『街道沿いの洞窟』

2007.09.11(04:38)

 それは、ある晴れた日のことだった。
 
 シグルトとレベッカは、仕事を探しつつ2人で旅をしている。
 
 先日まではポートリオンという比較的新しい都市に、アレトゥーザから届け物をするという仕事をしていた。
 そして、いったんリューンに行こう、ということになり、その近くの街道にある村で休息を取ることにした。
 
 この村からリューンまでは、さほど距離が無い。
 馬車を用いれば数時間だろうか。
 シグルトとレベッカの足なら、急げは今日中にもつけそうな距離である。
 
 本来、リューンとポートリオンは海路で移動する方が遥かに近い。
 そのためか、この村は閑散としていた。
 
 当然、ここに来るまでに仕事などまるでなかった。
 
 今2人が休んでいるのは、この村で唯一の宿であり、酒場であり、食堂である。
 
「ここ5日ばかりで、実際にお金になる仕事がほとんど無かったのは痛いわね。
 
 届け物で稼いだお金も、道中商隊に随伴してやるおまけみたいなものだから報酬は安いし…路銀で使ってしまったわ。
 ここに来て、手持ちの銀貨がこればかりなのは、ねぇ…」
 
 休息するために使ったお金を引いて、残ったのは銀貨が三十八枚きり。
 ちょうどアレトゥーザを出た時に持っていたのと同じ枚数だ。
 
「泊まらずにリューンに行けば、『小さき希望亭』ならツケが利くわ。
 
 あそこに行けば、私が冒険者になった頃から稼いだお金が少しばかりあることだし。
 ま、あのお金はいざって時の蓄えで、使いたくはないんだけどね」
 
 井戸水で冷やしたエールを味わいながら、つまみの揚げ物を齧りつつ、レベッカがのんびりとした声で他人事のように言う。
 
「ここまで借金も作らず来れたことの方が、幸いだった。
 
 とにかく、リューンに戻ったら一仕事探すとしよう。
 拠点が確保できれば、俺たちでも可能な仕事の一つぐらいあるだろう」
 
 冷えたエールでは、これからの旅で余計疲れると言って、シグルトは葡萄酒一杯と干した果物、塩を一つまみ用意してもらっていた。
 そのドライフルーツに軽く塩をかけ、齧っては少しずつ葡萄酒を飲んでいる。
 
「…美味しいの、それ?」
 
 レベッカの問いに、シグルトは軽く首を横に振った。
 
「決して美味いものじゃないな。
 
 だが、この乾物はこうするとすぐに身になる。
 塩と葡萄酒と一緒に食べれば、疲れ難くなるんだ。
 
 昔、ある婆さんから習ったんだが、昔は鍛錬でへとへとになる度にこうしたものだ」
 
 レベッカは、試しにシグルトと同じように一齧りして、眉間に皺を作った。
 
「うへ~、渋いわね。
 
 しかも、塩の味で微妙な甘さがくどくなって、もっと不味くなってるじゃない。
 これじゃあ、熱さましに使う薬草の根の方がましだわ。
 
 休んでる時ぐらい、美味しいものにしなさいよ」
 
 レベッカの言葉に、シグルトは苦笑した。
 
「休む、というのは体力を回復することだ。
 
 これからリューンまで帰るわけだからな。
 まあ、レベッカはしっかり英気を養うといい。
 
 心を休めるために、美味いものを食うのも理には適っているさ」
 
 シグルトは、率先して一般的に不味い物…骨の多い部分や硬い筋身を食べる。
 それが筋肉や骨を強くするのだそうだ。
 そのせいか、シグルトの顎や歯の力は強靭で、胡桃を軽々と噛み砕くほどだ。
 
 武術において顎を鍛えることは、瞬発力を発揮するために必要な鍛錬なのだという。
 
「シグルトって、医者みたいなことを言うわよね?
 
