『碧海の都アレトゥーザ』 潮風を背に

2006.06.15(01:47)

 アレトゥーザを旅立つ朝。
 
 黎明の清らかな輝きが空を染め、“風を纏う者”を送り出してくれた。
 すがすがしい潮風が、纏うべき未来の風を暗示しているようだ。
 
 昨日の充実した時間を思い出し、それぞれこの都市に再来を誓いながら歩み出すシグルトたち。
 
 …なぜかその中で、レベッカだけが不機嫌である。
 
 昨日の夜は上機嫌に酒をのみ、昼に知り合いに高級店で奢らせた、今が旬だというムール貝を南の特産品のオリーブオイルでソテーしたものや、熟した果物の甘みを自慢げに語っていたのに、である。
 
「なんじゃ、レベッカ。
 
 この爽やかな朝に何をむくれておる?」
 
 スピッキオが細い目を瞬かせ、怪訝そうに聞く。
 
 レベッカは、ぎぎぎ、と音がしそうなぐらい不穏な首の動きでスピッキオを睨んだ。
 
「…このモウロクジジイが、誰のせいだと思ってるのよ!」
 
 そういうとレベッカは銀貨が入った袋をじゃらりと鳴らした。
 
「勝手に銀貨六百枚も使って…あんたボケたんじゃないの!
 
 今私たちの手元にあるお金って、銀貨二百枚きりよ、に・ひゃ・く・ま・い!!!
 
 こんなじゃ、リューンに着く前に素寒貧よ~」
 
 そういって地団駄を踏むレベッカ。
 ラムーナが、楽しそう~と言ってまねをする。
 
「ああ、もう!
 
 揃いも揃ってあんたたちはなんて計画性のない金の使い方をするのよ…
 
 いい?
 私たち冒険者はね、旅でどかすかお金を使うの!
 
 通行税に宿代、食費に旅装費…
 
 なのに今あるお金はちょっと高い宿に一回泊れるかどうかよ!
 あんたたちが勝手に大金を使っても皺寄せは皆に来るのよ!
 
 それが、このジジイったら『新しい秘蹟を伝授してもらったから寄進した』ですって?
 
 私たちを野垂れ死にさせる気?
 
 私が交渉して苦労して必死に節約してきたお金なのよ、もうっ!」
 
 すごい剣幕である。
 
 シグルトは、仕事を探しつつ野宿しながら旅かな、と苦笑している。
 野宿♪、野宿♪~と陽気にラムーナは踊っている。
 これだから大人って…、とロマンのため息が入る。
 
「おまえは強欲すぎるんじゃ。
 
 その気になれば人間、その身一つで生きていけるわい。
 金銭なぞ、こだわるからいかんのじゃ。
 
 わしが居った修道院では…」
 
 スピッキオが修道院名物の清貧を謳い始める。
 
「このジジイ!
 
 そういうのは自分だけにしなさいっての。
 だいたい修道士って、普通修道宣言して階級とかないはずでしょ?
 それなのにちゃっかり司祭様やってるじゃない!
 
 物欲を捨てたのなら名誉欲も捨てなさいよ!!!」
 
 意外に宗教事情に詳しいレベッカであった。
 実は元修道士で、スピッキオのような僧職の階級についている在野の司祭は極めてまれである。
 
 本来、修道士は修道宣言をし、ブラザーと呼ばれ、本来俗世間からは離れるものだ。
 地位や欲を嫌って修道士として生活したものは、僧侶としての実権や地位を疎むものが多い。
 それに、司祭は本来一つの教会や、大きな教会の中核を担う役職である。
 旅に出ている事態、極めて異例なのだ。
 
 修道士出身の司祭ももちろんいるが、そういう連中はほとんどが「修道院で修行してきた」という箔を付けたいだけである。
 
 …実はスピッキオが僧職についているのにはかなり政治的な理由があった。
 
 この年寄り、かつては修道院でも古株で、前の院長に次ぐほどの人物だったのだ。
 しかし、修道院に新しく入ってきた院長は学僧(神学や学問を重んじる僧侶)タイプの人間で、その修道院を学僧の養成所として改革しようとしていたのである。
 そして頭が固いスピッキオを追い出すために、とある司教を通じてスピッキオを階級のある僧職にして、修道院に「いられなく」したのだ。
 名目上は修行を終え、司祭の任に就いて旅立ったことになっている。
 ただ、スピッキオも自分の意思で旅に出たという自覚はある。
 
 スピッキオの属した修道院は、スピッキオを推薦した司教の援助を受けており、しかもその司教はどうしようもなく善人であった。
 スピッキオを追い出そうと画策した新しい院長が、スピッキオの徳を褒め称え、修道院に埋もれさせるには惜しいと話を持ちかけ、その善人の司教は使命感と期待からスピッキオを司祭に推薦したのである。
 自分に期待してくれるその司教の好意を無下にもできず、そのまま用意された教会に収まるはずだったスピッキオであるが、新院長の思惑通りになるのはごめんと、布教巡礼を誓って旅に出たのだ。
 
 スピッキオも司祭職を返上しようかとも思っていた。
 しかし、この地位だからこそ救い導けるものもいることを、クレメント司祭に出会って教えられ、今のままなのである。
 それに僧職を辞めて還俗したところで、おそらく自分を追い出した新院長の思惑通りになってしまう。
 頑固で無欲なスピッキオが、還俗して聖職から離れることを期待していたふしがあるのだ。
 
