『冒険者の余暇』 その肆 前編

2006.07.28(23:36)

 『ディエの村』での一騒動の後、一行は別行動を取ることになった。
 
 シグルトはある北方の剣豪に気に入られて、技の伝授をしてもらえることになり、山篭りすることになった。
 
 ラムーナはアレトゥーザで闘舞術を訓練することとなり、ロマンとスピッキオもそれに付き従う。
 
 レベッカはフォーチュン=ベルでシグルトと待ち合わせることになっていた。
 
「ブレッゼンの爺様と近隣の都市の、珍しい酒でもやりながら、待ってるわ」
 
 こうして“風を纏う者”のメンバーはばらばらになって過ごすことになった。
 

 数日後のこと、シグルトはフォーチュン=ベルにやってきた。
 
 真っ直ぐにブレッゼンの工房を目指す。
 
 その途中のこと。
 工房に昇る坂道で、数人の男たちが荷車の側で休んでいる。
 
(…どう見ても堅気の連中じゃないな)
 
 シグルトはその連中を見ただけで、盗賊の類であると見抜く。
 
(ロウリル村でやり放題やってた悪漢どもほど、悪辣な雰囲気はないが…)
 
 シグルトの脳裏に数日前にやりった悪漢たちとの戦いが思い出された。
 
 
 シグルトは山から下る道中で、コボルトの毒矢を受け、生死の境をさまよった。
 その時、助けてもらった村は悪辣な盗賊に搾取を受ける村だった。
 
 命を救ってくれた恩人のため、シグルトはたった一人で盗賊数人を倒し、手練の首領を討ち果たした。
 
 シグルトは着実に剣の腕を上げつつある。
 彼に剣術を教えた北方の戦士は、たった3日で秘剣を習得したシグルトに驚嘆していた。
 
「お前はある意味教え甲斐の無いやつだ。
 
 戦士としては妬ましい才能よ」
 
 そう言って戦士は山篭りしてからわずか4日目にシグルトを開放した。
 予定より一週間も早くシグルトは剣技を習得し戻ってきたのだ。
 
 だが、途中で行った盗賊退治で時間はほぼ予定通りになってしまったわけである。
 
 そんなことを、シグルトが考えていると、坂道の男たちの話し声が聞こえてきた。
 
「ボロイ話だよな~
 
 あの爺さんの魔剣一本で数年は遊んで暮らせるぜ」
 
 それにもう一人の男が、がはは、と笑って頷く。
 
「ようし、野郎ども!
 
 今日はこのお宝を売りさばいて、宴会だぜ!!」
 
 中央の帽子をかぶった金髪…おそらく首領だろう…が腕を突き上げた。
 
 シグルトはすぐに事情を理解する。
 こんな貧相な奴らに、荷車いっぱいの魔法の武具など買えるはずが無い。
 
 シグルトはつかつかと男たちに近づいていった。
 
「…その荷物、お前たちに持っていかせるわけにはいかんな」
 
 開口一番そう言ったシグルトを、男たちが怪訝そうな顔で見る。
 
 そして男の一人が、ひゃぁ!と悲鳴を上げて後ずさった。
 
「シシシ、シグルト!
 
 “風を纏う者”のシグルトだぁ!!」
 
 それを聞いて、何あの爺さんのお気に入りって言うやつか!と丁寧に紹介してくれるもう一人の男。
 
 シグルトの豪腕ぶりはフォーチュン=ベル近郊ではそれなりに知られ始めていた。
 腕っ節の強さと度胸。
 わずか1年で名を売り始めた“風を纏う者”のリーダーにして、凄腕の剣士。
 
 金髪は少し考えた様子だったが、やがて馴れ馴れしい笑みを浮かべてシグルトに近寄ってきた。
 
「あんたがあのシグルトさんか。
 
 や~、ばれたらしかたねぇ。
 どうだい?
 ここは賢く、この荷物の1つで見なかったことに…」
 
 金髪男は全てを言えずにシグルトに殴り飛ばされていた。
 
「悪いな…
 
 俺はあんたたちが盗んだお宝の持ち主とは懇意でな。
 返事は、それだ」
 
 苦笑しつつ、臆することも無く一歩前に出るシグルト。
 
「ボス~
 
 シグルトっていやぁ、冒険者の中でも高潔公正で有名…」
 
 そういうことは早く言え~と、鼻血を押さえて涙目の金髪が怒鳴る。
 
「…くそおぅ。
 
 こちとら、今からこの魔剣スワローナイフのハリー様よ!
 
