Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

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『歯の欠けた鍬』

 ザッ、ザクッ…
 
 振り下ろす鍬が固い地面を砕いていく。
 ぐいと鍬を引き、土を起こす。
 大きすぎる土の塊は鍬の先の背で叩いて砕く。
 ある程度土をならし、また繰り返す…
 
 シグルトはひたすら広大な大地を耕していた。
 
「…ふぅ」
 
 汗で滑るので、それをぬぐってまた鍬を振る。
 だが、シグルトはふと側でじっと見ていた娘を見た。
 
「…楽しいか?」
 
 そう尋ねると、娘は首をかしげた。
 
「えっ、何がですか?」
 
 シグルトはまた作業を始めると、野良仕事を見ていることだ、と言った。
 
 すると娘は、ふわりと笑って頷いた。
 
「…ええ、とっても。

 来年も豊作だろうなって思うと、嬉しくなってきちゃって。
 
 それに、貴方が仕事してる姿…素敵だもの」
 
 シグルトは苦笑いしてまた鍬を振るった。

「今日の夕食は上手くいきそうか?」
 
 鍬を振るいながら、からかうように娘に言う。
 
「…私だって、失敗せずに作れる時はあります!」
 
 すねたように口を尖らせる娘に、明日の天気が心配だな、と軽口で返す。
 これは彼女が望んでいる自分であろうから。
 
「もうっ!」
 
 怒ってそっぽを向いた娘。
 シグルトはかまわずにまた鍬を振る。
 
「…もう、どれくらいになったか」
 
 作業中に呟くようなシグルトの言葉に、娘が、どれくらい?と振り向く。
 
「…一緒になってからだ」
 
 鍬を振りつつまた呟く。
 
「あっ、ええと。

 2…いえ、3年くらいかしら」
 
 娘は指折り数えて言った。
 そうか長いな、と呟いてシグルトは大きな土の塊を砕いた。
 
「あっという間でした」
 
 丁寧で他人行儀な口調の娘。
 
「でもこれからは、もっと長く、もっと早く過ぎると思うな。

 きっと」
 
 そう呟くのは年頃の娘のようだ。
 
 娘の不自然な口調に気付きつつ、何も言わない。
 シグルトはまた黙々と大地をならし始めた。
 そして気付いたように言う。
 
「先に帰るといい。

 もう少しで今日の分が終わる」
 
 娘は私も手伝う、と言って側に来る。
 シグルトはそれを制して、食事を暖めなおさなくていいのか?と尋ねた。
 
 それを聞いて、何かに気付いたように声を上げ、娘が走り去っていく。
 
「…また今日も香ばしい夕食になりそうだな」
 
 苦笑してシグルトは最後の作業に取り掛かった。
 
 
 家に戻ると何かが焦げた臭いが漂ってくる。
 
 シグルトは鍬を置いて、必要になるだろう新しい薪を取りに小屋の入り口をくぐった。
 そして薪を小脇に集め始めたが、ふと一本の薪を凝視する。
 黒い斑がついたそれは、禍々しい瘴気を感じさせる。
 
「…ようやくか」
 
 そういって、ふとあの娘の笑顔を思い出す。
 シグルトは口元を引き締めると、その薪を掴んで小脇のそれに突っ込んだ。
 
 
「ごめんなさい、その…」
 
 泣きそうな娘に、お前は焦げたものを片付けてくれ、と言ってシグルトはかまどに薪を放り込んでいく。
 
「…はい」
 
 娘は真っ黒な何かの入った鍋を持って、井戸の方に駆けていった。
 シグルトはそれを見届けると、あの黒い斑の薪をかまどにくべた。
 
 かまどの内側に伝染したかのように、その黒い斑が生まれる。
 
 シグルトは、この生活がまもなく終わる予感にゆっくりと息を吐いた。
 
 
「あの…食べないんですか?」
 
 用意された食事に手をつけず、ただ黙って目を閉じていたシグルトに、娘が不安そうに聞いた。
 それでも黙っていると、娘は自分が料理を作りそこなったことを反省しているのだろう、ごめんなさい…と顔を伏せた。
 
