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カードワース・リプレイブログ 特集【職業:村人、レベル:1】

2018.03.13(20:43) 439

 クロスもよいですが、まずはリプレイをやってるところが増えることが肝要ですね。
 同胞が増えるのは心強い限りです。

 これからリプレイを書こうかなと思ってる方がいらっしゃいましたら。
 まず、厨二っぽくても、年齢考えろって世代になっても、気にせずに書くことです。
 趣味って、好きだからやるものです。他人の評価ばかり気にせずに、自分がどうしたいかでやるといいと私は思います。
 物書きというものは作品を公開をすれば評価されるものですが、一番のファンは自分であるべきであり、自分が表現したい世界を描けばいいと思うのです。
 ぶっちゃけ、「俺が好きだからやってるんだ!」でいいんです。
 自己満足こそ、趣味の根本原理であると私は思ってます。


 さて、本題に入りましょう。
 
 今回は、私と同様にリプレイ小説をしていらっしゃるモコイさんの

 【職業:村人、レベル:1】

 を紹介いたしますね。

 モコイさんは、わりと最近(昨年後半)にリプレイブログを始められた方です。
 ですが、その執筆速度はなかなかのもの。

 しかも、執筆速度の速さ以上に丁寧な描写、しっかりとしたキャラクターたちの表現に光るものがある方です。
 各キャラクター個人の視点・内心で交代で語られていくストーリー展開は、感情移入しやすくて分かり易いです。

 私も経験しましたが、まず、リプレイブログをやってると最初の試練というか、関門を突破しなければなりません。
 それが「キャラクターの紹介」、「初依頼」の二つです。どちらも御無事突破してらっしゃる当り、頑張られたなぁと。

 勢いで始めると、キャラクター紹介の途中で、語彙の少なさや文章力の限界を感じて筆が止まってしまうことも多く、三日坊主状態になることはよくあります。これは私が小説を書き続けるようになる前に経験した実体験でして、特に一人で書いてると読者さんがいないことなどに気づいてモチベーションがダダ下がりすることがあるんですね。
 私が今まで活動を続けられたのは、ひとえに始めた頃に同胞と言えるリプレイ作家さんが複数いたこともあります。
 その経験から申し上げますと、リプレイ小説を読んでくださった方、そして新しく始める方は、是非他のリプレイ作家さんの記事に感想を書いたり、可能なら交流をしてみてください。
 他の方の作品に触れたり、時にクロス企画を練ったりする過程で交流を始めると、そこから生まれる新しいインスピレーションやモチベーションは多大なものがあるからです。

 そういう意味では、モコイさんのように新しく活動を始めた方との交流には得難いものがあります。
 私も最近お手紙等もやり取りさせて頂いて、得るものがたくさんありました。

 今回はその物語の魅力を特集致します。


◆“道を拓く者”
 モコイさんのパーティ、“道を拓く者”は、元農民の戦士アロイスをリーダーとする六人パーティです。
 職業バランスに優れたチームなのですが、よく見てみると才能型に重複があるなど面白い点があります。

 多くのリプレイパーティでは六枠しかないパーティメンバー枠と基本才能型六種を、そのまま当てはめてパーティを作る場合が多いです。
 一番の理由は、才能型別に職業判定的なことをするシナリオがあるからでしょうか。
 大抵は勇将型と豪傑型で戦士2人、知将型と策士型で術師系2人、万能型で斥候や盗賊役を入れて、標準型で僧侶や精霊術師みたいな職業を抑えると鉄板です。

 対して“道を拓く者”は標準型と万能型が2人ずついる、才能型に縛られないスタイルのパーティです。
 これを見て感じたのですが、「よく考えてみればわざわざ才能型分ける必要ってない」ですよね。
 むしろリアルなら、才能型の重複があってしかるべき。

 カードワースのシナリオをやってて、たまにかっきりと基本才能型六種の六人パーティ前提のシナリオがあるのですが、これはシナリオ側からのプレイスタイルに対する要求ということになります。必ずそうする必要は本来無いのですね。
 多くのリプレイ作家さんやシナリオレビューをされる方々は、スタイルの押しつけを避ける傾向があります。
 自分なりにプレイするシナリオを選択し、リプレイという物語を制作していく自由は、作家さんの特権でもあります。
 私はある意味テンプレートに縛られる傾向もありましたので、モコイさんのパーティ編成に関して、目から鱗が落ちる部分がありました。


◆各キャラクターの魅力
 各キャラクターについて掘り下げてみようと思います。

 典型的なパワー戦士で屈強な身体を持つアロイス。名前の語源(名高い+戦い)からしてかなり戦士っぽいですね。農民出身の戦士ということで、冒険者の典型とも言えます。
 人が好いけど、自分で何でも抱え込もうとする誠実で大きなお兄ちゃん、といったところでしょうか。
 元々行動もそれらしかったのですが、晴れて“道を拓く者”のリーダーになりました
 苦労性な性格ですが、リーダーの才能の一つである「調停」、そして意見が分かれた時に「決断」ができる点で、“道を拓く者”はとても幸運だったと言えます。
 フィジカルな才能はだれしも持ちうるのですが、性格的な資質って地味な中にも重要ですからね。
 今後の成長が楽しみな人物です。

 魔術師のロザリーは、商家出身の賢者。知将型なんですが性格は策士っぽい感じですね。
 天才肌で高い知性を感じさせますが、インテリな中にも気難しい繊細さがあります。
 こういう女性ってなんとなくツンデレヒロインを連想させるのですが、私が思うにデレる感じではない様な気も。
 倹約家の一面を持っていて、間違いなくパーティの会計役を兼ねているなぁと。
 参謀や軍師っぽいポジションは交渉役や資材管理をやることも多いので、彼女の存在が財布のひもをしっかり縛ってる、という点では「宵越しの金を持たなくなってすぐに貧乏になる冒険者」の悪夢から、パーティを救ってくれる女神様かもしれませんね。

