Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

CWPC2:エルナ

 周囲に大勢の人の気配があり、甲冑や武器が擦れる金属音がせわしく響いてくる。
 人の気配のする方角から距離を取りつつ、オルフは足早に夜道を歩いていた。
 
(…マルディアンの兵士だな。
 
 この近くで、誰か偉いやつでも追ってるんだろう。
 
 たぶん、さっき炎上していた修道院の関係ってとこか。
 修道院には、偉い貴族の子女が居たりするからな)
 
 修道院を燃やしたのは、マルディアン帝国の兵士のようだ。
 帝国は北方ラダニール諸国の中で最大の軍事国家であり、近年は侵略による国土拡張でさらに領土を広めつつある。
 
 オルフの属していたギマール共和国も大国であり、ラダニールの覇権を争って、長い間マルディアンと睨み合いが続いている。
 ギマールとマルディアンが直接戦争に及んでいないのは、両国が互いに別の国と戦争中だからだ。
 
 ギマールはダズウェル王国という小国家と緊張状態にある。
 ダズウェルは、隣国エルトリア王国と戦争していたが、今はギマールを警戒して停戦中だった。
 
 マルディアンは、ラダニールで唯一の魔術師育成機関があるクラウス公国と戦争中であったが、クラウスの若き摂政にして“北の麗賢”と呼ばれる公女エルデリーダの登場で戦況は覆り、占領していた領土は全て奪還されている。
 
 停滞した状況を好転させるため、近年、とりあえず弱い国を滅ぼして敵国を牽制しようという理由でギマールとマルディアンは盛んに周辺の小国や自治都市の侵略を繰り返していた。
 
 そんな大国2つに挟まれたラトリアは、特別な産業もない小さな国だ。
 歴史こそ長いが、貴族による腐敗した政治のせいで、すでに黄昏の時代だった。
 加えて、度重なる周辺諸国との戦争で領土を削られ、残すは王都のみという有様である。
 まさにラトリアはその歴史を終えようとしていた。
  
 今回のように2つの国が1国を争奪する戦いでは、ライバル国の人気を落とすために略奪をする場合もある。
 非道な行為をはたらき、ライバルの国の仕業だと噂を流すのだ。
 自国の民の啓蒙と、大義名分をもっているのだということを兵士にすりこませるために汚れ役が生まれた。
 
 しかし、こういった仕事を率先して行う、野盗同然の部隊がいる。
 捕虜を奴隷として人身売買し、裕福な家や僧院を襲ってその蓄えを奪う。
 戦争を言い訳に略奪三昧を行い、それを楽しんでさえいる下種である。
 
 先ほどの修道院は、そういった者の暴虐にさらされたのだろう。
 
 ラダニール地方の人間は多くが聖北の徒であるが、異国人であれば異教徒ととこじつけもするし、統制の取れていない下級の将兵にとって、戦時のどさくさにまぎれての略奪は当たり前だった。
 加えてオルフが見た修道院は、おそらく女性がいたのだろう。
 
 下劣な下級の兵が集団で略奪者にかわり、身勝手な正義をかざして修道女に乱暴を働いたのだ。
 
 神に純潔を捧げた、世間知らずの美しい女たちがいると聞いただけで、好色そうに舌なめずりしていた者を、オルフは見たことがある。
 噂では、その男がある村の教会を襲い、修道女や村娘に狼藉をはたらいたという。
 
 その手の鬼畜が現れても、戦場では弱い者が虐げられるだけだ。
 
 燃える修道院と、近くで死んでいた裸の女性。
 略奪を受けて装飾の引き剥がされた壁や、ロザリオ1つ着けていない惨殺された修道士たち。
 
 湧き上がる不快感に眉をひそめ、オルフは足を速めた。
 
 
 しばらく行くと、人の気配や喧騒からだいぶ離れることが出来たようだった。
 オルフは近くの茂みに身を潜めると、大きく息を吐く。
 緊張した状態で走るのはなかなかに骨が折れた。
 
 そこで息を整え、また逃亡に移ろうと思案する。
 
 …不意に近くで人の気配がした。
 どこか争うような声も聞こえる。
 
 様子を探るため、オルフは茂みの間から声のした先を覗き見た。
 
 白いものが髪に混ざる上品そうな修道女風の老婆と、フードを目深に被った背格好から女らしい人物が兵士たちに囲まれていた。
 老婆は女を後ろに庇い、じりじりとこちらの茂みに後ずさっている。
 
(まずいな。
 
 このままだと、俺が隠れていることがばれる…)
 
 オルフは剣の柄に手をかけ、いつでも飛び出して反撃できるように構えを取った。
 
 一方、老婆は毅然と兵士たちを睨み、甲高い声で叫んでいる。
 しかし、兵士たちはニヤニヤと笑いながら距離をつめていた。
 
 兵士たちの態度が頭に来たのだろう。
 老婆が歩み出て兵士たちの歩を止める。
 
「…無礼者っ!
 
