Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

CW:Y2つ風リプレイ講座 第九回

 第九回(前回の第九回は間違いです…)は、リプレイという二次創作の性質についてお話します。


◇リプレイとは、人様のシナリオを自分の作品としても描くこと
 リプレイ、それは人様のシナリオをプレイして、新しい二次創作をすることです。
 基本的にはプレイ結果が重要となりますが、二次創作としての創作力も関わって来るので、なかなか厄介なんですね。

 特に、とにかく書いてみようとリプレイを始めた方は、実際に文章を書く難しさを痛感し、また素晴らしいシナリオをプレイする時に、自身の表現力やボキャブラリーの限界を感じて執筆が止まってしまう方は多いでしょう。
 人間は感情でも文章が欠けるので、感情で文章が止まってしまう時もあるのです。

 悲観性は、その感性を上手く活かせば才能になりますが、悩むことにハマるとモチベーションが低下して愚痴を言って終わってしまう場合も多いでしょう。
 すぐれた作品や才能を前にすると、ビビってしまうことでモチベーションが下がる人もいるかもしれません。

 人様の作品を自分風に描く…とても難しいことです。
 でも、それは同じゲームを別々の人がやって書く各感想と同じく、ちょっとずつ、あるいは沢山、「違い」があるもの。
 悪びれず、落ち込まずにのびのびと書いていけばいいです。


◇ただの盗作はNGだが、技術を真似るのは学ぶこと
 リプレイを書くうちに、どこか盗作っぽくなったとNGにしてしまうこともあるかもしれません。
 普通にほっとくとそれは著作権違反ですし、鬼の首を取ったかのように突っ込んでくる人もいるかもしれません。

 でも、人の技術から真似て学ぶことは大切です。
 リプレイとは、人様のシナリオを一回プレイして影響を受けてから書くわけですから、これは余計にそう言えます。

 前提つきで、意図的に書き写すだけでも、リプレイという形式上誤りではありません。
 ちゃんと「一部まる写しさせてもらった」とか、断りを入れておけば、ちゃんとリプレイになります。

 大切なのは、盗作っぽく見える場合は「~した」と断りを入れ、著作権を侵すのではなく、リプレイとしてそのまま表現したと「引用」として上手く描くことです。
 リプレイなんですから、すでに二次創作。
 上手くいかない時は、無理に自分流に書くよりも、流れに従うのもまたテクニックです。

 こういうのを「真似る」とか「習った」とか言うのですが、世の中には突っ込む人もいるでしょう。
 その時は、突っ込んで来た人の言い分を聞いて、足りない説明を謙虚に補って下さい。
 
 最初にちゃんと作者さんの著作権を尊重してリプレイを書いていれば、そんなに大きなトラブルは起きないはずです。

 出来るなら、最大限シナリオを作った作者さんに敬意と誠意を払って下さい。
 それが出来ていれば、多くの作者さんはリプレイの形式を責めたりはしません。

 作品を発表するということは、自分の考えや我を見せる部分でもあります。
 それは、「突っ込まれる可能性」を秘めています。

 私の場合、誤字やら過激な表現やらで突っ込まれることは多々ありますが、敬意だけは忘れないつもりです。
 もちろん、ただの誹謗中傷は無視しますけどね。

 
◇自分の技法も確立する
 私の書き方をある方が「Y2つ節」と評価して下さったことがあります。
 
 おそらく、ですが、くどくど説明して文章を濃くしていく技法を多用する癖のことだと思うのですが… 
 自分なりの技法を確立し、二次創作であっても自分っぽいスタイルに変えて行くのもいいです。

 私は、書き方にもそれなりにスタイルを確立しています。
 
 例えば、呪文詠唱は《》でまとめるとか。
 カードワースのメッセージボードをイメージ出来るように、かつ読みやすい様に、テキストで2~5行単位ごとに一行開けるとか。

 リプレイを書きながら、自分の形に直すだけでかなり纏まります。
 同時に、背景となる時代や表現に微修正するのも良いでしょう。

 例えば良く見る「お陀仏」。
 聖北教圏の人間なら「神に召された」でしょうし、ナチュラリスト的には「大地に還った」とか。
 ずいぶん違和感が無くなります。

 私のスタイルの一つに、「真面目に時代考証する」こともあります。
 濃厚なその表現に拘ってると、分かってくれる方は感想なんかで「良かった」と評価して下さいます。
 
 無論、誤植魔の私のこと、大ポカも沢山するのですが、お金取って書いてるわけでは無いので後で直してしまいます。

 自己流も、評価されるモノはどんどんものにして、たくさん書いて、総合評価から自分の書き方が確立し、変容していきます。
 焦らずに、自分の出来る文章や世界観のルールを、クロスオーバーを見据えつつやってみて下さい。
 
 案外、その辺りから書き慣れてくるかもしれませんよ。


◇二次創作としての性質を見据えよう
 繰り返しになるかもしれませんが、リプレイは二次創作です。
 誰かの作ったシナリオの、そして何よりGroupAskさんのカードワースという世界観をベースに描いているわけです。

 それ故の書き方や注意点が結構あります。

 まずは著作権。
 このフォローは絶対です。
 忘れると、しっぺ返しもありうるかもしれません。

 法に五月蠅い現代では、最悪お縄頂戴にもなりまねません。
 シナリオとシステムに関する著作表記は忘れずにしましょうね。
 私のリプレイの表記など、役に立ちそうならコピペしてお使い下さい。

 あと、世界観。
 聖北教会や、魔術学連、盗賊ギルドといった組織。
 リューン、『隠者の庵』に代表される技能やキーコード。
 男が力持ちで、女が器用なシステム的知識。

 知っておくと便利なことも沢山あります。

 まずは、カードワースという世界を調べてみて下さい。
 知れば知るほど、書ける内容も厚くなっていきます。

 私は、シナリオでスキルを作ってみたり、合作で意見交換してみたり、カードワースダッシュ製作の過程でシステム的な性格を知ってみたりと、経験でリプレイに影響していることも多々あります。
 上手く書くためには、知ることも大切です。

 是非、CWUNの記事や、情報サイトを読んでみて、もっとカードワースを知ってみて下さい。

 私の分かることでしたらお教えしますので、聞いてみることもありです。

 本質を知って、それ故に素晴らしい二次創作が出来るようになってみて下さい。


※補っておきますが、リプレイ講座はY2つの私的講座なので、真に受けて「絶対こうだ~」とか言わないで下さいね。
 私は強制するつもりはありませし、テクニックも私見も、私なりの物を紹介しているに過ぎません。

 当然、他の方と意見の違う内容もあります。
 私は強制しませんし、逆に人の要求も意に添わなければお断りしています。

 不快な文章がありましたら、私の人間的欠陥だと笑って許して頂ければ幸いです。
 文章というものは、兎角思う全ては書き切れません。
 そういった至らない部分を含めて、お詫び致します。

 少しでも参考になれば幸いですが…参考にならない部分はどうか流して下さいね。
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※シナリオのバグ大量発生につき御報告

 公開中の『風たちがもたらすもの』、『風鎧う刃金の技』、『剣士の求めSP』に大量のバグがありました。
 虫の鳴く(バグ発生の)季節だなぁ。

 特に『剣士の求めSP』はかなり沢山のバグがありました。
 心よりお詫びいたします。

 御報告下さった氷羽根さんには、とても感謝しています。

 すでに修正版を公開中です。
 御迷惑をおかけしました。
 重ねてお詫び申し上げます。

 シナリオは Y字の交差路別院 から。
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風屋、DL再開中

 公開中止していた『風たちがもたらすもの』ですが、一応最新版であるVer1.02を、とりあえずブリーフケースに入れておきます。
 
 必要な方は、以下からダウンロードして下さい。 

2009/08/26 Ver1.03 アイテム【紫電の魔石】バグ修正
         バグ報告有難う御座います。

 
 
 【 Y字の交差路別院 】
 
 保管場所が変更されました。
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ブログ三周年記念第一弾!

 日頃、Y字の交差路を御利用下さり、有難う御座います。
 速いもので、あと半月ほどで当ブログの三周年がやって参ります。

 二周年では何もできなかったので、今回は最低一個は…と思い、一周年記念で配布した剣術シナリオを、『風鎧う刃金の技』のカウンターシステムを加えてリメイクし、お届けします。

 スキルが二つ追加し、内容は別モノと言えます。
 当然、、『風鎧う刃金の技』とはスキルのリンクが可能ですので、スキル選択の幅は増えるでしょう。
 
 楽しんで頂ければ好いのですが…

2009/05/16 SPVer2.03。不要カードの削除。
         氷羽さん、御報告有難う御座います。
         Ver2.02のバグは余分なカードが一枚あるだけです。
         シナリオ進行上、不具合にはなりませんので、再DLするほどのことも
         ないかもしれませんが…申し訳ありませんでした。


2009/05/17 SPVer2.04。スキル【獅子睨】修正。
         解説文修正。Lohengrinさん、御報告有難う御座います。
 

2009/08/26 SPVer2.06。反撃/溜め属性スキルのバグ修正。
         氷羽さん、御報告有難う御座います
         バグが多かったので、現在スキル使用の方は、
         出来るだけこのバージョンのスキルに御変更下さい。
         対象スキルは【隼踊穿】以外の反撃/溜め属性スキルです。
         御迷惑をおかけしてすいません。
        

 件のシナリオ 『剣士の求めSPVer2』は以下でDLして下さい。

 (Y字の交差路別院
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微睡む刃金 オープニング体験版

 体調が思わしくないので、更新ちょこっとだけ。

 製作中の『微睡む刃金』というシナリオの、オープニング体験版をUPしました。
 とりあえず完成はずっと先になるでしょうが…、雰囲気だけでも感じ取ってもらえれば幸いです。

 アレトゥーザでレナータを連れ込んでいる場合、サブエピソードを見ることが出来ます。
 よかったらそっちも含めて、読んでみて下さい。


 尚…【精霊術師】or【_精霊術師】の称号必須です!
 Martさんか私のシナリオで付けてからプレイ下さい。

 シナリオの所在は何時もの如く Y字の交差路別院 にあります。
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『ジゼリッタ』

 出発の朝、シグルトとロマンは早々に食事を済ませると、フォーチュン=ベルの朝市に立ち寄っていた。
 旅の間の保存食や、油などの消耗品を手に入れるためである。

 身体一つで踏破出来るほど、この時代の旅は甘くない。

 山賊や野盗はもちろん、獣や怪物に襲われる危険性。
 崖崩れや地割れで街道を逸れた時の備え。
 旅の最中に病に陥った時の対策。

 この時代一般人のほとんどが、故郷を出ることなくその土に還るのが当たり前だった。
 旅とは命懸けなのである。

 シグルトは、故郷から西方にやって来るまで、多少は旅慣れしていた。
 西方人がその名を聞けば震え上がる、城塞都市キーレや蛮族領を通過して来たのだ。

 対してロマンは、子供という身の上と華奢な身体つきから、あまり旅に向いていなかった。
 今回は馬があるので移動は楽だが、“風を纏う者”では一番体力も無い。

 シグルトは、ロマンがパーティに居る時は、その体力配分にも気を掛ける様にしていた。

 ロマンは要領が良い。
 自分が一番疲れない動作を心掛けているので、並の大人より沢山の距離を歩くことが出来る。

 シグルトは、馬に乗せられる分量を考え、水で増やせる保存食を中心に、重量が軽いものを購入していた。

 購入といっても、シグルトたちはほとんど通貨を使わない。
 無駄な出費になるからだ。

 商人が儲けるのは、利益が出るからである。
 加えて、販売に関する税金も、商品に上乗せされていた。
 その分だけ、消費者は金銭を失うのである。

 だが、ほとんどの都市の場合、「金銭の使用によって税金と利潤が発生する」仕組だった。
 物々交換をした場合、この関税が掛からなくなるので、安く済むのだ。

 普通に、それを見逃すほど役人も甘くない。
 一般人は通貨で購入し、売買には税金が生まれる様にちゃんとなっている。
 商人たちは、組合を作ってまとめて税金を納めたり、豪商は個人で税金を納めて、商業権を得るのだ。

 彼らの様な商人たちには、沢山の権利が認められており、税金の分保護されているわけである。

 だが、何事にも抜け道はある…それが時間や売り場の制限がある市だ。

 朝や夕べに立つ市は、指定した時間内に安い税金と場所代で商売を許可することが多い。
 故に、特別な権利を持たない農夫や猟師、旅商などが露店を開く機会にもなる。

 市では「一定時間内に商品を売り尽くす」のが理想となり、結果的に物品はとても安く売られていた。
 そこで生まれた利潤は、それぞれが商人から買い物をする金になり、この状態まで権利云々で口を出す商人は少ない。
 役人も、都市の活性化や、市民の懐を潤し多少なりとも税金を取れるので認めていた。

 此処で重要になるのが、「税金を払った者は、その市において商業権を得る」ことである。

 物品の仕入れに関する権利が、認められる可能性があるのだ。
 しかも、市は「取引する物品の限定が少ない」のである。
 細かい制限を説明していたら、露店を出す前に市が終わってしまうからだ。

 冒険者が珍しい物品で、「税金を払って商売している者」に取引を持ちかけた場合、持ちかけられた側はそれを「仕入れ」る事が出来る。
 対価として、その商人は冒険者の求める物品を与えて、取引を成立させる。

 事実上の物々交換が可能なのだ。

 ほとんどの旅商や、市に立つ〈にわか商人〉は、生活のために商売をしている。
 通貨を得て買い物をするのは当然だが、自分たちが欲しいものを安く手に入れたいのが本心だ。

 砂糖や塩は、商人が高く扱う高級品で、中々手に入らない。
 それを交換の対価として呈示すれば、大抵は取引に応じてくれるのである。

 市における物々交換は、税金があまりかからないマジックであった。
 これを利用すれば、圧倒的に安く品物が手に入るというわけだ。

 この様な抜け道を禁止する厳しい都市も、もちろんある。
 だが、下手な拘束や制限は、都市への人の出入りを停滞させてしまう。
 税金が発生しなくなり、都市は活力を失う。

 それに、農夫や漁師の様なにわか商人は、難しい制限を理解出来ず別の取引先を探す。
 ただ複雑であっても、弊害を起こすのだ。
 
 時間制限を設け地域的にも限定的に行うという条件で、多くの都市はこういった商いの自由化を認めていた。

 人気のある塩や砂糖、香辛料は物々交換に適している。
 〈にわか商人〉に「材料」として取引を持ち掛ければ、どの商売でも必需品であるため、他安く物々交換が成立する。

 古い保存食品は据え置きで引き取って貰い、塩や砂糖の様な調味料を加えて必要なものをまとめて手に入れる…それは旅をする冒険者の、世渡りの術なのだ。

 シグルトは、このやり方をレベッカから学んだ。
 彼女に付き合ううち、彼自身もそれなりに交渉が出来る様になった。
 まさに、「門前の小僧」である。

 シグルトは、贔屓にしている露店を回り、干した無花果(いちじく)や胡桃、干し肉などを仕入れる。

 相手は若手の行商や子供が多かった。
 これは、シグルトが子供贔屓なわけでは無く、ちゃんと理由がある。

 若手や子供は、どうしても客に舐められて足元を見られる。
 だから、シグルトの様に交渉を持ち掛ける客は有り難いのだ。
 
 顔見知りであればおまけもしてくれるし、持ちつ持たれつである。
 
 気がつけば、数片の砂糖と塩一袋、道中で摘んで来た薬草だけで、荷物袋いっぱいの食料が揃っていた。
 交換する時、割ががいいのはやはり香辛料や砂糖である。

 揃えた食品は、多彩だった。

 干し肉は保存食の代名詞とも言えるが、それだけでは身が持たない。

 ビスケットやパン、保存用の香草に、干した果物。
 林檎などの、多少は日持ちする果物類は、水分補給にもなる。

 塩や香辛料は、虫除けや食糧保存のためにも使うが、大量に使うと身体を害する。
 薄味に慣れることは、旅する者に必要であった。

 シグルトは、アレトゥーザ商人の知り合いが喜びそうな物も少し手に入れ、買い物を終えた。
 先を見越して品物を仕入れるのは、次の機会に自身を助けてくれる。
 
 そして、待たせていたロマンを探すと、彼は怪しげな露店で指輪を買っているところだった。

「ロマン、何を買ったんだ?」

 シグルトが尋ねると、ロマンはその小さな指輪を自慢げに示した。

「遺跡で時々見つかる魔法の指輪だよ。

 これ一つに、解読や魔力感知、扉を閉める魔法が封じられてるんだ。
 普段は必要ないけど、遺跡の調査なんかで凄い効果を発揮するはずだよ。

 僕はお金を使う必要が無かったけど、一個ぐらい何か役に立つ物を買っておかないと、預かったお金が無駄になるからね」

 ロマンが買った指輪は【アラジンの指輪】という、『千夜一夜物語』に登場する魔法の指輪を模したものである。

 限定的だが、様々な魔法を使うことが出来る。
 使える魔法は、強力なものでは無いが、使い方次第でとても役立つと言われていた。

「お前が選んだものなら間違いあるまい。

 調合してくれた高価な薬や、品物も特上品ばかりだから、レベッカも驚くだろう。
 何よりの成果だ」

 微笑んで頷いたシグルトの褒め言葉に、ロマンは照れた様に白い顔を赤らめた。


 荷物を揃えた2人は馬に乗り、ヴィスマールを目指す。
 
 『緑の都』と呼ばれるヴィスマールは、周囲を深い森で囲まれている。
 街道の周囲も林道が多く、野営地も森ばかり選ぶ羽目になった。

 2人は夜間、蚊に刺されない様に、露出した肌に虫除けのつんとした香りの香草を塗り、蚊帳を張って休んだ。
 ロマンは虫や鼠が病気を媒介することを知っており、嵩んでも蚊帳を手放さない。

 シグルトは香草で作った香を焚き火にくべて、虫や獣を寄せ付けない様にしていた。

 虫と蛇対策として、彼の持つ荷物袋は香草で煮て、処理してある。
 短時間置いている間に、毒蛇が袋に入り込んだという話が実際にあった。
 
 夏の間は、こういった気遣いも冒険者に必要なことだ。

 大人と子供2人を乗せれば、馬には無理が出来ないだろうと思われるが、そこはシグルトがしっかりしていた。
 馬車を引いたり、甲冑を着て走る、軍用にも使われる大型の馬を借りていたのだ。

 幸い馬の餌は、豊かな森の中にいくらでもあった。
 その馬は、疲れた様子もなく2人を乗せて良く走ってくれた。

 4日目の昼前には、森林に囲まれた都市ヴィスマールに到着する。
 そこは、丁度フォーチュン=ベルとアレトゥーザの中継点辺りにあった。

 さらに走って湾を船で渡れば、アレトゥーザまで間もない距離だ。
 カルバチアやヴィズマールからの移動では、このルートが最も近い。

 2人は、この都市の宿で一泊することにした。


 旅の冒険者が良く泊まるという宿で、シグルトとロマンは食事をしていた。
 だが、そこで聞いた噂にロマンが困った様に眉をひそめた。

「…この先の湾が荒れていて、渡れないみたいだね。
 船乗りの話じゃ、数日は荒れそうだよ。

 少しヴィスマールでお休みかな?」

 季節は9月初頭。
 秋口ともなると、海岸近くの天候ほその日任せだ。

「3日待って渡れそうになければ、時間はかかるが湾沿いの街道で回り道をするか。

 湾越えが最短ルートとはいえ、天候任せなのは困ったものだな」

 馬による移動は、こういった状況では不利だ。
 飼葉や馬屋を借りる賃金も、馬鹿にならない。 

「あんたたち冒険者だな?

 もし湾が渡れずに立ち往生しているなら、一仕事してみないか?
 この近くの村で、羆が出たってんで、退治の依頼が来てる」

 羆、という言葉にシグルトが眉をひそめた。

「村人でも狩れそうだってことだが、祭りの前で流血沙汰は御法度なんだと。
 この辺りの村落は、妙に仕来たりに拘るからな。

 あんた強そうだし、どうだい?」

 シグルトとロマンは同時に溜息を吐いた。

「この時期の羆を相手にするだって…獣を舐めてるね。

 侮って手負いにさせたりしたら、その村は大惨事だよ」

 ロマンの言葉に、シグルトも頷く。

「秋口は、豊富な餌で肥え太った熊の力が強い頃だ。

 しかも、〈腕の立つ冒険者一人〉とは…危ういな。
 熊狩りは、人海戦術を使わないと難しい。

 誰かこの依頼を受けたりしているのか?」

 シグルトの問いに、「んなわけないだろ?」と店主が笑った。

「流石に、羆に一人で挑もうなんて勇者、いないさ。
 この辺りの森の民なら、なおさらだ。

 あの村は、ここ数十年熊が出なかったんで、日和ってるんだろ。
 聞いた話じゃ、森の神様を祭る古い祠があって、その神様は豊穣と村の安全を約束してくれてたらしい。
 その手の時代遅れな信仰がある村は、得てして無謀なんだよ。

 最近じゃ、聖北の坊さんもうろついてるから、その手の神さんの行事はすっかり廃れて来てる。
 だから、罰が当たって熊が出たんじゃないか?

 しかも、熊一頭に銀貨四百枚じゃ、割に合わない。 
 ま、祭りが終わったら、村人総出で熊狩りってもんだな」

 他人事の様に話す宿の主人の胸には、聖北の聖印が掛かっていた。
 先ほどから依頼して来た村に対しても、どこか偏見を持っている様子がある。

 ヴィスマールは、周囲を森に囲まれた特性上、林業や薬草取り、狩人の類が多いと言われる。
 彼らは得てして、森の様に寛大に振る舞い、その実とても排他的だ。
 森の民は獣同様に、縄張り意識も強い。

 もちろん、全ての民がそうではないだろう。
 しかし、雰囲気というものは、必然多数側に傾く。

「ロマン…」

 シグルトが全てを言う前に、ロマンは頷いた。

「行くんだね…お人好しだなぁ。

 まぁ、どうせ湾が渡れないなら足止めだしね。
 人助けしておいでよ。

 僕は此処の図書館で、森に関する書物でも読んでるから」

 シグルトは、仕事を選ぶのにはとても慎重だが、依頼が切羽詰まったものだと優先して受ける傾向がある。
 それに、シグルト程の武勇と慎重さがあれば、羆一匹に後れは取らないだろう。

「…気をつけて」

 そっぽを向きながらぼそりと言葉にするロマンに、シグルトは強く頷き返した。


 シグルトは、その日のうちに羆退治を依頼したという、ウェーベル村へと向かった。
 
 村へと続く近道は、急な坂が続き馬が使えない。
 足に障害を持つシグルトにとって、木の根や石が浮き出した坂道を踏破するのは正直きつかったが、シグルトはその身にトリアムールを宿して、風の様に駆け上っていった。

 トリアムールの精霊術は、すでにシグルトの一部と言っていい。
 精霊の姿を見ることが出来ず、その声も聞けないシグルトだが、トリアムールの意思ははっきりと理解出来た。

 精霊と四六時中側にいるせいか、シグルトは精霊の気配を感じ取る力が増している。
 森そのものが、シグルトの味方だった。

 彼は、精霊に愛される資質を持っている。

 何とはなしにシグルトは、妖精や精霊が嫌う鉄の籠手を戦闘に臨むまで外すことにしていた。
 それに山道では暑苦しく、汗がつけば錆の原因にもなりかねない。

 名工の作った剣と籠手は、耳障りな金属音がほとんど鳴らなかった。

 小気味好く急な坂を登り切り、平らな道は滑る様に歩く。
 シグルトは気付いていなかったが、彼の歩みは馬による移動と大差なかった。

 ヴィスマールから西へ徒歩で半日。
 シグルトはその距離を、さらに半分の時間で踏破していた。


 ウェーベル村の入り口を潜ると、そこには目印の様に大きな噴水があった。
 噴水は清涼な水を湛え周囲の空気を冷やして、一帯は少しひんやりとしている。

 この特産品は、その豊富な水源と豊かな森を利用した果樹栽培だ。
 柑橘類に梨や林檎、そして葡萄。
 中には、この村でしか取れない稀少な果物もあるという
 
 そのまま売る時もあるが、多くは酒や蜂蜜漬け、ドライフルーツにして、一年の間村の財政を潤していた。

 時刻は夕刻近くだが、村の広場に敷物を広げて果物の皮を剥いている村人が何人かいる。
 恵みの秋に差し掛かったこの季節、仕事は山積みなのだろう。

 村人の一人がシグルトに気がつき、その美貌に見とれてぽかんと口を開けていた。

「…お仕事中、失礼する。

 私はシグルトという、冒険者だ。

 ヴィスマールの宿で羆退治の依頼を知り、やって来た。
 依頼主であるこの村の村長に会いたいのだが、案内してもなえないだろうか?」
 
 声を掛けられた夫人は、言葉も無く何度も頷くと、シグルトを村で一番立派な建物まで案内した。
 立派な荷馬車と大きな馬屋があり、戸口には魔除けの意味か、大きな木の枝が結わえつけてあった。


 その日、娘は何時もの様に乗馬を楽しんでいた。

 実り豊かとは言え、この閉鎖的な村の生活は息苦しい。
 馬に乗っている時、そして踊っている時だけが彼女に自由な気持ちを与えてくれた。

 少し無理をしたせいか、胸が苦しかった。
 彼女の身体は、先天的に重い病を抱えている。

 もう婚期が気になる年頃であるが、彼女の立場と病とが、結婚する気持ちを奪っている。
 美しい彼女に求婚する男たちは多いが、皆腫物を扱う様に彼女に接した。

 娘には、それが辛かった。

「ジゼルゥ~!」

 乗馬服に身を包んだ娘とは全く違う、エプロンに農夫の女性が使う粗末なヘッドドレス姿の村娘である。

「どうしたのよ、マリー。

 慌てなくても、私、今から帰るところよ」

 幼馴染の彼女は、娘にとって数ない心休まる相手だ。
 同じ年頃の娘は、ほとんどが結婚してしまい、子育てに忙しい。

 この幼馴染も、婚約者がいて、来年の春には結婚する。
 結婚した相手のために作る蜂蜜酒の作り方を学ぶと言って、最近まで大騒ぎしていた。

 時々、騒いで興奮出来る彼女がとても羨ましくなった。
 娘の身体は、それすら許さない。

 そんな気持ちを知ってか知らずか、この幼馴染は大きくて愛嬌のある両目をくりくりと動かした。
 とても興奮した時の、彼女の癖だ。

「あのね、村長が言ってた熊退治の冒険者が来たの。

 皆大騒ぎよ!」

 「騒いでるのは貴女でしょうに」と心の中でぼやきつつ、娘は相槌を打った。

「そうなんだ。

 あの依頼、いくらなんでも割に合わないから、受ける人いないと思ってたのに。
 よっぽどお金が無い人なのかしら?