「…話がある」
 
 シグルトは目を見開くと、責めも慰めもせずそう言った。
 あ…はい、と娘が顔を向けてきた。
 
「他の男たちはどうした?」
 
 少し間を置いた後、シグルトが言うと娘の顔が青ざめる。
 言いたくない、と首を横に振っているが、シグルトは目をそらさずにじっと娘を見据えてさらに言った。
 
「以前、お前と一緒だった連中のことだ。

 話してくれ」
 
 鋭い追及に、娘が一歩さがった。
 
「前にも言いましたが、その話はしたくないんです。

 あの…ごめんなさい」
 
 許しを請うように上目遣いで見る娘。
 
「話してくれ。

 どうしても聞きたい」
 
 間をおかずシグルトはさらに追求した。

「思い出したくないんです。

 後生ですから…」
 
 今にも泣き出しそうな娘を見て、シグルトは目を閉じる。
 
「…最後くらい、聞いておこうと思ったんだがな」
 
 シグルトが目を開くと、動揺して震える娘の姿があった。
 
「えっ?!

 今、なんて…」
 
 シグルトの目には、娘の背後の壁を侵食する黒い斑がはっきり見て取れた。
 
「今日、染みの付いた薪を見つけた。
 
 黒く、現実味のない、底が抜けたような染みだ」
 
 目を見開く娘。
 

「知らないのか?

 穴だ。
 
 虚構が破れたとき、中から見えるものだ」
 
 娘は虚構という言葉を知らないのか、少し歪に首を傾ける。
 
「夢だ。

 要するに、ここだ」
 
 シグルトが円を描く様に家を指差す。
 
「…!!」
 
 娘が息を呑んでシグルトを見る。
 その瞳には驚きではない恐怖が宿っていた。
 
「それでな。

 聞けることは今の内に―」
 
 娘はすべてを言わせずシグルトに詰め寄って彼の服を、ぎゅっ、と掴む。
 
「そっ、その薪!

 まだ小屋にあるんですか?!」
 
 狼狽して娘は、どこ、どこ、と連呼する。
 
「…かまどにくべたよ」
 
 娘はシグルトの制止を振り切ってかまどに向かうと、燃えて赤い薪を手で掴んだ。
 
 ジュゥゥゥ…
 
 肉の焦げる不快な臭い。
 
「うぅっ…ぐっ…」
 
 シグルトが駆け寄ってそれを止める。
 ほとんど突き飛ばすように娘をかまどから引き離した。
 
 その顔は煤と涙に汚れ、手は無惨に焼け爛れている。
 
「夢はいつか終わるものだ。
 
 それに今から何をしても…」
 
 またかまどから斑が広がっていく。
 
「…嫌っ!

 お願い、そこをどいて!!」
 
 娘は泣きながら、シグルトの腕の中でかまどに手を伸ばし暴れている。
 
「話を聞くんだ!
 
