Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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CWPC5:コール

 オルフ一行が、そろってラダニール地方を抜けて西のイルファタルを目指すことを決めてから、2週間が過ぎようとしていた。
 川沿いに森と山野を駆け抜ける、過酷な逃亡の旅は終わりを迎えようとしている。
 
「…あと1日も行けばイルファタルの国境だ。
 
 随分な強行軍だったが、なんとかなったな」
 
 額の汗を纏った襤褸で拭い、水袋から水を一口飲む。
 
「…はは、寒さなんてものは嫌なだけなものだと思ってたけど、水がぬるくならないのはいいよね」
 
 フィリが泥と煤で汚れた顔を拭いながら、同じように水を飲んでいる。
 
「エルネード様が山道に文句を言わなかったのはありがたかったな。
 
 これだけ無茶をしたというのに…たいした方だ」
 
 バッツが周囲を警戒しながら、呟く。
 
「ああ。
 
 だがかなり無茶をさせた。
 これ以上急ぐと、俺やフィリも持たない。
 
 しばらくここで休憩しよう」
 
 そう言ってオルフは、毛布に包まって寝息を立てているエルナを眺めた。
 
 エルナは気丈な娘であった。
 オルフでもきついと感じる速度に、歯を食いしばって付いて来たのだ。
 仲間たちも彼女の意志の強さを心から賞賛していた。
 
 このつらい現状もまもなく終わる。
 イルファタルは独立都市国家であり、軍装の兵士が入ることはできない。
 その手の軍隊をひどく嫌う国柄なのだ。
 戦争より商売と交易を重んじる海の都である。
 
「イルファタルかぁ。
 
 あそこなら、おいしい肉料理を食べられるね。
 もとは北方人の海賊たちが先祖の国だけど、気候も穏やかだし、異民族や亜人にも寛容なんだよ。
 エルフやドワーフがあんなに見られる国って少ないんだよね」
 
 イルファタルは近くにウッドエルフの集落があり、衣料品や金属と森の幸の取引をしている。
 エルフ制の弓や薬は良質で、貴重だった。
 
 加えて山岳部にはドワーフたちが住み着いている。
 彼らは優れた鉱山夫であり、良質の銀や鉄をイルファタルにもたらしていた。
 
 ラダニールやリューン近郊で強い影響がある聖北教会ではなく、イルファタルにある教会は聖海教会である。
 主に、西方南海で盛んに信仰される聖海教会だが、異国の神を聖人として取り入れるなどの柔軟性はイルファタルの気質にあっていた。
 加えてこの国では、癒しの秘蹟を多く残した聖海教会の聖女オルデンヌ縁の地だ。
 オルデンヌは、聖海で列聖された聖女であり、異教徒や異端的とされる精霊術師たち、さらには亜人との交流もあったとされる人物である。
 
 聖女の意思を引き継ぐ、というスタイルなのか、このイルファタルは異邦人や異種族にとりわけおおらかな国であった。
 独特の文化があり、旅人用の無料診療所や格安の宿、さらには異種族の職業斡旋を助ける組合などがある。
 加えて、他の地では聖北教会の影響で勢力の弱い精霊術師たちにも寛容で、彼らの聖地でもあった。
 
 イルファタルの秘境にはアヴァロニアと呼ばれる場所があり、樹海の中に大きな淡水湖がある。
 海の向こう、獅子の王が最後にいたった妖精郷に因んでいるとされ、多くの亜人や妖精が生息していた。
 そこでは、上位精霊“湖の貴婦人”モリガンと契約した大精霊術師であるアリエスがおり、水の精霊術師たちにとっては一大聖地である。
 アリエスは来る者を拒まず、出会えればその精霊術を授けてくれるという。
 
「争いなき、自由の国か。
 
 早く見てみたいものだな」
 
 オルフは空を仰ぎ、夢の都と聞いているイルファタルを思った。
 
「…ま、そんなにいい国でもないさ。
 
 あんまり期待すると肩透かしを食らうぞ。
 あの国でも、今じゃ人口が増えすぎて、人間と亜人の諍いがよく起きるし、精霊術師同士の主義の違いから小規模の小競り合いが起きることもある。
 
