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『魂の色』

2018.05.17(19:36) 445

 男は動けずに倒れていた。
 
 眼前には、薄気味悪い黒衣の女。
 唇とそれを舐める舌だけが、やけに紅い。
 
 近寄ってくる女は、艶めかしく、そしてとてつもなく恐ろしかった。
 だが、絶望した男にとって、もうどうでもよいことだった。
 
 妹同様だった少女は、暴行を受けて自殺した。
 親友は、全身を切り刻まれて死んだ。
 父は、男の身代わりに復讐されて殺された。
 母と妹は、父の死を嘆き修道院に入った。
 最愛の女性は、男の元を去った。
 
 今残っているのは、痩せ衰えてまともに立つことも出来ない身体が一つ。
 
「うふふっ、美味しそうね。
 
 神々が見いだし、鍛えられた鋼のような魂が、絶望に曇るその姿。
 それでも世を憎まない、貴方の気高さ。
 美しい存在が、堕ちて地に伏すこの不条理。
 
 ああ…唾を飲み、熟すのを待った甲斐があったわ」
 
 歪に女は笑う。
 その手にはどす黒い、血に濡れたような色艶の凶悪な大鎌。
 
「でも、もう少し調味料を加えましょう。
 
 …知っていた?
 
 貴方の影を囓って貶めたのは、この私。
 あの矮小な男の欲望を強め、そそのかしたのはこの私。
 復讐を耳元で囁き、貴方の父を殺させたのもこの私。
 王の嫉妬を駆り立て、貴方の庇護者たる姫君を幽閉させたのもこの私。
 
 うふふ、今目を見開いたわね?

 何て、何て綺麗。 
 高潔なその魂が、驚きと憎しみに黒くなるその瞬間。
 
 …私が憎いでしょう?
 貴方から全てを奪う、この私が。
 
 だって、私は“貪り”。
 貪欲の化身たる、死神ですもの。
 
 神と精霊に祝福された貴方から、奪い尽くすのは楽しかったわ。
 人々に愛される美しい貴方を、穢すのは心地好かったわ。
 
 選ばれた希少な存在を握り潰す、この背徳。
 ああ、たまらない…」
 
 歓喜に身を震わせ、女は地を滑るように近づいて来る。
 
「もっと私を憎んで、その魂を昂ぶらせて。
 
 貴方は綺麗なのに、今は滑稽で何て無様。
 
 この理不尽に嘆きながら、私に食べられてね。
 足掻いて貰わなければ、躍り食いにならないもの。
 喉の奥で、貴方の抗いを感じるのが楽しみだわ。
 
 …うふふ、その絶望と苦しみは終わらないのよ。
 私に食べられて、永遠になるの。
 
 貴方は私の中で、絶望にのたうちまわりながら、嘆き続ける。
 狂ったまま、美しい声で叫ぶのでしょう。
 
 囓った貴方の影は、希望に満ちていて青臭かったわ。
 甘い絶望に熟した今度は、残さずに食べてあげる。
 
 あら、泣いているの?
 
 とっても、素敵…悔しいのね?
 貴方、本当に美味しそうだわ」
 
 女は男の顎をつまみ、ぐいと上向かせる。
 真っ赤な長い舌で、また舌なめずりし、歯を剥いて嘲笑った。
 
 男は怒りに狂いそうになりながら、女を掴んで殴ろうとした。
 そして空しく空を掴む。
 よろよろと振るった拳が、女の顔に触れそうになって、すり抜けた。
 
 それを見た女はことさら楽しそうに、耳障りな声で甲高く嗤う。
 
 何も出来ない歯痒さに、男は地に伏し、大声で泣いた。


「…ょ、勇者よ、起きて下さい!」

 呼び声によってもたらされた唐突な覚醒に、シグルトは目を瞬いた。

 眼前には白銀に輝く甲冑姿の、見目麗しい女騎士が立っている。
 羽根飾りのついた面の無い兜、籠手と履いた鉄靴には精緻な模様が描かれ、纏った純白の外套が揺らぐ度に全身が七色の光を放っていた。

「―――お前は…死神か?」

 問うたシグルトに、その女は白銀の兜を脱ぐと、雪のような白髪を払って一礼した。

「さすがは、神々と精霊に祝福されし英傑殿。
 目前の神秘に畏れぬ豪胆は誉とするべきでしょう。

 ですが単純に〈死神か〉と問われれば、否とお答え致します。

 わたくしの名はスナーフヴィート。
 死者の魂を選定する乙女たち、ヴァルキュリユルの一柱です。

 勇者様はまだ死んではおりません。
 輝かしいその魂をヴァルハラにお連れできるのであれば何よりですが、気高いあなた様はそれを良しとはなされないでしょう」

 甲冑女の慇懃な喋り方に、シグルトが渋い茶を一気飲みでもしたように眉を顰める。
 スナーフヴィートは嫣然と微笑んで「お気に障りましたらお許しください」と再度頭を下げた。

「では、この状況は一体どういうことなのだ?」

 シグルトが聞き返すと、スナーフヴィートは芝居がかった態度で指を一本突き出した。

「現在勇者様は、所謂仮死状態…あの世とこの世の狭間にいらっしゃる状態です。
 本当は、適当な方を探し、椅子でも引き抜いてこの状態にしようと思っていたのですが、勇者様は寝た状態からここに入り込んだ御様子。
 手間が省けました。

 勇者様は途方も無く〈死〉に近いのです。

 今は野宿のために入った廃屋の中で、死んだように眠っています」

 ヴァルキュリア…戦乙女がその艶めかしい薔薇色の唇から、現状を語る。
 
「ならば、この闇の世界はあの世とこの世の狭間…〈幽世(かくりよ)〉か?」
 
 戦乙女が頷いた。
 
 〈幽世〉とは、異界と現実世界の混じり合う境だという。
 狭くは〈妖精界〉や〈隠れ里〉とも呼ばれ、そこは時も死も混沌とした場所である。
 死者の魂が彷徨い、神霊が住処とする、現実の世界と少しずれた場所。
 
 精霊や神霊は〈幽世〉に住み、〈幽世〉の存在だからこそ、普通には触れられず、見ることが出来ない。
 精霊を召喚する術法は、〈幽世〉に干渉する手段を用いて、現世にその力を顕現、召喚するのだ。
 
 死者もまた、己の信じる世界、あるいはその者を求める力に引き寄せられ、〈幽世〉を通って死後の世界に逝くという。
 〈幽世〉から漏れ出した彷徨える死者は、不死者(アンデッド)である。
 そして、現実世界と冥界との狭間である〈幽世〉を彷徨う霊魂は、幽霊(ゴースト)と呼ばれる。
 
 唯一神の世界から〈幽世〉を通って現れた御使いは、聖霊にして使徒。
 堕ちた奈落から〈幽世〉を通って這いずり出でたのは、悪霊にして悪魔。
 魔に淀んだ場所からは、〈幽世〉を通って魔神や鬼の類が現れるという。
 
 そこは夢想と、現実が混じり合った狭間の世界。
 あり得ないものがあり、あり得ないことが起きる神秘と現実の緩衝地帯。 
 
 シグルトは、昔学んだ老婆から、そう教えられていた。 
 
 
「実は、わたくしの仕事を手伝って戴きたいのです…」
 
 この丁寧な口調の戦乙女がシグルトに干渉してきたのは、彼女では解決できない問題を抱えていたからである。
 自分が死んだわけではない、と知ったシグルトは少し安堵した表情になる。
 そして、まずは話を聞こう、と切り出した。
 
 急ぐから、という戦乙女は移動しながら話すというので、シグルトは彼と一緒に空を飛ぶこととなった。
  
 千里の道を一晩で駆ける、という飛翔術だった。
 急に目の前が開け、先ほどの闇とは打って変わった景色を見下ろす形となる。
 眼前に見下ろす山や森を、瞬く間に飛び越す感触に驚きながら、シグルトと戦乙女は簡単に互いの自己紹介を済ませた。
 
「…わたくしは生前人間でした。
 
 〈戦乙女〉になる者は、生前とは違う名を名乗ります。
 スナーフヴィートはこの姿から先達がつけて下さった名。

 ただ、長くて呼び難いのでしたら…わたくしたちヴァルキュリユルがとる仮の姿の一つ…スヴァン(白鳥)とでもお呼びください。

 多忙な他のヴァルキュリユルに遭遇することも無いでしょうから」
 
 シグルトは、ふむと頷くと、自分も名を名乗った。
 
「…さっきからどうにも不可思議な気分です。
 
 勇者様…シグルト様は、驚きも恐れもしませんが、わたくしたちのことを御存じなのですか?」
 
 戦乙女の問いに、シグルトは「多少な…」と苦笑した。
 
「昔、死神に命を狙われたことがある。
 お前ほど御丁寧ではなかったが、そいつは邪悪だった。
 
 “貪り”と名乗っていたが…」
 
 戦乙女の持っていた兜がぽろりと落ちた。
 大口を開いて、驚いたらしい。
 
「…あまりにとんでもない名をお出しになるから、驚いて兜を落としてしまったではありませんかっ!」
 
 落ちた兜を拾いながら、戦乙女がぶるりと身を震わせた。
 
「“貪り”を知っているのか?」
 
 シグルトが問うと、戦乙女は、ぶんぶんと頷いた。
 
「…名付きの〈死神〉は、大抵大物です。
 なりたての死神はただ【死】と呼ばれるか、番号や記号で呼ばれています。

 私たちヴァルキュリユルが戦場や戦死者…冒険者などの戦う者たち専門の死神のようなものだとすれば、彼らは寿命や事故によって亡くなる人間の刈り手。
 
 中でも七つの大罪の一つ、〈暴食(フレッセライ)〉…“大食らい”あるいは“貪り”って呼ばれてる女の死神は、生まれた時からの生粋の死の神。
 わたくしたちのような、元人間とは次元が違います。
 冥府の神であるプルートーなどに迫る、恐るべき者たち。
 死をもたらす神…古龍や上位精霊と肩を並べるような存在です。
 
 “貪り”は、英雄や聖人の素質のある者に過剰な試練を与えて成長を促し、最後には破滅させて、その魂を食らう邪神の類。
 狂って普通ではなくなった死神の、中でも一番逸脱した者の一柱。
 姿を見られた人間は、魂を食われる…
 有名な英雄や聖人を殺すのに、人間に名前が知られてないのは、この死神に遭遇して生きてた人間が少ないからなのですよ。
 
 勇者様、よく生き延びましたね…今は仮死状態の御様子ですが」
 
 驚かないわけだ、と感心する戦乙女。
 
「俺も食われかけていたんだがな。
 灰色の髪の男が現れて、その死神を殺したおかげで助かった。
 
 “貪り”がその男を見て、随分狼狽していた。
 “神狩りの灰”と呼んでいたが、死神にも死神がいるのか?」
 
 戦乙女が、再び兜を落とした。
 
「―――あっ、羽根飾りが!
 
