…
 
 またお会いしましたな、領主殿の御子息アルフレート君」
 
 ブルーノたちを伴ってやって来たバルドゥアは、随分と余裕顔であった。
 
「よく言うわ…
 
 適当に犬(密偵の隠語)でも雇って、私たちの後を追いかけてきたんでしょう?」
 
 呆れ顔でレベッカは短剣をいじっている。
 
 レベッカの茶々を無視して、バルドゥアはアルフレートに向かってリアーネの身柄を寄越せと手を差し出す。
 
「私が訪れた理由は話すまでもなかろう。
 
 さあ、後ろに隠れている娘を渡すんだ…」
 
 それをアルフレートは毅然と断った。
 
「断る!
 
 誰がお前のような殺人鬼にリアーネを渡すか」
 
 バルドゥアは肩をすくめた。
 
「…アルフレート君、君はその娘の正体が何であるのか、わかった上で駄々をこねているのかね?
 
 その娘の正体は魔物だ。
 8年前ラーデックを騒がせた吸血鬼…それがその娘の正体なのだよ?
 
 わかったら、そこをどくんだ。
 我々は神の正義を行わねばならん。
 邪魔をしないで頂きたい」
 
 いかにも自分こそが正義である、というバルドゥアをアルフレートは睨みつけた
 
「…魔物だって?
 
 もし魔物がいるとすればそれはあんたの方だろう、バルドゥア…!?
 
 あんたに比べれば、まだゴブリンの方がましだ。
 ろくでもない連中だが、奴らは神の名を騙ったりしない…
 
 あんたは卑怯者だ。
 自分の欲望のために神を利用しているだけじゃないか!
 
 何が異端審問官だ…
 
 神の名を騙る外道のくせに!」
 
 アルフレートの侮辱に、凶悪な表情を見せ、バルドゥアは顔を歪ませた。
 
「神よ、お許しください…
 
 アルフレート君、神はお怒りだ。
 神に選ばれしこの私を蔑ろにするとは、なんと罰当たりな…!
 
 良民にあるまじき行い…
 
 少々お仕置きせねばならん!」
 
 バルドゥアは後ろにいたチンピラたちに促した。
 
「…殺れ。
 
 だが、アルフレートだけは殺すなよ、あとあと面倒だからな!」
 
 向かってくるチンピラたちに、ロマンが呟いた。
 
「…せめて正義の味方らしい奴らと組んでれば、見た目だけは説得力があったかもね」
 
 レベッカが頷く。
 
「勧善懲悪を謳うなら、せめてこんな三下は使わないことよね。
 
 どっちが悪人だか丸判りよ、これ」
 
 ラムーナが真剣な表情で、アルフレートたちを背後に庇いながら、黙って小剣を構える。
 
「恥知らずな鬼畜めが。
 
 罰当たりはおぬしらじゃ。
 容赦せんから、覚悟するがよい!!!」
 
 スピッキオが杖でバルドゥアたちを指し示す。
 
 後ろのアルフレートたちに大丈夫だ、と目で知らせ、シグルトは剣を抜き放った。

  
 戦闘が始まった。
 
 ラムーナがものすごい踏み込みからブルーノを突く。
 よろけて身体が浮いたブルーノをトービアスが大剣で鎧の上から殴りつけると、ブルーノは無様に転がって気を失った。
 
 シグルトの剣がバルドゥアを追う。
 
 ラムーナが目前の敵の攻撃を払い、返す動作で背後の敵を貫いた。
 【連捷の蜂】の第二動作【女王蜂】である。
 
 シグルトは暴れるバルドゥアに傷を負わされながらも、構わず突っ込みさらにその肩を裂く。
 
「《穿て!》」
 
 さらにバルドゥアをロマンの【魔法の矢】が打ち据える。
 
 シグルトの剣が今度はバルドゥアの脇腹を抉る。
 
「おのれぇ、罰当たりめがっ!!!」
 
 ぴたりと迫って剣を振るシグルトと、顔を悪鬼のように歪めたバルドゥアが得物で激しく鍔競合い、何度も打ち合う。
 
 雑魚はすでにラムーナの【連捷の蜂】の餌食となって1人も立っていない。
 
 不意に飛び出したアルフレートの渾身の一撃でよろめくバルドゥア。
 
 シグルトの一刀で胴鎧を砕かれ、くの字になって血反吐を吐くバルドゥアの眉間を、ロマンの【魔法の矢】が打ち抜いた。
 
「がぁ…あ!」
 
 バルドゥアの巨体が音を立てて倒れた。
 
 その轟音にのびていたブルーノが気付き、慌ててバルドゥアを担がせて、周りのチンピラと逃げ去って行った。
 
「お、憶えてろーっ!!」
 
 最後に捨て台詞を残すブルーノをロマンがあきれた風に見送りながら、やっぱり三下だね…、と呟いた。
 
 
 そして一行はラーデックに無事帰還した。
 
 アルフレートは何度もお礼を言い、今は持ち合わせが無いからと、『猫の額亭』で待つよう一行に告げ、リアーネを伴って屋敷に帰っていった。
 トービアスも生家を何日も留守にしているといって、帰っていく。
 
「…俺たちも宿に戻ろう」
 
 シグルトの声に、一行は頷いた。
 
 
 一晩休んで体力を回復した一行は、旅支度を整え、昼食を摂りながらアルフレートからの連絡を待っていた。
 
 やがてトービアスが1人やってくると、むすっとした顔で重そうな皮袋を一行の前に置く。
 
「これ…アルから。
 
 約束の報酬だってさ。
 確かに渡したよ」
 
 受け取ったレベッカが、銀貨の枚数を確認し始める。
 
「アルフレートは?」
 
 ラムーナが首をかしげた。
 
「あの馬鹿…どっか行っちまったよ、リアーネを連れてさ。
 
 もうラーデックにはいないと思う…」
 
 その言葉を聞いて食って掛かるエマに、トービアスは疲れたように、何度も知らねぇ、と言った。
 
 トービアスの話では、アルフレートはリアーネのことで父親と酷く揉めたそうだ。
 おそらくそれで出て行ったのだろう。
 
「幸せになるといいんだがな…」
 
 シグルトは感慨深げに、宿の窓から街道を眺めていた。
 
 
 その後のこと。
 一行は無事『小さき希望亭』に帰還していた。
 
 宿を中心に活動し、宿のツケを処理するためにいくつか仕事をこなしていたのだ。
 最近宿代をツケにしてくれるかわり、親父はたまに雑用を押し付けるのである。
 
「あ~あ。
 
 せっかくお金を稼いでも、これじゃ前回とかわらないわ」
 
 ぼやくレベッカはそれほど機嫌は悪くない。
 宿に戻るまでに稼いだお金がかなり溜まっていたのだ。
 
 
 そんな日常を過ごしていた一行の元に、ある日ライン司祭が訪ねて来た。
 
 ラーデックの教会運営を任されるとのことで、大都市の教会に挨拶するためにあちこちを回っているらしい。
 
 司祭は一行に故エルンスト司教の残した手紙をあずけ、もしアルフレートに再会したなら、力になってやってほしいと頼んでいった。
 
 アルフレートに宛てられたその手紙の内容を、司祭の言葉にしたがって読んで確認し、シグルトたちはラーデックの騒動で裏にあった数々の謎を知った。
 
 リアーネの正体とエルンスト司教の苦悩がつづられたそれをシグルトが皆に読んで聞かせる。
 
 それはリアーネがラミアと呼ばれる吸血を行う魔物であること。
 リアーネの母アーデルもラミアであったこと。
 8年前に吸血鬼騒動を起こしたのがアーデルであったこと。
 襲ってきたラミア…アーデルをエルンスト司祭が殺したこと。
 リアーネもまた血を必要としはじめ、死んだと偽って司教しか入れない聖園にリアーネを匿ったこと。
 リアーネには司教が血を与え続けていたこと。
 そのころリアーネがアルフレートと出あったこと。
 やってきたバルドゥアが聖園の秘密に気付き司教を強請りはじめたこと。
 
 そしてリアーネのことをアルフレートに頼む内容…
 
 司教の心情が切々と書かれていた。
 
「きっと、アルフレート君はすべてを知って、それでもリアーネちゃんと生きる決心をしたんじゃないかしら。
 
 だから、家を出て行った…」
 
 レベッカはため息をついてエールをあおる。
 
「さあな。
 
 だが、アルフレートが頼って来ることがあったら、俺にできる手助けはしてやりたいと思ってる」
 
 シグルトは手紙を丁寧に閉じると、もう一つの便箋に入れ、厳重に蝋で封をした。
 
 シグルトの声に一同は重々しく頷くのだった。



 本家groupAskの齋藤 洋さんが作られた『教会の妖姫』です。
 
 何とか一話に無理やりまとめましたが…長かったです。
 リプレイのデータ収集で随分時間がかかってしまいました。
 
 間違いなくこのシナリオは傑作でしょう。
 長編のお手本みたいなシナリオです。
 
 『ゴブリンの洞窟』といい『家宝の鎧』といい、本家のシナリオは質が良いです。
 
 このシナリオかなり聖北教会の設定がわかるんですが、やっぱりカソリックっぽいですよね。聖職者の妻帯はOKみたいですが。
 
 異端審問官ですが、悪者扱いだけされてる(たぶん魔女狩りのイメージがあるのでしょうね)ことも多いのですが、調べてみると結構真面目な役職です。
 まあ、バルドゥアみたいな職権乱用の迷惑な奴がいたのも事実みたいですが。
 
 このシナリオ、法皇様とあって法王庁と出てくるちょっと「?」なところもあったのですが、私も誤字や勘違いしまくってますから偉そうなことはいえないですね、はい。
 
 
 今回早速【連捷の蜂】が役立ちました。
 扱いやすい低レベルのスキルは、一つ持つだけで大きな戦力UPをすることが可能です。
 
 今回も結構儲かりました。
 長編だけはありますねぇ。
 
 
 今回の報酬は…
 
・パイプ運送費 +500SP
・報酬 +1000SP
 
◇現在の所持金 3500SP◇(チ~ン♪)

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『見えざる者の願い』

 アレトゥーザからの帰り、“風を纏う者”は有名な魔導都市カルバチアに逗留していた。
 
 すると逗留していた酒場にやってきた、ガストン オリバーストン男爵なる太った男から『コフィンの森』のそばにある屋敷の探索を依頼される。
 
「待って!!そこの冒険者さん!!」
 
 依頼を受けて屋敷に向かう途中、突然虚空から声がする。
 一行がびっくりしていると、空中からにじみ出るように1人の少女が現れた。
 
 その少女はルティアという遮蔽魔法の研究をしている娘だった。
 
 なんでもこれから調査に向かう屋敷の主だった老人が、彼女が研究する魔法の第一人者だというのだ。
 
 ルティアは是非同行させてほしいと頼んできたのである。
 
「…だめね。
 
 お嬢ちゃんの目的はあの屋敷の魔法書とかでしょう?
 そういうの、私たちにとってもかなりの収入源なのよ。
 
 行きたいなら自力で行きなさいな。
 もちろん目的がかちあったらライバルよ。
 
 必要なら排除しちゃうわよ~」
 
 レベッカは冗談めかしてルティアを脅しつつ、きっぱりと同行を断った。
 
「え~?
 まじで~?
 
 こんなかわいい女の子が頼んでいるのに~?」
 
 ぶりっ子するルティアにレベッカは指を突き出して、ちっち、と横に振った。
 
「色仕掛けするなら、もう少しお馬鹿な男の冒険者にするのね」
 
 ルティアが目を潤ませてシグルトを見るが…
 
「悪いな。
 
 俺はこいつらのまとめ役をしてる以上、仲間の足手まといを増やしそうなことには賛同できない。
 
 話によると、何かモンスターがいるみたいだから、命に関わることになるかもしれない。
 軽い気持ちだと、小さなことでも命を落とすことになる」
 
 このハンサムな美丈夫には、まるでルティアの「かわいい」が通じていなかった。
 
 次にラムーナを見るが、ただニコニコしているだけだ。
 
 スピッキオを見るがこの立派な体躯の爺さんは、若い娘が無茶しちゃいかん…と説教を始めた。
 
 最後の希望、とロマンを見て思わず頬を染める…ロマンは黙っていれば飛びっきりの美少年だ。
 
「お姉さん、遮蔽魔法なんて随分マイナーな魔法を研究してるんだね。
 
 あれって装置とかたくさんいるし、お金のない人だと研究するのには向かないよ。
 こんなところで僕らの力を当てにしてるようじゃ、ちゃんとした研究なんて無理だよね。
 
 そうだね、まず精神操作系の魅了の魔法とかマスターすれば?
 非合法で場合によると牢屋行きだけど、仲間を作ることができるかもしれないよ」
 
 最後に辛辣な言葉で止めを刺されて、幅の広い涙を流しそうな気分になりながら、ルティアは叫んだ。
 
「信じらんない!
 
 いいよ~だ。
 勝手にくっついてっちゃうんだからっ!!!」
 
 ルティアを置いて、一行はすでに屋敷に向かって歩き始めていた。
 
 
 屋敷は森に囲まれた陸の上にあった。
 
 ルティアをまったく無視した一行は、玄関の扉をくぐってホールを調べる。
 
 こういうことはレベッカの独壇場である。
 
 壁を調べていたレベッカは隠し扉を発見した。
 
「うっふっふ~、お・た・か・らの気配ね~」
 
 隠し扉に普通は罠などないだろうに、しっかり調査を行いつつ、レベッカはどこか嬉しそうだった。
 
 この手の屋内探索こそ盗賊の本分であった。
 罠がないことを確認すると扉を開け中に入る。
 
 隠し扉の奥では3体の骸骨(スケルトン)が襲い掛かってきた。
 弱いがれっきとした不死(アンデッド)のモンスターである。
 
「うわ、ここの館の主、死霊術も使えたの!」
 
 ロマンが薄気味悪そうに構えを取る。
 
「だが、それほど強くなさそうだ」
 
 さっと剣を構えるのはシグルトである。
 いくつか冒険を経てきたが、常に先頭で戦い、的確な指示を出すこのリーダーを皆信頼していた。
 
 そして骸骨どもはたいした抵抗ができるわけも無く、元の骨に戻されることになった。
 
 隠し扉の奥には金属製の宝箱が二つもあり、一つには火晶石、一つには小さな緑色の宝石が入っていた。
 それほど高価なものではないが、売ればそれなりの金になるだろう。
 
「嬉しい臨時収入だね」
 
 ロマンが幾分興奮したように言った。
 
 ルティアがいいなぁ~、綺麗だなぁ~と言ったが一同は完全に無視して、宝石類は荷物袋に入れた。
 
 途中小部屋で鼠に出会い、追い払うことになったが、まだ使えそうな毒消しを手に入れられた。
 
 一階を捜査し、レベッカもお手あげらしい特別な鍵の扉で閉じられた離れを除けは、そこそこの広さがあるだけの屋敷だった。
 
 広場で辺りを見回していると、使えそうな薬草を見つけたが、茂みに隠れていた大蛇に襲われた。
 おそらくは森に住んでいるのだろう。
 
 しかし大蛇はわりと見掛け倒しで、すぐに倒されてしまった。
 
「丸々と太っておいしそうだよ~」
 
 ラムーナがそう言うとルティアの顔が、ひぃ、と引きつる。
 
 食料が無いときはこういったものも充分な食べ物になるし、蛇の肉は臭みは強いもののまだ食べられる。
 それに血がかなりの強壮作用を持つのである。
 
 結局、蛇を食べるなんて野蛮よ~、と横で頭を抱えているルティアのそばで昼食となった。
 
 食べるものはまだあるからと、大蛇の死体はシグルトが庭に埋めて処分したのだが。
 
 
 二階ではこうもりに襲われたがロマンの魔法でばたばたと眠り、一行は事なきを得た。
 その部屋では、この屋敷の地図らしきものを手に入れた。
 
 さらに調査を進めると、二階の奥の部屋で、シグルトたちは木製のゴーレムと戦闘になった。
 
 ゴーレムとは魔法によって仮初の命を吹き込まれた、主に忠実な魔法生物である。
 この木製ゴーレムは丸太を人型に組み立てたような形をしている。
 
 ゴーレムは硬く、なかなか大きな傷を与えられない。
 
 シグルトはゴーレムの首に斬りつけるが、多用してなまくらになった剣はめり込んで抜けなくなる。
 だが、抜けないならとそのまま振り回して壁に叩きつけゴーレムを粉砕した。
 しかし、大きな動作の隙をつかれてもう一体のゴーレムから拳をもらう。
 よろめきながら、切れた口に溜まった血を吐き捨て、体制を整える。
 
 もう一体に殴られたスピッキオも額から血を流していた。
 彼の杖では全く大きな効果を与えられないのだ。
 
「…《穿て!》」
 
 しかしロマンの【魔法の矢】がその一体を粉々に粉砕する。
 この手の魔法生物にこの魔法は大砲のような効果があるのだ。
 
 関節をきしませ、満身創痍で反撃してくるもう一体の体当たりを食らってラムーナがよろめいた。
 止めを刺そうと追いすがるゴーレムをレベッカがが蹴飛ばし、次の瞬間にはシグルトの渾身の一撃がそのごつい胴を粉砕していた。
 
「苦戦したな…」
 
 スピッキオの癒しを受けつつ、シグルトが呟いた。
 さすがに要所警護用のモンスターである。
 
 手当てを終え、その奥の方にあった小部屋を調べていたレベッカが隠し扉を見つけた。
 入ると一方通行の回転扉である。
 他に出口があったので、ほっとしつつ着いた先を調べた。
 
 奥には宝箱があり、宝石と貴重な魔法薬があった。
 
「これは…今回一番の発見だね。
 魔法薬って普通に市販されてないんだよ。
 
 僕たち魔法を使うものにとっては、魔法を使う力が枯渇しても、これがあれば回復できるし。
 
 ま、僕ならちゃんとした工房があれば他の安い薬と調合して、もっとすごい薬を作れるよ」
 
 その横で宝石を鑑定していたレベッカが言った。
 
「さっき手に入った宝石と一緒にすれば800SPぐらいにはなるわね。
 一応は依頼一回分ぐらいの稼ぎになったわ」
 
 思わぬこの収入に、レベッカは嬉しそうに宝石を磨いていた。
 
 
 二階にあるもう一つの部屋で、シグルトたちはこの館の主であったグリシャム ブロイの亡霊に出会うこととなった。
 
 最初、亡霊という強力なモンスターの出現に、一行が緊張し、ルティアは泣きながら逃げ回った。
 しかし、意外にもスピッキオが仲間の構えを解かせたのである。
 
「どうやらこの亡霊、戦意はないようじゃ」
 
 グリシャムの亡霊は一行の話を聞き、シグルトたちがこの館を荒らしていたことは責めなかったが、妻との思い出の場所を他の人間に盗られたくは無いので隠してしまいたい、とこの屋敷のどこかにあるという遮蔽装置を持ってきてくれるように頼んできた。
 
 ルティアが安請け合いをしてレベッカに頭を小突かれていたが、元は取れたから、とシグルトはグリシャムの頼みを承諾した。
 スピッキオは亡霊の昇天のためだといい、ロマンは偉大な魔道師の最後の願いなら、と承諾する。
 欲が無く温厚なラムーナなの意見はわかりきったようなものだった。
 
「はいはい。
 
 ま、あの太っちょからはいくらかせしめてやるわ。
 屋敷が無かったとでも言って確認させれば、銀貨五百枚ぐらいは搾り取れるでしょ」
 
「相変わらず強欲だのう、おまえ」
 
 レベッカの守銭奴ぶりにあきれるスピッキオだが、あんたたちが揃いも揃って馬鹿正直なだけよ、とレベッカは肩をすくめた。
 
 グリシャムがいた場所の、奥の部屋で火晶石と鍵を回収すると、ルティアが遮蔽魔法の巻物を勝手に奪ってしまった。
 レベッカがそれに怒るが、ロマンが止めといたら、といった。
 
「ロマン、あなただって古い魔法書に興味があるんじゃない?」
 
 するとロマンはそっと耳打ちした。
 
「グリシャムは偉大な魔道師だったけど、魔法の研究は日進月歩だよ。
 
 グリシャム師が活躍していた時代の魔法より、優れた魔法が数多く開発されてるんだ。
 
 あの魔法書、写本を読んだ事があるけど、儀式の複雑さが問題視されてて、ものすごく高額な装置が必要なわりには効果が限られるんだよ。
 それに遮蔽魔法って今はマイナーなジャンルで、あんまり人気がないから、あの本ほとんど価値がないと思う。
 
 ま、あのルティアってお姉さんにあてがって、黙らせるには丁度よさそうなものだと思うけど?」
 
 さすがは“風を纏う者”の頭脳であった。
 
 
 一階の開かずの扉を開き、冒険で手に入れた地図にある隠し扉の向こうにいくと、グリシャムが召喚したらしい子悪魔インプが襲い掛かってきた。
 混乱の魔法に苦戦しつつも、ロマンの魔法で眠らせて捻るいつもの作戦でかたがつく。
 
 奥には遮蔽装置と【蜘蛛の糸】という魔法の巻物が置かれていた。
 
「これは僕らがもらうよ?
 
 遮蔽魔法とは関係なさそうだからね」
 
 ルティアが何か言い出す前に、ロマンはぴしゃりと釘を刺し、巻物を懐に入れてしまった。
 
(類は友を呼ぶ…かしら?)
 
 レベッカは笑い出しそうになるのをこらえつつ、愉快そうにロマンを見ていた。
 
 その奥の酒蔵では年代物のワインを見つけ、レベッカもホクホク顔だった。
 
 
 いろいろあったが、結局グリシャムの願いをかなえ屋敷が隠蔽されると、一行はガストンの屋敷に向かった。
 
 依頼主のガストンとの交渉はレベッカが引き受け、なんと銀貨千枚をせしめてきた。
 
「なかなか実のある仕事になったわね~」
 
 狡猾な女盗賊は銀貨の重さに頬を緩めていた。
 
 
 ルティアと別れる時のことである。
 
 ロマンはルティアに何か伝える。
 こてん、とルティアが地面に倒れた。
 
「何を言ったの…
 
 あの娘、髪が抜けそうな落ち込みようよ?」
 
 大したことじゃないよ、とロマンは言った。
 
「あの本の装置を現代で用意するための費用だよ。
 
 人件費や貴重な材料費を考えると、銀貨十万枚ぐらいは必要だよって…」
 
 そりゃ落ち込むわ、と初めてレベッカはルティアに同情するのだった。

 
 
 今回は、本家groupAskのメンバーさんが製作した『見えざる者の願い』です。
 普段ものすごくシリアス路線なので、今回はちょっとコメディ路線にしてみました。
 
 探索のお手本とされる内容はかなり厚く、リプレイ用のデータ抽出で疲れ果ててしまいました。
 長いシナリオはリプレイがきついです。
 
 このシナリオ、探索が面白いのはもちろんのこと、儲かります。
 うまくいくと2~3シナリオ分の報酬になります。
 
 貧乏だった“風を纏う者”はかなりこのシナリオで懐が潤いました。
 
 ちなみに今回の報酬は、
 
道具類
 
・【解毒剤】×1
・【魔法薬】×1
・【葡萄酒】×2
・【薬草】×1
・【火晶石】×1
・【宝石】×2

スキル 

・【蜘蛛の糸】(ロマン習得)
 
お金
 
 +1000SP
 +800SP(宝石2個売却)
 
 
 あと前回忘れてましたが、ラムーナが【連捷の蜂】を買って残金は
 
 300SP
 
 でしたが、100SP宿に貯金しました。
 
 残りは200SPですので、今回の報酬とあわせると…
 
 
◇現在の所持金 2000SP◇(チ~ン♪)
 
 ごっつぁんです♪
 
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このブログの感想なんかはここで…

 管理人やってますY2つです。
 
 どうも小説とかの下には感想とか書け~ん!
 
 という方がいたら、ここにでも思いのたけをぶちまけていってください。
 
 
 でも一応、基本ルールをば。
 
 匿名はNGです。
 急ごしらえのハンドルネームでもいいので、名乗ってくださいますようお願い致します。
 
 他人の成りすましは絶対厳禁です。
 私に呪いをかけられますので止めましょう。
 
 2ch調のわけわからない文章は御勘弁を。
 
 広告とか、エロサイトの宣伝とか、荒らしっぽいのは問答無用で削除することがあります。
 
 Y2つやブログの内容の批評はけっこうですが、人様の悪口、罵詈雑言は基本的に管理人が嫌いなので、警告してデリートする場合もあります。
 
 まあ、普通にマナーを守って下されば、好き勝手書き込んで下さって結構です。
 
 Y2つに何か申したい方や、小説やリプレイの感想はここでも存分に書いてください。
 何かコメントがあると嬉しいです。
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『碧海の都アレトゥーザ』 安寧を祈って

 一月ぶりに訪れたアレトゥーザは夏の暑い盛りだった。
 
 刺す様な太陽の光は相変わらずで、一行は逃げ込むように『悠久の風亭』の扉をくぐった。
 
「マスター、冷たいエールをちょうだい!」
 
 レベッカが真っ先に酒を注文する。
 いつもは文句ばかり言うスピッキオも今回は黙って一杯の水を頼んでいた。
 
 ロマンは冷たい水に柑橘類の果汁を搾り、一つまみ塩を入れて飲んでいる。
 
「それって美味いのか?」
 
 シグルトの問いに、好み次第かな、との答えである。
 
 自分も冷たいエールを頼み、つまみのナッツを齧りながら、シグルトはこれからどうするかを相談しようと仲間たちに声をかけた。
 
「私はここで涼んでるわ。
 
 外は暑いし、あの日差しは女の肌の敵ね」
 
 レベッカはいつものだらけて怠惰な様子だ。
 
(しばらくは怠ける余裕も無かったからな…)
 
 シグルトは心の中で御苦労様、と呟く。
 
「僕も今回は休憩。
 
 暑気あたりっぽいし…
 少しベッドを借りて寝てるね」
 
 ロマンの色素の薄い白い肌と華奢な体格には、この日差しの中を歩くのは大変だったのだろう。
 しっかり休めよ、とシグルトがいうと、頷いたロマンは部屋へと引き込んでしまった。
 
 スピッキオはどうやら宿にいた旅の巡礼者に説法しているらしい。
 意気投合しているのか、話に夢中のようだ。
 
 ラムーナは、と彼女を見ると、思いつめたような顔をしている。
 
「どうしたラムーナ?
 
 賑やかなお前らしくないな」
 
 シグルトが声をかけると、ラムーナは困ったような、泣きそうな顔でシグルトを見る。
 
 このラムーナという少女、一見明るくてムードメーカーに見えるが、実は繊細で人一倍仲間を大切にする優しい娘であることを、シグルトはよく知っている。
 仲間が喧嘩をして険悪になったりすると表情を曇らせて心配するが、自分が犠牲になることはいとわないところもあり、限界まで我慢をするのだ。
 
 そして最近、このラムーナの困ったような顔は、相談したいことがある時、どうしようか悩んでなるのだと判るようになった。
 
「何か困ったことでもあるのか?」
 
 とにかく黙っていては判らないからと、シグルトはラムーナに悩みを話すように促した。
 
「あのね、私、技を習いたいの…
 
 でも今、お金が無いでしょ?
 だからどうしたらいいのかなって」
 
 ラムーナの話によると、前回知り合いになった大運河にいる女性が、舞踏を戦いの技として用いる独特の武芸を教えているというのだ。
 
「…いくらかかるの?」
 
 何時の間にか席を移っていたレベッカがラムーナに聞いた。
 ラムーナは銀貨六百枚だと恐る恐る告げる。
 
 レベッカは何か考えている様子だったが、シグルトの方を見ると、あんたの方はしばらく我慢ね、といってラムーナに銀貨の入った袋を渡した。
 
「いいのか?
 
 節約してやっと貯めた銀貨だろう?」
 
 シグルトが聞くとレベッカは、ええ、と頷いた。
 
「この娘がねだるなんてほとんど無かったし、純粋に戦力の強化ができるなら助かるわ。
 
 皆誤解してるみたいだけど、私は《けち》じゃなくて《倹約家》なのよ。
 必要な経費を惜しんだりはしないわ。
 
 それにデオタトから手に入れたもので旅装一式や保存食にも余裕があるし、帰りにカルバチアとか大きな都市を回って仕事を探しながら行けば、リューンに着くころにはいくらか懐も潤ってるはずよ」
 
 まあ、これからまた少し倹約しなきゃいけないけどね、とレベッカは優しい微笑を浮かべてラムーナの頭を撫でた。
 
「他の連中には文句は言わさないわよ。
 
 あの2人が一番お金を使ってるんだから」
 
 レベッカはそう言って片目をつぶってみせた。
 
 
 ラムーナは学んだ歩法と動きで鋭い突き放つ。
 
 跳ねるように戻る剣の先端が、背後に迫った木の的の真ん中を貫いていた。
 
 南方大陸より伝わった一つの舞踏がある。
 
 時には奴隷として連れて来られた南方の黒い肌の民は、戦う技を磨くことを隠すために舞踊という形でそれを伝えた。
 やがて南方の情熱的で激しい動きを取り込んで生まれた闘いの舞踊は、力と速さに分かれて武芸として昇華した。
 
 苛烈で華麗なそれを《闘舞術》という。
 
 ラムーナが習得した技は【連捷の蜂(れんしょうのはち)】という技である。
 
 蜂が連携して敵を突き刺すが如く、一連の動きで複数の効果を持つ、流れるような攻撃を行う戦士の舞踏である。
 流麗でありながら、優れた使い手が使うなら攻撃が2倍にも3倍にもなる恐るべき技だ。
 
「憶えておいてね。
 
 この技はあらゆる動きに繋げるその柔軟な動きこそが要なの。
 あるときは次の一撃に、あるときは必殺技の予備動作に、あるときは敵陣を切り払う。
 
 基本的に使え、そして応用的にも使える優れた術よ」
 
 ラムーナに闘舞術を教える黒人の女性は、丁寧にその動作を説明してくれた。
 
「ねえ、先生。
 
 これで私もみんなの役にたてるかな?」
 
 非力で体格のないラムーナは、戦士として仲間の内にありながらずっと劣等感に悩まされていた。
 相手の急所を貫く鋭い一撃は得意なほうだが、レベッカには劣るし、力技ではまったくシグルトに適わない。
 自分が役に立っているのか、ラムーナはいつも不安だった。
 
 この少女にとって、役立たずと断じられることはとても怖かった。
 かつて、色気もない踊りだけが得意だった痩せた少女は、役立たずと両親に売られたのである。
 
 役に立ちたい、そして側にいたい…
 
 もしラムーナの本心を知ったら、シグルトたちは怒るか、笑い飛ばすか、抱きしめただろう。
 ラムーナが家族としての絆を仲間たちと育もうと必死に悩んでいるとき、その仲間たちは心の中でラムーナを大切なパーティの一員として認めていたのだから。
 
 まだわずかに幼さの残る少女に、黒人の女性は柔らかに微笑んで頷いた。
 
 
 シグルトはまた蒼の洞窟を訪れていた。
 
 土産代わりに持ってきたのは、『悠久の風亭』の女将さんがもたせてくれた焼菓子と、旅先の市で手に入れた新しい陶器のカップである。
 安物で悪いな、というシグルトにレナータは思い切り首を横に振って嬉しそうに器を抱きしめていた。
 
 2人静かに、洞窟に光を反射させる美しい水面を眺めてお茶を飲むだけ。
 しかしそれはシグルトのように、時に闘いに身を置く冒険者にとってかけがいのない安らぐ時間なのである。
 
 またここに来ることができたことを尊び、知人との再会を喜び、静寂の優しさを味わう。
 普段あまりに簡単に手に入るそれは、実はとても素晴らしくて大切なものなのだとシグルトは思う。
 
 願わくば、安らげる大切な時を、仲間たちが少しでも味わって幸福な気持ちになれるように、とシグルトは厳かに心の中で祈るのだった。

 
 
 解説忘れてました…
 
 このリプレイで出した【連捷の蜂】、実は対のスキルとして【幻惑の蝶】があります。
 二つセットで「蝶のように舞い、蜂のように刺す」というテクニカルなことができるようにとイメージして、Martさんにアイデアをねじ込んだスキルです。
 このスキル、大量に重ねて使うと召喚スペースがあればものすごい連続攻撃になるんですよね。
 ただ、最初から飛ばし過ぎて使ってるとスタミナ切れを起こすので、使いどころや動作の選択がとても重要です。
 
 闘舞術のほとんどに言える事ですが、実は魔法とか幽霊が苦手な傾向にあります。
 そのかわり、それぞれのスキルを応用して威力を高いものにできるようデザインしてあるので、コンボ=連携攻撃すると楽しいですよ。
 
 
 今回の主役は存在感が薄いラムーナちゃんです。
 回を重ねるごとに言動が子供っぽくなってますが、そのうち化けますので、お色気希望の方、お待ちくださいね~
 彼女、華奢なのは栄養不足なだけですので。
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『遠野の鬼姫』 肆

 不適に笑みを浮かべ、美貌の鬼神と黒衣の武士(もののふ)は対峙していた。
 
 両者の放つ気合で空気は振るえ、眼光はぶつかり合って火花を散らす。
 
 不敗の伝説を持つ綾の媛神は湧き起こる高ぶりに心を躍らせていた。
 かつてこの媛神にこれほどの高揚を与えたものはいない。
 相手は水干に武骨な太刀だけの身なりだが、その武勇の凄まじさはわずかの時間渡り合った中でひしひしと感じていた。
 
「久しいかな…
 
 いや、これほど心躍るは初めてのことよ。
 汝(なれ)の剛勇、実に見事。
 
 楽しい、実に楽しいぞ、秋月の当主よ…
 もっとじゃ、もっと吾をたぎらせるがよいっ!!!」
 
 媛神は胸を躍らせる戦いに、くははっ、と楽しそうに哄笑した。
 
 それに応える様に、秋月の当主正行は太刀を上段に構え、応、と頷く。
 
 両者の居場所がぼやけると、互いの間にぶつかり合った一撃で稲光のような火花が散った。
 
 信じられない速度で弾き合う媛神の鉤爪と正行の太刀は、爆音と突風を起こし、互いの踏み込みと呼気が大地を揺るがした。
 
 これはすでに魔境の勝負。
 互いに一歩も譲らない壮絶な戦いであった。
 
 媛神の爪は半数に減り、正行の太刀は欠け散った刃が歪で無残な有様である。
 
 パキィィィィィイン!!!
 