 イルファタルじゃ、シャーマン、つまり精霊術師は一種の特権階級さ。
 坊さんと同じように権力に固執する奴や、細かい儀式や主義を周囲に強制してあおる馬鹿もいる。
 さらには、魔法使いや呪術師がそれにからむからな。
 
 迷信深い国ってのも、考え物だよ」
 
 バッツは肩をすくめる。
 
「初めてあの国に入ったときは、俺が額に巻いてる布が悪い色だって、変な爺さんと取り巻きにつかまって訛りの強い言葉で1刻も説教聞かされたしな。
 あれにはまいったよ」
 
 額のバンダナをなでながら、バッツがぼやくと、フィリが二へへと笑う。
 
「結局、あのときは途中で逃げちゃったんだよね。
 
 また捕まらないように、気をつけなきゃ」
 
 にぎやかに話しながら、一行は和やかに休息した。
 
 
 さらに一週間後、一行は無事イルファタルの国境を越えることができ、国内をさらに西に進んでいた。
 
 この国の国土は狭い。
 しかし、様々な亜人や妖精の住む森や平原に面し、そういった独立した場所との同盟関係を勢力図にすれば、ちょっとした大国を凌ぐ広さになる。
 豊かな緑と、北方特有の寒冷な気候。
 聖北教会ではなく、聖海教会が強い勢力を持ち、様々な宗教や種族、文化の坩堝である。
 
 この国ではとりわけ魔術師や精霊術師が多い。
 妖精や亜人と共に精霊術を学び、自然と生きる者たちや、自由な国風に学問の自由を求めて集結した隠者たち。
 
 混沌としているが、束縛の無い場所である。
 
 だが、そういった文化圏ではならず者も多い。
 海賊まがいの蛮行で生計を立てる荒くれ者や、南で犯罪を犯し逃亡してきた者、外道の魔術に手を出して国を追放された呪術師。
 そういったものたちも流れてくる場所だった。
 
 北方の重要な港を持ち、自由な文化であるがゆえの弊害である。
 
 一行は、様々な文化の入り乱れる賑やかさに目移りしながら、今日の宿を探していた。
 
「…聞きしに勝る盛況ぶりだな。
 
 こんな賑やかな街は初めてだ」
 
 感心したようにオルフが呟く。
 
「田舎者丸出しだぞ。
 
 リューンにいけばもっと賑やかな場所もある。
 ま、ここほどごちゃごちゃした街じゃないがな」
 
 いつの間にか手に数本の肉串を持ち、仲間に配りながら、バッツが要所を説明してくれる。
 
「あそこが賢者の学院。
 
 西方のカルバチアよりは小さいが、集まってる人材は一級だって話だ。
 噂じゃ、空から星を降らす術を収めた大魔術師がいるって話だがな。
 
 で、あれが精霊宮だ。
 この街の精霊宮はリューンより大きい。
 ま、精霊術師やエルフがたくさんいるから、当たり前なんだろうが。
 
 あっちがこの国で最大の聖海教会の聖堂だ。
 聖オルデンヌ教会って言うんだ。
 
 昔話があってな…
 ずっと昔にオルデンヌっていうすごい聖女様がいて、たくさんの人を救ったが、聖女様は若くして亡くなってしまうんだ。
 残った僧侶たちは聖女様から奇跡を戴こうと、その御遺体をめぐって言い争うんだが、突然大風と共に現れた妖術師が聖女様の御遺体を盗んでしまったんだ。
 困り果てた僧侶たちは、聖女様が纏っていた僧服を棺におさめて、このことを嘆いたんだが…
 その棺の下から突然水が湧き出し、その水は人の難病を癒したんだそうだ。
 後の人々は、聖女様の魂はここにとどまって人を守ってるんだと感動し、ここにあんな大聖堂を建てたってわけだ。
 
