Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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『ブリュンヒルデ』

 その娘は、颯爽と王宮の廊下を歩いていた。
 
 煌びやかな夜会用の礼装に身を包み、手には白を基調とし、宝石で飾った絹の手袋。
 その格好から、身分の高い貴族の子女であることが推察できる。
 
 柔らかに波打つ黄金の髪。
 慎ましく服の間から覗く肌は、北方人のそれの中でも際立って肌理細やかで白い。
 アーモンド形のやや切れ長の瞳は、鮮やかなエメラルドグリーンで、知性と意志の強さを秘めた強い光を湛え、輝いていた。
 上質の絹で出来た夜用の礼服に包まれた肢体は、しなやかでほっそりとしていながら、女性特有のなだらかな曲線も備え、瑞々しい魅力を放っている。
 すっと通った鼻梁。
 その彫の深い端整な顔は、名工の造る女神像を連想できるだろう。
 身体からは、甘い花の芳香。
 薔薇色の唇が、宮廷に満ちた冷たい夜気を温かな吐息に変え、艶かしく呼吸する。
 
 この娘の名をブリュンヒルデという。
 
 このシグヴォルフ王国の伯爵の令嬢で、その美しさはまさに国の至宝とも謳われる絶世の美女であった。
 美男美女が多いこの国において、ブリュンヒルデのそれはさらに抜きん出たものだ。
 
 今年で16歳になるが、10代になった頃からすでに求婚者が後を断たなかった。
 
 だが、この娘の本質は美しさだけではない。
 
 自ら学問や礼法を率先して学び、その教養も他の同世代の娘たちのそれを遥かに凌いでいる。
 溢れるような気品と、それを磨き上げた者だけが持つ、輝くような存在感。
 
 すれ違う男も女も、その美貌と魅力に見とれて歩みを止めていた。
 
 内心そういった視線を煩わしく感じながらも、ブリュンヒルデは完璧な所作で行き交う人々に会釈し、歩いて行く。
 やがて、人のいないテラスを見つけたブリュンヒルデは、滑るようにそこに向かい、夜の噴水を眺めながら深いため息を吐いた。
  
 今夜だけで20人以上貴族の男に呼び止められ、そのほとんどが求婚か、彼女の気を惹こうというものだった。
 貴族たちの話は、自分の家の格式や財産を自慢し、それがいかにブリュンヒルデを娶るために相応しいことか、という自慢話ばかりである。
 うんざりとした気持ちになったブリュンヒルデは、適当な理由をつけて彼らから離れ、人気の無い場所を探していたのだ。
 
 ブリュンヒルデ。
 その名は、伝説の竜殺しを愛した戦乙女…女神にちなんだものだ。
 戦いの女神とされる戦乙女であり、主神の娘である12姉妹の筆頭とされる。
 炎のように竜殺しの英雄を愛し、そして悲恋に身を焼き焦がした戦乙女。
 
 ブリュンヒルデは、同じ名のその戦乙女の叙事詩が好きだった。
 そしていつも思うのだ。
 自分も、身を焦がすような恋をしてみたいと。
 
 だからこそ、ブリュンヒルデは自分が愛するに相応しい男性の出現を望んでいた。
 強く、優しく、そして勇敢で高潔な勇者の出現を。
 
 見目麗しいだけの男はいる。
 しかし、ブリュンヒルデが心引かれる勇気と強さ、そして何より共に歩みたいと思える内面に優れた男はいない。
 もし現れれば、身も心も尽くそうと決めているブリュンヒルデだが、その目に適う男は現れなかった。
 
 強さと言えば、先ほど式典の警備をしていたアルフレト男爵の息子で、若い騎士では最強の誉れの高いベーオウルフがいるが、遠目に見て陰気な雰囲気を纏うその男をブリュンヒルデは好きになれなかった。
 他に強さを自慢する貴族といえば、野卑な男たちがほとんどだ。
 
 彼女の友人に言わせると、ブリュンヒルデはロマンティストで理想が高すぎるのだという。
 
(生涯を共にする男性よ。
 
 理想が高くなっても当然だわっ!)
 
 心の中で小さく憤り、ブリュンヒルデはまた悩ましい吐息を吐いた。
 
 家柄や容貌よりも、ブリュンヒルデが求めているのは内面だ。
 卑屈でなく清廉で、なにより勇敢で曲がらない意志。
 
 正直、ブリュンヒルデは、自分と同じ名の一途な戦乙女は好きだが、忘れ薬を飲まされて彼女を裏切ったという竜殺しの英雄は嫌いだった。
 
 物語は、竜殺しの死をもって完全な悲劇へと向かう。
 戦乙女は、竜殺しの英雄との永遠の愛のために、自らも後を追って炎に身を投げるのだ。
 
 英雄に真の愛情さえあれば、あのような悲劇にならなかったのではとさえ思う。
 ましてやその英雄は、物語の中で他の男に与えるために、戦乙女を屈服させるのだ。
 どんな理由であれ、その裏切りは許せないといつでも思う。
 
 だからこそ、ブリュンヒルデは、何者にも負けない意志を持った男性を理想としていた。
 容貌など、目をつぶせば気にならない。
 でも、心は共に居れば隠せないだろうから。
 
 ブリュンヒルデが再度溜め息を吐いていると、彼女の居るテラスに貴族の娘が1人現れた。
 
 けばけばしい派手な礼服に身を包んだその娘は、好奇心が強くお喋りで有名だ。
 ブリュンヒルデも何度か話したことがあるが、その度に、この娘の早口に閉口させられた。
 
「あら~、ブリュンヒルデ様!
 
 こんなところでお1人でいらっしゃるなんて、具合でも?」
 
 心の中で、貴方が来るまではまだ少しはよかったのよ、と毒づきながら、ブリュンヒルデはそれを感じさせない柔らかな微笑みを浮かべた。
 
「今晩は、フィロメーラ様。
 
 少し夜気に身を任せていたのですわ。
 どうも、祭の熱気にのぼせてしまったようです。
 
 少し休んだので、もう楽になりましたわ」
 
 そう言って会釈をすると、捕まらないうちにと、場を去ろうとする。
 
 しかし、その娘は素早くブリュンヒルデの前に回りこむと、早速お喋りを始めた。
 
「では、もう少しお休みになってはどうでしょう?
 
 実は、良い葡萄酒が手に入りましたのよ。
 よろしければ、式典が始まるまで御一緒にどうですか?
 
 ええ、もちろん従者に持ってこさせます。
 御遠慮はなさらないで。
 杯も最高のものを用意致しますわ。
 
 本当に美味しい葡萄酒ですのよ?
 それに、ブリュンヒルデ様の美しさは、お酒で白い肌を情熱的な赤に染めれば、また一段と輝くと思うのです。
 
 あら、もちろん普段から美貌で名高いブリュンヒルデ様ですもの。
 そのような小細工など必要ないでしょうけれど。
 
 でも、ますます殿方の視線を釘付けに…あらはしたないことを申しましたわ。
 
 私ったら…」
 
 何か理由をつけて去ろうとブリュンヒルデが、その娘に見えないように手袋で隠しながら口端を引きつらせていると、その娘が思いついたように手を打った。
 
「あらいけない…
 
 私ったら、噂のシグルト様を探すつもりでいましたのに、ブリュンヒルデ様と出会ってしまって、つい話し込んでしまって。
 お許し下さいね」
 
 娘の口から出た名前に、ブリュンヒルデの瞳が好奇に輝く。
 
 シグルトとは、ブリュンヒルデ…彼女と同じ名の戦乙女が愛した竜殺しの英雄の名なのだ。
 
「そのような名の方がいらっしゃるの?
 私、そういった噂には疎いもので…
 
 無知ゆえの恥を忍んでお尋ね致しますけど、その殿方とは?」
 
 大抵の貴族の若者とは、求婚されたり、社交の場で会って話している。
 それに多くの男たちは、ブリュンヒルデと話すことにやっきになるのだ。
 
 そんなブリュンヒルデが知らない男のことである。
 
 貴族の娘は、少し考えた様子だったが、お喋りの虫が騒いだのか、やがて話し始めた。
 
「ええ、御存じないことでしょう。
 
 その方は貴族とはいっても、身分がちょっと…その、男爵家の御次男で、大きな声では言えないのですけれど、男爵様の後妻となられた方のお子なのです。
 貴族の社交場にもめったにこられないですし。
 
 でもお血筋は、本来であれば王家に連なる名門のものですのよ。
 かのワルト領公爵家のお血筋、と言えばお分かりになるかしら?」
 
 この娘のお喋りも、たまには興味深いものがあるものだと、ブリュンヒルデは目を細め、彼女に頷いた。
 
「なるほど。
 
 では件の殿方は、アルフレト男爵の後添いになられた、あのオルトリンデ様の御子息、ということですのね?」
 
 オルトリンデ。
 その名は、美女と噂されるブリュンヒルデだからこそよく聞き知っていた。
 
 この国の建国王シグヴォルフ。
 その弟シグヴァイスの血筋であった、ワルト領の公爵家は、特別な家であったのだ。
 公爵家は、自殺が大罪とされるこの国で当主である公爵とその妻の自殺したことにより、一度取り潰されてしまったが、公爵夫妻の一人娘であったオルトリンデは、美女として知られた女性だった。
 ブリュンヒルデは、オルトリンデと噂でよく比較されたので、何度もその名を聞いている。
 
 そして、ブリュンヒルデはオルトリンデを羨ましいとも感じていた。
 
 アルフレト男爵と、悲劇の令嬢オルトリンデの恋の物語は、宮廷詩人たちが好んで話題とする話でもある。
 
 冷たい妻との生活に疲れていた王国最強の騎士アルフレトが、森で運命的にオルトリンデと出会い、汚名をかぶってもオルトリンデを守って、最後には手柄を立てて女性の名誉を回復し、幸せに暮らすという話。
 
「シグルト様は、御察しの通りアルフレト男爵様とオルトリンデ様の御子息なのです。
 
 10歳までは平民として過ごしていたのですが、今では名誉を回復されたオルトリンデ様と一緒に、貴族になられたのですわ。
 宮中には、めったにこられないのですけれど、その武勇は騎士でも最高と名高い兄のベーオウルフ様にも匹敵する、槍の使い手だとか。
 
 しかも、お母上譲りの妖精のような美貌で…
 一度遠くからお顔を拝見したときなど、息を呑んでしまいましたの。
 
 まるで物語にあるような、本当にお綺麗な方ですわ。
 
 此度の式典では、兄上のベーオウルフ様が王宮警護役の1人となられたので、足の不自由なお父上の代理として式典に参加されるとの噂。
 是非もう一度お会いしたいと…」
 
 思い出すように頬を染めて話す娘を、ブリュンヒルデは半ば呆れて眺めつつ、しかしつまらない祝典の中で楽しみが出来たと心の中で喜んでいた。
 本当に美しいなら目の保養にはなるだろうし、平民としてあったその若者がどんな話をするのか興味深い。
 
「…大変興味深いお話でしたわ。
 
 私も、兄上のベーオウルフ様は先ほどお見かけしましたの。
 その方には是非、お会いしてみたいものですわね」
 
 そして、さらに件のシグルトの居場所を探ろうと、2人で話しながら歩くことを提案する。
 普段はめったにお喋りに付き合わないブリュンヒルデと話せることが嬉しいのか、娘は二つ返事で提案に乗ってきた。
 
 
 廊下を歩きながら、娘はブリュンヒルデにシグルトがいかなる人物かをとうとうと話す。
 
 曰く、9歳で狼から友を守るために戦った話。
 曰く、今年も平民の〈槍術披露の儀〉で優勝したという武勇。
 曰く、高潔で父親にも似た誠実な人物であるという噂。
 
(その辺りで自慢話ばかりする貴族の男より、よほど興味深いわね)
 
 おそらくは誇張された話であろうと考えつつ、ブリュンヒルデは頷きながら歩いていく。
 
 ところが、娘が突然黙り、顔を蒼くしてブリュンヒルデの後ろに隠れた。
 何事かと前を見て、その理由を知ったブリュンヒルデは、秀麗な眉を引きつらせた。
 
 取り巻きを引きつれ、これ見よがしに大股で歩くその男…グールデンは貴族たちの鼻つまみものだった。
 伯父がこの国の司教であるからと、男爵家の次男の身分でありながら、我が物顔で司教の威をかさに着る、ブリュンヒルデがもっとも嫌いなタイプの男であった。
 
 加えるなら自信過剰で、自分の思い通りにならないことは、力づくで解決しようという、乱暴者だ。
 さらに、野卑で好色。
 何人か平民の娘に乱暴を働き、それを伯父の権力でもみ消しているという噂もある。
 
 実は、この男は身分どころかそういった行動をまったく省みず、ブリュンヒルデに下品に言い寄る男であった。
 グールデンは、絶世の美女と名高いブリュンヒルデの夫になるのは自分だと言ってはばからない図々しい男なのだ。
 
(冗談ではないわ…
 
 衛士はここにいないし、他の貴族たちは皆この男の暴挙を恐れて手を出せない。
 すぐにこの場を離れなくては…)
 
 娘の手を引いて、場を離れようとするが、その前に気付いたグールデンが足早にやってきて、行く手を塞いだ。
 
「おお、愛しのブリュンヒルデ!
 