 盗賊少年のカミルは、しっかり者です。年齢不相応な知性と性格は苦労したからでしょう。
 ビアンカに恋をしてる早熟さと、その恋愛感情が子供っぽくてほほえましいです。
 失敗すると泣いてしまう子供らしさもまた魅力です。
 盗賊としての優秀さは、年代のフィジカルな才能を活用しているとも言えます。
 少年である期間は短いですから、身体的・精神的成長におけるこれからの変遷も楽しみな人物です。

 女戦士ディアナは、バランスの良いオールラウンダーですね。役どころとしては軽戦士でしょうか。
 実は大胆にして素早くすると回避力が低下するのがカードワースの辛いところ。
 性格は「集中できない部分にはおおざっぱ」であるけれど、熟練を持つ経験者らしいはすっぽさも持っていますよね。
 突出はしていないけれど、戦闘でのバランスの良さで上手に遊撃を行いながら、パーティにできるほつれを補正していく大人の女性、という感じです。
 きっとアロイスが思い悩んだ時、彼女のシンプルさが決断の一助になることもあるでしょう。

 幼い美少女のビアンカは、パーティの癒し担当という感じですね。
 愛らしい一面の中にも、感受性が優れていて仲間を取り持つ芯の強い女の子です。
 吟遊詩人や舞踏家と言った芸人関連の職種は、カードワースではサブ職になりやすいのですが、彼女はサポーターとしての才能をまず開花させています。
 こんないたいけな少女に血なまぐさい冒険をさせるのはちょっとかわいそうな気もしますが…カードワースの子供って曲もあるものです。
 多分将来は美人さんになるでしょうね。カミル君、頑張れ!

 最後はエミリオ。
 典型的な聖北教会聖職者(元)のヒーラーですね。
 ミドルネームがありますが、これは多分洗礼名でしょうか。
 彼は、柔和で人当たりがいいけれど頑固という性格が面白いです。
 いわゆる聖職者的モラリストの一面を持ち、信心深く執着心が無いためにロザリーやカミルとは反発しあう可能性があるタイプ。
 
 こうしてみると性別は男3・女3で、老人以外の世代がそろっていて、上手く役割分担もできていますよね。

 ここでちょっと余談を。
 中世の時代に姓を持っている一般人の方が少なかったと思われます。私のリプレイでは姓の無いキャラクターが多いくらい。
 昔は姓や苗字持ちよりも、称号とか二つ名を持っているタイプの人間が多かったと思います。
 私は仕事上、江戸時代の過去帳を見たことがあるのですが、俗名無しで戒名だけ・名前の代わりに続柄が書かれてただけだった、なんてものもありました。私の住む地域は今でも同じ姓の人が多くて、家号がまかり通っています。
 中世の人物はしょっちゅう改名とかしてたみたいですし、一般人の名乗りって割と適当だったかもしれません。同じような名前多かったでしょうしね。(中東諸国でムハンマドと呼べばたくさんの男性が振り返るみたいです)
 “道を拓く者”のメンバーは見てみると意外に姓持ちが多いんですね。
 モコイさんはこの手の時代考証も割としっかりやってらっしゃるので、苗字付きのメンバーの過去とは、名前を通じてちょっと興味があります。
 

◆中世の泥臭さを表現
 モコイさんの物語の舞台は、私の“風を纏う者”などと同じ中世暗黒時代をモデルにしている様子。
 十字軍と異教徒がぶつかり合い、魔女狩りや黒死病が世界を病ませていた時代ですね。

 中世世界には独特の泥臭さ、埃っぽさがあるのですが、モコイさんもまたそういう世界の表現が巧みです。
 例えばカミル登場の話で盗賊ギルドとストリートキッズの関係とか。
 ディアナとビアンカが冒険者になるきっかけなどは、ありがちなせちがらさをしっかりと描写しています。
 農夫出身のアロイスなどは、性格の傾向からして生まれが育んだとよくわかります。

 私などは「そのキャラクターがどうしてそういう性格になったのか」を凄くこだわって決めるタイプなので、モコイさんの描写には共感しきり。
 実は様々な設定を辻褄合わせて描写していくのは難しく、そのバランス取りが上手いモコイさんの文章には、その手のつながりを探して楽しむ面白さがあります。

 カードワースの特徴は能力値にも影響しますので、より濃い設定の繁栄を物語にしながら描いて行くのも、リプレイを表現する面白さなのです。

 これから読む方は、ぜひ裏話を含めて読んで楽しんでもらうとよいのではないかと。


◆今後たぶん結構クロスするかもです
 幸い、モコイさんとは何度かお手紙をやり取りして、お互いのシナリオの被り回避とかに関して相談したりしています。
 私の作ったシナリオなんかも、キャラクターを含めて登場させて頂いてます。

 うちのリプレイと一緒に、是非モコイさんのリプレイも読んで、いろいろ登場するお話のクロスなんかにニヤリとしていただければ嬉しいです。
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Y字の交差路


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『古城の老兵』

2018.03.07(01:40) 438

 “風を纏う者”が、様々な邂逅を経た次の日。
 
 黎明の清らかな輝きが空を染め、彼らを宿から送り出してくれた。
 清々しい潮風が、纏うべき未来の風を暗示しているようだ。

 昨日の充実した時間を思い出し、それぞれこの都市に再来を誓いながら歩み出すシグルトたち。
 
 …なぜかその中で、レベッカだけが不機嫌である。
 
 昨日の夜は上機嫌に酒をのみ、昼に知り合いに高級店で奢らせた、今が旬だというムール貝を南海特産品のオリーブオイルでソテーしたものや、熟した果物の甘み…その味を自慢げに語っていたのに、である。
 
「何じゃ、レベッカ。
 
 この爽やかな朝に、何をむくれておる?」
 
 スピッキオが細い目を瞬かせ、怪訝そうに聞く。
 
 レベッカは、ぎぎぎ、と音がしそうなぐらい不穏な首の動きをしてスピッキオを睨んだ。
 
「…このモウロクジジイが、誰のせいだと思ってるのよ!」
 
 そういうとレベッカは銀貨が入った袋をじゃらりと鳴らした。
 
「勝手に銀貨六百枚も使って…あんたボケたんじゃないの!
 私が使用を許可したのは、大きくない買い物に限った必要経費だったはずよね?
 
