Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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二周年記念は曲刀で…

 来る5月31日はうちのブログの二周年記念日です。
 
 当日にはとても間に合いませんが、記念シナリオを制作中です。

 シグルトのお店の品同様に、カウンターシステム対応のスキルになります。 
 1周年と同じタイプの店シナリオで、スキルのネタはシミター(獅尾刀)とタルワール(月氏刀)です。
 少し完成には時間が掛かると思いますが、興味のある方は気長にお待ち下さい。
 
 他のスキル制作もしなければならないのですが、とりあえずは記念品を作成し終えます。
 よろしくお願いします。
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まもなく2周年

 この間の5月16日に33歳になった管理人のY2つです。
 
 5月は、このブログにとっても誕生月。 
 来る5月31日、うちのブログも2周年を迎えます。
 
 何か記念品を作れるかなぁ、と考えましたが、時間的に難しい気も…
 
 記念日のその日に…とは行かないと思いますが、何か考えておきます。
 
 いつも読んでくださって、感謝!
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『希望の都フォーチュン=ベル』 オーガ討伐 

 〈希望の都〉と称される、『フォーチュン=ベル』。
 偉大な英雄たちを多数輩出した冒険者の都である。
 
 四方を美しい自然に囲まれたこの都市は、その風景同様に美しい女王が治めるという都市国家だ。
 
 その街道を賑やかに進む冒険者たちがあった。
 “風を纏う者”である。
 
 一行は、先日立ち寄った『魔剣工房ヘフェスト』の話題で盛り上がっていた。
 
 シグルトが工房の主であるブレッゼンの作業が終わるのを待っていた間に日が暮れてしまい、一行はブレッゼンの家に一泊させてもらったのだ。


 …それは、遡って前日のことである。
 
 ブレッゼンが作った剣をシグルトが譲り受けたと知ると、サンディは「やっぱり」と微笑んでいた。
 
 そして、剣の料金について話そうとした時である。

「金よりもまずは酒だ。
 一日槌を振るったら、喉が渇いた。
 
 今日は、新しく頼んでおいた酒が来る日じゃろう?」
 
 そう言ってブレッゼンが酒を求めると、サンディが困った顔になった。
 
「それが…いつも配達してくれる酒屋さんが、ぎっくり腰でね。
 頼んでおいたお酒が届いてないのよ。
 
 倉庫から秘蔵のお酒でも出してくる?」
 
 途端に凄まじい形相になったブレッゼンは、テーブルを金槌のような拳で叩いて怒鳴った。

「あの馬鹿もんがっ!
 
 ええいっ!
 今から行って、そのへたれた腰を鍛え直してやるっ!!!」
 
 地団駄を踏む匠は、まるで子供のようだ。
 ロマンやラムーナなどは、ぽかんとしている。

「この人、三度の食事よりお酒が好きなの。
 
 今日は遠方の珍しい地酒が飲めるはずだったから、上機嫌で仕事を始めたんだけど…」
 
 今にも飛び出しそうなブレッゼンを押し止めつつ、サンディが事情を説明してくれた。
 
 しばらく悔しがるブレッゼンを見ていたレベッカは、何かを思いついたように、にやりと笑って荷物袋から酒瓶を取り出した。
 それを見たブレッゼンが、ぴたりとその動きを止める。

「も、もしやそれは…やはり【フォレスアス】かっ!!!」
 
 ブレッゼンの興奮は、尋常ではなかった。
 酒屋を鍛え直すと息巻いていた時より、鼻息が荒い。
 
「ふふふ…お酒好きなら、この酒に動かないわけないわよねぇ。
 
 ポートリオンなら、銀貨二千枚の価値が付くこのお酒、シグルトの武器代とお近づきの印ってことで…」
 
 レベッカがそう持ちかけた途端、ブレッゼンは目にも止まらぬ速さでその酒瓶をかっさらった。
 
「乗ったっ!!!!!
 
 …ええいっ、お近づきと言わず泊まっていけぃっ! 
 この粋な計らいに応えずば、酒好きの名が廃るわっ!!!」
 
 即答して、急に上機嫌になったブレッゼンは、もう待てぬとばかりに手に入れた酒をやり始めた。
 
 その後、サンディが振る舞った御馳走を食べながら、“風を纏う者”一行は大いにブレッゼンと親交を深めたのだった。
 特に自身も酒好きかつ大酒豪のレベッカは、すっかりブレッゼンのお気に入りになっていた。
 
 十年来の友のように酒について話すレベッカとブレッゼンに呆れながら、一行はサンディから様々な武具を見せて貰うことが出来た。 
 ロマンがブレッゼンの作った武具や魔法の道具がいかに貴重か興奮して話し出す。
 後はラムーナが踊り出し、サンディが手拍子をして、その勢いで夜が明けてしまった。
 
 結局サンディの作ってくれた朝食まで御馳走になった一行は、昼近くになってようやく重い腰を上げたのだ。
 
「…また酒を持ってこい。
 
 それが美味いなら、泊めてやるぞ」
 
 灰色の髭を撫でながらニヤリと笑い、ブレッゼンが表まで送ってくれた。
 シグルトは新しい愛剣を軽く叩くと、ああ、と呟いて工房から出発したのだった。
 
 
「ねっ、私の勘は当たったでしょう?」
 
 レベッカは、工房を訪れる前にシグルトがブレッゼンに気に入られるだろうことを予測していた。
 
「気に入られたのはお前の方だろう?
 
 飲むペースが速すぎて、サンディさんが随分心配していたぞ?」
 
 苦笑して応えるシグルトに、レベッカは冗談めかして舌を出した。
 
「ま、酒好きはみんな友って奴ね。
 
 サンディさんの話だと、あんなに嬉しそうな顔をする爺さんは最近見たこと無かったそうよ。
 
 それにシグルトだって、お酒を飲んでるときも無言で2人並んでて、まるで親子みたいだったわ」
 
 しかも出発のときは目で会話してるし、とレベッカがからかう。
 
「…そうだな。
 
 また来よう、こいつのためにも」
 
 シグルトは、武骨な腰の剣の柄を撫でた。
 
「でも、今はどう見ても鋳物や骨董品と大して変わらない鉄の塊に見えるわ。
 
 それがあの【フォレスアス】との交換なら、普通じゃ怒るわよ。
 …あのすごい武具を事前に見てなかったらね」
 
 レベッカの意見に同意するように、ロマンもサンディに武具を見せてもらっていた時のことを話し出した。
 
 ある意味、一番驚いていたのはこの少年である。 
 
 
「す、すごい!
 
 この鎧、真なる銀だよ!!」
 
 その秀麗な細工の鎧を見て、ロマンが興奮したように溜息を吐いた。
 
 銀には攻撃的な魔法を遮り、実体の無い存在にその光を及ばせ、影響する力を持つ。
 鏡に映らない吸血鬼も銀製の鏡に映り、幽霊や精霊のような存在も銀の武器で倒すことが可能なのだ。
 しかし、銀は鉄の2倍近い重さがあり柔らかい。
 銀の有用性は知られていたが、高価なことに加え加工の難しさに使い勝手の悪さから、それほど銀の武具は普及していなかった。
 
 だが、銀の効果をそのままに軽く頑丈になったものが真なる銀である。
 
 ミスリルという特別な鉱物がある。
 魔法の金属として、オリハルコンと並んで称される高価な物質だ。
 
 本来魔法の金属ミスリルは、銀貨一枚分の量で銀貨千枚に匹敵する価値になる。
 ミスリルは希少金属なのでめったに手に入らず、それのみで出来た鎖帷子は龍の鱗よりも固く羽根のように軽い…それ一つで国が買える程だ。
 
 だが生成が難しいものの、ミスリルと銀で合金を作ると、堅牢な固さと鉄よりやや軽い魔法の金属になる。
 これがミスリル銀、あるいは真なる銀と呼ばれるものだ。
 
 含有するミスリルの量によって効果が違うが、銀に対して1%を切る割合でもかなり優秀な金属となる。
 極めてまれだがミスリルを含んだ銀の鉱石が発見されることもあり、これは加工すると真なる銀になるので、真なる銀そのものをミスリルと呼ぶ場合もある。
 ミスリルはそれほど世に出回らない幻の金属なのだ。
 
 基部になる銀そのものの価値、ミスリル含有の希少性、合成して真なる銀を作り出す手間、それを鎧に加工する技巧。
 
 ロマンが驚いた軽量の金属鎧を、こともなげにサンディは銀貨三千枚でよいと言った。
 それが市場に出たらとしたら、どれほど天井知らずな価格になるだろうか…
 
「いいのよ~
 
 あの人と私が食べていく蓄えはあるし、私たちが損をしない程度にお金を貰えればそれで充分。
 
 ただ、これらの武具は市場に出さないでほしいの。
 もし必要なくなったら、うちで半額出して買い取るわ。
 
 この“子”たちは、あの人の作った子供のようなものだから。
 貴方たちを見込んでのことよ…お願いね」
 
 サンディは愛おしそうに、並べられた武具を眺めて、そう言った。
 
 一行は皆頷き、引き続いて武具を見せて貰う。
 
 やがて、ある道具を見てロマンの動きが固まった。
 
「う、嘘…!
 
 これ、アスクレピオスの知恵の杖じゃないかっ!!」
 
 アスクレピオス…人のために医学を発展させた異国の賢人である。
 後に人間を死から蘇生させた咎で、主神の放った雷に打たれて死んだが、天に昇って医学の神になったという。
 
「うちにある武具は、伝説ほどの力は出さないんだけどね。
 
 前に夫が忠実に魔法の武具を再現したら、あまりに凄まじい効果で、その威力を狙う人たちが現れて、戦争が起きそうになったことがあったのよ。
 
 それ以来、あの人は作る武具の理不尽すぎる力は眠らせて、売る相手も選ぶようになったわ。
 人の手に余る武具は、持つ人の運命を歪め不幸を呼んじゃうから。
 
 でも、人に扱える状態にしただけでもその効果は凄いの。
 
 その杖も、人を生き返らせることは無理だけど、魔術師の知恵が込められていてたくさんの魔術を使うことが出来るらしいわ」
 
 ロマンはサンディの言葉にいちいち頷いて、その杖をしっかりと手に取った。
 
「…カドゥケウス。
 
 原典は魔術師の頂点を象徴する、ヘルメスの双頭の蛇の杖。
 ヘルメスの杖ケリュケイオンとも、医学と蘇生の象徴であるアスクレピオスの一蛇(いちだ)の杖とも、本来は別のものなんだけど形が似てるから同一に見られることもあるね。
 
 アスクレピオスはヘルメスの知恵を模すために、同じような一蛇(いちだ)の杖を持っていたと異説が残ってるほどだよ。
 
 だから、あらゆる魔法を封じ、両方の杖の由来を模して生み出され、ヘルメスの杖の別名カドゥケウスの名をあえて冠して、大魔術師が傍らにおいたのがこれ。
 
 この翼の形をした杖の先は、知識への飽くなき探究心と飛躍を表してる。
  
 アスクレピオスの【知恵の杖】とも呼ばれた伝説の杖だよ。
 人であったアスクレピオスが知識の研鑽の果てに神になった、その業績と知識を讃えてつけられた異名だね。
 
 いろんな魔法の力を魔術書の助けなく、魔術師の付帯領域…自身の深遠にある魔術回路の要所に喚起することができる。
 
 まさに偉大なる知恵と技術の証。
 この歳で見ることが、触れることが出来るなんて、僕は、僕は…!」
 
 拳を握り締め、ロマンは感涙していた。
 
 横で他の者たちは、そうすごいんだね、と意味も分からずなんとなく相槌を打っておいた。
 
 
「あの時のロマンは目が怪しかったわよ。
 
 あの杖は高くて買えなかったけど、まだロマンには早いってことよね~」
 
 レベッカにからかわれてロマンがむっとしている。
 
「あの杖がどれほど貴重か分かってないから、そんなことが言えるんだ…
 
 あれだけで複数の魔法が使えるんだよっ!
 それに杖に込められた太古の魔術の知恵…すごいんだよ、あれはっ!!」
 
 むきになったロマンはむせてしまい、ラムーナに背中をさすって貰う。
 
「求め続ければ、いつかお前の手に来る。
 それが優れた道具というものだ。
 
 あの杖が、お前が持つべき杖になるといいな」
 
 シグルトはそう言ってロマンの肩を軽く叩いた。
 
「薀蓄はそのあたりにしておけぃ。
 
 もう、街が見えてきたわい」
 
 傾きかけた日差しの下、希望の都は赤く染まりつつあった。
 
 
 フォーチュン=ベルにある冒険者の宿『幸福の鐘亭』で一晩過ごした“風を纏う者”は、次の日に日用品の買い出しをすることになった。
 交易所でいつもの商才を振るったレベッカは、今までの冒険で手に入れた物品を売却して、いくつか道具を仕入れていた。
 
「ふふふ、奮発して魔法の指輪も一個買っておいたわ。
 これで魔法の扉とかも開けられるし、失われた特別な言葉なんかも分かるようになる…
 私の手先と合わせれば、敵無しよっ!
 
 【ランタン】に【鏡】、あとは新品の【火口箱】…うん、準備万端ねっ!」
 
 資金に余裕が出来たからと、レベッカは今まで間に合わせだった道具を新調していた。
 特に今回は、【アラジンの指輪】と呼ばれる魔法の指輪の購入をしている。

「その指輪は割と沢山出回ってるけど、持っていれば僕らみたいな職業では凄く重宝するはずだよ。
 
 【魔力感知】や【解読】の魔術は、魔術回路を大きく占有するから、僕は装備する気はなかったんだけど…
 この指輪があれば、ある程度はその穴を埋められるんだ」
 
 この手の道具に詳しいロマンが、即座に蘊蓄を披露し始める。
 
 その横でレベッカの持つ道具を見ながら、シグルトは首を傾げた。
 
「ロープは買わなくて良かったのか?
 
 この際、購入しておけば…」
 
 レベッカはチッチ、と指を振ってその意見を遮ると、道具袋を指差した。
 
「ただでさえいろんな道具が溜まってるんだから、荷物を増やし過ぎるのは良くないわ。
 ロープの類は意外とかさばるし、どこにでも売ってるから、現地調達がベストね。
 それにロープは、古くなるとすぐ切れるのよ。
 
 持てる範囲で、よく使うものを揃えればいいの。

 今回買った【ランタン】や【火口箱】は野営で頻繁に使うし、【鏡】は髪の手入れから合図の道具になるわ。
 魔法の指輪は、現地調達が難しい上に嵩張らないでしょ?
 
