Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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『ベーオウルフ』

 アルフリーデと別れたシグルドは、貰ったばかりの外套をなびかせて王宮の回廊を歩いていた。
 
 歴史あるシグヴォルフ王国の王城は広く、王宮の通路は迷路のように入り組んでいる。
 これは、攻められる場合を考えて城を造ったためだ。
 
 北方は土地が痩せており、シグルトの国も隣国との戦争が絶えない。
 多くの城砦は外見の華やかさより、戦争での利を考えて建てられている。
 
 それ故に、ちょっと油断しただけで迷ってしまうから困ったものだ。
 
 頼りない記憶から覚えている地理を探しつつ、先ほどアルフリーデに道を尋ねておけばよかったと、シグルトは内心溜息を吐いていた。
 
 それでも、後悔に囚われることをことさら女々しいと考える北方の男である。
 見苦しくない程度に周囲を見回しつつ、シグルトは歩みを早めようとした。

「ふん、こんなところで油を売っていたのか。
 
 妹を放って於いて、いい気なものだな」
 
 後ろから、敵意とともに突然かけられた低い声。
 シグルトは、その声の主が誰であるか理解し、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
 
「お役目御苦労なことだな、ベーオウルフ。
 
 俺には構わず職務を遂行してくれ」
 
 やや険のある口調で、シグルトは振り向き様に言い放った。
 
 鼻白んでシグルトを睨んでいるのは、絢爛な外套を纏った貴族風の男だった。
 腰に下げた剣は王賜の品で、この国の正統な騎士のみが佩刀を許される物である。
 
 派手な服装に似合わず、男は陰気な雰囲気を纏っていた。
 そこそこに整っているが、鋭い視線とへの字に結ばれた口が近寄り難い印象を与える。
 長身のシグルトよりやや低い程度の体格は、しなやかで野獣のようだ。
 
 男の名はベーオウルフという。
 北方ではシグルトとともに知らぬ者がいないと言われる、魔獣殺しの英雄と同じ名前。

 シグルトの異母兄である。
 
 シグルトとベーオウルフは、火花でも散りそうな様子で睨み合い、互いに顔も見たくないという様子で同時にそっぽを向いた。
 
 2人は兄弟ではあるが、昔から反りが合わず仲が悪い。
 余程のことでは敵意を見せず淡々としているシグルトも、この異母兄だけには敵意を剥き出しにしてしまう。
 
 というのも、わけがあった。
 
 ベーオウルフはシグルトの父親アルフレトの先妻の子供である。
 
 シグルトは十歳の時に父親に妹とともに貴族の子として認知して貰い、シグルトの母は正妻として迎えられた。
 その時ベーオウルフはシグルトたちと家族になることを拒み、こともあろうに可愛がっている妹の顔を鞭で打ったのだ。
 
 家族の女を侮辱された時、この国の男は命懸けで報復する習慣があった。
 特に身内の女性の顔を傷つけられるということは、「家族を守れない男」として、名誉に唾をかけられるに等しいことなのだ。
 
 激怒したシグルトはベーオウルフを殴りつけ、2人は互いの顔が端整とは言い難くなるまで殴り合った。
 それ以来、まさに犬猿の仲である。
 
 この異母兄が取るに足らない俗物ならば、シグルトは鼻にもかけなかっただろう。
 しかし、ベーオウルフは王国を代表する秀才であり、父の才能を受け継いだ剣の使い手だった。
 
 
 シグルトの父アルフレトは、十数年前に隣国との戦争で武勲を立てた英雄であり、その剣術は王国一と謳われていた。
 
 初めてアルフレトに会った者は、聞いた武勇と外見との格差に困惑する。
 普段のアルフレトは穏やかで、地味な雰囲気の優しそうな男性なのだ。
 やや野暮ったい格好をした貧乏貴族、という印象しか与えないのである。
 
 だが、槍の達人として有名なシグルトの師と並び、シグヴォルフではその武勇を知らぬ者はいない。
 男爵という低い身分でありながら騎士団長に抜擢され、多くの厳しい戦いを勝利へと導いてきた英雄だった。
 
 前回隣国との間に起こった戦争では、敵国の奇襲で危機に陥った友軍と国王を逃がすために、わずか20騎を率いて殿軍として残り、十倍以上の兵力を足止めした武勇譚は有名だ。
 王国中の詩人が今も詠っているほどである。
 その時に大きな傷を負い、杖無しでは歩けない上に利き腕も不自由だが、いざ剣を握ればその辺の雑兵数人には全くひけを取らない。
 
 そんな天才的な武勇の才能は、2人の男子にちゃんと引き継がれていたのだ。
 
 シグルトは元々平民として育ったせいか、王国では貴人の武器とされる剣は持たず、槍使いとしての道を選んだ。
 その武勇は、すでに国で指折りの実力である。
 槍の腕では師に次ぐか、国で三指に入ると言われていた。
 