 …もう、なんて名前を出すんですか!
  
 勇者様はとんでもない存在に関わり過ぎです!
 “神狩りの灰”といえば、邪神や魔神のような、手の付けようの無い理不尽を振り撒く悪神を専門に殺す〈神殺し〉ではないですかっ!
 
 ぶるり…道を誤り、摂理から外れて殺戮をする〈神〉は、因果律すら両断する、あの〈神殺し〉に狩られるという話です。
 わたくしは摂理に従って亡くなった勇者様をヴァルハラに導く、極まっとうな戦乙女。
 
 存在まで消し去る〈神殺し〉に殺し尽くされるなんで、考えただけで恐ろしい。
 …彼、ここにひょっこり現れたりしませんよね?」
 
 怯える戦乙女…完全に本来の構図が逆転している。
 
「―――“神狩りの灰”は、精霊や神と名の付く輩にとって忌み名なのです。
 
 暴風のように現れて、自分の主観だけで判断して神や精霊、悪魔を殺し尽くす。
 そのためには何が犠牲になろうと構わない…という。
 
 “神狩りの灰”が都市一つを囮にして、満腹した邪神を不意討ちで殺した話もあります。
 
 勇者様、あのような存在と関わってよく、平気な顔してられますね…」
 
 恐怖に震え甲冑を鳴らす戦乙女に、シグルトは少し昔を思い出した。
 脳裏に、燻るような色あせた記憶が次々と呼び起こされる。
  
 かつてシグルトは、国の次世代を背負うと期待された若者だった。
 
 王国一の剣豪と呼ばれた騎士を父に。
 絶世の美女と謳われた、王家縁の名門貴族に生まれた女性を母に持つ。
 
 数多くの専門家から学ぶ機会を得、力も心も技も備えていたシグルトの未来は、輝いたものになるはずだった。
 
 だがシグルトの生は、恐ろしい〈死神〉によって歪められてしまった。
 シグルトは、“貪り”の暗躍によって破滅寸前まで追い詰められたのだ。
 
 神々に祝福されたシグルトは、常人に無い魂の持ち主だった。
 その魂を欲した“貪り”は、最も彼女が好む破滅して絶望した魂に、シグルトを堕として食らおうとした。
  
 “貪り”は、ただシグルトの魂を破滅させることを純粋に楽しんでいた。
 
 あれほど歪み邪な存在を、シグルトは後にも先にも見たことが無い。
 剛胆と言われるシグルトだが、斯様な理不尽に出遭えば、他にある大概のことは恐ろしくなくなるものだ。
 
 自分を見下ろして舌なめずりをしていた黒衣の女を思い出し、シグルトもぶるりと肩を震わせた。
 
 次々に自分の大切にしていた世界が壊れ、毟り取られていく喪失感。
 最初は、ただ自身が至らないのだと唇を噛みしめていた。
 降りかかる不幸は、運命なのだと。
 
 自身の不甲斐無さを恥じ、嘆くしか出来なかった。
 無力感に打ちのめされ、惨めに涙を流した。
 
 シグルトの不幸は仕組まれていた。
 おぞましい、女の死神によって。
 
 自慢げに、いかにしてシグルトから幸せを奪ったか、とうとうと話す“貪り”。
 シグルトに悪意を持つ貴族をそそのかし、支援者の妨害を行って、友人の兄妹が破滅するよう仕組んでシグルトを誘き出した、と。

 全てを奪われた憎しみから、シグルトは“貪り”に殴りかかった。
 
 肉体もぼろぼろだったが、それでもシグルトは狂ったように拳を振るい…そしてかすることも出来なかった。
 超常の存在であるその死に神には、人が触れることなど出来なかったのだ。
 
 自身の無力さに、シグルトは恥も外聞もなく泣き叫んだ。
 
 あの時感じた、地獄の底を覗いたような絶望。
 
 シグルトが今の若さで老人のように泰然としていられる理由は、“貪り”に与えられた恐怖と憤怒があまりに強かったためだ。
 人間は、どうしようもない理不尽に心を裂かれ、立ち直ることができた時にはとてつもない心の強さを得る。
 その奥底に、深い闇を抱えることにもなるのだが。
 
 過去という逃げられない鎖に縛られ、後悔という古傷の痛みに心の中で難度も慟哭し、それでも今生きいる。
 もう一つの理不尽を見たからだ。
 
 シグルトが絶望に嘆いていた時、彼は現れた。

 灰色の髪に、酷薄な表情。
 全ての理不尽を憎み、それを壊す歓喜に壮絶な笑みを浮かべていたその男。
 
 男は、狼狽する“貪り”をあまりにあっけなくその剣で切り裂いた。
 
 シグルトが為す術もなかった相手を容易く殺した男は、シグルトを見下ろし冷笑した。
 
〝…まだ生きていやがるのか?
 
 死にかけの人間なんぞに関わる気はねぇんだが…
 お前は、あの大物を誘き出すための好い囮になってくれたからな。
 
 死にたいなら、言え。
 ついでに殺してやるぞ…〟
 
 シグルトはその言葉を聞いて、狂ったように殴りかかった。
 ただ目の前にある理不尽な存在が全て憎かった。
 この男には、復讐するべき相手すら奪われてしまったからだ。
 
 男は手足の不調でよろめきながら振るわれた拳を、避けもせず顔に受けると、邪魔な虫でも払うかのようにシグルトを殴り飛ばした。
 口の端から血を流し、吹き飛ばされる感覚。
 意識がぐらり、と反転しかかる。
 
 地に倒れ鼻血に咽せて咳き込むシグルトに、男は冷たい声で言った。
 
〝殴りかかる気概ぐらいは残っていやがるのか。
 血がそんなにも赤い…どうしようもなく無力な人間のくせに。

 この期に及んで生きる死ぬも選べないお前は、俺と同じ穴の狢だ。
 
 理不尽が憎いなら、自分で立て。
 そして人間をやめて復讐するんだな。
 
 少なくとも、何かをやってる間は、失った空しさを忘れられるぜ〟
 
 男はそう言い残し、シグルトを置き去りにして去っていった。
 
「―――“神狩りの灰”は、悪魔の王が戯れに人間を孕ませて生まれた半悪魔。
 子供の頃から不幸と理不尽に振り回されて、最後には理不尽の全てに復讐するために、〈神殺し〉になったという話です。
 
 世の中、どうしようもない理不尽が生まれれば、それを殺せる理不尽が生まれるのですから、不思議ですね。
 
 “神狩りの灰”のおかげで、理不尽によって犠牲になる人間は減ったのですが、彼のやり方もまた理不尽です。
 目的のために、手段は選ばないのですから。
 
 わたくしたち神霊にとって、触れてはならない禁忌の存在。
 “神狩りの灰”は、殺せないはずのものを殺す存在です。
 
 御安心くださいね。
 わたくしはあのような理不尽ではありませんから。

 ―――お話を戻しましょうか。

 これから、『ロダン』という村に行って、アーリ…この地ではエーグルと名乗っている男性の魂を、父祖の契約に基づいて刈り取るのがわたくしの仕事です。
 エーグルは昔受けた戦傷から、死の床にあるのですが、大きな悩みごとがあるために死ねないでいます。
 〝それが解決するまで待ってくれ〟と申していまして。

 この世に未練や気掛かりを残したまま死ぬと、魂の緒が刈り難くなります。
 中途半端に刈られた魂は、あの世に行けずに彷徨って、最悪〈不死者(アンデッド)〉に堕ちてしまうのです。

 彼は優れた武人でしたから〈亡霊騎士(アンデッドナイト)〉あたりでしょうか。
 そういった上位アンデッドが一体出現すれば、ロダンのように小さな村は壊滅してしまいます。
 仮に、勇者様のような英傑が倒したとして…滅ぼされたアンデッドの魂は、救われることもあの世に逝くことも出来ずに消滅してしまいます。

 英雄の魂をヴァルハラに導くのがわたくしたちの使命。
 誇り高い死を迎えさせてあげられるように、力を貸していただけませんか?」

 白い戦乙女は、熱心に語った。
 
「なるほど。
 
 俺の役目は、その男の悩みを解決するということか」
 
 シグルトに、頷き戦乙女が続けようとすると、別の方から声がかかる。

「その悩みってのは、娘の結婚相手を見つけることだそうだ。

 血生臭い戦場の専門の戦乙女が出る幕じゃないってな」

 暗闇から湧き出るように現れたのは、典型的な外套に髑髏姿の死神。

「…出ましたね、骨風情が!」

 穏やかに話していた戦乙女の眉が急激につり上がり、死神を睨みつける。
 不倶戴天の相手を見つけたように。

「けっ、戦場を飛び回る禿鷲女がっ!
 寿命で死のうとしてる野郎の魂を扱うのは、俺たち死神様の領分だぜ。

 事故死専門の糞鴉と一緒に、キーレでも飛び回ってりゃいいんだ」

 現れた死神も負けてはいない。
 髑髏の顎が激しく噛み合い、ガツガツと音を立てていた。
 
「エーグルは戦場で受けた戦傷が元で命を落とす勇者。
 寿命と言って魂を刈り取り、人を殺した者たちに同じ死神をさせる事で罪滅ぼしとやらを強制する白骨など、お呼びではありません。

 勇猛に戦った戦士には、ヴァルハラこそが相応しいのです」

 ぐぬぬ、と向かい合う戦乙女と死神に、シグルトは呆れたように肩をすくめた。
 どうやら縄張り争いというやつらしい。

「死んだ後の行き先は、本人に決めさせればいいだろう。
 醜い言い争いをする時間があったら、当人の問題を解決するのに使うべきだ。

 双方、それでいいな?」

 シグルトの正論に、戦乙女と死神は「ごもっとも」とばかりにあっさり争いをやめた。


「で、死神の方…俺はシグルトというのだが、お前は?」

 言い争いを調停したシグルトは、髑髏面の死神に尋ねた。

「おう、俺は死神でいいぜ。
 オレたちは名付の大物でもない限りは記号や数字で呼ばれるんだ。
 【110-105】なんて呼び難いだろ?

