『鳥籠を抜け出して』

2006.06.24(20:19)

 “風を纏う者”はその日、リューンから南にある都市アライスに到着した。
 
 依頼の内容は《領主の息子を守ること》。
 
 領主の息子ケヴィンは何者かに付け狙われてるらしい。
 
 ケヴィンを守り、彼を付け狙う犯人を捕らえること。
 それが依頼の全容であった。
 
 領主からの急ぎの依頼ということと、宿の亭主からの特別な頼みとあって、仕事を終えた後、強行軍でやってきた。
 しかし、リューンからアライスまでは徒歩で3日はかかる。
 
 一行がアライスに着いたときにはケヴィンは白昼堂々と誘拐されていた。
 
 まだ依頼の調印もしていないのに依頼主の領主は一行を契約違反扱いし、シグルトは即座に帰ることを決めたが、領主は都市を閉鎖し、一行はアライスから出られないようにされてしまう。
 結局、長い交渉の末に報酬をちゃんと払うという契約をレベッカがねじ込み、ケヴィン捜索を受けることになったのである。
 
 領主の私兵が虱潰しに探しても見つからなかったケヴィンと犯人を、レベッカはたった一日で発見し、一行は逃げる犯人を追い詰めてしまう。
 
 ラムーナの驚異的な足の速さによって挟み撃ちにされた3人組の犯人は、袋小路に追い込まれ、やけになったように攻撃してきた。
 
「《…穿て!》」
 
 ロマンの魔法で1人がふらふらになる。
 そこをレベッカが足払いで転倒させた。
 
 シグルトが剣の平で1人の顔面を打ち据え、吹き飛ばす。
 
 リーダー格の男も、シグルトとラムーナの連携攻撃であっという間に地べたに這うことになった。
 
「つ、強い…
 
 こいつら人間か?」
 
 最初に倒れた目つきの悪いバンダナ男が、低くうめいた。
 
「ちっ…
 
 てめぇら!
 ここは一旦引くぞ!」
 
 首領格の男は“風を纏う者”で一番華奢な体格のロマンに体当たりすると、3人で散り散りになって逃走した。
 
「ごめんね、僕じゃ押さえきれなかったよ」
 
 尻餅をついたロマンをシグルトが助け起こす。
 
 レベッカはケヴィンを気遣い、無事を確かめる。
 そして彼を領主の館に連れ帰ったのだった。
 
 
 ケヴィンを連れ帰った後、領主がケヴィンと一緒に会うというので、一行は案内された部屋に向かった。
 
「ふん…遅かったな。
 
 リューンの冒険者は優秀だと聞いていたが、所詮はこんなものか。
 わざわざ使いを出してまで依頼したのは失敗だったな」
 
 出会い頭、挨拶もせず依頼主の領主は言い放った。。
 
「随分失礼だな。
 
 粗悪なチンピラでももう少し礼節は尽くすものだが?」
 
 シグルトは腕を組むと、椅子に座ったままの領主を見下ろした。
 
「ふん、冒険者のように下賎な、しかも受けた仕事を遂行できないような“屑”に尽くす礼などないわ」
 
 吐き捨てるような領主の態度に、何と無礼な、とスピッキオが怒りをあらわにする。
 シグルトはそれを手で制した。
 
「俺たちは、貴方の侮蔑の言葉を聞くために来たのではない。
 
 この契約書にある通り、御子息を連れ戻したのだから報酬を支払ってもらうし、この都市からは失礼させてもらおう」
 
 シグルトが証書の文面を示す。
 
「報酬は払わん。
 
 出て行くならとっとと出で行くがいい」
 
 領主はそう言うと、虫でも追い払うかのように手を振った。
 
「…それは契約違反だ、領主殿。
 
 犯人は捕まえられなかったが、御子息を取り戻すことができたら、銀貨五百枚並びにアライスの閉鎖を解除する、とある」
 
 しかし、領主はそれを鼻で笑った。
 
「私は《息子を守れ》と依頼したんだ、それをおめおめと攫われ、挙句のはてに犯人を取り逃がしたそうだな?
 
