『希望の都フォーチュン=ベル』 商船護衛

2009.06.17(15:21)

 風を纏う者たちは、海路でフォーチュン=ベルへと向かっていた。 
 彼の都で贔屓にしている『幸福の鐘亭』の名前で、シグルトたちに商船護衛の依頼があったのだ。

 最近西方諸国近海では、海賊による強奪が後を絶たない。
 近年の商業活発化から新しい海路による交易が盛んになった分、海賊たちも自分たちの狩り場を増やし、勢力を伸ばしているのだ。

 仲間たちが心地良さそうに潮風を楽しんでいる中、初めて商船に乗るというシグルトとロマンは、それぞれの理由で緊張気味である。
 
 海の無い北方の丘育ち(内陸出身者のこと)で、リューンへも陸路でやって来たシグルトは、海上を走る船舶に長期間乗ったことが無い。
 船酔いにこそならなかったが、逃げ場のない船の上で、しかも揺れる船の上での護衛という初めての任務に、頭を悩ませている。

「何時もより酷い仏頂面ね。

 貴方らしくないわ、シグルト」

 レベッカが軽く肩を叩くと、シグルトは大きな溜息を吐いた。

「そうも言ってられんさ。

 船という乗物は、兎角襲撃し易いものなんだ。
 海上故助けを求められない上に、逃げ場も無い。

 護衛を預かる以上、対策を考えねばならんが…正直お手上げだ。
 
 こんな危険な乗り物で、大量の物資を送るとは…いくら早いとはいえ理解出来んよ」

 シグルトらしくない不満に、レベッカが苦笑する。

 このリーダーは、今までも愚痴一つ無く的確な戦術を立案し、特に護衛戦では大きな結果を残していたからである。
 例え困難なことであっても、最大の結果を出そうとする男なのだ。

「何がそんなに不満なのよ?

 海の上を風で走ってるから、敵が乗り込んでこない限り平気じゃない」

 レベッカの言葉に、シグルトは楽観的過ぎるとばかりに、首を横に振った。

「乗り込む目的がある海賊は、狙ってやって来るさ。
 マストと言う旗印まであるしな。
 
 それに船というものは、防水のために油や塗料を塗り込んだ木材で出来ている。
 これほど火災に弱い乗り物など他に無いぞ。
 火災が起こったら、この海の真ん中で飛び込むしかない。

 仮に敵が強奪目的の海賊だったとして、燃やされる心配が無いとしよう…
 このバランスの悪い船上では、重い武具はつけられないし、得物を海に落とせば紛失確実だ。

 装備を聞けば、この商船は速度向上による軽量化のため構造も脆く、しかも戦闘用に必要な弩砲の類も無い。
 海戦用の投石機を用意しろとは言わんが、せめて矢窓に弩(いしゆみ)数機は欲しい。

 これを、海上装備もろくに無い俺たち5人だけで護衛しろと言うんだからな。
 
 俺たちは魔法以外に遠距離攻撃手段が無いんだ。
 一方的に敵の矢玉を受けることになるぞ。

 この船は中古船で、前の船を売って購入したものだ。
 武装はあらかた売ってしまったというんだから、呆れてものが言えない。 

 加え、お前やラムーナが乗ってることに対して、風当たりも強いだろう?
 迷信深い船乗りは女の乗務員を乗せることを、ことさら嫌う。
 船員の協力も、あてに出来ない。

 それに俺は、海上戦の経験など皆無だぞ。
 船員にも海戦の経験がまるで無いらしい。
 水夫たちは、海賊のいない入り江の巡航船の出だというし、今回の航海は初めての外海だという。

 こんな急の仕事でなければ、海戦の知識と近海の潮の流れを調べておきたいところだ。

 俺の知っている戦術は、ガレー船用の古典的なもので、しかももっと大規模な武装船同士の戦闘を基準にしたものだからな。
 近代帆船による戦闘など、皆目見当がつかん。
 
 緊張するなと言う方が無理だな。 
 …悪条件極まりと言うことだ。

 この数日海が時化ていないということが、数少ない救いだよ」

 そんな悪条件の中で、初めて乗る船に対し的確に観察して対策を講じようとしているシグルトに、レベッカは頭の下がる思いだった。
 実際、シグルトは船で余っている板を使って簡易の楯を作成している。
 射撃に対して、楯は最も効率の良い防御手段なのだ。

「とにかく火が最も怖い。

 火は風を受けて、上に向かって燃え広がって行くんだ。
 周りが水で囲まれているとはいえ、俺たちが乗っている部分は燃えやすい場所に浮かんでいて、海風という煽りまである。
 
 船のコックに聞いたんだが、火災予防のために、船が動いている時は火を使わないぐらい気をつけているらしい。
 あまりに不用心なので火災予防用の装備を増やすように具申したところ、〝護衛が余計な事を言うな〟と言いだす始末だ。
 
 武装に関しても、俺が作る楯にすら文句をつけるんだからな。
 守って貰う気があるのか、疑問だよ。
 
 こんなずさんな状態で護衛を雇うぐらいなら、中古の砲を一台備える方がよほどましだぞ。
 
 世話になっている『幸福の鐘亭」を通した頼みでなければ、と…愚痴ばかりこぼれるよ。
 
 この船の護衛は、今後受けるべきだはない。
 フォーチュン=ベルに到着したら、知り合いに情報を流しておこう。
 
 少なくとも、責任者があの分からず屋な馬鹿船長の間は、な」

 珍しいシグルトの愚痴である。
 
 シグルトの立てる戦術は、神経質とさえ思える堅実なものであるが、今まであてが外れたことはほとんど無い。
 結成して半年前後のパーティが、無類の強さを誇っているのは、シグルトの的確な戦術故なのだ。
 