 野郎ども!
 このかっこつけ兄ちゃん、たたんじまいな!!!」
 
 ざわり、とシグルトの周囲を、強面の男たちが囲む。
 間合いを取りじわじわとその輪を縮めてきた。
 
 そして、呼吸一つ。
 得物を抜き襲い掛かってくる。
 
「ふぅ、最近はこうゆう奴らとつまらん縁があるな」
 
 シグルトは剣を抜くと刀身に風をイメージして、そっとそれを撫でる。
 
「《草原を走る風の友よ…》」
 
 シグルトが歌うように言葉を紡ぐと、その剣に風が絡み包む。
 風を纏ったシグルトは息を吸い込み、風と一体になるイメージで駆けた。
 
 交差する敵たちの攻撃はかすりもしなかった。
 
 ドカバキグャバキンガガガッ!!!
 
 ものすごい音がしてその音に盗賊たちの悲鳴が混じると、周囲の悪漢たちは皆失神していた。
 頭に瘤、眼の上に青痣…
 
「な、なにぃ!」
 
 シグルトが新しく習得した【風疾る利剣】。
 風の精霊に呼びかけてその加護を纏い、一陣の風のように敵軍を薙ぐ剣の技である。
 
「安心しろ…
 
 できるだけ殺さないよう加減するさ」
 
 そう言って苦笑したシグルト。
 
 盗賊たちの悲鳴が坂道に木霊した。
 
 
 ハリーと名乗っていた首領の頭に大きな瘤を作ってやると、盗賊たちはスタコラサッサ、と逃げ出した。
 背中にほのかな哀愁が漂っている。
 
(どこか憎めない奴らだな。
 
 まあ、殺さずに済むならそのほうがいい)
 
 そう一瞬思考し、シグルトは愛剣を鞘におさめると、大きな荷の荷車と上り坂を見て、彼には珍しいつらそうなため息をついた。
 
 
 数時間後、シグルトはブレッゼンのところに逗留していたレベッカのもとを訪れた。
 
 鉱石2つに珍しい酒を持ち込んで工房に来たレベッカは、その酒豪ぶりからブレッゼンに気に入られ、ブレッゼンの妻のサンディとも身の上話をする友人関係になっていた。
 
 シグルトと再開した途端、ブレッゼンは髭を震わせてニヤリと笑った。
 
「久しいな、シグルト。
 
 随分と逞しくなったものよ。
 
 だが、息が上がってるようだな…
 何かあったか?」
 
 ブレッゼンはシグルトと対するとき、子供と再会した父親のような眼をする。
 レベッカがそうからかうと、ブレッゼンは照れもせずにはっきり言った。
 
「そうとも。
 
 シグルトはわしの子供を振るう一心同体の戦士。
 わしにとっては、鍛えるべき子供のようなものだ」
 
 サンディが、ここまで主人が入れ込む人間は最近はいないのよ、と微笑む。
 おまえは黙っておれ、と名匠はそっぽを向いた。
 
「ブレッゼン、実はこれを…」
 
 シグルトは再会を喜ぶと、愛剣を差し出した。
 手入れはされているが、柄の飾りに数回の刃を受けた痕と、何度も研ぎなおして刀身が少し磨り減った【アロンダイト】である。
 
