Y字の交差路

 ここはY2つめがノリで作ったブログです。  カードワースを中心に、私が思ったことや考えたことを徒然なるままに書きたいと思います。

『深山の帝王』

 ブレッゼンの工房で行った宴会の次の日。
 
 二日酔いで呻く野郎どもを工房から追い出すと、ブレッゼンは篭って魔剣製作に取り掛かった。
 
 “風を纏う者”は手に入れた資金で新しい装備をサンディから購入し、ロマンも念願の【カドゥケウス】と、新しく古代の文献から掘り出した技術を身につけた。
 立派な杖を握るロマンの姿は、どこか荘厳である。
 
 シグルトは回避するより、庇える装備をと鎧を購入することにした。
 それはかつてロマンが驚いていた【真なる銀の鎧】である。
 
「昔の体調では鎧をまとって動くことは出来なかったが、今の状態なら問題ない。
 
 癒し手もいるなら、攻撃を受けて耐える武装の者がいても良いと思ってな。
 どうせ装備するなら、錆びず軽くて頑強なブレッゼンの魔法の鎧にしたんだ。
 
 サンディさんには随分代金をまけてもらったよ」
 
 金属鎧を装備したシグルトはより戦士らしい雰囲気になった。
 その上から冬用の外套を纏い、剣を下げる。
 
 ブレッゼンがくれた【トールハンマー】はスピッキオの腰に下げられている。
 本来投擲武器であり、携帯するのに相応しいサイズである。
 護身の武器としても有難い装備だった。
 
 
 新装備に身を固めた一行はフォーチュン=ベルでダークエルフの討伐を成功させ、もう一度ブレッゼンの元でレベッカのために【ミストルティン】を求めた。
 ブレッゼンはそのぐらいならサービスだ、とレベッカにただでその魔剣の元本になる短剣をくれた。
 
 ここ数日でレベッカも〝昔の動きができるようになった〟と言っていた。
 首をかしげたロマンの前で、レベッカは壁を蹴ってくるりと空中でトンボをきると、背の高いスピッキオを軽々超えてその後ろに着地した。
 
「ふふ、最近少し体重を落として手足の筋肉を徐々に戻しておいたのよ。
 
 だいぶかかったけど、ラムーナ並に身が軽くなったわ。
 こういう技術は盗賊の本分だから」
 
 【猫の業】と呼ばれる盗賊のアクロバット技術である。
 登攀などももっとスマートに出来るようになったと、レベッカは語る。
 
「わしも昔、聖北で習った秘蹟を使うことにしたわい。
 
 シグルトの装備が重くなったのと、ラムーナが防御の支援を出来るようになったのでな。
 
 攻撃を反らすシンプルなものじゃが、ラムーナの舞踏とわしの【祝福】の秘蹟とあわせれば冒険で無事におれることも多かろう。
 
 【聖別の法】とはまた違って、範囲が広いからの」
 
 こうして、装備を充実させた一行はリューンへと向かった。
 ブレッゼンは、次の機会には魔剣が出来ているだろうと言って見送ってくれた。
 
 
 そしてリューンに戻る最中のこと、シグルトたちは重傷を負って倒れている若者を助けることになった。
 巨大な獣に襲われたらしく、体中に惨い傷痕があり、泥にまみれたそこが化膿していた。
 
 レナータの浄化の癒しが毒を除き、若者は命を取り留めたが、一行に震える手で手紙を差し出すと、疲労と失った血のために気を失ってしまった。
 
 若者を聖北教会付属の施療院(無料奉仕で治療の秘蹟を行ってくれる施設)に預けると、シグルトは手紙の内容を確認した。
 
 それは冒険者に当てた依頼書で、開拓村エチェの窮状を救って欲しいという依頼書であった。
 冬篭りから目覚めた巨大な羆(ひぐま)が暴れ周り、家畜も襲われ、村人は外には出られない…
 もはやこのままでは村が全滅するまで待つしかなく、犠牲者も出ており、至急この羆を退治して欲しいという内容だった。
 
