Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

『風纏いて疾る男』 後編

 シグルトは疾っていた。
 
 細工師を襲った盗賊たちは、度々この逃走ルートを使うのだろう。
 駆ける速度もかなり速い。
 
 だが、シグルトは足に障害があるにもかかわらず、徐々に距離を詰めていく。
 
 山岳修行者が、一本歯の下駄で疾走する技術があるが、シグルトの疾走はそれの応用に近い。
 重心を前に傾け、リズムをつけて、次に足を置く場所を選びながら軽快に進む。
 
 武術に長け、肉体のコントールに優れるシグルトは、身体に負担をかけずに動くことを常に心掛けていた。
 
 それに、シグルトの育った国は標高が高い山地である。
 幼少の頃は足場の悪い山や森が遊び場で、武術の修業時代は崖を駆け登って足腰を鍛えた。
 
 意図して鍛え、要領を覚えたシグルトと盗賊では、実力に大きな開きがあったのだろう。
 四半時近い追跡で、シグルトは盗賊のすぐ背後まで迫っていた。
 
「な、何て野郎だっ!
 
 この俺たちに追いつくなんて…」
 
 急な坂道を越えると緩やかな丘陵になっていた。
 
 息を切らし、逃走していた盗賊たちは驚愕の表情でシグルトを見ている。
 ぜぇぜぇと荒い呼吸の盗賊たちに比べ、シグルトの呼吸は軽く走った程度の乱れだ。
 
「…さぁ、盗んだ物を返せ」
 
 へたり込んだ盗賊たちを見下ろし、シグルトが強い言葉を放つ。
 
「…ふん、仕方ねぇな。
 
 まあ、ここまで他の奴は追ってこれねぇだろ」
 
 盗賊たちのリーダー格らしい男が腰に下げていた剣を抜き放つと、周りの者たちもそれに従って自分の得物を構える。
 
「しつこい野郎だぜ…
 こんな場所まで追いかけてくるなんて、な。
 
 ま、足が速いのは分かったがよ。
 お前、この人数に勝つつもりか?
 
 …死ぬぜっ!」
 
 盗賊のリーダーが凄むが、シグルトは涼しい表情だ。
 すでに彼の呼吸は完全に落ち着いている。
 
「欲を出し過ぎたな。
 
 そんな荷物を持った格好で、速く走ることは出来んぞ。
 逃がすつもりも無い。
 
 俺の注意を引いて、後ろの…隠れている奴に俺を襲わせるつもりか?
 
 お前らの人数は把握しているぞ」
 
 シグルトは、奪われていた機制を取り戻すかの様に、剣を鞘払う。
 
 改心の策を見破られ、盗賊のリーダーが焦りの表情を見せる。
 
「…くそぅ、仕方ねぇ。
 
 てめぇら…囲んで殺るぞ。
 この優男野郎、ぶち倒してねぐらに帰るぜっ!」
 
 その声に呼応して、さっとシグルトを囲む盗賊たち。
 
(…この地形で、周りを包囲とは、な)
 
 シグルトは呆れたように眉をしかめた。
 狭い足場での包囲は、よほど地形に慣れた者しかしてはならないのだ。
 むしろ挟み込むように2人で包囲し、その背後にさらに1人ずつ配置して逃げ道を塞ぐ方が合理的だ。
 1人の人間を一度に包囲するとき、5人で囲むなど、槍のように長い得物で横との距離を取れる状況で行うべきだ。
 振り回すことを主とする剣では、隣同士で邪魔になってしまう。
 足場が悪く道幅の無い坂道では、愚策となることもしばしばだ。
 
「ぬぅぅおぉりゃぁぁぁっ!!!」
 
 一人が襲い掛かってくるが、その攻撃をひらりと避けたシグルトは素早くその足を払う。
 よろめいた盗賊は勢いを落とせず、その男は反対側にいた男に突進し、互いにバランスを崩す。
 
 シグルトは刃の半ばを握り、上段に構える【王冠】の構えだ。
 そのまま前に低く踏み込んで、柄で一人の鳩尾を抉るように突き上げる。
 
 交差した時、一斉に襲い掛かってきた敵の剣が背を掠め、じわりと痛みが走るが、シグルトは構わずに一転、剣の平でもう一人の鼻の少し上を殴打した。
 
 敵を吹き飛ばした勢いで向きを変え、絡まってもがいている2人の盗賊に向かう。 
 起き上がろうと焦る2人を、一人は踏みつけ、最後の一人は柄頭で延髄を強打して気絶させる。
 
(…背中の傷が、少し深いか)
 
 じくじくと痛む背の傷。
 だがその痛みをおくびにも出さず、シグルトは最後に残った盗賊のリーダーと対峙した。
 
 シグルトの腕にはさらに小さな裂傷。
 先程目の前の盗賊につけられたものだ。
 
「く、糞っ!!!」
 
 盗賊は構えを低く取り、牽制するように小刻みに剣を繰り出してくる。
 シグルトは敵が一撃放つ度にそれを払い、腕を、足を剣の平で殴打して弱らせていく。
 
「ぬぅうあぁぁぁっっっ!!!」
 
 盗賊がやけになって突っ込んで来た瞬間、シグルトは交差の瞬間にその眉間を剣の鍔で殴り、気絶させていた。
 
(…っ、はぁ。
 
 さすがに…5人相手では、厳しかったな)
 
 大きく一度息を吐き、呼吸を整えるシグルト。
 すぐに背の傷を、持っていた清潔な布で覆うと、帯を外しそれで縛って応急処置を済ませる。
 
 シグルトは、普段から常に帯を2本巻いていた。
 一本は細く、普通の帯に隠れてしまう物。
 これは戦いのさなか服が緩まないようにするためであり、あるいはこのように使うためだ。
 
 傷の手当てをしながら、シグルトはまだ油断ない様子で周囲を見回した。
 
 一人が多人数を相手にする場合、リーダー格を先に倒し、敵の戦意を挫くという戦い方がある。
 シグルトはそうせずに、そのリーダー格が他の盗賊たちとほぼ同格の実力と見るや、他の敵から倒してリーダーを追い詰める戦い方に切り替えた。
 
 実力が近しい敵の場合、無理にリーダーを倒しても、敵を激昂させて逆効果になる場合がある。
 リーダーを先に倒すのが効果的なのは、敵たちが戦術や実力でそのリーダーに依存していないと効果が薄い。
 真剣勝負とは、そういった駆け引きを制し、心理戦で負けないことも必要だ。
 
 今回はシグルト単独で、仲間のバックアップは無かった。
 盗賊たちを追撃でまとめて疲労させていなければ、シグルトでも危なかっただろう。
 実際手傷も負っている。
 
 しかし、シグルトの修業時代に兄弟弟子と行った、槍を模した長い棍で殴り合う鍛練の方がよほど厳しかった。
 その訓練は痛みに慣れ、怪我をした状態でも冷静に戦うために行う。
 
 形式化した武術は大概が寸止めや防具を用いるが、それでは強い一撃を受けた後に、負傷に気を取られてたたみ掛けられてしまう。
 身体で痛みを知り、実戦の緊張感に慣れるその鍛錬は、シグルトの武術の師が、元々は戦場で鍛えたことの名残である。
 
 先程背に傷を受けた時、シグルトは背筋に力を込めて受けた。
 常人ならば大怪我をしていただろうが、まんべんなく鍛えられたシグルトの強靭な筋肉は、多少の攻撃には耐えられる。
 
 野蛮とも言える戦い方である。
 だが、実戦とは殺し合いであり、荒っぽいものなのだ。
 
 シグルトは武器を剣に変えたばかりで、身体には障害がある。
 だから、より油断なく張りつめた戦い方をする。
 ちょっとした気の緩みで、命は簡単に奪われてしまうのだから。
 
 自身の手当を終えたシグルトは、気絶した盗賊たちを縛り上げていく。
 道具は盗賊たちの帯と服。
 髪の長い盗賊を選んで、その髪をひと房切ると、それを使って後ろ手に拘束した状態で盗賊たちの親指と小指も縛る。
 こうすれば力が入らず、逃げられることは無い。
 欝血しない程度にきつく、使う髪は切れないように常に数本。
 
 シグルトが苦戦したのは、殺さずに捕まえるためでもあった。
 
 善意でそうしたのでは無い。
 
 官憲に引き渡された後の盗賊の末路は、大概悲惨なものだ。
 だが、犯罪者が処罰されれば、その恐怖が犯罪を抑制する。
 それに生きた犯罪者は、助かるために他の仲間のことやその手口を話すだろう。
 
 実際に倒すべき対象が定まれば、軍隊というものは大抵迅速だ。
 盗賊のアジトが分かっていれば、動く兵士たちもいるはずだ。
 そのすべてがいなくなるわけではないが、少しは盗賊の被害が減るかもしれない。
 
 シグルトが4人目を縛り終えた時、ふと気配の動きに振り向くと、先ほど倒したはずの盗賊のリーダーがいない。
 
(あの殴打を受けて、動いたのか?
 
 いや、まだ身体が痺れてそれほど動けないはずだ)
 
 倒れていた位置から逃げられるルート、隠れられる場所の予測を始める。
 
(む…北か?
 それとも、東側の崖か?
 
 どちらを探す?)
 
 シグルトが思案している時、不意に柔らかな風が吹いた。
 撫でるように暖かい、不思議な風だ。
 
「「…こっちだよ」」
 
 心に直接触れるような、不思議な風。
 シグルトは、次の瞬間には決断し、風が導く方に走った。
 
 
「な、何でっ!!!」
 
 北側に生えている枯れた木の後ろに隠れていた盗賊は、何の迷いもなく走ってくるシグルトを認めてその身をさらしてしまう。
 
「逃がしはしないっ!」
 
 鋭い声で盗賊を恫喝し、距離を詰める。
 盗賊はなおも逃げようと、シグルトに背を向けた。
 
 シュバッ!!!
 
 その瞬間、不思議な突風が吹いた。
 脇腹を裂かれて盗賊は転倒し、地面に額を強打すると動かなくなった。
 
 盗賊のすぐ近くで草木を巻き上げながら、ひゅるひゅると風が渦巻いている。
 その珍妙な旋風に、シグルトは首を傾げた。
 どう見ても自然の風では無い。
 
「…ほほ、恵まれた男じゃて。
 
 風の方から力を貸すとは、の」
 
 盗賊が隠れていた木の後ろから、ぬっとその老婆は現れた。
 薄汚れた襤褸を纏い、しかし眼光だけは底知れぬ何かを秘めている。
 
「…あの時の婆さんか?」
 
 シグルトは相手の姿を認め、肩の力を抜いた。
 
 かつて国を追われ何をすべきか分からずに彷徨っていた頃、イルファタルという国で、シグルトはこの老婆に逢っている。
 老婆はシグルトの未来を予言し、西方に向かうことを促した。
 
「久しぶりじゃの、オルテンシアの末裔よ。
 
 かれこれ数か月になる…また逢ったの」
 
 老婆の言葉に、シグルトは頷き返した。
 
「貴女は、あの時から俺のことを知っていたようだな。
 
 俺は名乗る必要があるか?」
 
 老婆はいらぬ、と首をゆっくり横に振った。
 
「お主のことは、小さい時よりよく知っておる。
 
 金床に登って玉鋼(ぎょくこう)の女神に祝福され、天地の霊母(あめつちのはは)に頭(こうべ)を撫でられて空に手を伸ばした、その時からの。
 生まれながらに選ばれる英雄…それを我らは、愛おしみ、あるいは憎むものじゃ」
 
 謎めいた老婆の言葉。
 
 シグルトは、生まれて這い這いが出来るようになった頃、国の伝統である儀式をさせられたことがある。
 周囲に生活用品を置き、最初に子供が手に取った物を育て方の参考にするのだ。
 手に取った物に関わる職業に就く、と信じられていたからである。
 
 だが、シグルトは品物の数合わせで置かれていた、窓際の陰にあった金床に上り、窓から天に向けて手を伸ばしたのである。
 その不思議な行為に、周囲の者はこの子供が特別な人物になると語り合ったという。
 
 今の老婆の言葉は、そのことを指すのだろう。
 
「ほほ、それにお主の名前の由来も知っておる。
 
 北方一の鍛冶師に祝福された、幸運な者であることもな」
 
 シグルトは呆れたような顔になった。
 そこまで詳しく知られていると知り、怒るより感心しさえしている。
 
 シグルトの父親アルフレトは、国で最強と呼ばれた剣豪であった。
 そして持っていた剣は、王より賜った名剣である。
 【ティゲル(虎)】と名付けられた、美しい縞の波紋のあるその剣を打ったのは、北方でも名の知られるドワーフの鍛冶師マクラホンだ。
 
 シグルトが生まれた日、薄汚れた旅のドワーフがシグルトの生家を訪れた。
 一晩の宿を、と望んだのである。
 
 この珍客を、家中の誰もが反対する中、シグルトの母オルトリンデだけは迎え入れて持て成す様に言った。
 当時は家の主人であったオルトリンデの命で、ドワーフは食事と酒を振舞われた。
 
 シグルトを身籠っていたオルトリンデは、身重のまま食事を作り、ドワーフと話す間に産気づいて、シグルトを出産した。
 駆け付けた父アルフレトは、その時焦る家人を叱咤し、子の出産に立ち会ったドワーフが誰なのか知って、大変驚いた。
 彼こそ、アルフレトの愛剣を打った名工マクラホンであったからだ。
 
 アルフレトは古今の英雄譚が好きで、長子にも北方の英雄の名を贈っている。
 彼は鍛冶師に関係がある名前、ということで、幼小に鍛冶屋に育てられたという竜殺しの英雄、シグルトの名を貰ったのである。
 
 アルフレトはマクラホンに礼として、国にいる間使ってもらえるようにと、小さな鍛冶場と小屋を提供した。
 その鍛冶場にしばらく留まって数々の剣を打ったマクラホンは、誰にも見せなかった鍛冶場をシグルトだけには見せ、シグルトも鉄を打つい音が響く間は上機嫌で眠ったという。
 
 マクラホンは、儀式で金床に乗った姿を見て、シグルトが鉄の守護者とも呼ばれる女神ダナに祝福を受けたと、すぐに理解した。
 そして後にシグルトが槍の道を志すと、一本の見事な槍を作って彼に贈っている。
 かつてシグルトが9歳で狼を殺した勇気と罪を覚えておけと、マクラホンは厳つい顔で微笑み、狼を模した【ヴォルフ】という青黒いその槍を残してまた旅立ったのである。
 
 マクラホンは剣しか打たない鍛冶師だったが、唯一シグルトにだけはその槍を送っている。
 彼の打った刀剣は“獣の銘”と呼ばれ、現在でも北方の剣士たちには垂涎の品だ。
 
 シグルトの、この由縁を知る者はあまりいない。
 彼は自分から話す方ではないし、鍛冶師マクラホンは謎めいた人物で、その武具が業物という以外は、居場所も性格も分からないと言われているのだ。
 
「お主は、玉鋼の女神ダナ、天地の霊母イルマタルと契約した神仙、大精霊術師オルテンシアが末裔よ。
 
 その出生は、ダナが祝福し、イルマタルが言祝いだ。
 そう、神々が英雄となることを期待したものじゃった。
 お前の魂は、磨いた鉄のように輝いておる。
 
 神と精霊に愛された、選ばれし男、というわけじゃ」
 
 老婆はゆっくりとシグルトに近づいてくる。
 
「そして、名を残すであろう英雄のお主とともに、自らの名を歴史に刻むことこそが、お前を見染めた精霊や神々の望み。
 名を高めることは、霊格を高め、より偉大な存在になれるからの。
 
 だが、同時にお主の力強き魂を奪わんとする者もおる。
 黄昏の後にも狂って魂を刈る戦乙女や、魂を喰らう悪神、死神どもじゃ。
 
 お主が地を這う痛苦と悲しみを味わったのは、そういた悪神の一柱、悪辣なる魂喰い“貪り”に影の一部を食われた故。
 同時に、“貪り”を屠った神仙“神狩りの灰”に出会い、不老の呪いを浴びた英雄“不折の刃”に命を救われ、諭されたお主。
 
 その英雄性を、どれだけの神や悪魔…〈超越者〉が注目しておるのか、今のお主は分かるまいの。
 
 お主の道は、茨の道よ。
 
 傲慢なる聖北は、お主を助けることはなかった。
 だが、お主を憐れみ、力を貸す神々もおる。
 
 ゆめ、忘れるな。
 
 お主は、常に精霊と古き神々に祝福され、狙われておる」
 
 言い聞かせるような言葉だった。
 そして、ねっとりとした妄執と、渇望する悲願の成就。
 
 老婆の眼光から感じるそれらに、シグルトは冷たい汗が脇の下を伝わるのを感じていた。
 だが、取り乱す様子もなかった。
 
 シグルトが動じない性格なのは、一つにとんでもない存在に関わってきたからである。
 
 かつてシグルトは、建国王の母とされる神仙に志を学び、その命を恐ろしい死神に狙われたり、死神すら殺す神仙に助けられた。
 そして、シグルトが尊敬するとある英雄は、死にかけたシグルトを救い、生きる意味を教えてくれた。
 
 そんな超常の存在と数多く邂逅すれば、肝も太くなる。
 
「…と、まあ、脅してみれば大して動ぜぬか。
 
 重畳、重畳。
 この程度の建前…
 有頂天になる馬鹿や、言葉の重みに狂う弱者など、このワシが見染める筈もない。
 
 その泰然こそ、そしてあの若造の〈新しさ〉。
 お主らは、やはり面白い」
 
 くく、と老婆は笑い、やがてシグルトの目の前に立った。
 
「ワシはポダルゲ。
 神話に詳しきお主ならば、何者か分かろうな?
 
 今日は、再会と冒険者になったお主を祝い、贈り物をしよう」
 
 ポダルゲ、と名乗った老婆は、すっとしわがれた手でシグルトを指差した。
 
「旋風の娘が、お主を見染めたようじゃ。
 
 精霊の方から力を与えて貰えるお主は、果報者よ」
 
 シグルトの周囲を、先ほどと同じ柔らかな風が包んでいく。
 
「風を纏い、戦う憑精の術。
 【飄纏う勇姿(つむじまとうゆうし)】と呼ばれる精霊降ろしよ。
 
 先程、そこな賊の居場所を教え、倒した旋風の娘。
 随分とお主を気に入っておるようじゃ」
 
 ポダルゲの声を肯定するかのように、風はシグルトの周囲を強く吹いた。
 
「その娘は名無しじゃ。
 
 名の無い精霊は、主と決めた者から名付けられることを好む。
 助けられたのじゃから、その礼と思って、名を考えるのだ」
 
 意地悪そうな笑みを浮かべたポダルゲ。
 急かす様に、旋風が舞う。
 
「…ふう。
 
 状況が理解できないが、とにかくこの恩人に名を贈れば良いんだな?」
 
 シグルトは手をかざし、風に触れるような仕種をした。
 
 かつてシグルトに、精霊のことを教えてくれた老婆がいた。
 その老婆は、シグルトに精霊術師の素質があると言っている。
 
 シグルトには精霊を見ることは出来なかったが、その息吹や存在を感じ取る能力があった。
 そして、精霊たちはポダルゲの言うように、多くがシグルトに対して好意的だった。
 
 特に風の精霊は、シグルトにとって親しく感じられる精霊である。
 
 北方の冷たい風の精霊も、シグルトの周囲を吹く時は優しかった。
 傷つき彷徨って西方に流れて来た時、支えてくれた微風があった。
 アレトゥーザを訪れた時、南洋の海風はいつも歓迎してくれた。
 
 シグルトは自身に精霊術師の資質があることを、あまり言わず、また表に出すこともなかった。
 彼の故国は厳しい聖北教会の教えが浸透する国で、精霊信仰は教会によって禁じられていたからだ。
 自身の才能を開花させることなく、シグルトはずっとその力を隠してきた。
 
 だが、シグルトはいつでも精霊の存在を疑わず、そして受け入れていた。
 見えず、言葉が交わせずとも、そこにあるものを信じ受け入れられるシグルト。
 そんな彼に、精霊たちはいつも優しかったのだ。
 
「俺には精霊の姿を見る力は無い。
 だが、お前の導きは感じていた。
 
 先程は助かった。
 とても感謝している。
 
 俺はあまりこういうことは得意では無いんだが…
 恩人が望むならば、考えてみよう。
 
 そう…俺には見えない娘だから、〈トリアムール〉ではどうだ?
 
 偉大なる獅子王に仕えたロンファールには、妖精の恋人がいた。
 彼女はとても美しく、賢く、ロンファールにしか見えなかった。
 
 ロンファールの栄光は、この見えない恋人と共にあったという。
 
 お前が美しく、そして偉大な風であるように。
 
 〈トリアムール〉の名を贈ろう」
 
 旋風は喜びを現す様に、空に向かって吹き昇った。
 そして寄り添うように、シグルトを優しく風が取り巻く。
 
「ほっほ。
 
 精霊が契約で求める名に、〈トリアムール〉…〈愛を全うする〉とは、なぁ。
 まるで求婚のように、甘い囁きじゃの。
 
 旋風の娘は、すっかり虜になってしまったぞ」
 
 シグルトは、分からないという風に首を傾げた。
 
「…契約?
 
