CWPC2:レベッカ

2006.06.01(02:13)

 シグルトが親父に言われるままに宿帳にサインしていると、再び宿の扉のベルがからん、と鳴った。
 
「ん?…ああ、レベッカか」
 
 入ってきたのは茶色の髪をした女だった。
 
 歳は20代半ばに達しているだろう。
 聖北教会の禁欲的な坊主が見たら卒倒しそうなぐらい、肌を露出している扇情的な美女である。
 革でできているその服は胸元が大胆に開き、下半身を覆う革のスカートからはみっちりとした肉が覗いている。
 それでいて腰のくびれは8の字を連想させる見事なしまりだ。
 さぞかし好色な男にとっての眼の保養になるだろう。
 
 しかし親父は知っていた。
 この女が身体をわざと見せて、相手の油断や感情のざわめきを起こして隙をつくり、それを利用する毒婦のような狡猾さをもっていることを。
 
「たっだいま~。親父さん、冷たいエールね~」

 艶っぽく紅い唇から出た第一声はなんとも甘い声だった。
 
「ちょっとまってくれ、また新しいのが来たんで宿帳に書いてもらってるんだ」

 親父はそういうと再びシグルトのほうに注意を向けた。
 
「あら、新入りさん?」

 そういってシグルトの顔を覗き込んだ女の顔がすぐににんまりとなる。
 
「あら~、好い男じゃない!
 
 私はレベッカっていうの。
 あなたは…シグルト?
 カッコいい名前ね~」
 
 宿帳で名前を確認した女は、馴れ馴れしくシグルトの腕や首に触れながら、身を乗り出して行く。
 純朴な少年ならのぼせて倒れそうな状況だっが、シグルトは鬱陶しそうに身体を離した。
 
「馴れ馴れしいな。冷たいエールが飲みたいぐらいなら、こういう暑っ苦しいことはすべきじゃない」
 
 きょとんとしたレベッカを見て親父がふきだした。

「はははっ!振られたなぁ、レベッカ」
 
 親父に笑われた女は、傷ついたように大げさにうなだれると、シグルトから一つはなれた席に座ってだらしなくカウンターにもたれかかった。
 
 シグルトは再び宿帳に書き込み始める。
 
「親父さ~ん。
 海よりも深く傷ついたわ。
 私の心を美味しいお酒で満たして~」
 
 カウンターに空いた節穴をいじりながら、それほどこたえた風でもなく、女は甘えた声で親父に酒を催促した。
 
 親父はやれやれといった感じで陶器製のジョッキによく冷えたエールを注ぎ、女の顔の前に置いた。
 女は実に幸せそう顔でそれをぐい、とあおった。
 
「んん~、この一杯が私の幸せっ!」

 井戸で冷やされた程よい口当たりと、喉に絡む泡の痺れに満足げな声をあげて、女は二口目も楽しんだ。
 
 
「…よし、書けたぞ親父」
 
 シグルトが差し出した宿帳を確認した親父は頷くと、シグルトの前にもストンとエールのジョッキを置く。
 
「俺の奢りだ…
 
 小さき希望亭にようこそ!」
 
 置かれたジョッキを不思議そうに見ていたシグルトは、やがてニヤリと笑うと、ああ、と言ってエールをあおった。
 
 ふいにかちゃん、とそばでで音がする。
 
「新人シグルトにカンパ~イ!」
 
 いつの間にか気配もなくシグルトのそばによった女が、ジョッキを合わせて鳴らした音だった。
 
「…あんた、盗賊か?」

 シグルトは少し驚いたような顔で女を注視する。
 
 盗賊…
 冒険者にとって陰であり、犯罪や裏の社会に通じていて仲間をサポートする職業である。
 冒険者が半ばごろつき扱いされる理由には、彼らの存在もあるからだ。
 ちょっと転じれば犯罪者そのものであり、泥棒…賊と呼ばれる行為も平気で行う連中である。
 冒険者のなかでも最も胡散臭い連中だと言われる。
 しかし、優秀な盗賊は冒険者に必須である。
 時に犯罪すれすれの危険な仕事をしたときに、彼らの知識やコネクションは大いに役立つし、犯罪組織の膨大な情報を引き出すときも彼らは活躍する。
 罠の解除や進入に必要になる開錠の業に、敵の背後を突く隠密の業。
 それらはまさに一つの技術体系である。
 
 女…レベッカはシグルトの問いにあいまいな笑みで返した。
 
 
「うん、そうだ。
 レベッカ、お前こいつと組んだらどうだ?」
 
 唐突に親父が言い出すと、レベッカは気だるげに首を横に振った。
 
「この手の戦士っぽい男は掃いて捨てるほど転がってるわ。
 私が組みたいのはむしろ魔術師や僧侶ね。
 連中はすごく貴重だし」

 先ほどの甘えた口調とは打って変わった冷徹な口調だった。
 これが本来の彼女である。
 シグルトには媚を売っても効果がなく、親父はレベッカをよく知っている。
 ならば、演技の必要はもはやない。
 卑屈な態度をとることはとっくに慣れてしまったが、本心からしたいとは思わない。
 クールで利己的な彼女のもう一つの顔だ。
 
