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PC5:スピッキオ

2017.11.14(20:43) 408

 冒険者の宿『小さき希望亭』にシグルト、レベッカ、ロマン、ラムーナが集結した次の日…

 シグルトたち4人は、リューンのはずれにある教会に向かっていた。
 先導するのはラムーナである。
 
 4人は出会いの後、それぞれの実力を確認し、とりあえず冒険者としてパーティを組むことにした。
 
 パーティとは、冒険者が組むチームの呼称である。
 
 一人の人間が行える行動など限られている。
 習得できる能力や技能も、それぞれ違う。
 そこで、違う技術を持った者が集まり補い合うようになった。
 結果生まれる冒険者のグループがパーティなのである。
 
 シグルトたちの宿ではパーティに対し、1人で冒険するものをシングル、2人ではコンビ、3人ではトリオ、4人ではカルテットと呼んでいた。
 4人組でも、戦士、盗賊、魔術師、僧侶の組み合わせなら特別バランスがよいので、ゴールデンカルテットという名を冠する。
 
 パーティの編成は最大で6人とされる。
 軍隊の分隊規模であるのと(リーダー1人に他5人)、半ダースの人数ということで切がよいからだ。
 それに、宿の大部屋というのは6人部屋が多く、小さめの幌馬車が定員的に丁度よい。
 ごく普通の酒場のカウンターやテーブルに腰掛けるにも手頃な人数であり、いつのまにか6人までということが決まっていた。
 
 中には宿に何人もの仲間がいて、仕事で要求される内容に応じてパーティを組みなおす宿もあるという。
 
 こうした冒険者のパーティは、家族のようなものである。
 同じ釜の飯を食い、仕事の間はいつも組んで側にいる。
 当然、お花摘みや雉撃ち(外での用足しのこと)や水浴びといった行動も側で行うことになるし、戦いともなれば仲間の背を守り協力して切り抜ける。
 命を預けるぐらいの信頼関係が必要となるのだ。
 
 だが、実際はなにもかも上手くいくパーティのほうが少ない。
 冒険者になるものは、それぞれが出生やら過去やらのしがらみを持っていたりするし、異性が混在する場合は衛生や生理的な問題で男女の主張や行動が食い違うことなど当たり前である。
 年の近い男女間では恋愛関係が生まれて、それがパーティの歪になることもある。
 三角関係が出来たりすれば泥沼であった。
 
 集まった者が異邦人同士なら、文化や宗教の違いで諍いが起きることもある。
 
 特に食事における味付けの好みは喧嘩の理由になることが多い。
 旅を続けることが多い冒険者は、日に数度の食事ぐらいしか楽しみが無い。

 一見些細に見えることが、当事者たちにとっては重要なのだ。
 
 初めてパーティを組む場合、上手くいかずに解散することもある。
 そのような経験から、嫌気がさして冒険者を辞めてしまう者もいるし、解散後に気のあった仲間同士で組むものもいる。
 
 新人同士では先輩や年長者の勧めで、仲間の結成で手痛い失敗をしないように、お試しでパーティを組むことがあった。
  
 シグルトたちは、冒険者として初心者ばかりである。その適性などがどんなものか、見極めていく必要もある。

 そこで宿の親父とレベッカの提案により、仮にパーティを組むことにしたのだ。
 軽い仕事をこなし、互いの相性を確認して、足りない部分を知ることも大切だと宿の親父は語った。
 
 
 一行がそれぞれの自己紹介を終えパーティを組むことを確認すると、宿の親父はまず当面問題になりそうなことから片付けておけと、一行にある提案をした。
 それはラムーナの身分のことである。
 
 リューンは表立って奴隷の取引はしない。
 人身売買は西方各国の貿易の要所であるリューンでは、難しくてできないのだ。
 理由は宗教や人身売買を認めないさまざまな国家が関わっているからである。
 
 それでも公に奴隷制度を認めている都市や国も存在するし、そういった国の人間がリューンを訪れることもある。
 もし旅の最中にそれらの都市や国に逗留していたとき、ラムーナに関わる奴隷商人に遭遇して、奴隷商人がその国の法律を使ってラムーナの身柄を要求した場合、非常に厄介なことになることを親父は危惧していたのだ。
 
