Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

『ブリュンヒルデ』

 その娘は、颯爽と王宮の廊下を歩いていた。
 
 煌びやかな夜会用の礼装に身を包み、手には白を基調とし、宝石で飾った絹の手袋。
 その格好から、身分の高い貴族の子女であることが推察できる。
 
 柔らかに波打つ黄金の髪。
 慎ましく服の間から覗く肌は、北方人のそれの中でも際立って肌理細やかで白い。
 アーモンド形のやや切れ長の瞳は、鮮やかなエメラルドグリーンで、知性と意志の強さを秘めた強い光を湛え、輝いていた。
 上質の絹で出来た夜用の礼服に包まれた肢体は、しなやかでほっそりとしていながら、女性特有のなだらかな曲線も備え、瑞々しい魅力を放っている。
 すっと通った鼻梁。
 その彫の深い端整な顔は、名工の造る女神像を連想できるだろう。
 身体からは、甘い花の芳香。
 薔薇色の唇が、宮廷に満ちた冷たい夜気を温かな吐息に変え、艶かしく呼吸する。
 
 この娘の名をブリュンヒルデという。
 
 このシグヴォルフ王国の伯爵の令嬢で、その美しさはまさに国の至宝とも謳われる絶世の美女であった。
 美男美女が多いこの国において、ブリュンヒルデのそれはさらに抜きん出たものだ。
 
 今年で16歳になるが、10代になった頃からすでに求婚者が後を断たなかった。
 
 だが、この娘の本質は美しさだけではない。
 
 自ら学問や礼法を率先して学び、その教養も他の同世代の娘たちのそれを遥かに凌いでいる。
 溢れるような気品と、それを磨き上げた者だけが持つ、輝くような存在感。
 
 すれ違う男も女も、その美貌と魅力に見とれて歩みを止めていた。
 
 内心そういった視線を煩わしく感じながらも、ブリュンヒルデは完璧な所作で行き交う人々に会釈し、歩いて行く。
 やがて、人のいないテラスを見つけたブリュンヒルデは、滑るようにそこに向かい、夜の噴水を眺めながら深いため息を吐いた。
  
 今夜だけで20人以上貴族の男に呼び止められ、そのほとんどが求婚か、彼女の気を惹こうというものだった。
 貴族たちの話は、自分の家の格式や財産を自慢し、それがいかにブリュンヒルデを娶るために相応しいことか、という自慢話ばかりである。
 うんざりとした気持ちになったブリュンヒルデは、適当な理由をつけて彼らから離れ、人気の無い場所を探していたのだ。
 
 ブリュンヒルデ。
 その名は、伝説の竜殺しを愛した戦乙女…女神にちなんだものだ。
 戦いの女神とされる戦乙女であり、主神の娘である12姉妹の筆頭とされる。
 炎のように竜殺しの英雄を愛し、そして悲恋に身を焼き焦がした戦乙女。
 
 ブリュンヒルデは、同じ名のその戦乙女の叙事詩が好きだった。
 そしていつも思うのだ。
 自分も、身を焦がすような恋をしてみたいと。
 
 だからこそ、ブリュンヒルデは自分が愛するに相応しい男性の出現を望んでいた。
 強く、優しく、そして勇敢で高潔な勇者の出現を。
 
 見目麗しいだけの男はいる。
 しかし、ブリュンヒルデが心引かれる勇気と強さ、そして何より共に歩みたいと思える内面に優れた男はいない。
 もし現れれば、身も心も尽くそうと決めているブリュンヒルデだが、その目に適う男は現れなかった。
 
 強さと言えば、先ほど式典の警備をしていたアルフレト男爵の息子で、若い騎士では最強の誉れの高いベーオウルフがいるが、遠目に見て陰気な雰囲気を纏うその男をブリュンヒルデは好きになれなかった。
 他に強さを自慢する貴族といえば、野卑な男たちがほとんどだ。
 
 彼女の友人に言わせると、ブリュンヒルデはロマンティストで理想が高すぎるのだという。
 
(生涯を共にする男性よ。
 
 理想が高くなっても当然だわっ!)
 
