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『碧海の都アレトゥーザ』 図書室の少年

2017.11.24(03:53) 415

 その日ロマンは、仲間たちと別れ一人でアレトゥーザの賢者の塔にやってきた。
 図書室利用の登録を行うためである。

 本は大変貴重なものだ。
 同じものを増やすには手書きによる写本で、表紙などは金をかけて頑丈にする。

 最近になって東方より植物紙が伝わり、高価な革表紙に代わって厚紙に布を張った表紙などもでき、徐々に薄くページ数が多い本ができ始めたが、主流はまだ革表紙の分厚い書籍である。

 羊皮紙、というものを御存じだろうか。
 動物、特に羊や山羊の皮で作った紙である。
 牛の皮なども使うため、正しくは獣皮紙や皮紙というのが正しいのだが、紙の先祖であるパピルスの代わりに山羊や羊の皮を使ったのが始まりとされるので、羊皮紙と呼ぶのはそれ故だろうか。

 作るのには大変な労力がいる。

 冷たい流水で時間をかけて皮の汚れを落とし、薬液に八~十日ほど(夏場は半分程度)漬けて数度撹拌、脂肪分や保存に使われた塩などの成分を除く。
 木の台に広げて毛をこそぎ取り、表皮が残っていればさらに除去。
 高価なものは再度薬液に入れて脂肪をできるだけ除去し、漬けた薬剤が抜けるように二日ほど流水で濯ぐ。
 水分を落とすために木枠に紐で張り、その紐を捩じって張力を強く、特殊なナイフで削りながら皮を伸ばししっかり丁寧に展張、乾燥させる。
 できた皮は周囲を切り落として形を整えて磨き上げ、にじみをなくすためにチョークや石膏の粉末をふって軽石でこすり完成品となる。

 これだけの手間がかかるのに、一匹の羊からとれる羊皮紙はフルサイズ120cm×85cm(A0)ぐらい。これは熟練の職人が作る高級品で、もう少しサイズが小さいのが普通だ。
 書籍に使われる紙はフルサイズの羊皮紙から切り出せる6~8枚ほど。それが二百四十枚で銀貨三千六百枚ぐらいの価値である。一枚銀貨十五枚といったところか。

 宿で張り紙に使われるものは切れ端や中古の羊皮紙を削ったもの、破れのあるもの、徒弟が練習で作る際に出る失敗品が多く、サイズはかなり小さい。それでも銀貨十枚ぐらいはする。
 依頼の契約書を取り交わす場合は、余白や裏を使って費用を削減するのが普通(貴族などとの契約は別の新しい紙を使う)だが、この紙代でけっこうな費用がかかるため、宿に張り紙として出される依頼はその費用分を依頼主が負担し引かれたものになっている。
 貧しい農村は依頼を宿に持っていく手間(旅費・郵便費など)や、宿に張ってもらうために報酬額の1割ほどの手数料、紙代とインク代とペン代で費用がかさみ、代筆でお金を払って書いてもらうか誰かが文字を使えないと依頼書にできないために、紙での依頼を嫌う者もある。たかが銀貨十枚であるが、自給自足の村落では銀貨そのものが村にないため、銀貨数百枚の捻出がとても厳しいものである。

 銀貨は一枚でやや高級なパンが買え、安いエールを一杯飲める。二~三枚もあれば安い食事が酒付きで食べられるだろう。

 冒険者の報酬が低いのも、実は依頼が出るまでの諸経費が影響していたりする。
 一つの依頼が出るには、総経費銀貨千枚ぐらいで、標準で四割ほどが諸経費に消えている。
 がめつい宿や冒険者への仕事を仲介する悪徳ギルドのようなものもあり、仕事がなかなかもらえない冒険者はそういったところでさらに経費や課金を取られて、実際にもらえる報酬が総経費の二割以下という過酷な話も珍しくない。こんな理不尽が通るのは、冒険者という職業が資格や大きな組織による後援を持たない最底辺の仕事だからであろう。

 話を戻す…当然だが羊皮紙に手書きで文字を書いた書籍の値段は、凄まじく高額であった。
 字を紙に書いて学ぶ、というのは大変な贅沢であり、一般人は石板や蝋を使った書写板を使い、記録には木簡や竹簡を使う国もある。
 ロマンの持つ魔導書【ジュムデー秘本】は銀貨二千枚もしたが、書籍としては比較的安価であった。
 貴族の蒐集する稀少な装飾本などは一冊銀貨数十万枚のものも存在する。 