 ついに媛神の鬼爪が砕け散り、正行の太刀もへし折れた。
 
 ばっと離れた互いの周囲は、竜巻と地震の跡の様に無残な地肌をむき出している。
 
 両者、荒い息を吐き出し、その肌を血の混じった汗が滑り落ちる。
 
 媛神と正行の一騎討ちは半時に及んでいた。
 
 互いに底なしの体力は連夜の戦いを可能にするほどでありながら、あまりに2人の攻撃は重く凄烈である。
 削りあって満身創痍。
 むしろ、ここに両者が立っているのが奇跡であった。
 
 得物を失いながら、媛神は拳を握り無造作に距離をつめる。
 
「ふふふ、まだ終わりではあるまい?
 
 その身があればまだ闘えるぞ…
 さあ、その武のすべてを振るうがよい。
 
 ともに武芸の極み、舞い踊ろうぞ!!!」
 
 正行も掌を突き出し組打(素手での格闘のこと)の構えを取った。
 青痣の浮いたその腕はまだ揺ぎ無い。
 
「この精果てるまで、お応え致そう!!!」
 
 互いに踏み込みで血潮の紅い霧を作り、立ち向かった。
 
「はあああああああ!!!」
 
「くおおおおおおお!!!」

 
 腹の底から叫ぶ。
 その拳、その蹴りで猛烈な打ち合いとなった。
 
 野蛮で武骨で荒々しいそれは、しかしとても美しい闘いであった。
 
 風に波打つ媛神と正行の、銀と黒の髪が互いの舞の衣装のようだ。
 豪奢な媛神の金色の眼(まなこ)が、蒼く輝く正行のそれと戦いの悦びを語り合う。
 飛び散る汗と血潮は互いに降りかかり、肌を熱くさせる。
 
 まさに命を懸けた舞踏であった。
 
「ふっ!!!」
 
 正行は伸ばされた媛神の腕をむんずと掴んで投げた。
 
「ぬぅ!!!」
 
 しかし媛神は絶妙の投げに逆らわずクルリと回りながら掌で正行の胸を殴打していた。
 
 ベキベキベキベキィッ!!!!!
 
 正行が旋回しながら背後にあった生木をへし折りながら吹き飛んでいく。
 
 だが媛神も地に叩きつけられながらごろりと一転し、よろめいて立ち上がった。
 
 歯を食いしばって立ち上がる正行の口と鼻からだらりと血があふれ出る。
 濁った咳を吐きながら、打たれた胸を押さえて庇い、ふらつきながら口と鼻の血を、ぐいとぬぐう。
 
 立ち上がった媛神も脇腹を押さえ、艶やかな朱色の唇から喀血した。
 しかしその目は正行から外していない。
  
(あやつ…
 
 突きをやる前に踵を入れてきたか。
 骨が砕けておるわ。
 
 すべて癒すにはしばらくかかるであろうなぁ…)
 
 媛神は大量に血の混じった唾を、吹くように吐き捨てる。
 
(しまったな…
 
 投げられながらなんとえげつない突きだ。
 腹の臓腑まで裂けている。
 
 いや、あれだけの一撃を喰らって生きておるのが僥倖か…)
 
 正行は呼吸を落ち着けて咳を止める。
 
 互いに動こうとするが、その身に負った傷はことのほか重かった。
 
(あれだけ吹き飛んで、よくも立てるものよ)
 
 媛神は口に残った自分の血を飲み下し、感嘆の目で正行を眺めていた。
 この武士は媛神を追い詰めているのだ。
 千の兵をたった一人で退けた倭国の伝説の武神を、である。
 
(渾身の踏み落としも、及ばぬか)
 
 正行の視野は少し霞んでいる。
 立っているのもつらい。
 震える足を何とか気力で支えていた。
 
 見れば媛神の朱い唇はまだ楽しそうに笑っていた。
 
(ふふふ。
 
 この吾が、冷や汗など…かくこともあるのじゃなぁ)
 
 ふらりと正行が片膝をついた。
 媛神も感覚のおぼつかない手で倒れた巨木を支えに立っていた。
 
 2人の間を風が駆ける。
 互いにこれが最後の一撃と、眼に乾坤一擲の覚悟が宿る。
 
 跳ね上がるように媛神と正行は踏み出し、互いに脱力した下半身のせいで、もつれる様に絡み、渾身の一撃を外して倒れ伏した。
 媛神と正行の意識はふつり、と途切れていった。
 
 
 最初に気がついたのは媛神であった。
 起き上がろうとして痛みに眉をひそめる。
 
「っふぅ、はあぁっ。
 
 …なんと、吾が地べたに伏しておるのか?
 く、くはははっ。
 
 片膝すらついたことがない吾が…」
 
 あきれたような微笑であった。
 
 媛神の目が自分に絡むように倒れている男を見る。
 まだ息があるが、媛神同様に虫の息だ。
 
「…目前のこやつに止めを刺す力もない。
 
 引き分けじゃな、この勝負は」
 
 指一本動かすのも辛いが、懐中から包み紙を取り出し、中の金色の丸薬を一粒口に入れ噛み砕く。
 血と混じった不快な苦味が広がるが、それを何とか飲み下した。
 しばらくすると痛みがすっと引いていく。
 
「人に授ける以外、使う道などないと思っていたのだがな。
 
 まさかこの霊薬を吾が飲むことになろうとは。
 …確かに不味いわ、これは」
 
 ぼやくように呟き、そっと自分に絡んだ正行の腕を外そうとして、媛神は目を見開いた。
 正行は気を失ってもなお、媛神の狩衣の緒をしっかりと掴んでいたのである。
 
「この倭国にこれほどの武士がおったとは。
 
 誇るがよい。
 汝は、この綾と武で分けたのだぞ…」
 
 愛おしそうにその頭を撫でる。
 血と汗と土埃でごわごわになった黒い髪。
 その肌は血の気を失って冷たくなりつつあった。
 
「…もう、聞こえぬか。
 
 ふむ、吾のようにはいかぬのだな」
 
 正行はすでに息をしていなかった。
 媛神すら死にかけていたのだ。
 人の身でここまで戦ったこの武士が常識はずれなのである。
 
「これほどの男、このまま逝かせてはもったいない。
 
 だが、吾の霊薬を飲み下すことはもはや無理か…」
 
 媛神は迷わず丸薬を口に含んで噛み砕き、正行におおいかぶさっていった。

鬼媛傳(おにひめつたえ) | コメント:0 | トラックバック:0 |

『遠野の鬼姫』 参

 男は伝説の媛神の前にいた。
 
 前にこの山に入ったという愚か者から数えて百年以上たっているという。
 しかもここは貴澄山の奥深く。
 ここまで常人ならば人里から二日はかかる場所である。
 
 そこで出あった異形の鬼神。
 数々の武勲を持つという、この絶世の美女は尊大な態度で面白そうに腕を組んでいる。
 
 楽しそうに嗤っていた媛神だが、不意に見下すような嗤いを止めた。
 
「…武士よ、その肝の太さは大したものよ。
 
 吾と向かってそこまで涼やかに立っておるのだからな。

 しかも、吾が名を聞いて震えもせぬ。
 
 さて…人を見ぬようになって随分経つが、汝の耳に届かぬほど、吾が名は忘れ去られておるのかや?」
 
 首をかしげるようにした媛神は、好奇の声で男に問うた。
 
 もちろん“不敗の鬼神”を知らぬわけはない。
 それに男は、この媛神に会いにやって来たのだ。
 
 男はすっと胡坐になって両拳を地につけると、頭を下げた。
 
「御名はよく存じております。
 
 先に名乗らせてしまいました我が無礼、お許しください。
 
 我が家名において貴女様の名を知らぬはずはありませぬ。
 御尊顔を拝するのはこの度が初めてなれば、伝えにしか御身を知らず、憶えなきと頷きましてございます。
 
 私は秋月一郎正行(あきづきのいちろうまさゆき)と申す者。
 
 貴女様が憶えておられましたなら、秋月正成(あきづきのまさなり)が直末と申せばお判りいただけましょうか?」
 
 男の名乗りにくっと媛神の眼が見開かれる。
 
「なんとっ!
 
 汝は“鬼斬(おにきり)”秋月のものか?」
 
 媛神が驚いたのは2つの意味で、である。
 
 一つはこの男が縁あってよく知る人間の子孫だからである。
 
 秋月正成とは倭国でも有名な鬼殺しの英傑である。
 そして媛神にとってはその天稟(てんびん…もって生まれた才能のこと)を見込んで武芸を教えた数少ない人間であった。
  
 もう一つはこの男が“鬼斬”と呼ばれる有名な一族の姓を名乗ったからだ。
 
 “鬼斬”とは簡単に言えば鬼の天敵である。
 人の身でありながら、体格も力もはるかに優れる鬼を屠る武芸や術を身につけた者たちなのだ。
 
「はい、巷ではそう呼ばれております秋月でごさいます。
 
 私はその当代。
 
 使いをよこして訪ねるのが道理でありましょうが、この媛神様が禁域を知るものは使いも畏れて役を受けぬものばかりにて、ましては我等が一門は名の如く、媛神様の鬼の眷属には嫌われ者なれば、私自ら参りましてございます。
 
 数々の非礼、御容赦下さい」
 
 媛神はふむ、と頷く。
 
「先ほど、尋常ならぬ疾さでこの貴澄に入ってくる輩がいると気付いて、やって来てみたが…」
 
 一息吐き、媛神はからかうような目で正行と名乗った男を見据えた。

「あの豪傑、正成の血族か。

 遠野が千余の鬼の眷属を統べる吾、鬼斬においてこそ悪名高かろうに…
 畏れずにおるそなたは、武勇に奢れる若造か、死を急ぐ馬鹿者か、それともよっぽどの大物であるのか。

 そなたの血族には、吾に挑んで勇名を成そうというものも幾らかおったが…
 
 その涼しげな立ち振る舞い、かの猪のように阿呆な輩とは違うようじゃの。
  
 用件を申すがよい。
 吾としては、この血をたぎらせる話であることを期待するぞ。
 
 退屈だった近頃のこと、少しは余興ともなろう故」
 
 尊大な物言いであったが、苛烈高慢で気まぐれなことが有名なこの媛神らしいともいえる。
 まして麗しい顔を期待に緩ましている様は子供のようだと、無礼なことを考えつつも正行は居住まいを正した。
 
「では、畏れながら。
 
 実は近頃、遠野近くの村落で女子供を襲う鬼がおるという話にございます。
 貧しい村人の蓄えを奪い悪辣極まりない行いだと。
 
 話の筋を追えばそれは媛神様が眷属との噂。
 鬼を討つ我が一族の頭として、媛神様にお訊ねしたきことはその真偽にございます」
 
 ほう、と媛神は幾分残念そうな様子で頷いた。
 
「…吾が眷属がそのような仕打ちをしたと?
 
 鬼斬を名乗る汝ならば存じていようが、吾は眷属に力なき民を虐げることは許しておらぬ。
 そのようなことをして吾の名を名乗るものがおるとすれば偽者であろうな。
 
 汝ら鬼斬の業をもって存分に討つがよかろう。
 
 つまらぬ話じゃな。
 そんなことを吾に話すためにきたのか?」
 
 媛神は期待を裏切られたという顔で言った。
 
 正行は少しむっとしたような顔になる。
 
「貴女様の眷属を名乗っている鬼でも知らぬと?
 女子供が貴女様の名で虐げられたかも知れぬというのに、《つまらぬ》と?
 
 鎮守を名乗る貴女様が、近頃は貴澄の館に引きこもっておいでだと伺っておりましたが…
 あまりの言葉ではありませぬか?
 
 もしも貴女の威徳を敬う民ならば、貴女様の御名を聞けば従うほかはないというのに」
 
 明らかに責める口調に、媛神の顔がさらに不機嫌そうなものになる。
 空気が軋むような威圧感が正行を襲うが、動じた様子は無い。
 
「仮に吾が眷属の所業だとして、それを討つのは構わぬぞ。
 そのような痴れ者を討つのに吾が許しはいらぬし、責めもせぬ。
 
 人の及ばぬことを成す…そのための鬼斬秋月じゃろう?」
 
 いかにも面倒くさそうに媛神は言う。
 
「私どもが動くのは容易いこと。
 されど貴女様の眷属を討ったとなれば“遠野の三鬼将”も黙ってはおりますまい。
 
 そうなれば人と鬼の争いともなりましょう。
 直接かの三鬼将に私が頼みに行ってもかまいませぬが、媛神様のとりなし無くしては吾らが彼らの住処に入ることは争いの火種にしかなりませぬ。
 我等秋月、鬼には毒虫のように嫌われております故。
 
 どうか彼の眷属のこと、媛神様の御威光を振るってはくださいませぬか?」
 
 ふん、と媛神は見下げるように正行を嘲った。
 
「何を言うかと思えば、益体も無いことよ。
 
 汝、吾に泣きつくつもりかえ?
 …そのような下らぬ話を吾にするために来たのか、そなた?
 
 彼の鬼斬も堕ちたものよ。
 汝の先達はもう少し骨があったぞ」
 
 正行はこの物言いに思わず面を上げた。
 そこには憤りの様がある。
 
「…下らぬ、と?
 
 貴女様は遠野の鎮守では無いのですか?」
 
 正行の眼差しには曇りがなかった。
 真っ直ぐな眼で媛神を見ている。
 
「…人とは、都合の好い時だけ吾らを神だの鎮守だのと申すなぁ。
 
 吾を悪鬼と攻め入って来た勇ましい頃もあったが…
 近頃の人の益体の無さには、呆れ果てたわ。
 
 人ごときの、しかも遠野の外で起きた騒動のために何故吾が動かねばならんのだ?
 まったく、人など…弱く、醜く、つまらぬ。
 猛逸(たけはや)る鬼どもの方がよほど吾を楽しませてくれるぞ」
 
 媛神は癇に障ったのか、むっとした顔で言い放った。
 
「遠野近郊で媛神様を知らぬものはありません。
 聞けば媛神様を祀る社もある村々のございます。
 
 これはあなたを敬う人を苦しめる出来事でございます。
 
 それを人ごとき、と見捨てなさるのですか?
 鬼の暴虐で明日をもしれぬ女子供を…」
 
 相手が伝説の鬼神であるにもかかわらず、正行は全く引かない。
 
「ふん。
 
 数ばかり増える人の数人、食われて減ったとて何だというのだ?
 おぬしらも獣や鳥を食らうであろうに。
 本来の鬼もそれと同じことをしておるだけ。
 何故それを止める必要があろう?
 
 吾に人を護れと申すなら、護るにふさわしき気概をみせるがよい。
 汝ら人がなせる励みを見せるがよい。
 
 何もせず吾を頼るでない。
 
 もう問答は止めじゃ。
 
 吾を責めるその目、生意気ではあるが…
 今は無礼の仕打ちをする気も起きぬ。
 
 お前のような情けないことを申す男の一人、手を下すだけで吾が名を損なうわ。
 
 特別に此度は見逃してやる故、吾が“庭”より早々に去(い)ぬるがよい」

 媛神はいかにも失望した…楽しみにしていた期待を裏切られた子供のように溜息を吐くと、正行を追い払うかのように邪険に下がれと手を振った。
 
 媛神も鬼に襲われるその人間たちは可哀想とも思っている。
 後で配下の鬼にそれとなく聞いてみようか、と思いつつも、やってきた正行という男には興味も湧かなくなっていた。
  
 媛神は他力本願な者が嫌いである。
 力を持ちながらそれを振るわず他に頼るのは毛嫌いしている。

(下種な行いをする鬼など、鬼斬の武で討ち果たしてくれば、いくらでも三鬼将なりにとりなしてやるものを…)
 
 媛神には本来鎮守として鬼の頭目として、遠野の鬼の行いを見張る役目があるのだが、最近は館に引きこもってないがしろになっていたのかもしれない。
 
(それもこれもこの退屈がいかぬのだ…)
 
 媛神は闘争を好む激しい気性の女神である。
 
 配下の鬼たちが見せる相撲なども昔は楽しんでいたが、強きを求めてやってくる武士と戦ったり、遠野の支配権を狙って攻めてきた妖怪などを打ち倒す高揚を思えばじきに飽きてしまう。
 
 長い時存在してきた最強の女神には、満足できる高ぶりが最近は全く得られなかったのだ。
 
 それ故に、誰も恐れて入ってこない貴澄山に堂々と入ってきたこの正行という男には、何とはなしに期待していたのである。
 この男なら吾の退屈を終わらせてくれるのではないか、と。
 
 だが実際は、胆力もあり礼節もそれなりに尽くしてくれたが、用件といえば自分を頼っての泣き言のようなものだったのだ。
 
 楽しみにしていた祭りが雨で中止になったような気持ちで、媛神はすっかりしらけてしまったのである。
 勝手な期待をしていたことを棚に上げている、とも言えるのだが。
  
 結局媛神は、正行などもう眼中にない、という風に踵を返し去ろうとした。
 
 正行はさっと立ち上がり足に付いた土埃を払うと、去ろうとする媛神に向けて失望したように呟いた。
 
「遠野の主が聞いてあきれる。
 
 館にこもって腑抜け、眷属の尻拭いも出来ぬ能無しになったのか」
 
 媛神は歩みを止めた。
 凍りついたような表情で振り返る。
 
「…汝今何と、申した?」
 
 ぞっとするような凄まじい、大気が震えるような怒気があたりを包む。
 並みの人間ならその一睨みで心臓が止まってしまうだろう。
 
 しかし正行は口元に確かな侮蔑を浮かべた。
 
「腑抜けて能無しになったのか?と言ったのだ」
 
 その鬼気をものともせず、正行は平然とのたまった。
 
「…空耳かえ?
 
 吾を、遠野の統べる吾を能無しとほざいたか?」
 
 あまりの暴言に呆然と、そしてわなわなと震えながら媛神は正行を睨んでいる。
 これほどの侮辱の言葉を媛神は受けたことがなかった。
 
(この無礼な男を生かしては返さぬ。
 
 だが、本当に自分をここまで罵った者がいるのか確かめねば…)
 
 怒りのあまり、思考が混乱いていたほどだ。
 
 だが正行は万人を殺せそうな媛神の激憤を、先ほどの礼節など忘れたように涼しげに受けている。
 
「…言いなおそう。
 
 遠野の鬼姫は能無しの上、耳が悪い。
 二度も聞くなどもはや腑抜けどころではない。
 まるで呆けた年寄だ」
 
 ズガッァァァン!!!!!
 
 天地が逆転するような轟音とともに、周りの木々が数本、まとめてへし折れた。
 
「…ほざきおったな、下郎!!!」
 
 怒髪天を衝く。
 
 銀の髪は逆立ち、その瞳は稲妻のように光を放っている。
 突風があたりの草木を残らず薙ぎ倒していく。
 
 媛神の怒りはそれほど苛烈だった。
 
「…まるで駄々っ子だな」
 
 周囲の異常な空気を気にとめた風でもなく、正行は平然と異形を睨み返した。
 
「…許さぬ、許さぬ、許さぬっ!
 
 人の分際でぬけぬけと申したその暴言、秋月を名乗る一族郎党を全て引き裂き贖わせてやるわぁぁあっ!!!」
 
 正行が先ほどまで立っていた場所が陥没する。
 媛神の怒りは無尽蔵な力とすさまじい速度で、彼の後を追ってあたりを破壊していく。
 
「痴れ者が、逃すものかっ!
 
 その愚かな言葉をこぼす腐った口ごと、欠片も残さず消し炭にしてやるわ!!!」
 
 異形の眼前に巨大な光の珠が浮かぶ。
 
 稲妻を圧縮して塊にしたようなそれは、ばりばりと周囲に電光を迸らせ、一直線に正行の元へ飛んで行く。
 しかし、正行は太刀の柄に手を掛けると掛け声一息、抜きざまにそれを斬って捨てた。
 
「ぬっ?」
 
 これには媛神も眼を見開く。
 
 この正行という男、常人ならば三度は消し飛ぶ妖術を斬ったのである。
 太刀で妖術が切れるなど、聞いたことも無い。
 二つに断たれた光の珠は、正行の太刀から緩やかに立ち上る旋風に分かたれて大気に散っていった。
 
 すうっ、と空気を撫でる様に太刀を横に構えた正行は、滑るように一歩媛神へと踏み出した。
 
「…参るっ!」
 
 掛け声一声。
 
 媛神が息を呑む。
 それは神速の踏み込みだった。
 
 ガッシィィィィィイン!!!
 
 正行の一太刀は、媛神の無造作に突き出した素手…そこから一尺ほど伸びた鉤爪に受け止められていた。
 ぼとり、ぼとりと何かが落ちる。
 
「…何と!?」
 
 それは断たれた媛神の鉤爪二本である。
 壮絶な一刀を防ぎきれなかったのだ。
 
 怒り狂っていた媛神のの口元がくっと吊り上る…今度は笑みの形に。
 それは闘争を好む修羅が、戦うべき相手を見つけてたぎるような歓喜の表情であった。
 
 媛神は心の中で、無礼はとりあえず許してやろう、と思った。
 今までの鬱屈とした気分も怒りも、すべて消えてしまうような喜びを覚えていたからだ。
 
 だがこれほどの好敵手、逃せはしない。
 
 かつて大陸から渡って来た大妖すら媛神の爪を切り落とすなどといった芸当はできなかったのに、この男は簡単にやってみせた。
 しかも、神器名剣の類ではない武骨な普通の太刀で、である。
 
 ほとんどの場合、敵が一方的に媛神の武威に押しつぶされて勝負がつく。
 だが正行は一瞬、媛神を退けてみせたのだ。

 …この武勇だけで自分を退屈させ、侮辱して怒らせたことなど忘れてお釣りがくる。
 
「…面白い」
 
 くっく、と媛神は愉快そうに笑っていた。
 そこに先ほどの怒気はなく、かわりに無邪気で凶暴な気配を背負って口元を吊り上げている。
 
「…面白いぞ、汝。
 
 吾と戦うがよい。
 吾を楽しませたならば、無礼は許してくれる。
 生き残れば、じゃがなぁ。
 
 さあ…その力、存分に吾に魅せよ!」
 
 媛神がさっと手をかざすと稲妻が辺りを穿っていく。
 しかし正行の周りに不思議な風が吹き、稲妻を悉く跳ね返した。
 
 正行は媛神との間合いをぐっと詰め、一刀を浴びせる。
 
 カッ、と媛神がそれを払う。
 
 それでも正行は引かずに太刀を振るい、相手の鉤爪を削る凄まじい斬撃を放ち続ける。
 打ち合うこと十数。
 蝿でも打ち落とすかのように、媛神は大きく正行の太刀を薙いだ。
 
「ぬるいわ!」
 
 逆手のうなるような反撃の一薙ぎは、正行の水干を掠めて後ろの大木を断ち割った。
 
 ドスゥゥン!
 
 同時に鈍い音が響いた。
 
「ぐぅっ!!!」
 
 太刀の間合いでは間に合わないと知った上で、変則的に放った正行の肘打ちである。
 体当たりを兼ねた重い肘は媛神の胸を抉るはずであった。
 しかし、胸半寸手前で媛神の妖力が壁となり、辛うじてその一撃を止めていた。
 
「ふん!!!」
 
 媛神は強引に踏みとどまり、無造作に腕で正行を押しやった。
 そこで追い討ちを掛けるように鉤爪で薙ぐ。
 
 パキィィィイン!!!
 
 爪から放たれた妖力を、正行は突き出した太刀でそらすように弾いた。
 正行の髪数本を掠めとった一撃は後ろの大岩を五つに分断し大地を割っている。
 
 2人はさっと距離をとり睨み合った。
 
「………」
 
 媛神の粉砕した木や岩が今になって崩れ落ちる。
 
 たらり、と正行の頬から血の雫が流れ落ちた。
 
「ふふふふふ…」
 
 媛神が楽しそうな笑みを浮かべている。
 
「ははははは…」
 
 何時の間にか正行も笑っていた。
 互いに不敵な笑いである。
 
 
(ふ、肘打ちで吾が妖力の護りを破りおった。
 
 臓腑に染み入る一撃とは、侮っておったの)
 
 軋む身体を悠然と立たせながらも、内心媛神は驚いていた。
 
 媛神の纏う妖力の壁は鉄壁である。
 実際肘は止めきったのだ。
 だが、妖力を徹って重い衝撃が媛神の内臓を震わせていた。
 軽い吐き気を気力で押さえ込む。
 
 かつて媛神に不快なほどの一撃を加えることができたものは一人もいない。
 彼女と同類の神格や、異国の大妖でもだ。
 
 先ほどの薙ぎもわずかにずれた。
 あと少しで正行の頬肉ごと後頭部をごっそり抉り取っていただろうに。
 
 いや、攻撃を弾かれた鉤爪の一本に小さな裂け目がある。
 もう少し強い攻撃だったならこちらの爪が折れていたかもしれない。
 

(腕が痺れるほどとは。
 
 鬼神とはいえ何という薙ぎだ。
 無造作なようだが、通力を込めた太刀で受けねば頭が無くなっていたな)
 
 正行にとって先ほどの肘打ちは奥義の一つである。
 当てた大岩の後ろだけ砂粒に変えるほどの威力があるはずだが、完璧に入れたはずが効果を抑えられて二割の威力も出せなかった。
 媛神の鉄壁の防御に舌を巻く。
 
 逆に反撃を受け、それを流した太刀を握る腕がびりびりと痺れている。
 流しきれるはずだったのに、現実は紙一枚分歪んだ太刀と重い腕の痛みである。
 
 引きつるような頬の裂傷は、冷や汗が染込んでかすかな痛みを告げていた。
 
 
 互いに半分は痩せ我慢をしつつ、媛神と正行は、内から湧き上がる闘争への高揚に酔う。
 
 大木が崩れ落ちて巻き上がった木の葉が、そよぐ微風と一緒に2人の間を駆け抜けていった。

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『“風を駆る者たち”の噂』

 現在シグルトたち“風を纏う者”はアレトゥーザに近い林道にいた。
 途中の町から急遽護衛を、ということで銀貨三百枚で雇われたのである。
 雇用主はデオタトという商人だ。
 
 最初、シグルトたちは、あんたたちを探している商人がいる、と聞き誰だろうと尋ねてみた。
 それはリューンで、仕事の場としてアレトゥーザのことを勧めてくれたデオタトだったのだが、彼は呼ばれてきたというシグルトたちを見て、「あちゃあ…」と額を押さえた。
 
 どうやら頼んだ相手が間違ったとのことである。
 しかし、護衛は必要だからと、急遽シグルトたちは雇われて護衛となったのである。
 
「もうけたわね~」
 
 レベッカはまともな依頼にありついたことに御機嫌である。
 ついでに商人であるデオタトと、旅で手に入れた雑多な品物をトレードして携帯食や調味料などを手に入れていた。
 
「姐さん、商人の素質があるぜ…」
 
 レベッカの交渉術に参った参った、と笑いながらデオタトも御機嫌である。
 前に立ち寄った村で近隣を荒らす猪狩りを頼まれ、報酬代わりにもらったものの中に、珍しい植物の種があったのだが、それが随分貴重なものだったと、デオタトは言うのだ。
  
 冒険者たちが銀貨のみしか報酬にしないなら、それは都市近郊でしか活躍できない連中である。
 西方でも森に隔絶されたひっそりとした村の依頼では、銀貨より物品で報酬をもらうことも多いのだ。
 
 それを旅費や更なる物品に交換し、シグルトたちは少ない貴重な銀貨を節約してきた。
 道具袋も着実に重くなっている。 
 

「“風を駆る者たち”?」
 
 シグルトはその名を聞いて驚いたような顔をした。
 
 デオタトが最初に依頼するつもりだったのはシグルトたちではなく、“風を駆る者たち”という冒険者グループだというのだ。
 
「ああ、シュレックさんのいってた人たちだよね」
 
 ロマンが頷いて言った。
 
 シュレックとは、猪狩りを頼まれた村のはずれに住むという不気味な容貌の隠者である。
 ロマンはシュレックの著書を読んだことがあり、彼をとても尊敬していた。
 
 そこがシュレックの庵だと知ったロマンは、是非にと立ち寄って随分長くその隠者と話し込んでいた。
 お土産に杖と巻物をもらってきて御機嫌であったし、また行きたいと言っている。
 
 そしてその隠者の庵でも“風を駆る者たち”の名を聞いていたのである。
 “風を駆る者たち”は村人の依頼でシュレックと知り合ったという。
 
 レベッカの知っている限りでは、“風を駆る者たち”はシグルトたちの少し先輩にあたる冒険者たちで、冒険者の宿『風の旅路亭』を中心に活躍する6人構成のグループらしい。
 
「中にドワーフがいるから、新しい冒険者グループの中では結構知名度が高いのよ」
 
 大地の妖精族と呼ばれるドワーフは頑固で屈強な亜人である。
 本来細工や鍛冶を生業とすることが多い彼らは、人間と時折交易を持つことがあるし、彼らの作る品物はどれも優れたものだという。
 
 ただ、土地や仕事に強い執着を持つドワーフが冒険者となることはあまりない。
 戦士としてはとても頼りになるが、気難しい彼らを仲間にすることは困難でもある。
 
 エルフやハーフリングといったものを含め、亜人は数も少なく、めったに見かけることはないが、旅をする冒険者は一般人よりは出会う確率が高い。
 
 デオタトが伝言を頼み間違えてシグルトたちに声をかけた人物は、シグルトたち“風を纏う者”とよく似たグループ名の“風を駆る者たち”を勘違いしたのだろう、との話である。
 
「確かに似ておるの…」
 
 スピッキオがふうむ、とうなった。
 
「まあ、今回は得したんだし、いいじゃない」
 
 それにあの街にはいなかったんだから依頼は他の冒険者が受けなきゃいけなかったでしょ、とレベッカは続けた。
 
「“風を駆る者たち”か、どこかで遇うかもしれないな…」
 
 シグルトは“風を駆る者たち”という冒険者の名前に、不思議な縁(えにし)を感じていた。

 
 
 二話分まとめてのリプレイです。
 
 一つ目はカードワースユーザーならほとんどが知っているS2002さんの傑作店シナリオ『隠者の庵』。
 二つ目はMartさんの『碧海の都アレトゥーザ』の盗賊退治のサブシナリオです。
 
 実はMartさんのリプレイとクロスオーバーしましょう、ということを計画中です。
 そのため、依頼内容が重ならないように内容の導入を別物に変えてあったりします。
 
 これから時折“風を駆る者たち”の名前が登場することになると思いますが、Martさんのリプレイも楽しいので是非読んでくださいね。
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『遠野の鬼姫』 弐

 大陸の東の果て、海を渡ってさらに東。
 小さな島国がある。
 名を倭国(わこく)という。
 その国の民は倭(やまと)と呼んだ。
 
 その国に古い書物がある。
 『倭國異神記(やまとのくにことかみのしるし)』と題されたそれには、この国の異形の神や魔物の神話、伝説を記したものだ。
 その中に一柱の鬼神の伝説が記されている。
 