 その人が山賊みたいな強面だったら、私隠れるわよ」

 すると、幼馴染の村娘は首を横に振った。

「逆、逆!
 まるでどっかの戯曲に出てくる森の妖精王みたいに綺麗な人で、立派な剣を腰に下げてたわ。

 どこか品があって、道を尋ねる時に自分から名乗って来たみたい。
 声を掛けられたカトラおばさんなんて、年甲斐もなく頭の中が桃色よ」

 興奮して顔を赤らめる幼馴染。
 彼女もどこか、夢見心地の様子だった。

「この間までホラントのことで惚気てばかりいたのに、浮気な娘ねぇ。

 彼の前で、そんな顔しちゃだめよ」

 幼馴染の態度をたしなめつつも、娘は久しぶりに感じる新たなものへの好奇心に、心躍っていた。

 
 村長の家についたシグルトは、ドアをノックした。
 程無くして迎え入れられる。

「よく来てくれた…」

 屈強な身体つきの男である。

「私は、村長のシュバル。

 この村を代表し、貴方を歓迎しよう」

 堂々とした村長の態度には、礼儀半分、舐められまいとする態度が半分。
 穏やかな表情しているが、その実豪胆さを持ち合わせた人物であると感じられた。

「俺はシグルト。
 リューン郊外の『小さき希望亭』に所属する冒険者集団“風を纏う者”の一人だ。

 歓迎の言葉、痛み入る。

 短い間になるだろうが、滞在の間宜しく頼む」

 武骨な口調だが、綺麗な礼をして応えると、村長はうむと頷いた。

「…では、早速話に移ろう。

 依頼の内容は羆の退治。
 報酬は銀貨四百枚。

 …村を出て西に少しの所に、広場がある。
 この村では、『森神の箱庭』と称される場所だ。
 そこまでは簡単な一本道だから、迷う心配はないだろう。

 村では十年に一度、その広場で収穫祭が行われる。
 それは間もなくのことだが…こともあろうに若い羆がその場所を餌場にしてしまったのだ。

 村の掟で収穫祭に近い時期は、村の者すべて、森の動物を殺傷することが禁じられている。
 我々は手を出せずにいるわけだ。

 そこで、村の外の人間に依頼した、というわけだ。
 過去にも、その広場を獣が縄張りにし、同じ様に狩った事例があってな。
 今回もその様にしたのだ」

 シグルトは黙って聞いていたが、村長が一通り話を終えたのを確認すると質問を始めた。

「事情は理解した。
 だが、いくつか質問させてもらおう。

 羆は、油断出来ない相手だ。
 それに対応するには、相応の情報と準備がいる。

 その羆は、どの程度の体格で、特徴はあるか?」

 刺す様な厳しい目付きで聞き出したシグルトに、村長は少し気圧された様子である。
 たかが熊一匹…簡単な依頼だと思っている節があった。

「…取り立てて冒険者殿が騒ぐ様な、大きな羆では無い。
 若い雄で、縄張りを追われてやって来たのだろう。

 村の狩人でも、容易く狩れるはずだ。
 冒険者殿ならは、造作もあるまい」

 シグルトは村長の言葉を、苦いものでも飲み込む様子で聞いていた。
 そして、大きく溜息を吐くと、言い含める様に話し出す。。

「まず、誤解が無い様に最初に断っておく。

 報酬の増額要求をするつもりはない。
 条件付きで、この依頼は受けると約束しよう。

 だが、忠告したいことがいくつかある。

 まず、この時期の羆はたらふく食べて、とても力が強いのだ。
 もし過去に熊を狩ったことがある者がいるのなら、それは春先では無いか?

 越冬を終えた熊は、痩せ細り体力が無く、容易く狩れることがある。
 多くの熊殺しが、それ故に侮って次の熊に挑み、返討ちになった事例は多い。

 それで手負いになった狂い熊が襲い、ほぼ壊滅した村が実際にあったことを告げておく。
 人によって傷つけられた熊は狡猾になり、人を喰らって襲う様になる。

 恐れを知らず死ぬまで狂った様に戦う狂戦士…ベルセルクのベルとは熊のことだ。

 狂い熊の強さや狡猾さから生まれた言葉だろう、と話してくれた老婆は語っていた。
 北では、熊の様に強くあろうと、都市や人の名にもベルを冠した話が多数ある。
 
 熊の縄張りは案外広い…そうして怒らせ、狂ってしまえば、近隣を巻き込む恐ろしい火種になる。
 沢山の無辜の人や獣が、巻き込まれることにもなりかねんのだ。

 我々冒険者は、時々そういった「狂い熊」を狩らされる。
 その時は、功名に逸った若手が良く死ぬと聞く。

 どうか、今後は熊狩りに関して、〈容易く狩れる〉などと侮った見識は改めて頂きたい。

 報酬の銀貨四百枚だが…
 熊狩りの最低報酬は銀貨五百枚、羆相手なら八百枚は用意した方がよかろう。

 報酬の基準は、仕事の難易度に関する目安になる。
 つまり報酬が相場より安いと、実力の無い者が受けることになる。

 熊の毛皮や肉を報酬に加えるのは、対策法の一つだ。
 その道の熟練者が受けてくれるし、依頼人の見識も推測出来る。

 羆の怪力は、オーガーに次ぐと言われ、危険度の高い依頼として扱われる。
 相場を知らんと、悪質な冒険者に足元を見られることになるだろう。
 同業者にそういった悪辣な輩が居ることを否定出来んのが、とても残念だが。

 雇う人数は、一人ではなく三人以上の多少熟練した冒険者に頼むこと。
 ただの宿の張り紙では無く、冒険者の宿か組合を通じて、ちゃんとした冒険者を雇ってほしい。

 あの様な厳しい条件の依頼では、まず受ける者がいない。
 受けるとしても程度の低い、食いつめ冒険者がやって来て、熊を怒らせて終わるだろう。

 今後、これらのことを考慮してくれることを、この依頼を受ける条件としたい」

 村長はシグルトの厳しい言葉に、目を見開いていた。

「我々冒険者の多くは、依頼達成のため誠心誠意尽力する…命を掛けて。
 だからこそ、貴方たち依頼人にもこういった厳しさを知って頂きたいのだ。

 貴方たち依頼人の誠実さと注意が、多くの命と、同時に我ら冒険者の名誉と身を救うことになる。

 どうか、頼む」

 頭を下げたシグルトに、村長は慌てた様に頷いた。
 厳しい口調の中にも、シグルトの態度はとても誠実だったからだ。

「…承知した。
 貴方の言葉は、今後村の皆に伝え、徹底させよう。

 一目見た時から、普通の冒険者とは違って見えたが…
 その深い見識と誠実で高潔な様子、もしや名のあるお方では?」

 この問いに、シグルトは首を横に振って否定する。

「…名は、父が有名な竜殺しの名からつけたものだが、正直不相応だと感じている。
 ことは思うままに行かず、日々喘ぎ、最近やっと駆け出しを抜け出したばかりの、粗忽者だ。

 だが、頼れる仲間のおかげで、なんとかやっている。
 今では導くべき後輩も、少しばかり出来たところだ。

 その後輩可愛さに、初対面で厳しいことを言った無礼は、御容赦願いたい」

 ふ、と小さく笑うシグルト。
 それは、とても爽やかで誇らしげな微笑みだった。
 
 彼がこの仕事を受けた一番の理由は、無知な後輩同輩たちを守るためだった。
 
 もちろん、見過ごすことだって出来た。
 だが、それは彼の信じる義に反する。

 シグルトは、言葉だけの正義に酔って謳うだけの偽善者になりたくなかった。
 自ら行うことこそが義を示し、後に続く者たちの道標になる。
 そうして、後輩たちに恥じない先達になろうと励むのだ。

 自身に問いかけ、己にこそ恥じないための信義を重んじる。
 それこそが、名の誉れよと、亡くなったシグルトの父が言っていた。

 シグルトの父は王を救った武勲で、シグルトの母の名誉を回復した。
 望めば高い爵位と、土地を得ることも出来たのにである。

 口下手な父は、「私の名誉は、誇らしげにしてくれる妻と子の笑顔なのだ」と恥ずかしそうに言っていた。
 シグルトはその言葉を残してくれた父を、心から誇りに思う。

 そして、それがシグルトの重んじる名誉そのものとなった。
 つまらない自尊心で貶めてはならないと、強く自戒している。
 
 他者の名誉を守れぬ者に、己の名誉は背負えない。
 何かを見捨て、何かを蹴落として得るのは増長慢心だ。
 共に喜び称え合えることこそが、誇るべき名誉である。

 それは、シグルトの揺るがない信念であった。

〝明日飢えるとも、一つのパンを友と喰らい、その美味を分かち合って死ね。
 身は飢えて原野に朽ちるとも、心と魂は満たされよう。

 姿と言葉は忘れ去られても、屍(しかばね)が汚く泥にまみれても、妻と子と大地はきっと誇ってくれる。

 強きは弱きを守り胸を張ろう。
 臆病者はせめて覚えていよう。

 死に急ぐのは愚かだが、心満たされ逝くことこそが生なのだ。

 その一生が尽きるまで、どうか恥じずに生きて行こう。
 だから死ぬ時は、誰かのために笑って逝こう。

 残る者には一欠片の幸福を。

 どうかこの心と魂には、ささやかな名と誉れあれ〟

 シグルトは、故郷の兵士たちが歌え伝えた『明日の英雄』と呼ばれるこの歌が好きだった。 
 明日の同輩後輩が、ささやかな微笑みで幸福を謳歌出来た時、シグルトはその名誉を実感出来るのだ。 
 
「では、早速明日にでも仕事を遂行しよう。

 契約書を作成したいので、この紙に署名を願えるか?」

 シグルトは宿から貰って来た張り紙の空いた場所に、先ほどの条件をさっと箇条書きにし、契約書を作成する。
 この方法は、貴重な紙を無駄にしないための知恵だ。

 “風を纏う者”のリーダーとして、多くの署名をして来たシグルトの作業は慣れたものだった。

「…これで契約成立だ。

 申し訳ないが、今夜はこの村のどこかで一泊させてもらいたい。
 どこか泊まれる場所があれば、手配して貰えると助かるのだが、お願い出来るだろうか?」

 村長は、「もちろん」と大きく頷いた。

「客人は、我が家の客室を使うといい。

 大変な仕事に安い報酬で申し訳ないが、代わりに今夜は村を上げて歓待したい。
 いかがなものか?」

 シグルトは、首を横に振った。

「お気持ちは有り難いが、迷惑だろう。

 泊まれるだけで、充分だ」

 すると、村長は声の高さを少し落とした。

「いや、冒険者殿には悪いが、すでに手配済みだ。

 熊騒動で、すっかり村人の覇気が無くなってしまってな。
 十年に一度の祭を前にしているというのに。

 祭の練習を兼ねているが、その実村人にうっ憤晴らしをさせたいのだよ。
 この様な森の奥の村では、きっかけがないと騒げないのが、悲しいところだな」

 笑う村長の申し出に、それならばと、シグルトも歓待を有り難く受けることにした。

 厳しい環境で生活する者たちは、とにかくお祭好きである。
 それは、祭や何かの宴会程度しか羽根を伸ばす機会が無いからだ。

 労働の妨げとなる酒は、普段は飲もうにも物が無く、特別な時にしか振舞われない。
 シグルトは厳しい環境で育ったので、その気持ちが良く理解出来る。
 
 粗悪だが独特の辛味があった故郷の酒の味を思い出し、シグルトは懐かしむ様に目を細めた。
 

 村長の言う通り、シグルトの歓待は大仰なものとなった。
 
 祭で行う芸の練習だといって騒いでいたが、村人たちは早くから酒に酔い、御馳走を並べて貪り食っている。
 ただ、殺生禁止というのは確かで、並ぶ肉類は塩漬けばかり。
 代わりに並ぶ果物や山菜料理は、とても豪勢だ。

 塩気の強い味付けに、喉が渇いて自然と酒が進む。

 シグルトは果実酒の様な甘味の強い酒は、あまり好まない。

 今は余計な風味が無い酒に、干した棗(なつめ)と生姜を薄く数片切り入れたものを飲んでいた。
 生姜の微妙な辛みは苦手な者も多いが、シグルトは好んで入れる。

 村の女たちがこぞって酌をしようと訪れるが、「手酌で飲むのが好き」と自分のペースで嗜んでいる。
 本心は、明日は熊退治というのに、節度の無い飲み方は命取りになるからだ。
 最も、シグルトの場合、どんな時でも暴飲暴食は決してしないのだが。

 村の広場には大きな焚火が焚かれ、それを囲んで男と女たちが手拍子で踊っていた。
 
 シグルトは、こういった祭の情景が好きだ。

 日々をささやかに生きる者が、その情熱を炎にくべて燃え上がらせる時。
 自身もそれを見ることで、強く生を実感出来る。

「よう、アンタ。

 楽しんでるかい?」

 不意に声を掛けられて、幻想的な炎からそちらに目を移す。
 そこには若い男が一人立っていた。

 好奇心に満ちた不躾な目で、シグルトを眺めている。
 少しだけ男の鼻の頭が赤いのは、酒に酔っているせいだろう。

「俺はヒラリオ。
 よろしくな英雄サン。

 アンタは、なんてんだ?」

 シグルトは、この男の態度や口調から、虚栄心が少し強い、典型的な若者の性格を感じ取った。

「…シグルト。

 英雄というのは言い過ぎだ」

 応えて、間を持たすために、一口酒を啜る。

「なんだ、そりゃ?

 生姜なんて、薬臭くなるだろ」

 からかう様子に、シグルトは苦笑する。
 
「生姜は消化を助け、棗は強過ぎる生姜の効果を和らげてくれる。

 俺はまだ仕事を終えていない。
 歓迎して貰って、次の日仕事が出来ませんじゃ済まないからな。

 酒は、身と心を助けてこそ、だ」

 正直用意された御馳走は、多過ぎて食べきれない。
 シグルトが食べたものと言えば、薄く切った塩漬け肉と香草をライ麦の硬いパンに挟んだものと、スープぐらいだ。

「いけねぇなぁ。

 せっかく歓迎してるんだ。
 しっかり食ってくれよ」

 そういう勧めも、はっきり断る。

「健康を考えるなら、こういった宴は夜より昼やる方がいいんだ。
 次の日、寝込んでも良いなら別だがな。

 暴飲暴食の後に寝ると、寝ざめも悪い。
 次の日吐くくらいなら、明日の弁当にとっておくさ。

 うまし糧も身を活かすために取らねば、今どこかで食えずに喘ぐ貧しい者たちに申し訳ない」

 祭の席では無粋な言葉。
 だが、シグルトは貴族として生まれた母が教えてくれた志…〈高貴なる責任〉について、一番最初にこう習った。

〝貴方がありつける日々の糧は、持たざる者の血と涙。
 当たり前とただ貪るだけなら、美味の真意は理解出来ないでしょう。
 
 力無き者の小さな捧げ物を心から尊べないなら、貴方は自身が一番蔑む者にすら劣ります。

 貴方が食べている糧には、お腹を満たす幸福と、身を繋ぐ恩恵…
 そして、それを食べて生きながらえる者としての責任が込められているのです。

 与えられた幸福と恩恵に感謝し、食べることで担った責任を忘れてはいけませんよ。
 生きてそれを果たした時、人は初めて誇るべき自分になれるのです〟

 シグルトにとって責任や名誉とは、威張るものではなく、守るものだ。
 彼が高潔でいられるのは、こういった基本的な部分から実践しているからである。

 小食な反面、水代わりに飲んていた酒量はそこそこになっていた。

 最も、北方人であるシグルトは酒に強い。
 故郷で飲んでいた酒には、「酔った気分を無理やり起こすために、悪酔いさせる」薬草をぶち込んだ凄いものもあったぐらいだ。

「それに肉を食い過ぎると、体臭を強くする。

 明日、熊にばれるからな」

 ふうん、とヒラリオは鼻を鳴らした。
 彼には、理解出来ないことなのだろう。

「ま、頑張ってくれよ、兄弟。
 アンタが熊を殺らなきゃ、十年に一度の祭が駄目になっちまう。

 俺たちみたいな連中は、祭と女ぐらいしか楽しみが無いんだ。

 真面目なアンタに、これ以上無理に酒を飲ませるのは止めるさ。
 でも、気が向いたら女と踊ってみないか?

 あそこの娘と人妻どもは、あんたに誘われたくて、うずうずしてる」

 酒を飲んだ男らしい、やや品の無い会話。
 ふとシグルトは、女好きで知られていた親友を思い出し、笑みを浮かべる。

「人に勧めるより、そっちが誘ったらどうなんだ?

 女の尻に目を取られて、踊りの最中に転ばない自信があれば、だがな」

 客人の痛烈な反撃に、ヒラリオはガハハと笑った。

「言うねぇ…だんまりな朴念仁かと思えば。

 ま、俺みたいなイイ男は、慣れ親しんだこの村の女どもに食傷気味でね。
 だからこのとろけそうなワインで、甘い夜を過ごすのさ」

 そう言って、ヒラリオはよたよたと去って行った。

(酒に酔った男など、皆あんなものだな)

 故郷を懐かしみつつ、シグルトはもう一口酒を飲んだ。
 生姜の辛みと、ほんのり匂う棗の香り。

「今晩は、冒険者サン。

 楽しんでる?」

 次に声をかけて来たのは、ブロンドの愛嬌の好さそうな娘だ。
 頬が赤いのは、熱気とやはり酒のせいだろう。

「うむ。

 正直、本番の祭りでもないのに、賑やか過ぎるとも思うがな」

 うんうんと、娘は頷いた。

「そうでしょう。

 だって、此処はとても退屈なんですもの。
 騒ぐためのきっかけは何でもいいのよ。

 私、もうすぐ結婚するんだけど、嬉しい反面〈人生の墓場〉かなぁ、なんて思っちゃう。

 つまり、私たちは貴方というきっかけを利用して、はしたなく盛大に騒いでるわけ。
 来てくれて、有難う~♪」

 どういたしまして、とシグルトは肩をすくめて見せた。
 祭りの雰囲気は、普段頑なな彼の表情を柔らかにしている。

「…それにしても、冒険者サン、本当に綺麗な顔してるわよね。

 もう、この村の女の子は貴方に夢中よ。
 人妻まで、潤んだ瞳でロマンスを求めてるんだから。

 熱に浮かされてないのは…あの娘ぐらい」

 不意にその娘が見やった先を見ると、煌びやかな服を着た髪の美しい娘が立っていた。
 青っぽい不思議な色の髪をした、神秘的な女である。

「彼女が今回の巫女。

 収穫祭の時、村一番の踊り手が伝承にある舞踏を捧げ、森神様に感謝するの」

 舞踏と聞いて、シグルトはラムーナのことを思い出していた。
 妹の様に思っている彼女は、無事に新しい舞踏を習得出来ただろうか。

「あの娘は、村の誇りよ。

 だって、幼馴染の私よりずっとダンスが上手なんだもん」

 軽い嫉妬と憧憬。
 そして、寂しげな様子は憐みだろうか。

 シグルトは、巫女と呼ばれた娘を見やる。

「ふふ、ね…冒険者サン。

 良かったら踊って来たら?
 貴方みたいな美男子が口説けば、あの娘も受けてくれるかも。

 それじゃ、良い夜を―」

 娘はそう言い残して、一人の男の元に向かう。
 彼が、結婚相手だろう。

 シグルトはしばしそのカップルを眺め、とても優しい顔をした。
 まるで、その幸せがずっと続けと願う様に。

「ねぇ、貴方…」

 そんなシグルトに、また呼びかける者があった。
 張りのある美しい声に、シグルトはゆっくりとそちらを振り向く。

 何時の間にやって来たのか、先ほど巫女と呼ばれた娘が立っていた。

 はっとする様な、華奢で可憐な容貌は、巫女の装束と化粧でさらに磨きあげられている。
 間違いなく、この村で一番美しい容貌をしていた。

「貴方、冒険者の人よね?

 噂通りの凄い綺麗な顔だから、すぐに分かったわ」

 薄っすらと浮かべた笑みと、好奇心に満ちた大きな瞳には、意志の強さも込められていた。
 そこにいるだけで、空気が変わるような強い印象を与える娘である。

「…シグルトだ。

 名乗るのはこれで何度目かな」

 苦笑して返すシグルトに、娘は嬉しそうに眼を細めて笑った。

「…うふふ、そうよね。
 でも私は貴方と会うのが初めてだから、勘弁してね。

 良かったわ。
 遠目に、あんまり楽しんでる様子が無かったから、帰っちゃったかと思った」

 そうやって胸を撫で下す。

「それなりに楽しんでいる。

 だが、帰るとは…
 その口振りだと、君は村長の身内か?」

 シグルトの洞察に、娘は頷いて手を叩いた。

「すごい…冒険者って、そんなことまで分かるのね?」

 笑顔の娘に、シグルトは首を横に振った。

「ただの推測だ。
 君は村長と雰囲気が少し似ている。

 …今晩は世話になるが、よろしく頼む」

 真っ直ぐに見つめ返したシグルトに、娘はしっかりと頷いた。

「…私はジゼリッタ。

 よかったら、ジゼルって呼んでね」

 差し出された手を、軽く握り返すシグルト。

「了解した。

 俺のこともシグルトでいい」

 シグルトの提案を、娘…ジゼルは目を輝やかせて受け入れた。


 ジゼルは、好奇心の強い娘だった。
 シグルトの横に座ると、根掘り葉掘り聞いて来る。

 簡潔明瞭にジゼルの問いに答えつつ、シグルトも会話を楽しむことにした。

「…まぁ、リューンから来たの?」

 シグルトの所属する冒険者の宿が、リューン郊外にあると聞くと、ジゼルは目を丸くした。

「故郷は、ずっと北の方なんだがな。
 他にもフォーチュン=ベルやアレトゥーザでも仕事をする

 この辺りはヴィスマールが一番の都市になるわけか」

 そして、シグルトは先日までフォーチュン=ベルに居たと告げる。
 
「凄い…あんな遠くから、よくこんな田舎まで来たわね。

 そんなに仕事が無いの?」

 ジゼルの素朴な質問に、シグルトは苦笑した。

「それなりに忙しい。

 今回は、通りがかりにヴィスマールで張り紙を見つけて、忠告がてらやって来た」

 村長とのやり取りを話すと、ジゼルは目を丸くしていた。

「シグルトって、好い人なのね。
 私たちは、貴方に依頼を見つけてもらえて、凄く幸運だったわ。

 私も言ったのよ、銀貨四百枚はちょっと酷いかもって。

 でも、こんな森の中の村ではお金がとても少ないのよ。
 果物やお酒は、商人と物々交換で渡すから、通貨そのものが手に入らないの。

 この辺りの村なんて、お金を持ってても使い道が無いでしょ。
 自給自足してることが多い村なら、なおさらね。

 聖北の教えには帰依してないから、あんまり他の村とも交流しないの。
 ううん、交流出来ないっていう方が正しいかな。
 もしかしたら、聖北の文化圏からは、仲間外れかも。

 年に何度か訪れる、旅芸人や吟遊詩人が語るロマンスなんて何も無い、退屈な村よ。
 皆して、世界はここだけだって思い込んでる様な…

 そうして村人は村で結婚して、村で一生を終えるの…」

 閉鎖的な環境に慣れつつも、外への憧憬を捨て切れていない、そんな目をして、ジゼルは苦笑した。

「実は私、リューンに行きたいの。

 もっとダンスの勉強をしたいなって思って」

 遠い地に思いを馳せ、目を輝かせるジゼル。

「俺の仲間にも、踊りの得意な娘がいる。 
 今頃、アレトゥーザで新しい舞踏を習い終えたかもしれないな。

 君が求めるなら、村を出て学びに行かないのか?」

 直球な質問をすると、ジゼルは肩を落とした。

「そんな風に言って貰ったのは初めてよ。

 皆、私をこの村に縛り付けて、放そうとしない。
 この村で生まれた女は、この村で子供を産み、この村で一生を終えるの。

 もう、ウンザリ。

 パパったら、食事の度にお説教するんだから。
 おかげで、スープが文字に見えてきちゃう。

 いつか、食当たりになりそうよ」

 そんな愚痴を言って、肩を怒らせているジゼル。
 
「…人は背負うものがそれぞれ違う。
 考え方の違う者のせいにして嘆いても、空しいままで報われることは決して無い。

 君が望むなら、やってみるといい。
 何が答えかは、踏み出してみなければわからないが、少なくとも不毛な愚痴を吐かなくてすむだろう」

 シグルトは、自然とそう言葉にしていた。
 驚いた様にジゼルが見つめてくる。

「…選んでから後悔することは必ずある。 
 だが、その場に留まって延々と何かを責めているぐらいなら、歩み出した方がきっとずっといいはずだ。

 俺もまた自分で歩んだことで、失ったり、悲しい思いを繰り返しながら、それでも生きて来た。
 その経験から言えることは、自ら選んだ道ならば、愚痴を言う時も他人のせいにしなくて済む。

 望むのならば、求めて進み出せばいい。

 自身のことを選ぶのは自分であるべきだ…少なくとも俺はそう思う」

 それは、シグルトの生き方そのものであった。

「俺の言葉は俺のものだ。

 君に与えてやれるのは、君とは違う者としての言葉だけ。
 それは、君の父上も同じこと。

 選ぶのは、何時でも君自身だ。
 今の状況も、君が選んだ先にある。

 誰かを責める前に、自分が見るべき先を見据え、行ってみるといい」

 そして、こう付け加える。

「ただし、自分で道を選んだ時は、自身で責任を果たさねばならない。

 〈自由〉という言葉がある。
 とても高潔で、俺たち冒険者はこの言葉を愛している。

 だが、本当に〈自由〉を得る冒険者は希だろう。
 何故なら、己自身で選ばずに依存する、その弱さは誰にでもあるからだ。

 〈自由〉の本質は、他から解放されて自ら成すこと。
 同時に、選んだために負うべき責任や業をも内包する。

 全てを自身で受け入れ、それでも歩める者にしか〈自由〉は無い。 
 君が、今の生を誰かのせいにする限り、その生は縛られている。
 たとえ、君が村を出た後でも、だ。

 何かを得るとは、失うことの表裏。
 
 もし、君が後悔も痛苦も覚悟して〈自由〉であろうと願うなら…
 君の〈自由〉が〝リューンでダンスを学ぶこと〟なら…

 最初にすることは、〈自由〉がもたらす責任を負う覚悟と、勇気を持って第一歩を踏み出すことだ。

 そうして、〈自由〉を勝ち得るか、それとも後悔しながら愚痴を言い続けるのか。
 それも、また君次第だな」

 とても深い意味の言葉だった。

 ジゼルは、シグルトの青黒い瞳に見つめられ、どきりとする。
 どうしてこの人はこんなにも深い想いを、その双眸に宿しているのだろう、と。

 まるで、森の夜空の様な眼差し。
 そこには、様々な苦しみや悲哀を内包しているのに、一片の迷いも無い。
 今の彼の言葉と同じ様に。

 胸が弾けそうに痛い…
 見透かされた恥ずかしさが半分。
 そして、病の身が半分。

(…そう、私はいつも〈コレ〉のせいにして来た。

 負けない様に明るく冷静に振る舞って…その実留まっている。
 私は…)

 ジゼルはふと広場の篝火を見た。
 間もなく燃え尽き様としているのに、こんなにも周囲を照らしているその炎を。

(ああ、この火は私と同じ。
 燃え尽きるその瞬間まで、周囲を精一杯照らそうとしている。

 そう、時間は有限で、やりたいことが私にはある。

 私は…踊りたい!)

