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PC3:フィリ

2018.07.22(20:04) 465

 マルディアン帝国とギマール共和国によるラトリア王国侵攻は、収束へと向かっていた。 

 隙をついて電撃戦を行ったマルディアン帝国軍がラトリア王国の王都を奪い、ギマール共和国軍は敗走。
 現在は、マルディアン帝国軍によるラトリア王国の残党とギマール共和国の敗残兵の掃討戦が行われている。

 帝国の側で、一際派手に戦う男がいた。 

 一見痩せたその男は、見た目に似合わない十字を象った美しい大剣で、近寄ってくる兵士を薙ぎ払った。
 たった一撃で、斬り伏せられた兵士は声も上げす絶命する。
 
 病的なまでに白く血の気の無い顔立ちは中性的で美しく、どこか退廃的な雰囲気を纏っている。
 口元に浮かべた冷たい笑みは、戦場では敵を恐怖させる不気味な迫力をかもし出していた。
 
 派手な刺繍をした、しかし全体的には質素な紺色の上着を着ている。
 それはどこか僧服に似た作りであった。
 首からさげた聖印や持った剣からも、敬虔な聖北教徒であることが見て取れる。
 
 他の兵士が簡素でも鎧姿なのに対し、随分と浮いた格好ではあったのだが…
 
 男が振るう剣は、一撃一撃が必殺。
 兜の上から頭を叩き割られ、また一人兵士が倒れる。
 
「芸のないことですね。
 
 罪深き略奪の輩は、業火に焼かれるのがお似合いです。
 婦女子のいる修道院を襲うなど、許されることではありません。
 
 主の怒りを知りなさい…外道ども」
 
 首を刎ねられ、血を吹いて兵士が倒れ伏す。
 
「ひ、ひぃ…
 
 お、俺は上の命令でやっただけだっ!
 それに、偽装しちゃいるが本当は味方なんだぜ?
 あんたたちを雇ったのは、今回は俺たちマルディアンの方…ぐぎゃぁっ!」
 
 全てを語らせる前に、男は喋りだした兵士の頭蓋を割った。
 
「ここには、光り輝く聖女様がおられたのです。
 
 聖域を汚した貴方たちは、死すら生ぬるい。
 悪魔のいる地獄がお似合いですよ」

 淡々と惨殺して行くその姿は、男の味方たちすら震え上がる迫力だった。
 彼は、修道院を襲ったマルディアンの兵二十名ほどのうち、すでに半数をただ一人で斬り殺していた。
 
「や、やべぇよ…
 
 いくらなんでも、味方を…」
 
 優男の部下らしい男が、引きつった顔でおそるおそる声をかけた。
 
「…おかしいですね?
 私は常日頃から侵攻を態度で示し、〈修道院や教会への狼藉は決して許さない。私の目の前で行ったのならば、味方であっても殺す〉と宣言していました。
 召喚が集まる場所で、他の傭兵団やギマール将兵にもはっきり告げたはずです。

 それに、ここを襲ったのは〈敵国ギマールの兵士〉だったはずです。
 私たちは悪辣な逆賊を退治して、神聖なる園に蔓延る穢れを掃ったに過ぎません。
 
 なのに、私の殺したのは味方だと?

 無抵抗の者から聖印を奪い、修道女に乱暴を働いた下種どもが、味方?
 貴方の目は腐っているのですか?
 
 …それとも、貴方もこの輩と同じ悪の手先だとでも言うのですか?」
 
 優男は剣を振るって、剣についた血をビシャリと払う。
 飛んできた血を浴び、優男に話しかけていた男は、ひぃ、となさけない声を上げた。
 
「…違うというなら、ほら。
 頑張って主の怨敵を屠りなさい。
 まだ少し残っていますよ。
 
 貴方にその大役をまかせましょう」
 
 返り血を拭いつつ、ニコニコと笑う優男。
 壊れた人形のようにコクコクと頷くと、その男は走り去った。
 
「…えげつねぇな、ジョージ。
 
 やる以上は徹底的にやるってのは俺も賛成なんだがな。
 団長が許可した略奪以外は絶対やらねぇのが、俺たち〈雪狼団〉の掟だ。

 友軍として一緒に行動するなら、俺たち雪狼の誇りに誓って、下種には従わねぇし鬼畜の所業は許さねぇ…それも言ってあったはずだが、無視しやがったのは殺された連中だ。
 ま、聖北の札をぶら下げたお前の前で教会の関係施設を襲うなんざ、大馬鹿としか言いようが言いようがねぇ。