「むぅ…、お前これほど使い込んだのか?」
 
 丁寧に磨かれてなお、消しきれない鋼鉄の歪みや傷。
 手練の技を受けてついた刃の痕。
 それは実戦で何度も使われなければ、そうならない磨耗である。
 
「いろいろあってな。
 
 さすがにこれ以上は拙いと思って、修理を…」
 
 シグルトの言葉にブレッゼンが頷く。
 それはブレッセンが望んだ武具の駆使に相応しい。
 
「剣精が秘める言葉が溢れてくるわ…
 よくもまぁ、ここまで育てたものよ」
 
 名工の今の瞳の輝きは、祭りを前にした子供のようだ。
 
「…また頼む。
 
 ところでブレッゼン、これはあんたのとこの武具だろう?」
 
 唐突にシグルトが外を指差す。
 そこには戸車いっぱいに積まれた魔法の武具だった。
 
「…なんと!」
 
 ブレッゼンが眼を瞬く。
 
「それって、さっき盗難にあったって言ってた武具よね?」
 
 ブレッゼンが頷いて、大切そうにその武具を撫でる。
 
「…全部ある。
 
 間違いない。
 シグルトよ、どこでこれを?」
 
 疲れたように、シグルトは苦笑した。
 
「来る途中で、怪しい連中がいてな。
 
 荷車を見てピンと来て、追っ払っておいた。
 首領風の男が、あんたがいつか自慢していたエルフの短剣を持っていたから、剣で殴りつけてそれも奪い返しておいたよ。
 その時、鉱石と妙な手帳も拾ったんだが…」
 
 シグルトは緑色の美しい鉱石と古びた手帳を取り出した。
 
「ふむ。
 
 まあ、それはお前のものだ。
 その薄汚い手帳は見たことが無い。
 
 わしのところの鉱石は多分、一個ぐらい数え間違うこともあるだろう」
 
 しかし、と言いかけたシグルトにサンディが、その鉱石銀貨千枚で売ってくださいね~と微笑んだ。
 
 その横で手帳を調べていたレベッカは眼を丸くした。
 
「これ、伝説の大盗賊バロの覚書じゃない!
 
 これを知ってる盗賊は、喉から手が出るほど欲しがるすごいものよ!!」
 
 レベッカの話では、これを模した技術書がどこかに一子相伝で伝わっているらしい。
 さまざまな盗賊秘伝の道具を使えるようになるそうである。
 
「む?
 
 そういえば、昔おかしな男が持ち込んだ、いくつかの道具にバロの名を見たことがあるぞ」
 
 サンディがそれを持ってくる。
 
「…レプリカだけど、【バロの眼鏡】だわ。
 
 特別な準備で使える鑑定の道具よ。
 この覚書に使い方が書かれてる」
 
 黙っていたブレッゼンは、やがてにやりと笑った。
 
「ふん、せっかくだ。
 
 その眼鏡、お前にやる。
 サンディの話し相手になってくれたのと、酒の駄賃だ。
 
 もっと鉱石をたくさん持って来れば、金とば別に、うちにある魔法の品をくれてやろう」
 
 そしてブレッゼンは【アロンダイト】を優しくなでる。
 
「…シグルトよ。
 
 もう武具を打ち治すのに金はいらん。
 こやつ、間違いなく魔剣に鍛えてやろう。
 
 ふふふ、久しく無かった腕の疼きよ。
 
 満足のいく仕事が出来そうだ!!」
 
 そう言うが早いか、ブレッゼンは工房に向かってしまった。
 
 せっかちさんね~とサンディが微笑む。
 
「数日は、時間をつぶさなきゃね」
 
 レベッカの言葉に、そうだなとシグルトが頷く。
 そして、何かを考え、レベッカを見つめる。
 
「レベッカは先にアレトゥーザに向かってくれ。
 
 俺はリューンに野暮用が出来たから、それを済ませてから剣を受け取って直接アレトゥーザを目指すよ」
 
 わかったわ、とレベッカが頷く。
 
 その後、シグルトとレベッカは、サンディの作った昼食を御馳走になるとそれぞれ別れて旅立った。
 
 シグルトの用事とは剣技を伝授してくれた戦士の知り合いに、手紙を届けるというものだった。

 
 …しかし、シグルトはその用事を終えたあと、数日間行方が分からなくなってしまった。
 
 4日目に宿に戻ってきたシグルトを見て、親父が目を見開いた。
 
「シグルト!
 