 そういうの、盗賊ギルドでは毒の克服なんかのために習うけど、あんたほど徹底してるのはなかなか無いわ」
 
 半ば呆れたように、レベッカは自分のつまみで口直しをしながら、またエールを飲む。
 
「結局武芸というのは、最終的にどうやって相手に勝つかを研鑽することだ。
 
 相手の骨や血肉の配置を知って欠点を突き、自身の骨や血肉を鍛えて力にする。
 俺の鍛錬は、昔武芸を学んだ師から習ったものに、知り合いの医者とまじない師の婆さんから聞いた知識を加えたものだが、それなりに効果はある。
 
 自身の欠点を克服できないうちは、結局どこかで負けてしまう。
 …少なくとも、そう考えて実践しろと、俺の師は言っていたな」
 
 あんたの修業時代って興味があるわ、とレベッカが聞くと、シグルトは天を仰いで何かを思い出すように語りだした。
 
「俺は、国でも一番の武芸者と言われたある方に師事することが出来た。
 戦争の多い北方で、かつては傭兵として腕を磨いた人物だ。
 
 その師匠は、“槍戟の武仙”と謳われた槍の達人ハイデンという方でな。
 国では、剣はアルフレト、槍はハイデンと言われていた。
 
 仕官せず、森に籠って野草と木の実を食べ露を飲む、隠者のような人だった。
 
 その鍛錬法は壮絶で、兄弟弟子と鼻血が止まらなくなるぐらいに練習用の武器で殴り合って鍛えられる。
 弟子入りしたうち、九割近くが耐えきれなくなって逃げてしまったが、師の言う通りにしたら、途中からどんどん強くなっていくのが分かったよ。
 
 後は、自身を磨くことに夢中になった。
 
 俺の故郷は、尚武の国だ。
 弱い者は泣くか、鍛えて強くなるしかない。
 
 だから、あの頃は強くなって、何かをやれる人間になりたかった。
 強くなれば、結果は後から付いてくると信じていた。
 
 世の中そんなに単純じゃ、無いのにな…」
 
 シグルトが、槍か竿状武器(ポールウェポン)の扱いに通じていることは、レベッカも気付いていた。
 出会った頃、シグルトは何故か遠い間合いから詰めていく戦い方をしていたからだ。
 今思えば、剣に慣れるまでは、無意識に槍の間合いを取ってしまったのだろう。
 
「俺は槍を捨てた。
 技も、ずっと愛用していた得物も。
 
 いろいろあって、槍を握ることが出来なくなった。
 だから今は剣を使っているんだ。
 
 …そうだな。
 そのうち話す機会もあるだろう。
 
 長話して、リューンに着く前に、日が暮れてしまってはいけないからな」
 
 饒舌になっていたことに気付いたのか、シグルトはさっと話を終わらせた。
 
「楽しみは後に取っておくわ。
 
 …行きましょうか」
 
 レベッカは温くなったエールを飲み干すと、主人に礼を言って店を出ようとした。
 
 だが扉を開けると、そこには一人の女性が困ったような顔をして立っていた。
 所在無げに伸ばされた手は、本来ドアノブがある辺りだ。
 
「…ええと、この店に用事?」
 
 場を繕う様にレベッカが言うと、女性は頷いた。
 
「あの、こちらに冒険者の方はいらっしゃいますでしょうか?」
 
 女性の言葉に、シグルトとレベッカは顔を見合わせた。
 
 
 女性の名はセーナ。
 村の香油屋で働いているという。
 
 セーナの話によると、街道に妖魔らしき者が現れ、被害が出ているという。
 状況を重く見た村長は、村に冒険者が立ち寄ったと聞いて妖魔退治を依頼しようと考えたらしい。
 
「依頼としましては、妖魔の棲家の探索と掃討です。
 
 報酬は銀貨六百枚用意してあります」
 
 レベッカが大きく息を吐く。
 
「なるほど。
 
 結構大きな仕事みたいね」
 
 そしてレベッカは、セーナに質問を始めた。
 
「…なるほど、妖魔の正体も分からないと。
 
 でも、被害が小さいことや、その行動から予測するに、ゴブリン辺りかしら。
 
 依頼内容は〈探索〉と〈掃討〉ね。
 
 ゴブリンの〈掃討〉だけなら銀貨六百枚で最低線だけど、〈探索〉を含めるなら、もう少し報酬を増額してほしいわ。
 手間がかかるわけだし。
 飛び込みの仕事だから、それも考慮して、ね。
 