《この国の北に遠野という土地あり、獣多く木々茂りて人の入れぬ山数多。
 霊峰そびえ立つ中、その最も美しく高き峰は貴澄という。
 
 この地には古き代より一柱の媛神(ひめかみ)ありこの地を治さめる。
 能く(よく)妖術をなし千の鬼を統べる鬼神なり。
 
 その性、猛々しくありながら風雅。
 酒を好み、強きを好み、美しきを好む貴人なり。
 
 その姿、異形なれど雅にして麗し。
 白銀(しろがね)の長き御髪は輝く絹糸。
 眼(まなこ)は黄金色にて日輪の如く。
 肌は北国の白雪に似たり。
 その唇は丹の朱色、奏でる声は鈴の音。
 美しきにおいても人にあらず。
 
 雷(いかずち)を手繰り、風を纏い、空を震わす。
 それは天地(あめつち)の宿めを握るがごとく、常ならざる力を為す。
 世が理(ことわり)の糸を巧みに手繰る由(よし)、“綾”を編む如きなれば、名を“綾の媛神(あやのひめかみ)”と呼ばれしが、人は恐れて“遠野の鬼媛(とおののおにひめ)”と称す。
 
 一睨みされれば死に至り、その一喝は魂魄をも震わすという。
 
 千の兵もその武威に適うことなし。
 あまりに強く、戦うにあっては敗れるを知らず。
 数多の強者(つわもの)挑みて並ぶものなし。
 
 強きものには頂なれば、本朝の武臣も恐れ崇めたり》
 
 
 “不敗(まけず)の鬼神”。
 
 この美しく恐ろしい女神の伝説は倭国の隅々に広まるほどであった。
 
 
 ある時代、時の朝廷が貴澄に兵を差し向けて、彼の女神の聖域を蹂躙しようとした。
 
 新しい社殿を建てるための材木を求めてのことだったが、労働力として遠野にひっそりと暮らす山の民や森の民も徴用する考えだった。
 朝廷がこの地の民に従うよう一方的な物言いで、朝廷への服従の証として貴澄山で一番立派な木を採るよう命じたのである。
 媛神を恐れる遠野の民はそろってそれを断り、山や森に引きこもってしまった。
 これに怒った朝廷は壱千の兵をもって遠野を攻めようとしたのである。
 
 そして軍が遠野の入り口に差し掛かった折、率いる武将の馬が動かなくなってしまった。
 にわかに空が曇り、雷が轟くと兵たちの前に異形の女があらわれた…綾の媛神である。
 媛神の恐るべき気配に兵の多くが腰を抜かし、半数が逃げ出す始末であった。
 兵を率いていた武将は面目を保つため、媛神に切りかかろうとしたが、媛神の一喝で倒れ伏した。
 兵が連れ帰ったその武将は、都に着いたときは髪が真っ白になり、眼は白く濁って廃人の様だったという。
 
 綾の媛神は、たった一人で千の兵を退けてしまった。
 そして都にやってくると、遠野征伐を命じた朝廷の武官と将軍の館に稲妻と風で大穴をあけ、これ以上の狼藉があれば朝廷も同じになるだろう、と脅して去っていった。
 
 時の帝はあまりのことに寝込んでしまい、面目を潰された武官と将軍は免職されて流罪になった。
 朝廷は貴澄山と遠野には触れてはいけないといって、綾の媛神を“阿夜訶志貴守比売(あやかしのたかすひめ)”という古からある女神として遠野に社を設けて奉ったのである。
 
 綾の媛神が鬼の神として祀られるようになったのはそれより後である。
 
 いつしか鬼が山野に現れるようになった頃、牙王(がおう)という鬼の大将がたくさんの鬼を引き連れて遠野近郊を荒らしまわった。
 朝廷が築いた遠野の入り口にある阿夜訶志貴守比売の社も壊され、遠野の民は苦しんだ。
 これに心を痛めた女神たちがいた。
 遠野の森を守護する“朱衣掛小媛(すいかけのこひめ)”と“蒼葉着小媛(あおはつきのこひめ)”と呼ばれた双子の女神である。
 彼女たちは朝廷の兵を倒した綾の媛神の武勇を頼り、救いを求めた。
 綾の媛神はそれに応え、牙王以下多くの鬼をあっというまに打ち倒してしまった。
 牙王は綾の媛神の強さに感服し、進んで媛神の配下になったのである。
 牙王は“牙王丸(がおうまる)”と名乗り、綾の媛神にとって最初の鬼の眷属となった。
 
 当時朝廷によって退治されるばかりだった鬼たちは、綾の媛神をたよって続々と眷属となり、いつしかこの女神は鬼を支配する鬼神として恐れられるようになる。
 牙王丸は貴澄山の近郊に広がる“九弦谷(くげや)”という谷の洞窟を住処として与えられ、“九弦谷の牙王丸”と呼ばれるようになった。
 ほかに同じような鬼として“信太河(しだがわ)の紗霧(さぎり)”と“焼威沢(やいさわ)の猛盛(たけもり)”がおり、牙王丸と併せて“遠野の三鬼将(さんきしょう)”と呼ばれるようになった。
 
 この媛神、大変気まぐれではあったが、自分の守る遠野の民には寛容で慈悲深い女神でもあった。
 貧しい山野の民に恵みをあたえたり、流行り病があればどの薬草が利くかを教え、森に迷った子供を助けたりもした。
 歌や舞を好み、遠野の民にそれらと祭りを教えたのもこの媛神である。
 故に遠野の民は恐れと一緒に“あやさま”とか“おひいさま”と親しんで呼び、崇めていた。
 
 鬼の騒動の折、綾の媛神に助けを求めた“朱衣掛小媛”と“蒼葉着小媛”も、綾の媛神を慕ってその眷族となった。
 この二神は“すいさま”、“はづきさま”と呼ばれ、綾の媛神とともに遠野で信仰されることになる。

 綾の媛神…この恐るべき鬼神に挑み、名を上げようとする恐れ知らずの武芸者や豪傑もいたが、一人として綾の媛神に及ぶものはいなかったという。

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『遠野の鬼姫』 壱

 蒸せるような暑い日であった。
 
 匂い立つ様な萌える緑。
 初夏も終わろうとする森は、虫や鳥の鳴く声にあふれ、絡みつくような湿気と土の香りに満ちている。
 
 獣もよろめきそうな細い獣道。
 木々の鋭い枝を避け、歩むものがいる。
 
 色あせた墨染の水干を纏い、冠もなく無造作にその黒髪を束ね、腰には武骨な一本の太刀。
 背は五尺五寸を越えるほどあるが、筋骨隆々というほどではない。
 しなやかでどこか優美な身体つき。
 秀麗な顔立ちと、漆黒の深さの中、よく見ればわずかに蒼い輝きを宿した神秘的な双眸。
 粗雑な出で立ちでありながら、見たものがはっとするような美丈夫である。
 
 その男、歩き方からして尋常ではなかった。
 
 まず歩みが速い。
 走っているわけでもないのに、一歩で常人の五歩、十歩を見る間に踏破していく。
 
 これだけ草木が茂っている中、枝に触れることも葉を落とすことも無い。
 進むたびに枝や葉が勝手に避けていくのである。
 
 そしてただ無造作に歩いているだけであるのに、滑るように音一つしない。
 
 山の民の長老でもこうはいかないだろう。
 
 不意に開けた場所に出ると、男はふわり、と立ち止まった。
 
「もはや、彼の御方の庭に入ったはずだが…」
 
 1人呟いたその声は深くよく通る。
 
 周りを静かに見回すとまた歩みだそうとして、ぴたりと止まる。
 
 …虫も鳥も鳴くのを止めていた。
 風さえそよぐのを止め、そこには不気味な凪がある。
 
 男はすう、と一息丹田の下に力を込めて呼吸する。
 男の涼しげな顔。
 その頬を冷たい汗が伝わり、落ちた。
 
(…凄まじい威圧感だ。
 
 先ほどまで気配も無かったが、姿も見えぬのにこの有様か。
 噂通りの御方よな)
 
 男は完全に歩みを止め、目を見開く。
 
 びゅぉぅ、と風が舞う。
 
 そして瞬きする間もなく、目前にそれは立っていた。
 
 思わず退きそうになった男は、く、と腹に力を入れて、しっかりとそれを見た。
 
 ファサリ、と白銀(しろがね)の滝が波打った。
 瞳を閉じ、雪のような白い面に丹を塗ったような紅い唇が浮き立つように生える壮絶な美貌。
 藍染の狩衣を纏い、大木の下に立ちながら、その木よりも大きな気配を持つ女であった。
 見ればその輝く髪から横に大きく二本の異物…角のようだ。
 
 …異形である。
 
 腰は徳利のようにくびれ、胸と臀(しり)は程よくでて艶のある身体であるが、女人にしては背が高い…五尺三寸(175cm以上)はあるだろう。
 腰よりも長い絹のような髪がしゃらり、しゃらりと女を取り巻く光に交わって揺れていた。
 
 長く流麗な睫毛の奥、その眼がゆっくりと開かれる。
 黄金(こがね)が流れ出すように、輝くばかりの金色の瞳が顕われ、男に向けられた。
 
 男はごくりと唾を飲み込む。
 
 女は男がするように腕を組み、尊大そうに立派な胸を張り、自分よりも背の高い男を見下ろすように見やった。
 女の周囲はそれだけですべてが凍結したように静まる。
 
 しかしそれほどのものを、男は目をそらすことなく見据え先に言葉を発した。
 
「貴女様がこの貴澄山(たかすみやま)、遠野(とおの)の主殿でありましょうか?」
 
 どもることもなく、臆することもない涼やかな問いであった。
 
 女の美貌が興味深げな笑みの形に変わる。
 その艶やかな唇が、白く輝くような歯が、謳うように言葉を紡いだ。
 
「…近頃は吾(われ)を畏れ、人は誰もが近寄らぬこの山深く。
 
 のうのうと入って来たそなた、憶えなく吾(われ)を問うのか?」
 
 咲いた椿を思わせる深紅の唇から生まれ出る、鈴を鳴らしたような美声。
 聞くだけで魂が絞めつけられるような威圧感がある。
 
 そして、くくっ、と女は嗤った。
 
 男は恐れのない顔でしっかりと頷いたからである。
 しかし男の脇の下にはじっとりとした冷たい汗が伝い落ちた。
 
(…並の人ならば、睨まれるだけで死に、その一言で魂を奪われるという言い伝え。
 
 これならば偽りとはいえぬな)
 
 表情には出さず、心の奥で男は戦慄していた。
 しかしそれ以上に女の姿に見惚れている。
 
(…恐ろしい以上に、何と美しいのだろう。
 
 これが人ならぬ者が持つ、完成された美貌というものか)
 
「……………」
 
 男と異形の女は、しばらくの間押し黙って互いを見詰め合った。
 
 やがて女がまた嗤う。
 すうっ、とその陽の光を飲み込んだような黄金の双眸が男を真っ直ぐ見据えた。
 
「くく、吾の目をこうも長く見返した人なぞ、絶えて久しい。
 
 汝(なれ)の強き心に免じて応えてやろう」
 
 一歩、女は男の方へと進んだ。
 大気が揺らぐような威圧感と圧倒的な存在感が嵐のようにのしかかって来る。
 
 辛うじて男は下がらなかった。
 
「…吾こそはこの遠野が鎮守の女神(めかみ)。
 
 古(いにしえ)には“綾の姫神(あやのひめかみ)”なぞと謳われもしたが、数多の鬼を統べるが故に人間どもにはこうも呼ばれておるな…」
 
 にたりと嗤って女は続けた。
 
「“遠野の鬼姫”と」
 
 美しい鬼の女神は忌み名であろうそれを、面白そうに口にした。
 興味深げに目を細めて男を見つめる。
 そして胸を張り、誇らしげに付け加えた。
 
「吾にここまで語らせるほど忍んだ、汝の胆力を誇るが善い。

 そう、あえて吾を名乗るなら“綾(あや)”である。
 畏まって呼ぶが良い、武士(もののふ)よ」
 
 異形の女は心底可笑しそうに、口元を吊り上げた。

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新シリーズ 『鬼媛傳』

 昔、CWの連れ込みシナリオ『希望の扉』シリーズなるものを考えて、若さと馬鹿さに任せて五話も作ってしまいながら、素材不足とあまりの荒唐無稽な内容に発表をあきらめていたもの。
 そのなかで一際頑張ったストーリーが『鬼媛傳(おにひめつたえ)』という和風ファンタジーもののお話です。
 
 調子付いて新シリーズとして小説風に書き下ろしてしまいます。
 まあ、メインのCWリプレイのついでにでも読んでやってください。
鬼媛傳(おにひめつたえ) | コメント:0 | トラックバック:0 |

『古城の老兵』

「まずいな…」
 
 ぽつぽつと降り始めた雨。
 
 シグルトは天を見上げ眉をひそめた。
 
「ここで一雨来るなんてね。
 
 あと少しでリューンなのに、困ったものだわ」
 
 レベッカも雨避け用に外套を取り出しながら周囲を調べている。
 
 通行税を節約するためと、近隣の村で小遣い稼ぎをしてきた都合から、街道を大きく外れて“風を纏う者”の一行は、この荒れた丘ばかりの道なき道を進んでいた。
 
 稲光に周囲が白く染まり、大気と大地がびりびりと震える。
 轟音の近さにロマンが思わず目を閉じた。
 
「…近かったの」
 
 スピッキオも真剣な顔で、少し雨を強く降らし始めた空を細い目で睨んでいる。
 
 雨は旅において大きな障害である。
 冷たい雨は体力を奪い、衣服にしみこんだ水は荷物となり、べたつく不快感が病んだ感情を引き起こす。
 
 ここからリューン郊外にある『小さき希望亭』は8時間ぐらいだろうか。
 子供のロマンの足で、しかも悪天候ともなればさらに時間がかかるだろう。
 
 雨は強まり土砂降りの気配だ。
 すでに外套は水を吸い始め、不愉快な重みを増し始めていた。
 
「だめね、このあたりには雨を凌げそうな場所はないわ。
 
 まあ、この雷じゃ大木があったとしても危なくて雨宿りなんてできないけどね…」
 
 とにかくここで休んでいるわけにもいかないわ、とレベッカが急かす。
 
 “風を纏う者”は憂鬱な気分で歩調を速め、リューンに向けて続いている丘陵を越えていく。
 
「…あれ?」
 
 ラムーナが不意に立ち止まった。
 
「…どうした?」
 
 怪訝な顔をしてシグルトも足を止めた。
 
「…あっち。
 
 何かあるみたい」
 
 ラムーナが指差した方角を皆注視する。
 
 苔むしていて景色にひっそりと溶け込んでいたが、大きな建物のようだった。
 
「でかいわね…
 
 城か砦みたいだけど、このあたりには轍も蹄鉄の跡もないから、人がたくさん住む場所なんてないはずよ。
 
 最近の田舎領主を含めた諸侯、隠居した貴族や豪商にも、こんな場所に城を持ってる奴がいるなんて聞いた事がないわ。
 
 交易路からはかなり外れているし、人がいるかは疑問ね」
 
 普段のちゃらんぽらんで怠惰な彼女の素行からは想像もつかないが、レベッカの情報の正確さと豊富な雑学は一行を何度も救ってきた。
 彼女に言わせると、情報と雑学は飯の種、だという。
 
 行ってみる?と聞いたレベッカに頷き、シグルトたちは建物へと歩みはじめた。
 
 
 …それはあちこちが欠け落ちた古びた城であった。
 
「…どうやら罠の類はないみたいよ。
 
 まあ、こんな場所に潜んでる盗賊連中がいたら、何か気配があるものだし、ここは住むにはちょっと不便な場所よね」
 
 荒地の続く周りを見下ろし、レベッカは無人だろう、と付け加えた。
 
「それなら、ここを借りるとしよう。
 
 屋根があるのはありがたいし、濡れてない場所で寝られるなら充分な休憩になる」
 
 シグルトが決定すると一行はほっとしたような顔になった。
 
 枠から崩れ落ちた城門の跡をくぐり、ぽっかりと空いた城への入り口から、苔の香りのする城の中へと入って行く。
 雨雲に覆われ、夕刻を過ぎて暗くなっていた空の下で、この朽ちかけた古城の中はまさに暗闇の世界であった。
 
 シグルトは城の入り口近くに刺さっていた松明を外し、苦労して火をおこすとそれに灯して先を進んだ。
 今度はもっとよい火口箱が必要だなとぼやくシグルトに、ラムーナが節約節約~と即座に言った。
 レベッカが複雑な顔をし、ロマンが忍び笑いをしている。
 さすがに聞きなれたわい、とスピッキオが止めを刺した。
 
 松明の揺れる明かりは、白の石畳をぼんやりと照らしている。
 そしてすぐに、城の通路に転がったものを浮かび上がらせた。
 
「…ひどいな、これは」
 
 それはおびただしい数の人骨と、錆びた武器や甲冑だった。
 戦って死んでいったのだろう、頭頂の砕けたしゃれこうべや身に着けた甲冑ごと貫かれている骨が、もの悲しそうに転がっていた。
 
「ふむ、どうやらこの城は戦いの後に放置されたものの様じゃ」
 
 スピッキオは死体を見つけるたびに、簡単に祈りの言葉を唱え十字を切る。
 
 どの部屋も骨と瓦礫ばかりで、時折隙間から入り込む雨が、古城を陰気に湿らせている。
 
 やがて、死体のない休めそうな一部屋を見つけて中に入った。
 
 安心したようにロマンが座り込む。
 レベッカが汗で額に張り付いた髪を払い、壁に寄りかかった。
 普段は元気なラムーナも大きなため息をついている。
 
「百足に気をつけろよ」
 
 シグルトはレベッカに目配せすると、部屋の壁に備え付けられた金具に松明を掛けた。
 
 幸いこの部屋には暖炉がある。
 火が焚けるのならば、服を乾かし、熱いスープを啜ることもできるだろう。
 
 一行はとりあえず荷物を置き、濡れて重くなった外套を外して廊下で絞り、各々の場所を見つけて座り込んだ。
 
 シグルトがもくもくと火にくべられそうな木片や廃材を集めて暖炉の近くに積み上げ、レベッカはどこからか調達してきた古びた鍋を溜まった雨水ですすいでぼろきれでぬぐうと、少しの酒を入れ、水を水袋一つ分丸々注ぎ、石を組んでそれを固定し、火をつけた。
 塩とアレトゥーザで手に入れたマッケローニ、乾燥したハーブ、少量の干した果物を細かくちぎって側におき、火を入れて湯を沸かす。
 塩を入れ、手際よく用意した具を放り込んでいく。
 即席のスープができ、手持ちの形の揃わない食器でスープを回し飲みをしている頃、雨がやんだ。
 
「あれだけの雨だったのに、月の女神様は気まぐれよね」
 
 レベッカは、夜の闇に溶け込むように大きな月が浮かんでいる空を、恨めしそうに眺めた。
 
「準備も終わっているし、夜歩くには道がぬかるんでいるからな。
 
 今夜はここで休もう」
 
 レベッカが素晴らしいタイミングで、先日の仕事の報酬としてもらった葡萄酒を取り出した。
 ロマンはお酒は頭を馬鹿にするといって、1人で水に黒砂糖を溶いたものを啜っている。
 他の者たちは交代で器を回し、酒を飲んだ。
 しかし最後に器を受け取って酒を飲もうとしたシグルトは、不意に険しい表情にかわり、レベッカを見る。
 脇には片手で剣を引き寄せている。
 
 レベッカは頷いて持っていた器をそっと床に置いた。
 
「どうした?」
 
 スピッキオが聞くとシグルトは床を剣の鞘の先で指した。
 
「音がする。
 
 下の階からだと思うが、たぶん人間だ」
 
 そういって一番耳のよいレベッカを見る。
 レベッカは静かに首肯した。
 
 一行は油断無く得物を側に置く。
 
 しばらくの間、緊張した時間が続く。
 ロマンが唾を飲み下し、ラムーナも不安げに暖炉の火が届かない闇を見ていた。
 
 そして、何かを引きずる音がし、足音が近づいてくる。
 
 やがて、月明かりを背に、外套のフードを目深にかぶった人物が現れた。
 
 白いものが多く混じった髭。
 年の頃は60ほどの男のようだ。
 
「明かりが覗いている上に、音がするから何かと思えば…
 
 野党の類か?
 こんなオンボロな城に何かようかね?」
 
 かすれた音の混じった、独特の発音の声だった。
 
「俺たちは冒険者だ。
 
 俺の名はシグルト。
 一応こいつらをまとめている。
 
 旅の途中で雨に会い、雨宿りを兼ねてこの城に転がり込んだ。
 野党をするならもう少しむさ苦しい連中になるはずだがな」
 
 そう言って後ろにいる仲間を見せる。
 女2人に子供と老人という取り合わせに、男はなるほど、と頷いた。
 
「ここはあんたの持ち物か?
 
 まさか人が住んでいるとは思わなかったんだが…」
 
 男はふむとまた頷いた。
 
「儂はここに住んでおるものじゃ。
 名はグロアという。
 
 シグルトといったか…
 最初に名乗るとは、なかなか礼儀をわきまえておるようじゃ。
 
 この城は今は亡き王の物。
 おぬしらが雨宿りをしようとも、野宿をしようとも、儂の委細はいらんよ」
 
 グロアという老人の言葉に、一同は安心したように緊張を解く。
 老人はシグルトの腕や剣をしげしげと見つめていた。
 
「…シグルトとやら。
 
 お主は剣を使うようじゃが、剣術に興味はあるか?」
 
 老人はしばらくシグルトを観察していたが、ふいにそう尋ねた。
 
「ああ、無くはないが。
 
 そういえば爺さん、随分見事な得物を下げているが…」
 
 シグルトは老人のローブから出ていた刀の柄を指差した。
 
「…昔少しな。
 
 もしおまえが剣術に興味があるなら、後日あらためて来るといい。
 古の剣術を教えてやろう。
 …ただではないが、な。
 
 ただし昼間はやることがあるので教えられん。
 伝授は夜に、だ。
 その時はここに泊まればいい」
 
 一方的に告げるとグロアという男は部屋を出て行こうとした。
 
「まって。
 
 おじいさん、こんな古城で1人何をしているというの?」
 
 レベッカが聞いた。
 
 グロアはしげしげと一同を眺めた。
 そしてつぶやくようにかすれた声で告げる。
 
「墓仕事だ。
 
 この城にある骸を全て埋葬するためのな…」
 
 レベッカは、嘘でしょう?と目を丸くした。
 
「骸って…
 
 この古城に転がってる骨全部?」
 
 すでに朽ちた骸は古く、すでに城の一部のように景色に滲んでいる。
 
「そうじゃ。
 
 それが儂の仕事であり、責務でもある」
 
 そういったグロアの背は、途方も無い間重ねてきた時の重みを感じさせた。
 
「みたところ、かなり古いもののようだけど。
 
 あなたがこの城の生き残りだとしたら、何年ぐらいその仕事を続けているの?」
 
 呆然としたレベッカはうめくように聞いた。
 
「…聖北の暦で、今は何年かな?」
 
 何かを思い出そうとしたグロアは僧服を着たスピッキオに尋ねる。
 スピッキオは正確な今日の日付を教えた。
 
「ふむ…
 ざっと40年ほどになるな。
 
 まあ、大体はそんなところだろうとは思ったが」
 
 吐き出すようにグロアは答えた。
 
「40年?
 長いよね…
 
 でもそれだけの時間があれば城の中の埋葬が終わっててもいいと思うんだけど」
 
 首をかしげたロマンがいう。
 
「たしかに、この城の中だけならばな。
 
 だが、この国の民全てが根絶やしにされたのだ。
 城の骸で足りる数ではない」
 
 グロアの言うような虐殺があったとすれば、それはすごい死体だったのだろう。

「この平原に死体はまんべんなく散っていた。
 
 ゆえに風化の早い場外の者から埋葬していった。
 …十日ほど前にそれらは終わったがな。
 
 だが、この老いぼれた身体。
 今では仕事の邪魔になるばかりよ。
 
 …全ての者を埋葬し終えるまでに、この身体がもてばいいがな」
 
 悲しみも苦しみも遠い過去においたまま、責務を果たすことのみに生きているグロアの自嘲的なため息とともにもれるしゃがれ声。
 
「…長話になってしまったな。
 
 すまんの。
 まともな人間と話すのは久方ぶりで、話し込んでしまったようだ」
 
 レベッカはそう言う老人に首を横に振って、教えてくれてありがとうと言った。
 
 グロアは、ゆっくり休むとよい、とその厳つい髭面の口元に微笑を浮かべ、去っていった。
 
 
「…別に要所って訳ではないけど、これだけの規模の城が誰の手もつけられないで、何でのこってるのかな?」
 
 ロマンは首をかしげていた。
 
「おそらく宗教戦争じゃ。
 
 交易路から外れ、海路への繋ぎにもならぬ。
 
 でこぼこの丘に岩が露出した地面。
 周囲に森どころか木の一本も無い。
 
 このような土地を攻めるのならば、他宗教の抹殺に他あるまい。
 
 かつて聖北の徒は、教会という機関そのものが下らぬ権力者の戯言に踊らされ、教義を違えた愚か者が人を扇動し、他宗教を潰すことに狂っておった時もある。
 
 殺した後は異端異教の死の尊厳など考えもせず、適当に金目のものを奪い、死体も野ざらしよ。
 攻めて、殺して、取って…それで終わりじゃ。
 
 かつてわしと同じように聖職を与えてもらったものが、そのようなことを起こしたのであれば、情けない限りじゃ」
 
 スピッキオはこの国のように人知れず滅びた国が、かつてたくさんあったこと、そしてここあったであろう古い古い異教の国の名を、厳かに口にした。
 
「…あのじいさんはその生き残り、か」
 
 シグルトに向かってロマンが首を振った。
 
「違うよ。
 
 普通あんな母音の発音でしゃべる人はこの地方にはいなかったはずだし。
 あれって、あちこちの言葉の発音が混じってなまってる。
 いろんなところを転々としてきたんじゃないかな?」
 
 そして歴史を思い出し、おそらく傭兵か仕官を求めてきた旅の武芸者だろうと言った。
 
「滅びた国を流れ者1人で弔う、か。
 
 なんとも物悲しい話ね」
 
 レベッカのつぶやきに、ラムーナが、おじいさんかわいそう…と目を伏せた。
 
 一同はそれっきり黙りこみ、見張りを決めて残った飲食物を片つけると、順番に寝ることにしたのだった。

 
 
 
 SIGさんの店シナリオ『古城の老兵』です。
 
 SIGさんのシナリオのハードボイルドな雰囲気は私大好きでして、ベクターを覗きに行くと思わずSIGさんのシナリオを探してしまうほどです。
 
 『古城の老兵』は剣術を購入できる店シナリオですが、ある種の人間はニヤリとさせるマニアックなスキルがたくさんあります。
 
 時期はアレトゥーザからリューンへの帰り道という描写です。
 
 今回はお金が無いのでフラグを立てて来れるようにしただけですが。
 このシナリオは最初に来るとプロローグのように、グロア老人との邂逅があります。
 
 両刃の直刀以外にも、日本刀や短剣、レイピア用のスキルもあるので、剣士のスキルがほしい方にはお勧めです。
 
 
 このシナリオのグロア、シグルトになんとなく雰囲気が似てるんです。
 武骨でシンプルな口調とか、その背中に背負ったものの大きさとか。
 
 プレイしたなら、SIGさんの濃厚な世界を是非味わってください。
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『碧海の都アレトゥーザ』 潮風を背に

 アレトゥーザを旅立つ朝。
 
 黎明の清らかな輝きが空を染め、“風を纏う者”を送り出してくれた。
 すがすがしい潮風が、纏うべき未来の風を暗示しているようだ。
 
 昨日の充実した時間を思い出し、それぞれこの都市に再来を誓いながら歩み出すシグルトたち。
 
 …なぜかその中で、レベッカだけが不機嫌である。
 
 昨日の夜は上機嫌に酒をのみ、昼に知り合いに高級店で奢らせた、今が旬だというムール貝を南の特産品のオリーブオイルでソテーしたものや、熟した果物の甘みを自慢げに語っていたのに、である。
 
「なんじゃ、レベッカ。
 
 この爽やかな朝に何をむくれておる?」
 
 スピッキオが細い目を瞬かせ、怪訝そうに聞く。
 
 レベッカは、ぎぎぎ、と音がしそうなぐらい不穏な首の動きでスピッキオを睨んだ。
 
「…このモウロクジジイが、誰のせいだと思ってるのよ!」
 
 そういうとレベッカは銀貨が入った袋をじゃらりと鳴らした。
 
「勝手に銀貨六百枚も使って…あんたボケたんじゃないの!
 
 今私たちの手元にあるお金って、銀貨二百枚きりよ、に・ひゃ・く・ま・い!!!
 
 こんなじゃ、リューンに着く前に素寒貧よ~」
 
 そういって地団駄を踏むレベッカ。
 ラムーナが、楽しそう~と言ってまねをする。
 
「ああ、もう!
 
 揃いも揃ってあんたたちはなんて計画性のない金の使い方をするのよ…
 
 いい?
 私たち冒険者はね、旅でどかすかお金を使うの!
 
 通行税に宿代、食費に旅装費…
 
 なのに今あるお金はちょっと高い宿に一回泊れるかどうかよ!
 あんたたちが勝手に大金を使っても皺寄せは皆に来るのよ!
 
 それが、このジジイったら『新しい秘蹟を伝授してもらったから寄進した』ですって?
 
 私たちを野垂れ死にさせる気?
 
 私が交渉して苦労して必死に節約してきたお金なのよ、もうっ!」
 
 すごい剣幕である。
 
 シグルトは、仕事を探しつつ野宿しながら旅かな、と苦笑している。
 野宿♪、野宿♪~と陽気にラムーナは踊っている。
 これだから大人って…、とロマンのため息が入る。
 
「おまえは強欲すぎるんじゃ。
 
 その気になれば人間、その身一つで生きていけるわい。
 金銭なぞ、こだわるからいかんのじゃ。
 
 わしが居った修道院では…」
 
 スピッキオが修道院名物の清貧を謳い始める。
 
「このジジイ!
 
 そういうのは自分だけにしなさいっての。
 だいたい修道士って、普通修道宣言して階級とかないはずでしょ?
 それなのにちゃっかり司祭様やってるじゃない!
 