 この方をどなたと…」
 
 全てを言う前に、その老いた修道女は斬り伏せられた。
 老婆の細い身体は腹まで袈裟斬りにされ、大量の血潮が噴出し、力なく大地に倒れ伏す。
 
「マーサッ!」
 
 フードを被った女が、悲痛な声で叫んだ。
 
「…あ、あぁ、姫様。
 
 どうか、ど、うか、逃げ…て…」
 
 そう言って動かなくなった修道女を抱きかかえ、女は癒しの聖句を必死に紡ぐ。
 教会の聖職者が良く用いる癒しの秘蹟【癒身の法】である。
 
 だが、虚ろに目を見開いたまま、老いた修道女はもう動かなかった。
 
「おお、姫様だと。
 
 俺ら、もしかして大物を見つけたっぽいなっ!」
 
 修道女を斬り殺した剣の平で、肩をぽんぽんと叩きながら、兵士らしい男が得意そうに口の端を吊り上げた。
 装備は皮製の粗末な物。
 いかにも寄せ集めの兵士の1人、という感じだった。
 
 オルフと同じように徴兵された兵士であろうが…自分たちの立場を最大限に利用し、悪行も平気でするタイプの者たちのようだ。
 略奪を好み、殺人を楽しみ、女と見れば乱暴を働く。
 子供や老人を平気で殺す、戦乱が産んだ悪漢たちであった。
 
「あれだ、確かラトリア王家縁の五貴族の1つ、カーティン侯爵家の御令嬢。
 
 さっきの修道院って、カーティン家の隠居所の1つだったからな。
 噂じゃあ、侯爵の一人娘が花嫁修業中だったはずだぜ」
 
 もう1人の兵士が顎に手をやりながら、老修道女を抱いている女を見下ろした。
 その兵士は金属製の鎧を着ている。
 装備品から見て隊長格であろうか。
 
「ひゅうっ♪
 準王族のお姫様じゃねぇかっ!
 
 大手柄だぜ、俺たち」
 
 兵士の1人が興奮して下品に唾を飛ばす。
 
 女はそっと修道女の身体を地に横たえさせると、毅然と兵士たちを見返す。
 
「私が目的ならば、何故修道院を燃やし、人を殺すような狼藉を行ったですか。
 
 皆、優しくて好い人たちだったのに…」
 
 そう言って女は俯いた。
 泣いているのだろう。
 
「あはは、狼藉だってよ~
 
 お姫様は言葉が違うよなぁ」
 
 がはは、と笑い、剣を持った兵士は女に近寄ると被っていたフードを引き剥がした。
 
 美しいブロンドの柔らかな髪が、はらりとこぼれ出る。
 
 兵士は目を見張った。
 それは周囲の兵士たちも同様だった。
 
 北方人らしい白い肌。
 まだ涙に濡れる長い睫毛の先からのぞく、青く澄んだ瞳。
 悲しげに結ばれた艶やかな唇。
 
「…うひゃぁ。
 
 俺、こんな美人みたことないぜ…」
 
 兵士たちは、驚いて、すぐに好色そうな顔になる。
 
「…なぁ。
 
 貴族の娘には死体でも賞金が出るんだろ?」
 
 先ほど修道女を斬り殺した男が、周囲の兵士たちを見回してにやりと嗤う。
 
「ば~か。
 
 こんな上物、殺すより売った方が儲かるだろ?
 …もちろん、俺たちが楽しんだ後で、でもだ」
 
 にじり寄る男たちを、ブロンドの娘は悲しげに見つめていた。
 
 
(…何やってんだ、あの女はっ!)
 