 あと、探索中に見つかった妖魔の持ち物や、盗品の扱いはどうするの?
 それをこっちで自由にしていいと言う条件なら、〈探索〉の方は請負うわ。
 
 〈掃討〉は不確定要素があるから、危険手当込みで銀貨八百枚。
 お金が用意できなければ、追加分は物品でも構わないわよ。
 
 と、もし受けるならこの辺りの条件でお願いしたいんだけど、シグルトはどう思う?」
 
 冷静に報酬を提示し、レベッカがシグルトに話を振った。
 
「…正直、俺たち2人でどうにかなる仕事とは思えないな。
 討伐は命懸けの仕事だ。
 
 だが、この街道では冒険者を呼ぶには少なくとも1日以上かかる。
 リューンに行って依頼を出し、仕事を受けた冒険者が着く頃には、新たな被害が出ないとも言い切れない。
 
 ともすれば、俺たち2人で何とかやるとして、問題はそのやり方だが…
 
 話を聞く限りでは、妖魔の棲家は分かっているし、指揮を執る上位種はいない様子だ。
 やりようによっては、奇襲を仕掛ければ何とかなるかもしれん。
 
 棲家だという洞窟の規模からして、数は最大で10匹程度。
 奴等の性質なら、村人と小競り合いがあった時点で見張りを立てるだろうから、それを含めての数だな」
 
 そしてシグルトは、セーナに目をやるとその答えを待った。
 
「あの、お金の増額はできませんが、【フォレスアス】という地酒があります。
 
 リューンやポートリオンでは、珍しくて高く売れるんです。
 報酬の追加はそれで許してくれませんか?
 
 それと、盗品や見つかった品物は、村の物でなければ御自由になさって結構です」
 
 酒、という言葉に、レベッカは目を輝かせた。
 
「問題ないわ。
 
 どうせ、仕事をしなくてはいけないんだし、1日ぐらい行程が遅れてもいいでしょう」
 
 シグルトは危険だからとあまり乗り気ではないようだったが、切羽詰った村の状況は問題だと渋々承諾した。
 
 
 依頼遂行は速やかに、ということで、シグルトたちはそのまま妖魔の棲家となっている洞窟に向かった。
 
 セーナは、お目付け役として付いてくることになった。
 荒事には素人のセーナが付いてくることを、シグルトもレベッカも反対したのだが、件の洞窟までの案内役、と言われれば断るわけにもいかない。
 
「私はこれでも癒しの秘蹟が使えるんです。
 
 香油屋というのは、所謂修道院の副業みたいなもので、私は幼い頃修道女見習いだったんですよ」
 
 労働に勤しむ修道院は、薬、油、蝋燭、酒等を作る。
 教会の洗礼で使われる香油や葡萄酒も、修道院で作られていることが普通だ。
 
 こういった小さな村が、修道院と関わる産業を一緒になって行う例は多い。
 人手が足りない場合は、関係者として修道士見習い、修道女見習いの名目で一定期間修道院に入る。
 そのまま修道院に残って正規の修道士や修道女となって修行する者もいるし、還俗してただの村人に戻る場合もある。
 還俗した者の中には、修道院の産業を助けるサポーターのような職業に就く者も少なくなかった。
 
 見習いのうちは、剃髪(トンスラ)や純潔の誓いなどしない場合もあり、あるいは学校の無い村では文字や教養を学ばせるために修道院で一定期間修業させられることもある。
 もちろん、入れたら一生聖職者、という厳しい修道院もあるのだが。
  
 よく見れば、セーナはどこか服装も堅苦しい感じである。
 生真面目についてこようとするのは、修道院で学んだ誠実さ故だろう。
 
「まぁ、怪我をした時は安心よね」
 
 結局、セーナは出来るだけ後ろから付いてくる、ということで話はついた。
 
 お目付け役に怪我をさせてはいけないと、レベッカは先行して妖魔の気配が無いか探っていた。
 そして、妖魔のものらしき足跡を見つける。
 
「初めての依頼を思い出すわね。
 
 こいつはゴブリンの足跡よ。
 この様子だと戦士種やロード、ホブゴブリンみたいなデカイ奴は本当にいないみたい。
 
 問題はシャーマン種がいた場合。
 魔法を使ってくるあいつは厄介だわ。
 
 今回はロマンやスピッキオがいないから、慎重に行きましょう」
 
 レベッカの言葉にシグルトはゆっくり首肯すると、いつでも剣を抜けるように柄に手をやった。
 セーナが緊張でごくり、と喉を鳴らす。
 
 やがて、歩いていたレベッカが立ち止まり、さっと掌を開いたままシグルトたちに向けた。
 待て、という意味だ。
 
「…洞窟があって見張りがいるわ。
 
 予想通りゴブリンね。
 肌の色が違うけど、変異種かしら?
 
