Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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CWPC4:バッツ

 フィリの案内で、オルフとエルナはラトリアの国境を目指していた。
 
 陽気でおしゃべりなこの少女、見かけによらず細かいことに気がつく娘だった。
 狩人の娘というだけはある。
 
 12歳の平均身長から見れば、女子でも低いほうだろう。
 しかし、意外な膂力を持つことは、邪魔な茂みを手斧で軽々と薙ぎ払う様子から感じ取れた。
 
「お前、以外に力があるな。
 
 この手の草木はかなり硬いだろに」
 
 オルフが感心したように言うと、ニカッと笑ってフィリは力瘤をつくった。
 
「これでも、父さんが取ってきた獣の皮を剥いだり、薪作ってたからね。
 
 あと、使ってるのが手斧だからさ。
 
 この手斧はその頃から愛用してるんだけど、ナイフなんかより便利だよ。
 ボクみたいに身体が小さくても、得物自体が重いと威力も増すし。
 加えて、今は弓の弦が切れちゃって…ボクの頼れる相棒はこれだけだよ。
 
 短剣やナイフもほしいんだけど、ちょっと財布が寂しいからね。
 お兄さんも、すぐ折れる剣や槍より、斧にしてみたら?
 その体格なら、両手持ちの斧でも軽々と振り回せるでしょ?」
 
 オルフは立派な体格をしている。
 背丈は190cmを少し超えるほどだ。
 大男の部類に十分入るだろう。
 
「…まぁな。
 
 でも俺は元農民だったから、斧よりは鍬か鎌の方が使い慣れてる。
 人を殺すためには使いたくないけどな。
 
 剣を使ってるのは、俺に武術を教えてくれた旅の戦士が剣術使いだったからだ。
 といっても、技を1個習っただけだがよ。
 
 正直言って、剣はまともな道具にもならねぇし、槍に比べりゃ短ぇな。
 斧みたいに頑丈でも無し、ナイフみたいに小回りも利かねぇ。
 …それでも剣を使う奴が多いのは、戦いにおいて最も汎用性のある形、だからだそうだ。
 
 どんな状況でも、使い手の技がありゃ、いろんな使い方が出来る。
 槍は狭いところじゃ使えないし、斧は敵にぶち当てるのが少しばかり難しい。
 かといって、ナイフみたいな小せぇ得物は、人を殺すにゃ小さすぎる。
 けど、難しい御託なんて言っても様にならねぇよな、俺じゃ。
 
 とどのつまり、俺が剣を使ってるのは、がたいと腕っ節でも簡単に扱える〈平凡〉な武器だからさ。
 
 聖北の坊さんが言うにゃ、剣は形が聖印に似てるから持ってると落ち着くんだそうだがな。
 
 ま、俺は…効果的な武器をとっかえひっかえするほど殺しに慣れたくねぇ。
 人を殺す武器は、手に1つありゃ十分だよ。
 
 だから結局、武器も戦う技ってのも、生き残るためにこいつが扱えりゃそれでいいのさ」
 
 オルフは腰に下げた剣を、かちゃん、と軽く叩いた。
 
 
「これは…
 
 間違いありません、エルネード様のお側付き侍女、マーサです」
 
 アレクセイは、転がっていた死体でただ1人だけ外套で覆われていた老婆の顔を確認し、白い貌をさらに青白くして言った。
 
「…ということは、カーティンの姫様は生きてるってことだな。
 
 それに、この婆さんを殺したのはここに転がってる兵士どもだ。
 婆さんは正面から切られた口だが、兵士どもは剣も抜けずにやられてる奴がいる。
 このやり方は、不意討ちだな。
 
 殺された兵士どもの死体は、どれも力任せなやり方でやられているが、存外いい筋をした奴だ。
 この隊長格を袈裟斬りにした技…“焔紡ぎ”の【担ぎ颪】かもしれねぇ」
 
 死体を検分していたナルグは、苦い顔をして言った。
 
「…“焔紡ぎ”?」
 
 アレクセイが聞くと、ああ、とナルグが頷く。
 
「“焔紡ぎ”ワディム。
 
 北方の戦場じゃ、知らねぇ奴は笑われるぜ。
 
 俺も若い頃、南の方の戦場で会ったことがあったけどよ…
 腕っ節は、俺より上だった。
 今でも正直、勝てるかわからねぇな。
 
 最近じゃめっきり名前を聞かねぇが、北方じゃマルディアンの“天剣の将”と並び称されるほどの剣豪だ。
 
 戦争が無い時は、少しの間同じ場所に留まって、駆け出しの将兵に技を指南して銭をもらうような副業もしてたからな。
 あの男の直弟子なら、こんなお粗末な腕じゃねぇだろうが。
 技を聞きかじった程度の奴かもしれねぇが、まぁ、油断はするなよ」
 