 報酬は銀貨九百枚。
 貧しい開拓村ではそれだけの銀貨を出すのも大変だろう。
 
「…エチェといえば、今冬真っ盛りで、雪の中を行かなきゃならないわ。
 
 冬山は恐ろしいところよ。
 防寒具はとりあえず揃ってるから、行けないことはないけど」
 
 レベッカが少し渋った反応をする。
 防寒具を纏い、雪に足をとられた状態では、羆との戦闘が難しいと彼女は言う。
 
「しかし、この状態ではかなり切迫した状態のようだ。
 
 それにあの青年は件の羆にやられた様子だ。
 次の依頼をする間に、村が無くなってしまうかもしれん。
 
 手紙を開封した以上、どうにかしてやるべきだと俺は思う」
 
 シグルトが珍しく真っ先に意見を言った。
 義に厚いシグルトらしいと、皆納得したのだが。
 
「僕はシグルトに賛成するよ。
 
 装備も整ったんだし、他の冒険者に依頼を渡すようなら信頼を損なうよ」
 
 これにスピッキオが頷く。
 
「村人たちは震えながら待っておる。
 
 それを救ってやれるのはわしら冒険者だけじゃ」
 
 ラムーナもすがるような目でレベッカを見る。
 貧困を経験しているラムーナにとって、この話は人事ではないのだ。
 
「私も行くべきだと思います。
 
 もし村人に怪我人がいるなら、癒し手の力が要るのではないかと。
 獣の爪や牙は時としてその傷が毒を持ちますから」
 
 レベッカはため息をつくと、分かったわ、と言った。
 
「エチェっていうのは、疫病にかかった連中をソルモントって領主がまとめて追放し、その流浪民が開いたいわく付きの開拓村でね。
 
 村の連中も排他的で、世捨て人の村、みたいなところなのよ。
 
 まぁ、北西に1週間はかかるわ。
 途中から雪道で距離があるから皆覚悟しておいてね」
 
 こうして、“風を纏う者”はエチェへそのまま向かうことになった。
 
 
 途中、やや強行軍で距離を短縮したが、雪道で思わぬほどに時間を取られ、着いたのは1週間後の夕刻であった。
 
 夕日に赤く染められたエチェの雪景色は、何とも言えない趣をかもしだしている。
 
「…美しい眺めですね。
 
 でも、リューンから非常に険しい道でした」
 
 レナータが呟くと、ラムーナが頷く。
 
 エチェ村は四方を深い森と山に囲まれ、街道からも離れた場所に位置する為、夏場にこの地の良質な木材を買付けに来る一部の商人の他には、訪れる者は殆どいない。
 
 特に冬場は周囲が深い雪に閉ざされ、旅慣れない者では辿り着く前に遭難することだろう。
 もっとも、降り積もる雪の他には何も無いこの時期に、この村を訪れようとする者は、依頼を受けに来た“風を纏う者”くらいしかいないのだが。
 
「さ、もう少しだよ。
 
 急ごう」
 
 ロマンに急かされ、そしてほどなく一行はエチェ村の中心部に到着した。
 
 立ち並ぶ家屋の屋根は、通常のものより角度のついた見慣れない形である。
 
「このあたりのものすごい降雪量への対策だよ。
 
 貧しい装備の家屋だと、普通の造りならすぐに雪に潰されてしまうからね」
 
 そしてロマンが一際大きな家を指差す。
 
「あれが村長さんが村の代表が住む家だろうね。
 
 あの特徴的な造り、見たことあるよ」
 
 ロマンの言葉にシグルトが頷く。
 
「まずは手紙にあった村長に会おう。
 
 状況も確認しないとな」
 
 シグルトは買ったばかりの鎧は担いでいる。
 雪道を踏破するのには動きにくかったからだ。
 しかし、通常の鎧より軽いつくりのそれを、シグルトは苦も無く他の荷物と一緒に背負い、雪道を慣れた足取りで踏破していた。
 
 シグルトの故郷も雪が多い国であり、シグルトの的確な助言とレベッカの技能により、一行は迷わずエチェに到着できたのである。
 
 そのシグルトは、件の大きな家の前に行くと扉を叩いた。
 
「…失礼する。
 
 ここを開けてはもらえないか?」
 
 シグルトの声に、慌てて駆け寄ってくる足音がすると、ほどなく扉が開かれた。
 半分は禿げ上がった白髪の老人が目を見開いて一行を見つめる。
 
「…!?
 
 あなた方は、もしや…
 
 おぉ、おお…
 この雪の中をよくぞ、よくぞ来てくださいました」
 
 跪いてシグルトを見上げた、どうやら村長らしいその男は、憔悴しきっていたが、シグルトを見る目には希望の光が宿っているようだった。
 
「立ってくれ。
 村長、で違いないな?
 
 俺はシグルトと言う。
 リューンの冒険者“風を纏う者”の代表者だ。
 
 羆の一件の依頼を受け取った者だ。
 俺たちに出来ることは尽くそう。
 
 6人の大所帯だが、入っても大丈夫か?」
 
 シグルトの言葉に、男は慌てて一行を家の中に誘った。
 
 椅子が足りず、ラムーナとスピッキオが床に腰を下ろす。
 
「手狭なところで申し訳ありません…」
 
 恐縮する村長に、シグルトは優しい笑みを浮かべ首を横に振った。
 
「…俺は北方の出でな。
 
 大きい家は雪の被害も大きくなる。
 このぐらいが丁度よいだろう。
 
 強く良い造りだ」
 
 シグルトの柔らかな対応に、安心したように村長がテーブル脇にあった空の樽に腰掛ける。
 
「…早速本題に入ろう。
 手紙の状況ではかなり逼迫した状態なのだろう?
 
 詳しい状況を聞かせてもらえるか?」

 村長はシグルトの言葉に頷くと、淡々とことの顛末を語り始めた。
 
「村を脅かしているのは、我ら村の者たちが《ミーシャ》と呼んでいる年老いた雄の羆です。
 
 4m程もある巨躯と、我々人間との無用な争いを避ける賢明さを併せ持つ、この一帯の、“深山の帝王”と呼ぶに相応しい獣でした」
 
 一同が息を呑む。
 
「なっ、4mだって!?
 