 お前、4日もどこに…」
 
 少しやつれた感じのシグルトである。
 
「何れ話すよ。
 
 それより、リノウやラファーガたちはいるか?」
 
 シグルトの声に、奥にいた3人の冒険者がやってくる。
 
「シグルトさん、心配したんですよ…」
 
 アナベルと言う槍使いの戦士だ。
 仕事を失敗し続けて困窮し、バザーで途方にくれていたのを、ラファーガと言う冒険者と一緒にシグルトがこの宿に誘ったのだ。
 
「無事だったのか。
 
 ほっとしたよ…」
 
 その横でラファーガという魔術師が胸をなでおろしている。
 なかなかの実力の魔術師だ。
 魔術の名門カルバチアの魔道士として修行していたと言う。
 
「お帰りなさい、シグルトさん…」
 
 そう言ったのは、前の一騒動でディエの村から連れ帰ったリノウという女狩人である。
 
 シグルトはそれぞれに頷いた。
 
 彼らはシグルトたちが指導している。
 面倒見のよいシグルトは多くの冒険者にとても慕われていた。
 
 冒険者になってまだ1年たたないが、シグルトは『小さき希望亭』の次期エースともっぱらの噂である。
 シグルトを教育した先輩冒険者たちの期待も大きい。
 
「…実は頼みたいことがあってな。
 
 お前たちに、ある娘の面倒を見て欲しいんだ。
 冒険者として扱い、育ててやってほしい。
 
 もちろん、俺も宿にいる間は面倒を出来るだけ見るつもりだ」
 
 そう言ったシグルトは戸の外に声をかける。
 すると10歳ぐらいの、黒髪の美しい少女が入ってきた。
 
「…シグルト、何の冗談だ?」
 
 宿の親父が眼を見張る。
 子供でしかも女だ。
 常識で考えれば、冒険者にするには冗談としか思えない人物である。
 
「…冗談で済めばよかったんだがな。
 
 彼女はシア。
 あの名医と名高いレイス アテレスの娘だ」
 
 親父が皿を落としそうになる。
 その名医はあまりに有名だった。
 
「事情があって俺が引き取ることにしたが、俺も四六時中一緒にいるわけにはいかん。
 
 彼女たっての願いもあって、冒険者になる理由もある。
 そこでラファーガたちなら、今人数も少なくて仲間が欲しいと言っていたのを思い出してな。
 
 この娘は頭もいいし、特別な力も使える。
 すまないが面倒を見てやってくれないか?」
 
 そういってシグルトは、ここ数日の凄まじい体験をかいつまんで話した。
 
 
 シグルトは悪漢に襲われていたレイス アテレスという、リューンでも最高峰の医者を助けた。
 
 しかし、礼を、というレイスについていったシグルトは騙し討ちにあい、監禁されてしまった。
 そして交換条件で、ある死神を殺すための情報収集をするように、と強制されたのである。
 
 レイスは死霊魔術師であり、家も古くからおぞましい邪法の巣窟だったそうだ。
 
 そして、レイスは自分の娘に取り付いた死神を殺す術を探していた。
 
 いや、取り付いていたというのは語弊がある。
 シアは死神に名づけられた申し子だったのだ。
 
 その死神は、名づけた影響でシアが死神に近づいていくことを恐れていた。
 そしてシグルトと共謀し、レイスを倒したが、その死神も死んでしまったと言う。
 
「俺はイクリプス…その死神にシアを引き取ることを約束した。
 
 その約束を反故にする気はないし、出来うる責任はとるつもりだが、シアは冒険者としての経験がまったく無い。
 よくよく考えたんだが、組むなら、これから大きくなるお前たちと組んだほうが伸びると思ってな。
 
 ただと言うのも困るだろう。
 支度金代わりにこの宝石がある」
 
 シグルトが取り出した宝石に、魔術品に詳しいラファーガが眼を見張った。
 
「す、凄い!
 
 これ、【焔龍の瞳】だ!」
 
 シグルトは皮袋に入った大金を親父に渡す。
 
「この娘の宿代がわりだ。
 
 頼む、親父」
 
 シグルトが真剣な眼で親父を見る。
 
「…シアっていったな?
 