 とはいえ、やりすぎだ。
 ちっと落ち着けや。

 全く貧乏くじだぜ、お前のお守りはよ」
 
 髭面のたくましい男が歩いてきた。
 優男をなだめつつも、手に持った剣は血に染まっている。
 
「…ナルグさん、いつも言っていますが、私の名はアレクセイです。
 
 聖名を呼ぶならゲオルグ。
 適当に呼ばないで下さいよ」
 
 拗ねたように口を尖らすと、優男は大剣を背負った。
 
「いいじゃねえか。
 ゲオルグってのは有名な竜退治の聖ジョージのことだろ?
 
 …呼びやすいしよっ」
 
 がはは、と笑う髭面。
 優男、アレクセイは大きな溜息を吐いた。
 
「ま、疲れた顔するのも、問答も後だ。
 
 まだ本物のギマールの敗残兵どもも、いるようだしな。
 まとめてしっかり〈敵〉は狩らねぇといけねぇ…」
 
 歯をむき出して、髭面は下品に笑った。
 
 アレクセイという優男と、ナルグというこの髭面の男は〈雪狼団〉という傭兵団に属す将兵である。 
 
 この度のラトリア侵攻において、勝者がマルディアン帝国になったのは〈雪狼団〉の迅速な活躍故であった。
 “魔狼”の異名をとる隻眼の猛将ビュリカが率いる傭兵〈雪狼団〉の武勇はラダニールで知らぬ者はいない。

 ビュリカは船足の早い小型船を用意してゼセルダ湖を南下し、南のギマール軍に戦力を割かれて手薄になっていたラトリア北端の砦を、即座に攻め落とした。
 後に続いて森を強行軍で抜けたマルディアン帝国の英雄レグジードが、本隊をもって王都を陥落させたのである。
 
 戦争の多いラダニールで、傭兵は花形であった。
 
 〈雪狼団〉の団長ビュリカは、早くから傭兵として大成し、ラダニールの戦場を巡って走り回り、敗戦で生まれた元軍人の浪人や荒くれ者、戦災孤児を集めて数千からなる傭兵団を組織した。
 戦場で生き残り、磨かれ、屈強の精鋭となった戦の申し子たちは、ビュリカという王狼の元、戦いという狩りに酔いしれていた。
 
 〈雪狼団〉。
 ラダニール最強の傭兵団として知られ、団長のビュリカはその武勇と男ぶりから、〈ラダニール五雄〉の一人と呼ばれた。
 
 マルディアン帝国の若き剣聖、“天剣の将”レグジード。
 エルトリア王国の大将軍、“銀髪の猛虎”カーライル。
 ギマール共和国の元首、“静寂の暴君”ジュナス。
 ギマールの大将、“黒龍将”ガダウス。
 そして国無き傭兵団首領、“魔狼”ビュリカ。
 
 五雄以外にも名の知られた英雄たちはたくさんいる。
 ラダニールは群雄割拠の時代であった。
 
 ナルグは〈雪狼団〉の副団長で、実質ナンバー2だ。
 “銀刃の牙”と恐れられる屈強の剣豪である。
 
 アレクセイは、まだ十代後半という若さで小隊を任されている。
 ナルグが拾い、そして育てた秘蔵っ子であった。
 蛮勇の傭兵たちに在って、その剛勇は“裁断者”という二つ名とともに知られ始めていた。
 
