FC2ブログ

タイトル画像

『街道沿いの洞窟』

2018.04.19(20:19) 442

 今シグルトとレベッカは、仕事を探しながら2人で旅をしている。

 先日まではポートリオンという比較的新しい都市に、アレトゥーザから届け物をするという仕事を行っていたのだ。
 その一仕事の後、「一端リューンに行こう」ということになり、その近くの街道にある村で休息を取ることになった。

 ロマン、ラムーナ、スピッキオはそれぞれの目的のためアレトゥーザに残っていた。

 新しい知識を手に入れたいロマンは、アレトゥーザの賢者の塔で客分扱いとして図書室通いをしていた。優れた写本を執筆できるロマンは、単独であればその能力だけで生活費を確保できる。

 現在舞踏家として修練中のラムーナは、基礎から師についてマンツーマンで指導を受けている。アレトゥーザの海岸で潮干狩りをし、それで飲食代と宿泊代を稼ぎ食料にも充てるそうだ。良質の筋肉を養うのに貝類のタンパク質は理想的な食材である。

 スピッキオは司祭として自分の担当する教会に行き、もう一人の司祭と助祭の教育をしながら聖務に当たっている。冒険者として活動することが多い司祭は、受け持つ教会がある場合には布教伝道を主な活動の理由としておくことが多いのだが、時々本拠地である教会に戻って聖職者としての活動することが義務付けられていた。
 
 現在シグルトたちが逗留している村からリューンまでは、さほど距離が無い。
 馬車を用いれば数時間だろうか。
 標準的な冒険者の足なら、急げは今日中にもつけそうな距離である。
 
 本来、リューンとポートリオンは海路で移動する方が遥かに近い。
 そのためか、この村は普段から閑散としている。
 アレトゥーザへの新しい街道ができてからはより顕著になったという話であった。

 今2人が休んでいるのは、この村で唯一の食堂だ。
 
「ここ5日ばかりで、お金になる仕事がほとんど無かったのは痛いわね。

 いくら交通量が減ったからって、あの関所の関税はぼり過ぎよ!
 商隊に混じってる依頼遂行中の冒険者からも依頼主とは別に人数分出せとか、ふざけてるわ。
 リューンについたら、あのクソ領地の情報流して代官のケツを蹴りだしてやる。
 
 届け物で稼いだお金も、道中商隊に随伴してやるおまけみたいなものだから報酬は安いし…あの関税と路銀で使ってしまったわ。
 ここに来て、手持ちの銀貨がこればかりなのは、ねぇ…」
 
 休息するために使ったお金を引いて、残ったのは銀貨が二百枚ちょっと。
 残りは、いざという時の費用として三百枚ずつアレトゥーザ残留組に預けてある。
 
「泊まらずにリューンに行けば、『小さき希望亭』ならツケが利くわ。
 
 あそこに行けば、私が冒険者になった頃から稼いだお金が少しばかりあることだし。
 いざって時の蓄えで、使いたくはないんだけどね」
 
 井戸水で冷やしたエールを味わいながらつまみの揚げ物を齧り、レベッカが他人事のように言う。
 
「ここまで借金も作らず来れたことの方が、幸いだった。

 依頼主に聞いたんだが、すでに領内から関所抜けの逃亡者が多発して、収集が使いないらしい。
 あの領地は商人や冒険者が来なくなって、すぐに統治ができなくなるだろう。
 領内は八公二民、税を払えない領民の子供を人質に取って、払えなければ檻の中で餓死させるそうだ。

 今の代官は、領主の代替わりで就いた取り巻きらしいからな。
 噂ではすでに反乱の兆しがある。

 新しい領主は前領主の愛妾の子供で傀儡同然、母親が親族に役職を割り振っている典型的な外戚政治だ。
 見る限り、斜陽どころかもう末期だな。
 噂を流す手間をかけずとも、親族の貴族が出てきて領主一族は一掃されるはずだ。

 時にこんなこともあるということだ。
 以後の教訓としておこう。
 
 リューンに戻ったら別の仕事を探すとしよう。
 寝起きする場所さえ確保できれば、俺たちだけでも受けられる依頼があるだろう」
 
 冷えたエールでは、これからの旅で余計疲れると言って、シグルトは温めた葡萄酒一杯と干した果物、塩を一つまみ用意してもらっていた。
 そのドライフルーツに軽く塩をかけ、齧っては少しずつ葡萄酒を飲んでいる。
 
「…美味しいの、それ?」
 
 レベッカの問いに、シグルトは軽く首を横に振った。
 
「決して美味いものじゃないな。
 
 だが、この乾物はこうするとすぐに身になる。
 塩と葡萄酒と一緒に食べれば、疲れ難い。
 
 昔、ある婆さんから習ったんだが、鍛錬でへとへとになる度にこうしたものだ」
 
 レベッカは、試しにシグルトと同じように一齧りして、眉間に皺を作った。
 
「うへ~、なんか渋いわね。
 
 しかも、塩の味で微妙な甘さがくどくなって、もっと不味くなってるじゃない。
 これじゃあ、熱さましに使う薬草の根の方がましだわ。
 
 休んでる時ぐらい、美味しいものにしなさいよ」
 
 顰め顔をしているレベッカに、シグルトは苦笑を返した。
 
「休む、というのは体力を回復することだ。
 
 これからリューンまで帰るわけだからな。
 レベッカはしっかり英気を養うといい。
 
 心を休めるために、美味いものを食うのも理には適っているさ」
 
 シグルトは、率先して一般的に不味い物…骨の多い部分や硬い筋身を食べる。
 筋肉や骨を強くするのだそうだ。
 そのせいか、シグルトの顎や歯の力は強靭で、胡桃を軽々と噛み砕くほど。
 
 武術において顎を鍛えることは、瞬発力を発揮するために必要な鍛錬なのだという。

 塩と葡萄酒はミネラル、果物の乾物はビタミンと果糖を補給するためだ。
 激しい鍛錬をして大量の汗をかくシグルトは、水分が吸収されやすい分量でそれらを適度に摂取し水分を補給する。
 
 戦士の強さを追求していくと、必然何らかの栄養補給法に行きつく。 
 
「あんたって、医者みたいなことを言うわよね?
 
