『白い殲滅者』

2006.12.15(20:45)

 そこは醜悪な場所だった。
 
 血肉を貪る怪物たち。
 かつては同じ村人だった者たちが、死んだ後に喰らう側と喰らわれる側に回った壮絶な地獄絵図。
 
 もはや、この村には生きる人間はいない。
 
 血の饗宴を眺めながら、杯に注いだ生き血をすすり、かしずく女の頭を撫でる男。
 
 女はかつて、村一番の美女だったものだ。
 血の気の無い青白い顔は、先ほどまで恐怖に歪んでいた。
 今ではただ奴隷のように男に従っている。
 
 この女は、明日は他の男と結婚する予定だったという。
 一目見て気に入った男は、村に女を要求した。
 
 男は奪うことが好きだった。
 気に入ったものは、何が何でも手に入れて来た。
 
 女も村人も、男を拒絶した。
 だから、村を滅ぼして女を奪った。
 
 女の婚約者だった男は、グールたちに貪り食われ、引き裂かれた。
 それを見て失禁して震える女を男は犯し、血を全て啜って夜の眷属に迎え入れたのだ。
 
 男は満足気に笑う。
 
 男には絶大な力があった。
 力を得る前は、ただの強欲な人間だったが、今の男は欲望のままに振舞える。
 その力の前に、この小さな村は一瞬で滅んだ。
 
 男は己の強さに酔って楽しげに笑い、女の冷たい肌を撫でた。
 
「…聖者は云った。
 
 死者は死すべきであると」
 
 唐突に闇から澄んだ声が聞こえてくる。
 
「死者には墓標と花束を。
 
 生者には恩寵と安寧を」
 
 夜の闇から現れたのは、白い外套を纏った者。
 声は女のものだった。
 
「…亡者には引導と鉄鎚を。
 
 見つけたわ、《塵》の亡者」
 
 外套の女は手前で十字を切った。
 
「…ディーン ベラル。
 
 貴方を、異端と認定し、御身を討滅する」
 
 武骨な籠手をぬっと突き出し、それに刻まれた十字の聖印にそっと口付けすると、女は闇に映える赤い眼光で男を射抜いた。
 
「…ふん、聖北の犬か。
 
 面白い。
 貴様も尻を振る奴隷、私の椅子にでもしてやろう」
 
 男はニタリと笑う。
 
 同時にグールたちが、外套の女に襲い掛かる。
 
 ヒュッ…
 
 風を切る音がした。
 そして、一体のグールが動きを止め、灰になった。
 
「…灰は灰に」
 
 女は白刃を躍らせた。
 グールが首を断たれ、見る間に崩れ去る。
 
「…塵は塵に」
 
 女の手に握られた鉄塊がグールの頭を半ば粉砕しつつ、かち割った。
 
「…土は土に」
 
 近寄るグールを、武骨な籠手で殴り飛ばし、即座に切り捨てる。
 
 外套の女が聖句を唱えると、残った亡者たちは蒼い炎に包まれて見る間に燃え尽きた。
 
「なんとっ!」
 
 男は目を見張った。
 
 外套の女は、金色の美しい柄の剣と、鉄の武骨な長剣を構えていた。
 その双剣を十字にクロスさせる。
 
「我は狩人、聖なる殲滅者。
 朽ちよ邪悪、滅びよ忌まわしき者。
 主よ、誇らしく称えん。
 
 主は偉大なり。
 
 我は主の御名において主の怨敵を滅し去る者。
 
 …聖なる鉄鎚なり」
 
 初めて男は恐怖を覚える。
 
 男はかしずいていた女の後ろに立った。
 
「行けっ!
 