 スピッキオが、気持は分かるとなだめた。

「まぁ、称賛を受けてばかりのお主も、時に人間と言うことじゃな。

 こんなに憤慨するとは思ってもみなかったぞ」

 スキッピオが場を慰めるかのように少しからかうと、シグルトは歯痒そうに唇を歪めた。

「対策が立てられないということは、万が一に死地に陥るということだ。

 何かを護るということは、護り切ってこそ意味がある。
 勝敗で言うなら、護れないことが敗北するということなんだ。

 俺は、共に戦うお前たちの命だって預かっている。
 皆に少しでも勝算のある戦い方をさせるのが、戦士でありパーティの長を任された俺の仕事だ。

 思う様に出来ないのは、悔しいな…」
 
 リーダであるシグルトがそんな風に悩んでいる最中、ロマンは船乗りたちの態度の悪さに閉口していた。
 
 兎角、船乗りは迷信深く、ヒエラルキーや掟に煩い。
 女子供を一段下に見るし、体格的に肉体労働に向かない者は軽視される。

 女顔のロマンに至っては、衆道好みの船員に絡まれる始末。
 その船員は、シグルトが叩きのめしてくれたのだが。

 甲板に強かに叩きつけられたその船員は船長に泣きつき、船員たちと“風を纏う者”との間で一触即発の状態になった。
 シグルトに装備の悪さを指摘され面白くなかった船長は、掟を持ちだしてシグルトを海に放り込むと凄んだ。
  
 だがそこでスピッキオがその船長を叱りつけたのである。

 海に関わる仕事の者は、聖北教会より聖海教会の信者が多い。
 その司祭の一喝は船員にも動揺を与え、船長の暴挙に船の中から反対意見が出たのである。

(…迷信深いのが好いのか悪いのか分からないよね。

 話がまとまったから、よかったけどさ)

 結局、スピッキオの一声で事態は一応収拾した。
 
 敵も出来たが、仲間を守ったシグルトに対して好意的な船員も多かった。
 
 レベッカが船の料理長を持っていた砂糖で懐柔していたことも働き、話は大きくならなかったのである。
 船での食事は、質が悪いと船員の反乱が起こるほどだ。
 こういう時、どこを抑えればいいか知っていたレベッカの作戦勝ちでもあった。


 躓きはあったものの、数日の船旅は瞬く間に過ぎて行った。

 海賊たちはまったく現れない。
 このまま何事も無く目的地に着くかもしれない…誰もがそう思っていた矢先である。

「…伝令!

 後方より海賊のものらしき小型船船影2つ!」

 気が弛み切っていた反動から、俄かに騒ぎ出す船員たち。
 戦闘装備の無いこの船では、無駄なことである。

「慌てるなっ!

 敵の射撃に備えて、俺が作っておいた盾を用意しろ。
 足りないなら、遮蔽物になるものの後ろに隠れるんだ。
 その時、頭は遮蔽物より一つ分は下げるんだぞ。
 矢は、弧を描いて上から降って来る。
 
 乗り込んでこようとした敵は、盾で体当たりして海に落せ。 
 各自身を低く、敵船の突撃に備えるんだ。

 長物(長い柄武器)を持っている者は、敵が船に乗り込もうとした時に海に払い落せ。
 掛け板を転がすのでもいい。
 
 万一敵が火を使って来たなら、消火を最優先するんだぞ。
 火が燃え広がったら終わりだ。

 皆、肝を据えろっ!」

 シグルトが一喝して混乱を収拾する。
 的確な指示に、船員たちは慌てて対応を始めた。

 その間にも船足の速い海賊船は、見る間に近づいてくる。

「スピッキオ、俺たちに加護の秘蹟を頼む。 
 ロマンは眠りの術で敵を眠らせ、後方から援護してくれ。
 レベッカとラムーナは、倒せる奴から対応しろ。
 術で寝た奴を海に落とすだけでもかまわん。

 スピッキオ、ロマン…妖精の術を掛けてやるからこっちに来い!」

 片端から檄を飛ばし、精霊術で準備をするシグルト。
 その横でスピッキオが【聖別の法】を使い、仲間たちに防御の加護を施していく。

 敵が矢を構えていることを確認したシグルトは、船の一つに向けて手をかざした。

「《トリアムール、マストのロープを切れ。

  あっちの船だっ!》」

 シグルトの精霊術で、風の精霊トリアムールが一隻の海賊船を足止めする。
 メインマストから帆を落とされた船が、速度を失い停止した。

 友軍を止められた反撃にと、もう一つの船が矢を浴びせて来た。
 しかし、楯による遮蔽で守りを固めていた商船の船員たちは、掠り傷程度の被害しか出ない。
 
「ぬぅ、危なかったわい」

 加護の術と妖精の護りによって、敵船から放たれた固定弩(バリスタ)の直撃を免れたスピッキオは、冷汗をかきながら血の滲む傷口を抑えた。
 巨大な太矢を受けた楯は粉微塵である。
 
 スキッピオの傷が取るに足らないものと確認したシグルトは、ほっとしたように頷くと、敵が乗り込もうとする場所へと走って行った。
 シグルトの頬も、破片で浅く傷ついている。
 楯を用意していなければ、死者が出ていただろう。

 船同士が接舷することで衝撃が走り、シグルトは剣を甲板に突き立てて踏み留まった。
 見れば、すでに海賊の何人かが乗り込んでいる。

 スピッキオが杖で真先に飛び込んで来た指揮官らしき海賊を殴りつけ、トリアムールの風が近寄る海賊たちを打ちのめす。
 シグルトは、もう一人の指揮官らしき盗賊と切り結んだ。