 そういうの、盗賊ギルドでは毒の克服なんかのために習うけど、あんたほど徹底してるのはなかなか無いわ」
 
 レベッカは自分のつまみで口直しをしながらエールを飲む。
 
「戦い方というのは、最終的に自他の構造、自己と対象、地形と扱う器械における運動について理解し、その術理を利用することだ。
 武術において、効率的に力を発揮することを【勁(けい)】と言うんだが…
 
 相手の骨や血肉の配置を知って欠点を突き、自身の骨や血肉を効率的に鍛えて有事に正確に力を発揮する。
 俺の鍛錬法や養生の知識は、昔武芸を学んだ師から習ったものに、知り合いの医者とまじない師の婆さんから聞いた知識を加えたものだが、それなりに効果はある。

 昔師が、おさえの肢はあるが刃が一つしかない枝切り鋏を見せ、『これが分かり易い【勁】だ』と言った時の衝撃を昨日のことのように覚えているよ。

 刃物で物を切る時、対象が固定されているかある程度の重さや抵抗が無いと刃が入らず切れない。

 剣や槍は、素早く振るったり突き出して力を乗せる。それが【溜め】だ。そうできない技だと威力が弱い。
 【溜め】が無い状態で突いたり刺したりして攻撃するには〈挟む〉ことで刃を滑らせれば引き切れる。
 対象を押さえつけて刃を引き、硬い物でも挟み切る…単純な道具にそういう術理が秘められていることを知り、東洋で言うところの〈目から鱗が落ちる〉思いだった。

 その時に、戦いには智慧が必要だと強く感じたんだ。
 技能(スキル)は覚知と合理の深淵に入り、技芸(アーツ)になる。
 知っていればより強くなれることがたくさんあるんだと。
 
 自身の欠点を知らず克服できないうちは、結局どこかで負けてしまう。
 時間をかけてでも要訣を学び、できることをやった奴がより勝てるようになる。

 …少なくともそう考えて実践しろと、師は言っていたな」
 
 あんたの修業時代って興味があるわ、とレベッカが聞くと、シグルトは天を仰いで何かを思い出すように語りだした。
 
「俺は、国でも高名だった武芸者に師事していた。
 戦争の多い北方で、かつては傭兵として腕を磨いた方だ。
 
 師は“槍戟の武仙”と謳われた槍の達人でな。
 仕官せず、森に籠って野草と木の実を食べ露を飲む、隠者のような人だった。
 
 師の鍛錬法は厳格で、兄弟弟子と鼻血が止まらなくなるぐらいに練習用の硬い棒で殴り合って鍛えられる。油断すれば事故で不具や死人も出るぐらいだ。
 弟子入りしたうち九割近くが槍を握れなくなって去るか、耐えきれず逃げてしまったが…そうやって淘汰されて残らなければ本弟子として認めてもらえなかった。
 辛いことや陰惨な思いもしたが、師の言う通りにしていれば、途中からどんどん強くなっていくのが分かったよ。
 
 後は、鍛錬することに夢中になった。
 
 俺の故郷は、尚武の国だ。
 惰弱な男は踏み殺される。
 鍛えて強くなるしかない。
 
 国にいた頃は強くなって、何かをやれる人間になりたかった。
 強く賢くなれば、結果は後から付いてくると信じていた。
 
 世の中それほど単純じゃ、無いのにな…」
 
 シグルトが、槍か竿状武器(ポールウェポン)の扱いに通じていることは、レベッカも気付いていた。
 出会った頃、シグルトは何故か遠い間合いから詰めていく戦い方をしていたからだ。
 今思えば、剣に慣れるまでは無意識に槍の間合いを取ってしまったのだろう。
 
「俺は、一度極めようと志していた道を諦めた。
 技も、ずっと愛用していた得物も。

 だから今は剣を使っているんだ。
 
 …そうだな。
 そのうち話す機会もあるだろう。
 
 長話して、リューンに着く前に、日が暮れてしまってはいけないからな」
 
 饒舌になっていたことに気付いたのか、シグルトは過去を飲み込むかのようにその話を終わらせた。
 
「楽しみは後に取っておくわ。
 
 …行きましょうか」
 
 レベッカは温くなったエールを干すと、主人に礼を言って店を出ようとする。
 
 扉を開けると、そこには一人の女性が困ったような顔をして立っていた。
 所在無げに伸ばされた手は、本来ドアノブがある辺りだ。
 
「…ええと、この店に用事?」
 
 間を取り繕う様にレベッカが言うと、女性は頷いた。
 
「あの、こちらに冒険者の方はいらっしゃいますでしょうか?」
 
 彼女の言葉に、シグルトとレベッカは顔を見合わせた。
 
 
 女性の名はセーナ。
 村の香油屋で働いているという。
 
 セーナの話によると、街道に妖魔らしき者が現れ、被害が出ているという。
 状況を重く見た村長は、村に冒険者が立ち寄ったと聞いて妖魔退治を依頼しようと考えたらしい。
 
「依頼としましては、妖魔の棲家の探索と掃討です。
 私が見届け役として同行致しますので。
 戦いは得意ではありませんが、無理には割り込まないように致しますので護衛は不要です。
 
 報酬は銀貨六百枚用意してあります」
 
 レベッカが大きく息を吐く。
 そして情報を得るため、セーナに質問を始めた。
 
「…なるほど、妖魔の正体も分からないと。
 
 でも、被害が小さいことや人間より矮躯で肌は緑…行動範囲から予測するに、ゴブリン辺りかしら。
 
 依頼内容は〈探索〉と〈掃討〉ね。
 〈護衛〉は不要、ただ見届け役が被害を受けると問題だからフォローはしましょう。
 
 ゴブリンの〈掃討〉だけなら銀貨六百枚で最低線だけど、〈探索〉を含めるならもう少し報酬を増額してほしいわ。
 手間がかかるわけだし。
 飛び込みの仕事だから、それも考慮して、ね。
 