 アレクセイは目を丸くした。
 ナルグは強い。
 その剣術はラダニールでも一流といえるだろう。
 
 〈雪狼団〉で最強なのは団長のビュリカだというが、実際にアレクセイが見た最強の男はナルグである。
 そのナルグにここまで言わせる“焔紡ぎ”と、その剣士の技を使う者。
 
 ぶるり、とアレクセイは身体を振るわせた。
 頬は少し引きつっている。
 
(…そんな荒くれがエルネード様と?
 
 く、こうしては!!!)
 
 駆け出そうと、マーサの死体の側から立ち上がったアレクセイをナルグが引き止める。
 
「だが、解せねぇこともある。
 
 何でこの婆さんだけ、丁寧に扱っていたかだ。
 まずマルディアンの連中で無いことは判ってるが…
 俺たち傭兵やギマールの鉄血兵どもにゃ、こんなしゃれた甘いことをする奴はいねぇはずだ。
 
 かけてあった小汚ねぇ襤褸だが、多分元はギマールの歩兵が持つ厚手の外套だ。
 こんな状況で身の回りの物を使うなんて、よっぽどの甘ちゃんか、度の過ぎた阿呆か、戦場を知らねぇ素人だろう。
 
 加えて、物を取ってるが根こそぎじゃねぇ。
 …必要最低限、小銭と携帯食だ。
 金目のロザリオとか、この連中が修道院から盗んだものには手をつけてないから、強欲じゃなく必要に迫られてやった口だ。
 物取りとして足がつかねぇように考えてるなら、頭の良い奴だろうが…
 
 やったのは1人だ。
 筋が良くてもこの程度の腕で…こんな襤褸着てた食い詰めの兵卒が、物取りで兵士5人を敵にするなんてのは常軌を逸して間抜けなことだ。
 
 怪我もしたみてぇだな。
 途中で血痕が無くなってるから、治療したんだろうが…
 これだけの出血をする怪我をして、娘1人連れて逃げるなんてできねぇぞ?」
 
 少ない情報でこれだけのことを予測したナルグは、さすがは歴戦の傭兵だけはある。
 
「…そういえば、エルネード様は司祭様もお認めになるほどの信仰心と不思議な力を使うそうです。
 
 癒しの秘蹟、【癒身の法】でしたか。
 ラダニールでは聖なる奇跡を起こせる聖職者自体、数が少ないそうですから。
 エルネード様は将来、女性で司祭様になれるのではと噂されていたほどです。
 
 その力を使って傷を手当したのなら…」
 
 アレクセイの言葉に、ナルグはさらに渋い顔をした。
 
「そうだとしたら、もっと解からねぇ。
 
 …お姫さんはその男を治したのか?
 ギマール人なら敵国だぞ?
 
 しかも、マルディアンより先に戦争吹っかけて、王政や貴族制を何より忌み嫌う国だ。
 ラトリア人にとっちゃ、マルディアンより憎たらしい敵のはずだぜ」

 あっ、とアレクセイもそのことに気がつく。
 
「加えて、〈政教分離〉を唱え、唯一ラダニールで聖北教会を排斥した、あのギマールだ。
 
 俺たちがマルディアンについたのだって、お前らガチガチの聖北教徒どもがギマールの仕事を嫌ったから、団長が気ぃきかしたんだぞ。
 そんな奴らに、お姫さんが素直に従うと思うか?」
 
 ギマール共和国は、軍事拡張において、ラダニールで影響力の強い聖北教会の干渉を退け、聖職者という職業を無くしてしまった。
 それはあくまでも、聖職者からその地位と資格と特権を取り上げ、信仰そのものを排斥したものではなかったが、周囲の国家にとってそれは驚愕の事件であった。
 
 ギマールは他にも貴族や王侯の存在を否定し、軍隊の階級以外の身分制度も全て廃止している。
 貴族、加えて聖北教徒であるカーティン侯爵家にとっては忌むべき国のはずだ。 
 
「し、しかし、エルネード様はお優しい方です。
 
 きっと慈悲の気持ちで治したのでは?」
 
 アレクセイの言葉に、ナルグは首を横に振る。
 
「あのワイルズ将軍の娘が、そんなに浅はかとは思えねぇが…
 ま、仮にそうだとして、だ。
 
 一緒に行動する理由はなんだ?
 