 残念ながら、その湧き出した泉は聖域で入れないし、泉の水は万能の薬とかで教会が高い寄付金と交換に売ってくれるらしいけどな。
 
 なんでも聖女オルデンヌは聖海教会で、異教や精霊信仰とともに歩んでいくことを主張する穏健派では有名な聖人らしくてな。
 女だから、教会の派閥によっては列聖をどうするか諸説あるんだが、人気のある偉人らしいよ」
 
 オルフが感心して頷く。
 
「ふふん、知ってるんだよ~。
 
 バッツ、エルナさんにいいとこ見せようとして、徹夜で覚えたんだよね、それ」
 
 青筋を立てて怒るバッツから逃れ、フィリが舌をだしてからかう。
 
「ふふ、それでもこれだけのことを一晩で調べるなんてすごいわ。
 
 聖女オルデンヌ。
 教派は違うけど、その行いの素晴らしさは聞いたことがある。
 
 聖北教会にも、彼女のような人物がいたら、歴史も変わっていたでしょうね」
 
 眩しそうに大きな聖堂を見上げながら、エルナは遠い目をした。
 
 
 しばらく行くと噴水に行き当たり、そこで一行は一休みすることにした。
 バッツとフィリは宿を探すといって、オルフとエルナをここに待たせている。
 
 噴水の縁には2人の先客が座っていた。
 
 1人は杖を持ち、複雑な刺繍の長衣を纏っている。
 淡いブロンドの髪と、尖った小さな耳。
 
(ありゃ、ハーフエルフってやつか?
 はじめて見たぞ…)
 
 その男は長衣から小さな本を取り出し、一心不乱に読んでいる。
 
 ハーフエルフとは亜人とも妖精とも言われるエルフという種族と人間の間に生まれる混血種である。
 エルフほど長命ではなく、人間ほどがっしりした体格ではない。
 二つの種族の特徴を中途半端に持っている。
 場合によっては鬼子として迫害されるが、このイルファタルでは普通に過ごしているのだろう。
 
 興味深げに観察していると、その男が不意に顔を上げて迷惑そうにオルフを睨んだ。
 神経質そうな顔立ちである。
 
 オルフはばつの悪そうな顔でごまかし笑いをすると、もう1人の男を観察することにした。
 見るとエルナは、じっともう1人の男の方を見つめている。
 
 興味をそそられ、オルフがその男に視線を移す。
 
(…こりゃまた。
 
 なんかやつれちゃいるが、すごい美男子だな)
 
 まるで噴水と一つになったように、泰然としているその男は、目の覚めるような美青年だった。
 
 無頓着な髪型だが、白い肌にはえる青黒い髪。
 髪と同じ神秘的な深い色の瞳。
 すっと整った鼻梁、凛々しい口元の造形は端整で、女性もたじろくような美貌である。
 背が高く股下の足も長い。
 引き締まった筋肉と広い肩幅は美しさとは別に、この男をより男性らしく見せていた。
 
(ま、エルナも女の子ってことだな。
 
 あれだけ美形なら、若い娘は騒ぎ出すだろう)
 
 ほほえましい心持でエルナを見る。
 だが、エルナは見惚れてぼんやりしている様子はなく、どこか心配そうに男を眺めていた。
 
「…どうかしたのかエルナ?
 
 あの男にあやしい点でも…」
 
 オルフが小声で聞くと、エルナは首を横に振った。
 
「あの男の人、苦しそうだわ。
 
 額に脂汗をかいているし、マントで隠しているけど胸を押さえているの。
 顔も少し蒼白だし、どこか具合が悪いのかしら?」
 
 オルフはエルナの慈愛深さを見くびっていたことに反省し、あらためて男を見た。
 最初から美しさと一緒にやつれた印象のある青年だった。
 
 よく見れば男はただでさえ白い肌から、さらに血の気を失っている。
 唇は艶を失い、肩が小刻みに震えていた。
 よほどの苦痛を耐えているのか、噛み締めた唇から血がにじんでいる。
 
