Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

『第一歩』 前編

「…ふっ!!!」
 
 鋭い呼気とともに真っ直ぐな突きを放つ。
 しかし、その攻撃はたやすく避けられて、シグルトの肩に鈍い痛みが走った。
 がくりと膝を地面につく。
 
「だから言ってるだろ!
 お前の攻撃は正直過ぎるんだよ」
 
 無精ひげの生えた粗野な口調の男は、馬鹿にするように剣に似せた剣術練習用の棒切れで、自分の肩をぽんぽんと叩いた。
 
「おいレストール。
 素人相手にやりすぎだぞ?」
 
 横で鎧姿の男が苦笑いして言った。
 
「そんなこと言って甘やかしてみろ…
 こんな若造、すぐに死んじまうぜ!
 
 いいかシグルト…冒険者って奴は甘えた野郎から死んでいくんだ。
 生き残りたかったら、こんなことでいつまでもへたってないで、とっとと攻撃して来い。
 どんな手を使ってもいいから、俺から一本とって見ろ!
 
 …そうしたら終わりにしてやる」
 
 レストールという粗野な男は、容赦なくシグルトの肩口を蹴り飛ばした。
 
 下がったシグルトは上段に棒切れを振り上げる。
 静かな闘志が、青黒い双眸の奥に宿っていた。
 
「おっ?
 やる気が出たな…」
 
 横で見ていた鎧姿の男は、面白そうにシグルトを見ている。  
 
「生意気にも〈鷹の構え〉か?
 そんな大振り、俺に通じると思ってんのかぁ?
 さっきから言ってるだろ」
 
 レストールは馬鹿にしたように、自身も同じ構えを取る。
 
 何を思ったか、シグルトは踏み込もうとして止め、今度は違う構えを取る。
 同じ上段の構えだが、不思議な形のものだった。
 
 柄を持った腕を頭より高く、切っ先にあたる部分で、まっすぐにレストールを指す。
 斜めに傾いた棒の先に、逆腕を軽く添え、足を出してやや低く腰を落している。
 
「…なんだそりゃ。
 
 お前、そんな変な構えで、自棄にでもなったのか?」
 
 見たことの無い構えに、レストールはあきれたように鼻息をひとつ吐いた。
  
 瞬間、呼吸のわずかな隙を狙って、シグルトは真っ直ぐレストールに突進した。
 
 ガッ!!!
 
 凄まじい踏み込みだった。
 
「ほう、突きできたか。
 
 なかなかいいが、一歩分遅かったぜ?」
 
 唇の端を吊り上げて嗤うレストール。
 しかし、その目は真剣になっていた。
 
(…ふう、冷や汗をかいたぜ。
 
 何とか受けられたが、微妙だったな。
 こいつ、こんな技を隠し持っていやがったのか)
 
 シグルトの踏み切った踵の場所が少しへこんでいる。
 いかに強い一歩だったかよくわかる。
 
 油断無く構える相手に、シグルトは弓を引き絞るように柄を持った手を後ろに下げる。
 逆手は添えるだけ。
 
「ほぉ、さっきの技の変形か…
 
 今度はもう少しましだろうな?」
 
 その問いには答えず、シグルトはすっと深呼吸、息を止めた。
 
「…ッ!!!!!」
 
 今度はシグルトの姿が残像を残し、消えた。
 
「…突きが来るのは読めてんだよっ!!!」
 
 レストールは見えないほどの速度になったシグルトの一撃を、勘だけで薙ぎ払った…はずだった。
 
 ベキィ!!
 
 その一撃でレストールとシグルトの棒が同時にへし折れたのだ。
  
「ぬぅあっ!!!」
 
 一瞬だがレストールに隙ができる。
 そこにシグルトはタックルして、自分の持っていた半分ばかりの棒切れをレストールの首に押し付ける。
 
 折れてできたささくれが、レストールの肌に小さな血の玉を作らせた時、急にシグルトがバランスを崩した。
  
 その瞬間、レストールの拳がシグルトの頬に突き刺さった。
 したたかに地面に叩きつけられ、シグルトはそのまま失神した…
 
 
「で、どうだったんだ、シグルトの腕は?」
 
 親父がレストールと鎧の男、コッカルトの前にシチューの皿を置きながら尋ねる。
 
「へっ。
 あんな若造、まだまだだぜ!」
 
 がつがつと先にシチューを食らっているレストール。
 
「…いや、正直とんでもないな、アイツ。
 本当にこいつから一本取ったんだぜ」
 
 コッカルトはレストールの首筋にできた瘡蓋をなぞる。
 
「っ!!
 気色わりいぃんだよ!
 変な触り方するんじゃねぇ!!」
 
 首を押さえ、レストールは盛大に唾液混じりのシチューを飛ばした。
 
 顔をしかめてシチューを拭き取りつつ、コッカルトはまた思い出したように話を続ける。
 
「…ほんとにすげえよアイツは。
 
 踏み込むときに全く躊躇してなかったし、得物がへし折れても最後まであきらめなかった。
 とんでもないクソ度胸だ。
 あれで、剣をまともに使い始めてまだ一月だっていうんだからな。
 
 技はド素人だが、基本をみっちり叩き込めば1年後には俺たちに並ぶか、越えてるかも知れない。
 
 ありゃ…化けるぞ。
 
 それに、あいつは素人じゃない。
 剣はまるでなってないが、武芸の基礎は徹底的にやってる」
 
 コッカルトはそういってレストールに同意を求めた。
 
「…だろうな。
 
 あの軸足の使い方や勝負度胸。
 加えて、2度目のアレは、俺でも見切れなかった。
 
 剣の技じゃねぇな、あの突きは」
 
 首の瘡蓋を掻きながら、レストールは目を細めた。
 
「…あれはたぶん、棒術か槍だな。
 
 逆腕の位置が、刃物に添えるそれじゃない。
 最後になんでかふらついたが、あれがなけりゃ、完璧にレストールがやられてたな。
 
 あと、視線の追い方が普通じゃない。
 まるで、もともと一流だった病人みたいな動きだ。
 
 武器を振るうべき場所、受けるべきタイミング。
 全部分かってるのに、身体と動きが付いていってない、もどかしそうな感じだ。
 
 あいつが自分の思ったとおりに動いてたなら、あるいはレストールより強いかもな」
 
 コッカルトの言葉を苦い顔をして聞きながら、レストールはそれを否定しなかった。
 
「…親父、シグルトがいくつか分かるか?」
 
 食後の酒をやりながら、レストールが唐突に聞いた。
 
「宿帳に生年月日が載ってたな…
 
 確か、18になるはずだが?」
 
 コッカルトが目を丸くした。
 親父も何かに思い当たった様子で、首をかしげる。
 
「そう、18だ。
 俺たちからすりゃ、若造さ。
 
 だが、あいつをまだ18だって言って、信じる奴がいると思うか?
 皆、20過ぎだろうって答えるぜ。
 
 よく見りゃ、見た目は確かに若い。
 だが、あいつの目も態度も、20前の野郎には見えないんだよ。
 まるで三十路を回った戦士の目だ。
 
 考え方だってそうだ。
 
 俺も、後輩の指導をするのは初めてじゃねぇ。
 だが、あいつほどストイックに教えたことを吸収してモノにする奴はいねぇよ。
 
 あの野郎には、新米が持ってる焦りや虚栄心がまったくねぇんだ。
 
 そして、そぎ落として残った向上心と自制心でさらに無駄を削って自分を磨く…
 
 あんな精神構造になるのは、普通は爺ぃになって、身体が年食ってよ…
 残った時間で何をするか決めた、人生の終わりを見据えた野郎のもんだ」
 
 レストールたちは、シグルトの青黒い瞳の奥に燻る闇を感じていた。
 それは、大切な何かを失った喪失感と、無念。
 
 心の底から慟哭するような経験をしなければ、ああはならない。
 
「…不安なんだよ。
 
 まるで、死人みてぇでよ」
 
 残った酒を飲み干し、苦そうにレストールは顔をしかめた。 
 
 
 シグルトは横になったまま黙って天上を見ている。
 
 仲間たちが先ほど見舞ってくれ、スピッキオが癒しの秘蹟で治療してくれた。
 おかげてレストールに殴られたときにできた青痣も、今は綺麗に消えている。
 
 シグルトは腕を顔の前にかざし、握ったり開いたりした。
 しかし、親指と中指は普通に動くのに、他の指が痙攣したように上手く曲がらない。
 
 やがて、繰り返すその行動のおかげか、すべての指が動くようになっていった。
 それを確認したら、反対の腕で同じようなことをする。
 
 額に脂汗が滲んでいた。
 
 両手が動くようになると、上体を起こし、膝を曲げて服のすそをまくり、脛を出す。
 踵の上からぐるぐると巻かれた木綿の布。
 それを緩めて、湾曲した硬く薄い木の板を取り出す。
 きつく巻かれた布の上からだと判別がつかなかったが、踵の部分に合わせて削った添え木だった。
 
 その添え木を外すと、足首をそっと揉み解し、軽く手で回す。
 手を離すと、だらりと足の爪先が床に向かって垂れた。
 
(…まだこれ無しでは、無理か)
 
 すべて巻いた布を解くと、そこには何かで抉られたような傷痕があった。
 ちょうどアキレス腱のあたりである。
 縫合痕も見受けられた。
 
(…繋がっているといっても、歪なままなんだろうな)
 
 苦笑するシグルトは、もう片方の足も同じように揉み解す。
 そちらの足にも同じような傷があった。
 
 もし宿の者たちが見たら、目を丸くしただろう。
 シグルトは添え木をした義足同然の足で、あれだけの動きをして見せたのだ。
 
(…半年前に比べれば、走れるようになった分だけ僥倖だろうな。
 
 あの聖典教徒の爺さんには、一生まともに歩くことも無理だろうと言われてたんだ。
 今、俺は歩くことができる。
 
 俺には、剣を握る腕がある、地を蹴る足がある。
 
 俺は、まだ戦える…)
 
 思うように動かない四肢を見つめながら、シグルトは静かに呼吸を整えていった。
 
 
 …それは、宿の熟練冒険者であるレストールとコッカルトの2人が、新米冒険者であるシグルトに剣の稽古をつけてやる、と言い出したことから始まった。
 
 シグルトたちがスキッピオを伴って宿に戻ってきた直後の話である。
 
 暗い顔をしてテーブルに座っていたレストールとコッカルトだったが、シグルトたち5人を見て、興味をひかれたように話しかけてきた。
 なぜかシグルトの名前を聞いた瞬間、2人の眼が驚いたように見開かれ、その後2人はシグルトたちにおせっかいといっても過言ではないくらい、こと細かく世話をやいてくれた。
 
 2人の先輩冒険者は、シグルトたちに昔使っていた剣や鎧をくれて、冒険者の基礎となる野営のしかたや、心構え、護身術や駆引きにいたるまで、親身になって教えてくれた。
 
 その後、今回のような強引な“教育”もあったが、2人の冒険者のおかげでシグルトたちは十分な予行と訓練をつむことができたのである。
 シグルトたちにとって幸運だったことは、レストールたちは宿の親父やレベッカも認める一流だったということだ。
 
 西方でも、彼らほど腕の立つ冒険者は少ないだろう。
 
 加えて、シグルトたちは優秀な教え子だった。
 
 レベッカやスピッキオは旅の経験があったので、冒険者がよく行う野外活動には通じていたし、ロマンは一部分でレストールたちより博学だった。
 ラムーナは謙虚にものを学んだので飲み込みは早かったし、彼女は器用だった。
 
 そして、シグルトは「剣を握ってまともに振るってみたのはここ一月」とは思えない戦闘センスを持っていた。
 レストールやコッカルトが、訓練中に一本取られる回数が、数日で倍に増えたほどである。
 
 
「くっそぅ。
 
 お前もう、素人の剣じゃないぞ」
 
 一本取られたレストールが、軽くシグルトの肩を小突いて言った。
 
「まったくだ。
 
 特にお前の戦術センス、素人のものじゃないだろ?
 だが、お前には槍の方が向いてるように思うんだが…」
 
 その言葉に、シグルトは苦い顔をした。
 
「槍は、冒険に持ち歩くにはかさ張ります。
 
 それに、屋内や洞窟での戦闘には向かないでしょう。
 あと、槍を使うにはもう少し器用で素早さもないと。
 
 …俺は不器用ですから」
 
 コッカルトはそれ以上言わなかった。
 シグルトは決して槍を持とうとしなかった。
 話してみれば、槍の使い方を明らかに知っている様子だったが、その話題は出来るだけ避けようとしていた。
 
 知られたくない過去があることは、レストールにもコッカルトにも理解できたし、なによりシグルトは軽薄に昔話をするような男ではなかった。
 
 そんな形で数日の準備期間を過ごし、シグルトたちはとうとう初の依頼を受けることになった…
 
 
 依頼は、廃教会に出没する妖魔の討伐というものだ。
 
 戦闘を前提とした仕事のため、旅立ちの朝、一行は念入りに用意をした。
 だが、旅の道中は何事も無く穏やかなものだった。
  
「ふんふんふ~ん♪」
 
 鼻歌を歌いつつピョンピョン先を行くラムーナを、同行したトルーアという侍祭は、本当にこんな人たちで大丈夫なのか、という不安げな顔でとぼとぼと後をついて来た。
 
 仲間がそれぞれに移動する中、シグルトは旅立つ前にレストールが酔っ払って何度も「冒険者なんて辞めろ!」と言っていたことを思いだしていた。
 
 レストールたちにはかつてシグルズという仲間がいた。
 その仲間は先日つまらないことで亡くなり、似た名前のシグルトには他人とは思えない縁を感じたという。
 
 親しくなったシグルトが死ぬことを、レストールたちは恐れていた。
 再び見知ったものが死ぬことは、耐えられないという風に、2人は酔いに任せて切々と訴えた。
 
 だがシグルトは苦笑して話を最後まで聞くと、自分が選んだ道から外れることはできないと答えた。
 
「俺にはまだ強さが足りない。
 
 でも、まだ死ぬ気はありません。
 ある女が生かしてくれた命、ですから。
 
 それを尽くして生きることが、今の俺に出来ることなんです」
 
 シグルトのその言葉と決意の中に、とても重い過去を感じたのだろう…
 次の日、レストールとコッカルトは、「絶対、生きて戻って来い」と言って沢山の餞別をくれ、一行を送り出してくれた。 
 
(今は前だけを。
 
 俺たちは歩き始めたんだ)
 
 レストールがくれた、古びているが磨いたばかりのやや重い両刃の剣。
 その柄頭を撫でながら、シグルトは静かに心を昂ぶらせていた。
 
 
 その日の夜。
 
 野営中に見張りの時間になり、焚き火の晩をしていたシグルトは、眠れないというトルーアに話しかけられた。
 話すうち、トルーアは様々なことを質問してくる。
 そしてそれは、シグルトの出生に話題を移した。
 
「ちょっと興味があったんです。
 貴方はとてもお若いのに、すごく大人びて見えたので。
 
 よかったら教えていただけませんか…あなたはどんな生まれなのか」
 
 少し戸惑いながらも、シグルトは焚き火の前で1人見張りをしていた退屈を紛らわすように話し始めた。
 
「…生まれた家は特殊だったが、育ったのは街中だ。
 都会じゃなかったが、遊ぶ相手を選ぶぐらいは、同世代の連中が周りにいたよ。
 
 家族は、母と、守らなければならない妹がいた。
 
 子供の頃はがむしゃらに、俺が母と妹を守るんだと、1人で身体ばかり鍛えていた。
 そんな俺にも、陽気な奴が話しかけてくれて、そいつには俺の妹と同い年の妹がいて仲良くなった。
 そいつと遊ぶようになってからは、人との付き合いも大切なんだと気付かされた。
 
 野山を駆け回って、友と妹と遊んで…
 文字や学問は母に教わった。
 そのまま大きくなって、いつかは普通に働いて結婚する生活を夢想していたよ。
 派手な人生じゃなくていい…
 ただ親しい連中と家族と普通に暮らす、そんなつもりだった。
 
 それも、10歳を少し過ぎるまでだったが。
 
 俺の母は、生まれが貴族でな。
 その両親…俺の祖父母が犯したという罪で貴族ではなくなっていたが、どこかそういった育ちを教育に出す人だったよ。
 博学で、古今東西の伝承や歌曲に詳しかった。
 母が歌う歌や、話してくれる珍しい物語には、俺も妹も夢中になったものだ。
 
 父は、正妻がいた貴族だった。
 つまり、俺の母親は世間一般で言えば妾、ということになるか。
 でも、それを悲観したことはなかったな。
 母は優しかったし、俺の誇りだった。
 俺の出生や母のことを馬鹿にする連中がいて、むきになって向かって行って、生傷を作っては母と妹に悲しまれて…
 その方が殴られた傷よりよほど堪えたよ。
 
 あるとき父の正妻が死んで、俺の母は正妻として迎えられた。
 気付いてみれば、俺は貴族の子供になっていた。
 慣れないことばかりで、特に母親の違う兄には反発していたな…」
 
 シグルトは西方のずっと北にある、小さな国の、ある騎士の子供だった。
 
 最初は街のはずれにある石造りの家に、母と妹と3人で暮らしていた。
 幼いながら、時折やってくる立派な身なりの男が自分の父親であることをなんとなく気付いていた。
 
 10歳になって母が正妻として迎えられると、シグルトはその男の正式な子供として、妹ともに認知された。
 
 あとで噂に聞いたことだが、シグルトの母は現国王の血筋にも関係する貴族の令嬢だったが、政争で敗退した母の父は妻とともに無理心中し、行くあてが無かった母はシグルトの父親に愛人として囲われた形だった。
 
 シグルトの母が正妻として迎えられたとき、一緒に父の屋敷に行くと、父親は腰を折ってシグルトたちを抱きしめてすまなかったと謝った。
 母が父親と真剣に愛し合っていたのを知ったのはそのときで、なんとなく誇らしく思ったことを覚えている。
 
 屋敷には跡継ぎの異母兄がいた。
 だが、陰気で高慢に振る舞うその異母兄が、シグルトは大嫌いだった。
 
 初めて異母兄に会ったとき、シグルトを「売女の子供」と罵って、馬を打つ鞭で叩いて跪けと言ったその男を、父が止めに入る前に殴り倒していた。
 シグルトは異母兄に会った瞬間から嫌いになったが、母を侮辱した瞬間には敵だと認識していた。
 
 その異母兄と和解することは終になかったが、噂でシグルトたちのことを憎んで異母兄の母が心を患っていたということを聞いてからは、憎むほどではなくなった。
 シグルトの父がその異母兄を見る目は、慈愛とともに言い知れぬ苦しみを宿していた。
 そして異母兄にも自分へ注いだものと変わらぬ愛情を持っていた父を、シグルトはとても誇りに思っている。
 
「どうして冒険者になったのですか…
 所領は継げなくても、いくらか資産は継ぐことができたのでは?」
 
 普段むっつりとしたシグルトが饒舌に語った過去。
 興味を持ったようにトルーアは話の続きをせがんだ。
 
「別に所領に興味はなかったな。
 俺は平民の中で育ったし、貴族の生活そのものにも、まるで魅力を感じなかった。
 
 だが、惚れた女が身分の高い貴族の娘だったんだ。
 彼女を妻として迎えられるように、本気で貴族になろうとしたこともあったよ。
 
 結局、いろんなことがあって故郷から出なければならなくなった。
 そう…いろいろあったんだ。
 
 それに好きだった女は、嫌いだった兄に嫁いだ。
 もう、貴族になる必要もなくなった。
 
 …故郷での俺の居場所はなくなったから、こうして流れてきて冒険者になった、というところだな」
 
 焚き火に新しい薪をくべながら、どこか暗い光の瞳で、シグルドは弾ける火の粉を眺めていた。
 
 トルーアは、シグルトの過去にはもっと複雑な何かがあるように感じた。
 だが、どこか悲壮な雰囲気のシグルトに、それ以上過去のことを尋ねることはできなかった。
 
 重苦しい雰囲気をどうにかしようと、トルーアは自身が聖職者になったわけを話す。
 シグルトは黙ってそれを聞いていて、時折相槌を打つように頷く。
 
 最後に、トルーアはふと思ったことを口にした。
 
「あの…シグルトさんは、冒険者になれば死ぬこともあるということは分かっているんですよね?
 