 見張りは一匹だけだから、奇襲をしかけるとして、あいつは私が仕留めましょう。
 
 ちょっと待っててね」
 
 音も立てず、レベッカは滑るように見張りのゴブリンに接近する。
 ぼんやりとしたそのゴブリンは、レベッカの動きに気付く様子は全く無かった。
 
 その背後でゆらりと立ち上がったレベッカが、ゴブリンの気管ごと喉を切り裂く。
 そして、暴れないようにゴブリンを羽交い絞めにした。
 
 喉から濁った血を溢れさせ、目を見開いたまま、しかし音一つ立てられず、ゴブリンはやがて痙攣し絶命する。
 
 ゴブリンの遺体を近くの茂みに隠すと、レベッカは近くの森から木の葉や乾いた土を持って来て、血痕の上に振り撒く。
 そして、周囲を手早く確認すると軽く息を吐き、シグルトたちに手招きした。
 
「上手くいったわ。
 
 さあ、行きましょう」
 
 レベッカは、腰に下げた袋に何かを詰めながら血の痕を踏み固め、目立った足跡を踵で擦って消している。
 
「…?
 
 何をしているんだ?」
 
 シグルトが首を傾げると、レベッカは親指と人差し指でつまんだ黄色い木の実を見せた。
 
「【森黄(しんおう)】が群生してたから、可能な範囲で集めてたのよ。
 
 これ、ポートリオンで買ってくれる所があってね。
 それなりにお金になるのよ」
 
 【森黄】はこの辺りの森でよく見つかる植物だ。
 葉は特殊な加工すれば毒消しに使えるし、その実は果実酒の材料になる。
 
「…レベッカさんて、抜け目ないんですね」
 
 少し呆れたように、セーナが呟いた。
 
 
 洞窟に入ると、3匹のゴブリンがいた。
 シグルトは混乱するゴブリンを、次々と斬り倒して行く。
 レベッカは、弱ったゴブリンに止めを刺し、2人はセーナには指一本触れさせない。

 セーナは殺戮の凄惨な現場を見て、顔を青くしている。
 人型のものが殺される所を見て、気持ち悪くならないはずがないと、シグルトが励ました。
 
 レベッカは、洞窟に籠る血臭に自身も眉を顰めながら、セーナの意外な気丈さに驚いていた。
 普通は吐いたり、貧血を起こして気絶してしまう女性もいるのだ。
 
「…気付かれた様子もない。
 
 喧嘩でもあったと思ったんだろうな」
 
 シグルトは剣から血糊を拭うと、急ごうと促した。
 
 行く先でまたゴブリン3匹と遭遇したが、シグルトは閉所を利用して一匹ずつ仕留める作戦を用い、血路を開いていく。
 素早いゴブリンが逃げに回っているというのに、シグルトの剣は的確にそれを補足し、倒すのだ。
 
 ここに来るまでの戦闘では、掠り傷一つ負っていない。
 
「…流石よね。
 
 この狭い洞窟で、そんな大きな得物を操るんだから、大したもんだわ」
 
 シグルトが今使っている剣は、1世代昔の古さだけは骨董品、と呼べる剣だ。
 柄の長さが、片手剣としては僅かに長く、それ以上に刀身がかなり長く重い獲物である。
 一応は片手半剣(バスタードソード)と呼ばれる類だが、洗練された刀剣とは言い難い。
 イメージとしては、金属の角柱のような、厚い刀身の剣だからだ。
 耐久力は大したものだが、重く無骨で鈍器のようだ。
 