 こんな金遣いしてたら、すぐに素寒貧よ~」
 
 そういって地団駄を踏むレベッカ。
 
「すかんぴんよ~♪」
 
 ラムーナが、楽しそう~と言ってまねをする。
 顔を引きつらせ、レベッカは肩を落とした。
 
「ああ、もう!
 
 フォーチュン=ベルでのロマンといい、今回の出費といい、あんたたちはなんて計画性のない金の使い方をするのよ…
 
 私たち冒険者はね、旅でどかすかお金を使うの!
 辻馬車一つ使うのだって、五人分だとシャレにならない金額になるのよ?
 
 他には通行税に宿代、食費に旅装費…
 
 あんたたちが勝手に大金を使っても、皺寄せは皆に来るのよ!
 
 それが、このジジイったら〝啓示を受けて、新しい秘蹟を感得したから寄進した〟ですって?
 宿に預けて置いたみんなのお金を、何だと思ってるのよっ!
 
 私たちを野垂れ死にさせる気?
 
 上手く交渉して、苦労して、必死に節約してきたお金なのよ、もうっ!」
 
 ものすごい剣幕である。
 
 シグルトは、仕事を探しつつ節約して野宿しながら旅だな、と苦笑している。
 だが、先程さらりとスピッキオに、「金を使うときは仲間に相談すべきだったな」と釘を刺したのはさすがであった。
 
 野宿♪、野宿♪~と陽気にラムーナは両手を上げて踊っている。

「はあ、昔のことを今になって持ち出すなんて。
 ちゃんと僕は買ったものを役立ててるよ。
 
 これだから吝嗇(りんしょく)な大人って…」
 
 大げさなロマンのため息が入る。
 
「お前は強欲すぎるんじゃ、レベッカ。
 
 その気になれば人間、その身一つで生きていけるわい。
 金銭なぞ、こだわるからいかんのじゃ。
 
 わしが居った修道院では…」
 
 スピッキオが、修道院名物の清貧を謳い始める。
 そのまま説教を始めそうなスピッキオの様子に、レベッカは眉を吊り上げると声を荒げた。
 
「このジジイ…そういうのは自分だけにしなさいってのっ!
 
 あんたのありがたい神様が、祈れば聖書みたいにマナ(食べ物)でも降らしてくれるわけ?
 お金がなきゃ、仕事をやるのにも食べることにも支障が出るものなのよ。
 あんたの着てる服一つだって、ただじゃできないんだからねっ!
 継ぎ接ぎと蚤だらけの法服着た坊主の説教なんて、薪になる木っ端ほどの価値も無いんだからっ!

 有難い啓示とやらを受ける度に寄進してたら、腹ペコで神に召されちゃうわ。
  
 だいたい修道士って、普通修道宣言して階級とかないはずでしょ?
 それなのにちゃっかり司祭様やってるじゃない!
 
 物欲を捨てたのなら、名誉欲も捨てなさいよ!!!
 逆にありがたい寄進とやらを集めてもらって、貧乏な私たちに恵んでほしいぐらいだわ。

 お金が無いのは、切ないのよ…
 清貧なんて、自給自足できる土地持って保護してもらってる能天気な連中だけが許されるお遊びね。

 赤貧っていうのはね、倫理や秩序を守る気力や余裕まで奪うくらい…心底飢えるのよ。

 冒険者が、なんで野盗予備軍なんて裏でさげすまれてるか知ってる?
 暗がりに足突っ込んでる私たち盗賊が、冒険者に混じってやっていける本当の理由を知ってる?

 それはね、貧しさに耐えられなくなった連中の行き着く先が飢え死にか本物の犯罪者だからよ!」
 
 意外に宗教事情に詳しいレベッカである。
 そして、貧しい生活を経験した彼女の切実な叫びがそこにあった。
 
「むう…」
 
 自分でも充分今の矛盾した立場を理解しているだけに、スピッキオはどう説明したものかと唸ってしまった。
 口ごもった姿に鬼の首でもとったような顔で、どうよ、というレベッカ。
 
 ここでシグルトが2人を遮るように間に入った。
 
「レベッカ…この爺さんが名誉欲に染まったただの俗物だと、本当にそう思うのか?」
 
 シグルトの言葉は直球だった。
 このリーダーは、ごちゃごちゃした前置きは無視して、本題や本質からすっぱり入る人間である。

「貧しさがどういうものか、俺もわかっているつもりだ。

 冬場に新鮮な食いものが無くて、臭みの強い魚の塩漬けを食った時は水をがぶ飲みしたくなる。
 飲み水のために雪を融かしたくても使える燃料が足りなくて、吐き気を抑えながら…ひもじくて震えていた妹の手をこすって一緒に耐えたことが何度もあった。
 そんな冬の間に、寒さと飢えで大人になる前に死んで行った幼馴染の粗末な葬式を見ながら、俺はまだ腹が満たされていただけ幸運で恵まれていると思ったものだ。

 レベッカやラムーナが、もっとつらい経験をしたことも分かっているつもりだ。
 お前の倹約で、俺たちがどれだけ助けられているかもな。

 それでも…みじめさに心までとらわれて、いつまでも腐るのはやめておけ。
 そんなものでは誰の腹も膨れない。
 まだ金があるうちに、立て直す努力をしよう。

 こういうのは仕事で取り戻す。
 その金でまた美味い飯をみんなで食おう。

 いいな?」

 リーダーの真摯で静かな眼差しは、仲間たちに滾っていた悪質な感情を急速に冷やしてくれた。
 こういう時、シグルトは仲間の誰も無碍にはしない。
 穏やかに諭す心のこもった声が、とても頼もしい。
 