 その、やっぱり死ぬことを覚悟なさったり、したんですか?」
 
 岩のように落ち着いているシグルト。
 その心が、トルーアは知りたかった。
 
「…人はいつか死ぬものだ。
 
 限られた命、限られた時間を終えた後にはきっと死んでいく。
 どんなに近しい者が嘆いても、尽くしても。
 
 必ずやって来る死という理不尽、終局はきっと、俺が手を動かす、そんな事柄の一つでしかない。
 来ることが分かっている死に覚悟を決める、という気は起きないな。
 俺にとって自分の死はそれほど重くないんだ。
  
 俺は死ぬことよりも、己が尽くすべきことを出来ずに終わることが怖い。
 
 この命は父と母、そしてある女にもらった。
 その生き方を、求められはしなかったけれど…無駄にはしたくない。
 
 だから俺は、死ぬよりきっと、その時その時をその度に…生きることに覚悟をしようとしている。
 
 俺は与えられた時を、死ぬまで生き続ける。
 だから、死より生の方が大切で重く、覚悟が必要なんだ…」
 
 それは聞いたこともない、不思議な答えだった。
 
 首をかしげるトルーアの前で、シグルトは何かを飲み込むように、焚き火の炎をじっと見つめていた。 

 
 
 次の日、一行は目的の廃教会に向かった。
 
 ロマンやラムーナは、さすがに少し緊張した様子である。
 
「シグルト、随分余裕ね。
 
 怖いとか、不安とかないの?」
 
 レベッカが尋ねると、ああ、と短くシグルトは答えた。
 
「戦いのとき、一番大切なのはいつものように動けるかだ。
 何かを恐れていては、一撃目すら出せないかもしれない。
 
 俺に求められる役職は戦うこと。
 なら、戦いの恐怖に震えないことも、仕事のうち、ということだ
 
 それに、熊狩りや盗賊討伐に参加したことがあるから、この程度で怖いとは感じないな」
 
 シグルトの泰然とした態度に、レベッカは口笛を吹く。
 
「あんた、やっぱり実戦経験とかあるんだ。
 
 そのわりには、剣は持ったことが無かったみたいだけど?」
 
 その問いにシグルトは頷く。
 
「俺の国で剣は特別な意味を持っていた。
 
 国民の帯剣は禁止されていたしな。
 正騎士として叙勲を受けるか、外国人、あるいは国王に認められた勇士しか帯剣は許されなかったんだ。
 
 建国の王が剣を使っていたからってことで、神聖視されていたためだ。
 一般の兵士が持つのは戟(ハルベルド)か槍、あとは斧に鎚矛(メイス)といったところだな。
 
 剣を初めて握ったのは、故郷を出てからだ。
 西方について冒険者になろうとしたとき、冒険者が一番好んで使う武器だと聞いて、手持ちの金をはたいて買ったが、使い方が下手だったようでな。
 
 使ったとたん、折れてしまった」
 
 苦笑いするシグルト。
 
 しかし、レベッカは愛想笑いを浮かべながら、レストールがぼやいていたことを思い出した。
 
「レベッカ。
 
 金が出来たら早いうちにあいつに良い剣を買ってやれよ。
 あいつ、剣を振るうタイミングも膂力も相当なものだ。
 そのぶん、奴の攻撃は重くて鋭いが、武器の方が奴の力に耐えられない。
 
 たぶん、俺のお下がりの剣じゃ、数回冒険すれば折れちまうだろ。
 
 買うとしたら、普通の多少良い剣じゃだめだぞ。
 シグルトが折れちまったって剣を見せてくれたが、あいつ、武器を見る目も確かだ。
 
 銀貨数百枚で買った品にしちゃ、弾力も硬さも申し分ないやつだったよ。
 少し細身だったが、鋭さはなかなかだ。
 
 ロマンの話じゃ、その細身の剣で敵の斧の柄を断ち、鎚矛を柄ではじいて砕いたらしい。
 あの坊やを守るために、重い攻撃を受けちまったから折れたらしいがな」

 戦士にとって、得物は身体同然である。
 しかし、優れた戦士は、己の能力が高すぎるために武器の方を破損してしまうことがよくある。
 
 シグルトはやや細身に見えるが、無駄な贅肉はまったくない。
 筋肉の束のような身体は、とてつもない力を発揮する。
 しかも、その筋肉の使い方は芸術的だ。
 全身をばねのようにしならせて振るう一撃は、レストールとの鍛錬でも、度々剣代わりの棒を圧し折っていた。
 レストールが、シグルトの攻撃を受けた反動で手を痺れさせていたこともある。
 
 攻撃における迷いもない。
 シグルトは、清冽で勇敢な心を持っていた。
 ためらいのない真っ直ぐな打ち込みは、攻撃をより鋭いものにする。
 
 結果、生まれた力は振るう武器にも強い反動を与えていた。
 上手い使い方をしているからこそ、1回で折れるようなことはないが、長持ちしないだろうことは確かである。
 シグルトは武器の手入れに余念が無いし、扱い方も酷いわけではない。
 ただ、シグルトの能力が武器の性能を出しすぎて、結果、破壊力が武器の耐久力を上回ってしまうのだ。
 
(…困ったものだわ。
 
 力に武器がついていかないなんて、責めようが無いじゃない。
 戦士に加減して武器を使え、なんて言えないし。
 
 予備の武器に手斧でも仕入れておこうかしら?
 使い慣れた形状の武器を使うのが一番だけど…
 
 かといって、今は冒険に必要な器具を揃えたから、懐は寂しいし。
 
 ま、ここは金銭の扱いに慣れた、私の腕の見せ所ってやつか)
 
 レベッカは、銀貨千枚にもならない、仲間たちの所持金を使って、彼らの初期装備のほとんどを調達してみせた。
 レストールたちのくれたお下がりの武具を合わせて、初期の冒険者としては思えないほどの装備である。
 
 なまってはいるが、レベッカもかつては一流と呼ばれていたのだ。
 そういう意味でシグルトには共感を持っていたし、実戦経験のあるということに期待していた。
 
(…今から貯金ね。
 
 シグルトっていえば、竜殺しで不死身の英雄だもの。
 持ってた魔剣グラムは超一級の剣だったわけだし。
 不死身の竜殺し…その名前に見合う活躍はしてもらうわよ。
 
 仲間の才能に見合う投資をするのは、わくわくするわ。
 まして、それに私の腕が貢献するなら、なおさら、ね)
 
 レベッカが仲間を作らずに宿で燻っていたのは、自分の能力を横で活かすに値する仲間に出会えなかったからだ。
 しかし、今彼女の側にいる仲間たちは、新人でありながら怪力で武器を壊すような美青年に、天才と噂された少年。
 揃い難い僧侶に加えて、その才能の開花が楽しみな俊敏さを持つ娘である。
 
 レベッカの退屈を満足させるだけの仲間がいる。
 そのことに、言いようのない期待が膨らみ、レベッカは頬を緩ませた。
 
 
 件の廃教会の屋根が見えると、レベッカが一行を制した。
 
「これ以上の接近は慎重に行くべきね。
 
 皆はゆっくり来て。
 
 私は周囲に罠がないか、戦闘に邪魔な第三勢力がいないか、伏兵がいないか…
 一通りやばそうなもののチェックをしながら、先に行ってるわ。
 
 シグルト、私が行くルートは…」
 
 レベッカは地面に移動ルートを描き、注意点を説明する。
 シグルトがそれを見ながら、的確に質問し、目印や暗号をあらかじめ決めておく。
 
 冒険者にとって、符丁や目印による確認は重要だ。
 敵にばれずに意思の疎通が可能となり、問題が発生して動けなくなったときには合図にも使える。
 
 驚くほどシグルトたちは息が合っていた。
 
 もともとレベッカは他人に合わせるのは上手い方だが、シグルトはシンプルに要点を見据え迅速な回答をするので、話が滞らない。
 加えてロマンは、子供とは思えないような細かい部分を指摘し、老獪なスピッキオは堅実な意見を出す。
 ラムーナは、外見と態度によらず鋭いことを言い、それは他のものが考えないような斬新なものだった。
 
 意見が絡まると、シグルトがその中の要点を示して素早くまとめ、レベッカとロマンに意見を求める。
 それをスピッキオとラムーナが確認しながら承認し、話が進むのだ。
 
(ほ、ほんとに今回初めて組んだのかな、この人たち…)
 
 横でトルーアが目を白黒させている間に、シグルトたちは作戦を決め、レベッカが先行して出発した。
 
 レベッカの後を追うまでの間に、シグルトはラムーナと戦いの打ち合わせをしている。
 
 ロマンがシグルトの戦術に、しきりに頷いていた。
 彼の語る戦い方は、実戦経験した者だけが考案し使うものだ。
 斬新ではないが、堅実で隙が少なく、加えて柔軟である。
 
「…そろそろいいか。
 
 皆、レベッカを追うぞ」
 
 切りのいいところで話をまとめ、シグルトたちは慎重な足取りで出発した。
 
 
 レベッカは滑るように移動しながら、罠の類や気配を探っていた。
 
(妖魔の討伐か。
 
 鈍った勘を取り戻すには、ちょうどいいぐらいね)
 
 こういった実戦から距離を置いて数年になる。
 シグルトにあわせて、レベッカも体重を落とし勘を研ぎ澄ませる訓練を始めていた。
 
(随分鈍ったもんね。
 
 まあ、寝転んで酒飲んでりゃ、こんなものか。
 こんな姿、お父ちゃんに見せたら、折檻されてたわ)
 
 レベッカの行動はまるで隙が無い。
 しかし、それに不満を覚えるほど彼女は慎重だった。
 
 普段は自堕落で軽薄な女。
 反面、仕事に移れば冷酷で鋭利な盗賊。
 
 レベッカは混沌とした二面性を持ちながら、それをすっぱりと分けてコントロールすることができる。
 
 …冷静沈着。
 鈍ったといえど、レベッカはやはり一流だった。
 
 やがて彼女が廃教会に着くと、2匹の妖魔が見張りをしていた。
 
(オークにゴブリン?
 
 下っ端だけど、2匹見張りに立てるなんて、セオリーを守ってるじゃない。
 後ろに戦略を考えてるリーダー格がいるんでしょうね。
 
 さて、ここはいいわ。
 シグルトたちが来る前に、周囲を確認して確保しておきましょう)
 
 レベッカは足音を立てずにふわりと、その場を後にした。
 
 
 シグルトたちが廃教会の近くまで来ると、切り株に座ってのんびりとレベッカが待っていた。
 
「…はい、そこで足を止めて。
 
 周囲を調べたけど、見張りは2匹だけよ。
 他にいるのは栗鼠と鳥ぐらいなものだわ。
 
 ただし、見張りが別種の妖魔よ。
 2匹見張りに立てる、ってことは戦術の分かる奴が後ろにいるし、別々の妖魔が組んでるってことは問題ね。
 連中が、はぐれ妖魔の集まりでもない限り、頭のいいゴブリンシャーマン、あるいはあいつらを操る黒幕がいると見て間違いないわね」
 
 一息に言って、レベッカはため息を吐く。
 シグルトが水袋を渡すと、レベッカは「酒じゃないのが残念ね」とぼやいて中の水を一口だけ飲んだ。
 飲みすぎが疲労を増し、冷えた身体は運動能力を低下させることを知っているのだ。
 
「見張りが2、厄介だな。
 
 叫ばせずに奇襲で仕留めるには数が多い」
 
 レベッカが口元を拭いながら、首肯する。
 
「1匹ぐらいなら、私が忍んで仕留めるところなんだけどね」
 
 繁みから敵影を確認しているシグルトを、興味深そうに見つめながら、レベッカは唇を軽くなめた。
 
「…この距離なら、同時に襲い掛かっても叫ばれるな。
 
 ロマン、お前の魔術でどうにかなるか?」
 
 敵影を確認し、ロマンは首を横に振った。
 
「距離があるし、確実じゃないね。
 
 直接魔法で遠距離攻撃も出来るけど、それじゃ1匹倒して、それでおしまいだよ
 やってみる?」
 
 レベッカが、ロマンと同時に仕掛けてみるか聞くと、シグルトがロマンの膝に軽く視線を落とし、首を横に振った。
 緊張に少し慄いているそれを見て、レベッカはシグルトの配慮に心の中で感嘆する。
 
「…俺とラムーナで接敵し、奇襲する。
 
 ロマンとスピッキオは出来る範囲で援護してくれ。
 レベッカ、お前はロマンを守りながら、できるならラムーナの援護を。
 ラムーナはさっき言ったとおり、先に仕掛けたら一旦引いて、ヒットアンドウェイで撹乱する。
 
 俺はラムーナに合わせて、確実に1匹ずつ倒す。
 
 この際、敵に叫ばれるのは仕方ない。
 その分消耗を少なく、だ」
 
 皆がどうしようか迷ったとき、真っ直ぐ行けばいい…とシグルトはすんなり作戦を決めてしまった。
 
 シンプルねぇ、とレベッカがあきれたが、見張りが2人ならおびき出す手段も失敗するだろうと、結局一番単純な作戦になる。
 
 レベッカはシグルトのリーダーとしての資質に、ほくそ笑んでいた。
 
 個性と才能にあふれたパーティをまとめるとき、何より必要となるのは決断力に優れたリーダーである。
 どちらかというとレベッカは、人をまとめるより誘導するタイプだ。
 それに責任でがんじがらめにされては上手く動けないが、決断を下し実行し責任を果たす者がまとめるパーティは、最大限にそれぞれのメンバーが役割を果たせる。
 
 シグルトは自然とそういった行動ができる男だった。
 加えて、人を魅了する容貌と実力を兼ね備え、誠実で禁欲的な上、勇敢だ。
 
 カリスマ性とでもいうべきか、他者に強い印象を与える資質も持っている。
 
(こんな逸材、そうはいないわよ。
 
 親父の言うとおり、あたしゃ、ちょっとばかり慎重すぎたみたいね)

 作戦が決まると、シグルトはトルーアにここで待機するように指示し、敵を見据えて仲間たちに声をかけた。
 
「失敗しても焦らずに仲間を援護すればいい。
 
 背中から襲われないように、仲間の背を守るように動いてくれ。
 俺の方はいい…腕っ節が専門だからな。
 
 まずは、自分の身を守るように。
 無茶や自棄は厳禁だ。
 
 見張りを倒したら、だいたい同じ形で攻める。
 扉から俺が先に飛び込んで、ラムーナがそれに続いて、近い敵に立ち向かう。
 ロマンとスピッキオは援護。
 レベッカは後衛から敵の動向を見て、まずそうな奴がいたら知らせてくれ。
 
 皆、先輩にどやされないように、この仕事を成功させるぞ。
 初仕事の後は、祝いにうまい物でも食おう、それでいいな?」
 
 言い終わって、ふっと笑うシグルト。
 一行はシグルトが言った言葉に頷き、緊張した肩が下がる。
 
 自然と皆を落ち着ける行動をしたシグルトに、スピッキオは驚いたように眉を動かした。
 
(…大したもんじゃ。
 
 言葉にはせんかったが、ロマンやラムーナは少し力んでおったからの。
 ふむ、わしら一同をまとめる代表者は、この若者になるじゃろうて)
 
 仲間の様子を確認すると、シグルトは強く頷き、あとは敵を睨んで剣を抜いた。


「…ハァッ!!!」
 
 敵に接近した瞬間、シグルトは鋭い突きでゴブリンの喉を抉った。
 呼吸が止まったゴブリンは目を見開いて動きを止める。
 
「《眠りをもたらす白雲よ、抱いて沈めまどろみの底に…》
 
 離れて!!!」
 
 ロマンが呪文を完成させ、警告する。
 あわてて他のメンバーは敵から離れた。
 敵を中心にうっすらともやのように煙がかかる。
 
「《眠れ!》」
 
 ロマンのするどい一声で煙が拡散する。
 抵抗できずにオークがふらふらと倒れる。
 魔術師が好んで使う初歩的な魔法、【眠りの雲】である。
 
 シグルトがすかさずその首に剣を振り下ろす。
 目を見開いて絶句するオーク。
 そこにすかさずスピッキオが杖を振り下ろしす。
 
 反撃する隙も無く、2匹の妖魔は倒されていた。
 
「皆、怪我は無いな?
 
 次は教会の中だ…行くぞっ!」
 
 扉に手をかけると、鍵がかかっていた。
 
「内側から鍵がかかってるわ。
 
 蹴破らないと…」
 
 レベッカが即座に調べ、シグルトに頷く。
 
「分かった」
 
 シグルトは短くそう応えると、身体を一転させて扉の蝶番目がけで鋭い蹴りを放った。
 一撃で頑強な扉が大きく歪む。
 
 そこへ、ラムーナがふわりと跳躍してさらに蹴りを放った。
 扉の蝶番が完全にはずれ、向こう側にあったつっかえ棒がへし折れる音。
 
 轟音を立てて扉は半壊し、開く。
 
「むう、女の子のすることではないぞ…」
 
 スピッキオが額に皺を寄せてぼやくと、ラムーナはちろり、と舌を出した。
 
 話は後だ、というふうに、シグルトは2人に視線を送り頷く。
 そして、真っ先に扉をくぐり、踏み込んでいった。 
 
 中では3匹の妖魔が目を見開いている。
 
 敵の中でもひときわ大きい奴が、棍棒を握り、ブォンと振るった。
 俄然やる気である。
 
「ホブゴブリンだっ!
 
 力があるから気をつけてっ!!」
 
 ロマンに頷き、シグルトが前に出る。
 
「油断するな…さっきの手順だ」
 
 シグルトが、先ほどの戦いで血に濡れた剣をすっと構える。
 
 仲間たちはそれに応えるように陣を組んだ。
 
「ガァァァァッ!!!」
 
 敵のボスらしきホブゴブリンが、得物を高く掲げ襲い掛かってくる。
 
「ヤァァァアアッ!!!」
 
 ラムーナが斬ると見せかけて、鋭い蹴りでホブゴブリンの足を蹴り払う。
 シグルトがそこに斬撃で追い討ちをかけた。
 受けたホブゴブリンの棍棒が半ばまで斬られ、ラムーナに放とうとした反撃の一撃ががっちりとブロックされた。
 
 その横でレベッカが、痩せたゴブリンを牽制して短剣で応戦していた。
 
「《眠れ!》」
 
 呪文を完成させたロマンが、【眠りの雲】をホブゴブリンとオークにかける。
 突然襲った睡魔に抗えず、2匹の妖魔は次々に膝を折った。
 
「ギャヒッ?」
 
 痩せたゴブリンは仲間の異常を見て、恐怖に目を見開いた。
 
「ふんぬぅっ!」
 
 レベッカがフェイントでよろめかせたそのゴブリンの頭蓋を、スピッキオが振るった杖が後ろから砕く。
 
「…フッッ!!!」
 
 シグルトは突進するような突きで、眠りかけたホブゴブリンを突き刺す。
 肺を貫通した一撃に、敵は唾液と血の混じった咳を吐きながら後ろによろめいて、ドウゥッと倒れた。
 
 その横でロマンが呪文を完成させる。
 
「《貫き徹す光の鏃、輝きを纏い疾く放たれよ》
  
 《穿て!!!》」
 
 【魔法の矢】…
 必中にして絶大なる破壊力を持つ、魔術師の最もシンプルな攻撃手段である。
 それは光の尾を引いて飛び、オークに突き刺さった。
 
 スピッキオが踏み込んでその胸を打ち据える。
 
「…たぁああっ!!!」
 
 突き上げるようなラムーナの一撃が、よろめいたオークに反撃させる隙を与えずに決まり、戦いは決着した。

 一同が安堵の吐息をもらした瞬間、倒れていたホブゴブリンが、かっと目を見開き、棍棒を杖代わりに立とうとする。
 凄まじい怨嗟の視線と気迫に、一瞬皆の動きが止まる。
 
 だが、その前にシグルトが歩み出た。
 黙ったまま、鋭い突きで止めの一撃を放った。
 
 確実に心臓を刺し貫かれ…ホブゴブリンは今度こそ絶命する。
 
「…っはぁあ」
 
 ゆっくりと息を吐き出すと、シグルトは眼を見開いたまま絶命しているホブゴブリンから剣を引き抜いた。
 どさりと崩れ落ちた敵の最後を確認すると、シグルトは剣を振るって血を払った。
 
 圧倒である。
 仲間は傷一つ負っていなかった。
 
 そして一同に、敵を殺したという現実が突きつけられた。
 返り血の錆びた匂いと、切り裂かれた妖魔が垂れ流した汚物の悪臭。
 ロマンが顔を青くして吐き、ラムーナはぺたんと座り込む。
 レベッカとスピッキオは動揺はしていないが、嫌そうに顔をしかめている。

 シグルトは落ちていた布キレで剣をぬぐうと、汚れていない部分で壮絶な死に顔をしているホブゴブリンの面を覆った。
 その顔には動揺も不快感も無く、まるで敵のために祈るように沈黙している。
 
 隠れていたトルーアは出てきた後、凄惨な状況に顔をしかめ、目を背けた。
 
 
 とりあえず敵の死体はそのままに、一行は依頼主との契約どおり、教会の中を探索しはじめた。
 
 シグルトは捜査を仲間に任せ、壁に寄りかかって休んでいる。
 
(…まだ右手の薬指が痺れているな。
 
 さっき走ったせいか、添え木の具合が少し悪いみたいだ。
 革の固定ベルトでも、つけるべきか…)
 
 熱を持った身体をクールダウンさせながら、シグルトは身体の不具合を一つ一つ確認していく。
 
 獅子奮迅の活躍を見せたシグルトだが、実際のところ、彼の身体は問題だらけだった。
 
 他人に気付かせることなく戦って見せたが、両足にはめた添え木が無ければ、杖を使っても立つことが怪しい。
 シグルトはそんな無茶苦茶な状態で、走ってみせたのである。
 膝と大腿部の筋肉を上手に駆使して、添え木で固定した踵部分に力を送り、体を傾かせて生まれる力や遠心力で走る…
 剣の重さや上体の動きでバランスを保ち、絶妙のタイミングで武器を振るうことで破壊力を出す。
 それは神業といってもいい芸当だった。
 
 シグルトは一歩歩くことでも、常人の数倍の労力を要する。
 加えてその度に針が刺さるような激痛に耐えていた。
 
 わけあってシグルトは重度の身体障害を抱えている。
 しかし、盲目の仙人が心眼でものを見るように、シグルトは凄まじい努力で、ここまでまで動けるようになったのである。
 
 今でも両腕には痺れがあり、指の何本かは動かなくなるときがある。
 両足は一度アキレス腱を断裂し、名医に繋いではもらったが、足首を回すこともままならない。
 そんな状態では、身体を制御する時の痛みとストレス、かかる負担は凄まじい。
 体温の急激な上昇、眩暈、痺れ…さらに体調の異常が起こり、気を抜けばそのまま昏倒する可能性もある。
 
 それらのハンデに耐え、気付かせないシグルト。
 まさに不死身の英雄と同じ名に、恥じない意志力だった。
 
 
 一旦呼吸を落ち着けたシグルトは祭壇の奥に、仲間も見つけていない扉を見つけた。
 
 仲間を呼ぼうとするが、あちこちに散ってしまって姿が見えない。
 
(一応、先に調べておくか。
 さすがにこんな教会の締め切った部屋に、罠などないはずだ)
 
 扉の奥にある階段を下る。
 随分と長い階段だった。
 そして、小部屋に出る。
 小部屋の扉を慎重に開け、中に入ると、そこは真っ暗だった。
 
 薄暗い部屋を見回して明かりになりそうなものを探す。
 
「…誰だ?」
 
 部屋の隅で一瞬光るもの。
 シグルトはそれを見つける前に殺気を察し、素早く構えを取った。
 
 シュッ!
 
 襲い掛かってくる銀光に、それをかわそうとしたシグルトは、突然襲った眩暈に一瞬反応が遅れた。
 わずかに違う環境…薄暗く寒い地下の温度が、疲労して熱を持つシグルトの身体にほんの少しした悪戯だった。
 
 次の瞬間、シグルトのわき腹に激痛が走った。
 血にぬれて短剣の切先が刺さっていた。
 シグルトの強靭な腹筋でなければ刺し貫かれていただろう。
 剣が抜かれ、服に血がにじむ。
 
「貴様のせいで!」
 
 黒い外套に身を包んだ痩身の男だった。
 憎しみにぎらついた眼でシグルトを睨むと、剣を突きつけて脅してきた。
 
「動くなよ、若造。
 仲間を呼んだら殺す!」
 
 思ったより出血が多い。
 
「…ここに来た目的はなんだ?」
 
 短剣を油断なく構え、男は詰問してきた。 
 
「それは…」
 
 すうっ、と大きく息を吸い込む。
 
 尋ねる男に答えるふりをして、シグルトはがなるような大声で仲間に危険を知らせた。
 
「皆、気をつけろ!!!
 