「…で、お前のお姫様がこの修道院にいたってことだな?」
 
 ナルグは周囲を警戒しながらアレクセイに問う。
 
 アレクセイはラトリア王国伯爵家の生まれながら、王太子の謀略による家の没落で身を男娼に落とし、その後殺人罪を犯して逃亡。
 戦場で彷徨っていたところをナルグに拾われた、という壮絶な過去を持つ。
 
 今回のラトリア侵攻で、アレクセイの土地勘は〈雪狼団〉に大きく貢献した。
 
 加えてアレクセイはラトリア総大将ワイルズ侯爵の親戚である。
 アレクセイの母は、ラトリア国王の異母妹であるエルナの母親とは父方の従姉妹同士で、アレクセイはエルナの婚約者候補だった。
 幼少の折には一緒に遊んだ記憶もある。 
 
「…“私の”とは恐れ多いのですが。
 
 大切な方です。
 そう、私にとって聖女様なのです」
 
 熱に浮かれたように、アレクセイは拳を握り締めて天を仰いでいる。
 それを見てナルグは口端を引きつらせた。
 
「あいもかわらず、臭ぇこというな、お前。
 
 俺にはできねぇぜ、《私にとって…》、うげ、鳥肌立ってきやがった」
 
 ナルグの失礼な言い草も気にせず、アレクセイは自分の世界に浸っている。
 
「そう、あれは忘れもしない。
 
 私が六歳の頃…
 初めて逢ったあの方は、その白雪のような頬を紅く染めて微笑み、私をアレクと呼んで…」
 
 ナルグは本気で耳を塞ごうとして、しかし急に鋭い目をした。
 
「ふ、副だんちょぉおおおお!!!」
 
 叫んで走ってくる男がいた。
 ナルグたちの仲間である傭兵だ。
 
「どうした?
 
 イエティにでも出くわしたような面しやがって…」
 
 至極冷静にナルグは聞く。
 アレクセイも押し黙った。
 
「そ、それが…
 
 先行していたマルディアンの下種どもが、殺されてやがるんです。
 あと、殺された婆さんが一人。
 
 見てくれからいって、死体の兵士どもは三流っぽいですが、五人もだ。
 
 かなりの使い手かもしれねぇ」
 
 アレクセイは即座に走り出した。
 それにナルグも続く。
 
「…お前の言うカーティン家のお姫様関係か?
 
 ギマールの連中に攫われたとしたら、痛いぜ。
 なにしろ、ラトリアの残党を束ねる総大将の娘だ。
 
 なんとか俺たちが確保しねぇとな」
 
 走りながらナルグが言うと、アレクセイは苛立ったように奥歯をぎりりと噛み締める。
 
「あの方を人質や政治の道具のように言う、ナルグさんの言葉には癪ですが…
 それはまた後で話しましょう。
 急がなければ…
 
 あの方を保護し守るのは、この私の役目。
 ギマールの悪漢などに指一本触れさせるものですかっ!!!」
 
 アレクセイは秀麗な顔を強張らせ、八重歯をむき出して疾走した。
 
 
 その頃…
 オルフとエルナは休息を終え、これからの対策を練っているところだった。
 
「俺はこのまま西に行って、ギーガー河沿いに下りイルファタルを目指すつもりだ。
 
 イルファタルの港からなら陸路でも海路でも南に行けるし、聖海教会の影響が強い独立都市国家で、周囲にグロザルム地方の有力な国が散ってるあの辺までだと、そうそう追ってくる連中もいねぇだろうしな。
 こっからあの森を越えて隣国に出ちまえば同盟結んだ連邦の中だから、おいそれとでかい軍隊は入り込めねぇ。
 
 水賊に注意して上手く行きゃあ、水運を使って難所越えもできる。
 河の道は、海側に出る時に限っては、わりと楽だって話だぜ」
 
 オルフの言う連邦とは、アルトヴァルト諸侯国連邦と呼ばれる連合国家群である。
 大国に対抗するため、〈古の森(アルトヴァルト)〉という広大な森林に網目のような道を作って乱立している小さな国の集まりで、各国そのものの力は弱いが、どこか一つが侵略されたのならば一丸となって攻め込んだ国に対抗する、という盟約がある。