 名を贈れと言ったから、思いついたものを言っただけだが?」
 
 ポダルゲは、肩を震わせて噴き出した。
 
「精霊が名をくれ、というのは、親や相方になってくれという意味なのじゃ。
 
 それは、その精霊を名で支配する力を得る、ということ。
 つまりは、契約が成立したということじゃ。
 
 お主の贈った名を受け取ったその精霊は、偉大なる西風の娘。
 纏うことを許されるお主は、間違いなく勇者よのう」
 
 貴方の側を離れないわ、という風に旋風がシグルトに纏わりついて、その髪を撫でていた。
 
 困ったように、シグルトは風で乱れた髪を直しながら溜息を吐いた。

 
「…ポダルゲ、か。
 
 西風ゼピュロスの妻で、ハルピュイアイ(ハルピュイアの複数形)三姉妹、あるいは四姉妹の一人と聞いている。
 今伝わっている神話ではハルピュイアが醜い魔物にされてしまっているが、本来ハルピュイアは有翼の風の神かその眷属だ。
 
 貴女はつまり、その風の神たるポダルゲということだな?」
 
 ほほほ、と笑いながら、老婆は頷く。
 
「貴女がいるなら、この『風繰り嶺』の様子も理解できる。
 
 花一輪、咲いていないわけだ」
 
 散々笑われたシグルトは、ここで反撃に出た。
 ポダルゲは、不機嫌そうな顔になり、そっぽを向く。
 
 ポダルゲの夫、西風ゼピュロス、あるいはゼファーと呼ばれた風神は好色で有名である。
 その愛妾の一人には花の女神であるフローラもいて、ポダルゲとは仲が悪い、というわけだ。
 
 伝説では、ハルピュイアは花一つ咲かない毒の沼地に出現するとある。
 あるいは荒れ地や岩場の荒々しい風を象徴するのが、彼女たちだ。
 
 シグルトの聞いた話では、ポダルゲが植物の女神の筆頭のフローラを嫌ってのことだという。
 
「ふん、罰当たりな奴じゃ。
 
 神との邂逅に物怖じもせず、さっそくにも笑われたことの仕返しをするなど…
 儂の知る神にならば、殺されておるぞ」
 
 たしなめるポダルゲに、気をつけよう、とシグルトは苦笑して返した。
 
「しかし、〈ポダルゲ(足の速い女)〉という名に恥じない移動力だな。
 
 ここから貴方と逢ったイルファタルまで、数か月かかる距離だ。
 風の精霊術には、そんな術もあるのか?」
 
 シグルトの質問に、ポダルゲは頷く。
 
「知らぬだけで、すべての者は大気に触れておる。
 風とはその大気の流れじゃ。
 
 なれば、風を掌握した者は誰よりも早く、誰よりも見事に動ける。
 武芸の達人ともなれば、最後に行き着くのは、武具を振う時に風の抵抗をいかに少なくするかを考えよう。
 
 あるいは空を飛ぶ術。
 竜巻はかつて神々の乗り物であった。
 
 お主の纏うべき旋風の娘も、お主の不自由な足や身体を支えてくれるじゃろう」
 
 ポダルゲの言葉に呼応するかのように、シグルトの周囲の風がふわりと動いた。
 

「…そろそろ俺はペルージュに戻る。
 
 旅の道具もすべて置いてきてしまったからな。
 血は止まったようだが、しっかり傷の手当てもしたいし、転がっている盗賊どものことも、官憲に知らせる必要があるな。
 
 …トリアムール、本当に俺についてくる気か?」
 
 シグルトが風に向けて問うと、その旋風はシグルトの周囲をくるくると回った。
 今更何を、と怒っている様子である。
 
「往生際の悪い奴じゃ。
 
 風の目からは、何処におっても逃れられぬと知れ」
 
 ポダルゲの言葉に、シグルトは苦笑して頷いた。
 
「ならば、よろしく頼むとしよう。
 
 これから力を借りるぞ、トリアムール」
 
 旋風トリアムールは、まかせて頂戴、とばかりに強く吹いた。
 
「ではな、ポダルゲ。
 
 といっても、風が吹く処、貴女はどこかで見ているのだろうが」
 
 ポダルゲは、ただ皺だらけの顔を少しほころばせて、風に吹かれていた。
 
 シグルトは彼女を一瞥すると、ペルージュへ続く坂道を下り始める。
 去って行くシグルトの背中を見つめ、ポダルゲはしわがれた声でぼそりと呟く。
 
「…儂の娘を、よろしくな…」
 
 その言葉はすぐに空に融け、後には荒々しい風だけが吹いていた。
 
 
 ペルージュに戻ったシグルトは、取り戻した装飾品を細工師に返し、役人に盗賊たちがどこで縛られているかを伝えた。
 役人たちは、門番を害されたことを重く見たのか、意外にもすぐに動いてくれ、盗賊たちはすぐに捕縛される。
 
 シグルトは背の傷をアフマドに診てもらい、数日をクリストフの教会で過ごしていた。
 その間に、ペルージュの役人から盗賊を捕まえた報酬として、銀貨三百枚を貰うことができた。
 
 一方、クリストフは聖母のカメオをレノールに贈ることができ、レノールはとても感激したそうだ。
 アフマドの見立てだとレノールの耳は、彼の考案する治療法ならば完全に治るまではいかないものの、難聴程度にまでは回復できるだろうとのことで、補聴器を付ければ人並の聴覚が得られるかもしれないとのことである。
 
 シグルトは背中の傷が塞がると安心したように、アフマドのその後をクリストフに任せて旅立つことにした。
 
「またペルージュに来ることがあったら、寄ろう。
 
 元気でな、アフマド」
 
 不精髭の生えた顎を撫でながら、お前もな、とアフマドが薄く笑う。
 
「いつでも此処に寄ってください」
 
 クリストフの言葉に頷き、シグルトは一緒に見送ってくれるレノールを見た。
 彼女の胸元には、真新しい聖母のカメオが輝いている。
 
 シグルトは、レノールに「治療、頑張れ」と手話で伝えると、ペルージュを後にする。
 彼に寄り添う旋風トリアムールが、柔らかな微風を起こして街道の草木を優しく撫でて行った。

 
 
 長編になりました、シグルトのソロストーリー、如何だったでしょうか?
 といっても、シグルト、もうちょっとだけ一人で頑張るのですが。
 
 今回Martさんの『風繰り嶺』を題材にしましたが、じつはこのストーリーを書くにあたり、悩みっぱなしでした。
 
 なぜかというと、この話を書くことを企画した頃、Martさんが『宗教都市ペルージュ』に『風繰り嶺』を取り込むということで『風繰り嶺』は一時公開中止になっていたんです。
 そこで、当初は【気精召喚】にするつもりだったスキルを取りやめ、風屋で発表する精霊術として【飄纏う勇姿】というスキルを作りました。
 そのまま、『風繰り嶺』のリプレイは止めてオリジナルストーリーだけで行こうと考えていたんです。
 でも、また『風繰り嶺』が公開されたので、じゃあ、と今回のような話になりました。
 
 【飄纏う勇姿】は、『風繰り嶺』の【気精召喚】と大変よく似ていますが、より戦士向きにカスタムされたスキルです。
 イメージでは【気精召喚】がエアリアルを召喚して、彼女が独立して敵を攻撃するようなイメージで、【飄纏う勇姿】は精霊が変化した旋風を纏い、術者を中心に風の攻撃が発動する感じです。
 行動力アップがあるので、勢いに乗っているような感じがあります。
 記事の最後にスクリーンショットを載せておきますので、よかったら見て下さいね。
 
 
 シグルトの精霊術師としての一面を開花させるお話でしたが、同時に大量の伏線が出てきてます。
 そのうち明らかになりますので、頭の隅にでも置いて流して下さい。
 
 ポダルゲに関しては、それなりに伝説を調べて、それを反映させた内容にしてあります。
 同時に、Martさんの考えていた設定と食い違うところも多いかと。
 でも、まあ、リプレイの世界に合せたということでお許し下さい。
 
 それからトリアムールですが、彼女はたくさんいるポダルゲとゼファーの娘ということで、奔放な西風と、嵐のポダルゲの娘ということで、旋風の精霊ということにしました。
 そのうち彼女の姿や性格がどんな感じかも書きたいなぁと思っています。
 

 今回のクリストフとレノールの物語は、最初『風繰り嶺』を私がプレイした時、僧侶のプレゼントの話はこんなかな?と思ったものをベースにしています。
 実は、『宗教都市ペルージュ』の方の話だと、年配の司教がスケベ心で、愛人契約のために用意したプレゼントを取り戻す話だったので、それも微笑ましいと思っていたのですが。
 シグルトらしいストーリーで、ということで、こんな内容にしました。
 皆さんのイメージではどんな感じでしたか?
  
 
 ええと、今回の動向ですが…
 
・アフマド救出(-1000SP)
・『風繰り嶺』Martさん(報酬+300SP)
 シグルト、オリジナルスキル【飄纏う勇姿】習得(アフマド救ったボーナスということで)
 
 お金は-700SPです。
 
 
 〈著作情報〉2007年09月19日現在

 『宗教都市ペルージュ』はMartさんのシナリオです。未公開であり、作者のMartさんは引退されているので、未完のシナリオです。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 ペルージュの名は、Martさんのシナリオ『銀斧のジハード』にも登場します。
 これらの設定から、私が聞き及んでいたものをリプレイ用にアレンジ致しましたが、著作権はMartさんにあります。
 
 『風繰り嶺』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。閉鎖したサイトですので、DLはお早めに。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはver.1.05です。
  
・Martさんサイト『esotismo.』(閉鎖済み)
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
 
 
  【飄纏う勇姿】スクリーンショット

 
 スキル【飄纏う勇姿】には蜥蜴さんと八雲蒼司さんの画像を合成、改変して使用しています。内包する召喚獣も同様です。
 
【蜥蜴さん】
 HP:匣屋(現在[2007/09/19]閉鎖中)
 URL:http://www.geocities.jp/haco_ya
 
【八雲蒼司さん】
 HP:蒼の雲海
 URL:http://cloud.nce.buttobi.net/
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『風纏いて疾る男』 中編

 次の日、アフマドは用事があると言って、シグルトを伴い、その小さな教会に向かった。
 
「…具合はどうだ?
 
 窮屈な部分はまだ残っているか?」
 
 アフマドが、シグルトの足を見ながら聞く。
 
「いや、快適だ。
 
 確かに前のものより柔軟性があって、歩くときには違和感すら無い。
 これなら、普通に走ることもたやすいな」
 
 シグルトは、地面を力強く蹴りながら、アフマドが調整してくれた添え木の調子を確かめた。
 
「ふん、顔も歪めずにおるお前ならば、足を裂き塩水につけても平然としているだろうな。
 
 普通は添え木との接触面が締め付けられて、その痛みに耐えられん。
 万力で絞められたような圧迫感と、痛み。
 
 それを涼しく〝走る〟などと言うのだ。
 痛みに鈍感だとは思っていたが、お前のそれは馬鹿げておるわ」
 
 シグルトは、懐かしむような苦笑をした。
 この老人の毒舌は、かつて慣れるほどに聞いたものだった。
 
「…それで、用事とは何だ?
 
 教会に、といっても、異教の教会に祈りに行くわけではないのだろう?」
 
 ああそんなことか、とアフマドは教会付属の宿舎を指差した。
 
「昨日儂を、お前のいる宿に連れて行った若い坊主がおっただろう?
 
 クリストフというのだが、牢に拘留されておる間、世話になってな。
 お節介だが、聖北の坊主にしては勤勉で、人の話を素直に聞く。
 
 施療院で薬学を学んでおるとかで、儂の国の技術を学ぼうと通って来てな。
 優秀とは言えんが、技術に偏見を持たぬから、まあ及第点といったところか」
 
 アフマドは弟子を自慢するように、上機嫌だ。
 この老人はひねくれ者だが、人にものを教えることが上手く、またそれを好む。
 厳しい言葉を使うが、教育には真摯に、智を求めるものを拒まない。
 
「貴方がそれだけ評価するなら、その僧侶は大成するかもしれないな」
 
 アフマドが手放しに誉める生徒、と言えば、故郷では一人だけだった。
 聡明で美しかったその女を思い出し、シグルトは頬を緩める。
 
 だが、アフマドが認める優秀な生徒にはシグルトも含まれていた。
 記憶力や解析力は常人より多少優れる程度だが、勤勉で何より応用力があり、知識に偏見を持たないシグルトは、アフマドを含め、彼に関わった師のすべてを感心させた。
 特にシグルトの持つ古今東西の伝承知識と、驚異的な戦術観は故郷の誰もが及ばなかった。
 
 パーティの知恵袋であるロマンは、シグルトが酒の席で語った数十の神話の異説に、書物には無い口伝を見つけ、随分と興奮していたこともある。
 
 シグルトは王国最強と呼ばれた武術の師、そして精霊の物語やまじないについての師を持っていた。
 母親は戯曲や歌曲に優れ、父親は剣術と神話の知識は類希、恋人だった女は国でも有数の知識人で教養と礼法を極めていた。
 アフマドは医術と天文、暦を修めた賢者で、様々な異国の言葉を習得している。
 
 多くの人間は、シグルトの幅広い知識に触れると驚く。
 
 知識とは、持つ者に出会えなければ学べない。
 そういう意味では、様々な知識の専門家から学ぶ機会を得たシグルトは、大変恵まれていたと言える。
 
 シグルトは頭脳の天才では無いが、勤勉の秀才だ。
 
 アフマドから見れば、自身の知識や才能に納得して向上心を失った天才よりも、常に学ぼうとする凡人の方が教え甲斐がある。
 彼に言わせると、向上心と探究心こそ、最高の才能なのだという。
 学ぶ機会を生かし、知識を修めることが出来る者を、アフマドは好ましく思っていた。
 
 
「あ、アフマドさん」
 
 その若い僧侶は、人の好さそうな優しい笑顔でアフマドとシグルトを迎えてくれた。
 
「ぅぁ?
 
 …ぁぅえ?」
 
 奥から聞こえた、くぐもった女の声に、シグルトとアフマドは顔を見合わせる。
 
 その若い僧侶、クリストフは、部屋の奥に向けて喋らずに何か身振りをした。
 
「…手話か。
 
 それにこの喋り方は、聾唖(ろうあ)のようだな」
 
 聾唖とは聴覚障害を持ち、同時に音が分からないので、上手く言葉を発音できず言葉も不自由な者のことだ。
 
「すみません、まさか本当に訪ねて下さるとは。
 
 とても光栄です。
 アフマドさん。
 
 貴方はシグルトさんでしたよね?
 何も無い狭い所ですが、どうぞお入り下さい」
 
 2人を部屋に招き入れると、クリストフは2人に椅子を勧める。
 同時にあらわれた15、6の娘がぺこりとお辞儀をした。
 瞳の大きな、素朴な印象の少女である。
 
 シグルトも軽く一礼し、そして手で何かをする。
 それを見た娘は、嬉しそうに自分も同じ動作を行う。
 
 シグルトは、「はじめまして」という所作を行ったのだ。
 
「ほほう、お前いつの間に手話を覚えた?」
 
 アフマドが興味深そうに、シグルトの所作を見る。
 
「使えるといっても、基本ぐらいだ。
 
 冒険者という職業をやっていると、離れた仲間と交信したり、言葉が話せない状況も考えておく必要があるのでな。
 仲間の一人が教えてくれたんだが、なかなか重宝する」
 
 そう言いながら娘に向けて、「手話は便利だな」と伝えて微笑むシグルトを、クリストフは尊敬の眼差しで見つめていた。
 シグルトの使う所作は分かりやすい大きなゆっくりとしたもので、内容も高度なものである。
 しかもこういう話をしたんだよ、とアフマド喋りながら、同時に娘に説明している。
 
「…助かります。
 
 彼女を置き去りにしないで済みます」
 
 クリストフは、同じく手話に切り替えて自己紹介するアフマドを指差して、「彼は怖くない。好い人だ」と説明するシグルトに頭を下げた。
 
 そして4人は言葉から手話に切り替え、しばらく話すことになった。
 
 
「彼女…レノールには、今日文字を教える約束をしていたのです」
 
 音の理解できない者に文字を教えるのは、困難だ。
 人は五感を使うことで理解を深め、言葉とは音と形でコミュニケーションを取るための技術である。
 だから、今日のクリストフのようにワンツーマンで教える必要があるのだろう。
 
「…なるほどな。
 
 それで、お前は頻繁に耳の治療法を訪ねたのだな?」
 
 皆の飲み物の用意をしているレノールという名の少女を、ちらりと見るとアフマドが納得したように頷いた。
 
「彼女は小さい頃に高熱を出して、それ以来耳を…
 それなのに明るくて、現状を悲観しない強い心を持っています。
 
 私は、彼女のように身体に障害を持っている人の助けになる、そんな仕事がしたいのです」
 
 アフマドと医術のことを熱心に語るクリストフ。
 シグルトは柔らかな表情で彼を眺めていた。
 
「ふむ、先天的なものでなければ、時間をかければ治る可能性もある。
 
 シグルトよ、儂はしばらくこの都市に留まって、この生徒を教えながらレノールを治療しよう。
 
 故郷を離れて数十年。
 今更帰国が数か月遅れたところで、たいして変わらんからな」
 
 毒舌で素直では無いが、アフマドは献身的で弱者を放っておけない義の男である。
 
「それなら、私がアフマドさんの身を保護する名目の書類を申請してみます。
 聖職の私が彼の身を保証するなら、周囲も納得するでしょうし。
 
 お恥ずかしい話ですが、アフマドさんを解放するよう尽したものの、なかなかお金が工面できなくて。
 私のような仕事をする者は、教会に属することで衣食住は保障されますが、建前の上で私財というものは持てない決まりなのです。
 特に私のように修行中の僧侶は。
 
 何とか銀貨八百枚ほど貯めたのですが、これは医学を教えて下さるアフマドさんに謝礼として…」
 
 するとアフマドはそんなものいらん、とレノールが用意してくれたハーブティーを啜った。
 
「お前には、牢にいる間随分世話になった。
 それに、これからしばらく厄介になるのだ。
 そこまで厚かましくはなれん。
 
 その金は、できればこのシグルトに渡してはくれぬか?
 こ奴には貸しはあったが、それにしては高い出費をさせてしまったからな」
 
 シグルトは、話を振られて苦笑した。
 
「…気にするな。
 
 それに貴方のおかげで、とても足が楽になった。
 俺も、厚かましくはないつもりだぞ。
 
 そうだな、その金はレノールのために使えば好い。
 君にとって、大切な娘なんだろう?」
 
 微笑まれたクリストフは、顔を真っ赤にして硬直してしまった。
 
「ふむ、色恋にとことん鈍感だったお前が、なぁ。
 
 これから大雨にならねばよいが…」
 
 しみじみと毒を吐くアフマドに、シグルトは「お前の弟子に鍛えられたからな」と、少し寂しげにまた苦笑した。
 
 
 その日の午後、シグルトはクリストフと一緒にペルージュの露店を廻っていた。
 
 午前中、レノールのためにお金を使えば好い、という話になった。
 そして、そのままクリストフが、いつも身の回りの世話くれるレノールに、お礼として何か贈り物を、ということに決まる。
 
 女性に贈り物などしたことがない、というクリストフは困り果ててしまい、アフマドがレノールの耳を診療する間に、2人で買い物をすることになったのだ。
 
 意外かもしれないが、シグルトはこういった買い物に多少は慣れている。
 年の近い妹がいたし、恋人のための贈り物を何にするか悩んだこともあるからだ。
 
 ふと、金銀の細工をする露天商を見つめながら、シグルトは恋人に贈った婚約指輪のことを思い出していた。
 
 シグルトが選んだ婚約指輪は、小さな黄金の簡素な物だ。
 貴族の平均的な品からすれば随分貧相だったが、シグルトは平民に交じって労働し、得た金でそれを買った。
 親の財産で買った物は、自分が用意する物にはならないと思ったからだ。
 
 だが、平民同様の賃金で黄金の指輪を買うということは、容易では無い。
 特にシグルトの国は貧しく、得られる金などたかが知れている。
 
 その指輪を用意するのに三月。
 過酷だが地味な仕事を沢山こなして、やっと買った品だった。
 
 こんなものですまないと言ったシグルトに、それをどうやって買ったのか知った恋人は感涙して喜ぶと、大切にいつも身に着けていた。
 
 その小さな指輪を嘲笑って、豪華な宝石のついた指輪や首飾りを見せ、その美しい恋人に心変わりを迫った貴族がいた。
 しかし、恋人はそんな物には見向きもせず、シグルトの指輪を胸を張って見せつけると、こう言った。
 
〝私のこの指輪は、愛する人が私への想いを満たして送ってくれた物。
 
 見た目が豪華なだけの物と、比べられたくはないわ〟
 
 誇り高く物の本質を大切にするその恋人を、シグルトは一面で尊敬さえしていた。
 
 〈絶世〉と称される程に、彼女は美しかった。
 だが、シグルトが彼女に心惹かれたのは、その心が高潔で、その夢が素朴で愛らしかったからだ。
 
 労働する農夫の姿を立派だと称え、赤切れたその農夫の妻の手を美しいと褒める、そんな女性だった。
 貴族というより庶民派だったシグルトのことを、周囲の誰よりも理解してくれた。
 夢見がちで、思い込みが強くて…そんな彼女を、シグルトは心から愛し、そして離別した今でもやはり愛している。
 
 年老いて白髪になっても、暖炉の傍で孫子に囲まれながら、日々穏やかに過ごしたい…
 ささやかな未来を願って、語り合った過去の思い出。
 
(…未練だな)
 
 恋人のことを思い出す度、その存在が自分にとってどれほど大切だったかを思い知らされる。
 
 ペルージュからから見上げるようにそびえ立つ、高い嶺から吹き下ろす風。
 その向こうにいるかもしれない女を想い、シグルトは目を細めて過去を懐かしんだ。
 
 
 その露店の細工師は、まだ若い男だった。
 
 昨日生まれた初めての子供のことを自慢げに話し、家庭のために頑張らねばならないと張り切る姿は微笑ましかった。
 
 クリストフのことを話すと、その男は作りかけの、聖母像を模った大理石のカメオを取りだした。
 
「これなら、坊さんが娘に渡しても変じゃないだろ?
 
 周りに何か言われたら、信仰のために贈ったと答えればいい」
 
 もっと高いもののはずだが、その男は「子供が生まれたお祝いさ」と言値でそれを売ってくれることになった。
 サービスでレノールの名前も彫ってくれるという。
 
 そわそわと、露店の近くでカメオが完成するのを待つクリストフ。
 シグルトも壁に寄りかかりながら、それに付き合うことにした。
 
「…ん?
 