 ここにまだ敵がいるぞ!!!!!」
 
 あまりに大声を出したので思わずむせる。
 
 真っ赤になって怒った男が奇声を上げて斬りかかってきた。
 
 シグルトはここまで降りてきた距離を思い出し、助けは間に合わないと考えた。
 そうなれば一人で勝たなくてはいけない。
 
 生きて帰ると、親父と先輩冒険者たちに約束していた。 
 
「…来いっ!」
 
 怯むことなく、稲妻のような眼光で敵を見据えるシグルト。
 
 鋭い気合に男が困惑した瞬間、シグルトは自分のわき腹を押さえていた手を男の顔めがけて振りかざした。
 手のひらにねっとりと絡まっていた血が、男の両目を直撃する。
 悲鳴を上げる男に、霞む眼を見開いて突っ込み、剣で斬りかかった。
 男と揉み合ううちに、シグルトの意識はぼやけていった…



 リターン版も、圭さんの『第一歩』を最初の御題にさせていただきました。
 長めなので、やっぱり2~3回に分けて書きます。
 
 加筆、というよりほとんど書き直しました。
 今回はシグルトの紹介を兼ねている、そんな感じです。
 
 初心者パーティを対象としたシナリオです。
 
 このシナリオは圭さんらしいシナリオですね。
 この方、好い部分も曲(くせ)も含めてすごく押しの強いシナリオを書く方だと思います。
 
 ある意味ではPCの性格やセリフ、行動が限られてしまうので、あいかわらずY2つ妄想バージョンにセリフや微妙な結果をチェンジしてます。
 実際にはシグルト、情けないセリフと行動ばっかりでしたが、こいつのセリフなら絶対こう…という感じで書いてみました。
 
 『第一歩』はなりたての冒険者が初の依頼に挑むという事から始まるのですが、殺人や冒険者の危険な現状を濃厚に表現しているので、プレイしてて、最初の殺人や味わった恐怖を、こんな風に克服していくんだな…と考えさせられました。
 
 まあ、シグルトの出した答えはおいおい次回以降で。
 
 
 戦闘、再録しました。
 私、戦闘の表現に関してはできるだけ結果を忠実に文章にしています。
 
 今回シグルト、凄かったです、もう強いの何の…
 いきなり普通の攻撃でゴブリンを瀕死にし、眠ったオークには渾身の一撃。
 第2戦でも敵の体力をガスガス削ってました。
 ダメージ総量では間違いなく今回のエースです。
 止めを刺していたのは意外にもスピッキオで、今回のラムーナは控えめでした。
 最後のおいしいところはちゃっかりいただいているのですが。
 
 もう1人、ロマンが大活躍でした。
 スキルがよく回ってきたので、かなり有利に戦えた感じです。
 
 レベッカもばっちり一撃目でフェイントし、2戦目では痩せゴブリンをパニックさせてましたし、会心の出来というところです。
 
 リターン版でも、最初の戦闘は完封勝利(ノーダメージ)でした。

 あいかわらず血生臭い表現してますね。
 表現がグロくて不快に思った方、ごめんなさい。
 

 今回はシグルトの性格や過去、状態描写をごっそり入れ替えました。
 旧版でへろへろだったシグルト、こっちでは別人です。
 まあ、最初から別の意味でヘロヘロではありますが。
 
 シグルトが義足同然の足で走る、というのに違和感を覚えた方もいるのではないかと思いますが、我々の世界でも義足で走る方はいらっしゃいます。
 そういう人には本当に敬意を抱きますし、努力を実らせて障害を克服する姿には感動させられます。
 
 人として悩んでいるシグルトもありですが、こっちのシグルトはそれを乗り越えて、悲しみを胸に燻らせた哀愁漂う形にしました。
 以前の方が好きな方もいるかもしれませんが、こっちのシグルトも好きになっていただければ嬉しいです。
 
 
 今回はこのあたりにして、次回も頑張って編集しますね。
 では。
スポンサーサイト
CW:リプレイR | コメント:0 | トラックバック:0 |

CWPC6:ニルダ

「また勝手なことを…」
 
 ハーフエルフの男、コールディン バラルズの同行という話を聞いて、バッツは渋い顔をさらに引きつらせた。
 
「そう言うな。
 
 船捜しも考えなきゃいけないって話だったし、条件は悪いものじゃない。
 それに、この人は恩人でもあるしな」
 
 オルフがなだめるように言うと、バッツは肩を落とした。
 
「こういうのは今に始まったことじゃないが…
 
 せめて相談してからにしてくれ。
 俺のほうにも都合があるからな」
 
 そしてハーフエルフの男に向き直る。
 
「すみませんね、コ-ルディンさん
 
 貴方の申し出に不満があるからじゃないんですよ。
 ただ、一緒に行動するならそれなりに他の仲間を重んじろってだけでして」
 
 言いつくろうようにバッツが言うと、ハーフエルフは唇の端を軽く吊り上げて、首を横に振った。
 
「私のことはコールで結構。
 
 まあ、貴方の言い分も確かに一理あります。
 しかし、状況からすれば、素直に喜んでいただけてもよかったと思いますよ。
 
 貴方のような職業なら、それぐらいの機微を見せるべきでしょう。
 その言い分からすれば、私もこれから同行する仲間ということになりますから、心得ていただければ幸いです」
 
 ハーフエルフ、コールの言葉に、バッツは一瞬怒りで表情を引きつらせた。
 
 明らかにオルフやエルナに対する態度と違う。
 
(…この野郎、俺が盗賊だからなめてるな。
 
 性格悪そうなやつだ)
 
 何とかこらえて愛想笑いを浮かべるバッツ。
 
(…ふん。
 
 随分と軽薄そうな男ですね。
 こんな人と同行は御免ですが、父を納得させる手前。
 我慢するとしましょうか)
 
 2人は顔でこそ笑っていたが、眼光はぶつかり合っていた。
 世の中には、出会った瞬間から相性の悪い相手がいるものである。
 
 ぴりぴりした雰囲気に耐えられなくなったフィリは、早々に挨拶を済ませて部屋から退散してしまった。
 エルナはぼんやりと窓の外を眺めていて、場の雰囲気に気がついていない。
 
 所在無げにオルフは、大きなため息を吐いた。
 
 
 フィリは今日泊まる宿近くの街道を、のんきに歩いていた。
 要領がよいのがこの娘の特技である。
 
(はぁ~。
 
 あの2人、絶対仲悪くなるよ。
 神経質そうなところとか、自分勝手そうなところとか、そっくりだよね。
 
 近親憎悪ってやつになりそう)
 
 首の後ろで腕を組み、足をぶらぶらさせながら歩く。
 
(それに、2人ともエルナさんに惚れてるの、見え見えだよね。
 
 そういうエルナさんは、戻ってきてからなんだか上の空だし、どうしたのかな?
 …って、決まってるよね、これは。
 
 きっと助けてくれたっていう、噂の美形にほの字なんだ~
 
 くふふ、2人の男の心を掴みながら、その女の心は出合った運命の男に一心に注がれていた…
 ロマンスだね~)
 
 自分がその場にいなかったことを残念に思いつつ、フィリは随分勝手なことを考えていた。
 
 
 エルナはずっとその男のことを考えていた。
 しかし、フィリの言うような恋心にもだえる娘としてではない。
 
(なんて寂しい目をした人。
 あの傷も、きっとあの人が持つ悲しい過去の一つ、なのだわ。
 
 …どこか、お父様に似た人だった。
 
 あんなに調子が悪そうだったのに…1人で大丈夫かしら)
 
 エルナはこういう娘だった。
 昔から弱い者や傷ついた者を放っておけない。
 
 逃げるときにも、本来は殺すべき追っ手を、オルフにしがみついて殺さないように頼んだ。
 
 その優しさが仇にならなければいいと、両親も侍女のマーサも心配していたものだ。
 
 シグルトという青年の腕の傷痕を見たとき、あの青年がいかに壮絶な人生を歩んできたか少しだけ窺い知れた。
 きっと他にも、あのような傷を数多く負っているのだろう。
 
 心の底からエルナは、シグルトを癒してあげたいと願っていた。
 
 
 その頃、件のシグルトはイルファタルを後にしようとしていた。
 
 身体は痺れと苦痛で悲鳴を上げているが、彼は常人が狂気に陥るほどの苦痛を、ただ顔をしかめるだけで耐えていた。
 
 不意に彼の前を一陣の風が駆け抜ける。
 軽く目を閉じ、そして開くと、そこには黒い外套を纏った老婆が立っていた。
 
「…ほほ、これなるは刃金の如き英雄か。
 
 絶望に心を犯されながら、愛する女への未練を捨てきれず、どこを彷徨う?」
 
 謎かけのような言葉に、シグルトは苦笑した。
 
「では、人ならぬ御老体は、俺のような女々しい男に何の用だ?
 
 からかうには、俺は落ちぶれている。
 その価値すら無いだろう」
 
 シグルトが驚きもせずに淡々と述べれば、老婆は肩を震わせて低く笑った。
 
「さすがはオルテンシア…青黒き姫君が末裔よ。
 
 その本質はすでにわしを見抜いておったか。
 玉鋼の女神が惚れ込むのが、よくわかる。
 
 わしの選んだ精霊の担い手と交差する、運命の男よなぁ」
 
 突風が吹き荒れるが、シグルトは動ぜずに、砂埃が目に入らないよう外套で風を遮った。
 
 いつの間にか老婆は消えていた。
 ただ、きらきらと銀色に輝く大きな羽根が一枚、ふわりと落ちてくる。
 
「行くがよい、南の地へ。
 碧い海、清水の姫君が眠る地で、お前は我が風と出会うだろう。
 
 その身に尽くす心があるのならば、お前は死すら乗り越え、神霊の領域に足を踏み入れる。
 
 風は誘い、お前が纏う道標となる。
 この地で出会った獅子は、お前のかけがいの無い友になるだろう。
 
 お前が持つ宿命は、英雄の道と慟哭の離別。
 そしてお前が至るのは、その名が持つべき剣の名を冠する至上の宝。
 
 麗しき刃金よ。
 風のように歩む者となれ。
 
 旅と仲間がお前を立ち向かう運命へと導くだろう」
 
 甲高い鳥の鳴き声。
 稲光が一閃すると、静寂が訪れた。
 
「ほほほ。
 
 風の后(きさき)様に導かれるとは、幸運な若者じゃて」
 
 新しい声にシグルトが振り向くと、小柄な老人が先ほどの銀の羽根を拾い、目を細めていた。
 派手な刺繍の服、額には帯を巻いている。
 首筋には赤と青で不可思議な模様が描かれ、羽根を持つ手の甲には銀色の刺青。
 
「…今日は婆さんによく話しかけられるな。
 
 俺に何か用でもあるのか?」
 
 シグルトが尋ねると、老婆はあいまいに笑った。
 
「何、お主との再開はいずれ訪れよう。
 
 お主が風ならば、わしは嵐を砕く獅子の同胞(はらから)。
 いずれまた、南の地で見(まみ)えよう。
 
 此度はその前触れよ」
 
 老婆は謎めいた微笑を浮かべたまま、手をかざして聞いたことも無い言葉を唱える。
 その手が輝き、冷たい空気があたりに満ちる。
 
 空気を白く染め、日の光に反射して、小さな妖精がふわりと現れると、妖精がシグルトに手をかざした。
 粉雪が舞い、柔らかな光がシグルトに降りかかった。
 一瞬シグルトは、心も身体も凍りついたように動かなくなる。
 
 しかし、嫌な感触は無かった。
 身体の中の不快な何かが、すっと消えていくような心地。
 
「…お主の苦痛と身体の毒を凍結したのじゃ。
 
 この先少しは楽な旅になるじゃろうて。
 礼は、わしの未来の同胞を救ってもらったでな、いらぬよ。
 
 また会おうぞ、勇者殿」
 
 嘘のように消えた身体の不調。
 シグルトが声をかける前に、その不思議な老人は踵を返して去って行った。
 
「…今日は不思議な婆さんによく会うな」
 
 シグルトは苦笑すると、今度こそイルファタルを後にした。
 
 
「うはぁ、まず。
 
 道に迷ったかなぁ…」
 
 フィリは困り果てた顔で路地を歩いていた。
 エルナと噂の美形のことを考えながら、適当に歩いていたせいか、ごちゃごちゃしたイルファタルの路地に迷い込んでしまったのだ。
 
(…うう、帰りが遅くなるとまたバッツに嫌味言われるし。
 
 どこか大きな建物を探さなきゃ)
 
 本来、方向感覚はよいフィリである。
 しかし、イルファタルは森とは違って、実に地形や建物が混沌としている。
 裏通りの小道は、まるで立体的な迷路のようだ。
 
 心境は半泣きで、フィリが周囲をきょろきょろと見回していると…
 
「お嬢ちゃん。
 
 道に迷ったんだね?」
 
 そこにはいつの間にか派手な格好をした老婆が立っていた。
 突然の老婆の出現に、思わずびくりとなる。
 
「あはは、おばあちゃん、誰?」
 
 引きつった笑みで、フィリは恐る恐る聞き返す。
 
「わしか?
 
 わしはニルダという婆ぁじゃ。 
 この街でつまらぬ術を使い、少しばかり人助けをして日銭を稼いでおる。
 
 まあ、人は精霊術師なんぞと呼ぶがの」
 
 フィリはさらに顔を引きつらせる。
 
 この街に最初に来たとき、似たような変な老人がバッツの服装にいちゃもんをつけ、2人して沢山の取り巻きに囲まれてわけの分からない言葉で説教されたのだ。
 この手の人物とは関わらないに限る、とフィリは逃げる算段を考え始めた。
 
「ほほ。
 
 ちょっと前に岩の爺さんに因縁をかけられた2人組みの片割れじゃろう?
 
 わしはあのボケ老人とは違うから、安心するがよい。
 あんな無意義な説教なぞ、わしも苦手じゃよ」
 
 優しい笑みを浮かべて、老婆はフィリの思考を止めた。
 
 フィリは、なぜ自分が考えていたことが分かったのが、青い顔で老婆を見る。
 
「怖がるでない。
 
 長年、人の相談を受けておったから、ただ普通の若造より多少物事の察しがつくだけよ。
 お嬢ちゃんたちのことも、あれだけ長い時間往来で騒いでおれば、見かけることもあるじゃろう?
 
 ただ、それだけのことじゃて…」
 
 ゆっくり頷きながら、諭すように老婆は言葉を紡ぐ。
 その柔らかな声は、聞いていると安心させられる何かがあった。
 
「だいたいの見当はついておるじゃろうが、お前さんのように道に聡い者でも、このイルファタルの裏道は歩きづらいはずじゃ。
 
 迷いを司る森の王に仕える連中もここに住んでおって、この近くで祈りを捧げておる。
 その霊験は、なれぬ者の方向感覚を乱すのじゃよ。
 
 婆が案内してやるほどに、よければついておいで」
 
 フィリは直感でこの老婆を信じることにした。
 不思議な雰囲気を持っているが、悪意は感じない。
 
 老婆は、おそらくその昔は美しい女性だったのだろう。
 皺のある表情すら、まったく醜いと感じさせない
 すっと腰や背筋も真っ直ぐで整っている。
 
 どことなく魅力的な雰囲気を持った人物であった。
 
 老婆がゆっくり歩く後をつけていくと、すれ違う人の何人かがありがたそうに頭を下げて礼をする。
 それに老婆は軽く手をかざして応えていた。
 
「おばあちゃん、人気者なんだね」
 
 フィリが何気なく言うと、老婆はおかしそうに肩を揺らした。
 
「なぁに。
 
 連中はわしに敬意を示しておるのではない。
 ただ、わしの使う術がありがたいだけじゃよ。
 
 …頼るだけの連中も問題じゃて。
 加えて、わしら術師の中にも、自身が特別じゃと勘違いした馬鹿がおる。
 
 世はなるように、神も精霊も泰然と有り、すべてはただの事柄に過ぎぬというのに。
 迫害を忘れた者も、利益に目が眩む者も、何れは苦難に自ら挑まねばならぬのが世の常。
 
 わしの人気など、人の欲の上に生まれた偽りのそれがほとんどじゃなぁ…」
 
 歩きながら、老婆はどこか遠くを見つめるように言葉を紡いだ。
 
 
 老婆の案内で宿に着くと、2階から言い争う声がする。
 
「うわ…案の定、喧嘩してる」
 
 少し品の悪い口調と、甲高いヒステリックな声は、バッツとコールのものだ。
 
 それを止めようと、オルフがなだめる声もする。
 
「…おばあちゃん、案内ありがとね。
 
 少ないけど」
 
 銀貨を数枚差し出すと、老婆はいらないと首を振った。
 
「わしにもちょいと用ができた。
 
 お嬢ちゃんのは、そのおまけにしといてあげるよ」
 
 にんまり笑うと、老婆はさっさと2階に上がっていく。
 フィリは、状況が理解できずに首をかしげて硬直した。
 
 
「…黙って聞いてりゃ、恩着せがましい野郎だなっ!
 
 俺はもともとあんたになんか頼んでない。
 それを、さっきからねちねちと嫌味ばっか言いやがって…
 
 だいたい、お前の船じゃなくてお前の親父の船だろうが。
 
 俺はお前の手下でも召使いでもないんだぞっ!!」
 
 怒りをあらわにするバッツにも言い分がある。
 
 先ほどからコールは、バッツが暴れ馬の騒動のときに現場にいなかったことをなじり、終いにはバッツの盗賊としての勘がないと侮辱したのだ。
 加えてコールは、態度が悪いだの、下品だのと難癖をつけて、バッツを見下げたように扱った。
 
 つい先ほど、皮肉げな嘲笑をあびて、我慢していたバッツはついに激昂して怒鳴り返したのだ。
 
「ふん、貴方を乗せるなど、私のほうも御免こうむりたいですね。
 
 だいたい貴方のような下賎な盗賊まがいの輩は、何をするか分かりません。
 船の乗員名簿からは外しておきますから、お一人でリューンまで行ってください。
 
 荷物の心配をしなくて済む分、水夫たちも安心して仕事が出来るでしょう」
 
 オルフが2人をなだめるが、火に油を注ぐようなものだった。
 あげくは2人からどっちの味方をするか問われ、閉口してこめかみをもんでいる。
 
 エルナは先ほど気分が優れないといって休んでしまった。
 
 2人の抑止力がなくなって、その後は嫌味の言い合いになり、口論にまでなってしまったのである。
 
「…まったく、子供みたいに騒いでいるねぇ、2人とも。
 
 しかも、お仲間を困らすなんて悪い子のすることじゃよ」
 
 突然乱入してきた声に、3人は部屋の入り口に目をやった。
 
 不思議な格好をした老婆が立っている。
 
「…何だ、婆さん?
 
 俺たちの話に首を突っ込むんじゃないっ!」
 
 バッツがそういうと、無関係じゃないんだよ、と老婆はコールの方を向いた。
 コールは硬直して青ざめている。
 
「…コール坊や。
 
 わしはいつも口をすっぱくして言ってきたね?
 大方、お前さんがその盗賊の坊やをけなしてことが起こったんじゃろう。
 
 そういう偏見はやめないと、学の妨げになると教えたはずだよ。
 自由なる賢者を目指す男が、情けないことだねぇ。
 
 バラルズの旦那がお前さんを心配するのは、その危なっかしい性格と身勝手な態度だと、そろそろ気づくべきじゃないのかい?」
 
 老婆の言葉に、コールはすっかり項垂れている。
 
「…話の腰を折ってすまないね。
 
 この坊やの母親とは旧知の仲なのさ。
 そのおしめを交換したこともある関係なのさね。
 
 この子に文字を教えたのもこのわしでねぇ。
 
 でも、言い返していた盗賊の坊やにも、非はあると思うよ。
 本当の大人は、この程度のことには動じないものさね。
 …そこの大きなのが困ってるじゃないか。
 
 馬鹿にされないだけの自制心も必要だよ」
 
 正論を言われて、バッツも黙ってしまった。
 それにこの老婆には、逆らえない不思議な雰囲気がある。
 
「…さて。
 
 コール坊やがお目付け役としてあんたたちを見つけたってのは、察しがついてるよ。
 それにお前さんがたが便乗するのも、いいことじゃろう。
 
 実は、バラルズの旦那が納得するために、わしが一肌脱ぐことになっての。
 コール坊やのお目付け役として、わしもリューンまで同行することに決まったんじゃ。
 
 おまけでさっき、お前さんたちの仲間の迷ってたお嬢ちゃんを拾ってきたけどね。
 
 コール坊やにはこれ以上馬鹿はさせないから、盗賊の坊やは安心して船にお乗り。
 まあ、乗らなくてもいいけど、あと2週間は他の船は出ないよ。
 噂じゃ、一緒のお嬢さんを追ってるらしい、傭兵風の3人組がいるらしいから、ゆっくりしない方が賢明じゃないかね。
 
 コール坊やは、断れないことは分かっているね?
 お前の親父さんに泣きつかれたのを、わしが説得したんじゃ。
 断るならリューン行きは無いよ」
 
 あれだけ騒がしかった2人をぴたりと黙らせて、老婆はオルフの方を向いた。
 
「そういうわけで、よろしくの、大きいの。
 
 もう1人のお嬢さんには後で自己紹介するとしよう」
 
 すっかり老婆のペースとなったが、かろうじてオルフは尋ねた。
 
「…婆さん、いったい何者だ?」
 
 老婆はにんまりと笑って、その部屋の窓を開ける。
 冷たい冬の風が入り込んできて、部屋にいた一同、目が冴える気持ちになった。
 
「わしはニルダ。
 
 このイルファタルの精霊術師で、雪の精霊術を使う者じゃよ。
 足手まといにはならんから、安心おし」
 
 悪戯っぽい表情を浮かべ、その老婆は楽しそうに肩を震わせた。

 
 
 不思議婆さんニルダの登場です。
 
 ニルダは北方の雪の精霊術の大家、獣人の精霊術師リャニエンの孫弟子にあたります。(旧リプレイや、Martさんからお預かりして公開している“風を駆る者たち”リプレイにちょっとだけ名前が登場します)
 彼女の師匠はエルフの精霊術師で、コールの母親の姉になります。
 ニルダは【氷結の癒手】と【落雹の撒手】という2つの精霊術を使えますが、これはいずれ『風屋』で販売します。
 どちらもレベル1としては実に優秀なスキルです。(バランスは一応チェックしてあります)
 効果はいずれ、紹介していこうと思います。
 
 予知をすることがあり、すべてを見通したような不思議な雰囲気を持っています。
 洞察力と分析力にも優れ、なにより落ち着いて泰然としたお婆ちゃんです。
 
 実は老婆でありながら【秀麗】持ち。
 昔はかなりの美人だったと推察され、現在でもその美貌の名残があります。
 
 コールはニルダにはまったく頭があがりません。
 叱られると条件反射で謝ってしまいます。
 もっとも、ニルダは無茶や誤ったことを言うタイプではありませんが。
 
 年の功と言葉の説得力、そしてその神秘性が特徴です。
 
 イルファタルに住む精霊術師であり、かつては優れた巫女でしたが、どういうわけか結婚もせずに1人で暮らし始め、老いる今まで動こうとしませんでした。
 
 なぞめいた行動と、精霊術に関する大きな知識。
 不思議婆さんというのが一番しっくりきます。
 
 ニルダは手に銀色の刺青をしていますが、これは精霊術師の刻印です。
 Martさんの『風繰り嶺』でつけられますが、マイナス称号です。
 
 彼女の真意はまだ不明です。
 なぜコールのお目付け役を買って出たのか…彼の母親と知り合いという理由だけではありません。
 
 私のリプレイで、私が性格づけした始めての精霊術師です。
 実は今回のPCたちの中でも特にお気に入り。
 爺婆、使ってるとたまにセリフ対応シナリオがあって、楽しいです。
 
  
◇ニルダ
 女性 老人 知将型

秀麗     田舎育ち   貧乏
厚き信仰   誠実     冷静沈着
献身的    無頓着    陽気
派手     謙虚     繊細
 
 
器用度:6 敏捷度:3 知力:9
筋力:3 生命力:3 精神力:11
 
社交性+1 慎重性+2
 
 彼女が【厚き信仰】なのは巫女だったからで、精霊を崇敬しているからです。
 陽気で外見も派手ですが、内面は冷静で穏やかです。
 神経質ではありませんが、繊細な視野をもっており、状況を素直に理解するあたり、年の功です。
 