 書籍が高価であればその管理も厳重となり、扱うにも約束事が存在した。
 司書を通した図書施設利用登録は必ず必要になることで、選んだ本次第では銀貨数千枚の担保金を預けたり、書籍の盗難・紛失や損傷があれば、莫大な賠償が必要になる。
 歴史あるアレトゥーザの賢者の塔は蔵書も相当なもので、中には鎖付の盗難対策がされたものまである。

 革表紙や羊皮紙は加工されているとはいえ有機物であり、手の汗や空気によって書籍は傷んでいく。
 扱いの難しさ故に様々な約束事があり、特に「直接触らないように手袋をつける」とか「息を吹きかけないように口を覆って読む」、「本を隠さないように座り方や読む向きが決まっている」といった規則の施設もあった。

 ロマンは専用の絹の手袋と覆面瓠(本に吐息がかからないようにするためのマスク)を所持していたし、写したい本があっても直接の写本は行わないようにしている。インクをこぼすリスクを嫌っているからだ。
 読んだらすべて記憶し、それを要点を抜き出して自分流に調整して写本…というよりは改善書を作ってしまうロマンである。それはある意味超人的に異質であり、いかに本の保護とはいえいささかやりすぎであった。
 覚えているのだから写本までしなくてもよいような気もするが、ロマンのような本好きとは、貴重な本を一度は製本の形で手元に置きたいものなのだ。

 写本は良いお金になる。
 インク・材料費・製本代といったコストも大きいのだが、一冊書き上げれば出来次第でそれなりの金額を得られる。
 ロマンが担保に預ける資金や、リューン大学で払っていた受講料は、そうやって稼いだものがほとんどだ。
 そも、普通ただで本が読めるわけではない。
 入館料をとることがほとんどない賢者の塔付属の図書館は、ある意味、先進的であり異端だった。 

 そんなわけでロマンは、初めて訪れる図書館や図書室では必ず諸注意を神経質に聞いて、厳密にルールを守るようにしていた。

 ロマンが賢者の塔の受付に向かおうとすると、入り口付近にいた長髪と髭の凶悪な人相をした魔術師らしき人物が見とがめた。
 彼は明らかに怒った様子でロマンの行く手を遮り、手に持った杖でイラついたように床を打ち鳴らす。

「高尚な賢者の塔に、なぜ貴様のような子供が来ている?

 ここはお前らが気の遊び場ではないのだ。出ていけ!」

 一方的に塔への侵入を阻まれたロマンは、目の前に突き立てられた杖を持っていた鞄で叩いて魔術師を睨みつけた。

「"広く知恵を求める者を邪魔するのは、自身の純粋な向学心を失った愚者である。叡智を吝嗇によって妨げるのは、己ならぬ者の智の成長を妨げ、己ならぬ者の発見を妨げ、己に与えてくれる者を妨げるのである"

 塔を設立した賢者が、嫉妬から同門の兄妹弟子の学を妨げた教え子をこの言葉で叱ったのを知らないのなら、あなたは塔に上る賢者を名乗らない方がいいよ。

 師でも先達でもなく、僕の求道を遮る資格すらない人が出入の如何を偉そうに言わないでよね」
 
 痛烈な言葉であった。

 賢者の知識というものは、専門分野を分担して研究することで増えていく。
 他人の学問の妨害は、その道で成功するかもしれない者の道を閉ざす行為であり、将来新たな分野を発展させる可能性を潰し、巡り巡って自身に新しい知恵をもたらす未来の可能性を捨てる所業である。
 ロマンは故事を引いて「あんたこそ賢者ではない愚者だ。この邪魔者め」と断言したのである。

 杖を叩く、というのは長い求道の旅路の間自分が寄りかかるべき…魔術師の象徴を斬って捨てるという意味だ。
 この業界では大変な侮辱である。

 本来は決闘沙汰の所業であるが、実は凶悪顔の魔術師の方が先にそれ以上の不行儀を働いている。
 賢者の塔はあらゆる賢者のために解放された施設であり、出入り禁止になっていない者に対してそれを阻む…まして正式な魔術師を妨害するなどあってはならない。
 ロマンは「賢者としての矜持を示し、抗議も辞さない」という決意で、伝法な口に誇りをもって対峙したのだ。