 溢れる想いで胸をいっぱいにし、ジゼルはシグルトの手を取っていた。

「…ねぇ、シグルト、踊りましょう!」

 瞳を輝かせ、ジゼルは誘う。

「…俺は、上手くないぞ?」

 シグルトは、苦労性の彼らしい何時もの苦笑を浮かべた。
 それがとても可愛く見えて、ジゼルは笑う。

「うふふ、適当にふらついていれば良いわ。

 だって、お祭本番じゃないんだから」

 そう言って、ジゼルはシグルトを上目遣いに見る。
 戸惑う彼に、今度は拗ねて口を尖らせた。

「もぉっ…

 こういう時は男の人がエスコートしてくれなきゃ、駄目じゃない!」

 一瞬考えたシグルトは、また苦笑する。
 そして、大仰に片膝を地に着き、繋がれていた自分の手を、ジゼルの掌を上に載せる様に返す。

「…では、巫女にして舞姫たるジゼリッタよ。

 そのたおやかな御手を拝借。
 今宵の舞踏へ誘う名誉を、許し給え」

 片手は胸に、静かに一礼。
 かつて、恋人や妹に言われて覚えた、一つだけしか知らないダンスの誘い方。

 夜は更けていく。
 酒に、御馳走に酔いしれ、村人たちはもう微睡みに誘われつつある。

 残った観客は、星空と森の木々たち。
 
 篝火の照らすその舞台で、一組の男女は、とても不器用で微笑ましいワルツを踊るのだった。


 早朝、シグルトは外が白む前に起き出していた。
 周囲が薄暗い中で、広場へと向かう。

 日課の鍛錬のためである。

 朝が早いはずの村人たちを、誰も見かけない。
 昨晩しこたま酒を飲んだせいか、まだ眠っているのだろう。

 それはシグルトにとって、願ったりだ。
 出来れば、昼過ぎまで寝ていてほしいと思う。

 最悪の結果になった場合、熊はこの村を襲うだろう。
 そうなれば、家の中にいる方が安全だからだ。

 敗れるつもりは毛頭無い。
 だが、敵を刃に掛け、死を前にし続けて来た戦士の心は、驕りを許さない。

 最悪の結果が起きた時どうするか…その手段は村長に伝えてある。
 自分が夕刻近くなっても戻らなかったら、次の冒険者を早く雇う様にし、村人の外出は極力避ける様に、と。

 残す憂いは無い。
 ならば、備えて刃を磨くのみ。

 シグルトは、広場に立ち鍛錬を始めた。

 剣や籠手は、万一村人に会って驚かせない様に、外している。
 剣を持ったつもりで、手に馴染んだ愛剣の重みと太さをイメージしながら、時にゆったり時に激しく、演武の様に動作を繰り返す。

 やがて身体が温まったところで、次のステップに移行した。

 一歩で地面が抉れ、吐き出す息は炎の様。

 目前には、故郷で一度屠ったことがある羆をイメージする。
 そいつは、食らった人間の血で口元を真っ赤に染めていた。

 シグルトは、放たれる圧迫感に抗うため、深く集中した。

 心は氷…敵への憐憫と恐怖を消し去るために。
 腹は炎…敵を打ち破る猛々しさと力を得るために。
 手は刃…確実に敵を斃し、未来を切り開くために。

 睨み据えるのは、羆の身体の中心…心臓だ。

 羆が低く構える…突進で吹き飛ばされれば、圧し掛かられて、頭や喉笛を食い千切られる。
 立ち上がった時は、横薙ぎの一撃が来る…離れていれば身体一つ分覆い被さる様に伏せて、すぐに飛びかかって来る。

 羆の横薙ぎは腕の反対に下がって躱す、あるいは屈んで避け、脇を抜けて背後を取る。
 突進は真横に躱す…森の中にそれだけの広さがあるか…無ければ木を盾に、それが折れ砕ける一瞬で凌ぐ。

 熊の巨体と、剣を足した自身のリーチ。
 どれだけ自分が有利で、敵の急所を刺した後、死に際の一撃を貰わない様に、どう残心するのか。

 集中するごとに、敵の輪郭がはっきりしていく。

 羆のごわごわした毛並、そして鋭い爪や牙。
 円らに見える瞳に宿るのは、意外にも獰猛な獣の本性。
 生きるために食らう、畜生道の業。

 怒涛の様な圧力と恐怖を受け流し、貫くべき急所を意識して睨む。
 そして、達するべき結果は必殺。

 命を奪う自分には、苦しませずに相手を屠る義務がある。
 仕留め損なえば、悪鬼の如き獣を世に放つことになる。

 敗れれば村人が危うくなり、仲間は悲しむだろう。
 そして、大切な人が救ってくれた、その命が無駄になる。

(俺は戦い、己の生をもぎ取る。
 それが自然に食い込み腐らせる、人間の欺瞞だとしても。

 せめて、死をもたらす覚悟を持って、この刃を振るおう)

 一切の躊躇は無かった。

 動作は決まっている。
 ただ息を吐いて呼吸を止めた後、砲弾の様に駆け、羆の心臓を抉る。

 手の刃金は、シグルトの牙であり爪なのだ。

 心臓を破砕され、獲物がびくりと痙攣する殺伐とした風景。
 剣を引き抜いて、敵の余力を躱し切る。

 羆が倒れ伏し、その目から命の灯火が消えていく。
 死をもたらすおぞましさすら飲み込んで、シグルトは最後まで敵を睨んでいる。

 そう、殺した者の務めとして、敵を死の世界に見葬(みおく)るために。

 高まった気合いで、側にある噴水の水受けに溜った水の波紋が、さかしまになった。
 シグルトの髪や産毛が立ち、空気がびりびりと震える。

 それは殺気の様に澱んだ悪意では無く、闘う者の澄んだ一念。

 ふわり…

 羽根が浮き、舞い上がる様な初動。
 地を滑る様に駆ける。
 イメージした敵の目前、大地から力を吸い上げる様に力一杯踏みしめ…

 剣は、敵の心臓を穿ち抜いた。

 実際には数歩駆けて、空手を突き出しただけ。
 それでも、踏み込んだ足は地に減り込み、剣先をイメージしただろうその部分の空気が、弾ける様に飛散した。

 優れた武術家が最後に至るのは、心技体の三位一体と、それを引き結ぶ〈氣〉の領域。
 必ず成すと強く思う故に、必勝を呼び込む、迷い無き一撃であった。

「…フウゥッ…」

 腹の奥底から、溜めこんでいた雑念と後悔の全てを吐き出す様に、重い吐息で終える。
 
 全身汗だくになり、身体中の関節が緊張からの解放で悲鳴を上げた。
 押し寄せる疲労と、痛苦…それすら吐き捨てる。

「…行くか」

 見れば、村を囲う木々の隙間から、刺す様に朝日の清浄な光が通り抜けて来た。


 ジゼルは、鍛錬に励むシグルトを見つめていた。

 早起き出来たのは、理由があって酒が飲めなかったからだ。

 早朝に屋敷を出たシグルトは、ジゼルの部屋からも見下ろせる、広場の噴水の近くで鍛錬を始めた。
 剣を持っていないので、最初は珍妙な踊りか滑稽な道化の様だと笑いそうになった。

 だが、見るうちに飲み込まれそうになる。
 
 シグルトの背には、とてつもない悲壮があり、そして動作の一つ一つが強く繊細だ。
 それが魂の籠った技だと気付いた時、ジゼルは呼吸すら忘れそうになるほどに、見入っていた。

 やがて、シグルトの動作がぴたりと止まり、次の瞬間裂帛の気合とともに突きを放つ。
 シグルトの空いた手には、無いはずの剣がしっかり握られ、貫かれた何かが霧散した様に見えた。

 技が決まる瞬間、近くに稲津までも落ちた様に空気が震え、壁がビリリと震える。
 木々に羽根を休めていた鳥たちは、一斉に飛び立った。

 周囲から一瞬音が消える。
 刺激物の匂いを嗅いで、一瞬耳の奥が痺れた様な感じ。

「…凄い」

 溜息の後には、驚嘆の言葉が溢れた。

 同時に思う…自分は彼の様にひたむきで覚悟が出来ていたのか、と。
 
 昨夜、シグルトに言われた言葉が思い返される…
 
〝選ぶのは、何時でも君自身だ。
 今の状況も、君が選んだ先にある。

 誰かを責める前に、自分が見るべき先を見据え、行ってみるといい〟

「…そう、だよね」

 森に向かうシグルトの背を見つめながら、ジゼルはある決意をしていた。


 シグルトが森に向かおうと歩き出すと、後ろからジゼルが追いかけて来た。

「…貴方、又下長いね~

 追いつくのにも、一苦労だったわ」

 昨晩の巫女装束では無く、活動的な麻の上着に、革の上下。
 一見すれば男ものである。

「…何だ?

 まだ起きるには早い時間だぞ?」

 鍛錬によって汗で濡れた髪を拭いながら、シグルトが聞く。
 
「…お弁当よ。
 
 しっかり入ったこっちはお昼用。
 簡単にまとめたこっちは、朝ごはんだから、道中食べて。

 昨日の余りもので悪いけどね。

 私も弓をやるから、獣のことは分かってるつもり。
 すぐに熊が見つかるとは限らないから、食べ物ぐらい、ね」

 ふむ、とシグルトは頷いた。

 当たり前のことであるが、熊をはじめ動物の縄張りはなかなかに広い。
 羆が『森神の箱庭』をねぐらにしていたとしても、遭遇するかは分からないのだ。

 そうなれば、戻ってくるのを待つか、探しに行くか…どちらにしても長期戦である。

「有り難く頂こう。

 保存食では味気無いからな」

 そして、一緒に果実酒の瓶を受け取る。

「あ、お酒は拙かった?

 確かそういうお酒飲まないんだったよね?
 でも、生水よりはいいと思うんだけど…」

 しかし、シグルトは笑って首を横に振った。

「これはこれで別の使い方がある。
 この地特産の酒なら、尚更な。

 貰っていこう」

 別の使い道?、とジゼルが小首を傾げた。
 
「…捧げ物だ。
 神も精霊も妖精も、酒好きが多い。
 
 葡萄酒の起源はディオニソスだというが、彼の神は森の鹿神ケルヌンノスと集合して考えられることもある。

 昔から森の神域に入る時、酒を捧げるのは森人の習いとされている…この辺りでは違うのか?」

 ジゼルは目を丸くした。
 そういった風習は廃れたものも多い…特に聖北の教えが入って来てからは。

 この村に残る祭の儀式には、シグルトの言う様なやり方の名残らしきものがある。
 
「博学ね、シグルトって。

 そういうことって、冒険者や外の世界の人って、軽んじてるのかと思っていたわ」

 ジゼルの正直な感想に、シグルトは苦笑する。

「そも、信仰とは畏怖から生まれたものだ。
 
 神とは超常にして及ばざる領域…それを恐れた者たちが信仰を始めた。
 神や精霊をなだめるために、神官や巫女という役目が生まれ、君の様に舞踏を踊ったり、あるいは呪文や詩歌を用いる様になった。

 超常なる者への畏敬とは、生きるために慎重になることそのものなのだ。

 畏敬を忘れる者は、即ち危険に関する恐れも無いということ。
 
 それは勇気ではなく、無謀でしかない。
 怖れを知る者は、恐ろしいものに挑むための勇気と、危険に避けるための心構えを得られる。

 俺は敬虔では無いが、偉大な存在が無いとは思わない。
 そして、目前に神の領域があるなら、他人の家に入る様に敬意を尽くすべきだと思うのだ。

 特に、俺は余所者だからな」

 精霊術師の老婆に学んだシグルトは、神や精霊についてそう学んだ。
 
「…貴方って、年幾つ?

 昨晩みたいに、舞踏の礼法とか知ってるし、説教臭いし。
 まるで村の長老みたいかと思えば…

 己の道は自分で選べ、みたいな開放的な一面もあって…

 外見は若そうだけど、経験豊富っぽいし、年齢が予想出来ないわ」

 ジゼルが突拍子もなくそう聞いた。

「…先月19になったところだ。
 
 8月16日が俺の生まれた日だから、加えて二週と数日か」

 細かいところまで言うと、ジゼルは驚いて、だらしなく口を開ける。
 あいた口が塞がらない、そんな様子だ。

「…うそぉ、私と同い年?
 しかも、生まれ月では年下?

 外見は若いけど、見えない…ぜ~んぜん10代には見えないっ!」

 奇しくもそれは、シグルトがアンジュに出逢った頃に言われた感想とほぼ同じだった。

 シグルトは、その泰然さと強い意志から、老人の様な雰囲気を持っている。
 それは、先輩先達として後輩や年下の者を導き、リーダーとして仲間の中心となって皆を引っ張って行く、彼の指導力の表れなのだが。

「…むぅ、よく言われる。

 きっと、武人故の不精さから老けて見えるのだろうな」

 的外れな自推を口にし、困った様に首をめぐらしたシグルトは、年相応の青年だった。
 ジゼルはその可愛らしい仕草に、思わず吹き出してしまう。

「ぷ、ククク…

 変なの」

 美しくまっすぐで、とても聡明。
 なのに、踊りは不器用で、どこか憎めない鈍さもある。

 周囲を震わすほどの武勇を見せたかと思えば、同い年の娘に笑われて困った顔をしている。

 ジゼルは、出逢って一日で、すっかりシグルトのことが好きになっていた。
 それは、恋というには漠然とし過ぎた、憧れの様なものだが、胸の奥がむず痒くてとても温かくなった。

(きっと、沢山の女の子が夢中になってるだろうな…)

 シグルトは、村の若者が自分に向ける青臭い好色さや、押しつけがましい好意を感じさせない。
 素朴で慈しむ様な、爽やかな親しみで、今もジゼルを見つめている。

 その態度がシグルトを一段と落ち着いて見せ、側にいるとほっと出来るのだ。

「…熊退治、頑張ってね。

 貴方が無事に帰って来たなら、今夜がお祭の本番よ。
 びっくりする様なダンスを踊ってあげるから…

 それが一等席で立って見られる様に、怪我しないで」

 そう言って顔を伏せ、弁当の入った袋を押し付ける。
 こんなちょっとした動作が、無性に照れ臭い。

 シグルトはしっかりと弁当を受け取り、頷いた。

「…楽しみにしよう。

 では、行って来る」

 羽織った外套を翻し、シグルトは振り向かずに森へと向う。
 その広い背中を朝日の眩さに目を細めながら、ジゼルは無言で見送るのだった。


 林道を歩きながら、シグルトは真新しい鋼鉄の籠手をはめ、昔習った狩人のまじないをする。

 森から冷たく匂う土を、上に伸びた若枝から葉を数枚。
 握りしめて混ぜ合わせ、籠手と剣になすりつけた。

 これで鉄の匂いを消し、獣に気付かれなくなるという。

 残った土と葉の汁で右頬に一本、戦化粧を描いた。
 感じる遺物感と一体化して、やがて森に溶け込むイメージ。

 そして、地に剣を置き森に一礼する。

 森は妖精や精霊が住む異界なのだ。
 敬意を持たず、支配しようとすれば惑わされる。

「これから、貴方の神域で狩りを行う。

 この大いなる森を司る御方(おんかた)よ…
 俺は信無き故に、敬意と誠意で貴方に祈ろう。

 どうか、森の気まぐれより護り給え。

 木々と草花の精霊たちよ、大地の精霊たちよ、風の精霊たちよ…
 俺に、小さな祝福を与え給え。

 願わくば、森の命の様に永らえる力で、鉄の臭いを隠し給え。
 この身を、彼の獲物へ至らしめよ」

 シグルトの言葉に応える様に、森がざわめいた。
 何か大きな存在に抱かれている様な安心感で、胸が一杯になる。

「その慈悲に、感謝を…」

 剣を収め、ジゼルから貰った地酒を大地に少し振り撒く。

「残りは、獲物を狩り終えた勝利の暁に捧げよう…」

 全て捧げると、森の神威は満足してしてしまい、力を貸してくれない。
 酒を大半残して、焦らすのもまじないのコツであった。

 こうして、シグルトは『森神の箱庭』に向かった。


 その聖域は、欝蒼とした深い森だった。
 踏み慣らした道がなければ、容易く人を惑わせるだろう。

 その林道半ばでシグルトは、立ち止った。

「《…トリアムール、お前の風で、俺が風下にならない様護ってくれ》」
 
 シグルトが精霊術の詠唱を始めると、周囲にふわふわと風が漂い始める。
 その風は、どこか不機嫌だった。

「…?

 《どうしたトリアムール?》」

 言葉に言霊を含んだ韻を踏んで、シグルトは呼びかける。
 こうすれば、精霊には必ず言葉が届くからだ。

「「…あのお色気過剰女といい、さっきの痩せっぽちといい…最近シグルトってば、女の子に優し過ぎ。
 
  私という者がありながら…頭に来てるんだからっ!!」」

 神域で精霊の力が強まったせいか、トリアムールの囁く声がはっきりと聞こえた。

 普段は、精霊そのものの影響力が現実世界に及び難いのと、シグルトの精霊術師としての視覚や聴覚が弱いため、トリアムールとの交信は感覚的なものである。
 だが、この様な神域や幽体離脱でそのバランスに変化が起きると、今の様に声を聞き取ることも可能になることがある。

「…なんだ、何時もの嫉妬か」

 シグルトは言葉が交わせない時でも、トリアムールの行動や思考を把握出来る様になっていた。
 この可愛らしい風の精霊は、子供っぽい性格で悪戯好きだが、さらにはちょっと嫉妬深い。

 シグルトは、異性に好意を持たれやすいので、こうやって機嫌を損ねることがよくあった。
 さらには、トリアムールとシグルトが普通に出来ない言葉による会話が出来ることも、トリアムールとしては面白くないのだろう。

「「…お、もしかして話が通じてる?

  そうか、この森って〈信仰の残った神域〉だから、私たちの様な古の神の眷族の力が及びやすくなるんだ。
  よし、ではさっそく戻ってあの娘っ子の髪をかき乱して…」」

 不遜なことを考えているらしいトリアムールに、シグルトは呆れたように溜息を吐いた。

「…嫌がらせは、妄想の中だけにしておけ。

 それより、これから熊狩りをするから、力を借りるぞ」

 シグルトの眉が少しばかり釣り上がっているのを見て、トリアムールは「やだなぁ、冗談だよぉ」とひきつった笑みを浮かべた。
 前にしつこくシグルトに付きまとっていた取り巻きを、悪戯で転倒させたことがあり、その時に大目玉を食ったのだ。

「「りょーかいしたよ。

  でも、シグルト、無茶は駄目だからね。
  風で勢いに乗ると力は強まるけど、身体の負担になるんだから」」

 トリアムールの力を借りる【飄纏う勇姿】は、切り裂く突風を放ちながら、自身の能力を高める精霊術である。
 風に乗って勢いに乗れば、技の破壊力も格段に高まるが、同時に故障の多いシグルトの肉体に負担を掛けていた。

「もちろんだ。

 だが、羆は手加減して無傷で勝てるほど、弱くあるまい。
 むしろ、即決するために一切容赦無しだ。

 限界まで攻勢で行くぞ」

 さらに術を駆使してトリアムールの風を纏い、シグルトは剣の柄に手を置いた。
 精霊術によって研ぎ澄まされた感覚が、森の何処に目的の羆がいるかを探し始める。

 少し歩くと、やや開けた場所に出た。

(此処が、『森神の箱庭』か?)

 そこは樹木の根が所々の地面から突き出し、でこぼことしている。
 聖域としては随分と荒れている様で、特別な神聖さも感じない。

(…いや、何かとても小さいが気配がある。

 ここは何らかの問題があって、聖域としての用をなさなくなっているのだ。
 だから、あの様な奴が住みつくわけだ)

 シグルトの目前には、我が物顔で寝転がっている羆が一頭見えた。
 体格は並の羆に比べて、やや小さめ。

 足元には、腐りかけた獣の死体が転がっている。
 悪臭が立ちこめ、蝿の群れが煙の様に立ち上っていた。

(若い雄だな…
 縄張り争いに負けて、外れて逃れて来たのだろう。
 
 なるほど、ここは奴にとって楽園というわけか)

 だらしなく欠伸している羆を見据え、シグルトは静かに集中し始めた。

(…距離で50歩。
 だが、乱立した木の根が邪魔だな。

 俺の脚なら全速力で二呼吸ぐらいか。
 仕掛けるには、あの辺りから…)

 殺気を飲み込み、周囲の空気に自分の存在を溶け込ませていく。
 トリアムールが、熊に向かって風が吹かない様にしてくれていた。

 やがて、熊の背後を取る。

(…よし、仕掛けるか)

 シグルトは剣を鞘払い、転がっていた石を叩いて金音を立てた。
 
 びくりっ、と羆が背を震わせこちらを見る。
 その時には走り出していた。

 案の定、思わぬ奇襲に羆は浮足立つ様に立ち上がった。

「《トリアムール!!》」

 シグルトから二筋の突風が吹き上がり、羆を切り裂いていた。
 完全な奇襲に、敵は慌てふためき首をめぐらすだけ。

 地を蹴る両足。
 膝下に力が入らないシグルトは、踏み切る時、全身で大地を蹴るイメージをする。
 風に乗った、鋭利な突進でシグルトの姿がぐらりとぼやけた。

 周囲に突き出した木の根が、疾走を遮る。
 それを姫垣を飛び越える様なステップで、勢いを落とさないまま接近し、足りない部分は身に着けた籠手の重さを加えて剣を突き出す。

 全身全霊の一撃が、羆の心臓を抉った。

(…浅いっ!)