 精神力がとても高く、頭も回るので、コールより参謀向きかもしれません。
 加えて人徳やカリスマもありますし。
 
 ちょっと変わってますが、こういうキャラクターも面白いと思います。
CW:リプレイ2 | コメント:7 | トラックバック:0 |

CW風 英雄紹介 3回〈クー・フーリン〉

 第3回の英雄は、ケルトの英雄クー・フーリンです。
 
 槍を使う英雄といえば、十中八九筆頭に上がるほど有名な戦士で、多くの神話の英雄の例に漏れず、神様の血を引く半神の英雄です。
 
 光の神ルーとコノア王の妹デヒテラの間に生まれたクー・フーリンは、幼名をセタンタと言いました。
 
 あるときコノア王が鍛冶屋のクランの館に招かれたとき、セタンタも声をかけられるのですが、セタンタはハーリングというスポーツに興じる最中で、終わってから行くと答えました。
 しかしそれを王が伝え忘れてしまったので、館にはクランの番犬が放たれ、そうとは知らずに1人でやってきたセタンタは、この番犬に襲われます。
 しかしセタンタはその怪力で番犬を絞め殺してしまいました。
 自慢の猛犬を失い嘆くクランに、セタンタは自分がこの犬の仔を育て、さらにはそれが成就するまでクランの家を守ることを申し出ました。
 このことから、セタンタはクランの猛犬…クー・フーリンと呼ばれるようになりました。
 
 クー・フーリンはドルイドのカスバドに、騎士となればエリンに名を残す英雄になるが、その生涯は短いものになると予言されました。
 それでも騎士になる道を選び、王に実力を示してついには騎士になります。
 
 クー・フーリンは、影の国の女王スカアハの元を訪れ修行し、その名とともに語られる必中の魔槍ゲイボルクを授かります。
 
 一本気で、誠実ではあるものの、惚れた女性の父親が求婚をしぶったらそいつを殺して娘をぶんどるような豪快と言うか粗野な男でした。
 
 戦いともなれば凶悪な顔になって敵をばったばったと倒したクー・フーリン。
 ケルトの戦士は制約を守り、魔力を得ることで人外な力を得るとされるのですが、ゲッシュ(禁忌)とよばれる約束事を破ると、逆に命にかかわるペナルティを負います。
 クー・フーリンはこのゲッシュを敵の策略で破るように仕向けられ、最後はゲイボルクを奪われて刺し貫かれますが、そのときこぼれた内臓を拾って洗い、自分に詰め込んで、石柱に体を縛りつけ、倒れることなく息絶えたといいます。
 
 なんと言うか豪快な英雄の代表といえばクー・フーリンかもしれません。
 良くも悪くも真っ直ぐで、太く短く生きた勇者と言えるでしょう。
 
 
◇クー・フーリン
 レベル11 英雄型 大人
 
器用度:8 敏捷度:9 知力:4
筋力:10 生命力:7 精神力:6
 
好戦性+3 社交性+1 勇猛性+4 大胆性+3 正直性+3
 
装備
・魔槍ゲイボルク
・名馬マハとセングレンの引く戦車
 
特殊能力
・凶暴化:顎が頭ほどの大きさになり、逆立つ髪から血が滴るほど恐ろしい姿に変身。行動力他、能力アップと敵を恐怖に陥れる。
・制約:破るとその力を奪われるが、守る限りは戦士として大きな能力を得られる。
・毒に強い:付帯能力。薬を盛られても、早くそれを無効化する。
 
 
 いやぁ、強いですねやっぱり。
 神仙型でも通じそうですが、性格が極端ということで英雄型に。
 ちなみに変身する前はとってもハンサムだったそうです。
 
 筋力が10なのは、他の能力とのバランスですね。
 オーガー並ですし、変身すればさらにパワーアップしますし。
 
 彼に関しては、極端で馬鹿正直、といえるでしょう。
 死を恐れず、自分の道を貫く姿勢はまさに一本の槍ですね。
 
 だから我々も彼の英雄譚に心を串刺しにされるのかもしれません。
CW風 英雄紹介 | コメント:8 | トラックバック:0 |

CWPC5:コール

 オルフ一行が、そろってラダニール地方を抜けて西のイルファタルを目指すことを決めてから、2週間が過ぎようとしていた。
 川沿いに森と山野を駆け抜ける、過酷な逃亡の旅は終わりを迎えようとしている。
 
「…あと1日も行けばイルファタルの国境だ。
 
 随分な強行軍だったが、なんとかなったな」
 
 額の汗を纏った襤褸で拭い、水袋から水を一口飲む。
 
「…はは、寒さなんてものは嫌なだけなものだと思ってたけど、水がぬるくならないのはいいよね」
 
 フィリが泥と煤で汚れた顔を拭いながら、同じように水を飲んでいる。
 
「エルネード様が山道に文句を言わなかったのはありがたかったな。
 
 これだけ無茶をしたというのに…たいした方だ」
 
 バッツが周囲を警戒しながら、呟く。
 
「ああ。
 
 だがかなり無茶をさせた。
 これ以上急ぐと、俺やフィリも持たない。
 
 しばらくここで休憩しよう」
 
 そう言ってオルフは、毛布に包まって寝息を立てているエルナを眺めた。
 
 エルナは気丈な娘であった。
 オルフでもきついと感じる速度に、歯を食いしばって付いて来たのだ。
 仲間たちも彼女の意志の強さを心から賞賛していた。
 
 このつらい現状もまもなく終わる。
 イルファタルは独立都市国家であり、軍装の兵士が入ることはできない。
 その手の軍隊をひどく嫌う国柄なのだ。
 戦争より商売と交易を重んじる海の都である。
 
「イルファタルかぁ。
 
 あそこなら、おいしい肉料理を食べられるね。
 もとは北方人の海賊たちが先祖の国だけど、気候も穏やかだし、異民族や亜人にも寛容なんだよ。
 エルフやドワーフがあんなに見られる国って少ないんだよね」
 
 イルファタルは近くにウッドエルフの集落があり、衣料品や金属と森の幸の取引をしている。
 エルフ制の弓や薬は良質で、貴重だった。
 
 加えて山岳部にはドワーフたちが住み着いている。
 彼らは優れた鉱山夫であり、良質の銀や鉄をイルファタルにもたらしていた。
 
 ラダニールやリューン近郊で強い影響がある聖北教会ではなく、イルファタルにある教会は聖海教会である。
 主に、西方南海で盛んに信仰される聖海教会だが、異国の神を聖人として取り入れるなどの柔軟性はイルファタルの気質にあっていた。
 加えてこの国では、癒しの秘蹟を多く残した聖海教会の聖女オルデンヌ縁の地だ。
 オルデンヌは、聖海で列聖された聖女であり、異教徒や異端的とされる精霊術師たち、さらには亜人との交流もあったとされる人物である。
 
 聖女の意思を引き継ぐ、というスタイルなのか、このイルファタルは異邦人や異種族にとりわけおおらかな国であった。
 独特の文化があり、旅人用の無料診療所や格安の宿、さらには異種族の職業斡旋を助ける組合などがある。
 加えて、他の地では聖北教会の影響で勢力の弱い精霊術師たちにも寛容で、彼らの聖地でもあった。
 
 イルファタルの秘境にはアヴァロニアと呼ばれる場所があり、樹海の中に大きな淡水湖がある。
 海の向こう、獅子の王が最後にいたった妖精郷に因んでいるとされ、多くの亜人や妖精が生息していた。
 そこでは、上位精霊“湖の貴婦人”モリガンと契約した大精霊術師であるアリエスがおり、水の精霊術師たちにとっては一大聖地である。
 アリエスは来る者を拒まず、出会えればその精霊術を授けてくれるという。
 
「争いなき、自由の国か。
 
 早く見てみたいものだな」
 
 オルフは空を仰ぎ、夢の都と聞いているイルファタルを思った。
 
「…ま、そんなにいい国でもないさ。
 
 あんまり期待すると肩透かしを食らうぞ。
 あの国でも、今じゃ人口が増えすぎて、人間と亜人の諍いがよく起きるし、精霊術師同士の主義の違いから小規模の小競り合いが起きることもある。
 
 イルファタルじゃ、シャーマン、つまり精霊術師は一種の特権階級さ。
 坊さんと同じように権力に固執する奴や、細かい儀式や主義を周囲に強制してあおる馬鹿もいる。
 さらには、魔法使いや呪術師がそれにからむからな。
 
 迷信深い国ってのも、考え物だよ」
 
 バッツは肩をすくめる。
 
「初めてあの国に入ったときは、俺が額に巻いてる布が悪い色だって、変な爺さんと取り巻きにつかまって訛りの強い言葉で1刻も説教聞かされたしな。
 あれにはまいったよ」
 
 額のバンダナをなでながら、バッツがぼやくと、フィリが二へへと笑う。
 
「結局、あのときは途中で逃げちゃったんだよね。
 
 また捕まらないように、気をつけなきゃ」
 
 にぎやかに話しながら、一行は和やかに休息した。
 
 
 さらに一週間後、一行は無事イルファタルの国境を越えることができ、国内をさらに西に進んでいた。
 
 この国の国土は狭い。
 しかし、様々な亜人や妖精の住む森や平原に面し、そういった独立した場所との同盟関係を勢力図にすれば、ちょっとした大国を凌ぐ広さになる。
 豊かな緑と、北方特有の寒冷な気候。
 聖北教会ではなく、聖海教会が強い勢力を持ち、様々な宗教や種族、文化の坩堝である。
 
 この国ではとりわけ魔術師や精霊術師が多い。
 妖精や亜人と共に精霊術を学び、自然と生きる者たちや、自由な国風に学問の自由を求めて集結した隠者たち。
 
 混沌としているが、束縛の無い場所である。
 
 だが、そういった文化圏ではならず者も多い。
 海賊まがいの蛮行で生計を立てる荒くれ者や、南で犯罪を犯し逃亡してきた者、外道の魔術に手を出して国を追放された呪術師。
 そういったものたちも流れてくる場所だった。
 
 北方の重要な港を持ち、自由な文化であるがゆえの弊害である。
 
 一行は、様々な文化の入り乱れる賑やかさに目移りしながら、今日の宿を探していた。
 
「…聞きしに勝る盛況ぶりだな。
 
 こんな賑やかな街は初めてだ」
 
 感心したようにオルフが呟く。
 
「田舎者丸出しだぞ。
 
 リューンにいけばもっと賑やかな場所もある。
 ま、ここほどごちゃごちゃした街じゃないがな」
 
 いつの間にか手に数本の肉串を持ち、仲間に配りながら、バッツが要所を説明してくれる。
 
「あそこが賢者の学院。
 
 西方のカルバチアよりは小さいが、集まってる人材は一級だって話だ。
 噂じゃ、空から星を降らす術を収めた大魔術師がいるって話だがな。
 
 で、あれが精霊宮だ。
 この街の精霊宮はリューンより大きい。
 ま、精霊術師やエルフがたくさんいるから、当たり前なんだろうが。
 
 あっちがこの国で最大の聖海教会の聖堂だ。
 聖オルデンヌ教会って言うんだ。
 
 昔話があってな…
 ずっと昔にオルデンヌっていうすごい聖女様がいて、たくさんの人を救ったが、聖女様は若くして亡くなってしまうんだ。
 残った僧侶たちは聖女様から奇跡を戴こうと、その御遺体をめぐって言い争うんだが、突然大風と共に現れた妖術師が聖女様の御遺体を盗んでしまったんだ。
 困り果てた僧侶たちは、聖女様が纏っていた僧服を棺におさめて、このことを嘆いたんだが…
 その棺の下から突然水が湧き出し、その水は人の難病を癒したんだそうだ。
 後の人々は、聖女様の魂はここにとどまって人を守ってるんだと感動し、ここにあんな大聖堂を建てたってわけだ。
 
 残念ながら、その湧き出した泉は聖域で入れないし、泉の水は万能の薬とかで教会が高い寄付金と交換に売ってくれるらしいけどな。
 
 なんでも聖女オルデンヌは聖海教会で、異教や精霊信仰とともに歩んでいくことを主張する穏健派では有名な聖人らしくてな。
 女だから、教会の派閥によっては列聖をどうするか諸説あるんだが、人気のある偉人らしいよ」
 
 オルフが感心して頷く。
 
「ふふん、知ってるんだよ~。
 
 バッツ、エルナさんにいいとこ見せようとして、徹夜で覚えたんだよね、それ」
 
 青筋を立てて怒るバッツから逃れ、フィリが舌をだしてからかう。
 
「ふふ、それでもこれだけのことを一晩で調べるなんてすごいわ。
 
 聖女オルデンヌ。
 教派は違うけど、その行いの素晴らしさは聞いたことがある。
 
 聖北教会にも、彼女のような人物がいたら、歴史も変わっていたでしょうね」
 
 眩しそうに大きな聖堂を見上げながら、エルナは遠い目をした。
 
 
 しばらく行くと噴水に行き当たり、そこで一行は一休みすることにした。
 バッツとフィリは宿を探すといって、オルフとエルナをここに待たせている。
 
 噴水の縁には2人の先客が座っていた。
 
 1人は杖を持ち、複雑な刺繍の長衣を纏っている。
 淡いブロンドの髪と、尖った小さな耳。
 
(ありゃ、ハーフエルフってやつか?
 はじめて見たぞ…)
 
 その男は長衣から小さな本を取り出し、一心不乱に読んでいる。
 
 ハーフエルフとは亜人とも妖精とも言われるエルフという種族と人間の間に生まれる混血種である。
 エルフほど長命ではなく、人間ほどがっしりした体格ではない。
 二つの種族の特徴を中途半端に持っている。
 場合によっては鬼子として迫害されるが、このイルファタルでは普通に過ごしているのだろう。
 
 興味深げに観察していると、その男が不意に顔を上げて迷惑そうにオルフを睨んだ。
 神経質そうな顔立ちである。
 
 オルフはばつの悪そうな顔でごまかし笑いをすると、もう1人の男を観察することにした。
 見るとエルナは、じっともう1人の男の方を見つめている。
 
 興味をそそられ、オルフがその男に視線を移す。
 
(…こりゃまた。
 
 なんかやつれちゃいるが、すごい美男子だな)
 
 まるで噴水と一つになったように、泰然としているその男は、目の覚めるような美青年だった。
 
 無頓着な髪型だが、白い肌にはえる青黒い髪。
 髪と同じ神秘的な深い色の瞳。
 すっと整った鼻梁、凛々しい口元の造形は端整で、女性もたじろくような美貌である。
 背が高く股下の足も長い。
 引き締まった筋肉と広い肩幅は美しさとは別に、この男をより男性らしく見せていた。
 
(ま、エルナも女の子ってことだな。
 
 あれだけ美形なら、若い娘は騒ぎ出すだろう)
 
 ほほえましい心持でエルナを見る。
 だが、エルナは見惚れてぼんやりしている様子はなく、どこか心配そうに男を眺めていた。
 
「…どうかしたのかエルナ?
 
 あの男にあやしい点でも…」
 
 オルフが小声で聞くと、エルナは首を横に振った。
 
「あの男の人、苦しそうだわ。
 
 額に脂汗をかいているし、マントで隠しているけど胸を押さえているの。
 顔も少し蒼白だし、どこか具合が悪いのかしら?」
 
 オルフはエルナの慈愛深さを見くびっていたことに反省し、あらためて男を見た。
 最初から美しさと一緒にやつれた印象のある青年だった。
 
 よく見れば男はただでさえ白い肌から、さらに血の気を失っている。
 唇は艶を失い、肩が小刻みに震えていた。
 よほどの苦痛を耐えているのか、噛み締めた唇から血がにじんでいる。
 
「ありゃ、そうとう悪そうだな。
 
 声をかけてみるか?」
 
 エルナが頷いて立ち上がる。
 彼女が青年に近づき、声をかけようとした、まさにその時…
 
「あ、暴れ馬だぁ~!!!」
 
 周囲がにわかに騒がしくなり、オルフとエルナは思わず騒ぎの起こっているほうに注目した。
 
 一頭の黒い馬が、よだれを垂らしながら全速力で走ってくる。
 周囲のものをことごとく踏み砕く、ものすごい勢いだ。
 その先は丁度、エルナがいる場所である。
 
(まずいっ!)
 
 あっけに取られた数秒、動き出す反応が遅れてしまった。
 エルナがはっとしたとき、すでに暴れ馬は彼女の間近に迫っていた。
 
(くそっ、間に合わねぇ!!!)
 
 必死で駆け寄ろうとするが、すでに遅かった。
 暴れ馬は前半身を振り上げ、邪魔なエルナを蹴り倒そうとした。
 
 反射的に目を閉じるエルナ。
 誰が見ても手遅れだった。
 
 馬の蹄が振り下ろされ、もうもうと土埃が舞う。
 
「《眠りをもたらす白雲よ、抱いて沈めまどろみの底に…眠れっ!!!》 」
 
 少し高い男の声。
 土煙の中から現れた黒馬は、よたよたと数歩進んで崩れるように倒れた。
 
「エルナァッッッ!!!」
 
 絶望的だと知りつつ、オルフは纏った襤褸で土煙を払いながらエルナのいた場所に駆け寄った。
 周囲の者たちも騒ぎを聞きつけて走ってくる。
 
 数人が馬を取り押さえ、他の者たちがオルフに続いた。
 
 
 エルナは目を閉じた瞬間、大きな何かに包まれたような気がした。
 
 いつまでたっても襲ってこない痛み。
 とても力強い、暖かな感触。
 土の匂いの混ざった、どこか安心できる薫り。
 
(お父様…)
 
 小さな頃によく抱き上げてくれた、大きな腕。
 父の抱擁を受けているような安堵感。
 
 エルナはその安らぎの元を知ろうとして、目を開けた。
 
 彼女はしっかりと抱きかかえられていた。
 決して不快ではない汗のにおいと、顔の触れている皮の外套の感触。
 
 彼女が顔を上げると、先ほど苦しそうにしていたあの青年が、心配そうにエルナを見下ろしていた。
 
 ポタリ…
 粘ついた赤いものがエルナの頬を濡らした。
 
 青年の額が浅く裂け、血が頬を伝わりエルナに降りかかったのだ。
 
「…すまない。
 
 顔を汚してしまった」
 
 青年は苦笑いすると、そっとエルナを立たせてくれる。
 そして、いささか乱暴に自身の額の傷を手ぬぐいで拭くと、さっとそれを巻き、服のすそでエルナの頬に付いた血を拭いてくれた。
 
「…あっ」
 
 エルナが何か言おうとする前に、青年はそれを制するように言葉を発した。
 
「ああいう時、目を閉じてはいけない。
 
 賑やかなところほど、馬による事故は多いからな。
 女でも子供でも、巻き込まれることだから、気をつけたほうがいい」
 
 青黒い瞳の青年は、優しげに微笑むと踵をかえした。
 
「待ってくれっ!」
 
 そこに、事情を察したオルフが駆け寄ってくる。
 そのときには、土埃はたいがい晴れていた。
 
「すまねぇ。
 
 連れが助けられたな。
 恩に着る。
 
 …怪我したのか?」
 
 オルフは簡素だが心から礼を言い、あらためて青年が血の滲んだ手拭を額に巻いていることに気がついた。
 
「大した傷じゃない。
 
 それより、その女性に怪我が無いか確認したほうがいい。
 どこか打ち身でもあれば、後で腫れる。
 
 それに、礼をいうのは俺だけでは不足だ。
 後ろの御仁が魔術を使ってくれなかったら、もっと惨事になっていたかもしれんからな」
 
 そう言って、青年は、先ほど【眠りの雲】の魔術を用いて暴れ馬を眠らせた、ハーフエルフの男に軽く会釈をした。
 
「…大事にならなくてよかったです。
 
 そちらの女性は大丈夫ですか?」
 
 紳士的で上品な口調だった。
 少し顔が上気しているのは、エルナの美しさを目の当たりにしたからだろうか。
 
「はい、私は平気です。
 
 助けてくださってありがとうございます」
 
 エルナが頭を下げると、ハーフエルフの男は、白い顔を真っ赤にしてしどろもどろに、当然のことをしたまでです、と答えていた。
 
「ありがとうよ。
 
 正直、あの馬が前足を振り上げたときはだめかと思ったぜ」
 
 オルフも頭を下げて礼を言う。
 
「いや、無事で何よりです。
 
 それより、そこの方は怪我をされたようですが…」
 
 ハーフエルフの男は照れ隠しか、話題を青年の方に振った。
 
 先ほどの傷は塞がっていないらしく、手拭いに滲んだ血の染みが広がっている。
 
 青年がまた大丈夫だと言おうとした時、エルナが側により、聖句を唱えて手を青年の傷痕にかざした。
 痛みが引いたことに少し驚いた青年は、手拭いを取る。
 額の裂傷は綺麗に消えていた。
 
 さらにエルナは聖句を唱え、そっと青年の胸に触れる。
 少し青ざめていた青年の顔に、血色が戻ってきた。
 
「…ありがとう。
 随分楽になった」
 
 今度は青年が礼を言った。
 
「あんた、さっきから調子が悪そうだったが、病気か?」
 
 オルフが尋ねると、青年は苦笑して首を横に振った。
 
「己がいたらなかった代償だ。
 
 寒さがどうもいけないな。
 いつもは休んでいればおさまるんだが」
 
 そのとき、はらりと青年の腕から何かが落ちた。
 黄ばんだ木綿の布だ。
 両腕にそれを巻いていたのだが、片方がさっきの衝撃で切れてしまったのだろう。
 
 そして覗いた青年の地肌。
 
 エルナは衝撃を受けて両手を握り締めた。
 
(…こりゃ、ひでぇ)
 
 オルフも思わず顔をしかめた。
 
 うじゃじゃけた傷痕。
 肉の盛り上がって治りかけてはいるが、一生その傷痕は消えないだろう。
 ケロイド状に腕を抉っているその傷は、縄のようなものが肌に食い込んで化膿した痕だ。
 
「すまない。
 
 見苦しいものを見せてしまった」
 
 また苦笑して、傷痕を隠す。
 青年はあらためて自身の不調まで治してくれたことに感謝の意を示し、エルナに礼を言うと立ち去ろうとした。
 
「待ってくれ。
 
 俺はオルフ、ラインドの子、オルフだ。
 名を尋ねてもかまわないか?」
 
 オルフが呼び止めると、青年は振り返って、少し考えるように天を仰いだ。
 そして、まっすぐにオルフを見据える。
 
「シグルト。
 
 俺には分不相応だが、親から貰った名前だ」
 
 男は伝説の龍殺しと同じ名を名乗り、一礼して去って行った。
 
「…絵になる方ですね。
 
 ああいうのを勇者と言うのでしょうか」
 
 ハーフエルフの男がため息混じりに呟いた。
 
「…あんたにも名を尋ねていいかな?
 
 もう一度名乗れといえば、あらためて名乗るが?」
 
 オルフがそういうと、男は名乗りは不要だと首を振った。
 
「私はコールディン バラルズ。
 
 このイルファタルで商人をしている者の息子です。
 もっとも、私は商人の道ではなく、知識を求める賢者を志していますが。
 
 見ての通り、エルフの血を引いています。
 
 どうやら先ほどの不躾な視線は、差別の目ではなかったようだ。
 貴方の礼節に免じて、あの無礼は許しましょう」
 
 やや高慢な態度であるが、上品な男であった。
 
「すまねぇ。
 
 何分田舎者だから、エルフやハーフエルフを見るのは初めてだったんだ。
 俺は東のラダニール出身なんだが、あそこは妖精とか魔法とかは珍しいんだよ。
 
 俺に字を教えてくれた人が、エルフもハーフエルフも魔術師もおんなじ地上に生を受けた命だから、偏見を持つなって教えられてたが、物珍しいって気持ちはどうにもならなくてな。
 
 気分を悪くしたなら謝るよ」
 
 オルフのような大男が、頭をかきながら謝ると実に滑稽だった。
 男は愉快そうに微笑むと、許します、と頷いた。
 
「ところで、あなた方はなぜこんなところに?
 
