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『碧海の都アレトゥーザ』 空に焦がれる踊り子

2018.07.06(20:42) 459

 ラムーナは潮騒の音を聞きながら、砂浜で飛ぶように舞っていた。
 
 師であるアデイが、軽く振ってくる枝を、ひらりひらりと避ける。
 唐突に足を払われるが、片足の動きだけで姿勢を速やかに整える。
 
 足元が柔らかな砂地であるのに完璧なバランスが維持され、動きの力強さは硬い地面の上で舞うそれに劣らない。

 一枚歯の下駄で疾走する類と同じ、重心の掌握術である。
 違うのは身体の柔軟性と平衡感覚を極限まで高めて、不安定な場所や格好でも体勢を立て直すことができるようになる、というこどだろうか。

 そういった技術を身につけさせるため、アデイはまずラムーナの体躯の矯正から始めた。
 
 長い間虐待されて育ったラムーナは、あちこちに骨格の歪みがあり、栄養不足で背も低かった。
 こんな体格では、美しい舞も激しい踊りも、行うことはできない。

 だから、骨格の矯正を促す念入りな準備運動を教えた。
 骨を真っ直ぐにするよう、その頭の上に物を乗せ、バランスの悪い塀の上を歩かせる。
 呑み込みが早いラムーナは、すぐにそれらをできるようになった。

 最初の闘舞術を学んだ頃、ラムーナの体格矯正に貢献したのが、シグルトだった。
 
 シグルトは自らも重い障害を持っていたが、それを感じさせず、綺麗に動くやり方を知ってた。
 ラムーナの骨格の歪みや、姿勢の悪さに関しても、直し方のアドバイスを与えたのだ。
 骨に好い食べ物から、準備体操の仕方、骨格を伸ばす懸垂の方法まで。

 生徒であるラムーナは、素直な性格の頑張り屋である。
 シグルト程厳しく激しくではないが、目に見えない努力を重ねていた。
 
 今回の技を習得するに至って、完全に自身の体格を直し、動く時にも綺麗な正中線を保持できるようになった。

 正中線とは人体の急所が集中する中心であり、平衡感覚に影響を与える芯でもある。
 この部分を真っ直ぐ保つだけで、姿勢がとても奇麗になり、動作に切れが出てくるのだ。
 所謂、〈背筋を伸ばす〉のである。
 
 バランスが整えば、力の入り方だってまるで違う。
 華奢なラムーナのような身体でも、頭蓋骨を粉砕するような蹴りや、自分の頭の位置を飛び越える跳躍が可能となる。
 
 レベッカが、ラムーナが自分の技で故障しないように、打撃部分に使う防具を作ってくれた。
 靴の爪先と踵に甲、アキレス腱には、軽く硬い樫と緩衝材を付けた簡易のプロテクター。
 肘や膝には、転倒時や敵への打撃時に、衝撃を逃してくれるパッド。
 これらは関節の動きを阻害しないように極小でとても軽い、強靭で携帯性に優れたものだ。
 
 ラムーナの戦い方は、素早い動きから踏み込んで行う肘や膝、蹴りによる打撃が中心で、剣は主に防御とフェイントに用いる。
 敵を足場にしたり、蹴ったり殴った反動も利用してヒット&ウェイを可能にする…魔剣である【スティング】は止めを刺す時は活躍するが、鋭利過ぎて動作を止められてしまうのだ。
 その代り、絶対折れない魔剣は、防御に使う場合頼もしい。
 
 もう一つ防御で活躍するのが金属製のバックラーだ。

 その小さな盾には、握りの部分に硬い半球状のカップがある。
 殴ってもよし、受けてもよし。
 体格に劣るラムーナが、敵を突き放したり押し上げたりする時、盾は大活躍する。

 元々大胆な性格のラムーナは素早い割りに繊細な回避行動が苦手だった。
 舞踏を取り入れて戦う軽戦士として、回避が苦手なのは致命的である。

 重装備ができる戦士たちと違い、素早い動きを重視する軽戦士は軽装になり、それ故に重い一撃を食らってしまうと即座に戦闘不能となり、倒れるまで行かずとも軸足や身体の要所に傷を負えば戦えなくなってしまう。

 ラムーナの悪癖に気付いたシグルトは、資金の目途が立つと早くから盾という補助的な防御手段を与えて対策を施した。
 戦闘においては英断であったが、今度は舞踏家として問題を発生させてしまう。

 片手に剣を持ち片手に盾を持つと、どうしても正中線が乱れてしまう。
 両手に形状と重さの違う物を持ったことで、左右の均衡が崩れてしまったのだ。

 盾の使用によって防御の大切さに気付かされたラムーナは、装備によって崩れた平衡感覚と戦い方の見直しとして、ちゃんとした防御系の舞踏を学ぼうと思い立ったのである。

 本来、生き物は左右対称にできているように見えて、細かい部分では左右非対称であることの方が多い。
 利き腕の筋力が発達して逆腕より太かったり、軸足の方がサイズが大きくなるといったことは普通に起きる。
 闘舞術にはそれを踏まえたバランスコントロールも、当然存在していた。