 風に強く押されていたためか、熊は思った以上に後ろによろめいていた。
 その分、刃は心臓を貫くまでには至らない。
 
 即座にシグルトは剣を引き抜き、バックステップする。
 敵の反撃は凌いで、再度の一撃で終わらせるつもりだった。

 しかし、その羆はすでに後ろに向けて倒れる寸前である。
 シグルトの剣が既に致命傷を負わせていたのだ。

「《トリアムール…楽にしてやれ》」

 羆の頸動脈を示し、短く告げる。
 一瞬の突風で羆の首筋が弾け、血飛沫が散った。

 羆はどうと後ろに倒れ、ひくりと一度痙攣して動かなくなった。
 失血による死は、眠る様な気だるさの中、苦しまずに死ねるはずだ。

 そのままシグルトはしばし、眼を閉じ黙祷する。

 全身を駆け巡る疲労を、飲み込むイメージで抑えて行く。
 添え木が足の肉を締め上げる激痛は、歯を食いしばって耐えた。

 背筋を下る冷たい汗。
 シグルトは何時も戦いの後に、眉間に皺を寄せる。
 それは、常人ならば数度は気絶しそうな痛みを耐えるためだ。

(…拙いな。

 少しずつ、耐えられる時間が短くなっている)

 シグルトが絶えず鍛錬しているのは、身体の温度を上げるためだった。
 軽快なステップは上半身の体重移動で引っ張り、襲ってくる眩暈はこめかみに力を入れて耐える。

 空気を噛んだ様な、独特の脱力感。
 人が思った以上に力を出せない時に感じる、背筋の底から這い上がってくる無力感。

 シグルトは、長時間瞬発力を持続出来ない。
 だから、敵を引きつけてここぞという時に技を発揮する。
 必然、振るうのに何時も以上の力を使う技には、使用限度があった。

 シグルトの技が鋭いのは、彼の才能と努力よりも、彼が悲壮な程の覚悟で身を削って振るうからだ。
 溜まり続けた無茶のツケが、少しづつシグルトの身体を蝕んでいた。
 
 眼を開けた時、熊の巨体は土に還ったかの様に動かなくなっていた。
 シグルトは遺体の泥を拭い、余っていた酒を少し獲物の頭に振りかける。

 転がっていた獣の腐乱死体は、そのまま引きずって行き、近くの窪地に捨てた。
 拾ったしなやかな枝葉を束ねて、死体からこぼれ落ちた蛆虫を掃き、羆の遺体の周囲を清めて行く。

 熊の死体の側によると、血抜きの処理を施し、零れた血は敷き詰めた枯れ葉に落とす。
 
 熊の処理が落ち着くと、シグルトは改めて『森神の箱庭』を見渡した。

 小さな祠らしきものが一つある以外、何も無い。 
 シグルトはその祠に近寄ろうとして、足を止めた。

 小さな土饅頭(土を盛り上げただけ)が、少し離れた場所にある。
 見れば、その周囲には丸い石が転がっていた。

(これは、『妖精の塚』の跡か)

 『妖精の塚』とは、零落した神々が聖北のような外来の信仰によって追い出され、違う世界に旅立つ時に使ったとされる門である。
 その塚がある限り、精霊や妖精として去った神は現世に力を及ぼせるが、それを知った教会の信者たちが塚を壊して回り、今はめったに見なくなった。

 その塚も、中心となる石柱を壊され、丸石で囲ったサークルは歪められている。
 もう一度祠を見ると、祠を置く敷石は、塚の物を使っているでは無いか。

(これでは、森神も出て来れまい)

 この様に、祭祀のやり方が歪んで去った神々は多い。

 祭る側は伝統を守っていると思っているが、この村では、本当の祀り方は廃れて久しいのだろう。
 または、廃れた祭をもう一度再興したのか。

 村の者は、十年に一度の祭だと言っていた。
 本来豊穣や収穫の祭は年に春秋の2回、少なくとも年に1度はあるものだ。

 飢饉や大きな災害があったためか、あるいは教会勢力から隠れるために祭をしなくなったのだろう。
 形式的に残った祭は省略化され、終いには元の祭とは別の、ただの儀式と化す。

 そうやって、古きものは消えていく。
 伝統とは、必死に守ってもやがてはこぼれてしまうのだ。

 此処の森神は随分優しいのだな、とシグルトは感じていた。
 ないがしろにされていた神や精霊は、本来祟るものである。

「…ならばせめて、俺の知る礼を尽くそう。

 古き森の神よ、その古の栄光を称え、森の恵みと慈悲に感謝を」

 歪んだサークルを直し、塚に生えた雑草と小さな木々を抜く。
 そして、敷石にされた石柱の代わりに、手頃で大きな石を持って来て、塚の中心に立てる。

 そこに酒を注ぎ、持ってきた弁当から供物代わりの供え物を用意する。

「《輪の先には、林檎並木の黄金の園。

  古の栄光は、母なる大地の胸にある。
  神々の時は過ぎ、妖精は微睡むだろう。

  私は覚えている。
  時が過ぎても、神々が偉大だった頃の昔話を。

  その姿は見えずとも、時無き楽園で安らかに。

  精霊の歌が風となって駆ける時…
  見えざる世界で、緑の褥で、貴方たちは古の夢を見る》」

 シグルトは歌う様に詠唱した。
 忘れられた古い神々の安らぎを願う、祝詞である。

 ある吟遊詩人が、荒ぶる神々の御霊を鎮めるために作った呪歌を元にしていた。

「…残念だな。

 この輪が無事なら、お前たちを帰してやれたかもしれんのに」

 シグルトが腕を撫でると、囁く様な声が聞こえた。

「「平気、私たちは幸せだもの。
  シグルトは覚えていてくれている。

  忘れられるのは淋しいけれど、人の誰かは覚えていてくれるから。

  だから、私たちはまた旅をするの。
  もう少し、貴方の物語を見ているの…」」

 シグルトは、妖精の力を借りることが出来る。
 彼の身体を借りているその妖精たちは、自分たちの世界への帰還を望んでいた。

 シグルトはその願いを果たしてやりたいと思っている。

「「安心、安心♪

  森の神様、喜んでるよ。
  きっと何かで応えてくれる。

  優しく大きな、森の神様♪

  うふふふふっ…」」

 しばし古い時代の神や妖精のために祈っていると、そんな風に妖精たちが騒ぎ出した。
 
「ならば、いいがな」

 シグルトはそう言うと、適当な木の根に腰を下ろし、弁当を広げて遅い朝食を食べ始めた。


 荒れた『森神の箱庭』を綺麗にして、シグルトは村に戻る。
 それなりの時間がかかったので、有り難く昼の弁当も貰って食べた。

 森から村に入ると、昨晩話したヒラリオが入口に立っていた。
 シグルトの姿を見かけると、すぐに長老の家に走って行く。

(なるほど、あの男の仕事は森番か)

 家の窓を少し開けて、不安げに村の者たちがシグルトを見ている。
 シグルトは、籠手をはめた手を軽く掲げ、勝利を示した。

 途端に家々の扉が空き、村人たちが嬉しそうに声をかけてくる。

 シグルトは、彼らに軽く応えると村長の家に向かった。

「ヒラリオから話は聞いている。

 依頼は、無事にすんだのか?」

 出迎えた村長は、シグルトに事のあらましを聞いて来た。

「羆の遺体は『森神の箱庭』の中央に残して来た。

 その処理はまかせよう…出来れば自然に従って、村の皆で食べてやってくれ」

 狩った獲物は、不味かろうと食ってやるのが森や山での礼儀とされていた。
 腹に収まれば、その獣は誰かの血肉として生きられるからだ。

「ふむ、御苦労だった。

 しかし、驚いたな…かすり傷一つ負っていないとは」

 村長は、無傷で依頼を完遂したシグルトに、いたく感服している様子だ。

 だが、シグルトは渋い顔をした。

 怪力の熊によって傷を負えば、致命傷になりかねない。
 無傷でいることで、ぎりぎり及第点なのだ。

「一瞬で仕留めるつもりだったが、叶わなかった。
 仲間がいれば怪我人が出たかもしれない。

 紙一重で生き延びることは出来たが、今後に考慮すべきことが沢山ありそうだ」

 この様に、シグルトはとても厳しい自己評価を下していた。 
 村長は、謙虚さと受け取った様だが。

 報酬の銀貨四百枚を受け取り、契約終了の署名を貰うと、村長が思いついた様に口にした。

「…どうだろう?

 収穫祭まで残って、是非一緒に祝ってくれまいか。
 村人たちも、皆貴方の誠実さを褒めていた。

 金で、というわけにはいかないが、せめて恩人をもてなす機会を頂ければ嬉しい。

 森神様も、きっと喜んで下さるだろう」

 村長の横で、ヒラリオも強く頷いている。
 その好奇に見開いた瞳は「残って武勇譚を語れ」と催促していた。

「…思ったよりも依頼が早く終わったので、明後日の朝までなら問題無い。

 これより厄介者となるが、それでもよろしければ」

 一礼したシグルトに、村長は深く頷いた。

「俺は、このことを村人に伝えてこよう」

 そう言ってヒラリオは、去って行った。

「では、世話になる。

 ところで御息女は?
 今宵世話になる挨拶と、弁当の礼を言いたいのだが」

 空いたバスケットを掲げると、村長は、ああと鷹揚に頷いた。

「ジゼリッタならば、何時もの乗馬だ。

 冒険者殿が熊狩りを終えるまでは、村の外に出るなと言ってあるから、村のどこかを周回しておるだろう」

 村長に礼を言い、馬小屋のある裏庭から見ようと、裏口から外に出させてもらった。
 それに表には、我先に熊殺しの武勇譚を聞こうと、村人たちが集まっていたからだ。

 屋敷の裏庭はよく整理が行き届いていた。
 馬が怪我をしない様に土が慣らされ、小石は道端に寄せられている。

 秋口の爽やかな微風が、果物の甘い香りを乗せて吹きつけて来た。
 獣を一頭殺してついた、血生臭さが洗われる様で、シグルトはまだ高い太陽を目を細めて見上げる。

 すると、風に乗って心地良い蹄の音が近づい来た。

 立派な白馬に跨り、乗馬服を着たジゼルがこっちに向かって来たのだ。
 彼女はシグルトの側まで来ると、馬からするりと下りて、愛馬の鼻面を撫でてやる。

「有難う、ホーリー」

 手綱を引きながら、彼女はシグルトに向き直った。

「…依頼はもう終わったの?」

 小首を傾げて、ジゼルが聞いてくる。
 シグルトがどこも怪我してないのを見て、ほっとした様子だ。

「うむ。

 先ほどは弁当を馳走になった。
 入れ物は、厨房の入り口に置いてきたが、問題無いか?」

 ジゼルは微笑んで頷く。
 しかし、シグルトが何時もの外套を纏っているのに気が付くと、表情が曇る。

「じゃあ、もう旅立つの?」

 ためらう様に尋ねるジゼルに、シグルトは首を横に振って苦笑した。

「…いや、村長の御好意を受けることになってな。
 収穫祭が終わるまで残ることになった。

 もう少しの間厄介になるが、よろしく頼む」

 ぺこりとシグルトが頭を下げる。
 
「…そう。

 なら、またお布団に、干したてのシーツをかけなきゃね」

 ジゼルは胸を撫で下ろしていた。
 その様子を見ていたシグルトは、不意にジゼルの胸元に目をやる。

「な、何?

 もしかして胸が好きとか?」

 決して好色な視線では無かったので、ジゼルは目を瞬かせた。
 虫でも付いていたのだろうか、と。

「…やや呼吸が荒いと思ってな。

 早く中で休むといい。
 俺も、明後日には旅立てる様、準備をしておこう」
 
 シグルトはそう言って、屋敷に戻った。
 どこか悲しげな様子で。

 残されたジゼルは、訳が分からず小首を傾げた。
 

 その日の夜、ウェーベル村の収穫祭が前倒しで行われることになった。
 熊肉の腐敗を避けるためである。

 狭い『森神の箱庭』には、村人が総出でひしめいていた。
 中央に場を設けるため、さらに詰めて座っている様は滑稽ですらある。

 中央には、巫女が踊れるスペースとやや小振りな篝火。
 火柱が赤々と夜空を照らし、天の月を食らうかの様に火の粉を捲き上げている。

 皆の前には足場もないほどの皿が並び、御馳走が積み上げられていた。
 中には、シグルトが仕留めた熊の肉もある。

 若く栄養の生き届いた羆の肉は、すぐに血抜きをしたためか味も良く、好評だった。

 シグルトは武勇譚を請われる度に適当に受け流しながら、ジゼルの到着を待っていた。
 伝承好きなシグルトにとって、古来から続く奉納の舞踏は興味深い事柄だ。

 すると、ジゼルが薄い舞踏服姿で、こちらに駆けて来る。

「…シグルト!」

 上気した白い肌はほんのりと赤く染まり、そこはかとなく色っぽい。

「寒そうな衣装だな。

 舞踏が始まるまで、何か羽織らなくても大丈夫か?」

 男性として、女性の魅力に興味が無いわけでは無い。
 だが、シグルトは好色な目で女性を見ることを決してしない。

「ええ、踊れば暑くなるから、これで丁度好いぐらい」

 踊る前の緊張と興奮で、弾む声で話すジゼル。

「…ねぇ、どう本番の収穫祭は?

 熊肉の方じゃないわよ…」

 冗談めかして、ジゼルがシグルトに尋ねる。

「そうだな。

 素朴だが、暖かい」

 シンプルなシグルトの返答に、ジゼルは嬉しそうに頷いた。

「ね、せっかくだから、詩の一つも吟じてみて。

 都会の人の感性って、興味があるわ」

 不意に振られた話に、シグルトは目を瞬かせた。

「詩など、幼い頃に母の膝元で真似て作った程度だ。

 俺にはまったくセンスが無いぞ」

 眉間に皺をよせたシグルトに、尚もジゼルは迫った。

「だからいいんじゃない。

 荒削りな男の人の詩って、森の神様に踊りに乗せて届けたら面白そうでしょ?
 それに、貴方は村の英雄なわけだし」

 一行に引く気の無いジゼルの好奇心に、シグルトは困った様子で最後には折れた。

「では、笑わず聞いてくれ…

《十の年が巡り、森神の園は宴に賑わう。
 微睡む神々の足音を、人々が称えるだろう。

 篝火の煌きは、宵闇に火花の手拍子を上げる。

 天の星たちは夜の闇に静寂(しじま)を奏で、
 月は眩い太陽に思いを馳せ、満ち欠け続ける。

 水は涼風を起こしてこの情熱を包み、
 大地には、樹木の芽生える命の声が豊穣を謳う。

 たわわな果実は、天地の慈しみで甘美に実り、
 獣たちの肉で腹を満たし、酒の熱さに心は躍る。

 夜空は深く、いかなる望みも吸い込んでくれる。

 明日に焦がれ、有限の時を生きるとも、
 人々に受け継がれる血潮と魂は、未来へと続くだろう。

 願わくば、清浄な日の出を焦がれて待つ。
 朝露で歓喜の涙を流す草花がある様に。

 栄える幸福がどうか恵みの雨をもたらし、
 森の神よ、この民草に豊かな収穫を幾年も与え給え。

 旅人たる私は、この出逢いを忘れない。

 舞姫よ、どうか我が拙き言葉を天に舞い上げよ。

 千の木の葉が落ちるとも、
 万の草花が芽吹く様に。

 このささやかな喜びに満ちた、感謝の吐息を…》」

 朗々とシグルトは詩を吟じた。
 
 彼の深い声が、夜の闇に溶けながら、聞く者の胸に沁み込んでいく。

「…俺ではこんなところか。

 やはり難しい。
 母なら、もっと良い詩を吟じただろうが」

 黙って聞いていたジゼルは、首を横に振った。

「ううん、十分よ。

 とても温かで優しい詩ね。
 貴方の喜びが分かるもの。

 この際、詩人に転職してみたら?」

 祭りの熱気で頬を染め、ジゼルが微笑んだ。
 
「…勘弁してほしいな。

 戦いよりも詩を作る方が緊張する。
 無精者の俺には、命を代償に詩の才能を与えるという〈妖精の恋人(リャナン・シー)〉に愛されずとも寿命が縮む思いだ。

 どうせ作るなら、歯の浮く様な言葉では無く、堅実な鍋か包丁の方がいい」

 突飛なシグルトの冗談に、ジゼルがくすくすと笑った。

「…有難う、シグルト。

 貴方のその気持ち…きっと森神様に届けて見せるわ」

 そう言って、ジゼルは『森神の箱庭』の中央に設けられた舞台へ向かった。
 
 しなやかに、静かな梢の囁きの様に、最初の動作が始まる。

 その舞踏は、決して激しいものでは無かった。
 だが、動作の一つ一つには、魂を揺さぶる様な情熱が込められている。

 篝火の炎を反射して、ジゼルから飛び散る汗が、宝石のように輝いた。
 応える様に、火の粉が空に舞い上がる。

 ジゼルの瞳は、夜空の星よりも強く輝いていた。
 その情熱を炎にくべ、天に昇る勢いで繊細な舞踏を踊り続ける。

 そんな中、ジゼルの双眸がシグルトのそれと合い、どちらからともなく笑みを浮かべ合う。

 互いに生じた想いは、恋などという洗練されたものでは無く、2人の仲は同じ祭を楽しむ巫女と旅人に過ぎない。
 だが、詩を捧げた者とそれを奉納するもの…2人は祭の熱気の中で常には無い一体感を感じていた。

 ジゼルはくるくるとシグルトの側まで踊って来ると、何かを持ち上げる所作で天を仰いだ。
 また篝火が弾けて、祭はクライマックスを迎えようとしていた。

 そんな2人の姿を、木の陰から睨む影があった。

「…何故だ?
 余所者が、どうしてあいつの側にいて親しくしている?

 ジゼルも、何故あの様に微笑むのだ?
 同じ村で共に過ごしたこの俺には、振り向きもしないと言うのに。

 …気に食わん。
 まるで劇の勇者と姫にでもなったつもりか?

 どうして、そんなに満ち足りた笑顔を浮かべるのだ…
 お前の病を知り、それでもお前を見ているこの俺をないがしろにして。

 次第に赤らんでいくその頬は、恋する乙女だとその男に告げたいのか?

 見ていろ…俺こそが相応しいと思い知らせてやる!」

 その男、ヒラリオは血が出るほどに唇を噛みしめ、嫉妬に狂った血走る眼で睨んでいた。
 幻想的な祭の2人を、まるで呪い殺す勢いで。


 やがて、踊り終えたジゼルは額の汗をぬぐいながら、手を振る村人たちに応える様に優雅な礼をした。
 
 それを遠目に見ながら、シグルトは酒を啜る。
 
(祭とは不思議だな。
 忘れた多くの物を思い出す様で、とても騒がしく熱い。

 それほど経っていないのに、これほどまでに郷愁を覚える)

 酒が切れ、口に入った生姜の味が酔いを覚まさせる。
 何時だって夢は覚め、祭は終わるのだ。

 黄昏ていたシグルトの隣に、ジゼルが腰かけた。
 祭の熱気と踊りで赤く染まった白い肌を汗で輝かせ、大業を成し遂げた充実感で満ち足りた笑みを浮かべながら。

 シグルトは優しく微笑みかけ、彼女を讃える様に頷いた。
 嬉しそうにジゼルは目を細め、夜空を見上げる。

「ああ、まだ踊り足りないわ。

 今夜だけは、ウィアに魅入られた男の様に踊っていたい気分!」

 祭の音楽に合わせて指を鳴らしながら、首を音に合わせて振っているジゼル。
 
「ウィア…ああ、ウィリーのことか。

 此処にも、不埒な男を踊り狂わせるという妖精の伝説があるのだな」

 シグルトが、何とはなしに口にした。

「あら、知ってるの?

 貴方の知る伝説も似たものなのかしら?」

 何気に口にした、ジゼルは興味深げにシグルトを見る。

「多分同じルーツの伝説だろう。

 非業のまま死んだ森に住む乙女は、その怨念を晴らすため、不埒な男を死ぬまで踊らせる妖精になって、月光の下舞うという。
 その始まりは、〈ウィル・オ・ザ・ウィスプ〉…鬼火伝説の一種らしいがな」

 シグルトが知った顔で話すと、ジゼルは持ち前の好奇心で身を乗り出して来た。

「貴方の知るそのお話を聞きたいわ。

 鬼火伝説って何?」

 シグルトは、祭の熱に酔ったのか、少し饒舌になることにした。
 元々伝承を語ることは、嫌いでは無い。

「…ある所にウィルという不埒な男が居た。

 ウィルは、強欲で口が軽く、それ故に生前に沢山の罪を犯したまま死ぬ。
 しかし、天国と地獄を分ける場所で人を裁くという聖者を言い負かし、一度は生き返るのだ。

 だが、反省せずに悪行を重ねたまま、またウィルは死ぬ。
 再びウィルを迎えた聖者は、ウィルの業の深さに呆れ果て、天国にも地獄にも行けない様、扉を閉ざし彼を追いやってしまったという。
 
 以来、ウィルは中有…死と生の狭間を彷徨ったまま、誰からも見つけられず淋しく孤独に彷徨うこととなった。
 それを見た悪魔は不憫に思い、煉獄に燃える一つの木炭をかぶのランタンに入れてウィルに手渡し、彼はそのランタンを持って闇夜に現れる。
 
 そして、自分の仲間を増やすため、底なしの沼地や淵にその青白いランタンで誘うそうだ。

 その伝説にちなみ、アンデッドとなって鬼火を燃やすものをウィル、あるいはごく一般的な男の名前…ジャックと呼ぶ。
 鬼火…アンデッドの〈ウィスプ〉とは、この燃える木炭やランタン、火を付けたひと房の藁束等が元の言葉となっているそうだ。

 そこから派生したのがウィリーだ。
 女の鬼火から、果てはウィスプを妖精とする説から、男に騙されたり不幸にされた乙女が死ぬと、ウィリーという恐ろしい妖精になると。

 ウィリーは、自身に非業を与えた男を憎み、生きている者を羨み、そう言った者を見つけると死ぬまで踊らせるか、自由を奪って底なし沼に沈めるという。

 おそらくは、真夜中に踊る妖精の伝説と、生者を惑わす鬼火の伝説が集合して生まれたのだろう。
 そう言う伝説が残る地では、実際に伝説をもとにした怪物や妖精が生まれるそうだ。

 伝説は信じる者がそれを行った時、真実になる。
 案外、君がその伝説を知っているなら、この森にもそういった妖精が居るのかもしれないな…

 何時までも踊りたいなどと言葉にしたら、本当に休まず踊り続けさせられるかもしれないぞ?」

 伝説を流れるように説明し、最後に不遜なジゼルの言葉を取ってからかう。
 流石にシグルトも、祭の酒に酔ったのだろうか。

 同時に、ジゼルの身体を気遣っての言葉でもあった。
 シグルトは、ジゼルが病を抱えていることを見抜いていたのだ。

「こわ~い。

 分かりました。
 今日は休むから、脅しちゃ嫌よ」

 目は笑ったまま、ジゼルがおどけて見せる。

「そうしろ…休めば、またもっと踊れるはずだ。

 きっと、いい踊りをたくさんな」

 そう言ってシグルトは立ち上がり、近くの空いた皿に、使っていた杯を伏せて置いた。

 篝火は火勢を弱め、酔った村人たちも少しずつ帰りつつある。
 祭の終焉は近いのだ。

 天を仰ぎ、シグルトは一度静かに目を閉じる。

 そして、出逢ったばかりのジゼルという娘が心の底から自由に踊れる様に…
 夜空に祈りを捧げるのだった。


 次の日の朝。
 シグルトが朝の鍛錬を終えて村長宅に戻ると、火急の用事と村長に呼び出された。

 少しだけ後ろ髪を引かれる思いはあった。

 この村の空気は、故郷のそれに似ている。
 土臭くて素朴な、飲み込む様な閉鎖された世界。
 だからこそ、常の世界には無い独特の安らぎもある。

 だが、村長の一声はその迷いを完全に打ち消すものだった。

「昨晩は、楽しませて頂いた。
 誘って頂いたことを、心から感謝している。

 久しく忘れていた故郷を思い出し、立場を忘れてはしゃいでしまった様だ。
 迷惑をかけていなければよいのだが…」

 村長は苦笑して頷いた。

「迷惑などでは無い。

 貴方の詩は私も横で聞いていた。
 その気持ちに胸が打たれた。

 貴方の喜びも、祭に招いた者としてとても喜ばしい」

 だが、不意に眉を寄せ暗い顔になる。

「…しかし、貴方には本日中に村を出てほしいのだ。

 これは、貴方が迷惑をかけたからでは無い…
 一人の父親として頼みたい」

 明らかな拒絶の歎願。
 シグルトは黙ってその先を待った。

「…ジゼリッタが昨晩、貴方と村を出たいと言いだした。
 冒険者としての貴方の強さと高潔さに触れ、そして決意したのだろう。

 私も一人の父として、それを応援してやりたい。

 しかし、ジゼリッタには外の世界は耐えられない。
 あの娘は重い病を患っているのだ。

 だから、これ以上娘を惑わせないで頂きたい」

 黙って聞いていたシグルトは静かに頷く。

「…あの細い呼吸や、裏に干された薬草で見当は付いていた。

 娘御は、心の臓を患っているのだな?」

 村長の目が見開かれた。

「…かつて、医者を師に学んだことがある。

 ジゼルの病は、初めて会った時にそれとなく感じていた。
 親としての貴方の気持ちを分かるなどと増長するつもりはないが、気の毒に思う。

 申し出は最もだ。
 俺は、すぐにも村を去ろう。

 今まで世話になった。
 感謝する。

 だが、今一つお願いしたい。

 もし貴方が、父として娘に望む道を歩ませてやりたいと願うのなら…
 今なら、俺の医学の師がペルージュにいる。
 彼は、同じ様な症例を数年の治療で完治させたことがあると言っていた。

 ここに、その医師への紹介状と、会うための手順をしたためておいた。
 変った異国の人だが、高い金を取る人では無いし、消毒用に使える強い酒を2~3本渡せば診てくれるはずだ。

 お節介かもしれないが、このまま座して死に怯えるよりは希望もあるだろう。
 願わくば、彼女に運命に挑む機会を与えてやってほしい。

 俺はまだ親では無いが、子として親を思ったことはある。
 だからこそ、ジゼルの気持ちを汲んでやりたい。
 
 どうか、あの娘の夢が叶う様、決断してくれ」

 巻いた羊皮紙を机に置き、シグルトは静かに村長の決断を待った。
 降って湧いた希望に、村長は何度も頭を下げて礼を言う。

「…幸せになる者は、多いに越したことはない。

 もしその手助けになるなら、何よりだ。
 ペルージュは聖北の領分だから、この村の信仰のことは隠して行くと好いだろう。

 では、荷を持ったら失礼する。
 ジゼルに、よろしく伝えてくれ」

 一礼して、シグルトは去って行く。
 その後ろ姿を見つめながら、村長は呟く様に口にした。

「…冒険者、か。 
 なんと気持ちの好い男なのだろう。

 ジゼリッタが興味を持つのも、当然だ。
 だが、あれほどの器では、この村で娘の婿にとも言い出せんな。

 娘の見る目は確かだったが、それ故に目を付けた男が特別過ぎた。
 あれは、風の様に止まらない、そんな男だ」

 医者への紹介状を握り締め、村長は寂しげな笑みを浮かべた。


 シグルトが屋敷を後にしようと荷を纏めていた頃、ヒラリオは村長邸の馬小屋に忍び込んでいた。

「良し、誰もいないな。

 あの阿婆擦れめ…
 俺を怒らせたことを後悔させてやる。

 ククッ、この薬でお前の愛馬は大暴れさ」

 手に持った粉薬を一摘み、ヒラリオの侵入を警戒して鼻息を荒くしているジゼルの愛馬ホーリーに振りかける。
 見る間にホーリーの目から理性が消えた。

 ヒラリオは小屋に設けられた柵を外し、扉を開けてホーリーの脱走をお膳立てる。

「…シグルト。

 アンタは、あの馬を止められるかな?」

 自身もまたその粉薬によって惑わされたかの様に、ヒラリオの目は嫉妬の炎によって燃え狂っていた。


 シグルトが旅支度を終え、屋敷を出ようとすると、村長が見送りに玄関まで現れた。

「では、世話になった」

 短いシグルトの挨拶に、村長は「こちらこそ」、と応え頭を下げる。
 
 そうしてシグルトが、この村での逗留を終えようとした矢先である。

「キャァァッ!!」

 甲高い女の悲鳴。
 そして、人々が怖れ戦く声があちこちから聞こえてくる。

「な、何事だ?」

 村長が動揺して思わずに声にした。

「…蹄の音がする。
 
 この様子は、暴れ馬か?」

 シグルトの落ち着いた判断に、村長の顔が青ざめた。

「ま、まさかうちの…!!」

 それ以上聞く事無く、シグルトは外に飛び出した。

 案の定、外ではジゼルの愛馬ホーリーが、狂った様に暴れていた。
 目は血走り、口端から泡をこぼす姿は、まさに「狂乱した」様子である。

 周囲は、果物の収穫のために出された木箱や荷車が蹴倒され、酷い有様だ。
 何人か巻き込まれて怪我をしたのか、倒れた数人が呻いている。

(…死ぬほどの怪我人は居ない様だな。

 しかし、気難しそうだったとはいえ、見た限りこれほど暴れる様な馬では無かった。
 何がこうまでさせている?)