 無能な貴様らに払う金は無い!」
 
 横暴な言葉にシグルトはあきれたように苦笑した。
 
「俺たちは貴方の依頼をアライスに来るまで受けた憶えはない。
 
 それを契約不履行だの、無責任だの文句を言って、城門を閉鎖して足止めしてまで御子息を探させたのは誰だったかな、領主殿?」
 
 シグルトは鋭い眼光で領主を睨みつける。
 文句を言おうとする領主を制し、シグルトは証文を突きつけた。
 
「ここにはちゃんと状況ごとに報酬を支払うよう条件が書き込まれている。
 
 支払わないなら、貴方を領主に任命している国の上層部に証書を持ち込んで請求するまでだ」
 
 それを領主は、無理だなと嘲った。
 
「それは部下が勝手に調印したものだ。
 
 私の知ったことではない。
 その部下は無能の咎で謹慎させている」
 
 ではその部下に会わせろ、というシグルトの言葉も領主は取り合わない。
 
「罪人の部下に会うことは許さん。
 
 話すことはもう無い。
 さあ、失せろ!」
 
 完全に料金を踏み倒すつもりなのだろう。
 
「…なるほど、部下の無能を見逃した貴方の失態の責任はとらないのだな?」
 
 シグルトの物言いに一同は随分溜飲が下がる思いだった。
 
「く、冒険者などというチンピラまがいの身分のくせに、口だけは達者なようだな!」
 
 ケヴィンがあまりに無礼な父親の物言いを留めようとする。
 それをシグルトは目で制すると、ぎろりと領主を睨みつけた。
 
「我々は、領主殿の部下でも奴隷でもない。
 身分を問われるのは心外だな。
 
 それと本当に口先だけかお見せしようか?
 お望みなら、領主殿を絞め落とすか殴り倒すぐらいの力は示して差し上げるが」
 
 くぅ、と領主がたじろく。
 
 シグルトたちは不敬罪を理由に逮捕されそうになったら、本気で暴れて脱出する腹だった。
 仲間内ですでにその打ち合わせを終えている。
 
 彼らがこれだけ強硬な態度でいられるのは、領主が契約を破ったという大義名分や、レベッカがこの領主の後ろ暗い行いの情報を押さえているからである。
 もっとも、本気で領主の私兵と戦闘になればシグルトたちにも犠牲が出る恐れもあるので、その反抗的な態度には、領主を牽制する意味もあった。
 
「このクズどもめっ!!!
 
 と、とにかく、貴様らに払う金は一銭もない無い。
 すぐに、この屋敷から出て行け!
 
 わしとしては、違約金をもらい、リューンまで使いをやった人件費の賠償もしてもらいたいところだぞ!
 
 それを貴様らに払う報酬で相殺してやったのだ!
 これ以上いちゃもんをつけるなら、衛兵を呼び、貴様らを牢にぶち込むぞ!」
 
 その言葉にレベッカがすっと前に出た。
 
「結構。
 
 別にあんたみたいな耄碌じじいから金を取ろうなんて思ってないわよ、私たちは。
 
 ただし憶えておきなさい、アライスの領主殿…
 
 我々真っ当な冒険者は、あんたみたいな酷い奴の依頼は受けないわ。
 貴方が私たちにした仕打ちは、あっという間に冒険者たちに伝わるでしょう。
 
 今後冒険者を頼ることがあったとしても、ほとんどの真っ当な冒険者の宿は貴方の依頼を拒否するでしょうし、貴方がどんな大金を積んでも、受けに来るのはただのチンピラか金の亡者よ。
 
 私たちは仕事にそれなりの仁義を持って当たるわ。
 その仁義に裏切りと不誠実で応え、私たちを侮辱したこと…絶対後悔するわよ」
 
 それ以上話すことはないというふうに、“風を纏う者”は領主の前から去って行った。
 
 
 結局夕刻を過ぎていたのでアライスに宿を取り、“風を纏う者”は休むことになった。
 
「しかし、驚いたの。
 
 レベッカのことじゃから、絶対に金を払わせるかと思ったのじゃが」
 
 スピッキオが、まあ、あれはあれで愉快じゃったがの、と続ける。
 
「ふふん、この私がただで泣き寝入りすると思う?
 
 あの領主の情報を売るなり、領主の反勢力に屋敷の見取り図の写しでも売りさばいて、旅費と食費と宿代と『小さき希望亭』のツケ分はせしめてやるわよ。
 ま、あんなむちゃくちゃなじじいから金もらって恩を売られるくらいなら、子供から銀貨一枚のお使いを受けたほうがまだいいわ」
 
 レベッカは今回の依頼が特別なつながりから無理に頼まれたことや、あまりに高い報酬額から、どうも怪しいと仲間と別行動で調査を行っていたのである。
 
 一行は無茶な契約内容を持ってきた領主の使いを糾弾し、それを受けないと宿の名声や信頼が傷つくことを避けるために、いろいろな手を打っていた。
 
 そしてこの都市に来て領主の態度から、報酬は回収できないとさとったレベッカは、無報酬だと割り切った上で、アライスの領主が二度とまともに冒険者を雇えないように仲間と一芝居打ったのである。
 