 荷物袋は、いつも整頓しておかなくちゃね」
 
 レベッカは道具の管理に余念が無い。
 無駄な物は即売りさばき、あるいは別の物に交換してしまう。
 
 結果として、“風を纏う者”の荷物が最小限で済んでいるのも事実である。
 
 金銭に関しても、大量の銀貨を持ち歩くことは無かった。
 
 “風を纏う者”の全財産は、銀貨六千枚を超えるほど貯蓄されていた。
 だが金持ちに見えると厄介を招くからと、レベッカは銀貨で千枚程度を小分けにして所持し、多くはすぐ都市部で換金可能な金貨に換えてある。
 
 “風を纏う者”の成功は、レベッカの内助の功も大きいのだ。
 
「…今回ちょっと買った物が多かったから、手持ちの銀貨が少なくなって来たわ。
 まぁ、手持ちの金貨を両替すれば、使う分ぐらいはすぐ用意出来るんだけど。
 
 せっかく大きな都市に来てるんだし、少し仕事を探しておきましょうよ」
 
 がめついのう、とスピッキオが呆れる。
 
「新しい剣が手に入ったから、俺の方は問題無い」
 
 そう言ったシグルトに応えるように、柔らかな風が吹いた。
 
(「私もいるんだからっ!」)
 
 オーク退治の時妖精の力を得たシグルトは、精霊の言葉を聞くことが出来るようになった。
 今でもその姿を見ることは出来ないのだが、風の精霊〈トリアムール〉と意思の疎通が以前より容易に行える。

「それじゃ、『幸福の鐘亭』で、張り紙を探そっ!」
 
 ラムーナが、早く仕事を取らなきゃと、早速駆け出していた。
 
 
「…また討伐なんてね。
 
 しかもオーガ退治なんて、随分危ない仕事だよ」
 
 数時間後、フォーチュン=ベル近郊の林道を歩きながら、ロマンがぼやいていた。
 
「仕方あるまい。
 食人鬼とも呼ばれるオーガは危険な上、放っておくと被害が大きいからの。
 
 これも人助けじゃよ」
 
 スピッキオの言葉に、忌々しそうな様子でレベッカが髪を払った。
 
「オーガの討伐で銀貨五百枚って、受ける奴がいないわけよ。
 
 普通は1匹の討伐で、最低線が銀貨六百枚。
 話では3匹以上いるってんだから、相場は銀貨千枚の仕事になるわ。
 
 その半額なんて…」
 
 オーガは、大変危険な巨人系の怪物である。
 性質は好戦的で怪力。
 好んで人肉を喰らうため、1匹出現すれば村一つを壊滅させることさえあった。
 
 オーガとの戦闘で死亡する冒険者は年間数人出るほどで、その討伐は冒険者の仕事の中でも難易度が非常に高いとされている。
 反面、オーガの討伐を成し遂げたパーティは、討伐のプロフェッショナルとして高い名声も得るという。
 
「とにかく、依頼を受けた以上は最善を尽くす他無い。
 
 正面からぶつからずに、出来るだけ絡め手で行こう」
 
 シグルトの提案に、一同が頷いた。
 
 
 “風を纏う者”の一行がオーガと対するためにまず行ったのは、念入りな周囲の調査だった。
 調べた地形を参考に、様々な罠を張り巡らしていく。
 
 敵の巣穴から少し上にある丘では、大岩を準備してラムーナが待機することになった。
 
 レベッカが巣穴の近くに蔓で、敵の転倒を狙った罠を張る。
 加えて、倒れた先を予測して尖らした木の枝を何本も隠しておく。

「後は、この辺りにちょっと細工をして…」
 
 少し森を戻った所にある茂みにも、罠を仕掛けるレベッカ。
 
「…よし。
 
 後はオーガを燻り出して、煙に紛れながら罠に誘導するぞ」
 
 シグルトが〈トリアムール〉に呼び掛けて風を纏い、スピッキオは秘蹟による加護を仲間たちに与えていく。
 
 皆の準備が出来たところで、レベッカが火打ち石を取り出すと、オーガの巣穴の前に積まれた生木に火を着けた。
 
 その少し後ろで、ロマンは緊張に眉根を寄せている。
 シグルトが、ロマンの細い肩に軽く手を置いた。
 励ますように、置いた手に力を加える。 
 
「…ロマン、お前は魔術に集中しろ。
 
 少しだか、お前の姿を隠しておく」
 
 その時、ぼんやりとシグルトの手が輝き出した。
 
「《“環を為す隠者”よ、神隠せ。
 
  集う妖しの輪環は、常若の扉にして見えざる処。
  縛られぬ惑いの門。
 
  輝く連なり、姿を隠す…》」
 
 シグルトが朗々と詠うように言葉にすると、ロマンの前を輝く蝶と蜉蝣の翅のような物が沢山横切った。
 そして、翅は連なりとなり、終いには光の環となってロマンを包み込んだ。
 ロマンの姿が少しだけ風景に溶け込み、ぼんやりとその姿が霞んでいく。

 『山の洞窟』でシグルトが得た、妖精の加護である。

「…〈妖精の環(フェアリー・リング)〉の術だ。
 
 これで見つかり難くなる」
 
 数ある妖精伝説の中に、〈神隠しの環〉と呼ばれるものがある。
 妖精たちが集い環を作ると、環の中は異界へと続く扉になるという。
 
 シグルトが用いたのは、小さな〈神隠しの環〉を作り出す精霊術だ。
 環を構成する妖精は、縛られた者を解き放つことが出来る。
 
「しっ!!!
 
 こっちの準備は出来たわよ」
 
 レベッカが仲間たちに注意を促す。
 もうもうときな臭い煙を上げて、積み上げた生木が燃え始めていた。


 数分後、巣穴の中から身の毛もよだつような唸り声が聞こえ、地響きのような音が近づいてくる。

「来たぞっ!
 
 まずは、ラムーナの下まで引きつけるんだ」
 
 巣穴から飛び出したオーガは3匹。
 その赤銅色の胴体は、岩のような筋肉で覆われている。
 
「拙いわ…
 
 こいつら、長生きした連中よっ!」
 
 食人鬼の中には長い年月を生きて、その力や体力を増した上位種が存在する。
 普通は単独で活動するが、これらの上位種は数匹が共同で生活し、連携して戦うのだ。
 
「焦るなっ!!!
 
 まずは動くんだっ!」
 
 シグルトは剣を鞘払うと、食人鬼の前に躍り出る。
 挑発するように、背を低くして素早く一歩下がった。
 
 多くの知能の低い肉食の生物は、体格の小さい者が逃げようとすると反射的に追ってしまう習性がある。
 特に気が立っていたり驚いている時は、ちょこまかと目の前で動かれると逆上するのだ。
 
 熊などに出遭った時はこれらの挑発と全く逆の、相手を睨み付けてゆっくり油断無く下がるやり方が、正しい対処法である。
 
 シグルトの挑発にまんまとのせられたオーガたちは、競うように向かって来た。
 
「…掛かった!!!」
 
 1匹が張り巡らせてあった蔓に引っかかり、派手に転倒する。
 さらに仕込んであった鋭い木の枝が、その食人鬼に幾重にも突き刺さった。
 
 仲間が傷を負っ他のを見て、たたらを踏む後続の食人鬼たち。
 
「ヤャァァァァァァッッッ!!!!!」
 
 そこに絶妙のタイミングで、ラムーナが仕掛けておいた大岩を落とす。
 弾んで勢いの付いたそれは、狙い過たず1匹のオーガを木立の方へ吹き飛ばした。
 
「…グゥァァァァァァアアアアアッ!!!!」
  
 直撃した大岩は1匹の腰骨を粉砕し、食人鬼はそのまま巨木と岩に挟まれて動かなくなった。
 
 残った2匹の前を、ラムーナが一気に駆け抜けた。
 転倒していた食人鬼が立ち上がり、無傷のもう1匹とともにラムーナを捕まえようと腕を伸ばしてくる。

「こっちよ、ラムーナっ!!!」
 
 レベッカの指示に従って、最も素早いラムーナは跳ねるように疾走する。
 食人鬼の丸太のような腕は、残らず空を切った。
 
 怒り狂って、その2匹は咆哮する。
 
 ズズゥゥゥンンッ
 
 その罠もまた絶妙に決まっていた。
 レベッカが茂みに隠して作っておいた、針金入りの足取り(スネア)である。
 
 転倒して身動きが取れなくなる食人鬼たち。
 
「…ォォォォオオオオ!!!!!!」
 
 そこに雄叫びを上げて、シグルトは斬り込んでいった。
 〈トリアムール〉の巻き上げる土埃が、白く舞い上がる。
 
 渾身の一太刀が、オーガの太い腕を斬り落とす。
 だが、名匠の打った剣はびくともしない。
 
(…行けるっ!!!)
 
 返す刀で、その食人鬼の喉笛を斬り裂く。

「あと1匹だっ!!」
 
 その言葉に合わせてラムーナが跳んだ。
 溜め込んでいた力を解放し、最後の敵を蹴り上げる。

 オーガの人間の頭蓋骨すら噛み砕くという下顎。
 それを支える骨が、鈍く砕ける確かな手応え。
 
 反撃しようとオーガが振り上げた力任せの拳を、防御に専念したレベッカが囮となって引きつけ、素早く躱す。

「《…穿てっ!!!》」
 
 立て続けにロマンの【魔法の矢】が炸裂する。
 
 敵がふらついたためか、“風を纏う者”が用意していた後続の攻撃が悉く外れてしまった。
 
「《…眠れっ!!!!》」
 
 逃がさぬとばかりに、ロマンが【眠りの雲】で敵を動けなくしていた。
 
「もう少しだっ!」

 シグルトの掛け声で、仲間たちが一斉に攻撃を仕掛ける。
 突き立った刃と魔術の矢でどす黒い血が飛沫き、傷みに覚醒した食人鬼は最後の足掻きと、腕を振り回した。
 
 当てずっぽうの一撃がレベッカの脇腹をかすめ、後退させた。
 シグルトは仲間たちを庇いながら、向かってくる図太い腕を剣で貫き隙を作り出す。
 
「―…タァァァァッッッ!!!!!!」
 
 そこにラムーナが【連捷の蜂】で猛攻撃を仕掛けた。
 強いバネの利いた攻撃が繰り返しヒットし、オーガの目の焦点がおぼつかなくなる。
 
 くるり、と旋回したラムーナは、動けなくなった食人鬼の心臓を刺し貫いていた。


「…ったく、何てタフな奴なのよっ!!!」
 
 かすめた攻撃で脇腹に痣が出来ていたレベッカは、スピッキオの秘蹟で傷を治して貰いつつ、悪態をついていた。
 
「これだけの化け物相手に痣で済んだのじゃから、ましと思えぃ。
 
 加護の秘蹟無くば、肋が砕けておったぞ」
 
 前もってスピッキオがかけていた防御の秘蹟は、レベッカを守ってくれた。
 そうでなければ食人鬼の太い腕によって、掠った程度でも内臓破裂か骨折を起こしただろう。
 
 腹が弾ける自分を想像して、レベッカは嫌そうに眉を顰めた。
 
「今度こういう荒事になった時は、ロマンにかけてた精霊術、私にもかけてよね。
 
 私は苦手なのよ、戦うの」
 
 幾分げっそりした雰囲気のレベッカが提案すると、シグルトは軽く頷いた。
 
「この術は何度も使えない。
 
 ただ、前もってかけておけばやや不安定な条件になるが、長時間恩恵を得られる。
 余裕がある時には、備えて使おう」
 
 召喚術、あるいは付帯能力を与える類の術は、その効果が長時間持続するものもある。
 力の発動がやや不安定であるが、上手に用いれば大きな恩恵になりうる。
 
 シグルトが使う【妖精の護環】という術は、その典型だ。
 
「俺の本業は剣士だ。
 この手の術は本分では無いし、あてにはしないでくれ。
 
 …ブレッゼンのおかげで武器が安定したことだし、俺もそろそろラムーナのように本格的な剣術を身に付けねばならないな…」
 
 ぽつりと漏らしたシグルトの言葉に、レベッカが目を丸くした。
 
「…はっ?
 
 シグルト、貴方が今まで使ってた技って、剣術じゃなかったの?」
 
 ロマンやスピッキオも、驚いた顔だ。
 
「…当然だ。
 今までは、基礎的な戦闘の動作を反復していたに過ぎない。
 
 あんなものが【技】だと言ったなら、磨き抜いたそれを持つ剣士を冒涜することになるぞ」
 
 つまりシグルトは、ごく最近まで基礎のみで剣を振るっていたのである。
 緻密に戦術を立てて振るう基礎動作は、中途半端な技を凌ぐのだ。
 
 もしシグルトが、本格的な技を使いこなしたならどれほど強くなるだろうか。
 
 自身も戦いの技を使うラムーナは、好奇心で背筋がぞくぞくしていた。
 
「それなら、すぐ技を学びなさいよ。 
 投資は惜しまないわ。
 
 ねぇ、みんな?」
 
 レベッカが仲間に同意を求めると、皆首肯して賛同に意を示す。
 シグルトの戦闘力は、それだけ仲間から信頼を置いているのだ。
 
「…皆がそう言ってくれるなら、考えておくよ。
 
 身体も大分剣術に合ったものになったから、な」
 
 シグルトは中途半端に技を学べば故障を招くと、今までひたすらに基礎訓練と身体作りを行って来た。
 
 戦士とは本来血の気が多く、強くなることに貪欲で、安易な技に流れがちである。
 対しシグルトは、技に相応しい自分を作るために徹底的な肉体作りを行っていた。
 その方が、戦士として高い次元に届くことを理解していたからだ。
 
 シグルトが非凡な戦士である一番の理由は、鍛え方から戦い方まで合理性を重んじることにある。
 そして、錬磨のためにはいかなる努力も惜しまないのだ。
 
 この時代、このような鍛え方をする戦士は至極希であった。
 

 その2日後のこと。
 
 報酬を受け取ったシグルトたちがフォーチュン=ベルを去った直後に、一つのパーティが『幸福の鐘亭』にやって来た。
 
「ええっ、オーガ退治の依頼って解決されたの?!」
 
 一応パーティの代表者だというその青年は、困ったような声を上げた。
 
「…驚いたぜ。
 
 オーガの討伐が出来るパーティなんて、俺たち以外にそうそういねぇぞ」
 
 やや痩せた盗賊風の男が、頭を掻きながら驚いた顔で言った。
 
「…しかも、年を経たやつを3匹ですって?
 
 私たちが、アリメ村でやった仕事よりハードじゃない」
 
 肌の黒い魔術師風の女が、やや不機嫌な様子で頼んでいた酒を煽る。
 彼女の負けず嫌いは、仲間内でも抜きん出ていた。
 
「何はともあれ…先を越されてしまったようですね。
 
 ですが、危険な仕事をしなくて済んだ、とも考えられます。
 話ではかなり報酬が少なかったようですし。
 
 あきらめて別の仕事を探すとしましょう」
 
 僧服を着た中年の男が、穏やかな口調で仲間たちをなだめた。
 
「ふん、醜いオーガどもを斧の錆にしてやるつもりじゃったが…残念じゃ。
 
 今後、仕事がかち合わんとも限らん。
 そやつらは、何という連中なのじゃ?」
 
 このパーティで一番異色の戦士であった。
 斧を担いだその老人は、随分背が低い。
 彼はドワーフと呼ばれる亜人なのだ。 
 
 かつて事故で指を失ったという、武骨な手を撫でながら、そのドワーフは鋭い口調で仲間に問うた。
 
「…“風を纏う者”ですって。
 
 また聞いたね、この名前」
 
 その少女は冷たい井戸水で喉を潤しながら、首を傾げていた。
 
「…ああ、デオタトさんが言ってた新進気鋭の。
 
 確かに僕らと名前が似てるよね」
 
 青年は少女の言葉に頷くと、疲れたようにカウンターに腰掛ける。
 食人鬼が出たと聞いて、かなり気負っていたのだろう。
 
 前に行った同様の依頼があり、それを受けた時点でかなりの犠牲者が出ていた。
 青年は、同じ悲劇は何としても避けるのだと息巻いているのだ。 
 
「俺らの少し後に出て来たってのに、これまた新進気鋭の“碧風と共に歩む者”と並んで、今じゃかなり名前が売れてる連中だぜ。
 
 ま、中でも盗賊のレベッカって奴の腕前は、俺もちょっとばかり知ってる。
 切れ者だぞ、あの女は」
 
 盗賊風の男が高い評価を口にすると、黒い肌の女が呆れたような目で睨め付けた。
 
「また女?
 
