Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

『グウェンドリン』

 女は少し歩いてはその場にたたずみ、艶めかしい溜息を吐いた。
 美女の蠱惑的な仕草に、通りかかった者は男女を問わず見惚れてしまう。
 
 雪のように白い頬を桜色に染め、初々しい仕草で歩くその娘はブリュンヒルデ。
 先ほどシグルトに助けられた絶世の美女である。
 
 ブリュンヒルデは、シグルトとの出逢いで感じた甘い痺れに酔っていた。
 男物の外套を大切そうに纏い、頬を赤らめている彼女は年頃の乙女らしい可憐さがある。
 普段、気丈で聡明と噂される伯爵令嬢のそれでは無い。
 
 そんなブリュンヒルデに、靴音を響かせて歩み寄るものがあった。
 
「探したぞ、ブリューネ」
 
 呼びかけにはっとしてそちらを見ると、はっとするような美しい人物が立っていた。
 背こそ高いが、よく見れば艶やかな赤い唇と女性特有の柔らかな曲線を備えた身体つき。
 男装の麗人、といった風貌である。
 
「え、あ?
 
 …グウェンダ?」
 
 いつもの彼女ならば絶対しない間抜けな対応。
 グウェンダと呼ばれた背の高い麗人は、肩をすくめて苦笑した。
 後ろで束ねたシルバーブロンドがさわり、と揺れる。
 
「悲しいものだな。
 
 2年ぶりに再開した友に対して、その反応はあまりに味気ないぞ?」
 
 がっかりしたように大げさな溜息をつく麗人。
 
 ブリュンヒルデは、自分の醜態を恥じたのか頬を赤らめ、一つ呼吸して、いつもの彼女に戻った。
 
「ごめんなさい…悪気は無かったのよ。
 ちょっと、さっきまでいろいろあったから。
 
 改めて…
 お久しぶりね、グウェンダ。
 シグヴォルフの貴族として、同時に共に修道院で祈った友として…
 
 スウェインのグウェンドリン殿。
 ようこそ、私の国へ。
 心から歓迎するわ」
 
 軽く夜服の裾を掴み、膝を軽く折って優雅に一礼する。
 そして2人は互いに手をとり、微笑み合った。
 
 麗人…名をグウェンドリンと言う。
 
 年はブリュンヒルデと同じ16歳で、隣国スウェインの子爵令嬢だ。
 
 しかし、今の姿と言えば、貴族の娘としては異様とも言えた。
 グウェンドリンの着ている礼服は、男性のそれである。
 背の高い彼女が着れば、並の男よりよほど似合っていたが、男女の区別がはっきりしている北方貴族の子女としてはありえないものだった。
 
「相も変わらず男装なのね、グウェンダ。
 
 貴女ならばドレスだって似合うでしょうに。
 まさか使節団として来ているのに、男装のままだなんて思わなかったわ。
 
 よく他の方が許可したわね」
 
 背の高い男装の麗人を見上げ、ブリュンヒルデは少し呆れた用に目を細めた。
 
「何、大したことではない。
 
〝使節団に加わる者が、浮かれた服装などしては国として恥になる。
 まして、自分は武門の生まれである。
 身を律する意味で、他の男性方と同じ服装にしたい〟

 と申し出た。
 
 すんなり受け入れられたぞ」
 
 そう言って、グウェンドリンは軽く片目を瞑って見せる。
 聞いたブリュンヒルデは、たまらず吹き出してた。
 
 
 ブリュンヒルデとグウェンドリンは、親友同士である。
 
 グウェンドリンの家は、隣国で代々軍事顧問や将帥を多く輩出した武門の家柄だ。
 実際グウェンドリンも、女だてらに剣を扱う。
 その腕前は、その辺のにわか騎士よりよほど強い。
 性格も男勝りで、幼少の頃は騎士になると言って憚らなかった。
 
 もっとも、彼女がいかに武の名門の生まれだとしても、封建的で男尊女卑のまかり通った北方貴族の中で、彼女の願いはかなわなかった。
 母親にそのお転婆ぶりを嘆かれていたグウェンドリンは、その当時に同じく学問にばかりのめりこんでいたブリュンヒルデと同様、花嫁修業の名目で同じ修道院に入れられてしまった。
 2人は3年の間共に過ごして互いの故国に戻り、それ以来の再会である。
 
 この2人は女傑だった。
 修道院で意気投合した2人は、同じような境遇の子女たちを瞬く間にまとめ上げ、そのリーダー的な存在となった。
 
 女だけの修道院。
 予想すれば、お淑やかな貴族の子女ばかり集まるかと思えば、その実とても姦しい場所だ。
 遊びたい盛りの少女たちが一堂に会すれば、賑やかになるのは当然である。
 