 お前はそれでいいのかい」
 
 さっきから黙ったままの少女に親父が聞く。
 シアは頷いた。
 
「本当はシグルトさんと行くつもりでしたが、私はまだ足手まといです。
 
 ここ数日、シグルトさんには本当に好くしていただきました。
 そのシグルトさんが考えてくださった方法です。

 文句など、あるはずありません」
 
 シグルトが優しくその頭を撫でると、シアは少し頬を赤く染めた。
 
「勝手な頼みだと思うが、お前たちなら将来性も実力も信頼できる。
 それにお前たちには女性が2人もいるから、この娘も過ごしやすいと思ってな。
 
 無理なら言ってくれ。
 強制はできないからな…」
 
 シグルトはそういって頭を下げた。
 
「そんな、頭を上げてくれよ…
 
 シグルトさんが手を尽くして、あんまりきな臭くない仕事を紹介してくれたから、俺たち食いつないできたんだ。
 恩人の頼みを断ることなんて出来ないよ」
 
 そこにアナベルも頷く。
 
「仲間はほしかったです。
 
 シアちゃん、仲良くしようね!」
 
 リノウもまかせてくださいと請け負った。
 
「皆、すまないな。

 シア、頑張れよ。
 仲間とリューンに帰ったら、あいつらを紹介するよ。
 
 お前と同い年ぐらいの奴もいるんだ。
 頭がいいから、きっとお前とは気が合うよ」
 
 シグルトは優しく微笑んだ。
 
 その後、パーティを組んだラファーガたちは話が弾んでいた。
 
 シグルトは安心したように微笑むと、宿を後にしようとした。
 
「あ、待ってくださいシグルトさん!」
 
 アナベルが呼び止める。
 シグルトが振り向くと、アナベルは行く前にちょっと見てほしい、と手に少し長い棒を持って駆けてきた。
 
 アナベルは槍使いの戦士である。
 前に戦いのアドバイスをするという約束をしていた。
 
「…少しだけなら」
 
 アナベルが、ぱぁっと笑顔になる。
 
 この宿でシグルトに稽古をつけてもらえることはめったにない。
 なぜなら、シグルトの後輩の戦士はシグルトに訓練をせがむからだ。
 
 シグルトはものすごい眼をもっており、戦いの欠点を一発で見抜く。
 彼に戦い方を注意された戦士は、軒並み腕を上げているのだ。
 
 アナベルがシグルトの前で簡単な演武をする。
 
 黙ってそれを見ていたシグルトは、1つ頷く。
 
「…前も言ったが、アナベルは迷わずに俊敏さを生かすスタイルがいいだろう。
 
 逆を言うと、力や技巧は二の次。
 得意な部分を磨いて、体重をのせた速い槍を振るえばいい。
 
 槍は剣と同様にバランスがいい武器だが、皆技に欲を出す。
 だが、槍は刺突を最高とする武器だ。
 迷いや欲は速さを奪うし、鋭さを失わせる。
 
 1つ磨いた必殺を持て。
 
 槍は優れた武器だ。
 剣より長く、杖より鋭い。
 
 だが、それが欠点でもある。
 気を抜けば長さが隙に、鋭さは相手に深く刺さって得物を失わせる。
 
 踏み込むときも振るった後も、常に次の一歩と体制の立て直しを考えて、先に先に振るうといい。
 難しいことでも細かいことでもない。
 
 先に、先に突く。
 先に着く。
 先に尽くだ。
 
 ファーストストライク…先手の妙を尽くして戦えば、アナベルは強くなるよ」
 
 そういって、シグルトはアナベルの踏み込みの悪い部分や槍の掴み方の悪い部分を指摘する。
 
 だが、それを横で見ていたラファーガが首をかしげた。
 
「シグルトさん、槍を使ったことがあるのか?」
 
 それにシグルトは少し複雑な気持ちの顔をする。
 
「…昔にな」
 
 そういって、シグルトはいつものように苦笑した。
 
 
 シグルトが去った後である。
 
「失礼、ここにシグルトと言う凄腕の冒険者がいると聞いたのだが?」
 
 それは旅装束の騎士風の男だった。
 親父が確かに、と頷く。
 
「だが残念なことに、アイツは旅立った後だ。
 
 仕事の依頼か?」
 
 親父が聞くと、男は黙って首を横に振った。
 
「昔、同門で槍を習ってた奴にシグルトって名前のがいてな。
 
 もしかしたら、と思って尋ねてきたんだよ」
 
 親父は、それじゃ人違いだな、と笑った。
 
「シグルトは剣術使いだ。
 凄腕ではあるけどな。
 
 ところで、お前さんの知ってるシグルトてのも強かったのか?」
 
 男は、ああ、と頷いた。
 
「“青黒き稲妻”って異名は有名だった。
 
 噂じゃ筋を痛めて、武器は二度と振るえないなんて言われてたそうだがな。
 同門じゃ最強で、敵う奴は一人もいなかった…」
 
 
 旅路を急ぎながら、シグルトは少し痺れる腕を揉み解していた。
 
(…一度は武器を握ることはおろか、指を動かすのも無理だったことを思えば、な。
 
 1年でここまで動くようになったことは、良いと思うべきだろう)
 