 それは歩法の〈円(サークル)〉と重心の〈転(スイング)〉である。

 バランスの悪いものであっても、回転している時は遠心力の移動でバランスが保たれている。
 独楽の回転によるバランスを例にすれば分かり易いだろうか。

 ラムーナが学んだ【幻惑の蝶】は、蝶のふわふわした飛翔を参考に、円運動と転運動による重心のコントロールで動きを損なわずに回避行動を続ける技能だ。
 身体にいくつもの円と旋回の力を与えることで〈気流と向かってくる力ににぶら下がる〉それは、決してバランスの均衡を損なうことが無い。

 独楽のような円、上下に浮き沈みする三次元的な歩み、そこに敵の攻撃が飛んできた時はそれに沿ってするりと回る。
 飛んでいる蝶に触れようとすると〈ひらり〉とすり抜ける、あの動作だ。

 複数の旋回点を持ち、時に敵の攻撃の瞬間に旋回点を相手に移してしまうことで、装備や体格のわずかなバランス崩壊を克服する。

 ラムーナは盾の慣熟を行う時、シグルトによって【接迫(バインド)】と、【感受(フィール)】という要素を学んでいた。
 そして、【幻惑の蝶】の動作は「【感受】で空間に【接迫】し【躱す】」ものなのである。
 〈空間〉にというのが最大のポイントで、敵の攻撃に接触することは、ギリギリのラインでしない。
 まさに、紙一重。

 実は、空間には何もないわけではない。
 何かが接近し合う時、間にある空気は移動するし、ぶつかり合う力が起こす振動や気勢というもので空間は常に変化している。
 空間に起きる変化を【感受】してそれに【接迫】するというのが、【幻惑の蝶】の持つ感覚を表現する時、一番近しい。
 だから、攻撃を受ける・流す・弾くではなく、見た目は触れずに【躱す】動きとなる。

 同時に、空間は緩衝材であり鎧だ。
 直接敵の攻撃に振れて防御をする場合、それによる影響が防御する側の動作を崩してしまう。
 皮一枚の空間こそが、防御と回避の境界線になっているのである。

 技能の習得によって優れた空間認識力を得たラムーナは、苦手な回避行動を補えるようになった。
 技の発動が必要ではあるが、【幻惑の蝶】の発動から盾によるディフェンスを行った時、ラムーナの回避力は熟練の戦士の攻撃をたやすく躱す。

 通常、ラムーナの攻撃力は技に頼らなければ低い。
 しかし、仲間に攻撃力を頼る場合、ラムーナは敵の攻撃を引き付けていれば良い。
 パーティによる戦い方に必要な役割分担を理解し、ラムーナは軽戦士が得意とする身軽さをさらに昇華させた。

 闘舞術と同じ南方大陸の武術には、倣獣術があるが、その動作には似通った部分が多分にあった。
 武器術ではなく体術として発展したので、闘舞術も倣獣術も、本来武器が無くても戦える技術を内包している。
 ラムーナの戦い方が、格闘的要素を持っているのは、そのためだ。
 
 より敵に接近する危険性が発生するため、今習っているような回避術の習得は急務であった。

 いつの間にか細かった腕と足は、安定した骨格としなやかな筋肉に包まれれ、スレンダーで綺麗な形に伸びた。
 猫背で歪んでいた腰骨と脊髄は真っ直ぐ延び、頭に十冊本を乗せたまま日常が過ごせるほどに安定している。
 左右の手に違う物を持っていても正中線がぶれなくなり、重心の変化があっても即座に対応できる。

 食生活の改善により、発育不良で貧相だった肉付きは、舞踏に邪魔にならず美しさを損なわないギリギリの範囲で丸みを帯び、爽やかな色気を醸し出す。
 本来リバウンドで腹部に蓄積されるはずの脂肪は、成長と鍛錬による運動で消費され、舞踏によって培われたごつさの無い筋肉によって醜く弛むことも無い。
 背が10㎝以上背が伸びた印象を与え、搾られた芸術的な8の字体形は雰囲気が以前とは全く異なる。
 そこに、民族的な特徴である又下の高さ、締まった少女らしい臀部が、数々の歪みを治すことで猫科の獣のように流麗な機能美を宿すようになっていた。