 ま、俺のお仕事もエーグルって男の魂が目的だ。

 安らかな臨終を迎えるように、あと万一あの男がアンデッド化した場合は同輩を呼んで始末をつけるようにな。
 見てる限り、荒事の必要はなさそうな相手なんだけどよ。

 でもあんたが来てくれて助かったぜ。
 
 …何が悲しくて、死神が〈縁結び〉なんかしなくちゃならねぇんだ?
 オレの柄じゃねぇ」
 
 表情の無い髑髏顔を傾けて、死神は大きな溜息を吐いた。
 
「…それは俺も同様だ。
 
 戦士だぞ、俺は。
 妹には、いつも色恋に鈍感だと言われてきたし、な。
 
 確かにお前の顔を考えれば、俺の方が幾分話を聞いてもらえるかもしれないが」
 
 肩を落としてシグルトは苦笑する。
 
 死神は憤慨したように胸を張った。
 
「お前ほど男前じゃねぇが、これでも死ぬ前は結構色男だったんだぜ」
 
 肋の軋む音がちょっと寂しげだった。
 
「…では、何故死神になった?
 
 他に、死後の行き先は無かったのか?」
 
 シグルトは気になったことを、ふと訪ねてみた。
 不意に死後の世界を知りたくなったのだ。
 そして頭をよぎるのは、死んでしまった友や父たちのこと。 
 
「ま、色々あるのさ。
 
 …生前にそれなりの能力を持っていれば、修行期間を経て死神になれる。
 そこの白いのが言ってるように、生前に自衛や生存のため以外の殺しをやってたりすると、オレたちみたいな【刈り手】に選ばれることがあるんだけどな。
 
 死神だけじゃなくて、精霊とか、土地神とかにもなれるみたいだ。
 中には生きてるまま英雄とか勇者って呼ばれるとこまで行って、その先に不老の神仙とか超越存在になっちまう奴もいる。
 思うに、お前はきっとその口だな。
 
 お前は、命がけでとある村を救って、死んだ後土地神になった奴に雰囲気が似てやがる。
 もしかしたら、精霊や神になる素質があるかもしれないぜ。
 
 オレが死神になったのは、生前の職業の…っと、これ以上は秘密だった。
 すまねぇな。
 
 オレは十数年程度だが、数百年死神やってる奴もいる。
 
 ま、あんたが言うみたいに死ぬ前に身の振り方考えるのは、止めといた方がいいぜ。
 大概はロクな死に方にならねぇ。
 
 命は大切に、な…」
 
 シグルトが、そうだな、と頷く頃、『ロダン』の村が見えてきた。
 
 
「…言い忘れてた。
 
 オレたちは生きてる奴らの目には写らねぇ。
 触れることも出来ねぇんだ。
 あと、生きた奴がその身に直接着けた物、服なんかは、生気が移ってるから触れないんだ。
 
 例外として、霊感の強い奴や、死期近づいた人間なんかには姿が見えるし、話も出来る。
 触れる場合もあるな。
 
 その類の霊媒師や精霊術師なんかとは話せるかもしれないが、この村にはそういう奴はいないみたいだな。
 お前は、結構その手の才能があるかもしれないぜ。
 
 ま、つまりは、直接干渉はできねぇんだが…植物や家具、あとは今のオレらみたいな霊的な存在には触れたり話したり出来るんだ。
 
 この村は、浮遊霊とかいねぇから静かなものだぜ。
 
 …っと、あの村外れの建物がエーグルの家だ。
 まずはそいつに会って、話をしよう」
 
 シグルトは死神の言葉に頷くと、死神の指さす家に向かった。

 どうやら戦乙女の方は、自分のセリフを取られてご機嫌斜めのようである。
 兜をかぶって白髪を納めると、鼻から上を隠す鉄仮面をかぶって黙ったままだ。
 
 目的となる家の玄関脇や窓際には、綺麗に手入れされた鉢植が飾られている。
 周囲には爽やかな花の香りが漂っていた。
 
 シグルトは死神にならって家の扉をすり抜ける。
 触れる、と意識しなければ、無機物にも触れられないらしい。
 
 珍妙な感触を確かめながら、シグルトは死神に続いてもう一つの扉をくぐり、その部屋に入った。
 
 窓際のベッドに、やつれた様子の初老の男が横になっている。
 男はすぐにシグルトたちの存在に気付き、上体を起こした。
 
(…隙があるようで、全く無いな。
 人を安心させるために、作られた仕草だ。
 
 柔和に見えて、目つきも鋭い。
 戦士か武人の類だな…)
 
 シグルトは僅かな動作から、その男が一般人ではないと感じた。
 むしろ、常人よりも危険に身を置いている冒険者に近い存在ではないかと推察する。
 
「…こいつがエーグルだ」
 
 死神の言葉に、初老の男…エーグルは少し首を傾げた。
 
「…ほほう、美しい方だ。
 
 そちらの方は、戦乙女殿と死神殿のお仲間かね?」
 
 シグルトは一歩進み出ると、軽く会釈した。
 
「俺はシグルト。
 
 この戦乙女と死神に、貴方の悩みを解決するよう依頼された冒険者だ」
 
 ふぅむ、と感慨深げにエーグルが頷く。
 
「冒険者を雇うとは…
 
 いや、失敬。
 それだけ私の願いが、困難なことだったということですね。
 
 明日をも知れぬ、このような老いぼれのために、とんだ迷惑をかけてしまいました」
 
 礼儀正しく頭を下げるエーグル。
 
 シグルトは、気にするなと言うように、軽く首を振って応えた。
 
「それが俺のすべきことならば、するだけだ。
 
 行いの結果は、自身に返る。
 今ここに俺が居るということは、俺にとっても必要だからだろう」
 
 エーグルは感心したように目を細めた。
 
「これは、頼もしい。
 私も様々な人間を見てきましたが、貴方のような方ならば安心です。
 
 …死神殿から、ある程度の話は聞かれていると思いますが、何からお話ししましょうか」
 
 そしてエーグルは、ぽつりぽつりと話を始めた。
 
 
 要約すればエーグルの願いは、愛娘アネットを託せる、その夫となるものが決まってほしい、というものだった。
 
 エーグルとアネットの親子は、2人きりの家族だ。
 エーグルが死んでしまえば、アネットはただ1人になってしまう。
 
 娘には普通の幸せを、とアネットは言う。
 
「―――アネットは、私の実の娘ではありません。
 
 巫女をしていた妹が引き取って育てていた、長兄の遺児なのです…」
 
 語られたアネットの出生とエーグルの過去は、壮絶なものだった。
 
 エーグルはもともと北方でとある部族の戦士長をしていたという。
 彼の所属していた部族はヴァイキングの流れをくむ海洋民族で、北方の厳しい気候のせいで食料が不足すると周辺部族と戦いながら海賊行為で略奪を行っていた。
 若くして戦士長となった彼は、情け容赦なく人を殺す仕事をいくつもこなしてきたという。
 
 ある秋、飢饉によって略奪行為を行うこととなったが、利を求めて大きな強奪を企てる部族長たちに一族の巫女をしていたエーグルの妹がまったをかけた。
 目標とする小都市には聖北教会の軍隊がいて、確実に敗北すると。

 その言葉を侮辱と取った部族長は、巫女の助言に従わず小都市を攻め敗北して戦死。
 報復によってエーグルの部族のいる集落は滅ぼされた。

 エーグルもよく戦ったが、戦闘中に矢傷を受けて海に転落。
 船の縁で頭を強打して意識を失ってしまった。

 意識を取り戻した時には、集落は破壊されており、女子供のすべてが殺し尽くされた。
 巫女である妹も乱暴狼藉を働いた兵士の耳に食らいつき、槍と剣でめった刺しにされて殺されてしまった。
 虚ろな目のまま敵の耳と血泡を口にして、血溜まりに臥す妹を見て、エーグルは復讐による玉砕を覚悟するが、巫女が薬草をしまう地下の貯蔵庫から聞こえる赤子の泣き声にはっとする。

 妹は、長兄の遺児を命を懸けて守り通したのだ。
 まるでエーグルが来ることが分かっていたかのように、そこにはまとまった財宝、旅のための装備と食料が置かれていた。
 「敵を恨まず、この子を育て、一族の血を残してください」と妹の文字で書かれた木板を発見して、エーグルはその遺言を守ることにしたという。

 その後は開拓村だったロダンまで流れてやってくると、男手一つで娘を育てた。

「その娘こそ、アネットなのです。
 
 私は遺言を守って、彼女を育てました。
 
 最初は部族を守れなかった罪滅ぼしのつもりでした…
 しかし、今では彼女が何より愛おしい。
 
 あの娘は私の宝です。
 だから、彼女には幸せに、普通に暮らしてほしいのです。
 
 海賊の子供であることを知らぬまま、普通の娘としての幸せを謳歌して…」
 
 エーグルの切なる願いを、シグルトは快く請け負った。
 死という理不尽を受け入れながら、愛する娘を想うエーグルを見て、何かしてやりたいと感じたからだ。
 自身もまた多くの理不尽に嘆いてきたからこそ、シグルトは親身になって依頼を受けたのだった。
 