 シグルトの腕に巻かれた布の下には、うじゃじゃけた深い傷痕がある。
 その足の踵の上にも、《逃げられないように腱を切られた》痕がある。
 
(熱を出し、生死をさまよった後、俺は磨いてきた技と身体も失った。
 
 だが、俺には今新しい武器が、身体がある。
 ブリュンヒルデ…人間は意外としぶといものだよ)
 
 シグルトが誰にも気付かれてない秘密であった。
 
 しかし、最近の冒険の無茶で、時折痺れが襲う。
 
 仲間たちは気付いていないが、《剣を持ち始めて1年経たずにこれだけ強くなった男》が、その前の長い時で強くならないわけはないのだ。
 
 わずか16歳で達人に迫ろうという高みに達した“青黒き稲妻”という槍使い。
 シグルトが失ったものの1つであった。
 
 そしてシグルトはまた新しく己を磨いている。
 たとえ、身体が欠けたとしても、その信念と鋼鉄のような意志でまた磨くのみ。
 
 今のシグルトは、決して天才と呼ばれた昔の戦士では無い。
 
 ともに鍛えてきたかつての【アロンダイト】のような、元は潰された鉄塊だった。
 
 そして鍛え直された刃に変わったのだ。
 
「…ファーストストライク。
 
 突き、着き、尽くせ。
 どんなに失っても、鋼のように。
 
 それが、俺のできる行き方だ」
 
 シグルトは自分に言い聞かせるように呟いた。

 
 
 またお久しぶりの更新です。
 
 ちょっくらシナリオ作っていまして。
 
 そう、Martさんのリプレイで登場したスキルが出る奴です。
 リプレイキャラをイメージしたスキルとか詰め込んで、9割暗い出来てる感じです。
 バグが山ほどあってへこみましたが…
 
 もうちょっとテストしたら、お目見えできるかも。
 プライベートでこっそり配布すると思います。
 かなり癖のあるスキルがあり、ギルドに登録するのは躊躇ってます。
 何気に付帯能力もありますし。
 
 今回シグルトがそのシナリオのスキルから【風疾る利剣】を習得してます。
 
 
 まあ、宣伝はおいといて…
 
 今回シグルトの過去が明らかになりつつ、2つのソロシナリオをプレイしました。
 SIGさんの『搾取の村』と『硝子月』です。
 今回のリプレイでは、シグルトが連れ込みPCのシアを引き取りました。
 シグルト、実は子供大好き。
 義務感爆発で、本人は養父のつもりでいます。
 8歳しか離れてないんですけどね。
 
 さらっとしか触れませんでしたが、今度外伝みたいにシアとシグルトの出会いや交流とか、盗賊との壮絶なバトルとか紹介できるといいですねぇ…←人事みたい
 
 今回は『魔剣工房』でもいよいよ【アロンダイト】が魔剣になりそうです。
 愛される敵役、ハリーも登場して、コテンパンにやられてました。
 そういうキャラでいいですよね、Djinnさん。
 
 『魔剣工房』は次回でもやりますね。
 
 
 シグルト、6レベルの槍使いだった過去があります。
 
 戦い方は素早さ重視で、準達人の凄腕でした。

 シグルトほどの努力家が、今まで経験無しだったほうが変ですよね?
 