 そして、ベーオウルフもまた父親の武勇を継いだ剣豪だった。
 15歳で成人すると同時に、史上最年少で騎士隊長にいまで上り詰め、10代最後の現在では、なんと王国の近衛騎士団で副団長を務めるほどになっている。
 王国の主宰する剣術大会では常に優勝候補で、この国でその武名を知らない者はいないだろう。
 
 王国の英雄の子である2人は、常に比較された。
 
 シグルトは王国一の美女と謳われ、零落したとはいえ王族の親戚だった母を持つ、公爵家の血筋である。
 母譲りの美貌と、清廉で勇敢な性格。
 平民として育った意外性を含め、幼少から武名に事欠かなかった。
 そのためか、平民や女性に人気がある。
 
 ベーオウルフはシグヴォルフで五指に入る名門に生まれた母を持ち、幼少から神童ともてはやされていた。
 12歳の頃には並の騎士を凌ぐ武勇を持っており、外見に似合わず詩歌や学問にも通じている。
 洗練された貴族としての自尊心と行動は、男爵家とは思わせないものだった。
 貴族の若者において、模範となる人物と評価されていた。
 
 2人の父親であるアルフレトは武名こそ王国に轟いているが、領地は狭く身分は一番下の男爵である。
 
 欲のないアルフレトは、戦争で手柄を立てたが、その報償として妻の名誉回復を願い出て、貧乏貴族のままだった。
 かつて愛人扱いだったシグルトの母が、今は正式な貴族の妻でいられるのはアルフレトのおかげである。
 
 先妻の息子であり、正妻の座をシグルトの母に奪われたと考えたベーオウルフは、面白くななかった。
 そして、ことあるごとにシグルトを敵視した。
 シグルトの母が、一端断絶にあったとはいえベーオウルフの母よりも名門の出であったことが、尚更彼の自尊心を傷つけていたこともある。
 
 そして、シグルトも母や妹を侮辱し嫌味ばかり言っていた異母兄が大嫌いだった。
 
 時が経ち、2人は成人して子供の頃ほどはいがみ合わなくなっていた。
 
 ベーオウルフは婦女子である妹や義母に対して、表面上は普通に接するようになっている。
 シグルトは、そんなベーオウルフに対して一触即発の態度は取らなくなっった。
 
 だが、未だにシグルトはベーオウルフを兄とは決して呼ばず、ベーオウルフの方は会う度に嫌味か小言を言う、そんな仲なのである。

 
「…ところで、その外套はどうした?
 
 そんな上等な品、シグルーンは言うに及ばず、お前も義母上も手が出せぬはずだが…
 まさか、盗んだのではあるまいな?
 
 お前のような、貴族のなんたるかも判らぬ若僧が粋がって良い品を身に着けても、滑稽なだけだぞ」
 
 ひとしきりぶつぶつと小言を言ったベーオウルフは、シグルトの纏っている外套に気付き、訝しがった。
 
「王家に縁の方から賜った品だ。
 
 それを盗品と結びつけるとは、その方の名誉を損なうぞ。
 詰まらぬ言葉は、命取りになる。
 
 代わりに、お前から押しつけられたあのけばけばしい外套は、今宵譲ってしまった。
 あれよりははるかに着心地が良い。
 
 丈もあっているしな」
 
 ベーオウルフより背が高いシグルトは、そのお下がりとして服を貰ってもややサイズが合わない。
 外套は何とか身に着けていたが、少し丈が短かったのだ。
 
 シグルトが皮肉で返すと、ベーオウルフは鼻で笑った。
 
「ふん、平民臭いお前が着れば、絹すら乞食の鼻を拭いた襤褸に変わるわ。
 
 お前のうすらでかい図体では、所詮は貴族の品など身分不相応だったということだ。
 せいぜい似合わぬものを着て浮かれているがいい」
 
 憎まれ口で返すベーオウルフ。
 
「そうしよう。
 
 ベーオウルフ(意味は熊や狼のような野獣を指す)のくせに、後で生まれた者に体格が劣るお前の物を着ては、心まで狭くなる。
 似合わぬものの方が、まだ着心地が好いさ」
 
 2人の間には、火花が散る雰囲気であった。
 
 シグルトがこのような口を利くのは、ベーオウルフに対してだけだ。
 特に、2人きりの時は互いに容赦なく毒を口にし合う仲である。
 
 決して相手の名誉を損なうような台詞は言わないシグルトだが、ベーオウルフに対してだけは例外だった。
 
「…ほざけ。
 
 私はお前のように、無駄飯食いではないのだ。
 お前も貴族の端くれなら、平民と槍で戯れているより、軍にでも入って国の役に立つことだな」
 
 ベーオウルフが捨て台詞を残して去ろうとする。
 しかし、シグルトは思い出したようにその背に向けて声をかけた。
 
「…先ほどオスヴァルト伯の御令嬢が、あのグールデンに絡まれていたぞ。
 
 婦女子が不快な思いをするのは、警護のもの全ての名誉に関わることのはず。
 俺に対して憎まれ口を吐く暇があるなら、少しは考慮しておけ」
 
 先ほどブリュンヒルデを助けた一件を思い出し、警告する。
 一端落ち着けば、シグルトもまた王国の戦士であった。
 
「…またあの男か。
 
 お前からの意見というのが癪だが…
 よかろう。
 
 今宵は奴がもう悪さを出来ぬよう、手は打っておく。
 
 万一あの男に絡まれる御婦人がいるようなら、東宮から先に避難するよう伝えておけ。
 あそこには、王宮警備における本部が置かれている。
 いかにあの馬鹿がくだらぬ威を誇っても、通用せぬだろう。
 