 一方ロマンは2人の海賊に囲まれて牽制され、船の揺れに足を取られて転倒してしまう。
 
 敵の攻撃を防御しながら、ラムーナがそっちに駆けて援護に行った。

 敵の反撃でシグルトも掠り傷を負うが、スピッキオが掛けた術で差しさわりは無い。
 ロマンも、転倒したところを狙われるが、妖精の加護が働いて、避けた拍子に腰を打った程度である。

「…ハァァっ!」

 ラムーナが、シグルトの前にいた指揮官を回し蹴りで吹き飛ばした。
 蜂の一撃の様に鋭いそれは、ラムーナの必殺技【連捷の蜂】である。

 作られた一瞬に、シグルトはトリアムールの力を準備する。
 
 シグルトは戦いに、習得した精霊術を存分に生かしていた。
 この術は、使うと勢いを増すことが出来るのだ。
 それによって加速された斬撃は、鋭く強烈なものになる。

 一方、指揮官を退けられて怒り狂った海賊が、ラムーナに襲いかかった。
 敵の体当たりでラムーナは押し戻されるが、体勢をすぐに立て直し牽制する。

「…押し返すぞっ!」
 
 シグルトが一声で士気を鼓舞し、スピッキオに絡んでいた幹部に立ち向かっていく。

 ラムーナに吹き飛ばされた指揮官がよろけながら立ち上がるが、もう一人の指揮官がラムーナの追撃とシグルトの剣で打ち倒されのを見て、憤激を新たにしていた。

「ああ、もうっ!

 なんてタフな連中なのよっ!!」

 苛々したレベッカが、疾走しながら海賊一体の気を引きつつ不満を口にしていた。

「《…眠れっ!》」

 ここでロマンが【眠りの雲】を唱え、3人の海賊が倒れる。

 船の揺れによってすぐ目を覚まし、立ち向かってくる幹部2人は実に往生際が悪かった。
 麻薬でも吸っているのだろうか、鼻血を吹き腕が折れているにもかかわらず、暴れるように反撃して来るのだ。

 戦いは長期戦にもつれ込んだが、乱戦ともなれば指揮能力の高いシグルトのいる“風を纏う者”のほうが圧倒的に強かった。
 シグルトが的確に指示を出しつつ、ロマンが眠れせた海賊をレベッカとスピッキオが海に落としていく。

 一方バランスの悪い船上は、平衡感覚に優れたラムーナの独壇場だった。
 闘舞術【連捷の蜂】による猛烈なラッシュで切り合う端から海賊を海に叩き落とし、終いにはなかなか倒れなかった幹部2人も海の藻屑となる。
 
 最後の海賊を、華麗な飛び蹴りで海に蹴落としたラムーナは、ふわりと船の縁に着地していた。

 “風を纏う者”は軽傷を負う者もいたが、治癒の秘跡無しで海賊を撃退することが出来た。
 見れば、先ほどマストを落としたもう一隻が、慌てて去っていくところだった。

 商船の船員たちは、“風を纏う者”の勝利に歓声を上げ、海賊たちの残した渡し板を海に落とし、船上で気絶した海賊たちを拘束する。

「どうにか勝ったな」

 仲間に怪我人が出たことに対し、シグルトは不満顔だった。
 だが、仲間の健闘を褒めることは忘れない。

 結果としてこの襲撃は、“風を纏う者”の実力を証明するきっかけとなった。
 船員には軽傷者が数人出ただけで済み、船の損傷も簡単な修繕で十分なレベルである。
 
 この襲撃を機会に横暴だった船長は、無能の烙印を押されて船倉に放りこまれ、副船長をしていた若い男が船の指揮を執ることになった。

 解任された船長は反乱を起こして今の地位に就いた男であり、今までの悪行が祟って擁護してくれる者は誰もいない。
 彼は船長として一番大切な公平さを欠き、取り巻きばかり大切にしたからだ。

 船乗りは地上よりも迷信的だが、同時に民主的で結果を大切にするコミュニティを形成しているのである。

 
 それから数日は平穏であった。

 中継地である小さな港を経由し、商船は順調にフォーチュン=ベルに向かっていた。
 海鳥の声を聞きながら、“風を纏う者”も充実した航海を続けている。

 新しい船長はシグルトの意見に従い、雨水を溜める防火水槽とその中に虫が涌かなくするための薬草を船に常備することに決めた。
 いくつか弓を買い求め、捕鯨用の中古品を改造した固定弩も、後々購入する予定らしい。

 中継地で海賊と一緒に下ろされた前の船長はかなりの小金を貯め込んでおり、それを使えば装備の充実は一通り出来そうだという話だ。
 
 シグルトは「俺も船上での戦闘はこの間のが初めてだったんだがな」と言いつつ、求めらえて基本的な戦術を船員たちに手ほどきしていた。
 彼が基本とした戦術は、南海で数百年前に勃発したアレトゥーザとフォルトゥーナの戦役を参考としている。

 当時の戦闘は、船に積んだ石を投石器(カタパルト)で投げ合う乱暴なものであった。
 海戦では、船同士が接近して戦うのは最後の手段だ。

 相手の装備を奪うことを目的としていた戦い方もあり、有限の矢玉で敵戦力を削いで突入し、矢玉を補給しつつ次を攻めるのである。
 遠距離攻撃による初撃が重要であり、それを防御する手段が肝要だとシグルトは教えていた。
 
 敵の矢に対して絶大な効果を発揮した楯は、もう少し改良が加えられて、船員全員分が用意されている。

 舞う様に海賊を叩きのめしたラムーナは、船員たちに幸運の女神の様に持て囃される様になっていた。
 お調子者のラムーナはそれが嬉しいのか、得意のダンスを毎日披露して、今やすっかり人気者である。