 随分前からこの噴水にいたようですが…」
 
 男の問いに、オルフは宿を探しにいった仲間を待っていると答えた。
 そして、東からわけあって流れてきたことと、南のリューンを目指していることを告げる。
 
 男は興味深そうに聞いていた。
 
「なるほど。
 
 そうなると、船を探さねばならないでしょう。
 私の父の商会はリューンとの交易に関わっています。
 もしよかったら、私が間に立って差し上げましょう。
 
 知り合った以上、最後まで義理を尽くすことが私の母から受けた教えなのです。
 御婦人には親切にすることも。
 遠慮は要りませんよ」
 
 渡りに船の話に、オルフは感激して何度も礼を言った。
 エルナも感謝の言葉を述べる。
 
「待ってください。
 
 その代わりといってはなんですが、私も貴方たちにお願いしたいことがあるのです」
 
 交換条件を提示されて、オルフとエルナは顔を見合わせた。
 
「何、難しいことではありません。
 
 私もリューンに行きたいのです。
 あの都市はこのイルファタル以上に大きく、大きな図書館もあるとか。
 何かの機会に、リューンに行けるように父に頼んでいたのですが、一人ではだめだと頑固でしてね。
 
 同行者として船に乗っていただく…それが条件です。
 貴方のような立派な体格の男性が一緒なら、父も納得するでしょう。
 
 私も成人して随分立つのですが、父の過保護ぶりにはいささか閉口しているのです。
 私は新しい知識を求め、新しい世界に旅立ちたいと日々願っているのですが」
 
 そう言って男は空を見上げた。
 
「私のことはコールと呼んでください。
 
 よろしくお願いします」
 
 再び視線を2人に戻し、男は自身の尖った耳の先を軽く撫でた。

 
 
 少し長くなってしまった、コールの登場の話です。
 ハーフエルフの魔術師という、ファンタジーではありふれた存在ですが、大体が迫害+暗い過去というパターンになるので、違う場所で違う扱いの登場をさせました。
 
 舞台となってるイルファタルは北方の海沿いにある寒い港という設定です。
 妖精たちの集落が近く、精霊術師の地位が高くて、異種族に対する偏見が少ない場所。
 混沌としている文化の坩堝で、独特な雰囲気の街です。
 
 コールはそんな国の一商人がエルフの娘に惚れて、必死にアプローチして結婚し生まれました。
 父親は、それはもう目に入れても痛くないぐらい息子を可愛がり、年代が大人になった今も過保護に口を出す、という、ハーフエルフには普通ありえない幸せな家庭の出身です。
 
 それゆえか高慢で我侭で、利己的な性格になってしまいました。
 他人との馴れ合いは嫌いですが、フェミニストで、困った女性を放っておけません。
 
 かなり狡猾で、上品な紳士の顔の裏で、人を出し抜く商人の狡猾さを秘めています。
 本質はものすごい行動的で感情的。
 イルファタル人らしく、自由を愛し、束縛を嫌います。
 
 その過激ぶりは、だんだん明らかになっていきます。
 反面シャイなところもあって、人に接するときは頭であれこれ考えています。
 
 一言で言うと複雑な性格です。
 冷静ぶった上品で過激な控えめにもなれる策士。
 
 その性格破綻振りは後々明らかになるでしょう。
 仲間たちも、彼の性格の起伏の激しさに翻弄されると思います。
 
 ただ、頭はとても切れます。
 

◇コールディン バラルズ(コール)
 男性 大人 策士型

秀麗     裕福     不実
猪突猛進   利己的    混沌派
神経質    無頓着    過激
悲観的    勤勉     内気
地味     高慢     上品
繊細     ひねくれ者  名誉こそ命
 
 
器用度:4 敏捷度:7 知力:11
筋力:3 生命力:3 精神力:4
 
好戦性+1 内向性+1 臆病性+2 慎重性+1 狡猾性+1
 
 読めない性格にしようとしてたらすごいことに。
 彼がヒステリックに突然切れるシーンも、時折出てくると思います。
 
 
 今回、リューンに来る前のシグルトが登場してました。
 この頃は、まだ治りかけで、体の不調が酷かった頃です。
 時節は冬、つまりシグルトが宿に来るのは夏ですから、かなり前になるわけですね。
 このイルファタルから船でリューンまで何日もかかるのです。
 
 オルフやエルナと運命的な出会いを果たすわけですが、彼らのかかわりもリターンリプレイでは表現していくつもりです。
CW:リプレイ2 | コメント:8 | トラックバック:0 |

CWPC5:スピッキオ

 宿にシグルト、レベッカ、ロマン、ラムーナが集結した次の日…

 シグルトたち4人は、リューンのはずれにある教会に向かっていた。
 先導するのはラムーナである。
 
 4人は出会いの後、それぞれの実力を確認し、とりあえずは冒険者としてパーティを組むことに決めていた。
 
 パーティとは、冒険者が組む一組の集団をさす呼称である。
 
 一人の人間が行える行動など限られている。
 習得できる能力や技能も、それぞれ違う。
 そこで、違う技術を持った者が集まり、補い合うようになった。
 そこで生まれる冒険者のグループがパーティなのである。
 
 シグルトたちの宿では、パーティに対し、1人で冒険するものをシングル、2人ではコンビ、3人ではトリオ、4人ではカルテットと呼んでいた。
 4人組でも、戦士、盗賊、魔術師、僧侶の組み合わせなら特別バランスがよいので、ゴールデンカルテットという名を冠する。
 
 パーティの編成は最大で6人とされる。
 軍隊の分隊規模であるのと(リーダー1人に他5人)、半ダースの人数ということで切がよいからだ。
 それに、宿の大部屋というのは6人部屋が多く、幌馬車の大きなものも定員的に丁度よい。
 ごく普通の酒場のカウンターやテーブルに腰掛けるにも、手頃な人数であり、いつのまにか6人までということが決まっていた。
 
 中には、宿に何人もの仲間がいて、仕事で要求される内容に応じてパーティを組みなおす人材派遣会社のような冒険者の宿もあるという。
 
 冒険者のパーティは家族のようなものである。
 同じ釜の飯を食い、仕事の間はいつも組んで側にいる。
 当然、お花摘み(外での用足しのこと)や水浴びといった行動も側で行うことになるし、戦いともなれば仲間の背を守り協力して切り抜ける。
 命を預けるぐらいの信頼関係が必要となるのだ。
 
 だが実際はなにもかも上手くいくパーティというもののほうが少ない。
 冒険者になるものは、それぞれが出生やら過去やらのしがらみを持っていたりするし、異性が混在する場合は衛生や生理的な問題で男女の行動が食い違うことなど当たり前である。
 年の近い男女間では恋愛関係が生まれて、それがパーティの歪になることもある。
 三角関係が出来たりすれば泥沼であった。
 
 また、集まった者が異邦人同士なら、文化や宗教の違いで諍いが起きることもある。
 
 特に、食事における味付けの好みは喧嘩の理由になることが多い。
 旅を続けることが多い冒険者は、日に数度の食事ぐらいしか楽しみが無い場合もある。
 こういったことは、一見些細に見えるが、当事者たちにとっては重要なことなのだ。
 
 最初にパーティを組む場合、多くの場合は上手くいかずに解散することもある。
 そのような経験から、嫌気がさして冒険者を辞めてしまう者もいるし、解散後に気のあった仲間同士で組むものもいる。
 
 新人同士では、先輩や年長者の勧めで、仲間の結成で手痛い失敗をしないように、お試しでパーティを組むことがあった。
  
 シグルトたちは、冒険者として初心者がほとんどであった。
 そこで、宿の親父とレベッカの提案により、仮にパーティを組むことにしたのである。
 軽い仕事をこなし、互いの相性を確認して、足りない部分を知ることも大切だと、宿の親父は語った。
 
 
 一行がそれぞれの紹介を終えパーティを組むことを確認すると、宿の親父はまず、当面問題になりそうなことから片付けておけと、一行にある提案をした。
 それはラムーナの身柄のことである。
 
 リューンは表立って奴隷の取引はしない。
 人身売買は西方各国の貿易の要所であるリューンでは、難しくてできないのだ。
 理由は宗教やさまざまな国家が関わっているからである。
 
 だが公に人身売買を認めている都市や国も存在する。
 もし旅の最中にそれらの都市や国に逗留していたとき、ラムーナに関わる奴隷商人に遭遇して、奴隷商人がその国の法律を使ってラムーナの身柄を要求した場合、非常に厄介なことになることを親父は危惧していたのだ。
 
「組合やわしのコネで身元を保証してやればある程度は何とかなるが…
 
 もともとリューン出身のレベッカやロマンはいい。
 シグルトも出入国のきちんとした手形を持っていたから、それを身分証がわりに冒険者としてリューンに滞在することは難しくない。
 
 だが、今のラムーナは不法入国者に近い扱いだ。
 このままだと厄介ごとがおこるかもしれん。
 
 ここにいる限りはそれほど問題は起こらないが、外出できない冒険者じゃ、お飯(まんま)の食い上げだ。
 具体的には、外国に仕事で出かけたときに困ったことになるってことだ。
 
 旅先で事件に巻き込まれて身元云々の話になれば、国に強制送還とかになってしまう場合もある。
 リューンから退去ってくらいは、役人は厄介払いのために平気でやるだろうしな。
 だが、この辺で冒険者やるのに、リューンを出入り禁止にされるのはかなりまずい。
 
 だから、宿に冒険者の登録しているという保障以外で何か手を打っておいたほうが、後々困ることがないだろう。
 わしが関わるのは奥の手に取っといたほうがいいしな。
 
 まあ、保険という奴だ」
 
 そこで親父が教えてくれた方法は、リューンに保護者を作って戸籍を取得し、その上で冒険者として登録する、というものだった。
 
 建て前の上でリューンには市民を保護する必要がでてくるし、交易の要所であるリューンの役所ににらまれることは、商業ギルドに関わりの深い各貿易都市のお役所受けが悪くなる。
 問題が起きたときに「正当な権利で訴える」という立場をとれば、後ろ暗い奴隷商人はほとんど口出しできなくなるだろう…というのだ。
 
 冒険者は敵を持つものや、脛に傷をもつものも多いため、こうやってあらかじめ対策を立てておくことは、冒険者の宿を経営する上で大切なことなのである。
 
 ただ、下層の市民であれ市民権の取得は意外に難しい。
 一人ではまず不可能だし、宿の親父が保護者や保証人になった場合は、「冒険者の宿の主人として冒険者の身分を保証する」立場が、類似した立場の重複によってできなくなる場合もあるというのだ。
 つまり、ラムーナには親父や冒険者の宿、冒険者のギルド(組合)以外での保護者を立てて市民権を取得する必要があるというわけだ。
 
 冒険者になるには、何も完全な市民権を得る必要はない。
 都市で活動するために最低限必要な肩書きを作って、その肩書きを使ってよりしっかりとした冒険者の身分を確立してしまえば、親父が身元を引き受ける場合に有利な条件を作れるのである。
 
 もちろん完璧な法律も権利もありはしないので、それらに甘えすぎるのは考えものだが、冒険者として活動する足場としては充分な状況を作れるというわけだ。
 
 冒険者になった先は、各々の工夫と生存術次第である。
 
 親父は最後に、お前らもこういう駆引きには早く慣れて自分たちで身を守れるようになれよ、と話をしめ、シグルトたちを宿を送り出した。
 
 
 親父が保護者の候補として選んだのは、かつて冒険者であり、引退後は海外に布教伝道をしてあるいたこともあるという、聖北教会の僧侶だった。
 3年ほど前に赴任先で異教徒に襲われ右足を失ったが、奇跡的に助け出されて、今は小さな教会の司祭をしているという。
 
 この西方諸国で、聖北教会の僧侶の社会的地位はとても高い。
 彼が保護者となってくれれば問題ないだろう、と親父は紹介状を用意してくれた。
  
 そしてラムーナにとって幸運だったことがさらに2つあった。
 
 一つはその僧侶が、ラムーナの国の文化に理解があり聖北僧侶に時折見られる異文化を異端視する連中とは対極の、温厚派で理解のある人物であったこと。
 そしてもう一つはその僧侶こそ、西方の言葉を教えてくれたラムーナの恩師だったことである。
 
 クレメントというその司祭は、孤児院と神聖魔法を使った施療院を営みながら、数人の聖北教会の僧侶たちと暮らしているとの事だった。
 
 
「う~ん、楽しみ!
 クレメントせんせい、元気かなぁ…」
 
 宿の親父の娘が昔使っていたというお下がりの靴を履き、時折嬉しそうに眺めながら、ラムーナは一行を急かすように早足に歩いて行く。
 
 だがなぜか顔色はあまりよくない。
 額にじっとりと汗もにじみ、心配したシグルトたちがどうしたか尋ねてもあいまいに笑うだけだった。
 看板に強打したという頭には薬をつけ、足も自分で薬をつけて親父にもらった包帯を器用に巻いていたので、必要な治療はしただろうし、言わないからには大丈夫だろうと、その後をシグルトとレベッカが並んで歩き、歩幅のないロマンが必死についてくるといった感じだった。
 
 やがて教会の一番高い部分にある、質素な木製の聖印が見えてきた。
 
 
 シグルトが教会の扉を叩くと、やがて開いた奥から、ぬぅっ、と僧服をまとった男が顔を出した。 
 大男、といってもよい立派な体格の老人である。
 かなり長身のシグルトよりさらに顔半分ほど背が高く、首はロマンの頭ぐらいある。
 
「何か用かね?」
 
 屈強な外見からはあまり想像できない、穏やかで深みのある声で老人は用件を尋ねた。
 よく見れば、細い目の温和な顔立ちをしている。
 
「私はシグルトと申します。
 クレメント司祭はいらっしゃいますか?」
 
 紹介状を取り出すシグルトの後ろで、レベッカはその僧侶を見つつ、盗賊らしく分析を始めた。
 
(この辺の聖北教会の僧服じゃないわ。
 服の素材からすると南の方の出身かしら?)
 
 そんなレベッカの視線には何の反応も示さず、老人はふむ、と頷くと、ついて来なさいと言って一行を教会の中に招き入れた。
 
 教会の中に入ると、老人は突然ラムーナに向かって、椅子に座りなさい、と言った。
 
「???」
 
 わけもわからず席を勧められ、困惑したラムーナが何か言おうとすると、老人は細い目を瞬かせて言った。
 
「お嬢ちゃん、足を怪我しておるじゃろう?
 クレメント司祭の部屋は手狭じゃから、立ったまま話をすることになるが、その足ではつらいのではないかね?」
 
 老人に促されるまま、座って靴を脱ぐと、足に巻いた包帯が血で赤くなっていた。
 老人は不器用な手つきで包帯を除く。
 
 ラムーナの指先を見て、ロマンは顔を伏せ、シグルトは眉間を引きつらせた。
 
(…ひどいわね。
 爪を貫いて足の指を一つ一つ刺してあるわ)
 
 レベッカも眉をひそめる。
 
 凄惨な傷痕に老人は、むう、とうめいた。
 
「…ガヴァリアの奴隷商人が使う刻印じゃな。
 
 腱を切ると働けなくなるから、痛みで船旅の間だけ逃げれんようにするために、こうして傷をつけるんじゃ。
 鎖の大きさをあわせるより、このほうが早いと言って、今の商人たちの長が考え出したそうじゃが…妖魔にも劣る連中よの。
 
 こんな傷で、よう歩いてこれたものじゃ」
 
 そういうと老人はラムーナの足に手をかざし、朗々とした声で神を讃える言葉を紡ぎ出す。
 
 老人の手が柔らかな光に包まれ、ラムーナの傷に光が降り注ぐと、見る間に傷が消えていく。
 老人は、爪も綺麗に元に戻ったことを確認すると、やれやれと肩を叩き立ち上がった。
 
「すごい。
 
 やっぱり癒しは秘蹟が優れているんだ。
 こういう傷に最も効果的な治療法かもしれないね」
 
 ロマンが興奮したように顔を高潮させていた。
 
「ありがとう、おじいちゃん」
 
 ラムーナがにっこり笑うと、老人は、どういたしまして、と細い目をさらに細めた。
 
「…ラムーナ、どうして傷のことを黙ってたんだ?」
 
 シグルトはむっとした顔で椅子に腰掛けたラムーナをにらむ。
 ラムーナの傷の重さに気付けなかったことを憤っている様子だった。
 
「う~ん、だって痛いだけで歩けたし」
 
「普通、痛いと歩けないものなのよ…」
 
 あっけらかんとして言うラムーナにレベッカは肩を落として言った。
 
 少し話してみて、レベッカにはこの娘の考え方がなんとなくわかってきた。
 そして今までの話からなんとなく想像がつく。
 
 ラムーナが住んでいた場所は、苦痛を訴えれば非難され、常人が泣き出しそうな傷を我慢するのが当たり前の世界だったのだ。
 
 先ほども、ラムーナは時折ふらついていた。
 心配して大丈夫かと尋ねたとき、大丈夫だと笑うラムーナの瞳が、潤んでぼんやりしていたのだが、実際に痛くて泣きそうな状態でわざと無理して笑っていたのだろう。
 
 痛いなどと言ってはいけない…それをこの少女は笑った顔の奥にある心の中で、何かにおびえながら自分に科していたのだ。
 
 そう、ラムーナは痛みにも殴られることにも慣れてはいた。
 頭にくることがあれば、彼女の父も母も八つ当たり同然にラムーナを殴った。
 でも、ラムーナはそんな両親でも愛していた。
 だから、憎しみを持った責めるような眼で肉親から殴られることが、ラムーナには耐えられなかった。
 それは「お前は要らない」と責められているようで、悲しくなるからだ。
 
 我慢すれば愛してくれなくても憎まれない。
 だから痛みを耐える。
 耐えていれば、いつかきっと愛してくれるかもしれない。
 
 どうにもならない理不尽を、この少女はひたすら耐えて、痛みや苦しさを笑顔の奥に隠してきたのである。
 
 老人はそっとラムーナの頭に手を置いた。
 びっくりしたようにラムーナが見上げると、その大きな手で優しく頭を撫でてくれた。
 
「よく辛抱してきたの。
 
 じゃが、お前さんの周りの連中はもう、痛みに耐えろなどという無茶なことをお主に科したりはせん。
 痛いときや苦しいときは無理に笑わんでええんじゃ」
 
 それでも笑った顔のまま、今まで泣くことを許されなかったラムーナの眼だけは、耐え切れなくなって涙をあふれさせた。
 
 
 自分が泣いていることに困惑して、しきりに眼をこすっていたラムーナが落ち着いた後、一行はクレメント司祭の部屋へと案内された。

 教会の奥にある一行が入ればいっぱいになる質素な部屋で、書簡に眼を通してていたというクレメント司祭は50になったぐらいの優しそうな男性だった。
 ラムーナとの再開を喜び、紹介状などろくに読まずに二つ返事で保護者になることを快諾してくれた。
 そして、老人がラムーナの傷を治したことを知ると、感激して何度もお礼を言った。
 
 しばらくは身の上話をしていたが、ラムーナたちが冒険者になったというと、クレメントは困ったような顔になった。
 
「私の足が不自由でないなら、私も一緒に、と考えてしまいます。
 冒険者という職業はとても過酷で危険ですから」
 
 僧侶が仲間にほしい…
 
 それはシグルトたちも望んでいることである。
 だが、片足を失い歩くこともままならないこの司祭を、冒険に連れて行くことはできないだろう。
 
 冒険者という職業で最も貴重であり、いると仲間の生存率が大きく上がる職業がある。
 癒しの魔法を使いこなす僧侶の存在だ。
 
 時にモンスターと戦い、依頼人を庇い、遺跡の罠と対峙する冒険者たちは生傷が絶えない。
 しかし、治療に使われる薬や薬草は高価であり、即効性がない薬品では戦時に使っている暇などない。
 
 そこで絶大な効果を発揮するのが僧侶の使う秘蹟である。
 一瞬で傷を癒し、毒を除き、病んだ心を穏やかにする。
 それに、呪文の力を呼び起こす力は休息すれば戻るので、一度習得すれば何度でも使うことができるのだ。
 
 特に【癒身の法】と呼ばれる初級の治療秘蹟は、聖北教会の僧侶たちが一般人でも簡単に使えるようにしたものの一つである。
 秘蹟は神への言葉を呪文にしたもので、効果は魔術師の使う魔術と並んで絶大な効果を持つ。
 いまや下手な応急処置より普及した医療の技であった。
 
 神への信仰を唱えるこの技術を一般人に軽々しく伝えるリューンの聖北教会のやり方は、一部の教会勢力からは疑問視されてもいるのだが、冒険者を中心に技術伝授を求めるものが多いので需要は大きく、「【癒身の法】は医者泣かせ」などとも呼ばれていた。
 
 しかし、やはり神に仕え教会で常に祈る本職の僧侶の秘蹟は大きな効果を持つ。
 冒険者が危険な旅に、布教や自らの信仰の研鑽のために旅をする僧侶を仲間にすることは多かった。
 そしてそういった旅をする僧侶はまれであり、冒険者の社会では引く手数多である。
 
 それに僧侶が仲間となっていれば、ごろつきの集まりという冒険者たちの悪い印象もかなり改善されるのだ。
 冒険者グループの中に僧侶が存在することを、そのグループを信頼する基準にしている依頼主も多い。
 
「僧侶の存在は貴重ですからね。
 我々に手を貸してくださる聖職の方がいるなら、是非紹介していただきたいのですが…」
 
 レベッカはクレメント司祭から、冒険者に引き入れることができそうな僧侶の所在を聞き出そうと話題をふる。
 
「…どうじゃろう、わしでは力になれんかね?」
 
 すぐにそう言ったのは件の大柄な老人であった。
 
「あなたが?