 たとえ命の恩人が相手でも、敵国に素直に捕まるようなことはしないんじゃねえか?
 エルネード姫は聡明で思慮深い人物だと聞いている。
 
 その姫さんが素直に従ったってことが…助けた奴の腕の素人加減と、臆病な兵卒がとるような行動と噛み合わねぇ。
 姫さんを助けるために、ギマールに忍び込んだ将兵なら、腕はもっと立つはずだ。
  
 姫さんは自分を助けてくれて、この婆さんに外套をかけた奴を信頼してついていったってことか?
 怪我した、ギマールの一兵士に?
 
 どっちも分かれて行動すべきだろうに、取られた水袋は2つ。
 
 なんで2人で行動する必要がある?
 
 そこが、解からねぇ…

 …考えられんのは、傷を手当した姫さんを人質としてかっさらったか、美人だったからかっさらった…
 っておい、予想なんだからそんな俺を殺しそうな勢いで、鼻息荒くするなっ!
 
 …ったく。
 お前、お袋さんと信仰と姫さんのことになると、とたんに暴れ馬になりやがる。
 
 今の予測は当てはまらねぇから、安心しろ。
 そんな下種が、5人相手取って姫さんを助けるわけねぇだろ?
 そこんところが解せねぇんだからよ」
 
 腕を払って駆け出そうとしたアレクセイをなだめ、ナルグは続ける。
 
「だが、もしギマールの脱走兵なら、少しは話も通じるな。
 
 線としちゃそれが堅い。
 どうして助けたのかはわからねぇが、この兵士どもを殺した奴は、姫さんを助けて共同で逃げることにしたんだろう。
 
 その野郎、おそらくはギマールの恩赦兵…元犯罪人か旧敵国の兵士が恩赦を餌にされて、無理やり戦争に駆り出されていた口だろうな。
 もしそうだとしたら、機を見るのが上手い奴だ。
 
 ふん、なるほど…助けて自分を売り込んだとすりゃ、話は通じるな。
 
 だとしたら、姫さんは金のなる木だ。
 その野郎も乱暴はしねぇだろ」
 
 アレクセイは少し力を抜いた。
 
「ま、貞操は保障できねぇけどな。
 
 男と女、しかも命がけで逃亡するとくりゃ、けっこう女の方が男に参っちまう。
 心細いから人肌が恋しくなるし、世間知らずで年頃の姫さんなら案外今頃しっぽりと…
 
 って、お~い…
 
 行っちまった。
 冗談だったんだけどな」
 
 目を血走らせて全力疾走するアレクセイの背を見つめ、ナルグは人の悪そうな笑みを浮かべた。
 
 
 ガキィィンッ!!!
 
 オルフは敵の剣を受け止め、エルナを背後に庇った。
 
「くそっ!
 
 先行していたマルディアン兵か…」
 
 相手は3人の兵士である。
 しかも、今相手にしている兵士は正規兵らしく、厚手の立派な革鎧を着ている。
 
 北方の戦場では金属の鎧を着る者は少ない。
 寒さで冷えた鎧が体力を奪うからだ。
 
「…そこの娘、カーティン家の御令嬢だな?
 