 あんたらも何か必要なのかい?
 今仕事中だから、また…って、それは売る相手が決まってる奴だ。
 今包んでるところ…がぁっ!!」
 
 物凄い音がした。
 
 シグルトは不穏な空気に、さっきの露店の方に近づく。
 
 血溜まりに、露天商が倒れている。
 腹を刺されたのか、激痛に呻いてはいるが、致命傷では無い。
 
「…ぐぅ、金と商品を…
 
 あいつら、きっと『風繰り嶺』の、ならず者だ…」
 
 見れば、門番を蹴倒して都市の外に逃走する数人の男たち。
 
 昼日中、堂々と窃盗するとは誰も思わなかったのだろう。
 しかもここは庶民の住む地域で、衛兵は蹴倒されて気絶している門番一人しかいない。
 
 ペルージュに面する険しい『風繰り嶺』は天然の要害で、そちらに面した門は警備も手薄だ。
 盗賊は、だからこそこちらから脱出する道を考えたのだろう。
 
 シグルトは、おそらくこの都市の衛兵が真面目に犯人を追うことは無いと、直感的に理解した。
 
 税金など最低限しか払えないから露店を開いて、こんなところで仕事をする商人。
 被害届を出したところで、その頃には盗賊たちが証拠となる品をどこかに隠してしまうだろう。
 
 盗賊たちは、それも見越してこのような犯罪を行ったのだ。
 
「クリストフ、この人に応急処置を。
 致命傷では無いが、出血が多いと危ない。
 
 医術の心得のある貴方になら、後は任せて大丈夫だな?
 
 俺はあいつらを追いかけて、品物を取り戻す」
 
 驚いて狼狽するクリストフに、こういう荒事は専門だと腰の剣を軽く叩き、シグルトは走り始めた。
 
(よし、いけるっ!)
 
 アフマドに直してもらった添え木は、調子よく足に馴染む。
 見失わないように盗賊たちの背を睨み、シグルトは疾走した。
 
 
 霊峰『風繰り嶺』。
 
 今では盗賊の根城にもなっているこの嶺は、かつては精霊信仰があり、精霊術師たちがこの山に籠って修業をしていたこともあるという。
 しかし、聖北教会の勢力が急速に拡大し、そういった精霊術師は嶺を追われ、精霊信仰は姿を消した。
 
 荒々しく吹く山の風は、この季節のものにしては冷たい。
 
 その風の中で、薄汚れた襤褸を着た一人の老婆が立っている。
 不思議なことに、その襤褸は風になびくことがない。
 
 老婆は、先ほどからずっと切り立った崖の上にいて、遥か下を眺めていた。
 
「…ほほ、やっと来たか、刃金の風が」
 
 不気味な笑みを浮かべ、老婆は身体を揺らした。
 襤褸の被り物の下から覗いた瞳が、一瞬だけ猛禽のような黄金の輝きを宿す。
 
「…む。
 
 お前たちも、奴が見たいのかえ?」
 
 老婆は吹き抜ける風に向かって語りかけると、口端を狡猾な笑みの形に歪め、一つ頷いた。
 
「…では、行くとしようかの。
 
 〈風を纏うべき英雄〉を迎えに、な」
 
 一陣の強い風が吹く。
 そして老婆の姿は次の瞬間、忽然と消えた。
 老婆のいた場所には、銀色の美しい羽がひらひらと風に舞い、地面に落ちる前、融けるように宙に消える。
 
 何かの到来を喜んでいるのか、賑やかに風音を鳴らし、旋風がいつまでも踊っていた。

 
 
 中編です。
 最後のお婆さんは、Martさんの『風繰り嶺』を御存知なら、分かりますよね?
 
 いろんな登場人物が出るので、ごちゃごちゃして申し訳ないのですが、次でペルージュ編は終わります。
 
 のんびりとお付き合いくださいね。
 
 
〈著作情報〉2007年09月17日現在

 『宗教都市ペルージュ』はMartさんのシナリオです。未公開であり、作者のMartさんは引退されているので、未完のシナリオです。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 ペルージュの名は、Martさんのシナリオ『銀斧のジハード』にも登場します。
 これらの設定から、私が聞き及んでいたものをリプレイ用にアレンジ致しましたが、著作権はMartさんにあります。
 
 『風繰り嶺』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。閉鎖したサイトですので、DLはお早めに。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはver.1.05です。
  
・Martさんサイト『esotismo.』(閉鎖済み)
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『風纏いて疾る男』 前編

 ポートリオンから街道を北に、幾つかの村と町を経由して数日かかる場所。
 そこに宗教都市ペルージュがある。
 
 ペルージュは所謂教会の門前町だ。
 聖北教会の影響が強いその都市は、同じような都市であるラーデックとともに、西方における聖北信仰の要となっていた。
 
 ペルージュでは、近隣諸国の聖北教会の、様々なことに関わる。
 異端審問もその一つだ。
 
 魔女狩り等で残虐なイメージのある異端審問だが、実際には教会の勢力が及ぶ範囲で、宗教的な問題を解決するために行われるのが常だ。
 信仰とは時に人を、歯止めのない暴走へと駆り立てることがある。
 異端審問とは、宗教内における倫理や規律、慣習によって暴走を食い止め、裁くためのものなのだ。
 
 ペルージュでは、西方諸国でも有数の異端審問機関がある。
 常時数人の異端審問官…そのほとんどが司教クラスの権限を持つ…がおり、国家クラスの宗教問題にも対応し、国家間の宗教問題の調停や刑の執行を行っている。
 
 シグルトは、その異端審問機関でも、異教徒の問題を扱う部署に来ていた。
 
 ペルージュには小さな教会がたくさんあり、本部とも言える大聖堂を囲むように点在している。
 訪れた部署は、そんな教会の一つであった。
 
 ヴェルヌー伯爵の紹介だと言うと、教会側は意外にもすんなりとシグルトを向い入れてくれた。
 
「お前の言うアフマドという異教徒は、確かにこの教会の預かりとなっている。
 
 罪状は、まじないや怪しい呪術とあるが…
 昨今の魔術師の方が、よほどそれらしいことをしている。
 まったく、困ったものだ。
 
 調べたところ、この異教徒は病で苦しむ貧民を治療しただけのようだな。
 
 聖典教徒どもの医学は、我々の行う神の秘蹟とはまた違った、優れた技術を持っている。
 
 私は聖地へ巡礼した折、聖典教徒と語り合う機会を得ている。
 彼らは悪魔の使徒などではなく、ただ素晴らしい聖北の教えと出会えなかっただけの子羊なのだ。
 改心させ、聖北の教えを遍く世界に広めることこそ、我ら聖職者の役目であると思うのだが。
 
 失敬。
 件の聖典教徒のことだったな?
 
 まずあの聖典教徒が行った罪状だが…

 一つ目は、〈腹を裂いて子供を取り上げた〉とあるが、これは母子を救うための治療法だったらしい。
 子供が逆子で、手の着けようがなかったからだそうだ。
 母親も子供も、今でも元気で、夫は随分感謝していた。
 
 次の、〈頭に鑿で穴を開けた〉とあるが、それによって昏睡状態だった男が元気になった。
 妖術を使ったのだと言うが、聖典教徒の世界でも行える者は限られる高度な技術であるものの、れっきとした医療行為のようだ。
 
 〈腕の肉を削り取った〉ともあるが、これは患部にできた腫瘍の切除だ。
 私も、その治療法で腕を切り取られずに済んだ者を見たことがある。
 
 〈怪しげな薬草を鍋で煮詰めていた〉…薬草を大量に煎じるとき、大鍋を使うのはあたりまえのことだろう。
 
 告訴したのは、この男の活躍によって高額で薬が売れなくなったという商人だな。
 どう見ても、その商人が考えた冤罪であることは明白だ。
 
 加えてこの聖典教徒は、シグヴォルフ王国の貴族から、その縁の者であるという許証を与えられて所持し、通行証も正規のものだった。
 旅の目的は故郷に帰るためで、たまたま立ち寄った先で宿を貸してくれた貧民街の者たちに恩を返しただけ、というわけだ。
 罪らしい罪は無いと言っていい。
 
 教会側としては、その身を証明してくれる保護者が現れ、一定の金を支払えばすぐにでも釈放するつもりだ。
 
 ああ、何と言うべきか、この金というやつは、異教徒を何の咎めもなく釈放することに反対する者を黙らせるためのものだな。
 〈異教徒には、罰金を科した〉とでもすれば、保守派の連中の面子が保たれるというわけだ。
 その金は半分教会から免罪を与えるための寄付に、半分は聖典教徒を傷つけず保留した時の、食費及び維持費というわけだ。
 
 …人間を物のように扱うのは面白くないかね?
 君たち冒険者は、考え方が柔軟だと思っていたんだがね。
 
 まあ何分、問題が起こったのがこのペルージュの管理する教区でのことだったので、異教徒の扱いは実に繊細なのだよ。
 
 私としては、屁理屈など言わずに釈放するよう手続きを急いでいるのだが、保守派の連中が意地になっているようで、手がつけられない。
 釈放が未だできないのは、そういうわけなのだ」
 
 ジルベールというこの異端審問官は、広い肩をすくめてシグルトに説明してくれた。
 話によると、彼は異種族や異文化が関わる異端審問が専門なのだそうだ。
 触ると刺さりそうな硬い鬚と、鉄板を連想させる胸板。
 聖職者と言うよりは、騎士か戦士の様な風体である。
 
「他にも、やらなければならない異端審問は数多い。
 
 私としては、現在それほど険悪ではない東の事情を考えるに、彼を何事もなく開放して故郷に帰せばよいと思っている。
 今の聖地は、聖北、聖東、穏健派が中心に聖典教徒との融和がある程度保たれているのだから、情勢を考えるに火種を作る必要はないのだ。
 
 教区内の問題の処理で手一杯なのだから、余計な議題を増やすのは手間の無駄だ。
 まったく、保守派の石頭どものことを考えると、頭が痛いのだよ。
 
 だが、幸いこの聖典教徒のことを任されたのは私と、公正な審問をされることで知られたシェンデルフェール殿だ。
 
 異端審問官が、魔女を焼き、異教徒を殺すための審問をするものばかり、というのは大きな誤解だ。
 我々は、公正に神の教えを守り、聖北の信仰を広めることこそ使命なのだよ。
 
 …釈放のための金について話さねばならなかったな?
 
 これはシェンデルフェール殿が、聖典教徒の維持は無駄として葬ろうとする保守派どもを止めるために考えた案だ
 あの方の信仰心には、まことに頭が下がる思いだ。
 
 今、なぜ知恵があると素直に言わないか、と考えたかね?
 知恵は人を堕落させるものだ…たてまえの上ではね。
 閃きは神から与えられる〈霊感〉なのだよ。
 小賢しい悪魔の、〈悪知恵〉とは違うのだ。
 
 …そう顔をしかめるな。
 
 まあ、このまま君のような関係者が現れなければ、あの聖典教徒の身柄は保守派に渡り、闇に葬られたかもしれん。
 本来、我ら聖北の徒が異教徒に慈悲を持って庇うことなど、限られた正直者が、己の正義感を満足させるために行う偽善行為なのだ。
 
 彼の聖典教徒も、素直に話を聞かなかったから話がこじれたわけであるし、な。
 
 大体、保守派の審問官に向かって〈話のわからぬ愚物〉とはっきり言うのはどうかと思うぞ。
 まあ、私も内心で喝采した評価ではあったが」
 
 シグルトは疲れたような顔をすると、「釈放に必要な金は幾らなんだ?」と率直に聞いた。
 このままこの豪傑のような審問官の長話に付き合っていたなら、いつまでたっても本題に入れないと思ったからだ。
 
「ふむ。
 
 それは銀貨千枚だ。
 冒険者には高額かもしれんがね。
 
 あと、君があの聖典教徒の保護者として、後の責任を取る念書を書いてもらう。
 
 これで、滞りなく釈放出来るだろう」
 
 シグルトは頷くと、ジルベールが差し出した書類にしっかりと目を通し、あやふやなところは質問する。
 そして納得すると、その書類にサインし、銀貨を千枚取り出してジルベールに渡した。
 
「…ふむ、確かに千枚。
 この金の領収書と、この度の問題について始末書を作成するから、出来るまで隣の控え室で待ちたまえ。
 
 例の聖典教徒は、世話をしていたクリストフという者に連れてこさせよう」
 
 シグルトは頷くと、異端審問官の執務室を後にした。
 
 
 次の日の朝、浅黒い肌の老人を連れて、若い僧侶がシグルトの元を訪ねてきた。
 その僧侶は、シグルトに老人の身柄を渡すと、丁寧に会釈して去って行った。
 
「…久しいな、アフマド」
 
 シグルトは、ほっとしたような顔で浅黒い肌の老人に声をかけた。
 
「ふむ。
 
 いらぬ手間をかけたようだな。
 こうしてお前に再び巡り合えたことも、神の導きだろう。
 
 神は偉大なり、だ」
 
 尊大な態度で、老人…アフマドは強く頷いた。
 あいかわらずだな、と苦笑するシグルト。
 
 シグルトは、この老人が素直に感謝の言葉を恩人に言う姿を、見たことが無かった。
 
「昨日のうちに、お前の所持品を返して貰った。
 
 新しい通行証もある。 
 異国を通過するために必要なものだから、無用とは言わないでくれ。
 
 貴方はひねくれ者だからな…」
 
 肩をすくめたシグルトに、アフマドは苦虫を噛み潰したように口端を歪める。
 
 …聖典教徒と呼ばれる者たちがいる。
 元は聖北教会と同じ聖典を基とするが、時代の変遷で全く違う文化と教義をもって発展した東の国の人間たちだ。
 
 彼らはその信仰を広め、時を経て全く違う文化を持つ聖北教会と再会する。
 そして、考えの違う宗教同士は、互いを正しいと主張して戦いを起こした。
 
 その戦いには、聖地を巡る対立や、教会と結託した権力者たちの思惑を内包して複雑化し、血塗られた歴史を作り上げて、両者の間には埋めようのない深い溝ができていた。
 
 宗教に多く見られることがある。
 己の信じる者が最上とする場合、違う最上を否定する傾向である。
 一神教の神も然り。
 元は同じ神であるのに、争う勢力同士は互いの唯一の神を否定し、そして戦いは泥沼に変わった。
 
 多くの血が流れ、そしてようやく争っていた宗教同士は、強力な指導者が和解をすることで、その関係をとりあえず友好的なものにした。
 建前の上では。
 
 未だに互いへの憎しみや偏見から、小さな紛争は絶えない。
 そして、このアフマドという老人は、そういった戦によって虜囚となった。
 義勇兵として参加したアフマドは、軍医として従軍していたが、ある時の海戦で所属していた軍が敗北したのである。
 
 その後捕まったアフマドは、長い年月各地を奴隷として連れまわされ、最後に遥か北の地へ送られた。
 寒冷な北方の気候と、過酷な長年の労働による過労で、彼は倒れてしまう。
 
 そんなアフマドを、ある貴族が引き取り、人並の身分を与えてくれたのだ。
 件の貴族とは、シグルトの婚約者だった女性の父親である。
 アフマドの身を救うよう頼んだのは、まだ幼かったシグルトの婚約者であった。
 
 以来、恩義を感じたアフマドは、数十年をその貴族の下で過ごした。
 
 シグルトの婚約者は、アフマドを師として古今の学問を学び、その知識は国でも五指に入るほどだった。
 アフマドは賢者であり、優れた医者なのだ。
 
 この時代、医術に最も長じていたのは聖典教徒である。
 脳腫瘍の手術から、心臓病の治療まで、その技術は先進的で多岐に渡っていた。
 使う道具も、最高の鉄を用いた最先端の品ばかり。
 さらには、東の華国の膨大な薬草学をも吸収し、その技術は西方諸国のものよりも、数世紀進んだものだ。
 
 アフマドは、聖典教徒の医者たちの中で、知識も技術もその最高峰に若くして昇りつめた。
 年齢が若過ぎてなれなかったが、後には王たちの御殿医になれるとも噂されていたほどである。
 
 かつて、悪漢によって両足の筋を断たれ、傷の重さから生死を彷徨ったシグルトは、アフマドの医術によって命を取り留めた。
 アフマドは、神業とも思える天才的な外科手術で、シグルトの断たれた筋を繋ぎ合わせ、シグルトが今用いている両足の添え木も、この老人が考案し作ってくれたものだった。
 
「…お前のしぶとさには感心させられる。
 
 よくもあれだけの状態から、立って歩けるようになったものだな。
 常人ならば、杖を用いて歩けるかどうかなのだが。
 
 …見せてみろ」
 
 黙ってシグルトは腰かけると、足に巻いた布を解き、添え木を外す。
 
 だらりと垂れたシグルトの足を、アフマドは慎重に観察し、そして大きく息を吐いた。
 
「…無茶をしおって。
 
 儂の作ってやった添え木もかなり傷んでいるぞ。
 ふん、ちょうど改良した添え木があるから、お前に合わせてやる。
 
 これで貸し借りは無しだ」
 
 アフマドは、自分の手荷物から、シグルトが着けている添え木に、さらに紐のような物がぶら下がったものを取り出した。
 
「主要部の関節部分に馬の腱を使ったものだ。
 合成弓などで、よく使われる技術の応用だな。
 
 革を膠を使って巻き、真綿で足に負担がつかぬようにアソビを入れてある。
 
 前に使っていた添え木の傷み具合から、どこに負担がかかるかは分かったから、そこも直しておいてやろう。
 格段に動きやすくなるはずだ」
 
 アフマドは、若い頃から既存の道具を嫌っていた。
 より合理的な道具を、自身で考案、改良して使っている。
 
 シグルトは腰かけたまま、一つ首肯して、アフマドの作業を眺めていた。
 
「…お嬢様のことは、聞かぬのだな?」
 
 シグルトの足首に合わせて添え木を削りながら、アフマドがぽつりと呟く。
 
「…聞いて変わることはあるのか?
 
 俺は、彼女を妻にできなかった。
 国を出た時、俺には彼女を守るだけの力も、養うだけの力も無くなっていた。
 
 彼女は他の男の妻になり、冒険者になった俺が此処にいる。
 力が及ばなかった結果、俺はこうして此処にいる。
 一度は夢破れて放浪し、すべきことを見つけて進んでいるのが今の俺だ。
 
 彼女がもし望んでくれるのなら、今からでも応えたいとは思うがな。
 力を尽くしたいと願う心も、まだ俺の胸の中にある。
 だが、彼女に許されない限り、開放してはならないものだとも思う。
 
 俺は、自身の無力に押し潰されて、彼女の元を去ったのだからな」
 
 アフマドは驚いた顔をした。
 
「女々しいままかと思えば、すでに道は定めていたか。
 やはり、お嬢様が惚れた男だけはあるか。
 
 すべてに絶望し、生きることを捨ててしまったあの時のお前とは、まるで違う。
 今のお前は、このアフマドが認めたシグルトのようだな。
 
 だが、お前は〈あの事〉を知っているのか?
 お嬢様が何故、お前と共に国を出なかったのかを」
 
 今度は、シグルトが驚いた顔をした。
 
「彼女は、俺と国を出るつもりだったのか?
 
 最後に言葉を交わした時、彼女は俺と一緒にはなれないと言った。
 彼女には、国に残って守らねばならぬものがあると。
 それに病気がちのお父上を置いてはいけないとも。
 
 …領土について、いつも心にある夢を語ってくれた。
 
 俺はあの時、力無く絶望した抜け殻でしかなかった。
 だから、互いに違う道を行くべきと決めて、そして別れた。
 
 その事実以外に、何かあるのか?」
 
 黙して目を閉じ、何かを考えていたアフマドは、やがて決意したようにシグルトを見据える。
 
「お嬢様が言わなかったのならば、考えがあってのことだろう。
 様々なことが納得できる状況だった。
 
 儂の口からは話さぬ。
 
 かわりに、お前には別の真実を伝えよう。
 
 お前の異母兄はお嬢様と結婚し、亡くなられた伯爵の位と土地を継いだ。
 
 だが、お嬢様は、お前を今でも愛している。
 お前を愛する故に、お嬢様は私情を捨てたのだ。
 
 真実を見るつもりならば、時が来る前に…
 一年の追放刑が終わったならば、すぐにあの国に向かえ。
 お前には、それをする資格と責務がある。
 
 時間も…限られているだろう」
 
 謎めいた言葉に、シグルトは首を傾げたが、アフマドはそれ以上何も言わなかった。
 
 
 そこは遠く離れた北方の小国シグヴォルフ。
 
 石造りの城のベランダから大地を見下ろし、女は物憂げな顔で溜息を漏らしていた。
 
 とても美しい女である。
 
 悪神ロキが嫉妬して盗んだという雷神の妻シフのそれのように、輝く黄金の巻毛。
 磨いた緑玉に命を吹き込んだ瞳は、知性と意志を宿し、煌いている。
 黒子一つ無い白い顔には、形の良い鼻梁。
 薔薇の花弁を思わせる、艶やかな紅い唇。
 
「…もう半年以上経つのね。
 
 この大地の先に、貴方は立っているのかしら?」
 
 女は、今も愛して止まない男を想い、切なげにその長い睫を伏せる。
 美しい女が物憂げにいるだけで、今は暗い空さえも、彼女に合わせて曇ったように感じさせる。
 
「…シグルト…」
 
 女は、応える筈も無い、愛しい男の名を呼んだ。
 
「グウェンダが羨ましいわ。
 
 貴女は、全てを捨てて彼を追いかけることができる。
 私には、彼との思い出。
 そして、彼の残してくれた大切な宝物。
 
 でも、私には…ッ!!!」
 
 女は眩暈に襲われ、石畳に膝を突く。
 よく見れば、女の美貌は病的なまでに青白い。
 
「…っ…!
 