 レベッカも熱くなって言い過ぎたな、と思ったのか…いつもの冷静な彼女に戻っていた。
 きっと熱くなれるぐらいはこの連中に親しみを感じてるんだろう、と自己を分析しつつ結局は、しかたないわねぇ、とリーダーを立てるのだった。
 
「さて、行こう。
 当面はアレトゥーザ近郊からリューンにかけて、《村巡り》で地盤固めだ。
 
 金がないなら地道に依頼を探しながら、な。
 冒険者なりの仕事をすれば、田舎料理ぐらいは出してもらえるさ。

 レベッカ、情報集めは任せたぞ。
 仕事の匂いを嗅ぎ付けるなら、お前が一番優秀だからな」
 
 苦労性のシグルトは、いつもの苦笑。
 
 私は犬じゃないっての、とすねた顔を見せつつ、レベッカはさっさと歩き出した。
 
 他の者は一度だけアレトゥーザの門を振り返ると、邂逅したたくさんの人々と美しい風景との再会を、心から願うのだった…


 “風を纏う者”の今後の日程は、アレトゥーザ近郊での足場固めとして、リューンまでに点在する小さな村々を渡り歩くことになっている。
 これは《村巡り》《巡回》などとも呼ばれる冒険者活動の一つだ。

 冒険者として新しく活動を始めると、必ず「仕事不足」に陥る。
 “風を纏う者”が南海までやってきたのも、元々は宿の同胞と仕事がかち合うのを避けるためである。

 かといって、違う冒険者の宿に行けば、すぐ仕事にありつけるわけでもない。

 実際、繋ぎをつけた『悠久の風亭』でも、地元の冒険者に牽制されて大きな依頼は受けられず、盗賊ギルドや同業者に面を通し、食材探しといった雑用程度しか仕事がもらえなかった。

 金を使ったスピッキオにレベッカが激昂した背景には、活動資金が増えなかった事への焦りもあったのだ。
 
 宿の依頼は他の冒険者との取り合いになる。めぼしい依頼はまず地元に根付いた冒険者や先輩冒険者が持って行ってしまう。
 そういった中で新参者が「顔見せ」せずに仕事を受けると、同業者に「礼儀知らず」扱いされて、厳しい制裁を受けることがある。
 制裁と反撃に関連した冒険者同士の抗争で治安部隊が出動することもあり、そういった争いの原因を起こした冒険者は、最悪都市や冒険者の宿に出入りを禁じられてしまう。

 小さな村には冒険者が拠点とできる場所が無い。

 日々労働に追われ自給自足に近い形で活動する村落では、怪物などが出現せず平和であれば冒険者たちは食い詰め者の集団である。
 となれば、冒険者は必然仕事を求めて、大きな町や都市に活動拠点を置くことになる。
 そこから追放されてしまえば、あとは下り坂を転がるように野垂れ死にか、犯罪者にでも堕ちるしかない。
 
 リューンなどの比較的大きな都市で依頼を探していても、怪物退治などの依頼が頻繁にあるわけではない。
 コボルトやラット程度の弱いモンスターであれば、都市や町に住む冒険者に依頼する前に「村でどうにかしてしまう」のである。

 冒険者に依頼を出すのは大変なコストがかかるのだ。

 依頼に使われる羊皮紙が高価であり、依頼内容を伝えるために文章を書かねばならない、文盲が多い村落できちんとした依頼書を書くのは、なかなか大変なことだ。
 さらに都市や町に使者を出し(その旅費を用立て)、山賊などがいるかもしれない道を歩かせて冒険者の宿まで依頼を出してもらわねばならない。そういった使者を専門に狙う悪質な盗賊も存在する。
 これらのことを行っているうちに、怪物などの被害で村が壊滅したり、冬越しの食物の不足が起きて餓死者が出るなどということになりかねない。

 冒険者の宿に依頼が出されるまでになることは、村でどうすることもできない場合に限られるのである。
 そして、「冒険者を雇わねばならない」と村人が被害に耐えながら決断するまでの間に、大概は「手遅れ」になってしまう。

 依頼をする冒険者の人となりも問題だ。

 冒険者とは、危険な場所に赴き怪物と切った張ったする武辺者の集団である。
 一般的な職業に就けず、しかたなくこの荒っぽい職業で命を懸けることがほとんどだ。
 すなわち、冒険者が「野盗の予備軍」であることに他ならない。
 悪質な冒険者を呼べばその村は食い物にされ、さらにひどい被害を受けることになる。

 村の住人はこういったことから、顔も知らない冒険者を雇うのは忌避するのが普通だ。
 命懸けで失敗すれば村を全滅させかねないという、責任重大な使者にもなりたがらない。

 ならばどうするのか。

 冒険者が直接村々を巡って、依頼を探し「顔を繋いでおく」のだ。

 ちょっとした魔物退治の依頼は、現地で聞いてみると意外に多い。
 村でもわざわざ遠くまでリスクを冒して冒険者を雇いに行かなくても済み、仲介料が無い分冒険者の報酬も上がり、村を危機から救ってくれた者を村人は信頼するようになる。
 互いに持ちつ持たれつ、良い関係が構築できるのだ。
 