 物欲を捨てたのなら名誉欲も捨てなさいよ!!!」
 
 意外に宗教事情に詳しいレベッカであった。
 実は元修道士で、スピッキオのような僧職の階級についている在野の司祭は極めてまれである。
 
 本来、修道士は修道宣言をし、ブラザーと呼ばれ、本来俗世間からは離れるものだ。
 地位や欲を嫌って修道士として生活したものは、僧侶としての実権や地位を疎むものが多い。
 それに、司祭は本来一つの教会や、大きな教会の中核を担う役職である。
 旅に出ている事態、極めて異例なのだ。
 
 修道士出身の司祭ももちろんいるが、そういう連中はほとんどが「修道院で修行してきた」という箔を付けたいだけである。
 
 …実はスピッキオが僧職についているのにはかなり政治的な理由があった。
 
 この年寄り、かつては修道院でも古株で、前の院長に次ぐほどの人物だったのだ。
 しかし、修道院に新しく入ってきた院長は学僧(神学や学問を重んじる僧侶)タイプの人間で、その修道院を学僧の養成所として改革しようとしていたのである。
 そして頭が固いスピッキオを追い出すために、とある司教を通じてスピッキオを階級のある僧職にして、修道院に「いられなく」したのだ。
 名目上は修行を終え、司祭の任に就いて旅立ったことになっている。
 ただ、スピッキオも自分の意思で旅に出たという自覚はある。
 
 スピッキオの属した修道院は、スピッキオを推薦した司教の援助を受けており、しかもその司教はどうしようもなく善人であった。
 スピッキオを追い出そうと画策した新しい院長が、スピッキオの徳を褒め称え、修道院に埋もれさせるには惜しいと話を持ちかけ、その善人の司教は使命感と期待からスピッキオを司祭に推薦したのである。
 自分に期待してくれるその司教の好意を無下にもできず、そのまま用意された教会に収まるはずだったスピッキオであるが、新院長の思惑通りになるのはごめんと、布教巡礼を誓って旅に出たのだ。
 
 スピッキオも司祭職を返上しようかとも思っていた。
 しかし、この地位だからこそ救い導けるものもいることを、クレメント司祭に出会って教えられ、今のままなのである。
 それに僧職を辞めて還俗したところで、おそらく自分を追い出した新院長の思惑通りになってしまう。
 頑固で無欲なスピッキオが、還俗して聖職から離れることを期待していたふしがあるのだ。
 
「むう…」
 
 自分でも充分今の矛盾した立場を理解しているだけに、スピッキオはどう説明したものかとうなってしまった。
 
 鬼の首でもとったような顔で、どうよ、というレベッカ。
 
 しかしここでシグルトが間に入る。
 
「レベッカ…この爺さんが名誉欲に染まったただの俗物だと、本当に思うのか?」
 
 シグルトの言葉は至極シンプルだった。
 このリーダーは、ごちゃごちゃしたしがらみは無視して本題や本質からすっぱり入る人間である。
 
 レベッカも熱くなって、言い過ぎたな、といつものクールな彼女に戻っていた。
 きっと熱くなれるぐらいはこの連中に親しみを感じてるんだな、と自己を分析しつつ結局は、しかたないわねぇ、とリーダーを立てるのだった。
 
「さて、行こう。
 
 金がないなら仕事を探しながら、な。
 レベッカ、その手の匂いがあったら頼む」
 
 いつもの苦笑。
 
 私は犬じゃないっての、とすねた顔を見せつつ、レベッカはさっさと歩き出した。
 
 シグルトは一度だけアレトゥーザの門を振り返ると、そこで出会ったたくさんの人々と風景との再会を心から願うのだった…

 
 
 
 ちょっと長かったアレトゥーザ編いかがだったでしょうか。
 何か生活描写を必死に書いていた気もしますが、多少の間違いはファンタジーということで、大目に見てください。
 
 今回の金銭云々のお話、アレトゥーザに来たときにレベッカが祈り云々考えていた伏線に繋がっています。
 
 修道院の話は実際のカソリック修道院をモデルにアレンジしたお話ですが、「そんなわけあるか~」と突っ込みたい方は是非真実を教えてくださいね。
 内容変更するかもです。ミーハーなので。
 
 ちなみにアレトゥーザでスピッキオが習得したスキルは【聖別の法】です。
 【魔法の鎧】があればいらないじゃん、という方、黒砂糖です。
 低レベルの時こそ、このスキルはめちゃくちゃ重宝します。
 このスキルを体力的に薄いPCにかけることで生存率ががくっと変わります。
 特に体力のない回復役が最初につぶれて泣く方は是非使ってみてください。回復役がつぶれないと回復が間に合うようになり、連鎖的に全滅するパターンがかなり減ります。
 戦闘中にも手札に配布されやすいので、敵に奇襲を受けても使うことができます。
 何を隠そう、冥王の爺さんの魔法を喰らったとき、瀕死になったもののPCを生き残らせた逸品です。これ使って【防御】して何とか、でしたが。
 
 
 という訳で…
 
【聖別の法】(-600SP)
 
◇現在の所持金 200SP◇(チ~ン♪)
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『碧海の都アレトゥーザ』 路地裏の鼠

 路地裏のすえた匂いを嗅ぐのは久しぶりだった。
 
 レベッカはだらけた歩調で歩いていくが、石畳に全く足音が響かない。
 路地の間から怪訝そうに見ていたものたちは納得したように去っていく。
 
 これだけの大きな都市で、暗い路地裏を歩けば高い確率で引ったくりやスリに会う。
 
 …普通ならば。
 
 レベッカの歩き方は符丁である。
 私は同類だから襲うな、という。
 
 路地裏は裏社会の領域である。
 そこに普通の人間が入ってくることを、社会の歪に生きる人間たちは嫌う。
 大げさな引ったくりやスリをしてひどい目にあわせ、普通の人間から領域を守るのはレベッカが駆け出しだったころに手伝わされた仕事だった。
 
 こういう都市では下層の役人たちと犯罪組織は繋がっている。
 奪ったお金や荷物は、役人が取り戻したことにして、少しだけ授業料をもらって返す。
 一度路地裏に入る危険性を知ったら、普通の人間は来ない。
 あとは適当に強姦だの殺人だのがあったのだと役人や、かたぎとして社会に潜っている組織の人間を使って大げさな噂をまけば近寄るものは少ないのだ。
 
 路地裏や地下は彼ら…盗賊たちのホームグラウンドなのである。
 
 そして、年老いた乞食が1人、ぼろきれを敷き前に物乞いの鉢をおいて座っている。
 通りからはずれた、危険なこの場所で、である。
 
「美しいお方、どうぞ哀れな私に恵みを下され…」
 
 レベッカは銀貨を三枚鉢にかがんで置いた。
 硬貨がちゃりん、と小気味よい音を立てる。
 
「ねえ、おじいさん…
 この辺りに『鼠の巣』はある?
 
 前にリューンで《私みたいな猫》とじゃれてた、《逃げた鼠》を追って来た《蛇》みたいなファビオっていう《鼠》を探しているの。
 
 確かこのあたりで《遊んでいる》と思うんだけど」
 
 あえて判りやすく使う隠語。
 都市毎に違うそれは、違う都市から来た盗賊は場合によっては素人でも通じるように砕いて言う。
 そして回りくどくても隠語を使える人間であることを伝え、同類であることを確認するのだ。
 
 『鼠の巣』とは盗賊ギルドや盗賊たちが集まる場所である。
 《私みたいな猫》とはスリをやってた自分という意味、《逃げた鼠》は逃亡した盗賊、《蛇》は暗殺者や刺客の意、《鼠》は盗賊、特に情報屋のことである。
 《遊んでいる》とは潜伏するとか生活するという意味だ。
 
「ねえ、おじいさん…
 この辺りに盗賊ギルドはある?
 
 前にリューンで私がスリだったころ組んだことがある、逃げた盗賊を始末に来たファビオっていう盗賊を探しているの。
 
 このあたりにいると思うのだけど」
 
 レベッカはそのようなことを言っているのだ。
 銀貨を三枚をかがんで置くというのは礼は尽くすし、悪さはしない、ここのやり方やルールは守るという、下出に出ている挨拶の仕方だ。
 
「おお、ありがたい。
 
 あっちで神様が見ておられますぞ…
 
 祈りなされ。
 
 鼠もきっと喜びますぞ、巣に連れて行ってくれるぐらいにのう。
 ほほ、ほ」
 
 レベッカは教会に続く道を指しそれをくいくいと回す乞食の指の動きをしっかり確認すると、ありがとね、とさらに2枚銀貨を置き乞食が指差した方角へ歩いていった。
 
(教会近くの入り口にいて、門番やってるのか。
 
 でもさすがはファビオが入ってる組織の庭ね、行き届いているわ)
 
 レベッカはここの人間たちがかなり盗賊ギルドと関わりが深いことを知って、古巣に戻ってきたような緊張と安堵を覚えていた。
 
 
 教会近くの路地の入り口で、隻眼の目つきの悪い男が立ち、壁に寄りかかっている。
 レベッカはスタスタと突然足音を立てて歩き、男に思いっきり大げさに跪いて手を組んで祈るような動作をしてみせ、男を見上げてウインクしてみせる。
 
「…レベッカ?
 レベッカなのか?」
 
 立っていた男は一瞬ぽかんとして、すぐに口元を緩ませた。
 
「お久しぶりね、ファビオ。
 でも、あたしたちが拝むのはお宝だけで充分よ。
 
 今のやつ(符丁)は悪趣味だわ」
 
 そういうと2人は旧友がするように抱き合って、互いの背と肩を軽く叩きあった。
 
「ここだけの話、うちのボスは人使いが荒くてな。
 
 こんな抹香臭いところで、豚や羊が迷い込まないように番をさせられる者の身になってほしいぜ」
 
 豚は意地汚い人間(何でも食べるので)、羊はお人好しの人間。
 ともに一般人のことである。
 
 このように符丁や合言葉をそれとなく混ぜると、盗賊が一般人に会話を理解されることはめったにない。
 本来ならもっと難しい暗号や隠語を用いて話すのであるが。
 
 ファビオとレベッカに呼ばれた男は近くに立っていた男に目配せすると、レベッカについて来いよ、と合図した。
 
 路地を抜けた先、薄暗い路地の奥にあるつぶれそうな酒場の地下。
 
 アレトゥーザの盗賊ギルドはそんなところにあった。
 
 敵対組織や繋がった官憲の裏切りで、場所はいつ移動するかわからないのだが。
 
「懐かしいな、レベッカ。
 
 昨日来た冒険者の中に、雌の穴熊(冒険者の中の盗賊という意味の隠語)が混じってるって話だったが、おまえだったのか」
 
 ファビオは席に着くと下っ端にエールとつまみを持ってこさせる。
 
「感心しないわね…
 
 生真面目なあんたが、昔なじみが来たからって、昼間からエール?」
 
 レベッカは似合わないわよ、と吹き出した。
 
「まさか、こいつは昔なじみのおまえへの俺のおごりさ。
 俺はやらないけどな。
 
 昔のことだが、リューンじゃ世話になったからよ。
 ま、代わりといっちゃなんだが、ここでなにか情報がいるときは俺に声をかけてくれ」
 
 こうやってコネをつくり、貸し借りをつくり、関係をを広げる行動は盗賊にとって当然の行いだった。
 一歩進めば裏切りと報復の世界だからこそ、盗賊ギルドやその盗賊は義理や掟を大切にし、横のネットワークの作成に余念が無い。
 そして仲間をとても重んじるのだ。
 
「まぁ、いいでしょ。
 今日は挨拶を兼ねて、寄らせてもらったわ。
 
 私も仕入れたネタで面白そうなのや新鮮なのは話してあげる。
 うちの家計、今とっても貧しいから、その情報でとりあえず《税》は勘弁してちょうだい」
 
 本来よそ者が盗賊ギルドに近づくにはそれなりの贈り物が必要になる。
 多くの場合金銭だが、優秀な盗賊はレベッカのように情報を売ってそれをかわりにする場合もあるのだ。
 
 盗賊にとって情報は金を生む。
 また彼らが生き残るために大切である。
 盗賊ギルドの膨大な情報網は、これらの小さな情報収集から始まるのだ。
 
 ファビオは、レベッカが二つ三つ伝えた情報に満足した顔をし、後ろにいた男になにやら話していた。
 おそらくはこのギルドへの贈り物としてレベッカがもたらした情報を皆に伝え、彼女がこのギルドのなじみになったと広めるためだろう。 

「悪いわね。
 
 この巣穴に落ち着くわけにはいかないけど、ここ都市はなかなか好い場所にあるからまた来ることになるでしょう。
 
 こっちで仕事するときは『悠久の風亭』て宿を使うつもり。
 
 うちの連中は知られてるみたいだから、フォローはしてやってね。
 私もここは贔屓にするし、あんたの顔を立てるつもりだから」
 
 レベッカの応えにファビオは首肯してそれでいいと言った。
 
 レベッカとファビオは昔リューンで協力して仕事をしたことがある。
 当時、《猫》と呼ばれるスリのリーダーをしてリューンの一地区をギルドから任されていたレベッカは、若いながら優秀な盗賊として期待されていた。
 そして、ファビオはアレトゥーザの当時幹部であった今のマスターの筋金入りとして、裏切り者の始末を任されリューンにやってきたのだ。
 レベッカはファビオにリューンを案内する役目を与えられ、そのときに協力した縁があった。
 
 ファビオの様子をみれば、このギルドではかなりの地位のようだ。
 あの時、ファビオの実力を見込んで周りがよそ者と敬遠する彼に率先して手を貸してやったが、間違いではなかったと今になって思う。
 
「噂で聞いている。
 あの後のギルドの勢力が変わって《猫》の分野は縮小されたとか。
 おまえが冒険者になったと聞いたとき、あそこの幹部連中は阿呆かと思ったぜ。
 
 おまえだったら、この都市に来ればすぐに幹部にでもなれただろうに、やはり噂を聞いた後すぐにスカウトに行けばよかったな…」
 
 もったいないことをした、とファビオは肩をすくめてみせる。
 
「随分持ち上げてくれるじゃない…
 
 でも今は金欠冒険者の1人なのよねぇ。
 ちょっとばかり腕もなまっちゃったし、まあしばらくは《穴熊》やって勘を取り戻すようにしてみるわ。
 
 それに今の家業、それなりに気に入っているのよ」
 
 かつてレベッカは、後々は大幹部だろうと噂されるほど才能があった。
 やっていた仕事は三下の姐貴分程度だったが、怠惰なものの面倒見はいいし、頭が切れて世渡りも上手い彼女は、下から慕われ上から信頼されていた。
 
 だが、ギルドの勢力交代で立場を失う盗賊は結構いる。
 縄張り意識が強く、常に組織のトップを狙って盗賊たちは暗躍する。
 
 あの頃の胃の痛くなるような緊張感は今は無いし、特別地位や出世には興味が無いレベッカにとって、生活できて楽しければどうでもよかった。
 
 いまはそれなりに充実したときを過ごしている。
 
 昔、実入りは悪いが止められないといっていた冒険者の盗賊を、ギルドにいた頃は不思議に思っていたが、今なら判る気がするレベッカであった。
 
「そうか。
 
 まあ、残念ではあるが強制はできないからな。
 うちは締め付けないのも伝統なのさ。
 
 今日はゆっくりしていけるんだろう?
 ま、あの退屈な見張りをサボる口実に付き合ってくれよ」
 
 ファビオはそういって新しいエールを注ぐ。
 ただ酒も飲めるし、少し話しながら情報収集も悪くない。
 それにサボるというのはレベッカも好きである。
 
「いいわ。
 でも昼日中に薄暗い地下で飲むのはごめんだわ。
 
 高くなくてもいいから、落ち着いたところにいきましょう。
 これから昼だし、お酒より食べ物が美味しいところがいいわ」
 
 レベッカはウインクしてエールを飲み干した。
 

 
 
 女盗賊レベッカの物語です。
 
 ファビオと聞いてピンとくればあなたも立派な碧海通です。
 
 アレトゥーザの盗賊スキルは狡猾な盗賊にはありがたい効果が多いかと思います。
 あれらは破壊力より卑劣で臆病な印象を与えるように作られています。
 盗賊は戦士ではありません。
 彼らの本分は都市活動や罠の解除にこそあるのです。
 
 レベッカは典型的な盗賊で、また能力値性格ともに天性の盗賊です。
 
 彼女の狡猾な頭脳プレーや、フェイクがこれからシグルトたちを支えるでしょう。
 
 盗賊を好きな方、結構いますよね?
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『碧海の都アレトゥーザ』 碧海の瞳

 アレトゥーザに到着すると、潮の香りを含んだ少し湿った風が、まぶしい陽光を浴びて暖かく吹き付けてきた… 
 
 一泊した冒険者の宿の海鮮料理は絶品だった。
 
 馬車代ただで食事と宿代を出してもらうことを条件に、護衛してきた商人がお勧めだと紹介してくれた『悠久の風亭』である。
 
 シグルトたちは、風にちなんだ自分たちが逗留するには最適だと、この宿を贔屓にすることを決めた。
 
 シグルトたちはチーム名を“風を纏う者”に決めていた。
 そしてその名を少しずつ売り込みつつある。
 
 塩加減が絶妙な貝と海老の蒸し物に、マッケローニ(現代のマカロニのようなもの)を肉入りスープで煮込んだという、この宿の女将さん自慢の新作料理楽しみつつ、レベッカは、チーム名を決めたリーダーを眺めていた。
 
 最初の頃のとげとげしさはだいぶなくなり、ちゃんと仲間をまとめているシグルトを頼もしいと思う。
 
 果汁を井戸水でわった飲み物を啜りつつ、シグルトのそばでこれから巡る場所についての話題をふって一生懸命話しているロマンという少年は、気心が知れたとたんに生意気になったが、その知識や慎重な考え方は一目置いているし、ちょっとからかうと照れて可愛らしい。
 
 お酒に酔って陽気に踊り、酒場の年寄り連中に喜ばれているラムーナという少女には、レベッカとよく似た社会の底辺を垣間見てきた同士のような親近感と妹のような親しみを感じている。
 
 テーブルの端でワインにパンを浸しては食べている大柄な体格の老人、やや高慢で生真面目なスピッキオという爺さんは、ことごとくレベッカと意見がぶつかるものの、年寄り独特の落ち着きと度量の広さがあって、その秘蹟の業とともに仲間として欠かすことはできない。
 
 レベッカは怠けたり遊んでだらけることが好きだった。
 でも最近は仲間たちにいつも苦労させられる。
 1人でいたときにはなかったことだ。
 
 でもレベッカは思う。
 苦労したあとに仲間とだべり、仕事のあとに仲間と飲む酒は格別だと。
 
 その後レベッカは、負けたら一晩一緒に飲んでやることを条件に、数人の男たちと賭けゲームをして、イカサマを使う必要もなく高級酒を奢らせて、充実した一夜を過ごしたのだった。
 
 
 次の日、“風を纏う者”のメンバーたちはそれぞれ分かれて行動することになった。
 
 レベッカはファビオという知り合いに挨拶に行くといって下町の路地の中に消えていった。
 
 ロマンは賢者の塔にある一般開放の書籍を読みに行くといって、小走りに宿をでていった。
 
 ラムーナは大運河にいる南方出身の女性と仲良くなって話し込んでいた。
 
 スピッキオはこの都市の教会の司祭と知り合いらしく、帰りは遅くなるといっていた。
 
 シグルトは1人桟橋近くの浜辺で、ぼんやりと海を見ている。
 シグルトの故郷に海はなかった。
 海の物珍しさと、キラキラ陽光を反射する碧い水面の美しさから、飽きることがない。
 この都から見られる海は美しく、吹いてくる潮風は南方の息吹を孕んで熱くおおらかだ。
 ただ、夏の太陽はまぶしく刺すように肌を焼く。
 シグルトのような西方北部の肌が白い人間にとって、この熱い日差しはやや痛い。
 
 結局この熱射を避けるように歩いていくと、なまった甲高い声でがなっている声が聞こえ、何とはなしにそちらを見た。
 
 この都市の住人だろうか、神経質そうな男に、でっぷりと太った中年の女、後はスピッキオと同じ聖海教会の僧服に身を包んだ僧侶らしい男。
 その取り巻きとして囲むように数人の男女が輪を作っている。
 
 彼らの中心には華奢な感じの人物が立っていた。
 
 黒い暑苦しそうなフードで頭をおおっている。
 編み上げたブロンドの髪がその中から覗いていた。
 身体の起伏や体格、服装ですぐに女性であることが判る。
 少しのぞいている肌は驚くほど白い。
 
 がなっているのは神経質そうな男だ。
 
「この薄汚い魔女め、とっととあの洞窟から出て行けばいいんだ!」
 
 男は興奮して唾を飛ばしている。
 周りの人物たちも激しい口調で女性を罵り、しきりに「魔女」と連呼する。
 聖北教会の僧侶らしい男は、まるで汚いものでも目にしたように女性を見下ろしている。
 
 このような状態で、女性は黙ってただ左右に首を振り、自分を囲んでいる人物たちの要求を拒んでいるようだ。
 
 やがてその神経質そうな男は娘を平手ではる。
 女性がぱたりと倒れると、周囲の者たちは小石や卵、残飯などを娘に投げつけ始めた。
 女性はただうずくまってじっと耐えていた。
 
 髭面の男がやや太めの棒を振り上げた。
 それで女性を打ち据えようというのだ。
 
 しかし、その腕をがっしりと掴んで、シグルトは女性との間に割って入った。
 
「なんだてめぇはっ!」
 
 髭面が渾身の力を込めるがシグルトの手はびくともしない。
 シグルトは掴んだ腕をブン、と振って男を投げ飛ばした。
 
「うわぁ!!!」
 
 転倒して派手に尻餅をついた髭面は、大げさな声を上げて転がるようにシグルトから放れた。
 
「大の大人が女1人を囲んで何をやってる?
 しかも無抵抗な相手にこんな棒で…」
 
 シグルトは髭面が落とした棒を髭面の方に向けて荒っぽく蹴飛ばす。
 足に軽く棒が当たり、髭面はなさけない悲鳴を上げた。
 
「何をするのです?
 
 私たちは魔女に制裁を加えていたのですよ?」
 
 不機嫌そうに、僧服を纏った僧侶らしい男がシグルトを睨みつけた。
 
「さっきから、魔女魔女いってるが、あんたらのいう魔女はこの娘のことか?
 
 だとしたら、俺にはおまえたちの方がよっぽど悪人に見えるな…」
 
 シグルトは皮肉気に苦笑した。
 
「あなたは冒険者ですね。
 ではこの都市の住人ではないはずです。
 
 我々の聖なる行いに口を出さないでいただけますか」
 
 僧服は蔑んだような目で睨み、シグルトにどくように顎をしゃくった。
 
「…なるほど。
 じゃあ、俺も聖なる行いとやらをするか」
 
 シグルトは僧服に一歩近づいて胸倉を掴みあげた。
 
「ひぃ!」
 
 上背のあるシグルトに片手で軽々と持ち上げられて、僧服は真っ青になる。
 
「…自分が襲われることは怖いか?
 
 あんたたちがよってたかって1人の女にしようとしたことだ。
 
 聖なる行いが何か知らんが、俺みたいな根無し草でもみっともなくてマネはできん。
 見苦しいからするな」
 
 僧服の顔に自分の顔を寄せ、凄みを利かせて目を合わせて睨んでやると、僧服は真っ青になって身体をこわばらせた。
 シグルトは馬鹿らしいという風に僧服を掴んだ手をポイ、と放した。
 実になさけない格好で僧服は地べたに落ちる。
 
「…くぅ、今日はここまでにしておいてあげます!」
 
 僧服は逃げるように場を離れ、周りにいた取り巻きも慌てて放れていった。
 おそらくはシグルトの腰につるされた剣が怖かったのだろう。
 
 僧服のどこかの三流悪役のような捨て台詞にあきれつつ、シグルトは倒れたまま、こちらを見上げている女を見た。
 
 碧海…
 この都市を囲む海のように碧い瞳だった。
 静かでありながら、熱い南の風を飲み込んだような強い輝きは、じっとシグルトを見つめている。
 少しの驚き、わずかな警戒、そして澄んだ落ち着きと深い哀愁。
 神秘的な双眸が海の波のように表情を変えながらシグルトに向けられていた。
 
「…あんた、立てるか?」
 
 シグルトは少しだけその娘の美しさに驚きつつ聞いた。
 日焼けとは縁のない透けるような白い肌に端整な顔立ち。
 その美しい瞳と強い意志を感じさせる表情は、シグルトが愛した故郷の女性を思い出させた。
 
「…はい。
 
 助けていただいてありがとうございます」
 
 ほっそりしたはかなげな外見にふさわしい可憐で澄んだ声だった。
 
 だが弱さを感じさせない聡明さと落ち着いた強い意志を感じさせる丁寧な口調は、耳に心地よい。
 
「何か差し上げたいのですが、日々の生活を紡ぐのが精一杯の益体のない身です。
 言葉での御礼が限度、お許しください…」
 
 やや自嘲的な、悲しげな表情で女性は言った。
 恐縮しているのだろう、肩を縮め切なげに胸に手を置いている。
 
 シグルトは困ったように頭をかいた。
 別に礼を言われたくて手を出したのではない。
 シグルトは本当に、ああいった迫害が嫌いなだけだった。
 
 かつてシグルトの母も、この娘のように礫を投げられ傷ついたことがあった。
 そのときシグルトは幼くて何もできない子供だったが、今のシグルトには男性の平均より高い上背と、理不尽に立ち向かえるだけの意志がある。
 シグルトはただ、目の前の理不尽が許せなかっただけだ。
 
「やめてくれ…
 
 俺は礼がほしかったわけじゃない。
 ただああいうのが嫌いだっただけだ。
 
 勝手にしゃしゃり出た俺自身のやったことだから、そんなに恐縮されても困るよ」
 
 娘を見下ろし、その瞳と見つめあうことになる。
 真摯な眼差し…魔女なはずがない。
 この娘が魔女というなら、さっきの僧服は邪神の使徒だろう。
 
 この娘はきっとシグルトにできるお礼を考えているのだろう。
 目を伏せて、じっと何かを考えている顔だ。
 シグルトは困って空を見上げた。
 日差しが熱い。
 夏の太陽がさっきよりも余計にまぶしく感じた。
 
 そこでシグルトの頭にふと浮かぶ考え。
 
「ああ、ええと、この辺りには詳しいのか?
 
 実はどこか休めるところを探していたんだ。
 何か俺にしてくれるっていうなら涼める場所を教えてほしいんだが…」
 
 
 娘が案内してくれたのは美しい景観の洞窟だった。
 
 流れ込んだ海水がキラキラと光って幻想的だ。
 外の熱気を含んだ風とは違って、ひんやりとした優しさがある。
 
 シグルトは洞窟の奥に案内される。
 人が2人入るのがやっとのこじんまりとした横穴があって、粗末な手製の机と木箱で代用した椅子、奥には藁を敷き詰めて大きめの帆布をかぶせたベッドらしきものがある。
 箱の椅子を勧めれたがシグルトの体格ではやや低い。
 何も言わず適当に側にある隆起した岩に腰掛けた。
 
 娘はミントの香りがする爽やかな香草茶を煎れてくれた。
 茶を入れるカップも欠けた部分のある、本来なら捨てられそうなものだった。
 だが釉薬の部分に独特のつやがある。
 きちんと灰を使って食器を磨いているのだろう。
 
 食器や身の回りの道具も丁寧に片付けられている。
 小さなことから、娘の生真面目な気性が感じられた。
 
 ミントのもたらす清涼感を味わいながら、洞窟の涼気をじんわりと楽しむ。
 先ほどの海もよかったが、ここはとても綺麗で、洞窟に満ちた柔らかな光が心地よかった。
 
 『蒼の洞窟』という場所だと、娘が教えてくれた。
 
「とても好いところだな。
 
 ここを知っただけでも、この都市に来てよかったと思うよ」
 
 思えば昨日まで長旅でゆっくり腰を落ち着ける暇もなかった。
 1人でこういう気分を味わうのも随分していなかったように思う。
 
(あいつらはにぎやかだからな…)
 
 底抜けに明るい踊り子や、薀蓄を語る美少年、金にうるさい女盗賊に、説教臭い老僧。
 彼らのリーダーになって、いつも張り詰めて考えていたことに気付き、苦笑する。
 シグルトは故郷の妹が言っていた言葉を思い出す。
 
「兄さんはいつもむっつりしてるか苦笑いしてるわ」
 
 そういってお茶を入れてくれた妹。
 最近まで過去は刃のようにシグルトを抉ってきたが、仲間と触れ合ううちに幸せだったときを思い出せるようになっていた。
 
「申し訳ありません。
 こんなものしかなくて…」
 
 娘がおかわりのお茶を注ぐ。
 机には茶菓子の代わりだろうか、パンを薄く切って乾燥させ塩と香草を刻んだものをかけた菓子のようだ。
 かじるとほんのりとしょっぱい。
 
「いや、お邪魔させてもらってお茶まで御馳走になってるんだ。
 
 菓子付なら、豪勢なくらいさ」
 
 冒険者は過酷である。
 シグルトも何度か冒険をするなかで、随分質素な食事をしたものだ。
 先輩冒険者の話では、南方の密林で迷ってさまざまなものを食ったが蜥蜴人は筋が固かったぞ、というようなおぞましいものもある。
 
 シグルトは荷物袋から小石ぐらいの塊を取り出し机の上に置いた。
 
「…これ、もしかしてお砂糖ですか!」
 
 娘は美しい目を丸くして、茶色いその塊を見つめた。
 
 砂糖は非常に高価な品である。
 庶民が簡単に食べられるものではなく、薬として珍重されているほどだ。
 シグルトの取り出した小さな塊でもそれなりに価値があるだろう。
 
「前に交易商の護衛をしたときに報酬にもらったものだ。
 
 まだあるしやるよ。
 この手の菓子は塩より砂糖の方がきっと美味い」
 
 娘は手を振って拒んだ。

「こ、こんな貴重なもの、もらえません!
 
 お砂糖って労咳(結核)なんかに使う薬でとても高い…」
 
 シグルトは軽く首を振る。
 交易路が発達し、一部の都市では高騰するときもあるものの、昔ほどは高級ではない。
 もちろん庶民が大量に使うのは無理だが、リューンのような大都市では昔の宝石のような価格ではなくなって久しい。
 この砂糖だって、儲けそこなった商人がお金代わりにくれたものである。
 
「ここを教えてもらって休ませてもらったので、さっきの貸し借りは無し。
 
 これは茶のお礼と挨拶代わりだ。
 
 またこの都市に来たなら、ここに来て休みたいと思ってる。
 迷惑でないなら、受け取ってくれ」
 
 シグルトはリーダーをやる上でレベッカから交渉というものを学んできた。
 レベッカ曰く、内向的排他的な者に交渉するときは、押しの一手の後少し引くと上手くいく、とのことだった。
 
 シグルトは無理強いは嫌いである。
 必要なことを提示し、ダメならやめる。
 シグルトのそういうさっぱりとした決断力が、リーダーとしての優れた資質だとレベッカは言っていた。
 
「俺はシグルト。
 
 交易都市リューンを中心に、主に西方で仕事をしてる冒険者だ。
 といってもまだ駆け出しなんだが」
 
 互いに名乗っていなかったことを思い出し、先に名乗り軽くぶら下げた剣を叩き、こういう職業だ、と主張する。
 
 娘は助けてもらって名乗ってもいない自分を恥じたのだろう、白い肌を紅く染めて居住まいを正した。
 
「私はレナータ、レナータ アスコーリと申します。
 
 その、精霊術師、です…」
 
 少し言いよどんで職業まで明かす。
 
 シグルトはさまざまな意味で納得した。
 精霊術師とはシャーマンとも類される精霊使いのことだろう。
 
 この世界には偉大な神と一緒に、自然の力、精が意思を持って現れる現象…精霊と呼ばれる不思議な存在がある。
 彼らはめったにこの世界で姿をとることはないが、彼らの存在を見つけ感応し、その力と姿をこの世界に形として導く業を持つものがいる。 それが精霊使いだ。
 
 リューンにも精霊宮という独特の建物があり、そこで精霊使いたちが都市に起こる天候や災害の被害を防ぐために働いている。
 
 ただ、精霊使いたちは特殊な能力と宗教性を匂わせる場合もあるその立場から、聖北などの聖職者と上手くいかないことも多い。
 魔女や妖術師扱いされて迫害されるのはよくあることだ。
 リューンのように多数の術師がいて働く場所も地位も確立されているなら別だが、この西方に根強く広がる《神の教え》は、時に強引で排他的な偏見の原因を作っている。
 
(結局スピッキオが言うように、神に魔女を裁かせようとするのはいつでも人間の方だな。
 
 教会の最も愚かな歴史だとあの爺さんは言っていたが、まさかいまだに魔女狩り云々があるとは、な。
 
 この都市は見れば先進的な場所が多くておおらかに感じていたから、少し驚いた。
 いや、人が集まる坩堝のような場所だからこそ、こんな歪んだことも起きるのか…)
 
 人の心を理解するのは難しい、とシグルトは思う。
 
 見ればもう日が傾いて、洞窟に朱い光が入ってくる。
 
「そろそろ帰るよ。
 外も涼しくなってくるだろう。

 …レナータ、ここにはまた来てもいいか?」
 
 岩から立ち上がり、帰ろうとしたシグルトは、レナータと名乗った娘の名を呼び、確認した。
 
「…はい」
 
 レナータの首肯に満足するとシグルトは軽く手で別れの挨拶をし、足早に洞窟を後にした。
 
 
 シグルトが洞窟を出て行った後、レナータは気が抜けたように肩を落とし大きなため息をついた。
 
 今日はいろんな意味で疲れていた。
 なくなった儀式用の道具の買出しにでかけて、いつものように教会の侍祭に因縁をかけられて魔女扱いされた。
 
 前に石をぶつけられて、しばらく片目が見えなかったこともある。
 怖くないわけはない…集団で暴力を振るわれ、罵声を浴びせられるのだ。
 
 身を守るのに精霊術で呼び出した精霊を用いる事だってできないことはない。
 だが、それをしたら確実に魔女として葬られるだろう。
 
 レナータは自分に精霊魔法を教えてくれた師を思い出す。
 彼女は迫害と立ち向かう方法も教えてくれた。
 精霊術、言葉、礼法、知識…
 冒険者をしていたという師は博学で、本来レナータのような生まれのものが学ぶことは絶対できないようなことをたくさん教えてくれた。
 その師との出会いも今日のシグルトとの出会いに似ていた。
 
 昔からレナータには精霊を感じる能力があった。
 ずっと昔、アレトゥーザにやってきて、不毛の荒野と汚水の沼地を緑茂る今の大地に変えたという偉大な精霊使いと、水の上位精霊の一柱と讃えられる水姫アレトゥーザの伝説。
 この土地ではまれにレナータのような資質を持つ子供が生まれる。
 それはこの土地が精霊の息吹に満ち溢れた土地だからとも、偉大な精霊使いの血が先祖がえりで顕れるのだともいわれている。
 だがその才能を持つものは多くの場合3つの道をとらざるをえない。
 
 一つは巫覡(ふげき)…シャーマンと呼ばれる存在になって村落の中心に立ち、災害や病気から人を守るものになること。
 
 一つは隠者となって森や山、孤島に籠もること。

 一つは一箇所に留まらない流浪の民となること。
 
 普通の民に受け入れられるには、精霊使いの才能はあまりに異能とされているのだ。
 
 そして今のレナータはどの道を採ることもなく、この都市に1人で暮らしている。
 
 異能ゆえに故郷から逃げるように出て、立ち寄るどの町でも浮浪児扱いされていたレナータは、彼女を追い出そうとする村人に囲まれ暴力を振るわれた。
 空腹と殴られた身体の痛みで、これで死ぬんだ、と思ったときその女性は現れた。
 澄んだ歌声で柔らかな言葉を紡ぎ、リュートを巧みに演奏しながら彼女が歌うと、レナータを襲っていた民衆はばたばたと倒れて寝息を立て始めた。
 
 歌を終えてレナータを見下ろすアーモンド形の蒼い瞳は人懐っこい光をたたえていた。
 とがった耳、緑と黄色の衣装に白い外套で華奢な体を包んだその女性は人ではなかった。
 
 ウッドエルフ。
 俗に森の妖精と呼ばれる亜人である。
 
 後に風の噂で聞いた話…
 ラグリアという国の内乱で活躍し、騎士団長になったという冒険者とその仲間たち。
 その騎士の傍らで、精霊術を使い仲間を助けた“水の詠い手”と呼ばれた者。
 エルフの精霊使いレティーシャそのひとであった。
 
 レナータを精霊術で癒し、話を聞いたレティーシャはレナータを弟子として引き取ってくれた。
 師は彼女の才能を見抜き、自分よりも才能はあるといってくれた。 

 レティーシャはハーフエルフと人間の2人の子供をつれていた。
 1人はレティーシャの息子で、もう1人は戦災の孤児。
 その子供たちを育てる傍らで、レティーシャはさまざまなことを教えてくれた。
 子供たちより少しお姉さんだったレナータは、子供たちに慕われ、陽気なレティーシャの人柄に触れ、家族の暖かさというものを感じることができた。
 
 レティーシャはレナータが独り立ちできるようになると、子供たちを連れて旅立つといって、一緒に来るかこの地方に残るかを聞いた。
 そしてレナータはこの大地に残ることを決め、師と別れたのである。
 
 さすらってたどり着いたのがこの洞窟であった。
 
 レナータにとって、冒険者とはいつも自分を助けてくれる存在である。
 
 師は優れた冒険者だった。
 
 自分に何かと目をかけてくれ、病の治療の仕事や内職を世話してくれる『悠久の風亭』のマスターもかつて冒険者だったという。
 
 レナータに精霊術を学びに来る精霊使いの卵たちもまた冒険者が多かった。
 
 そして今日出会った冒険者の若者。
 
「シグルト…さん」
 
 彼の残していった黒糖から欠け落ちた粉を少しなめてみる。
 果物とは違う確かな甘さ。
 
 レナータは小さな幸せを噛みしめながら、孤独な心を癒す暖かな今日の邂逅を想い、頬を緩ませた。

 
 
 いよいよ今回のリプレイで、冒険者たちのもう一つの拠点となるアレトゥーザのお話になりました。
 Martさん作『碧海の都アレトゥーザ』…このシナリオに登場するスキルやアイテムには私もいくらか関わっているので思い入れが深いです。
 
 そしてレナータ。
 あの美しい精霊使いをドラマティックに登場させたくて書いていたら長くなりすぎてしまい、急遽次回に続く構成になりました。
 Martさんの考えるレナータに少しでも近づけたらいいなぁ、と思うのですが。
 
 私のリプレイではやや過剰な生活描写があります。
 これは皆さんの考える時代背景には合わないかもしれませんが、一応は中世をできるだけ意識しています。
 間違いだらけかもしれませんけどね。
 
 なんだかシグルトばっかり主人公属性を発揮していますので、今度は他のPCたちも行動させたいと思います。
 
 へたくそな文章で申し訳ないですが、よかったら次回も読んでくださいね。

テーマ:雑記 - ジャンル:ブログ

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『冒険者の余暇』 その壱

シグルトたちは最初の冒険を契機に、ちょっとした依頼を受けて処理しつつ、各都市を巡っていた。
 
 最初はリューン近郊の村でねずみ退治に参加したり、近所に迷惑をかけて立てこもっている子供を取り押さえたりといった、実に地味で小さな仕事をしつつ、日銭をかせいでいたが、旅するうちに希望の都と名高いフォーチュン=ベルに到着していた。
 
 ここでゴブリンや狼を討伐する依頼をこなし、銀貨数百枚を得たが、ロマンがどうしてもほしいという魔導書を購入することになり、一行は高い買い物をすることになった。
 
「銀貨二千枚よ、二千枚!
 