 ぁっ!
 っぅぁ、はぁ…」
 
 意識を毟り取ろうとする苦しみから、必死に何かを守ろうとする様子で、女はその手を強く握りしめた。
 そこには、黄金の小さな指輪。
 愛する男から、結婚の約束をする時に貰った彼女の宝物だ。
 
「…ぅう、はぁっ。
 
 ふ、うふふ…。
 ねぇ、シグルト。
 私、頑張っているのよ。
 
 守ると誓ったから…
 あの時、貴方と別れても、守ると誓ったから…」
 
 何もない遠く離れた大地に、女は手を伸ばす。
 顔を蒼白にしながら、喘ぎながら。
 
「…シグルト…
 
 貴方に逢いたい…」
 
 女は痛苦を耐えながら滲んだ涙を拭こうともせず、霞む大地に向かって、愛しい男の名を呼び続ける。
 零れた涙は、その女の願い。
 しかし虚しく石畳の上で弾け、散った。
 
「また、夢でもいいの。
 
 貴方に、抱かれて眠りたい。
 お願い…」
 
 女は、朦朧とする意識の中で、逞しかった愛する男の腕を想い、静かに泣いた。

 
 
 暴走一直線に書きましたペルージュでの物語です。
 
 再開する老人。
 そして今もシグルトを愛し続ける、美しい娘。
 
 シグルトの過去は、壮絶で深遠です。
 まだ18歳のシグルトは、例えようのない過去があるから、あんなに大人っぽい考え方をするわけですね。
 
 さて、今回ペルージュの異端審問官が登場しましたが、「複数の異端審問官がいる」という設定は、Martさんかに教えていたので、そのままシェンデルフェールを出すのは、あまりにお約束すぎるかな、と考えて、急遽お喋りマッチョのジルベールを登場させました。
 私が考えたリプレイ用のオリジナルキャラです…お忙しい様子のMartさんに彼のことを聞かないで下さいね。穴だらけかも知れませんし…ふう。
 
 門前町、というのもなんとなくです。
 でもペルージュのような宗教都市って、普通門前町かなぁ、と。
 
 
 アフマド、医者という立場で出してますが、中世のあたりで最も医学が進んでいたのはイスラム教→聖典教徒という設定にしてあります。
 腫瘍の手術とか本当にやってます。
 アフマドのモデルは、ケビン・コスナー主演の『ロビンフッド』に出てくるアジームというムスリムです。彼を年配にした感じでしょうか。
 
 
 さて、次回はいよいよ風のお婆ちゃん登場です。

 
〈著作情報〉2007年09月16日現在

 『宗教都市ペルージュ』はMartさんのシナリオです。未公開であり、作者のMartさんは引退されているので、未完のシナリオです。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 ペルージュの名は、Martさんのシナリオ『銀斧のジハード』にも登場します。
 これらの設定から、私が聞き及んでいたものをリプレイ用にアレンジ致しましたが、著作権はMartさんにあります。
  
・Martさんサイト『esotismo.』(閉鎖済み)
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『聖なる遺産』

 街道での仕事を終えたシグルトたちは、当初目的としていたリューンには行かず、東に戻ってポートリオンに向かった。
 
 新港都市ポートリオンは、交易の盛んな新しい都市だ。
 この都の倉庫街には、各国の名産品を取引する商人がおり、レベッカが手に入ったものを換金しようと考えたのだ。
 
 ちょうど香辛料の値が上がっていた時で、手持ちの【森黄】とともに商人に見せたところ、銀貨三千六百枚という大金になった。
 
「笑いが止まらないって感じよねぇ~♪
 
 大きな仕事数回分ぐらい、儲かったわ」
 
 財布の中には、すでに銀貨が四千枚以上貯まったのだから、レベッカが上機嫌なのも頷ける。
 
「どうせなら、一緒に手に入れたあの酒も売ればよかったんじゃないか?
 
 ここで売れば銀貨二千になると、さっきの商人が言っていたぞ」
 
 街道沿いの村で報酬として手に入れた地酒の【フォレスアス】。
 酒好きには垂涎の品であり、大変高額で取引きされていた。
 
「ふふ~ん、分かってないわね。
 
 お酒の類はもっと上手な使い方があるのよ。
 貴族に取り入ったり、珍しい酒を蒐集するコレクターに売ったりね。
 
 場合によっては、とんでもない貴重品と交換できるかもしれないわ。
 
 香辛料と木の実を売ったお金で十分稼いだし、無理に売らずに取っておくべきよ」
 
 レベッカの言葉に、そういうものか、とシグルトが呟いた。
 
「他にも、デオタトから譲って貰った品物を売ったら、それなりの路銀も確保できたわ。
 
 2日ばかり羽目をはずして休んでいっても、平気よ」
 
 十分な蓄えが出来た途端、レベッカはいつものように怠惰になっていた。
 だが、彼女のここ数日の頑張りを思うと、シグルトも仕方ないだろうな、という気持ちになり、いつものように苦笑して頷いた。
 
「それなら、俺はもう少し自分にやれそうな仕事をやってみるよ。
 レベッカはしっかり休んでてくれ。
 
 実は、俺を探しているという貴族がいるらしい。
 先ほど、お前と商人が交渉している時、使いの者が来てな。
 
 揉め事の調停をしてほしいというが、俺一人への依頼みたいだから、可能ならやって稼いでくるよ。
 報酬も期待できるが、それ以上に貴族とのコネクションを持っておけば、いざという時に大きな力になる。
 
 この手の仕事を断ると、宿の親父の機嫌も悪くなるしな」
 
 シグルトが羊皮紙に書かれた依頼書を、懐から取り出す。
 その紋章を見て、レベッカが目を丸くした。
 
「それ、ヴェルヌー伯の紋章じゃないっ!
 
 あの女伯爵からの依頼なんて…」
 
 ヴェルヌー伯イザベルは、女性でありながら爵位を継承したという有名な貴族である。
 依頼書によると、シグルトがポートリオンに来ていることを聞き知って、是非にということらしい。
 
「その昔、北方諸国に大使として来た女伯との面識がある。
 彼女が俺の祖国に滞在する間、話す機会も得て、な。
 何かと目をかけて下さった。
 聡明で面倒見の良い方だ。
 
 最近俺が西方に流れて来たと知って、機会があれば呼ぶつもりだったらしい。
 誠実な方だから、悪質な依頼にはならないはずだ。
 
 とにかく会ってくるから、そうだな…どんなに遅くても20日後にはアレトゥーザで、直接落ち合おう。
 場所はいつもの『悠久の風亭』だ。
 
 どんな依頼か分からないから、時間は多めに取っておいた方が好いだろう」
 
 分かったわ、とレベッカが路銀として銀貨千枚をシグルトに預ける。
 
「このお金や、稼いだお金は自由に使っていいわ。
 
 出稼ぎしてるんだから、それぐらいは特権よ」
 
 大切に使うよ、とシグルトは金を受け取り、その日のうちに北へと旅立った。
 
 
「ふむ、やはり我の見立てに狂いはなかった。
 
 こうも早く妙案を出してくれるとは」
 
 再会したヴェルヌー伯は、しばしシグルトとの再会を懐かしむと、一休止した後に依頼内容を話してくれた。
 家に関わる聖遺物(聖人の遺品。遺体も含む)の所有権で、教会側のある勢力と揉めていたのだ。
 
 シグルトは、聖遺物に関する法文の穴を指摘し、それによって女伯が有利になる方法を教えた。
 
 聡明な女伯は、それを即座に理解し、部下に事後処理を命じると、シグルトに報酬として銀貨千枚を与えてくれた。
 同時に、何かあった時はこの女伯が力を貸してくれる確約も得る。
 
 普通は身一つで各国を渡り歩く冒険者にとって、有力な貴族にコネクションを作ることはとても優位となる。
 虜囚にされた場合、貴族の名前を出せば解放されることがあるし、違う貴族と会う時に紹介状を書いてもらったり、利害が合えば資金などで支援してくれる場合もある。
 また、そういった貴族がコネクションのある冒険者に再度依頼を出したり、他の貴族が必要とした場合にはその冒険者を紹介してくれることも多く、大概は高額報酬の仕事が得られるのだ。
 
 依頼人の中には、冒険者を使い捨てるように使う悪質な輩もいるが、貴族の庇護を受けている冒険者にそれをすると、庇護していた貴族を蔑ろにするということにもなる。
 結果、依頼人と庇護してくれる貴族との確執や利害にもよるが、依頼人は庇護を受けた冒険者を粗末に扱うことは少なくなる。
 
 シグルトは元からこの女伯と知り合いだったが、今回のことでより強いコネクションが出来たというわけだ。 
 
「のう、シグルトよ。
 お主、我の下で働く気はないか?
 
 そなたほど文武に秀で、誠実で信頼できる者は、まずおらぬ。
 
 今のそなたの不遇は、嘆かわしいぞ。
 本来ならばそなたは彼の令嬢と結婚し、我と同じ爵位を得ておったはずよな。
 それを思うと、不憫でならぬのだ。
 
 かつては国を背負って立つとまで言われていたそなたが、今では遠い西方の地の一冒険者をしているなど、人材の放過であろう」
 
 女伯の言葉に、シグルトは苦笑する。
 
「閣下の御温情、実(まこと)に有難く存じます。
 かつて何をするべきか分からず、彷徨っていた頃でしたら、喜んでお受けしたでしょう。
 
 でも、今はこの仕事を誇りと思い、また共に歩む仲間がおります故、どうぞ御容赦下さい」
 
 丁寧に、しかしきっぱりと断るシグルトに、女伯は「惜しいのう」と呟いた。
 
「そうか、仕方あるまい。
 今宵はゆるりと休み、旅立つとよいぞ。
 
 …そうじゃ、話は変わるが、お主に伝えておかねばならぬことが一つあった。
 
 ブリュンヒルデ嬢の下におった、あの聖典教徒の医者もどき…今ペルージュにおるぞ。
 虜囚としてな」
 
 女伯の言葉に、シグルトが驚いた顔をした。
 彼にしては珍しい。
 
「…やはり知らなかったな。
 
 そう、あの聖典教徒、異端として捕まり、まじないで人を呪ったなどと冤罪をかけられて、異端審問官に捕まったそうじゃ。
 我にとってはただの旅の異教徒に過ぎぬが、そなたにとってはよく知る知人なのだろう?」
 
 シグルトは困ったように頷いた。
 
「…命の恩人です。
 
 今こうやって立っていられるのは、あの老人と、ある女が力を尽くしてくれたからでしょう。
 
 申し訳ありませんが、閣下。
 私は急ぎ、ペルージュに向かいたく存じます。
 
 命の恩に、報いねばなりません」
 
 口元を引き締めたシグルトに、仕方ないという風に女伯も苦笑すると、部下を呼んで馬を一頭手配してくれた。
 
「この馬は、ペルージュにおる我が甥に預けてくれればよい。
 教会で司祭をしておるゆえ、我の渡した紹介状を見せれば力も貸してくれよう。
 
 ではな、シグルト。
 この近くに寄ったなら、顔を見せに寄るのだぞ」
 
 シグルトは、女伯に深く頭を下げると、足早に屋敷にある馬小屋に向かった。
 
(…裁判が終わって刑が決まれば、下手をすれば火炙りか。
 
 アフマド、無事でいるんだぞっ!)
 
 馬に飛び乗ったシグルトは、北にある宗教都市ペルージュへ向うのだった。

 
 
 クエストさんの『聖なる遺産』をリプレイです。
 
 導入部分で、Moonlitさんの『新港都市ポートリオン』に立ち寄って、前回手に入ったアイテムを売ることにしました。
 
 …さすが黄金同様ともされた【くろこしょう】。
 いきなり3000SPも手に入って、度肝を抜かれました。
 初期に『街道沿いの洞窟』→『新港都市ポートリオン』をプレイすると、装備ががっつり揃えられます。
 
 
 今回リプレイした『聖なる遺産』ですが、実はDOLLという世界観に基づいているため、詳細なリプレイをすると、リプレイの世界観と矛盾した内容になってしまいます。
 そういうわけで、雰囲気だけ伝えるような短編で書きました。
 
 しかしながらこのシナリオ、特定の嗜好を持つ方にはたまらない内容の傑作です。
 冒険者本人がリスクブレイカーになって、聖遺物の所有権をめぐる騒動に挑むというソロシナリオですが、登場人物が個性的で面白いのです。
 文章も、独特の雰囲気があり、自由度も高いシティアドヴェンチャーになっているのです。
 
 さっと遊べる纏まりの良さも心地よく、楽しんでプレイ致しました。
 中世的な雰囲気が好きな方にはお勧めです。
 
 
 シグルトは、豚に教会に法案チェックという結果になりました。
 あまり詳しく書くとネタばれなので、詳しくは書きませんが。
 ただ、2レベルになったシグルトは、それなりに知力が高かったみたいです。
 一応、知力7ですからねぇ。
 
 
 さて、今回様々なシグルトの設定が出ました。
 わからないことも、次回以降で明らかにするつもりです。
 
 
 残念ながら、シナリオ作家としても、素材提供でもカードワースに多大な影響を与えたMartさんが、つい先日サイトとブログを閉鎖されました。
 でも今後、彼が残したアレトゥーザやペルージュの設定は是非使わせて頂きたいな、と思っています。
 
 私としては、引退した方も暇ができた時にでもたまに遊んでほしいなぁと願うばかりですが、私も含め、仕事を持ってたり、学業が忙しいと活動を続けることは難しいかもしれません。
 
 でも、カードワースはカムバックありだと思っています。
 私は年やら仕事やらは考えず、好きなのでカードワースをやっています。
 私も停滞しているものがたくさんありますが、何とか活動していきたいと思っています。
 
 Martさん、お疲れ様です。
 そして、気が向いたなら、この世界にまた来てくださいね。
 
 
 さて、今回の収入ですが…
 
◇シナリオ
・『新港都市ポートリオン』(Moonlitさん)
 【くろうこしょう】売却(+3000SP)
 【森黄×10】×2売却(+600SP)

・『聖なる遺産』(クエストさん)
 報酬(+1000SP)
 
 
◇現在の所持金 5238SP◇(ジャラ~ン♪)
 ごっつぁんです。
 
 
〈著作情報〉2007年09月11日現在

 『新港都市ポートリオン』はMoonlitさんのシナリオです。現時点でMoonlitさんのサイトで配布されています。
 ギルドにも登録されています。
 シナリオの著作権は、Moonlitさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.11です。
 
 『聖なる遺産』はクエストさんのシナリオです。現時点でクエストさんのサイトで配布されています。
 ギルドにも登録されています。
 シナリオの著作権は、クエストさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.10です。
 
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。 
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『街道沿いの洞窟』

 それは、ある晴れた日のことだった。
 
 シグルトとレベッカは、仕事を探しつつ2人で旅をしている。
 
 先日まではポートリオンという比較的新しい都市に、アレトゥーザから届け物をするという仕事をしていた。
 そして、いったんリューンに行こう、ということになり、その近くの街道にある村で休息を取ることにした。
 
 この村からリューンまでは、さほど距離が無い。
 馬車を用いれば数時間だろうか。
 シグルトとレベッカの足なら、急げは今日中にもつけそうな距離である。
 
 本来、リューンとポートリオンは海路で移動する方が遥かに近い。
 そのためか、この村は閑散としていた。
 
 当然、ここに来るまでに仕事などまるでなかった。
 
 今2人が休んでいるのは、この村で唯一の宿であり、酒場であり、食堂である。
 
「ここ5日ばかりで、実際にお金になる仕事がほとんど無かったのは痛いわね。
 
 届け物で稼いだお金も、道中商隊に随伴してやるおまけみたいなものだから報酬は安いし…路銀で使ってしまったわ。
 ここに来て、手持ちの銀貨がこればかりなのは、ねぇ…」
 
 休息するために使ったお金を引いて、残ったのは銀貨が三十八枚きり。
 ちょうどアレトゥーザを出た時に持っていたのと同じ枚数だ。
 
「泊まらずにリューンに行けば、『小さき希望亭』ならツケが利くわ。
 
 あそこに行けば、私が冒険者になった頃から稼いだお金が少しばかりあることだし。
 ま、あのお金はいざって時の蓄えで、使いたくはないんだけどね」
 
 井戸水で冷やしたエールを味わいながら、つまみの揚げ物を齧りつつ、レベッカがのんびりとした声で他人事のように言う。
 
「ここまで借金も作らず来れたことの方が、幸いだった。
 
 とにかく、リューンに戻ったら一仕事探すとしよう。
 拠点が確保できれば、俺たちでも可能な仕事の一つぐらいあるだろう」
 
 冷えたエールでは、これからの旅で余計疲れると言って、シグルトは葡萄酒一杯と干した果物、塩を一つまみ用意してもらっていた。
 そのドライフルーツに軽く塩をかけ、齧っては少しずつ葡萄酒を飲んでいる。
 
「…美味しいの、それ?」
 
 レベッカの問いに、シグルトは軽く首を横に振った。
 
「決して美味いものじゃないな。
 
 だが、この乾物はこうするとすぐに身になる。
 塩と葡萄酒と一緒に食べれば、疲れ難くなるんだ。
 
 昔、ある婆さんから習ったんだが、昔は鍛錬でへとへとになる度にこうしたものだ」
 
 レベッカは、試しにシグルトと同じように一齧りして、眉間に皺を作った。
 
「うへ~、渋いわね。
 
 しかも、塩の味で微妙な甘さがくどくなって、もっと不味くなってるじゃない。
 これじゃあ、熱さましに使う薬草の根の方がましだわ。
 
 休んでる時ぐらい、美味しいものにしなさいよ」
 
 レベッカの言葉に、シグルトは苦笑した。
 
「休む、というのは体力を回復することだ。
 
 これからリューンまで帰るわけだからな。
 まあ、レベッカはしっかり英気を養うといい。
 
 心を休めるために、美味いものを食うのも理には適っているさ」
 
 シグルトは、率先して一般的に不味い物…骨の多い部分や硬い筋身を食べる。
 それが筋肉や骨を強くするのだそうだ。
 そのせいか、シグルトの顎や歯の力は強靭で、胡桃を軽々と噛み砕くほどだ。
 
 武術において顎を鍛えることは、瞬発力を発揮するために必要な鍛錬なのだという。
 
「シグルトって、医者みたいなことを言うわよね?
 
 そういうの、盗賊ギルドでは毒の克服なんかのために習うけど、あんたほど徹底してるのはなかなか無いわ」
 
 半ば呆れたように、レベッカは自分のつまみで口直しをしながら、またエールを飲む。
 
「結局武芸というのは、最終的にどうやって相手に勝つかを研鑽することだ。
 
 相手の骨や血肉の配置を知って欠点を突き、自身の骨や血肉を鍛えて力にする。
 俺の鍛錬は、昔武芸を学んだ師から習ったものに、知り合いの医者とまじない師の婆さんから聞いた知識を加えたものだが、それなりに効果はある。
 
 自身の欠点を克服できないうちは、結局どこかで負けてしまう。
 …少なくとも、そう考えて実践しろと、俺の師は言っていたな」
 
 あんたの修業時代って興味があるわ、とレベッカが聞くと、シグルトは天を仰いで何かを思い出すように語りだした。
 
「俺は、国でも一番の武芸者と言われたある方に師事することが出来た。
 戦争の多い北方で、かつては傭兵として腕を磨いた人物だ。
 
 その師匠は、“槍戟の武仙”と謳われた槍の達人ハイデンという方でな。
 国では、剣はアルフレト、槍はハイデンと言われていた。
 
 仕官せず、森に籠って野草と木の実を食べ露を飲む、隠者のような人だった。
 
 その鍛錬法は壮絶で、兄弟弟子と鼻血が止まらなくなるぐらいに練習用の武器で殴り合って鍛えられる。
 弟子入りしたうち、九割近くが耐えきれなくなって逃げてしまったが、師の言う通りにしたら、途中からどんどん強くなっていくのが分かったよ。
 
 後は、自身を磨くことに夢中になった。
 
 俺の故郷は、尚武の国だ。
 弱い者は泣くか、鍛えて強くなるしかない。
 
 だから、あの頃は強くなって、何かをやれる人間になりたかった。
 強くなれば、結果は後から付いてくると信じていた。
 
 世の中そんなに単純じゃ、無いのにな…」
 
 シグルトが、槍か竿状武器(ポールウェポン)の扱いに通じていることは、レベッカも気付いていた。
 出会った頃、シグルトは何故か遠い間合いから詰めていく戦い方をしていたからだ。
 今思えば、剣に慣れるまでは、無意識に槍の間合いを取ってしまったのだろう。
 
「俺は槍を捨てた。
 技も、ずっと愛用していた得物も。
 
 いろいろあって、槍を握ることが出来なくなった。
 だから今は剣を使っているんだ。
 
 …そうだな。
 そのうち話す機会もあるだろう。
 
 長話して、リューンに着く前に、日が暮れてしまってはいけないからな」
 
 饒舌になっていたことに気付いたのか、シグルトはさっと話を終わらせた。
 
「楽しみは後に取っておくわ。
 
 …行きましょうか」
 
 レベッカは温くなったエールを飲み干すと、主人に礼を言って店を出ようとした。
 
 だが扉を開けると、そこには一人の女性が困ったような顔をして立っていた。
 所在無げに伸ばされた手は、本来ドアノブがある辺りだ。
 
「…ええと、この店に用事?」
 
 場を繕う様にレベッカが言うと、女性は頷いた。
 
「あの、こちらに冒険者の方はいらっしゃいますでしょうか?」
 
 女性の言葉に、シグルトとレベッカは顔を見合わせた。
 
 
 女性の名はセーナ。
 村の香油屋で働いているという。
 
 セーナの話によると、街道に妖魔らしき者が現れ、被害が出ているという。
 状況を重く見た村長は、村に冒険者が立ち寄ったと聞いて妖魔退治を依頼しようと考えたらしい。
 
「依頼としましては、妖魔の棲家の探索と掃討です。
 
 報酬は銀貨六百枚用意してあります」
 
 レベッカが大きく息を吐く。
 
「なるほど。
 
 結構大きな仕事みたいね」
 
 そしてレベッカは、セーナに質問を始めた。
 
「…なるほど、妖魔の正体も分からないと。
 
 でも、被害が小さいことや、その行動から予測するに、ゴブリン辺りかしら。
 
 依頼内容は〈探索〉と〈掃討〉ね。
 
 ゴブリンの〈掃討〉だけなら銀貨六百枚で最低線だけど、〈探索〉を含めるなら、もう少し報酬を増額してほしいわ。
 手間がかかるわけだし。
 飛び込みの仕事だから、それも考慮して、ね。
 
 あと、探索中に見つかった妖魔の持ち物や、盗品の扱いはどうするの?
 それをこっちで自由にしていいと言う条件なら、〈探索〉の方は請負うわ。
 
 〈掃討〉は不確定要素があるから、危険手当込みで銀貨八百枚。
 お金が用意できなければ、追加分は物品でも構わないわよ。
 
 と、もし受けるならこの辺りの条件でお願いしたいんだけど、シグルトはどう思う?」
 
 冷静に報酬を提示し、レベッカがシグルトに話を振った。
 
「…正直、俺たち2人でどうにかなる仕事とは思えないな。
 討伐は命懸けの仕事だ。
 
 だが、この街道では冒険者を呼ぶには少なくとも1日以上かかる。
 リューンに行って依頼を出し、仕事を受けた冒険者が着く頃には、新たな被害が出ないとも言い切れない。
 
 ともすれば、俺たち2人で何とかやるとして、問題はそのやり方だが…
 
 話を聞く限りでは、妖魔の棲家は分かっているし、指揮を執る上位種はいない様子だ。
 やりようによっては、奇襲を仕掛ければ何とかなるかもしれん。
 
 棲家だという洞窟の規模からして、数は最大で10匹程度。
 奴等の性質なら、村人と小競り合いがあった時点で見張りを立てるだろうから、それを含めての数だな」
 
 そしてシグルトは、セーナに目をやるとその答えを待った。
 
「あの、お金の増額はできませんが、【フォレスアス】という地酒があります。
 
 リューンやポートリオンでは、珍しくて高く売れるんです。
 報酬の追加はそれで許してくれませんか?
 