 もう、染みが部屋中に広がっている。
 この夢は終わるんだ」
 
 また染みが広がる。
 もう部屋の輪郭すらぼやけている。
 
「…いや。

 お願い、お願い…」
 
 シグルトに懇願する娘は、顔を涙でぐちゃぐちゃにしていた。
 
「…もう、独りはいやぁあ…」
 
 部屋が真っ黒に染まった。
 シグルトも娘もその中に溶けていく。
 
 最後にシグルトは娘の哀願の声を聞いた。
 
「…独りにしないで…」
 
 
 明るい光にシグルトの目が霞む。
 
「…ぬぅ」
 
 全身をつつむ凄まじい倦怠感。
 
「良かった。

 目を覚ましたわ」
 
 レベッカがシグルトを抱き起こす。
 
 シグルトは周囲の仲間を確認し、黙って弱々しく頷いた。
 
「ごめんね。
 
 思いのほか呪縛が強くって、3日も掛かっちゃった」
 
 ロマンの声に、俺にとっては3年だったんだがな、と愚痴の言葉がシグルトの頭をよぎる。
 そしていつものように苦笑した。
 
 
 それはアレトゥーザからリューンへ向かう道中で請けた仕事だった。
 
 夢魔と呼ばれる魔物の退治を依頼されたのである。
 
 夢魔…それは空気より生まれ出でた妖精。
 就寝中の男性に忍び寄り、誘惑する。
 男に幻想的かつ官能的な夢を見せ、精気を吸い尽くし、殺してしまうと云う。

 この化物の退治は困難を極める。
 魔法的、霊的な攻撃で殺す他ないが、簡単に逃げられてしまう。
 夢魔にとって、夜闇は抜け道、男の夢は逃げ込む城となるのだ。
 呪術的手法で退路を塞ぎ、夢から引きずり出すことが、これを滅ぼす上で最も重要である。
 多くの場合、囮になる男性を必要とするが。
 
 近くに住んでいた呪術師を頼り、魔法の短剣を借りて行った夢魔退治であった。
 囮はシグルトである。
 
 しかし、夢魔退治の準備をする間、調べるうちに明らかになったのは、魔女と呼ばれた女と、その娘が夢魔になってしまったという話だった。
 つまり、件の夢魔は元人間だったのだと。
 
 だが、その夢魔の犠牲者は多かった。
 
 “風を纏う者”は夢魔がたとえどんな理由でその存在になったとしても、同情するわけにはいかなくなっていた。
 
 そして、夢魔を誘き寄せて倒さなければいけない段階になったとき、一番危険な囮の任を、シグルトは迷わず買って出た。
  
 
「今すぐ決着をつけるわい!

 手元の短剣、しっかり握っとるんじゃぞ!」
 
 周囲に禍々しい気配が満ちる。
 シグルトを背後に庇い、各々が武器を構えた。
 
 にじみ出るように霞んだ影のようなものが、野太い咆哮をあげて襲い掛かってきた。
 
 
 ラムーナの一閃が、レベッカの突きが影を見舞うが全く効果無くすり抜ける。
 
「そいつには実体が無いんだ!
 
 ここは僕に任せて…
 
 《…穿て!》」
 
 ロマンの指先から放たれた光の矢が影を打ち据える。
 影は一瞬ひるんだように縮むが、また広がり始まる。
 
「ちょっと、ロマン!
 
 ほとんど効いてないじゃない!!」
 
 回避体制をとりながら、レベッカが叫ぶ。
 
「《…主よ、どうかお護り下さい》」
 
 スピッキオの周囲を覆う守りの秘蹟。
 いつでも傷ついた仲間を癒せるように、構える。
 
「待ってて…」
 
 ロマンは魔導書【ジュムデー秘本】を開き、精神を集中する。
 
 影から青白い手が伸びてきてレベッカを掴んだ。
 身体の奥底から何かが抜き取られていく感触に、くらりとよろめく。
 
(…ちっ、精気を吸い取る攻撃ってやつ?)
 
 めまいを振り切る。
 心の奥底から湧き起こってくる、力を奪われたことへの猛烈な怒り。
 
「《…穿て!》」
 
 ロマンの【魔法の矢】がレベッカの精気を吸収して大きくなった影を削る。
 
 スピッキオが、怒りで短剣を振りかざしているレベッカに癒しの秘蹟を与える。
 
「…うぅ、どうしたらいいの?!」
 
 ラムーナが無力さに唇を噛む。
 彼女の攻撃では全く歯が立たない。
 
「ちくしょう、アタシとしたことが!!」
 
 怒りの感情を振り払ったレベッカは、思わずスラング交じりの悪態をついた。
 
 白兵戦の攻撃手段がほとんど効果無い、霊体との対決は思わぬほど状況を膠着させていた。
 
「くそ、やりにくいわねっ!!」
 
 こんなことなら銀製の武器でも仕入れておくんだったわ、とレベッカが毒づく。
 銀は常ならぬ存在にもその光が届くのだ。
 
「《…穿て!》」
 
 3本目の【魔法の矢】が影を穿つ。
 今はロマンの魔法しか傷を負わせられないのだ。
 
 しかし数発の矢を受けた影は、さすがにかなり縮んでいる。
 
「よし!」
 
 レベッカが後ろからロマンを補佐するように銀貨を1枚敵に投げつけてひるませ、集中できる時間を確保する。
 アレトゥーザで訓練した【小細工】である。
 
「《…穿て!》」
 
 ロマンが唱えた4発目の【魔法の矢】は致命的な効果があったらしい。
 
 だが薄れながらも、影は隙を突いてシグルトの方に行こうとする。
 
「こやつ…!