「組合やわしのコネで身元を保証してやればある程度は何とかなるが…
 
 もともとリューン出身のレベッカやロマンはいい。
 シグルトも出入国のきちんとした手形を持っていたから、それを身分証がわりに冒険者としてリューンに滞在することは難しくない。
 
 だが、今のラムーナは不法入国者に近い扱いだ。
 このままだと厄介ごとがおこるかもしれん。
 
 ここにいる限りはそれほど問題は起こらないが、外出できない冒険者じゃ、お飯(まんま)の食い上げだ。
 具体的には、外国に仕事で出かけたときに困ったことになるってことだ。
 
 旅先で事件に巻き込まれて身元云々の話になれば、国に強制送還とかになってしまう場合もある。
 リューンから退去ってくらいは、役人は厄介払いのために平気でやるだろうしな。
 この辺で冒険者やるのに、リューンを出入り禁止にされるのはかなりまずい。
 
 だから、宿に冒険者の登録しているという保障以外で何か手を打っておいたほうが、後々困ることがないだろう。
 わしが関わるのは奥の手に取っといたほうがいいしな。
 
 まあ、保険という奴だ」
 
 そこで親父が教えてくれた方法は、リューンに保証人を作って戸籍を取得し、その上で冒険者として登録する、というものだった。
 
 建て前の上でリューンには市民を保護する必要があり、交易の要所であるリューンの役所ににらまれることは、商業ギルドに関わりの深い各貿易都市のお役所受けが悪くなる。
 問題が起きたときに「正当な権利で訴える」という立場をとれば、後ろ暗い奴隷商人はほとんど口出しできなくなるだろう…というのだ。
 
 冒険者は敵を持つものや、脛に傷をもつものも多いため、こうやってあらかじめ対策を立てておくことは、冒険者の宿を経営する上で大切なことなのである。
 
 ただ、下層の市民であれ市民権の取得は意外に難しい。
 一人ではまず不可能だし、宿の親父が保護者や保証人になった場合は、「冒険者の宿の主人として冒険者の身分を保証する」立場が、類似した立場の重複によってできなくなる場合もあるというのだ。
 つまり、ラムーナには親父や冒険者の宿、冒険者のギルド(組合)以外での保証人を立てて市民権を取得する必要があるというわけだ。
 
 冒険者になるには、何も完全な市民権を得る必要はない。
 都市で活動するために最低限必要な肩書きを作って、その肩書きを使ってよりしっかりとした冒険者の身分を確立してしまえば、親父が身元を引き受ける場合に有利な条件を作れるのである。
 
 完璧な法律も権利もありはしないので、それらに甘えすぎるのは考えものだが、冒険者として活動する足場としては充分な状況を作れるというわけだ。
 
 冒険者になった先は、各々の工夫と生存術次第である。
 
 親父は最後に、お前らもこういう駆引きには早く慣れて自分たちで身を守れるようになれよ、と話をしめ、シグルトたちを宿から送り出した。
 
 
 親父が保護者の候補として選んだのは、かつて冒険者であり、引退後は海外に布教伝道をしてあるいたこともあるという、聖北教会の僧侶だった。
 3年ほど前に赴任先で異教徒に襲われ右足を失ったが、奇跡的に助け出されて、今は小さな教会の司祭をしているという。
 
 この西方諸国で、聖北教会の僧侶の社会的地位はとても高い。
 彼が保証人となってくれれば問題ないだろう、と親父は紹介状を用意してくれた。
  
 そしてラムーナにとって幸運だったことがさらに2つあった。
 
 一つはその僧侶が、ラムーナの国の文化に理解があり聖北僧侶に時折見られる異文化を異端視する連中とは対極の、温厚で理解のある人物であったこと。
 そしてもう一つはその僧侶こそ、西方の言葉を教えてくれたラムーナの恩師だったことである。
 