 アイツを…」
 
 女がゆっくりと立ち上がり、牙をむいて外套の女に襲い掛かった。
 だが、その牙と爪が届く前に、外套の女は金色の柄の剣で、哀れな女の心臓を貫いていた。
 
 見る間に灰になって崩れていく女。
 女が掴みかけた外套からわずかに覗く、赤い瞳。
 
「…そうか、貴様、同族殺しかっ!」
 
 男は後ずさる。
 
「…主よ、許したまえ。
 
 この身の不浄を。
 煉獄の扉を開く、罪深きこの腕を…」
 
 祈るように双剣を打ち鳴らす。
 そして、一瞬で間合いをつめた。
 驚愕に歪んだ男の首を、双剣で挟むように跳ねる。
 
「煉獄にある者よ。
 地獄に堕ちる者よ。
 
 汝らにも主の恩恵があらんことを。
 願わくば主の慈悲があらんことを。
 
 主よ、罪深きこの身とともに救いたまえ。
  
 …主よ、哀れみたまえ」
 
 男が見る間に灰になっていく。
 
 ただ朗々と、外套の女の葬送の祈りが、夜の闇に融けていった。
 
 
 炎に包まれる村を後に、外套の女は振り返らず歩いていく。
 
 やがて、大きな広場に出ると、そこには数人の僧服の男たちが待っていた。
 
「…どうやら、無事任務を終えられたようですね」
 
 僧服の一人が、引きつった顔で言う。
 
「…あれを無事、というなら、貴方は聖職者を辞めたほうがいいわ」
 
 赤々と夜の闇に火の粉を吹く、吸血鬼に滅ぼされた村。
 
「口が過ぎますぞ、フェリス様。
 
 犠牲者を哀れむ気持ちは、皆同じはずですからな」
 
 でっぷりと太った男が、どこか蔑みを含んだ目で、外套の女を睨む。
 
「そう思うなら、吸血鬼が出たという話をなぜすぐに伝えなかったの?
 
 伝令が一日はやければ、犠牲者はほとんど出なかったでしょう。
 私が聞いたところでは…
 
 デップ司祭、貴方が独断で確認をさせたそうね?」
 
 外套の女はにらみ返すように、太った男を見る。
 男は慌てて目をそらした。
 
「…それは、ちゃんとした…」
 
 視線を泳がせる太った男に、外套の女はつかつかと歩み寄り、唐突に殴り飛ばした。
 
「…あぎゃぁっ!」
 
 まさに吹っ飛ぶ勢いで、太った男は無様に地面に叩きつけられる。
 歯が数本折れ、顔が歪んでいた。
 
「…貴方が法王庁のお偉い方に、私のことをあること無いこと吹き込むのは構わないわ。
 
 でも、貴方の身勝手な行動で、村が一つ滅んだ。
 
 吸血鬼のことは、我々“神の鉄鎚”に一任されているわ。
 この地区の指令をしているのは私よ。
 
 そして、私の指令着任の際も言ったはず。
 どんなガセでも、吸血鬼の出現は必ず報告し、速やかに行動するようにと。
 
 吸血鬼を敵にするときは、迅速さを最も尊ぶ。
 だからこそ、厳命しておいたはずなのに。
 
 異端討滅組織“神の鉄鎚”とは、異端審問で破門にする程度では危険な存在を、力で粉砕する破邪の鎚。
 柄の腐った鎚など、何の役にも立たないわ。
 
 命令を遅らせて、村が滅んだ責任問題で私の失脚を狙ったようだけど、残念ね。
 貴方は今回のことで、宗教裁判を受け、確実に破門になるでしょう。
 
 証拠の書類も、私の部下が押収しているわ。
 
 …くだらない貴方の権威欲で、一つの村が滅んだのだから。
 その身が極刑に処されない幸運をあたえたもう、主に感謝しなさい」
 
 あまり迫力に、周囲の僧服たちは皆腰を抜かしていた。
 
「貴方たちも、デップ司祭に加担した罪の責任はとってもらうわ。
 
 今後、こんな腐ったことをしたなら…
 私自ら鉄鎚をその頭に振り下ろすつもりだから、肝に銘じなさい」
 
 がくがくと頷く僧服たち。
 
 外套の女は、素早く踵を返すと、いらいらした足取りで去って行った。
 
「がぁ…
 
 くぅ、おのれ、おのれっ、あの“灰もどき”めがぁ!!!」
 
 殴られた顔を押さえ、太った男は怨嗟の叫びを上げた。
 
 
 聖北教会には非公式の組織がある。
 
 異端討滅組織、“神の鉄鎚”もそのひとつだ。
 
 異端討滅組織とは、異端審問では処理できない特別な宗教的敵を、文字通り討伐し滅する組織である。
 聖北の教えが表の上では平和的布教である以上、教会組織の異端審問など、できることはたかが知れている。
 