 この宿の女将も含めて、あんたってほんと…」

 慌てて盗賊風の男は首を横に振った。
 この男は、今呆れている黒い肌の女魔術師に惚れていると言ってはばからない。
 
「よせよ…俺はあいつにゃ興味ねぇ。
 
 それにあの女のことを知ってりゃ、盛ったオークだって逃げ出すぜ。
 怖ぇ女なんだ…」
 
 そう言う盗賊男の目には、過去を偲んでいる様子があった。
 惚れていた女を思い出すというより、苦手な身内を懐かしんでいるような感じだ。
 
「ふん、エルフの餓鬼がおるような奴らと一緒に、先んじて冒険者になった儂らより名が売れておるのは気に食わん」
 
 ドワーフが、忌々しそうに麦酒(エール)を飲み干すと、女将に酒のお代わりを求めた。
 古今東西、ドワーフとエルフが犬猿の仲だというのは有名な話である。
 
 話題に出た“碧風と共に歩む者”には、まだ子供のエルフがいるという。
 自尊心の強いこのドワーフにとって、嫌いなエルフの子供がいる連中より名が劣るのは相当に不愉快なのだろう。
 
「…仕方ありませんよ。
 
 私たちだって多数の仕事をこなして来ましたが、“風を纏う者”や“碧風と共に歩む者”のメンバーは、仕事での粗が無い上に秀才揃いと聞いています。
 
 それに外見の美しい方が多いとか。
 話題性と人気は、時に同時に高まるものですからね」
 
 僧服の男は、苦笑しながらドワーフにお代わりの酒杯を渡した。
 
「何時までも他人の噂してるより、次の仕事を探しましょうよ。
 
 〈商船護衛〉…これなんかどう?」
 
 暗い雰囲気を変えようと、少女がつとに明るい声で呼びかけ、一枚の依頼書をカウンターに置いた。



 前回の決着を含めて、フォーチュン=ベル編をお届けです。
 かなり内容をいじって加筆しました。
 別物になってます。
 
 フォーチュン=ベルのオーガは、正面から堂々と挑んだ場合、3レベル平均では負けてしまう可能性が高いです。
 内容でも触れてますが、このサブイベントのオーガは驚異的に強くて、ASKデータの奴らとは比べものになりません。
 6レベル×3体ですから、トロール並。
 
 つまり、いかに戦闘における前準備をするかが重要です。
 罠の効果は何時までも持続しませんし、例え罠が発動しても、レベル差からか、普通の攻撃が中々オーガに当たりません。
 めいっぱいドーピングして挑むのがベストです。
 
 シグルトとラムーナが戦闘で一体ずつ止めを刺しました。
 今回もラムーナのスキルは大活躍しています。
 
 
 前半、前回からの続きでちょっとしたイベントが起きていますが…
 
 ブレッゼンの酒好きを語るエピソードを考えていて、不意に気が付いたものです。
 実は『魔剣工房』の酒イベントには【フォレスアス】が対応していません。
 
 アレトゥーザ名物もそうなのですが、後に対応を望むお酒がけっこうあったりします。
 まあ、こればっかりは仕方ないとも言えますが。
 
 考えた末に、ポートリオンで換金してちょうど2000SP(魔剣購入費と同じ)になることから、今回のような導入を考えてみました。ちょっと【星の金貨】なんかも手にはいるのですが、そのあたりはストーリー性重視ということで、手に入った金貨はレベッカの手管ということにしておきます。
 
 結構、ブレッゼンの酒好きが強調できた話になったと思うのですが…
 
 ミスリルの扱いは、映画版『ロード・オブ・リング』を参考にしています。
 オリジナルは非常に高価ということで、ミスリルは銀の合金で使われるという設定にしてあります。
 これでクロスオーバーが難しくなりましたら、申しわけありません。
 
 登場した【カドゥケウス】ですが…
 アスクレピオスの杖とヘルメスの杖に関しては、似ているものの違うというのが今の定説だったはずです。
 本来アスクレピオスの杖は、ヘルメスの杖【カドゥケウス】に形が似ているだけでして、本当はお医者さんがシンボルで使っているアスクレピオスの杖は、カドゥケウスと呼ぶのが誤りであるようです。
 まあ、当時はファンタジーの情報がかなり混乱していましたし。
 カタール→ジャマダハルの誤り同様、この手のことは結構たくさんあるみたいですね。
 
 今回のように書いたのは、そういったものを無理矢理辻褄合わせしようとしたためです。
 かなり無理があったかもしれません。
 
 
 話を戻して…小道具も購入しました。
 前回から引き摺った会計は以下の通り…
 
・【サーフ・レア】売却(+350SP)
・【金色の鍵】売却(+50SP)
・【フォレスアス】換金(+2000SP)
 
・【星の金貨】×3
・【鉄塊(アロンダイト)】購入(-2000SP)
・【火口箱】購入(50SP)
・【ランタン】購入(20SP)
・【鏡】購入(50SP)
・【アラジンの指輪】購入(-500SP)
 
・オーガ退治の報酬(+500SP)
 
 所持金8118SP(じゃり~ん♪)
 
 
 そして、最後の方で登場したのは、古株の方なら知っているでしょう。
 そう、あの人たちです。
 今回は、何気にあちこちとクロスオーバーしています。
 
 
 〈著作情報〉2008年05月23日現在

 『魔剣工房』及び『希望の都フォーチュン=ベル』はDjinnさんのシナリオです。現時点Djinnさんのサイトで配布されています。 
 シナリオの著作権は、Djinnさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンは『魔剣工房』がVer 1.07、『希望の都フォーチュン=ベル』がVer 1.06です。
  
・Djinnさんサイト『水底のオアシス』 (○ttp://djinn.xrea.jp)←○をhに。


 『新港都市ポートリオン』はMoonlitさんのシナリオです。現時点でMoonlitさんのサイトで配布されています。
 ギルドにも登録されています。
 シナリオの著作権は、Moonlitさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.11です。
 
 今回最後に登場したパーティは、かつてMartさんがリプレイの主役だった“風を駆る者たち”です。
 このブログで彼らの冒険をお預かりしていたこともあります。
 旧リプレイには、頻繁に登場していますので、残っている間、興味のある方は御覧になって下さい。
 
 Martさんのブログ閉鎖に伴い、“風を駆る者たち”の冒険は読めなくなりましたが、そのクロスオーバーに関しては行うことをお話し、過去に了承を得ています。
 これら“風を駆る者たち”の著作権はMartさんにあります。
 
 “碧風と共に歩む者”は、龍使いさんのリプレイの登場するパーティです。
 著作権は龍使いさんにあります。
 いつものノリでさらっとクロスしました。
 名前と噂だけのクロスですが、よろしくお願い致します。
  
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。 
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『魔剣工房』 アロンダイト

 『山の洞窟』で、オークを討伐した“風を纏う者”一行は、依頼のあった村で報酬を受け取ると、その村に一つだけある宿で豪勢な夕食にありついた。
 村の依頼を完遂したことに感謝した宿の主人は、その日の宿と夕食を無料で提供してくれたのだ。
 
「あのオークのせいで、随分一般客が減ってしまったんだが…
 あんたたちのおかげで、また客が戻って来そうだ。
 感謝してるよ。
 
 田舎の宿だから大したことは出来ないが、今日は存分にやってくれ」
 
 宿の主人は上機嫌で、上等の葡萄酒を惜しげもなく振る舞ってくれる。
 
 オークとの激闘で動き回り、空きっ腹を抱えていた一行は、しばらくものも言わずに思う存分暖かい食事を頬張った。
 
 食事が一段落付くと、一行は食後の談笑をしながら、今後のことについて話し合うことになる。

 
「今後のことって言えば、シグルトの剣よね。
 
 うちの主戦力が得物に難ありじゃ、困りものよ」
 
 レベッカがそう切り出すと、シグルトが気まずそうに頭を掻いた。
  
「すまん。
 
 俺の技量が足りないばかりに、皆には迷惑をかけるな…」
 
 シグルトが申し訳なさそうに言うと、仕方ないよ、とロマンが首を振ってくれる。
 
「おぬしは常人離れした膂力を持っておる。
 オークの身体を縦割りにするほどじゃ。
 並の剣ではそれに耐えられまい。
 
 それに、剣の手入れをまめにしておったのはわしらも知っておるからの。
 
 ましてや、今回は儂らを助けるためじゃったろうが。
 気に病むことではないぞ」
 
 スピッキオが、ほっほ、と苦笑する。
 その横でラムーナも、うんうんと頷いていた。

「私だって、シグルトを責めてるわけじゃないのよ。
 実際、罠が発動した状態であのままじゃ全滅だったんだから。
 シグルトの判断は正しかったわ。
 
 私が言いたいのは、現状をどうするかということよ。
 
 戦士にとって、武器は商売道具じゃない。
 それがオークからぶんどった粗悪品じゃ、今後が不安でしょ?」
 
 パーティで一番の現実主義者であるレベッカは、ことに装備に関して厳しい考えの持ち主だった。
 その慎重さが“風を纏う者”を支え長らえてもいるのだが。
 
「確かにそうだが…困ったな。
 
 ここにはお古をくれそうな先輩はいないし、とりあえず前回のような討伐ものでなければしばらくはオークの蛮刀でも何とかなると思うんだが…」
 
 パーティの資金を気遣って遠慮するシグルト。
 それ以上言うな、とレベッカが制した。
 
「リーダーのあんたが、しみったれたこと言わないっ!
 
 シグルトの豪腕は私たちにとって絶対必要よ。
 貴方の力に見合う武器は必須だと思うの。
 
 その腕力に耐えられない武器じゃ、今回みたいにいつ折れるか分からないし、無駄になるわ。
 いつも今回みたいに、仕事が終わる間際に武器が壊れるとは限らないしね。
 
 そこで、よ…
 今の私たちはかなり資金もあることだし、この際、銘工の剣というやつを奮発して買ってみない?」
 
 そういうとレベッカはフォーチュン=ベルに住んでいるという、噂の銘工について語りだした。
 
 
「…ブレッゼンっ!?
 
 もしかして“神の槌”か!!!」
 
 レベッカが語った銘工の名に、シグルトが目を丸くした。
 
「…?
 
 何、シグルト…知ってるの?」
 
 誰も知るまい、と自慢げに話していたレベッカは鼻白んだ。
 
「…俺の住んでいた地方では有名人だ。
 一部の好事家では、その傑作に城を代金にしたという話もある。
 
 “神の槌”ブレッゼンの〈魔剣〉か、ドワーフの銘匠“生み出すもの”マクラホンの〈獣の銘〉。
 武具の、中でも刀剣では、故郷でこの2つが不動の銘だった。
 
 俺が生まれた国では、まともな剣は騎士か優れた戦士しか持てないという仕来りがあったんだが…
 ブレッゼンの銘を持てるということは、その中でも別格扱いされたものだ」
 
 シグルトが冒険者になるまで剣を持たなかったのも、故郷の習慣からだった。
 彼の故郷では、刀剣は神聖なものとして珍重されていた。
 
 そして半世紀も経たないうちに、シグルトの故郷を含め北方に名を知らしめた銘工といえば、件のブレッゼンがいるのだという。
 
 “神の槌”と呼ばれるこの人物は、古に存在した伝説の武具を再生出来るという噂だ。
 彼の作った武具、特に刀剣は〈魔剣〉と称され、その威力と不可思議な力ゆえに、天井知らずの値段で取引されていた。
 
「ブレッゼンは気難しい人物で、貴族から身を隠すためにどこかに工房を変えたと聞いていたが…」
 
 シグルトの話を聞いていたレベッカは、その件の銘工がこのフォーチュン=ベルにいるらしいのよ、と続けた。
 
「シグルトの言う通り、ブレッゼンはもの凄い気難しい人物だって話だわ。
 今では、自分の造った武具を認めた人にしか売らないらしいのよ。
 
 でも、〈魔剣〉以外に普通の武具は作って卸してるみたい。
 無銘の形で出回った業物が、ちょっとした話題になることもあるそうよ。
 
 本物の〈魔剣〉は、市場でも銀貨で万の桁、って世界だから、魔力付きには手が出ないけれど…
 ダメで元々、一度覗いてみましょうよ。
 運がよければ、そこそこの業物が手にはいるかもしれないわ。
 
 それに私の勘だと、シグルトってその手の職人に気に入られそうなタイプなのよね~」
 
 レベッカの言葉を聞いて苦笑しながらも、シグルトは頷く。
 
「武具に関係無く、偉大な銘工なら俺も会ってみたい。
 
 武器をどう振るうべきか、それを語ってくれるかもしれないしな」
 
 決まりね、とレベッカが手を打った。
 
 
 数日後、“風を纏う者”一行は、フォーチュン=ベル郊外へと来ていた。
 
 『ヘフェスト』と呼ばれるブレッゼンの工房は、フォーチュン=ベルの郊外にひっそりと在った。
 
 とりあえずは、と「武具の修理、販売承ります」と書かれた販売所の方に顔を出す。
 呼び鈴をならすと、陽気そうな婦人が出てきて対応してくれた。
 
「いらっしゃいませ!

 初めてのお客さんね」
 
 サンディと名乗った人の好さそうなその婦人は、ニコニコと微笑んで一行を迎え入れるとお茶を出し、もてなしてくれた。
 
「ここの噂を耳にしてやって来たんです。
 
 活動拠点はリューンなんですが、フォーチュン=ベルには仕事でよく来ます。
 
 今回は仕事で武器を破損してしまったので、修理か購入を、と思ったのですが…」
 
 シグルトが事情を正直に話す。
 サンディは相槌を打ちながら聞いていたが、それなら、と工房の方を指差した。
 
 工房からは、離れていても休むこと無く鋼を打つ甲高い音が響いてくる。
 
「シグルトさんっておっしゃったわね。
 
 あなたなら主人も武器を打ってくれると思うわ。
 腰の剣、折れてしまったっていうけれど、とても大切に手入れをしていたのがわかるもの…」
 
 この工房では武器の修繕もしてくれると聞き、シグルトはオークの剣は処分して愛用していた剣を持って来た。
 砕けた刃は袋に収めてあるが、磨かれた柄を見れば、どれだけ大切に使われていたか分かるとサンディは言う。
 
「…主人が〈魔剣〉を与える人を選ぶのは、〈魔剣〉にも意思があるからなの。
 
 〈魔剣〉は、使い手に応じて邪剣にも、聖剣にもなりうるわ。
 意思を持つ故に使い手を支配することさえあるのよ。
 愚か者が使えば…剣を振るうはずが、剣に振り回されるような羽目になるというわけ。
 
 優れた〈魔剣〉には、それがあるだけで運命を変革する力を発揮するわ。
 だからこそ、主人は使い手の資質を見極めて〈魔剣〉を託すの。 

 私の勘だと、貴方は剣の方から求められる素質がある…
 きっと、貴方は〈業物〉と称されるような武具を持ったこともあるでしょう?
 匠に対する礼節をわきまえているもの」

 サンディの洞察に、シグルトは内心かなり驚いていた。
 
 かつてシグルトは、世界に一本しかないという特別な槍を所持していたことがある。
 ドワーフの鍛冶師マクラホンの銘を刻んだ、漆黒の槍だ。
 当時シグルトの技量は、その槍を扱うのに相応しいものだった。
 