 食人鬼(オーガー)や牛頭鬼(ミノタウロス)よりも巨大じゃないか…」
 
 ロマンが目を丸くしていた。
 
 村長が一息置いて話を続ける。
 
「ところが、つい一月程前の話です。
 
 数人の冒険者の一団がこの村にやって来たのです。
 
 ある貴族が、どこかで噂を聞き付けたのでしょう、ミーシャの毛皮の入手依頼を出したらしいのです。
 
 我々は彼らを止めました。
 
 見るからに駆け出しである彼らでは、ミーシャを屠ることなど出来はしないと…
 そしてミーシャに危害を加えようものなら、ミーシャの怒りの矛先は我々にも向くであろうと…
 
 結局彼らは我らの制止も聞かずに山へと向かい…そして、誰一人として戻っては来ませんでした。
 
 ミーシャが村に姿を現したのは、それから1週間程経った、吹雪の夜でした。
 
 …ミーシャはある民家に、扉と壁の一部を破壊して侵入し、家族を護ろうと彼に立ち向かった主人に瀕死の重傷を負わせ…
 子供達を庇って前に出たその家の主人の妻を打ち殺し、彼女を咥えて吹雪の中に消えたそうです。
 
 吹雪が晴れた翌日の昼、村の男達で結成された捜索隊により、その家の妻は無残な姿で発見されました。
 
 しかも、事件はそれだけでは終わりませんでした。
 
 …その日の黄昏時、彼女を納棺し、祈りの儀式が行われている最中に、ミーシャが再び姿を現しました。
 ミーシャは、獲物を、彼女を取り返しに来たのです。
 
 恐怖して静かに道をあける我々を尻目に、ミーシャは棺を打ち壊し、彼女の亡骸を引きずり出して再び山へと消えて行きました。
 
 …その後も、食料庫を漁る、家畜を襲う――既に一頭一羽も残っていません――等、ミーシャの凶行は止まる所を知りません。
 
 それどころか、3日前には村の墓地を掘り返し、遺体を食い荒らす、という状況にまでなっております。
 
 ミーシャが、次に村に姿を現す時には、再び村の者が襲われることになるでしょう。
 
 ミーシャを討って頂けなければ、我々にはもう、ミーシャに皆殺しにされる他には、残された道は無いでしょうね。
 
 …村を拓いて十年、多くの者は歳を取り過ぎました。
 仮に村を捨てたとしても、頼れる当てなどは無いのです。
 
 …どうか、我々をお救いください」
 
 深々と頭を下げる村長。
 
「村長、言ったはずだ。
 俺たちに出来ることは尽くすと。
 
 それに、今回の原因を作ったような愚かな冒険者ばかりではないことを証明したい。
 
 この村からこれ以上の犠牲者が出ないように尽くす。
 だがら、信頼してもらえないか?」
 
 シグルトの言葉に、村長は目を潤ませ、もう一度頭を下げた。
 
「途中、鹿を1頭仕留めて、その肉を持ってきた。
 
 俺たちが見張りに立つ間、少量だが村人に配ってくれ。
 腹がふくれれば落ち着く人間もいるだろう」
 
 シグルトが大きな布袋を下ろす。
 
「私たちの食料は数日分あるわ。
 だから遠慮なく使って頂戴。
 
 あんまり長丁場にしたくはないけど、そうなった時から食料はお世話になるわ。
 少し塩もあるからつけておくわね。

 安心して。 
 私たちは強いわ」
 
 シグルトたちの好意に、村長は嗚咽し始めた。
 1人重責を背負ってきたこの男にとって、この数日間はとても辛いものだったのだろう。
 
 しかし、男は涙を拭くと遠慮がちに尋ねる。
 
「あの、手紙を持った者が伺ったはずですが…
 
 その者は…?」
 
 シグルトが大きく頷く。
 
「彼は件の羆に襲われたらしく怪我をしていたが、今は聖北教会の施療院で治療を受けている。
 
 彼の体力では冬山を踏破出来ないだろうと、いまは治療に専念してもらっているが、ことが片付く頃には回復して戻ってこれるだろう。
 
 たいした男だよ」
 
 安心したように村長が息を吐いた。
 
「…そうだったのですか。
 
 実は、依頼を届けに行った、ユーリ――彼の名です――は、私の息子なのです。
 
 彼がミーシャに襲われたことを嘆くよりも、襲われたにもかかわらず、命が助かったことを喜ぶべきなのでしょうね」
 
 村長は、絞り出すように、まるで、シグルトにではなく、自分に言い聞かせるかのように語った。
 
「…ああ。
 
 生きていれば出来ることがある。
 親しい者の死は辛いが、残った者は生きるために尽くすべきだ。
 
 だから、今はその羆を倒すことに専念しよう」
 
 シグルトは信念のこもった目で村長を見つめ、断言した。
 その力強い言葉に村長も頷く。
 
 疲弊した者には支えが必要なのだ。
 シグルトはそれをちゃんと心得ている。
 
 支えになり、それを背負うことをシグルトはまったく躊躇しない。
 理不尽に立ち向かうと彼が誓った時、迷うことは無くなった。
 それが彼の強さであり、魅力的なところだと、レナータは後に語る。
 