 そして、アネットの後を任せてもよいとエーグルが考える若者のことを聞き出した。
 調べるうちに、アネットがシャルルというパン職人の青年と両想いであることを突き止める。
 
 初々しく話すアネットとシャルルを、シグルトは優しい目で見つめていた。
 
「お前、そんな顔ができるんだな。
 
 その顔を見せりゃ、女なんてイチコロだろうぜ」
 
 冗談めかして死神が言うと、シグルトは少し寂しそうに笑った。
 
「…想い人でない相手に偽りの愛を騙るなど、このまま死んでも御免だ。
 肉欲や番の立場がほしい男ならともかく、俺はそこまで恋愛に耽溺したいとは思わん。
 
 俺もその昔は恋人に愛欲を覚えたこともあるから、男であればそういう見境の無い考えがあるのを否定はせん。
 誰かの心を汚してまで恋をすることに対して嫌悪感はあるが、恋慕の情は簡単に歯止めができるものでは無いし、己の想いだけは自由だからな。
 
 そういう色恋にうつつを抜かすには、いろんなものを失い過ぎてしまった。
 俺は一度、心の底から恋をして、失敗したばかりなんだ。
 
 だが、この2人は幸せになるべきだと思う。
 互いに想い合っているんだ。
 
 俺には出来なかったことだから、なおさらそう思うのかも知れないが」
 
 アネットを見つめながら、シグルトは故郷で別れた恋人のことを思い出していた。
 
「何だお前、ふられたのか?」
 
 死神がからかうように言う。
 
 シグルトは、そんなところだ、と何かを懐かしむように苦笑した。

 話をしながらアネッタを追って村の道を歩いていると、シグルトは嫌な気配を感じてそちらを見た。
 
 少し先行していた戦乙女が、冷たい殺気を漲らせてひとつ頷いた。
 死神も仰ぐように一点を見て、骨の手をぐっと握り締めている。

 ねっとりとしたいくつもの視線が、アネットの背中を見つめていた。
 黒い霞の中にいくつもの顔が浮かび、怨嗟の声を上げている。

"なぜだ、なぜアーリの娘だけが聖北の地で生きている!
 我らを殺し、集落を破壊せしめ、女子供のすべてを根絶やしにした異教の元で!
 なぜ、聖北に復讐せぬ!

 許さぬ!
 許せぬ!
 許すものかっ!

 我らの憎しみ。
 この恨み。

 はらさずでおくべきか!!"

 吹き散らす瘴気が、触れた草花を枯らしていく。
 
「…誇りある死を迎えず、憎悪による復讐に魂を腐らせた死霊たちです。
 わたくしの真の依頼は、あれらの討伐。

 なんて愚かな。
 巫女の神託に逆らって呼び寄せた自業自得の災厄を、敵ではなく同胞の血族に憑いて障るとは。

 あの邪霊たちに、ヴァルハラの扉は決して開かれないでしょう」

 いつの間にかその手に顕現した、白銀の槍を構える戦乙女。

「シグルト…あれが邪な死霊、怨霊ってやつだ。
 この世に恨みでとどまって死や災いを振り撒き、正しい寿命による静謐な死を汚す、オレたち死神の滅ぼすべき怨敵。

 なるほど、戦乙女が出てきたのはこっちの討伐が本命か。
 戦乙女が武装してんのは、人が手を下せないああいった理不尽なものを密かに狩るためだ。

 戦いで死んだ奴らなんて、たいていはあの手のアンデッドになりやがるのさ」

 憤る死神。

"死の乙女だ。
 死の狩り手たちがいる!

 復讐を果たすまで。
 復讐を果たさせるまで。

 まだ往けぬ。
 まだ逝けぬ!"

 戦乙女の威圧に恐れをなして逃げ去ろうとする死霊たち。

 霞のように大地に消えた怨霊を睨み続け、シグルトは一波乱起こりそうな苦い予感を噛みしめていた。
 
 
 数時間後、シグルトたちはエーグル邸に戻っていた。 

「…答えは出たな。
 アネットとシャルルが結婚すれば、ことは解決するはずだ。
 
 だが、シャルルは近日中にリューンに行くかも知れない。
 今の状態でアネットは、エーグルを置いてシャルルについて行くことはあり得ないだろう。
 
 エーグルに2人を呼んでもらい、結婚の話をまとめることが一番無難だな。
 今の俺では、気付いてもらうことさえ困難だ。
 
 明日、早速エーグルに話してみよう」
 
 一日の経過をエーグルに報告した頃には、とっぷりと日が暮れていた。
 
 シグルトは一日アネットや、他の人間たちの動向を観察し、自分からは干渉しなかった。
 いらいらとした様子の死神に、「俺たちが無理に何かをしても話をこじらすだけだ」と取り合わなかった。
 
 むしろシグルトは、別のことを気にしていた。
 昼間現れた怨霊たちがアネットを襲わないよう、戦乙女と見張っていたのだ。
 
「…ああ、もう歯痒いぜ。
 
 話せれば、がば~っとくっつかせるのによっ!」
 
 死神の言葉に、シグルトは首を横に振った。
 
「ことを急くのは分かる。
 あまり時間がないからな。
 
 だが、男と女の恋愛は無理強いして解決することではない。
 
 むしろ、アネットにシャルルという想い人がいたことは幸運だった。
 エーグルとの死別は悲しいことだが、彼女にはシャルルがいる。
 
 2人の努力次第だが、きっと幸せになれるだろう」
 
 そうだな、と死神が頷いた。
 
「やっぱり、アネットの幸せは、好きな男結婚して平和に暮らすことだろうな。
 生きる死ぬの、世界じゃなくてよ。
 
 お前もそう思うだろ?」
 
 死神はシグルトに同意を求めるように、聞いた。
 シグルトは少し考えた様子だったが、また首を横に振った。
 
「人の幸せは、それぞれの人のものだ。
 
 周りの者が騒いだところで、誰かが本人に代われる訳じゃない。
 幸福を金勘定のように計ることも、できはしないんだ。
 
 アネットの幸せは、彼女にしか分からない。
 俺たちには、それがどんなことか想像する程度が関の山さ」
 
 シグルトの言葉に、死に神はカチリと歯を鳴らした。
 言葉を飲み込んだのだろうか?。
 
「…願わくば、エーグルの願いとアネットの幸せが少しでも同じものであるよう、祈るばかりだな。
 
 そうでないと、俺たちではどうしようもない」
 
 頼りねぇなぁとぼやく死神。
 
「俺みたいな唐変木に、色恋の相談をされても困る。
 あっちの戦乙女に聞いた方がいくらかましだぞ。
 故郷でも、女心に疎いとよく言われた口だ。
 
 次に相談する必要ができたのなら、もう少し恋愛巧者を選んでくれ」
 
 ああそうするよ、と死神は歯を鳴らした。
 まるで、苦笑しているようだった。
 
 
 次の日、シグルトは幾分早く目覚めた。
 
「アネットでしたら、村外れに花を摘みにいっております。
 
 いつも欠かさず、家の花を換えてくれるのですよ」
 
 エーグルの顔色は、昨日にもまして悪い。

 彼の受けた矢傷は古く、返しのついた鏃がそのまま体内に残っている。
 鉄の鏃を包むように瘤ができているが、開拓村に来た時の労働と老化による衰えで患部が悪性の腫瘍となり汚染した体液や膿が溜まって、おそらくは瘤が破れて毒素が漏れ出している。
 腎臓が毒でやられて身体がむくみ、近しい心臓も弱くなって筋力が衰え肥大化していた。

 治療には解毒術を使えるものが毒を抜き、癒着した鏃を除去、汚染した肉瘤を外科的に撤去して傷口を洗浄し、悪い風…破傷風を防ぐためにしばらくは解毒を続けなければならない。
 そのためには解毒に通じた水の精霊術師や、解毒術を使える聖職者に頼る必要があるのだが、田舎の開拓村にそのような専門家がいるわけも無く…
 鏃を除こうにも動脈や神経が近くて外科的な処置は難しい上、老化と病で疲弊した身体が手術に耐えられない。

 戦士という職業柄、特に金創に詳しいシグルトの知識からエーグルはどう見て目ても末期の患者だ。
 しかし、愛娘を自慢する彼の様子は誇らしげである。
 
 シグルトはその言葉に頷くと、アネットが活けた白い霞草をしばらく見つめる。
 そして、静かに決意を新たにすると踵を返し、エーグル邸を出て村外れに速足で歩き出す。
 
「おいおい、どうしたんだよ、そんなに急いで…」
 
 追いかけてきた戦乙女と死神に、シグルトは渋い顔で言った。
 
「どうも嫌な予感がするんだ。
 …昨日の怨霊のことが気になって、仕方がない。
 
 未だ何も起きてないことを考えると、無性に、な」
 
 そうだったな、と死神も歩みを早めた。

「昼間はアンデッドの活動が衰えるはずなのですが、昨日は昼間に出現していたのを見ると油断もできませんね。

 戦闘ともなれば、わたくしが【魂魄の槍】で場に縫い付けて攻撃できるように致します。そうしなければ、あの手の怪物には攻撃が届きません。
 多数の怨霊を縫い止める術の使用には集中力を要しますので、わたくしはおそらく戦うことができなくなるでしょう。

 勇者様はわたくしがあれを抑えている間に、全力であの怨霊を打ちのめしてください」

 手に白銀の槍を顕現させ、戦乙女が作戦を告げる。

「なるほど。
 それで俺が必要だったわけか。

 そういう荒事は。俺たち冒険者の得意分野だ。
 普通にこの剣で斬れれば問題ない。

 請け負おう」

 本来霊体となったシグルトは、同格の霊体に対してであれば攻撃が届く。
 ただ姿形があやふやな悪意の集合体である怨霊は、存在を固定しないと攻撃しても霧散するだけなのだ。
 直接殴れるようにする…それは幽世に通じた戦乙女や死神の領分である。

「んじゃ、オレは一緒に殴るぜ。

 怨霊を倒すまでは共闘だ。
 それでいよな?」

 死神の申し出に、戦乙女は「御勝手にどうぞ」と返した。

 
 村外れには岩場があり、アネットが花を摘んでいた。
 彼女の無事な様子に、死神が肋骨を撫で下ろす。
 
「どうやら、無事だな。
 
 だが、あの怨霊が狙うとしたら、絶好の場所だ。
 何か手を打っておきたいが…」
 
 シグルトはざっと周囲を見回すが、岩ばかりである。
 さわさわと、風が草花を揺らしていた。
 
「手を打つって言ってもよ…
 
 周囲を周回してみるか?」
 
 死神の言葉を聞きながら、シグルトは岩場を見上げた。
 ちょっとした崖になっており、すぐに崩れる様子は無かったが、そうなれば危険だろう。
 
「せめて、何か飛び道具…
 
 風だっ、その手があったかっ!!」
 
 シグルトは何かに気がついた様子で、周囲を見る。
 
「ここならば大丈夫だろうな…
 来てくれれば、良いんだが。
 
 《来い…トリアムールっ!!》」
 
 突然何かを呼ぶような言葉を発したシグルトを見て、戦乙女が首を傾げた。
 
「…身体が離れているから、無理か?
 