 せいぜい聖北の社会から破門する程度。
 
 処刑や拷問を行うイメージに取られがちな異端審問の組織は、実のところ一部の暴走した狂信者でもない限り、宗教上の問題を解決するために組織されたものでしかなく、破壊的な力はあまりないのだ。
 その組織が特別な権力や軍隊と結びついた場合は別なのだが。
 
 かつて行われた魔女狩りと称されるいわれのない異端狩りのせいで、教会は歴史上大きな汚名を背負うことになった。
 教会組織はイメージ改善のために慎重になり、異端審問を行う者にも同様の義務が課せられた。
 
 しかし、世の中には宗教的な過激犯や、邪悪で破門などまるで恐れない闇の住人たちがいるのも確かだった。
 そういった危険すぎる異端的存在は、放っておけば聖北の社会そのものを害することになる。
 
 そして、教会はそういった危険な存在を叩き潰す力を必要とし、公ではない形で力を持った組織を作り出した。
 
 迅速かつ徹底的に邪悪を叩き潰す、破壊の鎚。
 教会の闇を司る、いわゆる《潰し屋》である。
 
 “神の鉄鎚”が生まれたばかりの頃、教会は公ではないこの組織を体のよい暗殺組織のように利用した。
 組織には荒くれものばかりが集まり、神の名において恐ろしい破壊活動を命じられるままに行う。
 問題が起きた時、非公開のその組織の事はただ知らん振りをすればよい。
 教会にとって、実に都合の良い力であった。
 
 彼らはただ命じられるままに破壊し、蹂躙した。
 
 だが、この力に驕った時代は長く続かなかった。
 間もなく本物の邪悪…邪教や吸血鬼といった歴史の闇に蠢く恐ろしい存在とぶつかり合うことになったのである。
 
 本当に力在る一部の者以外、真の邪悪に対して“神の鉄鎚”は全く役に立たなかった。
 あせった教会は、失態を埋め合わせるために《毒》に手を出した。
 
 敵とする邪悪と同じ異形や異能の力を求めたのである。
 聖北教圏のあらゆる場所から、邪悪から厚生させることを名目に様々な子供たちが集められた。
 
 曰く、悪魔憑きの子供。
 曰く、淫魔の子供。
 曰く、呪われた子供。
 
 そういった子供たちは、所属する社会によってほとんどは抹殺されてしまうのだが、わずかに生き残ったものたちが集結させられた。
 
 神の教えと、成すべき義務を叩き込まれた子供たちは、真の邪悪への強大な反撃の牙となった。
 戦うべき力は、元々持っていたものをさらに磨かれて、戦地に送り込まれる。
 まるで、呪われた存在を生み出したものに復讐するように、新しい“神の鉄鎚”は異端を粉砕した。
 
 <毒を持って毒を征す>
 
 呪われた生まれの者たちが、神の名と正義のために善行を行える。
 その大義名分は、荒んだ心を持った子供たちを狂信という枷で縛り、ためらいのない戦いをさせた。
 殉教者となれる恍惚に、異能の聖戦士は死地でも恐れなかった。
 