 あの黒いイ○レ女の時の報酬と同じなのよ!
 
 ああ、もう信じられない!!!」
 
 大きな散財だとレベッカは嘆いたが、シグルトはなだめるように言った。
 
「ロマンの魔法は俺たちの切札になる。
 
 いざというとき、すぐに呪文を唱える準備ができるというあの本は必要だと思うんだ。
 次にこの都市に来るのがいつになるかわからないし、買えるときに装備を整えるのは基本だろう?」
 
 シグルトがそういうとレベッカは何も言えなくなる。
 
 この男は仲間のために自分が一番損をしていても平気な男だ。
 大金を得ることができた最初の頃の依頼で、一番活躍していたのはこの男である。
 しかし、彼が下げている剣は冒険者になることを彼が決意して三代目であり、二本目のお下がりである。
 
 レベッカは強欲な女だが、装備に妥協する気はない。
 ロマンのもつ魔導書を買うお金があれば、優れた技術をたくさん学べるし、薬や道具、シグルトにふさわしい剣や鎧だって買えるのだ。
 
 ばつが悪そうなロマンの肩をぽんぽんと叩いて、シグルトは大丈夫だというふうに微笑んでいる。
 納得がいかなくても多数決で決まったようなものだ。
 他の2人はこういう欲に関わることはからっきしである。
 
「はあ、シグルトがそう言うんじゃ、私だけ悪者じゃない!
 
 …もう、いいわよ。
 いまさら買ったもの返しても足元見られるんだし」
 
 そういってレベッカは肩を落とした。
 
「絶対役立ててみせるよ!」
 
 ロマンの小動物のような目にも弱い。
 
 結局折れたレベッカだった。
 
 
 今、シグルトたちは南にあるというアレトゥーザという都市に向かっている。
 スピッキオはその都市の近くに出身地があるそうで、アレトゥーザの聖海教会の聖堂には何度か祈りに行ったこともあるらしい。
 
「あの教会の司祭どのはなかなかに立派な御仁でな。 
 是非また信仰について語り合いたいものじゃ…」
 
 首に掛けられた新しい聖印を握りつつ、スピッキオは、うむと頷いている。
 
「…はあ、その金メッキ、しまってよね。
 見てるとまた腹がたってくるから」
 
 とある教会で手に入れたその聖印を、スピッキオはいつも大切にしている。
 
 もともとのスピッキオの聖印は木製だったためか、激しい戦闘のなかで壊れてしまった。
 それはスピッキオに子供が寄進してくれたもので、とても大切にしていたものだったが、粉々になるとどうしようもない。
 数日気落ちしていたスピッキオだったが、とある教会に行って随分元気になった。
 
「まさか、聖トリスタに関わる教会だったとは!」
 
 スピッキオは宗教学にやたら詳しい。
 列聖された聖人も、教派を問わず全部暗唱できるほどだ。
 
 その教会で開かれたバザーに、粗末な金メッキの聖印が売られていた。
 値札を見てレベッカは目を疑い、何度も桁を確認した。
 
「こんなぼろいのが銀貨千枚ですって?
 
 何の冗談よ…」
 
 何でも特別な祈りの聖印らしい。
 結局、本当に力の宿った貴重なものであることがわかり、その聖印を購入することになったのだが、不心得者のレベッカにとっては頭の痛いことであった。
 
 見えてくるアレトゥーザを見上げつつ、サイフがこれ以上軽くならないことを真剣に祈ろうかと、レベッカはため息をついた。
 
 しかし、後に判ることなのだがレベッカの祈りは叶うことはなかった。
 
 信仰心がたりなかったのだろう…
 
 そう言われそうで、レベッカは神に祈ろうとしたことは黙っていようと心に誓った。
 そして神に祈るのは、この逞しい爺さんだけで充分、と敬虔になることは早々にあきらめたのだった。



 買い物やスキルの習得。
 物語の合間にあるほのぼのとした雰囲気を、今回は2つのシナリオで表現してみました。
 
 一つは私の友人Djinnさんの『希望の都フォーチュン=ベル』。
 実は私、このシナリオの製作協力者として登場してたりします。
 プレイしていただいた方ではどこかのカードワースの世界でもう1人の私とお会いしてるかもしれませんね。
 非常にいろいろとできるマルチシナリオです。
 
 ここではジュムデー秘本を買いました。
 高いですが、前のシナリオであぶく銭をもうけましたからね。
 
 ちゃっかりこのシナリオでゴブリンとウルフを討伐して小金を稼いでいます。1レベルのスキル一個分になりますし、プレイしてもレベルアップには繋がらないので、初期の軽いアルバイトにぴったりです。
 
 このシナリオは何度かに分けてぼちぼち紹介していきますね。
 
 
 続いてGaff*Sailさんのシナリオ『ecclesia』。
 教会型の店シナリオです。
 強すぎるアイテムやスキルも若干ありますが、ここに売ってる金のクルシスは十字架型の数少ないスキル配布アイテムです。
 僧侶に賢者の杖は~という方、お勧めです。
 アットホームで暖かな雰囲気のシナリオなので、ささくれた気分になると立ち寄りたくなります。
 
 収入と出費は以下の通りでした。

◇シナリオ
・希望の都フォーチュン=ベル(Djinnさん)
 ゴブリン討伐(+300SP)
 ウルフ討伐(+300SP)
 ジュムデー秘本(-2000SP)
 
・ecclesia(Gaff*Sailさん)
 クルシス(-1000SP)
 
◇現在の所持金 800SP◇(チ~ン♪)
 
 次回は『碧海の都アレトゥーザ』第一回です。
 シグルトと本リプレイのメインヒロイン(?)レナータの邂逅があります。
 お楽しみに。
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Y字の交差路バナー

 
 我が家のバナーをMartさんが作ってくださいました。
 
 感謝!
 ありがたく使わせていただきます。
 
 というわけで上のバナーをお使いください。
 
 上のバナーアドレスは

  http://blog-imgs-22.fc2.com/a/r/a/aradia/yybanner.gif

 こんな辺鄙なブログとリンクしたい方は少ないでしょうが。
 
 こことリンクをしたい場合、「出会い系サイト」、「ただのエロサイト」、「わけのわからん英語サイト」、「妙な薬のサイト」等、著しくこのブログの内容を無視したところでなければ御自由になさってください。
 一応、以下のようになっています。
 
 アドレスは http://aradia.blog69.fc2.com/
 ブログ名は Y字の交差路
 管理人は  Y2つ
 
 こちらからのリンクは、もう少しブログに慣れたらぼちぼちお願いしつつやっていこうかと思いますので(H18・6・10 現在)よろしくお願いします。
 
 何かリンクで質問等ありましたら、ここにでもコメントしてやってください。
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『第一歩』 後編

 夜、シグルトは喉の渇きを覚え宿の水甕のある、一階の酒場に下りてきていた。
 喉の渇きもそうだが、今夜は眠るのが恐ろしかった。
 
 カンテラに火を灯し、水甕の蓋を取り、適当なゴブレットで直接水をすくって飲み干す。
 夜気でよく冷えた水は喉の渇きを緩やかに癒していった。
 ゴブレットの縁を軽くぬぐい、棚に戻した後、シグルトはカウンターの席に腰を下ろした。
 
 ジジッ、とぼんやりとした光を放ちながら燃えるカンテラの芯を見つめながら、かつて共に夜を過ごした家族や恋人を想った。
 
 夜の怖さに震えてベットにもぐりこんできた妹。
 共に酒で喉を潤し語り合った友。
 肌を重ね柔らかな髪を梳いてやった恋人。
 
 いまは全て過去となってしまった。
 
 シグルトは正直冒険者になりたかったわけではない。
 ただ、それが危険な仕事だと聞いてやろうと思ったのだ。
 一言で言えば自棄だった。
 
 シグルトにとって大切だったものは過去に全て失ってしまったはずだったから。
 
 でも今のシグルトには死を躊躇する未練ができてしまった。
 
 大人たちに囲まれて泣きそうになっていたロマンを助けたとき、この美少年はシグルトの仲間になると言ってくれた。
 そのとき、ささくれて乾いていたシグルトの心に何かが宿った気がしたのだ。
 
 レベッカという女盗賊を見たとき、その孤独な背中に自分と同じ退廃を感じて仲間に誘った。
 
 異国の間の抜けたような少女が、壮絶な苦難を乗り越えて自分と出会ったことに、信じなかった運命を感じた。
 
 屈強な旅の司祭の癒しの秘蹟とその言葉を聞いて、今自分はどうやって死ぬのかではなく、どうやって生きるかを考えていたことに思い到って驚いたのだ。
 
 シグルトは儀式のように両手を見ていた。
 それは人を殺してしまったときから続けているシグルトの習慣であった。
 また血に染まっていないかいつも確認するのだ。
 
「俺は、冒険者を続けたいと思い始めている。
 でもまた殺すのかもしれないことは、きっと怖いんだな…」
 
 妖魔を殺したとき、心は冷え切っていた。
 正直、殺したという黒装束の男に対しても罪悪感は感じていなかった。
 
 シグルトが恐れているのは殺人そのものではない。
 
(…ああ、そうだ。
 
 俺は殺すことでまた失うことが怖いんだな)
 
 すっと胸の中にある凝りのようなものが解けていった。
 
 
 ふとシグルトは人の気配を感じ、宿の入り口をみた。
 そこには黒い僧服をまとった女が立っていた。
 
「…何か急用か?
 今はまだ営業時間外だから、店主は休んでいるぞ」
 
 そういってシグルトは首をかしげた。
 
(…親父は戸締りをしないのか?)
 
 女は冷たい視線でシグルトを見つめ、犬が匂いをかぐような下品な動作をする。
 そしてにたり、と笑った。
 
「…見つけた!」
 
 シグルトの背筋が凍りつく。
 この女は危険なものだと、今になって気付く。
 
「…動くな!」
 
 女はカンテラに向けて指をむける。
 女が一言二言呪文を唱えると、閃光とともにカンテラが弾けとんだ。
 
「こうなりたくないでしょう?」
 
 女はぞっとするような顔でシグルトに近づいてきた。
 
 
 僧服の女の魔法によってシグルトは動きを封じられていた。
 
 女は廃教会で手に入れた珠を捜しているようだった。
 珠のありかを言わないシグルトに業を煮やした僧服の女はシグルトを魔法で呪縛し、シグルトの身体を触っていらいらと調べていたが、シグルトの服のポケットに入っていた、道具屋との優先取引を確約した書類に書かれた内容を見て、魔術師はにんまりとして出て行こうとした。
 
 そして女は忘れていたとばかりに振り向き、シグルトの心臓を指差した。
 
「忘れていたわ、おまえを殺すのを…」
 
 いやらしい目。
 人を殺すことに罪悪感を持たない気持ち悪い目。
 グールデンのそれと同じ目
 
(…動けないと殴れない。
 俺はここで死ぬのか?)
 
 ぼんやりと自分が殺されるのだという事実を受け入れそうになる。
 
「後でおまえの仲間も片付けないといけないけど、まあ今度ね」

 だが僧服の女は、そのたった一言でシグルトの禁忌に触れてしまった。
 シグルトのあきらめたような目に壮絶な殺意が宿り、女を射抜く。
 
「…なっ!」
 
 思わず呪文をやめてしまう。
 その眼光にはドラゴンすら怯ませる気迫があった。
 
 シグルトを拘束していた呪縛が緩む。
 
「ぅぉぉぉおおおおああああ!!!」
 
 腹のそこからひねり出すような雄たけびを上げてシグルトは僧服の女を殴りつけた。
 女は鼻血を散らせて吹き飛んだ。
 
「うぐぐ、よくもぉ!」
 
 僧服の女が魔法を放つが、寸前で何かに遮られる。
 
「人の宿で、後輩になにやってんだ、こらぁ!!!」
 
 レストールとコッカルトが駆けつけてくれたのだ。
 
 怒りに燃えたレストールの一撃でさらに手傷を負った僧服の女は、悔しげに逃走した。
 
 
 シグルトが殺されそうになったことを知って、親父はすぐ仲間を起こした。
 仲間たちは状況を把握すると、いつでも動けるよう準備をはじめた。
 
 あの珠を売った道具屋が心配だと言うシグルトに一同は頷き、急いで道具屋に向かったが、手遅れだった。
 道具屋の主人は胸をえぐられ即死していた。
 
 道具屋の外でシグルトたちは、トルーアと武装した宗教関係者らしいものたちに出会い、あの珠が危険な魔法の品であり、あの僧服の女が危険な凶悪犯であることを知った。
 僧服の女は、偽名を多数使っていて本名は不明だが、殺人や強盗も平気でやる恐ろしい過激犯として、一部の都市では賞金が掛けられ手配書が多数出回っているらしい。
 
 シグルトたちは道具屋の主人が死ぬ原因を作ったことの後ろめたさと、僧服の女を放っておけばいずれ自分たちを狙ってくるだろうと結論し、女の討伐に参加することにした。
 

 僧服の女は1人余裕の表情で一行を迎え入れた。
 ともにいた戦士が切りかかると戦闘がはじまる。
 
 僧服の女が呼び出したらしい、おそらく実体の無いだろうアンデッドらしい人魂のようなモンスターと、羽のついた髑髏のようなモンスターが襲い掛かってくる。
 
 羽のついた髑髏のようなモンスターをシグルトたちが受け持つ。
 
 シグルトが一刀で一体を切り伏せ、レベッカが逆手に構えた短剣で一体を抉った。
 ロマンが【眠りの雲】で手近な2体を眠らせ、スピッキオが一匹の脳天を打ち砕いた。
 もう一匹はラムーナが止めを刺す。
 
「この程度なら楽勝だぜ!」
 
 レストールが奇声を上げて僧服の女に切りかかろうとするとさらに大量のモンスターが現れた。
 
 シグルトたちが新手の羽髑髏4匹を相手にする。
 シグルトとラムーナが一体ずつ受け持って切り伏せる。
 ロマンは襲い掛かってきた羽髑髏をあわてて持っていたかばんで叩いた。
 その魔物にラムーナが止めを刺し、シグルトが残った一匹を速やかに倒していた。
 
 しかし、僧服の女の時間稼ぎでしかなかった。
 女の召喚したそれは、桁外れの怪物だったのだ。
 
 その怪物の気まぐれで、シグルトたちは諸悪の根源である、僧服の女と対峙している。 
 
 僧服の女は見かけによらず凄まじい膂力を持っていた。
 シグルトとスピッキオが左右から挑むが、浅い傷を負わせるのが精一杯だ。
 レベッカが魔術師の一撃を頬に受けて昏倒する。
 
「レベッカ!!!」
 
 ロマンは素早く呪文を唱える。
 
「《貫き徹す光の鏃、輝きを纏い疾く放たれよ》
  
 《穿て!!!》」
 
 【魔法の矢】…
 必中にして絶大なる破壊力を持つ、魔術師の最もシンプルな攻撃手段である。
 
 強力な魔法の一撃を喰らってよろめいた魔術師にラムーナが舞うように一刀を振るった。慌てて僧服の女がかわそうとすると、ラムーナはくるりと身体を回転させて道をあける。

「!!!」
 
 後ろからシグルトが大振りの一撃を放つ。
 近づきすぎていたせいか致命傷には至らなかったが、鎖骨を砕く確かな手ごたえがあった。
 
「ぐうう、貴様ら…
 調子に乗りやがって!」
 
 僧服の女は強力な呪縛の魔法でシグルトたちの動きを封じた。
 
「むぅう!!!
 何という力だ…
 まったく、動けぬぅっ」
 
 スピッキオも渾身の力を込めるが全く動かない。
 
「がぁぁ、あ、頭が…
 ふふ、でもこれで終わり。
 死になさい!!!」
 
 魔法の使いすぎでよろめきながらも、僧服の女は魔法でスピッキオとロマンを昏倒させる。
 
(まずい!)
 
 シグルトにも魔法の一撃が襲いかかろうとした。
 
 しかし、痛みはやってこなかった。
 
「…ラムーナ!」
 
 シグルトを庇うように身を乗り出したラムーナの脇腹が赤く染まっていた。
 
「シグルト…ぶ、じ?
 よか、た…」
 
 ぱたりとラムーナが倒れた。
 
 わずかに呪縛が緩む。
 
「ぁぁぁあああああああ!!!!!!」
 
 部屋が震えるような戦いの叫びを上げ、シグルトは呪縛を振り切った。
 
 シグルトは迷わず走った。
 僧服の女が必死にとどまるよう喚いていたが、かまわなかった。
 
 酷使した剣が嫌な軋みをあげている。
 シグルトはそれでも渾身の力を込めて剣を振り上げた。
 
 敵の使う魔法の光を、怖いとは思わなかった。
 
 
 病院で気がついたシグルトは、サライという女性から例の女魔術師をシグルトが倒したことを教えてくれた。
 相討ちだったが、シグルトの剣がわずかに早く、魔法が中途半端な効果しか出さなかったのだろう、と言っていた。
 そしてシグルトの剣は斜めに女魔術師の首にめり込み、頚骨を砕き気管を潰して折れてしまったそうだ。
 
 サライたちが来たときには、折れた剣先が首に突き立ったまま痙攣する魔術師と、折れた剣の柄を握り締めたままシグルトが倒れていたそうだ。
 
 シグルトが気付いたと知って、仲間たちが飛び込んでくる。
 安堵が胸いっぱいに広がるのを感じながら、シグルトはこれからすべきことを決意していた。
 
 
 危険な魔術師の討伐をしたシグルトたちには莫大な報酬が与えられた。
 
「銀貨二千枚よ、二千枚!
 
 私も冒険者やってて、こんな大金を一回に手に入れたことはないわよ。
 ああ、すごいわよ~
 私たちって最高ね!」
 
 すごいテンションでレベッカが喜んでいる。
 先輩の冒険者たちがその報酬の配分を辞退したので、大金は全てシグルトたちのものになったのだ。
 
「これ、調子に乗る出ない。

 わしらは一様に死にかけたんじゃぞ? 
 もう少し反省と言うものをじゃな…」
 
 スピッキオが説教を始める。
 
「まったくだよ。
 
 今回は僕らの運がよかったけど、こんな危険な仕事はまだ僕らには垣根が高すぎるね。
 この報酬でちゃんとした装備を探さないといけない。
 
 ところで、この間フォーチュン=ベルに頭を冴えさせて呪文を唱えやすくする魔導書があるって噂を聞いたんだけど…」
 
 ロマンは金の事などどうでもいいといった感じで、自分が読みたい魔導書の話を始めた。
 
 その横でラムーナはわけが判らないけど楽しそう、とニコニコしている。
 
「騒がしいぞ、おまえら!」
 
 宿の親父が見かねて注意した。
 
「まったく。
 
 しかし、確かにおまえらはよくやったよ。
 新人じゃ期待の星ってことにしてやるから、失敗せんようにこれからも頑張るんだぞ!」
 
 注意をしつつ、親父はどこか嬉しそうだった。
 
「お父さんは嬉しいのよ。
 
 新米の冒険者って、最初の冒険やその次ぐらいで死ぬ人たちが多いから…」
 
 最初は未熟、次は油断だと宿の娘は言った。
 
 シグルトは一番最初の依頼を終えて戻ってきたとき、何気なく宿の娘が言った言葉を思い出していた。
 
「生きて帰ることが報酬なのよ」
 
 シグルトは生き残った。
 かけ替えのない仲間と一緒に。
 
(俺にとってはこっちの方がありがたいな)
 
 お金の報酬よりも、シグルトにとっての宝は仲間たちだった。
 
「ところでおまえら、無事にパーティを組んだんだ。
 
 チーム名の一つも考えたらどうだ?
 売り出すにはこういうのを作って名を売るのも手だぞ」
 
 シグルトがぼんやり幸せをかみ締めていると、親父が新しい話題をふってきた。
 
「おまえらのリーダーは…
 
 シグルトで決定だな」
 
 親父は少し考えてすぐにシグルトを指差した。
 
「おいおい、なんでいきなり俺なんだ?」
 
 シグルトは自分を話題にされて苦笑する。
 自分がリーダー?
 そんなことは…
 
 一同を見回す。
 
「うん、妥当だね。
 頭脳労働は僕が担当するから安心していいよ」
 
 ロマンは頷いている。
 
「ふむ、シグルトならば間違いは犯すまい。
 
 いざというときの決断力も意志の強さも申し分ないからの。
 精進するがよいぞ」
 
 スピッキオも相槌を打った。
 
「どう考えてもシグルトよね。
 
 正直、シグルトじゃないなら文句を言ってたわ。
 彼なら公正だし、誰かをないがしろにしたり、自分の考えだけで行動を決めたりしないでしょ」
 
 数枚の銀貨を弄びながら、レベッカも承認する。
 
「そうかぁ。
 
 シグルトが隊長さんなのね?
 頑張ろうねぇ~」
 
 陽気にラムーナがシグルトの前でお祝いのダンスらしきものをくるくる踊っている。
 
「俺が…」
 
 シグルトは呆然としていた。
 正直、こうすべきと思ったら、それをシグルトが選び決断していたようにも思う。
 だが本当に自分でいいのだろうか。
 
「今は迷ってろ。
 
 だが、みんなおまえを認めてるんだ、シグルト。
 止めたいときに止めればいい。
 でも、おまえができるならやってみろ」
 
 親父は皿を拭きながらシグルトの決意を迫った。
 
「わかった…
 
 差し詰め、次はチーム名か」
 
 親父の一押しで、すんなり受け入れることができた。
 
「そうそうチーム名だよ。
 
 僕がセンスのある名前を考えてあげるから」
 
「待ちなさい。
 
 ここは子供っぽくならないよう、私が…」
 
「こらこら、おぬしら諍いはいかん。
 
 どれ、この老骨が…」
 
 見事にまとまりのない様子に親父があきれた顔をする。
 喧嘩が始まるのかと、ラムーナが不安そうな顔をしていた。
 
 シグルトはふと窓から吹き込んできた爽やかな風が頬をなでるのを感じた。
 
「…“風を纏う者”なんてどうだ?
 
 俺たちはいろんなしがらみをもって出合ったけれど、今ここにいる。
 どんなところにも風は吹くし一緒についてくる。
 
 この先どうなるか判らないけど、皆で風といっしょに道を歩いていく旅人でいよう…
 
 出合った頃を忘れないように。
 これからもずっと今の気持ちを忘れないように。
 
 風を…過去を背負って、新しい風…未来を手に入れよう。
 
 だから、“風を纏う者”だ」
 
 シグルトは謳うように誓いを立てるように厳かに言葉にした。
 皆驚いたようにシグルトを見る。
 あのむっつりとした男がこんな詩的なことを口にするのか、と。
 
 それは春先の風のように柔らかな微笑だった。
 シグルトは、見るものが見ほれるような優しげで美しい微笑を浮かべていたのだ。
 
(俺は確かに人を殺した。
 冒険者をしていればもっと殺すだろう。
 
 殺すことも罪を犯すことも気持ち悪いし、慣れたくはない。
 
 罪悪感もきっとついてくるし、母さんたちやブリュンヒルデの事は今でもつらい。
 
 …でも俺は冒険者になって、この〈第一歩〉を踏み出した。
 
 この先のことなんてわからない。
 死ぬかもしれない。
 後悔だってするだろう。
 
 でも、俺は共に歩み必要としてくれるこいつらと一緒に、歩んで行くよ。
 
 俺はそうやって進んで、生きる!!!)
 
 見開いたシグルトの瞳は、朝日のよう輝く強い意志と未来への覚悟を宿していた。

 
 
 
 とっても長くなりました、『第一歩』後編です。
 
 シグルト、かっこよすぎ~、美化しすぎ~と転げまわらないでください。
 書いててすごく恥ずかしかったです…
 
 シグルト、美形だし強いし根性あるし、一部の男性を敵に回しそうな奴です。
 でも、そのむかつく~というのは、シグルドが嫉妬されやすくて、それで悲しい過去を背負ったことを表現できたことだと私は思うのです。
 
 シグルトは夢の中ではへぼへぼでしたが、あれは夢の中の事で、本来のシグルトは魔法で頭の中をかき回されでもしない限りはむっつりクールなトウヘンボクです。
 まあ、英雄型にしたので、少しはそれっぽくなるようにしてみました。
 
 実はシグルト、めったに笑顔をみせません。
 ほとんど苦笑。
 過去にあったつらい思い出が、シグルトの心を凍結してしまったんですね。
 だから、シグルトがものすごくまれに見せるスマイルは見たものを撃沈させる威力があるのです。
 もともと凛々しい系の美形ですから。
 
 
 3回という長さでお送りしたファーストリプレイはいかがだったでしょうか?
 
 『第一歩』、とてもお金持ちになれます。
 なんと3000SPと傷薬、毒消しが手に入るあぶく銭っぷり。
 一気にリッチになってしまいました。
 
 ものすごく勢いのあるシナリオです。
 
 自分の思い通りにPCが動かないという人は、他のシナリオもそうですが、セリフとか行動とか脳内で変換して楽しんでみるといいです。
 え、恥ずかしい?
 じゃあ、私の頭の中はCWきっての恥部です。
 
 楽しみましょうよ、せっかくですし。
 
 
 さて、今回の報酬やら…
 
・収入
 +3000SP

・獲得アイテム
 【毒消し】×1、【傷薬】×4
 
◇現在の所持金 3200SP◇(チ~ン♪)
 
 では、次回も読んでやってくださいね~
 失礼いたします。
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CW:Y2つ流札講座 その弐

 皆さん、楽しくCWやってますか?
 