 オルフは、忌々しそうに唇を噛んだ。
 あれでは女を逃がそうとした修道女が無駄死にである。
 
 苛々するオルフの心など届くはずも無く、女は跪き、目を閉じて冥福の祈りなどを口にしている。
 逃げも怯えもしない女の態度はたいしたものだが、それで改心する兵士たちではない。
 オルフは蹂躙されるであろう、娘の未来を思い、唇を噛んだ。
 
 オルフの脳裏に、熱にうなされながら、天国にいけるように祈っていた妹の姿が思い出された。
 食べる者も無く、いつも痩せていた妹は、信心深くいつも祈っていた。
 
(…あいつが生きていれば、あのぐらいの歳か)
 
 流行り病で死んでしまった妹も、この娘のように美しいブロンドだった。
 オルフの妹は神様が与えてくれた宝物だと、大切そうに髪を撫でながら頬のこけた顔で微笑んでいた。
 
 病に侵され、瞳から光の無くなっていく妹の手を、オルフはただ握ることしか出来なかった。
 妹が死に逝く時、オルフはまだ無力な子供でしかなかった。
 
 鉄臭い血の味を噛み締め、女の方を見る。 
 血走った目をして、女の服に手をかける兵士。
 
「…糞がっ!!!」
 
 オルフは飛び出して突進する。
 そして、迷わず剣を振るった。
 なまくら同然の剣は、女の服に手をかけていた兵士の肺と心臓に半ばめり込んでへし折れる。
 
「…こぉぼぼ、あ?」
 
 肺から血と一緒に空気が出て行く音。
 何が起きたか理解できずに、その兵士は倒れて動かなくなった。
 
「…なっ?
 
 てめ…ごばぁっ!」
 
 折れた剣を金属鎧を着た兵士の口に突っ込み、痙攣するその兵士を蹴り倒すと、剣をぶんどる。
 
(…残りは、3人!)
 
 そこに居た兵士たちは5人。
 奇襲で2人を倒し、前の剣よりは切れそうな得物を手に入れている。
 
(あと1人ぐらいは…!)
 
 担ぐような構えから振り下ろす重い一撃。
 オルフが戦場でとある剣士から学んだ【担ぎ颪】という技である。
 
 ビョウゥゥッ!!!
 
 空気も一緒に両断するような音…
 
 凄まじい斬撃に肩当から腹まで割られた兵士は、言葉も無く絶命した。
 
 骨に引っかかって抜けなくなった剣をあきらめ、オルフは襲い掛かってくる兵士を殴る。
 敵の反撃を受けて脇腹に走った激痛をこらえ、無造作に敵の剣を掴んで、その股間を蹴り上げた。
 少し切れたが、農業で鍛えられた彼の掌は血が滲む程度。
 
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
 
 泡を吹いて昏倒する兵士から武器を奪って、最後の1人を睨む。
 4人を瞬く間に倒して返り血を浴び、髪を振り乱したオルフは、さながら食人鬼のように迫力があった。
 
 慌てふためく最後の兵士が、やけになったように剣を振り回す。
 オルフはゆっくりと剣を振り上げ、容赦なくその兵士の頭を叩き割った。
 
 
「…はぁ、ぐっ。
 
 くそ、一発もらっちまったか」
 
 脇腹を押さえ、傷の程度を調べる。
 
(…大丈夫だ。
 
 はらわたまでは、届いてねぇ)
 
 べったりと手についた血を、倒れている兵士の服で拭う。
 布を裂き、脇腹に当てて手で押さえた。
 そして、呆然としている娘を睨みつける。
 
「…この阿呆がっ!
 
 お前、婆さんの行為を無駄にするのかよっ!!」
 
 怒鳴りつけられた娘はビクリ、と震える。
 
「…ったく。
 
 ああ、もう、糞っ!
 これで俺も完全なお訪ね者じゃねぇかっ!!!」
 
 転がっていた兜を蹴り飛ばし、忌々しそうにオルフは唾を吐き捨てた。
 溜息を吐き、灰色の空を見上げる。
 
 かつて剣術の手ほどきをしてくれた、ある戦士の言葉を思い出す。
 よく「お前はお人好しだ」と言っていた。
 
「…《麦を踏んだら霜も踏め》だ…畜生めっ!」
 
 オルフは娘の手を掴むと、引きずるように場を後にしようとして、思い出したように立ち止まった。
 そして、自分が纏っていた襤褸を脱いで老婆に被せると、倒れた兵士から外套を剥ぎ取る。
 