 その剣を、シグルトは巧みに狭い場所で問題なく扱う。
 
 レベッカは、皮手袋で剣の刃の半ばを握り敵を攻撃する、その独特の戦い方に感心していた。
 
 シグルトはその状態で剣を前に構え、敵の斬撃を受け流しながら、カウンターで鍔元や刃先で斬り込むか、突く、という戦法を使っていた。
 狭い洞窟でこの戦い方は実に効率的で、見たことも無い構えに、敵はペースを乱され、見る間に敗れ去る。
 
「普通剣を扱う人間は、怖くて刃を握るなんてできないわよ。
 
 貴方は怖くないの?」
 
 シグルトは、自身の持つ剣の半ばを指差した。
 
「この手の重い剣は引いて斬るか、あるいは叩き付けてかち割るものだ。
 麻や革の手袋で、鞘のようにしっかり刀身を包むように握れば、手を切ることは無い。
 
 これは【半剣】という古流剣術の構えで、狭い場合や状況に合わせて技を変える場合には重宝する。
 戦士が実戦で編み出した知恵だな。
 
 甲冑を着た騎士の喉や脇に、刃を正確に突き込むためにも使われていた。
 昔はさらに切れ味の悪い刀剣を用いていたから、頑強な鎧を着た敵を相手にするには工夫が必要だったんだ。
 
 それに、普通は剣の刀身を握る構えなんて予想しないから、次の手を読まれ難い。
 もっとも、相手がそれなりに剣術に通じているなら逆に対応策を講じられるから、間合いの狭いこの構えは不利になるだろうが。
 
 俺のこれは見様見真似だから、専門家のそれには及ばないが、こういう場所ではなかなか役に立つな」
 
 シグルトの武芸に関する知識は幅広い。
 
 その戦い方も、実戦を踏まえた技が多く、敵を殴ったり投げ飛ばしたりもする。
 さらに、剣の鍔や柄頭を迷いなく使う殴打の技は荒っぽい傭兵のようなものもあるが、シグルトが巧みに使うと野蛮さは影を潜め、流麗にすら見える。
 
 ある時、正統派剣術を習っている剣士が、シグルトの戦い方は卑怯で野蛮だとなじったことがある。
 しかしシグルトは、苦笑して相手にこう言った。
 
「爪や牙を巧みに使う獣に襲われた時、それを卑怯だと言っても、食い殺されるだけだろう。
 
 自身の文化だの戦い方だのを押しつけて、礼節や美しさをのたまうのは実戦用の剣では無い。
 卑怯だ、野蛮だと決め付けるのは、訓練の時だけにしておいた方が身のためだぞ。
 
 その考えで言うなら、剣に対して槍は卑怯だ、斧は野蛮だというような屁理屈にもなりかねない。
 命を奪い合う戦いで、どうしても〈卑怯な戦い〉をされるのが嫌なら、まずその我侭を通せる程度に強くなるべきだな」
 
 実際、シグルトは奇襲や汚いとされる戦い方をされても、それを卑怯だと貶したことはなかった。
 同時にシグルトと同じような心構えをした他の冒険者の何人かは、そのおかげで命を拾ったと後に語っている。
 
 レベッカは、シグルトの戦士としての心構えも、高く評価していた。
 そういうシグルトが戦闘の指揮を執るなら、自分たちの生存率が格段に上がるからだ。
 
「その調子で、残りも頑張ってよね」
 
 期待を込めてレベッカが言うと、シグルトは「励むとしよう」と短く返した。
 
 
 その後も洞窟を調査し、ゴブリンが行商人から奪った香辛料らしきものを手に入れる。
 大きな袋にぎっしり詰まった黒いそれを見て、レベッカは何を思ったか、随分上機嫌だった。
 
 奥にいた残りのゴブリンは、結局すぐに掃討されることになった。
 シグルトがセーナを庇って軽傷を負ったが、依頼は見事に達成したと言える。
 
 洞窟のさらに奥を調べていくと、レベッカが洞窟の最奥に隠し扉らしきものを見つけた。
 
 扉の奥には、岩塩らしき鉱脈のある狭い道が続き、そして人の暮らしていたような形跡があった。
 その先に続く階段を見つけ、一行は慎重に先に進む。
 
「うわぁ…」
 
 階段を降りた後、その先にあった部屋に灯っていた明かりを見て、セーナが驚きの声を上げた。
 
「これは…魔法の光か?
 