 おとなしく剣を引け。
 さもなくば―――なんだと?!」
 
 にじり寄っていた1人の兵士が、足を切られて転倒する。
 
「…そこ、血の筋だよ。
 
 手当てしないと、出血して、冷えて死んじゃうかもね」
 
 手斧を構え、不適に笑うのはフィリであった。
 
「ぐ、小僧!!!」
 
 もう1人の兵士をいなし、今度は重い攻撃で反撃するフィリ。
 手斧はその兵士の手の甲を粉砕した。
 
 激痛に膝を突いた兵士は、フィリが振るった手斧の背で頭を強打され、失神する。
 
 オルフを相手にしていた兵士が、フィリに注意を取られて隙をみせた。
 わずかなものであるが、オルフは迷わず踏み込んで敵の膝を斬った。
 
「ぐぅわあぁぁぁ!!!」
 
 よろめいた兵士は、何時の間にか接近したフィリの一撃で昏倒させられていた。
 
「…ふう。
 
 助かったぜ」
 
 オルフが敵を縛り上げると、エルナが簡単に止血をする。
 フィリは小銭と手頃な剣を1本奪う。
 
「はい。
 
 この隊長格の剣は使えると思うよ。
 あと、いいナイフ持ってるやつがいたから、これももらっておこうよ。
 
 命の代金と思えば、安いよね?」
 
 なかなかにフィリという少女は抜け目がなかった。
 
「お前、結構腕が立つな。
 
 大人の兵士2人を相手に、たいしたものだ」
 
 フィリはニカッと笑った。
 
「弓を修理すれば、もう少し役に立つんだけどね」
 
 この少女、特別俊敏ではなかったが、それなりの膂力があり、何より斧の扱いが実に巧みである。
 剛柔あわせ持つ戦い方は、子供とは思えなかった。
 
「ボクみたいな女の子は、多少力があっても体格負けしちゃうから、手数と小技で責めるんだ。
 
 必要なら人を殺すぐらいはやれるよ。
 そうしなきゃ、子供が戦場で生き残ることなんてできないもん」
 
 少しだけ無理をした笑顔だった。
 
「父さんを殺した兵士、ボクがこの斧で殺したんだ。
 
 獣をあわせれば、ボクの方がお兄さんより殺してるかもしれないよ。
 ふふ、あっ…」
 
 フィリを、後ろからエルナが抱きしめた。
 オルフもその頭を、わっしわっしと撫でる。
 
 2人とも、この少女の肩が震えていたことには気がついていた。
 
「無理するな。
 
 人間斬るのなんて、お前みたいな娘が慣れていいことじゃねぇ」
 
 苦笑いしたフィリは、少の間、泣きそうな顔になった。
 
「ありがとな。
 
 さぁ、他のやつらがこねぇうちに、逃げるぞ」
 
 拘束した兵士たちを茂みに隠し、
 オルフは回収した剣に持ちかえると、荷物を担ぎ歩き出した。
 
「…お兄さん、好い人だね。
 
 ボクの相棒なんて、ガサツだのガキは色気が無いだの言うくせに、助けられても小言ばっかり。
 しかも、自分の都合が悪くなるとすぅぐ女扱いだもん。
 
 そのくせ、美人に弱いし、軽いし…
 
 ほんと、組むほうは大変だよ。
 
 仲間になるなら、誠実な人がいいよね~」
 
 フィリのおしゃべりを黙って聞くオルフ。
 
「…そうね。
 
 オルフは私も助けてくれたわ」
 
 フィリの言葉に頷きながら、エルナは優しげな笑みを浮かべていた。
 
「…お嬢ちゃん。
 
 あんたの仲間との合流場所は、まだ遠いのか?」
 
 頭を掻きつつ、照れ隠しでオルフが聞く。
 
「…どうやら、合流地点まで行く必要ないみたい。
 
 アイツと私で交わした符号があったよ。
 この木、刃でつけたささくれがあるでしょ?
 
 ぴったり2つだから、こっちの方角に20歩で…
 
 ――――――19、20と、あった。
 
 ここからしばらく行った先にいるみたい。
 川の音がするから、その辺で休んでるかもね」
 
 フィリの注意力はたいしたものだった。
 何気ない木々の傷や、枝の先をしっかりと観察していたのである。
 
「…バッツ~、いるんでしょ?
 
 ボクだよ、フィリだよ~。
 
 お~いっ!
 いたら…あたっ!」
 
 飛んできた小石が頭を直撃し、フィリは涙目で呻いた。
 
「…ど阿呆!
 
 でかい声だすなっての。
 この辺、武装した兵士が何人もうろついてんだぞ」
 
 小声で、しかしかなり激昂した様子の声が木の上から聞こえてきた。
 
「いた~い。
 
 ヒドイよバッツ。
 何も石を投げなくても…」
 
 頭をさすっているフィリの前に、バンダナで額を巻いた若い男が飛び降りた。
 身軽な動作である。
 
 年の頃はオルフと同じぐらい。
 くすんだ色の柔らかそうなブロンドは丁寧に手入れされていた。
 少し軽薄そうな服装をしているが、フィリを睨む眼は鋭い。
 
「…加えて、なんだこいつらは?
 