 心の中で小さく憤り、ブリュンヒルデはまた悩ましい吐息を吐いた。
 
 家柄や容貌よりも、ブリュンヒルデが求めているのは内面だ。
 卑屈でなく清廉で、なにより勇敢で曲がらない意志。
 
 正直、ブリュンヒルデは、自分と同じ名の一途な戦乙女は好きだが、忘れ薬を飲まされて彼女を裏切ったという竜殺しの英雄は嫌いだった。
 
 物語は、竜殺しの死をもって完全な悲劇へと向かう。
 戦乙女は、竜殺しの英雄との永遠の愛のために、自らも後を追って炎に身を投げるのだ。
 
 英雄に真の愛情さえあれば、あのような悲劇にならなかったのではとさえ思う。
 ましてやその英雄は、物語の中で他の男に与えるために、戦乙女を屈服させるのだ。
 どんな理由であれ、その裏切りは許せないといつでも思う。
 
 だからこそ、ブリュンヒルデは、何者にも負けない意志を持った男性を理想としていた。
 容貌など、目をつぶせば気にならない。
 でも、心は共に居れば隠せないだろうから。
 
 ブリュンヒルデが再度溜め息を吐いていると、彼女の居るテラスに貴族の娘が1人現れた。
 
 けばけばしい派手な礼服に身を包んだその娘は、好奇心が強くお喋りで有名だ。
 ブリュンヒルデも何度か話したことがあるが、その度に、この娘の早口に閉口させられた。
 
「あら~、ブリュンヒルデ様!
 
 こんなところでお1人でいらっしゃるなんて、具合でも?」
 
 心の中で、貴方が来るまではまだ少しはよかったのよ、と毒づきながら、ブリュンヒルデはそれを感じさせない柔らかな微笑みを浮かべた。
 
「今晩は、フィロメーラ様。
 
 少し夜気に身を任せていたのですわ。
 どうも、祭の熱気にのぼせてしまったようです。
 
 少し休んだので、もう楽になりましたわ」
 
 そう言って会釈をすると、捕まらないうちにと、場を去ろうとする。
 
 しかし、その娘は素早くブリュンヒルデの前に回りこむと、早速お喋りを始めた。
 
「では、もう少しお休みになってはどうでしょう?
 
 実は、良い葡萄酒が手に入りましたのよ。
 よろしければ、式典が始まるまで御一緒にどうですか?
 
 ええ、もちろん従者に持ってこさせます。
 御遠慮はなさらないで。
 杯も最高のものを用意致しますわ。
 
 本当に美味しい葡萄酒ですのよ?
 それに、ブリュンヒルデ様の美しさは、お酒で白い肌を情熱的な赤に染めれば、また一段と輝くと思うのです。
 
 あら、もちろん普段から美貌で名高いブリュンヒルデ様ですもの。
 そのような小細工など必要ないでしょうけれど。
 
 でも、ますます殿方の視線を釘付けに…あらはしたないことを申しましたわ。
 
 私ったら…」
 
 何か理由をつけて去ろうとブリュンヒルデが、その娘に見えないように手袋で隠しながら口端を引きつらせていると、その娘が思いついたように手を打った。
 
「あらいけない…
 
 私ったら、噂のシグルト様を探すつもりでいましたのに、ブリュンヒルデ様と出会ってしまって、つい話し込んでしまって。
 お許し下さいね」
 
 娘の口から出た名前に、ブリュンヒルデの瞳が好奇に輝く。
 
 シグルトとは、ブリュンヒルデ…彼女と同じ名の戦乙女が愛した竜殺しの英雄の名なのだ。
 
「そのような名の方がいらっしゃるの?
 私、そういった噂には疎いもので…
 
 無知ゆえの恥を忍んでお尋ね致しますけど、その殿方とは?」
 
 大抵の貴族の若者とは、求婚されたり、社交の場で会って話している。
 それに多くの男たちは、ブリュンヒルデと話すことにやっきになるのだ。
 
 そんなブリュンヒルデが知らない男のことである。
 
 貴族の娘は、少し考えた様子だったが、お喋りの虫が騒いだのか、やがて話し始めた。
 
「ええ、御存じないことでしょう。
 
 その方は貴族とはいっても、身分がちょっと…その、男爵家の御次男で、大きな声では言えないのですけれど、男爵様の後妻となられた方のお子なのです。
 貴族の社交場にもめったにこられないですし。
 