 今宵はますます美しい…」
 
 なれなれしく手をとろうとしたグールデンの手を払い、ブリュンヒルデは毅然と睨みつけた。
 
「そういう貴方は、礼儀がなってませんわね、グールデン卿。
 
 私、貴方に名を呼び捨てることを許していませんわ。
 馴れ馴れしいのではなくて?」
 
 手袋を着けた手で汚ない物を退けようとするかのように、さらに近寄ろうとするグールデンを遮り、非難の目で見つめる。
 
「何を言う…
 
 神に選ばれた司教の甥である、この俺に愛される名誉を拒む女など居るはずがないだろう。
 それに、俺はお前をそこいらの女のように愛人ではなく、妻として望んでいるのだ。
 
 光栄に思うべきだぞ」
 
 あまりに身勝手な口ぶりに、ブリュンヒルデはその横面を叩きたくなったが、思いとどまって眉をひそめた。
 
「とんでもない誤解ですわ。
 
 女性の心を聞きもせず、決め付けるなど…名誉ある貴族の男性がすることではありませんもの。
 さあ、お退きになって。
 
 今なら、不問にしてあげます」
 
 少し声を低くして、威圧するようにゆっくりと言う。
 美しいブリュンヒルデが眉根を吊り上げて睨みつけると、鬼気迫る迫力があった。
 
 思わず怯んだグールデンの横を、娘をひっぱって通り過ぎようとし、ふと娘がすでに逃げ去っていることに気がついたブリュンヒルデは、不機嫌そうに口端を歪めた。
 
 そしてまた歩き出そうとするが、我に返ったグールデンがその手を乱暴に掴む。
 
「…その手を離してください、グールデン卿。
 
 無礼ですよ」
 
 しかし、一度行動に出たグールデンは引っ込みがつかないのか、ブリュンヒルデの言葉に従おうとはせず、乱暴に彼女を抱きすくめようとした。
 
 パシイィィィンッ!!!
 
 その暴挙に、ブリュンヒルデは容赦なく手の甲でグールデンの頬を張った。
 
「いい加減になさい、下郎!
 
 お前のような野卑なだけの男に、どこの女が惚れると言うの。
 司教様の威を借りてやり放題のようだけど、誰もがその威に傅くと思ったのなら、大きな間違いだと知りなさい。
 
 さあ、そこを退いて通しなさい。
 さもなくば、今度は衛兵を呼ぶわよっ!!」
 
 そして腕を掴むグールデンの指を、つけた指輪の硬い部分で殴るように突き離す。
 激痛に指を押さえるグールデンを、ブリュンヒルデは蔑むように一睨みし、その場を去ろうとした。
 
「おのれぇぃ、人が下手に出ていればぁっ!!!
 
 おい、お前たち、この女を捕まえろっ!
 身の程をわきまえさせてやるっ!!!」
 
 矜持を傷つけられたグールデンは激昂し、唾を飛ばしながら喚き、取り巻きに命じてブリュンヒルデを囲む。
 ブリュンヒルデは、大声で助けを呼ぼうと、息を吸い込んだ。
 
 ところがその前に、柔らかな絹の外套がグールデンとブリュンヒルデの間をすっと遮る。
 
「…身の程をわきまえるのは貴公の方だ。
 
 ここが王宮だと知って、婦女子に絡んでいるのか?
 だとしたら、貴公が何者でも許されることではないぞ」
 
 よく通る美しい声だった。
 
 グールデンが、完全に気勢を殺がれて後ずさる。
 
「もう一度言う。
 
 身の程をわきまえるのは貴公の方だ。
 もうすぐここには、隣国の使節団を迎えるための、出迎えの兵士たちが通る。
 
 早く立ち去るべきではないか?」
 
 周囲では、目をあわす事も避けていた者たちばかりだが、その男は大切なものを守るかのようにブリュンヒルデをその背に庇ってくれた。
 その広い背を見つめると、ブリュンヒルデの胸が高鳴る。
 
「く、覚えていろよ、ブリュンヒルデっ!!」
 
 そう言って、グールデンは悔しそうに足早に去っていった。
 
 目の前の男が呆れたように、大きくため息を吐くのがわかる。
 
「…あの、危ないところを助けて頂いて…」
 
 その先の言葉を、ブリュンヒルデは継ぐことができなかった。
 
 振り向いたその男は、心配そうに、その神秘的な青黒い瞳でブリュンヒルデを見つめている。
 そのあまりの美しさに見とれ、ブリュンヒルデは呼吸すら忘れていた。
 
「…無理をするべきではない。
 
 あの人数の男たちに囲まれて、泣き喚いていないだけでも大したものだ。
 貴女の大きな勇気と誇りに、敬意を払おう」
 
 乱れてむき出しになったブリュンヒルデの白い肩に気が付くと、男は自分の外套を脱いで、そっとそれを掛けてくれた。
 絹の柔らかな感触が、ブリュンヒルデをそっと包む。
 
 目を見開いて見つめるブリュンヒルデに、困ったような苦笑をすると、男はその場を去ろうとした。
 
「お、お待ちになって。
 
 名を教えて頂けなければ、お礼をすることも、この外套をお返しすることも出来ません。
 
 私はブリュンヒルデ。
 伯爵オスヴァルトの娘です」
 
 一気に言葉にして、ブリュンヒルデは肺から無くなった空気を貪るように大きく息を呑んだ。
 男は立ち止まると、彼女に向き直る。
 
「俺はシグルト。
 貴女と同じように名乗るなら、男爵にして国王陛下の忠実なる騎士アルフレトの息子だ。
 
 その外套は差し上げよう。
 そんな上質のものは、俺のような無骨者には不相応だ。
 
 礼も不要。
 貴女に助けを求められたわけではないからな…」
 
 簡素な言葉を残すと、踵を返したその男は颯爽と去っていった。
 
 1人残されたブリュンヒルデは、男のぬくもりを繋ぎとめようとするかのように、掛けられた外套をしっかり掴む。
 そして、喘ぐように呟いた。
 
「…これは、定められた出逢いなのかしら?
 
 彼は戦乙女が愛した運命の男の名前。
 私は戦乙女と同じ名前。
 
 私を、救ってくださったあの方とのこの出会いは…ただの偶然なの?
 こんな、物語のような出逢いがあるのかしら…
 
 私は、夢を見ているの?」

 出逢った男は、まさにブリュンヒルデが待ち望んでいた勇者だった。
 
 その男は恩を着せる様子もなく、涼やかに去っていった。
 婦人を助けて見返りを求めない姿は、まるで高潔な物語に出てくる騎士のようだ。
 やや無骨な口調にさえ、その誠実さと意志の強さが見て取れた。
 
 そう、強い意志と勇気がなければ堂々とブリュンヒルデを助け出してはくれなかっただろう。
 
 そっと掛けてくれた外套は、彼の優しさだった。
 青黒いあの瞳は、とても神秘的で温かく、強い光を宿していた。
  
 激しく高鳴る胸。
 熱い吐息を吐くと、ブリュンヒルデは、目を閉じて男との再会を願うように天を仰いだ。

 
 
 お久しぶりのY2つです。
 職業柄ついてまわる夏の激戦を終え、前に使ってたパソコンの液晶とOSが不調だったので、久しぶりに自作PCを組み立ててようやく復活です。
 つい昨日までグラフィックカードが不調で、インターネットに接続するとブラウザが歪むわ、突然PCの電源が落ちるわ、不調との戦いでしたが、なんとかデータの転送作業やらがひと段落着きました。
 やっとまともにインターネットができそうです。
 
 
 さて、間が空いてしまいましたが、シグルト外伝の方をアップです。
 シグルトの運命の女性、ジグヴォルフ王国の至宝ブリュンヒルデ嬢の登場です。
 
 彼女は今流行のツンデレタイプに当たる、気位の高い一途な心根の貴族の娘です。
 シグルトと同じように努力家で、自身が努力して得たものを誇りとする高潔な性格です。
 反面かなりのロマンティストで、思い込みが激しいタイプ。
 たくさんの男に凄まれて囲まれても気丈でいられる意志の強さと、ガラス細工のような繊細な感性を同時に持っています。
 
 シグルトもそうですが、シグヴォルフは総合的な【_秀麗】称号を持つ人物の割合が非常に多い国です。
 妖精や神族の血を引く者がいると言われる地であること。
 寒くて乾燥した埃っぽい国柄なので、睫毛の長い人物が多いこと。
 雪が多く日当たりが悪いので、肌の白い人物が多いこと。
 貴族でも食事が質素なので、ほっそりした人物が多いこと。
 栄養バランスが極限で、ナッツ類を多く食べる民族なので、体臭が薄くお肌の艶がよかったりすること。
 
 いろいろあります。
 
 そんな中で、ブリュンヒルデはとびっきりの美女です。
 イメージとしては、北欧系のブロンド美女でしょうか。
 でも、彼女の場合、単純に生まれつき美形というわけではなくて、その美貌に加えて、教養と気品があることでしょう。
 彼女の知識は、賢者の塔の下手な学生よりよっぽどあります。
 磨いた玉だからさらに美しい、と言う感じですね。
 
 
 今回シグルトがかなりキザにも見えることをやってましたが、このときのシグルトは困っていた女性に対して、この国の男の倫理観から見てすべき当然のことをしたに過ぎませんし、シグルトそのものも別段格好つけてやっていることではありません。
 この頃のシグルトは、「育ててくれた母に恥じない男の振る舞い」はして当然と考えていました。
 彼、ちゃんと【_名誉こそ命】を持っていて、母の名誉をとても重んじています。
 相も変わらず大人びていますが、この時のシグルトは16歳の若者で、冒険者となった頃の燻し銀のような奥深さはまだ無いのです。
 
 しかしながらよく読めば分かると思うのですが、シグルト、ここでも大人物ぶりをすでに発揮しています。
 絶世の美女であるブリュンヒルデを見ても、その辺の貴族の子女程度にしか思っていないのです。
 まあ、母親の超美人ぶりで、美形に免疫があるからかもしれませんが。
 
 反面、ブリュンヒルデは完璧に一目ぼれです。
 というより、容貌よりもシグルトの勇敢さに惚れちゃった口です。
 尚武の国なので、強くて勇敢なことは美徳なんですね。
 厳しい国なので、女性も強い意志は美徳とされます。
 
 
 さて、次あたりでいよいよ彼女が登場します。
 急速に動き出すシグルトの運命。
 
 …気長にお待ち頂けると幸いです。
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シグルト外伝 『青黒い稲妻』 | コメント:0 | トラックバック:1 |

『碧海の都アレトゥーザ』 路地裏の鼠たち

 路地裏のすえた匂いを嗅ぐのは久しぶりだった。
 
 眠そうに欠伸をしながら、路地裏を歩くレベッカである。
 一見のんびりとだらけた歩調だが、石畳に全く足音が響かない。
 路地の間から怪訝そうに見ていた者たちは、レベッカのそれに気付くと納得したように去って行った。
 
 これだけの大きな都市で、暗い路地裏を歩けば高い確率で引ったくりやスリに会う。
 
 …普通ならば。
 
 レベッカの歩き方は符丁である。
 私は同類だから襲うな、という。
 
 路地裏は多くの場合、貧民や裏社会の領域である。
 そこに普通の人間が入ってくることを、社会の歪(ひずみ)に生きる人間たちは嫌う。
 大げさに引ったくりやスリをしてひどい目にあわせ、普通の人間から自分たちが活動する領域を守るのことは、レベッカが駆け出しの頃に手伝わされた仕事だった。
 
 大きな都市では、下層の役人たちと犯罪組織は繋がっている。
 奪ったお金や荷物は、役人が取り戻したことにして、少しだけ授業料を貰い、返す。
 一度路地裏で酷い目に遭って、その危険性を知ったなら、普通の人間はもうやって来ない。
 あとは適当に強姦だの殺人だのがあったのだと、役人やかたぎとして社会に潜っている組織の人間を使って大げさな噂をばらまけば、近寄る者はさらに少なくなるのだ。
 
 路地裏や地下は彼ら…盗賊たちのホームグラウンドなのである。
 
 
 そこには年老いた乞食が1人、ぼろきれを敷き、前に物乞いをするための鉢を置いて座っていた。
 通りからはずれた、危険なこの路地裏で、である。
 
「美しいお方、どうぞ哀れな私に恵みを下され…」
 
 レベッカは銀貨を三枚、身をかがめて鉢の中にそっと入れた。
 硬貨がちゃりん、と小気味よい音を立てる。
 
「ねえ、おじいさん…
 この辺りに『鼠の巣』はある?
 