「むう…」
 
 自分でも充分今の矛盾した立場を理解しているだけに、スピッキオはどう説明したものかとうなってしまった。
 
 鬼の首でもとったような顔で、どうよ、というレベッカ。
 
 しかしここでシグルトが間に入る。
 
「レベッカ…この爺さんが名誉欲に染まったただの俗物だと、本当に思うのか?」
 
 シグルトの言葉は至極シンプルだった。
 このリーダーは、ごちゃごちゃしたしがらみは無視して本題や本質からすっぱり入る人間である。
 
 レベッカも熱くなって、言い過ぎたな、といつものクールな彼女に戻っていた。
 きっと熱くなれるぐらいはこの連中に親しみを感じてるんだな、と自己を分析しつつ結局は、しかたないわねぇ、とリーダーを立てるのだった。
 
「さて、行こう。
 
 金がないなら仕事を探しながら、な。
 レベッカ、その手の匂いがあったら頼む」
 
 いつもの苦笑。
 
 私は犬じゃないっての、とすねた顔を見せつつ、レベッカはさっさと歩き出した。
 
 シグルトは一度だけアレトゥーザの門を振り返ると、そこで出会ったたくさんの人々と風景との再会を心から願うのだった…

 
 
 
 ちょっと長かったアレトゥーザ編いかがだったでしょうか。
 何か生活描写を必死に書いていた気もしますが、多少の間違いはファンタジーということで、大目に見てください。
 
 今回の金銭云々のお話、アレトゥーザに来たときにレベッカが祈り云々考えていた伏線に繋がっています。
 
 修道院の話は実際のカソリック修道院をモデルにアレンジしたお話ですが、「そんなわけあるか~」と突っ込みたい方は是非真実を教えてくださいね。
 内容変更するかもです。ミーハーなので。
 
 ちなみにアレトゥーザでスピッキオが習得したスキルは【聖別の法】です。
 【魔法の鎧】があればいらないじゃん、という方、黒砂糖です。
 低レベルの時こそ、このスキルはめちゃくちゃ重宝します。
 このスキルを体力的に薄いPCにかけることで生存率ががくっと変わります。
 特に体力のない回復役が最初につぶれて泣く方は是非使ってみてください。回復役がつぶれないと回復が間に合うようになり、連鎖的に全滅するパターンがかなり減ります。
 戦闘中にも手札に配布されやすいので、敵に奇襲を受けても使うことができます。
 何を隠そう、冥王の爺さんの魔法を喰らったとき、瀕死になったもののPCを生き残らせた逸品です。これ使って【防御】して何とか、でしたが。
 
 
 という訳で…
 
【聖別の法】(-600SP)
 
◇現在の所持金 200SP◇(チ~ン♪)
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コメント
 こんにちは。

>【聖別の法】
 自分でいうとあれなのですが、便利だと思います。特に『碧海~』に拡張してからLv1に設定しましたのでより使いやすくなったと思います。私も【魔法の鎧】までの繋ぎに使用しています。

>修道僧
 へ~そうなんだ、とかいいながら読んでいた私に細かいこと指摘する力ははありません(笑)。ただ司祭には教区司祭と修道司祭の2つがあるそうです。
 そういえば、こんなのご存知ですか?これを読んだときもへ~そうなんだってなりました。

http://www.asahibeer.co.jp/enjoy/history/europe/german3.html

 勝手にリンクを張ってしまいましたが、ご迷惑なら消してくださいね。

>料理
 おいしそうですね!中世の生活についてはまだまだ分からないことも多いみたいですね。そういえば以前読んだ本の中で中世ヨーロッパの料理では「甘」・「辛」・「酸」が主流だったけれど「苦」はあまり発達していなかったと書いてあったような…。後、ヴェネツィア商人のおかげで胡椒は結構流通していたけれど、途中で飽きられた、みたいなことも聞いたことがあります。どちらも手元に資料が残っていないので確認できませんが…。料理のレシピも楽しみに拝見しています。

色々と勝手なことを申しました。
それでは失礼いたします。

【2006/06/15 16:45】 | Mart #WkyY9OVg | [edit]
 いらっしゃいませ、Martさん。
 
 貴重な情報ありがとうございます。
 
 修道司祭という呼び方は私のリプレイでは出しませんでしたが、普通司祭は教区司祭をさす場合が多いので、修道司祭という呼び方をすっぱり切ることにしました。
 修道士を普通の僧職と分ける場合は、わかりやすいかなぁと思ったので。
 カソリックじゃないですからね、CWの教会は。
 まあ、私のリプレイにおける設定程度にお取りください。
 
 修道院発のヨーロッパ文化はたくさんありますよね。
 養蜂も蜜蝋を採るために修道院でやってたみたいですし、お酒や小道具なんかもよく修道院で作られていたみたいです。
 ビールの話も労働を重んじた修道院らしいものですね。
 
>料理
 調べるのが大変ですが頑張ります。
 食材が少ないと困ります…
 飢えなきゃなんでも食っていたような時代もあったようですね、中世って。
 
 いろんな間違いや、違和感のあるものも出るかもしれませんが、見逃してやってくださいね。
 
 また是非いらしてください。
【2006/06/16 17:14】 | Y2つ #TIXpuh1. | [edit]
こんにちは。

 中世修道院の雰囲気を楽しめる本として、エリス・ピーターズの『修道士カドフェル』シリーズ(全21冊)があります。元十字軍兵士にして傭兵上がりの修道士探偵カドフェルによる推理活劇ですが、膨大な資料に裏付けされた緻密な描写で中世の社会が活き活きと浮かび上がって来るようです。
 それでは。
【2006/06/17 12:34】 | 樹音 #EDSLkfi6 | [edit]
 いらっしゃいませ、樹音さん。
 
 情報、ありがとうございます。
 『修道士カドフェル』、探してみますね。
 うちの近郊にある本屋さんだとすぐには無理でしょうから、Amazonあたりの通販を使うかもしれませんが…
 
 また是非遊びに来てくださいね。
【2006/06/19 17:14】 | Y2つ #- | [edit]
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