 親父はしらけた雰囲気をつくろうように皿を一つ取ると、磨きはじめる。
 
「…だが優秀な戦士は必要だろう。
 お前、こいつを触って判らなかったのか?」
 
 親父の言葉をレベッカはふん、と鼻で笑った。
 
「体格や筋肉がよくたって、剣の一本も下げてないお坊っちゃんはお断りね。
 まあ、素手で熊を殴り殺せるというなら話は別だけど」
 
 親父の手が止まる。
 
「そこが青いんだお前は。
 
 そうやっていつまでも組まずにやってりゃ、他の連中にすぐ引き離されるぞレベッカ。
 お前は才能だけなら天才だ。
 若い頃にその技術を使って仕事をやってれば、今頃は一財産作れたかもしれないぞ。
 
 だが、怠け癖と食わず嫌いが極まれば用なしになるのがこの商売だ。
 せめて今月の飲み代を払えるぐらいには、仕事ができるようになるんだな…
 とりあえず組んでみれば、仕事の範囲が増やせるぞ?」
 
 親父の言葉に、うっと言葉を詰まらせるレベッカ。
 
(やばい…このハゲ茶瓶、ツケのことになるとうるさいのよね~)
 
 親父が知ったら怒り狂いそうなことを考えつつ、レベッカはさっきから黙っているシグルトを眺めた。
 
 シグルトは最後のエールをぐっと飲み干すと、唐突に不敵な笑みを浮かべた。
 
「…魔術師なら心当たりがある。
 
 あんたが盗賊なら話は早い。
 組んでみる気はあるか?」
 
 何故かレベッカはこの若者に、くすぶっていた好奇心が沸き起こるのを感じていた…


 
 
 というわけでレベッカの紹介となりました。
 英明型の盗賊で(彼女もインチキ)ものすごく優秀な盗賊です。
 
 レベッカはリューン出身です。
 幼い頃に両親が乗っていた馬車の横転で死亡し、孤児院に預けられましたが、その孤児院は実は人身売買を行っていた邪なところでした。
 レベッカはその孤児院を始末に来たリューンの盗賊ギルドの幹部に助けられます。
 
 以後その戦いで片腕を失って引退した盗賊ギルドの幹部に引き取られて育てられました。
 レベッカのしたたかさと驚異的な手先の器用さを知ったその男は、のめりこむようにレベッカを盗賊としての基本技術を叩き込みます。
 しかし、襲撃のときに負った怪我から発祥した病気で、彼女の育ての親も亡くなります。
 
 レベッカは10歳でまた天涯孤独になり、ギルドの下で猫(スリの隠語)をして糊口をしのいできました。
 
 13歳になったころ、彼女の容貌の美しさに注目した盗賊ギルドの幹部が、色仕掛けで男を篭絡する術を教え、同時に盗賊としての専門的な教育をうけたレベッカは、年下の猫を統率する職に就き、それを8年ほど続けました。
 
 しかし、ギルドの勢力交代で彼女の職は他の連中に奪われ、レベッカはそれを機会にギルドからはなれて冒険者になります。

 レベッカは、その才能だけはギルドでも並ぶものがいないほどの天才でした。
 美しく、実力もある彼女は他から望まれることも多かったのですが、結局パーティを組まずに宿でだべることが多かったようです。
 
 お金に困って、適当な男を捕まえて貢がせたり、飲み屋でアルバイトをしたりといろんな経験をつんできましたが、どんなことも長続きせずに宿に戻ってきては、お金がなくなるとまた適当なことをして糊口をしのぐということを繰り返していました。
 
 性格は怠惰ですが、ものすごく狡猾です。
 目的のために結構えげつない手段も選べる側面を持っています。
 ただ意外かもしれませんが、本来の彼女は質素で地味な服装を好みます。
 色っぽい服装はいわば盗賊としての仮面です。
 気分屋でだらけたような中に、冷徹で剃刀のような一面を隠し持っています。
 ただ、子供を殺すとか、貧乏人から奪うような非道まではできず、お人好しな部分も備えた、実に混沌とした性格です。
 
 彼女は【盗賊の手】などの一部のスキルは天性(最高)の適性をもっています。
 

◇レベッカ◇
 女性 大人 英明型

秀麗     下賎の出   都会育ち
貧乏     不心得者   不実
冷静沈着   貪欲     利己的
混沌派    進取派    神経質
好奇心旺盛  穏健     楽観的
遊び人    陽気     地味
繊細     軟派     お人好し
 
器用度:12 敏捷度:8 知力:8 筋力:5 生命力:4 精神力:5
好戦性+1 社交性+2 臆病性+2 慎重性+2 狡猾性+3
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