 シグルトは精霊術を用いて妖精の加護を得ながら籠手をはめ、ホーリーに近づいていった。

「…ホーリー!

 止めろっ!!」

 前に立塞がって、その気を誘うと、怒り狂ったホーリーはシグルトに襲いかかって来た。
 近寄った拍子に、飛び散ったホーリーの涎から何とも言えない刺激臭がする。

(…これはエパか?

 く、誰かが意図的にホーリーを狂わせたな。
 いったい誰が…)

 襲い掛かって来たホーリーの蹄を、見切って躱す。

 しかし、着地場所には砕け散った木箱の欠片が落ちており、ホーリーはそれに足を取られて派手に転倒した。
 骨の折れる音と、壁に激突する凄まじい音。

 土埃が舞い、ホーリーは一度悲しげに嘶いて、地に倒れ伏した。

 耳と鼻から血を噴き出し、舌をだらりと出す。
 当たりどころから、頭蓋骨が砕けたのだろう。
 馬の突進力とは凄まじいのだ。

 シグルトは動かなくなったホーリーの側によると、さっと脈を測り、唇を噛みしめた。

 その時、騒ぎを聞きつけてジゼルが走って来た。
 荒れ果てた周囲の様子と、変わり果てた愛馬の姿に目を見開く。

「えっ…これは?」

 悲壮な様子でシグルトを見るジゼルに、シグルトは静かに首を横に振った。

「ね、ねぇシグルト…

 これはどういうことなの?」

 信じられないという顔で、ジゼルはシグルトに問いただした。

「貴方が、貴方がホーリーを殺したの?」

 しばし黙ったシグルトは、肯定も否定もしなかった。

「俺に襲いかかって来たので、その攻撃を避けた。

 その時着地に失敗して壁に突っ込んだが…事故と一言で片付けられる状況でもあるまいな。
 この様な結果になって、すまない」

 静かにシグルトはジゼルを見た。
 否定しても、状況はそれを許さない。
 故に一旦ジゼルが話を聞ける様になるまで、待つつもりだった。

「…どうしてっ!」

 ジゼルが手を振り上げる。
 それを横から割って入った村娘が止める。

「違うわ、ジゼル!

 その人は悪くないのっ」

 彼女の静止に、力無くジゼルの手が下げられる。

「マリー…」

 マリーと呼ばれた村娘は、荒れ果てた村の様子を指さした。

「見ての通りよ…

 ホーリーが突然暴れ出して、それを冒険者サンが止めようとしてくれたのよ!
 そうしたら、ホーリーが冒険者さんに襲い掛かって…

 そのまま受けたら死んでしまうから、冒険者サンは攻撃を躱しただけ。
 ホーリーはそのままこけて、運悪く頭を強くぶつけて…

 だから、冒険者サンは悪くないわ」

 ジゼルの目に諦めの光が宿り、そして彼女は項垂れた。

「…そう。
 分かったわ。

 ホーリー、今…うっ!」

 力無くジゼルは、死んだ愛馬に近寄ろうとして、突然苦悶の表情になる。
 胸を抑え、脂汗が額から落ちた。

「…いかんっ!」

 シグルトは、すぐにジゼルの心臓が発作を起こしたのだと気がついた。
 強い緊張の後の僅かな脱力…心臓の病にとってこれらの急激な変化は大きな危険を伴う。

「…く、苦しい…!」

 喘ぎながら、細い息を繰り返し、パクパクと口を開閉するジゼル。
 駆け寄ったシグルトは、血流を制御するツボを押さえ、彼女の体勢が楽になる様に抱き抱える。

(くっ、唇が紫になっている…

 血が息が意思に逆らい始めているのだ。
 このままでは拙いっ!)

 処置を続けながら、シグルトは強い口調で側にいたマリーに声をかけた。

「…マリーと言ったな?

 すぐにジゼルの家の玄関に掛かっている、尖った葉の薬草を持ってきてくれ!」

 ジゼルの乗馬服を緩め、体温が奪われない様に、自分が纏っていた外套でその身体を包む。

「う、うん!」

 慌てて駆け去るマリー。

「い…嫌っ!

 まだ、死にたくない…助けて」

 弱い痙攣を繰り返しながら、ジゼルが助けを求める様にシグルトに手を伸ばす。

「ゆっくり息を吸えっ!

 惑乱に意識を捉われるな。
 ゆっくり、背中の後ろまで吸い込み、ゆっくり吐くんだ」

 血流を落ち着けるため、優しく肩を擦ってやりながら、シグルトは懸命にジゼルを励ました。

「…シ…グル、ト…」

 弱々しい一息の後、ジゼルはシグルトの名を呼び、だらりと脱力した。
 触れた身体から、脈拍による振動が消える。

「…逝くなっ!」

 シグルトはジゼルの心臓を何度もマッサージし、ジゼルの鼻をつまんで口移しで息を吹き込む。
 時折心臓を叩く様に胸の中心を圧し 、手に気を集中して心臓に送り込む。

 だが、何度蘇生処置を施しても、ジゼルが目覚めることは無かった。

 側には、薬草を抱え蒼い顔したまま立ち尽くすマリーと、急を聞いて駆け付けた村長が祈る様な目でシグルトを見つめていた。
 諦めず、ずっと蘇生処置を続けるシグルト。

 時間が立つのも忘れて、行為に没頭していたシグルトは、背に男の嗚咽を聞き、終にその手を止めた。

 泣き崩れた村長の姿があった。
 その手から、シグルトの渡した紹介状が零れ落ちる。

 シグルトは、手拭いでジゼルの汚れた顔と口を拭き清めると、服を戻しそっと地に横たえた。

「…力及ばなかった。

 すまない」

 周りには村人たちが集まって来ていた。
 中には、壊れた木箱を片付ける者もいる。

 ホーリーの遺体はすでに無かった。
 空の太陽は、真上からシグルトをギラギラと照らしていた。

 それだけ長い間、蘇生処置を続けていたのだろう。

「…冒険者サンは悪くないわ」

 泣き腫らした顔で、マリーが言った。
 今でも両手には、祈る様に薬草が抱えられている。

 シグルトは耐え切れない激情をかみ殺す様に歯を食いしばり、憎い何かを叩き潰す様に石畳を殴りつけた。
 飛び散った石のかけらが、シグルトの額をかすめ、血が一雫だけ汗と混じり合ってジゼルの頬に落ちる。

 それはまるで、シグルトの流した慟哭の涙の様だった。
 

 ジゼルはホーリーの遺体とともに、すぐに埋葬された。
 この村には、事故死の者が出た場合、魔物に成らぬ様すぐ葬る仕来たりがあるという。

 美しく、才能に恵まれた森神の巫女は、その夢を叶えることなくその一生を終えた。
 天は彼女に才能と美しさを与えたが、病という重い宿命も背負わせたのだ。

 シグルトは、村長と村人に請われ、ジゼルを埋葬するのを手伝った。
 村の誰もがシグルトの必死さを目にし、その資格があるのだと認めていた。
 
 墓穴を掘るのを手伝い、遺体を地に横たえ、土を掛ける間…シグルトは一言も喋らなかった。
 涙は流さない。
 だが、彼が泣いているのだと、誰もが感じ取っていた。

 シグルトは、親しい者の死を経験したことが何度かある。
 それ故に涙を流して悲しむのは、親である村長と、ジゼルの親しい者たちが行うべきと身を律していた。
 
 冷静に振る舞うシグルトの唇は引き結ばれ、軋む様に歯を噛みしめる音が、その悲しみの深さを物語っていた。

(俺は何人、親しくなったものを見送ればよいのだろうな…)

 シグルトの背中は、そんな彼の本音を正直に語っていた。


 その夜のこと。

 誰も居なくなったジゼルの墓の前で、泣きながら謝る男の姿があった。
 ヒラリオである。

「ううっ…許してくれ!

 まさかこんな酷いことになるなんて、思いもしなかったんだ。
 ただ、お前とあの冒険者が楽しそうに話していたのが、妬ましかったんだ。

 すまない…すまないっ!」

 だが、ヒラリオは知らなかった…あるいは信じていなかった。
 夜半過ぎ、人の悲しみや後悔が、人ならぬものを招くことがあることを。

 そして、此処は墓場である。
 時には未練を残したものが弔われる、死と生の狭間…中有の領域なのだ。

 ヒラリオは嘆くのに夢中で、何時の間にか自分が沢山の鬼火に囲まれていることに気がつかなかった。

 不意に自分の涙が何かの光を反射して青白く光り、漸くそれに気付く。

「…ひっ!

 ひぃぃぃっ!!!」

 不気味に揺れる無数の火の玉を見て、ヒラリオは正気を失った様によたよたと走り去った。

 やがて、鬼火の一つが古びた墓の上で人の姿を取る。
 それに習う様に、無数の鬼火たちは次々と人型に転じて行った。

 中央で最初に人型を取ったそれは、美しく白い顔を嘲りの表情で歪め、ヒラリオの逃げ去った先を詰まらなそうに見やった。

「…薄汚い人間の男め。

 我らが聖域を、言い訳と鼻汁で汚した罪は万死に値する。
 すぐに殺してくれようが…

 それよりは、新しく生まれる同胞(はらから)の祝福が先。
 
 ウィアの女王ミレトの名において命ずる…
 皆も妾と祝うのだ」

 女は、透けた白い霧の衣を纏い、捩じくれた一本の棒杖を天に掲げ、一つの墓を示す。
 それは、先ほどジゼルが埋葬された墓である。

 高らかに女が呪文を唱えると、合わせる様に他の人外たちも唱和する。
 杖を持ったその女が、その杖でジゼルの墓を打ち据えた時、地面から弾け出る様に小さな鬼火が一つ飛び出した。
 その鬼火はやがて、人の姿を取る。

「…あ、あれ?

 私は何を…」

 それは、少し透けた姿だったが、間違いなくジゼルである。

「ふふ、ジゼリッタと言うのか。

 お前も、無念非業の死を遂げたのだな?」

 薄い唇を歪め、杖を持った女は笑う。

「えっ…

 私は、心臓の病で――」

 目をぱちくりと開閉し、分からないという風にジゼルは首を傾げる。

「――そう、お前は心臓の病で最期を迎えた。
 愚かな男の嫉妬によって起こされた、無情な仕打ちのせいでな。

 故に、妾たちの同胞として復活させた。

 この辺りでは〈ウィア〉と呼ばれている、その妖精になったのだ」

 女の言葉によって思い返されるシグルトとの会話。
 
〝…非業のまま死んだ森に住む乙女は、その怨念を晴らすため、不埒な男を死ぬまで踊らせる妖精になって、月光の下舞うという…〟

「ウィア…」

 舌に乗せて言葉にすると、不思議な感じがする。
 祭の中、隣でシグルトが語ってくれた妖精に、自分自身が成ったという神秘。

「―むっ…?

 珍しい夜だ。
 こんな夜更けに、2人も人の気配を感じるとは。

 ジゼリッタよ、その獲物はお前にやろう。
 我らの存在意義、しかと体認するのだ」

 女は促す様に頷くと、他のウィアを伴って飛び去った。

 残されたジゼルは、自分の墓の前で途方にくれる。

「…身体の奥底から湧きあがってくる、この衝動と知らない知識。
 私は、ウィアになったのね。

 でも、この衝動を否定する自分もいる。

 どうすれば…」

 思い浮かぶのは、自分の最期を看取ってくれた美しい一人の男。
 彼なら、どうするだろう?

 ジゼルは透ける身体で立ち尽くしたまま、思案に耽った。


 杖の女が感じたもう一つの気配は、シグルトだった。
 
 彼は、村人の勧めを断り、今晩のうちにヴィスマールへ帰還するつもりである。
 夜間の道は暗いが、その気になればランプも持っていたし、一度歩いた山道は記憶している。

 シグルトの胸には、封じていた暗い気持ちが呼び起されていた。
 助けようとしても叶わぬ不遇があることを、再び強く感じたせいだ。

 もっと早く駆けより、ジゼルに治療を施していれば…
 あるいは、ホーリーを止められていれば…

 様々な〈もし〉が頭に浮かんでは消えて行く。
 ジゼルを失った今では、それが詮無い愚痴に過ぎないことも分かっている。

 シグルトは多くの死を看取って来た。
 その中にはもっと身近だった者の、さらに残酷な死様もあった。

 一個の人間が努力したとしても、痛苦別離は世の常であり、逃れられない。
 それをよく分かっているシグルトであっても…やはり死別の虚しさは深い。

 ジゼルはもしかしたら、新しい未来を歩めるかも知れなかったのだ。
 希望に満ちた、夢を叶えるための未来を。

 だが、彼女は死んでしまった。
 とてもあっけなく、悲しい結果で。

 シグルトには、それがとてもやる瀬なく感じられた。

 天衣無縫に見えるシグルトも、その内は一個の人である。
 親しい者の死を悼み、憤懣に身を焦がす。

 ただそれが、人には見えないほどに、表現が下手なだけだ。

 そんなシグルトが一番許せないのは、すでにジゼルの死を認め断念し、悼んでいる無力な自分。
 死者にしてやれることは、いつでも弔いと思い出を語ることぐらい。

 この様なことが起こらないために、日々努力して来た。
 報われるためだけに励んで来たのではないが、どこかで大切な人たちを守れると自負していた。

 その慢心が許せない。

 でも、シグルトは決意を新たにしていた。
 嘆くだけでは前に進めないことを、何度も経験していたからだ。

 まずは村を出、そして日々の生活に戻る。
 そしてやるべき時にやるべきことを行いながら、今回のことを身に刻んで生きてゆこう…

 嘆き澱んでも、それは決して死者のためにはならないと知っている。
 ならば、この痛苦を背負って生きること。

 それがシグルトという男の、生き様である。

 故に、旅立つ前に、もう一度だけジゼルの墓を訪れておきたかった。
 始まるには、きっかけが必要だからだ。

 夜道をジゼルの墓へと歩みながら、シグルトはすでに冒険者としての生存能力を発揮し始めている。

 周囲に満ちる哀愁と鬼気。
 シグルトが何時もにもまして憂鬱に感じるのも、夜の森に満ちた瘴気のせいだろう。

 不意に思い出す、ジゼルとの会話。
 〈ウィア〉という化生の伝説。

 張りつめた表情のシグルトを、トリアムールの起こす風が心配気に撫でて行く。
 分かったという風に、シグルトは精霊術を行使した。

 トリアムールの風術とともに定着しつつある、妖精の隠形術。
 この術の力をもってすれば、多少の呪縛は退けることが出来る。

(嫁入り前の娘が非業の死を遂げ、妖精となった慣れの果て。

 夜に墓から抜け出して、森に迷い込んだ愚か者を死ぬまで踊らせ…
 あるいは底なしの沼に誘う)

 〈ウィア〉とは悲しい伝説である。
 
 シグルトは、妖精に生まれ変わった死者を弔うために、古いまじないの詩を口ずさみ、夜道を歩き始めた。

「《月夜の晩に踊る〈よきひとたち〉よ、
  星はこんなにも輝いている。

  死は悼まれ、そして消える。

  乙女は蝶に、戦士は獣に、
  可憐に雄々しく生まれ変わり、

  未練は果てて夜を謳歌する。

  ならば〈よきひとたち〉よ、
  死と夜の暗がりは、
  恐ろしいはずがあろうか。

  月は太陽よりも優しく包んでくれる。
  日差しに焼かれることはないだろう。

  夜の風はこんなにも静かなのだ。
  生の喧騒は忘れられよう。

  闇の安らぎに微睡む様に、
  夜はあなたたちの揺り籠なのだ…》」

 【妖精の護光】に身を包み、詩を吟じるシグルトは、当人も妖精の様だった。
 当然であろう…シグルトもまた、白エルフと呼ばれる古い妖精の血を引く者なのだ。

 夜の森は不気味であると同時に、郷愁を感じさせる。
 寡黙なシグルトが、詩を捧げるほどに。

 シグルトの周りだけ、森の憂鬱な気配が消え、柔らかな静けさに包まれて行く。
 
 詩とは言霊の芸術である。
 言葉とは、本来高貴で高尚なものなのだ。

 神に捧げる呪文があり、賛美する歌がある。
 今シグルトは、言葉の持つ神秘によって、周囲の意味を変えた。

 弔いの言葉は、死に意味を与え死者を葬る。
 喜びの言葉は、生を祝福し力を与える。

 何気なく使われる言葉を、古の民はもっと大切に使っていた。
 森の様に古からある場所は、それ故に美しい言葉を好むのだ。

 シグルトは、そんな伝承をとても尊いと思う。

 気付けば星空の下、ジゼルの墓の前に辿り着いていた。

 そこにあるのは、聖北の信仰が影響しない墓石。
 多くは魂を沈め、死者が甦らない様にするための重しの意。

 この時代、土葬が中心だった故に、死者復活の概念がことさらに強い。
 
 聖北では、死者の復活は尊いものとされる。
 死を超越する救世主の奇跡だと。

 だが、生前の姿を残したまま葬られた者の復活は、本来は忌むべきものとされた。
 復活と同時に、生者を脅かす別の存在に変わるのだと。

 多くはウィスプやグールを中心とするアンデッド。
 ウィアの様な妖精的な側面を持つものも存在する。

 それでも人が土葬を好むのは、死者がどこかで戻ってくることを願う意味があるのか。
 あるいは、生きた時の姿を壊すのが恐ろしいのか。

 でも、埋葬された死体は見えず応えない。
 そこには、目印として重々しい墓石が一つあるだけなのだ。

 シグルトは、墓の前に跪くと、風で降りかかった土埃を払い落し、ジゼルの墓碑銘をなぞった。

〝麗しき森神の巫女ジゼリッタ、愛馬ホーリーとともにここに眠る〟

 簡素な碑文である。
 
「…ジゼル。
 謝罪が君の命を繋ぐものだったのなら、俺は迷わず何度でも君に頭を下げただろう。

 だが、君はこの冷たい土の下にホーリーと横たわっている。

 今の俺に出来ることは、君を忘れずにいて、思い出し語ること。
 悲しいことだが、せめて忘れないと誓おう。
 君を思い出す度、あの時の詩を、そして君の舞踏を思い出す。

 君に寂しさが無い様、楽しい思い出が君の心を慰められる様に祈ろう」

 素朴な誓とともに、シグルトは墓石を撫でた。

「…貴方は強いのね、シグルト。

 そうしてもらえるなら、とても嬉しいわ」

 湧きあがる様な声。
 そして、墓石の向こうからその娘は微笑んで覗きこんでいた。

「…ジゼルなのか?」

 シグルトの状況判断能力が現状を把握し、そして何が起こったか理解した。
 同時に、彼女から危険な鬼気が発せられないことを知って、力を抜く。

「…また逢えたわね、シグルト」

 何時もの様に、好奇心と陽気さに満ちた笑顔。

「…そうか、伝説通りウィアになってしまったのか。

 だが、君は邪な存在にはなっていない様だな」

 落ち着いた様子でシグルトは、苦笑した。

「うん。

 正気のままだから大丈夫。
 貴方を踊り殺したりしないわ。

 でも、驚かないなんて凄いのね」

 好奇心で目を見開く仕草。
 少し透けていても、それは変わらなかった。

「…冒険者になる前から、死神だの神殺しだの、色々なものに会ったからな。

 驚くよりも、今がどういうことなのかそちらに気が行くようになってしまった。
 少し、因果だな」

 肩をすくめて見せるシグルトに、ジゼルがそうなんだと微笑み返す。
 まるで生きていた時と同じ様に。

 ジゼルには少しだけ恐れがあった。
 もしかしたら、ウィアになった自分に敵意を向けて来るのではないかと。

 だが、シグルトがそういう人間でないことは、直感で分かってもいた。
 彼は目に見えないものととても大切にし、真実を見据えていることを感じていたから。

 シグルトは続いて何かを言おうとするが、ジゼルは待ってとそれを制した。

「もし謝るのなら、止めてね。

 貴方は村を救うために、ホーリーを止めようとした。

 そして、死ぬ間際の貴方の温もりを覚えているわ。 
 必死に私を生かそうとしてくれたことも。

 謝られたりしたら、パニックを起こして死んじゃった私が恥ずかしくなっちゃう。

 ね、男の子は、女の子に恥をかかせないものよ?」

 唇に一本人差し指を当て、片目を瞑ってそんな言葉を口にするジゼルに、シグルトは大きく頷いた。

「…それにね。 
 私、たぶん長くなかったわ。

 だから、いいの。

 今はウィアになっちゃったけど、貴方とまたこうして話せるなんて、嬉しいわ。
 こんな夜に来てくれたから、逢えたのよね。

 有難う」

 そう言って、ジゼルはシグルトの手に自分の手を重ねる。
 透けて見えるが、実体がちゃんとある。

「ふふ、ちゃんと触れるわ。

 これなら、また貴方とワルツが踊れるわね」

 シグルトは両手を広げて困った顔をして見えた。

「踊り殺されない程度なら、お受けするがな。

 でも、知っての通り、踊りは苦手だぞ?」

 シグルトの言葉に、ジゼルは晴れやかな笑顔を浮かべていた。


 その頃…ヒラリオは必死に逃げていた。

 何時の間にか、夜気で冷やされて霧に覆われた沼の前に辿り着く。
 
 村からは随分離れてしまった。
 冷たい汗が、ぽたぽたと地面に滴り落ちる。

「な、何なんだ、あの鬼火は?