 それは賢者を名乗る以上、やって当然の問答であった。
 こういった「作法」を知らない魔術師や賢者も多数いるのだが、知らないというのはすなわち教養が無いという恥なのである。

 魔術師は怒りのあまり、顔を真っ赤にして青筋を浮き上がらせた。

「その少年の言う通りですよ、ヒギン殿。

 公共の入口を貴方の勝手な判断で塞がないでもらえますかな?」

 今にも殴り掛かりそうな魔術師を、塔の中から彫りの深い眼窩にモノクル(片眼鏡)をかけた男性が現れて言葉で嗜める。
 遠巻きに見ていた他の利用者も、ヒギンと呼ばれた魔術師を軽蔑したように見つめていた。
 「正しい智による作法」で返された時点で、すでにヒギンは賢者として敗者なのだ。

「エルネスト、貴様ぁ…

 ふん、興がそれたわ。
 こんな餓鬼に本気になれるかっ!」

 気まずくなったにか、ヒギンは肩を怒らせて去って行った。

(…最近因縁を吹っ掛けたがる馬鹿な大人が増えてるけど、変な病気でも流行ってるのかな?)

 気を取り直して、という風にロマンはエルネストと呼ばれた男の方を向いた。

「味方になってくれてありがとう御座います。
 賢者の塔の先達殿。
  
 僕はロマン。
 イグナトゥス派の正当なる末裔、アレグリウス導師の弟子。
 未だ寄りかかるべき杖は持ちませんが、魔術師見習いにして賢者です」

 先ほどの魔術師に対してとは違って、丁寧な礼をする。

 本来魔術師は導師と呼ばれる師について魔術の道に入り、学ぶ。
 感覚でなんとなく魔法を使えるようになった在野の魔法使いもいるが、それは正しい魔術師ではない。
 複雑で難解な魔術を指導者も無く理解することはほぼ不可能であり、師に魔術の基礎や作法などの手ほどきを受け、魔術師独特の名乗りや服飾の着け方を習得してそう認められるのだ。

 賢者の塔のように大きな教育機関で魔術を教える場合もあるが、そうやって多数の生徒が複数の教師から学ぶ場合も、個別に師と仰ぐ教導の導師がつく。
 たくさんの弟子をとる私塾は弟子に目が行き届かないため、管理不行き届きが問題になることも多い。

 少数の弟子を慎重に選びとって丁寧に育て、その中から優れた一人を見つけ奥義を相伝する。そうやって伝統は欠けずに守られる。
 当然である。魔術の中には魔の具現たる怪物を召喚したり、儀式のやり方次第では都市一つを壊滅させる呪文の類もあるのだ。初歩たる【魔法の矢】や【眠りの雲】さえ、犯罪に用いれば大変なことになる。
 まともな師の指導も無く魔術を使うということは、目を離した場で子供に劇薬を使った実験をさせるに等しい。
 多くの国法でもむやみやたらに魔術を使用することは固く禁じられているし、魔術師の多くは魔術師協会などに属して行動を管理され、問題を起こすと所属する協会や学派の代表、師などに苦情が行く。
 師たる魔術師は協会などに自分の教える学派に所属する弟子の有無を報告する義務があり、行いが悪く破門された弟子は魔術を封じる呪いを受けたり、呪文を唱えられないように咽喉を薬品で潰されるといった厳しい処置を取られる。

 このような関係から、魔術師の師弟は互いに親子のような深い絆を育む。
 正統派の魔術師は必ず自分の所属する学派を持ち、師である導師を親同然に敬って弟子を名乗るのだ。

 学派は得意な魔術系統や思想を示す魔術師の格式であり、一人前の弟子をとれる魔術師になった時初めて独立して、「~派の正魔術師○○」というように名乗りを上げられるようになる。
 最も理想なのは、自身の学派を立ち上げること。
 
 こういった理由から師がいない独学の徒は、魔術師の業界では蔑視される。
 「正しい格式が無い」として見られるのだ。
 自分が学ぶべき導師を「見つける」ことも、魔術師の大切な過程である。