 船旅は娯楽が少ないため、ラムーナの芸は好評だった。

 一方、船員を賭け事に引っかけ、レベッカは小金代わりにこの海域の貴重な情報を入手していた。
 同時に夜に飲むための酒も、しっかり調達している。

 ロマンは、文盲の船員に文字を教えてくれと請われて、すっかり教師である。
 その厳しい指導も、彼の美しい顔見たさに集まる船員たちのおかげで大盛況だった。

 スキッピオの方は布教に励んでいた。
 新たに聖海の洗礼を受けたいという者が3人ほど出て、スキッピオは彼らの洗礼名を考えることに夢中になっている。

 前半の船旅に比べて、“風を纏う者”には、旅を楽しむ余裕が生まれていた。


 そして、後一日で目的地と言うところまで来た時である。
 
 見張りの甲高い声が、甲板を震わせた。

「後方より、大型船接近!」

 一同に緊張が走り、シグルトがすぐに警戒を命令して、新船長の元に駆けつけた。
 
「こちらの方が小さいはずだ…振り切れんのか?!」

 船長の言葉に、青ざめた操舵士は首を横に振る。

「無理です…信じられない速度で追って来ます。

 逆風でこの速度。
 とても普通の船とは…」

 シグルトが大型船の帆を見上げ、困ったように息を吐く。

「あれはいくらなんでも船足が速過ぎる。
 逆風なのに順風満帆の如し…十中八九風を起こす術を使っているな。
 
 あの規模の船を高速移動させる風だと…ロマン、勢いが付いてるから今更風や帆をどうにかしても止めるのは無理か?」
 
 常ならぬ力で走って来る大型船は、とてもではないが止められそうにないと、即座に計算したロマンも請け負う。
 自重のある船は、走り出すとすぐに止まれないのだ。

「風を操る海賊船だって?

 もしかして“蒼き疾風”のジャドか」

 新船長は絶望的な表情で、噂に聞いていたというその名を口にした。

「マジ?
 厄介な奴ね…
 
 この近郊じゃ一番知られてる奴らじゃない」

 レベッカが名前に反応する。
 情報に通じたレベッカは、すでに航路に出没する海賊の構成を全て知っていた。
 
 船という乗物は兎角金がかかる。
 食糧、水、修理費用の資材…
 必ずそれらを補給するために、最寄りの港を持つのだ。

 加えて海賊は、船の形状や海賊団の気質にあった航路…縄張りを持っている。
 一回の出港で確実に略奪を成功させ、消耗品を補給するための資金や資材そのものを奪うためだ。

 必然、良く寄る補給場所やその航路から、情報が割れてくる。

 “蒼き疾風”とは、海賊団の首魁の名前であり、海賊団そのものの名前でもある。
 今通っている海域では、最強の誉れ高き海賊であった。

 彼らが有名なのは、強さもあるが、その略奪の巧みさにあるのだ。
 
 まず、船足の速さで逃げ切れた船は無い。
 海賊団を構成するメンバーは猛者揃いで知られていた。
 彼らが海賊退治のために出向したフォーチュン=ベルの軍船を沈めたという話もあるほどだ。

 略奪は根こそぎではなく、また商売を始められる程度には物資を残す。
 そうすることで、次の獲物として戻って来る可能性があるからだ。
 これは「小魚は釣っても海に戻す」という、海賊なりのリサイクルなのだ。 

 さらには、無力な女子供や老人は殺さず、無意味な殺戮もしない。
 義賊に近い矜持を持っていると聞いている。
 仲間想いで部下を大切にする首魁ジャドは、同系列の海賊が敗れた場合、面子を潰されたとして報復に出ることも多いという。

 所謂、義侠心の強い海賊であり、生き残って彼らの名を広めた者が多いのである。

 この海賊団が優れた実力で成功を続けたからこそ、広まった話であった。

 商船の一同が苦い雰囲気にある中、まだ距離もあると言うのに敵船から大声が聞こえて来た。

「ハァ~ハァッハッ!!

 この間は、よくもうちの子分を可愛がってくれやがったな。

 久しぶりに骨のある獲物のようだぜ。
 今ぁそのツラ見に行ってやるから、小便ちびりながら待っていなっ!!」

 それは、大型船の船先に立った逞しい白髪の男である。
 顔の傷痕が、その男を一層凶悪に見せていた。
 
 脇に2人の部下を従え、威風堂々と立つ姿に、商船の船員たちは一気に士気を失った様だ。

「うわ、人相書通りだわ。

 最悪ね」

 レベッカが眉をしかめて相手を観察している。

 その横でシグルトは、今可能な対応策を検討し、知恵袋であるロマンに質問をした。

「…ロマン、あの船を風の精霊術で揺すってやるには、どの辺を狙えばいい?」

 シグルトの意図に気付き、ロマンは苦笑しながら計算する。

「無茶言うね…

 そうだね、やっぱりメインマストの帆に大きな大きな横風かな?
 この速度だと、下から吹き上げるように30度ぐらい。

 梃の原理と、向かってくるための力でぐらっと揺らせるよ。
 まあ、あの船体の場合は一回が限度だと思うけど、シグルトの精霊術ならあの高さでも大丈夫だよね。
 
 あそこに昇ってる見張りの、一人分下、マストを繋いでいるフックみたいのがあるところに、刺す様に横風をぶつければ…」

 ロマンの言葉に頷き、シグルトは準備を始めた。
 仲間に支援を求めつつ、妖精の術をロマンとスキッピオに施す。
 
「攻撃した後に、射撃で応酬があるぞ。
 
 皆楯か、厚めの遮蔽物の後ろに隠れてるんだ」

 スピッキオが仲間たちに護りの術を掛け、終えてもらったシグルトは、トリアムールを召喚しその身に宿す。

「…どうぉした?