 だが《村巡り》は思い立った勢いで簡単に行えるわけではない。
 冒険者たちにとっても、コネクションを開拓した村落は縄張りなのである。

 新しい冒険者が活動を行えるようにするには、それなりの手順が必要だ。
 無視して仕事を受けようと考える冒険者もいるが、先輩から紹介状をもらうとか宿の仲介(張り紙の依頼はこれに当たる)を経由するなどの伝手が無い限り、門前払いになることも多い。
 村落ごとに専属の冒険者パーティや宿が決まっていることもあり、そういった縄張りは良く変動する(それだけ冒険者という職業が死にやすい)ので最新の情報を確認する必要もある。
 村によっては「冒険者としての教導は誰にしてもらったか」と尋ねられることがあるほどだ。

 普通は《村巡り》を行う前、先輩冒険者の教導で徹底的に「縄張りの分布、契約の仕方と仁義」を叩き込まれ、無作法を働かないように躾けられる。
 山賊や強請まがいの悪質な冒険者は、同業者によって徹底的に駆逐されると、くどいほど教え込まれる。

 冒険者は同じ宿に所属する冒険者が犯罪を犯した場合、その宿の名誉にかけて、罪を犯した冒険者を捕縛ないし殺さなければならない。
 同業者が悪質なことをすれば、それによって食い詰めるのは自分たちであるからだ。

 《冒険者の仁義》と呼ばれる独特の倫理観は、優れた冒険者たちが己たちの立場を守る生活の知恵であり、鉄則であった。

 古い時代、ギルドなどの職業団体には必ず厳しい《掟》があった。
 《掟》を破る者は制裁を受ける。
 そうしなければ、無法に活動する同業者が増え、その職業を他人が信頼しなくなる。

 時に武力を行使する冒険者の《掟》は、単純でとても厳しい。

 《掟》を軽んじた若手冒険者が、先輩冒険者の制裁で手足を折られたというような陰惨な事件は多い。
 同業者はそれを当然のことと黙認する。
 出る杭は打たれ、身から出た錆は己を朽ちさせるのだ。

 冒険者は自分たちにことさら《自由》という言葉を使うが、これは《身勝手》と同意儀ではない。
 《自由》とは「自らに由る」…自分で行動しその責を負うということである。

 だからこそ、実力を磨いて軽んじられないようにもするし、まっとうな冒険者は依頼者に対してとても誠実で礼儀正しく、先達を重んじる。
 礼儀正しくない冒険者は、己の仕事が命懸けであることを理解せず、社交が身を守る手段であることを軽んじているのだ。
 厳しく躾けてくれる先輩は、コミュニティのヒエラルキーとともに世の理不尽さを教えてくれる教師であり、薫陶を受けた冒険者は先輩の教えが自分を助けてくれることに後々になって気付かされる。
 できない者は、油断で死ぬか、あるいは自業自得で同業者に潰されてしまう。

 冒険者たちは経験を積めば積むほど、自分たちの仕事がそういったしがらみに支配されていることを理解することになる。

 こういった風儀に関して、“風を纏う者”は初期から厳格に対応してきた。

 まず、実際に冒険者として活動していたレベッカが声高に主張して、これを徹底させた。
 もっと厳しい《掟》を持つ盗賊ギルドにも関わっているためだ。

 シグルトも《掟》を重んじるタイプだった。
 故郷で武芸を学ぶ上で厳しい師弟関係を経験しているし、領地を持つ貴族の子として面子の大切さを教えられ躾けられてもいる。

 ロマンは師を持つ魔術師見習いである。
 礼法を学ぶ過程で、上下関係の難しさは叩き込まれていた。

 スピッキオは規律正しい修道士出身だ。
 コミュニティの秩序や上下関係に関しては、肯定的である。

 ラムーナは元奴隷でもあり親に支配される社会で育った。
 上位の存在に対しては従順であった。

 冒険者になったばかりの新人は、総じて生意気な人間が多い。
 武器という力を持ち、荒くれの多い同輩に混じって舐められないように粋がるからである。
 金が無くて冒険者になった者などは、そもそも知性や品格が皆無の粗野で愚劣な輩も多く、社会に対する配慮など持っていないことが多いのだ。
 一般的に【不良】などとも言われるそういった新人は、古臭くしきたりを重んじる先輩冒険者に教導を受け、無知と無謀で高くなった鼻を嫌というほどへし折られて現実を知るのである。

 “風を纏う者”が若手で注目されているのは、社会的な教養を持つメンバーがいて、規律や習わしに従う姿勢を評価されている点だ。

 聡明で規律正しいリーダーに率いられ、面子に聖職者もいる“風を纏う者”は、地味な下積みの村巡りを謙虚な態度で丁寧に行った。

 シグルトは村を魔物から防衛するための指導を行い、元貴族的な視点から法的な納税の注意点などを指摘して、多くの村長たちから尊敬のまなざしで見られていた。
 スピッキオが教会の無い村落で請われて、子供の洗礼や宗教儀式を行い、その癒しの秘蹟を頼る者も多く救った。
 レベッカは旅で手に入れた情報を村の有力者に伝え、他の村への伝言などを進んで受けている。
 ラムーナは得意なダンスを踊ってみせ、娯楽の少ない村人たちに喜ばれた。
 ロマンは多言語を扱っての代筆や、最新農法の概要・薬草などの知識を伝えて感謝されていた。

 いくつかあった魔物討伐や調査の依頼も無事に達成し、確実にその名を浸透させた“風を纏う者”が村巡りを終えてリューンに近づいた頃、金銭的な収入こそほとんどなかったが、立ち寄った村落のほとんどで好意的に受け入れられる成果を上げていた。
 
 