 冒険者をしている魔術師は、実は案外在野独学の似非魔術師が多い。中にはリューンの賢者の塔で初歩の呪文を習得したから魔術師になったと騙るものまでいるが、本物には装備・態度・礼法・導師がいかなものであるか確認すればすぐにボロが出る。
 師匠を持たない魔術師は、研鑚によって自分の学派を立ち上げるまで、あるいは師に出逢うまで、真の魔術師は名乗れない。

 ロマンはイグナトゥス派という学派に属し、まだ師から独立していない修行中の魔術師見習いである。

 イグナトゥス派は魔術の神とされるヘルメスとイシスの知識を根本とする古典的な魔術学派で、古代に魔導王と呼ばれた大魔術師イグナトゥスの理論を継承している。
 複雑な術式と専門知識の難解さから、所属する魔術師はとても少ないが、故に名門である。

 幼少期にリューン大学の受講を許されるほどだったロマンは、多数の魔術師から弟子入りを請われながらそのほとんどを断っているアレグリウス導師に才能を見出され、正式な弟子になった一人だ。
 アレグリウス導師が弟子入りの最低条件として課す試験は、賢者の塔の書架一つを占める魔術の歴史と系譜の丸暗記であり、それを10歳前に成し遂げた者はロマン以外存在しない。

 そういった背景を名乗りから把握しているのか、モノクルの魔術師は子供に対するものでは無く一人の魔術師に対する敬意を込めて目の前の華奢な少年見つめていた。
 
「私はエルネスト。この賢者の塔に所属する正魔術師です。

 先ほどは見事な対応でした。
 同じ塔の所属の者が随分と見苦しい身勝手をした様子。お詫び致します」

 エルネストと名乗った魔術師は丁寧な口調で謝罪し、頭を下げた。

 彫りが深く酷薄な顔をしたエルネストは、モノクルのレンズ越しに冷徹な眼光をしており、普通の子供ならば一にらみで泣き出してしまうだろう。
 そんな彼がロマンに対して下手に出ている態度は、とても滑稽で奇異であった。

「心中御察しします。
 リューンの大学であの手の尊敬できない方には慣れていますので。

 この問答はこれまでにしましょう。

 賢者にとって学ぶ時は有限です。
 僕はこのようなことに思索の旅がそれるのは我慢なりません」

 年上に対して全く物怖じしない態度である。

 ロマンは普段は内気で他人と接することはあまり好まない。
 それでも、賢者としての一分を押し通す気概は高慢に見えるほどだった。
 師の教育のたまものである。

 エルネストはただ頷き、ロマンを塔の中へと導いた。


 塔に入って手続きを終えたロマンは、すぐに図書室に向かった。
 アレトゥーザの賢者の塔が誇る図書は膨大で、整然と書架に収められた書籍は見るだけでも秩序だった重厚な迫力を醸し出していた。

 羊皮紙とインクが時を経て放つすえた薫り。
 掃除が行き届いているのになおも残る埃臭さ。
 表紙に使われた革や装飾が様々な色を縞のように彩り、知恵を求める者を誘っている。

 新しい智の宝庫に、ロマンは年相応の少年らしい喜びで顔を紅潮させ、人によっては顔をしかめる空気を思い切り吸い込んだ。
 
 エルネストが監視する前で、さっそく閲覧可能なものから書籍を選び始める。

 読もうと思った本は中ほどを掴んで取り出す。もちろん愛用の手袋をつけて、でだ。
 本の天、花布(はなぎれ)付近に指をかけるのは本好きとして言語道断である。

 手袋ではページをめくり難そうなのだが、ロマンのそれは柔らかい革製の滑り止めが指先に付けられた読書専門のもので、汗で湿らないように通気性まで考えてあった。

 ロマンが最初に手を付けたのは共通語で書かれた目録、次いでそこに載っていた言語関係の書物だ。

 まず南海語の辞書を読み、次いで文法などが書かれたアレトゥーザの国語。この辺りは斜め読みで、写本した書き手の所見や注意書きを見ながら、過去に自分が読んだことのある同様の本との差異を探し、記憶として吸収する。
 次いで訛りや発音に関して地方ごとの文化に触れた地元の学者用の専門書を読む。これらはほかの地方の図書館にはまず無い類なのでじっくりだ。とはいっても、読む速度は普通の人間の10倍近い速読なのだが。

 言語関連から読むのは、事後に調べる手間を少しでも省くためである。
 前提として基礎となる言語や文化について知らないと、そういったものを下地にして書かれた書籍は意味も含めて理解に時間がかかる。言葉は学ぶための最たる礎なのだ。