 まだ動けるのか?」
 
 スピッキオが慌ててシグルトを庇おうと動く。
 のしかかってきた影にシグルトが顔をしかめる。
 
「動いちゃダメ!

 今度取り込まれちゃったら、もう…」
 
 今回の騒動に協力してくれた呪術師の言葉を思い出して、ラムーナが叫ぶ。
 
「お前の事は、忘れない…」
 
 シグルトは握っていた短剣を確認すると、影に向かってそれを突き立てた。
 
 魔力の宿った短剣が、影の喉仏を貫いた。

 影は姿を白く濁らせ、蒸気となり、空気の中で溶けていった。

「…まったく、無茶しないでよ」
 
 冷汗をぬぐうレベッカに苦笑するシグルト。
 
「俺の…役目だ」
 
 そう何とか言うと、シグルトの意識は闇に飲み込まれていった。
 
 
「旦那がたも物好きだねえ。

 あんな悪魔の家を御覧になりてえだなんて」
 
 黄ばんだ歯をニッとさせて、卑屈な態度で廃屋を案内してくれている男は、この村の農民である。
 
「どんな娘だったか、ですって?

 そりゃあもう、親が親でしてね。
 蛙の子は蛙、魔女の子は魔女って案配でさ」
 
 憎たらしい魔女め、と男は毒づく。
 
「…あ、ここが居間ですわ。

 左手が台所になりやす」
 
 部屋について気がついたように説明していく男。
 随分細かく教えてくれる。
 
「親父の方は、まあ、まともだったんですがね。

 あの魔女めにたぶらかされて結婚したのが運の尽きでさ。
 
 薄っ気味悪い女で、何処から来たのかてんで分からねえ。

 その上、何にも出来ねえ女でしたぜ。
 手習いどころか炊事洗濯もからっきしだ。
 
 器量だけは飛び抜けてやしたがね。

 まったく、面食いの馬鹿野郎が、魔女の虜になっちまったんだ」
 
 さらに案内してくれる。
 しっかり見ていなければ分からないようなことにも詳しい。
 
「あンの穀潰しを抱えてからというもの、奴は十人分働くようになりやした。

 ああ、そうそう。
 あいつは鍛冶屋だったんですがね。

 子が産まれると、今度は百人分だ。

 魔女2人と一緒になったせいですよ。
 まったく、可哀相な男でさ。
 
 さんざ働いて、魔女に生気とられて、長生きできようもござんせん。

 突然倒れたと思いきや、すぐに神に召されたわけでさ」
 
 おお、恐ろしい、と肩を震わせ男は続ける。
 
「それでですよ。

 あの魔女の母親、野郎が死んだとたん、姿をくらましやがったんだ。
 葬式をあげねえどころか、我が子も置いて行きやがった。

 人の情けなんてありゃしねえ。
 まさしく魔女の仕業でさぁ」
 
 そう言いながら男は立ち止まって、この家の壊れて危ないところを指摘する。
 
「ん?

 魔女の落とし子の悪魔の方ですかい?

 人の姿をしてるときから色狂いの汚らしい厄介モンでしたよ。
 
 知らねえのか、覚える気がねえのか、親と同じで何にも出来ねえ女でしてね。
 その代わり、あの淫売めが、男を誘って銭をとるような真似を始めやがった。
 いや、全くいかがわしい限りでさ。

 男狂いの悪魔に化けたってえのも、頷けるってもんだ」

 先ほどからシグルトは黙っている。
 だが、かなり機嫌が悪そうだ、とラムーナはハラハラしていた。
 
「旦那がたには感謝しとりますよ。

 あの魔女の落とし子の色キチガイの股から先に生まれた汚らわしい売女のゴミクズの悪魔め、ザマアミロだ」

 ぎゅうっと手のひらを握り締めて鋭い視線を男に注いでいるシグルトは、傍で見ているとかなり恐ろしい。
 
 そのことには気付かずに、男は鍛冶屋が使っていたという工房へと案内した。

「随分と嫌われ者だったらしいの、件の女は」
 
 スピッキオの言葉に、そうですともお坊様、と男は歯をむき出した。
 
「そりゃあもう、アイツのしたことときたら!