 前にリューンで〈私みたいな猫〉とじゃれてた奴、〈逃げた鼠〉を追って来た〈蛇〉みたいなファビオっていう〈鼠〉を探しているの。
 
 確かこの辺りで〈遊んでいる〉と思うんだけど」
 
 あえて判りやすく使う隠語。
 都市毎に違うそれは、違う都市から来た盗賊は場合によっては素人でも通じるように砕いて言う。
 そして、回りくどくても隠語を使える人間であることを伝え、同類であることを確認するのだ。
 
 『鼠の巣』とは盗賊ギルドや盗賊たちが集まる場所である。
 〈私みたいな猫〉とはスリをやってた自分という意味、〈逃げた鼠〉は逃亡した盗賊、〈蛇〉は暗殺者や刺客の意、〈鼠〉は盗賊、特に情報屋のこと。
 〈遊んでいる〉とは潜伏するとか生活するという意味だ。
 
「ねえ、おじいさん…
 この辺りに盗賊ギルドはある?
 
 前にリューンで私がスリだったころ組んだことがある、逃げた盗賊を始末に来たファビオっていう盗賊を探しているの。
 
 このあたりにいると思うのだけど」
 
 レベッカはそのようなことを言っているのだ。
 銀貨を三枚をかがんで置くというのは礼は尽くすし、悪さはしない、ここのやり方やルールは守るという、下出に出ている挨拶の仕方だ。
 さらには、屈んでそっと銀貨を鉢に入れたことも、レベッカなりの気配りがあることを暗に伝えていた。
 
 乞食の真似をするギルドの構成員には、幹部クラスが混じっていることもあるのだ。
 監視や内情を探るために、あえてそういったことをする場合も多いのだ。
 
 レベッカの先輩に、かつて娼婦をしながらギルドにも属していた凄腕の女盗賊がいる。
 その女盗賊は、暗殺から侵入まで完璧にこなした最上級の盗賊で、レベッカと同じく野に下って冒険者となっていた。
 レベッカが行う緻密な盗賊の作法は、“黒い雌豹”と呼ばれたその女盗賊に学んだものが多い。
 技術の師であり育ての親でもあったとある人物と同じく、尊敬する大盗賊だった。
 
 プロフェッショナルを自覚する盗賊は、時に一般的では卑しいとされる行為をあえて行える図太さが必要だ。
 そして、好き好んでそんな仕事をする者はまずいない。
 だから、そういった職業にも配慮と敬意を払う繊細さも必要なのだ。
  
「おお、ありがたい。
 
 あっちで〈神様〉が見ておられますぞ…
 
 跪いて〈祈り〉なされ。
 
 〈鼠〉もきっと喜びますぞ、〈巣〉に連れて行ってくれるぐらいにのう。
 ほほ、ほ」
 
 レベッカは教会に続く道を指しそれをくいくいと回す乞食の指の動きをしっかり確認すると、ありがとね、とさらに二枚銀貨を鉢に入れ、乞食が指差した方角へ歩いていった。
 
(教会近くの入り口にいて、門番やってるのか。
 
 でもさすがはファビオが入ってる組織の庭ね。
 行き届いているわ)
 
 レベッカは、ここの人間たちがかなり盗賊ギルドと関わりが深いことを知って、古巣に戻ってきたような緊張と安堵を覚えていた。
 
 
 教会近くの路地の入り口で、隻眼の目つきの悪い男が立ち、壁に寄りかかっている。
 レベッカはスタスタと突然足音を立てて歩き、男に思いっきり大げさに跪いて手を組んで祈るような動作を行い、男を見上げてウインクして見せる。
 
「…レベッカ?
 レベッカなのか?」
 
 立っていた男は一瞬ぽかんとして、すぐに口元を緩ませた。
 
「お久しぶりね、ファビオ。
 でも、私たちが拝むのはお宝だけで充分よ。
 
 今のやつ(符丁)は悪趣味だわ」
 
 そういうと2人は旧友がするように抱き合って、互いの背と肩を軽く叩き合った。
 
「ここだけの話、うちのボスは人使いが荒くてな。
 
 こんな抹香臭いところで、〈豚〉や〈羊〉が迷い込まないように番をさせられる連中の身になってほしいぜ」
 
 〈豚〉は意地汚い人間(何でも食べるので)、〈羊〉はお人好しの人間で、特に聖北教会の信者のこと。
 ともに一般人のことである。
 
 このように符丁や合言葉をそれとなく混ぜると、盗賊が一般人に会話を理解されることはめったにない。
 本来なら、周りに他人がいればもっと難しい暗号や隠語を用いて話すのであるが。
 
 ファビオとレベッカに呼ばれた男は、近くに立っていた男に目配せすると、レベッカに「ついて来いよ」と合図した。
 
 路地を抜けた先、薄暗い路地の奥にあるつぶれそうな酒場の地下。
 アレトゥーザの盗賊ギルドはそんなところにあった。
 
 敵対組織や繋がった官憲の裏切りで、場所はいつ移動するかわからないのだが。
 
「懐かしいな、レベッカ。
 
 昨日来た冒険者の中に、雌の〈穴熊〉(冒険者の中の盗賊、という意味の隠語)が混じってるって話だったが、おまえだったのか」
 
 ファビオは席に着くと、下っ端にエールとつまみを持ってこさせる。
 
「感心しないわね…
 
 仕事には生真面目なあんたが、昔なじみが来たからって、昼間からエール?」
 
 レベッカは似合わないわよ、と吹き出した。
 
「まさか。
 こいつは昔馴染みの、おまえに対する俺からの奢りさ。
 俺はやらないけどな。
 
 昔のことだが、リューンじゃ世話になったからよ。
 ま、代わりといっちゃなんだが、ここで何か情報がいるときは俺に声をかけてくれ」
 
 こうやってコネをつくり、貸し借りをつくり、関係を広げる行動は盗賊にとって当然の行いだった。
 一歩進めば裏切りと報復の世界だからこそ、盗賊ギルドやその盗賊は義理や掟を大切にし、横のネットワークの作成に余念が無い。
 そして仲間をとても重んじるのだ。
 
「まぁ、いいでしょ。
 
 今日は挨拶を兼ねて、寄らせてもらったわ。
 
 私も、仕入れたネタで面白そうなのや新鮮なのは話してあげる。
 うちの家計、今とっても貧しいから、その情報でとりあえず〈税〉は勘弁してちょうだい」
 
 本来、他所者が盗賊ギルドに近づくにはそれなりの贈り物が必要になる。
 多くの場合金銭だが、優秀な盗賊はレベッカのように情報を売ってそれを代わりにする場合も多い。
 
 盗賊にとって情報は金を生む。
 また彼らが生き残るために大切である。
 盗賊ギルドの膨大な情報網は、これらの小さな情報収集から始まるのだ。
 
 ファビオは、レベッカが二つ三つ伝えた情報に満足した顔をし、後ろにいた男になにやら話していた。
 おそらくはこのギルドへの贈り物としてレベッカがもたらした情報を皆に伝え、彼女がこのギルドの馴染みになったと広めるためだろう。 

「悪いわね。
 
 この巣穴に落ち着くわけにはいかないけど、ここ都市はなかなか好い場所にあるから南海の拠点にするつもりよ。
 
 こっちで仕事するときは、『悠久の風亭』て宿を使うわ。
 
 うちの連中を知ってるみたいだから、フォローはしてやってね。
 私もここは贔屓にするし、あんたの顔を立てるつもりだから」
 
 『悠久の風亭』の名を聞いたとき、何故か渋い顔をしたが、ファビオはレベッカの応えに首肯し、てそれでいいぜ、と言った。
 
 レベッカとファビオは、昔リューンで協力して仕事をしたことがある。
 
 当時、〈猫〉と呼ばれるスリたちのリーダーをしながらリューンの一地区をギルドから任されていたレベッカは、若いながら優秀な盗賊として期待されていた。
 そして、ファビオはアレトゥーザの当時幹部であった今のマスターの筋金入りとして、裏切り者の始末を任されリューンにやってきたのだ。
 レベッカはファビオにリューンを案内する役目を与えられ、そのときに協力した縁があった。
 
 ファビオの様子をみれば、このギルドではかなりの地位のようだ。
 あの時、ファビオの実力を見込んで周りが他所者と敬遠する彼に率先して手を貸してやったが、間違いではなかったと今になって思う。
 
「噂で聞いている。
 あの後のギルドの勢力が変わって〈猫〉の分野は縮小されたとか。
 おまえが冒険者になったと聞いたとき、あそこの幹部連中は阿呆かと思ったぜ。
 
 おまえだったら、この都市に来ればすぐに幹部にでもなれただろうに、やはり噂を聞いた後すぐにスカウトに行けばよかったな…」
 
 もったいないことをした、とファビオは肩をすくめてみせる。
 
「随分持ち上げてくれるじゃない…
 
 でも今は、ただの金欠冒険者の1人なのよねぇ。
 ちょっとばかり腕もなまっちゃったし、まあしばらくは〈穴熊〉やって勘を取り戻すようにしてみるわ。
 
 それに今の家業、それなりに気に入っているのよ」
 
 かつてレベッカは、後々は大幹部だろうと噂されるほど才能があった。
 やっていた仕事は三下の姐貴分程度だったが、怠惰な性格なものの面倒見は良いし、頭が切れて世渡りも上手い彼女は、下から慕われ上から信頼されていた。
 
 だが、ギルドの勢力交代で立場を失う盗賊たちは数多い。
 縄張り意識が強く、常に組織のトップを狙って盗賊たちは暗躍する。
 
 かつて、正規の盗賊ギルド構成員であった頃に経験した胃の痛くなるような緊張感も、今は無い。
 特別地位や出世には興味が無いレベッカにとって、生活できて楽しければどうでもよかった。
 
 現在はそれなりに充実した時を過ごしている。
 
 昔、実入りは悪いが止められないと言っていた冒険者の盗賊を、ギルドにいた頃は不思議に思っていたが、今なら分かる気がするレベッカであった。
 
「そうか。
 
 残念ではあるが強制はできないからな。
 うちは締め付けないのも伝統なのさ。
 
 今日はゆっくりしていけるんだろう?
 あの退屈な見張りをサボる口実に付き合ってくれよ」
 
 ファビオはそういって新しいエールを注ぐ。
 ただ酒も飲めるし、少し話しながら情報収集も悪くない。
 それにサボるというのはレベッカも好きである。
 
「好いわよ。
 でも昼日中に薄暗い地下で飲むのは、御免だわ。
 
 高い店でなくても構わないから、落ち着いた場所に行きましょう。
 これから昼だし、どうせならお酒より食べ物が美味しい所が好いわ」
 
 レベッカはウインクして、杯に残っていたエールを飲み干した。

 
 
 女盗賊レベッカの物語です。
 
 ファビオと聞いてピンとくればあなたも立派な碧海通です。
 
 アレトゥーザの盗賊スキルは狡猾な盗賊にはありがたい効果が多いかと思います。
 あれらは破壊力より卑劣で臆病な印象を与えるように作られています。
 盗賊は戦士ではありません。
 彼らの本分は都市活動や罠の解除にこそあるのです。
 
 レベッカは典型的な盗賊で、また能力値性格ともに天性の盗賊です。
 
 彼女の狡猾な頭脳プレーや、フェイクがこれからシグルトたちを支えるでしょう。
 
 盗賊を好きな方、結構いますよね?
 