 アレトゥーザで主に使われる言葉は、まず大陸で一番話される共通語。これは冒険者・傭兵・商人…あらゆる職業と人種が使う。
 共通語ができなければ仕事もできないというくらい、大切な言葉である。母国語よりも共通語を使う方が多い職業も存在する。

 次いでリューン近郊でよく話される西方語。これは第二の交易語としても使われる。

 そしてアレトゥーザ周辺、ライバルであるフォルトゥーナなどでも使われる南海語だ。独特の発音から南海の民は時に“巻き舌”というスラングで呼ばれる。
 アレトゥーザ近郊で使われる言葉は荒っぽい海洋民族の交流からか、独特のアレトゥーザ訛りがある。
 東は東方帝国やに典教徒や聖戒教徒、はては中原や極東。南は南方大陸とも海で交流を持つため、入り混じった民族は様々だ。
 街を歩けば時々南方大陸の黒い肌の民を見かける。彼らは身体能力に優れ、屈強だ。

 冒険者の多くは共通語と西方語が話せるバイリンガルである。読み書きは共通語主流だ。
 文盲が多く、その代り話せる言語は多いというのがこの時代の西方民族の特徴であった。

 ロマンの所属する“風を纏う者”のメンバーは多言語に長じた者ばかりである。

 シグルトはいつも「自分は腕っぷしぐらい」と言うが、実際は並外れた教養人で、共通語はもちろん西方語・北方語・神聖語の読み書きができ、北方と西方圏の言葉は片言、さらにロマンも知らない妖精語・精霊語・エルフ語・ドワーフ語を古語まで扱えるスーパーリンガルだ。
 レベッカは盗賊の暗号を使う関係で西方圏の言葉はほぼ話せる上、共通語・西方語・南海語は流暢に使いこなす。
 ラムーナは一番教育が受けられない立場であったが、共通語は日常会話レベルで使えるし故郷グルカの言葉も読み書きができるそうだ。西方語や南海語は片言だが、話すというレベルでは優れた学習力を発揮していた。
 スピッキオも相当な教養がある。元商家の出身で共通語・西方語・南海語、聖職として神聖語は専門用語まで使いこなす。聖典の類には北にも多いため、北方の言葉にも通じていた。
 天才肌のロマンは言語の習得数で言えば仲間以上の怪物なのだが、他のメンツも大概であった。

 貧しい出身の者は多いが、会話だけに限るなら世界中を旅して実地で言語を学ぶ冒険者の言語能力は驚異的なものである。

 言葉とは知識を紐解く鍵であり、冒険者はとりわけ生き抜くために智というものを大切にしていた。
 冒険者の格言にこうある。

「雑学は冒険者の飯の種、知恵と知識は命綱」

 基礎を軽んじる者は正しく知ることができない。
 
 ロマンは「頭が良い」と褒められることは嫌いである。
 理由は、軽々しい評価だからだ。
 勉強をして知識があるのか、記憶力がいいのか、理解力があるのか、応用力があるのか。
 何をもって「良い」のか?
 並外れて記憶力に優れ、理解力もあり、応用力も優れてもいる。しかし、ロマンの知識とは学習した努力の結晶であり、読書に時間を割いたことで「憶えた知識」なのだ。
 だからロマンは、「頭が良い」よりも「よく学んでいる」と評価されることを望む。

 大人たちの多くはかような態度を「ひねくれもの」と評価した。
 それでいい、と思う。
 正しくものを見られない者の評価など、塵芥に等しい。
 賢者の智とは、正しくものを見て理解できること。

 尊敬できる師、学ぶことが出来る環境、そして少数の理解者だけあればよい。
 ロマンが誇るのは天賦の才能ではなく、自らの努力によって得た賢さである。

 こうして図書室の少年は、今日もただひたむきに本を読み、学ぶのだった。


 まず最近気づいた突っ込みを。
 賢者の塔が一つの建物である場合、図書館じゃない!?
 図書館は書籍専門の施設として独立したものですよね。
 建物付属の施設なら図書室が正しいです。あ、アレトゥーザ、ちゃんと図書室になってる…昔の表現が、うぎゃ~
 学校の図書館とか、独立した建物でないなら表現おかしいですよね。