 元はマルディアン帝国に対してできた同盟であり、ラトリア王国とは一応の友好関係であったため、マルディアンに敵対しギマールに捨てられた敗残の恩赦兵としての立場なら、割合亡命はたやすいと踏んでいる。
 敵の敵は味方というわけだ。
 手土産は、敵国の新しい情報でよいだろう。
  
「お姫さんは、何とか河を渡って南のカーティン侯爵領に行くか、近くの教会に保護してもらって、エンセルデルの法王庁まで行けばいい。
 
 カーティンの家柄なら、あの国は無下にはしないだろうからな」
 
 オルフは簡単な地図を描いて説明する。
 各国の分布と簡単に河と湖を書き込んだものだが、エルナは感心したように頷いていた。
 
「…驚いたわ。
 
 バドリアは、普通の民が字を書けるの?
 それに随分正確な地理を知っているのね」
 
 場違いな質問であるが、もっともなことである。
 
 学問は、思想を産み争いの火種となるため、貴族たちは平民が学問を学ぶことを嫌うのだ。
 オルフの出身国バドリアも貴族主義の国だったのだが、オルフのような貧農の識字率は皆無といってよかった。
 
「…バドリアが負けた後、戦争犯罪人扱いで掴まっててな。
 何年かギマールの捕虜収監所で強制労働させられていたんだが…
 
 政治犯って罪状で掴まってた相部屋の爺さんが、夜中にこっそり字や地理を教えてくれたんだよ。
 俺みたいな賎民出の阿呆にも、分け隔てなく接してくれた。
 好い人だったな…
 
 俺は落ちこぼれだったが、学問は面白かったから寝るのを惜しんで教えてもらった。
 よく寝不足で、爺さんと一緒に監守にどやされてたぜ」
 
 余談であるが、オルフが学んだ老人は“共和の父”と呼ばれる北方の革命家サギーニである。
 彼は若き頃、ギマール共和国樹立に貢献したが、軍事国家に変容するギマール政府を非難して政治犯として囚われ、オルフがその最期を看取ったのだ。
 
 オルフが戦場で生き残ってこれたのは、サギーニに学んだ学問のおかげでもある。
 
 ギマールと言えば、かつては学問と自由の国であった。
 
 統一帝国で敷かれたかつての共和制から学び、この閉鎖的なラダニールに新しい文化の一石を投じたとも言われている。
 西のアドルリア連邦樹立の父ハースや、神学に革命をもたらしたガレグリオ枢機卿。
 大国マルディアンを相手に、失われた領土を取り戻したクラウスの摂政“北の麗賢”エルデリーダの師、大賢者グリーデンも、軍事主義に変わる前のギマールの学徒であった。
 
「…ま、こんな話は置いておいてだ。
 
 お姫さん、あんたはどうするんだ?」
 
 話を戻したオルフ。
 エルナは強い意志を宿した瞳でじっとオルフを見返した。
 
「…私も一緒に南に行きたい」
 
 信じられないという顔で驚くオルフに、エルナは弱々しく微笑んで話を続ける。
 
「これから私の父は残ったラトリアの者たちをまとめ、第三王女セリニア殿下を奉じてラトリアの復旧活動を始めるでしょう。
 
 間違いなくマルディアンに、反乱分子として狙われることになるわ。
 そんな時、娘の私がこのラダニールに存在すれば、政治の道具として狙われ、掴まれば父たちにも迷惑をかけることになるでしょう。
 それに、冬のギーガー河を越えるのは無理そうね。

 このあたりの教会も、修道院同様に襲われれば、教会の関係者に迷惑がかかるでしょう。 
 法王庁にも、各国の影響は強いわ。
 ラトリアを滅ぼしたマルディアン出身の枢機卿もいる。
 