 あとレベッカは、しっかり屋敷に忍びこんで、金になりそうな情報を仕入れていた。
 
 普段はこんなことは面倒くさがってしないのだが、最初にこの都市に来たときの領主の態度がよほど頭にきたのだろう。
 
 一行は一見無報酬だった今回のことを、和気藹々といった様子で話している。
 強引な依頼主に泣き寝入りする冒険者たちも多い中、このように報酬をふいにして言いたい放題言うパーティは珍しいだろう。
 
 シグルトたちもそろそろ後輩を持つパーティである。
 後輩が泣かないように、酷い依頼主はふるいにかけて宿の親父に情報を渡しておく。
 ほとんど金にならないことだが、こういう地味な仕事をやっている冒険者はその分仕事に誠実であり、金だけで動かないという“評価”を得るのだ。
 
 それが後の仕事につながり、優れたコネクションを得るきっかけになるということを、シグルトたちは優秀な先輩冒険者から聞いて知っていた。
 
 それに“風を纏う者”のはレベッカがいる。 
 彼女のすごいところは、どんな失敗や敗北も無駄にならないようにできることである。
 
 “風を纏う者”は生活のためだけに結成した当時のものから、誇りと自由を重んじる冒険者パーティに変わりつつあった。
 
 仲間の名誉を重んじる武勇に長けたリーダーのシグルト。
 巧みな交渉術と生存術でパーティの維持を可能にするレベッカ。
 子供とは思えない知恵と知識で困難に答えを見出す賢者ロマン。
 パーティを常に明るい雰囲気に保つムードメーカーのラムーナ。
 宗教知識と聖職による信頼を持つ老獪な司祭スピッキオ。
 
 一行に共通していることは、皆仲間を大切にし、それなりの誇りと仁義を重んじるようになったことだろう。
 
 シグルトたちはチンピラ扱いされることも多い冒険者である。
 だからこそ、その不名誉に甘んじていないで、自分たちの持つ信念を示すことができる冒険者になろうとしていた。
 その高潔な考えが、彼らの冒険者としての確固たる地位を築くことに繋がっていた。
 
 そして、その誠実なやり方も依頼主に高い評価を受けているのである。
 
 結成してまだ数ヶ月という“風を纏う者”であったが、すでにプロの冒険者として認められつつあった。
 
 
 “風を纏う者”が領主の話で盛り上がっていると、宿に男が入ってきた。
 
「…やっぱりこの宿にいたのか。
 
 この街で冒険者を泊めるような宿は他にねぇからな」
 
 宿に入ってきて話しかけてきた男は、先ほどの誘拐犯のリーダーだった。
 
「なんだ、お前か。
 
 もうあの領主と俺たちは無関係だから、お前たちを追う気は無い。
 …気をつけないとあのへぼ領主の手先がかぎまわってるかも知れんぞ、気をつけるんだな」
 
 シグルトはさらりと言って男を驚かした。
 
「あんたら、驚かないのか?
 
 いや、あいつが言ってた通り型破りというか…」
 
 複雑な表情をしたその男は、ティコと名乗った。
 
「ここに来た用は…他でもねぇ。
 
 お前らに仕事を頼みてぇってやつがいるもんでな、連れてきてやったんだよ」
 
 内密の話らしく、ティコは一行の泊まっている部屋で話すことを望んだ。
 
 
 一行の部屋に入るとティコはまず頭を下げ、先ほどの戦闘のことを詫びた。
 
 そのとき、廊下に足音がして、誰かが一行の部屋の扉をノックした。
 
「来たみてぇだな」
 
 ティコが招き入れた人物はケヴィンだった。
 
「な~る。
 
 なんとなく読めたわ。
 貴方たちを追いかけたとき、彼が全く抵抗したり嫌がってる様子が無かったけど、あんたたちはグルで、今回の事は狂言誘拐ってところかしら?」
 
 レベッカの読みにティコとケヴィンが目を丸くした。
 ほぼその通りだったのである。
 
 ケヴィンはポツリポツリと、今回の騒動のわけを話し始めた。
 
 悪辣で強引な性格の父親。
 家を継ぐことを強要され、それが嫌になっていたこと。
 自分が何を言ってもおそらく聞いてくれない父親に愛想が尽いたこと。
 ケヴィンはそんな父の元から逃げ出したかったということ。
 そして今回の《誘拐》騒ぎは父の元から逃げ出すためにうった芝居だったこと。
 