 それと、盗品や見つかった品物は、村の物でなければ御自由になさって結構です」
 
 酒、という言葉に、レベッカは目を輝かせた。
 
「問題ないわ。
 
 どうせ、仕事をしなくてはいけないんだし、1日ぐらい行程が遅れてもいいでしょう」
 
 シグルトは危険だからとあまり乗り気ではないようだったが、切羽詰った村の状況は問題だと渋々承諾した。
 
 
 依頼遂行は速やかに、ということで、シグルトたちはそのまま妖魔の棲家となっている洞窟に向かった。
 
 セーナは、お目付け役として付いてくることになった。
 荒事には素人のセーナが付いてくることを、シグルトもレベッカも反対したのだが、件の洞窟までの案内役、と言われれば断るわけにもいかない。
 
「私はこれでも癒しの秘蹟が使えるんです。
 
 香油屋というのは、所謂修道院の副業みたいなもので、私は幼い頃修道女見習いだったんですよ」
 
 労働に勤しむ修道院は、薬、油、蝋燭、酒等を作る。
 教会の洗礼で使われる香油や葡萄酒も、修道院で作られていることが普通だ。
 
 こういった小さな村が、修道院と関わる産業を一緒になって行う例は多い。
 人手が足りない場合は、関係者として修道士見習い、修道女見習いの名目で一定期間修道院に入る。
 そのまま修道院に残って正規の修道士や修道女となって修行する者もいるし、還俗してただの村人に戻る場合もある。
 還俗した者の中には、修道院の産業を助けるサポーターのような職業に就く者も少なくなかった。
 
 見習いのうちは、剃髪(トンスラ)や純潔の誓いなどしない場合もあり、あるいは学校の無い村では文字や教養を学ばせるために修道院で一定期間修業させられることもある。
 もちろん、入れたら一生聖職者、という厳しい修道院もあるのだが。
  
 よく見れば、セーナはどこか服装も堅苦しい感じである。
 生真面目についてこようとするのは、修道院で学んだ誠実さ故だろう。
 
「まぁ、怪我をした時は安心よね」
 
 結局、セーナは出来るだけ後ろから付いてくる、ということで話はついた。
 
 お目付け役に怪我をさせてはいけないと、レベッカは先行して妖魔の気配が無いか探っていた。
 そして、妖魔のものらしき足跡を見つける。
 
「初めての依頼を思い出すわね。
 
 こいつはゴブリンの足跡よ。
 この様子だと戦士種やロード、ホブゴブリンみたいなデカイ奴は本当にいないみたい。
 
 問題はシャーマン種がいた場合。
 魔法を使ってくるあいつは厄介だわ。
 
 今回はロマンやスピッキオがいないから、慎重に行きましょう」
 
 レベッカの言葉にシグルトはゆっくり首肯すると、いつでも剣を抜けるように柄に手をやった。
 セーナが緊張でごくり、と喉を鳴らす。
 
 やがて、歩いていたレベッカが立ち止まり、さっと掌を開いたままシグルトたちに向けた。
 待て、という意味だ。
 
「…洞窟があって見張りがいるわ。
 
 予想通りゴブリンね。
 肌の色が違うけど、変異種かしら?
 
 見張りは一匹だけだから、奇襲をしかけるとして、あいつは私が仕留めましょう。
 
 ちょっと待っててね」
 
 音も立てず、レベッカは滑るように見張りのゴブリンに接近する。
 ぼんやりとしたそのゴブリンは、レベッカの動きに気付く様子は全く無かった。
 
 その背後でゆらりと立ち上がったレベッカが、ゴブリンの気管ごと喉を切り裂く。
 そして、暴れないようにゴブリンを羽交い絞めにした。
 
 喉から濁った血を溢れさせ、目を見開いたまま、しかし音一つ立てられず、ゴブリンはやがて痙攣し絶命する。
 
 ゴブリンの遺体を近くの茂みに隠すと、レベッカは近くの森から木の葉や乾いた土を持って来て、血痕の上に振り撒く。
 そして、周囲を手早く確認すると軽く息を吐き、シグルトたちに手招きした。
 
「上手くいったわ。
 
 さあ、行きましょう」
 
 レベッカは、腰に下げた袋に何かを詰めながら血の痕を踏み固め、目立った足跡を踵で擦って消している。
 
「…?
 
 何をしているんだ?」
 
 シグルトが首を傾げると、レベッカは親指と人差し指でつまんだ黄色い木の実を見せた。
 
「【森黄(しんおう)】が群生してたから、可能な範囲で集めてたのよ。
 
 これ、ポートリオンで買ってくれる所があってね。
 それなりにお金になるのよ」
 
 【森黄】はこの辺りの森でよく見つかる植物だ。
 葉は特殊な加工すれば毒消しに使えるし、その実は果実酒の材料になる。
 
「…レベッカさんて、抜け目ないんですね」
 
 少し呆れたように、セーナが呟いた。
 
 
 洞窟に入ると、3匹のゴブリンがいた。
 シグルトは混乱するゴブリンを、次々と斬り倒して行く。
 レベッカは、弱ったゴブリンに止めを刺し、2人はセーナには指一本触れさせない。

 セーナは殺戮の凄惨な現場を見て、顔を青くしている。
 人型のものが殺される所を見て、気持ち悪くならないはずがないと、シグルトが励ました。
 
 レベッカは、洞窟に籠る血臭に自身も眉を顰めながら、セーナの意外な気丈さに驚いていた。
 普通は吐いたり、貧血を起こして気絶してしまう女性もいるのだ。
 
「…気付かれた様子もない。
 
 喧嘩でもあったと思ったんだろうな」
 
 シグルトは剣から血糊を拭うと、急ごうと促した。
 
 行く先でまたゴブリン3匹と遭遇したが、シグルトは閉所を利用して一匹ずつ仕留める作戦を用い、血路を開いていく。
 素早いゴブリンが逃げに回っているというのに、シグルトの剣は的確にそれを補足し、倒すのだ。
 
 ここに来るまでの戦闘では、掠り傷一つ負っていない。
 
「…流石よね。
 
 この狭い洞窟で、そんな大きな得物を操るんだから、大したもんだわ」
 
 シグルトが今使っている剣は、1世代昔の古さだけは骨董品、と呼べる剣だ。
 柄の長さが、片手剣としては僅かに長く、それ以上に刀身がかなり長く重い獲物である。
 一応は片手半剣(バスタードソード)と呼ばれる類だが、洗練された刀剣とは言い難い。
 イメージとしては、金属の角柱のような、厚い刀身の剣だからだ。
 耐久力は大したものだが、重く無骨で鈍器のようだ。
 
 その剣を、シグルトは巧みに狭い場所で問題なく扱う。
 
 レベッカは、皮手袋で剣の刃の半ばを握り敵を攻撃する、その独特の戦い方に感心していた。
 
 シグルトはその状態で剣を前に構え、敵の斬撃を受け流しながら、カウンターで鍔元や刃先で斬り込むか、突く、という戦法を使っていた。
 狭い洞窟でこの戦い方は実に効率的で、見たことも無い構えに、敵はペースを乱され、見る間に敗れ去る。
 
「普通剣を扱う人間は、怖くて刃を握るなんてできないわよ。
 
 貴方は怖くないの?」
 
 シグルトは、自身の持つ剣の半ばを指差した。
 
「この手の重い剣は引いて斬るか、あるいは叩き付けてかち割るものだ。
 麻や革の手袋で、鞘のようにしっかり刀身を包むように握れば、手を切ることは無い。
 
 これは【半剣】という古流剣術の構えで、狭い場合や状況に合わせて技を変える場合には重宝する。
 戦士が実戦で編み出した知恵だな。
 
 甲冑を着た騎士の喉や脇に、刃を正確に突き込むためにも使われていた。
 昔はさらに切れ味の悪い刀剣を用いていたから、頑強な鎧を着た敵を相手にするには工夫が必要だったんだ。
 
 それに、普通は剣の刀身を握る構えなんて予想しないから、次の手を読まれ難い。
 もっとも、相手がそれなりに剣術に通じているなら逆に対応策を講じられるから、間合いの狭いこの構えは不利になるだろうが。
 
 俺のこれは見様見真似だから、専門家のそれには及ばないが、こういう場所ではなかなか役に立つな」
 
 シグルトの武芸に関する知識は幅広い。
 
 その戦い方も、実戦を踏まえた技が多く、敵を殴ったり投げ飛ばしたりもする。
 さらに、剣の鍔や柄頭を迷いなく使う殴打の技は荒っぽい傭兵のようなものもあるが、シグルトが巧みに使うと野蛮さは影を潜め、流麗にすら見える。
 
 ある時、正統派剣術を習っている剣士が、シグルトの戦い方は卑怯で野蛮だとなじったことがある。
 しかしシグルトは、苦笑して相手にこう言った。
 
「爪や牙を巧みに使う獣に襲われた時、それを卑怯だと言っても、食い殺されるだけだろう。
 
 自身の文化だの戦い方だのを押しつけて、礼節や美しさをのたまうのは実戦用の剣では無い。
 卑怯だ、野蛮だと決め付けるのは、訓練の時だけにしておいた方が身のためだぞ。
 
 その考えで言うなら、剣に対して槍は卑怯だ、斧は野蛮だというような屁理屈にもなりかねない。
 命を奪い合う戦いで、どうしても〈卑怯な戦い〉をされるのが嫌なら、まずその我侭を通せる程度に強くなるべきだな」
 
 実際、シグルトは奇襲や汚いとされる戦い方をされても、それを卑怯だと貶したことはなかった。
 同時にシグルトと同じような心構えをした他の冒険者の何人かは、そのおかげで命を拾ったと後に語っている。
 
 レベッカは、シグルトの戦士としての心構えも、高く評価していた。
 そういうシグルトが戦闘の指揮を執るなら、自分たちの生存率が格段に上がるからだ。
 
「その調子で、残りも頑張ってよね」
 
 期待を込めてレベッカが言うと、シグルトは「励むとしよう」と短く返した。
 
 
 その後も洞窟を調査し、ゴブリンが行商人から奪った香辛料らしきものを手に入れる。
 大きな袋にぎっしり詰まった黒いそれを見て、レベッカは何を思ったか、随分上機嫌だった。
 
 奥にいた残りのゴブリンは、結局すぐに掃討されることになった。
 シグルトがセーナを庇って軽傷を負ったが、依頼は見事に達成したと言える。
 
 洞窟のさらに奥を調べていくと、レベッカが洞窟の最奥に隠し扉らしきものを見つけた。
 
 扉の奥には、岩塩らしき鉱脈のある狭い道が続き、そして人の暮らしていたような形跡があった。
 その先に続く階段を見つけ、一行は慎重に先に進む。
 
「うわぁ…」
 
 階段を降りた後、その先にあった部屋に灯っていた明かりを見て、セーナが驚きの声を上げた。
 
「これは…魔法の光か?
 
 ここは魔法使いの隠居所だったのかも知れないな」
 
 そう言ってシグルトも、物珍しそうに周囲を見回す。
 
「…おっ?
 
 これって魔法の杖かしら。
 お宝発見ね」
 
 レベッカが、三日月を模った小さな杖を見つけ、さっそく鑑定を始めた。
 
「これは、かなりの貴重品だわ。 
 魔術師垂涎の品って言われてる、【賢者の杖】と同種の魔法の品ね。
 
 でも、ピンク色…少女趣味なデザインがちょっと頂けないわ。
 ロマンなら、半泣きになって嫌がるでしょうね。
 この間、宿の娘さんに女装させられそうになって、逃げ回ってたもの。
 
 売ってもそれなりに高価でしょうけど、欲しい冒険者に格安で譲って、恩を売るのもいいかも知れないわね」
 
 レベッカは大切そうにその杖を布に包むと、荷物袋にそっと入れた。
 
 
 その後、洞窟の隅々まで調査し、名にも危険が残っていないことを確認した一行は、日暮れ前に依頼を受けた店に戻った。
 
 店で手に入った香辛料の話をすると、店の店主が是非買い取りたいと申し出たが、店主の提示した価格にレベッカは「論外ね」と言って、さっさと香辛料を仕舞い込んでしまった。
 
 仕事の一部始終を見ていたセーナは、シグルトとレベッカの手際を称え、報酬の銀貨六百枚と約束の【フォレスアス】という酒を渡してくれる。
 懐の膨らみに頬を緩めながら、レベッカは何か考えているようだった。
 
 その日は村長の取り計らいで村に一泊し、次の日、シグルトとレベッカは村を出たのだった。

 
 
 Moonlitさんのシナリオ『街道沿いの洞窟』のリプレイです。
 ギルドに登録されているポートリオンのクロスオーバーシナリオで、なかなかに初期の冒険者にはありがたいシナリオです。
 結構報酬が豊富で、スキル配布アイテムが手に入るんです。
 
 奇襲を仕掛けると、ほぼ一方的に勝てるので、シグルトとレベッカのみで依頼を達成してしまいました。
 この2人、息も合ったなかなかのコンビです。
 
 シグルトの使った剣術【半剣】は漫画で見て出したネタですが、ドイツ系の古流剣術にあるらしいです。
 実際にこのような使い方をする場合もありますから、理にかなった技術ですね。
 シグルトはこの構えの変形である【王冠】も得意としています。
 槍の使い方にも通じるものがあるので。
 
 シグルトのより戦術巧者な一面を表現してみました。
 シグルトの師匠の話で出したアルフレト、外伝を読めばわかるのですが、シグルトの父親です。
 シグルトが剣術の知識もあるのは父親の影響です。
 
 シグルト、戦い方にはとてもシビアな考え方をしています。
 どんな手を使われても、負けたのならば自身が弱いのだ、と考えるのです。
 冒険者の戦いはスポーツではありません。
 モンスターやら、卑怯な敵やらとやり合うのですから、シュールでも、こういう考えは必要ではないかと考えます。
 
 でも、シグルトは甘くても美学もまた大切と考えています。
 
「…まずその我侭を通せる程度に強くなるべきだな」
 
 というのは、シグルト自身が自分にも科している考えです。
 負けた言い訳をしないのって、格好いい武人には必要ですよね。
 
 
 さて、今回お金と一緒にアイテムを得たわけですが、これらは同じ作者さんのシナリオ、『新港都市ポートリオン』で換金しようと思っています。いくらになるのか楽しみですね~
 
 
 さて、いつものやつをば。
 
 
・収入
 報酬+600SP 

・獲得アイテム
 【森黄×10】×2、【フォレスアス】×1、
 【くろこしょう】×1、【三日月の杖】×1
 
◇現在の所持金 638SP◇(チ~ン♪)
 
 レベッカ「ふう…残金二桁からは何とか脱出ね」
 
◆レベルアップ
 シグルト レベル1→レベル2
 
 
〈著作情報〉2007年09月11日現在

 『街道沿いの洞窟』はMoonlitさんのシナリオです。現時点でMoonlitさんのサイトで配布されています。
 ギルドにも登録されています。
 シナリオの著作権は、Moonlitさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer 1.00です。
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。 
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『“風を駆る者たち”の噂』

 現在シグルトたち“風を纏う者”はアレトゥーザに近い林道にいた。
 途中の町から急遽護衛を、ということで銀貨三百枚で雇われたのである。
 雇用主はデオタトという商人だ。
 
 最初、シグルトたちは、あんたたちを探している商人がいる、と聞き誰だろうと尋ねてみた。
 それはリューンで、仕事の場としてアレトゥーザのことを勧めてくれたデオタトだったのだが、彼は呼ばれてきたというシグルトたちを見て、「あちゃあ…」と額を押さえた。
 
 どうやら手違いがあった、とのことだ。
 しかし、結局必要だからと、急遽シグルトたちは雇われて護衛となったのである。
 
「儲けたわね~」
 
 レベッカは、久しぶりにまともな依頼にありついたことに御機嫌である。
 ついでに商人であるデオタトと、旅で手に入れた雑多な品物をトレードして携帯食や調味料などを手に入れていた。
 
「姐さん、商人の素質があるぜ…」
 
 レベッカの交渉術に参った参った、と笑いながらデオタトも御機嫌である。
 前に立ち寄った村で近隣を荒らす猪狩りを頼まれ、報酬代わりにもらったものの中に、珍しい植物の種があったのだが、それが随分貴重なものだったと、デオタトは言うのだ。
  
 冒険者たちが銀貨のみしか報酬にしないなら、それは都市近郊でしか活躍できない連中である。
 西方でも森に隔絶されたひっそりとした村の依頼では、銀貨より物品で報酬をもらうことも多いのだ。
 
 それを旅費や更なる物品に交換し、シグルトたちは少ない貴重な銀貨を節約してきた。
 道具袋も着実に重くなっている。 
 

「“風を駆る者たち”?」
 
 シグルトはその名を聞いて驚いたような顔をした。
 
 デオタトが最初に依頼するつもりだったのはシグルトたちではなく、“風を駆る者たち”という冒険者グループだというのだ。
 
「ああ、リューンでよく聞いた人たちだよね」
 
 ロマンが頷いて言った。
 
 “風を駆る者たち”は、“風を纏う者”と同じく、新進気鋭の冒険者パーティである。
 レベッカの知っている限りでは、シグルトたちの少し先輩にあたる冒険者たちで、冒険者の宿『風の旅路亭』を中心に活躍する6人構成のグループらしい。
 
「中にドワーフがいるから、新しい冒険者グループの中では結構知名度が高いのよ」
 
 大地の妖精族と呼ばれるドワーフは頑固で屈強な亜人である。
 本来細工や鍛冶を生業とすることが多い彼らは、人間と時折交易を持つことがあるし、彼らの作る品物はどれも優れたものだという。
 
 ただ、土地や仕事に強い執着を持つドワーフが冒険者となることはあまりない。
 戦士としてはとても頼りになるが、気難しい彼らを仲間にすることは困難でもある。
 
 エルフやホビットといったものを含め、亜人は数も少なく、めったに見かけることはないが、旅をする冒険者は一般人よりは出会う確率が高い。
 中には、亜人のはぐれ者が冒険者となることもよくあることだ。
 特に、人間やエルフの両サイドから迫害されがちな両種族の混血、ハーフエルフなどは、絶対数が少ないにもかかわらず冒険者になることが多い。
 実力で評価される、冒険者という職業とは相性が好いからだ。
 
 そんな話をしながら、シグルトは何故手違いが起きたかをデオタトに訪ねた。
 
 デオタトが伝言を頼み間違えてシグルトたちに声をかけた人物は、シグルトたち“風を纏う者”とよく似たグループ名の“風を駆る者たち”を勘違いしたのだろう、との話である。
 
「確かに似ておるの…」
 
 スピッキオがふうむ、と唸った。
 
「まあ、今回は得したんだし、いいじゃない」
 
 それにあの街にはいなかったんだから、依頼は他の冒険者が受けなきゃいけなかったでしょ、とレベッカは続けた。
 
「マルスから、噂は聞いている。
 優秀なパーティらしいな。
 
 リューンの新しい冒険者パーティでは、十指に入るほど期待されている、という話だ」
 
 歩きながら、シグルトが話す。
 
「なかなかバランスも良いらしいわよ。
 
 若い一応リーダー格って奴が精霊術師で、そこそこに剣も使える万能選手。
 参謀格の坊さんとドワーフの戦士。
 盗賊に魔術師もいるから、大抵の仕事が出来るわね。
 魔術師は南方大陸の民らしいわよ。
 もう一人女の子がいるらしいんだけど、秘蹟の才能があるってくらいしか聞いてないわ。
 
 リーダーの精霊術師がアレトゥーザ出身とかで、私たちと同じリューンやアレトゥーザ、フォーチュン=ベルを中心に仕事をしてるって話よ。
 ライバルになるかもね」
 
 レベッカは、この手の情報収集に余念無い。
 冒険者は、数少ない仕事を競って奪い合うことが多いのだ。
 時に手を取り合って協力することもあるが、対立すれば戦いになることもある。
 
「“風を駆る者たち”か、どこかで遇うかもしれないな…」
 
 シグルトは“風を駆る者たち”という冒険者の名前に、不思議な縁(えにし)を感じていた。
 
 
 アレトゥーザに着くと、デオタトは約束より多い銀貨四百枚を“風を纏う者”に渡すと、上機嫌で去って行った。
 
 レベッカは、盗賊の出ないルートを割り出し、早く確実な行程でデオタトをアレトゥーザに届けたのだ。
 予定より半日早い到着と、道中何事もなかったことに、デオタトは大変満足していた。
 
 優れた護衛とは、何事もなく確実に護衛対象を守ることが何より大切である。
 “風を纏う者”のメンバーは、5人とも温厚で、慎重か誠実のどちらかだ。
 余程追いつめられないと、危険な行動にはでないし、好戦的でも無い。
 結果として、護衛の依頼はまったく揉めずにすべて完遂している。
 
 護衛の仕事はデオタトのもので実に5つ目だが、結成して半年もたたないパーティが、これほど揉めること無く依頼を達成することはまず無い。
 冒険者にとって比較的多い護衛の仕事は、依頼人の小さな怪我や危険手当などで揉めることが多く、難しい仕事なのだ。
 
 レベッカは、危険手当を要求するが、危険の無い慎重なルートを選ぶ。
 危険手当を目当てに危険なルートを選ぶ好戦的な冒険者もいるが、そういった冒険者は、依頼人に悪印象を与え、結果として次の仕事が得られなくなる。
 逆にきちんとした危険手当のある契約を結びつつ、それはあくまでも保険として、安全な仕事をして見せることは、依頼人の信頼を得るのだ。
 
 一つは万が一の準備ができる慎重さ。
 もう一つは依頼人を確実に守ろうとする誠実さ。
 その二つを徹底することで、優れた仕事が出来ることを、依頼人に強く印象付けるのだ。
 
 ある意味、デオタトは幸運だったとも言える。
 “風を纏う者”を名指しで依頼しようという商人も、少しずつ現れていたからだ。
 
 “風を纏う者”は、報酬も法外な値段には決してしない。
 レベッカは、実力を安売りはしなかったが、先を見越した誠実な価格で仕事を請け負い、適度にサービスをして信頼を得る方法を得意としていた。
 彼女曰く、〝目先の儲けしか考えない奴は、損をする〟そうである。
 
 実際、“風を纏う者”は、ここ数日仕事に恵まれ、危機的な財政難をなんとか凌ぐことができた。
 物々交換が多かったので、手元の銀貨は増えなかったが、それが減ることは避けられたのである。
 
 
 なんとかパーティの財政を、銀貨六百枚以上に戻したレベッカは、アレトゥーザの拠点『悠久の風亭』で銀貨の枚数を確認しながら一息ついていた。
 
 ロマンとスピッキオには、固く買い物禁止を言い渡してある。
 他の2人、シグルトやラムーナは、無駄遣いとは縁遠いタイプだ。
 特にシグルトは、レベッカにとって協力的なリーダーだった。
 彼が誰よりも禁欲的にことをするので、最近は仲間の中で倹約を重んじ、それに慣れつつある。
 
「なんとか銀貨千枚ぐらいはキープしておきたいわ。
 
 適当な仕事を見つけて、もう一踏ん張りしましょうか」
 
 いったん解散していた“風を纏う者”は、『悠久の風亭』に集結し、夕食を食べながらこれからのことを相談していた。
 
 宿の女将ラウラと仲良くなったレベッカは、アレトゥーザに出入りする商人と交渉して、格安で調味料や宿に必要な資材を買い付ける仕事をし、代わりに数日の宿代を確保する、という芸当をやってのけた。
 普通なら大金がかかる高級油や良質の塩、最上品質の小麦粉に、珍しい産物。
 レベッカはそれらを、ほぼ原価…市場の四分の一程度で仕入れることができる。
 
 結果として、高級素材の料理で客足が増えたことに満足したラウラは、これからもそういった交渉を受け持つことを条件に、向こう一月の宿代を半額、しかもツケにしてくれた。
 “風を纏う者”が海風に震えながら野宿をしないで済むのは、レベッカのおかげだった。
 
 レベッカは怠け者だ。
 しかし、快適な怠け方や遊び方をするために、その仕事ぶりはとても優秀だった。
 
「………」
 
 上機嫌なレベッカに対し、何故か何時もの様に陽気な雰囲気では無く、ラムーナはそわそわした様子だ。
 
「…どうしたラムーナ?
 