 あと、探索中に見つかった妖魔の持ち物や、盗品の扱いはどうするの?
 それをこっちで自由にしていいと言う条件なら、〈探索〉の方は銀貨四百枚で請負うわ。
 
 〈掃討〉は不確定要素があるから、仮に達成できた時は危険手当込みで銀貨を追加で四百枚。最終的に銀貨八百枚ね。状況次第で撤収して〈探索〉のみの扱いになる可能性もあり。
 追加のお金が用意できなければ、銀貨二百枚に何か価値のある物品でも構わないわよ。
 
 と、もし受けるならこの辺りの条件でお願いしたいんだけど、シグルトはどう思う?」
 
 冷静に報酬を提示し、レベッカがシグルトに話を振った。
 シグルトは地元の人間であるセーナに、詳細な周囲の地形についての情報を引き出しにかかる。
 周囲に敵が潜伏する大きな茂みは無いか、妖魔が潜伏する街道沿いの洞窟の行程に分岐路は無いか、洞窟の中はどの程度暗く蝙蝠などの他の生物が生息していないか…
 
「…正直、俺たち2人でどうにかなる仕事とは思えないな。
 討伐は命懸けの仕事だ。
 俺とレベッカだけでは厳しい。
 
 だが、この街道では冒険者を呼ぶには少なくとも1日以上かかる。羊皮紙代や仲介料も必要になるだろう。
 リューンに行って冒険者の宿や組合に依頼を出し、仕事を受けた冒険者が着く頃には新たな被害が出ないとも言い切れない。
 すでに行商人が荷物を奪われる被害が出ているそうだな?放置もできまい。
 
 俺たち2人で何とかやらなければならないとして、問題はその方法だが…
 話を聞く限りでは、妖魔のねぐらは分かっているし、指揮を執るやっかいな上位種は確認されていない。
 
 棲家だという洞窟の規模からして、経験則と洞窟の規模にゴブリンの生態から予測して、敵数は10匹前後というところか。
 村人と小競り合いがあった時点で、奴らは見張りを立てるだろうから、それを含めての数だな。
 とりあえずは先行で調査、そのまま討伐できそうならばやる流れがよかろう。

 配置されていれば見張りの排除を行い、威力偵察を兼ねた〈探索〉の費用に銀貨四百枚、調査の上で〈掃討〉が不可能な状態であれば冒険者の斡旋も含めて要相談。
 〈掃討〉が難しそうなら声をかけるので、これはセーナ嬢が見届けた上でその後どうするか決定でどうだろうか。

 〈掃討〉まで成功した時はあと銀貨四百枚、これで普通に冒険者にゴブリンの【小集団】を討伐を依頼する基準では銀貨八百枚程度になる。
 用意された銀貨は六百枚ということだから、あと二百枚分は〈掃討〉の達成の上で交渉。

 うん、レベッカの目算で適当だろう」
 
 シグルトは、セーナに目をやるとその答えを待った。
 
「あの、お金の増額は私の権限ではできませんので、成功時に【フォレスアス】という地酒ではどうでしょうか。
 
 リューンやポートリオンでは、珍しくて高く売れるんです。
 報酬の追加はそれで許してくれませんか?
 
 盗品や見つかった品物は、村の物でなければ御自由になさって結構です」
 
 酒、という言葉に、レベッカは目を輝かせた。
 
「問題ないわ。
 
 どうせ、仕事をしなくてはいけないんだし、1日ぐらい行程が遅れてもいいでしょう」
 
 シグルトは危険だからとあまり乗り気ではなかったが、セーナが道案内で同行することに加え、切羽詰った村の状況は問題だと渋々承諾した。
 
 
 依頼遂行は速やかに、ということで、シグルトたちはそのまま妖魔の棲家となっている洞窟に向かう。
 
「私はこれでも癒しの秘蹟が使えるんです。
 
 香油屋というのは、所謂修道院の副業みたいなもので、私は幼い頃修道女見習いだったんですよ」
 
 労働に勤しむ修道院は、薬、油、蝋燭、酒等を作る。
 教会の洗礼で使われる香油や葡萄酒も、修道院で作られていることが普通だ。
 
 こういった小さな村が、修道院と関わる産業を一緒になって行う例は多い。
 人手が足りない場合は、関係者として修道士見習い、修道女見習いの名目で一定期間修道院に入る。
 そのまま修道院に残って正規の修道士や修道女となって修行する者もいるし、還俗してただの村人に戻る場合もある。
 還俗した者の中には、修道院の産業を助けるサポーターのような職業に就く者も少なくなかった。
 
 見習いのうちは、剃髪(トンスラ)や純潔の誓いなどしない場合もあり、あるいは学校の無い村では文字や教養を学ばせるために修道院で一定期間修業させられることもある。
 もちろん、入れたら一生聖職者、という厳しい修道院もあるのだが。
  
 よく見れば、セーナはどこか服装も堅苦しい感じである。
 生真面目についてこようとするのは、修道院で学んだ誠実さ故だろう。
 
「ま、怪我をした時は安心よね」
 
 結局、セーナは出来るだけ後ろから付いてくる、ということで話はついた。
 
 お目付け役に怪我をさせてはいけないと、レベッカは先行して妖魔の気配が無いか探っていた。
 そして、妖魔のものらしき足跡を見つける。
 
「初めての依頼を思い出すわね。
 
 こいつはゴブリンの足跡よ。
 見る限り戦士種やロード、ホブゴブリンみたいなデカイ奴はいないみたい。
 違う足跡や靴跡もないから、妖魔を僕にする妖術使いやダークエルフが裏にいる可能性は低くなったわ。
 