 すでにラダニールは私の安住の地足りえず、私という存在は争いの火種になりかねない。
 
 マーサは親戚の貴族を頼って、エンセルデルの法王庁に行くべきだと言っていたけれど…
 私は、ラトリア王都が陥落したのであれば、ラダニール地方から出ようと考えていたの。
 でも結局、行くあても無くて迷っていた。
 
 …そんな時、貴方に逢ったわ。
 
 貴族育ちの私に、できることなんて少ないでしょう。
 けれど、私は利用されるだけの道具にも、親しかった人たちの荷物にもなりたくない。
 だから、その…
 
 オルフと一緒に、南に行くのは、ダメかしら?」
 
 腕を組んでオルフは考え込む。
 やがて、吐き出すように低い声で答えた。
 
「…正直、俺も行くあてなんて無ぇ。
 戻る国も無いし、ギマールに戻ってもたぶん戦争三昧で終わっちまう。
 
 だから、とりあえず南に行くだけだ。
 
 どこで野たれ死ぬかもわからねぇ。
 この国を出るのだって、ほんとはできるかあやしいところだ。
 
 …それでも俺についてくる気か?」
 
 エルナは強く頷いた。
 
「―――貴方が許してくれるなら。
 
 それに、お互い何も無いなら、二人でならできることもあるかもしれないわ。
 迷惑をかけることに、なるかも知れないけど」
 
 オルフは正直なエルナの言葉に苦笑いする。
 
 エルナとは、何れ別れると考えていた。
 しかし、長い間孤独だったオルフは、どこか妹に似ているエルナと別れることを寂しくも思っていた。
 
「…《麦の穂は茎があって実る》か」
 
 頼るもの無くして物は存在できない。
 人も協力して生きるべきである、という意味の故郷の言葉。
 
「…おぉ、いい言葉。
 
 兄さん博識だねぇ」
 
 突然かけられた声に、即座にオルフは剣を構えた。
 エルナも緊張したように、声のした方角を見る。
 
「待った待ったっ!
 
 敵じゃないっての。
 とりあえず話をさせてよぅ…」
 
 そういって近くの茂みからひょっこりと現れたのは、驚いたことに子供の上半身だった。
 
 年の頃は十二、三か。
 発育不良のようで、背は低い。
 頭巾でくすんだアッシュブロンドを覆っていた。
 灰色の瞳はどこか人懐っこい光を宿している。 
 背には弓を背負っているが、弦は張っていない。
 腰に手斧を吊り、動きやすそうな服と革製の簡易防具を身につけている。
 