 
「では問題の羆について対策を練ろう。
 
 俺は一度これに似た狂い熊と戦ったことがある。
 俺の故郷では、人を食った熊は昔から狂うと言われていた。
 
 そして人の血肉を好んで喰らう怪物になると。
 
 俺が戦ったことのある熊も、件のミーシャほど巨体ではなかったが、恐ろしく強く人間ばかり襲って喰らっていた。
 
 人を襲った熊は何故か狡猾になる。
 不意討ちをし、罠を感知し、人の裏をかく。
 
 俺は地味だが、この村で見張るべきだと思う。
 
 下手にミーシャを探しに山を歩けばその隙に村が襲われる。
 山は奴の庭だ。
 俺たちが山で出会っても不利だろうし、な。
 
 特にそれだけの巨体をもつ羆なら、間違いなく何年も生きた老獪な奴だろう。
 
 あとは村人に被害を出さないよう、羆を足止め出来る罠か地形があるとよいのだが」
 
 シグルトの経験から話された的確な作戦に、レベッカやロマンが唸る。
 確かに雪山を歩き回るより安全である。
 
「加えて冬の山にはそいつの巨体を維持する食料は無い。
 
 必ず業を煮やして村を襲ってくるだろう。
 狩りをする時、最も大切なことは辛抱強さだという。
 
 俺は、村で羆を迎え撃つ準備をしながら待つことを提案する。
 
 他に何かあるなら、皆の意見を聞かせてくれるか?」
 
 レベッカが手を上げる。
 
「見張りは寒いのと重ねて体力を消耗するわ。
 
 万全の体制で挑めるよう、パーティを半分ずつに分けて交互に休んで見張ること。
 それとこのあたりの地形や熊の習性に詳しい人を探して、少しでもその羆の癖や性格を知っておきたいわね」
 
 ロマンがそれに付け加える。
 
「村人にはできるだけ被害が出ない頑強な建物に篭ってもらうこと。
 
 そいつが怒り狂って被害者が出るといけないからね。
 この家ならそういう対策を立てれば堅牢な砦にできるよ」
 
 ラムーナがそれに頷く。
 
「村長、ミーシャが主に活動する時間帯はわかるか?」
 
 シグルトが尋ねると、村長が少し考え語りだす。
 
「このような事態になる以前に、村の者たちが山中でミーシャを見かけたのは黄昏時のみでした。
 
 元々大半の村の者が山中に行くのは、昼間と黄昏時のみでしたが。
 
 しかし、ミーシャが村を襲うようになってから、彼は主に夜中に姿を現すようになりました。
 
 基本的に用心深い性格をしているからでしょう。
 
 彼が黄昏時に村に現れたのは、遺体を取り返しに葬儀に現れた時のみです。
 
 それを考えるなら、ミーシャの活動時間は、黄昏時から夜明前までということになると思われます」
 
 ふむ、とシグルトは腕を組んだ。
 
「重ねて聞きたい。
 
 このあたりでその羆にもっと詳しい人物はいないか?」
 
 ああそれなら、と村長が首肯した。
 
「村の猟師セルゲイならば、そういうことには詳しいでしょう。
 
 セルゲイは山や、羆の生態などを知り尽くしています。
 少々偏屈な男ですが、事情を話せば皆様のお役に立つかと思います。
 
 彼の家は我が家の隣ですので、すぐに分かることでしょう」
 
 レベッカが、私が尋ねてみるわねと言った。
 
「この村には皆さんの寝泊りできるような宿泊施設がありません。
 
 村の教会で休めるよう手配しておきますので、そこにいる神父にお話下さい」
 
 一行は村長に挨拶すると、まず全員で教会を訪れることにした。
 
 
 “風を纏う者”の一行が教会に入ると、祈りを捧げていた年老いた神父が振り返った。
 
「お前さん方は?
 
 …そうか、ボリスの所のユーリは、無事に町へ依頼を届けてくれたのか。
 
 この季節の我らが村に、よくぞおいで下さった。
 さぞかし辛い道程だっただろう。
 
 申し訳ないが、部屋の奥はいま怪我人が寝取るし、皆さんを泊めるには少し狭くてな。
 休息はここでとってもらえるかね?」
 
 神父が礼拝堂を見回す。
 
「…うん、大きな暖炉があるわ。
 
 ここは村人の避難場所としても設計されているのね。
 休憩場所としてはまったく問題なく使えるわよ」
 
 床が木製だから石畳より暖かいしね、とレベッカが請け負った。
 
「ところで、ミーシャに立ち向かって傷を負った村人の具合はどんな状態なんですか?」
 
 レナータが尋ねると、神父はため息を吐くように語りだした。
 
「…エフゲニーはこの奥で、息子のオーシャに見守られながら眠っておるよ。
 
 ミーシャの爪による傷は、エフゲニーの骨まで達し、さらに悪いことに傷口が化膿し始めておってな。
 
 手は尽くしたが、【癒身の法】程度の秘蹟しか使えぬわしの力では、もう手の施しようが無い。
 ここ数日が限界かもしれん」
 
 するとレナータとスピッキオが頷きあう。
 
「スピッキオ、私が化膿によるエフゲニーさんの体内の毒を浄化します。
 
 貴方は同時に傷の治療を…」
 
 レナータがそう言うとスピッキオが、心得たと答え奥に向かう。
 
「安心して。
 
 2人とも優れた癒し手なの。
 レナータ…女性の方は毒の浄化が出来るから、本人の生きる意志と体力さえあれば化膿ぐらいなら回復するはずよ」
 
 レベッカがそう言うと、神父は目を見開いた。
 
 
 レナータとスピッキオが部屋に入ると、部屋の奥では男が眠っており、また男の息子なのだろう、少年が今にも泣き出しそうな表情をしていた。
 
 男の表情は苦悶に歪み、時折苦しげに呻きながら、うわ言のように妻子の名を呼んでいる。
 その声が漏れ聞こえる度に、少年はうつむき、耳を押さえながら首を振っている。
 
 男…エフゲニーの様子を観察していたレナータは、両手を彼の胸の上にかざした。
 
「《ウンディーネ…浄化の力をっ!》」
 
 澄んだ彼女の声の高まりと共に、輝く一滴の雫がエフゲニーの身体に降り注いだ。
 幾分か、青ざめていたエフゲニーの表情が和らぐ。
 
「…化膿して全身に回っていた毒気を浄化し、傷を清めました。
 
 後の大きな傷はスピッキオの【癒身の法】で癒せば、命の危険はないでしょう」
 
 スピッキオが頷いて祈りの言葉を捧げる。
 彼の手から溢れた柔らかな光がみるみるエフゲニーの傷を塞いでいく。
 
「ふむ、元々の体力はあるようじゃ。
 
 傷は大体塞がっておるから、後は休養して血を作り、毒で失った体力をよく眠って回復すれば助かるの。
 
 まぁ、もはや死の影に怯えなくても大丈夫じゃ」
 
 その言葉を受けて、レナータが少年に微笑みかける。
 
「貴方のお父さんは助かりますよ。
 
 だから安心してね」
 
 少年の顔が喜びに輝いた。
 
「ほんとうに!?
 