「拙いな…」
 
 ぽつぽつと降り始めた雨。
 
 シグルトは天を見上げ、眉をひそめた。
 
「ここで一雨来る…なんてね。
 
 あと少しでリューンなのに、困ったものだわ」
 
 レベッカも、雨避け用に外套を取り出しながら周囲を調べている。
 
 通行税を節約するため、街道を大きく外れてしまった“風を纏う者”。
 現在一行は、この荒れた丘ばかりの道無き道を進んでいた。
 
 稲光に周囲が白く染まり、大気と大地がびりびりと震える。
 轟音の近さにロマンが思わず目を閉じた。
 
「…近かったの」
 
 スピッキオも真剣な顔で、少し雨を強く降らし始めた空を見上げ、細い目で睨んでいる。
 
 雨は旅において大きな障害となる。
 冷たい雨は体力を奪い、衣服に浸み込んだ水分は荷物となり、べたつく不快感が病んだ感情を引き起こす。
 
 ここからリューン郊外にある『小さき希望亭』へは、8時間ぐらいかかるだろうか。
 “風を纏う者”は皆健脚だが、体力の無いロマンのことを考えれば、長旅で疲労した状況も考えると心許無い。
 しかも悪天候ともなれば、移動にはさらに時間がかかるだろう。
 
 雨足は強まり土砂降りの気配だ。
 すでに纏った外套は水を吸い始め、不愉快な重みを増し始めていた。
 
「だめね、この周囲に雨を凌げそうな場所は無いわ。
 
 まあ、この雷じゃあね。
 雨を凌げそうな大木があったとしても危なくて雨宿りなんてできないけどさ…」
 
 とにかく此処じゃ休めないわ、とレベッカが急かす。
 
 皆、憂鬱な気分で歩調を速め、リューンに向けて続いている丘陵を越えて行く。
 
 すでにロマンの吐息は荒く、屈強な体格のスピッキオも顔色が悪い。
 普段陽気なラムーナでさえ無口になり、その唇は冷えと疲労で少し紫がかっていた。
 頬を伝わって口に入った、砂塵交じりの水滴を忌々しそうに吐き捨て、レベッカは唇を噛み締めながら足を速めた。
 
(…せめて、一時でも雨宿りができれば持ち直せるんだが…)
 
 ぬかるんだ大地は、足を滑らせ掴もうとする。
 添え木をあてただけの義足同然の足で、それを仲間に気付かせず黙々と歩くシグルト。
 水が浸み込んだ添え木と、それを固定する布が膨張して足を締め付ける。
 足首が軋んで放つ熱を、生温く湿った水分が奪っていく。
 
 とりわけ冷えは、今のシグルトにとって相性が悪い。
 身体のいたる所にある古傷が一斉に悲鳴を上げ、痺れと熱が毒気のように侵食してくる。
 
 おそらく、常人であれば気が狂うほどの苦痛と不快感を、顔をしかめる程度で耐えながら、シグルトは黙々と足を進めた。
 
「…あれ?」
 
 不意にラムーナが立ち止まった。
 
「…どうした?」
 
 怪訝な顔をしてシグルトも足を止めた。
 
 ラムーナは、雨雲で薄暗くなった先を見つめ、一つ頷いて指差した。
 
「…あっち。
 
 何かあるみたい」
 
 ラムーナが示した方角を、皆注視する。
 調査においてのプロフェッショナル、レベッカがいるせいでなりを潜めているが、ラムーナの観察能力はなかなか優秀だ。
 見張りをしても、視力の良さと勘の鋭さで仲間に貢献している。

 雨によって立ち上った靄(もや)からうっすらと浮かんな影は、旧い建築物であった。
 少し近づいて確認してみれば、苔生していて景色と闇にひっそりと溶け込んでいたが、大きな建物のようだった。
 
「でかいわね…
 
 城か砦みたいだけど、この辺りには轍も蹄鉄の跡も見当たらないから、人がたくさん住む場所なんて無いはずよ。
 
 最近の田舎領主を含めた諸侯、隠居した貴族や豪商にも、こんな場所に城を持ってる奴がいるなんて聞いた事がないわ。
 交易路からはかなり外れているし、人がいるかは疑問ね」
 
 普段のちゃらんぽらんで怠惰な彼女の素行からは想像もつかないが、レベッカの情報の正確さと豊富な雑学は、パーティを結成してそれほど経っていない一行を何度も救ってきた。
 彼女に言わせると、情報と雑学は冒険者の飯の種、だという。
 
 行ってみる?と聞いたレベッカに頷き、シグルトたちは建物へと歩みはじめた。
 
 …それは古城であった。
 
 朽ちかけたその城は、あちこちを投石器や破城鎚で壊され、崩れかけた積み木のように物悲しく雨に打たれていた。
 
「…どうやら罠の類はないみたいよ。
 
 まあ、こんな場所に潜んでる盗賊連中がいたら、何か気配があるものだし、ここって住むにはちょっと不便な場所よね」
 
 城の壁に素早く駆け登り、荒地の続く周囲を見下ろしながら、レベッカは無人だろう、と付け加えた。
 
「それなら、ここを借りるとしよう。
 
 屋根があるのは有難いし、濡れてない場所で寝られるなら充分な休憩になる」
 
 シグルトが決定すると、一行は皆ほっとしたような顔になった。
 
 隙間風はありそうだね、と言うロマンの濡れた頭を、レベッカが贅沢言わないの、と小突いた。
 
 枠から崩れ落ちた城門の跡を潜り、ぽっかりと空いた城への入り口から、苔の香りのする城の中へと入って行く。
 雨雲に覆われ、夕刻を過ぎて暗くなっていた空の下で、この朽ちかけた古城の中はまさに暗闇の世界であった。
 
 仲間が外套に染み込んだ雨をはたいて振り落とす中、シグルトは城の入り口近くに刺さっていた松明を外し、苦労して火を着けるとそれをかざして先を進んだ。
 
 雨の日は、湿気た空気までが意地悪である。
 もっと火着きの良い火口箱が必要だな、と呟くシグルトに、ラムーナが節約節約~と即座に言った。
 レベッカが複雑な顔をし、ロマンが忍び笑いをしている。
 さすがに聞き慣れたわい、とスピッキオが追い討ちをかけると、レベッカは「誰のせいよっ!」と目を三角にして城の床を蹴りつけた。
 