 付け足すようにティコがいう。
 ティコは個人的に領主に恨みを持っていた。
 領主の鼻をあかしてやりたいという考えもあったらしい。
 
「俺はこの街の貧民街で生まれ育ったんだが…
 
 俺が七つの時、あのクソ領主が貧民街に火を放ったんだ」
 
 悔しそうに言うティコ。
 
「たしか、貧民街で強引に囲ってた女性が身ごもったから、殺して丸ごと隠蔽するためにやったって話よね?」
 
 あんた何でも知ってるんだな、と半ば呆れ顔でレベッカを見つつ、ティコはその通りだ、と頷いた。
 
「その事実をティコから聞かされたときはショックでしたよ…

 そして僕の父への不信感は、どうやっても拭いきれるものではなくなったんです。

 これ以上あの父の元にはいたくない。
 子供じみた衝動に思われるかもしれませんが、僕は耐えきれなかったのです」
 
 ケヴィンはそこまで一気に言うと、一呼吸置いて姿勢を正した。
 
「そこで、です。
 ここからが本題になるのですが…

 皆さんには新しい作戦に協力して頂きたいのです」
 
 神妙な顔で言うケヴィンに皆が注目する。
 
「皆様もお気づきかとは思いますが、この街は城塞都市。

 門をくぐらなければ街から出られません。
 ですが…

 貧民街の南側に、城壁が崩れているところがあるのです。
 そこを通れば、門を通らなくてもアライスを出ることが出来ます」
 
 そるとティコが補足するように身を乗り出して語り出す。
 
「但し、ここに一つ問題がある。

 ケヴィンが屋敷を抜け出した事はそろそろ領主も気付きやがるだろう。
 そうなってくると、恐らく街中を虱潰しに探されちまう。

 問題の抜け道も封鎖されてる可能性が高い。
 で、お前らにやってもらいてえのは…」
 
 要は、件の抜け道にいる衛兵を退け、強行突破を手伝ってほしい、という依頼であった。
 報酬は銀貨六百枚である。
 
 ケヴィンとティコは揃って深々と頭を下げた。
 
 黙って聞いてたシグルトは、仲間を見回す。
 
「今回はこの仕事の前振りだったと思えば損はないだろう。
 
 どうせ、この2人が見つかるまでは門は閉じられて、あの忌々しい領主から離れられなくなる。
 俺はこの依頼を受けて、すぐにでもこの都市を脱出したいが、皆はどうだ?」
 
 それにロマンが頷く。
 
「あの失礼な領主を困らせると思えば、なかなか好い仕事だよね」
 
 ラムーナもうんうんと大きく頷いている。
 
「お前のもくろみ通りじゃの、レベッカ。
 
 あの領主、絶対後悔するじゃろうて」
 
 スピッキオがにやりと笑ってみせる。
 
「当然ね。
 
 2人とも、安心なさいな、この依頼は受けてあげる。
 
 あのじじいがいるこの街からは、すぐにおさらばよっ!」
 
 レベッカはウインクして笑ってみせる。
 
「あ、ありがとうございます…!!!」
 
 何度も礼を言うケヴィン。
 
「そうと決まれば…行くぞ。
 
 今は少しの時間も惜しいからな」
 
 ティコが急かすように言う。
 
「では、これから貧民街に真っ直ぐ向かえば良いのじゃな?」
 
 スピッキオが聞くとティコとケヴィンは顔を見合わせた。
 
「いえ…

 地上を歩いていくとなると見つかる危険性が高まります。
 なるべく見つからない場所を通って行こうかと」
 
 ケヴィンが遠慮がちに言った、その言葉の間に、一行は嫌な予感を覚えていた。
 
 
 一行は隠れていくために地下、すなわち下水道を通ることになった。
 
「臭いな…」
 
 吐き気を催す異臭に顔をしかめつつ一行はグネグネと曲がった下水道の中を、鼠や蝙蝠と戦いながら南下していった。
 
 その途中、ケヴィンはシグルトに何故冒険者を続けるのか、と聞いた。
 
「そうだな。
 
 最初は生きるために選んだ。
 自分の腕だけで生きていくつもりだったよ。
 
 でも今は…好きだからだな。
 嫌なことはたくさんあるけど、仲間がいて一生懸命生きてる。
 
 いろんな出会いがあって、自分たちで道を切り開く。
 生き方そのものが好ましいんだ。
 
 曲げずにいたい自由な意思と仲間がある。
 それが今の俺の誇りなんだ」
 
 爽やかに微笑むシグルトを、ケヴィンはまぶしそうに見つめた。
 
 
 下水道を出た一行は、ひたすら目的地向けて言葉も無く走り続けた。