 だが現在は、身体中に故障を抱え頻繁に武器を破損する始末だ。 
 サンディの言う素質など自分にはあり得ない。
 そう、シグルトは思っていた。

 シグルトの心を知ってか知らずか、サンディはそれ以上は追求しなかった。
 
 他の方はここでお茶でも飲んでゆっくりなさってね、とサンディは手作りの茶菓子を用意してくれる。

「なんなら、待つ間、商品でも見せましょうか?」
 
 そのように、親しげに話してくれた。
 
 仲間たちがサンディの言葉に甘え、くつろぎ始める。
 ロマンやラムーナなどは、好奇心に目を輝かせて武具を観察し始めた。
 
 シグルトはサンディに一礼すると、販売所を後にして工房に向かった。
 
 
 絶え間無く鉄を打つ音が響いている。
 音が大きくなるにつれ、胸が自然と高鳴った。
 
 剣士にとって、優れた刀工とは医者のような存在である。
 武器は使う度に摩耗し、消耗していく。
 それを直すことが出来るのは、専門の技術を持った刀工だけなのだ。
 
 良い刀工に巡り会えば、優れた剣が使える。
 それは、剣士が最大の技量を発揮するために無くてはならないことだ。
 
 優れた剣は、優れた刀工しか直すことが出来ない。
 銘剣の類とは、研ぎ手が達人であって最高の切れ味を取り戻す。
 
 逆に愚鈍な刀工が扱った刀剣は、どんな銘剣の類でもなまくらと化すのである。
 
 シグルトは、めったに自身の剣を他人に扱わせなかった。
 彼の目に適う刀工がいなかったからだ。
 
 幼少の頃、シグルトは鍛冶師のところに通っていたことがある。
 その鍛冶師は最高レベルの刀工であり、武具の手入れはその鍛冶師から学んだ。
 
 その鍛冶師…マクラホンが作った〈獣の銘〉と呼ばれる刀剣は有名だ。
 シグルトの国においては、剣を志す者にとってあこがれの銘柄だった。
 
 優れた武具を見ていたので、自分の目が厳し過ぎるのだという自覚はあった。
 だからシグルトは、あえて今まで優れた剣を使わなかったのだ。
 
 金銭的な余裕ももちろん理由の一つだった。
 だが、本当の理由は別である。
 
 己の腕を磨き、武器の性能に甘えないために。
 そして、思う存分力を込めて振るえるだけの剣が無かったためだ。
 
 妥協を許さないシグルトの鍛錬から繰り出される技は、武具に多大な負担をかける。
 武器そのものが、技によって生まれる力に耐えられない。

 優れた才能が凡庸な剣を壊してしまうことは、剣士の世界では時折あることだ。 
 シグルトが本気で技を放っていたならば、今までの剣では数回の使用で使い物にならなくなったはずだ。
 
 今回の剣の破損も、同様だ。
 堅牢な扉を穿つほどの刺突は、頑強だった剣を粉微塵にしてしまった。
 
 初めて振るった剣はロマンを守るために、悪漢の重い得物を止めてへし折れた。
 最初の依頼で振るった剣は、敵の骨に食い込んでやはり折れた。
 
 仲間には話していないが、本当は自身の力と武器の折り合いが取れず、故障だらけの身体の負担にさえなっている。
 
 そんな状況だからこそ、シグルトは伝説的な名を持つブレッゼンに期待していた。
 彼になら、せめて力一杯振るえる剣を作ってもらえるのではないか、と。
 
 高望みはしていなかった。
 シグルトが第一に望むのは、武器の耐久力である。
 
 そのような妥協したことを言えば、匠の誇りを傷つけることも分かっている。
 匠の武器とは、全てを備えているものだ。
 
 伝説の刀工から剣を買うことが難しいだろう、とも感じていた。
 ブレッゼンの作る魔法の武具は、一番安い物でも銀貨五千枚を下らないで売られている。
 
 この間まで金に困っていた仲間たちに、剣一本で大きな負担をかけるわけにはいかない。
 
(まずは、砕けたこの剣が修理出来るのか尋ねてみよう)
 
 しみったれたことを考えているな、と苦笑したシグルトは、足を速めて工房の扉の前に立つ。
  
 数回ノックしてみたが、聞こえるのは鉄を打つ音ばかり。
 
〝主人は仕事に集中していると、周りのことが見えなくなるわ。

 ノックして返事がなければ、遠慮無く入って待っていてね…〟
 
 サンディが事前に言ってくれた言葉に従い、シグルトは工房の扉を遠慮がちに開けた。
 
 
 そこはむっとする熱気のこもった空間だった。
 
 シグルトが一歩足を踏み入れると、今まで鳴り響いていた金槌の音が不意に止む。
 
「…何者じゃ?
 
 わしはここに入ることを許しておらんぞ」
 
 厳つい、見るからに頑固そうな老人であった。
 不躾にシグルトを見ると、事情を察したのか、ふんと吐息を吐く。
 
「サンディめ、また勝手なことをしおって…
 
 貴様はそこの腰掛に座っておれ。
 今は手が離せん」
 
 そう言うと、老人はシグルトがそこにいないかのように、また作業を再開した。
 
 シグルトは黙って老人の言葉に従い、その作業を静かに眺めていた。
 
 かまどの炎によってぼさぼさにちぢれた灰色の髪と、立派な髭。
 眼光鋭い瞳が、太い眉の下で一心に赤く熱せられた鋼を睨み、武骨で逞しい腕がハンマーを振り下ろす。
 
 火花を散らして響く金属の声。
 
 シグルトは、子供の頃に見た鍛冶の風景を思い出していた。
 
 外で皆で騒ぐ子供たちと違い、シグルトはこうやって鍛冶屋や細工師の作業を眺めるのが好きだった。
 そこには匠と材料との会話があり、何かが形作られていく様は魔法のようだと思ったものだ。
 
 鉄の溶ける匂いと、空気に混じる水分が熱せられる独特の音。
 吸い込むとむせ返るような熱い空気は、シグルトの頭をぼんやりとさせる。
 
 …どれくらい時間がたっただろうか。
 老人はやっとこではさんだ赤く焼けた鉄塊を、慎重に水につける。
 
 ジュッゥゥゥゥウ!!! 
 
 直後、もうもうと蒸気が立ち上った。
 老人は取り出したそれをじっと窓にかざして見つめ、その後一心に磨き始める。
 
 また地味な作業が続く。
 リズミカルな、砥石と鉄のこすれる音が繰り返される。
 
 やがて老人の手がようやく止まった。
 
 老人は手に持ったそれを見つめ、一つ頷くと石でできた台の上に同じように置かれた他と一緒にそっと並べる。
 それはまるで、子供をベッドに寝かせようとする父親のようであった。
 
「…待たせたな。
 
 最近の若い者にしては、辛抱というものを知っておるようだ」
 
 そう言って自身の肩を叩きながら、ぎろりとシグルトを見た匠は、隙の無い足取りで側にやって来た。
 
 かつて戦士だったのだろう。
 老人の鋼鉄のような腕には、火傷や作業でついたものとは明らかに違う刀傷や鏃を引き抜いた痕があった。
 
(優れた作り手であるということは、優れた使い手でもある、ということか…)
 
 そんなことを思いつつ、シグルトは名を名乗り、ここにやって来た理由を簡単に告げた。
 
 老人は黙って聞いていたが、その武骨な腕をぐいと前に突き出した。
 
「…砕けた剣を見せてみろ」
 
 低く恫喝するような声であった。
 子供がいれば泣き出してしまっただろう。
 
 シグルトは、鞘に入ったままの剣と袋に入った破片を差し出した。
 
 老人はそれを受け取ると、砕けた破片や剣の全体を丁寧に調べていく。
 いや、調べるというよりはいたわっているかのような手つきであった。
 
「…こやつを産んだ親は未熟者よ。
 そして貴様の前に振るっていた主も未熟だった。
 
 だが貴様は、己の未熟を知って振るったのだろう?
 欠片の一つまで、繰り返し研ぎ磨いてある。
 最後に可愛がってくれる奴に出逢えたのは、幸せというものよ。
 
 得物には領分がある。
 こやつも、己が領分を超えた故に砕けただけだ。
 
 だが、鋼がちゃんと教えてくれるわ。 
 本望だったと。
 
 完全に精が死んでいるが、実に見事な壊れっぷりよ。
 これでは、直すなど無粋というもの。
 鋼に戻し、生まれ変わらせてやるのが一番だ。
 
 形あるものには、何れ終焉が訪れる。
 主の技で結果を出し、死んでいくのは武器の冥利。
 
 満足して役目を終えた、果報者だ」
 
 その剣を静かに石の台に乗せると、老人は幾分優しげな目でシグルトを見た。
 
「お前は未熟だが、武器に愛されている。
 武器を愛でるということも知っているな…
 
 だから、お前にも鋼の声が聞こえるだろう?」
 
 シグルトは黙って頷いた。
 
 剣が砕ける瞬間、シグルトは握っていた剣の悲鳴と、同時に主を守りきったという誇らしげな音を聞いたのだ。
 
 戦い続ける間、剣はシグルトに武骨な歌と頼もしい重さでいつも応えてくれた。
 握り締めるたびに呼び覚まされる勇気と力。
 だからこそ、恐れることも無く剣を振るい続けられた。
 
 そう語ると、老人はシグルトの肩に手を置いた。
 
「…この中から選べ、シグルトとやら。
 
 ここに並んだ鉄の子供らは、お前と同じ未熟なやつらよ。
 
 しかし、貴様が腕を磨くうちに、その精が高まっていく。
 そして、お前と共に強くなるだろう。
 時が来たら、それをわしが磨き、鍛え直してやる。
 
 お前が鋼の声を聞き取れる限り、わしも応えてやろう」
 
 老人は、節くだった太い指で石の台を指差した。
 そこには、この刀工が作り上げた数々の刀剣が並んでいる。
 
 シグルトは、先ほどまで老人が打っていた両刃の長剣を迷わず掴んでいた。
 
「かつて不倫の不名誉を負って、王国を去った最強の騎士ランスロット。
 理不尽の中で、王への忠義と王妃への愛に生きた武骨な心の英傑よ。
 
 これはその騎士の武における伴侶。
 銘はアロンダイトという。
 
 後にはキアレンツァ、アルタキアラ(オートクレール)と呼ばれ、無双の切れ味は騎士の誉れと謳われた。
 伝説の英雄ローランの友、騎士オリヴィエもこの剣を振るって武勇を轟かせたという。
 
 これは、その剣を摸して打ったものだ。
  
 お前が来た時に鍛えておったのは、必然だったな…」
 
 にやり、と老人…“神の槌”と呼ばれる匠ブレッゼンは、不敵な笑みを浮かべた。
 
 握った武骨で黒い鉄の塊。
 
 シグルトは、その産声と歓喜の声を確かに感じていた。
 愛おしげにその剣を撫でる。
 
「アロンダイト。
 お前の主となるために励むことを誓おう。
 
 そして生涯の友になれるように願う、幾久しく…」
 
 そっと刃に口付ける。
 古い古い、剣士と剣が交わす契りの儀式だ。
 
 コォォォン…
 
 震えるように啼き、その黒い刃は新しい主の誓いを受け入れるのだった。

 
 
 Djinnさんの『魔剣工房』です。
 大半は旧リプレイのコピーですが、加筆も結構しています。
 
 シグルトといえば【グラム】かなぁ、とも思ったのですが、『魔剣工房』のグラムは形が曲刀だったのと、地味な戦い方をするシグルトにはあってるかな、と思って【アロンダイト】を選びました。
 【アロンダイト】が、オリヴィエの使っていた剣【オートクレール】である、という説を知ったのは最近でして、前は別物だと思ってました。
 ランスロットの剣は、ガスティガ=フォッリとも呼ばれるそうです。
 ただ、中世の騎士伝説は諸説在って真実の程は分かりません。
 
 2番目好きの私としては、アロンダイトの渋さはたまりません。
 それに、ガウェインの弟を斬り殺したという呪われた部分は、作りたてのアロンダイトには無いものですから、オリジナルより愛着が持てたりします。
 
 このシナリオにはいつもお世話になってます。
 製作で武器のアイデアを出したりしたので(このシナリオの【神鳴る大斧】は私がそれっぽいエピソードを考えてでっちあげたものです)思い出深いです。
 
 ブレッゼンの職人気質が少しでも表現出来てればいいなぁ、と思います。
 
 今回は、魔剣との最初の邂逅ということで話を終えましたが、次回までもう少し話が続きます。
 精算は次回にまとめて表記します。
 ちょっとだけ新しい物語がありますし。
 
 
 なお、リプレイクロスオーバーの申し出があったのですが、今回はブレッゼンとのファーストコンタクト、ということであえてしませんでした。
 登場人物と話題が増えてしまうと、ブレッゼンとシグルトの「漢」ちっくなツーショットシーンがまとまらない気がしまして。
 
 『魔剣工房』でのクロスは、第二の来訪以降にするかと思います。
 忘れずにおきますので、悪しからず。


〈著作情報〉2008年05月20日現在

 『魔剣工房』はDjinnさんのシナリオです。現時点Djinnさんのサイトで配布されています。 
 シナリオの著作権は、Djinnさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer 1.07です。
  
・Djinnさんサイト『水底のオアシス』 (○ttp://djinn.xrea.jp)←○をhに。
  
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『シンバットの洞窟』

 アレトゥーザを後にして一週間。
 シグルトたちはリューンに帰還し、『小さき希望亭』に戻っていた。
 
 『小さき希望亭』は比較的小規模の冒険者の宿である。
 現在専属の冒険者パーティは、シグルトたち“風を纏う者”と、同期である“煌めく炎たち”の2つだけ。
 その他で、特定のパーティに属さない者が数人いる。
 それ以外で専属の冒険者はいない。
 
 冒険者たちの中には、特定の宿の専属にはならずフリーの状態で各地を放浪する者も多い。
 この方が柵(しがらみ)が少ないからだ。
 
 シグルトたちが『小さき希望亭』の専属になったのは、仲間のレベッカがこの宿の専属だったためだ。
 
 宿専属の冒険者には様々な特権があり、例を挙げるなら宿の共有基金の使用権や、宿の倉庫に持ちきれない道具を預かって貰う、などがある。
 専属同士では、情報のやりとりや、状況に応じてメンバーチェンジを行ったりもする。
 
 宿専属の冒険者でも、他の地方や他の冒険者の宿で仕事をすることは可能だ。
 しかし、宿を背負って立つ冒険者としてそれなりの責任が伴う。
 
 反面、属する冒険者の宿からの全面的なバックアップを受けられるし、宿の主人が身元引受人になってくれるので、有事には大きなメリットがある。

 そして、一番大きな特権が仕事の優先的斡旋であった。
 
 宿の専属冒険者は、名指しで仕事を受けられる。
 これは、宿が冒険者たちの住所代わりとなり、宿の店主が冒険者たちの留守でも代わりに仕事を受けてくれるのだ。
 急ぎの仕事でなければ他のフリー冒険者に仕事が流れたりしないので、専属でない者たちよりは仕事を確保しやすくなる。
 
 シグルトたち“風を纏う者”は、現在宿の看板となりつつあるパーティだ。
 有名どころの先輩冒険者はほとんど独立しており、宿は人材不足に陥っていた。
 
 そのため、仕事の達成率が極めて高く、久しぶりの優れたパーティ結成ということで、宿の主人が精力的に宣伝してくれていることも大きい。
 “風を纏う者”は駆け出しでありながら、名前もそこそこに売れ始めていた。
 
 今回の仕事も、そういった“風を纏う者”の名を頼っての依頼だった。
 
 
「オークの討伐か。
 随分と冒険者らしい荒事が回って来たな。
 
 “煌めく炎たち”の連中に回さなくてよかったのか?
 討伐ものは、火力のあるあいつ等の方が得意だと思うんだが」
 
 依頼内容を確認しながら、シグルトが宿の主人に確認する。
 
 “煌めく炎たち”は、戦士マルスを中心とする冒険者たちだ。
 サブリーダー的な存在のゼナは性格が過激で難はあるものの、炎の精霊術師であり戦士としての技量も持つ。
 回復術を得意とする尼僧のレシールもいて、サポート面でも充実している。
 攻撃魔法が得意な魔術師のカロックがおり、盗賊であるジェフという男もいる。