「これで追い剥ぎかよ。
 
 もう、お袋に顔向けできねぇな…」
 
 苦々しい表情で呟き、先ほど受けた傷を押さえて呻く。
 女が近寄ってきてオルフの脇腹に軽く手を添えた。
 
「おい、何を…」
 
 眉をしかめたオルフを手で制し、女は澄んだ声で聖なる言葉を紡ぐ。
 同時に傷の痛みが、すっと引いていく。
 
 オルフは、ばつが悪くなって頭をかくと、一番ましそうな剣と携帯品を兵士の死体から奪う。
 そして黙ったまま女を引っ張って、その場を後にした。
 
 
 …どれほど歩いただろうか。
 
 半日近い間、オルフと女は黙々と歩いていた。
 大柄なオルフの足についてくる女の根性も、たいしたものである。
 
「…少し休むか」
 
 オルフはどっかりとその場に座り込んだ。
 額から汗がこぼれ落ちる。
 
 女もへたり込むように座り込む。
 一言も喋らなかったが、疲労はしているらしい。
 
「今時の貴族は山歩きもするのか?
 
 俺みたいに田舎育ちについてこれるんだから、たいしたもんだぜ」
 
 オルフが褒めると、女は首をかしげ、やがて弱々しく微笑んだ。
 
「修道院生活が長かったからだわ。
 
 10年も山中の修道院で過ごせば、このぐらいは出来るようになるはずよ」
 
 そんなもんか、とオルフが言うと、そんなものねと女が返す。
 
「…さっきはごめんなさい。
 助けてくれたのにお礼も言わないで。
 
 有難う。
 
 あと、マーサを弔ってくれたことも」
 
 女は深々と頭を下げた。
 
「ああ、いや、俺も強く言い過ぎたかもしれねぇ。
 傷も直してもらったしな。
 
 …あの婆さん、知り合いだよな?」
 
 女は頷く。
 
「私のお目付け役で、小さな頃からずっと一緒だったわ。
 
 修道院にも一緒に来てくれて、2人で祝福を受けて修道女になったの。
 私の、家族同然だった」
 
 女は少し寂しそうに、しかし毅然とした態度で話した。
 
「…もう少しでマーサの行為を無駄にしてしまうところだったわ。
 
 私があの兵士たちに乱暴されて売られたり殺されたりしたら、マーサの死を冒涜してしまうわよね。
 そうなっていたなら、確かに阿呆だわ…」
 
 無理に微笑んでいると分かる顔だった。
 
「俺は貴族って奴は、もっと我侭で身勝手な奴だと思ってたよ。
 あと、肝心なところで屁っぴり腰になって泣き出すような感じだな。
 
 …あんたは違った。
 度胸はたいしたもんだよ」
 
 オルフは女の気丈さに、心底感心していた。
 自分のような一介の兵士に対しても謙虚な態度で接する部分には、好感も覚えている。
 
「死んだ母の口癖だったの。
 
 人の上に立つ貴族は、人の何倍も責任が伴うのだと。
 
 我侭を言うだけなら、子供にも出来るわ。
 自制と節度をもって人を導くのが、本当の貴族なんだって。
 
 それに、貴族は生まれが偉いのではなく、己の血を貶めない行為こそが尊ばれるのだと父が言っていた。
 
 でも、私は普通の人よ。
 貴方と同じ、赤い血が流れているもの」
 
 はにかんで微笑むと、女はオルフに向き直る。
 ごく普通の口調だが、その仕草は洗練され優雅だった。
 
「まだ名乗っていなかったわね。
 
 私はエルネード。
 エルネード マリア カーティンです。
 
 勇敢な貴方の行いに、感謝を…」
 
 あらためて名乗り、女は頭を下げる。
 
 普通この地方で、姓にあたる家名を持つ者はそれなりの家柄を持っている。
 
 一介の農民出身であるオルフも、ラトリアの名家カーティンの名は知っていた。
 
 その先祖は、ラダニールをかつて治めていた統一帝国グロザルムがあった頃までさかのぼり、皇族から出たとされる貴族だ。
 ラトリアでも、王家と公爵家に次ぐ名門である。
 王族の血も入っているため、歴史の長いラトリアでは、カーティン家から王が輩出されたこともある。
 
 現カーティン侯爵は善政で領地を治める、ラトリアにあって一番穏健で聡明な貴族だと言われていた。
 他国にその名声が聞こえるほどである。
 
 加えてカーティン家は、ラダニールの聖北教会の総本山であるエンセルデルにも縁が深い、熱心な聖北教徒だった。
 
 女のセカンドネーム〈マリア〉は洗礼名である。
 ラダニールでは大抵、有名な聖人や聖女、天使や聖職者の名前をもらう。
 きちんとした洗礼を受けた、聖北教会の徒である証だった。 
 