 クレメントというその司祭は、孤児院と神聖魔法を使った施療院を営みながら、数人の聖北教会の僧侶たちと暮らしているとの事だった。
 
 
「う~ん、楽しみ!
 クレメントせんせい、元気かなぁ…」
 
 宿の親父の娘が昔使っていたというお下がりの靴を履き、時折嬉しそうに眺めながら、ラムーナは一行を急かすように早足に歩いて行く。
 
 だがなぜか顔色はあまりよくない。
 額にじっとりと汗もにじみ、心配したシグルトたちがどうしたか尋ねてもあいまいに笑うだけだった。
 看板に強打したという頭には薬をつけ、足も自分で薬をつけて親父にもらった包帯を器用に巻いていたので、必要な治療はしただろうし、言わないからには大丈夫だろうと、その後をシグルトとレベッカが並んで歩き、歩幅のないロマンが必死についてくるといった感じだった。
 
 やがて教会の一番高い部分にある、質素な木製の聖印が見えてきた。
 
 
 シグルトが教会の扉を叩くと、やがて開いた奥から、ぬぅっ、と僧服をまとった男が顔を出した。 
 大男、といってもよい立派な体格の老人である。
 長身のシグルトよりさらに顔半分ほど背が高く、首はロマンの頭ぐらいある。
 
「何か用かね?」
 
 屈強な外見からはあまり想像できない、穏やかで深みのある声で老人は用件を尋ねた。
 よく見れば、細い目の温和な顔立ちをしている。
 
「私はシグルトと申します。
 クレメント司祭はいらっしゃいますか?」
 
 紹介状を取り出すシグルトの後ろで、レベッカはその僧侶を見つつ、盗賊らしく分析を始めた。
 
(この辺の聖北教会の僧服じゃないわ。
 服の素材からすると南の方の出身かしら?)
 
 そんなレベッカの視線には何の反応も示さず、老人はふむ、と頷くと、ついて来なさいと言って一行を教会の中に招き入れた。
 
 教会の中に入ると、老人は突然ラムーナに向かって、椅子に座りなさい、と言った。
 
「???」
 
 わけもわからず席を勧められ、困惑したラムーナが何か言おうとすると、老人は細い目を瞬かせて言った。
 
「お嬢ちゃん、足を怪我しておるじゃろう?
 クレメント司祭の部屋は手狭じゃから、立ったまま話をすることになるが、その足ではつらいのではないかね?」
 
 老人に促されるまま、座って靴を脱ぐと、足に巻いた包帯が血で赤くなっていた。
 老人は不器用な手つきで包帯を除く。
 
 ラムーナの指先を見て、ロマンは顔を伏せ、シグルトは眉間を引きつらせた。
 
(…ひどいわね。
 爪を貫いて足の指を一つ一つ刺してあるわ)
 
 レベッカも眉をひそめる。
 
 凄惨な傷痕に老人は、むう、とうめいた。
 
「…ガヴァリアの奴隷商人が使う刻印じゃな。
 
 腱を切ると働けなくなるから、痛みで船旅の間だけ逃げれんようにするために、こうして傷をつけるんじゃ。
 鎖の大きさをあわせるより、このほうが早いと言って、今の商人たちの長が考え出したそうじゃが…妖魔にも劣る連中よの。
 
 少し化膿しておる。こんな傷で、よう歩いてこれたものじゃ」
 
 そういうと老人はラムーナの足に手をかざし、朗々とした声で神を讃える言葉を紡ぎ出す。
 
 老人の手が柔らかな光に包まれ、ラムーナの傷に光が降り注ぐと、見る間に傷が消えていく。
 老人は、爪も綺麗に元に戻ったことを確認すると、やれやれと肩を叩き立ち上がった。
 