 子供は愛想笑いを浮かべつつ、慎重に近くの茂みから這い出してきた。
 
「ボクのことはフィリって呼んでね。
 
 西方諸国…というか、ここからだと南になるのかな。
 あっちの方から仲間と旅してきてたんだけど、戦争に巻き込まれてはぐれちゃってね~
 
 この国での目的は果たしたんだけど、一人でほっぽり出されて困ってたんだ。
 
 さっきなんか、血走った目をした兵隊どもが走り回ってて、慌ててここに隠れたんだけど…
 疲れて寝てたら、お兄さんたちが話をしててさ。
 
 そしたら、ここから逃げようって相談してて。
 なんだが仲間になれそうな人たちみたいに感じてね。

 しかも、都合よく南に行こうって話しじゃない。
 
 いや~、天の助けというか、運命だねこれって」
 
 馴れ馴れしくまくし立てる子供に、オルフとエルナはぽかんとした顔になった。
 
「この辺の地理は弱いけど、イルファタルから西方諸国に行くルートは知ってるよ。

 連邦で使える国境の通行証も、先日まで同行者がいたから…じゃじゃ~ん!
 四人まで大丈夫ってのを携帯してる。
 
 お兄さん強そうだし、もし協力してくれるならボクも手を貸す。
 突然な話なんだけど、西方諸国に着くまで仲間にならない?」
 
 待て、とオルフは落ち着こうとして子供の言葉を遮る。
 
「降って湧いた話で、訳がわからん。
 
 フィリだっけか?
 坊主、お前…」
 
 途端、子供はぐいとオルフに近寄って指を突きつけた。
 
「お兄さん、レディに対して坊主は失礼だよ。
 
 ボクは女の子。
 レミ村のフィランヌ。

 ぴっちぴちの十二歳だよ」
 
 よく見れば線の細さや微妙に腰の丸みから、この子供が女であろうと分かる。
 
「この格好は、世知辛い旅で、血の気の多い狼さんたちから身を守る処世術ってやつなんだよ。
 
 女の子だと、こんなつるぺたんな小娘にすら鼻息が荒くなる変態さんもいるしね。
 いたいけな少女に乱暴するなんて、ほんと悪い人たちだよ。
 
 そういうわけで、ま、間違われるのは仕方ないんだけどね~」
 
 すっかり相手のペースに飲まれ、オルフとエルナは顔を見合わせた。
 やがて、エルナが恐る恐る話しかける。
 
「あのね、フィリちゃん。
 
 それで、あなたはとりあえず私たちと一緒にイルファタルに向かいたい、ということなのよね?」
 
 エルナの問いに大きく頷くと、フィリと名乗ったボーイッシュな少女はニカリ、と笑った。
 
「贅沢を言えば、はぐれた仲間と合流して帰れれば嬉しいけどね。
 
 そいつ…バッツて奴なんだけど、根性無いかわりに女の名前覚えるのと逃げるのは得意なんだ。
 アイツの力を借りれば、さらに逃亡しやすくなると思うよ。
 
 気難しい奴だけど、お姉さんがちょっと目を潤ませて〈お願い〉すれば、楽勝、楽勝。
 
 はぐれた時はラトリアの西の国境線にある森で落ち合うことになってるから、そこに向かえばきっと会えるよ。
 二人より三人、三人よりは四人、ってね。
 
 それに、さっきの様子からすると行くあても職のあてもないんでしょ?
 
 ボクたちが来た西方諸国の、リューンていう交易都市にいけば、職の一つぐらいは何とかできると思うよ。
 このあたりより戦争が少なくて楽しいところだってことは、保障するし。
 
 ねっ、ねっ、手を組もうよ~」
 
 オルフとエルナは互いに肩をすくめると、頷き合って苦笑した。
 
 
 その後、オルフ、エルナ、フィリの三人は西に向けて出発した。
 始終賑やかに喋っているフィリは、旅慣れた様子であった。
 
 話の内容は、このラダニールに来てから見た場所や、戦争についてが主である。
 
「…というわけで、南のエルトリア王国はいい国だったのよ~
 さすがは名君“雪原の獅子”が治めてるだけあるよね。
 
 知ってる?
 あの国って、平民出身でも強くて頭さえよければ軍学を学べる、修士館という学校があるんだって。
 最近、修士館を出たあの国の王女様が、上位の軍職に推挙されるって話だよ。
 女の仕官が認められているんだ。
 
 女性の権利が確立されてるなんて、進んでるよね~
 このあたりって、女性差別する国が多いでしょ。
 ボクも子供で女だからって、随分酷い態度を取られてるんだよね」
 
 フィリの賑やかさに辟易しつつも、この少女の陽気さは二人の心を慰めていた。
 
 話によると、フィリはこの年で冒険者という職業に就いているのだという。
 
「いや~、故郷が黒死病にやられてさぁ。
 街ごと燃やされちゃったんだ。
 
 ボクは父さんが町外れに住む狩人だったから、病気には罹らなかったんだけど、街を焼く兵士に怒って抗議した父さんはあっけなく殺されちゃってね。
 母さんはボクが小さい頃に死んじゃったから、天涯孤独になっちゃったの。
 仕方なくリューンに流れていって、そこで子供でもなれる冒険者って職業を見つけて就職したというわけ。
 
 今回の旅は初仕事で、イルファタルまで相棒と荷物を届けるだけだったんだけど、荷物をスリにやられてこんなところまで追いかけて来たんだよ。
 そのスリが、荷物を渡す相手の敵対組織の連中で、何とかこの国のウェイデンの街で捕まえたんだけど、見事に戦争に巻き込まれちゃったんだ。
 