 そうしてくださるなら、私たちとしてはとてもありがたいのですが、よろしいのですか?」
 
 先ほどの癒しの技を見れば、文句などあろうはずがない。
 
「うむ。
 
 本来わしは聖北教会とは違う派の教会に所属しておってな。
 クレメント殿の御好意で、この教会の食客として逗留しておったが、旅をして信仰の何たるかを見直してみようと思っておったところじゃ。
 
 恥ずかしながら、この歳になるまで修道院で祈るばかりであったが、最近それでは何か足りないと思っての。
 あちこちの聖地や霊蹟(聖人たちが深く関わった場所)を巡っておったのだ。
 そんな折、昨今の金儲けばかりの教会は違う教派であることを理由に教会の軒先すら貸してくれなんだが、クレメント殿は数日の宿を見返りも求めず与えてくださった。
 それに報いる機会…まさに神の思し召しよの」
 
 老人はゆっくり頷き、クレメント司祭に、よろしいかな?、と話を振った。
 
「師がよろしいのでしたら、これほど頼もしいことはございません。
 どうぞよろしくお願い致します」
 
 クレメントはほっとした様子で、老人の手を両手で包み頭を下げた。
 
「うむ…そういえばお主たちには名乗っておらなんだの。
 
 わしはスピッキオ。
 聖海教会、聖アンティウス修道院にて洗礼と聖職を受けた司祭じゃ。
 見ての通りのジジイじゃが、何、体力はその辺の若いもんには負けぬつもりじゃ。
 よろしく頼むぞ」

 老人は大きな身体を揺らし、細い目を瞬いた。

 
 
 初期編成5人の最後の一人、豪傑モンクスピッキオの登場です。
 
 スピッキオは名前でも判るとおりイタリア人系の名前にしてあります。
 かつて、この元本となるリプレイは、Martさん作『碧海の都アレトゥーザ』の影響を強く受けていました。
 今回もそうですが、スピッキオはアレトゥーザに登場する〈聖海教会〉の聖職者という設定です。
 
 聖アンティウス修道院は修行と禁欲に明け暮れる聖海教会の寺院で、スピッキオは修行を終えて旅をする巡礼の司祭という位置づけです。
 僧侶としての階級が高い(司祭なら一つの教会をあずかるほど)のは、彼がそれなりに長い間修道院にいて修行してきたことへの配慮です。
 本来、修道院の司祭は独特で、普通の教会の聖職者とはちょっと違うのですが、スピッキオは一度還俗に近い形で普通の教会組織に属し、そして司祭になりました。
 修道院という場所は、普通の教会組織から独立して、祈祷と清貧で過ごし、生涯を自給自足+修行三昧の日々で送る、厳しい場所だったようです。
 独特の文化も生まれ、蝋燭やビールも修道院で作られていたようですね。
  
 スピッキオは西方南部の豪商の三男として生まれます。
 生まれつき体格がよく、将来は兵士に、と考えられていましたが、信心深くあまり争いごとが好きではなかった彼は、早々に修道院に入り修行と祈りに満ちた穏やかな日々を送っていました。
 
 ところが、彼のいた修道院は院長が交代したことでその方針を変え、学僧中心の教育機関に変わっていきます。
 修道院でも古株だったスピッキオは新しい院長と考えが合わず、それを期に信仰とはどういうものか考え直してみようと、一人聖地霊蹟の巡礼に旅立ちます。
 巡礼で布教活動が出来るようにと、スピッキオは彼を信頼する聖海の司教様から司祭に任命されます。
 
 彼は布教と巡礼の旅を続けて、色々なものを目の当たりにします。
 
 それは決して美しい信仰の世界ではなく、金に固執する聖職者や、戦争に利用される宗教の汚れた部分でした。
 スピッキオはその中で信仰にある光を求めていき、クレメント司祭に出会ってその答えを見つけます。
 
 クレメント司祭は自分が信じ行える信仰を、形として成し自分の信仰を示してきた人物でした。
 布教中に足を失う惨事に見舞われながら、誰を恨むのでもなく自分の信じる神の道を説くクレメント司祭の生き方に感銘を受け、残された生を自分の信じた信仰に捧げようと誓い、そのきっかけをさがしていたのです。
 
 そしてシグルトたちと出会います。
 彼らの持つ眼の輝きと若さをまぶしく感じながら、スピッキオは冒険者として生きる決心をするのです。
 
 スピッキオは腕力が戦士並にあり、時に素手や杖で敵を殴る戦う僧侶です。
 能力的にも十分戦士になれる素質があります。
 
 戦いそのものは嫌いですが、信念を貫くために、仲間のために敗れることをよしとしません。
 そのスタイルはまさにコンピューターゲームのモンク。
 
 でも、モンクって格闘家とは限らないんですよ、本当は。
 気を使って敵をぶちのめす格闘家みたいにとられてますが、本来モンク…修道士は修行する僧侶のことです。
 なんだか中国映画の闘うお坊さんと、修道院の修行僧がごちゃまぜになってますよね。
 
 スピッキオはかなり頑固で保守的な性格をしています。
 まあ、爺さんになるまで薄暗い修道院でずっと修行と祈祷ばかりしていたわけですから。
 
 考え方もやや硬くて、軽薄なレベッカや現実主義のロマンとはよく口論になりますが、老人らしい落ち着きも持っています。
 意外にお茶目な性格もしており、レベッカ、ラムーナとともにお笑いも担当してもらうつもりです。
 
 努力家で、知力は6ですが宗教知識に関してはかなりのインテリです。
 それ以外でも、旅慣れしているので含蓄があります。
 年寄りの渋みが表現したい人物ですね。
 
 
◇スピッキオ
 男性 老人 無双型

裕福     厚き信仰   誠実
無欲     献身的    秩序派
保守派    無頓着    穏健
勤勉     陽気     高慢
硬派     お人好し   名誉こそ命
 
器用度:3 敏捷度:4 知力:6 筋力:9 生命力:7 精神力:11
平和性+1 勇猛性+2 慎重性+1 正直性+3
 
 秩序派、保守派、硬派ですからね。
 すごい頑固です。
 まあ、高慢ですが穏健かつ献身的ですし、相手を叱りつつ合わせるタイプ。
 倫理を大切にしますが、他者を傷つけることは嫌いで、聖海の根本であるおおらかな信仰を目指しています。
 穏健派+修道派とでもいいましょうか、修行しながら穏やかな信仰を説いてまわっています。
CW:リプレイR | コメント:11 | トラックバック:0 |

CWPC4:ラムーナ

「ところで、さっきの娘はどうしたんだ?」
 
 シグルトはロマンの自己紹介が落ち着くと、唐突に切り出した。
 
「ああ、あの異国の人だよね?」
 
 ロマンは眉を八の字にして、はあ、とため息をつく。
 どうやらため息は少年の癖のようだ。
 
「???」
 
 ついていけない親父とレベッカが首をかしげていると…
 
「…うぬぬ~、このドア、開・か・な・い~!」
 
 宿のドアの外から、間の抜けた女の声が聞こえてきた。
 
「う~んと、ああっ!
 このドア、手前に引けばよかったんだ~
 失敗失敗~」
 
 がらんがらん~
 
 派手な音を立ててドアベルが鳴った。
 
「…あそこ」
 
 ロマンは頬を引きつらせて、宿に入ってきた人物を指差した。
 
 そこには小麦色の肌の、風変わりな衣装を着た娘がちょこんと立っていた。
 
 彫りの深いエキゾチック(異国風)な顔立ちをしている。
 
 明らかに西方の人間ではない。
 宿の親父は、ずっと東にあるという、暖かい地方の民にこのような容貌の者たちがいることを聞いた事があった。
 
 長いまつげと大きな瞳。
 レベッカよりも肌を露出しているが、色っぽいというよりは、若さや幼さからくる愛らしい印象を受ける。
 美人に分類してもよいだろうが、どこかみすぼらしい雰囲気をもった少女である。
 
 あまり起伏のない痩せた身体。
 やや猫背で骨ばっているし、手足は柳のように細い。
 髪などは洗いざらし、服装は所々がほつれ、身体を覆う部分も少ない。
 リューンの乞食でも、もう少しまともな服装をしているだろう。
 この服では冬を越すのも難しい。
 
「お前、ロマンの後をつけて来たのか?」
 
 シグルトの問いに、少女は、にぱ~、という形容がふさわしい笑みを浮かべて頷いた。
 
「私のこと置いて行っちゃうんだもん。
 困っちゃったわ。
 この綺麗な子も私のこと無視するし、ひどいよ~」
 
 どこかなまりのある言葉で、少女は大げさな身振りを交えて一方的にしゃべりだした。
 
「だいたい、怪我した女の子をほうっておくなんて、紳士のやることじゃないわよ~」
 
 シグルトが困ったように額に皺を寄せた。
 
「怪我って、お前が滑ってこけそうになって、いきなりトンボをきって上にあった看板に頭を強打した、言わば自業自得のように思うんだが…」
 
 シグルトの言葉を無視して、少女は話を続ける。
 
「それに、助けてあげようとした善意の人にお礼も言わずに無視するのはいけないと思うよっ」
 
 ロマンが白い目で娘を見ながら、あきれたように呟いた。
 
「泣きながら頭を抱えてうめいていただけの人に、どう反応すればよかったのかな、僕…」
 
 甲高い声でまくし立てる少女に、親父もレベッカもぽかんとしている。
 シグルトに向かって、手をぶんぶん振りながらしゃべっている少女から少し距離を置いて、ロマンはことのあらましを話し始めた。
 
 
 ロマンは前に逗留していた宿に帰る途中で、柄の悪い男たちにぶつかってしまった。
 どうみても道のど真ん中をよそ見をしながら、横に並んで歩いていた男たちが悪いはずなのだが、ぶつかった男がよろめいてこけてしまった。
 
 服が汚れたと言って、親のもとに連れて行けと、ロマンの胸倉をつかんで騒ぎ出した男たちを、周囲の連中は見て見ぬふりをして通りすぎようとしたが、シグルトとあの騒がしい少女だけは駆け寄ってきた。
 
 男たちの一人の腕をつかんで止めた少女は、その男に投げられて宙を舞った。
 しかし、一転して転倒せずに着地した少女は、殴りかかってきた男の攻撃をひらりひらりとかわし、勢いよくトンボをきった…まではよかったが、飛び上がるときにバランスを崩して、上にあった看板で頭を強打しずっとうめいていた。
 その間にシグルトは、少女の間抜けな行動の前でぽかんとしていた男を奇襲で倒し、他の男たちを怪我をしつつも一人で追い払い、ロマンを助けてくれたらしい。
 
「…間抜けね」
 
「…ああ、間抜けだな」
 
 レベッカと親父は心底あきれた顔をして、真っ赤になってしゃべっている少女を注視した。
 
 やがて、一通り主張を終えたのだろう。
 少女は今気がついたように親父とレベッカを見て小首をかしげた。
 
「あの~、どちら様で?」
 
 レベッカと親父は、長い間組んだ芸人に勝るとも劣らないほどぴったり同じタイミングで額に手をあててため息をついた。
 
 
「ここは冒険者の宿でわしは店主、こいつらは冒険者だ。
 …それで、用件は済んだかい?」
 
 親父が、さっさと話を切り上げるために一息で説明し、少女に問う。

「ああ、ここが冒険者の宿なんだ。
 ちょうどよかった~
 
 私、冒険者になろうと思ってリューンに来たのよ」
 
 親父は聞かなきゃよかったとばかりに、額の皺を増やす。
 レベッカはもはや我関せぬ、の態度で、少しぬるくなったエールをちびちび飲みはじめた。
 
「…一応聞きたいんだが、お前さん、何で冒険者なんかになろうと思ったんだ?」
 
 引きつった顔で親父は、とりあえず聞いた。
 
 少女は口元に一本指を添え、考えるような身振りをした。
 そしてとんでもない話を語りだした…
 
「う~んと、私の国が戦争で負けちゃって、家族が食べるのに困ってきたから私を含めて20人くらいの男や女の人が奴隷として親に売られて船に乗せられたの。
 
 だけど途中で嵐に遭って、船が転覆しちゃって、私は手首と足の鎖の輪が大きすぎてゆるかったから、海の中でなんとか外したんだけど、気を失って岸に流れ着いたのよ。
 
 とりあえず生きてたのはよかったんだけど、食べたり生活するにはお金が必要でしょう?
 流れ着いた浜の近くの港で、親切な漁師のおじいさんにお魚を食べさせてもらったりしてたけど、そのおじいさん、あんまり裕福じゃなかったのを無理してくれたみたいだったから肩身が狭くて、そのままってわけにはいかなくて。
 働こうと思って仕事を探したんだけど、外国の人だからとか女だからだめとか言われて、どんな職業なら働かせてくれるのってたずねたら、
 
『お前みたいな女が働ける職業なんて、春を売るか冒険者ぐらいだっ』
 
 って追い出されちゃったの。
 
 でも、私のお姉ちゃんが街で春を売ってて、体を壊して病気で死んじゃったから、売春なんかは嫌だな~って考えて。
 
 それで冒険者っていう職業をとりあえずやってみようと思ったの…」 
  
 ニコニコしながら重い身の上話をする少女に、一同は押し黙った。
 
 よく見れば少女の手足には一日二日ではつかない、拘束具の作った生々しい痕が残っていた。
 履いている靴は麻の袋の角を切って、それに足を突っ込んで紐で巻いただけで、随分歩いたのだろう、あちこちがほつれて爪先のあたりに血の染みもある。
 この急ごしらえの粗末な靴は、おそらくは怪我をしている足をかばうために履いたのだろう。
 
(こんなもの履いてて走ったのか…滑って当然だ)
 
 シグルトは少女が転倒しそうになったときを思い出し、もしあの看板が無かったら、と考えた。
 滑った不安定な体勢から、浮き上がるように片足だけで跳躍した少女の姿が思い出される。
 
 驚異的なバランス感覚と俊敏性がなければ、不可能な動きだった。
 シグルトなら真似をすれば筋を痛めてしまうだろう。
 
「お前、何か身体を動かすことをやっていたのか?
 
 あの動きは、その猫背や服装のハンデを背負った状態では簡単に出来るものじゃない。
 それに、あの不安定な体勢からお前の背丈の倍はある、あの看板まで届くほど一瞬で飛び上がる瞬発力。
 その高さから落ちた後、一瞬身体をひねって猫みたいに取った受身。
 
 男の攻撃をかわし続けた身のこなしも、何か武術…というか魅せるための演舞などで使う、【見切り】に近い動きだった。
 
 少し気になっていたんだが…」
 
 シグルトの言葉に、ロマンが、あっと何かに気付いたように眼を見開く。
 
(よく見ればこの子、鎖の痕以外に何か身につけていたような痕があるわ…
 日焼けをせずに残っている、何かが絡まったようなこれ、腕輪とか装飾品の模様でできたのかしら?
 
 ずっと身に着けていたんだわ…痕が残るくらいに)
 
 レベッカもロマンと同じ事に気がついた。
 
 少女はふわりと軽やかなステップを踏んだ。
 
「お姉ちゃんのお客さんを集めるために踊ってたの。
 みんな上手だってほめてくれたわ。
 剣を使った戦いの女神様の踊りとか得意だったのよ」
 
 それは盗賊や戦士の中にまれに現れる素質。
 奴隷として腱を切られるものもいるが、彼女がそうならなかったのは不幸中の幸いだった。
 
(鍛えれば化けるかもしれんな…)
 
 宿の親父は、強いという巨漢で豪腕の戦士を、素早さで圧倒したある女戦士を思い出していた。
 彼女は、極限まで磨きぬいた技術で怪力の戦士を倒せるようになったのである。
 敏捷性…それは冒険者が望む能力の一つなのだ。
 
(軽戦士の資質か…
 
 珍しい上に、貴重な才能だぞ)
 
 冒険者でも、素早い動きを武器にする盗賊はいるが、この娘のように戦士としての資質に生かすものは稀だ。
 反射神経や俊敏性は持って生まれた才能であり、磨くことが難しいのだ。
 加えて、その能力が秀でている者も極少ない。
 
 力を身上とする戦士と組めば、素早い方が隙のない切込みで相手を崩し、もう一人が力で仕留めるというコンビネーションが可能となる。
 時に機先を制することができるこの資質は、迅速を尊ぶ冒険者にとってとても有り難い能力なのだ。
 
(この娘、もしかしたらあぜで拾った宝石かもしれないわよ。
 
 私たち盗賊はどうしても警戒心が強い分、切り込みへの思い切りがつかないものだから)
 
 こっそりと言うレベッカに、シグルトが軽く頷く。 
 
「…そうか。
 じゃあまず、名前ぐらい教えてくれんかね?
 さすがに名無しじゃ、呼ぶのに困る」
 
 親父はとりあえずは受け入れて、よく話を聞いてみようと思った。
 
 しかし、名前を尋ねられた少女は、ううっ、とうなって頭を抱え悩みだした。
 首でも絞められたかのように真剣に、である。
 
「おいおい、自分の名前なんかで悩むことはないだろう?」
 
 親父があきれて言うと、少女はポン、と手を打った。
 
「ラムーナ。
 
 うん、ラムーナがいい。
 私はラムーナよ」
 
 彼女の名乗り方は、今決めたような感じだった。
 
「ラムーナって、お姉さんがぶつかった看板の酒場の名前だよね?」
 
 ロマンは、この娘が激突したという、三日月の描かれた看板の文字を思い出し、確認する。
 
「おいおい、さすがに名前を適当に決めるのはやりすぎだ」
 
 親父は首を左右に振って、ダメだと伝える。
 
「う~ん、でも私の名前、こっちの人には難しくて呼びにくいと思うし。
 
 それに私のあだ名はこっちの言葉では“弓のような月”だったのよ。
 
 私の故郷で、月は女神様で、踊りと戦いと女の守護者なの。
 あの看板にぶつかったのも、女神様の導きかもしれないし。
 
 やっぱり、あの月の下に書かれていた名前、ラムーナがいいな…」
 
 そういって少女はにっこりと笑った。

 
 
 スーパーマイペース娘のラムーナ登場です。
 5人の中で唯一普通の型のPCですが、実は前のリプレイで前半、恐ろしいほど活躍してました。
 
 スキルを持たせたらもう、鬼に金棒で、強いの何の。
 
 ラムーナの強さの秘密は、先制をとりやすい敏捷度10故でした。
 とにかく、パーティで一番早いんです。
 結果、出来る行動がなんとなく他のPCより多かったんですね。
 
 カードワースでは、敏捷性は最も上げ難い能力なんです。
 
 今回のリターンで3つほど特徴が追加され、より器用で早くなりました。
 正直性が大胆性にかわり、フェイントも得意になったので、軽戦士としての資質はさらに高くなっています。 
 
 ラムーナは陽気で前向きな性格の少女です。
 前はそこを表現する楽観的という特徴を付け忘れて、イメージが少し変だったので、今回修正してしまいました。
 
 彼女は貧しい家に5人の兄弟姉妹の下から二番目の娘として生まれます。
 彼女の両親は生んで育ててやったと、彼女たちが大きくなったら働かせて家でその稼ぎを待っているようなあくどい性格でした。
 
 実際貧しい国では子供の足を切り落として、地雷のせいだと哀れを誘い物乞いをさせる親がいるという話を聞いた事があるのですが、貧しさの中で食べていくために子供を働かせる親はどこかにいそうです。
 
 ラムーナが本名を名乗るのを嫌ったのは、彼女の本名が〈搾りかす〉という意味の、役に立たなくなったら捨てられることを暗示する名前だからです。
 
 小さい頃の彼女は泣き虫でしたが、泣いていると気を失うほど父親に殴られるので、つらくても悲しくても泣かないようになりました。
 でも、決してつらくなかったわけではありません。
 彼女は間抜けでおちゃらけた外見の中に、繊細な感性を閉じ込めています。
 楽観的で陽気な態度でいながら、内心ラムーナは神経を尖らせて相手を怒らせないように気を配ってきました。
 大胆さの中にも、そういった細やかな面も持つ娘です。
 
 間抜けで愚かなふりをすることで「殴る価値もない」とあきれさせる…生きていくために彼女が最初に身に着けた処世術だったわけで、そう考えると悲壮ですよね?
 
 感情的で大げさな動作は、大人の注目を集め、怒りを削ぐために彼女が身につけた生きるための手段です。
 シグルトたちに自分を必死に売り込むのも、彼女が生きるために行っているぎりぎりの行為なのです。
 そうは見えませんが、ラムーナは陽気で軟派なふにゃふにゃした態度でも真剣だったりします。
 
 こんな性格になったのは、猫背になるほど殴られて酷い環境にあったからなんですが…
 
 これだけ悲惨な扱いであったのに、ラムーナは両親を憎んではいません。
 そうしなければみんな飢えて死ぬしかなく、生きるために悪くなったといっても、自分を育ててくれた両親に彼女は感謝しているのです。
 ラムーナは心底お人好しで誠実なのです。
 
 ラムーナは一番上の姉をとても慕っていました。
 娼婦として身を売ってお金を稼ぐ姉は、身内の中で唯一ラムーナに心から愛情を注いでくれたからです。
 父親に殴られそうになると身体を張ってかばってくれ、自分の食べ物を妹たちのために分けてくれる献身的で優しいお姉さん。
 彼女がいたからラムーナは笑うことができたのです。
 ラムーナが親しい人のために尽くそうとする献身的な性格は、姉譲りといえるでしょう。
 
「あなたは笑っているほうが可愛いわ…」
 
 そういってほめてくれた姉との絆の証が、朗らかに笑うことなのです。
 だから、心で泣いていても無理に笑おうとする、そんな健気な女の子です。
 
 ラムーナは西方の言葉を話し、読むことができます。
 彼女の住んでいた町は西方の商人たちの船が停泊する港町の一つで、姉の客は裕福な商人たちでした。
 あるとき商人たちと一緒にやってきた僧侶が、ラムーナが物ほしそうに彼の持つ聖書を見ていたので、聖書を読み理解できるように文字を教えます。
 初老にさしかかったその僧侶は貧しい子供たちの心の支えになるようにと、文字を教え会話を教えそして信仰を説きました。
 
 その僧侶については次のお話で紹介します。
 
 
 ラムーナの国は隣国と戦争していましたが、負けてしまいます。
 戦禍に巻き込まれた国を商人たちは見離し、客がなくなったラムーナの姉は兵士に安い金で買われて身体を壊し、死んでしまいます。
 一家の稼ぎの筆頭を失ったラムーナの父は、彼女を奴隷商人に売りました。
 それから先の事は彼女の語る通りです。
 
 ラムーナは可愛い系の女の子です。
 スレンダーでしなやかな身体つきで、やや幼い行動から子供っぽい雰囲気がありますが、充分美人に類してよいでしょう。
 成長期なので、栄養補給すると、レベッカをしのぐようなエキゾチックビューティーになるかも。
 
 大切な時期に栄養不足だったのでやや生命力が低いのですが、そこは笑って頑張る女の子です。
  

◇ラムーナ
 女性 若者 万能型

秀麗     下賎の出   貧乏
誠実     猪突猛進   献身的
進取派    神経質    好奇心旺盛
楽観的    勤勉     陽気
派手     謙虚     繊細
軟派     お人好し   愛に生きる
 
器用度:10 敏捷度:10 知力:6
筋力:4 生命力:3 精神力:5
 
社交性+3 大胆性+1
 
 リターン版では唯一能力値と特徴が変わっています。
 下賎の出、神経質、楽観的を追加し、器用度が+1、筋力が-1になりました。
 これにより、フェイントが得意になりましたし、大胆性の分+1素早く動けるようになりました。
 闘舞術は大胆系もあるので、この強化は将来が少し期待できます。
 器用度が高いので、大胆性で-1されても、盗賊の眼の適性は9。
 つまり、観察力と勘はそこそこ優れています。
 今回神経質になりましたし。
 
 前回以上の活躍を期待しています。
CW:リプレイR | コメント:0 | トラックバック:0 |

最近の困ったさん

 最近、時折出没する善意の応援のふりをした、アダルトサイトや出会い系の宣伝につながるURLを残していく困ったさんがいます。
 
 リンク先がやばいと思ったら、コメントが応援ものでも、まったく記事と関連性がない時点で、すっぱり消去いたしますので御承知ください。
 
 別にアダルトサイト経営しててもかまわんですよ、カードワースやこのブログに関係あるコメントなら差別はしないつもりです。
 ルールを守って下さる方なら、歓迎します。
 
 ただ、宣伝行為らしきものに利用されるのは嫌ですので、そう判断した場合はコメントも消去します。
 
 適当によったブログに挨拶しまくるのも、関係ないものだと困るのです。
 がんばれとか尊敬してるとか、応援やほめ言葉を下さる方は、具体的にお願いします。
 間違って消しかねません…
 
 というわけで、ちょっと見苦しい記事ですが、よろしくお願いします。
このブログにおける注意! | コメント:2 | トラックバック:0 |

CWPC3:ロマン

 レベッカは疼くような胸の高まりと、好奇心を抑えつつ、できるだけ何気ない態度に見えるように振舞いながらシグルトを見た。
 
「なるほど。
 
 あなた、冒険の経験はなくても、戦いの経験はあるみたいね。
 自分の性格や実力を分析しているところも、その辺の自信過剰な馬鹿戦士とは一線を隔しているわ。
 
 私に求めるのも、明確に盗賊としての技能とセンス、ということよね?
 