 彼らは総合的に戦闘力が高く、特に炎の精霊術師であるゼナの攻撃能力は極めて高い。
 命懸けの危険な依頼が多い討伐依頼ばかりを受け、八割以上の達成率を誇っていた。
 
 シグルトたちと同期の冒険者であり、宿の若手では“風を纏う者”と実力を二分するとさえ言われている。
 
 彼らの実力を認めているシグルトは、宿の親父の真意を問うた。
 “風を纏う者”に依頼するというのは、どういう意味があるのか、と。
 
 宿の親父は「確かにあいつらに頼むのも手だが…」と前置いて、話を続けた。
 
「場所は隣町になるんだが、件のオークが占拠した洞窟がフォーチュン=ベル方面に向かう街道の近くにあるんだ。
 
 お前たちは、あっちでも討伐依頼をこなしてただろう?
 向こうでの活躍を噂に聞いてたっ、てわけで依頼人の覚えがよくてな。
 
 それに、“煌めく炎たち”の連中は戦闘力こそ高いが、罠の解除とかは苦手だ。
 血の気の多い猪女がいるからなぁ。
 
 今回の依頼は、場所が半ば遺跡で、探索能力も必要になりそうなんだ。 
 この宿でレベッカ以上の探索能力を持ってる奴はいないだろ。
 
 加えて、この仕事はちょっとばかり因縁があってな。
 一回同じような依頼が、他の宿で出されて、そこそこの冒険者どもが出張った後なんだ。
 その時討伐し損ねたオークが逃げて、戻って、また増えたらしい。
 
 高い金払って仕事をして貰ったのにまたオークに住み着かれちまったから、依頼人にとっちゃ、より完璧にやってくれる奴が良いってことだ。
 だから宿としても、仕事を確実にやってくれるお前たちを推薦したってわけだ。
 
 その上、事前に聞いた情報では、重武装したオークの姿を見たって話もある。
 おそらくは上位種のロードがいるんだろう。
 きっと何かでその洞窟を離れていたロードが、帰ってきたんだな。

 ただのオークどもならたいしたことはないが、ロード種がいるとなれば話は別だ。
 優れたリーダーのいるオークたちは、結束力と戦闘力が段違いになる。
 実際、見張りは二匹もいて隙が無く、偶然通りかかった冒険者たちに頼んだところ、太刀打ち出来そうに無かったらしい。
 
 そこで戦術に明るいシグルトの名前が出たってわけだ。
 
 お前の巧みな戦術は、最初にお前たちがやったゴブリン退治の頃から語り草なんだよ」
 
 親父の高い評価に、レベッカがウインクして、「こういう評価には応えなくちゃね」と微笑んだ。
 
「…話は分かった。
 
 だが、馬鹿力のオークどもが相手となれば、ゴブリンを相手にするのとはわけが違う。
 やる以上は、かなりの危険を覚悟する必要があるが、皆構わないか?」
 
 シグルトは、いつものように仲間たちに問うた。
 彼はせっぱ詰まった状態でもない限り、仲間の意見を出来るだけ確認するようにしている。
 
 反対意見は特に無かった。
 此処まで期待されているのに、断るとなれば、名折れとなるからだ。
 
 シグルトはハーティの総意を確認し終えると、すぐにこの依頼に必要な契約を済ませた。
 
「まだ昼前だから、今から立てば今日中に依頼が遂行出来るな。
 
 旅の準備は万端か?」
 
 契約書にサインし終えてシグルトが問うと、抜かり無しとばかりにレベッカが道具の入った袋を持ち上げた。
 
「ではすぐに立とう。
 
 貪欲で気性の荒いオークどものこと。
 依頼の達成が遅くなるほど被害も出る…討伐ものの依頼は、迅速さが大切だ。
 
 昼食は軽く、道中で済ませよう。
 あまり腹が満たされていない方が、仕事は出来る。
 美味いものは、依頼を終えてから食えばいい」
 
 きびきびと仲間に指示を出すと、シグルトは得物の具合を確認し始めた。
 
 
 数時間後の夕刻近く、シグルトたちは件のオークたちが占拠したという、『山の洞窟』の前に来ていた。
 
 洞窟には見張りのオークが3匹。
 そのうち2匹は洞窟前方、もう一匹は洞窟の入り口から少し上にある岩棚に陣取っていた。
 
 “風を纏う者”は、一端洞窟の風上にならないよう戻って距離を取り、どうするか相談を始める。
 
「…厄介ねぇ。
 
 下手に正面の連中を倒せば、後ろの奴にすぐにばれるでしょう。
 しかも2匹もいるから、忍び寄って暗殺ってわけにもいかないし。
 
 かといって、後ろの奴をロマンの魔術でちまちま攻撃していたらばれるかもしれない。
 やっぱり、岩棚の奴をロマンの魔術で寝かせて、続けて正面でのんきに話してる2匹も眠らせるのが妥当かしら?
 
 飛び道具を持っていないのが痛いわ。
 あれば、同時に仕留める方法とか考えられるのに」
 
 連続で魔術を使うという案に、「疲れそうだね」とロマンが溜息を吐く。
 魔術の使用回数には限りがあるのだ。
 
 そこでシグルトが、話に割って入った。
 
「レベッカのやり方は堅実だが…ロマンの魔術は今後にもっと必要になるはずだ。
 ここは魔力を温存しておくべきだろう。
 
 眠りの魔術は、オークのような群れを作る連中に大きな効果がある。
 中にいる敵の数が分からない以上、切り札は多い方がいい。
 
 岩棚の一匹は…何とかする。
 ロマンは正面の2匹を眠らせてくれ」
 
 シグルトの言葉に、一同目を丸くする。
 
「あれを何とかする、じゃと?
 
 弓があるようには見えんのじゃが…
 あれほど離れた奴を、どうやって倒すのじゃ?
 
 ロマン以外は離れた敵を攻撃する手段など、持っておらんぞ?」
 
 スピッキオが素直に仲間たち疑問を代表して口にすると、シグルトは虚空にすっと手を差し伸べた。
 それに応えるかのように、ふわりと風が渦巻く。
 
「この間の旅は、ただ金を稼ぐだけの結果にはならなかった、ということだ。
 
 丁度いい機会だから、相棒を紹介しよう」
 
 シグルトが少し苦笑して、虚空に「〈トリアムール〉」と呟くと、彼を包むように一陣の風が吹いた。
 
 
 そのオークは、見張りという貧乏クジを引いたことに不機嫌だった。
 
 もとより真面目にやる気などまるで無い。
 この岩棚からなら周囲を一望可能だし、見張りは他に2人もいるからだ。
 
 下の連中も暇なので、のんびりと談笑しているではないか。
 
 「〈王〉は神経質過ぎるのだ」、とぼやき、そのオークは下品に鼻を鳴らした。
 
 前に人間たちの襲撃があっが、その時ちょうど〈王〉が他の〈王〉に逢うために巣を留守にしていた。
 〈王〉とその護衛たちがいなかったせいでまとまりの無かったオークたちは、その半数が殺された。
 
 それは、〈王〉がいなかったから仕方なかったのだ。
 今は賢く強い〈王〉がいる。
 
 そしてこの巣には、〈王〉が様々な仕掛けをしてある。
 強欲な人間ならコロリと引っかかるように。
 だから大丈夫だ。
 
 そう思ってオークが下を見下ろすと、下の2匹は呑気にあくびをしている。
 …寄り添って仲良く眠るつもりのようだ。
 
 オークは、「さぼるな」と声をかけようとする。

 …その時不意に、強い風が吹き付けて来た。
 
「…?」
 
 自分の声が出ないことに気付き、オークは目を見開いた。
 だらだらとどす黒いものが、自分の喉からこぼれ出て行くく。
 
「…ヵ…ヒュッゥ―」
 
 それが自分の血ではないかと気付いた時、オークの視界は濁り始めていた。
 
 何故だろう?
 とても眠い。
 
 遠くで人間の牡が立っていた。
 その人間が、自分に向かって手をかざしている。
 
 下の連中に知らせなくては…
 
 続きを考える前に、オークは喉からの失血によって目覚めることのない眠りについた。
 
 
「―すっご~いっ!!!」
 
 鮮やかに岩棚のオークを仕留めたシグルトを見て、ラムーナが驚嘆の声を上げた。
 
 シグルトが使ったのは、精霊〈トリアムール〉の力を用いた風の斬撃である。
 敵が気付いておらず油断していたため、正確に遠距離から喉を切り裂いたのだ。
 
 眠りについた2匹の見張りに止めを刺すと、レベッカが戻って来た。
 
「…まさか精霊術を修得してるなんてね。
 この手の術が便利なものだとは聞いていたけど、これじゃ飛び道具がお役御免になるわよ。
 
 使いどころを考えれば、奇襲にはもってこいだわ」
 
 感心するレベッカの言葉に、誇らしそうに強く風が吹いた。
 シグルトの風の精霊〈トリアムール〉が自慢でもしているのだろう。
 
 シグルトは、ふんぞり返った〈トリアムール〉を想像し、戦いの緊張に強ばっていた頬を少しだけ緩めていた。
 
「…この術そのものは2~3回の使用が限度だ。
 一度の術で、2回ほど風を起こして攻撃が出来るが、乱戦時に狙いを定めるには制御が難しい。
 剣を振るいながら準備するのは、おそらくほとんど無理だと思う。
 俺は専業の精霊術師ではないからな。
 
 今俺に宿っている風の力はあと一回解放できるから、このまま維持して、出会い頭の敵に対する反撃手段にするつもりだ。
 
 倒したのは見張りだけだから、まだ敵の本体は他にいる。
 中の連中が、この異常に気付く前に攻めるぞ。
 
 油断せず、進むとしよう」
 
 はしゃぐ仲間を軽くいさめ、術の詳細は仕事が終わってから話す、と話を終わらせるシグルト。
 そのまますぐに洞窟進入後の手順を確認する。 
 
「まず俺とレベッカが先頭だ。
 レベッカは罠と敵の気配に注意してくれ。
 俺が敵と遭遇した時には壁になるから、無理せず後衛に下がるんだ。
 
 ロマンは…可能なら小出しでいい、前衛の後ろから魔術で援護してくれ。
 ロード種との一戦までは、可能な限り魔力は温存するんだ。
 
 スピッキオとラムーナはその後ろで、後続の敵に備えつつ付いて来てくれ。
 
 スピッキオが癒しと【聖別の法】による援護を頼む。
 ロード種との戦いまで、治癒の秘蹟は出来るだけ温存するぞ。
 重い傷でない限りは、今後のことを考えて秘蹟の力を残しておくんだ。
 傷の重いものを優先して治してくれ。
 
 ラムーナはロマンとスピッキオを護るように、敵と遭遇したなら体勢を崩すように動く。
 前に型合わせをした時のことを思い出して、新しい技が必要なら臨機応変に織り交ぜてくれ。
 いざ戦いになったら、レベッカと組んで敵を翻弄するように動くように。
 
 レベッカは無理せずに、戦いがきつい場合はラムーナと隊列を交代すること。
 
 俺は、体勢の崩れた敵を確実に斃していくつもりだ。
 オークは力が強いから、組み合いや正面からのぶつかり合いは止めておくんだぞ。
 
 皆、油断無く自分の役回りに集中してくれれば、十分通用するはずだ。
 早々に俺たちの存在が敵にばれたその時は…攻めるが無理なら引くこと。
 
 …さっき道すがら話した通りだ。
 
 何か問題や提案はあるか?」
 
 オーソドックスな作戦だが、セオリーを確実に守ることが着実な強さになるのだとシグルトは言う。
 奇策に頼るのは時々だからこそ大きな効果になるのであって、本来戦いに必要なのは実力と手堅さであると。
 
 実際、多人数の混乱を利用する大規模な戦略が可能な軍隊同士の戦争とは異なり、冒険者の行う戦闘は堅実さや実力がものを言う。
 そして、満遍なく実力を活かせる状況をつくれることがとても重要なのである。
 
 個々の実力があり結束力の強い“風を纏う者”にとって、このスタイルは最も合っていた。
 
「頼りにしてるわよ、リーダー。
 
 こういう荒事ではあんたの戦術眼の方が、臨機応変に対応出来るからね」
 
 レベッカがそう言ってロマンを見ると、彼も頷く。
 
「僕だって古今東西の戦術書は読んでるけど、実際の状況に合わせて素早く指揮をとって対応することは出来ないからね。
 
 頭で考えるのと行うのは、それぞれ専門家がやればいいよ。
 その点で、僕もシグルトのことを信頼してるから」
 
 この少年はひねくれものである。
 だが、目の前の事実には謙虚だった。
 
「ここから先は完全に敵の領域だ。
 素早く、静かに、力強く。
 
 では…行こう」
 
 仲間たちの表情と覚悟を確認すると、シグルトはレベッカと並んで洞窟へと足を踏み入れた。
 
 
 洞窟の内部は、硬い岩肌に覆われていた。
 2人並んで歩くにはやや狭い。
 
「この構造であれば、多少なら剣を振り回すことも出来そうだ。
 落盤の心配も無いだろう。
 
 横に2人並ぶのは、確実に後ろを守る時でいい。
 動き回れる空間を確保しながら戦おう。
 小柄なラムーナなら、俺と並んでも戦えるはずだ。
 
 レベッカ、敵を見つけた後はすぐに下がってくれ」
 
 具体的な指示を出すシグルトに頷きながら、レベッカが周囲を調査していく。
 
「この先が2つに分かれているわ。
 
 敵の気配は全く無し。
 気付かれた様子もないわね」
 
 レベッカの言う分かれ道に着くと、シグルトはすぐに行く先を示した。
 
「このまままっすぐ行くと、洞窟の入り口があった岩壁沿いに進むことになるはずだ。
 
 奧に敵の首領がいるはずだから、こちらには高い確率で伏兵がいる気がする。
 まず後顧の憂いを断ち、挟み撃ちされないようにしよう。
 
 それに、別の入り口があったりすると何匹か逃がす恐れもあるからな。
 今回の依頼は、オークの殲滅だ。
 敵の退路を塞ぐように、まず手を打つとしよう」
 
 レベッカが、ぱっと外から見た様子を思い出して洞窟の構造を予測する。
 
「その入り口を、私たちの退路にするのもありね。
 
 敵地を攻略する時、端から確実にってのは、時間に余裕があれば悪くない選択よ」
 
 他の仲間たちもその意見に反対することなく、一行は真っ直ぐ進むことにした。
 しばらく歩くと、突然景色が変わる。
 
「…これって人造の壁だね。
 
 ということは、此処が遺跡なんだ」
 
 そこはテーブルが2つ置かれた、やや広い部屋だった。
 石を組み上げて作られた壁は堅牢で、周囲が崩れないようしっかりと塗り固められている。
 
「構造から思うに、此処は人間が隠れ住んだ跡だと思う。
 石壁の古さや建築様式だと…数百年前の統一帝国のものだね。
 
 この壁を固めてるのは、帝国が馬車を走らせる石畳を造る時にも使った、砂や石の粉を練って作る接着剤だよ。
 リューンの下水道や水道、賢者の塔にも使われている、優れた建築技術なんだ」
 
 ロマンがレベッカが調べ終わった壁を触りながら、説明する。
 
「大抵の遺跡はこの技術で作られてるのよね。
 
 ま、規模は小さいけど一応遺跡みたい。
 オークが住んでる程度だから、お宝は期待出来ないわね」
 
 一度調べられたって聞いてるし、と付け加え、レベッカは部屋をくまなく探す。
 
「…見るからに怪しい箱が一つあったわ。
 
 それと、棚にあったんだけど…掘り出し物よ」
 
 調べ終えたレベッカが掲げたのは、一本の酒瓶らしきものである。
 
「…ほう、それは聖別した葡萄酒じゃな?
 
