『第一歩』 前編

2006.06.06(23:12)

「…ふっ!!!」
 
 鋭い呼気とともに真っ直ぐな突きを放つ。
 しかし、その攻撃はたやすく避けられて、シグルトの肩に鈍い痛みが走った。
 がくりと膝を地面につく。
 
「だから言ってるだろ!
 お前の攻撃は正直過ぎるんだよ」
 
 無精ひげの生えた粗野な口調の男は、馬鹿にするように剣に似せた剣術練習用の棒切れで、自分の肩をぽんぽんと叩いた。
 
「おいレストール。
 素人相手にやりすぎだぞ?」
 
 横で鎧姿の男が苦笑いして言った。
 
「そんなこと言って甘やかしてみろ…
 こんな若造、すぐに死んじまうぜ!
 
 いいかシグルト…冒険者って奴は甘えた野郎から死んでいくんだ。
 生き残りたかったら、こんなことでいつまでもへたってないで、とっとと攻撃して来い。
 どんな手を使ってもいいから、俺から一本とって見ろ!
 …そうしたら終わりにしてやる」
 
 レストールという粗野な男は、容赦なくシグルトの肩口を蹴り飛ばした。
 
 シグルトの眼に闘志が宿る。
 
「おっ?
 やる気が出たな…」
 
 横で見ていた鎧姿の男は、面白そうにシグルトを見ている。
 
 シグルトは棒を上段に両手で構える。
 
「生意気にも『鷹の構え』か?
 そんな大振り、俺に通じると思ってんのかぁ?
 さっきから言ってるだろ。
 お前の攻撃はなぁ…ぬぉっ?!」
 
 かまわずシグルトはぐっと踏み込むと、渾身の一撃をレストールの頭めがけて振り下ろす。
 レストールが攻撃を容易く受けるともう一度、同じように振り下ろす。
 
 ガッ!!!
 ガッ!
 ガッ!!
 
 凄まじい打ち込みだった。
 
「ふん!
 力は認めてやるが、そんな攻撃じゃ…」
 
 ベキィ!!
 
 次の一撃でレストールとシグルトの棒が同時にへし折れた。
 
「ぬぅあっ!!!」
 
 一瞬だがレストールに隙ができる。
 そこにシグルトはタックルして、自分の持っていた半分ばかりの棒切れをレストールの首に押し付ける。
 
 とった!
  
 そうシグルトが思った瞬間、レストールの拳がシグルトの頬に突き刺さった。
 したたかに地面に叩きつけられ、シグルトはそのまま失神した…
 
 
「で、どうだったんだ、シグルトの腕は?」
 
 親父がレストールと鎧の男、コッカルトの前にシチューの皿を置きながら尋ねる。
 
「へっ
 あんな若造、まだまだだぜ!」
 
 がつがつと先にシチューを食らっているレストール。
 
「…いや、正直末おそろしいな、アイツ。
 本当にこいつから一本取ったんだぜ」
 
 コッカルトはレストールの首筋にできた青アザをなぞる。
 
「っ!!
 気色わりいぃんだよ!
 変な触り方するんじゃねぇ!!」
 
 首のアザを押さえ、レストールは盛大に唾液混じりのシチューを飛ばした。
 
 顔をしかめてシチューをふき取りつつ、コッカルトはまた思い出したように話を続ける。
 
「…ほんとにすげえよアイツは。
 
 踏み込むときに全く躊躇してなかったし、得物がへし折れても最後まであきらめなかった。とんでもないクソ度胸だ。
 あれで、剣をまともに使い始めてまだ一月だっていうんだからな。
 
 技はド素人だが、基本をみっちり叩き込めば一年後には俺たちに並ぶか、越えてるかも知れない。
 
 ありゃ…化けるぞ」
 
  
 …それは、宿の熟練冒険者であるレストールとコッカルトの2人が、新米冒険者であるシグルトに剣の稽古をつけてやる、と言い出したことから始まった。
 
 シグルトたちがスキッピオを伴って宿に戻ってきた直後の話である。
 
 暗い顔をしてテーブルに座っていたレストールとコッカルトだったが、シグルトたち5人をみて興味をひかれたように話しかけてきた。
 なぜかシグルトの名前を聞いた瞬間、2人の眼が驚いたように見開かれ、その後2人はシグルトたちにおせっかいといっても過言ではないくらい、こと細かく世話をやいてくれた。
 