「…俺はラインドの息子、オルフだ」
 
 オルフも名乗る。
 先に名乗る礼節を尽くした相手には、それに名乗って応えるのが北方の男の礼儀であった。
 
 女は小さく頷いた。
 
「オルフレン(オルフという)、ラインダー(ラインドの子)ね。
 
 その訛りはバドリア公国の人でしょう?
 オルフって、獅子という意味だったかしら…強そうな名前だわ」
 
 北方の平民はよく、「~の子」という名乗り方をする。
 西方の文化が聖北教会の伝道とともに入ってきたラダニールでは、西方の公用語が平準になりつつあるが、名前に関しては昔ながらということも多い。
 
「…正しくは狼や獅子みたいな強い〈獣〉ってような意味だな。
 バドリアじゃ、男は強くってのが普通だったからよ。
 
 でも、生まれは〈農耕賎民〉さ」
 
 オルフの故国バドリアは、大公が治める厳しい身分制度のある国だった。
 そして、彼は卑しいとされる最下級の貧農の出身である。
 
(バドリアは滅んじまったし、故郷は焼かれてもうねぇが…
 
 あんな国、滅んでも悲しむのはきっと偉くて幸せだった奴らだけだ。
 生き残った俺は、〈獣〉よか、野良犬みたいなもんだな)
 
 祖国を滅ぼしたギマール共和国は嫌いだったが、かつてオルフが育った故郷も、決して良い国ではなかったと思う。
 搾取されることに慣れ、磨り減っていく生活をしていたオルフにとって、そんな感慨しか湧かないのだ。
 
「あんたの名前、エルネードか。
 
 長くて呼びにくいな」
 
 オルフの故郷では、長い名前は略される。
 いちいち憶え難い名前を呼んでいたのでは、仕事でのコミニュケーションで呼び合うとき不便なのだ。
 
「そうね。
 
 それにこの名前を名乗るのは、きっと危険でしょうし…
 エルナでいいわ。
 
 母はそう呼んでくれていたの」
 
 娘、エルナは風で乱れた美しいブロンドを手ですくと、柔らかな微笑を浮かべた。 

 
 
 
 回復役エルナの登場です。
 
 美人で献身的、しかも無欲+謙虚で勤勉というスーパーお姫様。
 彼女がこういう性格なのは両親の教育の賜物です。
 
 貴族に生まれながら、修道院で禁欲的で質素な暮らしをしていたので、清貧ということに慣れています。
 穏やかで柔らかな雰囲気を持っている、根っからの聖母タイプ。
 
 当然ですがパーティで最も人徳があります。
 
 オルフとの出会いは衝撃的ですが、2人は同じラダニールの出身者として特別な親しさを持っています。
 オルフはエルナに、幼少で死んでしまった妹の面影を重ね、エルナはオルフの中に貧しさと寒さに負けない雄大な北方人の誇りを見て敬う…そんな関係になります。
 
 エルナは、『風屋』に登場予定の【祈りのクロス】というスキル配布アイテムと【癒身の法】を使いこなす、敬虔な聖北教徒です。
 しかし、貴族としての強い責任感も教育されており、ただの無垢なお嬢様とはちょっと違います。
 気丈で芯の強さを兼ね備え、それが高飛車にはならないという…
 でも保守的で意外に頑固だったりします。
 現実を謙虚に認める聡明なリアリストでありながら、夢や希望も忘れず理想を追う強い信念を忘れない聖職者でもある、実にできたお姫様です。
 高貴さに加えて、他者に安らぎを与える雰囲気を持っています。
 
 当然、こんな性格なのでもてます。
 外に出た途端、惚れられまくりです。
 
 こんな美人に一目惚れしないオルフはある意味、スーパー鈍(ドン)なのですが…
 
 エルナの方はオルフに対して、強い信頼の情を示します。
 まあ、恋愛に関しては無菌培養の少女時代を過ごしたので、恋愛にはピンと来ないタイプかと思います。
 
 “風を纏う者”のレベッカが悪女、ラムーナが明朗ときたので、楚々とした女性のイメージにしてあります。
 私の描く女性は皆、強い意志を持っていることが多いのですが。
 
 できれば媚びない清楚さというのを表現してみたいです。
 ただ、特徴だけで「清楚」ではなく、彼女の生き方や意思が清らかで穏やかであるように表現できたらなぁ、と思います。
 