 レベッカの先輩“黒い雌豹”エイダは、レベッカより2歳年上で、超一級の冒険者です。
 現在8レベルで、今でも冒険者として活躍しています。西方から離れた地にいます。
 いずれ彼女が登場するかもしれません。
 
 シグルト同様、レベッカも濃い過去を持つキャラクターです。
 彼女のこの後も、御期待下さいね。 
 

 〈著作情報〉2007年08月07日現在

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
 
・Martさんサイト『esotismo.』
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/) 
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『碧海の都アレトゥーザ』 碧海色の瞳

 次の日、“風を纏う者”のメンバーたちはそれぞれ分かれて行動することになった。
 
 レベッカはファビオという知り合いに挨拶に行くと言って、下町の路地の中に消えていった。
 
 ロマンは賢者の塔にある一般開放の書籍を読みに行くと、小走りに宿を出ていった。
 
 ラムーナは大運河にいる南方出身の女性と仲良くなって、話し込んでいた。
 
 スピッキオはこの都市の教会の司祭と知り合いらしく、帰りは遅くなると言っていた。
 
 シグルトは1人桟橋近くの浜辺で、ぼんやりと海を見ながら歩いている。
 
 シグルトの故郷に海は無い。
 西方に流れて来る途中に見た北方の海は、くすんだ黒い色だった。
 南海の美しい紺碧の海原は、とても美しいと思う。
 その色は、どこか、シグルトがかつて愛していた娘の瞳を思わせる。
 海の物珍しさと、キラキラと陽光を反射する碧い水面の美しさは、見ていて飽きることがなかった。
 
 この都から見られる海は特に美しく、吹いてくる潮風は南方の息吹を孕んで、熱くおおらかだ。
 
 ただ、夏の太陽は眩しく刺すように肌を焼く。
 シグルトのような北方出身の肌が白い人間にとって、この熱い日差しはやや痛い。
 
 結局この熱射を避けるように歩いて行くと、なまった甲高い声でがなっている男の声が聞こえ、何とはなしにそちらを見た。
 
 この都市の住人だろうか、神経質そうな男に、でっぷりと太った中年の女、後はスピッキオと同じ聖海教会の僧服に身を包んだ僧侶らしい男。
 僧服の取り巻きか、囲むように数人の男女が輪を作っている。
 
 彼らの中心には、華奢な体格の人が立っていた。
 
 黒い暑苦しそうなフードで頭を被っている。
 編み上げたブロンドの髪が、そのフード中から覗いていた。
 身体の起伏や背丈、服装ですぐに女性であることが判る。
 少しだけ見える肌は、驚くほど白い。
 
 がなっているのは、取り巻きの中の神経質そうな男だった。
 
「この薄汚い魔女めっ!
 
 早く、あの洞窟から出て行けばいいんだ!」
 
 男は興奮して口を動かし、唾を飛ばしている。
 
 周りの者たちも激しい口調で女性を罵り、しきりに「魔女」と連呼する。
 その中央にいる聖北教会の僧侶らしい男は、まるで汚いものでも目にしたように女性を見下ろしている。
 
 このような状態で、女性は黙ってただ左右に首を振り、自分を囲んでいる人物たちの要求を拒んでいるようだ。
 
 やがてその神経質そうな男は、娘を平手ではる。
 女性がぱたりと倒れると、周囲の者たちは小石や腐った卵、残飯などを娘に投げつけ始めた。
 女性はただうずくまってじっと耐えていた。
 
 髭面の男が、やや太めの棒を振り上げた。
 それで女性を打ち据えようというのだ。
 
 シグルトは顔をしかめると、素早く移動する。 
 そして、髭面の腕をがっしりと掴んで、シグルトは女性との間に割って入った。
 
「なんだてめぇはっ!」
 
 髭面が渾身の力を込めるが、シグルトの手はびくともしない。
 シグルトは掴んだ腕をブン、と振って男を投げ飛ばした。
 
「うわぁ!!!」
 
 転倒して派手に尻餅をついた髭面は、大げさな声を上げて転がるようにシグルトから放れた。
 
「大の大人が女1人を囲んで何をやってる?
 
 しかも無抵抗な相手にこんな棒で…」
 
 シグルトは、髭面が落とした棒を彼の方に向けて荒っぽく蹴飛ばす。
 足に軽く棒が当たり、髭面はなさけない悲鳴を上げた。
 
「何をするのです?
 
 私たちは、魔女に制裁を加えていたのですよ?」
 
 不機嫌そうに、僧服を纏った僧侶らしい男がシグルトを睨みつけた。
 その目をシグルトの青黒い視線が、稲妻のように射た。
 
 怯んだように数歩下がる僧服。
 
「さっきから、魔女魔女と言ってるが、あんたらの言う魔女とはこの娘のことか?
 俺の知る〈邪悪な魔女〉とやらは、こんなに大人しくはなかったぞ。
 
 むしろ、昼日中からその大所帯で騒いでいるお前たちの方が、よっぽど悪者に見える」
 
 シグルトは皮肉気に苦笑した。
 
 僧服は、一瞬怯んだことに憤ったのだろう。
 目を血走らせ、歯を鳴らしてシグルトを睨みつけた。
 
「…貴方は冒険者ですね。
 ではこの都市の住人ではないはずです。
 
 我々の〈聖なる行い〉に口を出さないで頂けますか」
 
 そして汚物をどけろと命令するように、シグルトに顎をしゃくった。
 去れ、ということなのだろう。
 
「…これを〈聖なる行い〉だと?」
 
 シグルトは僧服に一歩近づいて、その胸倉を掴みあげた。
 
「ひぃ!」
 
 上背のあるシグルトに片手で軽々と持ち上げられて、僧服は真っ青になる。
 
「…自分が襲われることは怖いか?
 
 お前たちが、蝿のように大人数集まり、たかって1人の娘にしようとしたことだ。
 〈聖なる行い〉が何かは知らんが、俺にはみっともなくてとても真似はできん。
 
 唯でさえ、日差しが鬱陶しいんだ。
 見苦しいから、するな…」
 
 僧服の顔に自分の顔を寄せ、凄みを利かせて目を合わせて睨んでやると、僧服は真っ青になって身体をこわばらせた。
 美しいシグルトが、怒りを顔に表すととても迫力があるのだ。
 
 怯えて呼吸がおぼつかない僧服を見ていたシグルトは、大きなため息を吐いた。
 そして、馬鹿らしいという風に僧服を掴んだ手をポイ、と放す。
 
 ひっくり返った蛙のように情け無い姿で、僧服は地べたに落ち、尻で石畳を擦りながら後退する。
 
 あれでは、高価そうな僧服も台無しだな、とシグルトは呆れ顔で見下ろしていた。
 
「…くぅっ、今日はここまでにしておいてあげます!」
 
 僧服はよろめきながら立ち上がると、逃げるように場を離れ、周りにいた取り巻きも慌ててその場を放れていった。
 おそらくは、シグルトの腰につるされた剣も怖かったのだろう。
 
 僧服の、どこかの三流悪役のような捨て台詞にあきれつつ、シグルトは倒れたまま、こちらを見上げている女を見た。
 
 先ほど眺めていた碧海の色…
 シグルトの瞳に映ったのは、この都市を囲む海のように碧い瞳だった。
 
 静かで穏やかな光、同時に熱い南風を飲み込んだような強い輝きが、じっとシグルトに注がれている。
 少しの驚き、わずかな警戒、そして澄んだ落ち着きと深い哀愁。
 神秘的な双眸が、海の波のように表情を変えながらシグルトに向けられていた。
 
「…立てるか?」
 
 シグルトは少しだけその娘の美しさに驚きつつ、聞いた。
 
 日焼けとは縁の無い、透けるような白い肌に端整な顔立ち。
 その美しい瞳と強い意志を感じさせる表情は、先ほどの海の色のように、シグルトが愛した故郷の女性を思い出させた。
 
「…はい。
 
 危ないところを助けて下さって…
 有難う御座います」
 
 ほっそりとしたはかなげな外見にふさわしい、可憐で澄んだ声だった。
 
 だが弱さを感じさせない、聡明さと落ち着きを感じさせる丁寧な口調は、耳に心地よい。
 
「何かお礼を差し上げたいのですが、日々の生活を紡ぐのが精一杯の益体の無い身です。
 言葉で返すのが限度、お許しください…」
 
 やや自嘲的に、悲しげな表情で女性は言った。
 恐縮しているのだろう、肩を縮め切なげに胸に手を置いている。
 
 シグルトは空を見上げて、困ったように頭を掻いた。
 
 別に礼を言われたくて手を出したのではない。
 シグルトは本当に、ああいった迫害をする輩が嫌いなだけだった。
 
 かつてシグルトも、この娘のように礫を投げられ傷ついたことがあった。
 そして母や妹も、礫と罵声を浴び、涙を噛み締めていた頃があった。
 
 シグルトの母は、その両親の不名誉とされる行いから全てを失い、蔑まれひっそりと暮らしていた。
 シグルトの父がその名誉を取り戻すまで、母は隠れるように暮らしていた。
 
 そのとき、最初の頃のシグルトは幼くて何もできない子供だったが、努力して母や妹を守れるようになった。
 そして、今のシグルトには男性の平均より高い上背と、理不尽に立ち向かえるだけの勇気がある。
 
 シグルトはただ、目の前の理不尽が許せなかっただけだ。
 
「やめてくれ…
 
 俺は礼がほしかったわけじゃない。
 ただああいうのが嫌いだっただけだ。
 
 勝手にしゃしゃり出た俺自身のやったことだから、そんなに恐縮されても困るよ」
 
 娘を見下ろし、またその瞳と見つめあうことになる。
 真摯な眼差し…こんな瞳の者が、邪悪な魔女であるはずがない。
 この娘が魔女というなら、さっきの僧服は邪神の使徒だろう。

(…いや、三文芝居の悪役がせいぜいか)
 
 僧服の情け無い姿を思い出し、シグルトはいつもの癖で苦笑する。
 
 一方、助けた娘はの方は、シグルトにできる礼を考えているのか…
 目を伏せて、じっと何かを考えている顔だ。
 察するに、生真面目で義理堅い性格なのだろう。
 
 シグルトは、困ったようにまた空を見上げた。
 
 まだ日差しが高く、熱い。
 夏の太陽がさっきよりも余計に眩しく感じられた。
 
 そこでシグルトの頭にふと浮かぶ考え。
 
「ああ、ええと、この辺りには詳しいのか?
 