 毒や麻痺、加えて石化の呪いすら解除出来るという優れものじゃ」
 
 スピッキオが、瓶に刻まれた不思議な形の十字を示して言った。
 
「この紋章は、異端とされる教派の聖印だね。
 ドルイドたちの文化を吸収して生まれた、古い聖北の一分派が使っているものだよ。
 
 この遺跡は、彼らが弾圧から逃れるために作ったのかもしれない」
 
 ロマンの言葉に、詳しいのうとスピッキオが相槌を打つ。
 
「うへぇ、なんか抹香臭い話ね。
 
 年代物だと思ったんだけど、確か【聖別の葡萄酒】って、味は渋くて薬臭いって奴でしょ?
 後で飲もうと思ったのに…
 
 まあ買うと高価な薬の一種みたいだけど、美味しくない酒はオークの豚面ぐらい罪なことだわ」
 
 レベッカが戯けたように揶揄した。
 スピッキオが、「罰当たり者め」、とそれを睨む。
 
「確か、此処で手に入る物は報酬にしていいという契約だったな?
 
 役に立つなら貰っておこう」
 
 シグルトが決定すると、ラムーナが嬉しそうに酒瓶を受け取って荷物袋に仕舞い込んだ。
 
「さて、次の問題はそこにある箱ね。
 
 さくっと行くわよ」
 
 説教を始めそうなスピッキオをなだめると、レベッカが見つけた小箱を丁寧に調べる。
 
「ほほう?
 外さずに開けると、どこかで鳴り子かベルでも鳴る仕組みね。
 
 で、ちょいなちょいな…と。
 
 やっぱり引っかけの箱だったか。
 中は空っぽ」
 
 レベッカが素早く箱を調べて罠を解除すると、素早く箱を開け、つまらなそうに鼻を鳴らした。
 
「ふん、お前のような欲深には宝よりその空箱の方がお似合いじゃ。
 
 少しは清貧という言葉を知ればよい」
 
 スピッキオの言葉に、疲れたようにレベッカが肩を落とした。
 舌戦を始めれば説教好きのスピッキオは後に引かず、結局付き合った分だけ疲れるのだ。
 
 奧に続く道を見つけ、即座に入って行く。
 
「こ、こりゃ…待たんかっ!」
 
 無視されて怒り出すスピッキオを、シグルトがなだめる。

「説教は後だ。
 
 今は敵地の中なんだから、大声は控えてくれ」
 
 「ぐむぅ」と唸って押し黙るスピッキオ。
 気付けば、シグルトもレベッカに続いて奥に進んでいる。
 
「もう歳なんだから。
 
 あんまり怒らない方が長生きの秘訣だよ」
 
 辛辣にそう言ってロマンも奧に進む。
 
 呆然とするスピッキオの大きな背中を、優しくラムーナが叩いた。
 気にしちゃダメ、という風に。

「おお、主よ。
 
 これは試練ですかの…?」
 
 大きな身体を折り曲げて項垂れ、スピッキオも仲間の後を追うことにした。
 
 
 部屋の奥はまた部屋になっており、石段が上へと続いていた。
 レベッカを先頭に石段を登ると、扉のある部屋に出る。
 
「扉の向こうに気配がするわ。
 多分オーク…複数よ。
 
 どうするリーダー?」
 
 扉を調べていたレベッカが、シグルトを振り返ると小声で囁いた。
 
「討伐が俺たちの仕事だからな。
 
 罠が無いなら、俺が先頭で飛び込もう。
 この広さの扉なら、俺の横はラムーナだ」
 
 仲間を集め、小声で伝えるシグルト。
 その後も扉を調べていたレベッカは、「連中、気付いていないわ」と付け足す。
 
「それなら呑気に援護の術を使うより、一気に踏み込んで奇襲しよう。
 
 3つ数えて踏み込むぞ…1、2、3っ!」
 
 滑るように同時に、シグルトとラムーナが部屋に飛び込んだ。
 
 部屋の中では4匹のオークがひしめいていたが、突然の来訪者に言葉も無い。
 
「ヤァアアアァァッッッ!!!」
 
 全力でラムーナが一匹に体当たりをする。
 
 よろめいたオークに、強い風が吹き付けてさらに傷を負わせた。
 精霊〈トリアムール〉の力である。
 
 シグルトがその風がくれる勢いに乗って、その隣にいたオークに剣を振るった。
 図太い首を叩き落とされて、オークの身体がどさりと倒れる。
 
 あまりの勢いに、オークたちは叫ぶことも出来ずに硬直していた。
 
「ふんっ!」
 
 スピッキオが部屋になだれ込む勢いをのせて、手前のオークを杖で突く。
 一打ちで、オークは意識を飛ばしよろめいた。
 
 その時点でロマンは、魔導書を手に呪文を準備していた。

 はっとして反撃してくる一匹のオーク。
 ラムーナがその攻撃を華麗に躱した刹那、シグルトは身体に宿った〈トリアムール〉の魔力を利用して【渾身の一撃】を放つと、そのオークも一気に屠る。
 頭蓋をかち割られたオークはだらしなく舌を出してのけぞると、びしゃりと脳漿を床にばら撒きながら後ろに倒れた。
 
「《…眠れっ!》」
 
 そこでロマンが完成させた【眠りの雲】の呪文が、勝負を決定づけた。
 
 睡魔に囚われた残りのオークたちは、地面に倒れる間も無く、シグルトとラムーナの追撃によって息の根を止められたのである。
 

「…っはぁっ」
 
 シグルトは全てのオークが倒れる数秒間、完全に呼吸を止めていたのだろう…すうと息を吸い込み、オークたちの遺骸が放つ生臭い臭気に眉間を寄せた。
 
「…無傷で、完全勝利ってやつね」
 
 レベッカが、どちらも一太刀で屠られたオークたちを見下ろして息を吐いた。
 屈強なオークを2匹も斃したシグルトの膂力には、感嘆の他無い。

 シグルトの使う精霊術には、術者の能力を強化する作用がある。
 当て難い大振りの攻撃では、その精度や威力をさらに高めるため、一気にたたみかける時には有用な攻撃なのだ。
 
 あまりに迅速な奇襲だったため、オークは仲間を呼ぶ隙も無かった。
 
「此処で行き止まりか。
 ベッドか…寝室だったようだなこの部屋は。

 今の騒ぎで、他のオークが来ると拙い。
 素早く調べて、さっきの分かれ道に戻るとしよう」
 
 シグルトは剣に着いた血糊と脂を、その部屋にあった腐りかけたシーツでぬぐうと、鞘に剣を納めた。
 
「はいはいっと。
 
 あら、ベッドの下からこんな物が出てきたわ」
 
 手早く調べ終えたレベッカが手に取ったのは、純金製の小さな鍵だった。
 
「何かの鍵みたいだけど、金だから鋳潰せばそこそこで売れるわよ」
 
 思わぬ副収入に、レベッカの顔がほころんだ。

「綺麗だね~」
 
 ラムーナも好奇に瞳を輝かせて、その鍵を見る。
 ロマンは鍵の造りから、出来た年代を推測しているようだ。
 
「宝探しは、討伐の後だ。
 
 どうせやるなら、ゆっくり探したいだろう?」
 
 呆れたように苦笑してシグルトが肩をすくめると、「まとまりが無いのう」と達観したようにスピッキオがばそりと呟いた。
 
 結局その部屋には鍵以外は無く、“風を纏う者”の一行は来た道を慎重に引き返すと、先ほどの分かれ道から奥に進む。
 しばらく天然の岩壁が続いていた。

「…止まって!」
 
 突然のレベッカの鋭い、静止の声。
 一同がはっとなると、その先には黒い影が浮かび上がった。
 
 2体の禍々しい悪魔像が立ち並び、奧を守るように配置されている。

「…これはガーゴイル像だね。
 時々門番…一種のゴーレムだったりするんだけど、この奧にオークがいるとするならただの飾りだと思うよ。
 そうでないと、通る度に襲いかかってきたり、馬鹿なオークが攻撃して傷くらい残ってるはずだからさ。
 
 この像はさっきの遺跡とは建造の時代が違うし、こっちは像以外天然の洞窟だね。
 魔術師の類が、後になって置いたんじゃないかな?」
 
 ロマンがそう推測する。
 
「攻撃してくる魔法生物でないのなら、下手に弄らないのが得策だな。
 
 奥に進むとしよう」
 
 危険が無いと判断したシグルトは、自身が先頭になって奥に進む。
 
 その奧には、梯子が掛かった縦穴があった。
 
「私が先頭に行くわ」
 
 レベッカが、しなやかな動きで素早く梯子を駆け上る。
 やがて、縦穴から彼女の白い手が出て手招きした。
 
 全員が登り切ると、さらに奥に進む。
 
「…ストップ。
 
 この先に部屋があるみたいね」
 
 窓のように開いた横穴から、やや赤く夕日が差し込んでいた。
 先ほどシグルトが仕留めたオークが、横穴の外にある岩棚に倒れている。
 
「この分だと、この先気付かれてると考えてもいいでしょうね。
 
 最初に聞いた話だと、この奧は行き止まりの広間になってるから、ロード種のオークはこの先にいるんじゃないかしら?」
 
 レベッカの言葉に、ロマンが頷いた。
 
「少しだけど石壁が見える。
 多分、王の間のつもりなんじゃないかな?
  
 オークロードの性質から言って、こういういかにも高くて、煙と一緒に上がりそうな場所にいる可能性が高いよ。
 見張りの配置から考えてもかなり神経質な奴みたいだし、聞いたとおりの部屋なら、残りの戦力全てで戦いを挑んでくると思う」
 
 言葉にするロマンは、少し緊張して顔が蒼白だ。
 ロード種に率いられたオークはとても強いからである。
 
「…そうか。
 では、こちらも決戦の構えで行くとしよう。
 
 スピッキオ、出し惜しみ無く皆に防御の秘蹟をかけてくれ。
 ラムーナと俺は突撃する。
 レベッカは援護を頼む。
 ロマン、攻撃魔法は使わなくていい。
 とにかく【眠りの雲】で、敵の出足をくじいてくれ。
 他のことは、一回【眠りの雲】を唱えるまで考えるな」
 
 シグルトは素早く指示を出すと、手をかざして〈トリアムール〉の名を呼んだ。
 横からシグルトを包み込むように、柔らかな旋風が巻き上がる。
 
 スピッキオが仲間の一人一人に【聖別の法】で、防御の加護をかけた。
 これは鋼鉄の鎧のような防御力を得るという秘蹟である。
 
「…では、突撃するぞ。
 
 3つ数えたら、一気に、だ。
 
 1、2…3っ!!!」
 
 一気にシグルトが部屋に飛び込む。
 
 景色が一変し、角張った人工の石壁が目に映った。
 
 奧には、重装備のオーク2匹と多数の手勢を引き連れ、大きな体格のオークがシグルトたちを睨み据えていた。
 オークたちはにわかに騒ぎ出すが、大きな体格のオークが一喝すると静かになる。
 
 そして、大柄なオーク…ロードは自身の剣を抜き放ち、がなり声で攻撃を命じる。
 
 素早く2匹の重装備をしたオークが前に出た。
 刺々しい兜をかぶり、気勢を上げて迫ってくる。
 
「むう、この陣形では親玉に攻撃が届きそうにないぞ?」
 
 スピッキオが十字架を前にかざしながら、歯ぎしりをする。
 
「ならば、前衛から切り崩すまでだっ!!!」

 トリアムールの風が迫ってくる一体のオークを打ち据え、シグルトは勢いのまま前衛の重装オークに斬りかかった。
 
 その横から舞うように一転したラムーナが、重装備のオークを蹴り飛ばした。
 怒り狂ったオークが突進して、ロマンが壁に激突する。
 
「…《眠れっ!!!》」
 
 同時にロマンの【眠りの雲】は完成していた。
 途端ばたばたとオークたちが眠りにつく。
 
「《主よっ、高き天の御座より慈悲の雨を降らせたまえっ!!!》」
 
 スピッキオが聖句を唱え、ぐったりとしたロマンを即座に癒す。
 
 シグルトの策が功を奏し、魔力を温存していたロマンの術で前衛が悉く眠ったため、敵はほとんど無力化していた。
 牙を軋ませ、後ろからオークロードが剣を振り回して躍り出る。
 
「っっ!
 
 こん畜生っ!!」
 
 スラングで怒鳴り、レベッカが短剣で正面のオークに止めを刺した。
 
 その横ではラムーナがくるくると回転して左右から連続攻撃し、2撃目で重装オークの頸椎を蹴り砕いていた。
 盛大に豚のような鼻から血を吹くと、重装オークは絶命する。
 
「ガァアアアアァァッ!!!」
 
 ちょこまかと動くレベッカを疎ましく思ったのだろうか、オークロードが甲冑の重みを利用した荒々しい体当たりを放った。
 脇腹を突き上げられたレベッカは、痙攣しながら吹き飛ばされた。
 
「くぅっ、持ちこたえろっ!」
 
 シグルトが即座に前面に出てレベッカを庇う。
 
「―ィィイヤャァァアアアアアッッッ!!!」
 
 ラムーナが気合いの声と共に、嵐のような一撃でオークの1匹を切り裂いた。
 
 すでに前衛の重装オークは倒れ、残るはロードを含めた後ろの5匹。
 敵の戦力は徐々に削られている。
 
 しかし“風を纏う者”の方も、レベッカが倒れぐったりして動かない。
 
「《主よっ!!》」
 
 そのピンチでスピッキオの聖句が朗々と響き、レベッカが即座に意識を回復した。
 
「…《眠れっ!!!》」
 
 【魔法の矢】で1匹を斃したロマンが再度【眠りの雲】を唱えると、勢い余って睡魔の霧を吸い込んだロードがぐらりとよろめく。
 
「ここで決めるぞっ!」
 
 シグルトが鋭い掛け声で仲間の士気を高め、剣を構える。
 
 ラムーナは今にも起きそうなオークの顎を蹴り砕き、続く肘打ちで頸骨を粉砕する。
 吹き飛んで壁にもたれかかると、そのオークは動かなくなった。
 
 ロードの攻撃で一様にかすり傷があるが、“風を纏う者”の面々の闘志は十分である。
 残る敵は、満身創痍のロードのみ。
 
「はぁああああっっっ!!!」
 
 シグルトの剣が、ロードの大剣とぶつかり合って火花を散らした。
 重い斬撃がぶつかり合い、互いの剣が軋んだ音を立てる。
 
 双方、再度の斬撃で肩を斬り合うが、スピッキオの秘蹟で守られたシグルトの傷は浅い。
 
「ブ、ブヒィィッ!!!」
 
 シグルトの一撃はロードの胸近くまで切り裂いていた。
 血を吐いて下がったロードの真上から、シグルトを飛び越えたラムーナが抉るような突きを放つ。
 
 ザシュゥゥゥッ!!!
 
 その一撃が止めとなり、ロードの巨躯は地響きを立てて倒れ臥した。
 
 
「…はぁはぁ、か、勝った~」
 
 ロマンが途端にへたり込む。
 レベッカも膝をつくと、荒い息を吐いた。
 
 ラムーナは、力尽きたようにふらふらと後ろによろめいて来た。
 すかさずシグルトがそれを支える。
 
「…かろうじて、勝ったの」
 
 スピッキオが、度重なる秘蹟の行使に応えてくれた神に感謝の言葉を捧げつつ、腰をとんとんと叩いている。
 
 皆服に鉤裂きが出来、擦り傷だらけだ。
 
「部屋は此処で最後のようだし、依頼は達成だ。

 重傷者は…いないようだな」
 
 ラムーナを立たせると、シグルトは自分の肩口の傷を確認している。
 「治すかの」と聞くスピッキオには、首を横に振った。
 
「軽い打ち身だ。
 血が出る傷にすらならなかったよ。
 
 スピッキオにかけてもらった秘蹟のおかげだな。
 あれがなかったら、ロード種の攻撃で鎖骨ごと肩を割られていた。
 
 他にも多少打撲はあるが、この程度は休んでいれば治るだろう」
 
 そう応え、不意にシグルトはラムーナの頭を撫でた。
 
「戦いの舞踏か…凄いものだな。
 
 今回はお前の技に救われたよ、ラムーナ」
 
 賛美を受けて、照れたようにラムーナが頭を掻いた。
 
「本当よ、ラムーナ。
 
 敵のほとんどは貴女の舞踏で、こてんぱんにやっつけてたじゃない。
 投資した価値があるってものだわ」
 
 レベッカもラムーナを絶賛して、抱きしめていた。 

「ロマンもいい判断だったぞ。
 最初の術の後、起きてくるオークを片端から眠らせたから、ロード種の対応に集中出来た。
 
 お前の【眠りの雲】が無ければ、俺たちの装備では、この数のオークを相手にするのは難しかったはずだ。
 今の感覚で術を使ってくれれば、前衛はとても助かる。
 だが、敵の攻撃には気をつけるんだぞ。
 さっきの怪我は大丈夫か?
 