 
 今回、さらにラダニール諸国を紹介した感じですが、エルナの故郷ラトリアはラダニールで最も古い国でした。
 王政君主体制の典型的な封建主義国家です。
 末期がんのように腐敗した貴族政治の中で、新しい国によって滅ぼされる国。
 その中で、古き時代の良き志を次代に引き継ぐのがエルナです。
 
 「貴族とは、血と歴史に恥じない行いを成してこそ貴族である」
 
 エルナは、そんな生き方を志すタイプですね。
 
 王族の姫様を出しても良かったのですが、何というか、それだとお約束過ぎるので、侯爵令嬢にしました。
 
 ラトリアは小国です。
 国土は最大の時で岩手県の三分の一ぐらい。
 
 北方ラダニールは日本の国土と朝鮮半島を足したぐらいの大きさで、その5分の1をゼセルダという湖と、河川が占めています。
 寒冷な気候で雪が多く、やや高地で西方からは最短距離を踏破して1月以上、普通は数ヶ月かかる遠方にあります。
 海に面した国はなく、かつて統一帝国グロザルムによって統治されていた、独特の文化を持った小国の乱れ立つ場所、という感じでしょうか。
 
 暦とか民族とか、細かい設定があります。
 
 オルフの名前もその1つ。
 でも、昔は姓なんて普通ではなかったはずので、オルフのような名乗り方はそんなにおかしくないと思うのですが。
 
 北方ということで、ノルマン人(北方人)を強く意識していますが、細かい部分はかなり違います。
 シグルトはラダニールの出身ではありませんが、キーレより北の小国家の出身ですね。
 ラダニールはさらに北にあります。
 
 ちょっとだけ設定公開してみたり。
 
 
 オルフが言ってる《麦を踏んだら霜を踏め》は、冬の麦踏んで強くし、ついでに霜の害も忘れずに対策を一緒にやれ…速く言えば「乗りかかった船」や「毒食わば皿まで」と同じで、やりかけたことはアフターとフォローまでこなすという諺です。
 オリジナルなんですが、ちょっと苦しいかなぁ。
 
 次回はラダニールからの脱出作戦です。
 
 エルナのデータは…
 
◇エルネード マリア カーティン(エルナ)◇
 女性 若者 標準型

秀麗     高貴の出   都会育ち
厚き信仰   誠実     無欲
献身的    秩序派    保守派
穏健     勤勉     謙虚
繊細     お人好し   愛に生きる
 
器用度:6 敏捷度:6 知力:7
筋力:4 生命力:4 精神力:10

平和性+3 社交性+1 勇猛性+1
慎重性+3 正直性+1 
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この記事のコメント

オルフさんかっこよすぎです!!
剣が骨に引っかかって、抜けなくなってる辺りが、初心者?っぽくとても、好感が持てます♪
そして、エルナさんの、高潔さ、誇り高さ、助けてくれた人物に素直に礼を述べれる謙虚さなど、人間としてとても尊敬できます!

国々の設定もとても興味深く(面積や気候などが特にです。)読んでいて、とても楽しかったです☆
素敵なキャラクターを紹介してくださってありがとうございます♪
Y2つさんが綴る物語は、とても楽しいです。
やられ役の兵士やマーサさんも、出番は少ないですが個性を感じられる台詞や行動が出ていて、最高です!

それでは、失礼いたしますm(__)m
2007-02-21 Wed 21:32 | URL | らっこあら #mQop/nM.[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2007-02-21 Wed 21:44 | | #[ 編集]
 オルフはまだ戦闘ではひよっこです。
 元農民ですし。
 
 身体能力でがむしゃらに戦っている感じですね。
 後にはシグルトと互角の戦士になるんですが。
 
 実際に骨を切るのは困難で、切れ味の悪い剣だと場合によっては曲がったり欠けるのが当たり前です。
 人をまっぷたつにするには、3レベルの優秀な能力値のPCでも可能かどうか…よい武器を持ってること前提で、です。
 西洋の刀剣は鈍器に近いものもあったとか。
 
 エルナは知力7なので、シグルト並に聡明です。
 慎重な性格なので、レベッカ並に思慮深いタイプ。
 一応、その手の判定は強かったり。
 
 脇役も頑張って作りますね。
 ちなみに、今回の兵士どもは隊長が2レベルで、そのほかはレベル1、筋力6+勇猛性と好戦性格+1ぐらいの実力です。
 コボルトとゴブリン並のザコでした。
2007-02-23 Fri 23:12 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]

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