 怖気付きやがったか、腰抜けどもっ!!」

 首魁である白髪の海賊が、恫喝するように大声を上げる。
 シグルトは、敵が好奇心から船に乗りだしてこちらを見ようとした瞬間、絶妙なタイミングでトリアムールの起こした突風を敵船の帆に叩きつけた。

 揺れは小さかったが、身を乗り出していた者たちにとっては堪らない。
 特に船に慣れた海賊たちは、「ありえない揺れ」に対しとても無防備だった。

 数人の海賊が悲鳴を上げながら海に落ちて行く。

「おぅわっ!
 糞、小賢しい真似しやがってっ!!

 野郎ども、衝角(ラム)で突撃しろっ!
 あの細っこいどてっ腹に、風穴開けてやれ!!」

 物騒なことを言っている海賊の首魁。
 シグルトは新船長に命じる。

「あの速度だ、完全には避け切れない。
 船首を曲げて直撃しないように、衝撃を流せ。
 
 相手はまっすぐ向かって来ることが分かってるんだ。
 何とか出来る!」

 新船長はシグルトの言葉に肝を据えたらしく、間一髪のタイミングで舵を切った。

 敵船の舳先を間一髪で躱し、船の横腹が擦れ合う。
 摩擦による焦げ臭い臭いと凄まじい衝撃に、周囲全ての者の頭が揺さぶられた。

「…敵が撃ってくるぞ!

 楯構え~」

 シグルトの号令と同時に、敵が矢を放ってくる。

「…畜生っ!

 掠ったわ」

 持っていた即席の楯が貫かれ、レベッカとシグルトは軽傷を負っていた。
 反撃にレベッカが、拾った弓で海賊の一人を射落とす。

 商船側の被害は少ない。

「この女ぁ…

 サザーラード、アザレア、行くぜっ!!」
 
 接舷の瞬間、あろうことか首魁と幹部2人が、商船に飛び移って来た。

「はぁっ~はっはっ!
 見参つかまつったぜっ!!

 俺の名はジャド・ヴァイスマン。
 人呼んで、“蒼き疾風”のジャドよっ!!!」

 白髪の首魁は口端を歪めて大笑しながら、商船のマストをクッション代わりに船に着地した。
 駆け寄るとともに、シグルトが名乗り返す。

「俺は冒険者“風を纏う者”のシグルト。

 此処からは剣で応えようっ!」

 互いに交叉して一合。
 得物同士が火花を散らした。

 シグルトの苛烈な挨拶に、ジャドは感極まった様に身体を震わせる。

「~~~けぇっ!!!

 面白そうな奴が出て来たじゃねぇかっ!
 こうでなくっちゃ、楽しめねぇ。

 踏み潰せ、野郎どもっ!!!」

 ジャドの号令に、一緒にやって来た幹部たちが頷いて応じた。
 

 ラムーナが速攻で鋭いフェイントを放ち、ジャドを撹乱するが、効いた様子は無い。

 その横でシグルトが追従する様に、トリアムールの突風で周囲を薙ぐと、剣でジャドの頬を切り裂く。
 反撃に拳で頬を殴られるが、身をひねって体勢を立て直す。
 両者は睨み合い、次の一撃に備えた。

 魔術師であると警戒され、ロマンがサザーラードと呼ばれた幹部に斬りかかられるが、術のおかげで衣服を切り裂かれた程度である。
 何とか魔導書を掲げつつ、呪文を用意し反撃を狙った。

 一方、最後に商船に飛び込んできたアザレアという魔術師風の女海賊は、トリアムールの起こす風に邪魔されていた。
 
「ほう、俺たちの突撃を止めるなんて、やるじゃねぇか。

 アザレア、キツイのを見舞ってやんなっ!!」

 女海賊が呼応するように呪文を唱えると、ロマンとラムーナがふらふらとよろめいた。

「眠りの術だ、注意しろっ!」

 耐えきったシグルトは、ジャドを殴り返す。

「くぅ、効くぜシグルトとやら。

 軍船の兵士にも、お前みたいな骨のある奴は、なかなかいねぇ」
 
 殴られた頬を撫でながら、嬉しそうにジャドが笑う。
 
 トリアムールの風が、今度は背後から迫ろうとしたサザーラードを吹き飛ばしていた。
 風の精霊術に翻弄された敵は、思う様に攻撃が出来ないようで苛ついた様子である。

 体勢を直したサザーラードの鋭い応酬でスキッピオが襲われるが、シグルトによって施されていた術が発動し、攻撃がすり抜ける。

「小賢しいわ、この野郎がっ!」

 停滞した戦いに憤慨したのか、ジャドが飛び上がって回転しながら炎を纏い、斬り込んで来た。
 フォーチュン=ベルの英雄が得意としていた剣技、【獅吼斬】である。

 直撃はしなかったが、爆風でロマンが吹き飛び気を失う。
 彼を追撃から庇うように、シグルトがアロンダイトで切り返し、敵を牽制した。

 スキッピオがその一瞬に駆け寄り、癒しでロマンの息を吹き返す。
 その近くで、眠りの術から立ち直ったラムーナがサザーラードに大振りの攻撃を放った。
 互いに切り結び攻撃は外れるが、ラムーナは近くにいたジャドの肘に弾き飛ばされ、口を切った。