 半世紀で、“神の鉄鎚”は教会の恐るべき力になった。
 
 
「…指令、お帰りなさい!」
 
 金髪の愛らしい顔立ち少年が、笑顔で外套の女を出迎えた。
 
「ありがとう、ロト。
 
 アレクたちは?」
 
 少年の髪をなで、周囲を見回す外套の女。
 
「ゲブル教の追いたてをやってるよ。
 
 僕も行きたかったんだけど、留守番しろだってさ。
 馬鹿にしてるよね。
 僕だって強いのに…」
 
 不満そうな少年に、外套の女はため息をついた。
 
「討滅は遊びではないのよ。
 
 気を抜けば殺されてしまうの。
 貴方はまだ子供だわ。
 特に心の部分が、ね。
 
 それに、戦いを求めるのは聖職者のすることではないわ。
 私たちの出番は、少ないに越したことはないの。
 
 加えて、貴方は次代を担う大切な戦力よ。
 奥の手なんだから、出番が来るまでは待たなきゃね」
 
 そう言うと、少年は不満そうな顔で頷いた。
 
 周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、女は外套のフードを脱いだ。
 月の光に照らされて、真っ白な髪が露になる。
 その瞳は血のように赤い。
 白兎を連想させる容貌…アルビノである。
 
 メラニンなどの色素がなく、白髪赤目に生まれつく、白子と呼ばれる色素欠乏症のことだ。
 紫外線に弱く肌が火ぶくれをおこすため、強い光は天敵となる。
 いつもこうやってフードを目深に被ることで、光から身を守る。
 しかし、外套には容姿を隠すためにも使われていた。
 
 赤い目は血を連想させ、同時に知識の無い輩が呪いのように忌み嫌う。
 事実、赤い目を持つ子供には攻撃的な異能を持つ者も多い。
 
 外套という被いは、偏見という刃から身を守る鎧でもあった。
 
 “神の鉄鎚”には現在7人の指令職がある。
 その一つ、異彩異能の輩を束ねる女傑。
 名はフェリス ラザハッドという。
 聖北にあって、殉教した聖女と同じ名を冠する聖戦士であった。
 
 外見は20歳ほど。
 
 アルビノになるものは、基本的に美しい容貌のものが多いが、彼女は抜きん出ていた。
 若々しいその姿を見たものは、白い魔女と評するか、あるいは雪の妖精のようだと言う。
 
 アラバスターのように白い肌。
 端整で、穏やかな美貌。
 柔らかな長い白髪が、流れるように夜風になびいていた。
 
 ほっそりとした体格である。
 たった一人で不死者たちを瞬殺したと言っても、彼女を知らない者は信じないだろう。
 
 少年にフェリスが微笑むと、その犬歯の部分に銀色の光が現れる。
 純銀の差し歯であった。
 
 よく見れば、聖印が刻まれていることに気づくだろう。
 
 それは彼女の背負った、呪われた十字架そのものであった。

 
 
 本編のヒロイン、尼さん戦士フェリスの登場です。
 性格はだんだん明らかになりますが、説教臭い性格をしています。
 
 Djinnさんの小説を読んでいる方は彼女がどんな種族か、もう分かったと思いますが、純粋な人間ではありません。
 
 アルビノで双剣使いなんて、こてこてですが、彼女の原形が生まれたのはなんとまだ世紀が変わる前だったり。
 私がカードワースを知った頃、雑誌付属のエディタで作ったNPCでした。
 その時には伊達眼鏡をかけていて、戦闘時には眼鏡を取ってスイッチが入り、薀蓄モードで眼鏡を直すインテリモードがありました。
 
 まだ出ていませんが、強力な決めスキルを所持しています。
 
 オールマイティで、秘蹟と剣術を両方使いこなします。
 彼女のセリフは、ほとんどが適当なんですが。
 
 私、仏教徒なので、聖書はあんまり読みません。←ある意味不心得者
 格好良いセリフ、募集中です。
 
 彼女の能力値は…
 
◇フェリス ラザハッド◇
 
・年代:若者(32歳)
・性別:♀
・勇将型(能力的には英雄型相当) 
・レベル7 
 
 器用度:5 敏捷度:6 知力:9 筋力:9 生命力:6 精神力:10
 平和性+1 勇猛性+3 慎重性+2 正直性+2

秀麗     高貴の出   厚き信仰
誠実     冷静沈着   無欲
献身的    秩序派    神経質
穏健     勤勉     謙虚
武骨     硬派     お人好し
 
 
 老化がゆっくりなので、身体能力は若者のままです。
 ばればれですが、彼女が何でこんなに優秀なのかはまた説明しますね。
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