 松明の揺れる明かりは、白の石畳をぼんやりと照らしている。
 そしてすぐに、城の通路に転がったもっと白いそれらを浮かび上がらせた。
 
「…酷いな、これは」
 
 それはおびただしい数の人骨と、錆びた武器や甲冑だった。
 戦って死んでいったのだろう、頭頂の砕けたしゃれこうべや身に着けた甲冑ごと貫かれている骨が、物言わぬまま転がっていた。
 
「ふむ、どうやらこの城は戦いの後に放置されたものの様じゃ」
 
 スピッキオは死体を見つける度に、簡単に祈りの言葉を唱え、十字を切る。
 こういった遺骸は怨念によって動き回るアンデッドモンスターにもなりうるため、邪悪な気配が無いか確認する行程でもある。
 
 どの部屋も骨と瓦礫ばかりで、時折隙間から入り込む雨が、古城を陰気に湿らせているようだ。
 
 やがて一行は、死体の無い休めそうな一部屋を見つけて中に入った。
 
 安心したようにロマンが座り込む。
 レベッカが汗で額に張り付いた髪を払い、壁に寄りかかった。
 普段は元気なラムーナも、大きく息を吐いている。
 
「百足には気をつけろよ」
 
 シグルトはレベッカに目配せすると、部屋の壁に備え付けられた専用の金具に松明を掛けた。
 
 幸いこの部屋には暖炉がある。
 火が焚けるのならば、服を乾かし熱いスープを啜ることもできるだろう。
 
 一行はとりあえず荷物を置き、濡れて重くなった衣服を廊下で絞り、各々の場所を見つけて座り込んだ。

 “風を纏う者”が使う一部の装備や服は蝋や油を染み込ませてあり、防水性を上げてある。
 蝋塗り込めた上着は耐火性に関しては微妙だが、要部を蝋で固めると耐刃性も多少ましになりすぐに脱ぎ捨てられるため、合羽がわりとして重宝していた。
 油や蝋を染み込ませた衣服の切れ端は、上手く応用すれば火口を作るのにも使える。
 シグルトが『小さき希望亭』に伝えてすっかり定着していた。

 寒い地方の出身だったシグルトは、この知識を武術の師から学んで活用していた。

 シグルトは武芸・軍事知識から始まり、医療知識や流体力学、果ては各地の伝承や生存術に関するものまで勤勉に学んでいて、すでに雑学の領域を超えて博学である。
 彼自身は広く浅く齧った程度だと思っているが、この時代においては教養人であった。
 
 そんなシグルトが黙々と火にくべられそうな木片や廃材を集めて暖炉の近くに積み上げる。苔むして湿気た者は煙が酷いため、慎重かつ手早くより分けているあたり、野営も慣れた手際だ。
 
 レベッカはどこからか調達してきた古びた鍋を、溜まった雨水で漱ぎ襤褸布で拭う。
 それに少しの酒を入れ、水を水袋一つ分丸々注ぎ、石を組んでそれを固定し、暖炉に火をつけた。
 アレトゥーザで手に入れたマッケローニ、乾燥したハーブ、少量の干した果物を細かくちぎって側におき、火を入れて湯を沸かす。
 塩を入れ、手際よく用意した具を放り込んでいく。

 染み込んだ水分が火によって温められ、乾いて行く過程で何とも言えない生臭さがあるのだが、湿り気が無くなっていく方が心地よい。

 即席のスープが完成し、手持ちの形の揃わない食器で回し飲みをしている頃、大方服が渇いて雨がやんだ。
 
「あれだけの雨だったのに…天気は気まぐれよね」
 
 レベッカは、夜の闇に溶け込むように大きな月が浮かんでいる空を、恨めしそうに眺めた。
 
「まだ道はぬかるんでいるからな。
 
 今夜はここで休もう」
 
 ここでレベッカが素晴らしいタイミングで、先日の仕事の報酬としてもらった葡萄酒を取り出した。
 ロマンはお酒は頭を馬鹿にするといって、1人で湯に黒砂糖を溶いたものを啜っている。
 他の者たちは交代で器を回し、酒を飲んだ。
 
 最後に器を受け取って酒を飲もうとしたシグルトは、不意に険しい表情になってレベッカを見る。
 脇には片手で剣を引き寄せていた。
 
 レベッカは頷いて、持っていた器をそっと床に置いた。
 
「どうした?」
 
 スピッキオが聞くと、シグルトは床を剣の鞘の先で指した。
 
「…音がする。
 
 下の階からだと思うが、たぶん人間の靴音だ」
 
 そう言って、一番耳の良いレベッカを見る。
 レベッカは静かに首肯する。
 
 一行は油断無く、それぞれの得物を自身の側に置く。
 
 しばらくの間、緊張した時間が続く。
 ロマンが唾を飲み下し、ラムーナも不安げに暖炉の火が届かない闇を見ていた。
 
 やがて月明かりを背に、外套を纏いフードを目深に被った人物が現れた。
 
 白いものが多く混じった髭。
 老人のようだ。
 
「明かりが覗いている上に、音がするから何かと思えば…
 
 夜盗の類か?
 こんなオンボロな城に何かようかね?」
 
 かすれた音の混じった、独特の発音。
 
「俺の名はシグルト。
 この仲間たちと冒険者をやっている。
 
 旅の途中で雨に会い、雨宿りを兼ねてこの城に転がり込んだ。
 夜盗をするなら、もう少しむさ苦しい連中になるはずだがな」
 
 そう言って少し身体の位置をずらし、後ろにいる仲間たちを見せる。
 女2人に子供と老人という取り合わせに、男は「なるほどこんな野盗はまずいないな」と、と頷いた。
 
「ここはあんたの持ち物か?
 