 ところで…お兄さんはギマール軍の兵装だから兵士として、美人のお姉さんはお坊さん?
 それにしてはちょっと服装が違うみたいだけど…」
 
 エルナの衣装は修道服ではあるが、刺繍などの細かい部分が違う。
 全体的にもかなり良質のものだ。
 
「私は…」
 
 自分のことを正直に話そうとするエルナを、慌ててオルフが止める。
 エルナは微笑んで首を横に振った。
 
「仲間に隠し事はいけないわ、オルフ。
 
 …ごめんなさいね、彼に悪気はないの。
 私の出自は、下手に話すと危険を伴うから。
 
 あのね、フィリちゃん…

 エルネード・マリア・カーティンというのが私の本当の名前。
 ラトリア軍の大将軍、ワイルズ・アントニヌス・カーティンの娘よ。
 
 父はこの国の南にあるウェールハインの領主で、侯爵の名誉を戴いているの」
 
 フィリが驚きで目を見開いて硬直する。
 
「え、え~、えぇっ、えっ?!
 
 カ、カーティンって、もしかしてあの“白銀の勇将”ワイルズ将軍?
 ラトリア最強の英雄で有名な?」
 
 ワイルズ将軍といえば、北方では国際的な英雄である。
 彼をラダニール十傑という枠に数える者もいるぐらいだ。
 高潔で民を大切にする気質は多くの支持者を得、人はワイルズを名君と評している。
 また貴族に伝わる古い剣術の使い手で、ある意味、今のカーティン侯爵家はワイルズの武勲と共に語られるほどだ。
 
「そ、それじゃあ、マルディアンの兵士たちが血眼になって探してるラトリア軍総大将の一人娘って、お姉さん?
 
 す、凄い大人物じゃないっ!!!」
 
 そんなことないわ、とエルナが微笑むが、フィリは興奮した様子だった。
 
「わ、わかった。
 
 絶対、秘密にする。
 ボク、約束は守るから。
 
 信頼してくれて話してくれたんだもん」
 
 フィリの言葉に、エルナは嬉しそうにその手を取る。
 照れくさそうに笑うフィリ。
 その横でオルフは安堵したように、ぶはっと息を吐いた。



 脳天気マシンガントーク娘、フィリ登場です。

 所謂オールラウンダータイプの戦士で、白兵戦に弓、斥候までできてしまうレンジャータイプ。
 Y2つのシナリオ、『野伏の教え』の弓をメインに、手斧をぶん回して戦わせる予定です。

 カードワースダッシュは、子供がやや不利という特徴があります。
 筋力と生命力がやや低くなっているのです。
 ただ、冒険者の能力値に関しては補正が入っているため、オリジナルエンジンのキャラクターと合計はおんなじぐらいになるはず。

 オリジナルカードワースでは器用度・敏捷度が高い傾向があった子供ですが、実は成長すると筋力と生命力が増える代わりに器用度・敏捷度が減ってしまうのですね。この特性から、子供から大人に成長させるのをためらってしまって。
 私はこの「将来的に器用度・敏捷度が下がる前提の強さ」が、若者に成長すること相反する気がして、ダッシュではいじってあります。

 子供:筋力・生命力若干低め
 若者:全能力値平均的
 大人:生命力は下がるが精神力アップ
 老人:敏捷度・筋力が大人より各1減少し、知力が上がる

 こんな感じですね。
 EPの消費が少なくなるだけだったオリジナルと違い、独特な成長過程に変更しました。

 オリジナルのカードワースではもう一つ、標準型と万能型>勇将型と知将型>豪傑型と策士型、という才能型能力値合計の差があります。
 極端な能力値の傾向である代わりに、合計値は下がってしまう、という仕様だったんですね。
 ダッシュでは全通常才能型の合計は同じにしました。この方が平等感があるかな、と。