 俺はこんな知り合いがいるなんて聞いてないぞ?」
 
 腕を組んだ男は、オルフを睨み、エルナまで目が行って硬直した。
 
「あ、いや、何というか…
 
 俺、コイツの保護者みたいなもんで、ああ、そうそう。
 つまり仲間なんですよっ!」
 
 突然態度が変わった男を、一同が注視する。
 
「…なるほど。
 
 わかりやすい奴だな」
 
 視線をエルナに釘付けにしたまま、鼻の下を伸ばしてあたふたと言い訳をしている男に、オルフは苦笑した。
 
 
「…な、なんだって!
 
 じゃあ、この綺麗な女性(ひと)はラトリアの将軍の御息女なのか?!」
 
 とりあえず、追われる立場の4人は歩きながら現状を確認し合っていた。
 
 エルナの身分を知って、男…バッツは目を丸くする。
 
「そっ。
 
 それで、ボク1人で兵士たちの包囲を突破するには、ちょっと辛かったから、西方に行く道を教えて案内するかわりに組んだってわけ。
 このお兄さん、なかなか強いよ」
 
 バッツはぎっとフィリを睨む。
 
「どうしてお前はそういうことを簡単に決めやがるんだっ!
 
 身勝手な奴だよ、まったく…」
 
 金やら、身分証やらとぼやいているバッツは、随分と神経質な性格らしい。
 
「すまないな。
 彼女には随分と助けてもらった。
 
 なんとか南に…いやイルファタルまででいい。
 協力してもらえねぇか?」
 
 バッツはぎろりと、今度はオルフを睨んだ。
 
「迷惑だと思うなら、これで別れてくれ。
 
 あんた、聞けばギマールの脱走兵だって言うじゃないか。
 あの国は逃亡兵は死刑か無期懲役だろ?
 
 しかも恩赦での兵役で脱走兵なんて、死刑確定じゃないか。
 側にいたら命がいくらあっても足りないぞ。
 
 加えて、マルディアンの兵士5人を殺してるなんて、どのはずれたバカか?
 あんたは、ギマールとマルディアンの2国から追われてるんだぞ」
 
 うっ、と言葉につまるオルフ。
 
「しかも、殺さずにふん縛った兵士がいる、だって?
 
 中途半端なことしやがって…
 フィリ、お前もだっ!
 ったく、顔を見られてるから、指名手配だぞ、お前たち」
 
 一息おき、バッツは厳しい言葉で宣言した。
 
「フィリはもともと仲間だし、な。
 女らしい格好でもさせれば大丈夫だろう。

 カーティン家のお嬢さんは、変装するか貌を汚すかすれば何とかなる。
 いざってときは、俺と夫婦だって言って、フィリを子役か俺の妹にでも役付ければいい。
 
 だが、あんたはダメだ。
 その体格じゃ、一緒にいるだけで旗もって宣伝するようなものだ。
 
 俺はあんたとはいけない」
 
 バッツの言葉は最もだった。
 オルフは溜息をついて頷いた。
 
「…分かった。
 
 もう少し行ったら別の道を行こう」
 
 冷徹にバッツは首肯した。
 
 別れを告げようと、オルフが他の2人に向き直ろうとした時、エルナがすっと歩み出た。
 
「…では、私もオルフと行くわ。
 
 お別れね、フィリちゃん」
 
 エルナの突然の言葉に、オルフは思わず振り返った。
 
「な、何言っているんですか?!
 
 こんな男といたら、逃げられるものも逃げられなくなってしまいますよ!!」
 
 随分慌ててバッツがエルナを止めようとする。
 だが、エルナは静かに首を横に振った。
 
「オルフが追われる理由の多くは、私を助けたからよ。
 そんな人を、犠牲になんて出来ない。
 
 それに、兵士たちの手当てをしたのは私。
 彼に非は無いわ」
 
 凛とした言葉で、エルナは断言した。
 
「…俺と一緒に掴まっちまったら、婆さんの犠牲も無駄になるんだぞ?
 
 それが分かってるのか?」
 
 低い声でオルフがたしなめると、エルナはしっかりと頷いた。
 
「なら、何をしたらいいのか分かるはずだぜ。
 
 それに、つまらない貴族の見栄や、同情ならいらねぇ。
 俺は俺の意思でお姫さんを助けた。
 恩なんて感じなくていい。
 
 あんたはフィリたちと行くんだ」
 
 言い含めるようにゆっくりと言葉にするオルフ。
 だか、エルナはなおも首を横に振った。
 
「貴方の意思があるように、私にも意思があるわ。
 
 それに、貴族として、同情して選んだことじゃないの。
 これは私の〈人〉としての誇りよ。
 
 もしこの尊厳を失うのなら、貴族である前に〈私〉ではなくなってしまう。
 それに、ここで貴方と別れたなら、私は必ず後悔するわ。
 
 貴方に助かってほしいというのは、私の希望。
 貴方と一緒に行くというのは、私の我侭。
 だから、見栄でも同情でもない。
 
 それに、私はマーサが守ってくれた〈私〉でいたい。
 そのために、貴方と一緒に行きたいのよ」
 
 蒼い双眸がオルフを見つめる。
 それはとても高潔な意思を感じさせる、澄んだ瞳だった。
 
(…ああ、そうか。
 
 この姫さんは、根っからの貴族なんだな)
 