 でもお血筋は、本来であれば王家に連なる名門のものですのよ。
 かのワルト領公爵家のお血筋、と言えばお分かりになるかしら?」
 
 この娘のお喋りも、たまには興味深いものがあるものだと、ブリュンヒルデは目を細め、彼女に頷いた。
 
「なるほど。
 
 では件の殿方は、アルフレト男爵の後添いになられた、あのオルトリンデ様の御子息、ということですのね?」
 
 オルトリンデ。
 その名は、美女と噂されるブリュンヒルデだからこそよく聞き知っていた。
 
 この国の建国王シグヴォルフ。
 その弟シグヴァイスの血筋であった、ワルト領の公爵家は、特別な家であったのだ。
 公爵家は、自殺が大罪とされるこの国で当主である公爵とその妻の自殺したことにより、一度取り潰されてしまったが、公爵夫妻の一人娘であったオルトリンデは、美女として知られた女性だった。
 ブリュンヒルデは、オルトリンデと噂でよく比較されたので、何度もその名を聞いている。
 
 そして、ブリュンヒルデはオルトリンデを羨ましいとも感じていた。
 
 アルフレト男爵と、悲劇の令嬢オルトリンデの恋の物語は、宮廷詩人たちが好んで話題とする話でもある。
 
 冷たい妻との生活に疲れていた王国最強の騎士アルフレトが、森で運命的にオルトリンデと出会い、汚名をかぶってもオルトリンデを守って、最後には手柄を立てて女性の名誉を回復し、幸せに暮らすという話。
 
「シグルト様は、御察しの通りアルフレト男爵様とオルトリンデ様の御子息なのです。
 
 10歳までは平民として過ごしていたのですが、今では名誉を回復されたオルトリンデ様と一緒に、貴族になられたのですわ。
 宮中には、めったにこられないのですけれど、その武勇は騎士でも最高と名高い兄のベーオウルフ様にも匹敵する、槍の使い手だとか。
 
 しかも、お母上譲りの妖精のような美貌で…
 一度遠くからお顔を拝見したときなど、息を呑んでしまいましたの。
 
 まるで物語にあるような、本当にお綺麗な方ですわ。
 
 此度の式典では、兄上のベーオウルフ様が王宮警護役の1人となられたので、足の不自由なお父上の代理として式典に参加されるとの噂。
 是非もう一度お会いしたいと…」
 
 思い出すように頬を染めて話す娘を、ブリュンヒルデは半ば呆れて眺めつつ、しかしつまらない祝典の中で楽しみが出来たと心の中で喜んでいた。
 本当に美しいなら目の保養にはなるだろうし、平民としてあったその若者がどんな話をするのか興味深い。
 
「…大変興味深いお話でしたわ。
 
 私も、兄上のベーオウルフ様は先ほどお見かけしましたの。
 その方には是非、お会いしてみたいものですわね」
 
 そして、さらに件のシグルトの居場所を探ろうと、2人で話しながら歩くことを提案する。
 普段はめったにお喋りに付き合わないブリュンヒルデと話せることが嬉しいのか、娘は二つ返事で提案に乗ってきた。
 
 
 廊下を歩きながら、娘はブリュンヒルデにシグルトがいかなる人物かをとうとうと話す。
 
 曰く、9歳で狼から友を守るために戦った話。
 曰く、今年も平民の〈槍術披露の儀〉で優勝したという武勇。
 曰く、高潔で父親にも似た誠実な人物であるという噂。
 
(その辺りで自慢話ばかりする貴族の男より、よほど興味深いわね)
 