 さっきから何か言いたそうだが、話せないことか?」
 
 シグルトが幾分穏やかな声で話しかける。
 このリーダーは一見朴念仁だが、仲間への気配りは的確だし、懐が広い。
 仲間が迷う時は、その決断を助けるために橋渡しをしていた。
 
 実際、幾分慎重なレベッカやロマンが迷った時や、仲間同士で意見が対立した時は、シグルトの意見がいつも鶴の一声であった。
 シグルトは、仲間の意見をすべてを考慮した上で決断し決定する。
 彼の決定は常に妥当であり、文句を言う者はいなかった。
 
 それに、シグルトは我欲というものがまるで無い男だ。
 無欲、というのとはちょっと違うが、仲間を優先する意識が強く、辛抱強さと禁欲においては超人的だった。
 道中は一切間食をせず、水や食料は毒見ならば率先してやり、節約する場合は自身がもっとも我慢する。
 水は、仲間に余裕を与えるために、自分の体力を維持できる最低線で節約し、ペースを誤った仲間に与えるほどだ。
 
 普段からリーダーとしての責務を果たし、その公正で誠実な判断力と、私情を極限まで抑えるストイックな態度。
 利己的なレベッカや、理屈っぽいロマン、老練で正義感の強いスピッキオが独りよがりにならず、シグルトの決定を無条件で信用するのは、シグルトが信頼できるリーダーだからだ。
 
 理想が高過ぎて仲間をつくらなかったレベッカが、〈最高のリーダー〉と臆面もなく言うくらいなのだ。
 能力的にも優秀だが、何より優れているのは統率力と決断力だと、レベッカは評価している。
 
 かといって、誇りや自主性の無い男かというと、そうではなかった。
 付き合ってきた“風を纏う者”のメンバーは理解しているが、シグルトは一見は冷静に見えて、実は義理堅く、意外にも情熱的だ。
 仲間を侮辱する言葉には毅然と抗議して相手をたしなめるし、悩むことなく自身の考えをまとめ、即座に意見の一つとして提示する。
 卑屈な部分はまるでなく、シンプルではっきりしている彼の考えは、大概そつが無く適正だった。
 一度決めた目的には全力で取り組み、自分の役割はしっかりこなす。
 そして、“風を纏う者”の誰よりも仲間を信頼し大切にしていた。
 
 これだけのリーダーである。
 さらには、それが作ったものでも演技でもない自然体なのだ。
 
 “風を纏う者”が属する冒険者の宿『小さき希望亭』の主人も、シグルトは宿で最も理想的かつ模範的なリーダーだと評価している。
 
〝あいつの何が凄いって、あれだけの完全無欠ぶりを普通に似合ってるって感じさせる雰囲気だな。
 ああいうのをカリスマって言うのか?
 
 嫌味にすら感じさせないんだから、よく考えるとそこが化物じみてる。
 もし領主や王様だったとしても、何の不思議もない。
 
 むしろ、何で冒険者をしているのか、と考えてしまうくらいだ…〟
 
 シグルトについて、宿の主人が評した一説である。
 
 こんなシグルトを、ラムーナも心から慕っていた。
 だから、シグルトに促されると、自然と迷っていた言葉が出る。
 
「あのね、別に今でなくてもいいんだけど…
 
 実はこの都市である人と知り合いになったの。
 その人は、南の方から伝わったっていう闘いのダンスを知ってる人で、私ってもともと踊りとか得意だから。
 
 機会を見てその人から、その闘いのダンスを習ったなら、もっと戦う時役に立てるかなって…」
 
 遠慮がちに切り出したラムーナに、レベッカはしばし沈黙すると、息を吐くように尋ねた。
 
「ラムーナが習いたい技って、どのぐらいの授業料がいるわけ?
 
 さすがに仲良くなったからって、無料ってわけにはいかないんでしょ?」
 
 レベッカの問いに、ラムーナは小さく頷き返した。
 
「…銀貨六百枚。
 
 一番基本的な技だって聞いてるけど、素早さに自信があるなら確実に強くなれるって言ってたよ」
 
 レベッカは思案するような仕種をし、そして少し困ったようにシグルトを見た。
 そんな彼女に、信頼するリーダーは強く頷いて見せる。
 
「分かったわ。
 
 今までラムーナって、こういう我侭はまるで無かったし、ね。
 ちょうど手元にはそのぐらいのお金があるし、ラムーナには早速その技を習ってもらいましょう」
 
 レベッカの言葉に、ロマンとスピッキオが意外そうな顔をする。
 
「…分かってるわよ。
 
 いつもお金に煩い私が、ぎりぎりの状態でお金出すのが変なんでしょう?
 
 勘違いしないでほしいんだけど、私は節約するように言ってただけよ。
 それが必要なら、お金を惜しむつもりはないわ」
 
 驚いて目を丸くしているラムーナに、レベッカはぴったり銀貨六百枚を手渡した。
 
「ロマンとスピッキオには文句言わせないわよ。
 
 あんたたちの方が、無駄遣いしてるしね。
 それに、私たちのリーダーは賛成してるみたいだし」
 
 シグルトがレベッカに相槌を打つ。
 
「ラムーナは、本来その身体能力を最大限生かせる戦い方をすべきだ。
 残念だが、俺が教えられる技術にそれは少ない。
 彼女は膂力を重んじた技よりも、急所を狙ったり、素早く動いて敵を翻弄する技の方が優れているからな。
 
 元からダンスが得意だったというラムーナだ。 
 舞踊は、戦いの技術を秘匿したまま後世に伝えるために、武術を練りこんだものが数多くある。
 剣術に近しい剣舞を見たことがあるが、ある種の効率性すら感じさせられたものだ。
 
 普段、戦闘の指揮を執っている俺としては、ラムーナの戦闘力を高めるならむしろ有難い。
 
 強いて問題を挙げるとすれば、ラムーナが技を習う間、俺たちはどうするかだが…」
 
 レベッカが肩をすくめた。
 戦力を高めることは、シグルトにも必要なのである。
 
 シグルトは、冒険者になってから剣を学びだしたという。
 彼は豊富な戦闘経験を持ち、かつ専門家に師事して戦術を学んでいる様子だが、剣は素人だった。
 
 先輩の冒険者が、シグルトは槍か竿状武器(ポールウェポン)を使っていたのではないかと言っていたが、それが得意なのかと聞くと微妙に言葉を濁すのだ。
 はっきりものを言うシグルトには珍しいことである。
 
 シグルトの戦い方は、正式な剣術というよりは、膂力と戦術を生かした総合的な戦闘力によるものだ。
 磨きぬい技の類は習得していない。
 
 むしろ、先輩の使い古しの剣を使うシグルトが、剣術の素人にもかかわらずパーティの先頭で戦えることが驚きだった。
 ある時シグルトがぽつりと洩らしたのだが、〝本当に強くなるなら、基礎から身体を作り、最初から技を磨くべきだ〟と彼は考えているらしい。
 
 シグルトの鍛錬法は常軌を逸している。
 シグルトが、それぞれの指一本で床がへこむほど腕立て伏せをする鍛錬は誰も真似できないと言うし、片手倒立や剣先に水が満たされたいくつもの水桶を下げたまま一時間以上動かずにいる訓練、一回の鍛錬で石畳が粉砕するまで踏み込みを繰り返す反復動作などは、見る者を唖然とさせる。
 そうやって鍛えられた瞬発力は、レベッカなど及びもつかないほどだ。
 
 加えてシグルトは、動作の邪魔にならないよう筋肉の密度のみを高めるために、宿にいるときは食事にも気をつけている。
 宿に戻ってきた冒険者が自堕落になりがちなのに対し、シグルトは仕事の成功による宴会などには無理のない範囲で付き合うが、その次の日からシグルトは鍛練する。
 しかも、彼が鍛錬していた場所だけが雨に降られたあとのように汗で濡れるほど、厳しい鍛錬を続けているのだ。
 
 自身も、体格から変える訓練で技を習得する盗賊のレベッカである。
 シグルトの行う鍛練法が、緻密な解剖学に基づくものだと何となく気が付いていた。
 無茶な鍛錬は身体組織を破壊する。
 シグルトはそうならないギリギリで、行っているのだ。 
 
 シグルトは、一から剣に適合した体格を作ろうとしているのだろう。
 無理に単純な技を習得するより、まず身体を完成させることから考えている、というわけだ。
 
 言うは易し、行うは難しである。
 
 一度習得した何かを完全に捨て、身体を作り直すことがどれほど難しいか。
 シグルトをよく知る者は、彼が〈才能を与えられた天才〉ではなく、〈磨き研ぎ澄ました秀才〉であると理解している。
 
 レベッカとしては、シグルトが必殺の技を得たなら、どれほど強くなるのか早く見てみたい気もする。
 
「ま、戦闘の専門家であるシグルトが言うんだからね。
 
 ラムーナが鍛練中、一月は宿が自由に使えるし、私は出来る仕事を単独なり、残ったメンバーでするつもりなんだけど、他の皆はどうするの?」
 
 気持ちを話題に戻し、レベッカが聞くと、仲間たちは皆考え始める。
 
「ふむ。
 
 わしはアレトゥーザに残って、教会にでも通っておるわい。
 
 アレトゥーザには様々な人間が出入りする。
 若いラムーナ一人残すのも、気が引けるでな」
 
 商人の子だったスピッキオは、かつてラムーナを虜にしていた奴隷商人が現れることを危惧していた。
 シグルトもレベッカもそのことに思い至り、それが良いと頷いた。
 
「それなら、僕も残るよ。
 
 実は調べたい書物があるんだ。
 この辺りの歴史や地理、周辺都市との関係をもう少し詳しく調べておきたいし。
 
 リューンは、僕やレベッカはホームグラウンドだけど、知らないアレトゥーザのことは地元で学ぶのが一番だからね。
 
 それに、南方の言葉の詳細な辞書が、この都市の賢者の塔にあったんだ。
 実際に南と交易のあるアレトゥーザ出身の賢者が書いたものだから、実践的で参考になると思う。
 
 図書室の本って、主要な本は持ち出し禁止だから、塔に通う以外方法は無いし。
 
 どうせアレトゥーザは、南における拠点にするんだし、いろいろ調べておけば役に立つと思う」
 
 ロマンの言葉に、レベッカはそうねぇ、と頷いた。
 
「まあ、3人も残るなら、宿のツケの保障にもなるわよね。
 
 じゃあ、シグルトと私で出稼ぎってことでいいかしら?
 さすがに懐が寂しいしね。
 
 浜が近いし、3人そろってれば、暇な時にでも前みたいに食材探しで食費を稼げると思うわ。
 後で、ラウラさんに頼んでおくわね」
 
 すまなそうに項垂れるラムーナ。
 
「ラムーナ。
 
 これは投資なんだから、強くならないと承知しないんだからね」
 
 レベッカが片目をつぶって、人差し指でラムーナを優しく小突く。
 
「…うんっ!」
 
 ラムーナはいつものような笑みを浮かべて、大きく頷いた。
 

 
 
 Martさんのシナリオ、『碧海の都アレトゥーザ』。
 その中の『デオタトの依頼』を元にしたお話です。
 
 このサブシナリオ、本来はアレトゥーザ~リューン間の護衛なんですが、この話では逆になってます。
 本来の依頼はすでに今回登場した“風を駆る者たち”が行っている、という旧リプレイそのままの設定を使いました。
 
 護衛という仕事、CWの場合、襲われる前提が多いんですが、実は依頼人を危険にさらさないことが大切なんですね。
 危険手当を稼ぐために、危険なルートを通るなど、急ぐ場合でも無い限りはもっての外。
 襲われることが本来はペナルティなんです。
 ですから、改訂版の最新版アレトゥーザの『デオタトの依頼』の選択肢は、納得がいくものなんです。
 
 最近、冒険者の仕事ぶりによって、よい噂や悪い噂はつくべきかなぁ、とも考えます。
 悪名高い冒険者は、本来は損をするのではないかと。
 口コミって、この手の職業では大切でしょうから。
 
 この話で、シグルトたちがどのように依頼人の心を掴んでいるか、書いてますが、誠実な仕事にはそれなりのアドバンテージがあるでしょう。
 よく仕事を頼む依頼人なら、「あいつらなら安心だな」と思うでしょうし。
 
 仕事がない、と嘆く冒険者に、レベッカなら「目先の欲に走ったんじゃない?」と返すかもしれません。
 その辺がレベッカの「大人」で「熟練」した部分です。
 
 
 さて、今回、いよいよ“風を駆る者たち”について詳しい情報が出てきました。
 “風を駆る者たち”は、うちのブログの常連さんならおそらく知っている、Martさんの旧ブログで連載していたリプレイです。
 うちのリプレイの原点とも言えるものです。
 
 現在多忙なMartさんですが、一度は“風を駆る者たち”のリプレイをうちでお預かりしていましたし、“風を纏う者”の旧リプレイとは、強くクロスオーバーしていました。
 公開中止になっているので、リターン版では初めての人にも分かるように紹介しながら、絡ませていきたいと思っています。
 
 
 ええと、それから、加筆修正版の今回、S2002さんの『隠者の庵』はプレイしませんでした。
 何故かといえば、旧版の“風を纏う者”はこのシナリオで買い物せず、物をもらってるだけなんですね。
 それではなんだか変だな、とも感じていたので、ばっさりカットすることにしました。このシナリオ、リプレイする方も多いかもしれませんし。
 『隠者の庵』はキーコードや技術において、CWの歴史に残る最上級の傑作ですが、スキル絵がASK調の16色が多くて、買い渋ってしまった所があるんです。
 アレトゥーザのスキルは枠付きの256色ですが、そろえることにも少しこだわってしまうようです、私。
 
 その代わりと言ってはなんですが、シグルトとレベッカのソロプレイをこれから数回に分けて書く予定です。
 シグルトに関しては、ちょっとした計画もありますので、ちょっぴり御期待下さいね。
 
 
 さて、今回のお財布事情ですが…
 
◇シナリオ
・『碧海の都アレトゥーザ』(Martさん)
 デオタトの依頼(+400SP)
 ラムーナ修行中(-600SP)
 
◇現在の所持金 38SP◇(…大ピンチ?)
 
 
〈著作情報〉2007年09月09日現在

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
 
 また、登場した冒険者“風を駆る者たち”は、かつてMartさんがブログで連載していたリプレイに登場したパーティです。
 今回のリプレイでは、そのリプレイを元にMartさんが作り直した連れ込みのプライベートシナリオのデータを参考にさせて頂いています。
 これらの登場人物及び設定の著作権も、当然Martさんにあります。
  
・Martさんサイト『esotismo.』
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『古城の老兵』

「拙いな…」
 
 ぽつぽつと降り始めた雨。
 
 シグルトは天を見上げ、眉をひそめた。
 
「ここで一雨来る…なんてね。
 
 あと少しでリューンなのに、困ったものだわ」
 
 レベッカも、雨避け用に外套を取り出しながら周囲を調べている。
 
 通行税を節約するためと、近隣の村で小遣い稼ぎをしながら、街道を大きく外れてしまった“風を纏う者”。
 現在一行は、この荒れた丘ばかりの道無き道を進んでいた。
 
 稲光に周囲が白く染まり、大気と大地がびりびりと震える。
 轟音の近さにロマンが思わず目を閉じた。
 
「…近かったの」
 
 スピッキオも真剣な顔で、少し雨を強く降らし始めた空を見上げ、細い目で睨んでいる。
 
 雨は旅において大きな障害となる。
 冷たい雨は体力を奪い、衣服に浸み込んだ水分は荷物となり、べたつく不快感が病んだ感情を引き起こす。
 
 ここからリューン郊外にある『小さき希望亭』へは、8時間ぐらいかかるだろうか。
 “風を纏う者”は皆健脚だが、一番体力の無いロマンのことを考えれば、長旅で疲労した状況も考えると心許無い。
 しかも悪天候ともなれば、移動にはさらに時間がかかるだろう。
 
 雨足は強まり土砂降りの気配だ。
 すでに纏った外套は水を吸い始め、不愉快な重みを増し始めていた。
 
「だめね、この周囲に雨を凌げそうな場所は無いわ。
 
 まあ、この雷じゃあね。
 雨を凌げそうな大木があったとしても危なくて雨宿りなんてできないけどさ…」
 
 とにかく此処じゃ休めないわ、とレベッカが急かす。
 
 皆、憂鬱な気分で歩調を速め、リューンに向けて続いている丘陵を越えて行く。
 
 すでにロマンの吐息は荒く、屈強なスピッキオも顔色が悪い。
 普段陽気なラムーナでさえ無口になり、その唇は冷えと疲労で少し紫がかっていた。
 頬を伝わって口に入った、砂埃交じりの水滴を忌々しそうに吐き捨て、レベッカは唇を噛み締めながら足を速めた。
 
(…せめて、一時でも雨宿りができれば持ち直せるんだが…)
 
 抜かるんだ大地は、シグルトの足を滑らせ、掴もうとする。
 添え木をあてただけの義足同然の足で、それを仲間に気付かせず黙々と歩くシグルト。
 水が浸み込んだ添え木と、それを固定する布が膨張して足を締め付ける。
 足首が軋んで放つ熱を、生温く湿った水分が奪っていくのが感じられた。
 
 とりわけ冷えは、シグルトにとって相性が悪い。
 身体のいたる所にある古傷が一斉に悲鳴を上げ、痺れと熱が毒気のように侵食してくる。
 
 おそらく、常人であれば気が狂うほどの苦痛と不快感を、顔をしかめる程度で耐えながら、シグルトは黙々と足を進めた。
 
「…あれ?」
 
 不意にラムーナが立ち止まった。
 
「…どうした?」
 
 怪訝な顔をしてシグルトも足を止めた。
 
 ラムーナは、雨雲で薄暗くなった先を見つめ、一つ頷いて指差した。
 
「…あっち。
 
 何かあるみたい」
 
 ラムーナが示した方角を、皆注視する。
 調査においてのプロフェッショナル、レベッカがいるせいで鳴りを潜めているが、ラムーナの観察能力は優秀だ。
 見張りをしても、視力の良さと勘の鋭さで、仲間に貢献している。
  
 それは苔生していて景色と闇にひっそりと溶け込んでいたが、大きな建物のようだった。
 
「でかいわね…
 
 城か砦みたいだけど、この辺りには轍も蹄鉄の跡も見当たらないから、人がたくさん住む場所なんて無いはずよ。
 
 最近の田舎領主を含めた諸侯、隠居した貴族や豪商にも、こんな場所に城を持ってる奴がいるなんて聞いた事がないわ。
 交易路からはかなり外れているし、人がいるかは疑問ね」
 
 普段のちゃらんぽらんで怠惰な彼女の素行からは想像もつかないが、レベッカの情報の正確さと豊富な雑学は一行を何度も救ってきた。
 彼女に言わせると、情報と雑学は冒険者の飯の種、だという。
 
 行ってみる?と聞いたレベッカに頷き、シグルトたちは建物へと歩みはじめた。
 
 
 …それは古城であった。
 
 朽ちかけたその城は、あちこちを投石器や破城鎚で壊され、崩れかけた積み木のように物悲しく雨に打たれていた。
 
「…どうやら罠の類はないみたいよ。
 
 まあ、こんな場所に潜んでる盗賊連中がいたら、何か気配があるものだし、ここって住むにはちょっと不便な場所よね」
 
 城の壁に素早く駆け登り、荒地の続く周囲を見下ろしながら、レベッカは無人だろう、と付け加えた。
 
「それなら、ここを借りるとしよう。
 
 屋根があるのは有難いし、濡れてない場所で寝られるなら充分な休憩になる」
 
 シグルトが決定すると、一行は皆ほっとしたような顔になった。
 
 隙間風はありそうだね、と言うロマンの濡れた頭を、レベッカが贅沢言わないの、と小突いた。
 
 枠から崩れ落ちた城門の跡を潜り、ぽっかりと空いた城への入り口から、苔の香りのする城の中へと入って行く。
 雨雲に覆われ、夕刻を過ぎて暗くなっていた空の下で、この朽ちかけた古城の中はまさに暗闇の世界であった。
 