 おとうさんを助けてくれてありがとう」
 
 そして、母の名を呼び涙を流した。
 
 レナータは黙ってその子を抱きしめて頭を撫でた。
 
 
 猟師セルゲイの家をシグルトとレベッカは訪れた。
 
 羆に関する情報と、協力を頼むためである。
 扉を叩き呼び出すと、最初セルゲイの反応は冷淡なものであった。
 
「…なんだぁ、あんたらは。
 
 押し売りなら間に合ってるし、今はそんなヒマねぇんだ。
 ほら、帰った、帰った」
 
 しかし、シグルトたちの姿を見ると納得したように頷いた。
 
「…んー?
 
 あんたらか、ミーシャを退治するってのは。
 この季節にこんなところまで、よく来てくれたなぁ。
 
 聞きてぇことがあるんなら、何でも聞いてくれよ」
 
 招き入れられた狭い小屋のような家の中には、小動物を狩る時に使うトラバサミや機械式の弓などが置いてある。
 
 2人はセルゲイが勧めた切り株を加工した簡素な椅子に腰掛けると、早速本題に切り出した。
 
「例の羆の情報を教えて欲しい。
 
 まず聞きたいことだが、冬篭り穴はここから近いのか?」
 
 そうするとセルゲイは苦虫を噛み潰したような顔をした。
 
「ミーシャのねぐらを知ってどうするんだ?
 
 寝こみを襲おうってのか?
 
 最後に確認したミーシャのねぐらはここから山に入って真っ直ぐ西に進んだ先の、斜面辺りの茂みに隠れてる辺りだ。
 
 …んだが、やめといた方がいいぞ。
 羆ってのは鼻が利くんだ。
 
 ミーシャに不意討ちかける前に気付かれるのがオチだ。
 
 …この前来た馬鹿どもは、止めろっつうのに山に入って、穴に向かってそれっきりだ。
 ったく、馬鹿どもだけならまだいいが、こっちまでミーシャに皆殺しにされちまいそうだ。
 
 それに、もうミーシャは目覚めちまってるんだ、のん気ねぐら使ってに休んでるとは限らねぇぞ?」
 
 シグルトは横に首を振った。
 
「そいう意味で聞いたんじゃない。
 
 距離が近いならやってくる時間や、周期が読めるかもしれないと思ってな。
 山の中で羆とやりあう気は毛頭無いよ。
 
 だが、冬篭りから起こされた熊は好戦的で飢えている。
 
 やはり、村で万全を期して迎え撃つべきだろう。
 だとすれば、こちらの存在に気付かれにくくするように、建物の間を抜ける風を読んで、こちらが風上にならないように注意しないとな」
 
 そう言ったシグルトに、セルゲイが目を見開く。
 
「あんた、熊を狩ったことがあるのか?
 
 随分詳しそうだが…」
 
 シグルトは軽く首肯する。
 
「俺が戦ったのは雌だったがな。
 
 子を殺され、手負いで気が立っていたそいつは人を食って狂った。
 
 馬鹿な奴が功を焦って風上から鉄の臭いをぷんぷんさせながら近づいたんだ。
 見事に不意討ちを食らって、死人が2人、怪我人が続出だ。
 
 その二の轍は踏みたくない」
 
 そう言うとシグルトは質問を続ける。
 
「奴の活動時間は黄昏時から夜明け前までだと聞いたが、それ以外の時間帯に活動したことは無かったか?」
 
 セルゲイは幾分シグルトたちを認めたらしい態度で話し始めた。
 
「んー、確かにオラも、村の皆同様、ミーシャの奴を見かけたのは、黄昏時から夜明け前までだ。
 
 …んだが、羆ってのは元々、腹が減った時に食い物食って、寝たい時に寝る奴らだ。
 ミーシャも昼間寝てるとは限らねぇなぁ…
 ただ、見張るんなら夜中が一番あぶねぇだろうけどな」
 