 2人の先輩冒険者は、シグルトたちに昔使っていた剣や鎧をくれて、冒険者の基礎となる野営のしかたや、心構え、護身術や駆引きにいたるまで、親身になって教えてくれた。
 
 今回のような強引な“教育”もあったが、2人の冒険者のおかげでシグルトたちは十分な予行と訓練をつむことができたのである。
 
 そしてシグルトたちは初の依頼を受けることになった…
 
 
「ふんふんふ~ん♪」
 
 鼻歌を歌いつつピョンピョン先を行くラムーナを、同行したトルーアという侍祭は、本当にこんな人たちで大丈夫なのか、という不安げな顔でとぼとぼと後をついて来た。
 
 仲間がそれぞれに移動する中、シグルトは旅立つ前にレストールが酔っ払って何度も「冒険者なんて辞めろ!」と言っていたことを思いだしていた。
 
(いまさら迷っても仕方ない。俺たちは歩き始めたんだ)
 
 レストールがくれた、古びているが磨いたばかりのやや重い両刃の剣。
 その柄頭を撫でながら、シグルトは自身にある迷いを一つ一つ心の中で断っていった。
 
 その日の夜。
 野営中に見張りの時間になり、焚き火の晩をしていたシグルトは、眠れないというトルーアに尋ねられた。
 
「あなたはどんな生まれなのですか?」
 
 突然の問いに戸惑いながらも、シグルトは焚き火の前で1人見張りをしていた退屈を紛らわすように話し始めた。
 
「…一応貴族になるのかな。
 父は小さな所領と男爵位を持つ騎士だった。
 
 でも、母は父の愛人だったから、息子として屋敷に迎えられる前は普通の子供だったと思う」
 
 シグルトは西方の少し北にある小さな国のる騎士の子供だった。
 最初は街のはずれにある石造りの家に母と妹と3人で暮らしていた。
 幼いながら、時折やってくる立派な身なりの男が自分の父親であることをなんとなく気付いていた。
 
 10歳になってシグルトはその男の正式な子供として、妹ともに認知されたが、所詮は小さな所領の騎士に過ぎなかった父親は、それ以上の事は何もしてくれなかった。
 
 あとで噂に聞いたことだが、シグルトの母は現国王の血筋にも関係する貴族の令嬢だったが、政争で敗退した母の父は妻とともに無理心中し、行くあてが無かった母はシグルトの父親に見初められ、囲われたらしい。
 
 父の屋敷には跡継ぎの異母兄がいたが、シグルトはその男が兄だと聞いて虫唾が走った。
 派手な服を着て高慢に振る舞い、シグルトを「売女の子供」と罵って、馬を打つ鞭で叩いて跪けと言ったその男を、父が止めに入る前に殴り倒していた。
 シグルトは異母兄に会った瞬間から嫌いになったが、母を侮辱した瞬間には敵だと認識していた。
 
 その後は随分その異母兄といがみあったものだが、冒険者となった今はただの過去になるのだろうと、なんとなく思っていた。 
 
「どうして冒険者になったのですか…
 所領は継げなくても、いくらか資産は継ぐことができたのでは?」
 
「あのクソ野郎と一緒ってものが少しでも少なくなってほしかったんだ。
 あとは単純な消去法だよ。
 いろいろできそうなことを考えて、最後に残ったのが冒険者だったんだ。
 それに…いや、あんたに今話すことじゃないな、あれは」
 