「ありゃ、そうとう悪そうだな。
 
 声をかけてみるか?」
 
 エルナが頷いて立ち上がる。
 彼女が青年に近づき、声をかけようとした、まさにその時…
 
「あ、暴れ馬だぁ~!!!」
 
 周囲がにわかに騒がしくなり、オルフとエルナは思わず騒ぎの起こっているほうに注目した。
 
 一頭の黒い馬が、よだれを垂らしながら全速力で走ってくる。
 周囲のものをことごとく踏み砕く、ものすごい勢いだ。
 その先は丁度、エルナがいる場所である。
 
(まずいっ!)
 
 あっけに取られた数秒、動き出す反応が遅れてしまった。
 エルナがはっとしたとき、すでに暴れ馬は彼女の間近に迫っていた。
 
(くそっ、間に合わねぇ!!!)
 
 必死で駆け寄ろうとするが、すでに遅かった。
 暴れ馬は前半身を振り上げ、邪魔なエルナを蹴り倒そうとした。
 
 反射的に目を閉じるエルナ。
 誰が見ても手遅れだった。
 
 馬の蹄が振り下ろされ、もうもうと土埃が舞う。
 
「《眠りをもたらす白雲よ、抱いて沈めまどろみの底に…眠れっ!!!》 」
 
 少し高い男の声。
 土煙の中から現れた黒馬は、よたよたと数歩進んで崩れるように倒れた。
 
「エルナァッッッ!!!」
 
 絶望的だと知りつつ、オルフは纏った襤褸で土煙を払いながらエルナのいた場所に駆け寄った。
 周囲の者たちも騒ぎを聞きつけて走ってくる。
 
 数人が馬を取り押さえ、他の者たちがオルフに続いた。
 
 
 エルナは目を閉じた瞬間、大きな何かに包まれたような気がした。
 
 いつまでたっても襲ってこない痛み。
 とても力強い、暖かな感触。
 土の匂いの混ざった、どこか安心できる薫り。
 
(お父様…)
 
 小さな頃によく抱き上げてくれた、大きな腕。
 父の抱擁を受けているような安堵感。
 
 エルナはその安らぎの元を知ろうとして、目を開けた。
 
 彼女はしっかりと抱きかかえられていた。
 決して不快ではない汗のにおいと、顔の触れている皮の外套の感触。
 
 彼女が顔を上げると、先ほど苦しそうにしていたあの青年が、心配そうにエルナを見下ろしていた。
 
 ポタリ…
 粘ついた赤いものがエルナの頬を濡らした。
 
 青年の額が浅く裂け、血が頬を伝わりエルナに降りかかったのだ。
 
「…すまない。
 
 顔を汚してしまった」
 
 青年は苦笑いすると、そっとエルナを立たせてくれる。
 そして、いささか乱暴に自身の額の傷を手ぬぐいで拭くと、さっとそれを巻き、服のすそでエルナの頬に付いた血を拭いてくれた。
 