 そういえば、レベッカは一度気を失っていたようだが、気持ち悪かったりはしないか?」
 
 仲間たちを労いながら、シグルトは仲間の細かいコンディションを確認していく。

「癪だけど、スピッキオの秘蹟のおかげね。
 
 防御の秘蹟がなかったら、危なかったわ。
 癒しの秘蹟も、いつも思うんだけど、本当に便利よねぇ…」
 
 自分にタックルして来たオークの死体を忌々しそうに見つめ、レベッカが秘蹟のことを褒める。
 
「ふん、だから言ったのじゃ。
 お前も少しは信仰心というものを持てい。
 
 まあ、皆命が無事のようでほっとしたわい」
 
 スピッキオが仲間に無断で秘蹟を修得し、教会への寄付を払ったため、そのことをレベッカが咎めたことがあった。
 だが、件の秘蹟は一行にとって大きな戦力になっていた。
 
「ふんっ。
 
 言っとくけど、無断でお金を使うのはこれからだってダメよ。
 私たちみんなのお金なんだからね」
 
 会計役がすっかり板についているレベッカは、負けずに言い返すと、部屋を探索し始めた。

「この部屋だけ遺跡っぽいから、何かありそうな気がするのよ。
 
 …と、やっぱりあったっ!」
 
 レベッカが壁のひびに紛れて動く石を見つけて慎重に押すと、壁がスライドしてやや小さめの扉が現れた。
 扉を調べて、眉間に皺を寄せる。
 
「…うはぁ、隠し扉に鍵付きねぇ。
 この隠し扉は最近まで使われてたようだから、そこのロード種がお宝を隠しているんでしょう。
 なんとも用心深いことだわ。
 
 さっき拾った鍵が合いそうね。
 開けるわよ?」
 
 心持ちうきうきした様子で、レベッカが振り向く。
 こういうところは盗賊らしいな、と苦笑してシグルトが頷いた。
 
 先ほど拾った金の鍵はぴったりと鍵穴に合い、隠し部屋の古びた扉が軋んだ音をたてて開いた。


「うわぁ…」
 
 ラムーナがやや狭い天井の部屋を見回して、感嘆の声を上げた。
 
 その部屋は一片の隙もなく石壁に覆われ、ひんやりとした空気が滞っている。 
 部屋の中央には滑らかな肌の禍々しい悪魔像が一体そびえ立ち、その左右に大きな箱が一つずつ置かれていた。

「ちょっとした宝物庫ね。
 
 あの用心深いロードのことを考えると、罠があるかも知れないわ。
 調べるから、少し後ろに下がってて」
 
 前に出たレベッカが、まず像を調べ始める。

「…この石像、これ見よがしに立派な宝石の指輪を持っているわ。
 
 この宝石、百年昔だったなら銀貨千枚は下らない代物だったんだけど、技術の発達と鉱脈が見つかったってことで価値が暴落したものなの。
 今では、通常ルートで銀貨三百枚ぐらいかしら。
 
 価値はそこそこにあるんだから、取って帰りたいところなんだけど…
 像の手元が綺麗なところを見ると、完全な罠ね。
 
 罠でないなら、あのオークロードが身に付けてそうな代物だもの」
 
 レベッカの後ろで悪魔像を観察していたロマンが、同意するように頷いた。

「これはおそらくガーゴイルだよ。
 
 魔法生物の一種で、作り手…魔力付与者にもよるんだけど、そこそこの戦闘力があるんだ。
 何より恐ろしいのは、宝物なんかの守護者として石像に擬態している奴で、正しい手順を踏まないと襲いかかってくるんだ。
 
 それと、この石像って他にも罠がありそうだね。
 普通の擬態したガーゴイルは、近づくだけで襲いかかってくるから。
 指輪を取った瞬間、魔法攻撃を受けるかもしれないよ。
 
 この像からして、キーワードで宝石が外れるか、あるいは完全な囮で指輪は付属品、ということかも知れない。
 
 もしその指輪を取るつもりなら、誰かが犠牲になるか、罠を解除する何かを見つけるしかないよ」
 
 ロマンのアドバイスを聞き、少し思案したレベッカだったが、やがてにんまりすると一同を見て言った。

「…取ると襲ってくるなら、まず壊そうか」
 
 過激な提案に、“風を纏う者”の一行は顔を見合わせた。


 その後、不本意だと言いつつロマンが【魔法の矢】を悪魔像に叩き付ける。
 遠距離から、ガスの罠などが無いことを確認するためだ。
 
 石像に攻撃する、という行為は野蛮な方法ではあったが、それなりに理に適ってる。
 宝箱を開けている最中に襲われては危険だからだ。
 
 シグルトは、もう一度〈トリアムール〉の力を身に宿していた。
 悪魔像の反撃に備えてのことである。
 
 だが、ロマンが唱えた【魔法の矢】が直撃すると、奇っ怪な悲鳴を上げた悪魔像は、びくりと手を動かしたがすぐに動かなくなった。
 念入りにシグルトとラムーナが2人で押して、石像を台座から落とし粉々に破壊する。

「【魔法の矢】は、この手の魔法生物にとっては驚異的な威力になるんだよ。
 シンプルな魔法による破壊の力は、ゴーレムの魔導回路や、魔力によって生命を吹き込まれた魔法生物の活動回路を破壊する効果があるんだ。
 
 ガーゴイルは比較的魔法生物としては弱い方だから、一溜まりもなかったんだね」
 
 乗り気でなかったロマンであるが、使った魔術に関しては自慢気であった。
 
 その横で、「はいはい」と適当に相槌を打ちながら、レベッカは飛び散った破片の中から先ほどの指輪を探し出すと、布で綺麗に磨いて包み込んだ。
 
「さて、邪魔なトラップを一つ片付けたし、次は箱の方よね~」
 
 手に入れたお宝を懐に仕舞い込むと、レベッカは壊れた悪魔像の向かって左側にある宝箱に近づく。
 調べるのか、とスピッキオが近づいた時には、がちゃりと鍵の開く音がしていた。

「ふふん♪
 私の手にかかっちゃ、この程度の鍵は可愛いものよ。
 
 それにしても、解除に失敗すると剃刀が出てきて箱が壊れる仕掛けなんて、あのオークロードはほんと性格が悪いわよね」
 
 鮮やかなレベッカの手際に、ラムーナが「すご~い」と感嘆の声を上げた。
 
「盗賊やってて一番楽しいのって、この瞬間よね~♪
 
 さぁて、何が入ってるやら―」
 
 レベッカの後ろから、開いた箱を仲間たちが覗き込む。
 
 箱にはその辺に転がっている綺麗な石や、見方によっては人型に見えなくも無い木の枝、獣の牙などがぎっしり詰め込まれていた。
 だが、古びた銀貨も何枚かがらくたにまみれて入っている。
 
「…ま、オークの宝だものね。
 銀貨で二百枚ってとこか。
 
 あとはほとんどゴミみたいなものだけど…」 
 
 それらをより分けていたレベッカが、やがてやや大振りの綺麗な石を見つけ、目を丸くする。

「これって、魔法の武具を作る時に使うっていう鉱石じゃないっ!
 
 …紅に金か。
 この【金鉱石】なんかはポートリオンでものすごく高値で取引されるのよね~
 ある意味、一番のお宝だわ。
 
 あの石像の指輪を含めれば、今回の報酬込みで銀貨二千枚は堅いわよ」
 
 他に金目のものが無いことを確認すると、レベッカはもう一つの宝箱に近づいた。
 途端に渋い顔になる。

「これって解除不能の罠、っていうか封印じゃないっ!
 
 だぁあっ、もう~腹立つっっ!!!」
 
 ぷりぷりと怒るレベッカによると、かなりたちの悪い魔法の罠らしい。
 下手に開けたり解除すると、大がかりな罠が発動するかも知れないということだった。

「大抵の盗賊はそうなんだけど、魔法系の罠って専門外なのよ。
 
 これを解除出来るとしたら、魔術師の専門魔術とかなんだけど…」
 
 やや期待の込められた目で、レベッカがロマンを見つめる。

「…だめだね。
 
 そもそもこの罠って、解除を前提に作られてないんじゃないかな?
 レベッカの言う通り、封印に近いよ。
 
 中にあるものは気になるけど、危険だから開けない方がいいよ」
 
 悔しさに身悶えしているレベッカの横で、こんなこともあるよ、ロマンが肩をすくめていた。
 
 その時である。
 突然周囲が揺れ出し、“風を纏う者”はさっと身構えた。
 
 しばらく続いた地震は、ぱらぱらと天井から土埃を落とすと、間もなく静まった。
 
「地震か?
 
 とにかく次のが来る前に部屋を…」
 
 シグルトが仲間に脱出を促そうとした、その時である。
 
「な、何でこうなるのよ~っ!!!」
 
 レベッカが頭を抱えていた。
 
「…箱、空いちゃった」
 
 ラムーナが指差す先には、先ほどの激しい地震の衝撃で開いた宝箱が転がっていた。
 
「ぐむぅ…何か臭いぞぃ」
 
 スピッキオは周囲に満ちてきた悪臭に、口元を押さえた。
 もうもうと白い煙が壁から吹き出してくる。

「と、扉が閉まっちゃったよっ!」
 
 ロマンが焦った声で、この部屋の唯一の出口があった場所を指さした。

「やばいわっ!
 
 これ、大量に吸うと昏睡に陥る毒煙よっ!!」
 
 切羽詰まった仲間たちの言葉に、シグルトは即座に行動を起こした。

「《トリアムールっ!》」
 
 シグルトの声に応えるように、渦巻く煙を退けて、旋風がビョウッと吹いた。
 
 ドゥォォオオオオンッ!!!
 
 風を纏いシグルトが起こした行動は単純だった。
 
「煙が晴れるまででいいっ!
 
 隙間を空ければ、すぐに窒息することはないはずだっ!!」
 
 仲間を励ますように叫ぶと、シグルトは繰り返し閉ざされた扉に体当たりをする。
 衝撃で僅かに扉が歪み、そこに出来た隙間めがけ、抜いた剣を突き立てた。
 
 乾いた音を立てて、剣が弾き返される。
 
「くっ…ならばっ!!!」
 
 シグルトは大きく後ろに下がり、全身の筋肉に力を溜め込んだ。
 そうして、ばね仕掛けのように扉に向かって腕を突き出す。
 
 低い体勢から稲妻のように走る、会心の刺突。
 
 何かを壊そうという時、力は線より点の方が効果的である。
 岩盤を破壊するためには鍬よりも鶴嘴の方が向いているように、剣を叩き付けるよりも穿つことを選んだのだ。
 短期間だが、シグルトなりに剣の機構を理解した上での咄嗟の判断だった。
 
 ガシィィィィイインッ!!!!!
 
 その突きを受けて、扉が大きく軋む音。
 
 しかし、絶えきれなかったシグルトの剣は砕け散った。
 
「…―ゥォォオオオオオオッッッ!!!!!!」
 
 腹の底から絞り出すような声を上げ、シグルトはそのまま渾身の体当たりを行う。
 
 歪んでいた密室の扉は、〈トリアムール〉が起こす旋風に守られたシグルトの突進で砕け散った。
 勢い余って部屋から転がり出る。

 転倒によって痺れる身体に鞭打ち、何とか立ち上がって振り返ると、仲間たちが一目散に走り出て来た。
 
「…皆、無事か?」
 
 体当たりをした時、砕けて自分の腕に突き刺さった石の欠片を引き抜きながら、シグルトは周囲に問うた。

「…何とかね。
 
 助かったわ、シグルト」
 
 レベッカが咽せて乱れた呼吸を整えながら答え、忌々しそうにがれきを蹴飛ばした。
 彼女が罠を発動させたのではないが、罠で命を落としそうになったこと自体が彼女の自尊心を損なったのだ。

「あ、危なかった~」
 
 蒼白な顔をしてロマンがへたり込んでいる。
 毒煙を吸い込んでそうなったわけではないようで、呼吸は徐々に落ち着いている様子だ。

「シグルトこそ、だいじょうぶ?」
 
 心配そうにラムーナが聞き返した。
 彼女はロマンの手を取っていち早く脱出したので、ダメージは無い。
 
 安堵して自分の腕を見ると、シグルトの腕は大きく裂けて、血が溢れ出していた。

「ふぅ…
 
 儂らよりも、お前の方が酷いようじゃの。
 どれ、手を出すがよい」
 
 頑健なスピッキオは、老いたとは言え全く疲弊していない。
 すぐにシグルトに近寄り、傷ついた腕に癒しの秘蹟をかけてくれる。
 
 無事を確認した“風を纏う者”の面々は、しばし脱力したように押し黙った。
 
 少し経って、シグルトは思い出したように砕けた剣の破片を拾い始める。

「…折れちゃったね」
 
 ラムーナがシグルトを手伝い始めた。
 感謝の言葉を口にすると、シグルトは破片を拾う行為を再開する。

 一通り欠片が集まると、シグルトはそれを袋にしまい、深い溜息を吐く。

「…これで3本目か。

 剣士たるものが、こう頻繁に剣を折るようでは話にならないな」
 
 肩を落とすシグルトを、仲間たちは気まずい心持ちで見つめていた。
 
 シグルトが武器を大切に使うことを、皆知っている。
 彼は手入れを怠ったことはないし、出来る限り折らないように気をつけて使っていた。
 
 砕けた剣は先輩冒険者のお古で、年代物だった。
 厚く屈強な造りだが、現代の優れた鍛冶技術から見れば骨董品と言える代物だ。
 
 度重なる血糊を浴び、激しい鍛錬と戦闘で使われ続けた武器は、何れ壊れる。
 ちゃんとした使い方をして壊れたこの剣は、寿命が来たとも言えるだろう。
 
「仕方ないわよ。
 
 私たちを助けるために無茶したんだし、石の扉をぶち破るなんて芸当…普通は鶴嘴でも使わなきゃ出来ないわ。
 
 それに、太ったオークを縦割りにするシグルトの力じゃ、斧を使っても刃が欠けるんじゃないかしら?
 肉を斬り骨を断つのって難しいし、一回やるだけでかなり切れ味が悪くなるものなのよ。
 
 今までそのなまくらを斬れるように使いこなしてたんだから、大したものよ」
 
 レベッカが自分の得物である短剣を撫でながら、私には無理だわ、と戯けて見せる。
 
 シグルトの使っていた剣は、斬るためのものというよりも、鎧の上から殴り合うことを想定した鈍重な物だった。
 時代としては重装の板金鎧(プレートアーマー)が増えた現代よりも少し昔、鎖帷子(チェインメイル)や鋲鎧(スタデットアーマー)が主流だった頃に使われていたものだ。
 現代では、先端が鋭利になり鎧の継ぎ目から刺すか、穿ち抜くタイプの刀剣が増えている。
 