 問題はシャーマン種がいた場合。
 魔法を使ってくるあいつは厄介だわ。
 
 今回はロマンやスピッキオがいないから、慎重に行きましょう」
 
 レベッカの言葉にシグルトはゆっくり首肯すると、いつでも剣を抜けるように柄に手をやった。
 セーナが緊張でごくり、と喉を鳴らす。
 
 やがて、歩いていたレベッカが立ち止まり、さっと掌を開いたままシグルトたちに向けた。
 待て、という意味だ。
 
「…洞窟があって見張りがいるわ。
 
 予想通りゴブリンね。
 ちょっと肌の色が違うけど、変異種かしら?
 体格的には普通のゴブリンよね。
 
 見張りは一匹だけだから、奇襲をしかけるとして、あいつは私が仕留めましょう。
 
 ちょっと待っててね」
 
 シグルトに暗殺の許可をもらうと、レベッカは音も立てず滑るように見張りのゴブリンに接近する。
 ぼんやりとしたそのゴブリンは、レベッカの動きに気付く様子は全く無かった。
 
 その背後でゆらりと立ち上がったレベッカが、ゴブリンの気管ごと喉を切り裂く。
 そして、暴れないようにゴブリンを羽交い絞めにした。
 
 喉から濁った血を溢れさせ、目を見開いたまま、しかし音一つ立てられずゴブリンはやがて痙攣し絶命する。
 
 ゴブリンの遺体を近くの茂みに隠すと、レベッカは近くの森から木の葉や乾いた土を持って来て血痕の上に振り撒く。
 最後に周囲を手早く確認すると軽く息を吐き、シグルトたちに手招きした。
 
「上手くいったわ。
 
 さあ、行きましょう」
 
 レベッカは、腰に下げた袋に何かを詰めながら血の痕を踏み固め、目立った足跡を踵で擦って消している。
 
「…?
 
 何をしているんだ?」
 
 シグルトが首を傾げると、レベッカは親指と人差し指でつまんだ黄色い木の実を見せた。
 
「【森黄(しんおう)】が群生してたから、可能な範囲で集めてたのよ。
 
 これ、ポートリオンで買ってくれる所があってね。
 それなりにお金になるのよ。

 この量なら私たちの旅費ぐらいは捻出できそう。
 結構な臨時収入ってやつね」
 
 【森黄】はこの辺りの森でよく見つかる植物だ。
 葉は特殊な加工すれば毒消しに使えるし、その実は果実酒の材料になる。
 
「…レベッカさんて、抜け目ないんですね」
 
 目の前で行われた虐殺に声を失っていたセーナが、少し呆れたように呟いた。
 
 
 洞窟の入り口にいた見張りのゴブリンは、ただの色違いだったようだ。
 
 この矮躯の妖魔は、知能は人間より幾分低くとも獣よりは賢く、言葉を話し武器や防具も器用に使いこなす。
 統率する存在があって群れれば、小さな村落などはひとたまりもない。

 シグルトが懸念していたのは、回復役がいるとはいえ3人だけでゴブリンに対処することだった。
 広い地形で囲まれれば、少数ではまず対処ができない。

 依頼を受ける時、シグルトは前もってセーナに洞窟の地形を念入りに確認し、依頼を遂行できるかを入念に検討していた。
 さらにくどいぐらいに釘を刺した…「本来2人でこのような討伐依頼を行うことなどありえないのだ」と。
 
「ふむ、このゴブリンは【外れ者】だろう。

 白子や色違いだと、妖魔のような魔物の集団では迫害されて見張りや最前線に立たされることも多い。
 妖魔は典型的な強者優先のヒエラルキーだから、このゴブリンが迫害の対象で見張りに追いやられた最底辺とすれば、コボルトが一緒にいる線はほぼ無いかもしれんな。

 ホブゴブリンやシャーマン、ロード種がいるかはわからんが、1匹の見張りならば群としての規模は小さいかもしれん。
 狡猾なロード種がいれば2匹以上を哨戒に配置するものだ。

 もう一度確認するが、シャーマンやロード種がいる場合は、俺たちだけでは対処できんから撤収する。
 ホブゴブリンなどの亜種がいる場合は要相談。

 これでいいな?」

 見張りを見つけて偵察から戻ってきたレベッカに、シグルトが確認する。

「シャーマン?ロード種?」

 セーナが首をかしげる。

「ゴブリンには知能の高い亜種が存在する。
 魔法を使うシャーマンや、戦闘能力が高く狡猾なロード種がそれだ。
 ホブゴブリンは基本、体格が大きい程度なんだがな。

 他に【チャンピオン】というホブゴブリンの亜種の噂はある。ホブゴブリンと違い勇猛で、オーガ顔負けの怪力と戦闘力があるらしい。
 千匹を超える群を従えるというロード種の変異種、【キング】がいたという話もある。

 ウルフやワイルドボアを従えて騎乗する、【ライダー】という希少種も確認されているらしいな。
 
 洞窟は一本道でそれほど大きくないという情報から、ロード種が率いる3桁超の群はまず生息できないと言える。
 狭いことからホブゴブリンやチャンピオンのような巨体のゴブリンが活動している可能性も低いだろう。
 ライダーが騎乗する動物の足跡も無いから、予測できるのはゴブリンとシャーマン、従僕にコボルトを従えている可能性だ。

 目撃例や足跡、撃破した見張りを見る限りコボルトの線はほぼ消える。他の妖魔の目撃例がないということも〈従僕であるはずのコボルトが外に出てきていない〉という状況だから、いないと断定していいだろう。
 聞き及んだ被害状況に魔法の痕跡もないことから、シャーマンがいる可能性も低そうだな。その手のリーダーがいれば襲撃の指揮をしている可能性が高い。

 そうなれば一番可能性が高いのは、年を経て狡賢くなった【チーフ】(酋長)あたりがいる小規模な群か」

 パーティの作戦担当でもあるシグルトは、敵戦力の分析が得意である。
 冒険の経験があり情報通であるレベッカも聞いたことが無いゴブリンの亜種の名称を口にするあたり、このリーダーがいかに規格外かわかるというものだ。

「そんなネタどこで仕入れるの?