 でも、霊体には干渉できると聞いていたが」
 
 何を、と死神が言いかけた時、にわかに強い風が吹いてシグルトの周囲を旋風が取り巻いた。
 
「お、おい、何だその風…」
 
 死神が骨だけの指で、旋風を指さす。
 その旋風は、やがてくるくると収束し、少女の姿を取った。
 髪の毛に当たる部分が周囲の景色に溶け込み、身体も透けている。
 
「…ぅわぁぁあんっ、シグルト~!!」
 
 その少女は、急に涙目になると、シグルトにガバッとしがみついた。
 
「…???
 
 なんだ、そのちんまいのは?」
 
 確かに小さい。
 人間で言えば13歳前後ぐらいの外見だが、身体のサイズは人間の3分の2程度だ。
 特徴といえば豪勢な巻き毛で、それが螺旋状にさわさわと渦巻いている。
 
 少女はぐい、と振り向くと、ふわりと浮かび上がって死神を見下ろした。
 
「失礼な骨ねっ!
 
 私は、誇り高き西風の娘っ!!
 この優美な姿を見て、〈ちんまい〉とは何よぅっ、〈ちんまい〉とはっ!!」
 
 柳眉を逆立てていた少女は、すぐにニヘッと相好を崩し、口元に手をやると馬鹿にしたように死神を見下ろした。
 
「…あははっ♪
 
 そっか~、骨だもんね。
 頭空っぽだから、馬鹿なんだ~♪
 
 や~い、骨っ、がらんどう、すっとこどっこいっ♪
 
 隙間風が吹きそうだね、ヒューヒュー♪」
 
 捲し立てる少女に、死神はどうしていいのか分からず、ぽかんとしていた。
 目があったなら、丸くなっていたかも知れない。

 笑いのツボにはまったのか、戦乙女は顔を背けて肩を震わせている。
 
「俺に力を貸してくれる精霊、トリアムールだ。
 
 彼女は、旋風の精霊なんだよ」
 
 シグルトが説明すると、旋風の少女…トリアムールは、またシグルトにしがみついた。
 
「心配したよ~
 シグルト、昨日から急に動かなくなっちゃうんだもん。
 
 死臭がしないから、生きてるってことはわかったんだけど、ずっと目を覚まさないし、息してないし。
 シグルトは寝てるともの凄く生気が薄くなるから、いつもみたいなのかなぁと思ったんだけど、今日起きなかったら私が見える人連れてこようかと思ってたんだ。
 
 …って、おおっ!
 
 触れるっ!
 見えてるっ!
 話せてるっ!!
 
 これは、す・ご・い~♪」
 
 ぺたぺたとシグルトに触れながら、しきりに感心しているトリアムールの頭を撫でるシグルト。
 
「…確かに凄い。
 
 お前がそんな姿で、こんなにお喋りだと、初めて知ったよ」
 
 シグルトの表情は優しく、年下の弟妹を見るそれだ。
 
 死神は、惚けたようにしばらくトリアムールの起こす風に、骨を鳴らしていた。
 
 
 トリアムールは、『風繰り嶺』でポダルゲから預かった旋風の精霊である。
 
 シグルトは精霊を視認したり、その声を聞いたり話す能力は無い。
 せいぜい気配を感じ取ることぐらいしか出来ないのだが、それでも、この旋風の精霊がずっと側にいることは知っていた。
 
 半分が〈幽世〉の存在である精霊は、現界(現実世界に現れていること)しているのでない限り、普通は見ることも触れることも出来ない。
 精霊とは、事象の〈精(元素…エレメント)〉が意思を持つ霊としてある様をいう。
 
 精霊術師とは、霊と通じる感覚を持って、〈幽世〉から精霊の力を引き出すことが出来る者だ。
 そうしなければ、精霊は現実世界と違う存在故に、顕現することは適わない。

 もっとも、上位精霊のような強大な存在は、仮に現身(うつしみ)を現実世界に作ることで、自ら現れることも可能だという。
 あるいは、自分の力が強く表れる支配領域に〈幽世〉を滲み出させて、現れる精霊も存在する。
 
 己の力を媒介に、精霊という〈幽世〉の一部をそのまま顕現させるのが、〈精霊召喚〉。
 力の一部を事象として顕すのは〈霊験〉。
 術者そのものを媒介に、その身に〈精〉を憑依あるいは宿すことを〈憑精〉という。
 
 術師によって定義がまるで違うこともあるが、シグルトは精霊術がそういうものであると聞いている。
 
 トリアムールの力を借りて、シグルトが行使するのは〈憑精〉である。
 風を纏い、その身に宿すことで力を得る術だ。
 瞬間的に感覚が鋭くなり、力も増す上、旋風を放って敵を切り裂く。
 
 〈憑精〉とは〈精(エレメント)〉の宿り。
 〈精〉、すなわち精霊の力そのものを身に憑依させてその力を振るう、顕現の術(すべ)。
 優れた精霊術師のみが使える精霊術の高等技術である。
 
 トリアムールを身に纏うように宿す〈憑精〉の術、【飄纏う勇姿(つむじまとうゆうし)】。
 
 この精霊術は、精霊と交感する心の力ではなく、宿主の身体能力を源とする。
 
 まだ若い精霊で、それほど強大な存在ではないトリアムールは、己の〈精〉である旋風のコントロールが上手くない。
 だから、この〈憑精〉も精霊術としては、比較的簡単なものに属する。
 
 旋風は、本来奔放に吹くものだ。
 力任せに宿主の動作に乗って、風を放つ。
 加えて宿主の身体能力を、感覚とともに高めてくれる。
 
 特別術師としての素養が無くても使え、まさにシグルトのような戦士にこそ適する術だった。
 
 トリアムールとの同調で研ぎ澄まされた感覚。
 シグルトはその状態で周囲を伺う。
 
「…誰か来る」
 
 気配に気付いたシグルトの横で、馬鹿にされたことに憤然と抗議している死神と、シグルトを勝手に連れ出したことを怒っているトリアムール。
 言い争っている2人に、たしなめるようにシグルトが声をかけた。
 
 
「お早う、アネット」
 
 それは村長の娘であるアンナだった。
 アネットの姉のような存在であるらしい。
 
 情報を集めて村を探る中で、シグルトはこの青年の言葉からアネットとシャルルの関係を知ることが出来た。
 
「あっ、お早うアンナ。
 
 朝のお散歩?」
 
 親しく声を交わす姿は、まるで本当の姉妹のようだ。
 シグルトは2人を見つめながら故郷に残してきた妹を思い出し、目を細める。
 
 アネットとアンナは、摘んでいる霞草という花の話題で談笑していた。
 霞草はエーグルが好む花で、この場所にアネットが撒いたのだという。
 
「霞草か…」
 
 戦乙女が目を細めてそれを見ていた。
 
「知っていますか?
 
 霞草には、〈幸福〉って花言葉があります。
 エーグルの故郷に咲く花です」
 
 誰に話すともなく戦乙女が言う。

「オレのお勧めはやっぱ蓮華草だな!

 こっちの花言葉は〈私の幸福〉ってな。
 似たような花言葉って結構あるんだな~」

 死神が意外な知識を披露する。
 
「…ぷ、ぶははははっ!!
 
 骨が、骨が花言葉~♪
 似合わな~いっ!!!」
 
 トリアムールが思いっきり吹き出して、からかうと、死神が激昂した。
 
「だぁ~っ!!
 
 何なんだよ、このちび精霊っ!
 人がせっかくシリアスで格好良い台詞をだな…」
 
 トリアムールは、ふふん、と鼻で笑った。
 
「だ~って骨でしょ。
 人じゃないでしょ。
 
 シリアスとかロマンスとか、言ってても似合わないもん。
 
 あと、私はちびじゃないのっ!
 立派なレディなんだからねっ!!」
 
 賑やかにまた言い争いを始める死神とトリアムールの声を呆れて聞きながら、シグルトはアネットとアンナの動向を見守っていた。
 
 どうやらアネットとシャルルの将来を心配していたアンナが、アネッタにエーグルと話し合うよう切り出してくれたようだ。
 今夜みんなで話し合いましょう、と話をてきぱきと纏めていくアンナ。
 
「どうやら、このまま行けば解決しそうな雰囲気だな。
 
 …ん?」
 
 ぱらぱらと降ってくる小石に気付き、シグルトの表情が一変した。
 崖の上で、昨日の怨霊が大きな岩を落とそうと集まっていたのだ。
 
「奴だ…!」
 
 剣を抜き、鋭く言い放つ。
 
「…っ!!!
 
 あんの糞怨霊ぅ!
 2人に向かって岩を落とす気だ!」
 
 息巻く死神。
 
「…ここからあそこまで俺を飛ばせるか?」
 
 シグルトに、応よっ!と死神が力を発する。
 千里の道を一晩で飛ぶという、あの力をだ。
 
「来い、トリアムールっ!
 