「仕方ない…不本意だが、この場はこの中から適当なのを探して使うとしよう」
 
 シグルトはまずオークロードが使っていた剣を拾い上げると、具合を確かめていた。
 それは、背の高いシグルトの手にも余るような大剣だ。
 
「…使えそう?」
 
 ラムーナが尋ねると、シグルトは首を横に振った。

「何度か斬り合ったせいか、柄がぐらついている。
 激しい打ち込みをしたからな…
 俺の剣も、あの時にひびでも入っていたようだ。
 そうでなければ、あのこまで派手に砕けはしないだろうし、な。
 
 この剣は俺の体格では大き過ぎるし、刀身が重いから補強も意味を為さない。
 砕けている目釘を金属にすれば、多少は持ちそうだが…
 何時柄から刀身がすっぽ抜けるか…危なくて扱えないよ。
 
 こんな危なっかしい得物を使うぐらいなら、素手の方がいくらかましだ。

 他も同様だな…
 錆びていたり刃が欠けていたり…量産物の粗悪品ばかりだ。
 たぶん、死体から剥ぎ取った類の物だと思う。
 
 皆手入れがされてないから、傷み方が酷い」
 
 シグルトは慣れた手つきで目釘(刀身を柄に固定するボルト)を抜くと、柄から刃を外し、根本の部分も念入りに確かめる。
 力がかかりやすいこの部分は、よく壊れるのだ。
 そして、鍔迫り合いをした時にこの部分から折れたりすれば、高い確率で大きな手傷を負うことになるだろう。
 
「…とりあえずは、オークの護衛が使っていた得物にするよ。
 
 多少錆びているが、傷みは比較的少ない」
 
 シグルトが最後に手に取ったのは、厚刃の蛮刀(ファルシオン)だ。
 剣士の持ち物、というよりは山賊が振り回す類の武器である。
 
 慣れない武器の性質を確かめるように、シグルトは素振りをしては、重さや握り具合を調べていた。

「―…部屋の中の毒霧が晴れるわよ」
 
 取り損なった宝物を得るために、レベッカは剣の物色をするシグルトの脇で宝物庫の罠が落ち着くのを待っていた。

「死にかけたというのに、がめついのう」
 
 呆れた様子でスピッキオが眉を動かした。

「なればこそよ。
 
 罠まで発動したんだから、お宝を拝まなきゃね」

 レベッカは恥をかいた分、利益で取り戻すつもりのようだ。
 ある意味、このパーティでレベッカが一番図太いと言える。
 
(折れない分、剣よりレベッカの方が強いよね…)
 
 そう考えたことは隠しておこうと、ロマンは笑いを噛みつつ、胸に秘めた。
 同様に感じたのか、シグルトが苦笑している。

 そんな2人の態度は目に入らないかのように、さっさと宝箱の前に来たレベッカが、慎重に空いた箱の中を覗き込んだ。

「…な、何よこれっ!」
 
 レベッカが怒りを露わに箱から取り出したのは、鉄で出来た粗末な輪だった。
 赤く錆びたそれは、まるで何かを拘束するための首輪のようだ。
 売ったとして、銀貨一枚にもならないだろう。

 落胆するレベッカの横で、ロマンが首を傾げた。
 
「こんな物を大げさに罠付きの宝箱に入れるなんて、あのオークは変わった価値観を持っていたみたいだね。
 
 まぁ、ゴブリンロードが動物の手をコレクションしていたり、グリフォンが宝石の変わりにタイルを集めていたって話はざらだから。
 こういうのもアリなんじゃないかな?」
 
 落ち込むレベッカの横でシグルトがその鉄の輪を覗き込むと、何事か考え込む。
 そして、ロマンの言葉を否定するように、首を横に振った。

「…これはかなりの拾い物かも知れんぞ。
 
 輪に付いている紋章…蝶のような形をしているだろう。
 これは古の零落した神々を表しているんだ。
 
 太古に権勢を誇った彼の神々は、聖北の台頭によって追いやられ、姿を虫や獣に変えた。
 それが妖精の起源だとする説がある。
 
 さっきの【聖別の葡萄酒】に描かれた聖印は、確かその時代の名残だったはずだが」
 
 シグルトの言葉に、ロマンが「ああっ!」と叫んで手を打った。

「確かに…かすれてるけど、その紋章の横にあるのは四つ葉のクローバーを表す十字と、三位一体を示す正三角形だ。
 シグルトの言った聖印は、似た紋章を取り込んだって説のものだよ。

 その神々って、〈ダヌの眷属(トゥアハ・デ・ダナーン)〉のことだよね?
 だとすると、古の鉄の民…この西方で最初に鉄器を使った古代人の物じゃないかな。
 
 骨董商に売れば、その手の蒐集家なら結構なお金で買ってくれるかも…」
 
 価値があるかもしれない物だと分かった途端、レベッカの表情がぱっと輝いた。
 
「しかし…何か祭器の類かもしれないぞ。
 鉄の指輪や額冠(サークレット)は、鉄の民が好んで用いた呪物だったはずだ。
 
 確か鉄には妖精や精霊の力を封じる力が宿っていたはずだが…」

 シグルトは伝承に詳しい。
 古い神話や物語では、ロマンが知らないようなことも数多く覚えていた。
 
 感心するロマンやラムーナの横で、やや渋いかををするレベッカ。
 彼女にとっては、金になるかも知れないという以外、この輪は薄汚い鉄の塊でしかないのだ。
 
 とりあえず持ち帰ろうと言うレベッカに、シグルトが注意を促そうとしたとの時…

 パキィィィン…

「…あっ!!!」

 さほど力を入れたわけでもないのに、鉄の輪は真っ二つに割れてしまった。
 
 愕然となるレベッカ。
 仲間たちも肩すかしを喰らったように渋い顔になった。

「…ま、こんなこともあるよね?」
 
 仲間たちを励ますようにラムーナが声をかける中、シグルトは突然視界が霞むのを感じ、目をこする。
 鉄の輪が割れた瞬間、光のようなものが溢れたように感じたのだ。

(「…出られたっ!
  …出られたっ!
  
  暗いところから、やっと出られたよっ!!」)
 
 突然甲高い声が聞こえ、シグルトは周囲を見回した。
 
「どうしたんじゃ?」
 
 挙動不審なシグルトの行動に、スピッキオが声をかける。

「…いや、何か聞こえたような気がしたんだが…」
 
 周囲を見回すシグルトに、レベッカが「止めてよね~」と落ち込んだ様子で言う。

「私の耳には何も聞こえないわ。
 
 敵の残党がいるなら、聞き逃さないわよ」
 
 そうだな、と返事をしようとしたシグルトは、次の瞬間また緊張に眉根を寄せ、身を固めていた。

(「…そこにいるのは白き森の姫君、オルテンシア様の血を引く人間…
  鉄の呪いに囚われた、青黒い髪の一族、“鐵の王家”の末裔だね?
 
  私を解放してくれたのは、貴方?
 
  長い長い時の頚木から開放してくれた、私の恩人。
  風を連れ、〈お母様〉の祝福を受けた、“屈せぬ者”)」
 
 今度は確かに、自分に向かってかけられた〈声〉を聞いたのだ。

「俺に話しかけているのは、一体何者だ?!」
 
 シグルトは、訝しがる仲間たちを制して続きを問うた。
 新しい敵ならば、立ち向かわなければならない。
 そう決意して、虚空を睨む。
  
 空間から滲み出すように、くすくすと笑い声が聞こえる。

(「私は古の者。
 
  貴方たちが“妖精”と呼ぶ、古い神の眷属。
  物語に語られる〈翔精(フェアリー)〉たちの古い始まり。
 
  私は“環を為す隠者”。
  〈常若の国(ティル・ナ・ノーグ)〉より迷い出たる、彷徨う者。

  貴方は“屈せぬ者”。
  私は、暗い闇の底から出してもらえたこの代償に、同じように〈縛られぬための力〉を授けるよ。
  
  私の環は、束縛の頚木から解き放つ、姿を隠す魔法の環。
  妖精の国に通じる、神隠しの環。
  
  私の代わりに〈常若の国〉の入り口を探して。
  それまで、代わりに環の力を貸して上げる」)
  
 そこまで言って、不思議な声はぴたりと止んだ。
 同時にシグルトの右手の指先が、かっと熱くなる。
 
 よく見れば、爪と皮膚の間に小さな模様が浮かび出ていた。
 それは、あの鉄輪に刻まれていた蝶の紋章と同じ形をしている。
 
 シグルトの頭に、ぼんやりと輝く光の環の形がイメージとして伝わり、すぐに理解する。
 声が言う〈縛られぬための力〉のことを。

(…神隠しの環、か。
 妖精が悪戯をする時に現れる、〈妖精の環(フェアリー・リング)〉のことだな。
 
 それにしても…〈常若の国〉の妖精とは。
 〈トリアムール〉の時といい、この間の死神のことといい…
 俺はつくづく、こういった連中と縁があるらしい)
 
 シグルトが苦笑すると、怒ったようにその周囲を風が舞った。

(「何よぅ、新参者のくせにシグルトの身体に宿るなんてっ!
 
  私の方が先輩なんだから、挨拶ぐらいしなさいよねっ!!」)
 
 風の中から聞こえた声に、またはっとする。
 シグルトは、風から感じ取れる確かな〈声〉を聞き取っていた。
 
(今のは〈トリアムール〉の声…?
 
 そうか。
 妖精が身に宿るということは、精霊や妖精に近くなるということだ。
 この感覚を覚えておけば、俺でも精霊の声を聞くことが出来るということか。
  
 これは、思わぬ拾いものをしたかもしれんな…)

 一人感慨深げに頷くシグルトを見て、“風を纏う者”の仲間たちは、揃って心配そうな面持ちになった。
 
「…すまん。
 この鉄輪に封じられていた者が、話しかけてきたのでな。
 
 輪は壊れてしまったが、ちょっと便利なものが手に入った。
 帰る道すがら、説明するよ」
 
 苦笑するシグルトの言葉に、仲間たちはぽかんとしていた。
 
 その時、終に一同は気が付かなかった。
 割れた鉄の輪から、碧い視線がずっとシグルトを眺めていたことを。

(「まずは耳。
  次は目を与えよう。
  
  代わりに何を捧げて貰おうか?
  
  ふふふ、間もなく微睡みで見えよう、愛し子よ…
  お前が【開闢】に届く、その時を見ながら」)
 
 〈それ〉は、さも楽しそうに笑みを浮かべると、目を閉じた。


 
 またまたお久しぶりのY2つです。
 うちのマイコンが不調でして、IEに繋ぐと突然停止するわ、ブルー画面になるわ…
 仕方ないので、5月前半はほとんどパソコンの改造をやってました。
 私のパソコンは自作なので、不調も多いのです…とほほ。
 
 ようやく拡張が終わったと思ったら、カードワースの入ってたハードディスクがデータ認識せず…復旧ソフトでなんとかして、気付けば1シナリオUPするのに半月以上かかってました。
 ぐったりです、もう。
 
 と、愚痴はこのあたりにしておき…
 
 やっと書いた『シンバットの洞窟』。
 かつて合作を作ったDjinnさんが関わったシナリオということで、張り切ってリプレイしてます。
 
 このシナリオの攻略法は研究してましたので、スムーズに探索を進めました。
 シグルトが使った【飄纏う勇姿】のスキルは、こんな使い方が出来るのです。
 キーコード万歳ですねぇ。
 
 序盤、行動力UPを利用して、【渾身の一撃】するのは有用な戦い方なので、お勧めです。
 当たるし、ダメージがかなり大きくなります。
 
 ラムーナの【連捷の蜂】は、予想通りの活躍ぶりで、ロード戦は、半数の敵をこのスキルで斃しちゃったりしてます。
 召喚系の連撃は、手数が増えるので序盤こそお勧めです。
 特に【飄纏う勇姿】は、待機召喚(あらかじめ召喚しておく)が便利です。
 使用時に攻撃できませんからね。
 
 罠解除なんかで一瞬成功率を上げる時なんかにも使えたりします。
 ちょっとだけ裏技なんですが。
 
 今回もう一つ役だったのがスピッキオの【聖別の法】です。
 最終戦でオークの全体攻撃を2連発で喰らったのですが、何とか勝てましたし。
 
 このシナリオは、戦術がものを言います。
 キーコードが多大な威力を発揮するので、持ってる手札はフルに利用するつもりで挑戦してみると意外な発見があるかもです。
 
 最初の見張りですが、奧に【魔法の矢】、手前に【眠りの雲】がかなりベストなパターン化も知れません。
 【眠りの雲】は、このシナリオで最高の切り札になります。
 実際の戦闘のために温存しておくと、ばれて頻繁に戦闘が起こる時でもいくらか楽になりますよ。
 
 このシナリオ、手に入る財宝もたくさんあります。
 序盤金策に困った時は、このシナリオで稼ぐのも吉です。
 
 手に入ったものは…
 
・報酬600SP
・アイテム【聖別の葡萄酒】×1
・アイテム【金色の鍵】 ×1
・アイテム【サーフ・レア】×1
・お金200SP
・アイテム【金鉱石】×1
・アイテム【紅曜石】×1
・スキル【妖精の護環】×1
 
 レアリティでは、付帯能力でもある【ジンニャー】がお勧めなのですが、私の場合は自分の関わったスキル【妖精の護環】にしました。
 欲しい方は、うちの『風屋』でも変わらず買えるので、どうぞ。
 このスキルの本来の使い方は、何れ紹介いたします。
 
 宝物庫のドアは、ちょうど残っていた【飄纏う勇姿】の召喚獣2回で、かる~く突破しました。
 【攻撃】のキーコード、宝物庫攻略の時点では使えるスキルが不足してしまいがちなのですが…
 
 罠に引っかかって、ガーゴイルを斃した後、残り物で…
 このあたりは選択肢があって楽しいところです。
 
 今回、他のリプレイを阻害しないように、あえてジンニャーちゃんは出しませんでした。
 彼女との問答はとっても楽しいんですけどね。
 
 前半はごく普通のオーク退治として話をまとめています。
 クロスオーバーを考える時、有名どころのシナリオはこのようにリプレイするのもアリですよ。
 私の場合、シグルトたちの前に、「依頼を完遂できなかった冒険者がいる」という形にしています。
 
 
 さて、後半訳の分からないのはとりあえず伏線です。
 ただ、今回のリプレイを見て「これってあのネタか?!」と思っていただけたらちょっぴり嬉しいです。
 
 妖精の話とか、聖印の話とか、帝国の話とか、実際の文明や神話ををモデルにしてたりします。
 
 
 次回はいよいよシグルトとあの方とのファーストコンタクトがっ!
 剣といったら、あのお髭の方です。
 ややマニアックな展開を企画していますので、ちょっとだけ期待していてください。
 
 Djinnさん、アイデアが遅れて御免なさいね~

 今回のシナリオで一斉にレベルアップが…
 
 レベッカ   レベル2→3
 ロマン    レベル1→2
 ラムーナ   レベル1→2
 スピッキオ  レベル2→3
 
 みんなそろそろ中堅冒険者の入り口です。

 
 おっと、現在の所持金は…
 
  6338SP(チャリ~ン♪)


〈著作情報〉2008年05月13日現在

 『シンバットの洞窟』はチーム ARA-DDIN(アラ・ジン)のシナリオです。現時点Djinnさんのサイトで配布されています。
 チーム ARA-DDIN(アラ・ジン)はDjinnさんとるの字さんのユニットです。
 シナリオの著作権は、ARA-DDIN(アラ・ジン)のお二人にあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.00です。
  
・Djinnさんサイト『水底のオアシス』 (○ttp://djinn.xrea.jp)←○をhに。
・るの字さんのサイト『魔界の扉』(○ttp://lunoji.fc2web.com/)←○をhに。
  
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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