 標準型:精神力が優秀
 万能型:精神力がちょっと低く、器用度やや高い、敏捷度高め
 勇将型:知力がちょっと低く、筋力・生命力・精神力がやや高め、とても勇猛
 豪傑型:器用度と知力がやや低め、筋力と生命力が優秀、好戦的
 知将型:知力と精神力がやや高め
 策士型:筋力と生命力がやや低め、器用度と敏捷度やや高め、知力が優秀、狡猾

 勇将型は僧兵みたいなタイプにもできますし、知将型は精霊術師や僧侶としても使える傾向になっています。
 無論、オリジナルのピーキーで極端な感じも、あれはあれでよい味出してますがね。


 フィリは歩幅が無いため素早くなく、脳筋な感じの能力値。
 勇猛かつ好戦なので戦闘は得意で、フェイント・会心の一撃・攻撃・渾身の一撃をそつなく使いこなせます。
 
 特別突出した能力値は無いですが、野生児っぽいタフネスがあって、将来が楽しみ。

 今回のリプレイでははっきり下賎の出を入れました。
 旧リプレイの利己的な性質の代わりに、貪欲で混沌派にしてあります。
 人間としての良心には誠実でお人好しですが、穏健ではなく過激で戦士っぽい雰囲気を強調しました。

 名乗はレミ村のフィランヌとし、姓は持ってないことになります。

 
◇フィリ(レミ村のフィランヌ)
 女性 子供 勇将型

下賎の出   不心得者   誠実
冷静沈着   貪欲     混沌派
鈍感     過激     楽観的
遊び人    陽気     謙虚
軟派     お人好し   名誉こそ命

器用度:9 敏捷度:4 知 力:4
筋 力:8 生命力:7 精神力:5

好戦性+2 社交性+2 勇猛性+2

 
 なお、今回最初に登場したアレクセイは、旧リプレイの頃らっこあらさんという方がの作ってくれたキャラクターです。
 再録に当たり、もう少しいじるかもしれません。
 私にこういうキャラを渡すといじり倒すので…すみません。
 
 アレクセイは、リプレイ2の敵役として度々登場するかと思います。


〈著作情報〉2018年07月22日現在

 カードワースはgroupAskに著作権があり、カードワースの管理、バージョンアップ、オフィシャルな情報等はgroupAsk official fansiteにて、カードワース愛護協会の皆さんがなさっています。

 このリプレイは各シナリオをプレイした上で、その結果を小説風リプレイとしてY2つが書いたものです。
 書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。

 リプレイ環境であるCardWirthPy Rebootは2018年2月1日リリースされたCardWirthPy 2.3 - CWXEditor同梱版に拙作のカードワースダッシュStandard Editionを使ったスキンを作成してプレイしているものです。
 CardWirthPy Rebootは同名の開発サイト
 ( https://bitbucket.org/k4nagatsuki/cardwirthpy-reboot/wiki/Home )で配布されています。
 カードワースダッシュStandard Editionはこのブログのリンクから行ける、Y字の交差路別院にて配布しています。
 エンジンと付属物の著作権・開発状況・その他の情報は各配布元を御参照ください。

 【CW:リプレイ】、【CW:リプレイ、R】、【CW:リプレイ2】、【CWPyDS:リプレイ】、【CWPyDS:リプレイ2】等で書かれた記事、書かれる記事は、特定のシナリオの名前が出たときは、そのシナリオの著作権はすべてそのシナリオの作者さんにあります。
 また私がお預かりしているMartさんの“風を駆る者たち”リプレイの記事を参考にした内容は、それぞれのシナリオそのものの著作権はそれそれの作者さんにあり、参照記事はMartさんに著作権があります。
 御了承下さい。
 また、リプレイ中に使われる内容には、各シナリオで手に入れたスキルやアイテム、各シナリオに関連した情報等が扱われることがあります。
 それらの著作権は、それぞれのシナリオの作者さんにあります。
 またカード絵等の素材に関しては、シナリオ付属の著作情報等を参考にして下さい。
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