 奴を斃す」
 
 そう言って怨霊を睨み、トリアムールに手を差し出すシグルト。
 
「…うんっ!!!」
 
 トリアムールは一陣の風に変わり、巻き付くようにシグルトに身体に絡みついた。
 
 染みこんでくる風の霊気。
 冴え渡る感覚。
 漲る力。
 
「一気に飛ぶぜ、シグルトっ!!!」
 
 死神の飛翔術で、一気に距離を詰め、シグルトは怨霊の前に躍り出た。
 同時に体当たりを敢行し、岩を落とせないよう後ろに追いやる。
 
"お、おのれぇ、何の真似だっ…

 部外者め!
 異教徒め!
 
 我らの邪魔をするなっっ!!!"
 
 怒りで身を震わせ、怨霊たちが恫喝してくる。
 
「…救いようがないですね。

 故意に寿命のある人間を、起こした災禍で殺すのは摂理に反すること。
 水が高いところから低いところに流れるように、摂理を捻じ曲げようとしても無意味なだけですのに。

 蛮勇で大きな都市へ強奪に向かい、返り討ちにあって一族郎党死に絶えたのをお忘れですか?」
 
 追いついた戦乙女が、アネッタたちに怨霊たちを近づけないよう、槍をかざして道を阻む。
 
「…俺はこれから起きる理不尽を見逃すことは出来ない。
 
 あの娘の幸せを願う親に、俺は依頼を受けた。
 その願いを守るのも、俺の仕事だ。
 
 させん…」
 
 シグルトの雰囲気が研ぎ澄ました刃のように、武人のそれに変わる。
 う…と気圧されした怨霊たちが後ろに退く。
 
「勇者様、手はず通りに。

 〈力よ!〉」

 戦乙女が槍に矢印のようなルーンを描き、輝いたそれを矢のように投げつける。
 
"ぎゃぁあ~!!!"
 
 槍は岩場に怨霊たちを縫い止めた。
 白い輝きが場を満たすと、その影の色が濃くなった。

"おのれ、おのれ~"
 
 怨霊たちが黒い瘴気を放つ。
 
((気をつけてっ!
 
 防御力を低下させる呪詛だよっ!!!))
 
 警告しつつ、トリアムールは自らが起こす風で怨霊たちを打ち据えた。
 よろめく怨霊たちに、シグルトの斬撃と死神の拳が決まる。
 
"く、魔法を使うのかっ!!"
 
 怯んだ怨霊たちは、次の旋風をその瘴気で遮った。
 
「あんにゃろう…魔封じの結界を使いやがったっ!!」
 
 トリアムールの旋風が、結界に遮られる。
 
 それでも、シグルトの勢いは収まらない。
 力に任せ、瘴気の上から、怨霊たちの凝る闇を振り下ろす一撃で粉砕する。
 
"が、があぁっ!!"
 
 瘴気がごっそりと削れ、苦痛に蠢く怨霊たち。
 
「…おらぁぁっっ!!」
 
 止めとばかりに死神が骨の拳で、敵を砕いていた。
 吹っ飛んだ怨霊たちは、火花のように瘴気を散らして地に落ちる。
 
"おのれ…オノレェ~!"
 
 消えゆく怨霊たちは。最後まで恨みの言葉を口にする。
 
「へっ!
 
 お前らには地獄の業火がお似合いだぜ。
 汚れたタールみたいに、地の底に飲まれちまいな!!!」
 
 死神の声を支持するように、シグルトも剣を構えて怨霊たちを睨む。
 
"貴様らに、災いあれ…災いあれ!"
 
 怨霊たちは、空気に溶けるように消えていった。
 
 気付ばトリアムールはシグルトの肩に寄りかかり、眠っているようだった。
 初めて使った術のため、張り切って大量の力を消耗したせいだろう。
 シグルトは、そっとトリアムールを背負うと、周囲の様子を伺う。
 
「ふう、下の2人も帰ったみたいだな。
 
 俺たちも戻ろうぜ」
 
 死神の言葉に、剣を鞘に収めながらシグルトは頷いた。
 
 
(…おのれっ!おのれっ!
 
 あの冒険者めっ!!!
 見てろ…死体を見つけて生き返れないようにしてくれるっ!!)
 
 歪んだ小さな瘴気がふわふわと飛んでいた。
 エーグルたちを扇動し、集落を滅びに導いた部族長のなれの果てである。
 戦乙女と死神がそろっていると知り、まともに戦って勝てないと感じたこの怨霊は、攻撃のさなかに分離して存在を長らえていた。
 
 生き返れないと知ったとき、あの冒険者はどんな顔をするのだろう?
 それを考えれば、この憤りも少しは愉快なものにかわるというものだ。
 
 怨霊は嫌らしい笑みを浮かべる。
 
"…お待ちなさい。
 
 あなた、とてもよい香りね"
 
 えっ…と振り向いた瞬間、部族長の怨霊は悲鳴を上げる間もなくその口に飲み込まれた。
 
"…うふふ、とても美味。
 凝った悪意、卑賎な憎悪。
 たまにはゲテモノを食べるのも悪くないわね。
 
 それにしてもあの子、生霊になって人助けとは。
 鼻水を垂らして泣き喚いていたあの子が…うふふ、やっぱり泳がせておくのが正解だわ。
 
 理不尽に囚われて、絶望という淵から這い上ががる度に魂はどんどん熟成される。
 あなたが理不尽に立ち向かうほど、魂は美味になる。 
 
 忌まわしいあの灰に消し飛ばされたこの身が戻ったなら、お迎えに行くわ。
 また逢いましょう、愛しい刃金の英雄様…」
 
 暗い、黒い頃をも纏った女がその妖艶な唇を下でぺろりと舐め、シグルトの去った方角をねっとりと見つめていた。
 
「這い上がっていらっしゃい、坊や。
 あなたは、もっともっと世界の悪意に苛まれる。
 
 理不尽に見初められ、理不尽に振り回され、理不尽に打ちのめされ…
 足掻き、砂を噛み、なおも立とうとするその気概。
 
 磨かれたあなたはどんな味がするのでしょう?
 
 考えると涎がでてしまいそう」
 
 そう言って女…“貪り”は楽しそうに白い歯を剥きだして凶悪な笑みを浮かべた。
 
 
 結局、エーグルの願いは無事に叶った。
 その日の夜に話し合った末、シャルルにアネットの将来を託したエーグルは、幸せそうに逝った。
 
 シグルトたちはエーグルの願いで彼の魂を連れ、村の南にある丘に向かう。
 その丘には霞草の咲き乱れる小さな墓地があった。
 
「ここは妹たちの墓です。
 
 霞草は、雪のような白髪をしていた妹が〈自分に似ている〉と好んだ故郷の花なんです。
 私がここに墓を建て、花も咲かせました…
 
 私が死んだ以上、もう訪れる者はいないでしょうから、最後に立ち寄ろうと思ったのです」
 
 そう言って、エーグルは一輪の霞草を摘むと、墓に供えた。
 
「じゃあ、そろそろ行こうかヘルカ」
 
 エーグルの言葉に、戦乙女が顔を覆っていた仮面を外すと兜を脱いだ。
 
「…気が付いていたのですか、兄さん?」

 雪のように白い髪が、滝のように流れ出る。

「もちろん。
 私がお前の背格好を見間違うものか。

 戦乙女になってまで、ずっと見守っていてくれたのだろう?」

 戦場ではない場所に戦乙女がいることには、シグルトも死神も違和感を覚えていた。
 だが、彼女がエーグルの実の妹だとしたら?

「死神が元人間であるように、戦乙女も生前の才能と行いを神々に認められると神霊になることがあります。
 生きた状態から神霊になるのを昇神、わたくしのように死んでから神や仙人になることを尸解と呼び、英霊として神霊になる多くは尸解によるもの。
 
 わたくしたちは、神霊に昇華するための呪術的素養が無い勇者の魂を英霊(エインヘリャル)へと尸解させる神霊。
 そして同姓の女傑と認めた者であれば、同じ戦乙女にすることができます。
 この身は父祖たちの守護者たる戦乙女の先達様に、生前の行いと巫女の資質を認められて、死後尸解致しました。

 戦乙女や英霊も、今回のような不死者や悪神との戦いで消耗し消えてしまうため、わたくしたちは常にこのように幽世を共に渡り戦ってくれる勇者の魂を探している、というわけです。
 実を言えば、今ある神の宮(ヴァルハラ)とは、神々の黄昏によって既に消え去ったそれに代わって、わたくしたち戦乙女たちと英霊たちが集う神霊の集団を指します。
 もう神々の黄昏は無く、アンデッドや悪神たちと戦う…いわば世界の浄化装置の一つなのですが。

 もっとも、最近は聖北とその使徒たる天使とやらに、随分と圧され気味なのですがね。

 神や精霊が注目し、後に必ず偉大な勇者となるでしょうシグルト様に接触することと、かなうならば武勇に優れて高潔だったアーリ兄さんをわたくしの世界に招くことが今回の目的の一つだったのですが…
 アーリ兄さんはすっかり平和にほだされた異教徒になってしまいましたね。
 これでは何年も張り付いていた甲斐がありません。

 兄さんの魂は、そこの死神に譲ってあげます」

 戦乙女は、そう告げると肩をすくめた。
 それは兄を自分の様な争いの世界に巻き込みたくないという、妹の情でもあるのだろう。

「シグルト様…今回手を貸していただいたお礼に、死後わたくしを呼び英霊となる権利と、情報を差し上げます。

 あなた様を破滅寸前に追い込んだ死神“貪り”はまだ滅んでいません。
 影を身代わりにして逃げ延び、暗躍しながら力を蓄えているのでしょう。

 我々神霊も、あれの被害で多くの同胞を失い、行方を追っています。
 “神狩りの灰”も、たばかられたことに気が付いて彼女を狙っているので、表立ってあの死神があなたに干渉することはしばらくないでしょう。