 シグルトはなるほど、と腕を組んだ。
 
「奴と対峙する時、注意したほうがいいことはあるか?」
 
 それは長年の経験を積んだ狩人への質問だった。
 シグルトはどんな小さなことも聞き逃すつもりは無い様子だ。
 
 セルゲイは腕を組んで考える素振りをする。
 
「…ミーシャが立ち上がる素振りを見せたら、気ぃ付けることだな。
 
 後ろ足2本で立ち上がったら、ミーシャが全力で攻撃する合図だ。
 その時に殴られちまったら、普通の人間だったらイチコロだ。
 
 もし、ミーシャから逃げる場合は走ったりするんじゃねぇぞ。
 
 アレだけデカけりゃ小回りは利かねぇだろうけんども、人間が走って逃げ切れるもんじゃねぇからな。
 目ェ逸らさずに、ゆっくりと下ってくんだ。
 
 そうすりゃ、食われるのは1人2人くらいで済むだろうよ」
 
 それぐらい凶悪な相手なのだと、セルゲイは呟いた。
 
「…さっき、随分忙しそうにしてたけど、一体何をしていたの?」
 
 レベッカが周囲の罠を見ながら言う。
 
「おっと、すっかり忘れとった。
 
 あんたらが来るまでミーシャに対抗するための罠の準備をしててな。
 
 …無駄かもしれねぇが。
 
 何しろ奴は鼻も利くし頭も働く。
 ただ仕掛けるだけじゃあ多分見破られちまうだろうからなぁ。
 
 誰かが上手く誘い込めりゃ、少しの間足止めくらいは出来るんじゃねぇかと思うんだが」
 
 パチンとレベッカが指を鳴らした。
 
「渡りに船ってやつね。
 
 その罠、私たちに使わせてくれない?
 丁度私たちも、奴が戦闘で村を暴れまわらないように、足止めの罠を作ろうと思っていたのよ」
 
 セルゲイは少し憮然とした顔でレベッカを見る。
 
「…豪気な女子だなぁ。
 
 オラは引っ込んでろってか。
 
 ま、いいさ。
 使うからには上手く使ってミーシャをキッチリ仕留めてくれよ。
 
 あんたらで出来るのか?」
 
 シグルトは大丈夫だ、と頷く。
 
「羆は罠まで誘い込んで動きを抑えよう。
 引きつけ役は鎧を持っている俺がやる。
 
 罠の設置はレベッカ、お前が頼む」
 
 レベッカが頷く。
 
「任しておきなさい。
 
 これでも私、仕掛けた罠が不発だったことって無いのよ」
 
 手馴れた調子で罠の機構を確認するレベッカに、セルゲイが目を丸くしている。
 レベッカはセルゲイが苦戦していた仕掛けの不調を瞬く間に直してしまった。
 
「たまげた…
 
 とんでもない女子だなぁ、あんた」
 
 レベッカはセルゲイに軽くウインクした。
 
 
 その後、一度教会に集まった一行は、これからのことを相談していた。
 
 レナータとスピッキオが行った治療でエフゲニーが助かり、偏屈者のセルゲイが、あいつらなら大丈夫かもしれん、と言ってくれたおかげで皆村人は好意的だった。
 
 何より、貴重な食料を分けてくれたことが、前の冒険者と違うと手の空いた村人たちはシグルトたちの作戦に協力してくれた。
 
 シグルトたちが立てた作戦は極めてシンプルなもので、ミーシャがやってきたら囮役が罠まで誘導し、そこで捕縛して一気に片をつける、というものだ。
 
 だが、その作戦を確実なものにするために、ロマンが風の動きや地形を探し、なければ障害物等でそれらしく作った。
 
 シグルトたちが決戦に選んだ場所は、石造りの井戸と巨木にはさまれた閉所だ。
 羆サイズの動きは制限されるが、シグルトたちが剣を振るうスペースに余裕はある。
 ミーシャがよく現れるという場所からも近い。
 
 そこにレベッカが罠を仕掛けた。
 
 
 行動中、“風を纏う者”は2つのグループに分かれて休息を取りつつ見張りをすることにした。
 
 まずシグルトのグループ。
 ロマンとレナータがいる。
 
 2つ目はレベッカのグループ。
 ラムーナとスピッキオがいる。
 
 人選の基本は戦士1人、癒し手1人で指揮ができる人物がおり、いざというときに、素早くて連絡役になれるものがいることである。
 戦士が囮役になり、癒し手はそれをサポートする、という作戦だ。
 
 こうして1日目、まずシグルトのグループが見張りに立ち、レベッカたちは休息した。
 
 そして、休憩を終えたレベッカたちがシグルトたちの様子を見に行く。
 
 鎧を着たシグルトがそれを出迎えた。
 
「御苦労様。
 
 奴は出てきた?」
 
 レベッカの問いにシグルトが首を横に振る。
 
「今のところは出ていない。
 
 だが、今がちょうど夜中だ。
 話通りならそろそろ…
 
 来たみたいだな」
 
 シグルトの目が鋭くなる。
 
 そこには巨大な影が、まるで品定めをするようにこちらを見つめていた。
 かなりの距離が離れているものの、その大きさが並の羆とは比べ物にならないことは、容易に見て取れる。
 
「…大きい」
 
 ラムーナが唾を飲み込んだ。
 
 ミーシャは、今はまだ、村を襲撃する機ではないと判断したのか、それとも、村にはいつでも攻め込めると判断したのか、悠然と夜の闇に姿を消した。
 
 その晩が過ぎ、昼間にシグルトたちが休んだ。
 
 そして2日目の夜中。
 シグルトたちが見張っていると、山へと続く森の中から、驚くほど巨大な羆が姿を現した。
 ミーシャである。
 
「…なんという巨躯なのでしょう」
 
 レナータが、少し近くに現れた羆の巨体に目を見張る。
 
 鋼のように屈強な剛毛。
 盛り上がった筋肉。
 丸太のような4本の足。
 子供を丸呑みに出来そうな頭…
 
「ミーシャだー!!!
 