 なぜ貴族が貴いのか。
 
 オルフは今まで貴族という存在を疎ましいと思っていた。
 偉そうに上から命令するだけの、略奪者。
 
 しかし、エルナはきっと本当の貴族、貴い人間なのだと素直に感じていた。
 
「…それで貴方が私を足手まといと感じたのなら、捨てて行ってくれてかまわないわ。
 
 私の考える貴方なら、きっとそんなことはしないと思うのだけれど」
 
 くすり、と微笑むエルナ。
 
「…分かった。
 
 勝手にしろ」
 
 少し呆れた貌で、オルフは苦笑しながら頷いた。
 
「…うん!
 
 じゃぁ、ボクもこんな鬼畜野郎じゃなく、オルフたちと行くね。
 バッツは1人でどこにでも行けば?
 
 バッツみたいにすぐ人を切り捨てるやつの側にいたら、ボクも切り捨てられちゃうかもしれないからね。
 …後をついてくるのは勝手だけど、邪魔しないでよね」
 
 そう言ってフィリはエルナに駆け寄る。
 バッツは開いた口が塞がらない様子で、呆然としていた。
 
 オルフには、バッツが哀れに感じられた。
 仲間のことを考えるなら、バッツの出した結論も正しいからだ。
 
「…ではバッツさん。
 
 せっかく出会えたのに、残念です」
 
 エルナは微笑んで、悪意無く止めを刺した。
 
(…痛ってぇ。
 
 あいつ、背中が煤けてやがる)
 
 すでにエルナとフィリは歩き出していた。
 オルフもそれに従う。
 
「あわわ、ま、待てよっ!!!」
 
 バッツは情けない声を上げ、慌ててオルフたちの後を追った。



 小物盗賊バッツの登場です。
 
 性格は狡猾で神経質。
 長いものには巻かれる臆病さ。
 女にはてんでだらしが無く、美人には弱い…
 
 盗賊らしいイメージを突き詰めると、こんな感じになるのかもしれません。
 
 オルフに対するバッツの反応は、非情な印象があるかもしれませんが、現実主義の盗賊らしい考え方をしているだけです。
 ただ彼の場合、慎重というよりは臆病なんですが。
 
 
 バッツはエルナに一目惚れです。
 エルナのような、綺麗で意志の強い女性はバッツの好みです。
 しかも、振り向かない女性には余計萌える厄介な性質だったり。
 
 貧乏な出自で、コンプレックスの塊です。
 繊細で神経質ですから、冷静ぶっていてもぴりぴりしてしまうことがあります。
 また嫉妬深く、男らしく信頼されるオルフに嫉妬して対抗意識を燃やします。
 
 エルナの信頼を得ているオルフのことは、ライバル視してつっかかっていきます。
 彼はある意味、パーティの中で一番人間臭い奴かも知れません。
 
 楽観的でマイペースなフィリとのコンビで、笑いも表現できたらなぁ、と思います。
 
 今回、フィリが戦闘で活躍しましたが、フィリって、ダメージ系のアクションカードとフェイントの4つ全てが緑玉適性なんですね。
 バランスよく強いので、見かけによらずかなりの戦力になります。
 一応、豪傑型だけはあるわけです。
 盗賊としての資質もあるので、万能タイプのレンジャーとしての活躍を期待しています。
 
 話を戻して、バッツのデータは以下の通り。
  
◇バツィン デル(バッツ)◇
 男性 若者 万能型

貧乏     不心得者   不実
貪欲     利己的    進取派
神経質    好奇心旺盛  遊び人
陽気     繊細     軟派

器用度:10 敏捷度:10 知力:5
筋力:5 生命力:5 精神力:4

好戦性+2 社交性+1 臆病性+2
狡猾性+2
 
 能力値の合計では一番優秀だったり…
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