 そして件の裂け目に着く。
 
 し予想通り、そこには屈強な衛兵が三人いた。
 
 こちらを捕らえようと向かってくる衛兵に、一行は迎え撃つ構えを取った。
 
「ロマン!」
 
 シグルトは剣で1人の衛兵の身につけている金属の脛当ての上から強打し隙を作る。
 そこにロマンの唱えた魔法が炸裂し、一体は壁に叩きつけられて気を失った。
 
 ラムーナが後ろ回し蹴りで衛兵の1人の延髄を強打する。
 ふらついたその衛兵にケヴィンが体当たりをして気絶させた。
 
 ラムーナの返す足がシグルトの剣で押しやられていた衛兵の股間を強打し、最後の衛兵も昏倒する。
 
「やっぱ、強いな、あんたら…」
 
 ティコが目を丸くしている。
 
「あの銀貨六百枚の投資は間違いなかったわね。
 
 ラムーナのダンスは最高よ!」
 
 最近の闘いでは闘舞術を習得したラムーナの活躍が素晴らしい。
 レベッカはこの娘が愛らしくてしっかりと抱きしめた。
 
 ちょっと嬉しそうにラムーナがはにかんでいる。
 
「さて、他の衛兵が来ないうちに脱出しよう」
 
 抜け穴に向かおうとする。
 
「待て!」
 
 それを止める者がいた…この都市の領主である。
 
「そこまでだ、ケヴィンは返してもらおうか。
 
 ケヴィンはわしの後を継ぎ、このアライスを治める身。
 貧民街に巣食う貴様が近づいていい人間ではない!」
 
 領主はケヴィンと並んでいるティコを睨みつけた。
 侮辱の言葉に、ティコが目を剥いて拳を握り締める。
 
 そして領主は蔑んだ目で冒険者を見る。
 
「…それにそこの汚らわしい冒険者ども!
 わしから金が取れないとなったらケヴィンの誘拐の手助けか!
 
 どこまでも金に汚い奴らめ!」
 
 シグルトたちは冷めた目で、がなっている領主を見ていた。
 
「もう…

 もうやめてください!!」
 
 耐え切れなくなったケヴィンが叫んだ。
 
 いつでも領主を殴り倒して脱出するつもりだった一行は、暴走しそうだったティコを留める。
 
「やめろだと?
 
 何をやめると言うのだ。
 ケヴィン、お前はまさかこの汚らわしい誘拐犯の肩を持つつもりでは…」
 
 驚いた顔で領主がケヴィンを見つめる。
 
「汚らわしいのはどちらですか。
 
 己が全て、他人の事など人間とも思わないような父上の方が僕から見れば余程汚らわしい!
 僕は全部知っているんです!

 アライスの人々を虐げ、自分だけが得をするような悪政を敷いて来た事も!
 自分の立場を守るために、貧民街に火を放ったことも!」
 
 ケヴィンの言葉は、まるで胸に溜め込んでいたものを吐き出すようだった。
 
「ケヴィン、お前、何故それを…」
 
 領主の表情に動揺の色が走る。
 しかしケヴィンは止めることなく言葉を続けた。
 
「僕に対してもそうです。
 
 あなたは僕を《自分の後継者》としか思っていなかった。
 僕の意思を尊重してくれた事など一度もなかったでしょう。
 
 もううんざりなんです。
 父上にも、アライスにも、決められた道しか歩く事ができない自分自身にも…。
 
 僕は父上のようにはなりたくない。
 僕は《僕》なんです。
 
 …領主の地位というのは、罪を犯してまで守るべきものなんですか?
 仮にそうだとしたら僕はそんなものには興味はありません。
 
 これ以上…
 そんな些細なものにしがみついている人を自分の父だとは思いたくありません。
 
 この街にいる以上それが避けられない事だから…僕はアライスを出る。

 ただそれだけのことです」
 
 そこまで言い切ると、ケヴィンは領主に背を向けた。
 
「それでは…

 さようなら、父上」
 
 ケヴィンが一足先に抜け穴に向かい、ティコがその後に続く。
 
 続く冒険者たち。
 
「親の心を子は知らず…
 
 まあ、おぬしの場合は子供の心を知らなかったようじゃがな」
 
 スピッキオは悠々と領主の前を通り過ぎる。
 
「あのね、あんまり怒ってると禿げちゃうのよ」
 
 気をつけてね~とラムーナが駆けていった。
 
「可哀想だから一つ教えてあげるよ。
 
 おじさんのやった悪いことの中に、他の都市の領主たちを怒らせることたくさんあったよね。
 最近証拠つきでいくつかの大都市にその悪事がばれたみたいだから、これから糾弾されるかもしれないよ。
 