 それと、魔術師の仲間がすでにいる、ということだけど…
 
 前言撤回。
 話を聞く価値はありそうだわ。
 
 できれば、その魔術師さんを加えて話がしたいわね」
 
 シグルトはレベッカの答えに頷く。
 
「件の魔術師はもうすぐ来るはずだ。
 
 あいつは歳のわりにしっかりしてるんだが…」
 
 からん…
 
 ドンぴしゃりのタイミングでドアのベルが鳴った。
 シグルト、レベッカ、親父の三人がいっせいに扉に眼を向けるが、すぐには相手を見つけられなかった。
 現れた人物は背が低かったのである。
 少し視線を下げて、シグルト以外の二人は目を丸くした。
 
 子供であった。
 
 年の頃は10歳ほどだろうか。
 
 まるでドワーフの銀細工のような細いシルバーブロンド。
 血管が透けて見えるような白い肌。
 金色かかった神秘的な茶色の瞳。
 ほっそりとして力を込めたら折れてしまいそうな身体。
 
 まるで芸術の神が作り上げた彫像のような、繊細で美しい子供だった。
 
「遅かったな、ロマン」
 
 シグルドが声をかけると子供はその美しい眉を寄せた。
 
「時間は正確だよシグルト。
 僕は自分でも無頓着な方だと思うけど、君ほど時間に鈍感じゃない」
 
 子供とは思えない辛辣で理知的な言葉だった。
 
 そして口調から性別が判明する。
 声変わりこそしていないが、少年のようだ。
 一見女の子にも見えるぐらい中性的な雰囲気があるのだが。
 
「いや、お前なら少し早く来るかと思ったんだがな…」
 
 シグルトは参ったよ、というふうに肩をすくめた。
 少年はふん、と息を吐くと、まったくしょうがない、とかぶつぶつと呟いていたが、やがて気付いたようにぼけっと突っ立ってる親父とレベッカを見た。
 そして、頭の位置から自然とレベッカの胸元に眼が止まった瞬間、まるで染めたように真っ赤になって固まってしまった。
 
「ロマンにはその服はちょっと刺激が強かったみたいだな」
 
 シグルトのその言葉に、少年は何とか言い返そうとしつつ結局黙ってしまった。
 小動物のように身を固め、フルフルと柔らかな銀髪がなびいている。
 
 その仕草に、レベッカはふつふつと湧き上がるある衝動を感じていた。
 
(…か、可愛い!)
 
 美少年愛好とでも言おうか。
 少年はその手の母性というか感性というかを猛烈に刺激する雰囲気を持っていた。
 
 レベッカは、普通の男などには興味がない。
 しかし、そこは女性と言うべきだろうか。
 小動物や、子供のような可愛いものには、違う食指が動くのである。
 
 親父とシグルトの視線の陰から、レベッカは流れるような動作で少年に接近した。
 
「…ふえ?」
 
 突然目の前に現れた色っぽい美女に、ロマンが眼を丸くした瞬間である。
 
「か~わ~い~い~!!!」
 
 レベッカは少年の顔を自分の豊満な胸に抱き寄せ、柔らかな銀髪のなびく頭をがっしりと抱きしめた。
 
「~!!!!」
 
 少年の声にならない悲鳴が、宿を震わせることになった。
 
 
 数分後、少しあきれた表情のシグルトと親父に、頭をかきながら弁解しているレベッカの姿があった。
 
「…あのレベッカが、美少年愛好とはな。
 
 いやはや、普通の男たちになびかないわけだ」
 
 親父が深いため息を吐きながら、皿を磨いている。
 
「あら?
 
 色恋と、可愛いものを愛でるのは違うわよ。
 ま、そういう性的嗜好もあるにはあるのでしょうけどね。
 
 私の場合は母性から起こるそれよ。
 一応女よ、こんなんでもね」
 
 開き直って答えるレベッカに、シグルトが肩をすくめた。
 
「だからといって、いきなり抱きつくのは問題だと思うがな。
 
 話の始まらないうちから、件の魔術師を窒息死させられたら、たまらない」
 
 悪かったわよ、と呟くレベッカ。
 
 緊張した態度でシグルトの後ろから少年が顔を覗かせた。
 心なしか青ざめているのは、先ほどのレベッカのハグで呼吸困難を起こしたからだ。
 
「冗談でもこういうことはこれっきりにしてほしいよ…
 
 すべての女性に恥を知れなんて言うつもりはないけど、いきなり初対面であんな、あんな…」
 
 今度は顔を真っ赤にして、少年は一旦言葉を切る。
 
「…そういう服でああいうことされると、死んじゃうよ。
 
 そもそも革製品は通気性が悪いから、濡らして窒息の拷問に使ったほどなんだ。
 この熱い季節で汗にぬれたその服で顔を締められたら、屈強な男でも耐えられないよ」
 
 そして場違いな薀蓄で場をごまかす。
 
 レベッカの動向にびくびくしながら、少年は訥々と自分のことを語りだした。
   
 
 ロマンというこの少年は魔術師、というよりは賢者だった。
 
 まだ10歳であるが、3歳で神童と呼ばれ、5歳で3つの言語をすらすらと話せるようになった天才児である。
 その話が真実であることは、風の噂でレベッカも聞き知っていた。
 
 何と、リューンの大学に6歳で出入りを許されたらしい。
 さすがに入学は年齢的に無理だったという話だが。
 
 シグルトとロマンの出会いは偶然だった。
 
 最近は大学の図書館では物足りなくなって、市井の雑学の研究のために外出をしていたが、ごろつきにからまれ、シグルトに助けてもらったというのだ。
 そのときの乱闘でシグルトはごろつきが振るった凶器を剣で受けて、唯一の武器を破損してしまったのである。
 
(なるほど…それでこの美形君は武器を持ってなかったわけね)
 
 レベッカは納得したように頷いた。
 
 シグルトへの恩義と、彼が言う冒険者という職業について興味を持ったロマンは、研究と恩返しの意味でシグルトに同行することにしたのだという。
 話によると初歩的な魔術なら使えるとのことだ。
 
 どうやらシグルトにはかなり心を許しており、ときおり辛辣なセリフも言っている。
 だが本来は結構人見知りをする内気な性格らしい。  

 
 レベッカはこのでこぼこコンビを気に入り始めていた。
 特にこのロマンという少年は可愛いという部分でも気に入った。
 さすがにもう警戒して先ほどのようなことはできだろうが。
 
 気に入るということは、冒険の仲間を選ぶ場合において、実力とはあまり関係のないことである。
 しかし、チームワークに影響する、心理的に重要な要素であった。
 
 加えて、戦士と魔術師が一気に揃うのも好い。
 爺むさい魔術師や厳つい戦士と組むよりは彼女の好奇心を満たしてくれるだろう。
 
「というわけで…よろしくお願いします」
 
 丁寧に頭を下げる少年に眼を白黒させて、親父はこれからのことに思いをはせていた。
 美少年…レベッカ以上に騒ぎそうな人物を親父はもう一人知っていたからだ。
 
(しばらく姦しくなるな…)
 
 食材の仕入れに出かけている娘を思い起こして、親父は禿げ上がった自分の額をつるりと撫でた。

 
 
 ロマンは選んだPCのカード絵の関係で、女の子みたいな美少年という設定になった人物です。
 彼もインチキで生まれた天才型。
 
 何でこんなに特殊型を作ったかといえば、アレトゥーザでレナータを連れ込もうと計画し、連れ込みまで5人編成でいこうと考えていたからです。
 さすがに途中まで5人パーティだとちょっときついですからね。
 加えてレナータ、十分特殊型に混じっていられる才能の持ち主ですし。
 精神力12…人間の最高値ですからねぇ。
 
 ロマンという名前はフランス人の役者さんの名前からもらいました。
 
 彼は内気で人見知りの激しい性格ですが、一度信頼した人物には結構辛辣なことも言います。
 それは彼なりの信頼の表れなのですが、ひねくれていますからね。
 
 ちなみに「大人のくせになさけないよね…」が口癖で、内面はニヒリストでませています。
 ただ、女性関係にはまだ子供なのでウブな反応を示します。
 
 神経質で悲観的で繊細で内気という性格は、かなり内向的になることを狙っていたのですが、思ったほどではありませんでした。
 鈍感で武骨なシグルトに、むらのある性格のレベッカに負けない個性を考えて特徴を選んでいたら自然とこうなりました。
 
 ロマンはごく普通の商家の生まれでしたが、頭脳明晰な上に学問好きで努力家でした。
 遊び人で怠け癖があるレベッカとは対照的です。
 まあ、子供のくせに努力もなしに天才と呼ばれるほど知識を持つにはそれなりに努力は必要でしょうしね。
 
 いくら天才だからといっていきなりレベル1の子供がリューンの大学に入学するのも変なので、「将来を見込まれて出入り自由」程度の設定にしておきました。
 
 シグルトには憎まれ口を吐きつつ、兄のように慕っています。
 その異存ぶりはシグコンといってもいいくらい。
 なんだかんだ言って、ロマンはシグルトにあこがれています。
 
 宿の娘さんあたりには「BLだぁ~」と変な萌えられ方をされてそうですが…
 
 彼らの馴れ初めはこの次のPCの項で語りますが、シグルトがロマンを助けるためにごろつきとひと悶着起こしたのは、シグルトがお人好しで、弱いものを守ろうとする意識が強いからです。
 そして、助けたことで恩を売ったりしないところをロマンはとても格好良く感じたのだと思います。
 
 実直なシグルトは年齢とか性別で差別せず、実力で評価するという美徳をもっています。
 天才と言われながらどこかで子供扱いされていたロマンにとって、シグルトのそういう性格も貴重で嬉しかったのでしょう。
 
 ロマンとシグルトは冒険の中で、リーダーと知恵袋としてよく意見を交わすことになります。
 薀蓄含蓄で語りまくるロマンは、賢者らしいといえばらしいのですが。
 レベッカが利害や経験からくる狡賢さ、ロマンは知識を主体としたロジカルな賢さでパーティを助けます。
 “風を纏う者”、結構インテリなパーティ(知力の最低値が6)です。
 
 脳内設定では「女性にマスコット扱いされる」美少年属性です。
 顔を赤らめて母性を刺激する彼は、もてるというよりおもちゃにされます。
 宿の娘さんが可愛い女の子の衣装を用意して狙っていたり…
 
 ロマン、美少年なりに大変です。

 
◇ロマン
 男性 子供 天才型

秀麗     不心得者   誠実
無欲     保守派    神経質
無頓着    穏健     悲観的
勤勉     内気     謙虚
上品     繊細     ひねくれ者
 
器用度:7 敏捷度:7 知力:12
筋力:2 生命力:5 精神力:9

平和性+1 臆病+1 慎重性+3
 
 知力12なので人間としては最高峰でしょう。
 意外にも精神力も高く、魔法関係は隙がない感じです。
 
 知力系の技能、何とすべて優秀である緑玉以上の適性で使いこなすことができます。
 慎重適性は白玉です。
 
 子供だけあってすばしっこくて器用。
 でも、ダメージ系の魔法はやや苦手なほうです。
 
 筋力が2なので華奢です。
CW:リプレイR | コメント:0 | トラックバック:0 |

CWPC2:レベッカ

 シグルトが宿帳にサインしていると、再び宿の扉のベルがからん、と鳴った。
 
「ん?…ああ、レベッカか」
 
 入ってきたのは茶色の髪をした背の高い女だった。
 
 歳は20代半ばに達しているだろう。
 聖北教会の禁欲的な坊主が見たら卒倒しそうなぐらい、肌を露出している扇情的な美女である。

 彼女が纏った、革でできているその服は胸元が大胆に開き、下半身を覆う革のスカートからはみっちりとした肉が覗いている。
 それでいて腰のくびれは8の字を連想させる見事なしまりだ。
 さぞかし好色な男にとっての眼の保養になるだろう。
 
 しかし親父は知っている。
 この女が身体をわざと見せて、相手の油断や感情のざわめきを起こして隙をつくり、それを利用する毒婦のような狡猾さをもっていることを。
 
「たっだいま~。親父さん、冷たいエールね~」

 艶っぽく紅い唇から出た第一声はなんとも甘い声だった。
 
「ちょっとまってくれ、また新しいのが来たんで宿帳に書いてもらってるんだ」

 親父はそういうと再びシグルトのほうに注意を向けた。
 
「あら、新入りさん?」

 そういってシグルトの顔を覗き込んだ女の顔がすぐににんまりとなる。
 
「あら~、好い男じゃない!
 
 私はレベッカっていうの。
 あなたは…シグルト?
 カッコいい名前ね~」
 
 宿帳で名前を確認した女は、馴れ馴れしく近寄るとシグルトの腕や首に触れようと、身を乗り出して行く。
 純朴な少年ならのぼせて倒れそうな状況だっが、シグルトは鬱陶しそうに身体を離した。
 
「男の誰もがそういうのを望むとは思わないことだ。
 
 あと、冷たいエールが飲みたいぐらいなら、こういう暑っ苦しいことはすべきじゃないな」
 
 隙のない、そして辛らつなシグルトの言葉であった。
 きょとんとしたレベッカを見て親父が吹き出した。

「はははっ!振られたなぁ、レベッカ」
 
 親父に笑われた女…レベッカは、傷ついたように大げさにうなだれると、シグルトから一つはなれた席に座ってだらしなくカウンターにもたれかかった。
 
 シグルトは何もなかったように、再び宿帳に書き込みを始める。
 
「親父さ~ん。
 海よりも深く傷ついたわ。
 私の心を美味しいお酒で満たして~」
 
 カウンターに空いた節穴をいじりながら、それほどこたえた風でもなく、レベッカは甘えた声で親父に酒を催促した。
 伏目がちに行うその仕草は実に扇情的だが、シグルトはまるで興味がないように、黙々と書き込みを続けている。
 
 よく見れば、レベッカは薄目で油断なくシグルトを観察している。
 口元には、わずかに笑み。
 
 本当に傷ついているのではなく、すべてこの女の演技である。
 
 親父はやれやれといった感じで陶器製のジョッキによく冷えたエールを注ぎ、その顔の前に置いた。
 レベッカは実に幸せそう顔でそれをぐい、とあおった。
 
「んん~、この一杯が私の幸せっ!」

 井戸で冷やされた程よい口当たりと、喉に絡む泡の痺れに満足げな声をあげて、彼女は二口目も楽しんだ。
 
 
「…これでいいか?」
 
 シグルトが差し出した宿帳を確認した親父は頷くと、シグルトの前にもストンとエールのジョッキを置く。
 
「俺の奢りだ…
 
 小さき希望亭にようこそ!」
 
 置かれたジョッキを不思議そうに見ていたシグルトは、やがてかすかに笑うと、ああ、と言ってエールをあおった。
 
 ふいにかちゃん、と側で音がする。
 
「新人シグルトにカンパ~イ!」
 
 いつの間にか気配もなくシグルトの近くによった女が、ジョッキを合わせて鳴らした音だった。
 
「…盗賊だな、あんた」

 シグルトは、エールを飲みながらぼそりと言った。
 
 盗賊…
 冒険者にとって陰であり、犯罪や裏の社会に通じていて仲間をサポートする職業である。
 冒険者が半ばごろつき扱いされる理由には、彼らの存在もあるからだ。
 ちょっと転じれば犯罪者そのものであり、泥棒…賊と呼ばれる行為も平気で行う連中である。
 冒険者のなかでも最も胡散臭い連中だと言われる。
 
 しかし、優秀な盗賊は冒険者に必須である。
 時に犯罪すれすれの危険な仕事をしたときに、彼らの知識やコネクションは大いに役立つし、犯罪組織の膨大な情報を引き出すときも彼らは活躍する。
 罠の解除や進入に必要になる解錠の業に、敵の背後を突く隠密の業。
 それらはまさに一つの技術体系である。
 
 レベッカはシグルトの言葉にあいまいな笑みで返した。
 
 
「うん、そうだ。
 レベッカ、お前こいつと組んだらどうだ?」
 
 唐突に親父が言い出すと、レベッカは気だるげに首を横に振った。
 そして、演技をかなぐり捨てた冷徹な彼女の素顔を見せる。
 だらしのない頭の緩んだ女の顔ではなく、鋭さを感じさせるほどの冷笑。
 
「この手の戦士っぽい男は掃いて捨てるほど転がってるわ。
 私が組みたいのはむしろ魔術師や僧侶ね。
 
 連中はすごく貴重だし」

 先ほどの甘えたものとは打って変わった、きびきびとした口調だった。
 これが本来の彼女である。
 
 シグルトは媚を売っても効果がなく、どうやらレベッカの本質を見抜いている。
 それに気がついたレベッカは、無駄なことは止めた。
 
 宿の親父はこういうレベッカの本質もよく知っている。
 派手な衣装も、扇情的な態度もすべて演技だ。
 
 怠惰ではあるが、この女は本来、地味で効率のよさを重視する。
 その仮面の下は、剃刀のように鋭利な刃である。
 
 レベッカは卑屈な態度をとることに慣れてしまったが、本心からしたいとは思わない。
 だから、その素顔をあらわにした。
 クールで利己的な彼女のもう一つの顔だ。
 
 親父はしらけた雰囲気をつくろうように皿を一つ取ると、磨きはじめる。
 
「…だが優秀な戦士は必要だろう。
 お前、こいつを見て判らなかったのか?」
 
 親父の言葉をレベッカはふん、と鼻で笑った。
 
「体格や筋肉がよくたって、剣の一本も下げてないお坊っちゃんはお断りね。
 素手で熊を殴り殺せるというなら話は別だけど。
 
 …まあ、親父さんの言いたいことは分かるわよ。
 この美形君が只者でないことぐらい、雰囲気で感じるわ。
 
 でも、私は見えるものと、自分で信用できるものから判断して選ぶわ。
 不気味すぎて、ごめんこうむるわよ」
 
 先ほどの仕返しとばかりに、シグルトにも聞こえる声で辛らつな評価を下すレベッカ。
 
 親父の手が止まる。
 
「そこが悪いんだお前は。
 
 お前は、慎重すぎる。
 そんなんじゃ、いつまでたっても相棒なんて見つからんぞ。
 
 そうやっていつまでも組まずにやってりゃ、他の連中にすぐ引き離されるぞレベッカ。
 お前は才能だけなら天才だ。
 若い頃にその技術を使って仕事をやってれば、今頃は一財産作れたかもしれなかったってのに。
 
 なのに、今はどうだ?
 
 あれだけ俊敏で優秀だったお前も、色気と脂肪ばかり付いてやがる。
 随分なまったんじゃないか、お前の腕も。
 そのうち脂肪が垂れて、皺が増えれば男も寄り付かなくなる。
 そうなればお前は腐っていくだけだ。
 
 怠け癖と食わず嫌いが極まれば用なしになるのがこの商売だ。
 せめて今月の飲み代を払えるぐらいには、仕事ができるようになるんだな…
 
 どうだ?
 とりあえず組んでみれば、仕事の範囲が増やせるぞ?」
 
 親父の言葉に、うっと言葉を詰まらせるレベッカ。
 
(脂肪が垂れて腐るですって?!
 くっそ~、気にしてることいいやがって…このハゲ茶瓶が。
 
 それにしても、ほんとツケのことになるとうるさい爺ね)
 
 親父が知ったら怒り狂いそうなことを考えつつ、レベッカはさっきから黙っているシグルトを眺めた。
 
 かつてレベッカは、若手冒険者の中でも一級の盗賊として知られていた。
 そのことが、逆に彼女につりあう仲間の結成を困難にしてしまっていたのだ。
 加えてレベッカは、仲間の選択において容赦がなかった。
 実力、性格、各役割をこなすスキル…
 それらが欠けた者には見向きもしなかった。
 そして、生き残るために慎重で臆病な盗賊としての当然の選択だと、レベッカは自負していた。
 
 レベッカにはそれだけ我侭な主張を通すだけの実力があった。
 しかし、そんな彼女に応えられる実力者は現れず、レベッカは力を埋もれさせたまま、半ば腐っていたといっていい。
 
 今では自棄酒に不摂生がたたり、随分身体がなまったと自身でも分かっている。
 一見肉感的な肢体も、脂肪が増えた結果である。
 
 そんな状態になった現在、彼女の心はもう動かなかった。
 
 退廃が心を満たしていた。
 その泥のような環境に埋もれたまま、のたれ死んでもいいとも思うほどに、レベッカの心は荒廃していた。
 
 実力云々など、もうどうでもいいのだ。
 様々なことをあきらめてしまったレベッカは、もう新しく仲間とパーティを組む気にはなれない。
  
 苦虫を噛み潰したように、ふてくされていると、その横でシグルトは最後のエールをぐっと飲み干した。
 そして、流れるような動作でレベッカを見返す。
 その深い色の双眸が、レベッカの両目にぴたりと視線を合わせた。
 
(…うはぁ。
 
 このミステリアスな眼で見つめられたら、小娘ならイチコロねぇ)
 
 胸を震わすようなその視線すら、余裕の表情で笑みさえ浮かべて見つめ返す。
 
 レベッカは恋愛や男女のときめきなどというもの関しては、冷め切っていた。
 男を見つめるとき、色恋は交渉のための武器でしかない。
 
 泰然と見詰め合うことしばし、シグルトのほうがかすかに表情を変える。
 口の端を吊り上げて、笑ったのだ。
 どこか困ったように傾いた秀麗な眉。
 それは、〈苦笑〉というのがもっともしっくりとくる表情だった。
 
「…魔術師なら心当たりがある。
 加えるなら、その魔術師は俺の仲間だ。
 
 あんたが盗賊なら話は早い。
 その条件なら、しばらく組んでみる気になるか?」
 
 突然の誘いに、レベッカは珍しく本当に唖然とした顔になった。
 
「…びっくりね。
 
 冷たくしたら何でいきなり態度が変わるのかしら?
 そういう女が好みなの?」
 
 取りつくうように、レベッカは足を組み替えながら、できるだけ落ち着いた声で聞く。
 
 シグルトは首を横に振った。
 
「あんたが必要だと思ったから誘っただけだ。
 
 俺を評価した時の判断力と慎重さが、俺が求めていた仲間の条件に一致したからな。
 少なくとも、俺の仲間になる奴は、幾人かは慎重な奴がいい。
 それが盗賊なら、臆病なぐらいが理想だな。
 