 幾ら悪態ついても足りやせんぜ」

 拳を中空に振りかざして魔女を殴っているつもりなのだろうか。
 
「なるほどね。

 それにしても、おじさん随分この家に詳しいね。
 まるで勝手知ったる何とかっていう風だよ」
 
 ロマンがやや座った目で男を見る。

「…」
 
 一瞬びくりと背筋をすくめ、男は一行に振り返った。
 
 “風を纏う者”の目は、心配そうにシグルトを見ているラムーナ以外、似たり寄ったりで男を睨んでいる。
 男は初めて自分を見下ろしているシグルトの、鬼でも殺しそうな視線に気付いて震え上がった。
 
「だ、旦那がたには助けられましたぜ、ええ。

 で、でもな、旦那がたたに金を払うのは、お、俺たちなんですぜ。
 
 ぼ、坊っちゃんも何を言いたいか分かりかねますがね、

 そ、そこんとこは、よーく覚えておくべきだと思いやすぜ。
 
 お、俺は先に帰らせてもらいやす。

 後は旦那がたの好きに見物なさりなせえ」
 
 男は逃げるように一行の前から去っていった。
 
「息巻くだけ惨めね。

 ど助平が」
 
 レベッカが男の去った方向に舌を出す。
 
「………」
 
 シグルトは無言で勝手口の扉を開けた。  
 その向こうには荒れ地が広がっていた。

 雑草に隠れているが、目を凝らすと畦(あぜ)のようなものが見える。

 戸口には一本の鍬が立てかけてあった。
 三本刃の粗末なものだ。

 それは修理されることもなく、歯が欠けたままで使われた風だ。
 
 シグルトはその鍬をそっと持ち上げた。
 古びたそれは残った歯も折れそうだった。
 
 鍬の歯の一本を触ると、ぽきりと欠け落ちた。
 
 そこでシグルトは、魔女と呼ばれた娘の名前も知らないことに気付く。
 
「…もし俺が畑仕事に精を出してたら、それを見てどう思う?」
 
 こういうことはめったに言わないシグルトである。
 レベッカは、冗談なんてめずらしいわね~とおどけて見せた。
 
「私もお手伝いするよ~」
 
 にこやかにラムーナが笑った。
 
 シグルトは欠けた鍬の歯を自分の腕を巻く布に挟みこみ、鍬をそっと戻す。
 そして側に咲いていた花を一輪だけ摘んで、その前に置いた。
 
 シグルトの故郷の民間の俗習だが、亡くなった人に関わるものを持ってその人のことを憶えていると、その人は孤独にならず罪も許されて迷わずに救われる、というまじないがある。
 シグルトの右手に巻いた布は親友の、左手に巻いた布はその親友の妹の持ち物を縫いこんである。
 2人とも、もうこの世にはいない。
 
(…憶えておくよ。
 
 お前と暮らした夢の3年間も、お前に止めを刺したことも。
 
 お前にとって夢に逃げるほど現実は地獄だったかも知れんが、俺は生きてるうちにお前と会ってこうなることを止めたかった。
 
 これは俺の未練だと思う。
 だけど忘れないよ。
 
 心元ないだろうが、どうか独りだなんて思わずに、お前の願う天国で休んでくれ)
 
 シグルトは静かに娘の冥福を祈った。

 
 
 Pabitさんの『歯の欠けた鍬』です。
 
 私はネタバレ御免で、シナリオ中のかっこいい文章は、場合によりそのまま、リプレイの書式やPCたちの性格に合わなければアレンジしてばしばし使います。
 このシナリオはなんというか、すごく文章に味があるので、どんな風にリプレイに仕上げるか結構悩みました。
 