「お嬢ちゃん、おいたはいけねぇ」

 にっと笑うジャドの前に、シグルトが庇うように割り込む。
 傷ついても連携して補い合う“風を纏う者”のコンビネーションは、隙が無い。

「《…穿てっ!》」

 ロマンが【魔法の矢】でアザレアを狙い、脇腹を穿たれたアザレアがよろめく。

 スキッピオがラムーナを癒し、戦いは膠着する。
 
 攻撃しようとしたジャドは、レベッカに邪魔をされて大振りの一撃を放つが、レベッカは手に入れたばかりの指輪を用いて姿を消した。

「ぬぁ、何処行きやがった?」

 ジャドがレベッカを探す隙に、他の仲間たちがシグルトに従って陣を組む。

「…調子に乗るんじゃないよ、私たちを誰だと思ってるんだいっ!!」

 アザレアが反撃とばかりに撹乱の呪文で応酬し、“風を纏う者”は体勢を崩されてピンチに陥った。
 
「《…穿てっ!!》」
 
 必死に2発目の【魔法の矢】で、アザレアにし返すロマンだが、そのまま転倒してしまう。

「疾風怒涛…喰らえ【燕速剣】!!!」

 呪文で連携が崩れたところに、サザーラードが飛燕の如き絶妙の剣を振るう。
 “風を纏う者”は吹き飛ばされるが、ラムーナが【連捷の蜂】の追撃で、サザーラードを蹴り飛ばしていた。

「よっしゃ、うおおぉっ!!!」

 勢いづいたジャドがどいつから止めを…と襲いかかろうとした一瞬である。

 腰溜めから薙ぐように放たれたシグルトの凄まじい一閃が、ジャドの脇腹を切り裂いていた。
 硬い確かなて手ごたえは骨に達したやもしれない。

 これぞ、最近習得したばかりの剣技【刹那の閃き】である。

「な、なんだ、とぉっ…!?」 

 衝撃で吹き飛ばされたジャドは、近くにあった木箱を派手に破壊して動かなくなる。

「…ジャドっ!

 ウソでしょ?」

 首魁の轟沈によって、アザレアが動揺し隙が出来る。
 チャンスを突いてラムーナが【連捷の蜂】で蹴りつけ、脇を駆け抜けたシグルトが嵐の様にサザーラードを斬りつける。

「な、なんて鋭い技だ…」

 今まで冷静で顔色一つ変えなかったサザーラードは、シグルトの猛攻に押されて踏鞴を踏む。
 その躊躇が勝敗を分けた。

「イィィッッヤァァァアアアッ!!!」

 ラムーナが突進するようにアザレアの延髄に肘を叩き込み、吹き飛ばした。
 白眼を剥いたアザレアはもう動かない。 
 
 ロマンが何度も執拗に【眠りの雲】を唱え、遂にサザーラードをでよろめかせたところを、ラムーナの奇麗な蹴りが襲った。
 ふらつきつつも、次のラムーナの大技を辛くも避けたサザーラードだったが、そこにシグルトが踏み込む。

「行け、トリアムールっ!!」

 不可避の突風に吹き飛ばされて、サザーラードは海に転落していった。

「…今畜生っ!」

 見ればもう目が覚めたジャドが、気を失ったアザレアを抱きかかえると、大型船に垂らされたロープに飛び移っていた。

 ジャドは後ろに跳ぶことで、シグルトの一閃の威力を殺したのだろう。
 シグルトが感じた斬る手ごたえは、ジャドが防御に使った鯨骨製の柄であった。
 
 無残に柄が砕けた大剣を抱え、火を噴く様な目で商船を睨むジャド。

 その下でサザーラードも、鼻血を拭いながら泳いで海賊船に取り付き、部下に落として貰ったロープにしがみ付く。

「…雑魚を釣るつもりが、鯱を怒らせちまったぜ。

 おう野郎ども。
 生きてる奴ぁ、海から引き上げてやれ。

 “風を纏う者”のシグルトだったな?
 今回は俺らの負けにしてやらぁ。
 
 けどよ、次にこの海域を通るときゃ、覚悟しやがれっ!!!」

 捨て台詞を残して、ジャドたち海賊は気持好いほどあっさりと逃げて行った。
 撤退も疾風の如し、である。

「ぜぇ、はぁ。

 なんつう逃げ足の速さ…」
 
 敵の牽制で動きまわっていたレベッカが、荒い息を整えようとしていた。

「…この程度の被害なら、航行に問題は無さそうだ。

 よし、負傷者を手当てしつつ、航路を戻そう」

 今回、逆転劇のきっかけを作ったシグルトは、船員たちを助けながら矢継ぎ早に命令を出す。

 船員たちは、強大な海賊を追い返した“風を纏う者”を、神でも崇めるように見つめ、嬉々としてその命令に従うのだった。


 そして次の日。
 フォーチュン=ベルに到着した“風を纏う者”は、『幸福の鐘亭』に立ち寄り、報酬を受け取ることが出来た。
 
 無理な仕事を頼んだことに宿の女主人であるメイフィールドが、すまなそうに酒を奢ってくれた。
 
「女将さん。

 今度からは、依頼主を選んだほうがいい」

 自分たちを頼ってくれるのは嬉しいが、人によっては仕事を受けないのが冒険者だと、シグルトは強い口調で釘を刺した。

「依頼主の元船長さんは、うちの常連だったんです。

 一番の冒険者を紹介しろというので、有名な貴方たちの名前を出して、紹介状を書くと言ったんですが…
 次の朝使いを寄こして銀貨二百枚を置いていき、勝手に契約したぞって。

 貴方たち“風を纏う者”を雇うなら、いくらなんでもこのお金では無理だと言ったんですが、まさか受けて下さるなんて。 
 しかも、新しい船長さんは貴方たちのことをとても評価していらっしゃいました。
 
 私も“蒼き疾風”のジャドの噂ぐらい知っています。
 
 …本当に銀貨五百枚でよろしいんですか?」

 二回も海賊を退け、この海域で最強の海賊を追い払った“風を纏う者”に、新船長や船員たちはいたく感動した様子で、報酬をかなり増やしてくれた。
 しかし、船に被害をだしたからと、全部は受け取らなかったのだ。