 【チャンピオン】なんて聞いたことないわよ私」

 情報担当としてプライドを刺激されたレベッカは、口をとがらせて尋ねる。

「…妖精学者エルマイヤーの『鬼種』という書物だ。
 妖魔の派生はもともと妖精だった存在が零落するか邪悪な存在の力を受けて変異したもので、妖精と妖魔はその境界が曖昧であるという内容だった。
 彼はレッドキャップやブギーマンなどの邪悪な妖精を例に挙げて、妖精としての神秘性を完全に失った亜人種の一つだとゴブリンを定義していた。

 【チャンピオン】は英雄や覇者を意味し、ゴブリンで最も戦闘力が高い先祖返り、突然変異種らしい。

 歴史的登場はあまりないんだが、鬼の英雄ギーナ・イーの知名度が高い。
 ギーナ・イーは古い童話にも登場し、その力を誇示するために手形を巨岩につけたと言われていて、現在でもそれが残っているんだ。
 その【チャンピオン】はホブゴブリンの二倍の背丈があり、山羊を捻り殺して食らったという。

 ゴブリンに混じって、一緒にオーガがいたという話を聞いたことは無いか?
 【チャンピオン】は外見がオーガによく似ているらしい。
 普通オーガは番や家族でもない限りは単独で行動し、ゴブリンも食料として見るから、一緒に生息することはないそうだ。
 エルマイヤーは希少な目撃例から、【チャンピオン】はオーガとして見間違われる例が多いのだと述べていた。

 エルマイヤーは神話に登場する妖精、アールヴやドヴェルグを研究していた北方出身の学者で、西方諸国にはその書物が無い。
 俺が聞き知っていたのは、父がその手の書物の蒐集をしていて読んだことがあるからだ。

 この間ロマンに話したら、随分興奮していたな」

 シグルトには優れた点がいくつもあるが、特に各地の伝承や神話についての含蓄が飛び抜けている。
 その手の話題を尋ねれば、泉から水が湧き出すように知識を語るのだ。

「エルマイヤーはゴブリンはドワーフやコボルトと同じく大地…とりわけ鉱山や洞窟に関わる妖精から派生したと考えていた。
 妖魔や鉱山に関わる巨人は、ドワーフと同じドヴェルグ…古い神話に登場する始祖の巨人の身を食んだ蛆虫をルーツとするらしい。
 日の光を浴びると石になるというトロールの特徴は、元々はドヴェルグの特性とされていたものだ。それは他の古い伝承にも記録がある。

 ゴブリンが洞窟を好むのは、高山や大地の中といった暗黒に住むドヴェルグ…スヴァルトアールヴ(闇の妖精)だった時の名残。
 そして巨体で凄まじい怪力を誇る【チャンピオン】は、同じルーツから派生したトロールと同じように、食らった始祖の巨人の影響で巨大化したのではないか、と書かれていた。
 ドワーフなどの亜人・妖精と違ってゴブリンに亜種が生まれやすいのも、人間の文明から距離を置き古い密儀と文化を維持してきた野蛮な種族である故に、始祖の巨人の特性が先祖返りとして現れやすいのだとも。

 『鬼種』という書物はオーガやヴァンパイアといった闇の因子を強く継承する存在を、そういった妖精も含めて【鬼】と定義する形で締めくくられていた。
 読み物としてはなかなか面白かったよ」

 話しながらシグルトは自分の左手にさらしを巻き、掌の部分に革の切れ端を仕込んでいる。
 目の前でゴブリンが暗殺されたことで顔を青ざめさせていたセーナは、シグルトの余談を聞いて気がまぎれたのか、幾分顔色が良くなってきていた。

「さて、おしゃべりはこの程度にしておこう。

 セーナ嬢は明かりを頼めるか?無理をせず、危険だと思ったら逃げてほしい。
 俺たちが怪我をした時は、可能な範囲で癒しを行ってくれれば助かる。

 俺が先頭、レベッカは俺の左やや後ろでフォローと罠への用心をしてくれ。予備の明かりも頼む。
 地形を利用して囲まれないようにするから、俺の攻撃範囲に入らないように敵を牽制しながら戦ってくれ。

 この人数なら狭い洞窟内でもそれなりに動けるはずだ」

 迷わず自分が一番危険なポジションを選択する。

 冒険者のリーダーは前衛の戦士であることの方が多い。
 最前線で指揮を執る者の方が尊敬され、人を従えやすいからだ。

 矢面に立って仲間を鼓舞する。
 これはセーナのような武外の戦闘力が低い仲間がいる時に、無理をさせず戦いやすくする方法である。
 

 洞窟に入ると、3匹のゴブリンがいた。
 見張りを隠密裏に撃破したためか、まったく気づいていなかったと見えて恐慌状態となっている。

 シグルトは混乱するゴブリンに、次々と斬り付けていた。
 必死に受けるゴブリンを岩の出っ張りにそのまま叩きつけ、弱らせた後はレベッカに目配せをして無傷の個体に向かって行く。

 レベッカは弱ったゴブリンに止めを刺し、陣形を維持してセーナには指一本触れさせない。

 終わってみれば完全な無傷であった。

 セーナはさらに凄惨な殺傷を見て、再び顔を青くしている。
 人型のものが殺される所を見て、気持ち悪くならないはずがないと、シグルトが励ました。
 
 レベッカは、洞窟に籠る血臭に自身も眉を顰めながら、セーナの意外な気丈さに驚いていた。
 普通は吐いたり、貧血を起こして気絶してしまう女性もいるのだ。
 
「…気付かれた様子もない。
 
 喧嘩でもあったと思ったんだろうな」
 
 シグルトは剣から血糊を拭うと、急ごうと促した。
 
 行く先でまたゴブリン3匹と遭遇したが、シグルトは閉所を利用して一匹ずつ仕留める作戦を用い、血路を開いていく。
 素早いゴブリンが逃げに回っているというのに、シグルトの剣は的確にそれを捕捉し、倒すのだ。
 
