『黒い稲妻』

2006.12.21(13:26)

 ラングは適当な酒場を探して、交易都市を歩いていた。
 
 真昼からやっている酒場は意外と少なく、ましてゆっくり飲めそうな穴場はなかなか無い。
 たいてい酒場というものは、前日の酔っ払いの酸っぱい残り香を消すために、昼間は準備中である。
 
 冒険者のように自由な時間を持つ職業は、意外に少ないものだ。
 交易都市の多くの職人や商人たちは定期的な労働の後、夕方以降に酒を飲むのだから。
 このせいか、冒険者にはだらけた職業だ、という印象を抱く者も少なくない。
 

 貸切で高い酒を飲む手もあるが、しない。
 それを可能にするぐらいの金はあったが、そこまでして飲みたいわけでもなかった。
 
 飲酒は13歳で、女は14歳で。
 博打は幼少の頃に幼馴染と菓子を賭けた遊戯を除外するなら、15歳の時に初体験を済ましている。
 
 どれも、心を揺さぶるほどの快楽は得られなかった。
 飲酒だけは、酒精のもたらす高揚と熱さが、ラングの心の寂寥を埋めてくれる。
 でも、酔いから醒めた後は決まって虚しい。
 
 酒に溺れるほど、ラングは弱いくない。
 加えて知り合いの中では一級の酒豪と言われている。
 
 だが、ラングが他に酔えるものはない。
 生来の鈍感さと無頓着な気質が、快楽や好奇心を止めてしまうのだ。
 
 …無性に虚しかった。
 仕事である冒険でも、生甲斐を感じてはいなかった。
 
 食べるために冒険者となった。
 ラングは天涯孤独の身であり、子供の頃から一人で生きてきた。
 
 初めての冒険で壮絶な命のやり取りをして、小便を漏らした経験もある。
 背筋の凍るような思いをして、盗賊団を一人で叩き潰したこともある。
 
 しかし、戦いの奮えも死への恐れも、10代のうちに磨り減ってしまった。
 
 子供の死体に取り付いた亡霊を、死体ごと叩き斬ったこともある。
 巻き込まれた戦場で、妻子の名を唱えながら襲い掛かってくる新兵の頭蓋を砕いたこともある。
 
 命を重んじる聖北の僧侶たちがラングの過去を知れば、懺悔もしないこの男は地獄に落ちると言うだろう。
 
 冒険者になって、10数年。
 子供の頃に焦がれた、心許せる仲間と血湧き肉踊る冒険など、今の彼の現実にはまるで無かった。
 まして、正義の味方などにはなれないと思っていた。
 さらに加えるなら、ラングは《正義》という言葉はこそばゆくて嫌いだった。
  
 今では熟練の冒険者として、生き甲斐もないまま、呼吸するように仕事を淡々とこなしている。
 殺人の罪悪感で泣いた夜が懐かしいとさえ感じていた。
 
 …とどのつまり、ラング グリードという冒険者。
 現在は磨り減った心と、老い始める大きな体躯を引きずっているだけのような冒険者だった。
  
 空虚な日々にうんざりとなって増えた彼の眉間の皺は、ラングを余計に強面にしていた。
 
 
 ぼんやりと酒場を探してうろついていたラング。
 
 数人の男たちが並んで歩いてくるのが見えた。
 …肩を切って歩いている、そんな感じの連中だった。
 
 男の一人が、派手な女の腕をつかみ、周囲の人間を睨むようにしている。
 腰の下げた剣や服装から見て戦士風…傭兵か冒険者の集団だろう。
 
 派手な女は、そっぽを向いて俯いている。
 かなりの美人で、服装は良い物だ。
 化粧の仕方から、昼間の職業ではない。
 娼婦の類だろう。
 彼女をひっぱている男たちが買えるほど、安い女には見えなかった。
 
 女の右頬が腫れている。
 この男たちに殴られた、と男たちの女の扱いから予測する。
 
 昼間から酒場を探すような男でも、ラングは冷徹な意志を常に心のどこかに置いている。
 即座に分析をして、状況を把握する。
 
 女の身体を撫で回し、あるいは頬を緩めて下卑な表情を浮かべている男たちの様子は、何かの依頼で女を拘束しているという雰囲気ではない。
 
 ラングが最初に考えた仮説は、「初めてこの交易都市にやってきた傭兵崩れの荒くれが、気に入った美人の娼婦を昼間からひっかけようとして見事に振られ、頭にきて拉致した」といったところだ。
 
(もし、そうだとしたらよほど阿呆な連中か世間知らずだな…)
 