 まさか人が住んでいるとは思わなかったんだが…」
 
 男はふむ、とまた頷いた。
 
「儂はこの城に住んでおる者じゃ。
 名はグロアという。
 
 シグルトといったか…
 最初に名乗るとは、なかなか礼儀をわきまえておるようじゃな。
 
 この城は今は亡き王の物。
 おぬしらが雨宿りをしようとも、野宿をしようとも、儂の委細はいらんよ」
 
 グロアという老人の言葉に、一同は安心したように緊張を解く。
 老人は何を思ったのか、シグルトの腕や下げた剣をしげしげと見つめていた。
 
「…シグルトとやら。
 
 お主は剣を扱うようじゃが、剣術に興味はあるか?」
 
 老人はしばらくシグルトを観察していたが、唐突ににそう尋ねた。
 
「ああ、無くはないな。
 
 そういえば爺さん、随分見事な得物を下げているが…」
 
 シグルトは、老人のローブから出ていた刀の柄を指差した。
 
「…昔少しな。
 
 もしお前が剣術に興味があるなら、後日改めて来るといい。
 古の剣術を教えてやろう。
 この得物に見合う程度には、技を知っておるつもりじゃ。
 
 …無論、ただではないが、な。
 
 ただし昼間はやることがあるので教えられん。
 伝授は夜に、だ。
 その時は、またここに泊まればいい」
 
 一方的に告げると、グロアという老人は部屋を出て行こうとした。
 
「待って。
 
 おじいさん、こんな古城で1人何をしているというの?」
 
 レベッカが聞いた。
 
 グロアは、またしげしげと一同を眺めた。
 そして呟くように、かすれた声で告げる。
 
「墓仕事だ。
 
 この城にある骸を全て埋葬するためのな…」
 
 レベッカは、嘘でしょう?と目を丸くした。
 
「骸って…
 
 この古城に転がってる骨全部?」
 
 朽ちた骸は古く、すでに城の一部のように景色に滲んでいる。
 
「そうじゃ。
 
 それが儂の仕事であり、責務でもある」
 
 そう言ったグロアの背には、途方も無い間重ねてきた、時間を感じさせた。
 
「見たところ、かなり古いもののようだけど。
 
 貴方がこの城の生き残りだとしたら、何年ぐらいその仕事を続けているの?」
 
 レベッカは、老人の持つ雰囲気に気圧されたのか、呻くように聞いた。
 
「…聖北の暦で、今は何年かな?」
 
 何かを思い出そうとしたグロアは、僧服を着たスピッキオに尋ねる。
 スピッキオは、正確な今日の日付を告げた。
 
「ふむ…
 ざっと40年ほどになるな。
 
 まあ、大体はそんなところだろう」
 
 今までの長い時を吐き出すように、グロアは重々しく答えた。
 
「40年?
 長いよね…
 
 でもそれだけの時間があれば、城の中の埋葬が終わっててもいいと思うんだけど」
 
 首をかしげたロマンが言う。
 
「確かに、この城の中だけならばな。
 
 だが、この国の民全てが根絶やしにされたのだ。
 城の骸で足りる数ではない」
 
 グロアの言うような虐殺があったとすれば、それはすごい数の死体である。

「この平原に死体はまんべんなく散っていた。
 
 ゆえに風化の早い場外の者から埋葬していった。
 …10日ほど前にそれらは終わったがな。
 
 だが、この老いぼれた身体。
 今では仕事の邪魔になるばかりよ。
 
 …全ての者を埋葬し終えるまでに、この身体がもてばいいがな」
 
 悲しみも苦しみも遠い過去においたまま、責務を果たすことのみに生きているグロアの、自嘲的なため息とともに漏れるしゃがれ声。
 
「…長話になってしまったな。
 
 すまんの。
 まともな人間と話すのは久方ぶりで、話し込んでしまったようだ」
 
 レベッカはそう言う老人に首を横に振って、教えてくれて有難うと言った。
 
 グロアは、ゆっくり休むとよい、とその厳つい髭面の口元に微笑を浮かべ、何処かへ去っていった。
 
 
「…別に要所って訳ではないけど、これだけの規模の城が誰の手もつけられないで、どうして残っているのかな?」
 
 ロマンは首をかしげていた。
 
「おそらく宗教戦争じゃ。
 
 交易路から外れ、海路への繋ぎにもならぬ。
 
 でこぼこの丘に、岩が露出した地面。
 周囲に森どころか木の一本も無い。
 
 このような土地を攻めるのならば、他宗教の抹殺に他あるまい。
 
 かつて聖北の徒は、教会という機関そのものが下らぬ権力者の戯言に踊らされ、教義を違えた愚か者が人を扇動し、他宗教を潰すことに狂っておった時もある。
 
 殺した後は異端異教の死の尊厳など考えもせず、適当に金目のものを奪い、死体も野ざらしよ。
 攻めて、殺して、取って…それで終わりじゃ。
 
 かつてわしと同じように聖職を与えてもらったものが、そのようなことを起こしたのであれば、情けない限りじゃ」
 
 スピッキオはこの国のように人知れず滅びた国が、かつてたくさんあったこと、そしてここにあったであろう古い古い異教の国の名を、厳かに口にした。
 
「…あのじいさんはその生き残り、か」
 
 シグルトに向かってロマンが首を振った。
 
「違うよ。
 
 普通あんな母音の発音でしゃべる人はこの地方にはいなかったはずだし。
 あれって、あちこちの言葉の発音が混じってなまってる。
 いろんな場所を転々としてきたんじゃないかな?」
 
 そして歴史を思い出し、おそらく傭兵か仕官を求めてきた旅の武芸者だろうと言った。
 
「滅びた国を流れ者1人で弔う、か。
 
 なんとも物悲しい話ね」
 
 レベッカのつぶやきに、ラムーナが、おじいさんかわいそう…と目を伏せた。
 
 一同はそれっきり黙りこみ、見張りを決めて残った飲食物を片つけると、順番に寝ることにしたのだった。



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2018年03月
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