 ここに来るまでの戦闘では、掠り傷一つ負っていない。
 
「…流石よね。
 
 この狭い洞窟で、そんな大きな得物を操るんだから、大したもんだわ」
 
 シグルトが今使っている剣は、1世代昔の古さだけは骨董品、と呼べる剣だ。
 柄の長さが、片手剣としては僅かに長く、それ以上に刀身がかなり長く重い獲物である。
 一応は片手半剣(バスタードソード)と呼ばれる類だが、洗練された刀剣とは言い難い。
 イメージとしては、金属の角柱のような、厚い刀身の剣だからだ。
 耐久力は大したものだが、重く無骨で鈍器のようだ。
 
 その剣を、シグルトは巧みに狭い場所で問題なく扱う。
 
 レベッカは、さらしを撒いた手で剣の刃の半ばを握り敵を攻撃する、その独特の戦い方に感心していた。
 
 シグルトはその状態で剣を前に構え、敵の斬撃を受け流しながら、カウンターで鍔元や刃先で斬り込むか、突く、という戦法を使っていた。
 狭い洞窟でこの戦い方は実に効率的で、見たことも無い構えに、敵はペースを乱され見る間に敗れ去る。
 
「普通剣を扱う人間は、怖くて刃を握るなんてできないわよ。
 
 貴方は怖くないの?」
 
 シグルトは、自身の持つ剣の半ばを指差した。
 
「この手の重い剣は引いて斬るか、あるいは叩き付けてかち割るものだ。
 麻や革の手袋、あるいはこうやって切れないように手を防護して、鞘のようにしっかり刀身を包むように握れば、手を切ることは無い。
 
 これは【半剣】という古流剣術の構えで、狭い場合や状況に合わせて技を変える場合には重宝する。
 戦士が実戦で編み出した知恵だな。
 
 甲冑を着た騎士の喉や脇に、刃を正確に突き込むためにも使われていた。
 昔はさらに切れ味の悪い刀剣を用いていたから、頑強な鎧を着た敵を相手にするには工夫が必要だったんだ。
 
 それに、普通は剣の刀身を握る構えなんて予想しないから、次の手を読まれ難い。
 相手がそれなりに剣術に通じているなら逆に対応策を講じられるから、間合いの狭いこの構えは不利になるだろうが。
 
 俺のこれは見様見真似だから専門家のそれには及ばないが、こういう場所ではなかなか役に立つな」
 
 シグルトの武芸に関する知識もまた幅広い。
 
 戦い方も、実戦を踏まえた技が多く、敵を殴ったり投げ飛ばしたりもする。
 剣の鍔や柄頭を迷いなく使う殴打の技は荒っぽい傭兵のようなものもあるが、シグルトが巧みに使うと野蛮さは影を潜め、流麗にすら見える。
 
 正統派剣術を習っている剣士が、シグルトの戦い方は卑怯で野蛮だとなじったことがある。
 シグルトは、苦笑して相手にこう言った。
 
「爪や牙を巧みに使う獣に襲われた時、それを卑怯だと言っても、食い殺されるだけだろう。
 
 自身の文化だの戦い方だのを押しつけて、礼節や美しさをのたまうのは実戦用の剣では無い。
 卑怯、野蛮と決め付けるのは、訓練の時だけにしておいた方が身のためだぞ。
 
 その考えで言うなら、剣に対して槍は卑怯だ、斧は野蛮だというような屁理屈にもなりかねない。
 命を奪い合う戦いで、どうしても〈卑怯な戦い〉をされるのが嫌なら、まずその我侭を通せる程度に強くなるべきだな」
 
 実際シグルトは奇襲や汚いとされる戦い方をされても、卑怯だと貶したことはなかった。
 彼に学び同じような心構えをした他の冒険者の何人かは、おかげで命を拾ったと後に語っている。
 
 レベッカはシグルトの戦士としての心構えも、高く評価していた。
 彼が戦闘の指揮を執るなら、自分たちの生存率が格段に上がるからだ。
 
「その調子で、残りも頑張ってよね」
 
 期待を込めてレベッカが言うと、シグルトは「励むとしよう」と短く返した。
 
 
 その後洞窟を調査し、ゴブリンが行商人から奪った香辛料らしきものを手に入れる。
 大きな袋にぎっしり詰まった黒いそれを見て、レベッカは何を思ったか、随分上機嫌だった。

 さらに奥に進むと、また3匹のゴブリンが出てくる。
 1匹は皺が多く、ゴブリンの言葉で前にいる2匹にがなっていた。

「一番奥の奴が【チーフ】だ。
 【シャーマン】もいない。
 
 油断抜きで、手早く仕留めるぞ」

 シグルトは半剣の構えで、前衛のゴブリンのフェイントを振り切って突進し壁に叩きつける。
 3度目の戦闘で慣れたのか、セーナがそのゴブリンの頭に目を閉じて杖を振り下ろしていた。

 その隙にレベッカが残った前衛の手を浅く切る。
 怯ませて姿勢がやや低くなったところにシグルトが突っ込み、腰を捻るように全身を駆動させて剣の刃をゴブリンの頭蓋に叩きつけた。

 返り血を避けたシグルトは最後のゴブリンに躍りかかると、突き出される錆びた短剣をさらしを巻いた腕で弾いて、鍔元でゴブリンの喉を引っ掛け、壁に押し付けてぐいと持ち上げる。
 自重が首にかかり衝撃の直後に絞められて、【チーフ】は思わず短剣を落としてしまう。
 シグルトは刃を握った側の手を押し、鍔側に体重をかけて両腕を突き出しながら横に滑らせた。

 ごりっ、とゴブリンの頸部が挟み切られる。
 半ばまで咽喉を断ち切られ血泡を吐いたゴブリンは、間も無く絶命した。

「そいつが鋏の【勁】ってやつ?