 このまま行けば巻き込まれるかもしれない。
 厄介ごとに首を突っ込むのは、賢明な冒険者のすることではないのだ。
 
 しかしラングにはこのとき、密かな期待があった。
 たまには喧嘩も悪くない、と。
 
 この手の連中は気に入らなければ因縁を吹っかけてくる。
 そのついでにぶちのめせば、ついでに女は逃げられるだろう。
 鬱屈した虚しさを、少しは解消できるかもしれない。
 
 …加えて女はラングの知り合いだった。
 
 ラングは娼婦を買ったことが数回ある。
 ずっと昔、好色な冒険者の先輩に勧められてのことだが。
 
 女はその時に知り合った古いなじみだ。
 ラングが買った娼婦の、友人だった人物である。
 
 磨り減った心の中にも、ラングはお人好しと呼ばれる気質は残している。
 知り合いが苦難にあれば、その味方をすべきだと当然思う。
 
 周囲の者たちが目を合わせないようにして、顔を背けて道を空ける中、ラングは真っ直ぐに歩いていった。
 
 
 距離にして十歩。
 戦士風の男たちは、立ち止まってラングを注視した。
 
 ラングは軽く片手を挙げて女にだけ声をかけた。
 
「よう、フランチェスカ。
 
 今日は随分と不機嫌な顔じゃねぇか。
 客は選んだほうがいいぞ」
 
 完全に男たちを無視して、陽気な声で、だ。
 
 女の顔がぱっと希望に明るくなる。
 
「ラングの旦那っ!
 
 助けておくれよ。
 絡まれてこまってるんだ」
 
 女を掴んでいた男が、激怒した様子で女の腕を引き殴ろうとする。
 ラングはすっと近付いて、その男の足を蹴り払う。
 男がこける前に、女を掴んでいた腕も払いのける。
 
 何か行動しようとしている時に、軸足を不意討ちで思いっきり払われると実に見事にすっころぶ。
 顔面から受身も取れずに転倒した男は、ぐぇ、と無様な声を上げた。
 
 よろけた女は上手く抱きとめて、すぐ背後に庇う。
 
「…てめぇ、何のつもりだ?!」
 
 いきなりのラングの行動に、戦士風の男たちは激昂して歯をむいた。
 
 一方、ラングはため息を吐きながら、起きようと呻いていた男の頭を地面に押し付けるように踏みつけた。
 再び頭を大地に叩き付けられた男は、失神して動かなくなる。
 
「…知り合いが困ってたから助けただけだ。
 
 大方、この都市の流儀をしらねぇおのぼりの傭兵あたりだろうが、あんまりオイタはいけねぇな。
 お前等が、勝ち戦でやり放題出来る場所とは違うんだぜ?
 
 女を買うときは、売ってくれた時だけ買う権利がある。
 力で手に入れようなんて、餓鬼のすることだぜ?
 
 “鼠”に齧られねぇうちに、とっとと消えろ。
 この女は、穴倉の大鼠と同じ釜の飯食ってんだ」
 
 ラングは最後の部分で隠語で使う。
 助けたフランチェスカという娼婦は、今では盗賊ギルドの幹部の女である。
 そこいらの雑魚が抱ける女ではない。
 
 “鼠”というのは盗賊のことである。
 盗賊ギルドは、こういった都市の暗黒面を、裏で司る犯罪組織のようなものだ。
 やくざやマフィアに近いが、もう少し複雑で偏って秩序的な組織である。
 
 ラングの言葉の意味が分からない奴は、ただの世間知らずだ。
 
「何、言ってるかわからねぇぞ、黒んぼ。
 
 あぁん、殺すぞ!」
 
 男たちの莫迦な反応に、ラングは確認を終える。
 どうやら本物のおのぼりらしい。
 
 後ろに嫌な組織は無いだろうと予測する。
 この都市の冒険者であれば、こんな無茶をするのは鼻つまみ者ぐらいだし、兵隊なら派手なことは出来ないはずだ。
 面倒な組織関係が無い連中なら、復讐があったとしてもたいしたことはない。
 