 Y2つ流札講座、第2回目は適性と能力値やレベルの、判定への具体的影響についてお話します。
 
 CWといったら能力の隠蔽が有名です。
 基本的に能力値とかレベルの影響について、プレイヤーさんはあんまり御存じないのではないかと思います。
 
 CWには6つの肉体的特徴(具体的に言うと能力値)と5種類10タイプの精神的特徴(具体的に言うと性格)があり、その合計によって得意分野が決まってきます。
 
 肉体的特徴には、器用度、敏捷度、知力、筋力、生命力、精神力の6種類があり、基本的には高ければ高いほど強くなります。
 皆さんが宿で作ったPCの一つの肉体的特徴は1~12になります。
 合計はだいたい36前後ですが、素質によってはもっと高いのや低いのもあります。
 
 精神的特徴は相反する性格的な数値で、好戦性⇔平和性、社交性⇔内向性、勇猛性⇔臆病性、慎重性⇔大胆性、狡猾性⇔正直性(呼び方は若干異なる場合もあります)があります。
 
 これはどちらかに偏るようになっています。
 どっちにも偏らない場合は0、可も無く不可も無くです。
 偏っている場合は偏ったほうが得意(+)相対するものが苦手(-)になるようになっています。
 
 またこの数値はスキルやアイテムを手札に持ってくる場合、そのPCやキャストの好みとして色濃く影響している様子です。
 
 平和性の高いものは【癒身の法】のような平和性の影響のスキルを引きやすいかわりに、【渾身の一撃】や【魔法の矢】などの好戦性の関わるスキルは配布が微妙に少なくなるようです。
 能力値がものすごく高くても、結局平和性や臆病性が高いと、まるっきり戦闘に不向きになるわけです。
 
 つまりCWは「すべてパーフェクトな人物」は決してできないようになっています。
 そしてPCの肉体的特徴や精神的特徴をつかむことが、CWの戦闘や判定で失敗しないために必要となります。
 
 肉体的特徴と精神的特徴の数値をたしたもの(筋力+勇猛性など)を適性と呼び、これは極めて変動し難い(年代の移り変わりで少しだけ変化する場合があります)才能のようなものです。
 レベルが向上しても変化しません。
 
 この数値はカードの横に表示される4段階(真っ黒、影付緑、真緑、白)で大雑把に把握することができます。
 適性が3以下がほとんど影、4~8が影付緑、9~14が真緑、15以上が真っ白になります。
 
 ここで、適性に応じたワンポイントアドバイスをば。
 
 ほとんど影だったら、致命的に苦手です。
 その道はあきらめましょう。
 絶対成功でなければ失敗する可能性が高いです。
 
 影付緑だったら、ごく普通です。
 使えないことはありませんが大成することは難しいでしょう。
 まあ一般人程度であればこれで充分でしょうが。
 
 真緑だったら、得意です。
 その道で成功したいならこのぐらいあるとよいです。
 ちなみにデバグ宿で作れるテスト用のPCは一番得意なものであれば10~11の適性なので、その程度あれば専門家としては充分です。
 優秀印をつけてもよいでしょう。
 
 白だったら、天才です。
 信じられないほど大きな結果が期待できます。
 レベルの高い敵にすらスキルを成功させたり、召喚獣の回数が増えたりと嬉しいことばかりです。
 ただし、この適性になるには犠牲も大きく極端なものになります。
 あまりに強すぎるだけのPCはシナリオをプレイするに当たって萎える原因になります。
 この適性はどんな天才PCでも3つあれば奇跡です。
 1個でもあったら幸運だと思ってください。
 ただ、他のPCとの格差が大きくなるので注意も必要です。
 
 
 実は適性は性格の影響が顕著です。
 適性玉は緑なのに、なぜか鑑定が苦手なPCを見て首をかしげたことはありませんか?
 鑑定によく用いられる適性、器用度が11あって大胆性が2の場合、、器用度+慎重性の適性は、大胆性と慎重性が相反するので-2となり、9になります。
 これと器用度7で慎重性+2の同じく適性が9の場合で判定を比べた場合、後者の方が成功しやすい傾向があるようです。
 
 得意分野は性格の傾向を重視することからはじめるのも、上手なPCの得意分野育成に繋がります。
 
 適性の数値1と行動力は同じぐらいのグレードです。
 判定において1段階(レベル)有利にするには適性が5ぐらい必要です。
 PCなどのレベルは適性の数値2ぐらいのグレードです。
 もちろんこれはいろんな影響でかわってくるので、目安としてその程度だと思っておいてください。
 
 まあ、基本的に職業に必要なスキルやアクションカードの適性が真緑なら普通のバランスを謳うシナリオではだいたいやっていけます。
 もし失敗が多くて困ってしまったら、行動力をあげてチャレンジすれば、リューンの【祝福】なら一段階ぐらい…普通の適性のものが得意な適性になるぐらい…の効果が得られるでしょう。
 
 カードワースの傑作、『隠者の庵』の【加速の法】や、Martさんの『銀斧のジハード』で手に入る盗賊スキル【盗賊の歩】などがあれば、成功させたい判定があるとき、とても役に立ちますよ。
 
 
 今回はこのあたりにしておきます。
 専門用語が多くて困った人は、流す程度に御覧ください。
 
 では次回の講座を期待せずにお待ちくださいね。
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『第一歩』 中編

 そこには男が立っていた。
 薄気味悪い笑みを浮かべて。
 
「よう、人殺し。
 また遭ったな…」
 
 男の顔を見てうんざりする。
 もう見なくなったはずの夢だ。
 
「悪人や敵なら殺すことには見境なしか?
 いや~、殺されたほうはたまらんね。
 冒険者なんて修羅だよ、殺人鬼だよ。
 ああ怖い怖い」
 
 シグルトはこの男をよく知っていた。
 自分を見下していた男だ。

「今度はめった斬りか?
 俺のときは<殴り殺された>んだよな」
 
 男は野卑な印象のある顔で、ぎゃはは、と笑う。
 
「そうだ、おまえは俺が殺した…」
 
 よく覚えている。
 
 シグルトは過去へと思いを馳せた…
 
 
 石造りの立派だが、牢獄のような印象のある家。
 シグルトは母と妹と一緒にその家に住んでいた。
 時折やってくる立派な身分の男が、自分の父親であることにはなんとなく気付いていた。
 
 その国の建国王の母親と同じ血筋の名門の生まれだったシグルトの母は、父親が政争で敗北し妻と無理心中した後、シグルトの父によって石造りの家に囲われることになった。
 10歳のとき、シグルトの父親は妹と一緒にシグルトを自分の子供として認知してくれ、母と一緒に貴族として屋敷に迎えられた。
 
 シグルトには異母兄がひとりいて、彼がこの家の継承者だった。
 思い出すだけでも反吐がでそうになる邂逅…
 異母兄は出合った後すぐにシグルトを見下した目でみて、売女の子供がなぜここにいるのだと、馬に使う鞭でシグルトを打って跪くことを強要しようとした。
 
「父上は下種な妾をこの屋敷にいれるのですか?
 しかもこんな薄汚い奴を私の弟だと?
 
 母上が天国で嘆いているでしょうな。
 
 まあ、過ちは起きることもありましょう。
 家政婦と従者としてなら置いてやってもいいですがね。
 侍従の証を立てさせてください」
  
 そしておびえる妹の、誰もが愛らしいといった顔を鞭で打った。
 シグルトは父親が止めるまもなく、その男を殴り飛ばしていた。
 
「俺も貴様みたいなクソ野郎の弟になる気はない。
 今度妹や母さんや俺に鞭を振るってみろ…
 
 その腕をへし折ってやる!」
 
 シグルトは激昂しやすいわけではなく、冷静沈着とまではいかないが、とても意志の強い少年だった。
 だが、シグルトは自分をいくらけなされても相手にしなかったが、母と妹、そして親しい者たちの名誉を汚されることは決して許さなかった。
 
 後にだんだん判ってくるのだが、シグルトを見下した異母兄も、彼を憎み蔑んだ貴族たちも、彼に嫉妬していたのである。
 
 “ワルトの美姫”と讃えられた母の美貌を受け継いだ端整な顔立ち。
 健国の王シグヴォルフに流れるのと同じ高貴な血筋。
 7歳のときに妹を襲った猛犬を絞め殺した怪力。
 一度決意したら決してあきらめない鋼鉄のような意志と勇敢さ。
 当時の貴族の若者たちの憧れだった貴族の令嬢の心を射止めた幸運。
 妾の子供だという意外性すら、彼の持って生まれた英雄性の現れである…
 
 そうシグルトの親友は評した。
 
「だからどうしたっていうんだ?
 
 秀麗な顔立ち?
 殴られて腫れれば一緒だ。
 
 高貴な血筋?
 それを望んでたわけじゃない。
 
 猛犬を絞め殺す怪力?
 母さんやシグルーンを守れるように強くなりたくて鍛えただけだ。
 
 鋼のような意志?
 勇敢さ?
 ただめそめそ泣いていたくなかっただけだ。
 
 美しい貴族の娘の心を射止めた幸運?
 今、彼女は俺の横にはもういない。
 
 妾の子?
 意外性だって?
 囲われたの、落ちぶれたの言われながら俺を生んで愛してくれた母さんが、俺やシグルーンのために選んでくれた道だ。
 
 俺は自分の誇りだって笑ってくれた母さんがもっと笑えるように…
 自慢の兄さんだって微笑んでくれたシグルーンが恥じないように…
 
 不器用な俺にはこんな方法でしか愛情を示せなかっただけだ」
 
 シグルトの名誉。
 
 それは幼い頃に決意した愛する人へ示す、誇りの誓いだった。
 
「そう、あなたはいつもそうやって真っ直ぐだったわ…」
 
 いつの間にか気位の高そうな美しい貴族の娘がそこにいた。
 
「…ブリュンヒルデ?」
 
 娘はシグルトと一緒だったときはいつも誇らしげに吊り上げていた秀麗な眉を、悲しげに伏せていた。
 
「…私が、あなたと同じ名前の英雄シグルトの伴侶である戦乙女と同じ名前だから、私たちは結ばれる運命にあるって、あなたに愛を告白したのを覚えてる?
 
 あなたは苦笑いして言ったわ。
 君は運命に愛してほしいのかって。
 
 そして私を抱きしめて愛してくれるときに言ってくれた。
 あなたが選んで好きになったからだって…
 名前じゃなく、私だから愛してくれたんだって…」
 
 自分が彼女をそんな顔にさせてしまったことを、苦しく思っていた。
 しかしシグルトの口から出たのは疲れたようなため息だった。
 
「…でも君はアイツを選んだ。
 
 知ってるよ、君が俺を助けるためにそうしてくれたことは。
 
 今ここにいる俺は、君を犠牲にして逃げ出した下種だ。
 
 あのクソ兄貴はおまえに手をだせば母さんやシグルーンもただではすまないと俺を脅したけど、それだけで君を迎えに行かなかったのか判らない。
 
 君と一緒に逃げればよかったのか、今じゃもう判らない…
 
 でも、君が俺の初恋で、母さんやシグルーンと一緒にとても大切で守りたかったものだったのは確かだよ。
 
 君と一緒に子供を育てて、母さんやシグルーン、ワイスやエリスと一緒に笑って過ごすことが、あの頃俺が求めていた夢だった」
 
 それはシグルトの失くしてしまった大切な思いの残滓。
 
「でもそれは私が愛したあなた。
 
 あなたは私が笑っていられるように…
 あなたのお母様が恥じないように…
 あなたの妹さんが誇れるように…
 あなたのお友達との友情を守るために…
 
 いつも自分を犠牲にしていたわ」
 
 シグルトは黙ってその言葉を聞きながら、心の中で付け加えた。
 それが俺の幸せだったんだと。
 
「でも俺は殺したんだ。
 
 奴を殺して、全て壊してしまった…」
 
 シグルトは自分の両手を見つめながら、自分が犯した事件を思い返していた。
 
 
 事の起こりはシグルトと親友ワイスの妹が、シグルトを好きだと言ったことだった。
 エリスというその娘は、シグルトにとってはもう1人の妹のような存在で、シグルトの妹の親友だった。
 平民の時代から失われることの無い友情と親しみをもって育ってきた幼馴染。
 
 シグルトはその頃、ブリュンヒルデという恋人がいた。
 強引な性格の貴族の娘だったが、その活動的な性格をシグルトは嫌いではなかった。
 そして時を重ねるうちに心から愛するようになっていた。
 
 だから、例え親友の妹でも、その気持ちには応えてやれないと言った。
 親友ワイスもそれは仕方ないことだと言った。
 
 だが、ブリュンヒルデに横恋慕しており、シグルトを憎んでいる男がいた。
 
 グールデンというその男は、シグルトの名を騙ってエリスを呼び出し、取り巻きと一緒に乱暴を働き、エリスは事実を兄に告げて自殺した。
 ワイスは妹の仇をとろうとして、グールデンとその取り巻きに嬲り殺しにされた。
 
 シグルトの故郷の教会にとって自殺は最大の罪であり、不具にされて審判の日を迎えるよう罰せられるという因習が伝わっていた。
 だから自殺者は身体の一部を切り落とされ、名誉を汚される。
 
 国の司教を伯父に持つグールデンは、自殺を理由にエリスの死体の首を切り落とし、彼女を侮辱した。
 
 シグルトの親友ワイスも貴族に刃を向けた罪でさらし首にされた。
 
 狡猾なグールデンは自分がエリスの自殺に関わったことを巧みに隠蔽し、伯父の権力を借りて事実をもみ潰した。
 そして親友の汚名をシグルトにも及ばせようとたくらんだのである。
 
 シグルトは、その男が貴族の息子であることを知っていた。
 殺意と憎しみに狂いそうになりながら、それでもシグルトは耐えていた。
 
 しかしグールデンは執拗にシグルトを挑発し、ついに罠にかけた。
 
 シグルトの妹シグルーンを連れ去り、シグルトを拘束して、彼の目の前でワイスとエリスの名を侮辱し、乱暴を働こうとした。
 
「下種な妾の息子が、俺たちと同じ貴族を名乗るなど許せんな。
 
 それにおまえは自殺者の孫だったな。
 呪われているんだよ、おまえは。
 
 あの下賎な兄妹と一緒に、首の無い身体で地獄をさまよってるのがお似合いだぜ。
 
 それとも、おかぁさ~んて泣いて助けを呼ぶのか?
 
 …ああ無理か、口がないんだからなぁ。
 
 ギャハハハハッ!!!!!」
 
 癇に障る笑い声を上げ、グールデンは奪い取っていた、エリスが自慢にしていたブロンドの髪で自由を奪われたシグルトの頬を打ち据え、その後シグルーンの髪と服を乱暴に切り裂いた。
 泣き叫ぶ妹を見たシグルトは、押さえつけていた男たちを打ち倒し、手首を拘束した縄を、こすれた自分の腕の肉が見えるほどに乱暴に引きちぎると、驚くグールデンを殴り飛ばした。
 
 グールデンは、最初はよくも殴ったな!と怒り、顔が歪んでいくほど殴られるうちにやがて泣きながら助けを求めた。
 
 気がつけば、両手を返り血と自分の血で真っ赤に染めたシグルトの前で、目玉と舌をだらりと垂らしてグールデンは絶命していた。
 それを見たシグルーンはあまりの惨状に恐怖して失神した。
 
 シグルトは殺人の罪で拘束され、牢に入れられた。

 そしてその日から、シグルトの夢にグールデンが登場して恨み言を言うようになった。
 シグルトは不眠症を患い、牢の壁を引っかいて指の爪が無残にかけ落ちるほど悪夢にうなされるようになった。
 
 決まって夢に現れるグールデンはシグルトを人殺しと攻め立てた。
 
「おまえは人殺しだ、シグルト。
 
 おまえの母は人殺しの母親だ。
 おまえの妹は人殺しの妹だ。
 
 呪われろ!!!」 

 抉れた腕の肉が化膿し、高熱を出したシグルトは見るものが目を背けるほどやつれていった。
 
 そんな時、恋人ブリュンヒルデはシグルトに一方的に別れを告げると、シグルトが嫌う異母兄と結婚してしまった。
 
 後に判ったことだが、商売で一山当てたシグルトの異母兄は、事業に失敗したブリュンヒルデの父に縁談を持ちかけ、ブリュンヒルデにはシグルトを牢から出すことを条件に結婚をせまり、ブリュンヒルデはそれを受け入れたのだ。
 
 シグルトは仮釈放になって治療を受けていたが、父が槍試合というスポーツで落馬して脊髄を折り、3日後に亡くなった。
 それは事故に見せかけた復讐だった。
 父の庇護を受けられなくなったシグルトは、殺したグールデンの親族から命を狙われるようになった。
 
 母はシグルトに国から出るよう言い、娘と一緒に修道院に入った。
 
 傷の治ったシグルトは貴族の身分を剥奪され、国外追放となる。
 故郷を出る朝、自慢げに新妻の肩を抱き、もう戻ってくるなよ、と釘を刺す異母兄と、今のように悲しげに顔を伏せたブリュンヒルデが送ってくれた。
 ブリュンヒルデは最後までシグルドを見ることはなかった。
 
 そしてシグルトは故郷を離れた。
 
 
「…そうだ、おまえは人殺しだよ、シグルト。
 
 そしてまた殺したんだ」
 
 そこにはシグルトそっくりの男が立っていた。
 
「おまえは…」
 
 目の前にいる男はシニカルに口元を吊り上げ、ぎゃははっ、と下品に笑う。
 
「俺か?
 俺はシグルトさ。
 
 おまえと同じ人殺しの、な」
 
 頭が痛くなり、動悸が激しくなる。
 
「国を離れれば逃げられると思っているのか?
 おまえが不幸なことにあったからって、おまえの罪が消えたとでも思っているのか?
 
 確かにグールデンはひどい男だった。
 でも殺してよかったのか?
 
 グールデンを殺したことでおまえの家族は不幸になった。
 人殺しの家族の汚名を着せられて。
 
 父親はおまえのせいで殺されたんだよな。
 
 ブリュンヒルデだって、おまえのために好きでもない下種野郎と結婚したんだぜ。
 
 冒険者になったぐらいで、逃げられたつもりか?」
 
 気持ちが悪くてシグルトはよろめく。
 
「…やめろ」
 
 しかし目の前のシグルトは容赦しなかった。
 
「冒険者を続ける限り、また殺すことになる。
 
 おまえはどんなに足掻いても人殺しさ。
 そうして仲間も不幸にするんだ。
 
 おまえが愛したものを不幸にしたように」
 
 ついに跪くシグルド。
 その目から涙がこぼれる。
 
「頼む…やめてくれ」
 
 シグルトの周りをたくさんの足が囲う。
 それはシグルトが殺したものたちだった。
 
 7歳のとき殺した犬もいる。
 グールデンもいる。
 先ほどの黒装束の男もいる。
 妖魔たちもいる。
 
「あ、うあぁぁ…」
 
 いつもの毅然としたシグルトではなく、涙を流し鼻を垂らして後ずさった。
 
 そして別の足にぶつかる。
 おそるおそる見れば、仲間たちや先輩冒険者、そして母や妹、ブリュンヒルデやワイス兄妹もいる。
 
 彼らはシグルトをいっせいに指差した。
 
「ぅぁあ?」
 
 言葉にならない恐怖に震えるシグルト。
 
 彼らは一様に蔑んだ目でシグルトを見つめて言った。
 
「ひ・と・ご・ろ・し!」
 
 目を見開いてシグルトは絶叫した。
 
「ぅぁぁあああ!!!!
 やめろぉぉぉおおうっ!!!!!」
 

「…ルト、シ…ルト!」
 
「…ゃめ…」
 
「シグルト!
 しっかりせんか!!!」
 
 はっと跳ね起きて脇腹の激痛とめまいでまた倒れる。
 
「…ぅう。
 
 ここ、は?
 俺は、いったい…」
 
 額に汗を浮かべ、少し青ざめたスピッキオがシグルトを支えていた。
 
「…ふう。
 気がついたようじゃな」
 
 額の汗をぬぐいつつ、スピッキオは安堵の表情を浮かべていた。
 
「…そうだ、敵ともみ合いになって、はっ!」
 
 置かれていた現状を思い出し、シグルトは周囲をきょろきょろと見回した。
 仲間たちが心配そうに見下ろしている。
 
「あの黒服の男なら死んでたわ。
 無茶するわよね~
 
 脇腹に風穴開けて武装した敵と格闘するなんてさ」
 
 レベッカはあきれたという口調で言うが、その声にもほっとした響きがある。
 
「シグルトは貧血で倒れたんだよ。
 脇腹のほかにも身体のあちこちに細かい傷があった。
 
 倒れた原因は脇腹からの出血多量。

 今動くのはやめたほうがいいよ、血が足りなくてふらふらするでしょ?
 待ってて、今血になりそうな野草を見繕ってくるから。
 
 スピッキオとトルーアさんに感謝しなきゃだめだよ。
 危なかったの、倒れるか青ざめるまで癒しの秘蹟を使ってくれたんだからさ」
 
 そういうロマンは大げさに両手を広げて、しょうがないなぁ、と言った。
 しかし照れたように顔が高潮して赤い。
 
「シグルト、大丈夫?」
 
 心配そうにラムーナが覗き込んでいた。
 
「俺は…殺したのか」
 
 シグルトの両手はまだ敵の返り血に染まっていた。
 
 
 結局シグルトたちはその教会で一晩をすごした。
 一番力のあるシグルトが動けないので、ラムーナ以外は不平を言いつつ妖魔たちの死体を片付けていた。
 
 次の朝、若さとロマンの調合してくれた特別に苦い増血剤を飲んだおかげか、シグルトの動きはしっかりとしたものに回復していた。
 結局見つかったのは硝子のような奇妙な形の珠が3つだけだった。
 
 それでもシグルト以外は表情が明るかった。
 初めての依頼を成功させたおかげだろう。
 
 無事帰ったシグルトたちを見て、依頼主は喜び報酬を与えてくれた。
 たった500SPだったが、シグルトたちにとって大切な初報酬だった。
 
 その後は手に入れた珠を道具屋に持ち込み、ロマンとレベッカが見事な交渉をし、その道具屋で優先的に取引をするという約束をした上、証書まで書く羽目になったが、銀貨千枚という大金を得ることに成功した。
 
 『小さな希望亭』に凱旋したシグルトたちは、笑顔で迎えてくれた宿の親父やレストールとコッカルトに事のあらましを報告した。
 シグルトが死に掛けたことに、レストールは大きなため息をついてシグルトの頭を小突いたが、生き残ったからまあいい、と酒をおごってくれた。
 
 途中やたらとシグルトに因縁を吹っかけて「人殺し」扱いする先輩冒険者の乱入があったものの、事実とばかりに反応しないシグルトにあきれて去っていった。
 明るいほかのメンバーとは別にラムーナは終始、シグルトを心配そうに見ていた。
 スピッキオが心配してたずねると、ラムーナ曰く、シグルトは怒っているようだとの事だった。
 事実、シグルトはむっつりとエールを啜るばかりで無言のままだ。
 
 初めての依頼で一度にいろんなことが起きたから、ショックなんだろうと親父は皆をいさめたが、シグルトの瞳に宿った病んだ光が気になっていた。
 最初に宿にやって来たときからシグルトはどこか他の冒険者とは違って、冷めたような悟ったようなところがあった。
 だが、今回の依頼の後のシグルトはそれがひどく歪んだものに変わってしまったようにも見える。
 
 親父は、仲間を自分のミスで全滅させてしまい、償うべき相手を全て失って1人戻ってきた冒険者に似ていると感じていた。
 
 宿の娘は親父の予想通り、ハンサムなシグルトと何とか仲良くなろうと、一生懸命話しかけているが、このぶんなら絶対相手にされんから大丈夫だろうな、と思いつつ時折シグルトを観察していた。
 
 シグルトたちは最初の報酬を親父にしばらくの宿代として預けた。
 手元に残ったのはいろいろと使ってかなり減ってしまったお金と、珠を売って稼いだ銀貨千枚である。
 
 しばらくは大丈夫だが、また稼がないとすぐなくなるわよこんなはした金、とレベッカはもう依頼の張り紙を漁ってる。
 仲間たちはそれぞれに自分のすべきことを考え始めていた。

 そして夜がやって来ようとしていた。

 
 
 
 というわけで中編です。
 本来のシナリオとはかなり内容が違うのですが、シグルトの過去を明かしつつ、彼が犯した殺人と苦しみを描いてみました。
 
 シグルトは名誉こそ命なのですが、その名誉は家族や親しい人に捧げる誇りだったんですね。
 
 シグルトの恋人ブリュンヒルデは伯爵家の御令嬢でとっても高飛車だったんですが、美人でもてもてで、グールデンあたりによくちょっかいをかけられていたんですが、颯爽と現れて助けてくれた(シグルトは弱い者いじめとか、婦女子のピンチを放っておけないお人好し)シグルトに一目惚れしてしまいます。
 プライドをかなぐり捨てて行った告白は「私たちは名前が伴侶、だから結ばれるのが運命なのよ、光栄に想いなさいな、おほほ!」みたいな感じでした。
 それをすんなり受け入れて、周囲が嫉妬する美男美女カップルになったわけです。
 
 浮気をしないのもシグルトの特徴ですね。
 だてに誠実ではありません。
 
 結局悲恋になってしまうんですが。
 シグルトは絶対「波乱万丈」の称号付です、きっと。
 
 皆さんはCWで最初にPCが殺人を犯したとき、どんな感想をいだいたのでしょうか。
 
 ゲームなんだから、そんなことは考えない~というかたもいるかもしれませんが、けっこう戦闘シナリオとかみるとPCて殺戮をやってるわけでして。
 
 圭さんのシナリオはこういう表現を隠蔽せずに表現なさってますので、私は感銘をよく受けました。
 
 話の中にあった「自殺者は身体を不具に云々」という因習ですが、中世には似たようなことが本当にありました。
 映画『キングダム オブ ヘブン』の冒頭でこのような因習が登場します。
 
 今回やってみて『第一歩』はバグが結構ありました。
 たとえば500SPがもらえないとか。
 最初の役割選択をキャンセルするとフリーズするとか。
 
 今度やるときに修正されてるといいなぁ。
 
 こんな身勝手なリプレイをして申し訳ないです。
 でも、このシナリオ是非やってほしいシナリオです。
 
 今回のリプレイではすでに殺人を犯したシグルトのことなので、内容を別物といっていいぐらいアレンジしてあります。
 
 
 さて、いよいよ次はこのシナリオもラストです。
 生ぬるい期待をもって待っててくださいね~

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『第一歩』 前編

「…ふっ!!!」
 
 鋭い呼気とともに真っ直ぐな突きを放つ。
 しかし、その攻撃はたやすく避けられて、シグルトの肩に鈍い痛みが走った。
 がくりと膝を地面につく。
 
「だから言ってるだろ!
 お前の攻撃は正直過ぎるんだよ」
 
 無精ひげの生えた粗野な口調の男は、馬鹿にするように剣に似せた剣術練習用の棒切れで、自分の肩をぽんぽんと叩いた。
 
「おいレストール。
 素人相手にやりすぎだぞ?」
 
 横で鎧姿の男が苦笑いして言った。
 
「そんなこと言って甘やかしてみろ…
 こんな若造、すぐに死んじまうぜ!
 
 いいかシグルト…冒険者って奴は甘えた野郎から死んでいくんだ。
 生き残りたかったら、こんなことでいつまでもへたってないで、とっとと攻撃して来い。
 どんな手を使ってもいいから、俺から一本とって見ろ!
 …そうしたら終わりにしてやる」
 
 レストールという粗野な男は、容赦なくシグルトの肩口を蹴り飛ばした。
 
 シグルトの眼に闘志が宿る。
 
「おっ?
 やる気が出たな…」
 
 横で見ていた鎧姿の男は、面白そうにシグルトを見ている。
 
 シグルトは棒を上段に両手で構える。
 
「生意気にも『鷹の構え』か?
 そんな大振り、俺に通じると思ってんのかぁ?
 さっきから言ってるだろ。
 お前の攻撃はなぁ…ぬぉっ?!」
 
 かまわずシグルトはぐっと踏み込むと、渾身の一撃をレストールの頭めがけて振り下ろす。
 レストールが攻撃を容易く受けるともう一度、同じように振り下ろす。
 
 ガッ!!!
 ガッ!
 ガッ!!
 
 凄まじい打ち込みだった。
 
「ふん!
 力は認めてやるが、そんな攻撃じゃ…」
 
 ベキィ!!
 
 次の一撃でレストールとシグルトの棒が同時にへし折れた。
 
「ぬぅあっ!!!」
 
 一瞬だがレストールに隙ができる。
 そこにシグルトはタックルして、自分の持っていた半分ばかりの棒切れをレストールの首に押し付ける。
 
 とった!
  
 そうシグルトが思った瞬間、レストールの拳がシグルトの頬に突き刺さった。
 したたかに地面に叩きつけられ、シグルトはそのまま失神した…
 
 
「で、どうだったんだ、シグルトの腕は?」
 
 親父がレストールと鎧の男、コッカルトの前にシチューの皿を置きながら尋ねる。
 
「へっ
 あんな若造、まだまだだぜ!」
 
 がつがつと先にシチューを食らっているレストール。
 
「…いや、正直末おそろしいな、アイツ。
 本当にこいつから一本取ったんだぜ」
 
 コッカルトはレストールの首筋にできた青アザをなぞる。
 
「っ!!
 気色わりいぃんだよ!
 変な触り方するんじゃねぇ!!」
 
 首のアザを押さえ、レストールは盛大に唾液混じりのシチューを飛ばした。
 
 顔をしかめてシチューをふき取りつつ、コッカルトはまた思い出したように話を続ける。
 
「…ほんとにすげえよアイツは。
 
 踏み込むときに全く躊躇してなかったし、得物がへし折れても最後まであきらめなかった。とんでもないクソ度胸だ。
 あれで、剣をまともに使い始めてまだ一月だっていうんだからな。
 
 技はド素人だが、基本をみっちり叩き込めば一年後には俺たちに並ぶか、越えてるかも知れない。
 
 ありゃ…化けるぞ」
 
  
 …それは、宿の熟練冒険者であるレストールとコッカルトの2人が、新米冒険者であるシグルトに剣の稽古をつけてやる、と言い出したことから始まった。
 
 シグルトたちがスキッピオを伴って宿に戻ってきた直後の話である。
 
 暗い顔をしてテーブルに座っていたレストールとコッカルトだったが、シグルトたち5人をみて興味をひかれたように話しかけてきた。
 なぜかシグルトの名前を聞いた瞬間、2人の眼が驚いたように見開かれ、その後2人はシグルトたちにおせっかいといっても過言ではないくらい、こと細かく世話をやいてくれた。
 
 2人の先輩冒険者は、シグルトたちに昔使っていた剣や鎧をくれて、冒険者の基礎となる野営のしかたや、心構え、護身術や駆引きにいたるまで、親身になって教えてくれた。
 
 今回のような強引な“教育”もあったが、2人の冒険者のおかげでシグルトたちは十分な予行と訓練をつむことができたのである。
 
 そしてシグルトたちは初の依頼を受けることになった…
 
 
「ふんふんふ~ん♪」
 
 鼻歌を歌いつつピョンピョン先を行くラムーナを、同行したトルーアという侍祭は、本当にこんな人たちで大丈夫なのか、という不安げな顔でとぼとぼと後をついて来た。
 
 仲間がそれぞれに移動する中、シグルトは旅立つ前にレストールが酔っ払って何度も「冒険者なんて辞めろ!」と言っていたことを思いだしていた。
 
(いまさら迷っても仕方ない。俺たちは歩き始めたんだ)
 
 レストールがくれた、古びているが磨いたばかりのやや重い両刃の剣。
 その柄頭を撫でながら、シグルトは自身にある迷いを一つ一つ心の中で断っていった。
 
 その日の夜。
 野営中に見張りの時間になり、焚き火の晩をしていたシグルトは、眠れないというトルーアに尋ねられた。
 
「あなたはどんな生まれなのですか?」
 
 突然の問いに戸惑いながらも、シグルトは焚き火の前で1人見張りをしていた退屈を紛らわすように話し始めた。
 
「…一応貴族になるのかな。
 父は小さな所領と男爵位を持つ騎士だった。
 
 でも、母は父の愛人だったから、息子として屋敷に迎えられる前は普通の子供だったと思う」
 
 シグルトは西方の少し北にある小さな国のる騎士の子供だった。
 最初は街のはずれにある石造りの家に母と妹と3人で暮らしていた。
 幼いながら、時折やってくる立派な身なりの男が自分の父親であることをなんとなく気付いていた。
 
 10歳になってシグルトはその男の正式な子供として、妹ともに認知されたが、所詮は小さな所領の騎士に過ぎなかった父親は、それ以上の事は何もしてくれなかった。
 
 あとで噂に聞いたことだが、シグルトの母は現国王の血筋にも関係する貴族の令嬢だったが、政争で敗退した母の父は妻とともに無理心中し、行くあてが無かった母はシグルトの父親に見初められ、囲われたらしい。
 
 父の屋敷には跡継ぎの異母兄がいたが、シグルトはその男が兄だと聞いて虫唾が走った。
 派手な服を着て高慢に振る舞い、シグルトを「売女の子供」と罵って、馬を打つ鞭で叩いて跪けと言ったその男を、父が止めに入る前に殴り倒していた。
 シグルトは異母兄に会った瞬間から嫌いになったが、母を侮辱した瞬間には敵だと認識していた。
 
 その後は随分その異母兄といがみあったものだが、冒険者となった今はただの過去になるのだろうと、なんとなく思っていた。 
 
「どうして冒険者になったのですか…
 所領は継げなくても、いくらか資産は継ぐことができたのでは?」
 
「あのクソ野郎と一緒ってものが少しでも少なくなってほしかったんだ。
 あとは単純な消去法だよ。
 いろいろできそうなことを考えて、最後に残ったのが冒険者だったんだ。
 それに…いや、あんたに今話すことじゃないな、あれは」
 
 焚き火に新しい薪をくべながら、どこか暗い光の瞳で、シグルドは弾ける火の粉を眺めていた。
 
 
 教会の門番をしていたシグルトたちは、森から飛び出し正面から突っ込んで奇襲するという手段で、ゴブリンとオークを倒した。
 
 皆がどうしようか迷ったとき、真っ直ぐ行けばいい…とシグルトはすんなり作戦を決めてしまった。
 
 シンプルねぇ、とレベッカがあきれたが、見張りが2人ならおびき出す手段も失敗するだろうと、結局一番単純な作戦になった。
 
 真っ先に接敵したラムーナは、手に入れたばかりの小剣で払うと見せかけてしなる蹴りでゴブリンの顎を打ち砕いた。
 彼女の柔軟な身体と敏捷性を生かして勝つ方法として、コッカルトが教えてくれた奇襲の技だ。
 温厚なラムーナが随分とえげつない闘い方をすると、後にスピッキオは嘆いたが、
 
「う~ん、でも殺さないと負けちゃうんでしょ?
 それに、鶏さんをさばくより傷つけてないよ?」
 
 といった言葉に絶句して、これが貧困の弊害か、などとぶつぶつ呟いていた。
 レベッカがオークの喉にナイフを突き立て、その横からスピッキオが杖でオークの頭蓋を粉砕する。
 この元修道士もそれなりにえげつない。
 
 仲間の連携の横で、もう一匹いたゴブリンの肩口にシグルトの剣がめり込む。
 よろめくゴブリンにシグルトは止めを刺した。
 
 緊張を解かず閉められた扉を蹴り開ける。
 中には3匹の妖魔がいた。
 オークが一匹、ゴブリンが一匹、そして一際体格の大きいホブゴブリンだ。
 
 レベッカがゴブリンを牽制している間に、スピッキオとラムーナがオークと対峙し、シグルトがホブゴブリンと一騎討ちになった。
 ラムーナの膝蹴りがオークの腕を払い、スピッキオの杖が顔面を打ち据える。
 