 おそらくは誇張された話であろうと考えつつ、ブリュンヒルデは頷きながら歩いていく。
 
 ところが、娘が突然黙り、顔を蒼くしてブリュンヒルデの後ろに隠れた。
 何事かと前を見て、その理由を知ったブリュンヒルデは、秀麗な眉を引きつらせた。
 
 取り巻きを引きつれ、これ見よがしに大股で歩くその男…グールデンは貴族たちの鼻つまみものだった。
 伯父がこの国の司教であるからと、男爵家の次男の身分でありながら、我が物顔で司教の威をかさに着る、ブリュンヒルデがもっとも嫌いなタイプの男であった。
 
 加えるなら自信過剰で、自分の思い通りにならないことは、力づくで解決しようという、乱暴者だ。
 さらに、野卑で好色。
 何人か平民の娘に乱暴を働き、それを伯父の権力でもみ消しているという噂もある。
 
 実は、この男は身分どころかそういった行動をまったく省みず、ブリュンヒルデに下品に言い寄る男であった。
 グールデンは、絶世の美女と名高いブリュンヒルデの夫になるのは自分だと言ってはばからない図々しい男なのだ。
 
(冗談ではないわ…
 
 衛士はここにいないし、他の貴族たちは皆この男の暴挙を恐れて手を出せない。
 すぐにこの場を離れなくては…)
 
 娘の手を引いて、場を離れようとするが、その前に気付いたグールデンが足早にやってきて、行く手を塞いだ。
 
「おお、愛しのブリュンヒルデ!
 
 今宵はますます美しい…」
 
 なれなれしく手をとろうとしたグールデンの手を払い、ブリュンヒルデは毅然と睨みつけた。
 
「そういう貴方は、礼儀がなってませんわね、グールデン卿。
 
 私、貴方に名を呼び捨てることを許していませんわ。
 馴れ馴れしいのではなくて?」
 
 手袋を着けた手で汚ない物を退けようとするかのように、さらに近寄ろうとするグールデンを遮り、非難の目で見つめる。
 
「何を言う…
 
 神に選ばれた司教の甥である、この俺に愛される名誉を拒む女など居るはずがないだろう。
 それに、俺はお前をそこいらの女のように愛人ではなく、妻として望んでいるのだ。
 
 光栄に思うべきだぞ」
 
 あまりに身勝手な口ぶりに、ブリュンヒルデはその横面を叩きたくなったが、思いとどまって眉をひそめた。
 
「とんでもない誤解ですわ。
 
 女性の心を聞きもせず、決め付けるなど…名誉ある貴族の男性がすることではありませんもの。
 さあ、お退きになって。
 
 今なら、不問にしてあげます」
 
 少し声を低くして、威圧するようにゆっくりと言う。
 美しいブリュンヒルデが眉根を吊り上げて睨みつけると、鬼気迫る迫力があった。
 
 思わず怯んだグールデンの横を、娘をひっぱって通り過ぎようとし、ふと娘がすでに逃げ去っていることに気がついたブリュンヒルデは、不機嫌そうに口端を歪めた。
 
 そしてまた歩き出そうとするが、我に返ったグールデンがその手を乱暴に掴む。
 
「…その手を離してください、グールデン卿。
 
 無礼ですよ」
 
 しかし、一度行動に出たグールデンは引っ込みがつかないのか、ブリュンヒルデの言葉に従おうとはせず、乱暴に彼女を抱きすくめようとした。
 
 パシイィィィンッ!!!
 
 その暴挙に、ブリュンヒルデは容赦なく手の甲でグールデンの頬を張った。
 
「いい加減になさい、下郎!
 
 お前のような野卑なだけの男に、どこの女が惚れると言うの。
 司教様の威を借りてやり放題のようだけど、誰もがその威に傅くと思ったのなら、大きな間違いだと知りなさい。
 
 さあ、そこを退いて通しなさい。
 さもなくば、今度は衛兵を呼ぶわよっ!!」
 
 そして腕を掴むグールデンの指を、つけた指輪の硬い部分で殴るように突き離す。
 激痛に指を押さえるグールデンを、ブリュンヒルデは蔑むように一睨みし、その場を去ろうとした。
 
「おのれぇぃ、人が下手に出ていればぁっ!!!
 