 シグルトは城の入り口近くに刺さっていた松明を外し、苦労して火を着けるとそれをかざして先を進んだ。
 
 雨の日は、湿気た空気までが意地悪である。
 もっと火着きの良い火口箱が必要だな、と呟くシグルトに、ラムーナが節約節約~と即座に言った。
 レベッカが複雑な顔をし、ロマンが忍び笑いをしている。
 さすがに聞き慣れたわい、とスピッキオが追い討ちをかけると、レベッカは「誰のせいよっ!」と目を三角にして城の床を蹴りつけた。
 
 松明の揺れる明かりは、白の石畳をぼんやりと照らしている。
 そしてすぐに、城の通路に転がったもっと白いそれらを浮かび上がらせた。
 
「…酷いな、これは」
 
 それはおびただしい数の人骨と、錆びた武器や甲冑だった。
 戦って死んでいったのだろう、頭頂の砕けたしゃれこうべや身に着けた甲冑ごと貫かれている骨が、物言わぬまま転がっていた。
 
「ふむ、どうやらこの城は戦いの後に放置されたものの様じゃ」
 
 スピッキオは死体を見つける度に、簡単に祈りの言葉を唱え、十字を切る。
 
 どの部屋も骨と瓦礫ばかりで、時折隙間から入り込む雨が、古城を陰気に湿らせているようだ。
 
 やがて一行は、死体の無い休めそうな一部屋を見つけて中に入った。
 
 安心したようにロマンが座り込む。
 レベッカが汗で額に張り付いた髪を払い、壁に寄りかかった。
 普段は元気なラムーナも、大きく溜息を吐いている。
 
「百足には気をつけろよ」
 
 シグルトはレベッカに目配せすると、部屋の壁に備え付けられた専用の金具に松明を掛けた。
 
 幸いこの部屋には暖炉がある。
 火が焚けるのならば、服を乾かし、熱いスープを啜ることもできるだろう。
 
 一行はとりあえず荷物を置き、濡れて重くなった外套を外して廊下で絞り、各々の場所を見つけて座り込んだ。
 
 シグルトが黙々と火にくべられそうな木片や廃材を集めて暖炉の近くに積み上げる。
 
 レベッカはどこからか調達してきた古びた鍋を、溜まった雨水で漱ぎ襤褸布で拭った。
 それに少しの酒を入れ、水を水袋一つ分丸々注ぎ、石を組んでそれを固定し、暖炉に火をつけた。
 アレトゥーザで手に入れたマッケローニ、乾燥したハーブ、少量の干した果物を細かくちぎって側におき、火を入れて湯を沸かす。
 塩を入れ、手際よく用意した具を放り込んでいく。
 即席のスープが完成し、手持ちの形の揃わない食器で回し飲みをしている頃、雨がやんだ。
 
「あれだけの雨だったのに、月の女神様は気まぐれよね」
 
 レベッカは、夜の闇に溶け込むように大きな月が浮かんでいる空を、恨めしそうに眺めた。
 
「準備も終わっているし、夜歩くには道がぬかるんでいるからな。
 
 今夜はここで休もう」
 
 レベッカが素晴らしいタイミングで、先日の仕事の報酬としてもらった葡萄酒を取り出した。
 ロマンはお酒は頭を馬鹿にするといって、1人で水に黒砂糖を溶いたものを啜っている。
 他の者たちは交代で器を回し、酒を飲んだ。
 
 しかし最後に器を受け取って酒を飲もうとしたシグルトは、不意に険しい表情に変わり、レベッカを見る。
 脇には片手で剣を引き寄せていた。
 
 レベッカは頷いて、持っていた器をそっと床に置いた。
 
「どうした?」
 
 スピッキオが聞くと、シグルトは床を剣の鞘の先で指した。
 
「…音がする。
 
 下の階からだと思うが、たぶん人間だ」
 
 そう言って、一番耳の良いレベッカを見る。
 レベッカは静かに首肯した。
 
 一行は油断無く、それぞれの得物を自身の側に置く。
 
 しばらくの間、緊張した時間が続く。
 ロマンが唾を飲み下し、ラムーナも不安げに暖炉の火が届かない闇を見ていた。
 
 何かを引きずる音がし、足音が近づいてくる。
 
 やがて、月明かりを背に、外套を纏い、そのフードを目深に被った人物が現れた。
 
 白いものが多く混じった髭。
 年の頃は60ほどの男のようだ。
 
「明かりが覗いている上に、音がするから何かと思えば…
 
 夜盗の類か?
 こんなオンボロな城に何かようかね?」
 
 かすれた音の混じった、独特の発音。
 
「俺たちは冒険者だ。
 
 俺の名はシグルト。
 こいつらをまとめている。
 
 旅の途中で雨に会い、雨宿りを兼ねてこの城に転がり込んだ。
 夜盗をするなら、もう少しむさ苦しい連中になるはずだがな」
 
 そう言って少し身体の位置をずらし、後ろにいる仲間たちを見せる。
 女2人に子供と老人という取り合わせに、男はなるほど、と頷いた。
 
「ここはあんたの持ち物か?
 
 まさか人が住んでいるとは思わなかったんだが…」
 
 男はふむ、とまた頷いた。
 
「儂はこの城に住んでおる者じゃ。
 名はグロアという。
 
 シグルトといったか…
 最初に名乗るとは、なかなか礼儀をわきまえておるようじゃな。
 
 この城は今は亡き王の物。
 おぬしらが雨宿りをしようとも、野宿をしようとも、儂の委細はいらんよ」
 
 グロアという老人の言葉に、一同は安心したように緊張を解く。
 老人は何を思ったのか、シグルトの腕や下げた剣をしげしげと見つめていた。
 
「…シグルトとやら。
 
 お主は剣を扱うようじゃが、剣術に興味はあるか?」
 
 老人はしばらくシグルトを観察していたが、唐突ににそう尋ねた。
 
「ああ、無くはないな。
 
 そういえば爺さん、随分見事な得物を下げているが…」
 
 シグルトは、老人のローブから出ていた刀の柄を指差した。
 
「…昔少しな。
 
 もしお前が剣術に興味があるなら、後日改めて来るといい。
 古の剣術を教えてやろう。
 この得物に見合う程度には、技を知っておるつもりじゃ。
 
 …無論、ただではないが、な。
 
 ただし昼間はやることがあるので教えられん。
 伝授は夜に、だ。
 その時は、またここに泊まればいい」
 
 一方的に告げると、グロアという老人は部屋を出て行こうとした。
 
「待って。
 
 おじいさん、こんな古城で1人何をしているというの?」
 
 レベッカが聞いた。
 
 グロアは、またしげしげと一同を眺めた。
 そして呟くように、かすれた声で告げる。
 
「墓仕事だ。
 
 この城にある骸を全て埋葬するためのな…」
 
 レベッカは、嘘でしょう?と目を丸くした。
 
「骸って…
 
 この古城に転がってる骨全部?」
 
 朽ちた骸は古く、すでに城の一部のように景色に滲んでいる。
 
「そうじゃ。
 
 それが儂の仕事であり、責務でもある」
 
 そう言ったグロアの背には、途方も無い間重ねてきた、時間を感じさせた。
 
「見たところ、かなり古いもののようだけど。
 
 貴方がこの城の生き残りだとしたら、何年ぐらいその仕事を続けているの?」
 
 レベッカは、老人の持つ雰囲気に気圧されたのか、呻くように聞いた。
 
「…聖北の暦で、今は何年かな?」
 
 何かを思い出そうとしたグロアは、僧服を着たスピッキオに尋ねる。
 スピッキオは、正確な今日の日付を告げた。
 
「ふむ…
 ざっと40年ほどになるな。
 
 まあ、大体はそんなところだろう」
 
 今までの長い時を吐き出すように、グロアは重々しく答えた。
 
「40年?
 長いよね…
 
 でもそれだけの時間があれば、城の中の埋葬が終わっててもいいと思うんだけど」
 
 首をかしげたロマンが言う。
 
「確かに、この城の中だけならばな。
 
 だが、この国の民全てが根絶やしにされたのだ。
 城の骸で足りる数ではない」
 
 グロアの言うような虐殺があったとすれば、それはすごい数の死体である。

「この平原に死体はまんべんなく散っていた。
 
 ゆえに風化の早い場外の者から埋葬していった。
 …10日ほど前にそれらは終わったがな。
 
 だが、この老いぼれた身体。
 今では仕事の邪魔になるばかりよ。
 
 …全ての者を埋葬し終えるまでに、この身体がもてばいいがな」
 
 悲しみも苦しみも遠い過去においたまま、責務を果たすことのみに生きているグロアの、自嘲的なため息とともに漏れるしゃがれ声。
 
「…長話になってしまったな。
 
 すまんの。
 まともな人間と話すのは久方ぶりで、話し込んでしまったようだ」
 
 レベッカはそう言う老人に首を横に振って、教えてくれて有難うと言った。
 
 グロアは、ゆっくり休むとよい、とその厳つい髭面の口元に微笑を浮かべ、何処かへ去っていった。
 
 
「…別に要所って訳ではないけど、これだけの規模の城が誰の手もつけられないで、どうして残っているのかな?」
 
 ロマンは首をかしげていた。
 
「おそらく宗教戦争じゃ。
 
 交易路から外れ、海路への繋ぎにもならぬ。
 
 でこぼこの丘に、岩が露出した地面。
 周囲に森どころか木の一本も無い。
 
 このような土地を攻めるのならば、他宗教の抹殺に他あるまい。
 
 かつて聖北の徒は、教会という機関そのものが下らぬ権力者の戯言に踊らされ、教義を違えた愚か者が人を扇動し、他宗教を潰すことに狂っておった時もある。
 
 殺した後は異端異教の死の尊厳など考えもせず、適当に金目のものを奪い、死体も野ざらしよ。
 攻めて、殺して、取って…それで終わりじゃ。
 
 かつてわしと同じように聖職を与えてもらったものが、そのようなことを起こしたのであれば、情けない限りじゃ」
 
 スピッキオはこの国のように人知れず滅びた国が、かつてたくさんあったこと、そしてここにあったであろう古い古い異教の国の名を、厳かに口にした。
 
「…あのじいさんはその生き残り、か」
 
 シグルトに向かってロマンが首を振った。
 
「違うよ。
 
 普通あんな母音の発音でしゃべる人はこの地方にはいなかったはずだし。
 あれって、あちこちの言葉の発音が混じってなまってる。
 いろんな場所を転々としてきたんじゃないかな?」
 
 そして歴史を思い出し、おそらく傭兵か仕官を求めてきた旅の武芸者だろうと言った。
 
「滅びた国を流れ者1人で弔う、か。
 
 なんとも物悲しい話ね」
 
 レベッカのつぶやきに、ラムーナが、おじいさんかわいそう…と目を伏せた。
 
 一同はそれっきり黙りこみ、見張りを決めて残った飲食物を片つけると、順番に寝ることにしたのだった。

 
 
 SIGさんの店シナリオ『古城の老兵』です。
 
 リターン版でもプレイすることにしていたのですが、最近スキルを追加して再度UPされたようで、新しいスキルにも興味津津です。
 
 SIGさんのシナリオは、ハードボイルドでどれも好きなのですが、特にこのシナリオは大のお気に入りです。
 私の製作した剣術スキルの多くは、このシナリオの影響を非常に強く受けています。
 
 シグルトは後にここで習ったスキルをもとに、独自の剣術を生み出し習得するのですが、彼がその過程で心から師と慕うのがグロアです。
 今後のグロアとの掛け合いも、がんばって書きたいなぁと思います。
 
 『古城の老兵』は、主に剣術を購入できる店シナリオですが、ある種の人間はニヤリとさせるマニアックなスキルがたくさんあります。
 
 時期はアレトゥーザからリューンへの帰り道という描写です。
 
 今回はお金が無いのでフラグを立てて来れるようにしただけですが。
 このシナリオは最初に来るとプロローグのように、グロア老人との邂逅があります。
 
 両刃の直刀以外にも、日本刀や短剣、レイピア用のスキルもあるので、剣士のスキルがほしい方にはお勧めです。
 
 プレイしたなら、SIGさんの濃厚な世界を是非味わってください。
 
 
〈著作情報〉2007年09月06日現在

 『古城の老兵』はSIGさんのシナリオです。現時点でオフィシャルファンサイトのギルドに登録されており、ベクターで配布されています。
 シナリオの著作権は、SIGさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.15です。
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『碧海の都アレトゥーザ』 潮風を背に

アレトゥーザを旅立つ朝。
 
 黎明の清らかな輝きが空を染め、“風を纏う者”を送り出してくれた。
 清々しい潮風が、纏うべき未来の風を暗示しているようだ。
 
 昨日の充実した時間を思い出し、それぞれこの都市に再来を誓いながら歩み出すシグルトたち。
 
 …なぜかその中で、レベッカだけが不機嫌である。
 
 昨日の夜は上機嫌に酒をのみ、昼に知り合いに高級店で奢らせた、今が旬だというムール貝を南の特産品のオリーブオイルでソテーしたものや、熟した果物の甘み…その味を自慢げに語っていたのに、である。
 
「何じゃ、レベッカ。
 
 この爽やかな朝に、何をむくれておる?」
 
 スピッキオが細い目を瞬かせ、怪訝そうに聞く。
 
 レベッカは、ぎぎぎ、と音がしそうなぐらい不穏な首の動きでスピッキオを睨んだ。
 
「…このモウロクジジイが、誰のせいだと思ってるのよ!」
 
 そういうとレベッカは銀貨が入った袋をじゃらりと鳴らした。
 
「勝手に銀貨六百枚も使って…あんたボケたんじゃないの!
 
 今私たちの手元にあるお金って、銀貨二百枚ちょっとよ、に・ひゃ・く・ま・い!!!
 
 こんなじゃ、リューンに着く前に素寒貧よ~」
 
 そういって地団駄を踏むレベッカ。
 
「すかんぴんよ~♪」
 
 ラムーナが、楽しそう~と言ってまねをする。
 顔を引きつらせ、レベッカは肩を落とした。
 
「ああ、もう!
 
 フォーチュン=ベルでのロマンといい、この間の金メッキといい、あんたたちはなんて計画性のない金の使い方をするのよ…
 
 いい?
 私たち冒険者はね、旅でどかすかお金を使うの!
 
 通行税に宿代、食費に旅装費…
 
 なのに、今あるお金はちょっと高い宿に一回泊れるかどうかよ!
 あんたたちが勝手に大金を使っても、皺寄せは皆に来るのよ!
 
 それが、このジジイったら〝新しい秘蹟を伝授してもらったから寄進した〟ですって?
 宿に預けて置いたお金を、何だと思ってるのよっ!
 
 私たちを野垂れ死にさせる気?
 
 私が交渉して苦労して必死に節約してきたお金なのよ、もうっ!」
 
 ものすごい剣幕である。
 
 シグルトは、仕事を探しつつ野宿しながら旅かな、と苦笑している。
 だが、先程さらりとスピッキオに、お金を使うときは仲間に相談すべきだったな、と釘を刺したのはさすがであった。
 
 野宿♪、野宿♪~と陽気にラムーナは踊っている。

「はあ、昔のことを今になって持ち出すなんて。
 ちゃんと僕は買ったものを役立ててるよ。
 
 これだから大人って…」
 
 大げさなロマンのため息が入る。
 
「お前は強欲すぎるんじゃ、レベッカ。
 
 その気になれば人間、その身一つで生きていけるわい。
 金銭なぞ、こだわるからいかんのじゃ。
 
 わしが居った修道院では…」
 
 スピッキオが、修道院名物の清貧を謳い始める。
 そのまま説教を始めそうなスピッキオの様子に、レベッカは眉を吊り上げると声を荒げた。
 
「このジジイ…そういうのは自分だけにしなさいってのっ!
 
 あんたのありがたい神様が、祈れば聖書みたいにマナ(食べ物)でも降らしてくれるわけ?
 お金がなきゃ、仕事をやるのにも食べることにも支障が出るものなのよ。
 あんたの着てる服一つだって、ただじゃできないんだからねっ!
 その金メッキ買った時点で、もう懐がやばくなったって言ったでしょうっ!!
  
 だいたい修道士って、普通修道宣言して階級とかないはずでしょ?
 それなのにちゃっかり司祭様やってるじゃない!
 
 物欲を捨てたのなら、名誉欲も捨てなさいよ!!!」
 
 意外に宗教事情に詳しいレベッカであった。
 
 実際のところ、スピッキオの立場はかなり特殊と言えた。
 元修道士で、スピッキオのような僧職の階級についている在野の司祭は極めてまれなのだ。
 
 本来、修道士は修道宣言をし、俗世間からは離れるものだ。
 
 地位や欲を嫌って修道士として生活する者は、僧侶としての実権や地位を疎む人間が多い。
 それに、司祭は本来一つの教会や、大きな教会の中核を担う役職である。
 旅に出ていること事体、極めて異例なのだ。
 
 修道士出身の司祭も、もちろんいるが、そういう連中はほとんどが「修道院で修行してきた」という何かしらの〈箔〉を付けたいだけの俗物だ。
 
 …実は、スピッキオが僧職についているのにはかなり政治的な理由があった。
 
 この年寄り、かつては修道院でも古株で、前の院長に次ぐほどの人物だったのだ。
 しかし、修道院に新しく入ってきた院長は学僧(神学や学問を重んじる僧侶)タイプの人間で、その修道院を学僧の養成所として改革しようとしていたのである。
 
 そして頭が固いスピッキオを追い出すために、とある司教を通じてスピッキオを階級のある僧職にして、修道院に「いられなく」したのだ。

 スピッキオの属した修道院は、スピッキオを推薦した司教の援助を受けており、しかもその司教はどうしようもなく善人であった。
 スピッキオを追い出そうと画策した新しい院長が、スピッキオの徳を褒め称え、修道院に埋もれさせるには惜しいと話を持ちかけ、その善人の司教は使命感と期待からスピッキオを司祭に推薦したのである。
 自分に期待してくれるその司教の好意を無下にもできず、そのまま用意された教会に収まるはずだったスピッキオであるが、新院長の思惑通りになるのを嫌い、布教巡礼の旅をしたいと申し出て教会を出た。。
 名目上は修行を終え、司祭の任に就いてから、身を清めるために巡礼に旅立ったことになっている。
 
 事実、スピッキオはアレトゥーザから程近い町にある聖海教会に、司祭としての席を持っていた。
 教会にはもう1人やや若い司祭が居り、助祭が2人、他にも侍祭や尼僧が複数在籍する比較的大きな教会だ。
 その気になれば、いつでもその教会を自由にできるだけの権限を、その教会が属する教区の司教から与えられている。
    
 最初はスピッキオも、司祭職を返上しようかとも思っていた。
 しかし、この地位だからこそ救い導ける者もいることを、クレメント司祭に出会って教えられ、今のままなのである。
 それに僧職を辞めて還俗したところで、おそらく自分を追い出した新院長の思惑通りになってしまう。
 頑固で無欲なスピッキオが、還俗して聖職から離れることを期待していたふしがあるのだ。
 
「むう…」
 
 自分でも充分、今の矛盾した立場を理解しているだけに、スピッキオはどう説明したものかと唸ってしまった。
 
 不意に僧院にいたときの癖で自分の頭を撫で、生えた髪の感触にさらに渋い顔になった。
 修道士時代はそのシンボルともいえる剃髪(トンスラ)にしていた頭は、旅の間にすっかり髪が生えてしまっていた。
 
 鬼の首でもとったような顔で、どうよ、というレベッカ。
 
 しかしここでシグルトが間に入る。
 
「レベッカ…この爺さんが名誉欲に染まったただの俗物だと、本当にそう思うのか?」
 
 シグルトの言葉は至極シンプルだった。
 このリーダーは、ごちゃごちゃした前置きは無視して、本題や本質からすっぱり入る人間である。
 
 レベッカも熱くなって、言い過ぎたな、と思ったのか…いつものクールな彼女に戻っていた。
 きっと熱くなれるぐらいはこの連中に親しみを感じてるんだろう、と自己を分析しつつ結局は、しかたないわねぇ、とリーダーを立てるのだった。
 
「さて、行こう。
 
 金がないなら仕事を探しながら、な。
 レベッカ、その手の情報集めは任せたぞ。
 
 その手の匂いを嗅ぎ付けるなら、お前が一番優秀だからな」
 
 苦労性のシグルトは、いつもの苦笑。
 
 私は犬じゃないっての、とすねた顔を見せつつ、レベッカはさっさと歩き出した。
 
 シグルトは一度だけアレトゥーザの門を振り返ると、そこで出会ったたくさんの人々と風景との再会を心から願うのだった…

 
 
 連続で、一気に公開です。
 これでアレトゥーザ編の第一部終了、と言う感じでしょうか。
 
 ちょっと長かったアレトゥーザ編いかがだったでしょうか。
 何か生活描写を必死に書いていた気もしますが、多少の間違いはファンタジーということで、大目に見てください。
 
 今回の金銭云々のお話、アレトゥーザに来たときにレベッカが祈り云々考えていた伏線に繋がっています。
 
 修道院の話は実際のカソリック修道院をモデルにアレンジしたお話ですが、「そんなわけあるか~」と突っ込みたい方は是非真実を教えてくださいね。
 内容変更するかもです。ミーハーなので。
 
 ちなみにアレトゥーザでスピッキオが習得したスキルは【聖別の法】です。
 【魔法の鎧】があればいらないじゃん、という方、カラメルシロップです。
 低レベルの時こそ、このスキルはめちゃくちゃ重宝します。
 このスキルを体力的に薄いPCにかけることで生存率ががくっと変わります。
 特に体力のない回復役が最初につぶれて泣く方は是非使ってみてください。回復役がつぶれないと回復が間に合うようになり、連鎖的に全滅するパターンがかなり減ります。
 戦闘中にも手札に配布されやすいので、敵に奇襲を受けても使うことができます。
 何を隠そう、前に冥王の爺さんの魔法を喰らったとき、瀕死になったもののPCを生き残らせた逸品です。これ使って【防御】して何とか、でしたが。
 