「こちらが誠意を見せなければ、依頼人に誠意を求めることは出来ないだろう。

 臭い話かもしれんが、〈実績〉と〈信用〉こそ資産になるうるからな」

 これは、“風を纏う者”が属す『小さき希望亭』の基本方針である。
 無法者扱いされる冒険者だからこそ、他人の数倍誠意を見せるのが大切だと、宿の主ギュスターヴは言う。

 こういった真摯な姿と、名のある海賊を退けたことで、“風を纏う者”の名は鰻昇りだった。
 
 だが、シグルトの表情は暗いままだ。
 生還は喜ぶべきだが、妥協を覚えれば仕事が雑になるからと、自己評価は何時も辛い。

「とりあえず、今日はもう休もう。

 慣れない船旅で、疲れたよ」

 早々にシグルトは部屋に籠ってしまった。


 部屋に入ると、シグルトは大きく息を吐き、ベットに倒れ伏す。
 
(無茶な技を使い過ぎたな。

 この【刹那の閃き】は、威力も鋭さも優れているが、今の俺の身体ではそう連発出来ない)

 バランスの悪い船の上で緊張しながら戦ったシグルトの身体は、思わぬダメージを受けていた。
 踵の腱が上手く動かないのに、シグルトは無茶をして踏ん張り技を連発したのだ。
 
 だが、そうしなければ“風を纏う者”の中に死者が出ていた。
 だから後悔は無い。

 先日から微熱が続き、軽い吐き気を覚えている。
 その不調は、完全の習得していない技を、無理やり使用した代償であった。

(急を要したとはいえ、身体が整わない状態で技を使うなど自殺行為だな。

 今後は気をつけねば)

 呼吸を整え、身体をもみほぐしていると、ラムーナが部屋に入って来た。
 心配そうな顔である。

「大丈夫?

 顔色が悪いよ、シグルト」

 この娘は勘が鋭い。
 シグルトの異変に、真先に気が付いたのだろう。

 安心させようと苦笑し、シグルトは何時もの様に苦笑して見せた。

「少し無茶な技を使ったからな。
 何、陸で休めばそのうち回復する。

 ラムーナも、ああいう派手な技を使った後は、筋を整えておけよ」

 シグルトの忠告に、素直に頷くラムーナ。

「そう言えば、随分姿勢が直ったな。 
 パーティを組んだ頃は酷い猫背だったが。

 お前の師匠は、姿勢が技の根であることをちゃんと知ってるらしい。
 まだ右肩に歪みがあるから、それは真っ直ぐな塀にでもぶら下がって伸ばしておけ。
 あれは、腕力の良い鍛錬にもなる。

 お前ぐらいの年なら、姿勢はすぐ直せるさ」

 シグルトの強さは、こういった生理学も基本としている。

 そもそも武人は医術に明るいべきなのだ。
 怪我を自分で治せるし、体の壊し方を知るために治す方法を知るのだ。

 身体の動きをコントロールすることもまた然りである。

「シグルトって姿勢は綺麗だけど、技が強過ぎて間接痛めてるよね?

 無茶しちゃだめだよ」

 手に水桶を用意し、手際よく湿布を作ってくれる。
 同じ戦士だからこそ、シグルトの身体について一番分かってくれるのもラムーナだった。

「…ああ。
 こうやって休むのも、たまにはいいな。

 流石にここ数か月、張り詰めてばかりだったからな」

 そんな事を話しながら、シグルトはふと今後の行動を考えていた。


 次の日、ゆっくり休んだ“風を纏う者”は『幸福の鐘亭』で朝食を採っていた。

「皆、聞いてくれ。

 俺たちはここ数日働き通しだった。
 だから、少し休日を兼ねて別行動を取らないか?