 焚き火に新しい薪をくべながら、どこか暗い光の瞳で、シグルドは弾ける火の粉を眺めていた。
 
 
 教会の門番をしていたシグルトたちは、森から飛び出し正面から突っ込んで奇襲するという手段で、ゴブリンとオークを倒した。
 
 皆がどうしようか迷ったとき、真っ直ぐ行けばいい…とシグルトはすんなり作戦を決めてしまった。
 
 シンプルねぇ、とレベッカがあきれたが、見張りが2人ならおびき出す手段も失敗するだろうと、結局一番単純な作戦になった。
 
 真っ先に接敵したラムーナは、手に入れたばかりの小剣で払うと見せかけてしなる蹴りでゴブリンの顎を打ち砕いた。
 彼女の柔軟な身体と敏捷性を生かして勝つ方法として、コッカルトが教えてくれた奇襲の技だ。
 温厚なラムーナが随分とえげつない闘い方をすると、後にスピッキオは嘆いたが、
 
「う~ん、でも殺さないと負けちゃうんでしょ?
 それに、鶏さんをさばくより傷つけてないよ?」
 
 といった言葉に絶句して、これが貧困の弊害か、などとぶつぶつ呟いていた。
 レベッカがオークの喉にナイフを突き立て、その横からスピッキオが杖でオークの頭蓋を粉砕する。
 この元修道士もそれなりにえげつない。
 
 仲間の連携の横で、もう一匹いたゴブリンの肩口にシグルトの剣がめり込む。
 よろめくゴブリンにシグルトは止めを刺した。
 
 緊張を解かず閉められた扉を蹴り開ける。
 中には3匹の妖魔がいた。
 オークが一匹、ゴブリンが一匹、そして一際体格の大きいホブゴブリンだ。
 
 レベッカがゴブリンを牽制している間に、スピッキオとラムーナがオークと対峙し、シグルトがホブゴブリンと一騎討ちになった。
 ラムーナの膝蹴りがオークの腕を払い、スピッキオの杖が顔面を打ち据える。
 
 うなるようなホブゴブリンの一撃をかわし、シグルトは剣で革鎧の上から叩き込むように斬り付けた。浅く裂けた鎧から、妖魔の血がどろりとあふれる。
 ラムーナがその横でオークに止めを刺した。
 
「《眠りをもたらす白雲よ、抱いて沈めまどろみの底に…》
 
 離れて!!!」
 
 ロマンが呪文を完成させ、警告する。
 あわてて他のメンバーは敵から離れた。
 敵を中心にうっすらともやのように煙がかかる。
 
「《眠れ!》」
 
 ロマンのするどい一声で煙が拡散する。
 ゴブリンとホブゴブリンは相次いで倒れ伏した。
 魔術師が好んで使う初歩的な魔法、【眠りの雲】である。
 
 しっかりと狙いを定め、首の裏から正確に急所を刺し貫いてレベッカがゴブリンを屠る。
 
 シグルトの剣がホブゴブリンの肺を貫いた。
 激痛から腕を振り回して跳ね起きるホブゴブリン。
 
 血が気管に逆流して濁った咳をしつつ、ホブゴブリンはシグルトに憎悪の視線を向けて剣を杖にして立とうとした。
 
 一瞬皆その気迫に動きが鈍る。
 わずかに逡巡する。
 頭を振って無理やり闘志を起こし、シグルトは次の剣で確実に心臓を刺し貫いた…
 
「…っはぁあ」
 
 ゆっくりと息を吐き出すと、シグルトは眼を見開いたまま絶命しているホブゴブリンから剣を抜いた。
 
 圧倒である。
 仲間は傷一つ負っていなかった。
 
 そして一同に、敵を殺したという現実が突きつけられた。
 返り血の錆びた匂いと、切り裂かれた妖魔が垂れ流した汚物の悪臭。
 ロマンが顔を青くして吐き、ラムーナはぺたんと座り込む。
 レベッカとスピッキオは動揺はしていないが、嫌そうに顔をしかめている。
 だが、シグルトには何の感慨もわかなかった。
 
(剣は…血と脂でギトギトだな。ぬぐっておかないと、次が斬れない)
 