 Pabitさんはシナリオ製作のベテランだけあって、ぐっとくるシナリオを書かれますが、3レベルのさっと出来るシナリオをプレイしたくて探しててこのシナリオに行き着きました。
 シナリオ自体は短編と言っていいくらいですが、私みたいな奴はこんな風(リプレイみたいに)に脳内でストーリー作っちゃいます。
 
 隠れた名作だと私は思います。
 このシナリオはギルドにないので、プレイしたい方はPabitさんのホームページに直接DLしに行ってくださいね。
 
 今回、個人的に不満なことが1つだけ…
 またシグルトが主人公になっちゃいました。
 ロマンかラムーナでやる予定だったのに。
 …本当に個人的な理由です。
 
 でも、若者男が主人公になるシナリオ、多いですよね。
 
 
・報酬+1000SP
 
◇現在の所持金 1831SP◇(チ~ン♪)


 スピッキオ レベル3→4
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この記事のコメント

今回、とても良かったです。
夢魔の女性に感情移入しすぎて、ボロボロ泣きました。
僕は「あはれな女」に弱いようです。

朴訥な男と従順な女というY2つさんのシチュエーションと作劇法、
プレイしてはいませんがPabitさんのストーリーテラーとしての力、
そして、僕のこれを読んだ感じやすい精神状態。
その精神状態を生んだのはバックミュージックのレミオロメン/粉雪。
様々な作用が僕に、物語の儚い印象をあまりに強く与えすぎました。

錯覚も膨張も沸点の低さも何もかも含めて、
今回の話は名作だ、と、僕は思います。
2006-07-06 Thu 15:01 | URL | Djinn #I9hX1OkI[ 編集]
こんばんはm(__)m
私も、このシナリオは楽しかったです。
プレイ時間は短かったのですが、心に何か一つ、忘れられないものが残りました。
短気な私は、暴言を吐いている依頼人に一発かましてやりたい気分でした。CWって単なるゲームの枠を越えて、一人の人間としてどう考えるか?とかどう感じるか?などといった、感性の部分に訴えかけてくるシナリオが多くて凄く、感激しています。

Djinnさん>レミオロメン/粉雪はもう最高ですね♪季節的に粉雪は降りませんが、また粉雪が降ってくれる季節への期待感を増幅してしまいます。
CWに関係なくて、申し訳ありませんが天体観測という曲も凄く切なくて心が締め付けられるような曲でした。


それでは、失礼いたします







2006-07-06 Thu 19:11 | URL | らっこあら #mQop/nM.[ 編集]
はじめまして、こんばんは。
暁艮(ぎょうごん)と申します。
私はまだこのシナリオをしていませんが(なにせCW暦短いもので)、夢魔の寂しさがひしひしと伝わってきました。
Y2つさんのリプレイは本当に小説のように響いてきますね。

がんばってください。

では、失礼。
2006-07-07 Fri 01:02 | URL | 暁艮 #-[ 編集]
 今晩は、Y2つです。
 
 皆様いらっしゃいませ。

>レミオロメン
 最近とんと、この手のアーティストの曲から離れていましたが、聞いてみました。
 好いですね~
 
>Djinnさん
 Pabitさん、技術とかセンスがずば抜けているので、私の尊敬する作家さんの1人です。
 今回のリプレイはシリアス系のPCなので、『脱ぐ』は無理ですが、“アレ”も大好きです。
 涙腺を刺激する文章、頑張って目指しますね~
 
>らっこあらさん
 最後に出てくるあのスケベ男、虐めたいと思ったのは私だけではないはずです、ええ。(断言)
 私としては【急所蹴り】+【踏みつけ】をコンボでしたかったです。
 
>暁艮さん
 大変失礼致しました。
 何故か文章が途中で切れてまして、さっき見てびっくりした次第です。申し訳ありません…
 
 このシナリオはさらりとできる名作です。
 是非やってみてくださいね。
  
 稚拙な文章ですが、何とかやりますのでまた懲りずに見に来てくださいね。
 
 
 文章が何故かぶっつり切れてまして、お見苦しいお返事になって申しわけありませんでした。
  でも、修正したときにはちゃんと書かれてたのに、何ででしょう?
 
 これに懲りずにまた来てくださいね~
2006-07-08 Sat 22:40 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]

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