 もう一つ、“大いなる母”もいずれはあなたに接触を試みてくるでしょう。
 おいそれとその神名を口にはできませんが、あれは古くそして恐ろしい存在です。

 どうかお気を付けて。

 わたくしの助力が必要であれば、我が神名【スナーフヴィート】をお呼びください。
 願わくば、我らが勇者としてともに戦ってくれる未来を切に願います。

 では…これにて」

 そう言うと、戦乙女はエーグルの魂に一言二言告げ、その姿を白鳥に変えるとオーロラの軌跡を残して飛び去った。

「なんか、とんでもないのに目をつけられて大変だなシグルト。
 ま、お前なら何があってもどうにかできるさ。

 逢えて本当に好かったよ、シグルト。
 
 …ありがとよ」
 
 死神に気にするな、とシグルトは微笑んだ。
 
「あとはお前の霊脈が、身体に戻してくれるぜ。
 
 疲れて寝ちまった、お前のちんまい相棒にもよろしく伝えてくれ。
 
 じゃあな、シグルト。
 くれぐれも命は大切にしろよ。
 
 時期が来たら、オレが迎えに行ってやらぁ…」
 
 死神の軽口に、シグルトは「それは御免だな」と肩をすくめる。
 
「では、お元気で。
 
 本当に有難う御座いました」
 
 死神によって魂を刈り取られたエーグルは再び礼を延べ、満足そうに微笑んだ。
 
 そうして、死神たちは去っていった。
 
 
 数日後、シグルトはロダン村に立ち寄り、アネットとシャルルの結婚式を眺めていた。
 そして、祝福される2人に、エーグルの墓地に咲いていた霞草で花束を作り渡す。
 
 場違いな美しいこの冒険者の登場に、村人たちは目を白黒させていた。
 
「あ、あの…貴方は?」
 
 尋ねるアネットに、シグルトは優しく微笑んだ。
 
「君の〈お父さんたち〉の知り合いだ。
 
 彼らの代わりに、これを渡したくてな。
 この花は〈幸福〉という意味があるそうだな。
 
 〈お父さんたち〉にとって君の幸福が、自身の幸福だったと俺は思う。
 そして君たちのさらなる幸せを、望んでいるはずだ。
 
 だから、きっと幸せになってくれ…」
 
 彼の暖かい言葉に、アネットは感動したのか、泣き崩れた。
 
 シグルトの〈お父さんたち〉という言葉は違う意味であったが、アネットたちはシグルトが両親の知り合いだと思ったのだろう。
 大人びたシグルトの雰囲気は、もっと年を経たようにも感じさせる。
 
 アネットとシャルルは席を設けて、もてなそうと言った。
 だが、シグルトは急ぐ先があると言って断り、その場を去ろうとする。
 
「ま、待って下さい。
 
 貴方はシグルトさんですよね?
 父の遺言で、生前とてもお世話になったからお礼をするようにと、お金と手紙が残っていました。
 
 後日リューンに行く予定だったので、その時にお渡ししようと思っていたんですが…」
 
 シャルルが、件の報酬の入った袋を持って走ってくる。
 
「そうか…では、有り難く受け取るよ。
 
 そう言えば、リューンでパン屋をやるそうだな。
 場所が決まったのなら時間がある時でいい、リューン郊外の『小さき希望亭』という冒険者の宿の主人か娘さんに、場所を教えておいてくれ。
 
 今度、仲間たちと伺うよ」
 
 優しい瞳で、シグルトはふわりと笑った。
 傍で見ていた村娘たちが、一斉に頬を赤らめる。
 
 死神が「女なんてイチコロ」と評した笑みを残し、シグルトはアネットから銀貨の袋を受け取ると、満足そうな足取りで踵を返し旅立つ。
 
 その傍で風の精霊トリアムールは、日差しに照らされて透けるシグルトの魂を眺めながらついて行く。
 シグルトの魂の色は、理不尽に立ち向かい道を切り開く、清浄な白い鋼色。
 トリアムールには、2人の男の願いを叶えた充実感から、その魂がシグルトの喜びで優しく気高く輝いているようにも見える。
 
 自身も誇らしい気持ちで胸を満たしてシグルトの後を追いかけながら、トリアムールは爽やかな一陣の微風を吹かせるのだった。
 

 …余談であるがシャルルは数年後に、自分と似た境遇の弟子を取ることとなる。
 その甥っ子の名前はカールと言い、ともにやって来た恋人の名はアネットであった。

 世の中には似た様な名前で同様な境遇の者が、案外いるものである。




 
 今回は、ソロプレイの傑作『魂の色』の再録です。

 傑作であるゆえにクロス的かぶりも出そうだったこの作品…思い切ってスピンオフ的な内容のリプレイに魔改造してしまいました。
 アネッタとカールの名前を変え、ハンスはお姉さんキャラに、キーとなる蓮華草を霞草に、死神鴉は怨霊に、死神イイ男はセリフが多いので戦乙女と死神に分担。
 オズワルドはエーグルという男にしました。アーリとともに「鷲」という意味があります。

 余談にもある通り、私のリプレイの正史では、数年後に誰かさんが死神イイ男とアネッタやカールをハッピーエンドにして、シャルルの弟子としてカールがリューンにやってくるという結果にしてあります。
 てへぺろ!

 普通にやるより変化をつけようと、死神と同様な勢力ヴァルハラの戦乙女を登場させました。
 スナーフヴィート(Snjóhvítt)はGoogle翻訳のアイスランド語で雪白と入れると出る言葉。元ネタは戦乙女スヴァンフヴィート(svanhvít「白鳥のように白い」)。アイスランド語の発音って難しいので、読みは適当です。すいません。
 彼女はもともとアルビノだったのでこの名になりました。本名はヘルカです。
 あの世にはいろんな勢力があるんだなぁと思っていただければ。

 彼女が使っている「↑」(ティールあるいはテイワズ)のルーンは魔法の槍を発動するキーであり、彼女が戦士になるためのまじないでもあります。
 俗っぽい話ですが、槍や剣は男性器の象徴であり、尖った矢のようなこのルーンは戦いの神トールを象徴するハンマーの形をしています。
 戦乙女は戦士のアニマ的、女性的な理想や感性を象徴するいわばエインヘリヤル固有の女神的存在で、「戦う男の勇者」の加護者です。自分にない男性的強さを補うという意味をルーンで込めて、「できないことはない」という状況を魔術で作って実体のない敵に攻撃が届くようにしているわけです。
 このルーンには「不可能を可能にする」とか「戦略をもって成す」というような意味もあって、特別な力で敵を打ち倒す魔術的な隠秘を暗示しています。
 仏教系のまじないにも似たような「九字」というものがあるのですが、こういう戦闘前に相手を服従させる・勝利を確定しようとする・負けないといった意味を込めて行う魔術はあらかじめ加護を得て術を行使する大切な過程です。
 本来ルーン魔術は秘術(やり方が秘される呪法)の類であり、オーディンはその秘奥を授かるために片目を失い、槍で身を貫いて気につるされてまで習得したなんて裏話があります。
 呪縛や束縛のルーンでないのは、それらの本来の効果は槍の方に魔術的効果があって、術式を悟らせない保護だったりします。

 彼女の元ネタは某有名コンシュマゲームです。特にアンデッドとやり合ってるとことか。リスペクトということで…

 
 このシナリオ、初回プレイでは、銀色称号の魂の色にするのも難しいのですが、慣れてくると綺麗な魂の色を狙えます。
 シグルトは「白く輝く魂」に。
 このシナリオでは二番目ですが、通常プレイで狙えるものでは最高の色です。
 一番は、怪我人を出させて限定した治癒スキルで回復しないと到達出来ませんので、私的には「力任せ」な印象があってあまり過程が好きではありません。
 私はこの色を狙うことが多いです。
 シグルトって泥にまみれた鉱石のような精神で、その上で自分を磨いて迷わず進もうというタイプですし、「聖者の如き魂」ではないと思いますので。
 
 私は二番目が好きです。
 金属なら銀。
 宝石ならサファイヤやエメラルド。
 シグルトは英雄型で、特殊型の二番目。
 
 シグルトは、心の奥底に深い闇を抱えています。
 ですが、それゆえに輝きも強くなる、「汚れを知った白さ」が彼の色なのだと思います。
 無垢ではなく、磨いた輝きというやつですね。
 あるいは、溶かして打ち、鍛え上げた鋼鉄の輝きでしょうか。

 魂の色を上げるポイントは隠し要素が多く、何度もやらないとわからないと思うので、ちょびっと攻略法をば。

 まず悪戯やしつこいデバガメはNG。
 報酬の話はあえて話題にしない方が吉。魂の色のグレードが高いと勝手に報酬が増えます。
 パン屋での会話はカールがのろけたあたりで撤収すべし。リア充どもを長く見てると魂が穢れます。
 パン屋とハンス君のイベントを見て家に戻ったら、まずアネッタの部屋に行き様子見。死神の意見に即従うべし。イイ男の勘は大したもの。
 夜の休息中は無責任な意見を言うよりも、素直に無知を吐露する。
 カラス野郎との対決では、リューンの基礎治癒魔法があれば岩に挑み(魔法なり、近接攻撃なり、鍵譜攻撃手段必須)怪我をさせて回復、そうでなければ普通に阻止を狙うべき。

 この辺を守っていればそれなりの魂の色になるはずです

 
 トリアムールたんも喋ってます。
 シグルトの精霊としてはかなりギャップがあるのですが、それもまた好しっ!ということで。
 
 
 今回、また怪しい人物とか、シグルトの過去が露わになっています。
 シグルトが故郷を後にした一番の理由は、自分のせいで周囲を巻き込んでしまった罪悪感からでもあります。
 同時に、そうまでして生き残った命を尽くすために、シグルトは再び戦う決意をしました。
 だからこそ、ああも強く、ああも不屈の意志でことに臨めるのです。
 