 ミーシャが出たぞー!!!」
 
 村人の誰かが叫んで、その声が村内に響き渡る。
 
「この騒ぎなら、レベッカたちも飛び起きてくるね」
 
 ロマンがシグルトの側に来る。
 
「…俺が作戦通りに囮をする。
 
 2人とも準備を頼む」
 
 シグルトの声に従い、ロマンが杖に魔力を込める。
 レナータがシグルトにナイアドの防御をかける。
 
「では、行くぞ」
 
 シグルトは泰然と羆に近づいていった。
 
 じわりじわりとミーシャもその歩みで距離を狭めてくる。
 シグルトは、罠を決して見ない。
 
 ひたすらミーシャへと歩んでいく。
 
 それを一足先に駆けつけたセルゲイが目を見開いて見つめていた。
 
「あの男、なんつう糞度胸だ…」
 
 自分の2倍以上もあるミーシャを見上げ、決して目を逸らさず、シグルトは一定の歩調で歩いていく。
 
 じりじりと互いに距離を詰めながら、罠の在り処へと近付いていく。
 
 ガシャァァァンッ!
 
 そして罠ががっちりとミーシャを捉えた。
 
「ガアッ!?」
 
 激痛にミーシャが牙を剥く。
 
「…っ!」
 
 しかし、近くにより過ぎてしたシグルトに、ミーシャの一撃が振り下ろされる。
 
「ぬっ!!!」
 
 シグルトはその一撃を受けながらも、耐え切った。
 そして、その勢いで後ろに下って攻撃範囲外に逃れ、体勢を立て直すと剣を抜く。
 
「お前に恨みは無い。
 
 だが、狂って人を殺め、お前は“深山の帝王”では無くなった。
 今、お前はこの村の、俺たちの敵でしかない。
 だから全力で俺たちが仕留める。
 
 行くぞ、ロマン、レナータっ!」
 
 シグルトが剣でミーシャに斬りかかる。
 
「グァァァァァ!!!!」
 
 鋼のような胴に走った傷に、ミーシャが凄まじい咆哮を上げた。
 
 ロマンが魔導書に向けて呪文を詠唱する。
 レナータが精霊の力を感じるためにその目を見開く。
 
 そしてシグルトは一歩下ると大きく剣を振り上げた。
 
 罠によってミーシャが傷ついていく。
 
 ロマンは杖に込めた魔力に呪文で呼びかける。
 レナータがナイアドに呼びかけて己の周りに水の膜を張る。
 
「はぁぁぁっ!!!」
 
 シグルトの剣がミーシャの肩を突く。
 
 喰らいつこうとするミーシャの顎をすっとかわし、シグルトは次の一撃を準備する。
 その瞳が淡い緑の燐光を宿し、まるで炎が宿ったようだ。
 シグルトの中のダナが目覚めたのである。
 
「《魔弾よ、撃てっ!》」
 
 ロマンが突き出した【カドゥケウス】から光の弾丸が打ち出されミーシャを打ち据える。
 
「《ナイアドっ!》」
 
 即座にロマンの周囲に水の防護膜が張られる。
 
「はぁっ!」
 
 シグルトの剣が確実にミーシャを傷つける。
 
「ウガァァァ!!!」
 
 罠を引きちぎろうと暴れるミーシャ。
 
 再び杖を構えたロマンの横に、ふわりとレベッカが舞い降りた。
 
「お待たせ、皆生きてるみたいね」
 
 シグルトが頷いて剣を構える。
 
 ラムーナとスピッキオも駆けつけた。
 
「行くぞ、皆っ!」
 
 シグルトの渾身の一撃が、ロマンの光の弾丸が巨体に叩きつけられる。
 
「グゥアァァァァァ!!!」
 
 バキャァッ!
 
 遂に罠が耐え切れず砕け散る。
 
「喰らえぃ!」
 
 スピッキオが投擲した【トールハンマー】がミーシャの鋼のような構えを打ち崩す。
 
「《眠れ!》」
 
 襲い掛かろうと巨体を持ち上げた瞬間、ロマンの【眠りの雲】がもたらした睡魔にミーシャがよろめいた。
 
「《風よっ!!!》」
 
 シグルトが風と一体化し、その隙に斬りかかる。
 盛大に飛沫くミーシャの血。
 
 目が覚めたミーシャに向けてラムーナが急激に接近する。
 
「イヤァァァァァァッ!!!!!」
 
 攻撃の直後に屈んでラムーナの足場となるシグルト。
 素早いラムーナが、シグルトを踏み台にものすごい跳躍を見せる。
 ブレッゼンがくれた【早足の靴】という魔法の装備のおかげである。
 