 後を追いかけて来やがって…」

 荒い息で、休みながらヒラリオは毒づく。

 すると、先回りしたかの様に、沼地に4つ鬼火が現れた。

「ひぃっ!」

 怯えて尻餅を突く。

 やがて鬼火は人型を取り、中央にいる杖を持った女が滑る様に近付いて来た。

「お、女?」

 目を見開くヒラリオを睨み据え、杖の女は蔑む様に首を巡らした。

「―愚かな人間よ。
 我らの静かな月夜に、土足で踏み込み、その靴音で眠りを妨げた罪は重いぞ。

 妾こそは、この森のウィアを統べる女王ミレト。

 夜の森は、我らあやかしの領分であるのに、そこに踏み入るとは恐れを知らぬ。
 その愚行を後悔するがいい…」

 ヒラリオは、この地方に伝わる伝承を思い出し蒼褪める。

「…ウィ、ウィアだと?」

 震えるヒラリオの足に向け、ミレトと名乗った杖の女は、その捩じれた杖を一振りする。
 途端、痙攣する様にヒラリオの両足が波打ち、勝手に上下に歩き始める。 

「か、身体が…!」

 必死に身体を制御しようとするが、まるで別の何かに足を乗っ取られた様だ。

「―踊り…死ね。

 お前の様な下賎のことなど知りはせぬが…
 滑稽な舞踏で我らを楽しませつつ、散り逝くがいい」

 薄い唇を吊り上げて、ウィアの女王が笑う。
 そして、周囲のウィアたちが拍手する。

 まるで、虫の足を夢中で千切る子供の様に、無邪気なのに邪悪な笑みを浮かべて。

「う、うわぁっ!

 止めてくれ、止めてっ!
 助けてっ!!」

 そのままヒラリオの足は、不器用なステップを踏みながら沼に向かっていく。

「ひ、ひぃっ!
 死にたく、死にたくないっ!

 だ、だれかぁ、誰かぁっぶぉ!!!

 がぼぉ、ぐふぉ、がぼぼ…」

 沼に入ったまま深水でぐるぐる回り、鼻から口から沼地の生臭い泥水が入ってくる。
 必死に陸を求めてもがくうち、何か細いものを掴み、必死に引き寄せる。
 それはヒラリオの肩にがしがみ付いた。

 ヒラリオはそれがなんであるか知って、息が止まった。

 自分と同じ様に沈められた男であろう、腐って眼窩から魚が飛び出した骸骨だった。
 そのままヒラリオの心臓は凍りつく。

 奇しくも溺れ死ぬ前に、ヒラリオは自分がジゼルにもたらした死と同様、心臓の停止でその一生を終えたのだ。

 死体になったヒラリオは、ぐるぐると骸骨と踊りながら沼に沈んで行った。
 その姿を、ウィアたちは腹を抱えて笑う。

「ほほ、醜い者同士、お似合いの舞踏よな。

 …さて、ジゼリッタの方は手間取っておる様だ。
 仕方ない、妾が手を貸してやろう」

 沈んでいく死体には目もくれず、ウィアの女王ミレトは鬼火に姿を変え、ジゼルの墓に向けて飛んで行った。


 2人の短い歓談は、ヒラリオの甲高い悲鳴によって終わった。

「…男の悲鳴…

 北の方からか?」

 籠手をはめ、剣の鞘を返す。
 即座に抜刀出来る様、柄に手を掛け、シグルトの目は猛禽の様な鋭さを宿した。

 後ろで見つめていたジゼルは、それがシグルトの日常だと気付いて少し淋しさを覚えるも、気持ちを切り替えて彼に向き直る。

「…シグルト、逃げて。

 多分、ウィアの女王が間もなくやって来るわ。
 貴方を、殺すために」

 シグルトは首を横に振った。

「…森の広さから言って、逃げるのは無理だ。
 鬼火になってやって来るウィアの移動速度は、とてつもなく早い。

 一応は対抗手段も備えて来ている。
 場合によっては、一戦も止むを得ないだろう」

 ジゼルは、浮かび得たウィアの知識で反論する。

「彼女を甘く見ては駄目。

 魔法の木の枝で、相手を想いのままに出来るのよ」

 シグルトは頷いた。

「【支配の枝】とも呼ばれる棒杖(ワンド)だろう。

 それならば、俺の装備で何とか出来るかもしれん」

 シグルトは、籠手を打ち鳴らした。
 
「…駄目よ、無茶は。

 最後に貴方に逢えて良かったわ。
 私は、安らかになれる方法を探して、貴方との思い出を抱きながら眠るから…

 だから、さよなら」

 決意に満ちたジゼルの顔。
 シグルトは、彼女の気持ちを酌むことにした。

「…分かった。

 だが、もし君が生まれ変わることがあったら…
 或いは俺が一生を全うしたのなら…
 どこかで逢おう。

 何時か昼には、君の墓に来て、良い酒と都会の話を捧げると約束する」

 シグルトの言葉に、ジゼルは深く頷く。

「…じゃあ、お別れ…あっ!」

 ジゼルの表情が、見る見る絶望に染まって行く。
 
「ウィアの女王が来るわっ!

 早く、お墓の影に隠れてっ!!」

 苦肉の策であろう。
 シグルトは、無駄と分かりつつも頷いて、ジゼルの墓石の後ろに姿を潜めた。
 同時に、ある決意を持って籠手に古い言葉を描きつけていく。

 シグルトが隠れるのと同時に、鬼火がふわりと降りて人型を取る。
 ウィアの女王ミレトである。

「―男を殺せなんだな、ジゼリッタ」

 現れるなり、刻薄な表情でミレトはジゼルをねめつける。

「も、申し訳ありません、女王様…」

 芯の所にあるウィアとしての本能が、創造主であるミレトへの畏怖を起こさせる。

 墓の後ろで、シグルトは剣と籠手に土で三角形と二十六夜の月(逆三日月)を描く。
 まじないを終え息を潜めるが、何時でも飛び出す備えは出来た。

「何人足りとも、この夜に此処に足を踏み入れてはならぬ。

 妾の安息を守るため…そこに隠れておる男も始末せねばな…」

 元より、妖精は気配で存在を知る。
 姿を隠す故に、見つけるのも得意なのだ。

 シグルトは、隠れるのを止め、姿をミレトの前に晒した。

「はははっ!

 この森は妾の庭。
 全てを見通すのも容易い。

 ジゼリッタ、殺せ。

 その男の自由を奪い、踊らせて精気を奪い去るのだ!」

 即座にジゼルは反発する。
 頭を大きく振って、ミレトを睨みつけた。

「嫌よ、たとえ女王様の命令でも出来ないわ!」

 それに呼応する様に、シグルトは暗がりからミレトの前に歩み出た。
 その美しい顔立ちに、ミレトが息を飲む。

「もし、ジゼルに俺を殺す様なことを命じるのなら、俺はお前に確実な破滅をもたらすだろう。

 〈ダナの子供たち(トゥアハ・デ・ダナーン)〉の妖精ならば、【滅びの鎌】を恐れぬはずがない」

 強い言霊を持ったまじないの言葉に、ミレトが一瞬怯む。

「…ふん、小癪な人間め、片腹痛いわ。
 何処で知ったかは知らぬが、その様なはったりで妾を貶められると思っているのか?

 ならば、望みどおりジゼリッタでは無く、妾自らお主を踊り殺してくれよう!」

 そうしてミレトは、呪文を唱えながら杖を一振りする。

「《魔法の杖よ。

  あの者を踊らせよ!》」

 しかし、ミレトが放った魔力は霧散した。

「ば、馬鹿な…

 何故杖の魔力が…」

 驚愕に染まったミレトの耳に、くすくすと小さな笑い声が聞こえた。

「「愚か愚かと笑うけれど、ほんとに愚かなのはウィアの女王。
  妖精の加護を受けた勇者の前に、癇癪起こして杖振る、ただのおばさん!

  白エルフの血を引く王子様には、〈お母様〉の加護もある。
  きっと、刈られる、怒られる…」」

 シグルトが纏った【妖精の護光】が、呪縛を打ち破ったのだ。
 目には目を、妖精の力には妖精の力で対応した、シグルトの作戦勝ちである。

 その一瞬に、シグルトが踏み込んで剣を振るった。
 あっけなくミレトの杖が折れ飛ぶ。

 剣と籠手に描かれた紋章を見て、ミレトの顔が恐怖にひきつった。

「な、何故お前が、我らの〈偉大なる母〉の収穫の紋章を使っている!

 それは、それは…失われた!!」

 ミレトを諭す様に、シグルトが紋章を指さす…三角形に二十六夜の月の紋章を。

「俺の先祖の一人に、償い(エリック)と呼ばれた男が居た。

 滅び去った光の神の血を引く、末裔だ。
 この青黒い髪と瞳は、邪眼の王を屠った呪いで、つけられた反逆者の徴。

 ならば、お前たちの終焉の言葉を知ってもいよう」

 シグルトは強い言霊を持って、ミレトを縛る。

「かつて、神々は人のいない世界に去って精霊や妖精になった。
 後の妖精は皆、去りし神の眷族だ。

 ならば、俺が最初に告げた言葉に従わなかった時点で、理不尽な妖精の力は全て失われている。

 偉大なる母神は、ことさらに力に酔い磨くことを忘れた、増長する者を嫌うからな。
 彼の女神の怒りで、どれだけの終焉が訪れたのか、それは神々が神話になっていることが示しているはずだ。
 
 【滅びの鎌】…神を斬る【金剛の鎌】は、お前たち全ての妖精を産み、魔の黒雲に乗ってやって来た神々の母〈ダナ〉のこと。
 産み与え、刈り取り奪う太古の、神性すら語られざる女神。

 俺は、奇しくも〈ダナ〉の申し子として生まれて来た。
 彼女の骨盤を象徴する金床に乗り、天を掴もうとしたそうだ。

 〈ダナ〉の本性は、歪みを歪ませ正す破魔。
 燃える炉の子宮で、子を鍛え直す刃金の母。

 全てを切り裂くその御名で、理不尽な妖精の力は去る」

 シグルトが言っているのは、ケルト神話を元にした妖精のルーツである。
 妖精となった神々の母…それが、刃金の精霊として知られる、謎多き大精霊ダナであった。
 
 シグルトの先祖とされる白エルフの姫君は、一人の旅人と恋に落ちた。
 その男の名はエリック…「償い」や「贖い」を意味する名を背負わされた、光の神ルー(ルーグ)の末裔である。
 
 ルーは〈ダナの子供たち(トゥアハ・デ・ダナーン)〉と〈フォーモル〉と呼ばれる魔神族の混血の神で、伝説の英雄クー・フーリンの父親だ。
 祖父であるフォーモルの王、邪眼のバロールを屠り、終には神々の王となる。

 だが、ルーの子供や血筋に関しては後の記録が残っていない。
 ケルトの神々については、多くが散失し残っていないが、シグルトは容貌に色濃く名残を残す、ルーの神魔の血と古き妖精の血を引く混血の末裔であった。

 ジグルトの才能、そして美貌。
 それらは血筋故である。
 同時にその波乱万丈の運命もまた、然り。

 シグルトは何時も、自分の才能に否定的だ。
 それは、背負わされた理不尽と孤高が、彼の才能故にもたらされることを伝承で知っていたからだ。

 それを打ち破るには、努力より他無い。
 遠い昔にシグルトは、美しいハーフエルフの女性からそれを学んだ。

 その女性とは、エリックと白エルフの娘で、シグルトの遠い先祖に当たる神仙オルテンシア姫である。

 シグルトは、選ばれた様に英雄の相を持って生まれた。
 ケルトの多くの英雄たちがそうである様に。

 だが、英雄の相は必ず当人を才能故に堕落させ、増長させ、破滅させる。
 シグルトもまた、増長こそしなかったが、運命に翻弄されて来た。

 そんなシグルトだからこそ、憎むのだ。
 ミレトの様に傍若無人に振る舞う、運命を弄ぶ古の者を。

「もう一つ教えてやろう。
 お前たちのまじないで、俺は踊らない。
 
 俺はすでに踵を切られ、普通に踊れないのだから」

 まともな踵の腱をすでに切り裂かれたシグルトを踊らせるなど、不可能だったのだ。
 妖精の加護無くとも、シグルトは支配されて踊ることなど無かっただろう。

 折れた杖を握り締め、ミレトは悔しさの余りその顔を憤怒で歪めていた。
 薄い唇が波うち、悪鬼の様である。

「ぐぅ、これではジゼリッタに命じても…
 されど、ここで男を取り逃がすなどウィアの名折れ。

 かくなる上は、妾直々に屠ってくれるわ!」

 杖を投げ捨てたミレトの前に、ジゼルが躍り出る。

「シグルトを傷つけると言うなら、私も戦うわ。

 この村一番の誉れを持った私の弓で、貴女を射抜く!」

 ジゼルの手には、何時の間にか弓矢が握られていた。
 一緒に埋葬された愛用品は、死者の持ち物となるのだ。

 シグルトがトリアムールの風を召喚し、身に纏う。

「…ジゼルには安らぎを。

 人の敵である貴様には牙を剥こう。
 何故人が、神々や妖精に長じてこの世に蔓延ったか、知るがいい」

 剣先をミレトに向け、宣告するシグルト。

「身の程を知れ、人間、そして小娘がっ!

 我が魔力で、粉微塵に粉砕してくれるわ!!」

 その言葉をきっかけに、戦いが始まった。
 ジゼルが弓を構え、ミレトに狙いを定める。

「同じウィアでありながら、女王たる妾に矢を向けるとは。
 この無礼者めが!

 男ともども、殺してくれようっ!!」

 その言葉に、ジゼルは挑戦的な笑みを浮かべた。

「あら、私はもう死んだはずよ。

 死人をどうやって殺すのかしらねっ!」

 見え透いた挑発にも、逆上したミレトは面白い様に乗って突っ込んで来た。

「《トリアムール!》」

 二筋の風がミレトの霧の衣を切り裂く。 
 シグルトはその間に接近して、渾身の力でミレトを殴りつけた。

「ぐふ、き、貴様、女の顔を何だと…!!」

 鼻血こそ出ていないが、歪んだ顔はもはや美しさも気品も無い。

「後ろがお留守よ!」

 ジゼルの弓が、ミレトの腕に突き刺さる。
 血飛沫の様に、身体が霞んで夜の空気に融けて行った。

「…調子に乗るなぁぁぁ!!!」

 崩れかけた腕を鉤爪に変え、ジゼルを狙う。
 しかしそれを、シグルトが籠手で受け止めた。

 衝撃が骨まで響くが、堪えてさらにトリアムールの風を叩きつける。
 今度は左の拳で腹を殴りつけた。

「が、はぁっ…

 な、何故こうも人間如きの攻撃が…」

 よろめき後ろに下がったミレトに、シグルトは腕を突き出して見せる。

「…妖精は昔から鉄を嫌うからな。

 鋼の拳はさぞや効くだろう?」

 シグルトが剣で攻撃せず、籠手で殴りつけたのはそう言う理由だった。

「それに、この籠手も紋章入りだ。

 …死人に戻るがいい!」

 再びトリアムールの風を身に纏い、シグルトはミレトの攻撃を籠手で弾き飛ばした。
 即座に接敵し、風を叩きつけ、勢いに乗ってさらに右拳でミレトの顎を打ち抜いた。

「凄いわシグルト。

 まるで拳闘士みたいよ」

 ジゼルの矢が、ミレトの体勢を突き崩すと、シグルトはもう一度風を叩き込み、アロンダイトでミレトの身体を切り裂いていく。

「ぐは、や、止めろ…人間。

 それ以上すれば、容赦…」

 返す刃がその口を黙らせる。

「…消え去れ!」

 熊を屠った時と同じ突進から、アロンダイトをミレトの喉仏に突き徹す。

「―!…、ぉ、ぉ…れ!!」

 声にならぬ叫びを上げたミレトの首を、アロンダイトを捩って抉り、刃を立てたまま身体の旋回で分断する。
 そして、千切れ飛んだ頭を、拳で殴り飛ばした。

 首を失ったミレトの身体はふらふらと後ろによろめき、そしてぱっと青白い炎を上げて消え去る。
 恨めしそうにひしゃげて転がった首は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、同じ様に炎となって霧散した。

 拳を交えた格闘の様な戦い方…荒っぽいこの戦い方こそ、シグルトの本来の剣術である。

 戦場における刹那の攻防で、全身を使えぬ者はそれ故に命を落とす。
 籠手は防具にあらず、立派な武器にもなるのだ。

「…もう気配はないな。

 勝った様だ」

 残心を終えて剣を鞘に収め、シグルトは静かに息を吐く。

「…ねぇ?」

 後ろから、ジゼルの声がする。
 でも、その気配は薄れかけていた。

「…ああ、何だ?」

 努めて平静に、シグルトは振り向いてジゼルを見る。
 思った通り、その透け方が酷くなっていた。

「…今度こそ、本当にお別れね」

 淋しげなジゼルの顔。
 その頬を、籠手を外した手を伸ばして優しく撫でる。

「ああ、そうだな」

 母体であるウィアの女王を倒した時点で、こうなることは分かり切っていた。
 ジゼルは、こうして呪縛から解放され、元の死者に戻るのだ。

 だが、2人とも清々しい顔をしていた。
 
 ジゼルはウィアとして人を殺すことを望まず、シグルトは彼女に安らぎを与えてやりたかったから。

「…本当に有難う。

 そして、御免なさい。
 最後まで付き合ってくれて。

 …ほら、もうこんなに透けて来てる。
 もう、貴方とワルツを踊るのは諦めた方がいいわね」

 シグルトは、何時もの様に苦笑した。
 ジゼルを撫でていた手には、すでに感触が無い。

「…俺は少し安心したよ。

 下手な踊りをしても、寿命が縮む」

 ここでは笑顔で見送ろうと、シグルトは決めていた。
 でも、彼の不器用な仕草では、苦笑が精いっぱいだ。

「…ふふ、貴方って苦笑してばかり。

 でも、素敵だわ。
 誰かのために精一杯やせ我慢してくれる。

 そんな貴方の顔が好きだったわ」

 愛おしそうに伸ばされたジゼルの手は、虚しくシグルトをすり抜けていた。

「…お願い。

 祈っていてね。
 私も、貴方との思い出を夢見ながら、祈るから」

 シグルトは静かに頷いた。
 もう、ジゼルの身体はほとんど見えない。

「…で、何を一番に祈ったらいい?」

 優しくシグルトが聞くと、ジゼルはふふと笑った。

「月並みだけど…『君に幸あれ』ってね!」

 もう一度シグルトが頷いた時、ジゼルは朝日に融ける様に消えて行った。

「…必ず祈ろう。

 君を思い出す度、無力に負けそうになった時。
 俺は、君を忘れない」

 見ればすでに朝日が完全に顔を出していた。
 一夜の不思議な体験は、幕を閉じたのだ。

 シグルトはそのまま、ヴィスマールを目指して歩き出した。


 暫く歩いていると、周囲が濃い霧に包まれていた。
 精霊術を使うシグルトの直感が、ただの霧では無いと告げている。

(ウィアの復讐か?

 それにしては、瘴気が無いし、今は昼間だ。
 とすると、いったい何者が?)

 そんな事を考えていると、不意に大きな何かの気配がした。

「やあ。

 僕の声が、聞こえるかい、美しい勇者くん」

 野太いが、どこか愛嬌のある深い声。
 人ならぬものの声だと、直感的に感じ取る。

「…何者だ?」

 シグルトは立ち止まって油断なく構え、声に問い返した。

「人は森神と呼ぶ。

 君には、祠のことや熊のこと…もろもろで礼が言いたくてね。
 ちょっと異界に招いて、話しかけてるのさ。

 まあ、大雑把に言うと、夢の世界ってところか。
 
 この霧は、魔の雲。
 僕たちの乗物で、時間や世界を繋ぐ事が出来る。

 当然、夢の様なあやふやな世界でもね。
 君は、普通の疑り深い人間と違って分かるはずだよ。

 そうだね。

〝神を信じることは、常識や倫理の問題では無く感情の領域である。

 神の存在を立証することは、それを反証することと同じく不可能である〟

 哲学的に吟じてみたけど、どうだい?」

 どこか人を食った様な雰囲気が伝わってくる。
 
 シグルトは目を閉じ、その声が聞こえて来た方向に大きく足を踏み出した。
 覆っていた粘つく霧の感覚が晴れた時、シグルトは頃合いかと目を開ける。

 そこは、『森神の箱庭』だった。

「…ようこそ、僕の箱庭へ」

 そこには人懐っこい目をした、熊の様な大男がどっかりと切り株に腰を下していた。
 体躯に合わず、その喋り方は穏やかで丁寧だ。

「…貴方がこの森の神か?」

 怖気付くこと無く尋ねると、男は嬉しそうに頷いた。

「流石は、僕らの末裔だね。

 神を前に堂々としたものだ。
 或いは慣れたかい?

 “貪欲”につけ回されて、生き残った君だ。
 僕ぐらいでは、何ともないか」

 何もかも知っているかの様に、森神は話す。

「…貴方の感想など興味はない。
 俺たち人間とは、考え方も価値観も違うはずだ。

 出来れば、待ち人が居るので早くこの森を出たいのだが。

 用件を聞こう」

 神に対していささか不遜な物言いだが、この神は多分怒り出したりなどすまい。
 からかう様なその視線が、そう告げているからだ。

「君には3つ借りが出来てしまった。

 1つは、祠を直してくれたこと。
 君の吟じてくれた言葉には心打たれた。
 いや、長生きはしているものだね。

 2つ目は羆退治。
 祠が歪んで力が出なかったから、あんな獣に僕の庭を蹂躙させてしまった。
 安い報酬なのに、正義感で僕の民人の願いを叶えてくれたことも特に評価出来るね。

 3つめがウィアの退治。
 あの女王は、僕の力が森に及び難くなってから我が物顔で悪さをしていたから、やっつけてくれてとても感謝している。
 これで、僕の神としての威光も守られるというものさ。

 仮にも神と崇められている僕だ。
 何のお礼もせずに、君を返すのは忍びないと思ったんだ。

 そこで、君を此処に誘ったというわけ」

 ふむ、とシグルトは静かに頷く。
 神々とは元々契約や義に五月蠅く、気まぐれな存在だ。

 それを考えれば、この森神の行動も頷ける。

「何でも望みを言うといい。

 巨万の富でも、歴史に残る様な名声でも構わない。
 
 そうだね、時間を戻して死者を蘇らすことも可能だよ。

 僕は神だ。
 それが出来ると断言しよう。

 君は、何を望むかな?」

 シグルトはこの神が何故出て来たのか、はっきり理解した。
 彼には、神と言う存在が願いをかなえる時のルールを知っていたからだ。

 彼らが望みを叶えるには、「誰かから強く望んでもらう必要がある」のだ。

「…では、ジゼリッタという貴方の巫女が、いまわに望んだ夢を、生きる道を叶えてやってくれ。
 俺と違い、彼女は死にたくないと望んだのだから。

 願わくば、彼女に夢を叶えるための生の存続を…」

 不意に森神は目を閉じ考え込んだ。
 そして、シグルトに問う。

「本当にそれでいいのかい?

 君が失った友人を生き返らすことも、あるいは失った恋人と愛を取り戻すことだって出来るかも知れないよ?
 君は、何故自分のための望みを願わない?」

 戻すならば、もっと昔も可能だと言っているのだ。
 そして、失った友や恋人を取り戻す機会を与えると。

「…死んだ友のことは今でも悲しい。
 失った恋人との時間も、懐かしむことがある。

 だが、それはすでに起き、遠く過ぎ去った過去だ。
 その先に出逢って歩んで来た仲間があり、今の俺がある。

 嘆き、出逢い、そして歩む。
 ならば、俺の望みは叶えて貰うのではなく、自ら叶えるために励むのみ。

 過去を含めて、今を生きているのが俺だ。

 全ての死者を生き返らせれば、過去を取り戻せるわけでは無い。
 起きてしまったこと…すでに辱められた友たちが、救われるわけでもない。
 
 もし過去に戻ることが出来たとしても、今の仲間たちと築いてきた時間が軽んじられよう。

 どれほどの慟哭も、そして結果である今も…それは俺が選び得た生なのだから」

 迷いの無い回答だった。
 しかし、少し意地悪な顔をして、さらに森神が問う。

「君の言葉は矛盾しているね。

 その言葉をたどるなら、ジゼリッタを救うことは過去を振り返ること。
 綺麗事を言っていても、結局は…」

 シグルトは強く頷いた。

「そう、綺麗事だ。
 だが、俺は綺麗事とは花を愛でる様なものだと思う。

 咲いた花しか愛でない者もいれば、咲く花を夢見て育てることから愛でる者もいるだろう。
 でも、それが美しい、尊いと知っているなら、不完全なりに求めても悪いとは思わない。
 むしろ、人らしいとさえ思う。

 少しぐらいの歪みなら、かえってゆとりにもなるだろう。

 俺は完全無欠では無い。
 間違い、後悔する人間だ。

 人間として、目の前にある成したいことを、自分の欲で行う。
 それは、俺の矜持であり、我儘だ。

 綺麗なだけの人間でいるつもりもない。

 だが、綺麗なものを愛でないつもりもない。
 綺麗事でも、それが選ぶべきことだと信じたのなら、それを望むだけだ。
 自分の中の汚いもの、醜いものを知っているのなら余計にな。

 もし、それが誰かにとって喜ばしいことなら、道理や矛盾など知ったことでは無い。
 
 受ける謗りも含めて、俺は迷わずそれを選ぶ」

 真っ直ぐに、目を逸らさずそう答える。
 
「万古不易であることは尊いだろう。
 完全無欠であることは凄いことかもしれない。

 だが、俺は目前にある小さな人の生こそが愛おしいと思う。

 永遠不滅では無く、老いて失うことがあるとしても…
 限りある一生を、悔いと悲しみで染めながらも…

 その先にある死を受け入れて尚、生きて来てよかったと言える、人として死ぬために。
 俺は生き、選んで行きたい。

 俺は、そんな刹那の輝きと綺麗事に、たまらなく焦がれるのだ。
 たとえ、明日に死すとも、誇りを持ってその明日を選べる者でありたい。

 逆に、俺が貴方たちの様に不老を得て悠久に生きる事があったとしても…
 刹那の美しさを忘れずに、長い時を尊んで生きたいと思う。

 刹那も悠久も、それは違う美しさのある綺麗事だ。
 俺は両方それぞれの美しさを、胸を張って讃えたい。
 それが、御都合主義で欲深なことであっても。

 不完全であることは何かに欠け、失うこともあるだろうが…
 無いからこそ求め尊ぶこともあるのだ。

 俺は、数日の刹那にジゼルに逢い、彼女の笑顔と願いを知った。
 だからこそ、この時この場所で、彼女のささやかな幸せを祈り願う。

 〝君に幸あれ〟と。
 そう祈ると約束したからな。

 神である貴方には、特にその願いを込めて祈ろう。

 俺は、そんな、我儘な人間だ」

 爽やかにシグルトは笑った。

「クックック、ハァ~ハッハッ!