「…あっ」
 
 エルナが何か言おうとする前に、青年はそれを制するように言葉を発した。
 
「ああいう時、目を閉じてはいけない。
 
 賑やかなところほど、馬による事故は多いからな。
 女でも子供でも、巻き込まれることだから、気をつけたほうがいい」
 
 青黒い瞳の青年は、優しげに微笑むと踵をかえした。
 
「待ってくれっ!」
 
 そこに、事情を察したオルフが駆け寄ってくる。
 そのときには、土埃はたいがい晴れていた。
 
「すまねぇ。
 
 連れが助けられたな。
 恩に着る。
 
 …怪我したのか?」
 
 オルフは簡素だが心から礼を言い、あらためて青年が血の滲んだ手拭を額に巻いていることに気がついた。
 
「大した傷じゃない。
 
 それより、その女性に怪我が無いか確認したほうがいい。
 どこか打ち身でもあれば、後で腫れる。
 
 それに、礼をいうのは俺だけでは不足だ。
 後ろの御仁が魔術を使ってくれなかったら、もっと惨事になっていたかもしれんからな」
 
 そう言って、青年は、先ほど【眠りの雲】の魔術を用いて暴れ馬を眠らせた、ハーフエルフの男に軽く会釈をした。
 
「…大事にならなくてよかったです。
 
 そちらの女性は大丈夫ですか?」
 
 紳士的で上品な口調だった。
 少し顔が上気しているのは、エルナの美しさを目の当たりにしたからだろうか。
 
「はい、私は平気です。
 
 助けてくださってありがとうございます」
 
 エルナが頭を下げると、ハーフエルフの男は、白い顔を真っ赤にしてしどろもどろに、当然のことをしたまでです、と答えていた。
 
「ありがとうよ。
 
 正直、あの馬が前足を振り上げたときはだめかと思ったぜ」
 
 オルフも頭を下げて礼を言う。
 
「いや、無事で何よりです。
 
 それより、そこの方は怪我をされたようですが…」
 
 ハーフエルフの男は照れ隠しか、話題を青年の方に振った。
 
 先ほどの傷は塞がっていないらしく、手拭いに滲んだ血の染みが広がっている。
 
 青年がまた大丈夫だと言おうとした時、エルナが側により、聖句を唱えて手を青年の傷痕にかざした。
 痛みが引いたことに少し驚いた青年は、手拭いを取る。
 額の裂傷は綺麗に消えていた。
 
 さらにエルナは聖句を唱え、そっと青年の胸に触れる。
 少し青ざめていた青年の顔に、血色が戻ってきた。
 
「…ありがとう。
 随分楽になった」
 
 今度は青年が礼を言った。
 
「あんた、さっきから調子が悪そうだったが、病気か?」
 
 オルフが尋ねると、青年は苦笑して首を横に振った。
 
「己がいたらなかった代償だ。
 
 寒さがどうもいけないな。
 いつもは休んでいればおさまるんだが」
 
 そのとき、はらりと青年の腕から何かが落ちた。
 黄ばんだ木綿の布だ。
 両腕にそれを巻いていたのだが、片方がさっきの衝撃で切れてしまったのだろう。
 
 そして覗いた青年の地肌。
 
 エルナは衝撃を受けて両手を握り締めた。
 
(…こりゃ、ひでぇ)
 
 オルフも思わず顔をしかめた。
 
 うじゃじゃけた傷痕。
 肉の盛り上がって治りかけてはいるが、一生その傷痕は消えないだろう。
 ケロイド状に腕を抉っているその傷は、縄のようなものが肌に食い込んで化膿した痕だ。
 
「すまない。
 
 見苦しいものを見せてしまった」
 
 また苦笑して、傷痕を隠す。
 青年はあらためて自身の不調まで治してくれたことに感謝の意を示し、エルナに礼を言うと立ち去ろうとした。
 
「待ってくれ。
 
 俺はオルフ、ラインドの子、オルフだ。
 名を尋ねてもかまわないか?」
 
 オルフが呼び止めると、青年は振り返って、少し考えるように天を仰いだ。
 そして、まっすぐにオルフを見据える。
 
「シグルト。
 
 俺には分不相応だが、親から貰った名前だ」
 
 男は伝説の龍殺しと同じ名を名乗り、一礼して去って行った。
 
「…絵になる方ですね。
 
 ああいうのを勇者と言うのでしょうか」
 
 ハーフエルフの男がため息混じりに呟いた。
 
「…あんたにも名を尋ねていいかな?
 