 えぐいわね~」

 短剣についた血糊を拭いながら、レベッカは倒れたゴブリンが呼吸していないか首を確認する。
 死後の痙攣すら終わっているのを確認して、漸く安心したように息を吐いた。
 ゴブリンは死んだふりもよくやるのだ。

「この狭さでは剣を振り回せんからな。

 重い甲冑を着た戦士を相手取る時にも、首を守る防具ごと捻り潰して倒すために編み出された介者剣術だ。
 背の低い相手ならこんな感じで吊るして、先に脛骨を外してしまえばすぐに意識を奪う。

 不潔な爪で引っ掻かれると傷が悪い風に罹るから、早めに沈めたかったんだ」
 
 3人とも迅速な奇襲によって始終優位に戦いを進め、かすり傷すら負っていない。
 掃討の依頼は見事に達成したと言える。
 
 用心のため洞窟のさらに奥を調べていくと、レベッカが洞窟の最奥に隠し扉らしきものを見つけた。
 
 扉の奥には、岩塩らしき鉱脈のある狭い道が続き、そして人の暮らしていたような形跡があった。

「あ~これはダメだわ。
 不純物が多すぎ。
 一回水に溶かして精製するとかしないと使い物にならないわ。

 良い塩なら交易商人に売りつけられるんだけどね」

 岩塩の欠片をこそぎ取って鑑定していたレベッカが、残念そうに言った。

「この量なら、食料品以外の保存であれば大量に使える。
 冬場凍結箇所に撒けば転倒防止にはなるな。鉄が腐るからやり過ぎはお勧めできんが。
 質が悪い塩は色のある物で工芸品を作って売る、なんて方法もある。

 俺たち冒険者には意味の無いものだが、上手く使えば村興しには使えるかもしれん」

 使えない塩について話しながら先に続く階段を見つけ、一行は慎重に進む。
 
「うわぁ…」
 
 階段を降りた後、その先にあった部屋に灯っていた明かりを見て、セーナが驚きの声を上げた。
 
「これは…魔法の光か?
 
 ここは魔法使いの隠居所だったのかも知れないな」
 
 そう言ってシグルトも、物珍しそうに周囲を見回す。
 光を魔力として取り込み半永久的に稼働する仕組みのようだ。

 魔法の明かりは固定型で取り外すことはできない、とまたレベッカが残念がっていた。
 
「…おっ?
 
 これって魔法の杖かしら。
 お宝発見ね」
 
 諦めず探索を続けていたレベッカが、三日月を模った小さな杖を見つけ、さっそく鑑定を始めた。
 
「これは、かなりの貴重品だわ。 
 魔術師垂涎の品って言われてる、【賢者の杖】と同種の魔法の品ね。
 
 でも、ピンク色…少女趣味なデザインがちょっと頂けないわ。
 ロマンなら、半泣きになって嫌がるでしょうね。
 この間、宿の娘さんに女装させられそうになって、逃げ回ってたもの。
 
 売ってもそれなりに高価でしょうけど、欲しい冒険者に格安で譲って、恩を売るのもいいかも知れないわね」
 
 レベッカは大切そうにファンシーな杖を布に包むと、荷物袋にそっと入れた。
 
 
 帰ることを促すセーナに「隠れたゴブリンが残っていれば厄介だ」と洞窟の隅々まで調査し、何も危険が残っていないことを確認した一行は、日暮れ前に依頼を受けた食堂に戻った。
 
 洞窟で手に入った香辛料の話をすると、店の店主が是非買い取りたいと申し出たが、店主の提示した価格にレベッカは「論外ね」と言って、さっさと香辛料を仕舞い込んでしまった。
 事前に依頼があるのでもない限り奪われた商人に返す、という選択肢はもうない。
 冒険者のルールで、盗賊やモンスターが持っていた品物は、一度冒険者の手に渡れば適正価格で買い戻すのが暗黙の取り決めなのだ。
 こうしないと、持ち主を名乗る人物が複数現れ、所有権を主張して諍いが起きる可能性がある。
 
 仕事の一部始終を見ていたセーナは、シグルトとレベッカの手際を称え、報酬の銀貨六百枚と約束の【フォレスアス】という酒を渡してくれる。
 懐の膨らみに頬を緩めながら、レベッカは何かを考えているようだった。
 
 その日は村長の取り計らいで村に一泊し、次の日シグルトとレベッカは旅立つのだった。


 Moonlitさんのシナリオ『街道沿いの洞窟』のリプレイ再録です。
 制作からかなりの年月が経っているのですが、相次いでサイトが閉鎖DL不可能になるシナリオが増える中、再DLできてほっとしました。

 ギルドにも登録されているポートリオンのクロスオーバーシナリオで、総報酬が大きく初期の冒険者にはありがたいシナリオです。正統派の探索+討伐もので、回復が使えるNPCがいるため、駆け出し冒険者6人スキル無しでも普通に特攻して勝てます。
 
 見張りを暗殺すれば、後は一方的に攻められるので、レベル1~2が2人だけでも戦力十分。
 本来の討伐ものはもっと厳しいのですが、人数減らしてちょうどよい感じになりました。
 別のシナリオで仲間にしたNPCを連れてくると別の獲得品があるのですが、彼は結構強いので過剰戦力かなということで登場させませんでした。
 
 シグルトの使った剣術【半剣】は漫画で見て出したネタですが、ドイツ系の古流剣術にあるらしいです。
 実際にこのような使い方をする場合もありますから、理にかなった技術ですね。

 鍔を使って首を絞めたり、斬らずに殴ったりするのは戦場では割と当たり前です。
 シグルトがやった鋏の勁、実は日本刀ではお勧めしません。こういう無茶な使い方するとたぶん歪んで鞘に入らなくなるかも。
 硬質で分厚い西洋剣だからこそできる技ですね。

 実は日本刀で西洋の幅広剣を受けるのもお勧めしません。日本刀は同タイプの刀剣や槍を受け流すのが精一杯です。受けるなら頑丈な鍔を使うべきですね。

 前に動画で日本刀を固定して西洋剣でぶった斬るものを見たことがあるのですが、日本刀は受けた時のしなりもまた特性なので固定するとよい部分が無くなってしまうんです。
 西洋の剣の方が強い、と安易に考えてほしくないところです。第一、高価な日本刀はそんなことに使っちゃいけません。

 器械と武芸の術理は深遠で、武術とは常識的な力学にこだわるほど習得が困難になります。
 シグルトが紹介した鋏の勁ですが、鋏って力学の塊なんですね。はさんで切る、というのは両側から力を入れて切断力を高めているわけです。めり込んで抑える力でさらに威力アップ!