「なぁ、フランチェスカ。
 
 後でギックの野郎に口ぞえ頼むわ」
 
 この娼婦はラングのこの一言で何のことか理解し、大きく頷いた。
 
 万一、問題が起きたときの大義名分を作っておく。
 ギックというのはこの女の男で、盗賊ギルドの幹部である。 
   
「…てめぇ、無視すんじゃねえっ!」
 
 のらりくらりとして見えるラングの行動に、男たちの一人が痺れを切らして殴りかかってきた。
 実に単純な拳打である。
 
 ラングがさっと避ける。
 つんのめり、体勢が低くなった男。
 すれ違い様に鎖骨に肘を一発。
 
 メキャ…
 
 骨の砕けた鈍い音。
 絶妙の角度で、完璧ともいえる力加減で強打すると、骨は脆い。
 加えて延髄にも手刀を打ち込んでおく。
 男は白目をむいて昏倒した。
 
 万一おきたとしても、鎖骨の骨折ですぐには動けないはずだ。
 
「…ゆっくり酒が飲みたいから、場所を確保してくれ。
 助ける駄賃はそれでいい」
 
 そこまで言って、ラングはようやく男たちを見た。
 
 あっけなく、屈強の男を2人も倒してしまったラングの手際に、悪漢たちは緊張した顔立ちである。
 
「…いい面だ。
 一応は人殺しで飯食ってる連中ってことか。
 
 忠告しとくが、殺し合いは戦場以外でも結構あるもんだ。
 この手の荒事なんて、この大都市じゃ数しれねぇ。
 
 俺は冒険者で、《こういうの》が得意なんだよ。
 一応依頼を受けた形だから、あんまり容赦はできねぇぞ?
 
 あと、死にたくないなら、こういったでかい都市のルールぐらい覚えておきな。
 
 好い女にはたいてい強い男ってのがついてるもんだ。
 女って縄張りを荒らされると、男って連中はとたんに莫迦みたいに暴れるぜ。
 
 つまらない面子のことは考えるなよ。
 すぐにこの寝てる連中を担いで逃げるならよし。
 
 そうでなきゃ、全員寝首を掻かれるぜ。
 この女の男は、そのぐらいの力を持った野郎だ。
 
 その前に、かかってきたら俺が相手になるがな」
 
 男たちのリーダー風の男に、ゆっくりそう告げる。
 男たちはしかし、ラングの忠告を無視し全員腰の剣を抜いた。
 
「…ど阿呆め。
 こんな場所でダンビラ抜きやがって。
 
 商売が出来ね体になっても、後悔するなよ?」
 
 ラングはそう言って即座に一人の男を殴り、よろめいたその男を盾にタックルする。
 
 戦士風の男たちは全部で6人。
 そのうち2人は先ほど気絶させた。
 
 そして、今2人をまとめて叩きのめす。
 絡まるように鼻血を吹いて倒れる男たち。
 
 人間の頭蓋骨は、ことのほか優れた鈍器になる。
 武器扱いされる方は、たまったものではないのだが。
 容赦なく、両方の膝を砕いておいた。
 気絶したから痛まない分だけ、良心的なはずだ。
 
 先ほどと同じく、起きても行動不能の状態にしておく。
 
 この手の傭兵はタフである。
 あまり手を抜くと、起き上がって不意討ちで大怪我をさせられることがある。
 
 絡む際、盾兼鈍器にした男に、犠牲者の剣が当たって出血していたが、致命傷にはならない場所だったからよしとする。
 
 間髪入れずに、剣の間合いより一歩深く入って鎧の隙間から抉りこむように膝を入れて、一人を戦闘不能にしていた。
 
 ラングの戦い方は殺さない程度、という実に破壊的な戦い方である。
 確実な手段を行う、冷徹な戦い方だった。
 
 相手は刃物を抜き、殺すつもりになった。
 脅したが襲い掛かってくる連中だ。
 ならば、最後まで中途半端はよくない。
 ある程度壊すつもりで戦わないと、こちらが殺されるのだ。
 
 ラングは仲間を持たない。
 フォローしてくれる仲間がない分、ラングの行動は隙が無かった。
 
 力をつけて有名になり、そのくせなんでもない雑魚に殺された一流は多い。
 
 冷徹になった分、油断しない分、それがラングの生存率を高めている。
 生き残る冒険者とはそういうものだ。
 
 勢いでもう一人、と思った矢先、凄まじい剣閃がラングの頬を抉っていた。
 じくりと溢れる血と痛み。
 
「…いい技だな」
 
 ラングは相手の技量に少し感嘆した。
 この実力なら、中規模の隊をまとめるぐらいは出来るだろう。
 
 距離をすっと取り、腰を落とす。
 
 相手が剣を高く上げる。
 剣術の上段、【鷹の構え】だ。
 
 上段に構えた剣を、その重さを加えて次の技を出せる状態にする、古典的で効果的な構えである。
 かつてラングは、北方のある傭兵がこの技を使っていたところを見たことがあるが、次の一撃は激烈なものになるだろう。
 
 ラングの目が鋭く細められる。 
 そして、相手が間合いに踏み込んでくる前に腕を振るった。
 
 バチバチィッ!!!
 