 教育係のシスターの目を盗み、その裏で彼女たちがやることは、まず勢力争いだ。
 
 貴族の子女、という者は概ね見栄っぱりである。
 誰がリーダーで、どのグループに属するかということが重要だった。
 
 その中でブリュンヒルデは、“緑玉の君”と謳われていた。
 エメラルド(緑玉)のようなブリュンヒルデの瞳から付いた名である。
 
 持ち前の教養とカリスマ性で他の娘たちを虜にしたブリュンヒルデは、修道院に入って数日で一大勢力のリーダーになってしまった。
 
 ブリュンヒルデ自身は、勢力争いなど興味もなかったが、露骨に彼女の美しさを嫉妬した他の勢力のリーダー格に絡まれ、酷い嫌がらせを受けたのだ。
 負けず嫌いのブリュンヒルデは、〈やるならば一切の容赦無し〉とばかりに相手のリーダーを徹底的に実力で打ち負かし、修道院の子女たちのトップになった。
 実質人気の上でナンバー2だったグウェンドリンとともに、ブリュンヒルデが行った数々の武勇伝は、今でも同期の娘たちの語りぐさである。
 
 ブリュンヒルデは所謂才媛だった。
 特にその知識は普通の娘のそれでは無い。
 医学から神学、文学、数学、歴史学…
 修めた知識は、国の賢者たちが顔負けのものであった。
 
 幼年に彼女の家庭教師をした者は、ブリュンヒルデの利発さを褒めて“賢き姫”と呼んでいたほどだ。
 
 ブリュンヒルデは自尊心の強い娘であったが、同時に大変な努力家で勉強家だった。
 その美しい瞳が勉強のし過ぎで濁るのではないかと、周りの者が心配したほどである。
 
 ブリュンヒルデが、努力をするのはわけがあった。
 
 彼女の母は継母である。
 実の母は、王族の血を引く侯爵家の令嬢だったが、ブリュンヒルデを生むと間もなく亡くなってしまった。
 
 父親は血の病を患っており、いつもは臥せっていることが多い。
 再婚した妻との間に子をなす精力は無かった。
 
 継母は政略の意味で再婚したため、父やブリュンヒルデへの愛情は薄い。
 生真面目な女性で、普段は家に籠もって趣味の刺繍に明け暮れている。
 熱心な聖北教徒で、男女の営みを忌み嫌っている様子もある。
 彼女は未だに乙女だと、使用人たちが噂する程だ。
 
 そのため兄弟姉妹には恵まれず、ブリュンヒルデは伯爵家の一人娘という立場である。
 病気がちな父や内向的な母の代わりに彼女が常に表舞台に立ち、百戦錬磨の貴族たちの中で渡り合う必要があった。
 
 他の者に軽んじられないように努力し、騙されないように賢くなった。
 
 責任感の強いブリュンヒルデは、自分の夫が必然的に伯爵となって彼女の家も継ぐのだと考えている。
 それは貴族の子女として生まれた者が持つ当然の価値観であり、幼少の頃から強く自覚していたことだ。
 だが、大切に守ってきたものを愚鈍な輩に渡すつもりはないし、努力して磨いてきた自身を委ねる相手に妥協するつもりは無かった。
 
 加えるなら、彼女は貴族の中では驚くほど新進的な考えを持ち、身分や財産よりも、才能や志ある者を夫にしたいと考えているのだ。
 
 戦争の多い北方では、武勇も重要であり、蛮勇でないなら強いことも必要である。
 小貴族から才能だけでのし上がった人物も数多い。
 卑屈なだけの貧農などは当然お断りだが、自分の努力を認めてくれる同様の努力家であれば、生まれなど二の次だと考えていた。
 
 そんな性格で立場のブリュンヒルデは、男勝りで努力家なグウェンドリンとは馬が合った。
 
 
 グウェンドリンの家は、隣国有数の武家である。
 その家紋は〈龍殺紋〉と呼ばれ、家の開祖は龍を殺した豪傑だったという。
 
 グウェンドリンは兄ばかり、しかも武人肌の家族に囲まれて育ったため、性格も口調も男のようだった。
 しかも、彼女の家では女性でも剣を学ぶのが当たり前だった。
 女でも泣くよりは戦えという家訓もある。
 
 末の、しかもただ一人の娘を目に入れても痛くないと思っていたグウェンドリンの父は、幼少の娘が求めるままに男のように育てたのだ。
 兄たちも、話の合わない他の貴族の子女にうつつを抜かすより、趣味の武術について話の合う妹を父同様に可愛がった。
 母親は嘆いたが、可愛いグウェンドリンに悪い虫が付かないと、父親も兄たちも楽観的になっていた。
 