 おい、お前たち、この女を捕まえろっ!
 身の程をわきまえさせてやるっ!!!」
 
 矜持を傷つけられたグールデンは激昂し、唾を飛ばしながら喚き、取り巻きに命じてブリュンヒルデを囲む。
 ブリュンヒルデは、大声で助けを呼ぼうと、息を吸い込んだ。
 
 ところがその前に、柔らかな絹の外套がグールデンとブリュンヒルデの間をすっと遮る。
 
「…身の程をわきまえるのは貴公の方だ。
 
 ここが王宮だと知って、婦女子に絡んでいるのか?
 だとしたら、貴公が何者でも許されることではないぞ」
 
 よく通る美しい声だった。
 
 グールデンが、完全に気勢を殺がれて後ずさる。
 
「もう一度言う。
 
 身の程をわきまえるのは貴公の方だ。
 もうすぐここには、隣国の使節団を迎えるための、出迎えの兵士たちが通る。
 
 早く立ち去るべきではないか?」
 
 周囲では、目をあわす事も避けていた者たちばかりだが、その男は大切なものを守るかのようにブリュンヒルデをその背に庇ってくれた。
 その広い背を見つめると、ブリュンヒルデの胸が高鳴る。
 
「く、覚えていろよ、ブリュンヒルデっ!!」
 
 そう言って、グールデンは悔しそうに足早に去っていった。
 
 目の前の男が呆れたように、大きくため息を吐くのがわかる。
 
「…あの、危ないところを助けて頂いて…」
 
 その先の言葉を、ブリュンヒルデは継ぐことができなかった。
 
 振り向いたその男は、心配そうに、その神秘的な青黒い瞳でブリュンヒルデを見つめている。
 そのあまりの美しさに見とれ、ブリュンヒルデは呼吸すら忘れていた。
 
「…無理をするべきではない。
 
 あの人数の男たちに囲まれて、泣き喚いていないだけでも大したものだ。
 貴女の大きな勇気と誇りに、敬意を払おう」
 
 乱れてむき出しになったブリュンヒルデの白い肩に気が付くと、男は自分の外套を脱いで、そっとそれを掛けてくれた。
 絹の柔らかな感触が、ブリュンヒルデをそっと包む。
 
 目を見開いて見つめるブリュンヒルデに、困ったような苦笑をすると、男はその場を去ろうとした。
 
「お、お待ちになって。
 
 名を教えて頂けなければ、お礼をすることも、この外套をお返しすることも出来ません。
 
 私はブリュンヒルデ。
 伯爵オスヴァルトの娘です」
 
 一気に言葉にして、ブリュンヒルデは肺から無くなった空気を貪るように大きく息を呑んだ。
 男は立ち止まると、彼女に向き直る。
 
「俺はシグルト。
 貴女と同じように名乗るなら、男爵にして国王陛下の忠実なる騎士アルフレトの息子だ。
 
 その外套は差し上げよう。
 そんな上質のものは、俺のような無骨者には不相応だ。
 
 礼も不要。
 貴女に助けを求められたわけではないからな…」
 
 簡素な言葉を残すと、踵を返したその男は颯爽と去っていった。
 
 1人残されたブリュンヒルデは、男のぬくもりを繋ぎとめようとするかのように、掛けられた外套をしっかり掴む。
 そして、喘ぐように呟いた。
 
「…これは、定められた出逢いなのかしら?
 