 俺は武器をブレッゼンに預けて、しばらく剣術修行をしたいと思ってる。

 この間手に入れた剣術書の技だが、使ってみて違和感があったからな。
 独学では限界もあるのだろう。
 少し専門家の意見を聞いて、今後に使っていけるか検討したい。

 昨日レベッカとも話したんだが、今のところは財政的余裕も少しはありそうだし、な」

 シグルトの提案に、レベッカが続ける。

「いったん解散すれば、それを理由に仕事を断れるでしょ?
 仲間で揃ってると頼られちゃうからね。

 シグルトの言う様に、互いの技術強化すべきだと思うし。

 私もアレトゥーザの馴染みに頼んで、昔使ってた技の勘を取り戻したいと思ってる。
 どうかしら?」

 ラムーナが頷く。

「私、攻撃以外に防御の技が学びたい。
 大技を使うと、どうしても隙が出来てしまうから。

 もしここで別れるなら、レベッカと一緒にアレトゥーザに行って、アデイ先生を訪ねようと思う」

 スキッピオがそれならば、と同行を申し出た。

「わしも、仲間全てに及ぶ回復の術を学ぶべきじゃと思っておる。
 あれだけの戦いが続いて思ったんじゃが…何時も生傷が絶えんからの。

 アレトゥーザは西方の聖海教会で秘蹟を学ぶには、一番良い場所じゃ。

 レベッカたちと一緒に行くかの」

 最後にロマンが自分の意見を述べた。

「僕は、特に今学びたい技術は無いかな。
 
 そういうことなら、このフォーチュン=ベルで、少し薬学の勉強をしているよ。
 手持ちの薬を調合すればもっといいものが出来るし、預かってもいい?」

 一同の意見がまとまり、シグルトたちは一月後にアレトゥーザで再会する約束をして、解散することになった。

「そうね。
 当座の資金として、皆に銀貨二千枚ずつ渡すわ。

 シグルトにはブレッゼンへの手土産の葡萄酒一本と代金代わりに、金鉱石を2つ。

 ロマンには薬類を全部預けておくわ。

 残りは皆アレトゥーザ行きだから、一応一緒でもいいわよね?」

 “風を纏う者”は一月後の再会を約束すると、解散してそれぞれの目的地へと旅立つのだった。 


 
 勢いがあるうちにと書き始めた『商船護衛』、いかがだったでしょうか。

 海戦らしい壮絶なバトルをイメージして書いたのですが、文章能力低下してます。
 最近の異常気象のせいかなぁ。

 旧リプレイでは、終りのとこちょこっとで、ジャドやアザレアといった魅力的な海賊を描き切れませんでした。
 今回はその反省も踏まえて、かなり目立って頂きました。

 旧版ではラムーナの独り相撲だったのですが、今回は前半戦がラムーナ、後半戦がシグルトの活躍で、かなり楽しい結果になりました。
 敵側の見せ場も、ほぼその通りです。
 「まさかこのタイミングで【燕速剣】?!」とか、喚きながら戦闘結果を書き取っていました。

 シグルトの逆転劇も、アロンダイトがレベルアップした直後に女海賊の撹乱攻撃喰らって、止めとばかりに【燕速剣】。
 混乱から立ち直った瞬間に【刹那の閃き】という絶妙なタイミングで、逆て~ん、とばかり。
 ジャドがその一発で沈んで、ラムーナの追撃で女海賊も撃沈。
 
 止めがラムーナとシグルトの連携という綺麗な決着となり大満足でした。
 こんなきれいな戦闘結果、珍しいかも。

 このシナリオ、射撃戦から入ると敵の数が減ります。
 幹部がいると傷薬が煩わしいので、苦戦する場合は防御を固めて射撃魔法でつつくのが吉。

 眠りのキーコードでは、敵が目覚めた時に復活されて勝負が長引くので、多少怪我しても射撃戦から入るのがお勧めです。
 防御召喚獣もちゃんと効果があるので平気です。

 シグルトの戦闘知識ですが、これはある漫画を参考にしています。
 船同士がぶつかり合うと、互いに被害甚大なので、実際は射撃や示威行為で降伏させて乗り込むのが一番安全だったんでしょう。
 射撃による戦闘は、近代の海賊の戦い方でもかわりません。
 今はロケットランチャー持ってるとか。
 
 中世では矢玉が尽きるとカタパルトで、汚物や死体まで投げ合ったとか。
 いくら物資がないからといって、なんともはや。

 海上では略奪で物資補給するしかありません。
 海賊浪漫と言う人もいますが、丘の幻想で、実際は徹底的に残酷だったみたいです。
 海賊旗の骸骨は、「降服か、しからずんば骸になれ」って意味で、敵が降伏しないと赤旗掲げて虐殺ってパターンも多かったとか。

 同時に、海賊は近代兵器の申し子でもあります。
 強くないと生き残れませんし、歴史上ほとんどの海賊は非業の死をとげています。

 刹那的で太く短い生き方が、海賊に対して魅力を感じさせるのかもしれませんね。


 今回は500SPのみ。
 次回からいよいよパーティの強化に入ります。


〈著作情報〉2009年06月17日現在

 『希望の都フォーチュン=ベル』はDjinnさんのシナリオです。現時点Djinnさんのサイトで配布されています。 
 シナリオの著作権は、Djinnさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer 1.06です。
  
・Djinnさんサイト『水底のオアシス』 (○ttp://djinn.xrea.jp)←○をhに。  
  
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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コメント
ご無沙汰しております。

 暫くぶりに懐かしいシナリオが登場しましたね。思えばY2つ様のお名前を知ったのもこの作品が最初でした。今でも中堅冒険者の修行場とアルバイトを兼ねて、ウチの宿のPC達がしばしばお世話になっております。
 今回は以前のリプレイに比べて、海洋戦の描写がとても詳細になっているので驚きました。私ですとどうしてもドタバタ喜劇になってしまうので、こうした表現力は見習いたい処です。

 それにしても…何処の世界にも居るんですよね、ああ言う手合い>成り上がり船長。確かな実力もまっとうな専門知識も無い癖にせせこましいプライドだけは一丁前。取り巻き連中にちやほやされつつ狭い縄張りの中でふんぞり返る「産業廃棄物」。再資源化どころか畑の肥やしにも無理そうな…^^;
【2009/06/19 16:57】 | 樹音 #EDSLkfi6 | [edit]
>樹音さん
 う~ん、私の感覚だと御無沙汰は二月とかですね。
 最近は活動が活発化したせいが、沢山の方が来て下さって嬉しい限り。
 
 樹音さんにも最近は良く来ていただいているようで、嬉しい限りです。昔からの方が大分減ってしまったようで、少し淋しいですね…

 この手のサブイベントがあるシナリオは、後世に残る傑作が多いです。
 アレトゥーザやキーレなんかですね。
 
 案外経験点なしでお金を稼げるシナリオは、繋ぎにはもってこいです。
 低レベルだと、すぐレベルアップしてしまいますからね。

 海戦に関する描写は、青池保子さんの『 アルカサル-王城-』という漫画を参考にしています。
 この方の時代考証はかなり正確で、実際の資料として使えます。
 
 私の場合、良いものならばジャンルを問わず吸収する口でして、少女漫画でも好きなものは読みますよ。
 特に少女漫画では、『ふしぎ遊戯』とか『フルーツバスケット』は大好きでした。最近長編ものは読んでないですが。

 
 反乱で実権を握った船長の話は、海洋ものの資料では多かったことみたいです。
 新紀元社の『大航海時代』という本にも、反乱のことが度々書かれていました。
 こういう嫌われ者を出すのも、物語が盛り上がるので必要かも。
 反面教師ってやつですね。
 
 成り上がり船長は、海賊話
【2009/06/19 22:24】 | Y2つ #TIXpuh1. | [edit]
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