「すごい。
 
 やっぱり癒しは秘蹟が優れているんだ。
 こういう傷に最も効果的な治療法かもしれないね」
 
 ロマンが興奮したように顔を高潮させていた。
 
「ありがとう、おじいちゃん」
 
 ラムーナがにっこり笑うと、老人は、どういたしまして、と細い目をさらに細めた。
 
「…ラムーナ、どうして傷のことを黙ってたんだ?」
 
 シグルトはむっとした顔で椅子に腰掛けたラムーナをにらむ。
 ラムーナの傷の重さに気付けなかったことを憤っている様子だった。
 
「う~ん、だって痛いだけで歩けたし」
 
「普通、痛いと歩けないものなのよ…」
 
 あっけらかんとして言うラムーナにレベッカは肩を落として言った。
 
 少し話してみて、レベッカにはこの娘の考え方がなんとなくわかってきた。
 そして今までの話からなんとなく想像がつく。
 
 ラムーナが住んでいた場所は、苦痛を訴えれば非難され、常人が泣き出しそうな傷を我慢するのが当たり前の世界だったのだ。
 
 先ほども、ラムーナは時折ふらついていた。
 心配して大丈夫かと尋ねたとき、大丈夫だと笑うラムーナの瞳が、潤んでぼんやりしていたのだが、実際に痛くて泣きそうな状態でわざと無理して笑っていたのだろう。
 
 痛いなどと言ってはいけない…それをこの少女は笑った顔の奥にある心の中で、何かにおびえながら自分に科していたのだ。
 
 ラムーナは痛みにも殴られることにも慣れてはいた。
 頭にくることがあれば、彼女の父も母も八つ当たり同然にラムーナを殴った。
 でも、ラムーナはそんな両親でも愛していた。
 だから、憎しみを持った責めるような眼で肉親から殴られることが、ラムーナには耐えられなかった。
 それは「お前は要らない」と責められているようで、悲しくなるからだ。
 
 我慢すれば愛してくれなくても憎まれない。
 だから痛みを耐える。
 耐えていれば、いつかきっと愛してくれるかもしれない。
 
 どうにもならない理不尽を、この少女はひたすら耐えて、痛みや苦しさを笑顔の奥に隠してきたのである。
 
 老人はそっとラムーナの頭に手を置いた。
 びっくりしたようにラムーナが見上げると、その大きな手で優しく頭を撫でてくれた。
 
「よく辛抱してきたの。
 
 じゃが、お前さんの周りの連中はもう、痛みに耐えろなどという無茶なことをお主に科したりはせん。
 痛いときや苦しいときは無理に笑わんでええんじゃ」
 
 それでも笑った顔のまま、今まで泣くことを許されなかったラムーナの眼だけは、耐え切れなくなって涙をあふれさせた。
 
 
 自分が泣いていることに困惑して、しきりに眼をこすっていたラムーナが落ち着いた後、一行はクレメント司祭の部屋へと案内された。

 教会の奥にある一行が入ればいっぱいになる質素な部屋で、書簡に眼を通してていたというクレメント司祭は50になったぐらいの優しそうな男性だった。

 ラムーナとの再会を喜び、紹介状などろくに読まずに二つ返事で保証人になることを快諾してくれた。
 そして、老人がラムーナの傷を治したことを知ると、感激して何度もお礼を言った。
 
 しばらくは身の上話をしていたが、ラムーナたちが冒険者になったというと、クレメントは困ったような顔になった。
 
「足が不自由でないなら、私も一緒に、と考えてしまいます。
 冒険者という職業はとても過酷で危険ですから」
 
 僧侶が仲間にほしい…
 
 それはシグルトたちも望んでいることである。
 だが、片足を失い歩くこともままならないこの司祭を、冒険に連れて行くことはできないだろう。
 
 冒険者という職業で最も貴重であり、いると仲間の生存率が大きく上がる職業がある。
 癒しの魔法を使いこなす僧侶の存在だ。
 
 時にモンスターと戦い、依頼人を庇い、遺跡の罠と対峙する冒険者たちは生傷が絶えない。
 低価格な即効性がない薬品では戦時に使っている暇などない。
 瞬時に傷を癒すポーションの類は高価であり、リューンで販売される傷薬などは、初級冒険者のパーティが一回の仕事で得る報酬のおよそ半分になる。それ故に中毒の危険性があっても、回復役のいない冒険者パーティでは危険なヒヨスやコカの葉を使う傾向があるのだ。
 
 そこで絶大な効果を発揮するのが僧侶の使う秘蹟である。
 一瞬で傷を癒し、毒を除き、病んだ心を穏やかにする。
 呪文の力を呼び起こす力は休息すれば戻るので、一度習得すれば何度でも使うことができる。
 