 好いな、君は。
 人であることを悟り、それ故の清濁合わせ持ちながら、それを恐れず恥じない。
 僕らの偉大なる母が気に入るわけだ。

 失うことを嘆きながら、それでも得ようと高みを目指す…
 君の道はとてつもなく孤高で、それ故に武骨で美しい。
 
 かつてある神は、永遠不滅を得るために骨を選んだ。
 人には、一時の美味はあっても腐る肉が与えられた。

 だが、君は骨と肉の両方を選ぶことが出来る。
 だからこそ血が、両方を備えた身体を流れて生かすのだ。

 血の道とは、鋼鉄の生き様。
 〈揺るぎないもの(アダマス)〉の意味が、金剛石から鉄に受け継がれたのは…

 折れ欠ける脆さすら内包しながら、それでも貫く鉄の生き様が揺るぎないからだ。

 君は、確かに〈刃金〉の生き様を持っている。
 僕らの偉大なる母が、それを司っている様に…」

 森神は満足気に頷くと、切り株から立ち上がった。

「…良いだろう。

 ついでに、彼女の病も除いてあげよう。
 納得出来る答えを示した御褒美だ。
 彼女もウィア退治に貢献したのだから、その分も含めてだね。

 君の記憶もそのまま残そう…僕のことを忘れられると淋しいから。

 時間を戻して、あのお馬鹿君がホーリーを狂わせた所に、解決手段付きで戻してあげよう。

 でも、それだけのことをするんだ。
 僕たちは神らしく、もう少し代償を貰わないとね」

 ぎらり、と森神の目が見開かれる。

「…その代償とは?」

 やはり一筋縄ではいかない。
 これが神や精霊と言う存在だ。

「…僕に一太刀浴びせること。

 ただし、君が失敗した時は命を貰う。
 僕は本気で向かうから、手を抜くとあの世行きだ。
 
 僕たちらしい、試練だろう?」

 獰猛に歯を剥き出す。

 やはり古の神だ。
 どこか残忍で享楽的だ。

「さあ、君の一念を剣で示してくれ。

 言葉の次は行動さ。
 心の強さは願いに通じる。

 特に君たち〈刃金〉は、常に道を切り開くことを試されるのだから」

 どこから取り出したのか、岩でも粉砕出来そうな巨大な斧を構え、森神は構えを取った。
 紛う事無き、達人の気配だった。

 並の剣士ならば、その一睨みで逃げだすだろう。
 しかしシグルトには、譲れないものがあった。

 目を閉じてジゼルの笑顔を浮かべる。
 会って数日の娘だが、確かに心を通わせた、夢に輝くその娘の瞳を想う。

「…全身全霊で、応えよう」

 そうして取った構えは、奇しくも突きではなく斬撃である。
 道を切り開くという、シグルトなりの意思表示だ。

「…行くぞ!」

 森神が、猪の様に大地を蹴る。
 その巨体からは信じられない速度で、大斧はシグルトの脳天をかち割るべく振り下ろされる。

 シグルトは呼吸を止め、最上の技で応えるべく静かに待った。

 森神の大斧はシグルトが居た場所の大地を大きく抉り、土塊を撒き散らして減り込む。
 一緒に縦に割られたのは、果たしてシグルトの残像であった。

「…がぁ。
 クク、本当に容赦ない。

 だが、見事だ」

 不死の神は死なない。
 ましてこの森は、彼の神の領域だ。

 しかし、シグルトの一太刀は森神の図太い脇腹を7割がた分かっていた。

 【影走り】…必中にして天衣無縫の回避力を誇る、恐るべき秘剣である。

 周囲が霧に包まれて行く。

「ジゼリッタの死んだ未来は、僕の夢になる。
 こうやって神の試練に打ち勝ち、望みを叶えた君のことを僕が覚えているためにね。

 そう、単なる夢で、彼女は…」

 ぐるぐると周囲の霧が濃くなり、森神の声が遠くなって行く。

 そして、シグルトは〈あの時〉まで戻るのだった。


「ちょっと、待ってよ!」

 足早に急な森の道を下って行くシグルトを、必死にジゼルが追いかけてくる。

「…村一番の狩人なんだろう?

 ならば、山歩きも村一番でなければな」

 収穫祭の翌日、シグルトとジゼルはウィスマールに向かって林道を下っていた。
 
 ホーリーが、ヒラリオの悪さによって暴れるという問題があったが、シグルトが偶然に持っていた鎮静効果のある香水の一振りで片が付いた。
 嫉妬に狂ったヒラリオは罪を暴かれ、今は村にある小屋に閉じ込められている。
 
 もしかしたら死人が出てもおかしくない騒動だったので、ヒラリオの断罪はこれから村の会議で決まるそうだ。
 まあ、祭の直後で酔いが残っていたんだろう、と罪はそれほど重くならないかもしれない。

 シグルトが、村長の言葉通りすぐに村を出ると、ジゼルはなんと村長を説き伏せて、一人で村を出て来たそうだ。
 村長をはじめ、馬のホーリーまでまた暴れて反対したらしいのだが、彼女の意志は固い。

 ヴィスマールまでシグルトと行き、その後ペルージュのアフマドを訪ね、心臓を診療して貰うことになっていた。
 実は森神のおかげで心臓は完治しているのだが、実際に完治を医者に宣言してもらった方がいいだろう。

 ジゼルは、心臓が治ったら、そのままリューンでダンサーを目指すそうだ。
 その間、本業として稼げるようになるまでは、シグルト同様に冒険者をして稼ぐと言っている。

 彼女の呼吸も顔色も、見違えて良いので、シグルトは甘やかさないことにした。

 彼女の弓の腕が驚異的なことは、見知っているので大丈夫だとも思う。
 それに、ジゼルは野伏(レンジャー)としての優れた能力がある。
 『小さき希望亭』にはまだ無い人材故に、とても重宝することだろう。

 また女性を連れ込んだと、宿の人間に何か言われるかもしれないが、先の話と割り切った。

 不意に立ち止ったシグルトは、ジゼルが追いつくのを待って聞いた。

「…ジゼル、君は神を信じるか?

 羆の様な立派な体格の、神様を」

 そんな言葉に、ジゼルは肩をすくめた。

「具体的な例えね。
 
 だけど私は全然信じてないわ。
 巫女になっておいて、なんだけど…」

 晴れやかに笑って、彼女は続ける。

「神様が居るのなら、これほど不公平なことは無いはずだもの。
 今私は、世界中に振り分けられた幸せを、とてもたくさん独り占めしていることになるわ。

 心臓の調子が良くて、しかも名医さんを紹介して貰えた。
 そのまま自分の夢にも邁進出来そうな状況にある。

 …ね?
 一つ叶っても夢みたいなのに、そんなえこ贔屓する神様なんて、誰も信じてくれないわよ。

 こんなに幸せでいいのかって、思っちゃう。
 神様がいたら、罰を当てられちゃうわ」

 目を細めて、心から幸せそうに…ジゼルは微笑んだ。

 シグルトは、森神が御大層に述べていた哲学的な言葉を思い出しながら、苦笑した。

「…何?

 可笑しかった?」

 可愛らしく小首を傾げたジゼルに、「思い出し笑いだ」とシグルトは告げて、また足早に歩き出した。
 見上げれば、空はどこまでも高い。

(〝君に幸あれ〟か…)
 
 神に祈れば叶うこともあるのだな、とシグルトはまた苦笑して、必死に追いかけてくる可憐な供に歩調を合わせるのだった。



 と言うわけで、シグルトの珍道中編、第一部の締めは楓さんの『ジゼリッタ』です。

 長かった~
 いや、シナリオそのものは普通サイズのソロシナリオなんですが、色々と追加描写入れるうちに、長編並のボリュームになってしまいました。

 でも、のって書けたので、描写の一部には手ごたえも感じています。
 書いてる最中に大風邪ひいて、熱と咳と格闘しつつ書いたのですが、以外に知恵熱だったかも。

 森、神、妖精とくれば、ケルト神話。
 話の内容も少しケルトの幻想伝説っぽく纏めてみました。

 この話のモデルである、バレエの『ジゼル』は、結構有名ですよね。
 元はハイネの紹介したウィリーの伝承を元に編纂された話の様ですが…

 シグルトと、ジゼルの主人公アルブレヒトは貴族という共通点以外、だいぶ差があったので表現が難しかったです。
 楓さんの描く主人公(男)は善人が多めなので、こっちではそれほど違和感無かったですが。

 それにしても、心臓弱いヒロインなのにバレエとかけるあたり、結構無茶がある原作です。
 私は原作の主人公は大嫌いで、このシナリオにハッピーエンドがあったのは有り難かったですね。

 幻想的な雰囲気を出すために苦労しました。

 特に、詩とか…私才能ないなぁ。
 シグルトたちの言葉だっと、もっと洗練されてるということで、勘弁して下さい。
 
 楓さんの詩を使うか最後まで悩んだのですが、シグルトの場合もう少し素朴というか、武骨な詩になるだろうということで、さらっとした内容にしてあります。
 
 むしろ、妖精伝説や塚の話を見て、思わずにやりとした人もいるのではないでしょうか。
 一応、ケルト神話をちゃんとベースにして描いているつもりです。

 シグルトのもう一つの血筋が、ルーの末裔だというのは随分前から決めていたことです。
 金髪碧眼のダーナ神族に対し、フォーモル族は魔神として対照的な容貌、ということで青黒い髪と瞳を思いついたのです。
 この容貌は、ルーがフォーモルの血筋ということで、エリック(償い)という言葉とともに、シグルトにくっつけていた設定です。
 ルーは祖父殺しなので、その末裔は呪われた、みたいな。

 シグルトは、光の万能神ルーと白エルフの血を引く上、魔神の血まで持ってるわけ(たどればバロールの血筋でもあります)ですから、人間の血で薄まったとはいえ、所謂ケルト的なの破滅性を持ってるわけです。
 完全無欠だけど、どこか危うげな感じ。
 元槍使いだったのも、血のせいでしょうね。

 これらの設定は、リプレイを最初から読まないとちんぷんかんぷんかもしれませんが。


 さて、ヒロインのジゼルですが…
 からっとして好い娘ですよね。
 私は陰湿ヒロインより、こういう明るくてマイペースなヒロインが好みです。
 
 ダンスが趣味、ということで、フーレイさんサイドで登場しているエトワールのライバルになりそうな予感があります。
 敏捷系ではありませんが、彼女にはレベッカを凌ぐ驚異の器用度13があるので、そっち系のダンスは天下無敵でしょう。

 シグルトとの掛け合いでも、かなりいい雰囲気でびっくりした人もいるかもしれません。
 もし過去に恋人がいなければ、くっついてた可能性が無きにしもあらず。

 シグルトは、こういう陽性の性格が好みだという表れでもあります。
 ただ、仲は良いけど友情止まりの可能性が激大ですが。

 彼女が宿に合流するのは、シグルトたちがリューンに帰還する頃になるかと思います。
 完治してても、一応生きる死ぬの病気だったので、落ちをつけたいと考えて、アフマドに登場願いました。

 シグルトの話や、リプレイの筋に合わせて羆の強さの価値観にいろいろ言ってますが、Y2つ仕様なので御了承下さい。
 実際の熊は怖いですが、実技レベルでは楓さんのシナリオにおける評価も頷けます。
 実際無傷で圧勝しましたし。
 とりあえず、シグルトの熊蘊蓄は、導入のために用意したきっかけみたいなものです。

 書く過程で大分雰囲気が変わってしまったかもしれませんが、見てて笑えたり、シグルトの意外な暴力性を知ってびっくりした人もいるかもしれませんね。
 流石に、籠手で顔面パンチはひどかったかなぁ。

 ちょっとダナの設定も垂れ流しています。

 色々と書いてしまいました…

 楓さん、雰囲気壊してしまったら御免なさい。(ぺこり)

 シグルト、このシナリオで先んじてレベル4になりました。
 やっと、アレトゥーザのレナータと並んだ感じです。

 今回の収支は…

『希望の都フォーチュン=ベル』
・【アラジンの指輪】-500SP

『ジゼリッタ』
・熊退治の報酬 +400SP

・連れ込みPC ジゼル

 以上です。


〈著作情報〉2009年08月21日現在

◇『ジゼリッタ』は楓さんのシナリオです。現時点でオフィシャルファンサイトのギルドにも登録され、下記サイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、楓さんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer ver1.00です。
  
・楓さんサイト『Fleur de cerisier』
 アドレス: ■ttp://blog.goo.ne.jp/kaede_015/(■をhに)


◇『希望の都フォーチュン=ベル』はDjinnさんのシナリオです。現時点でオフィシャルファンサイトのギルドとVectorにも登録され、Djinnさんのサイトで配布されています。 
 シナリオの著作権は、Djinnさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer Ver1.06です。
  
・Djinnさんサイト『水底のオアシス』
 アドレス: ■ttp://djinn.xrea.jp(■をhに)


◇今回、地形の配置について、シナリオ『地図作製組合』の地図を参考にしています。
 『地図作製組合』はCWGeoProjectから生まれたクロスシナリオです。現時点で下記サイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、CWGeoProjectの方々にあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer. β-1.30です。
  
・CWGeoProjectのサイト『Card Wirth Geography』
 アドレス: ■ttp://w2.abcoroti.com/~cwg/(■をhに)


 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっ

ています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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CW:Y2つ風リプレイ講座 第八回

 実践講座に変わりつつある第八回のリプレイ講座を始めます。

 今回はかなり内容の濃い話をします。
 付いて来れない人もいるかもしれませんが、分かった人は確実に文章を生み出す能力が高まりますので、チャレンジしてみて下さい。


◇一を見て十を生みだす能力
 物書きにとって様々な物語を生み出す想像力。
 これは誰もが欲しいと思うはずです。

 しかし、実際は一つのことにくよくよと考え込み、最高のアイデアが浮かばない~と悩む方がほとんではないでしょうか。

 物書きである以上、話を思いつく創造と想像の泉を心の中に持たなければなりません。
 でも、その能力が自分に無い…そう悩む人は多いはずです。

 私もそうでしたし、様々なサイトを回ってみるとそういう悩みを目にします。

 ですが、想像力自体はわりと「簡単に鍛えることが出来る」のです。
 これから紹介する訓練法を試してみて下さい。


◇連想力を鍛える!
 物を思いつく能力は、連想力です。
 私は記憶術の分野からこのことに気が付いたのですが、現行では「アイデアがあり過ぎて描き切れない」状況に陥っています。

 連想力を鍛えるのは簡単ですし、日常的に行っていれば記憶力もUPしますから、無駄にはなりません。
 仕事にも生かせますし、企画を考える時にも大きな優位になります。
 もしかしたら、シナリオ制作やシステム開発に役立つかもしれませんから、試してみて下さい。

 大仰な前置きをしましたが、内容は単純です。

 「一つの単語(ものごと、あるいは人物も可)から、どれだけ連想出来るか訓練する」だけ。

 連想出来る言葉の数やボキャブラリーの豊富さで、自分の能力やスランプ具合が分かるので、自分の現状を判断する目安にもなります。

 連想にとって、一番の障害は「先入観」や「固定観念」です。
 「これはこうに違いない」とか、「無理に決まってる」とか。

 創造は新しいことを生み出すのです。
 やる前から決めつけていては全く発展しません。

 まず、創造や連想に関して、連想力のリミッターを外すことから始めましょう。


◇作家の第三の目
 連想力に必要になることは、まず観察力です。
 これは、作家の第三の目。

 ものごとを「視て」いるだけではありませんか?
 それだけでは足りません…「観る」ことが大切です。

 一つの物を見た時、「そのもの」しか浮かばない人は、連想力が鍛え足りない人です。
 よく日記に「今日は~をした」と短く書いて、学校の先生に叱られるタイプ。

 観察力は、たとえばCD一枚を見た時、その形、曲がり方、色、タイトル、書かれた文字、種別、光り方、それに対する自分の好意…
 様々な情報に注目し、見つけ出し、纏める力なのです。

 人間は優れた観察力故に、ここまで発展してきたといってもいいでしょう。

 我々が日常的に使う文字も、象形から文字に変換し、様々な意味を持つ部位を作り、それを組み合わせて創られています。
 それは、優れた観察から生まれたもの。

 創造力にばかり気を取られて、肝心の観察力を考えてない人がたくさんいます。
 能力は基礎から鍛えなくては、バランスの悪いものになります。

 まずは、自分の観察力を把握しましょう。

 多くの頭脳革命本で、このことに端的に触れています。
 「物事の本質を見抜け」とか「視野を広げろ」とか。
 分かりやすく「観察力を鍛える」と言えばいいのですが…

 
◇観察力を鍛えるには?
 観察力を鍛える、といっても具体的な方法が分からないでしょう。
 
 そこで、凄くシンプルなベーシックを紹介します。

 「それ(観察対象)が、どんな形で、どんな性質で、どんな音で、どんな匂いで、どんな味で、どんな感触で、人に例えるとどんなものか?」

 五感や与えたテーマごとに、思い浮かべる(連想する)ことをやってみて下さい。
 どんなにしょうもないことでも、思い浮かべられる人と、思いつかない人には、明確な隔たりがあります。

 例えば「文字を擬人化する」観察をして見るとしましょう。
 文字のどの部分を手足にするのか、顔の位置はどこにし、口はどこか?

 そういったことを日常的に繰り返していると、何かを見た時、頭に言葉や情景が溢れてきます。

 それをリプレイに生かすとどうなるか…PCがどんな行動をするか連想出来る様になります。
 あるいはNPCの反応。
 武器のもたらす効果や結果、音。

 気がつけば、アイデアには困らず、観察し連想し発生した情報を描き纏めて行くだけで、書く文章はたまって行きます。
 たまった文章(箇条書きなんかでもいいでしょう)を、関連性で(物事を関連立てる時も、連想しやすいか、「分かる」想像がしやすいかでその「共感」の度合いを測れます)まとめて文章にし、語呂や調子で作文していけば、物語はみるみる書き上がって行きます。

 気がつけば、自分に培われた豊かな想像力に気付いてびっくりするはずです。

 観察力が鈍ったかなぁ、と思ったら沢山連想の訓練をしてみましょう。
 やがて、感覚を取り戻せます。


◇観察、連想の後に答え合わせ
 観察、そして連想。
 しかし、世の中には連想した事柄が、絶対正しい結果になるとは限りません。

 その連想が、「正しいのか」、「起こりうるのか」。
 辞書やWikiで調べます。

 「連想する前に調べればいいじゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、それは無理です。
 観察することで「調べるべきことをはっきりしている」からこそ、きちんとした答えを探すことが出来るのです。

 譬え話をしましょう。

 目の前にダイヤの原石があるとしましょう。
 「知っていれば」何とかしようとするでしょうが、認識していなければただの景色であり無価値なものです。

 観察とは、認識するための情報を絞ることであり、レンズのピントを合わせる様な行為なのです。
 ダイヤの原石を認識し、削り(添削)、磨き(洗練)、仕上げ(まとめ)ることで、それは初めて価値を持つ宝石(作品)になります。

 過程をすっ飛ばしてもダイヤを作れない様に、物語もきちんとした起承転結が無ければ、出来ません。

 あと、おまけにもう一つ。
 真の創造性とは、目の前の原石がダイヤで無かったとしても、「石細工」にして価値を生み出すこと。
 先入観や固定観念で自分を縛るのは止めましょう。


 「自分には能力が無い」と思うのは仕方ないことかもしれませんが、大切なのは「無い能力は養う」ことなのです。
 自分に足りない物は、補うか身に着けることから始めるのです。

 「習うより慣れろ!」

 私の好きな言葉の一つです。
 あるいは「浅きより深きに入れ」。

 始めたばかりのことが、上手くいく方が珍しいのです。
 私も、今の軌道に乗るまでたくさん書いて慣れたから、技術が確立していったのです。

 やってるうちに、「どんな技術が必要か」気付くことも大切です。
 必要な技術を習得したり、必要な情報を調べる(検索する)ことで、自分の能力は少しずつ高まって行きます。

 「やっても無駄」とか「出来るわけない」と鎖でつないでしまった人は、不自由な創造力になって喘ぐことになるでしょう。

 無ければ探し、劣れば鍛え磨き、じっくりとやること。

 悲観も、その経験を無駄にすることは愚痴にしかなりません。
 しかし、しっかりと見据え土台にすれば、プラスに代えられるのです。

 どうしても悲観的になった時は、「その状況をどんな風にプラスに代えられるか」連想してみて下さい。
 案外、しょうもない連想から、答えが生まれることだってありますよ。
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『剣と籠手』

 その朝、シグルトは早朝から旅支度をしていた。

 これから仕事に出かけようとしていたアンジュが、それを見とがめる。

「シグルト、その格好…

 旅に出るの?」

 少しだけ不安げに聞くと、シグルトは頷いた。

「ああ。

 本当なら、もっと早くリューンを旅立つつもりだったが、やるべきことがあったからな」

 簡素なシグルトの答えに、やっぱりという顔になったアンジュは肩を落とした。

「もうちょっと、私の〈教導〉をしてほしかったんだけど、仕方ないわよね。
 
 分かった。
 その代り帰ってきたら、最優先で続きをお願いね」

 シグルトは、駄々をこねた後輩はことさら厳しい。
 説教でも長話したいと思いつつも、アンジュは嫌われない様に、シグルトを立てる態度をとる。

「君には、基本的なことを教えたはずだ。
 あとは、仲間を見つけ、鍛錬しながら道を見つけていけばいい。

 俺の仲間に君のことを相談して、別の技術を学ばせる必要もある。 
 ピッキングや、女の野外生活や旅に関する〈教導〉は、仲間のレベッカの方が向いているからな。

 それに、師から離れて、気付くことも沢山ある」

 アンジュの内心を知ってか知らずか、シグルトはそう言って、励ます様に頷いた。

「パーティを組むまでに、君は自分なりのスタイルを確立しておくといい。
 俺が、仲間と離れて単独で仕事が出来るのも、そういったことを踏まえて行動して来たからだ。

 冒険者は、仕事中に個別行動をとることもある。
 その時、自分で判断し正しい行動が出来る様にならねばな。

 アンジュ、冒険者に求められることはたくさんある。
 己の矜持を持って、意志を貫くならば、なおさらだ。

 君は、俺が一番最初に実戦の教導に連れて行った冒険者だ。
 だから、期待している。

 がっかりさせないでくれよ?」
 
 不安げに黙ってしまったアンジュに、シグルトは何時もの様に苦笑した。

「…分かってる。
 貴方を困らせるために冒険者になったのではないもの。

 この『小さき希望亭』で待ってるから」

 しばしの沈黙の後、アンジュは胸を張って応えた。

「うむ。
 戻って来た時、君がどこまで成長しているか、楽しみにしている。

 では…親父さん、行って来る」

 使い古した外套を担ぎ、シグルトは『小さき希望亭』の扉を開いた。


 『小さき希望亭』を後にしたシグルトは、まずリューンに向かう。
 そして、『地図作製組合』と看板が掛かっている建物に入って行った。

 此処は、各地の冒険者から地理を聞き、正確な地図の完成を目指している組織だ。
 
 旅をする者にとって地図は、とても重要なものだ。
 正確なそれがあれば、移動速度や中継地点の検討が容易になり、何より迷わなくなる。

 街道の立て札や、旅先で道を聞いて旅をする者が多いこの時代、略図的なものは多数あれど、正確な地図を持つ者は少ない。
 嘘の様な話だが、高さや距離が正確な縮図を作るための測量技術を持っているのは、ドワーフか一部の知識人だけであった。

 地図に使う紙も貴重品であり、さらに一般人には地図を読み解く能力はあまりない。
 一般的な地図と言えば、書き手の国や組織を中心に都合よく境界線を描いて、地名を適当に配置だけのお粗末なものがほとんどである。

 旅をする冒険者さえ、「街道に従って移動するか、大雑把な地図を使う」程度の者が非常に多かった。
 
 しかし、“風を纏う者”は正確な地図の利用をとても重視する、数少ない冒険者たちである。

 “風を纏う者”は各自一枚ずつレベッカが書いた西方諸国の地図を持っていた。
 加えて、ロマンがロードストーン(天然磁石)を使って作ったコンパス(方位磁石)を携帯している。 
 
 コンパスは、強力なロードストーンに細長い短剣状の鉄片を貼り付け暫く置いき、小さな木の裏板を貼って水に浮かぶ様にしたものだ。
 カップなどに浮かべると、北と南が分かる優れモノである。

 あまり知られていないが、地域によって磁北(磁石が示す北)と真北は数度ずれる。
 真北と呼ばれる本来の北は、〈北の果ての星〉と呼ばれる星の位置から割り出されているので、これを知らないものは「だいたい北」しか分からないのだ。
 それに、星で方位を見る方法は夜間にしか使えない。
 