 俺は鈍感だし、向こう見ずなところがある。
 それで失敗もしたし、補うべきところだと感じている。
 判断の基準は、俺にないものを持っているあんたがいれば、自分の実力を発揮した戦いができると、直感的に思ったからだ。
 多少だが経験上の教訓からも考えてみて、それがベストだと感じるしな…」
 
 シンプルでストレートな解答だった。
 飾った言葉も世辞もなく、見栄や外聞を一切出さず、理由のみを淡々と述べる。
 
 素人の新人冒険者が出す解答ではない。
 
 客観的に物事を見る視点と、自身の恥部を隠さず冷徹に見据える自省の心。
 加えて、そういったものをもとに直感的に判断するほどに磨かれた経験。 
 
 こんな男は初めてだった。
 
 レベッカはこの若者に対して、くすぶっていた好奇心が沸き起こるのを感じていた…

 
 
 というわけでリターン第2話のレベッカの紹介です
 
 英明型の盗賊で(彼女もインチキ)ものすごく優秀な盗賊です。
 狡猾+器用度が最大の白玉適性という天才ぶり。
 
 リプレイでも人気キャラでしたし、実は陰のヒロインは彼女だったり。
 彼女のプロフェッショナルぶりは、リターンでも冴えまくっていると思います。
 
 
 レベッカはリューン出身です。
 幼い頃に両親が乗っていた馬車の横転で死亡し、孤児院に預けられましたが、その孤児院は実は人身売買を行っていた酷いところでした。
 レベッカはその孤児院を始末に来たリューンの盗賊ギルドの幹部に助けられます。
 と申しますか、レベッカがユベールを助けて、助けさせたというほうが正しいのですが。
 その男こそ、“錦蛇”と呼ばれた大盗賊ユベールです。
 Martさんのリプレイに登場したユーグの父親になります。
 
 レベッカは片腕を失って引退したユベールに引き取られて育てられました。
 
 レベッカのしたたかさと驚異的な手先の器用さを知ったユベールは、のめりこむように、盗賊としての基本技術を叩き込みます。
 実の息子にはできなかった、手に入れた才能をひたすら磨き上げる喜び。
 襲撃のときに負った怪我から発祥した病気で、ユベールは亡くなりますが、彼は最高の後継者を残すことになります。
 
 そうして、再びレベッカは10歳でまた天涯孤独になり、ギルドの下で猫(スリの隠語)をして糊口をしのいできました。
 
 13歳になったころ、彼女の容貌の美しさに注目した盗賊ギルドの幹部が、色仕掛けで男を篭絡する術を教え、同時に盗賊としての専門的な教育をうけたレベッカは、年下の猫を統率する職に就き、それを8年ほど続けました。
 その後、ある不名誉な職に就きます。
 
 ところが、ギルドの勢力交代で彼女の職は他の連中に奪われ、レベッカはそれを機会にギルドからはなれて冒険者になります。
 
 その頃の実力は本当に優秀で、なまる前のレベッカは、数々の伝説とともに後輩の盗賊たちに畏敬の目で見られていました。
 2レベルまで下がっていますが、レベッカが若く、最高潮の頃は5レベルぐらいありました。
 
 アレトゥーザのファビオとも知己で、ファビオはレベッカの数少ない理解者だったといえます。
 意外にも面倒見がよかったせいで、後輩の盗賊(スリが多い)たちには慕われていました。

 レベッカは、その才能だけは盗賊ギルドでも並ぶものがいないほどの天才でした。
 冒険者になった後、美しく、実力もある彼女は他から望まれることも多かったのですが、パーティを組まずに宿でだべることが多かったようです。
 彼女はある意味、仲間に対して理想がとても高かったのです。
 まぁ、彼女に並ぶにはよっぽどの実力がなければ難しいのですが、加えてレベッカは精神面や技術面でも理想が高かったわけで、結局仲間はできませんでした。
 
 お金に困って、適当な男を捕まえて貢がせたり、飲み屋でアルバイトをしたりといろんな経験をつんできましたが、どんなことも長続きせずに宿に戻ってきては、お金がなくなるとまた適当なことをして糊口をしのぐということを繰り返していました。
 
 性格は怠惰ですが、ものすごく狡猾です。
 
 目的のために結構えげつない手段も選べる側面を持っています。
 本来の彼女は質素で地味な服装を好みます。
 色っぽい服装はいわば盗賊としての仮面です。
 気分屋でだらけたような中に、冷徹で剃刀のような一面を隠し持っています。
 ただ、子供を殺すとか、貧乏人から奪うような非道まではせず、お人好しな部分も備えた、実に混沌とした性格です。
 
 彼女がギルドをやめた理由は、後輩の女の子をかばって、不名誉な職業に就き、その後に上司が死んでその職業を続ける必要がなくなったからです。
 利己的で不実な顔を持ちながら、仲間や親しいもののためには汚れることも辞さないお人好しです。
 
 その職業とは、色仕掛けで男を殺す暗殺者でした。
 そういう職業経験からか、レベッカは恋愛面でどこかが壊れてしまっています。
 
 でも、シグルトや仲間との出会いは、冷め切ったレベッカの心を徐々に溶かしていきます。
 

◇レベッカ◇
 女性 大人 英明型

秀麗     下賎の出   都会育ち
貧乏     不心得者   不実
冷静沈着   貪欲     利己的
混沌派    進取派    神経質
好奇心旺盛  穏健     楽観的
遊び人    陽気     地味
繊細     軟派     お人好し
 
器用度:12 敏捷度:8 知力:8
筋力:5 生命力:4 精神力:5
 
好戦性+1 社交性+2 臆病性+2 慎重性+2 狡猾性+3
 
 知力も高く、参謀となることもあります。
 驚異的に素早くはありませんが、それなりに優秀な身のこなし。
 性格面でも盗賊としては一級です。
 
 加えて【会心の一撃】もそこそこに強いという、盗賊に生まれついたようなキャラクターです。
CW:リプレイR | コメント:0 | トラックバック:0 |

CWPC1:シグルト

 冒険者の宿『小さき希望亭』。
 
 リューンの郊外に位置し、ちょっと髪の生え際が危ない頑固親父が経営する冒険者の宿である。
 
 宿の親父がいつものように食器を磨いていると、宿のドアにつけられた鈴がからん、と鳴った。
 
「いらっしゃい…宿をお探しかい?」
 
 さらりと聞いた親父を無表情に見つめた客は、年のころは17、8になる青年だった。
 
 凛とした眼差しに端整な顔立ち。
 やや痩せ過ぎにも思える体躯は、筋骨隆々ではないものの、服の合間からしなやかな逞しさを覗かせている。
 背丈は180cmを優に超えるが、この背丈の男にしては顔は小さ目でまたしたも長く、大男という印象は与えなかった。 
 リューンの街娘に騒がれそうな美丈夫である。
 
 しかし、どこか暗い雰囲気を放っていた。
 陰がある、とでも言おうか。
 その神秘的な青黒い瞳は、夜の淵のようにどこまでも深い。
 
 北方の出身であろうか、肌は黒い髪と瞳とは対照的にとても白く、その辺りの普通の町娘よりは、はるかに滑らかで美しい。
 
(こいつは、あいつが騒ぎそうだな…)
 
 ミーハーな自分の娘を思い出し、心の中でぼやく親父。
 そのどこか空ろな雰囲気さえ、その男をさらに魅力的にしていた。
 
「ここが冒険者の宿、か…」
 
 青年は静かに息を吐いた。
 深い呼吸…何かを耐えるような、噛み締めるような吐息だった。
 
「小さき希望亭っていうんだ。看板にあっただろう?」
 
 親父が眉間に皺を寄せて言うと、青年は黙って軽く頷いて見せた。
 
「俺はシグルト。冒険者になろうと思っている」
 
 …偉大な龍殺しの英雄と同じ名前を持つ青年は、実に簡素にその名を名乗った。
 
 
「ああ、新人ってやつか…」
 
 親父は少しあきれたようにつぶやく。
 
 この手の若手冒険者見習いは後をたたずやってくる。
 一年も続けられずにほとんどが宿を去っていくのだが。
 
 親父は大げさに手を広げると、やれやれというように首をすくめた。
 
「おまえさん、なんでこんな世知辛い商売やろうと思ったんだい?
 甘くないぞ、冒険者って仕事は」
 
 親父はいつもこの手の輩に、一応は同じ言葉をかける。
 適当な気持ちで失敗すれば死ぬ職業であり、失敗した冒険者が出れば宿の名も落ちる。
 まずは新人の意気込みを確認する…簡単な試験のようなものだった。
 
 青年は緊張した様子もなく、カウンターの椅子にゆっくりと腰を下ろす。
 何かを思うように、上を向き目を閉じてしばしの沈黙。
 やがて、目を開けると人事のように話し出した。
 
「…故郷でいろいろあって流れてきた。
 特に行く宛もないが、無駄にこの身を捨てることは、ある女への借りがあるからできない。
 
 正直、どんな仕事でもよかったんだけどな。
 
 坊主になるほど敬虔じゃないし、書庫で埃と巻物に埋もれる柄でもない。
 今俺にあるのは、多少は他人より褒められたことのあるこの腕っ節ぐらいだ。
 金も、家も…何もない。
 
 ただ、この身ひとつでできると聞いたから、やってみようと思った。
 そう…穀潰しになりたくなきゃ、傭兵か冒険者しかなかっただけだ。
 
 だが、傭兵は戦争屋で、ただの人殺しだろう。
 金を取ってまで、ひたすら戦争や殺しっていうのも気がめいるから、冒険者にした。
 
 …そんなもんだな、理由なんて」
 
 淡々と語ったシグルトという青年は、安酒のラベルに視線を向け、むっつりと黙り込んだ。
 
 親父は話の節々から、このシグルトという若者が只者ではないと感じ始めていた。
 
(…なんなんだこいつは?
 
 こんな若造のくせに、えらく達観してる。
 
 それにこの眼。
 相当な地獄を見なきゃ、こんな眼にはならねぇぞ。
 
 加えて、武器も持ってねぇのにこの雰囲気はどうだ。
 熟練の戦士の落ち着きじゃねぇか。
 
 見たことないぞ、こんな奴は…)
 
 難しい顔をして聞いている親父に、シグルトと名乗った若者は涼やかな眼差しを向けた。
 
 親父の胸が好奇心に高鳴る。
 
 珍しいこと。
 それは冒険者にあって、生き残る悪運そのものになる。
 
 よく揶揄されるのだ。
 一流の冒険者は〈変わり者〉だと。
 
 親父は内心ニヤリとした。
 
 この男が持つ、変な先入観や憧れで冒険者になるだけの…ただの若造とは違った、ふてぶてしさ。
 こういう人物の方が強くなるし、つらい仕事にも耐えられることを親父は長い経験から理解していた。
 
「そうか。じゃあ、宿帳に名前を書いてくれ」
 
 親父は手垢で汚れささくれた羊皮紙の束…冒険者の名簿を、カウンターにどっかと置いた。
 
 これが後に『小さき希望亭』最強の剣士と呼ばれるようになる冒険者シグルトと親父の出会いである。

 
 
 “風を纏う者”リプレイR,第1話はいかがだったでしょうか。
 
 そう、パソコンの故障とともに消えてしまったリプレイのやり直し、加筆修正版で復活を狙う、とんでもないリプレイ、リターン(R)。
 アレトゥーザもだいぶ様変わりしましたし、思い切ってリプレイをやり直しつつ、過去気に入らなかったところはどんどん書き直しちゃおうという新企画。(転んでもただでは起きないぞ~、というY2つめの暴走です)
 
 1話目はシグルトの登場を加筆修正でお送りします
 
 言わずと知れた(?)、“風を纏う者”のリーダーです。
 
 …インチキして作った英雄型なんです。
 武骨でぶっきらぼうな戦士…なんですが、すんごい美形です。
 
 クールに見えて実は熱いハートの持ち主。
 誠実でお人好し、武骨で硬派なストイックな青年です。
 彼の禁欲さは、無欲なのではなく、目的のために徹底的に欲を押し殺すタイプ。
 努力家で堅実かつシンプル。
 鈍いけど、変なところで勘が働きます。
 
 実は、リプレイ初期でかなり初期設定が変わってしまった人物で、第1話は矛盾が多かったんですね。
 今回の加筆修正で、より初期の頃のどんよりしたシグルトを表現しようとしました。
 
 シグルトという名前は北欧神話の英雄、龍殺しのシグルトからとったものです。
 シグルトの父親は神話マニアで、シグルトの妹もシグルーンというワルキューレ(戦乙女)の名前をつけてるぐらいです。
 折り合いの悪かった異母兄の名前はベーオウルフ(北欧ではシグルト並みに有名な英雄)ですし。
 
 シグルトの父親は、北方にある寒冷な国の一地方に小さな所領を持つ騎士で、一応は男爵様でした。
 母親は妾から正妻になった美しい夫人。
 高慢で貴族であることを鼻にかける異母兄と、同母の妹。
 
 シグルトの母親は没落した大貴族の元令嬢で、形としてはシグルトの父親に囲われてる愛人の時期を経て、正式に妻になったという形ですが…
 実はシグルトの父親が、「愛人として囲う」ことで、好色な貴族たちから、絶世の美女と謳われたシグルトの母親を守ろうとしたのが真相です。
 馬の暴走で森に振り落とされ、途方にくれていたシグルトの母親は、遠乗りに来たシグルトの父に助けられ、そうして2人は知り合いました。
 事業の失敗で、シグルトの母の両親は自殺してしまい、その罪でシグルトの母の家は取り潰し(シグルトの故国では自殺は大罪)、シグルトの母は放っておけばスケベな貴族や商人に奴隷同然として買われていく寸前でした。
 そこを、シグルトの父が、自分が愛人を囲うという不名誉を背負って助けたのです。(こういう形でしか、咎人の娘であるシグルトの母親を救う術はありませんでした)
 シグルトの父親は誠実な堅物で、まったく手を出さなかったのですが、シグルトの母親の方から愛を打ち明けます。(助けられたときから好きだったわけでして)
 そのうち両想いになって、シグルトが生まれたわけです。
 
 そんなシグルトの母親は、開国の代、初代国王の弟の家から出た名門の血筋です。
 その血筋には、白エルフと呼ばれる上位エルフの族長の娘と亡国の王子との間に生まれた、オルテンシア姫という女傑の血も流れています。
 オルテンシア姫は優れた精霊術師で弓の名手、開国の王とその弟で王国の宰相となった俊才の母親です。
 
 シグルトの瞳は、ハーフエルフだったオルテンシア姫と同じ色で、彼が先祖の特徴を出だすのは、その素質のあらわれです。
 美形で肌が白くて優秀な能力も、それ故、というわけです。
 シグルトは後々、精霊術師としての素質も開花していきますが、それも先祖の影響です。
 
 成長したシグルトは、“青黒い稲妻”と呼ばれる槍使いの戦士になります。
 その実力は、(小国ではあるのですが)国の若手ナンバー1と称えられるほどでした。
 美しい恋人を得、順調な人生を歩んでいたシグルトですが、不幸に巻き込まれ、国を追放されます。
 その不幸ぶりは、前のリプレイでも紹介していますが、全身に重い傷痕と体調不良を抱え、失意を胸に西方に流れてきました。
 
 リプレイ2のオルフとは、後に同じ北方の出身として意気投合し、親友になります。
 
 凛々しく背が高いので女性にもてるのですが、鈍感で武骨とくれば色恋には当然朴念仁。
 女性の必死のアプローチを「変な行動」と率直に言ってヒンシュクを買うタイプです。
 ですが、子供好きで責任感は強く、面倒見がよくて、親しい女性には誕生日プレゼントとかまめにしますし(妹と恋人に躾けられてます)、時折見せる笑顔は多くの娘のハートを震わせます。
 前の恋人を今も愛しているのと、生来の鈍さから女泣かせな結果に終わっていますが。
 
 「腕っ節が強いだけだ」と本人は言っていますが、知性はそれなりに高いし、勇敢で根性があります。
 
 身分や種族の差でいわれのない迫害を受けるものが大嫌いで、弱いものを守ることを誓い、その信念を貫くことを名誉としています。
 彼を描くひとつの形として、「顔より格好良い生き様」が表現したいなぁと思っています。
  
  
◇シグルト◇
 男性 若者 英雄型

秀麗     高貴の出   誠実
鈍感     勤勉     武骨
硬派     お人好し   名誉こそ命
 
器用度:5 敏捷度:6 知力:7
筋力:11 生命力:8 精神力:8
 
社交性+1 勇猛性+3 正直性+2
 
 データの調べ方は秘密です。
 
 あいもかわらず長いのは私の癖みたいなものですので、まあ、読む方は流すか慣れてくださいね。 
CW:リプレイR | コメント:0 | トラックバック:0 |

CW風 英雄紹介 2回〈ランスロット〉

 第2回は、不貞のそしりを受けた悲劇の騎士、ランスロットです。
 
 ランスロットは“湖の騎士”と呼ばれた円卓の騎士最強の男です。
 エレインという奥さんとガラハッドという息子がいるのですが、アーサー王の妃グウィネヴィアとの不貞で名誉を失い、キャメロットから去ったといいます。
 それがアーサー王が作った王国が衰退する兆しでした。
 
 一騎討ちでは負け知らずの英傑で、マーリンが見出したとも、湖の妖精が彼を紹介したとも言われますが、本来アーサーの騎士として仕えるべきは息子のガラハッドであったといいます。
 ガラハッドは騎士で唯一、聖杯に達した無垢なる騎士で、さすがに父親の遺伝がよかったのでしょうね。
 
 ランスロットは無骨で不器用な騎士といえます。
 実際、不倫したといっても、肌にも触れないプラトニックな婦人と騎士の偲ぶ恋だったようですし、王への忠誠心は深かったといわれます。
 騎士の中の騎士、と呼ばれてましたし。
 でも、不貞のそしりを受けながら、処刑されそうになったグウィネヴィアを一人で救出するあたり、一途な性格だったんでしょうね。
 
 ランスロットが人気があるのは、愛にも忠誠にも、そのときそのときを真っ直ぐ進んだその性格にあるのかもしれません。
 まあ、不倫とかゴシップが大好きだった人たちが、面白おかしく描いて物語を残したのもあるのでしょうが。
 禁忌のかかわるものは、なぜか人気があるんですよね。
 
◇ランスロット
 レベル10 無双型 大人
 
器用度:4 敏捷度:6 知力:6
筋力:11 生命力:8 精神力:7
 
好戦性+1 社交性+1 勇猛性+4 正直性+2
 
装備
・名剣アロンダイト
 
 アーサー王の伝説は、出てくる騎士たちはそれなりに強いですが、どこか普通っぽい感じがしました。
 無双型にしたのは、なんとなくランスロットの人間らしさを残したかった感じです。
 半神の英雄とかからみると、それほどじゃありませんが、無双型は筋力では神仙型や英雄型を凌ぎますから、あながち最強の名はおかしくないでしょう。
CW風 英雄紹介 | コメント:10 | トラックバック:0 |

CW風 英雄紹介 1回〈アキレウス〉

 最近、新記事を書いてないので、ちょっとY2つ風のバランスで、カードワースのデータに当てはめた英雄紹介などしてみようと思います。
 あくまでも、私が編集するとこんな感じになるということなので、めくじらは立てないでくださいね。
 
 第一回はアキレウス。
 ギリシャ神話の、トロイ戦争に登場する英雄です。
 
 母親はテティスという美しいニンフで、「父親より強い子が生まれる」という予言を受けたテティスを警戒したゼウスとアポロンは、テッサリアの王ペレウスをそそのかし、テティスと結婚させました。
 そして生まれたのが、トロイ戦争で最高の武勲をたてたアキレウスです。
 テティスはアキレウスを、不死を与える泉に浸したのですが、そのときテティスがつかんでいた踵の部分だけは不死身になりませんでした。
 
 成長したアキレウスは、最強の武人になりますが、トロイとの戦争が起こったとき、「この戦争に参加すれば永久の名声が得られるが、死も迎える」という予言を受け、母親のテティスはアキレウスを女装させて巫女たちと一緒に孤島に隔離してしまいます。
 しかし、ギリシャの誇る知将オデュッセウスが商人に化けて、武具を商品に混ぜておき、わき目もふらず武器を手に取ったアキレウスの正体を見抜き、結局アキレウスはトロイ戦争に参加します。
 
 彼は粗野で、ある意味高慢な英雄でした。
 優れた武勇と戦術観はあった様子ですが、知将とはいえない子供っぽい性格の英雄です。
 戦利品の女の子を大将のアガメムノンにとられて、すねて参戦拒否をしたり、ギリシャ軍がそのせいで劣勢になると、アキレウスの従兄弟のパトロクロスが業を煮やして、アキレウスの武具を着て参戦し、敵将ヘクトルに殺されたら、今度は怒りくるってヘクトルを一騎討ちで打ち倒し、その死体を戦車で引きずって辱めたり。
 
 結局は戦争の原因となった、敵国の王子パリスに踵と心臓を射抜かれ殺されてしまうのですが…
 
 こういう極端な英雄のほうが、かえって愛されるのかもしれません。
 
◇アキレウス
 レベル12 英雄型 若者~大人()内は大人時のデータ
 
器用度:6 敏捷度:11 知力:5
筋力:11 生命力:7(6) 精神力:6
 
好戦性+4 社交性+1 勇猛性+4 大胆性+2 正直性+2
 
特殊能力
・不死:踵を攻撃されない限りは、どんな攻撃も防御できる。
    踵を攻撃されると行動不能になり、通常攻撃が有効に。
 
装備
・へパイストスの作った甲冑と武器
・名馬と戦車
 
 美形に描かれがちですが、彼が美形だったという記述は見たことがないです。
 おそらく秀麗ではないだろうなぁ、と。
 生命力と精神力が低めなのは、猪突猛進で、あっけなく死んじゃったのでです。
 彼が強かったのは、間違いなく優れた武具やその不死性故でしょう。
 半神で能力やレベルも高かったのもあるのでしょうが。
 
 敏捷度が高いのは、彼の素早さが「アキレスと亀」でたとえられているからですね。
 一応、英雄型とほぼ同じ能力値の合計で、データを作ってみました。
CW風 英雄紹介 | コメント:2 | トラックバック:0 |

もっと【一撃必殺】をっ!

 今回、風屋では大幅にキーコードに関するデータを強化する予定です。
 
 その中でも多用されているのが【一撃必殺】。
 
 実はついてると多くのシナリオでかっちんされるのですが、Pabitさんなど一部の方は有効活用していらっしゃいます。
 
 ずばり、暗殺と並び、敵を一撃で屠る可能性があるスキルです。
 
 こればっかりは対応シナリオしだいですが、タフな雑魚敵をこのキーコードで成功後10%ぐらいで一撃ダウンとか、ここぞというところでとどめの演出に使ってほしいキーコードです。
 
 威力そのものは普通ですが、わざとこのキーコードをつけたスキルが登場すると思います。
 無効化されたら、あきらめてください。
 それもまたドラマですので。
 
 ただキーコードによる無効化より、もっと有効利用できそうなキーコード、ありそうです。
 ただの無効化より、イベントで使えるキーコードを増やしたいです。
『風たちがもたらすもの』(『風屋』) | コメント:10 | トラックバック:0 |
| HOME |