 もう一度名乗れといえば、あらためて名乗るが?」
 
 オルフがそういうと、男は名乗りは不要だと首を振った。
 
「私はコールディン バラルズ。
 
 このイルファタルで商人をしている者の息子です。
 もっとも、私は商人の道ではなく、知識を求める賢者を志していますが。
 
 見ての通り、エルフの血を引いています。
 
 どうやら先ほどの不躾な視線は、差別の目ではなかったようだ。
 貴方の礼節に免じて、あの無礼は許しましょう」
 
 やや高慢な態度であるが、上品な男であった。
 
「すまねぇ。
 
 何分田舎者だから、エルフやハーフエルフを見るのは初めてだったんだ。
 俺は東のラダニール出身なんだが、あそこは妖精とか魔法とかは珍しいんだよ。
 
 俺に字を教えてくれた人が、エルフもハーフエルフも魔術師もおんなじ地上に生を受けた命だから、偏見を持つなって教えられてたが、物珍しいって気持ちはどうにもならなくてな。
 
 気分を悪くしたなら謝るよ」
 
 オルフのような大男が、頭をかきながら謝ると実に滑稽だった。
 男は愉快そうに微笑むと、許します、と頷いた。
 
「ところで、あなた方はなぜこんなところに?
 
 随分前からこの噴水にいたようですが…」
 
 男の問いに、オルフは宿を探しにいった仲間を待っていると答えた。
 そして、東からわけあって流れてきたことと、南のリューンを目指していることを告げる。
 
 男は興味深そうに聞いていた。
 
「なるほど。
 
 そうなると、船を探さねばならないでしょう。
 私の父の商会はリューンとの交易に関わっています。
 もしよかったら、私が間に立って差し上げましょう。
 
 知り合った以上、最後まで義理を尽くすことが私の母から受けた教えなのです。
 御婦人には親切にすることも。
 遠慮は要りませんよ」
 
 渡りに船の話に、オルフは感激して何度も礼を言った。
 エルナも感謝の言葉を述べる。
 
「待ってください。
 
 その代わりといってはなんですが、私も貴方たちにお願いしたいことがあるのです」
 
 交換条件を提示されて、オルフとエルナは顔を見合わせた。
 
「何、難しいことではありません。
 
 私もリューンに行きたいのです。
 あの都市はこのイルファタル以上に大きく、大きな図書館もあるとか。
 何かの機会に、リューンに行けるように父に頼んでいたのですが、一人ではだめだと頑固でしてね。
 
 同行者として船に乗っていただく…それが条件です。
 貴方のような立派な体格の男性が一緒なら、父も納得するでしょう。
 
 私も成人して随分立つのですが、父の過保護ぶりにはいささか閉口しているのです。
 私は新しい知識を求め、新しい世界に旅立ちたいと日々願っているのですが」
 
 そう言って男は空を見上げた。
 
「私のことはコールと呼んでください。
 
 よろしくお願いします」
 
 再び視線を2人に戻し、男は自身の尖った耳の先を軽く撫でた。

 
 
 少し長くなってしまった、コールの登場の話です。
 ハーフエルフの魔術師という、ファンタジーではありふれた存在ですが、大体が迫害+暗い過去というパターンになるので、違う場所で違う扱いの登場をさせました。
 
 舞台となってるイルファタルは北方の海沿いにある寒い港という設定です。
 妖精たちの集落が近く、精霊術師の地位が高くて、異種族に対する偏見が少ない場所。
 混沌としている文化の坩堝で、独特な雰囲気の街です。
 
 コールはそんな国の一商人がエルフの娘に惚れて、必死にアプローチして結婚し生まれました。
 父親は、それはもう目に入れても痛くないぐらい息子を可愛がり、年代が大人になった今も過保護に口を出す、という、ハーフエルフには普通ありえない幸せな家庭の出身です。
 
 それゆえか高慢で我侭で、利己的な性格になってしまいました。
 他人との馴れ合いは嫌いですが、フェミニストで、困った女性を放っておけません。
 
 かなり狡猾で、上品な紳士の顔の裏で、人を出し抜く商人の狡猾さを秘めています。
 本質はものすごい行動的で感情的。
 イルファタル人らしく、自由を愛し、束縛を嫌います。
 