 0距離で打つ、あるいは斬るという寸勁のような技は力学の裏技からできるようになるものだと私は思います。

 中国拳法なんかには「擦る」とか「押す」技もちゃんとあって、【勁】は気功の技ではありません。
 私は「効率的に力を発揮すること」を勁という言葉にさせていただきました。
 気やオーラのようなファンタジーパワーは、リアルではもっと別物では無いかなと思います。
 本来【氣】というのは電気や大気のように見えない力の流れを表す言葉にも使われていますし。
 落ちてくる葉っぱをスパッと切る技は、単純な切れ味に空気抵抗や葉っぱのわずかな重さも利用してるんじゃないかなと。

 とまれ、シグルトがファンタジーパワーではなく術理から武芸を磨いている、という描写をさせていただきました。
 それにファンタジーパワーや精霊術の別次元ベクトルが入ったら、ある意味チートですよね。 
 
 シグルトの伝承マニアな一面と、より戦術巧者な一面を表現してみました。
 彼が伝承に通じているのは、実は言語能力の高さに関係しています。

 シグルトは言語を覚えるテキストに、難しく古い表現を使った文献を使っていました。
 現在のラテン語でカエサルのガリア戦記が使われるように、語学は生の表現がある実際の文献を読んだ方がためになるのです。
 知りたいという興味から身につき、マイナーで堅苦しい文法や俗の表現もあったりするからです。

 シグルトの母親は詩歌や戯曲の専門家で、特に発音的発達を幼少のころのシグルトに養わせていました。
 養ったヒアリング能力の高さも加わり、詞の習得を助けています。

 詩の暗唱はシグルトの記憶力を養う根本であり、多様な言葉をたくさん知っていることで連想的な記憶力をさらに高めています。
 シグルトが博学で物知りなのは、言語力を高めるためにたくさんの伝承から習得した生活の知恵を、応用として他の背俺に出逢った時に理解してさらに覚えるという、習得力の高さからなっています。
 賢い人間て、直感的な習得が上手ですよね。
 
 今回戦闘面でかなり泥臭い戦い方をしました。
 ゲームでの戦闘表現って、投げ飛ばしたり押さえつけたりはあんまり無いんですよね。
 リアルなバトルって、取っ組み合いも多いような気がします。

 シグルト、戦い方にはとてもシビアな考え方をしています。
 どんな手を使われても、負けたのならば自身が弱いのだ、と考えるのです。
 冒険者の戦いはスポーツではありません。
 でも、シグルトは甘くても美学もまた大切と考えています。
 
「…まずその我侭を通せる程度に強くなるべきだな」
 
 というのは、シグルト自身が自分にも科している考えです。
 負けた言い訳をしないのって、格好いい武人には必要ですよね。

 対照的にゴブリンは卑怯卑劣の代表です。
 チャンピオンに関しては最近熱い『ゴブリンスレイヤー』を参考にさせていただきました。
 ロードという亜種もいるので、ホブゴブリンに亜種がいるならチャンピオンだろう、という感じです。
 一回チャンピオンと冒険者の死闘も見てみたい気はしますね。
 アニメ化、期待しています。 
 
 今回お金と一緒に結構なアイテムを得たわけですが、これらは同じ作者さんのシナリオ、『新港都市ポートリオン』で換金しようと思っています。
 では収入報告を。
 
・所持資金分割
 300SP×3を外し
 所持資金 217SP
 
・収入
 報酬+600SP 

・獲得アイテム
 【森黄×10】×2、【フォレスアス】×1、
 【くろこしょう】×1、【三日月の杖】×1
 
◇現在の所持金 817SP◇(チ~ン♪)
 
 
◆レベルアップ
 シグルト レベル1→レベル2
 
 
〈著作情報〉2018年04月19日現在
 リプレイ環境であるCardWirthPy Rebootは2018年2月1日リリースされたCardWirthPy 2.3 - CWXEditor同梱版に拙作のカードワースダッシュStandard Editionを使ったスキンを作成してプレイしているものです。
 今リプレイ収録に際し、新しいバージョンが公開されていたので、アップデートしました。
 CardWirthPy Rebootは同名の開発サイト
 ( https://bitbucket.org/k4nagatsuki/cardwirthpy-reboot/wiki/Home )で配布されています。
 カードワースダッシュStandard Editionはこのブログのリンクから行ける、Y字の交差路別院にて配布しています。
 エンジンと付属物の著作権・開発状況・その他の情報は各配布元を御参照ください。

 【CW:リプレイ】、【CW:リプレイ、R】、【CW:リプレイ2】、【CWPyDS:リプレイ】等で書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 また私がお預かりしているMartさんの“風を駆る者たち”リプレイの記事を参考にした内容は、それぞれのシナリオそのものの著作権はそれそれの作者さんにあり、参照記事はMartさんに著作権があります。
 御了承下さい。

 リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。

 『街道沿いの洞窟』はMoonlitさんのシナリオです。現時点でMoonlitさんのサイト『- Moonlit / Color -』( http://www5f.biglobe.ne.jp/~moonlit_color/ )で配布されています。
 ギルドにも登録されています。
 シナリオの著作権は、Moonlitさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.01です。
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。 
スポンサーサイト

Y字の交差路


<<『聖なる遺産』 | ホームへ | 『碧海の都アレトゥーザ』 デオタトの依頼>>
コメント
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://aradia.blog69.fc2.com/tb.php/442-45d3e08b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)