 特に【癒身の法】と呼ばれる初級の治療秘蹟は、聖北教会の僧侶たちが一般人でも簡単に使えるようにしたものの一つである。
 秘蹟は神への言葉を呪文にしたもので、効果は魔術師の使う魔術と並んで絶大な効果を持つ。
 いまや下手な応急処置より普及した医療の技であった。
 
 神への信仰を唱えるこの技術を一般人に軽々しく伝えるリューンの聖北教会のやり方は、一部の教会勢力からは問題視されてもいるのだが、冒険者を中心に技術伝授を求めるものが多いので需要は大きく、「【癒身の法】は医者泣かせ」などとも呼ばれていた。
 
 しかし、やはり神に仕え教会で常に祈る本職の僧侶の秘蹟は大きな効果を持つ。
 冒険者が危険な旅に、布教や自らの信仰の研鑽のために旅をする僧侶を仲間にすることは多かった。

 そしてそういった旅をする僧侶はまれであり、冒険者の社会では引く手数多である。
 僧侶が仲間となっていれば、ごろつきの集まりという冒険者たちの悪い印象もかなり改善されるのだ。
 冒険者グループの中に僧侶が存在することを、そのグループを信頼する基準にしている依頼主も多い。
 
「僧侶の存在は貴重ですからね。
 我々に手を貸してくださる聖職の方がいるなら、是非紹介していただきたいのですが…」
 
 レベッカはクレメント司祭から、冒険者に引き入れることができそうな僧侶の所在を聞き出そうと話題をふる。
 
「…どうじゃろう、わしでは力になれんかね?」
 
 すぐにそう言ったのは件の大柄な老人であった。
 
「あなたが?

 そうしてくださるなら、私たちとしてはとてもありがたいのですが、よろしいのですか?」
 
 先ほどの癒しの技を見れば、文句などあろうはずがない。
 
「うむ。
 
 本来わしは聖北教会とは違う派の教会に所属しておってな。
 クレメント殿の御好意で、この教会の食客として逗留しておったが、旅をして信仰の何たるかを見直してみようと思っておったところじゃ。
 
 恥ずかしながら、この歳になるまで修道院で祈るばかりであったが、最近それでは何か足りないと思っての。
 あちこちの聖地や霊蹟(聖人たちが深く関わった場所)を巡っておったのだ。
 そんな折、昨今の金儲けばかりの教会は違う教派であることを理由に教会の軒先すら貸してくれなんだが、クレメント殿は数日の宿を見返りも求めず与えてくださった。
 それに報いる機会…まさに神の思し召しよの」
 
 老人はゆっくり頷き、クレメント司祭に、よろしいかな?、と話を振った。
 
「師がよろしいのでしたら、これほど頼もしいことはございません。
 どうぞよろしくお願い致します」
 
 クレメントはほっとした様子で、老人の手を両手で包み頭を下げた。
 
「うむ…そういえばお主たちには名乗っておらなんだの。
 
 わしはスピッキオ。
 聖海教会、聖アンティウス修道院にて洗礼と聖職を受けた司祭じゃ。
 見ての通りのジジイじゃが、何、体力はその辺の若いもんには負けぬつもりじゃ。
 よろしく頼むぞ」

 老人は大きな身体を揺らし、細い目を瞬いた。


 初期編成5人の最後の一人、豪傑モンクスピッキオの登場です。
 
 スピッキオは名前でも判るとおりイタリア人系の名前にしてあります。
 かつて、この元本となるリプレイは、Martさん作『碧海の都アレトゥーザ』の影響を強く受けていました。
 今回もそうですが、スピッキオはアレトゥーザに登場する〈聖海教会〉の聖職者という設定です。
 
 聖アンティウス修道院は修行と禁欲に明け暮れる聖海教会の寺院で、スピッキオは修行を終えて旅をする巡礼の司祭という位置づけです。
 僧侶としての階級が高い(司祭なら一つの教会をあずかるほど)のは、彼がそれなりに長い間修道院にいて修行してきたことへの配慮です。
 本来修道院の司祭は独特で、普通の教会の聖職者とはちょっと違うのですが、スピッキオは一度還俗に近い形で普通の教会組織に属し、そして司祭になりました。
 修道院という場所は、普通の教会組織から独立して、祈祷と清貧で過ごし、生涯を自給自足+修行三昧の日々で送る、厳しい場所だったようです。
 独特の文化も生まれ、蝋燭やビールも修道院で作られていたようですね。
  