 シグルトはグールデン(過去の文章を参考に)に足の腱を切られ、腕の縄を引きちぎるときに腕の筋を痛め、グールデンを殴り殺した時に拳を痛め、傷が化膿して生死をさまよいました。
 
 宿に来る数ヶ月でリハビリして、ようやく武器を振るえるようになった感じです。
 
 病床でなまりきった身体を鍛えなおし、ようやく今の身体になっています。
 ちなみに腱はある名医に縫ってもらいましたが、その医者の見立てでは普通の生活が出来るようになれば、上等だったんですよ。
 
 シグルトが異様に大人びているのは、戦士として心が成熟しているせいでもあります。
 
 今までのシナリオでのシグルトの内面。
 思うように動かない身体をどう動かすか、なれない剣をどう振るうのか悩んでたと思います。
 
 シグルトがなぜ槍を捨てたかも、そのうちあきらかになります。
 
 ちなみにシグルトの言った「突く、着く、尽くす」はシグルトの槍の師匠が口癖にしていたものです。
 突き進み、目的に到達してなお尽くすことを忘れぬ精進の心を表す、まあ鼓舞の言葉です。
 
 今回細かい情報は出しません。
 次回にまとめて結果報告もします。
 
 では、気長に次回をお待ち下さい。 
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コメント
はじめまして、周摩と申します。
シグルトさんの相棒が魔剣になりますね。シグルトさんと『アロンダイト』の活躍が楽しみです。
シグルトさん、以前は槍使いだったんですか。しかもリハビリ明けとは・・・
それを考えてみると、レストールさんから一本取ったり、グロアさんの剣術を短期間で習得したりと化け物じみてますね。

活躍といえばラムーナさんの闘舞術も気になります。
『連捷の蜂』でもかなりの戦力になってましたからね。

あと、リノウさんやラファーガさんたちもただ連れ込んだだけではなく、ちゃんと出番あるのがいいですね。

こうCWリプレイを読んでいると、自分の中でもリプレイを書きたくなります。
私が人一倍感化され易いのかもしれませんが、それでもとてもすごい事だと思います。
体調に気をつけて、シナリオ作りともに頑張ってください。
次回を楽しみにしています。
【2006/07/29 01:15】 | 周摩 #xomJgpUE | [edit]
どうもはじめまして、一応シナ作者のSIGです。
おぉ!リプレイで自分のシナが使われている~!と、嬉しいですが恥ずかしかったり(笑)
主役の剣技にも使われたりと感激です。

>俊敏剣士
シグルト殿はスピードタイプですか。ウチの剣士連中は何度作ってもトロい奴しかできません。
エースの槍使いが俊敏7と知り驚愕!性格に難ありです・・・。

>魔剣工房
私のお気に入りはシャイ・ナイフです。地味な効果が熟練臭いというか・・・。時無しの盾とかも騎士道君にぴったりです。
でも鉱石が見つからないんですよね。昔のシナリオが多いからでしょうか。約束された勝利は遠し・・・。

>公開シナリオ
より多くの人が楽しめるのでギルド公開もいいと思いますよ。Pabitさんのプラベもここで知りましたし。
『剣の英雄』も楽しみにしてます。

それではリプレイ&シナリオがんばってください!

【2006/07/31 12:10】 | SIG #klq26XPE | [edit]
 どうもお2人様、いらっしゃいませ。
 
>周摩さん
 はじめまして。
 
 シグルト、昔はもう少しだけ能力のバランスがよかったです。
 どんなリハビリをしたのか、どんな名医に治療されたか、紹介できるといいんですが。
 
 グロア師匠から剣を短期で習得できたのは、彼の培ってきた戦闘経験のおかげでしょう。
 天才肌に見えて、シグルトはものすごい努力の人です。
 
 ラムーナはしっかりパワーアップしました。
 闘舞術の連携攻撃が上手く表現できると好いんですが。
 
 連れ込みNPCにはしっかり活躍してもらう予定です。
 特にシアちゃんは度々登場すると思います。
 
 心配してくださって感謝です。
 リプレイは書き方次第で誰にでもできるものです。
 小説風にすると、文才の無い私のような奴は泣きますけどね。
 よかったらチャレンジしてみてください。
 
 
>SIGさん
 こちらでははじめまして。
 感激です~
 
 SIGさんの作品は、公開されたものはほぼプレイさせていただいてます。
 Djinnさんのサイトではレビューなんぞ、させていただいてます。
 SIGさんの濃厚な文章、大ファンです。
 
 シグルトの剣術、【縮影閃】の方、本当は適性の関係で【風王結界】にしたかったのですが、(私某PCゲーム好きです)私の手元のやつでは手に入らないので。
 チーム名の関係からこの手のスキル、ずっと習得しようと考えてました。
 【影走り】の方は、シグルトの18番になりそうです。
 残った高レベルの影の技も習得予定ではあります。
 レベルが遠いですけど。
 『異なる…』の聖剣の鞘も実は狙ってます。
 