 その過激ぶりは、だんだん明らかになっていきます。
 反面シャイなところもあって、人に接するときは頭であれこれ考えています。
 
 一言で言うと複雑な性格です。
 冷静ぶった上品で過激な控えめにもなれる策士。
 
 その性格破綻振りは後々明らかになるでしょう。
 仲間たちも、彼の性格の起伏の激しさに翻弄されると思います。
 
 ただ、頭はとても切れます。
 

◇コールディン バラルズ(コール)
 男性 大人 策士型

秀麗     裕福     不実
猪突猛進   利己的    混沌派
神経質    無頓着    過激
悲観的    勤勉     内気
地味     高慢     上品
繊細     ひねくれ者  名誉こそ命
 
 
器用度:4 敏捷度:7 知力:11
筋力:3 生命力:3 精神力:4
 
好戦性+1 内向性+1 臆病性+2 慎重性+1 狡猾性+1
 
 読めない性格にしようとしてたらすごいことに。
 彼がヒステリックに突然切れるシーンも、時折出てくると思います。
 
 
 今回、リューンに来る前のシグルトが登場してました。
 この頃は、まだ治りかけで、体の不調が酷かった頃です。
 時節は冬、つまりシグルトが宿に来るのは夏ですから、かなり前になるわけですね。
 このイルファタルから船でリューンまで何日もかかるのです。
 
 オルフやエルナと運命的な出会いを果たすわけですが、彼らのかかわりもリターンリプレイでは表現していくつもりです。
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この記事のコメント

TRPGしたら楽しいストーリー作って下さりそうですね(^-^)
2007-04-20 Fri 18:57 | URL | にゅう #NkOZRVVI[ 編集]
 はじめまして、にゅうさん。
 
 私は一応TRPGの畑、出身です。
 大学時代はそういうサークルに入ってましたし、ソードワールドとか、旧(ツクダホビー版)ブルーフォレスト物語とか、ギア=アンティークとかやってました。
 
 カードワースはメンバーがいなくてもできるので楽しいです。
 
 TRPGお好きですか?
 私もまたやりたいと思ってますが、けっこう年ですからねぇ。
 
 またよかったらいらしてください。
 では。
2007-04-20 Fri 19:38 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]
こんばんはm(__)m
横レス申し訳ありません。
TRPG過去に、一度だけ(二度かも?)やったのですが、中々面白かったです。
私も、またやってみたいですね~
カードワースTRPGとか、出来たら楽しそうです(^^)

2007-04-21 Sat 21:24 | URL | らっこあら #mQop/nM.[ 編集]
 カードワースはかなりソードワールドTRPGに近いので、ルールやシステムをいじればそれでできそうな気も…
 
 仲間を集めてわいわいやるのは、TRPGのよいところです。
 GM(ゲームマスター)も何度かやりましたが、やっぱりプレイヤー、やりたいなぁ。
 
 ダイスを振る緊張感をなんとなく思いだします。
 
 やれるお仲間がそばいるならすぐできます。
 楽しいですよ、TRPG。
2007-04-21 Sat 21:43 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]
Y2つさん、はじめまして。
鈴鳴らす金色の狐と申します。

こちらのブログはMartさんのブログと並んでいつも拝見させて
頂いております。
シグルドたちの英雄譚、続きがとても楽しみです。

さて、この度こちらに書き込みましたのは、
当HPでもリプレイを書こうと思いまして、その際Y2つさん
(と、Martさんの設定でもあるのでしょうか)の一部をお借りする
かもしれませんので、ご報告にあがりました。

具体的にはPC1と2の出身として、東方に所謂ビザンツ相当の
帝国をでっち上げようと思っていまして、そちらの設定をお借り
することになるかもしれません。

一応、許可を頂きたく書き込みさせていただきます。
それでは、失礼致します。
2007-04-22 Sun 02:52 | URL | 鈴鳴らす金色の狐 #PUKLkuOc[ 編集]
 鈴鳴らす金色の狐さん、はじめまして。
 