 シグルトの強さは、言わばどん底を垣間見て開き直った強さですので、多少のことでは動じないんですね。
 自身の無力感と絶望にとことん打ちのめされて、そこから這い上がってきた者が持つ、挫折を知った強さです。
 もともと妥協を知らなかったシグルトが、敗北と挫折を知って回り道と立ち直る強さを得たわけですから、彼が図太いのは当然なんですね。
 
 
 さて、今回出てきた“神狩りの灰”ですが、私が戯れ言の中でぼやいた中にデータがあったりします。
 興味のある方は、探してみて下さい。
 
 この兄ちゃん、とっても自己中でして、かなりやばいです。
 もう、気に入らない神様とか悪魔がいれば、片っ端からぶった切っていきます。
 理不尽を殺す理不尽。
 何というか、運命だの、宿命だのと変な柵を押しつけてくるでっかい連中をぶった切るアンチウェポンというか…
 私の天の邪鬼気質が設定として浮き上がった兄ちゃんです。
 
 私、こういうアヴェンジャータイプも大好きなんですよねぇ…。

 “貪り”は自分のために魂を食らうことにカミングアウトしてしまった悪神で、策士な上に英雄を破滅させて食らうことを至上の喜びにしているおっかない存在です。
 基本死神なので不死身ですが、その防御を打ち破る無属性の攻撃手段を持つ“神狩りの灰”は天敵です。
 
 こういった連中の暗躍も、今後ぽつぽつ出そうかなと。


 今回は+500SP(所持金1800SP)獲得です。
 
 
 〈著作情報〉2018年05月17日現在

 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。

 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。

 リプレイ環境であるCardWirthPy Rebootは2018年2月1日リリースされたCardWirthPy 2.3 - CWXEditor同梱版に拙作のカードワースダッシュStandard Editionを使ったスキンを作成してプレイしているものです。
 CardWirthPy Rebootは同名の開発サイト
 ( https://bitbucket.org/k4nagatsuki/cardwirthpy-reboot/wiki/Home )で配布されています。
 カードワースダッシュStandard Editionはこのブログのリンクから行ける、Y字の交差路別院にて配布しています。
 エンジンと付属物の著作権・開発状況・その他の情報は各配布元を御参照ください。

 【CW:リプレイ】、【CW:リプレイ、R】、【CW:リプレイ2】、【CWPyDS:リプレイ】等で書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 また私がお預かりしているMartさんの“風を駆る者たち”リプレイの記事を参考にした内容は、それぞれのシナリオそのものの著作権はそれそれの作者さんにあり、参照記事はMartさんに著作権があります。
 御了承下さい。

 リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。

 『魂の色』はZER0さんのシナリオです。現時点でgroupAsk official fansiteにて配布されている『寝る前サクッとカードワース_vol.4』に収録されています。
 シナリオの著作権は、ZER0さんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはver.1.21です。
 リプレイの登場人物・内容が違うのは、クロスオーバーで同じシナリオをやる方を意識して、どこまでいじれるか試してみたかったため、本筋こそ同じでもいろいろ別物になってたり。
 本筋は是非皆さんがプレイしてみて、見比べてみてくださいね。
 
 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。
 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
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コメント
 “貪り”に“神狩りの灰”と、今回は不穏な方々が登場しましたね。
 シグルトの行く道は平穏とは程遠そうで…読者として拝見する側からしたら、ワクワクしますね。
 当の本人からすれば、超常の存在に睨まれまくってる状況は、たまったものではないでしょうが(汗)

 今回のリプレイは、元のお話からかなり改造されたとの事でしたが。
 新キャラのスナーフヴィートさん可愛いですね、慌てて兜を取り落とすところとか。
 ちょっとほっこりしてしまいました。
 元ネタの人はもうちょっとおっかない印象でしたが、このくらい隙があった方が私は好みです(笑)

 それと、個人的にツボだったのが、彼女の使うルーンについて。
 悪霊の存在を固着化する場面で、テイワズのルーン…勇気や男性性を象徴するルーンが登場したのが、面白かったなぁと。

 私、個人的な趣味もあって、ルーンについてちょいと調べてみたのです。
 あの場面だけみれば、Y2つ様の解説にもあった、別の効果のルーンを使っても良い気がしたのですが。
 術式を悟らせない工夫とか、「できないことはない」という意味を込めるとか、複数の意図があっての、テイワズのルーンとは…
 こういう解釈もあるんだなぁと、とても興味深かったです。
【2018/05/18 19:30】 | モコイ #HE1By42c | [edit]
>“貪り”に“神狩りの灰”
 こいつらはY2つのリプレイに登場する超越者連中の一部です。
 どっちも一般レベルでは反則的に強いのですが、“貪り”は不死身なだけでレベルは一般冒険者的限界のちょびっと上、“神狩りの灰”は神仙型あたり。
 超越者たちには「あんまり一般人に関わってはならない」みたいな暗黙のルールがあって、シグルトはその才能型の特殊性から目をつけられている超越者候補ではあります。


>スナーフヴィート
 兜を落とす行為、実はわざとです。
 彼女は元巫女で部族のブレーンでもあった女性で、見た目の可憐さとはうらはらに意外と策士だったりします。
 まぁ、戦乙女としてはまだ若手なので実力的二は駆け出しなのですが。
 あざといですね!


> 魔術や呪術のリアル
 ファンタジー世界では実際に魔術の槍やら炎やらが飛び交っていますが、現実の魔術や呪術は泥臭いものだったりします。
 イメージとしては小説なんかの安倍晴明が、呪術戦で呪い返しをしたり、おまじない的に目には見えないけど「なんとなく願望が叶う」みたいな。
 例えば「霊魂を見る」というオカルト的なことに関しても、実は結構科学的な仮説を立てられます。霊能者の「みる」にはいくつか種類があって、「存在を視認するセンス的な奴」「現在過去未来を鑑定する(神通力)ムービー的な奴」「感覚が共感して追体験する感じの奴」とかがあります。目で見るというよりは「脳みそで受信する」のが感覚的に近いのではないかと。
 「霊が見えるなんて非科学的」という方は、「夢を見るのに近い感性で脳が情報を受信している」と脳生理学的に考えてみると分かり易いかも。見えるか見えないかは、その感覚があるかないかの差でしかないと考えれば多少科学的説明ではないかなと。
 魔術や呪術は、そういうものを神秘的な影響でわかる部分からアプローチをかけて使いこなせるようにする技術なのかもしれませんね。
 簡単に使われると、専門技術者としてのセキュリティに関わることでもあり、たいていは「わざと分かり難く神秘的にして、秘密の漏洩を避けている」もので、隠秘するものです。
 「なんとなくわかる・ありがたがられるレベル」にし、魔術や呪術を信じさせて効果を増す自己暗示や他者の願望や思念エネルギーの方向性を操作する野茂テクニックと言えるでしょう。
 ルーン文字なんかは「信じる人が多い大衆的な想念」を、使った人間が多いほど蓄積し、魔術的エネルギーとなっていることもあるでしょう。最初開発した頃は「物珍しさや稀少性に対する畏怖」なんかをパワーベースにしていたかもしれません。
 機械で観測が難しいオカルトの領域は、結構面倒くさい格式や行程やらがあるものなのです。

 自身に持っていない異性の因子を補うのも魔術的にはわりと普通です。
 神域なんかには他の異性が入るのを嫌うのも、神との疑似的な婚姻や性交渉を行って「神秘を生み出す豊穣」を現わすとか、古いお祭の密儀ではたくさんありますから、俗の異性が入ると穢れるというか白地に一滴黒い墨を垂らすような行為だったり。「無いものを生み出す」場合は、足りないものを合わせて生み出す、自然界の摂理を模倣しているわけです。
【2018/05/19 00:46】 | Y2つ #- | [edit]
 「シナリオの魅力すら否定されている気分にもなり、読後は面白さと複雑さが入り混じる心境」という厳しいご意見、有難う御座います。
 そして、申し訳ありません。
 基本的に「シナリオの原作者さんからの直接クレーム」が無い限り、こういった私なりの「オリジナル満点」なスタイルを変えるつもりは御座いません。まぁ、『魂の色』はスピンオフ的な内容で書けないか挑戦的な内容でもあったと思うのでやり過ぎた感は自分でも感じていたのですが、たぶん私って懲りないかもしれないので。
 「私の」リプレイ小説というジャンルは、プレイを振り返りながら「作者の自己補完」でつじつまを合わせて行く二次創作の一種だと思っているので、読む方は「同人誌みたいなもの」としてお読みくだされば。
 私は「シナリオの魅力を否定する」意味で書いているのでもなく、単にキャラクターやクロスに合わせて「プレイヤーとしての自分に都合がよく、好かろう(他者に良かろうではないのに注意)と思う内容」で書いています。内容が原作と乖離することも、ギャグキャラ(例えば禿茶瓶親父)で美少女ヒロインと恋愛があるシナリオをやることをそのままリプレイにしたとしても、それはそれで別ジャンルの作品になって、その乖離っぷりに笑えるそっちなりの需要を獲得するものだと思います。
 私はカードワースは著作権に注意した上で、「自由(フリー)」なゲームだと思います。不評を含めて評価を自分なりに受け止めるのも「自らによる」のだと思っていますので、多分性懲りも無くオリジナル要素を維持したまま書くと思います。これは私の原点的な特徴であり、リプレイ小説で表現しているのもこの作品形式が、私自身の物書きの立脚点ととらえているので、どうかお許しくださいね。

 オリジナル作品を、とのことでしたが、何作か黒歴史的なものを書いてはいます。
 ただ、それらをさらすにはあまりに内容が薄い+書いてて気に入らないのと、リプレイと違って設定狂いの私がオリジナル作品を書くと、話が暴走して上手くまとめられないでいます。今年の一月後半から時間も取れないでいるため、暇ができたらのった時に書き溜めたいなとは思っているのですが…いつ完成するのやら。
 風呂敷を広げるのは、形になるまで遠慮したいと思いますので、悪しからず御了承下さい。(ガクブル)
【2018/05/25 20:11】 | Y2つ #- | [edit]
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