 うなるようなホブゴブリンの一撃をかわし、シグルトは剣で革鎧の上から叩き込むように斬り付けた。浅く裂けた鎧から、妖魔の血がどろりとあふれる。
 ラムーナがその横でオークに止めを刺した。
 
「《眠りをもたらす白雲よ、抱いて沈めまどろみの底に…》
 
 離れて!!!」
 
 ロマンが呪文を完成させ、警告する。
 あわてて他のメンバーは敵から離れた。
 敵を中心にうっすらともやのように煙がかかる。
 
「《眠れ!》」
 
 ロマンのするどい一声で煙が拡散する。
 ゴブリンとホブゴブリンは相次いで倒れ伏した。
 魔術師が好んで使う初歩的な魔法、【眠りの雲】である。
 
 しっかりと狙いを定め、首の裏から正確に急所を刺し貫いてレベッカがゴブリンを屠る。
 
 シグルトの剣がホブゴブリンの肺を貫いた。
 激痛から腕を振り回して跳ね起きるホブゴブリン。
 
 血が気管に逆流して濁った咳をしつつ、ホブゴブリンはシグルトに憎悪の視線を向けて剣を杖にして立とうとした。
 
 一瞬皆その気迫に動きが鈍る。
 わずかに逡巡する。
 頭を振って無理やり闘志を起こし、シグルトは次の剣で確実に心臓を刺し貫いた…
 
「…っはぁあ」
 
 ゆっくりと息を吐き出すと、シグルトは眼を見開いたまま絶命しているホブゴブリンから剣を抜いた。
 
 圧倒である。
 仲間は傷一つ負っていなかった。
 
 そして一同に、敵を殺したという現実が突きつけられた。
 返り血の錆びた匂いと、切り裂かれた妖魔が垂れ流した汚物の悪臭。
 ロマンが顔を青くして吐き、ラムーナはぺたんと座り込む。
 レベッカとスピッキオは動揺はしていないが、嫌そうに顔をしかめている。
 だが、シグルトには何の感慨もわかなかった。
 
(剣は…血と脂でギトギトだな。ぬぐっておかないと、次が斬れない)
 
 シグルトは落ちていた布キレで剣をぬぐうと、汚れていない部分で壮絶な死に顔をしているホブゴブリンの面を覆った。
 
 隠れていたトルーアは出てきた後、凄惨な状況に顔をしかめ、目を背けた。
 
 
 依頼主との契約どおり、教会の中を探索しはじめる。
 シグルトは祭壇の奥に、仲間も見つけていない扉を見つける。
 仲間を呼ぼうとするが、あちこちに散ってしまって姿が見えない。
 
(一応、先に調べておくか。
 さすがにこんな教会の締め切った部屋に、罠などないはずだ)
 
 扉の奥にある階段をくだり、小部屋に出る。
 薄暗い部屋を見回して明かりになりそうなものを探す。
 
「ん?」
 
 部屋の隅で一瞬光るもの。
 次の瞬間、シグルトのわき腹に激痛が走った。
 血にぬれて短剣の切先が刺さっていた。
 シグルトの強靭な腹筋でなければ刺し貫かれていただろう。
 剣が抜かれ、服に血がにじむ。
 
「貴様のせいで!」
 
 黒い外套に身を包んだ痩身の男だった。
 憎しみにぎらついた眼でシグルトを睨むと、剣を突きつけて脅してきた。
 
「動くなよ、若造。
 仲間を呼んだら殺す!」
 
 思ったより出血が多い。
 
「…ここに来た目的はなんだ?」 
 
「そ、それは…」
 
 すうっ、と大きく息を吸い込む。
 
 尋ねる男に答えるふりをして、シグルトはがなるような大声で仲間に危険を知らせた。
 
「皆、気をつけろ!!!
 ここにまだ敵がいるぞ!!!!!」
 
 あまりに大声を出したので思わずむせる。
 
 真っ赤になって怒った男が奇声を上げて斬りかかってきた。
 シグルトはここまで降りてきた距離を思い出し、助けは間に合わないと考えた。
 そうなれば一人で勝たなくてはいけない。
 
 生きて帰ると親父と先輩冒険者たちに約束していた。 
 
「…お前は敵だ」
 
 突然シグルトが言った言葉に男が困惑した瞬間、シグルトは自分のわき腹を押さえていた手を男の顔めがけて振りかざした。
 手のひらにねっとりと絡まっていたシグルトの血が男の両目を直撃する。
 悲鳴を上げる男に、霞む眼を見開いて突っ込み、剣で斬りかかった。
 男と揉み合ううちに、シグルトの意識はぼやけていった…
 

 
 というわけで、圭さんの『第一歩』を最初の御題にさせていただきました。
 長めなので、2~3回に分けて書きます。
 
 このシナリオは圭さんらしいシナリオですね。
 この方、好い部分も曲も含めてすごく押しの強いシナリオを書く方だと思います。
 ある意味ではPCの性格やセリフ、行動が限られてしまうので、Y2つ妄想バージョンにセリフや微妙な結果をチェンジしてます。
 実際にはシグルト、情けないセリフばっかりでしたが、こいつのセリフなら絶対こう…という感じで書いてみました。
 
 『第一歩』はなりたての冒険者が初の依頼に挑むという事から始まるのですが、殺人や冒険者の危険な現状を濃厚に表現しているので、プレイしてて、最初の殺人や味わった恐怖を、こんな風に克服していくんだな…と考えさせられました。
 
 まあ、シグルトの出した答えはおいおい次回以降で。
 
 戦闘の表現に関してはできるだけ結果を忠実に文章にしています。
 真っ先に突っ込んだラムーナが体力を削り、その横でシグルトも敵の体力を削り、スピッキオの攻撃でまず一体めが撃沈。
 次ではシグルトが止め…
 こういう単純な結果をそれっぽく文章にしています。
 
 最初の戦闘は見事に完封勝利でした。
 
 実際戦闘はコンピューターゲームのように倒してお金に換わるんじゃなくて、ざっくりと血なまぐさいんだろうなぁ、と思います。
 表現がグロくて不快に思った方、ごめんなさい。
 
 まあ、第壱話前編はこのあたりにしておきますね。
 
 次回をお楽しみに!(…待っててくれるといいなぁ…)

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CW:Y2つ流札講座 その壱

 この「CW:Y2つ流札講座」では、カードワースでY2つめがよく使う戦術やカードの使い方、装備の仕方、カードワースのシステムなどを紹介します。
 一部(全部だと泣きます)、御来訪の方にとって気に入らない内容が出るかもしれませんが、まあ個人的にブログで言ってるだけなので、目くじらを立てずにお付き合いください。
 なお、これらの記事ではすべてCWのVer1.28を使うことを標準にしてますので御承知くださいね。
 
 このコーナーでは隠蔽データも紹介しますので、そういうのが嫌な方は見ないほうがいいかもしれません。
 
 
 第一回目である今回は、PC作成の基本についてお話します。
 
 最初に宿帳を開いてPC作成を選ぶと名前、性別、年代決めることになります。
 名前はかっこいいのを考えるとして、性別(SEX)は最初に影響する要素です。
 カードワースでは、男性の方が力持ちで好戦的、女性の方が器用で慎重な傾向です。すっぱり分けるなら、男性は戦士、女性は盗賊に向いているわけです。
 
 次に年代(AGE)ですが、能力は年代を経る(年をとる)ことで変化していきます。
 最初の頃、優れていた能力が衰える場合もありますから、注意が必要です。
 でも性格の傾向は変わりません。
 これによってわずかな性格操作ができますので、こだわりがある方は覚えておくといいです。
 
 子供は器用で俊敏ですが、筋力や生命力が未発達です。
 社交的で大胆な傾向になります。
 若者に成長することで器用さや俊敏さはなくなってしまいますが、筋力や生命力と言った体格と体力的なものが標準的なものに成長します。
 
 若者はもっとも平均的な能力をしています。
 可も無く不可も無くという感じです。
 大人に成長することで活力的なものが失われ、生命力が低下します。
 
 大人は争いを好まない慎重な傾向です。
 成長しても下がるのですが、わずかに生命力に劣ります。
 老人に成長することで、生命力の衰えに加えて身体的な能力である器用度、敏捷度、筋力のすべてが下がります。しかし、老いと共に精神面は充実し、知力と精神力が向上します。
 大人からはじめる場合、レベルが2になります。
 
 老人は大人同様に平和的で慎重ですが、加えて臆病で狡猾になります。老獪になるとでもいいましょうか。
 身体能力(器用度、敏捷度、筋力、生命力)は全て老化によって低下していますが、知力と精神力は高くなっています。
 老人からはじめる場合、レベルが2になりレベルアップが早くなります。
 
 子供は盗賊や身軽さを生かした職業。
 若者や大人はそれなりにどんな職業でも。
 老人は魔法を使う職業(僧侶や魔術師など)が向いています。
 
 
 ここで裏情報。
 もともと1以下の能力値は1のままになるのですが、成長して増えるはずでも決して1から変動しません。
 作ったPCの能力値は12を超えることはできません。
 12以上にはならないんです。
 連れ込みPCなどで13以上の能力値である場合、成長の影響は受けなくなります。
 
 
 さて、次は6つの基本型について解説します。
 
 まず標準型。
 よくシナリオによっては僧侶は必ずこの型にされてしまう場合がありますが、どんな職業にでもなれる型です。
 能力値の合計は基本で37もあり、精神力のみ7、その他は全て6という構成です。
 平和的で慎重なので、実は女性なら優れた盗賊や僧侶になれます。
 弱そうな印象の型ですが、万能型と並んで能力値合計のグレードは基本の6つの中ではトップ。
 単純な傾向で僧侶や精霊使いにする人が多いかもしれませんが、どんなこともそつなくこなせるのが魅力です。
 ただし、極端なに偏った能力になることもあまりありません。
 
 そして万能型。
 万能型は基本型で唯一敏捷度が7であるためか、盗賊としてとられる場合が多いのですが、能力のバランスが非常に優れており、精神力以外の能力ならそこそこ以上に使いこなせます。
 能力の合計は基本で37。
 器用度と敏捷度が7で、精神力が5、後は6になります。
 やや社交的な傾向にあります。
 身軽で器用なPCを作りたいなら優れたPCを作成できますが、他の職業も年代や性格次第で多用な職業を作ることができるでしょう。
 
 そして勇将型。
 能力の合計は36。
 器用度と知力が5で、そのかわりに筋力が8となっています。そのほかは6ですが、能力値を見れば判るとおり、腕力タイプの戦士に適しています。
 勇将型の特性は、なんといってもその勇猛性の高さにあります。
 これだけは上位の型を凌ぎます。
 能力値よりむしろ性格の極端な部分で戦士として向いています。
 アクションカード【攻撃】が一番得意になる型でしょう。
 
 次が豪傑型。
 能力値の合計は34。
 実は能力的に相当なペナルティを受けています。
 器用度と知力が4、敏捷度と精神力が5と低めです。
 しかし筋力はなんと9、生命力も7という体格一辺倒な型だったりします。
 下手に能力を高めようとすると、お馬鹿になったり鈍足になったりするので、作成においてはとても難しい型です。
 絶対とまでは言いませんが、戦士以外の職業にすることは困難です。
 好戦的で勇敢、大胆な傾向にあります。
 
 続いて知将型。
 能力値の合計は36。
 筋力と生命力が5、知力が8であとは6になります。
 バランスのよいインテリタイプですね。
 慎重な傾向にあるので、実は女性であれば知性派の盗賊にしたりもできるでしょう。
 基本的には魔術師や賢者向き。
 体格のいる職業はあまり向きませんが、ちょっと賢い戦士などもできなくはありません。
 
 最後は策士型。
 能力値の合計は34。
 豪傑型がマッチョとすれば、策士型は完全なインテリタイプです。
 驚愕の知力9は特殊型を凌ぎすべての型で最高です。
 しかしそれ以外はほとんどダメです。
 敏捷度は5、筋力と生命力は4というもやしっぷり。
 一応器用度と精神力は6あるので、やりようによっては盗賊や僧侶になることも可能でしょうが、魔術師や賢者があっています。
 体力がものすごく低くなるので、一番タフネスが問題になるでしょう。
 
 
 Y2つめは一般人の能力値を4だと考えています。
 実は適性が普通(影付緑玉)になるのが4からなんですね。
 つまり一般人は24オールぐらいの能力値だと考えます。
 じつはこれ、凡庸型なる特殊型の能力合計とおんなじなんですが。
 特殊型についてはまた機会があれば詳しく紹介します。
 
 Y2つ流に考えると宿の冒険者は基本的にわりと優秀な英雄候補になります。
 能力値が4あれば一般人ぐらいのことはできるという考えです。
 
「え~、たった4なのに?」
 
 と思う方、ASKのモンスターのホブゴブリンを見てみてください。
 筋力6で「驚異的な膂力」らしいですよ。まあ、ゴブリンにおいてでしょうが。
 
 もしブイブイいわせる能力値にしたいなら、8~10もあれば充分です。
 9あればかなり優秀と言っていいのだと私は思います。
 筋力10ってオーガー並ですからね。
 
 まあ、シナリオ製作においては12を超えるような能力値の登場は注意していただきたいな~と個人的に考えたりしています。
 
 
 話を戻しますね。
 
 あとは特徴を選ぶわけですが、カードワースでは生命力がとっても下がりやすく低い傾向にあります。
 「秀麗、都会育ち、献身的、進取派、好奇心旺盛、過激」が生命力が下がり「醜悪、田舎育ち、貪欲、鈍感、勤勉、地味」だと生命力が上がります。
 
 体力に一番関わるものですから、できたら若者の時点で3ぐらいはあったほうがよいです。
 それ以外はいろいろ試してみるとよいでしょう。
 
 あまりにぶっ飛んだものにならないよう、その上で適度な特徴を選んでPCを作成するとよいかと思います。
 
 私は戦士、盗賊、魔術師、僧侶の4人(私はこれをゴールデンカルテットと呼んでいます)を作り、あとは好みで適当な職業を入れる作成パターンが多いです。バランスがよいので。
 
 というわけで、今回はこの辺りで失礼します。

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CW:閑話休題 その壱

 というわけで、5人パーティが揃ったので、ここで一息。
 
 この「CW:閑話休題」では、私のプレイスタイルやPCに関するデータ、設定などをだらだらと紹介します。
 
 今回はシグルトたちの冒険に先駆け、初期にPCたちが持ってるスキルと装備のイメージを紹介します。
 

◇シグルト
《装備スキル》
 非装備
 
《装備アイテム》
 非装備
 
《その他イメージ》
 広刃剣、外套、厚手の革の服、ショルダーバッグ
 このうち広刃剣は折れてしまって使い物になりません。
 
 
◇レベッカ
《装備スキル》
 【盗賊の眼】(貿易都市リューン 齋藤洋さん)
 【盗賊の手】(貿易都市リューン 齋藤洋さん)
 
《装備アイテム》
 非装備
 
《その他装備イメージ》
 黒く塗った短剣、盗賊の七つ道具、鑑定用のモノクル
 厚手の手袋、露出度の多い革の服、ウエストポーチ
 黒革のチョーカー、外套
 
 
◇ロマン
《装備スキル》
 【魔法の矢】(貿易都市リューン 齋藤洋さん)
 【眠りの雲】(貿易都市リューン 齋藤洋さん)
 
《装備アイテム》
 非装備
 
《その他イメージ》
 黒くてシックな服、魔法の本、羊皮紙の日記、ペンとインク
 ベルトポーチ、ナップザック、外套
 
 
◇ラムーナ
《装備スキル》
 非装備
 
《装備アイテム》
 非装備
 
《その他イメージ》
 露出度の多い布の服、宿の娘さんのお下がりの靴、外套
 
 
◇スピッキオ
《装備スキル》
 【癒身の法】(貿易都市リューン 齋藤洋さん)
 
《装備アイテム》
 非装備
 
《その他イメージ》
 ゆったりした司祭服、巡礼者の持つ杖、木製の粗末な聖印
 背負い袋、外套

 
◇パーティの所持品
 なし 
 
◇現在の所持金
 200SP
 
 
 シナリオ開始前の装備です。
 わりとスタンダードな装備にしてみました。
 皆さんはどんな初期装備で始めましたか?
 
 
 ちなみに現在の簡易ステータス
 
◇シグルト
 レベル1 最大体力:20
 
◇レベッカ
 レベル2 最大体力:20
 
◇ロマン
 レベル1 最大体力:17
 
◇ラムーナ
 レベル1 最大体力:13
 
◇スピッキオ
 レベル2 最大体力:28
 
 こうしてみるとむらがありますね。
 戦士系はタフだといいですよ。
 
 実は今回、ある決意を持ってプレイすることにしています。
 
 一回このパーティ、6レベルまで育てたのですが、お遊びプレイしたシナリオや繰り返してお金を稼げるシナリオを省き、最初からやり直そうということです。
 
 それとインチキしたので、序盤大きなペナルティをつけることにしました。
 それは『ゴブリンの洞窟』はプレイしない、ということです。
 このシナリオをプレイする方が多いのは、やりやすいシナリオであることと、「例のブツ」が手に入るからなんですよね。
 つまり、「例のブツ」が序盤なしという、泣きそうな状況で5人プレイをやろうと言うわけです。
 でも全く無しというのも無茶すぎるので、序盤似たアイテムを購入しようかと思います。
 
 さらに無茶な計画もありますが、おいおい紹介していきますね。

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CWPC5:スピッキオ

 シグルトたち4人は、リューンのはずれにある教会に向かっていた。
 先導するのはラムーナである。
 
 出会いの後、冒険者として組むことにした4人だったが、冒険を始める前にと、親父がラムーナの状態を考えて忠告を与えてくれた。
 
 リューンは表立って奴隷の取引はしない。
 人身売買は西方各国の貿易の要所であるリューンでは、難しくてできないのだ。
 理由は宗教やさまざまな国家が関わっているからである。
 
 だが公に人身売買を認めている都市や国も存在する。
 もし旅の最中にそれらの都市や国に逗留していたとき、ラムーナに関わる奴隷商人に遭遇して、奴隷商人がその国の法律を使ってラムーナの身柄を要求した場合、非常に厄介なことになることを親父は危惧していたのだ。
 
「ある程度は組合やわしのコネで身元を保証してやればある程度は何とかなるが、もともと西方に戸籍があった他の3人と違って、今のラムーナは不法入国者に近い扱いだ。
 奴隷商人の所有権が認められなかったとしても、事件に巻き込まれて身元云々の話になれば、国に強制送還とかになってしまう場合もある。
 リューンから退去ってくらいは、役人は厄介払いのために平気でやるだろうしな。
 だが、この辺で冒険者やるのに、リューンを出入り禁止にされるのはかなりまずい。
 
 だから、わしの保障以外で何か手を打っておいたほうが、後々困ることがないだろう。
 まあ、保険という奴だ」
 
 そこで親父が教えてくれた方法は、リューンに保護者を作って戸籍を取得し、その上で冒険者として登録する、というものだった。
 
 建て前の上でリューンには市民を保護する必要がでてくるし、交易の要所であるリューンの役所ににらまれることは、商業ギルドに関わりの深い各貿易都市のお役所受けが悪くなる。
 問題が起きたときに「正当な権利で訴える」という立場をとれば、後ろ暗い奴隷商人はほとんど口出しできなくなるだろう…というのだ。
 
 冒険者は敵を持つものや、脛に傷をもつものも多いため、こうやってあらかじめ対策を立てておくことは、冒険者の宿を経営する上で大切なことなのである。
 
 ただ、下層の市民であれ市民権の取得は意外に難しい。
 一人ではまず不可能だし、宿の親父が保護者や保証人になった場合は、「冒険者の宿の主人として冒険者の身分を保証する」立場が、類似した立場の重複によってできなくなる場合もあるというのだ。
 つまり、ラムーナには親父や冒険者の宿、冒険者のギルド(組合)以外での保護者を立てて市民権を取得する必要があるというわけだ。
 
 冒険者になるには、何も完全な市民権を得る必要はない。
 都市で活動するために最低限必要な肩書きを作って、その肩書きを使ってよりしっかりとした冒険者の身分を確立してしまえば、親父が身元を引き受ける場合に有利な条件を作れるのである。
 
 もちろん完璧な法律も権利もありはしないので、それらに甘えすぎるのは考えものだが、冒険者として活動する足場としては充分な状況を作れるというわけだ。
 
 冒険者になった先は、各々の工夫と生存術次第である。
 
 親父は最後に、お前らもこういう駆引きには早く慣れて自分たちで身を守れるようになれよ、と話をしめ、シグルトたちを宿を送り出した。
 
 
 親父が保護者の候補として選んだのは、かつて冒険者であり、引退後は海外に布教伝道をしてあるいたこともあるという、聖北教会の僧侶だった。
 3年ほど前に赴任先で異教徒に襲われ、右足を失ったが奇跡的に助け出されて、今は小さな教会の司祭をしているという。
 
 この西方諸国で、聖北教会の僧侶の社会的地位はとても高い。
 彼が保護者となってくれれば問題ないだろう、と親父は紹介状を用意してくれた。
  
 そしてラムーナにとって幸運だったことがさらに2つあった。
 
 一つはその僧侶が、ラムーナの国の文化に理解があり聖北僧侶に時折見られる異文化を異端視する連中とは対極の、温厚派で理解のある人物であったこと。
 そしてもう一つはその僧侶こそ、西方の言葉を教えてくれたラムーナの恩師だったことである。
 
 クレメントというその司祭は、孤児院と神聖魔法を使った施療院を営みながら、数人の聖北教会の僧侶たちと暮らしているとの事だった。
 
 
「う~ん、楽しみ!
 クレメントせんせい、元気かなぁ…」
 
 宿の親父の娘が昔使っていたというお下がりの靴を履き、時折嬉しそうに眺めながら、ラムーナは一行を急かすように早足に歩いていく。
 だがなぜか顔色はあまりよくない。
 額にじっとりと汗もにじみ、心配したシグルトたちがどうしたか尋ねてもあいまいに笑うだけだった。
 看板に強打したという頭には薬をつけ、足も自分で薬をつけて親父にもらった包帯を器用に巻いていたので、必要な治療はしただろうし、言わないからには大丈夫だろうと、その後をシグルトとレベッカが並んで歩き、歩幅のないロマンが必死についてくるといった感じだった。
 
 やがて教会の一番高い部分にある、質素な木製の聖印が見えてきた。
 
 
 シグルトが教会の扉を叩くと、やがて開いた奥から、ぬぅっ、と僧服をまとった男が顔を出した。 
 大男、といってもよい立派な体格の老人である。
 かなり長身のシグルトよりさらに顔半分ほど背が高く、首はロマンの頭ぐらいある。
 
「何か用かね?」
 
 屈強な外見からはあまり想像できない、穏やかで深みのある声で老人は用件を尋ねた。
 だがよく見れば、細い目の温和な顔立ちをしている。
 
「私はシグルトと申します。
 クレメント司祭はいらっしゃいますか?」
 
 紹介状を取り出すシグルトの後ろで、レベッカはその僧侶を見つつ、盗賊らしく分析を始めた。
 
(この辺の聖北教会の僧服じゃないわ。
 服の素材からすると南の方の出身かしら?)
 
 そんなレベッカの視線には何の反応も示さず、老人はふむ、と頷くと、ついて来なさいと言って一行を教会の中に招き入れた。
 
 教会の中に入ると、老人は突然ラムーナに向かって、椅子に座りなさい、と言った。
 
「???」
 
 わけもわからず席を勧められ、困惑したラムーナが何か言おうとすると、老人は細い目を瞬かせて言った。
 
「お嬢ちゃん、足を怪我しておるじゃろう?
 クレメント司祭の部屋は手狭じゃから、立ったまま話をすることになるが、その足ではつらいのではないかね?」
 
 老人に促されるまま、座って靴を脱ぐと、足に巻いた包帯が血で赤くなっていた。
 老人は不器用な手つきで包帯を除く。
 
 ラムーナの指先を見て、ロマンは顔を伏せ、シグルトは眉間を引きつらせた。
 
(…ひどいわね。爪を貫いて足の指を一つ一つ刺してあるわ)
 
 レベッカも眉をひそめる。
 
 凄惨な傷痕に老人は、むう、とうめいた。
 
「…ガヴァリアの奴隷商人が使う刻印じゃな。
 
 腱を切ると働けなくなるから、痛みで船旅の間だけ逃げれんようにするために、こうして傷をつけるんじゃ。
 鎖の大きさをあわせるより、このほうが早いと言って、今の商人たちの長が考え出したそうじゃが…妖魔にも劣る連中よの。
 
 こんな傷で、よう歩いてこれたものじゃ」
 
 そういうと老人はラムーナの足に手をかざし、朗々とした声で神を讃える言葉を紡ぎ出す。
 
 老人の手が柔らかな光に包まれ、ラムーナの傷に光が降り注ぐと、見る間に傷が消えていく。
 老人は、爪も綺麗に元に戻ったことを確認すると、やれやれと肩を叩き立ち上がった。
 
「すごい。やっぱり癒しは神聖魔法が優れているんだ。
 こういう傷に最も効果的な治療法かもしれないね」
 
 ロマンが興奮したように顔を高潮させていた。
 
「ありがとう、おじいちゃん」
 
 ラムーナがにっこり笑うと、老人は、どういたしまして、と細い目をさらに細めた。
 
「…ラムーナ、どうして傷のことを黙ってたんだ?」
 
 シグルトはむっとした顔で椅子に腰掛けたラムーナをにらむ。
 ラムーナの傷の重さに気付けなかったことを憤っている様子だった。
 
「う~ん、だって痛いだけで歩けたし」
 
「普通、痛いと歩けないものなのよ…」
 
 あっけらかんとして言うラムーナにレベッカは肩を落として言った。
 
 少し話してみて、レベッカにはこの娘の考え方がなんとなくわかってきた。そして今までの話からなんとなく想像がつく。
 
 ラムーナが住んでいた場所は、苦痛を訴えれば非難され、常人が泣き出しそうな傷を我慢するのが当たり前の世界だったのだ。
 
 先ほども、ラムーナは時折ふらついていた。
 心配して大丈夫かと尋ねたとき、大丈夫だと笑うラムーナの瞳が、潤んでぼんやりしていたのだが、実際に痛くて泣きそうな状態でわざと無理して笑っていたのだろう。
 
 痛いなどと言ってはいけない…それをこの少女は笑った顔の奥にある心の中で、何かにおびえながら自分に科していたのだ。
 
 そう、ラムーナは痛みにも殴られることにも慣れてはいた。
 頭にくることがあれば、彼女の父も母も八つ当たり同然にラムーナを殴った。
 でも、ラムーナはそんな両親でも愛していた。
 だから、憎しみを持った責めるような眼で肉親から殴られることが、ラムーナには耐えられなかった。
 それは「お前は要らない」と責められているようで、悲しくなるからだ。
 
 我慢すれば愛してくれなくても憎まれない。
 だから痛みを耐える。
 耐えていれば、いつかきっと愛してくれるかもしれない。
 
 どうにもならない理不尽を、この少女はひたすら耐えて、痛みや苦しさを笑顔の奥に隠してきたのである。
 
 老人はそっとラムーナの頭に手を置いた。
 びっくりしたようにラムーナが見上げると、その大きな手で優しく頭を撫でてくれた。
 
「よく辛抱してきたの。
 
 じゃが、お前さんの周りの連中はもう、そんな無茶なことをお主に科したりはせん。
 痛いときや苦しいときは無理に笑わんでええんじゃ」
 
 それでも笑った顔のまま、今まで泣くことを許されなかったラムーナの眼だけは、耐え切れなくなって涙をあふれさせた。
 
 
 自分が泣いていることに困惑して、しきりに眼をこすっていたラムーナが落ち着いた後、一行はクレメント司祭の部屋へと案内された。

 教会の奥にある一行が入ればいっぱいになる質素な部屋で、書簡に眼を通してていたというクレメント司祭は50になったぐらいの優しそうな男性だった。
 ラムーナとの再開を喜び、紹介状などろくに読まずに二つ返事で保護者になることを快諾してくれた。
 そして、老人がラムーナの傷を治したことを知ると、感激して何度もお礼を言った。
 
 しばらくは身の上話をしていたが、ラムーナたちが冒険者になったというと、クレメントは困ったような顔になった。
 
「私の足が不自由でないなら、私も一緒に、と考えてしまいます。
 冒険者という職業はとても過酷で危険ですから」
 
 僧侶が仲間にほしい…
 
 それはシグルトたちも望んでいることである。
 だが、片足を失い歩くこともままならないこの司祭を、冒険に連れて行くことはできないだろう。
 
 冒険者という職業で最も貴重であり、いると仲間の生存率が大きく上がる職業がある。癒しの魔法を使いこなす僧侶の存在だ。
 
 時にモンスターと戦い、依頼人を庇い、遺跡の罠と対峙する冒険者たちは生傷が絶えない。
 しかし、治療に使われる薬や薬草は高価であり、即効性がない薬品では戦時に使っている暇などない。
 
 そこで絶大な効果を発揮するのが僧侶の使う神聖魔法である。
 一瞬で傷を癒し、毒を除き、病んだ心を穏やかにする。
 それに、呪文の力を呼び起こす力は休息すれば戻るので、一度習得すれば何度でも使うことができるのだ。
 
 特に【癒身の法】と呼ばれる初級の治癒呪文は、聖北教会の僧侶たちが一般人でも簡単に使えるようにしたものの一つである。
 神聖魔法は神への言葉を呪文にしたもので、効果は魔術師の魔法と並んで絶大な効果を持つ。
 いまや下手な応急処置より普及した医療の技であった。
 
 神への信仰を唱えるこの技術を一般人に軽々しく伝えるリューンの聖北教会のやり方は、一部の教会勢力からは疑問視されてもいるのだが、冒険者を中心に技術伝授を求めるものが多いので需要は大きく、「【癒身の法】は医者泣かせ」などとも呼ばれていた。
 
 しかし、やはり神に仕え教会で常に祈る本職の僧侶の神聖魔法は大きな効果を持つ。
 冒険者が危険な旅に、布教や自らの信仰の研鑽のために旅をする僧侶を仲間にすることは多かった。
 そしてそういった旅をする僧侶はまれであり、冒険者の社会では引く手数多である。
 それに僧侶が仲間となっていれば、ごろつきの集まりという冒険者たちの悪い印象もかなり改善されるのだ。
 冒険者グループの中に僧侶が存在することを、そのグループを信頼する基準にしている依頼主も多い。
 
「僧侶の存在は貴重ですからね。
 我々に手を貸してくださる聖職の方がいるなら、是非紹介していただきたいのですが…」
 
 レベッカはクレメント司祭から、冒険者に引き入れることができそうな僧侶の所在を聞き出そうと話題をふる。
 
「…どうじゃろう、わしでは力になれんかね?」
 
 すぐにそう言ったのは件の大柄な老人であった。
 
「あなたが?