 というわけでロマンのエピソード、書下ろしです。

 前はここに当たる部分に龍使いさんのパーティとのクロスがあったのですが、どうもばっさり話の流れが切れてしまうので、そっちはカットしていずれは外伝にでも。さわりは出すかもしれません。

 今回は時代考証みたいなものが大変でした。

 まず羊皮紙の値段。
 中世の羊皮紙の値段が240枚で10シリングという情報がなろうにありました。1シリングの価値は様々な見方があるのですが、私は1シリング=3.6万円説を採用しました。
 銀貨1枚(1SP…SPはスプと読むそうです)が100円ぐらいという公式基準があるので、36万円=3600SPという計算ですね。
 羊皮紙は現代でも高価です。確かフルサイズが1枚9000円ぐらい。
 羊皮紙のフルサイズがA0という基準になってるんだそうです。ちなみにBの方は和紙なんだとか。

 魔術師の杖に関しては「魔道とは長い旅=その旅に添えるのが杖」で、魔術師は求道の人生を長い旅に例えます。これは本物の魔術師(いわゆる正統派の魔法使い)何かもこのような表現を用いてたような。
 我々の世界での魔術では杖、剣、杯、貨幣のスートを象徴に使います。トランプのスートもこれに対応していて、杖はクラブ、剣はスペード、杯はハート、貨幣はダイヤに置き換えられます。
 
 で、濃い人が出てきてましたが、知ってる人はニヤリとしたかも。
 ちなみにヒギンは私が旧リプレイで敵役に作ったキャラです。女嫌い差別侍祭のジョド、長腕のロネ、戦闘狂傭兵のバドゥーリ、仮面用心棒ザハを含めた5人ですね。今回のリプレイではまた別の役割になるかもですが、いずれ登場すると思います。彼らはアレトゥーザの作者であるMartさんにお譲りしました。

 エルネストさんはあるイベントではっちゃけてましたね。
 九条のんさんのイラストをよく見るとモノクルを付けています。
 旧リプレイでは登場の機会が無かったので、今回はしっかり出しました。

 魔術師の作法と教養ですが、これらはY2つ風にアレンジしてはいるものの、師弟関係や学派の名乗りなんかはこの手の師弟関係でよくあったことです。
 教養や礼法って、現代よりも中世の方が細かくうるさかったようで、命が軽い分必死に身に着けていたようですよ。

 言語のことやら冒険者のことやらもちょっぴり。
 冒険者の報酬に関しては報酬の1割が宿に手数料として支払われる、という基準は前々から温めていたものです。中世は今より現金だったかなと思うので。
 ちなみに「雑学は冒険者の飯の種、知恵と知識は命綱」は、サモンナイト2というゲームで登場する冒険者が言っていた言葉をもとにしています。その時は「雑学は冒険者の飯の種」でした。

 久しぶりに知恵熱が出そうなくらいいろいろ考えてみました。作文力が落ちてるなぁと感じつつ。

 アレトゥーザは各所に情報がたくさんあって、調べ物をするのも大切な冒険の過程です。
 図書室にある情報は深い設定が多いので是非読んでみてください。

 次回はラムーナのお話にします。こっちも書下ろしになるので、しばらくお時間を戴きます。


 〈著作情報〉2017年11月24日現在
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。

 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。

 リプレイ環境であるCardWirthPy Rebootは2017年11月1日リリースされたCardWirthPy 2.2 - CWXEditor同梱版に拙作のカードワースダッシュStandard Editionを使ったスキンを作成してプレイしているものです。
 CardWirthPy Rebootは同名の開発サイト
 ( https://bitbucket.org/k4nagatsuki/cardwirthpy-reboot/wiki/Home )で配布されています。
 カードワースダッシュStandard Editionはこのブログのリンクから行ける、Y字の交差路別院にて配布しています。
 エンジンと付属物の著作権・開発状況・その他の情報は各配布元を御参照ください。

 【CW:リプレイ】、【CW:リプレイ、R】、【CW:リプレイ2】、【CWPyDS:リプレイ】等で書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 また私がお預かりしているMartさんの“風を駆る者たち”リプレイの記事を参考にした内容は、それぞれのシナリオそのものの著作権はそれそれの作者さんにあり、参照記事はMartさんに著作権があります。
 御了承下さい。

 リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でVectorで配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。 
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