 おじさんみたいに領主って強欲な人が多そうだから、これを機会に攻められるとか、王様に訴えておじさんから領地没収とか、されそうだよね」
 
 首切られないように気をつけてね、とロマンが続く。
 
「言ったでしょ、絶対後悔するってね。
 
 私たちは依頼を受けてやっただけ。
 ケヴィン君は報酬を払ってくれる分、あんたよりはるかに好い依頼主だったけど。
 
 あんたのところ、私たちも居心地が悪かったけど、彼にはもっと悪かったんでしょうね。
 まあ、身から出た錆よね~」
 
 レベッカは舌をだしてあかんべえをすると去って行った。
 
「別に追って来てもかまわんぞ、領主殿。
 
 敵になる刺客は倒すだけだ。
 
 それに俺たちが持ってる証文はあんたの不正を証明できる。
 俺たちに払うはずだった報酬の数倍を役人に貢いでも、俺たちに臭い飯を食わせることは無理だろうな。
 
 あと、あんたが何をしようがもうケヴィンは戻らん。
 人は心に譲れないものを持つことがある。
 
 誇りと自由だ。
 
 あんたに教えられなくてもケヴィンはそれを手に入れたんだ。

 ケヴィンは巣立っただけだ。
 俺たちは閉じ込められていた雛鳥に応えただけだよ」
 
 シグルトは剣を鞘に収めると、最後に抜け道をくぐった。
 領主は何事か叫んでいたが、もうこの男の言葉を聞くものはいなかった。
 
 
 アライスを抜け出して、暫くは誰も何も言わないまま歩き続けていた。
 誰も口を開くことなく、黙々と。
 
 そしてやがて、一行の前には橋が見えてきた。
 この橋を渡ると大きな街道がある。
 
 橋の手前で、不意にケヴィンが立ち止まった。
 
「…皆さんは、どちらに向かうのですか?」
 
 シグルトはしばし考える。
 
「そうだな…
 
 あちこち経由してフォーチュン=ベルあたりで一仕事か。
 あとは南に来てることだし、西の街道を回ってアレトゥーザに行ってもいいな。
 
 もう少しアライスから離れて、街道の分かれ目で決めるよ」
 
 宿の親父には、お前ら留守が多いぞ、とよくぼやかれる。
 
「…そうですか。
 では、僕は南に向かう事にします。
 
 皆さんのお仕事はここまでです。
 
 僕はこれから…自分で歩き始める事にします。
 この分かれ道が、丁度いいお別れのきっかけですね」
 
 ケヴィンが差し出した手をシグルトは一度強く握って、彼の肩を励ますように、ぽんっと叩いた。
 
「俺はケヴィンについていくからな。
 
 どうせ俺もアライスには戻れねえし。
 一人旅になるよりゃ、連れがいたほうがいいんじゃねえの?
 
 ケヴィンも俺も、お互いさ…」
 
 後ろでにやりと笑ってティコが言う。
 
「…どうぞ、ご自由に。
 
 ティコが決めた事ならついてくるなとは言えませんからね、僕には」
 
 やれやれという風にケヴィンは頷いた。
 そして互いに橋を渡ったら別れようと心に決める。
 
 ケヴィンは報酬の銀貨六百枚を一行に差し出した。
 先ほど下水道で拾った一枚を放り込んで財布の紐を締めるレベッカ。
 
「そういえば、ケヴィン。
 
 おぬしはこれからどうするんじゃ?」
 
 スピッキオが細い目を少し開いて尋ねる。
 
「…僕、ですか?」
 
 ケヴィンにうむと頷く。
 
「下水道では、巡礼の旅に出るなどと言っておったな。
 
 もしそうなら少しは導いてやれれば、と思っての」
 
 ああ、とケヴィンは思い出したように手を打った。
 
「…そんなことも言いましたね。

 ですが、気が変わりました」
 
 頭を振ってケヴィンは一度シグルトたちを見回した。
 
「僕、冒険者になろうと思っています。
 
 今まで僕は、自分でその生き方を決める事が許されなかった…
 でも、ようやくその権利を手に入れたんです。
 
 それならば、自分にしか出来ない誇りを持った生き方をしてみたいんです」
 
 ケヴィンの瞳は眩しそうにスグルトに向けられる。
 
「こんな話を知っていますか?