 ラムーナは元々、卑屈で歪んだ笑顔を作る癖があった。
 暖かい仲間の愛情に包まれ、今は自然に、柔らかく笑えるようになっている。

 色気や美しさを武器にするレベッカの影響もあって、ちょっとだけ化粧も覚えた。

 陽気で、身綺麗にすれば容貌も整っているラムーナである。
 努力が実を結んだ時、文字通り彼女は変身した…蝶の蛹が羽化するかのように。

 彼女が踊ると、周囲はその存在感と美しさに圧倒される。

 苦労から少しだけ憂いを含む濡れた瞳。
 小麦色の肌は躍動的にしなり、飛び散る汗が陽光を浴びてキラキラと煌いていた。

 ラムーナ自身は、自分がそれほど美しくなったとは思っていない。
 だが、踊る彼女を見る者は、華麗さに目を奪われる。

 不幸だった少女は、鎖や頸木から解き放たれた。
 空を舞う蝶のように、遠く、高く舞い踊れるのだ。
 
「…素晴らしいわ。
 
 それが闘舞術の要、【幻惑の蝶】。
 【連捷の蜂】と一緒に使いこなせば、攻防を備えた闘いの舞踏を踊れるでしょう」
 
 師であるアデイの言葉に、ラムーナの瞳が輝く。
 それだけで花が開くように、周囲の空気が変わる。

 アデイは、この愛らしい弟子の成長を自分のことのように嬉しく感じた。
 
「この舞踊は、ぬかるみや砂地でも自在に舞を踊る技。
 
 もし回避の姿勢を奪われても、次の瞬間には即座に体勢を整えることができるわ。
 束縛からも抜け出せる、回避術の極みよ。
 
 闘舞術は拘束を嫌う、解放の技。
 その根本は〈自由〉を体現する。
 
 女の子はね、筋骨隆々である必要はないわ。
 タフネスが無くても、敵の攻撃は躱せばいいの。
 
 〝蝶のように舞い、蜂のように刺す〟
 
 優雅で素敵な踊りでしょう?」
 
 ラムーナが嬉しそうに頷く。

 この少女は気が付いているだろうか?
 自分の笑顔が、こんなにも美しいことを。

「私はこの踊りが好き。
 まるであの空の向こうに、飛んでいけそうな気がするの。

 蝶々って、とても儚い虫さんだけど…凄く一生懸命生きているわ。
 私はあんな風に、綺麗で軽やかでいたい。

 そして何時か、本当にあの空を翔べるような舞踏を踊ってみたい…」

 かつて自由に焦がれた少女は、今はどこまでも続く空のように成りたいと願っていた。
 そこには彼女が抱く、本当の自由があるように思えるのだ。

 少女は、夕日に染まりつつある果てしない南海の水平線と、求めて止まない空を見上げた。
 その情景は、自由という空に焦がれた、ラムーナの心に燃える情熱の炎のように…
 
 赤く、紅く、幻想的であった。



 ラムーナのショートエピソード、再録です。
 ちょっぴり技術テイストを足しました。

 【幻惑の蝶】、付帯能力や【聖霊の盾】の強さに隠れる上に、一度使うと死にスキルになり易いせいか…見てくれで使う人いT買いにはいまいち人気が無いかもしれません。
 いいんだ、いいんだ!何れこれから化ける、舞踏系の能力作ってやるもん!

 回避低下のギミックやデバフがある時、このスキルはカウンターになります。
 あと呪縛対策のスキルでもあって、さらに〈攻撃スキルではない舞踏〉でもあるので、殺傷効果無しでキーコードが必要な場合、地味に使えたりします。

 攻撃を受けると消費してしまうのですが、回避+2であり、発動による回避効果+5をディスペルされてもちゃんと回避力を維持できる仕掛けになっています。
 見切りなんかと上手に重ねると安定した回避向上が見込めるため、発動中はとにかく攻撃を貰わなくなるはずなのです。

 呪縛対策、実は高レベルのカードワースのバトルではとても大切。
 というのも、あまりに麻痺・石化が強すぎたため、カードワースで使われる行動不能制限と言えば睡眠や呪縛が良く使われるのです。

 扱いにはある程度勘のようなものも必要なんですが、戦前付与ができる点で強い!

 それと舞踏家は、敏捷系の性格の関係から大胆になりやすい傾向があります。
 大胆性、回避力を低下させてしまうのです。

 ひらひら回避したい!でも実際は回避が苦手というジレンマ。
 それを補えるスキルでもあります。

 高レベルに達したら、是非「蝶の様に舞い、蜂の様に刺す」をお試し下さい。


 今回の買い物は以下の通り。

 【幻惑の蝶】-1000SP


〈著作情報〉2018年07月06日現在

 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。

 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。

 リプレイ環境であるCardWirthPy Rebootは2018年2月1日リリースされたCardWirthPy 2.3 - CWXEditor同梱版に拙作のカードワースダッシュStandard Editionを使ったスキンを作成してプレイしているものです。
 CardWirthPy Rebootは同名の開発サイト
 ( https://bitbucket.org/k4nagatsuki/cardwirthpy-reboot/wiki/Home )で配布されています。
 カードワースダッシュStandard Editionはこのブログのリンクから行ける、Y字の交差路別院にて配布しています。
 エンジンと付属物の著作権・開発状況・その他の情報は各配布元を御参照ください。

 【CW:リプレイ】、【CW:リプレイ、R】、【CW:リプレイ2】、【CWPyDS:リプレイ】等で書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 また私がお預かりしているMartさんの“風を駆る者たち”リプレイの記事を参考にした内容は、それぞれのシナリオそのものの著作権はそれそれの作者さんにあり、参照記事はMartさんに著作権があります。
 御了承下さい。
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。

 『碧海の都アレトゥーザ』はMartさんのシナリオです。現時点でVectorにて配布されています。
 シナリオの著作権は、Martさんにあります。
 このリプレイの時のバージョンはVer1.22です。
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