 実は、どこか休めるところを探していたんだ。
 何か俺にしてくれるっていうのなら、涼める場所があれば教えてほしいんだが…」
 
 
 そうして娘が案内してくれたのは、美しい景観の洞窟だった。
 
 流れ込んんでくる海水が、キラキラと光って幻想的だ。
 その中の空気は、外の熱気を含んだ風とは違って、ひんやりとした優しさがある。
 
 シグルトは洞窟の奥に案内される。
 人が2人入るのがやっとのこじんまりとした横穴があって、粗末な手製の机と木箱で代用した椅子、奥には藁を敷き詰めて大きめの帆布をかぶせたベッドらしきものがある。
 箱の椅子を勧めれたが、シグルトの体格ではやや低い。
 何も言わず、適当に側にある隆起した岩に腰掛けた。
 
 娘はミントの香りがする爽やかな香草茶を煎れてくれた。
 
 茶を入れるカップも欠けた部分のある、本来なら捨てられそうな物だった。
 だが釉薬の部分に独特のつやがある。
 きちんと灰を使って食器を磨いているのだろう。
 
 食器や身の回りの道具も丁寧に片付けられている。
 小さなことから、娘の生真面目な気性が感じられた。
 
 ミントのもたらす清涼感を味わいながら、洞窟の涼気をじんわりと楽しむ。
 先ほどの海もよかったが、ここはとても綺麗で、洞窟に満ちた柔らかな光が心地よかった。
 
 『蒼の洞窟』という場所だと、娘が教えてくれる。
 
「とても好いところだな。
 
 ここを知っただけでも、この都市に来てよかったと思うよ」
 
 思えば、昨日まで長旅でゆっくり腰を落ち着ける暇もなかった。
 1人でこういう気分を味わうのは、随分としていなかったように思う。
 
(あいつらはにぎやかだからな…)
 
 底抜けに明るい踊り子や、薀蓄を語る美少年、金にうるさい女盗賊に、説教臭い老僧。
 彼らのリーダーになってから、いつも張り詰めて考えていたことに気付き、苦笑する。
 シグルトは故郷の妹が言っていた言葉を思い出した。
 
〝兄さんはいつもむっつりしてるか、苦笑いしているわ〟
 
 そう言って、お茶を入れてくれた妹。
 最近まで過去は刃のようにシグルトの心を抉ってきたが、仲間と触れ合ううちに幸せだった時を思い出せるようになっていた。
 
「申し訳ありません。
 こんなものしかなくて…」
 
 娘がおかわりのお茶を注ぐ。
 
 机には茶菓子の代わりだろうか、パンを薄く切って乾燥させ塩と香草を刻んだものをかけた菓子のようだ。
 齧るとほんのりと塩辛い。
 
「いや、お邪魔させてもらってお茶まで御馳走になってるんだ。
 
 菓子付なら、豪勢なくらいさ」
 
 冒険者は過酷である。
 シグルトも何度か冒険の中で、質素な食事をしたものだ。
 先輩冒険者の話では、南方の密林で迷ってさまざまなものを食ったが蜥蜴人は筋が固かったぞ、というようなおぞましいものもある。
 
 それに、厳しい環境の北方出身のシグルトは、粗末な食事には慣れている。
 貴族ですら、冬期は臭みの強い魚の塩漬けや、味気ないスープを食べる。 
 
 シグルトは荷物袋から小石ぐらいの茶褐色の塊を取り出し、机の上に置いた。
 
「…これ、もしかしてお砂糖ですか!」
 
 娘は、その美しい目を丸くして、茶色いその塊を見つめた。
 
 砂糖は非常に高価な品である。
 庶民が簡単に食べられるものではなく、薬として珍重されているほどだ。
 シグルトの取り出した小さな塊でもそれなりに価値があるだろう。
 
「この都市に来る時、交易商の護衛をして報酬代わりにもらったものだ。
 
 まだあるから、1つやろう。
 この手の菓子は、塩より砂糖の方がきっと美味い」
 
 娘は手を振って拒んだ。

「こ、こんな貴重なもの、もらえません!
 
 お砂糖って労咳(結核)なんかに使う薬でとても高い…」
 
 シグルトは軽く首を振る。
 
 交易路が発達し、一部の都市では高騰するときもあるものの、昔ほどは高級ではない。
 もちろん庶民が大量に使うのは無理だが、リューンのような大都市では昔の宝石のような価格ではなくなって久しい。
 この砂糖も、儲けそこなった商人ツィスカが報酬代わりにくれたものである。
 
「ここを教えてもらって休ませてもらったので、さっきの貸し借りは無し。
 
 これは茶の礼と挨拶代わりだ。
 
 またこの都市に来たなら、時々はここに来て休みたいと思ってる。
 迷惑でないのなら、受け取ってくれ」
 
 シグルトはリーダーをやる上で、レベッカから交渉というものを学んできた。
 レベッカ曰く、内向的排他的な者に交渉するときは、押しの一手の後少し引くと上手くいく、とのことだった。
 
 シグルトは無理強いは嫌いである。
 必要なことを提示し、ダメならやめる。
 シグルトのそういうさっぱりとした決断力が、リーダーとしての優れた資質だとレベッカは言っていた。
 
「俺はシグルト。
 
 交易都市リューンを中心に、主にここから北の方で仕事をしてる冒険者だ。
 といってもまだ駆け出しなんだが」
 
 互いに名乗っていなかったことを思い出し、先に名乗り軽くぶら下げた剣を叩き、こういう職業だ、と主張する。
 
 娘は助けてもらって名乗ってもいない自分を恥じたのだろう、白い肌を紅く染めて居住まいを正した。
 
「私はレナータ、レナータ アスコーリと申します。
 
 その、精霊術師、です…」
 
 少し言いよどんで職業まで明かす。
 
 シグルトはさまざまな意味で納得した。
 精霊術師とは、シャーマンとも類される精霊使いのことだろう。
 
 この世界には偉大な神と一緒に、自然の力、精が意思を持って現れる現象…精霊と呼ばれる不思議な存在がある。
 彼らはめったにこの世界で姿をとることはないが、彼らの存在を見つけ感応し、その力と姿をこの世界に形として導く業を持つものがいる。
 それが精霊使いだ。
 
 リューンにも精霊宮という独特の建物があり、そこで精霊使いたちが都市に起こる天候や災害の被害を防ぐために働いている。
 
 ただ、精霊使いたちは特殊な能力と宗教性を匂わせる場合もあるその立場から、聖北などの聖職者と上手くいかないことも多い。
 魔女や妖術師扱いされて迫害されるのはよくあることだ。
 リューンのように多数の術師がいて働く場所も地位も確立されているなら別だが、この西方に根強く広がる〈神の教え〉は、時に強引で排他的な偏見の原因を作っている。
 
(結局スピッキオが言うように、神に魔女を裁かせようとするのはいつでも人間の方だな。
 
 教会の最も愚かな歴史だとあの爺さんは言っていたが、まさかこんなところで魔女狩り云々に出会うとは、な。
 
 この都市は見れば先進的な場所が多くておおらかに感じていたから、少し驚いた。
 いや、人が集まる坩堝のような場所だからこそ、こんな歪んだことも起きるのか…)
 
 人の心を理解するのは難しい、とシグルトは思う。
 
 そんなことを考えながらふと見れば、もう日が傾いて、洞窟に朱い光が入ってくる。
 
「そろそろ帰るよ。
 外も涼しくなってくるだろう。

 …レナータ、ここにはまた来てもいいか?」
 
 岩から立ち上がり、帰ろうとしたシグルトは、レナータと名乗った娘の名を呼び、確認した。
 
「…はい」
 
 レナータの首肯に満足するとシグルトは軽く手で別れの挨拶をし、足早に洞窟を後にした。
 
 
 シグルトが洞窟を出て行った後、レナータは気が抜けたように肩を落とし、大きなため息を吐いた。
 
 今日はいろんな意味で疲れていた。
 無くなった儀式用の道具の買出しにでかけて、いつものように教会の侍祭に因縁をかけられて魔女扱いされた。
 
 前に石をぶつけられて、しばらく片目が見えなかったこともある。
 怖くないわけはない…集団で暴力を振るわれ、罵声を浴びせられるのだ。
 
 身を守るために、精霊術で呼び出した精霊を用いる事だってできないことはない。
 だが、それをしたら確実に魔女として葬られるだろう。
 
 レナータは自分に精霊術を教えてくれた師を思い出す。
 彼女は迫害と立ち向かう方法も教えてくれた。
 精霊術、言葉、礼法、知識…
 冒険者をしていたという師は博学で、本来レナータのような生まれのものが学ぶことは絶対できないようなことをたくさん教えてくれた。
 その師との出会いも、今日のシグルトとの出会いに似ていた。
 
 昔からレナータには精霊を感じる能力があった。
 ずっと昔、アレトゥーザにやってきて、不毛の荒野と汚水の沼地を緑茂る今の大地に変えたという偉大な精霊術師と、水の上位精霊の一柱と讃えられる水姫アレトゥーザの伝説。
 この土地ではまれにレナータのような資質を持つ子供が生まれる。
 それはこの土地が精霊の息吹に満ち溢れた土地だからとも、偉大な精霊術師の血が先祖返りで顕れるのだともいわれている。
 だが、その才能を持つものは多くの場合3つの道を採らざるをえない。
 
 一つは巫覡(ふげき)…シャーマンと呼ばれる存在になって村落の中心に立ち、災害や病気から人を守るものになること。
 
 一つは隠者となって森や山、孤島に籠もること。

 一つは一箇所に留まらない流浪の民となること。
 
 普通の民に受け入れられるには、精霊術師の才能はあまりに異能とされているのだ。
 
 そして今のレナータはどの道を採ることもなく、この都市に1人で暮らしている。
 
 異能ゆえに故郷から逃げるように出て、立ち寄るどの町でも浮浪児扱いされていたレナータは、彼女を追い出そうとする村人に囲まれ暴力を振るわれた。
 空腹と殴られた身体の痛みで、これで死ぬんだ、と思ったときその女性は現れた。
 澄んだ歌声で柔らかな言葉を紡ぎ、リュートを巧みに演奏しながら彼女が歌うと、レナータを襲っていた民衆はばたばたと倒れて寝息を立て始めた。
 
 歌を終えて、レナータを見下ろすアーモンド形の蒼い瞳は、人懐っこい光を湛えていた。
 とがった耳、緑と黄色の衣装に白い外套で華奢な体を包んだその女性は、人ではなかった。
 
 ウッドエルフ。
 俗に森の妖精と呼ばれる亜人である。
 
 後に風の噂で聞いた話…
 ラグリアという国の内乱で活躍し、騎士団長になったという冒険者とその仲間たち。
 その騎士の傍らで、精霊術を使い仲間を助けた“水の詠い手”と呼ばれた者。
 エルフの精霊術師、レティーシャその人であった。
 
 レナータを精霊術で癒し、話を聞いたレティーシャは、レナータを弟子として引き取ってくれた。
 レティーシャは彼女の才能を見抜き、自分よりも才能はあると言ってくれた。 

 レティーシャは、ハーフエルフと人間の2人の子供をつれていた。
 1人はレティーシャの息子で、もう1人は戦災の孤児。
 その子供たちを育てる傍らで、レティーシャはさまざまなことを教えてくれた。
 子供たちより少しお姉さんだったレナータは、子供たちに慕われ、陽気なレティーシャの人柄に触れ、家族の暖かさというものを感じることができた。
 
 レティーシャはレナータが独り立ちできるようになると、子供たちを連れて旅立つといって、一緒に来るかこの地方に残るかを聞いた。
 そしてレナータはこの大地に残ることを決め、師と別れたのである。
 
 さすらってたどり着いたのが、この洞窟であった。
 
 レナータにとって、冒険者とはいつも自分を助けてくれる存在である。
 師は優れた冒険者だった。
 自分に何かと目をかけてくれ、病の治療の仕事や内職を世話してくれる『悠久の風亭』のマスターもかつて冒険者だったという。
 レナータに精霊術を学びに来る、精霊術師の卵たちもまた冒険者が多かった。
 
 そして今日出会った冒険者の若者。
 
「シグルト…さん」
 
 彼の残していった、黒糖から欠け落ちた粉を少しなめてみる。
 果物とは違う確かな甘さ。
 
 レナータは小さな幸せを噛みしめながら、孤独な心を癒す暖かな今日の邂逅を想い、頬を緩ませた。

 
 