 シグルトは落ちていた布キレで剣をぬぐうと、汚れていない部分で壮絶な死に顔をしているホブゴブリンの面を覆った。
 
 隠れていたトルーアは出てきた後、凄惨な状況に顔をしかめ、目を背けた。
 
 
 依頼主との契約どおり、教会の中を探索しはじめる。
 シグルトは祭壇の奥に、仲間も見つけていない扉を見つける。
 仲間を呼ぼうとするが、あちこちに散ってしまって姿が見えない。
 
(一応、先に調べておくか。
 さすがにこんな教会の締め切った部屋に、罠などないはずだ)
 
 扉の奥にある階段をくだり、小部屋に出る。
 薄暗い部屋を見回して明かりになりそうなものを探す。
 
「ん?」
 
 部屋の隅で一瞬光るもの。
 次の瞬間、シグルトのわき腹に激痛が走った。
 血にぬれて短剣の切先が刺さっていた。
 シグルトの強靭な腹筋でなければ刺し貫かれていただろう。
 剣が抜かれ、服に血がにじむ。
 
「貴様のせいで!」
 
 黒い外套に身を包んだ痩身の男だった。
 憎しみにぎらついた眼でシグルトを睨むと、剣を突きつけて脅してきた。
 
「動くなよ、若造。
 仲間を呼んだら殺す!」
 
 思ったより出血が多い。
 
「…ここに来た目的はなんだ?」 
 
「そ、それは…」
 
 すうっ、と大きく息を吸い込む。
 
 尋ねる男に答えるふりをして、シグルトはがなるような大声で仲間に危険を知らせた。
 
「皆、気をつけろ!!!
 ここにまだ敵がいるぞ!!!!!」
 
 あまりに大声を出したので思わずむせる。
 
 真っ赤になって怒った男が奇声を上げて斬りかかってきた。
 シグルトはここまで降りてきた距離を思い出し、助けは間に合わないと考えた。
 そうなれば一人で勝たなくてはいけない。
 
 生きて帰ると親父と先輩冒険者たちに約束していた。 
 
「…お前は敵だ」
 
 突然シグルトが言った言葉に男が困惑した瞬間、シグルトは自分のわき腹を押さえていた手を男の顔めがけて振りかざした。
 手のひらにねっとりと絡まっていたシグルトの血が男の両目を直撃する。
 悲鳴を上げる男に、霞む眼を見開いて突っ込み、剣で斬りかかった。
 男と揉み合ううちに、シグルトの意識はぼやけていった…
 

 
 というわけで、圭さんの『第一歩』を最初の御題にさせていただきました。
 長めなので、2~3回に分けて書きます。
 
 このシナリオは圭さんらしいシナリオですね。
 この方、好い部分も曲も含めてすごく押しの強いシナリオを書く方だと思います。
 ある意味ではPCの性格やセリフ、行動が限られてしまうので、Y2つ妄想バージョンにセリフや微妙な結果をチェンジしてます。
 実際にはシグルト、情けないセリフばっかりでしたが、こいつのセリフなら絶対こう…という感じで書いてみました。
 
 『第一歩』はなりたての冒険者が初の依頼に挑むという事から始まるのですが、殺人や冒険者の危険な現状を濃厚に表現しているので、プレイしてて、最初の殺人や味わった恐怖を、こんな風に克服していくんだな…と考えさせられました。
 
 まあ、シグルトの出した答えはおいおい次回以降で。
 
 戦闘の表現に関してはできるだけ結果を忠実に文章にしています。
 真っ先に突っ込んだラムーナが体力を削り、その横でシグルトも敵の体力を削り、スピッキオの攻撃でまず一体めが撃沈。
 次ではシグルトが止め…
 こういう単純な結果をそれっぽく文章にしています。
 
 最初の戦闘は見事に完封勝利でした。
 
 実際戦闘はコンピューターゲームのように倒してお金に換わるんじゃなくて、ざっくりと血なまぐさいんだろうなぁ、と思います。
 表現がグロくて不快に思った方、ごめんなさい。
 
 まあ、第壱話前編はこのあたりにしておきますね。
 
 次回をお楽しみに!(…待っててくれるといいなぁ…)
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