 これから警備の層は厚くする。
 
 まったくもってホフデン司教の一族どもは、貴族の面汚しだ。
 これだから、実力も無い名ばかりの成り上がりはいかんのだ…」
 
 ベーオウルフは、皮肉っぽい性格ではあるものの、実務では非常に優秀だった。
 公私はきちんと分けて仕事をする。
 その部分において、シグルトですら一目置いていた。
 
 いかに小国とはいえ、シグヴォルフの騎士団は、戦争の多い北方で数百年の歴史を守り続けた強国である。
 若者と言える年代でありながら、騎士団の次席まで上り詰めたベーオウルフは、極めて優秀な男なのだ。

「…しかし、ブリュンヒルデ殿に手を出すとは、身の程知らずにも程がある。
 グールデンの家門は、司教の手回しで無理矢理男爵家を名乗っているに過ぎないのだからな。
 
 血筋では、司教とその弟君しかまともな貴族ではない。
 そんな状況で、〈青い血〉(貴族の血筋であるということ)が流れていると吹聴する、その図々しさには呆れるばかりだ。
 
 オスヴァルト伯爵といえば、ロッテンベルク領の家柄。
 五貴族の三番目…今は二番目か。
 
 あの方のような貴族の婦人は、尊ばねばならん」
 
 独り言のようにベーオウルフは呟いた。
 
 五貴族とは、シグヴォルフ王国の貴族において筆頭とされる五つの名門である。
 伯爵家以上で、ワルト(ヴァイスシュピーゲル)領公爵家、グリュンガルテン領侯爵家、ロッテンベルク領伯爵家、シュヴァルツシュルフト領伯爵家、ブラオゼー領伯爵家があった。
 現在はワルト(ヴァイスシュピーゲル)領公爵家が断絶しているため、残った四家が門閥貴族の筆頭とされている。
 
 ベーオウルフの母フリーデリーケは、現シュヴァルツシュルフト領伯爵家当主フベルトゥスの姉だ。
 現在では男爵という地位にあるが、シグルトとベーオウルフの父アルフレトも、血筋ではブラオゼー領伯爵家の傍流にあたる。
 
 ベーオウルフはことさら血筋には五月蠅かった。
 そして、多くの貴族はより血筋を良いものにしようとする。
 一番簡単に血筋を高めるには、名門の血を引く者と婚姻を結ぶことである。
 
 今の時点で、残った名門四家で妙齢の娘は少なく、その中で一番血筋がよいのがシグルトが助けたブリュンヒルデであった。
 しかも、ブリュンヒルデはロッテンベルク領伯爵家の一人娘である。
 男性の権威が強いシグヴォルフでは、彼女と結婚すれば、自然と伯爵家の全てを受け継ぐことになるのだ。
 加えて、ブリュンヒルデは絶世の美女と謳われ、聡明と名高い才媛である。
 
 未婚の貴族の男たちは、すべからくブリュンヒルデの心を射止めようと狙っていた。
 そして女っ気がまるでないベーオウルフだが、彼ですらブリュンヒルデには一目置いている様子である。
 
「あそこまで、とは言わんが…
 
 シグルーンには、あの方を見習ってほしいものだ」
 
 そう言い残すと、ベーオウルフは外套を翻して去って行った。

「最後まで嫌味な奴だ…

 それにしても、ブリュンヒルデ殿か。
 俺には、普通の女性にしか見えなかったがな」
 
 外套をかけてやった時、頬を染めて礼を言った伯爵令嬢を思い出し、シグルトはベーオウルフとの舌戦で引きつった頬を少しだけ緩めた。

 
 
 この際大盤振る舞いです。
 書きためておいた小説を一気にUPしておきます。
 
 シグルトにとって最大の因縁、ベーオウルフ兄の登場です。
 複雑な家庭事情があるシグルトですが、はっきり言えることは、シグルトもベーオウルフも優れた才能を持っているということです。
 同時にどっちも勤勉で努力家、名誉を重んじるタイプです。
 
 べーオウルフは基準的には無双型相当ですが、それほど筋力が高いわけではありません。
 その代わり、シグルトよりも知力が高く、インテリです。
 バランスに優れ、総合力で敵を圧倒します。
 この当時、シグルトと同じく6レベル相当の実力がありました。
 
 彼は何れまた本編にも登場する予定です。
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