 アレトゥーザのヒロイン、レナータ嬢の登場です。
 ほぼ旧版のものを引き継ぐ形で、加筆修正致しました。
 
 カードワースで精霊術師、という職業を最も定着させたNPCの1人であり、彼女を連れ込んで使う人もいらっしゃるでしょう。
 
 今回の出会いは、シグルトの運命に大きく関わってきます。
 やがて出会うもう1つの風。
 レナータは、2つの風が出会うせせらぎになるのです。
 
 
 今回、砂糖を前回に引き続き出してますが、薬だったのは本当のことです。
 ずっと昔、甘さといえば蜜や果物によるものが多く、砂糖は貴重品でした。
 
 一応は中世的なイメージができるように、生活描写はやや濃く行っているつもりです。
 ファンタジーなカードワースですから、すべて中世的にするのは無理ですが。
 あげじゃがとトマトは出すまい、と心に決めています。
 
 
 〈著作情報〉2007年08月02日現在

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
  
・Martさんサイト『esotismo.』
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『碧海の都アレトゥーザ』 新たなる地へ

 フォーチュン=ベルから帰還した“風を纏う者”は、拠点である冒険者の宿『小さき希望亭』に戻って一日しっかり休息し、その日は各々が自由な時間を過ごしていた。
 
 レベッカは、盗賊ギルドに報告があると言って朝早くから姿をくらましてしまった。
 ロマンは、リューンの大学に顔を出し、ついでに図書館に行くと言っていた。
 ラムーナとスピッキオは、クレメント司祭に会うために教会に向かっている。
 
 シグルトは、最近同期の冒険者として、同じ『小さき希望亭』で活動を始めた“煌く炎たち”のリーダー、マルスと剣の稽古をしていた。
 
 マルスは、浅黒い肌の元傭兵という戦士で、長身のシグルトより顔半分も背が高い巨漢である。
 同期の冒険者ということで、先輩の冒険者から仕込まれたシグルトとマルスは、剣術を互いに練磨する仲だ。
 
 ただ、戦術の巧みさではシグルトが優れていた。
 結果としてマルスは、シグルトから5本中1本か2本しか勝ちを取れない。
 
 2人の稽古は実戦さながらで、武器は木の棒を剣に見立てて使うが、殴り合いや投げも含めた激しいものだった。
 
 冷静沈着で実直なマルスは、己のタフネスを十分に生かし、持久戦で戦う。
 彼が若手の戦士の中でも腕利きであることは、宿では知られていた。
 負けを恥じず、地道に己を磨こうとするマルスも、後を期待される新鋭だった。
 
 “煌く炎たち”は、リーダーで戦士のマルス、火の精霊術師で剣も使いこなすゼナ、聖北教会の元修道女で貴族出身のレシール、老獪な魔術師カロックに、玄人肌の盗賊ジェフの5人組である。
 攻撃力が非常に高いパーティで、討伐や護衛といった荒事の依頼では、その頭角をあらわしてきていた。
 
 人数が同じということもあり、“風を纏う者”と“煌く炎たち”は、周囲の目から見るとライバル的な位置づけで比較される。
 ごく最近、宿の専属だった実力派の冒険者パーティが辞めてしまい、この2つのパーティは自然と宿の主力として活躍するようになっていた。
 
 だが“風を纏う者”は、リーダーのシグルトが人望厚く、天才肌の揃っている。
 そのためか、“煌く炎たち”はいつも2番手扱いされていた。
 
 “煌く炎たち”の中でも、女性ながら苛烈な性格のゼナや、プライドの高いレシールは、露骨に対抗意識を燃やしていた。
 加えてこの2人はシグルトに好意を寄せており、冒険者になったばかりの頃は“風を纏う者”に入りたがっていたが、レベッカに断られた経緯があり、それがちょっとした禍根になっていた。
 
 シグルトとマルスは互いに高め合う仲であり、友好な関係を築いている。
 2人は、パーティ同士の衝突をできるだけ避けたいと思っていた。
 
 “風を纏う者”が最近までフォーチュン=ベルで活動していたのも、義理堅いシグルトが“煌く炎たち”とのかち合いで宿に迷惑をかけないよう危惧したためである。
 同じ宿の冒険者ですら、仕事を奪い合い、喧嘩で刃傷沙汰になることもしばしばあるからだ。
 
 癇癪持ちのゼナは、剣術と精霊術を同時に使いこなすほどの才能に恵まれながら、少し後輩の冒険者と仕事のことでもめて腹を立て、乱闘騒ぎを起こしていた。
 その騒ぎで壊した道具の弁償に“煌く炎たち”が銀貨数千枚のツケが宿にあることは有名な話だった。
 
 最近、大きな仕事も少なくなってきており、冒険者たちは仕事探しにピリピリしている。
 
 そういったことを考えた末に、シグルトはしばらくリューンの外で仕事をするよう仲間に提案していた。
 
 鍛錬で流した汗を拭きながら、シグルトはマルスと何気ない会話で、南方のアレトゥーザに行こうと思っていることを告げた。
 
 
「アレトゥーザか…
 確か南海に面した、共和制都市国家だな。
 
 スピッキオの爺さんが属してる、聖海教会の発祥地だったか」
 
 マルスは、シグルトの打ち込みを受けてできた痣をなでながら、低い声で言う。
 
「ああ。
 
 最近アレトゥーザへの交易路が変わって、移動が容易になったから、あの都市の近辺で仕事が増えそうな雰囲気なんだ。
 
 とりあえず西の拠点は、フォーチュン=ベル。
 このあたりでは、ポートリオンが拠点に出来ないかと考えている。
 
 そして南海では、アレトゥーザだ。
  
 アレトゥーザは、スピッキオの属する教会の勢力が強いから、教会経由の仕事を請けやすいというのも理由だ。
 
 今あげた都市間を移動しながら仕事を探せば、それなりに実入りもあると思うし、何より新しいものに出会えるから、冒険者としての見聞を広めるにはもってこいだ。
 俺たち駆け出しには、色々な経験が必要になるし、な。
 
 それに、今のリューンは冒険者が多過ぎる。
 同業同士のしのぎ合いで喧嘩がよく起きるし、そのせいで最近は少し自警団の評価も悪い。
 
 仕事も不足してきたし、な。
 だから、今が好い機会だと思っているんだ」
 
 激しい稽古で緩んだ、腕に巻きつけた布を巻き直しながら、シグルトがマルスに答える。
 
 シグルトは身内をとても大切にする。
 仲間や宿、冒険者という職業そのもののために、努力を惜しまない。
 
 仕事を何度か譲ってもらったこともあるマルスは、シグルトの誠実さと先見の力を認めていたし、同じように考える1人だった。
 
「そうか。
 なら、俺たちはリューン近隣に絞って荒事中心にやっていくよ。
 
 馬鹿どもはすぐに俺たちを比べるが、お前は同じ宿の数少ない同期の冒険者だ。
 互いに切磋琢磨してやどうに貢献したほうが名が売れるはずなんだが…
 むきになってるうちのゼナたちには、困ったものだな。
 
 こっちは、お前たちに後を任されたと思って張り切ってやっておく。
 お前らと仕事がかち合わないなら、やりやすいだろう。
 
 でも、お前たちの行動に乗じて調子付くのは、甘えだろうな。
 
 冒険者になったばかりの頃、金がなくて鉱夫まがいのまかない仕事をしてたことを考えれば、まともな仲間がいて仕事ができる今は、随分ましだ。
 傭兵が畑だった俺は、今はまだお前に勝てない程度の腕っ節と、親のくれたこの身体ぐらいしか資本がないからな。
 
 うちの連中は血の気が多い奴ばかりだし、お前やレベッカみたいにまだ要領よくやれない。
 もっと腕を磨かなければならないんだが。
 といっても、うちの連中は俺の言葉を聞くような謙虚な奴がいなくて困る。
 
 腕云々の話の前に、仲のいいお前たちが羨ましいよ。
 
 だが、アレトゥーザの周りではキナ臭い噂もある。
 とくに隣のフォルトゥーナとの関係は、いつでも水と油だ。
 
 気をつけろよ、シグルト。
 お前と一緒に酒を飲めなくなるのは、つまらないからな。
 
 旅立つ前の日は、一緒に酒でも飲もう。
 美味い料理を出す店があるんだ」
 
 マルスの誘いに、シグルトは汗を拭いながら深く頷いた。
 
 
「久しぶりだな、レベッカ。
 
 元気だったか?」
 
 リューンの盗賊ギルド。
 酒場そのものの形をしているそこは、大きな組織である盗賊ギルドの支部の1つに過ぎない。
 
 レベッカに声をかけたのは、恰幅のよい男である。
 しかし、この男が自分より素早く動けることを、レベッカはよく知っていた。
 
 かつて、ギルドにおける抗争では最前線に立って得物を振るって血の河を作った、元は一流の暗殺者である。
 
「…ええ。
 
 赤いのや、生意気な坊やは元気かしら?
 しばらく見ないけど、仕事でも入ったの?」
 
 レベッカの言葉に、男は苦笑した。
 
「赤いのは相変わらず、ネタ探しに奔走してるよ。
 
 〈鼠〉は、餌を巣に持ち帰るもんだってな。
 アイツの真面目な性格には頭が下がる思いだぜ」
 
 男は、隠語を用いて話しかけてきた。
 〈鼠〉とは盗賊を意味するのだ。
 
「…あと、坊やの方は、お前が来るって聞いて、さっき逃げた。
 あんまりあいつで遊んでやるなよ…あれでも有能な奴なんだ。
 この間、お前がコインゲームでアイツをスカンピンにしやがるから、あいつ最近までここで寝泊りしてたんだ。

 すぐすねるから、困ったもんだ」
 
 そう言ったあと、男は不意に真面目な顔になってレベッカを見つめる。
 
「お前、〈古巣〉に戻る気はないか?
 
 お前みたいな凄腕が、冒険者なんぞに甘んじてたのは、いけすかねぇあの馬鹿野郎のせいだったが…
 今じゃ、皆お前が帰ってくるのを待ってるぜ。
 
 “錦蛇”の秘蔵っ子であるお前を、あんな糞溜で使おうとした間抜けはもういねぇ。
 
 お前を苦手にする奴はいるが、お前を憎んでる奴は、この業界では少ない方だ。
 むしろ、お前を好きな奴の方が多いんだぜ?
 
 お前は不義理だが、仲間の仁義は守る奴だ。
 〈猫〉をまとめてたあの頃のお前にもどりゃ…」
  
 “錦蛇”とは、レベッカの師であり育ての親だ。
 ギルドでは伝説的な盗賊として名を知られていた。
 
 〈古巣〉とはリューンの盗賊ギルドのことである。
 レベッカは、かつてギルドで〈猫〉…スリを統括する下級幹部をしていたことがあるのだ。
 
 手先が盗賊たちの中でも、抜き出て器用なレベッカは、スリとしての実力や、仲間が失敗のときのフォローが巧みだった。
 最初ギルドで技を学ぶ新人は、レベッカに預けられることも多かったので、今でも彼女を慕う若い盗賊たちは多い。
 
 だが、その男の話を、レベッカはすっと遮った。
 
「…私は今の生活に満足してるのよ。
 
 それに、酒飲んでだらだらやってたせいで、随分腕も鈍ったわ。
 今の有様じゃ、お父ちゃんの名前を貶めるだけよ。
 
 加えるなら、鼠どもの縄張り争いには、もうこりごり。
 義理だの仁義だので、巻き込まれて、裏切られて…
 
 私は、いつも張り詰めてるより、のんびりやりたいからね。
 
 ま、でも今の立場でしてやれることがあれば、検討はするわよ?
 あんたには、昔世話になったからさ」
 
 そう言って、グラスに残った葡萄酒を飲む。
 
 残念そうに男が肩を落とすと、レベッカの開いた杯に酒を注いだ。
 
「最近はライバルが増えて、お前ら〈渡り鳥〉どもは〈餌場〉が不足してんだろ?
 