 一瞬で走った眩い閃光。
 最後の敵は悲鳴をあげることも出来ず、剣を構えたまま煙を上げて昏倒した。
 
「…あつつ。
 
 やっぱ、素手でやるもんじゃねぇな」
 
 焦げた袖を押さえつつ、ラングは痛みに眉をしかめた。
 
「…すごいね、旦那。
 
 魔法ってやつかい?」
 
 フランチェスカが目を丸くしている。
 周囲の者には、ラングが稲妻を放ったように見えたのだ。
 
「はは、ちょっと違う。
 一応は体術の一種だ。
 
 面倒な呪文がいらねぇ分、こっちの方が便利だしな」
 
 ラングは放電の後遺症でわずかに痺れる手を揉み解しながら、にやりと唇を吊り上げた。
 
 秘剣【轟雷放】。
 
 昔、一緒に仕事をした東方出身の剣士に学んだ技を、ラングなりに改良、強化した技だ。
 
 丹田…臍の下にある器官に電気を集めて、剣から稲妻として撃ち放つ技である。
 本来は剣先を放電の装置にするのだが、今回のように素手で放つことも可能だ。
 …だが、たんぱく質で出来た人体は放電には向かないため、その箇所が焦げる。
 電撃を放つ箇所に負担がかかる技だった。
 
 体内から出て、空気に触れた瞬間、電気は凶器に変わる。
 その接点である放出場所は、当然影響を受ける。
 ラングほどの熟練した使い手が手加減して使ったからこそ、多少の腕の痺れで済んでいるのだ。
 
 もしラングが本気で稲妻を放っていたら、敵もラングの腕も黒焦げになっていただろう。
 
「なるほど。
 
 旦那が“黒い稲妻”って呼ばれてるのは、こいつのおかげなんだね」
 
 軽く頷くラング。
 
 ラングはこの技の習得で一流に慣れたといってもいい。
 放電による遠距離攻撃は、剣士の欠点である間合いを掌握することが出来る。
 
 空飛ぶ敵、高台から狙撃する敵。
 遠距離にある敵を焼き、不意討ちで使用して数多くの困難な戦闘を生き抜いてきた。
 
 加えて電撃には短時間相手を縛り、筋肉の硬直で動きを阻害できる。
 生物は、電気で筋組織を動かしている。
 感電は、全身の筋肉を全方向に無理やり動かすようなものだ。
 結果は痺れたようになる。
 
 この技で切り崩し、重い必殺剣で敵を粉砕することは、ラングの得意な戦い方の一つだった。
 騎士が数人でも勝てなかった巨大な目玉の怪物を、この技で縛って屠ったこともある。
 
 《稲妻を使う黒い鎧の戦士》
 
 ラングはいつしか、“黒い稲妻(ブラック・ライトニング)”と呼ばれるようになっていた。

 
 
 ラングの戦闘編です。
 
 冷静沈着で分析的な戦い方をする、熟練冒険者の雰囲気が出てればいいのですが…
 
 ラングは狡猾ではありませんが、効果的で合理的な戦い方が得意です。
 
 二人目の敵に対する粉砕攻撃は、威嚇と恫喝の意味もあります。
 多少ダーティに見せて敵の戦意を削ぐことは、集団戦では必要になることです。
 加えて後の憂いをしっかり断つのはあたりまえ。
 
 ラングはお人好しですが、敵には厳しいという誠実さを持ちます。
 戦う以上は容赦しねぇ…このへんがシングル冒険者でありながら、生き残ってきた彼らしさだったり。
 
 戦場では子供にも容赦しません。
 ラングの師匠は、そういう戦いの黒い面も最後に教えています。
 油断していなければ、相手の子供を殺さずに処理できる可能性があることをことを、ラングは身をもって知っています。
 彼自身、そういう油断ならない子供から身を立てた冒険者でして。
 
 
 ラングは娼婦を買ったり、数人の女性と肉体交渉を持った過去があります。
 彼の娼婦に対する考え方も、昔の恋人の影響があります。
 こういう描写が苦手な方はすみません。
 でも、SEXに関する倫理や色恋って、エロティック宣言した以上、もっと出るので悪しからず。
 
 
 ラングの【轟雷放】は【剣叫ぶ雷霆】の上位スキルです。
 2Rの呪縛効果付きで、7レベル。
 カードワースの呪縛って、実は2Rが強力かつ合理的に使えるんですよね。
 相手が遅ければ、怪力で解除される前に集中砲火で倒すコンボにも使えます。
 【剣叫ぶ雷霆】は、最近のプレイ、特にソロプレイで活躍しています。
 遠距離の奇襲攻撃が出来るのですごく便利です。
 カードワース、【遠距離攻撃】のキーコードに対応したシナリオ、多いですからね。
 
 ラングは【居合斬り】の上位スキルや、やや強い全体攻撃のスキルを持っています。
 装備品が濃いことも、彼が熟練である特徴です。
 
 加えて、こういう得意スキルから2つ名をつけられる冒険者って、けっこう多いのではないでしょうか。
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