 鳥は、生まれて初めて見たものを親だと思う、と」
 
 ロマンが、すり込みのことだよね、という。
 
「僕はずっと鳥籠の中に閉じ込められてきました。
 外の世界を見ることなく。

 その僕が鳥籠を抜け出して初めて見たものが、皆さんだった。
 
 皆さんを見て、その生き方を目標にしたいと思った…子供じみた理由かもしれませんが」
 
 そういった横ですねた様にティコが呟く。
 
「…俺はどうでもいいのかよ。

 ま、俺も暫くはケヴィンにくっついていってみるわ。
 《俺なりの生き方》が見つかるまではな」
 
 そんなティコを、ケヴィンは苦笑して見つめた。
 そしてシグルト以外の冒険者とも握手する。
 
「次に会うときには、お互い《冒険者》として会えたらいいですね」
 
 そう言ったケヴィンに、それは違う、とシグルトが頭を振った。
 
「《冒険者》は、《冒険者》だって心に覚悟を決めればなれる。
 
 ただし、命がけで危険な仕事だ。
 俺に言えることは、頑張れというぐらいだが…
 
 もし行き先が交わることがあったなら、きっとまた逢おう」
 
 そういってシグルトは強く頷いてみせた。
 
「もし南にいくなら、アレトゥーザの『悠久の風亭』に行きなさい…好い宿よ。
 
 リューンなら私たちの『小さき希望亭』か、他に『風の旅路亭』にも優秀な冒険者が集まると聞いたことがあるわ。
 留守ばかりだけど、リューンに来ることがあったら私たちの宿にも顔を出してね。
 
 …エールの一杯ぐらいは奢ってあげるわ」
 
 そういってレベッカは軽くウインクして、ケヴィンの手に旅装一式が入った袋を渡した。
 
「お古だけど、ちゃんと手入れしてあるから充分使えるわ。
 
 私たちはフォーチュン=ベルあたりで補給するから気にしないでね。
 また逢いましょう」
 
 ケヴィンはその言葉に力強く頷き、そして…しっかりとした足取りで歩き出した。
 
 ティコはひらひらと一行に手を振りながらその後に続く。
 
「まーたーねー!!!」
 
 ぶんぶん手を振ってラムーナが別れを惜しむ。
 
 ケヴィンは振り返り、大きく頷いてこちらに手を振っている。

 冒険者たちはその背中が見えなくなるまでずっと見送っていた。
 
 そしてシグルトたちも自分たちの行く街道を確認する。
  
「さあ、旅立とうよ。
 
 まだ知らない冒険をするために…」
 
 ロマンが最初に歩き出す。
 
 “風を纏う者”は優しく絡む新しい風を感じながら、また歩み出した。

 
 
 あんずあめさんの『鳥籠を抜け出して』です。
 
 たまには新ものを、ということで、UPされたその日にリプレイをしようとやってみたシナリオです。
 
 私のリプレイはPCの性格を表現するために、かなり内容をかえて文章にする場合があります。
 今回も、本来なら駆け出しの冒険者が領主の横暴なやり方で泣き寝入りするところ、別物に変えて表現してます。
 こういうの気に入らない方、御容赦くださいね。
 
 でも、レベッカがかなり細かく手を回し、きちんとした確約をとって行動してますが、これがプロらしい冒険者だと思います。
 
 あと領主に対して「あんたの依頼を受ける冒険者がいなくなる」という脅しをレベッカがしていましたが、信頼商売である冒険者にあまりに不誠実なことをすれば、当然その依頼主はやばいと総スカンにされるでしょう。逆も然りということです。
 
 冒険者の宿は依頼料の一部を納めてもらうかわりに、冒険者を斡旋するわけですから、その職員をないがしろにするような依頼人はブラックリストにおそらく載せておくでしょう。
 
 それに、こういうことをされれば冒険者は酒を飲みながら噂を振りまくでしょうから、そんな依頼主から依頼を受ける冒険者は少ないはずです。
 
 依頼人のなりや情報から、依頼を受けるかどうか考えることは、世知辛い冒険者の中で生き抜くために必要だと思います。
 
 とまあ、冒険者の仁義やら仕事を請けるためのポイントなど表現してみた今回はいかがだったでしょうか。
 
 
 それなりに評価できるシナリオだと思います。
 ダンジョンや微妙な会話の結果などよくできていますし、さっとプレイでき、下水道のアイテムやお金など出し方がよかったです。
 
 ただ、下水のモンスター出現率は高すぎかもしれません。
 
 
 今回は以下のものを手に入れました。
 下水道、侮れませんね。
 
入手アイテム 

・【指輪】×1
・【魔法薬】×1
 

お金
 
・拾い物 +1SP
・報酬 +600SP
・指輪売却 +50SP
 
 
◇現在の所持金 4151SP◇(チ~ン♪)
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コメント
 こんばんは。