 あてはあるのか?」
 
 男が葡萄酒の瓶をカウンターに置き、ぼやくように言う。
 
 〈渡り鳥〉は冒険者を意味する隠語の一つだ。
 〈旅烏〉などとも言われることがある。
 
 男は、〈餌場〉、すなわち仕事場や仕事そのものが不足していることを危惧し、聞いたわけだ。
 
 最近リューンに冒険者が増え過ぎて、確かに冒険者の仕事が少なくなってきている。
 レベッカも、リーダーのシグルトとそのことについて先日どうするか相談したばかりだった。
 
 そうねぇ、と一口酒を飲んでから、レベッカはカウンターに置いてあった瓶の栓を手に取って、指の上でくるくると器用に回し、弄ぶ。
 
「うちのリーダーと相談したんだけど、今度はアレトゥーザに行ってみるつもり。
 
 少しはコネがあるし、交易路が変わって近くなったからね。
 
 〈狸〉の〈お守り〉とか、〈餌運び〉とか、〈餌場〉はできそうよ。(商人の護衛とか、荷物運びとか、仕事は増えそうよ)
 〈鼠〉におこぼれをあげれば、恩返しに銀貨を拾ってくるかもしれないわ。(盗賊に情報を流せば、借りを作れるから儲かるはずだわ)
 
 古臭いことにこだわってちゃ、増えすぎた御同胞に、食い扶持取られるだけだからさ」
 
 レベッカの言葉に、男はなるほどと頷いた。
 
「なら、お前に良い〈釣り餌〉(情報)をやるよ。
 
 あの辺りの〈魚釣り〉(情報を扱う人間。海辺の盗賊を指している)にゃ、たまらないネタだ。
 そのかわり、あっちの珍しいものは優先的に俺や赤いのによこせよ?」
 
 レベッカは軽く頷いて、弄んでいた酒瓶の栓を指で弾いて捨てると、男の方に耳を寄せた。
 
 
 ロマンは、図書館で博物誌を一冊読んでいた。
 革表紙のそれは巨大で、ほっそりとしたロマンの体格には余る代物だ。

 テーブルに博物誌の金具で補強された背を置き、比較的新しい羊皮紙とインクのすえた臭いに顔をしかめながら、黙々と読書に勤しむ美少年は、実に浮いた存在だった。
 
 やがて、博物誌を閉じると、ロマンは脇においてあった歴史書を読み始める。
 東方の言葉で書かれているが、ロマンにとっては母国語で書かれたものと変わりなく読むことができた。
 
 ロマンは驚異的な言語能力を持っている。
 おそらくは、言葉を専門とする学者よりも優秀かもしれない。
 読解と会話のすべてが可能な言語の数は、古典の文法まで完璧に習得しているものだけで5つ以上もある。
 
 だが、それはロマンにとって何の自慢にもならない。
 読みたい本があったから、覚えただけなのだ。
 
「…はぁ」
 
 ロマンはため息を吐き、その本を閉じた。
 書き手の主観をまるで世の真理と言わんばかりの、つまらない内容だった。
 客観性の無い書物は、総じて内容の薄い物が多い。
 
 ロマンが読んでいたのは、そういった類の、表装ばかり重い代物だった。
 
 黙って図書館を出ると、ロマンは独り言を呟いた。
 
「もう大学にある、貸し出し禁止以外の、主要な書籍は読んだかな。
 
 あとは、この近くの都市で蔵書の多い場所っていえば、カルバチアの学連の書庫か、ポートリオンの図書館。
 そういえば、アレトゥーザの賢者の塔は蔵書が豊富だって噂で聞いてるけど…」
 
 宿に帰った後、シグルトたちに蔵書の多い都市に行くように頼んでみようと考えたロマンは、各都市の蔵書を調べようと、目録がないか司書に尋ねた。
 
 
「元気そうで何よりです、スピッキオ殿。
 
 ラムーナもよくきてくれましたね」
 
 不自由な義足と杖で動きながら、クレメント司祭が飲み物を出してくれる。
 
「うむ。
 
 クレメント殿は御壮健のようじゃの」
 
 細い目を、傍目からは閉じているように見えるほど細め、スピッキオが深く頷いた。
 
 本来であれば、足の不自由なクレメントに対して言うには失礼ともとれる言葉である。
 だが、スピッキオのそれはクレメントを障害者として差別していない意図があることを、互いに承知しているから出た言葉である。
 身体的な困難に努力で立ち向かうクレメントにとって、スピッキオのような心遣いこそが有難いのだ。
 
「えへへ~♪」
 
 ラムーナは、クレメントと再開できたのが嬉しいのか、始終微笑みを絶やさなかった。
 
「丁度よい所に来て下さいました。
 
 使いを出して、皆さんをお呼びしようと思っていたところなのです」
 
 片方の眉を吊り上げて、スピッキオが理由は何故か、と尋ねる。
 
「はい。
 
 実は、私の知り合いの商人がアレトゥーザへ同行してくださる方を探しているので、その護衛をしてもらえないかと。
 最近、扱う商品の値段が暴落したので、あの都市から海路で西の島に販売に行こうと考えているらしいのです。
 
 その島では砂糖が高く売れるそうで、加えてその島で手に入る薬草が他の場所で非常に高く売れるのだとも言っていました。
 
 報酬は現物の品物でどうか、ということなのですが、レベッカさんはその手のものを小さく売買するのが上手いので、物品報酬も受け付けてくださるとか。
 お金でしか受けない人より、貴方たちに勧めてみようかと。
 
 それに、スピッキオ殿はアレトゥーザをよく御存知のはず。
 その商人はアレトゥーザに向けて、新ルートが開通したことを踏まえ、初めてアレトゥーザに行こうと考えたらしいのですが。
 
 あと、商人に“風を纏う者”の話をしましたら、是非頼んで欲しい、と言われたのです。
 シグルト殿がリーダーを務める“風を纏う者”の誠実な仕事ぶりは、護衛してもらった商人たちにたいへん好評だそうで」
 
 納得したようにスピッキオは頷いた。
 
「ふむ、わしの方から話してみよう」
 
 
 次の日、話を聞いたシグルトたちは、さっそく件の商人に会うことになった。
 
 相手は、まだ20代ぐらいの、しかも女性の商人であった。
 
「お初にお目にかかるよ、冒険者さんたち。
 
 私の名前はツィスカ。
 ま、見ての通り、流れ者のしがない商人さ。
 
 いやあ、“風を纏う者”の噂を聞いて、是非にとお願いしたんだけど…
 
 本当に話を聞いてもらえるなんて嬉しいよ。
 商隊の護衛では、成功率10割だって話だろ?
 
 引く手数多だって聞いてるよ」
 
 気さくに話しかける女商人ツィスカに、シグルトは首を横に振った。
 
「10割といっても、移動がてら受けた依頼が3つばかりだ。
 
 たまたまそれらすべてが問題なく解決しただけで、過剰に期待されては困る」
 
 シグルトの言葉に、ツィスカは嬉しそうに白い歯を見せて笑う。
 
「でも、前もって盗賊の出現しやすいルートを避けるアドバイスをしたり、因縁を吹っかけてきたチンピラを追い払ったりしたんだろ?
 
 それに、報酬は相場を守るって聞いてるし。
 何より、物品を報酬に依頼を受けてくれるかもしれないってんで、お願いしたいのさ。
 
 困ったことに、商品の相場が暴落して、結局売らなかったからね。
 あまり手元に資金が無いのさ。
 
 まったく、あのフォルトゥーナ商人の無茶のせいで、あたいたち善良な商人はおまんまの食い上げだよ」
 
 そう言うとツィスカは、茶色い塊を取り出して、テーブルの上にどっかりとおいた。
 
「…なるほど、良い砂糖だわ。
 
 末端でも、これ1個で銀貨数百枚ね」
 
 レベッカが、品物を鑑定しながらその質の良さに感嘆した。
 
「あったりまえさ。
 あたいの品は、物は最高だから。
 
 でも、1個で銀貨百枚、二百枚じゃ儲けにならないんだよ。
 だのに、商業のギルドのやつら、申し合わせて安い砂糖を大量に仕入れやがった。
 
 いま出回ってる安い砂糖は、三流の品だよ。
 まったく嘆かわしいね」
 
 ぼやくツィスカに、大変ね、とレベッカが相槌を打つ。
 
「それで、報酬はいくつこれをもらえるわけ?」
 
 にわかに、レベッカと商人の目が鋭くなる。
 
「最高の塊を合わせて3つ。
 
 前金代わりに1つ。
 悪くない取引だと思うよ?」
 
 レベッカは商人の提示に、少し考えると首を横に振った。
 
「良い品は2つでいいから、他に欠けたり割れた屑で、さらに残り2つ分の量をもらうのではどうかしら?
 
 欠けた品は、どうせ足元みられるんでしょう?
 劣化しただの、切が悪いだのと言われて、たぶん半額以下になるはずよ。
 損は無いと思うけど…
 
 加えて、貴女を無事にアレトゥーザに届けられた成功報酬ってことで、全部後払いでかまわないわ。
 
 目的地に着いて、貴女が私たちの仕事に満足しないなら、報酬は半分…2つ分の砂糖の塊でいいわ。
 もっとも、私たちは満足してもらうだけの仕事をするけどね」
 
 レベッカの提示に、ツィスカは少し考え、それで好いと頷いた。
 
 さっそく今の内容を安物の羊皮紙に記し、契約が成立する。
 その羊皮紙は、やや穴のあるものだが、このような一時の契約で終わる依頼では質の悪い物を使い、倹約するのだ。
 しかし、契約内容だけはきちんと記載しておくのが、プロの冒険者でありプロの商人である。
 
 後でトラブルを起こさないためにも、レベッカはことさらに契約に関しては神経質だった。
 
 
 次の日、“風を纏う者”はアレトゥーザに旅立つことになった。
 
 季節はまもなく初夏にさしかかろうとしており、南下するにつれ強くなる日差しの暑さに、肌の白いロマンなどは辟易していた。
 
 この時代の移動は徒歩が基本である。
 一説に、人間の平均的な徒歩での移動は、1日30kmだと言われている。
 これは街道を通る場合の速度だが、旅慣れしたこの時代の人間はもう少し早く移動することができる。
 
 アレトゥーザはそういった人間たちの足で、リューンから6~7日かかる距離にあった。
 旧街道を通れば10日以上かかったのだが、新しい交易路は道を割っていた河川等にはきちんと橋が掛けられ、よく整備されている。
 
 道筋は、まず東に向かい、南東に、さらにその先を南下する、というものだ。
 
 アレトゥーザは、リューンから南東の半島にある。
 いわゆる都市共和国で、歴史ある都市だった。
 最も興隆した時代には、人口20万人にもなったとされている。
 だが、東方の異教徒による圧力や、ライバルとなる南海の各都市との熾烈な競争により、最盛期程の勢力はなくなっている。
 
 しかしそれでも、アレトゥーザは南海に面する要所であり、商人たちにとっては、海路を使った交易において重要な場所にあり、この都市を中心に活動する交易商人や船乗りはまだまだ多い。
 
 シグルトたちは、順調に旅を続けて6日でアレトゥーザに到着した。 
  
 国境を越えアレトゥーザの領地に入ると、潮の香りを含んだ少し湿った風を感じることができるようになる。
 やがて、歴史あるアレトゥーザの外壁が見えてくる頃、南海の風は、まぶしい陽光を浴びて暖かく吹き付けてきた。
 
 アレトゥーザの門を見上げて息を呑んだロマンが、粘つく潮風に咽たのか、可愛らしい咳をしていた。
 
 門をくぐると、不機嫌そうな顔の門番が出迎えてくれた。
 冒険者を嫌っているらしいその兵士は、ぶつぶつと小言を言いながら都市に入るための簡単な検査を行い、シグルトたちの都市入りを許可してくれる。
 
 ツィスカは、荷にかかるというわずかな税をまず納めた。
 都市国家では、国民から得る税金はもちろん大切だが、こういった交易商人から入る税金もその財政を支える収入源であった。
 
 そしてツィスカは、“風を纏う者”の仕事ぶりに満足したと、予定よりも多い屑砂糖を分けてくれた。
 理由は、レベッカが通行税がもっとも少なくて済むルートを見つけ、しかも予定より一日早く着けるように道を教えたからだ。
 
 上機嫌に去るツィスカを見送ると、レベッカは満足そうな顔になって、報酬を確認していた。
 
「よかったな、報酬が多めにもらえて」
 
 シグルトがレベッカの功をねぎらうと、、彼女は不敵に笑った。
 
「私たちのした仕事だから、当然だけどね。
 
 しかも、ここまで来る間に必要なこういう品にかかる税金は、アレトゥーザに入る前にあの商人に払ってもらったから、完全に免税というわけ。
 この都市の法律では、さすがに冒険者の護衛報酬にまで税金はかからないし。
 
 でも、ああいう商人といて個人で品物持ってると、たまに戦争時の増税なんかで因縁を吹っかけられて税金取られるときがあるからね。
 特に、こういう共和制都市は法律が発達しているから、利権について細かかったり、税に関しては厳しかったりするのよ。
 交易が盛んな臨海都市は、人の出入りが多いから、トラブルが起こらないように色々な対策が立てられているわけ。
 
 税金っていってもほんの銀貨数枚なんだけど、それでも今晩の食事代ぐらいにはなるわ。
 それに今の私たちにとって、現金は貴重でしょう?
 