 彼は戦乙女が愛した運命の男の名前。
 私は戦乙女と同じ名前。
 
 私を、救ってくださったあの方とのこの出会いは…ただの偶然なの?
 こんな、物語のような出逢いがあるのかしら…
 
 私は、夢を見ているの?」

 出逢った男は、まさにブリュンヒルデが待ち望んでいた勇者だった。
 
 その男は恩を着せる様子もなく、涼やかに去っていった。
 婦人を助けて見返りを求めない姿は、まるで高潔な物語に出てくる騎士のようだ。
 やや無骨な口調にさえ、その誠実さと意志の強さが見て取れた。
 
 そう、強い意志と勇気がなければ堂々とブリュンヒルデを助け出してはくれなかっただろう。
 
 そっと掛けてくれた外套は、彼の優しさだった。
 青黒いあの瞳は、とても神秘的で温かく、強い光を宿していた。
  
 激しく高鳴る胸。
 熱い吐息を吐くと、ブリュンヒルデは、目を閉じて男との再会を願うように天を仰いだ。

 
 
 お久しぶりのY2つです。
 職業柄ついてまわる夏の激戦を終え、前に使ってたパソコンの液晶とOSが不調だったので、久しぶりに自作PCを組み立ててようやく復活です。
 つい昨日までグラフィックカードが不調で、インターネットに接続するとブラウザが歪むわ、突然PCの電源が落ちるわ、不調との戦いでしたが、なんとかデータの転送作業やらがひと段落着きました。
 やっとまともにインターネットができそうです。
 
 
 さて、間が空いてしまいましたが、シグルト外伝の方をアップです。
 シグルトの運命の女性、ジグヴォルフ王国の至宝ブリュンヒルデ嬢の登場です。
 
 彼女は今流行のツンデレタイプに当たる、気位の高い一途な心根の貴族の娘です。
 シグルトと同じように努力家で、自身が努力して得たものを誇りとする高潔な性格です。
 反面かなりのロマンティストで、思い込みが激しいタイプ。
 たくさんの男に凄まれて囲まれても気丈でいられる意志の強さと、ガラス細工のような繊細な感性を同時に持っています。
 
 シグルトもそうですが、シグヴォルフは総合的な【_秀麗】称号を持つ人物の割合が非常に多い国です。
 妖精や神族の血を引く者がいると言われる地であること。
 寒くて乾燥した埃っぽい国柄なので、睫毛の長い人物が多いこと。
 雪が多く日当たりが悪いので、肌の白い人物が多いこと。
 貴族でも食事が質素なので、ほっそりした人物が多いこと。
 栄養バランスが極限で、ナッツ類を多く食べる民族なので、体臭が薄くお肌の艶がよかったりすること。
 
 いろいろあります。
 
 そんな中で、ブリュンヒルデはとびっきりの美女です。
 イメージとしては、北欧系のブロンド美女でしょうか。
 でも、彼女の場合、単純に生まれつき美形というわけではなくて、その美貌に加えて、教養と気品があることでしょう。
 彼女の知識は、賢者の塔の下手な学生よりよっぽどあります。
 磨いた玉だからさらに美しい、と言う感じですね。
 
 
 今回シグルトがかなりキザにも見えることをやってましたが、このときのシグルトは困っていた女性に対して、この国の男の倫理観から見てすべき当然のことをしたに過ぎませんし、シグルトそのものも別段格好つけてやっていることではありません。
 この頃のシグルトは、「育ててくれた母に恥じない男の振る舞い」はして当然と考えていました。
 彼、ちゃんと【_名誉こそ命】を持っていて、母の名誉をとても重んじています。
 相も変わらず大人びていますが、この時のシグルトは16歳の若者で、冒険者となった頃の燻し銀のような奥深さはまだ無いのです。
 
 しかしながらよく読めば分かると思うのですが、シグルト、ここでも大人物ぶりをすでに発揮しています。
 絶世の美女であるブリュンヒルデを見ても、その辺の貴族の子女程度にしか思っていないのです。
 まあ、母親の超美人ぶりで、美形に免疫があるからかもしれませんが。
 
 反面、ブリュンヒルデは完璧に一目ぼれです。
 というより、容貌よりもシグルトの勇敢さに惚れちゃった口です。
 尚武の国なので、強くて勇敢なことは美徳なんですね。
 厳しい国なので、女性も強い意志は美徳とされます。
 
 
 さて、次あたりでいよいよ彼女が登場します。
 急速に動き出すシグルトの運命。
 
 …気長にお待ち頂けると幸いです。
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2007-09-05 Wed 15:33 1人掛け用の厳選紹介
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