 私もこのシナリオプレイいたしました。
 発想は面白くて好きですし、ストーリーも纏まっていて楽しいなと思ったんですが、私もY2つさんの仰っている点を改善するともっと良くなるな~と思いました。
 それを含めて私が気になった点は2つでしょうか。ひとつは領主がPCへの支払いを拒否する場面。ちょっと無理がありますよね。実はもうひとつ引っかかったのは家出をしちゃうところの描写がもう少し深く踏み込んで描かれていると感情移入しやすくなったかなと思いました。でもこういうシナリオは好きですね。

 ちなみに私もリプレイで自分なりの解釈を入れたりしているのですが、いいのかな~とか思いつつ手探りでやっています。やはり難しいですね。他の方の世界観の中で描写していく作業は。

 最後になりますがさりげなくクロスオーバーしてくださってありがとうございます(笑)。それでは失礼いたしますね。
【2006/06/25 00:42】 | Mart #WkyY9OVg | [edit]
こんばんはm(__)m
このシナリオも短時間で、色々な事が入っていて、印象深いシナリオでした。
Y2つさんの、リプレイのおかげで、あのムカつく領主が記憶の中から蘇ってきて、楽しかったです。
あと、冒険者の仁義が凄く素敵に書かれていて、何度も読み返してしまいました。

風を纏う者達の皆さんは、バランスが取れていて、コンビネーションがバッチリですね!
私のパーティの「新鮮組」(新撰組のパロディです)も見習って欲しいです。(全員が戦士系でした)ということで、インチキしてレベルが10を超えてしまった「新鮮組」をレベル1にして、もう一度やり直してみます。

銀貨600枚の闘舞術って、愛欲の虜ですね!ラムーナさんの愛欲の虜を見た、衛兵は幸せ者ですね!
わ、私も一度見てみたいです。

凄く良く出来たシナリオだと思いますが、MartさんやY2つさんが仰るとおり、下水道のエンカウント率が高すぎますね。私は子供の頃、一度下水道にもぐった事がありますが、ネズミ一匹にも遭遇した事がありませんでした。
個人的にはティコが凄く気に入ってます。ケヴィンとの身分を越えた友情が本気で感動できました。

4151SPもあるとは、相当リッチですね♪

それでは、失礼いたします。
【2006/06/25 19:22】 | らっこあら #mQop/nM. | [edit]
こんばんは、飛鳥五郎です。
このシナリオはまだやったこと無いんですが、リプレイを読んでいたらやってみたくなってきました。
また、Y2つ氏のリプレイを読んでいたら自分もリプレイを書いてみたくなりました。

それではこの辺で。
【2006/06/25 22:29】 | 飛鳥五郎 #Ghy17aHM | [edit]
 ようこそです~
 
 このシナリオ、モンスターの出現率の高さと回避力を利用して『魔剣工房』の魔剣をレベルアップさせるには最適だったりします。相手の回避力の高さから、むきになって戦闘してると何時の間にかレベルアップしてたり…
 
 この時点ではいろんな不都合があってやらなかったんですけどね。
 
 
>Martさん
 クロスは頑張ります。
 次にフォーチュン=ベル関係でまたクロスしますので、よろしくです。
 
>らっこあらさん
 “風を纏う者”は緻密にコンボを計算して戦闘しますので装備が貧弱でも何とかなっています。
 
 レベル3までリーダーがスキル無し。
 【賢者の杖】も持たないというすごいハンデ。
 5人組。
 
 特殊型が多くても、ここまでペナルティがあると、作戦で何とかするしかありません。
 
 基本はシグルトが【攻撃】と【渾身の一撃】、ラムーナが【見切り】と【会心の一撃】、レベッカが【フェイント】と【会心の一撃】、ロマンが【魔法の矢】と【眠りの雲】、スピッキオが【癒身の法】と【防御】を基本戦術にします。
 
 シグルトとラムーナはひたすら攻撃。
 レベッカとスピッキオがサポート要員として白兵戦を補佐します。
 切札がロマンの魔法で、タフなスピッキオが耐えつつ、ダメージを受けた仲間を回復します。
 回復スキル1個で3レベルまで育てましたよ。
 
 息はぴったりです。貧しかったですが。
 
 ラムーナは【連捷の蜂】しか持ってません…
 この次まで色気が無かったものでして。
 でもこのスキル1個で3レベルまで主戦力だったですよ。
 
>飛鳥五郎さん
 なかなかのシナリオでした。
 下水で拾える貴重品がありがたいです。
 臭いそうですが。
 
 リプレイはいろんな書き方があります。
 わりと簡単なのは各PCが会話だけで進行させる対話形式など。
 稚拙な文章力の私でさえ、やってますから、是非挑戦してみてくださいね。
 
 
 皆さんありがとうございます。
 ぜひまた読みに来てくださいね。
【2006/06/25 23:40】 | Y2つ #TIXpuh1. | [edit]
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