 俊敏戦士…実は敏捷度はCWきっての狭き門。
 敏捷度って、地味系や渋い系の武骨戦士ではまず無理です。
 派手でアーパーにすると出来やすいんですけど、何か違うんですよね…
 冷静沈着、楽観的、硬派、無頓着、田舎育ちは鬼門のようです。
 ちなみにシグルトは元俊敏系でして、今は完璧なパワー系になってます。
 筋力11ですし。
 敏捷度は7~9でも性格が伴えばいけますよ。
 性格との合計が9以上なら十分です。
 
 シャイ・ナイフ、私もあれの製作に関わった野郎でして。
 「暗殺キーコードのための短剣どう?」とDjinnさんに話を持ち込ん込んだ記憶がそこはかとなく…
 あれ、高価ですが暗殺のスキルを温存したいとき、何気に便利なんですよね。
 鉱石は、努力に相応しい形で手に入る佐和多里さんの『鉱石集め』などで穴掘りしてみては?
 シグルトたちも後に穴掘り計画する予定です。
 多分「鉱石シナリオ」かシナリオ名で検索するとヒットすると思います。
 ギルドのじゃないですが、出来は秀逸ですよ。
 あとは『錬金工房のフィーネ~alchemist story~』で失敗するとごろごろ手に入ります。
 イメージがコメディで長いので躊躇っているのですが。
 
 実はシナリオに付帯能力とか、攻撃キーコードの無い被害スキルとか、スキル回復をシナリオ中一回使える魔力溜め込みスキルとか、危ういのがあるのでこっそりにしようかと思っています。
 プライベートで公開して、要望が多かったら改良してギルドに出すかもしれませんが、とりあえずこっそりとです。
 
 『剣の英雄』はプロットというか基本ストーリーは出来てたりします。(テキストでけっこうな量があります)
 あとは肉付けしだいですが。
 たぶん、いろんな準備で製作に入るのはかなり先になりそうです。
 絶対作ろうと思っていますけどね。
 
 
 また、是非お訪ね下さい。
 たいしたことは出来ませんが、歓迎いたします。
 頑張りますね~ 
【2006/08/01 15:45】 | Y2つ #TIXpuh1. | [edit]
どうも、旅行で返信遅れました。

リプレイの方ではシグルト殿の過去が明かされてますね。
私とほぼ同年代とは思えないたくましさです。
さらに強くなる上で古傷が大きな壁となりそうですが、
そこのとこも見所ですね。

>『風の鞘!!』
シグルト殿はアロンダイトでランスロット繋がりですので、
かの術の習得は危険な気がします。
いや、獅子王に睨まれそうなので・・・(笑)
あと『鞘』、というか『異端~』がライトノベル的なので、
硬質な雰囲気が崩れてしまうかと・・・。
『異端~』自体が割と非公式扱いです。

>俊敏剣士
すいません。田舎モンが群れてます。

>鉱石
テスト募集なので見逃してましたが、これからやってみます。
あと、フィーネはおもしろかったですよ~。
(鉱石取れた記憶があまりないですが。だいぶ前にクリアしたからでしょう)
永久化は・・・もらったハンマーだけです。

それでは~。
【2006/08/08 00:09】 | SIG #klq26XPE | [edit]
 いらっしゃいませSIGさん。
 
 私は本業事が忙しくてまるで更新が出来てません。
 アイデアを暖めてはいるのですが。
 
 ランスロット、獅子王の奥さん取っちゃいましたからねぇ。
 でも、アーサー王伝説の武具ってすべからく妖精の剣っぽいですし、共通点はありそうだと思ったのですが。
 
 素直にあきらめておきます。
 シアがらみのリプレイはあると思いますが。
 
 鉱石はかなり高めですが、今私が作ってるプライベートシナリオで買えます。
 手が空いたら最終更新して出そうと思いますので、よかったら御利用下さい。
 
 では今日は朝早いので寝ます。
 また来てくださいね~
【2006/08/09 02:12】 | Y2つ #TIXpuh1. | [edit]
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