 そうしてくださるなら、私たちとしてはとてもありがたいのですが、よろしいのですか?」
 
 先ほどの癒しの技を見れば、文句などあろうはずがない。
 
「うむ。
 
 本来わしは聖北教会とは違う派の教会に所属しておってな。
 クレメント殿の御好意で、この教会の食客として逗留しておったが、旅をして信仰の何たるかを見直してみようと思っておったところじゃ。
 
 恥ずかしながら、この歳になるまで修道院で祈るばかりであったが、最近それでは何か足りないと思っての。
 あちこちの聖地や霊蹟(聖人たちが深く関わった場所)を巡っておったのだ。
 そんな折、昨今の金儲けばかりの教会は違う教派であることを理由に教会の軒先すら貸してくれなんだが、クレメント殿は数日の宿を見返りも求めず与えてくださった。それに報いる機会…まさに神の思し召しよの」
 
 老人はゆっくり頷き、クレメント司祭に、よろしいかな?、と話を振った。
 
「師がよろしいのでしたら、これほど頼もしいことはございません。
 どうぞよろしくお願い致します」
 
 クレメントはほっとした様子で、老人の手を両手で包み頭を下げた。
 
「うむ…そういえばお主たちには名乗っておらなんだの。
 
 わしはスピッキオ。
 聖海教会、聖アンティウス修道院にて洗礼と聖職を受けた司祭じゃ。
 見ての通りのジジイじゃが、何、体力はその辺の若いもんには負けぬつもりじゃ。
 よろしく頼むぞ」

 老人は大きな身体を揺らし、細い目を瞬いた。


 
 
 初期編成5人の最後の一人、豪傑モンクスピッキオの登場です。
 
 スピッキオは名前でも判るとおりイタリア人系の名前にしてあります。
 今熱いシナリオである、Martさん作『碧海の都アレトゥーザ』のスキルを存分に取り込もうと考え、かの都市の教会に関係する僧侶を作ってみました。
 
 聖アンティウス修道院は修行と禁欲に明け暮れる聖海教会の寺院で、スピッキオは修行を終えて旅をする巡礼の司祭という位置づけです。
 僧侶としての階級が高い(司祭なら一つの教会をあずかるほど)のは、彼がそれなりに長い間修道院にいて修行してきたことへの教会なりの配慮です。
 
 スピッキオは西方南部の豪商の三男として生まれます。
 生まれつき体格がよく、将来は兵士に、と考えられていましたが、信心深くあまり争いごとが好きではなかった彼は、早々に修道院に入り修行と祈りに満ちた穏やかな日々を送っていました。
 
 ところが、彼のいた修道院は院長が交代したことでその方針を変え、学僧中心の教育機関に変わっていきます。
 修道院でも古株だったスピッキオは新しい院長と考えが合わず、それを期に信仰とはどういうものか考え直してみようと、一人聖地霊蹟の巡礼に旅立ちます。
 
 でも彼が眼にしたのは金に固執する聖職者や、戦争に利用される宗教の汚れた部分でした。
 スピッキオはその中で信仰にある光を求めていき、クレメント司祭に出会ってその答えを見つけます。
 
 クレメント司祭は自分が信じ行える信仰を、形として成し自分の信仰を示してきた人物でした。
 布教中に足を失う惨事に見舞われながら、誰を恨むのでもなく自分の信じる神の道を説くクレメント司祭の生き方に感銘を受け、残された生を自分の信じた信仰に捧げようと誓い、そのきっかけをさがしていたのです。
 
 そしてシグルトたちと出会います。
 彼らの持つ眼の輝きと若さをまぶしく感じながら、スピッキオは冒険者として生きる決心をするのです。
 
 スピッキオは腕力が戦士並にあり、時に素手や杖で敵を殴る戦う僧侶です。
 戦いそのものは嫌いですが、信念を貫くために、仲間のために敗れることをよしとしません。
 そのスタイルはまさにコンピューターゲームのモンク。
 
 でも、モンクって格闘家とは限らないんですよ、本当は。
 気を使って敵をぶちのめす格闘家みたいにとられてますが、本来モンク…修道士は修行する僧侶のことです。
 なんだか中国映画の闘うお坊さんと、修道院の修行僧がごちゃまぜになってますよね。
 
 スピッキオ、実はかなり頑固で保守的な性格をしています。
 まあ、爺さんになるまで薄暗い修道院でずっと修行と祈祷ばかりしていたわけですから。
 
 考え方もやや硬くて、軽薄なレベッカや現実主義のロマンとはよく口論になりますが、老人らしい落ち着きも持っています。
 意外にお茶目な性格もしており、レベッカ、ラムーナとともにお笑いも担当してもらうつもりです。
 
 
◇スピッキオ
 男性 老人 無双型

裕福     厚き信仰   誠実
無欲     献身的    秩序派
保守派    無頓着    穏健
勤勉     陽気     高慢
硬派     お人好し   名誉こそ命
 
器用度:3 敏捷度:4 知力:6 筋力:9 生命力:7 精神力:11
平和性+1 勇猛性+2 慎重性+1 正直性+3

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CWPC4:ラムーナ

「ところで、あの派手なのはどうしたんだ?」
 
 シグルトはロマンの自己紹介が落ち着くと、唐突に切り出した。
 
「ああ、あの人だよね?」
 
 ロマンは眉を八の字にして、はあ、とため息をつく。
 どうやらため息は少年の癖のようだ。
 
「???」
 
 ついていけない親父とレベッカが首をかしげていると…
 
「…うぬぬ~、このドア、開・か・な・い~!」
 
 宿のドアの外から、間の抜けた女の声が聞こえてきた。
 
「う~んと、ああっ!
 このドア、手前に引けばよかったんだ~
 失敗失敗~」
 
 がらんがらん~
 
 派手な音を立ててドアベルが鳴った。
 
「…あそこ」
 
 ロマンは頬を引きつらせて、宿に入ってきた人物を指差した。
 
 そこには小麦色の肌の、風変わりな衣装を着た娘がちょこんと立っていた。
 
 16、7だろうか…
 エキゾチック(異国風)な顔立ちをしている。
 明らかに西方の人間ではない。
 宿の親父は、ずっと東にあるという、暖かい地方の民にこのような容貌の者たちがいることを聞いた事があった。
 
 長いまつげと大きな瞳。
 レベッカよりも肌を露出しているが、色っぽいというより健康的な印象を受けるあまり起伏のないしなやかで若々しい身体。
 美人に分類してもよいだろうが、どこか幼い雰囲気をもった少女である。
 
「…ついてきたみたいだな」
 
 シグルトが肩をすくめて苦笑いすると、少女は、にぱ~、という形容がふさわしい笑みを浮かべてシグルトを指差した。
 
「いたいた~
 もう、私のこと置いて行っちゃうから困っちゃったわ。
 この綺麗な子も私のこと無視するし、ひどいよ~」
 
 どこかなまりのある言葉で、少女は大げさな身振りを交えて一方的にしゃべりだした。
 
「だいたい、怪我した女の子をほうっておくなんて、紳士のやることじゃないわよ~」
 
「あれって、お前が滑ってこけそうになって、いきなりトンボをきって上にあった看板に頭を強打した、言わば自業自得のように思うんだが…」(シグルト)
 
「それに、助けてあげようとした善意の人にお礼も言わずに無視するのはいけないと思うのよ、お姉さんは!」
 
「泣きながら頭を抱えてうめいていただけの人に、どう反応すればよかったのかな、僕…」(ロマン)
 
 甲高い声でまくし立てる少女に、親父もレベッカもぽかんとしている。
 シグルトに向かって、手をぶんぶん振りながらしゃべっている少女から少し距離を置いて、ロマンはことのあらましを話し始めた。
 
 
 ロマンは前に逗留していた宿に帰る途中で、柄の悪い男たちにぶつかってしまった。
 どうみても道のど真ん中をよそ見をしながら、横に並んで歩いていた男たちが悪いはずなのだが、ぶつかった男がよろめいてこけてしまった。
 服が汚れたと言って、親のもとに連れて行けと、ロマンの胸倉をつかんで騒ぎ出した男たちを、周囲の連中は見て見ぬふりをして通りすぎようとしたが、シグルトとあの騒がしい少女だけは駆け寄ってきた。
 
 その後、少女は勢いよくトンボをきって頭を強打しずっとうめいていたが、シグルトは4人の男たちを怪我をしつつも一人で追い払い、ロマンを助けてくれたらしい。
 
「…間抜けね」
 
「…ああ、間抜けだな」
 
 レベッカと親父は心底あきれた顔をして、真っ赤になってしゃべっている少女を注視した。
 
 やがて、一通り主張を終えたのだろう。
 少女は今気がついたように親父とレベッカを見て小首をかしげた。
 
「あの~、どちら様で?」
 
 レベッカと親父は、長い間組んだ芸人に勝るとも劣らないほどぴったり同じタイミングで額に手をあててため息をついた。
 
 
「ここは冒険者の宿でわしは店主、こいつらは冒険者だ。…それで、用件は済んだかい?」
 
 親父が、さっさと話を切り上げるために一息で説明し、少女に問う。

「ああ、ここが冒険者の宿なんだ。
 ちょうどよかった~
 
 私、冒険者になろうと思ってリューンに来たんです!」
 
 親父は聞かなきゃよかったとばかりに、額のしわを増やす。
 レベッカはもはや我関せぬ、の態度で、少しぬるくなったエールをちびちび飲みはじめた。
 
「…一応聞きたいんだが、お前さん、何で冒険者なんかになろうと思ったんだ?」
 
 引きつった顔で親父は、とりあえず聞いた。
 
 少女は口元に一本指を添え、考えるような身振りをした。
 そしてとんでもない話を語りだした…
 
「う~んと、私の国が戦争で負けちゃって、家族が食べるのに困ってきたから私を含めて20人くらいの男や女の人が奴隷として親に売られて船に乗せられたの。
 
 だけど途中で嵐に遭って、船が転覆しちゃって、私は手首と足の鎖の輪が大きすぎてゆるかったから、海の中でなんとか外したんだけど、気を失って岸に流れ着いたのよ。
 
 とりあえず生きてたのはよかったんだけど、食べたり生活するにはお金が必要でしょう?
 流れ着いた浜の近くの港で、親切な漁師のおじいさんにお魚を食べさせてもらったりしてたけど、そのままってわけにはいかなくて。
 働こうと思って仕事を探したんだけど、外国の人だからとか女だからだめとか言われて、どんな職業なら働かせてくれるのってたずねたら、
 
『お前みたいな女が働ける職業なんて、春を売るか冒険者ぐらいだっ』
 
って追い出されちゃって。
 でも、私のお姉ちゃんが街娼をしてて病気で死んじゃったから、売春なんかは嫌だな~って考えて。
 それで冒険者っていう職業をとりあえずやってみようと思ったのよ…」 
  
 ニコニコしながら重い身の上話をする少女に、一同は押し黙った。
 よく見れば少女の手足には一日二日ではつかない、拘束具の作った生々しい跡が残っていた。
 履いている靴は麻の袋の角を切って、それに足を突っ込んで紐で巻いただけで、随分歩いたのだろう、あちこちがほつれて爪先のあたりに血の染みもある。この急ごしらえの粗末な靴は傷をかばうために履いたのだろう。
 
(こんなもの履いてて走ったのか…滑って当然だ)
 
 シグルトは少女が転倒しそうになったときを思い出し、もしあの看板がなかったら、と考えた。
 滑った不安定な体勢から、浮き上がるように片足だけで跳躍した少女の姿が思い出される。
 驚異的なバランス感覚と俊敏性がなければそれは不可能であった。
 シグルトならまねをすれば筋を痛めてしまうだろう。
 
「なあ、何か身体を動かすことをやっていたのか?」
 
 シグルトの言葉に、ロマンが、あっと何かに気付いたように眼を見開く。
 
(よく見ればこの子、鎖の跡以外に何か身につけていた跡があるわ…
 日焼けをせずに残っている、何かが絡まったようなこれ、腕輪とか装飾品の模様の跡みたいね。
 ずっと身に着けていたんだわ…跡が残るくらいに)
 
 レベッカもロマンと同じ事に気がついた。
 
 少女はふわりと軽やかなステップを踏んだ。
 
「お姉ちゃんのお客さんを集めるために踊ってたの。
 みんな上手だってほめてくれたわ。
 剣を使った戦いの女神様の踊りとか得意だったのよ」
 
 それは盗賊や戦士の中にまれに現れる素質。
 奴隷として腱を切られるものもいるが、彼女がそうならなかったのは不幸中の幸いだった。
 
(鍛えれば化けるかもしれんな…)
 
 宿の親父は、強いという巨漢で豪腕の戦士を、素早さで圧倒したある女戦士を思い出していた。
 彼女は極限まで磨きぬいた技術で怪力の戦士を倒せるようになったのである。
 敏捷性…それは冒険者が望む能力の一つなのだ。
 
「…そうか。
 じゃあまず、名前ぐらい教えてくれんかね?
 さすがに名前がわからないと呼ぶのに困る」
 
 親父はとりあえずは受け入れてみようと思った。
 
 しかし、名前を尋ねられた少女は、ううっとうなって頭を抱え悩みだした。
 首でも絞められたかのように真剣に、である。
 
「おいおい、自分の名前なんかで悩むことはないだろう?」
 
 親父があきれて言うと、少女はポン、と手を打った。
 
「ラムーナ。
 ラムーナがいい。
 私はラムーナよ」
 
 彼女の名乗り方は、今決めたような感じだった。
 
「ラムーナって、お姉さんがぶつかった看板の酒場の名前だよね?」
 
 ロマンは三日月の書かれた看板の文字を思い出し、確認する。
 
「おいおい、さすがに名前を適当に決めるのはやりすぎだ」
 
 親父は首を左右に振って、ダメだと伝える。
 
「う~ん、でも私の名前、西の人には難しくて発音できないと思うし。
 それに私のあだ名は“弓のような月”だったのよ。
 私の故郷で、月は女神様で、踊りと戦いと女の守護者なの。
 だから、ラムーナがいい…」
 
 そういって少女はにっこりと笑った。


 
 
 スーパーマイペース娘のラムーナ登場です。
 5人の中で唯一普通の型のPCですが、そこは根性で…
 
 ラムーナは陽気で前向きな性格の少女です。
 
 彼女は貧しい家に5人の兄弟姉妹の下から二番目の娘として生まれます。
 彼女の両親は生んで育ててやったと、彼女たちが大きくなったら働かせて家でその稼ぎを待っているようなあくどい性格でした。
 
 実際貧しい国では子供の足を切り落として、地雷のせいだと哀れを誘い物乞いをさせる親がいるという話を聞いた事があるのですが、貧しさの中で食べていくために子供を働かせる親はどこかにいそうです。
 
 ラムーナが本名を名乗るのを嫌ったのは、彼女の本名が記号のように味気なく、利用される道具としてつられた名前だからです。
 
 小さい頃の彼女は泣き虫でしたが、泣いていると気を失うほど父親に殴られるので、つらくても悲しくても泣かないようになりました。
 でも、決してつらくなかったわけではありません。
 彼女は間抜けでおちゃらけた外見の中に、繊細な感性を閉じ込めています。
 間抜けで愚かなふりをすることで「殴る価値もない」とあきれさせる…生きていくために彼女が最初に身に着けた処世術だったわけで、そう考えると悲壮ですよね?
 
 感情的で大げさな動作は、大人の注目を集め、怒りを削ぐために彼女が身につけた生きるための手段です。
 
 これだけひどい扱いであったのに、ラムーナは両親を憎んではいません。
 そうしなければみんな飢えて死ぬしかなく、生きるために悪くなったといっても、自分を育ててくれた両親に彼女は感謝しているのです。
 
 ラムーナは一番上の姉をとても慕っていました。
 娼婦として身を売ってお金を稼ぐ姉は、身内の中で唯一ラムーナに心から愛情を注いでくれたからです。
 父親に殴られそうになると身体を張ってかばってくれ、自分の食べ物を妹たちのために分けてくれる献身的で優しいお姉さん。
 彼女がいたからラムーナは笑うことができたのです。
 
「あなたは笑っているほうが可愛いわ…」
 
 そういってほめてくれた姉との絆の証が、朗らかに笑うことなのです。
 
 ラムーナは西方の言葉を話し、読むことができます。
 彼女の住んでいた町は西方の商人たちの船が停泊する港町の一つで、姉の客は裕福な商人たちでした。
 あるとき商人たちと一緒にやってきた僧侶が、ラムーナが物ほしそうに彼の持つ聖書を見ていたので、聖書を読み理解できるように文字を教えます。
 初老にさしかかったその僧侶は貧しい子供たちの心の支えになるようにと、文字を教え会話を教えそして信仰を説きました。
 
 その僧侶については次のお話で紹介します。
 
 
 ラムーナの国は隣国と戦争していましたが、負けてしまいます。
 戦禍に巻き込まれた国を商人たちは見離し、客がなくなったラムーナの姉は兵士に安い金で買われて身体を壊し、死んでしまいます。
 一家の稼ぎの筆頭を失ったラムーナの父は、彼女を奴隷商人に売りました。
 それから先の事は彼女の語る通りです。
 
 ラムーナは可愛い系の女の子です。
 スレンダーでしなやかな身体つきで、やや幼い行動から子供っぽい雰囲気がありますが、充分美人に類してよいでしょう。
  

◇ラムーナ
 女性 若者 万能型

秀麗     貧乏     誠実
猪突猛進   献身的    進取派
好奇心旺盛  勤勉     陽気
派手     謙虚     繊細
軟派     お人好し   愛に生きる
 
器用度:9 敏捷度:10 知力:6 筋力:5 生命力:3 精神力:5
社交性+3 正直性+1

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CWPC3:ロマン

 レベッカは刺激された好奇心を抑えつつ、何気なくシグルトを見た。
 
「…魔術師と知り合いなの?」
 
 シグルトは今度は苦笑いをして、まあな、と言った。
 
「もうすぐ来るはずだがな…
 あいつは歳のわりに爺臭くて時間にはうるさいはずなんだが」
 
 からん…
 ドンぴしゃりのタイミングでドアのベルが鳴った。
 三人がいっせいに扉に眼を向けるが、すぐには相手を見つけられなかった。
 少し視線を下げて、シグルト以外の二人は目を丸くした。
 
 子供であった。
 
 年の頃は10歳ほどだろうか。
 
 まるでドワーフの銀細工のような細いシルバーブロンド。
 血管が透けて見えるような白い肌。
 金色かかった神秘的な茶色の瞳。
 ほっそりとして力を込めたら折れてしまいそうな身体。
 まるで芸術の神が作り上げた彫像のような、繊細で美しい子供だった。
 
「遅かったな、ロマン」
 
 シグルドが声をかけると子供はその美しい眉を寄せた。
 
「時間は正確だよシグルト。僕は自分でも無頓着な方だとだと思うけど、君ほど時間に鈍感じゃない」
 
 子供とは思えない辛辣で理知的な回答だった。
 そして口調から性別が判明する。
 声変わりこそしていないが、少年のようだ。
 一見女の子にも見えるぐらい中性的な雰囲気があるのだが。
 
「いや、お前なら少し早く来るかと思ったんだがな…」
 
 シグルトは参ったよ、というふうに肩をすくめた。
 少年はため息をつくと、まったくしょうがない、とかぶつぶつとつぶやいていたが、やがて気付いたようにぼけっと突っ立ってる親父とレベッカを見た。
 そしてレベッカの胸元に眼が止まった瞬間、まるで染めたように真っ赤になって固まってしまった。
 
「ロマンにはその服はちょっと刺激が強かったみたいだな」
 
 その言葉に少年は何とか言い返そうとしつつ結局黙ってしまった。
 小動物のように身を固め、フルフルと柔らかな銀髪がなびいている。
 
 その仕草に、レベッカはふつふつと湧き上がるある衝動を感じていた。
 
(…か、かわいい!)
 
 美少年愛好とでも言おうか。
 少年はその手の母性というか感性というかを猛烈に刺激する雰囲気を持っていた。
 
 親父とシグルトの視線の隙をつき、レベッカは流れるような動作で少年に接近した。
 
「…ふえ?」
 
 突然目の前に現れた色っぽい美女に、眼を丸くした瞬間である。
 
「か~わ~い~い~!!!」
 
 レベッカは少年の顔を自分の豊満な胸に抱き寄せ、柔らかな銀髪のなびく頭をがっしりと抱きしめた。
 
「~!!!!」
 
 少年の声にならない悲鳴が宿を震わせることになった。
 
 
 ロマンというこの少年は魔術師、というよりは賢者だった。
 
 まだ10歳であるが、3歳で神童と呼ばれ、5歳で3つの言語をすらすらと話せるようになった天才児である。
 
 リューンの大学に6歳で出入りを許されたらしい。
 さすがに入学は年齢的に無理だったという話だが。
 
 最近は大学の図書館では物足りなくなって、市井の雑学の研究のために外出をしていたが、ごろつきにからまれ、シグルトに助けてもらったというのだ。
 そのときの乱闘でシグルトはごろつきが振るった凶器を剣で受けて、唯一の武器を破損してしまったのである。
 
 シグルトへの恩義と、彼がいう冒険者という職業について興味を持ったロマンは、研究と恩返しの意味でシグルトに同行することにしたのだという。
 話によると初歩的な魔法なら使えるとのことだ。
 
 レベッカの動向にびくびくしながら、ロマンは訥々と語った。
 どうやらシグルトにはかなり心を許しており、ときおり辛辣なセリフも言っている。
 だが本来は結構人見知りをする内気な性格らしい。
  
 心なしか青ざめているのは、先ほどのレベッカのハグで呼吸困難を起こしたからだ。
 
 レベッカはこのでこぼこコンビを気に入り始めていた。
 特にこのロマンという少年は可愛い。
 さすがにもう警戒して先ほどのようなことはできだろうが。
 戦士と魔術師が一気に揃うのも好い。
 爺むさい魔術師や厳つい戦士と組むよりは彼女の好奇心を満たしてくれるだろう。
 
「というわけで…よろしくお願いします」
 
 丁寧に頭を下げる少年に眼を白黒させて、親父はこれからのことに思いをはせていた。
 レベッカ以上に騒ぎそうな人物を親父はもう一人知っていた。
 
(しばらく姦しくなるな…)
 
 食材の仕入れにいっている身内を思い起こして、親父は自分の額をつるりと撫でた。

 
 
 
 ロマンは選んだPCのカード絵の関係で、女の子みたいな美少年という設定になった人物です。
 彼もインチキで生まれた天才型。
 
 何でこんなに特殊型を作ったかといえば、あるシナリオの連れ込みNPCを狙っていたのと、そのNPCの連れ込みまで5人編成でいこうと考えていたからです。
 
 ロマンという名前はフランス人の役者さんの名前からもらいました。
 
 彼は内気で人見知りの激しい性格ですが、一度信頼した人物には結構辛辣なことも言います。
 それは彼なりの信頼の表れなのですが、ひねくれていますからね。
 ちなみに「大人のくせになさけないよね…」が口癖で、内面はニヒリストでませています。
 ただし、女性関係にはまだ子供なのでウブな反応を示します。
 
 神経質で悲観的で繊細で内気という性格は、かなり内向的になることを狙っていたのですが、思ったほどではありませんでした。
 鈍感で武骨なシグルトに、むらのある性格のレベッカに負けない個性を考えて特徴を選んでいたら自然とこうなりました。
 
 ロマンはごく普通の商家の生まれでしたが、頭脳明晰な上に学問好きで努力家でした。
 遊び人で怠け癖があるレベッカとは対照的です。
 まあ、子供のくせに努力もなしに天才と呼ばれるほど知識を持つにはそれなりに努力は必要でしょうしね。
 
 いくら天才だからといっていきなりレベル1の子供がリューンの大学に入学するのも変なので、「将来を見込まれて出入り自由」程度の設定にしておきました。
 
 シグルトには憎まれ口を吐きつつ、兄のように慕っています。
 彼らの馴れ初めはこの次のPCの項で語りますが、シグルトがロマンを助けるためにごろつきとひと悶着起こしたのは、シグルトがお人好しで、弱いものを守ろうとする意識が強いからです。
 そして、助けたことで恩を売ったりしないところをロマンはとても格好良く感じたのだと思います。
 実直なシグルトは年齢とか性別で差別せず、実力で評価するという美徳をもっています。
 天才と言われながらどこかで子供扱いされていたロマンにとって、シグルトのそういう性格も貴重で嬉しかったのでしょう。
 
 ロマンとシグルトは冒険の中で、リーダーと参謀としてよく意見を交わすことになります。
 
 脳内設定では「女性にマスコット扱いされる」美少年属性です。
 顔を赤らめて母性を刺激する彼は、もてるというよりおもちゃにされます。

 
◇ロマン
 男性 子供 天才型

秀麗     不心得者   誠実
無欲     保守派    神経質
無頓着    穏健     悲観的
勤勉     内気     謙虚
上品     繊細     ひねくれ者
 
器用度:7 敏捷度:7 知力:12 筋力:2 生命力:5 精神力:9
平和性+1 臆病+1 慎重性+3

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CWPC2:レベッカ

 シグルトが親父に言われるままに宿帳にサインしていると、再び宿の扉のベルがからん、と鳴った。
 
「ん?…ああ、レベッカか」
 
 入ってきたのは茶色の髪をした女だった。
 
 歳は20代半ばに達しているだろう。
 聖北教会の禁欲的な坊主が見たら卒倒しそうなぐらい、肌を露出している扇情的な美女である。
 革でできているその服は胸元が大胆に開き、下半身を覆う革のスカートからはみっちりとした肉が覗いている。
 それでいて腰のくびれは8の字を連想させる見事なしまりだ。
 さぞかし好色な男にとっての眼の保養になるだろう。
 
 しかし親父は知っていた。
 この女が身体をわざと見せて、相手の油断や感情のざわめきを起こして隙をつくり、それを利用する毒婦のような狡猾さをもっていることを。
 
「たっだいま~。親父さん、冷たいエールね~」

 艶っぽく紅い唇から出た第一声はなんとも甘い声だった。
 
「ちょっとまってくれ、また新しいのが来たんで宿帳に書いてもらってるんだ」

 親父はそういうと再びシグルトのほうに注意を向けた。
 
「あら、新入りさん?」

 そういってシグルトの顔を覗き込んだ女の顔がすぐににんまりとなる。
 
「あら~、好い男じゃない!
 
 私はレベッカっていうの。
 あなたは…シグルト?
 カッコいい名前ね~」
 
 宿帳で名前を確認した女は、馴れ馴れしくシグルトの腕や首に触れながら、身を乗り出して行く。
 純朴な少年ならのぼせて倒れそうな状況だっが、シグルトは鬱陶しそうに身体を離した。
 
「馴れ馴れしいな。冷たいエールが飲みたいぐらいなら、こういう暑っ苦しいことはすべきじゃない」
 
 きょとんとしたレベッカを見て親父がふきだした。

「はははっ!振られたなぁ、レベッカ」
 
 親父に笑われた女は、傷ついたように大げさにうなだれると、シグルトから一つはなれた席に座ってだらしなくカウンターにもたれかかった。
 
 シグルトは再び宿帳に書き込み始める。
 
「親父さ~ん。
 海よりも深く傷ついたわ。
 私の心を美味しいお酒で満たして~」
 
 カウンターに空いた節穴をいじりながら、それほどこたえた風でもなく、女は甘えた声で親父に酒を催促した。
 
 親父はやれやれといった感じで陶器製のジョッキによく冷えたエールを注ぎ、女の顔の前に置いた。
 女は実に幸せそう顔でそれをぐい、とあおった。
 
「んん~、この一杯が私の幸せっ!」

 井戸で冷やされた程よい口当たりと、喉に絡む泡の痺れに満足げな声をあげて、女は二口目も楽しんだ。
 
 
「…よし、書けたぞ親父」
 
 シグルトが差し出した宿帳を確認した親父は頷くと、シグルトの前にもストンとエールのジョッキを置く。
 
「俺の奢りだ…
 
 小さき希望亭にようこそ!」
 
 置かれたジョッキを不思議そうに見ていたシグルトは、やがてニヤリと笑うと、ああ、と言ってエールをあおった。
 
 ふいにかちゃん、とそばでで音がする。
 
「新人シグルトにカンパ~イ!」
 
 いつの間にか気配もなくシグルトのそばによった女が、ジョッキを合わせて鳴らした音だった。
 
「…あんた、盗賊か?」

 シグルトは少し驚いたような顔で女を注視する。
 
 盗賊…
 冒険者にとって陰であり、犯罪や裏の社会に通じていて仲間をサポートする職業である。
 冒険者が半ばごろつき扱いされる理由には、彼らの存在もあるからだ。
 ちょっと転じれば犯罪者そのものであり、泥棒…賊と呼ばれる行為も平気で行う連中である。
 冒険者のなかでも最も胡散臭い連中だと言われる。
 しかし、優秀な盗賊は冒険者に必須である。
 時に犯罪すれすれの危険な仕事をしたときに、彼らの知識やコネクションは大いに役立つし、犯罪組織の膨大な情報を引き出すときも彼らは活躍する。
 罠の解除や進入に必要になる開錠の業に、敵の背後を突く隠密の業。
 それらはまさに一つの技術体系である。
 
 女…レベッカはシグルトの問いにあいまいな笑みで返した。
 
 
「うん、そうだ。
 レベッカ、お前こいつと組んだらどうだ?」
 
 唐突に親父が言い出すと、レベッカは気だるげに首を横に振った。
 
「この手の戦士っぽい男は掃いて捨てるほど転がってるわ。
 私が組みたいのはむしろ魔術師や僧侶ね。
 連中はすごく貴重だし」

 先ほどの甘えた口調とは打って変わった冷徹な口調だった。
 これが本来の彼女である。
 シグルトには媚を売っても効果がなく、親父はレベッカをよく知っている。
 ならば、演技の必要はもはやない。
 卑屈な態度をとることはとっくに慣れてしまったが、本心からしたいとは思わない。
 クールで利己的な彼女のもう一つの顔だ。
 
 親父はしらけた雰囲気をつくろうように皿を一つ取ると、磨きはじめる。
 
「…だが優秀な戦士は必要だろう。
 お前、こいつを触って判らなかったのか?」
 
 親父の言葉をレベッカはふん、と鼻で笑った。
 
「体格や筋肉がよくたって、剣の一本も下げてないお坊っちゃんはお断りね。
 まあ、素手で熊を殴り殺せるというなら話は別だけど」
 
 親父の手が止まる。
 
「そこが青いんだお前は。
 
 そうやっていつまでも組まずにやってりゃ、他の連中にすぐ引き離されるぞレベッカ。
 お前は才能だけなら天才だ。
 若い頃にその技術を使って仕事をやってれば、今頃は一財産作れたかもしれないぞ。
 
 だが、怠け癖と食わず嫌いが極まれば用なしになるのがこの商売だ。
 せめて今月の飲み代を払えるぐらいには、仕事ができるようになるんだな…
 とりあえず組んでみれば、仕事の範囲が増やせるぞ?」
 
 親父の言葉に、うっと言葉を詰まらせるレベッカ。
 
(やばい…このハゲ茶瓶、ツケのことになるとうるさいのよね~)
 
 親父が知ったら怒り狂いそうなことを考えつつ、レベッカはさっきから黙っているシグルトを眺めた。
 
 シグルトは最後のエールをぐっと飲み干すと、唐突に不敵な笑みを浮かべた。
 
「…魔術師なら心当たりがある。
 
 あんたが盗賊なら話は早い。
 組んでみる気はあるか?」
 
 何故かレベッカはこの若者に、くすぶっていた好奇心が沸き起こるのを感じていた…


 
 
 というわけでレベッカの紹介となりました。
 英明型の盗賊で(彼女もインチキ)ものすごく優秀な盗賊です。
 
 レベッカはリューン出身です。
 幼い頃に両親が乗っていた馬車の横転で死亡し、孤児院に預けられましたが、その孤児院は実は人身売買を行っていた邪なところでした。
 レベッカはその孤児院を始末に来たリューンの盗賊ギルドの幹部に助けられます。
 
 以後その戦いで片腕を失って引退した盗賊ギルドの幹部に引き取られて育てられました。
 レベッカのしたたかさと驚異的な手先の器用さを知ったその男は、のめりこむようにレベッカを盗賊としての基本技術を叩き込みます。
 しかし、襲撃のときに負った怪我から発祥した病気で、彼女の育ての親も亡くなります。
 
 レベッカは10歳でまた天涯孤独になり、ギルドの下で猫(スリの隠語)をして糊口をしのいできました。
 
 13歳になったころ、彼女の容貌の美しさに注目した盗賊ギルドの幹部が、色仕掛けで男を篭絡する術を教え、同時に盗賊としての専門的な教育をうけたレベッカは、年下の猫を統率する職に就き、それを8年ほど続けました。
 
 しかし、ギルドの勢力交代で彼女の職は他の連中に奪われ、レベッカはそれを機会にギルドからはなれて冒険者になります。

 レベッカは、その才能だけはギルドでも並ぶものがいないほどの天才でした。
 美しく、実力もある彼女は他から望まれることも多かったのですが、結局パーティを組まずに宿でだべることが多かったようです。
 
 お金に困って、適当な男を捕まえて貢がせたり、飲み屋でアルバイトをしたりといろんな経験をつんできましたが、どんなことも長続きせずに宿に戻ってきては、お金がなくなるとまた適当なことをして糊口をしのぐということを繰り返していました。
 
 性格は怠惰ですが、ものすごく狡猾です。
 目的のために結構えげつない手段も選べる側面を持っています。
 ただ意外かもしれませんが、本来の彼女は質素で地味な服装を好みます。
 色っぽい服装はいわば盗賊としての仮面です。
 気分屋でだらけたような中に、冷徹で剃刀のような一面を隠し持っています。
 ただ、子供を殺すとか、貧乏人から奪うような非道まではできず、お人好しな部分も備えた、実に混沌とした性格です。
 
 彼女は【盗賊の手】などの一部のスキルは天性(最高)の適性をもっています。
 

◇レベッカ◇
 女性 大人 英明型

秀麗     下賎の出   都会育ち
貧乏     不心得者   不実
冷静沈着   貪欲     利己的
混沌派    進取派    神経質
好奇心旺盛  穏健     楽観的
遊び人    陽気     地味
繊細     軟派     お人好し
 
器用度:12 敏捷度:8 知力:8 筋力:5 生命力:4 精神力:5
好戦性+1 社交性+2 臆病性+2 慎重性+2 狡猾性+3

テーマ:ゲームプレイ日記 - ジャンル:ゲーム

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