 こういった知識が無く、コンパスに頼り過ぎると、遠距離になればなるほど深刻な誤差となって現れる。

 “風を纏う者”のメンバーの地図は、星の位置で北を定めたものであり、一定距離ごとの都市ごとに大まかな磁北と真北のずれが書きこまれている高度なものである。
 分からない者が見れば、暗号の様な数字が都市名の上に書き添えられたその地図はとても珍妙に見えるだろう。

 地図は、正しく見て使いこなせなければ意味が無い。
 “風を纏う者”は、磁石で真北の位置を確認して進路を選ぶ、高度な移動技術を確立していた。

 シグルトはこの技術を後輩に伝えたいと念願していたが、そのためには出来るだけ正確な地図がどうしても必要だった。 
 彼が地図を大切にする理由は他にもある。

 武術の師に学んだ時「戦場においては指揮官が、投石機の射程距離や騎馬の到達時間を計算出来なければ、生き残れない」と、目分量で距離を測る技術を叩き込まれた。
 シグルトの巧みな戦術は、距離や地形利用を踏まえたものである。

 距離の掌握は、冒険者にとっても重要な技術だ。
 特に討伐の仕事で見張りを無力化する時、距離が狙撃の成功率に関わる。
 立体的な戦闘配置を理解出来なければ、乱戦で仲間とはぐれたり、その後合流出来なくなる。

 詳しい地形の把握が可能なら、攻撃、奇襲、撤退、逃走といった戦術の選択肢が増え、生存率が増すのである。

 それに、冒険者が死亡する原因の上位に、〈遭難〉がある。
 樹海や砂漠、海洋、山といった未開の場所では、地理の理解力や方向感覚、距離感が生死を分ける。

 雪の多い地方に育ったシグルトは、雪原で迷った時に、星と方位の位置から目的地に向かう技術を教えられた。
 或いはシグルトの勘の良さは、こういった間隔を鍛えたからこそ、発揮されるのかもしれない。

 間違いだらけの大雑把な地図を見るにつけ、シグルトは言い知れぬ苛立ちを感じていた。
 何時か自分たちも、地図が原因で困ることになるかもしれないと。 

 だからか、『地図作製組合』が出来た時、シグルトは早くに協力を申し出ていた。

 今回は、知っている地形に関する資料を纏め上げ、持って来たのである。
 見返りに、最新の街道地図を写させて貰う約束だった。


「おお、シグルトさん!」

 建物に入ると、真新しい羊皮紙と睨めっこしていた賢者風の男が、興奮した様に顔を上げた。

 彼の名はクレーマー。
 組合の製図主任であるが、少しばかり大げさな挙動が特徴的な変わり者である。

「約束の地図と、知る限りの風土や天候を書きまとめて来た。

 確認してもらえるか?」

 シグルトが差し出した図面は5枚。
 『アレトゥーザ』、『キーレ』、『フォーチュン=ベル』、『ポートリオン』の四都市。
 あと、クレーマーに請われてまとめた『風繰り嶺』の地理。

 差し出された図面の精確さと、詳細な情報にクレーマーは唸っていた。

「噂には聞いていましたが、貴方に任せてよかった。

 フォーチュン=ベル近海の海図は教会勢力の贔屓目が入ってない、とても正確なものですね。
 おお、こっちの風土の報告書など…あの都市にはそんな仕来たりがあるのですか。

 いや、すみません。
 つい新しい情報に興奮してしまって」

 そう言うとクレーマーは、この組合で発行している証書をくれる。
 これは金券として使えるもので、組合内で、お金や物品と交換出来る。
 
 地図の書写と、証書の発行が報酬、という契約になっていた。

「ふむ、確かに5枚。

 確か、地酒や鉱石と交換も可能だったな?」

 シグルトは、新しい地図を一時間ほどかけて書き写すと、貰った証書を、品物に交換することにした。

 手に入れたのは【黒曜石】と【アーシウムの赤】。
 ともに剣を預けているブレッゼンへの土産である。

 シグルトは品物を確認すると、『地図作製組合』を出た。

 冒険者とは、大雑把な荒くれ者というイメージで見られがちだ。
 実際、仕事が無くて酒場で飲んだくれている冒険者も数多い。

 だが、こうやって地味な仕事を確実にこなし、忙しく日常生活を送っている冒険者もいる。
 
 シグルトは、一攫千金という言葉が嫌いだった。
 人生は賭け事ではない。
 積み重ねた苦労の分、報われる生き方でありたいと思う。

 華々しい評価と、数々の成功を成し得て来たのはその実、シグルトがとても堅実だったからだ。
 彼が証書を品物に変える姿は、とてもシュールだったが、様にもなっていた。

 シグルトの生まれ育った国は貧しい。
 貴族でさえ、冬の食事は一日一食ということもあったほどだ。

 塩漬けの肉や魚の悪臭で、手や髪が生臭くなることもあった。
 慣れない大工仕事は、一年も続ければ本業に弟子入り出来そうな腕前になった。
 屋根の雪下ろしで地面の雪に突っ込むと、身動きが全く取れなくなって命に関わることを、知るものは少ないだろう。

 美しい母の手が、冬になると繕いものと家事のせいで赤切れていたことを思い出す。
 肌の切れ間から湿った皮膚が見えて、ひりひりするその感覚。
 
 霜焼で半泣きになった妹の手に、何度も暖かな息を吐きかけ、擦ってやったこと。
 自分のそれには小水を掛けて温める、品の無いやり方が最も効果的だと、少年たちは早いうちに知る。
 この豊かな都市の人間たちは、厠に行く間に凍死する恐怖など知らないはずだ。

 平穏な日常がどれほど大切であるのか、シグルトはよく知っていた。

 食料と水の重さに安堵を覚え、履き慣れた靴の感触が頼もしい…
 シグルトは、そんな日々が好きだった。


 リューンを出たシグルトは、借り受けた馬を使って一路フォーチュン=ベルへと向かう。
 
 フォーチュン=ベルにはロマンがいるので、彼を迎えつつブレッゼンの工房に立ち寄り、預けた剣を受け取るつもりだった。
 思えば、随分寄り道をしてしまった。

 美しいシグルトが馬を駆り、走る姿は颯爽としている。
 すれ違う旅人たちは、興味深げに彼の背を眺めた。
 
 そうして数日、シグルトは目的の希望の都に到着した…

 
 フォーチュン=ベルに入ると、シグルトは贔屓にしている宿に馬を預け、ロマンのいる工房を訪ねるため、街の中を歩いていた。
 
 不意に、通りかかった酒場から忙しい喧噪が聞こえ、その中に知った声を耳にする。

「…だから、財布を忘れたと言っておるだろうが!

 この程度のはした金、わしの家に来ればすぐに払ってやるというに…分からん奴だな」

 それはブレッゼンだった。
 数人の男たちに囲まれ、眉間に皺を寄せている。

「だから、爺さん…それは出来ないと言っている。

 この店は何時でも現金払いだ。
 だいたいあれだけ飲んで、支払いの段階で〝財布を忘れた〟なんて言い訳、信じる奴はいないぜ?」

 リーダーらしい分からず屋の男に、ブレッゼンは溜息を吐いた。

「…たまに飲みに出かければこれだ。

 まったく、出された酒の質も悪ければ、店員の態度も悪い。
 しかもこの都市に住んでいて、わしを知らんとは…嘆かわしいわ」

 怒鳴る気力もないわい、という風にブレッゼンは身に着けていた腕輪を外そうとしていた。
 銀製の高価そうなものである。

「失礼する。
 彼の酒代は俺が立て替えよう。

 幾らだ?」

 横から入って来たシグルトに、ブレッゼンを囲んでいた男たちは目を向け見開いた。

「あ、あんたは…!!」

 フォーチュン=ベルで立て続けに大きな仕事を達成した“風を纏う者”は、それなりに名が知られていた。
 そのリーダーであるシグルトの顔を知る者がいたのだろう。

「…おお、お前か」

 シグルトが酒代としてはかなりの額である銀貨一千枚を支払うと、ブレッゼンは若い者が年上を敬うのは当然という風に、鷹揚に頷いた。
 目を丸くする男たちを置いて、2人は足早に酒場を出る。
 
「ふむ、ついでだ…工房まで送ろう」

 ブレッゼンを名で呼ぶ馬鹿はやらない。
 もめていたのは名前を隠して、ひっそりと飲みに来たかったからだろう。
 
 ブレッゼンの名はフォーチュン=ベルでは有名過ぎるが、知れば人が寄って来る。
 だから顔見知りがいない酒場に入って飲んでいたと、シグルトは推測した。

 酒場を出てしばらく歩くと、ブレッゼンはふうと一息吐いた。

「…借りを作ったな。

 金は帰ったらすぐ返そう」

 振り向きもせず言う彼は、相変わらずのひねくれ者だ。
 
「気にするな…俺も剣を預けたままだったからな。

 それに、相談したいことがあったから、仕事中でないのは有り難い。
 鎚振る貴方に声を掛ける、無粋をせずに済んだ。
 
 〝鉄があれば、黙して打て〟。

 これも必然だろう」

 シグルトの使った言葉は、鍛冶師が良く使う天命の暗喩である。

 偶然の悪戯も、日常も、皆必然であり天の定めたこと。
 トラブルは天命であり、焦らず、現実を生きろという様な意味だ。

「ほう、古い鍛冶師の言葉を知っている。

 …で、相談とは?」

 にやりと笑って、ブレッゼンは灰色の顎髭を扱いた。

「剣を使うに当たって、相応しい防具を検討している。
 荒事があると、どうしても躱すだけでは危うくてな。

 槍の様に距離をおけない剣は、敵に付いて戦う場面も多くなる。
 
 だが、冒険者の装備として、鎧は仰々しい。
 それで籠手だけでも、と思ったんだが…」

 ブレッゼンはしばし考え、ふむと頷いた。

「お前は、戦場の剣をよく知っている様子だな。
 身奇麗なだけでは、生き残れぬ者もいる。

 あの剣の研いだ痕跡を見たが、刃に手を添える防御を使いこなしていたな?
 
 少し古いが、手頃な鋼の籠手が一つある。
 魔法の品でないから、店には並べておらぬがな。

 酒代の礼だ…その手に合わせ、くれてやる」

 シグルトは、ブレッゼンの好意に甘えることにした。
 こう言う時の遠慮は、返って無粋である。

「有り難い。

 では、俺も手土産を渡そう…良い酒が手に入ったのでな」

 シグルトが【アーシウムの赤】を取り出すと、ブレッゼンは途端に振り向いて、子供の様に目を輝かせた。

「何と、最近は手に入れるのが難しくなって居ったそれを、よくぞ!
 葡萄酒で赤と言えば、これよっ。
 
 ほれ、急ぐぞっ!!」

 名匠の酒好きぶりに苦笑しつつ、シグルトもブレッゼンに合わせて足を早めた。

 
 家に着くなり、ブレッゼンは掻っ攫う様に【アーシウムの赤】を受け取ると、工房に入って行った。
 それほど経たずに、鎚で鉄を打つ音が聞こえ始める。
 
 シグルトは待つ間に、留守番をしていたサンディに挨拶すると、持って来た【黒曜石】を手渡す。

「有難う、シグルトさん。

 今、お金を用意するから…」

 【黒曜石】の対価を払おうというサンディの申し出を、今度は遠慮する。

「それは、剣を長く預けたままだったから、代金代わりにしてほしい。
 これからブレッゼンに籠手を貰う約束もしているし、な。

 その代わり、今度の時もよろしく頼む」

 サンディは、それならばと箱を一つ持って来て、中から古びた革の手袋を取り出した。

「これはレベッカさんに上げてね。
 戦士であるシグルトさんみたいに、器用な人にとっても手は大切だから。

 結構、由緒正しい品物なのよ」

 良く出来た女性である。
 ひねくれたブレッゼンが工房を構えていられるのは、サンディのこういった内需の功があるからだろう。

「有難う、必ず渡しておくよ」

 シグルトが手袋を受け取ると、丁度工房から鎚の音が聞こえなくなった。

「終わったみたいね…

 シグルトさん、様子を見に行って下さる?
 主人はきっと待っているわ」

 往年の勘からか、サンディはシグルトに工房に向う様勧めた。


 工房に入ると、ブレッゼンがアロンダイトの柄に革紐を巻いているところだった。
 磨きぬかれたシグルトの愛剣は、窓から入る日差しを浴びてキラキラと輝いている。
 
「おう、来たか」
 
 ブレッゼンは、剣の溝に詰まった革屑を払いながら声をかけて来た。

「取りに来るのがずいぶん遅れてしまった。

 すまない」

 シグルトが誤ると、ブレッゼンは半身で振り向き、鬚だらけの口端を歪めて笑った。
 
「フフフ、【アロンダイト】が急かすから早く仕上がっていたが…
 なかなかお前が来ぬので、数度磨いておいた。

 良い仕上がりよ。

 かつてある王にこの剣と同じく円卓の騎士の剣を打ったことがあったが、同じ気分じゃ」
 
 満足そうに髭を撫で、ブレッゼンは剣を振った。
 
「…祖国エルトリアを外敵から守り抜いたという武王、ギルバウスⅡ世の【ガラティン】か?」
 
 ブレッゼンが、よく知っているなと頷く。
 
 【ガラティン】は【アロンダイト】と並ぶ、騎士王アーサーが円卓の騎士の剣である。
 時間帯次第で強さが変わる魔力をその身に宿し、時には最強と呼ばれた騎士ランスロットを凌ぐこともあったという、騎士ガウェインの愛剣である。
 
「かの武王は、我が友の剣の弟子でな。
 武人らしい気概を持った方だった。
 
 当時、多くの貴族がわしの作る武具を求めてやって来たが、皆横柄な態度で小物1つ作る気にはならなんだ…
 
 しかしかの王は、戦乱を治めるためにと、一介の職人のわしに膝を折り頭を垂れた。
 武は民と国のために振るうと誓い、その通りの素晴らしき国になされた。
 
 今では【ガラティン】は、若くして己の実力で将軍の地位を勝ち得た、陛下の姫君が継いだと聞く。
 
 あの剣は、善き国を作る道を切り開くために使われているのだ。
 これこそ、職人の冥利に尽きると言うものよ」
 
 ブレッゼンは良質の酒を飲んだ後のせいか、とても機嫌がよく饒舌である。
 
「シグルトよ。
 かの武王の様に英雄になれとは言わん。
 
 だが、わしが見込んで【アロンダイト】を授けたこと、努々(ゆめゆめ)忘れるな。
 剣は戦いの道具ではあるが…剣士の友であり、心であり、魂なのだ」
 
 シグルトは愛剣の柄を撫で、しっかりと頷いた。

 コォ…ゥゥン
 
 手渡された【アロンダイト】は澄んだ輝きでシグルトに応え、喜ぶ様に軽やかな響きで鳴った。

「ほう、剣を鳴かせたか」

 〈剣が鳴く〉とは、特にぶつけたり振ったわけでもないのに、剣が金属音を立てることをいう。

 銘剣の多くは、甲高い音で主に危険を知らせ、悲しげな音で主の死を予言する。
 そして、正しい持ち主に戻った剣は、喜びで鳴くと言われていた。

 鳴く剣を打てる匠は稀だが、剣を鳴かす剣士はもっと少ない。
 
「戻って来るまでの間に、随分腕を上げた様だな。
 お前ならば、この剣を最後の頂まで連れていけるだろう。

 さて、次だ。

 腕を出せシグルト。
 そろそろ、打ち直した籠手が冷えておる頃よ」

 ブレッゼンはシグルトの腕を取り、傷や訓練の痕を見て満足げに頷いた。

「うむ、これぞ戦士の腕。

 どれ、一つ合わせてみるか」

 ブレッゼンは、シグルトの腕に麻布を捲き、鎖で編んだ腕輪を通すと、籠手を組み立て始めた。
 微妙な指の太さに合わせ、部品を調整する。

「…掌は、鋼糸で編んでおいた。
 握れば、同じ様に皺が出来る。
 滑り止めに、鮫の革を編み込んでおいたが、擦り減ったなら、此処に持ってくるか自分で編め。

 関節部分には肉を挟まん様、サラシを捲くのだぞ。
 着ずれが起きん様に、着ける時は動かん様しっかり、な。
 
 まだ夏の日差しだ…蒸れん様に空気穴はあるが、日差しには晒すなよ。
 サラシを捲いていても、火傷することになる。
 
 時折上質の油を挿し、鎖は目の細かい砂で水を使わずに扱いて洗え。
 鉄は、返り血や塩風にも弱いからな。

 かかった血は、拭かずに布に吸わせろ。
 拭き広げたりすれば、手入れの手間が増える。

 乾いた血なら、刷毛で払い落せるだろう。
 血の染みが消えるまで磨き、油で覆っておけ。
 
 錆落としをする時は、灰で油を吸わせてから、念入りにすればいい。
 終わったら、刷毛で灰や金屑を払って、油を塗るのを忘れるな。

 手入れの道具は、わしのお古をやろう。

 腕に被せる装甲は、しっかり腕に貼り動かぬ様に固定すれば、お前が望む荒っぽい使い方をしても耐えられるはずだ」

 籠手を組み立てながら、ブレッゼンは扱い方や細かい手入れの仕方を説明していく。

 籠手が優秀な防具でありながら、鎧と別に扱われない理由は、手入れや扱いが難しいからである。
 それに、重みで腕が疲れるのも原因だ。

「お前ほどに鍛錬してあれば、腕の延長で使えるだろう。

 この籠手は、かつてわしが若い頃に使っていた甲冑の予備でな。
 武骨な造りだが、このわしの腕二本、守り通した折り紙付きだ。

 戦士であれ、職人であれ…腕を護らん者は、能無しよ。

 籠手を着ける、ということは接近戦やナイフ相手の戦闘を踏まえておるんだろう?
 実戦を知らねば、間合の最悪たる格闘戦のことなど、歯牙にも掛けん。

 戦場では、殴り合い掴み合いも卑怯とは言わぬ。
 殺されぬために、どちらも必死になるからな。

 多くの戦士が、盗賊や暗殺者に敗れるのは、対策が足りんからだ」

 ブレッゼンの解説に、強く頷くシグルト。

「奇襲を受けた時、身体を庇うのは腕だ。
 砂利道で転倒した時受け身を取るのも、敵に武器を振るう時一番近づくのも。
 
 とりあえずこれは、繋ぎの品だ。
 悪い品では無いが、何れ物足りなくなる。

 暇な時にでも、お前専用の真銀の籠手を鍛えてやろう。
 もっと鉱石が必要になるから、探して来い」

 淡々とした口調の中にも、ブレッゼンの気遣いが感じられ、シグルトは感謝するように頭を下げた。

「ふふ、次の時も土産の酒を忘れるなよ?」

 太い眉を冗談めかして動かした名匠に、シグルトは苦笑して頷いた。


 手に入れた籠手をしまい、久しぶりに戻った剣を腰に佩くと、シグルトはロマンを迎えるために『象牙の杯』へと向かった。
 工房に着くと、不気味な老婆が出迎えてくれる。
 
「ほほ、坊やの連れかえ?

 また、好い男だねぇ。
 茶でも飲んでいくかい?」

 猛禽の様な鋭い双眸に、見据えられる。
 並の人間なら怖気づいただろう。

「お気遣い、痛み入る。
 だが、これ以上仲間を待たせるのは心苦しいのでな。

 先に顔を合わせるつもりだ」

 仕方ないねぇ、と笑って老婆はロマンの元へシグルトを誘った。

「やっと来たね。

 待ちくたびれちゃったよ」

 数週間ぶりに逢うロマンは、相も変わらずひねた態度で胸を張った。

 窓の外は、すでに赤らんでいる。
 黄昏時が近いのだ。

「今日旅立つと、すぐに夜になっちゃうよね。

 一晩泊まって、明日にでも発とう」

 ロマンの提案に、シグルトも賛同した。
 
「馬があるから、ヴィスマール経由の新しい街道を通って一週間というところか。
 海路という手もあるが、この時期の海は荒れやすい。

 これが新しい地図だ。
 暇な時にでも、写しておくといい」

 シグルトの差し出した地図を暫く眺め、ロマンは地図を返した。
 
「…ん。

 もう覚えたから、休みの時でも書いておくよ」

 ロマンの記憶力は、常人離れしている。
 今まで読んだ本の、ページや皺の位置まで覚えているのだ。

 彼が知らない知識といえば、読んでない類の物だけだろう。

「明日は早いし、早く食事を済ませよう。

 そうだ、デザートが美味しい店を見つけたんだ。
 そこにしようよ」

 ロマンの天才的な一面と子供らしい一面のギャップに苦笑しつつ、シグルトは仲間との穏やかで満たされた時間を過ごすのだった。



 一旦シグルトとロマンが合流する中継エピソードです。
 いくつかのシナリオをまとめて一話にしました。

 真北と磁北の話は、案外知らない人多いでしょう。
 私は多少方位の吉凶を占ったり出来るのですが、実際に影響するのは真北です。
 日本から見る真北は、東に5~7度ぐらいずれます。(日本でも3度あるいは10度近く違う場所もあります)
 
 10歩程度のズレでも、数十キロ先では相当な差になって出るので、北を使う時は、磁北を優先するのか真北を優先するのか決めないと迷うでしょう。
 切り株の年輪による傾きは、「ある程度」しか分からないので鵜呑みにするのは危険です…大体こっちか、程度に使うが吉。

 思うのですが、魔法的な磁場が沢山ありそうなファンタジーの世界で、コンパスってよく狂うんじゃないでしょうか。

 ピリ・レイスの地図の原本とかならともかく、昔の地図は、むちゃくちゃな地図ばっかりです。

 中世の地図を見ると、現在の地図の違いにびっくりします。
 大航海時代の初頭だって、アメリカ大陸だってインドと勘違いされてたんですから。
 野垂れ死にが多いわけです。

 『地図作製組合』は面白い試みです。
 私も公式に使えそうなマップを知りたかったので、リプレイではこの地図を大いに利用しています。
 でも、フォーチュン=ベルとアレトゥーザ、遠いなぁ。

 鉱石が手に入るシナリオですので、上手に利用するとよいでしょう。

 シグルトたちはキーレに行ってませんが、実は同じ宿の“煌く炎たち”が行ってるのでフラグが立ったようです。
 面倒なので、北から来るときにキーレを見た扱いでシグルトにポイント渡しました。

 『魔剣工房』で【アロンダイト】を回収しつつ、金銭の動きが出来るだけ無い様に辻褄合わせしています。
 “風を纏う者”とブレゼンの関係を、出来るだけお金でだけの関係にしないためです。

 今回は1000SPをブレッゼンの酒代立て替えという扱いで、それに【黒曜石】の販売で1000SP。
 それで出来た2000SPを使って拙作『風鎧う刃金の技』で【錬鋼の籠手】を入手しました。
 防御しつつカード交換が出来るので、なかなか使えます。

 3レベル以降は、小さな蓄積ダメージがくっきり実力に反映されます。
 一撃で死にそうなスキルも、10%ダメージ減少させる防具があると、かろうじて生き残ったりします。
 【錬鋼の籠手】の防御効果は、手札交換中の隙を埋め、上手くすればカウンターや溜めを成立させるので、『剣士の求め』や『風鎧う刃金の技』のスキルを使うなら重宝するでしょう


 装備しているだけで回避力も上がるので、かさむ(アイテムスロットを一つ埋める)ものの、それほど気にならないでしょう。

 最後にフォーチュン=ベルですが…次回ここで一個だけロマンの買い物をしておこうかな、と考えています。
 お金、まだ結構余裕あるなぁ。


 今回の収支は以下の通り。

◇シグルトのみ
『地図作製組合』
・【アーシウムの赤】入手
・【黒曜石】入手

『魔剣工房』
・【バスタードソード】(アロンダイト第二段階)入手
・【アーシウムの赤】使用(ブレッゼンへのお土産)
・【黒曜石】販売(+1000SP)
・【バロの手】入手

『風鎧う刃金の技』
・【錬鋼の籠手】購入(-2000SP)

 現在の所持金1555SP(チャリ~ン♪)


〈著作情報〉2009年08月01日現在

◇『地図作製組合』はCWGeoProjectから生まれたクロスシナリオです。現時点で下記サイトで配布されています。
 シナリオの著作権は、CWGeoProjectの方々にあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer. β-1.30です。
  
・CWGeoProjectのサイト『Card Wirth Geography』
 アドレス: ■ttp://w2.abcoroti.com/~cwg/(■をhに)

 今回このシナリオで入手したアイテム【アーシウムの赤】と【黒曜石】はクロスインポートアイテムです。
 『地図作製組合』の付属テキストに、著作権の詳細が書かれていますので、そちらを参考になさって下さい。


◇『魔剣工房』はDjinnさんのシナリオです。現時点でオフィシャルファンサイトのギルドとVectorにも登録され、Djinnさんのサイトで配布されています。 
 シナリオの著作権は、Djinnさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer 1.07です。
  
・Djinnさんサイト『水底のオアシス』
 アドレス: ■ttp://djinn.xrea.jp(■をhに)


◇『風鎧う刃金の技』はY2つのシナリオです。当ブログにダウンロードサイトへのリンクが張られています。
 シナリオの著作権は、Y2つにあります。

・Y2つのシナリオ置場『Y字の交差路別院』
 アドレス:■ttp://sites.google.com/site/waijinokousaro/■をhに)
 
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっ

ています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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