 ここは魔法使いの隠居所だったのかも知れないな」
 
 そう言ってシグルトも、物珍しそうに周囲を見回す。
 
「…おっ?
 
 これって魔法の杖かしら。
 お宝発見ね」
 
 レベッカが、三日月を模った小さな杖を見つけ、さっそく鑑定を始めた。
 
「これは、かなりの貴重品だわ。 
 魔術師垂涎の品って言われてる、【賢者の杖】と同種の魔法の品ね。
 
 でも、ピンク色…少女趣味なデザインがちょっと頂けないわ。
 ロマンなら、半泣きになって嫌がるでしょうね。
 この間、宿の娘さんに女装させられそうになって、逃げ回ってたもの。
 
 売ってもそれなりに高価でしょうけど、欲しい冒険者に格安で譲って、恩を売るのもいいかも知れないわね」
 
 レベッカは大切そうにその杖を布に包むと、荷物袋にそっと入れた。
 
 
 その後、洞窟の隅々まで調査し、名にも危険が残っていないことを確認した一行は、日暮れ前に依頼を受けた店に戻った。
 
 店で手に入った香辛料の話をすると、店の店主が是非買い取りたいと申し出たが、店主の提示した価格にレベッカは「論外ね」と言って、さっさと香辛料を仕舞い込んでしまった。
 
 仕事の一部始終を見ていたセーナは、シグルトとレベッカの手際を称え、報酬の銀貨六百枚と約束の【フォレスアス】という酒を渡してくれる。
 懐の膨らみに頬を緩めながら、レベッカは何か考えているようだった。
 
 その日は村長の取り計らいで村に一泊し、次の日、シグルトとレベッカは村を出たのだった。

 
 
 Moonlitさんのシナリオ『街道沿いの洞窟』のリプレイです。
 ギルドに登録されているポートリオンのクロスオーバーシナリオで、なかなかに初期の冒険者にはありがたいシナリオです。
 結構報酬が豊富で、スキル配布アイテムが手に入るんです。
 
 奇襲を仕掛けると、ほぼ一方的に勝てるので、シグルトとレベッカのみで依頼を達成してしまいました。
 この2人、息も合ったなかなかのコンビです。
 
 シグルトの使った剣術【半剣】は漫画で見て出したネタですが、ドイツ系の古流剣術にあるらしいです。
 実際にこのような使い方をする場合もありますから、理にかなった技術ですね。
 シグルトはこの構えの変形である【王冠】も得意としています。
 槍の使い方にも通じるものがあるので。
 
 シグルトのより戦術巧者な一面を表現してみました。
 シグルトの師匠の話で出したアルフレト、外伝を読めばわかるのですが、シグルトの父親です。
 シグルトが剣術の知識もあるのは父親の影響です。
 
 シグルト、戦い方にはとてもシビアな考え方をしています。
 どんな手を使われても、負けたのならば自身が弱いのだ、と考えるのです。
 冒険者の戦いはスポーツではありません。
 モンスターやら、卑怯な敵やらとやり合うのですから、シュールでも、こういう考えは必要ではないかと考えます。
 
 でも、シグルトは甘くても美学もまた大切と考えています。
 
「…まずその我侭を通せる程度に強くなるべきだな」
 
 というのは、シグルト自身が自分にも科している考えです。
 負けた言い訳をしないのって、格好いい武人には必要ですよね。
 
 
 さて、今回お金と一緒にアイテムを得たわけですが、これらは同じ作者さんのシナリオ、『新港都市ポートリオン』で換金しようと思っています。いくらになるのか楽しみですね~
 
 
 さて、いつものやつをば。
 
 
・収入
 報酬+600SP 

・獲得アイテム
 【森黄×10】×2、【フォレスアス】×1、
 【くろこしょう】×1、【三日月の杖】×1
 
◇現在の所持金 638SP◇(チ~ン♪)
 
 レベッカ「ふう…残金二桁からは何とか脱出ね」
 
◆レベルアップ
 シグルト レベル1→レベル2
 
 
〈著作情報〉2007年09月11日現在

 『街道沿いの洞窟』はMoonlitさんのシナリオです。現時点でMoonlitさんのサイトで配布されています。
 ギルドにも登録されています。
 シナリオの著作権は、Moonlitさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer 1.00です。
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。 
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