 
 ざっと書きましたが、今回の金銭移動をば。
 
【聖別の法】(-600SP)
 
◇現在の所持金 238SP◇(チ~ン♪)
 
 
〈著作情報〉2007年09月03日現在

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
  
・Martさんサイト『esotismo.』
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/)
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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『碧海の都アレトゥーザ』 更なる邂逅

 シグルトがレナータと話を終え、『蒼の洞窟』を後にしようとしたとき、その女性は息を切らして走ってきた。
 
 普段雑事に囚われないシグルトも、極めて珍しいその女性の髪の色に、思わず目を留めた。
 生粋のエメラルドのように濃い緑色のそれは、独特の光沢を放ち、潮風に乗って舞うようになびいていた。
 そもそも、このような色に染める染料は無いし、その自然な色彩は、その髪が地毛であることを証明している。
 
 人間でこのような髪の者を、シグルトは見たことが無い。
 シグルトの故国シグヴォルフの隣には、妖精や亜人といった人外の類が多数生活する国があるが、その国の木々の精霊には木の葉色の髪の精霊がいると聞いたことはある。
 しかし、精霊の存在を感じることができても、その目で見ることまではできないシグルトにとって、せいぜい噂で聞いた程度のことだった。
  
 端整な顔立ちと、強い意志を感じさせる瞳。
 首に架かった十字架から、聖北か、それに近い教会の信者であることを推察できる。
 
 女性は、シグルトの前で足を止め、一瞬その容貌に目を見開いて見とれたような仕草をしたが、慌てて気を取り直すように数回首を横に振る。
 根が正直な娘なのだろう。
 女性に進路を塞がれてしまったため、シグルトは相手の出方を見ることにした。
 
 少し待つと、女性は乱れた呼吸を落ち着けて、シグルトに詰め寄った。
 
「さっき、ここに住んでるレナータが襲われたって聞いたんだけど、それは本当なのっ?!」
 
 いきなり本題に入り、有無を言わせぬ勢いである。
 シグルトの服をぐっと掴み、その瞳は剣呑な光を放っていた。
 
 その素早い動作に内心驚き、その娘が戦士としての訓練を積んでいることを感じ取りながら、シグルトはゆっくりと頷く。
 そして、娘の手を軽く叩き、まずは手を離すようにと伝える。
 
 自分の行った無礼な行為に気がついたのだろう。
 女性は、肌理の細かい白い肌を真っ赤にして恥じ入ると、慌てて手を離した。
 
「…まったく。
 
 話半分に急に駆け出したかと思えば、近くにいた人の胸倉を掴んで恐喝まがいに事情を聞くなど…
 いつものお前らしくないぞ、エアリス」
 
 泰然とした様子で、女性の後ろから現れたのは、短切り揃えた黒髪の美しい男であった。
 年の頃はシグルトと同じぐらいか。
 腰に下げた両刃剣といい、油断の無い物腰や鋭利な眼光から、この男も戦士であることが分かる。
 
「仲間が失礼をしたな。
 
 俺はシュウと言う。
 こっちはエアリス。
 共に仕事をする冒険者だ。
 
 仲間の無礼を許してくれ」
 
 緩やかな一礼に、シュウと名乗った男が礼法の心得があることを感じ取ったシグルトは、しっかり頷いて応えた。
 
「俺はシグルト。
 貴公らと同じ冒険者だ。
 
 知人の危機に心騒ぐのは仕方あるまい。
 レナータは幸せ者だな。
 
 エアリス殿といったか?
 俺は気にしてはいないから、畏まらなくても結構。
 
 加えるなら、レナータは無事だ。
 大きな怪我も無いし、今はこの洞窟にいて休んでいる。
 
 俺は彼女に害を加えるつもりは無い。
 そちらが聞きつけた騒動で、先ほどレナータと知り合ったばかりだ。
 
 件の騒動を起こした悪漢は少しばかり懲らしめておいたが、あれで懲りる輩とも思えなかった。
 もし、貴公らが彼女の知人ならば、今後気遣ってやってくれ」
 
 そう言うとシグルトは穏やかな笑みを浮かべ、エアリスと呼ばれた娘に向かってもう一度強く頷くと、2人に軽く一礼して去っていった。
 
 
「…はぁ。
 
 相手が大人な人で、よかったぁ」
 
 シグルトが去った後、エアリスは、自身の愚行を許してもらえた安堵と、レナータ無事の方に安堵し、胸を撫で下ろしていた。
 
「お前が話をちゃんと聞かないから、こういうことになるんだぞ、エアリス。
 
 事情は分からなくも無いが、話半分で飛び出すのだからな。
 あの話にはちゃんと続きがあって、男が1人現れてレナータを助けていたんだ。
 すでにことが決着した話を聞いて、その後で駆けつけたところで、到底間に合うものでは無いぞ?
 
 それにしてもあの男…
 おそらく最近噂になってる、“風を纏う者”のシグルトだ。
 レナータを助けたという男は、彼だろう。
 
 俺が元騎士であることも、おそらく見抜いていたな。
 簡易だが、きちんとした礼で返されたのは久しぶりだ。
 北方から来たというが、あの男、騎士か貴族としての経験があるに違いない。
 
 噂には尾ひれがつくものだが…あの隙の無さといい、話の分かる度量といい、噂どおりの好漢のようだ」
 
 シュウの言葉に、「あの人が…」とエアリスも納得したように頷いていた。
 
 シュウたち“碧風と共に歩む者”は、シグルトたち“風を纏う者”と同じく、リューンを拠点として活躍する新進気鋭の冒険者である。
 驚異的な天才揃いとして知られ、またそのパーティ構成が実に独特なことでも有名だ。
 
 珍しい髪のエアリスや、人間ではなくエルフの子供までいる。
 
 同じように異種族がいるパーティとしては、ドワーフがいる“風を駆る者たち”も有名だが、新米では抜きん出て有名なパーティが“風を纏う者”だった。
 なぜ有名かといえば、その仕事振りもそうだが、リーダーのシグルトが話題に事欠かない人物だからだろう。
 
 目の覚めるような美貌に、知略を備えた武勇、加えて公正で誠実な人柄。
 
 総合的な戦士としての資質は、シュウの方が優れているかもしれない。
 実践剣術を数多く習得し、その能力も驚異的なシュウは、人間離れした天才剣士だ。
 加えて騎士としての実戦経験を持つシュウは、戦術観に優れ、新米冒険者とは思えない実力である。
 
 それはエアリスも同じで、秘蹟を起こす力を秘め、同時に気を用いた体術まで使いこなすエアリスは、やはり常人離れした天才だった。
 
 だが、シグルトに会ってみて感じたことは、樹木の年輪のような奥深さだ。
 死線を彷徨い、慟哭で身を裂き、砂を噛む屈辱を知り、そして這い上がってきた者だけが持つ独特の悲壮感。
 多くの悲しみを知り、だからこそ人の不幸を感じてそれを心遣う優しさ。
 そして、話してみて感じた人を惹きつけて止まないカリスマ性。
 その行動の一つ一つに、何かを感じさせる重みがあった。
 
 シュウにも、常人ならば驚愕するような過去がある。
 短く切り揃えた黒髪は、もともと長く後ろで束ねていた。
 彼が過去を受け入れ、迷い無く前に進もうと決めた時に心の整理として切ったものだ。
 そんなシュウだからこそ、シグルトの持つ一種独特の雰囲気の理由がなんとなく分かるのだ。
 そして感じる。
 理不尽に打ちのめされ、慟哭で己を磨いた者のみが持つ底知れぬ強さというものを。
 
「…噂通り強いのだろうな、あの男は。
 あの落ち着きは、技を磨き抜いた戦士だけが持つものだ。
 
 一度剣を合わせてみたいものだが…」
 
 気を取り直して、エアリスはレナータのところに向かっている。
 洞窟の入り口で、1人見張りをするように立ったまま、シュウは1人ぼそりと呟いていた。
 
 
 それは異様な光景だった。
 
 アレトゥーザが誇る『賢者の塔』の図書室の一角。
 そこでは、2人の子供が読書に勤しんでいた。
 
 この光景だけならば、別に異常とは言えないだろう。
 しかし、その2人の子供が読んでいる本と言えば…
 
 片方の銀髪の少年が読んでいるものは、大人でも敬遠しそうな難解な外国語の博物誌である。
 
 一方、図書室の中でも暑苦しい外套を脱がず、フードを目深に被ったもう1人の子供…体格から推察できるのだが…の方は、数百年前の古語で書かれた叙事詩を読んでいた。
 こちらは本ですらなく、古めかしい木簡だった。
 
 どちらに干渉するでもなく、本のページをめくる音と、木簡を広げる乾いた音が鳴る。
 それ以外には、2人の呼吸音と、椅子や机が微かに軋む音がするだけだ。
 
 子供の1人はロマンである。
 昼近い時間帯の図書室は、人の影も少なく、本の管理をする司書以外は、隣で木簡を広げている人物ぐらいしかいない。
 
 読書に干渉されることが嫌いなロマンは、もう1人の客人にも干渉するつもりは毛頭無かった。
 邪魔者や喧騒が無い場所で、ゆっくり未読の本を読むことは、ロマンにとって至福の一時だ。
 
 室内でフードを取らないことはマナーが悪いと言えるが、それ以外には特に問題の無いもう1人の子供については、干渉しないことに決めていた。
 服装以外では、実に理想的な読書をする人物だからである。
 
 ロマンは、常人が読破に数日かかるであろう、分厚い革表紙の本を一時間足らずで読み終え、重そうにその本を司書に返しにいく。
 ふと気配を感じて振り向くと、もう1人の子供も木簡をまとめて司書に返すようだ。
 
 2人が書物を司書に返し、次に読む本を吟味する。
 やがて2人の手が、『南海の精霊』という本に同時に伸びた。
 
 そこでようやく2人は目を合わせることになる。
 相手の外套の合間から見える顔は、どうやら少女のようだ。
 まだ読みたい本は数あるし、読書家として同じ趣味の読書家に先を譲るのはマナーだと思っているロマンは、どうぞという軽い仕草の後に、別の本をすぐに物色し始めた。
 
 
 数時間後、すっかり日が暮れて、図書室の閉館を伝えられた2人は、本を返すと同時に図書室を出た。
 
 歩み去ろうとするロマン。
 
「あの、さっきはありがとう…」
 
 外套姿の子供が不意に声を掛けてきた。
 子供の声ゆえに、性別は分かり難い。
 
「どういたしまして。 
 
 でも一言言わせてもらうけど、図書室でそのフードを被りっぱなしはよくないよ。
 理由が無いなら、今度は脱いでね」
 
 ひねくれ者のロマンらしい返し方であった。
 
 何を思ったか、相手はいそいそと外套のフードを脱ぎ、そのプラチナブロンドを潮風にさらす。
 
「…あっ」
 
 ロマンはなぜその子供が外套を被っていたか理解する。
 人間のそれより尖っていて長い耳。
 
「そうか、君エルフだったんだね?」
 
 エルフ、とは亜人とも妖精とも言われる種族である。
 華奢な体格に、秀麗な容貌、特徴は長く短剣のように鋭く尖った耳だ。
 魔法や不思議な術を使う才能を持ち、特に精霊術を使うのに優れると言われるが、エルフそのものにもたくさんの亜種がある。
 
 人間でない、ということからか、聖北教会などの一部の過激な輩は迫害されたり差別を受けることが多い。
 加えてエルフの多くは、集団意識が強く排他的で、めったに自分の属するコミュニティから出ようとしない。
 そのためか、好奇心の強い変わり者か、理由が無い者以外はめったに人間が目にすることは無い。
 
 だが、冒険者はその例外だ。
 身分出生をあまり問わず、実力が何より評価される冒険者の世界では、エルフを含めた特殊な出生の種族や人間が数多くいる。
 もともと人間には無い力を持つ、エルフや大地の妖精と言われるドワーフ、獣人…獣の特徴を持った亜人種…などが冒険者となることは度々あった。
 
 しかし、ロマンの前にいるのはエルフの〈子供〉である。
 エルフは、寿命が人間の数倍から百倍近いものまでいるが、反面出生率が極めて低いため、子供を極端に大切にする傾向がある。
 多くのエルフのコミュニティでは、成人するまで子供を外に出さず、大切に育てるのが普通だ。
 
 もしその例外があるとしたら、コミュニティから追放されるか、コミュニティが滅びるか、あるいは取替え子ぐらいである。
 取替え子(チェンジリング)は、古い先祖の血筋が隔世遺伝によって現れ、異種族の中にさらなる異種族が現れることである。
 人間と高い確率で混血が可能なエルフは、時折その先祖血筋が現れてエルフやハーフエルフといった者が人間の中から生まれる場合がある。
 一種の先祖帰りなのだが、突然異種族の子供が生まれた場合、悪魔の仕業や妖精の悪戯と嫌って、生まれた子供は迫害されたり、酷い時は捨てられたり殺されてしまう。
 
 ロマンの目の前にいるエルフの子供、人間では10歳ぐらいに見えるが、この年齢でここにいること自体が極めて珍しかった。
 
(…これだけ綺麗な子だと、人攫いに狙われるかもしれないよね)
 
 南方の奴隷商人の中には、エルフのような美しい種族を奴隷として高く扱う輩もいると聞く。
 このエルフの子供は、身を守るために耳を隠していたのだろう。
 
 その愛らしい容貌は、普段シグルトのような美貌を見ていなければ、見ほれたままポカンとする醜態をさらしていただろう。
 
 陽光を連想させるプラチナブロンド。
 澄んだ深い湖が空を映したような、蒼い瞳。
 華奢でほっそりとした、柔らかそうな曲線の頬。
 肌は血管が透けて見えそうなほど白く、雪花石膏(アラバスター)のように滑らかだ。
 
 世には綺麗な存在がたくさんあるのだな、と思いつつ、ロマンは数度瞬きをした。
 
「…正しくはハイエルフだよ」
 
 ロマンの言葉に少しむっとしたような声で返すエルフの子供。
 ハイエルフにとって、下級種とされるエルフと同等に扱うことは、大変な侮辱になることがある。
 
「そうか、ごめんね。
 僕は普通のエルフと、ハイエルフを見分けるほどの知識が無いから。
 
 自身の無学はお詫びするけど、後学のために、伝説で言うところの高貴さや寿命以外で、〈普通の人間が見て分かる〉その違いがあれば教えてくれるかな?」
 
 これは意地悪な返し方だった。
 
 エルフとハイエルフでは、特別な外見上の違いが無いことはロマンも分かっている。
 ハイエルフとは、エルフの祖とも言える古代種、あるいは純粋な妖精として、人間の世界に定着する前の力を持った者たちなのだともされるが、多数あるエルフの亜種と同様、その境界線は曖昧だ。
 ロマンの知るエルフには、背に洞(うろ)を持つエルフや、猿のようなエルフの亜種もある。
 
 そも、エルフという呼び方は、北方の妖精をあらわす言葉〈アールヴ〉から発祥したものである、という説が有力だ。
 光妖精(リョースアールヴ)と闇妖精(デックアールヴ)は、、現在の光エルフと闇エルフを示すとも言われている。
 
 エルフの上位種とされるハイエルフだが、ロマンにとっては、分類学的に妖精系の亜人の一つに過ぎないのだ。
 
 ロマンの意図に気がついたのか、ハイエルフを名乗った子供は少しむくれたように頬を膨らめた。
 
「君って意地悪なんだね。
 
 さっきはあんなに紳士的だったのに…」
 
 自称ハイエルフの子供は、拗ねたように下を向いて呟く。
 ロマンは肩をすくめた。
 
「150年くらい前に博物誌を書いた賢人、イエハトがこう言ってる。
 
 〝誇る称号があっても、称号を明かさぬうちに礼を求める者は愚かである〟って。
 
 まして、人間の僕にとっては、エルフでもハイエルフでも、普段は何の意味も持たないからね。
 君の種族としての特徴を、賛美の意味でも侮辱の意味でも、特別視する気は無いよ。
 
 僕は賢者だから、何事も客観的に観察評価することが至上命題なんだ」
 
 この言葉は、ロマンなりの礼儀でもある。
 ロマンは、「種族的な差別はしない」とも言っているからだ。
 
 自称ハイエルフの子供は、ロマンの示した言葉の、もう一つの意味に気がついたのだろう。
 機嫌を直したように、胸を張った。
 
「ボクはルアム。
 ハイエルフの末裔で魔術師だよ。
 
 さっきは、先に本を読ませてくれてありがとう。
 
 それと、ボクのさっきの言葉は確かに理不尽だったよね。
 ごめんなさい。
 
 ボクはハイエルフの一つ、銀エルフの末裔だから、そのことは誇りなんだ。
 許してくれるかな?」
 
 ルアムと名乗った子供は、優雅に頭を下げた。
 
「君の態度は知者として正しいね。
 過ちを認め正す謙虚さは、賢人の美徳だよ。
 
 僕はロマン。
 冒険者であり、魔術師で賢者。
 
 イグナトゥス派の末裔、アレグリウス導師の弟子で、リューンの大学で知識を学んだ者さ。
 
 ハイエルフの魔術師、ルアム殿。
 さっき、本を譲ったのは、賢人としての礼に過ぎないよ。
 願わくば、君が同じような状況で、知識を求める者に道を譲るきっかけになりますように。
 
 共に知識を求めるものとして、お願いするよ」
 
 そう言ってロマンは、金褐色の目を細め、軽く会釈する。
 
「〈黄昏の金目(たそがれのきんもく)〉…」
 
 不意に、ルアムの瞳が淡い金色に変わった。
 何かに憑かれたように、ぼんやりとする。
 
「あはは、単に金色かかってるだけだよ。
 
 僕の属する魔術師協会で祖とされる大魔術師イグナトゥス。
 彼が狡猾な魔神から奪ったという、知識のみで事象を分析して、自身の属する文明の黄昏を予知した慧眼。
 すべての知識を、無限の記憶の箱に収める入り口とされる、認識のレンズ。
 
 そんな怖いもの、僕が持ってるわけないよ。
 僕はごく普通の人間で、イグナトゥスみたいに魔神から力を奪うなんて芸当はできないからね。
 
 金目には、常ならぬ魔力があるって聞いたことはあるけどさ」
 
 逆光で、ロマンにはルアムの瞳の変化が分からなかった。
 
「さてと。
 
 何だか西日が眩しいね。
 もうすぐ日が沈むし、僕は帰らなきゃ…」
 
 ロマンは、ルアムに軽く手を振って別れを告げ、去って行った。
 
「…あっ…」
 
 ルアムはその少し後に、眠りから覚めたように眼を見開いた。
 
「…〈黄昏の金目〉は時を経て、相応しき者に継承される。
 真の知識に目覚めたとき、叡智は自ずと事象の黄昏を照らし、黄金の輝きを宿す。
 
 彼は、イグナトゥスの…」
 
 ルアムは、昔読んだ大魔術師の弟子が書いたという、書物の一説を思い出していた。
 その書によると、大魔術師はその生み出した魔術と予見の力を恐れられて殺されたとされる。
 しかし、大魔術師は己の黄昏も既に知っており、後継者である弟子に様々なことを書き残していた。
 
 そして、大魔術師が死ぬと、その両目の部分には洞のように何も無く、魔神の嘲笑が聞こえたという。
 だが、大魔術師の口元は満足げに微笑んでいたそうである。
 大魔術師は、魂移転の法や輪廻転生の秘密すら知っていたと言われる。
 
「…〝無知なる者には、知る喜びがある〟…」
 
 その大魔術師が、死に際に呟いたという言葉を思い返し、ルアムは不安そうに自身の肩を抱いた。
 
 ルアムの瞳が金色に変わり、今のような状態になるのは〈時詠み〉という未来予知の力が発揮する時だ。
 普段この力は眠っていて現れないが、極限状態や特別な意味を持つ出会いや状況でまれに発動し、ルアムに真実を見せる。
 
「…きっと、また会うって事なんだよね…」
 
 ルアムは、ロマンとの出会いが特別であることを感じ、小さく身震いをした。

 
 
 龍使いさんとのクロスリプレイです。
 登場したキャラクターは、うちのブログのリンクにある、『集いし者達の空間』で、龍使いさんが執筆されているリプレイの主役たち“碧海と歩む者”です。
 うちのリプレイの主力“風を纏う者”と同じく、特殊型ばかりの天才パーティです。
 龍使いさんが、これからどんな彼らを描くのか楽しみです。 
 
 かつてMartさんとのクロスリプレイでも盛り上がりましたが、クロスオーバーによるリプレイには、独特の楽しさがあります。
 ぜひ、現在リプレイを書かれている方にもお勧めしたいですね。
 
 ちなみに、私のリプレイとクロスオーバーしてくださる場合、お礼と言っては何ですが、お望みなら何かPC専用のオリジナルスキルをデザインして差し上げたいなぁと思っています。可能な限りですが。
 風屋で、そのPCをちょっとした英雄に格上げして、その人物が使っていたスキルとして出したいなぁ、という野望もあったり。
 
 今回、何気に風屋の新付帯能力が一個出てます。
 ロマンの設定もちょっぴり開放です。
 
 今回登場のエアリスは、レナータと知り合い、という設定を頂きましたので、そのように書いています。
 レナータと、舞台となっているシナリオ『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんに著作権がありますので、この記事の最後の著作権情報を参考になさってください。
 レナータ嬢、人気ありますよね。
 
 
〈著作情報〉2007年09月03日現在

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でMartさんのサイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
 
・Martさんサイト『esotismo.』
 アドレス(http://sky.geocities.jp/mart_windowl/) 
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
 
 今回のクロスオーバーは龍使いさんのブログ『集いし者達の空間』で連載中の、CWリプレイのパーティ“碧風と共に歩む者”とのクロスです。
 リプレイ及びオリジナルの登場人物における著作権は、龍使いさんにあります。
 
・龍使いさんのブログ『集いし者達の空間』
 アドレス(http://dragontamer.blog72.fc2.com/)
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