 まあ、依頼人に喜んでもらって、こんなに得したんだから大成功ね」
 
 レベッカが何故、完全な後払いで報酬を貰うようにしたのか理解したシグルトは、やれやれと肩をすくめていた。
 
 
 さらにレベッカは、報酬の砂糖を用いて、『悠久の風亭』というアレトゥーザの下町にある冒険者の宿に、数日の滞在が可能になるように話をつけてしまった。
 
 この手の調味料は、商人から買うと高いということで、大きな砂糖の塊1個を出すと、気の好いこの宿の女将は喜んで交渉に応じてくれた。
 なんでも、リューンで砂糖の値段が暴落したことで、一部の商人が品物の売りしぶりを始めたため、アレトゥーザでは価格暴落前よりも砂糖が高いというのだ。
 
 レベッカの巧みな交渉は、今までほとんど宿代を発生させていない。
 
 残った屑砂糖は、少しずつ仲間たちで分け合う。
 一旦は値段が暴落したという砂糖だが、貴重な品であることに変わりは無い。
 
「砂糖って、極限状態では貴重な食料にもなるわ。
 
 お金が使えない外国でも、物々交換に使えるから便利だし。
 加えて、仕事中に野外で食べる食事に使えば、確実に美味しくなるというわけ。
 
 買うと高い物だし、皆有効に使ってね。
 
 ただ、この手のものの販売とかは都市部ではしないこと。
 さっきも言ったように、商税がかかるときがあるのよ。
 
 私みたいに、〈分けてあげた謝礼で宿に泊めてもらえる〉ように使った場合はどうとでも言い様があるけど、お金をもらったりする場合は完全な商売になるから、規模が大きいと商業ギルドに睨まれたりするわ。
 冒険者としてちゃんとやってくつもりなら、各都市、各地方の税制には詳しくならないとだめね」
 
 先輩冒険者として、きちんとした知識のあるレベッカのアドバイスは的確だ。
 
 “風を纏う者”が他の都市に出張して活躍できるのは、レベッカのおかげである。
 言葉の通じない相手にも、ロマンという優秀な通訳がいる。
 
 多くの若手冒険者がリューンで活動するのは、通行税や物々交換に慣れておらず、遠出をするとかえって損をしてしまうからである。
 旅費はばかにならないし、言葉の壁は大きな失敗にも繋がる。
 
 熟練の冒険者は、長い年月をかけて旅や言葉に慣れ、そういうことが出来るようになるものだが、結成して間もない“風を纏う者”はすでにそれが出来る。
 これは、他の冒険者に比べて大きなアドバンテージであった。
 
 
 その日の午後、“風を纏う者”は夕食の材料を探すため、海岸を歩いていた。
 宿に付いた後、一行が暇をもてあましていると、砂糖の交渉の後、料理の話題で話が合いレベッカと仲良くなった宿の女将ラウラが、食材探しをしてくれないかと頼んできたのだ。
 ちゃんと報酬もあるということで、海の見学を兼ねて、一行は快くその依頼を受けるのだった。
 
 行楽気分で始めた仕事だったが、最初はいきなり砂蛸の巣を掘り当ててしまい、襲われる羽目になった。
 
 砂蛸とは南海の浜辺に住む蛸の一種で、かなりの巨体であり、砂に潜み保護色を使うので見分けがつかない。
 悪食で、動くものなら犬や猫も襲うことがある危険な生物である。
 
 しかし、シグルトの大振りの一撃で砂に叩きつけられた砂蛸は、続くラムーナとスピッキオによって叩きのめされてしまった。
 
「おっ!
 
 これって、蛸墨じゃない。
 墨袋が丸々無事よ。
 
 蛸の墨って、粘度は低いんだけど、イカ墨より珍味なのよねぇ。
 臭み抜きをしないと食べられないけど、ラウラさんが欲しがってたし、掘り出し物かもね」
 
 レベッカは素早く砂蛸を解体し、ちゃっかり食材を入手していた。
 
 その後、あちこちを掘っていたシグルトたちは次々に食材を見つけた。
 持ってきた袋には、巨大な高級貝が3つに、大きな海老と蟹が1匹ずつ入っている。
 
 見つけたのはシグルトとラムーナだ。
 この2人は、意外にもこういった探しものをするのが得意だった。
 
 砂蛸を掘り当てたロマンは、少し不機嫌だったが、結果的には大漁だった。
 
 この手のことが得意そうなレベッカだが、交渉で疲れたと言って、浜辺で昼寝を決め込んでいた。
 怠けられるときに怠けるもの、というのが彼女の信条の1つらしい。
 砂蛸との戦闘のときも、ちゃっかり最後に現れて、砂まみれになったロマンの横でのんびりと蛸墨の鑑定をしていた程だ。
 ロマンが不満そうなのは、それもあるのだろう。
 
 だが、その蛸墨はラウラが一番高く買い取ってくれた。
 一番手柄だと褒めてくれるラムーナに対して、ロマンは複雑そうに、南海の砂に反射した日差しで赤く焼けた頬に薬を塗り込みながら、苦笑していた。
 
 結局、浜辺で取ってきた食材は銀貨六十八枚にもなった。
 思わぬ収入に、レベッカはたまには奮発して食事をしようと、女将特製の海鮮グリリアータ・ミスタ(ミックスグリル)、クモガニの甲羅焼き、香草ソースの塩漬けニョッキなどをテーブルに並べて豪華な夕食となった。
 
 
 冒険者の宿『悠久の風亭』の海鮮料理は絶品だった。
 
 護衛してきたツィスカが、お勧めだと紹介してくれた『悠久の風亭』は、大柄で柄の悪そうなマスターと、その妻というのが疑問になるぐらい美しい女将のラウラが切り盛りしている冒険者の宿だ。
 シグルトたちは、風にちなんだ名を名乗る自分たちが逗留するには相応しい名前の宿だと、ここを贔屓にすることに決めた。
  
 ラウラがサービスで出してくれた、塩加減が絶妙な貝と海老の蒸し物に、マッケローニ(現代のマカロニのようなもの)を肉入りスープで煮込んだという、この宿の女将さん自慢の新作料理も楽しみつつ、レベッカは、チーム名を決めたシグルトを眺めていた。
 最初の頃のとげとげしさはだいぶなくなり、ちゃんと仲間をまとめているシグルトを頼もしいと思う。
 
 果汁を井戸水でわった飲み物を啜りつつ、シグルトのそばでこれから巡る場所についての話題をふって一生懸命話しているロマンという少年は、気心が知れたとたんに生意気になったが、その知識や慎重な考え方は一目置いているし、ちょっとからかうと照れて可愛らしい。
 
 お酒に酔って陽気に踊り、酒を飲みにきた年寄りたちに喜ばれているラムーナという少女には、レベッカとよく似た社会の底辺を垣間見てきた同士のような親近感と妹のような親しみを感じている。
 
 テーブルの端でワインにパンを浸しては食べている大柄な体格の老人、やや高慢で生真面目なスピッキオという爺さんは、ことごとくレベッカと意見がぶつかるものの、年寄り独特の落ち着きと度量の広さがあって、その秘蹟の業とともに仲間として欠かすことはできない。
 
 レベッカは怠けたり、遊んでだらけることが好きだった。
 でも最近は仲間たちにいつも苦労させられる。
 1人でいたときにはなかったことだ。
 
 でもレベッカは思う。
 苦労したあとに仲間とだべり、仕事のあとに仲間と飲む酒は格別だと。
 
 その後レベッカは、負けたら一晩一緒に飲んでやることを条件に、数人の男たちと賭けゲームをして、イカサマを使う必要もなく勝利する。
 そして男たちにアレトゥーザ名物の高級酒【イル・マーレ】を奢らせて、充実した一夜を過ごしたのだった。

 
 
 ついに入ったアレトゥーザ編です。
 今回は導入部分を大幅に加筆しました。
 
 Martさんの『碧海の都アレトゥーザ』は、カードワースが誇る店シナリオの傑作です。
 オフィシャルファンサイトの『寝る前サクッとカードワース_vol.1』にも収録されていますが、新バージョンのアレトゥーザは、もっとすごいので、是非Martさんのサイトで公開されている最新版をプレイすることをお勧めします。
 
 このシナリオ、私も製作に関わってまして、スキルのアイデアやギミックなどの原案のいくつかを差し上げたりしましたが、新しいバージョンで登場する悪役などには、私の書いてたリプレイから生まれたキャラクターがいたりします。
 
 拙作『風たちがもたらすもの』では、アレトゥーザとのクロスオーバーがありますが、リプレイも私のシナリオも、アレトゥーザ無くしては無かったでしょう。
 
 
 今回、多分に地理的な描写をしていますが、これはちゃおぶんさんが中心になって編纂されている、カードワースの地図を参考にしています。
 サイト『Card Wirth Geography』にて、6月中に大きくまとめられたものを参考に、Martさんのブログの設定を確認しながらまとめてみました。
 リプレイを書かれている方にとって、この地図はとても参考になる資料ですよ。
 
 
 今回、“煌く炎たち”というパーティが登場しましたが、彼らのうちゼナとレシールは旧リプレイに登場してたりします。
 “煌く炎たち”は実際にサブパーティとして使っています。
 今度札講座でも、サブパーティについて特集しようか、などとも考えているところです。
 
 
 さて、アレトゥーザ。
 今回は『ラウラのお願い』をリプレイしています。
 シグルトの宝運は相変わらず高く、なんと68SPももうけてしまいました。
 獲得品は…
 
・【砂蛸の墨】×1
・【高級貝】×3
・【海老】×1
・【蟹】×1
 
 一回のチャレンジで、です。
 いきなり砂蛸にあたったときはどうしようかと思いましたが、シグルトが【渾身の一撃】で弱らせて、続くスピッキオが文字通りタコ殴りにして1ラウンドでノックアウトさせました。
 蛸墨までゲットして、結果的に儲かってたり。
 はずれが一回も無かったという、前代未聞の結果になりました。
 プレイした私が首を傾げたほどです。
 
 シグルトは、なぜかリプレイするときの本番プレイで異様に宝運がよいのです。
 旧版では、シグルトに発掘させると鉱石や宝が継いで発見されました。英雄型はこういう運は悪いかも、と思っていましたが、逆だったのでそのまま描写しています。彼の宝運がどうなるかも、これからのリプレイでは見ものです。
 
 68SPのうち、30SPはラウラの料理に使用しました。
 ただのアルバイトとしてではなく、こうやってお金を使うとまた楽しいですよ。
 
 
 アレトゥーザ、数回に分けてUPしますが、あまり加筆しないですみそうなので、8月初旬に一気にUPしてしまおうと考えています。
 シナリオと違い、だいぶ書き進めてありますし。
 
 お盆明けまで、リプレイばっかりになると思いますが、そのあたりはお許しくださいね。
 
 
 今回は38SPを得て、パーティ所持金は838SPになりました。(チャリ~ン♪)


〈著作情報〉2007年08月01日現在

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
  
・Martさんサイト『esotismo.』
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 地理の描写に、ちゃおぶんさんが管理されているサイト『Card Wirth Geography』の地図を参考にさせていただきました。
 
 地理的に引用しているフォーチュン=ベルやポートリオン等の地名は、下記にある『各シナリオに関連した情報』として扱っています。
 問題があるようでしたら、Y2つまで御報告下さい。
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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