 スピッキオは西方南部の豪商の三男として生まれます。
 生まれつき体格がよく、将来は兵士にと考えられていましたが、信心深くあまり争いごとが好きではなかった彼は、早々に修道院に入り修行と祈りに満ちた穏やかな日々を送っていました。
 
 ところが、彼のいた修道院は院長が交代したことでその方針を変え、学僧中心の教育機関に変わっていきます。
 修道院でも古株だったスピッキオは新しい院長と考えが合わず、それを期に信仰とはどういうものか考え直してみようと、一人聖地霊蹟の巡礼に旅立ちます。
 巡礼で布教活動ができるようにと、スピッキオは彼を信頼する聖海の司教様から司祭に任命されます。
 
 彼は布教と巡礼の旅を続けて、色々なものを目の当たりにします。
 
 それは決して美しい信仰の世界ではなく、金に固執する聖職者や、戦争に利用される宗教の汚れた部分でした。
 スピッキオはその中で信仰にある光を求めていき、クレメント司祭に出会ってその答えを見つけます。
 
 クレメント司祭は自分が信じ行える信仰を形として成し、示してきた人物でした。
 布教中に足を失う惨事に見舞われながら、誰を恨むのでもなく自分の信じる神の道を説くクレメント司祭の生き方に感銘を受け、残された生を自分の信じた信仰に捧げようと誓い、そのきっかけをさがしていたのです。
 
 そしてシグルトたちと出会います。
 彼らの持つ眼の輝きと若さをまぶしく感じながら、スピッキオは冒険者として生きる決心をするのです。
 
 スピッキオは腕力が戦士並にあり、時に素手や杖で敵を殴る戦う僧侶です。
 能力的にも十分戦士になれる素質があります。
 
 戦いそのものは嫌いですが、信念を貫くために、仲間のために敗れることをよしとしません。
 そのスタイルはまさにコンピューターゲームのモンク。
 
 でも、モンクって格闘家とは限らないんですよ、本当は。
 気を使って敵をぶちのめす格闘家みたいにとられてますが、本来モンク…修道士は修行する僧侶のことです。
 なんだか中国映画の闘うお坊さんと、修道院の修行僧がごちゃまぜになってますよね。
 
 スピッキオはかなり頑固で保守的な性格をしています。
 まあ、爺さんになるまで薄暗い修道院でずっと修行と祈祷ばかりしていたわけですから。
 
 考え方もやや硬くて、軽薄なレベッカや現実主義のロマンとはよく口論になりますが、老人らしい落ち着きも持っています。
 意外にお茶目な性格もしており、レベッカ、ラムーナとともにお笑いも担当してもらうつもりです。
 
 努力家で、PyDS版では知力が7に!
 宗教知識に関してはかなりのインテリです。
 それ以外でも、旅慣れしているので含蓄があります。
 年寄りの渋みが表現したい人物ですね。
 
◇スピッキオ◇
 男性 老人 無双型

田舎育ち   裕福     厚き信仰
誠実     無欲     献身的
秩序派    穏健     楽観的
勤勉     陽気     高慢
武骨     硬派     お人好し

器用度:4 敏捷度:4 知力:7
筋力:10 生命力:7 精神力:11

勇猛性+3 慎重性+1 正直性+2

◇所持スキル
【癒身の法】-600SP
 
 今回のリプレイ再編で保守派はイメージと違うので外しました。
 高慢・武骨・硬派で石頭のイメージは保てますし、僧侶で保守派だと布教が…

 タフネスに優れ、パワー系のアクションカードは結構強め。
 平和性がどうしても上がらず残念でしたが、冒険者としてアンデッドは杖でぶん殴れるようになりました。
 まぁ精神力高いので回復スキルはそれなりなんですが。
 何より、回復役がタンクって有難いです。彼が沈まない限り逆転の可能性がありますからね。

 今回のリプレイではシグルトが初期装備でかなりパワーアップしてるので、再録はやりやすい予感がしています。
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