 そんな折、〈女のくせに〉と馬鹿にした同年代の少年をグウェンドリンが持ち前の武芸で徹底的に打ち負かす事件が起きた。
 彼女の武勇を褒める夫と息子たちに嘆き、実家に帰ると泣き出す母をなだめるため、グウェンドリンは花嫁修業の名目で修道院入りを承知することになったのだ。
 
 グウェンドリンは、元々熱心な聖北教徒で信仰心も厚い。
 毎日の食事では祈りを欠かさないし、修道院の荘厳な雰囲気には憧れもあった。
 花嫁修行よりも己の信仰のために、グウェンドリンは修道院に入ったのだ。
 
 ブリュンヒルデとグウェンドリンに共通するのは、互いに貴族の子女としては異端的な考えを持っていたことと、自立心の強い努力家という部分。
 家を離れたそんなじゃじゃ馬2人が出逢えば、そこに生まれるのは対抗心、あるいは共感である。
 
 2人はライバルとして切磋琢磨し、親友として苦難に取り組んできた。
 修道院での修行期間を終え互いに離れてからも、2人の友情は色あせること無く、時折手紙をやりとりしながら交友を続けていたというわけだ。
 
 久しぶりに再会したグウェンドリンは、ますます凛々しい雰囲気を持つようになっていた。
 
 グウェンドリンは、元々武人のような中性的な口調と剣術の稽古でほどよく鍛えられた体格から、下手な男より余程雄々しかった。
 同世代の少女たちの中でも頭1つ高い長身と、美しい容貌。
 男っ気の無い修道院にいた頃は、グウェンドリンに男性を重ね見て恋をする少女たちも沢山いた。
 
 ブリュンヒルデも、もしグウェンドリンが男性だったら夫の候補に選んでいただろうな、とさえ考えている。
 しかし、彼女が女性で良かったとも考えていた。
 グウェンドリンの男らしいとさえ感じさせる性格は、姦しい貴族の子女には無い一種の清々しさを感じさせるからだ。
 
 同性でなければこれほど気安くはできず、男性的でなければ友としての魅力に欠けるというわけである。
 
(難儀なものよね。
 
 でも奇抜さがあるからこそ、それを魅力的だと感じるのも事実だわ)
 
 そんなことを考えて、くすりと笑ったブリュンヒルデに、グウェンドリンは首を傾げた。 
 
「よく見れば、お前の着ているものも男物の外套だな。
 
 なぜそのような物を着ている?」
 
 友人の問いに、ブリュンヒルデは意味深げな笑みを浮かべると、その手を取った。
 
「うふふ、素敵な出逢いがあったのよ。
 
 本当に物語のような素敵な話。
 聞きたいでしょう?」
 
 頬を染めて嬉しそうに微笑む友人に、グウェンドリンは面食らったように首を傾げた。

 
 
 大分この手のものを書いていませんでした。
 リプレイも停滞してすみません。
 ぼちぼち書いていきます。
 何とか月一ぐらいには更新したいと思っています。
 
 お待ちの方は気長にお願いしますね。
 
 さて、リプレイ2に登場したグウェンダが登場です。
 この当時、グウェンダは3レベルぐらい。
 小国ではまあまあの実力です。
 
 彼女がどうやってシグルトと出逢い、そして追いかけるほどになったのかは、またの機会に。
 
 次回は、もう一人シグルトと深く関わる女性が登場します。
 シグルトの血筋と、病んだ国の一面…
 
 ご期待、してくれると好いなぁ。
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この記事のコメント

ブリュンヒルデさんとグウェンドリンさんの、美しさと優秀な所は純粋に魅力が感じられます。

ですが、病んだ国の実態というのもとても気になります。

期待して待ってます(`・ω・´)b
※プレッシャーになったら申し訳ありませんm(__)m
2008-01-21 Mon 18:44 | URL | らっこあら #mQop/nM.[ 編集]
〉らっこあらさん
 『アルフリーデ』の中で語ったものがその片鱗です。
 歴史ある封建制の国家にある、古めかしくて病んだ風習。
 
 教会権力を傘に悪辣な行為を続ける司教と、その一族。
 
 我々の倫理からすると、なんじゃこりゃぁっ!ということがまかり通っていたのが中世の封建制でして、その雰囲気をイメージしてみました。
 
 近親婚の危険性と、生まれる身体障害者及び天才。
 これは、近親婚を繰り返した歴史上の皇族や貴族によくあることです。
 近親婚は、財産の散逸を防ぐために、帰属感ではよく行われていたようです。
 
 書いてて暗鬱になりましたけど、こういうリアリティはついつい深く考えてしまうんですよねぇ。
2008-01-28 Mon 00:10 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]

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