 カードワースのリプレイを書いてくださる方が増えるのは、とても嬉しいことです。
 他の方の冒険というものにはいつも好奇心を刺激されます。
 
 私のところの設定が役に立つのであれば、どうぞお使いください。
 アレトゥーザ関係の設定は、Martさんと相談しながら少しずつ暖めたものです。
 Martさんにも御報告いただければ幸いです。
 
 私も中東~中原間に帝国を一個考えていました。
 セレスティア帝国という国で、現皇帝はロイエンストルムⅠ世。
 武帝と称される名君で、父親が行った軍事拡張路線でおきた紛争による危機を、彼が後を継いですべて平定し、圧制を止めて国政の安定を行った名君と言う設定です。
 実は昔、ジーク・ロイという名前の冒険者として、ラダニールに登場する“北の麗賢”エルデリーダや、“南の聖賢”と呼ばれる、聖北教会の現枢機卿とともに、武者修行していた過去を持つ型破りの人物です。
 この皇帝には愛妻と二人の子供がおり、特に姉で第一皇女のリーゼンロッテ=アリエル=エヴァ(略名です。本当はもっと長い名前…リーゼンロッテ=アリエル=ラ・セレスティアル=エヴァスティーネ…なのですが…国民にはエヴァ聖皇女と呼ばれています)は聖女の資質を持った絶世の美(少)女として、国民にとても愛されています。
 昔の恨みで戦争を仕掛けてくる輩から国を守り、冒険者時代に築いた人脈と経験を生かして商業や農業を発達させた、中興の皇帝として、ロイエンストルムⅠ世は尊敬されています。
 
 この帝国には〈聖央教会〉という小規模な教会の総本山があり、博愛と慈愛を重んじています。
 リーゼンロッテ=アリエル=エヴァはこの教会で洗礼をうけて、その教えを説いています。
 ちなみに〈聖央教会〉は、Martさんのシナリオに登場する〈聖海教会〉と同じように土俗の宗教との協和を模索するタイプの教会ですが、より癒しと救済に力を入れており、攻撃型の秘蹟(神聖魔法?)が一切ありません。
 アンデッドは昇華救済、異教徒には緩やかに教えを説き、来る者は拒まず、去る者も追わない…文化のぶつかり合う土地柄なので、その上で発達した、ある意味では伝道力が緩やか過ぎると言えなくもない教派です。
 
 変にかぶるといけないので、簡単にのっけておきますね。
 
 設定狂なので…すみません。
 
 
 鈴鳴らす金色の狐さんのリプレイ、楽しみに公開を待たせていただきます。
 こんな文字ばっかりのブログですが、よかったらまたおいでくださいね。
 
 では。
2007-04-22 Sun 09:18 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]
こんにちはm(__)mTRPG、ダイスを振る緊張感も、素晴らしいですが、役になりきるところも好きです。
自分は、昔役者志望だったことがあるので、キャラを演じるのが楽しいです♪
自分の性格とそっくりなキャラもいいですけど、正反対や、やや違う感じのキャラを演じるのも楽しいです♪

私のところから、そちらへでしたら、お邪魔できる距離ですね・・・
CWシナリオの作者さんたちと、TRPGやったら凄く楽しそうです(^^)
ではでは、失礼いたしますm(__)m
2007-04-22 Sun 17:18 | URL | らっこあら #mQop/nM.[ 編集]
 TRPGはゲームマスターを含めて人数が5人ぐらいいないと、面白みがないですからね。
 ちなみに、私の住居周辺でTRPGをやりそうな友人はいません。
 
 加えて、現代のTRPGを私はあまり知りません。
 TRPGから離れて随分たつので、どうなってることやら。
 
 やりたいのですが、メンバーが同じ時間にそろってやることは結構難しいですね。
 それでも、オフ会みたいに集まって、TRPGするのは楽しそうな気がします。
 
 それこそ、私は男に女に子供もロールプレイしたことがありますが、昔のようにできるかなぁ、とも思ってしまいます。
 
 仕事を持つと、昼間はなかなか思うように時間が取れないんですよね…
 これが一番障害かも。
2007-04-22 Sun 18:30 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]

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