 体当たりのように飛び込んだラムーナの刺突が、ミーシャの眼窩から脳を貫く。
 
 ふらりとその巨体がよろめくと、ミーシャは轟音を立てて、地に倒れ伏した。
 
 倒れた直後は、浅く、荒い呼吸をしていたが、やがて大きく息を一つ吐くと、それっきり動かなくなった。
 
 ロマンが力が抜けたように座り込む。
 
 シグルトは黙ってミーシャに近付くと、鎧の上に羽織っていた上着を、その頭部にそっとかけた。
 
「戦いで決したこと。
 …謝りはすまい。
 
 だが、お前という犠牲者のことは憶えておく。
 お前の死後の世界での幸せを、お前に殺された人間たちの冥福を。
 今の俺にはただ祈ることしか出来ない。
 
 だから、この俺を恨んでもいい。
 この村に祟らずに、静かに逝け…」
 
 シグルトはミーシャの巨躯を見下ろして厳かにそう言うと、目を閉じて黙祷した。
 
 
 その後、シグルトは村長にことの顛末を説明した。
 
 村長は安堵の表情を浮かべて感謝の言葉を述べつつも、どこか寂しげにも見えた。

「…我々人間がミーシャに手を出さなければ、彼は今も賢明なる“深山の帝王”であったのだろうと思うと、複雑な気分でして。
 
 我々にとって、彼は厳しくも恵み豊かなこの山の、雄大なる自然の象徴でしたから」
 
 シグルトが静かに語りだした。
 
「俺のいた故郷では、熊は祖霊として祀られていた神聖な動物だった。
 
 熊が暴れるのはいつも人間がその世界を侵すからだ。
 あの羆の遺体は、そっと埋めて欲しい。
 
 俺の個人的な願いだが」
 
 村長がその言葉に頷く。
 
「例の羆のことは片がついたって噂を流しておくから、毛皮を求める馬鹿はもう来ないわ。
 
 それに、ユーリさんだっけ?
 貴方の息子がリューンに来る少し前に、ソルモント郷は失脚したそうよ。
 
 死んだ冒険者たちも馬鹿だったということ。
 
 というわけで、憂いは消えたわけだから頑張って村を立て直してね」
 
 村長が感無量という感じで、深々と頭を下げる。
 
「皆さんは村の恩人です。
 
 いつか機会があれば、またいらして下さい」
 
 シグルトたちは報酬を受け取ると、その日教会で一泊し、次の日に村人に見送られながらエチェ村を後にした。
 
 助かったエフゲニー。
 その子のオーシャ。
 狩人のセルゲイ。
 
 彼らに見送られながら、シグルトは広大な白い峰々一度振り返る。
 
「シグルト?」
 
 レナータがその横顔を見る。
 シグルトは空を見上げると、一度目を閉じ、そして次に目を開いた時にはレナータに微笑むと、リューンに向けて歩き出した。
 
 それはまるで山々と自然に別れを告げるように厳かだと、レナータは感じた。
 
「…俺たちも、何をしても自然の一部に過ぎない。
 
 そのことを忘れ、驕った時にミーシャのような狂うものが現れる。
 それも自然なのだろうが…歯痒いよ」
 
 そう言って眉をひそめるシグルトの横顔はとても人間らしくて、不謹慎と思いながら、レナータはシグルトの別の一面を見つけられたように嬉しくも感じていた。
 
 日に照らされた眩い雪の光に照らされながら、“風を纏う者”はまた旅立つのだった。

 
 
 藤四郎さんの傑作、『深山の帝王』をリプレイです。
 
 何というか、読む前に未プレイの方は遊んで欲しいこの1本、という感じです。
 丁寧に作りこまれたシステム。
 濃厚な深山の雰囲気を感じさせる文章。
 場を盛り上げる緊張感の演出と、音楽。
 
 文句なしに勧めるこの1本、という奴でした。
 
 下手をすると村がとんでもないことになります。
 戦略や冒険者の配慮も問われるので面白いシナリオです。
 
 今回、シグルトの故郷のことがまた少し出てきましたが、彼の故郷は北欧をモデルにしています。
 
 ついに鎧を纏ったシグルトですが、ものすごくこれでタフになりました。
 他のPCも装備が豪勢に。
 
 ちなみに、このシナリオプレイ時の装備は…
 
・シグルト
 【影走り】(スキル)
 【縮影閃】(スキル)
 【風疾る利剣】(スキル)
 【剣叫ぶ雷霆】(スキル)
 【ロングソード】(アイテム)
 【真なる銀の鎧】(アイテム)
 【鋼鐵の淑女】(付帯能力)

・レベッカ
 【盗賊の眼】(スキル)
 【盗賊の手】(スキル)
 【小細工】(スキル)
 【絞殺の綱】(スキル)
 【鉄塊(ミストルティン)】(アイテム)
 【猫の業】(付帯能力)
 
・ロマン
 【魔法の矢】(スキル)
 【眠りの雲】(スキル)
 【焔熱の仕手】(スキル)
 【魔導の昇華】(スキル)
 【ジュムデー秘本】(アイテム)
 【カドゥケウス】(アイテム)
 
・ラムーナ
 【連捷の蜂】(スキル)
 【幻惑の蝶】(スキル)
 【咒刻の剣】(スキル)
 【戦士の勲】(スキル)
 【早足の靴】(アイテム)
 
・スピッキオ
 【癒身の法】(スキル)
 【聖霊の盾】(スキル)
 【祝福】(スキル)
 【癒しの奇跡】(スキル)
 【クルシス】(アイテム)
 【トールハンマー】(アイテム)
 
・レナータ
 【泉精召喚】(スキル)
 【水精召喚】(スキル)
 【海精召喚】(スキル)
 【水精の一雫】(スキル)
 【交霊の異能】(アイテム)
 
 となっています。
 
 強くなったもんですね~
 
 シグルトとレベッカの付帯能力は、彼らの実力やリプレイ上の性格表現のため、くっつけてますが、この手の付帯能力が苦手な人もいるかもしれませんね。
 
 
 さて、今回の動向は…
 
・『風たちがもたらすもの』(拙作)
 【焔熱の仕手】購入-1400SP(ロマン)
 【魔導の昇華】購入-1400SP(ロマン)
 
・『希望の都フォーチュン=ベル』(Djinnさん)
 ダークエルフ退治 報酬+700
 
・『魔剣工房』(Djinnさん)
 【ミストルティン】購入-1000SP(レベッカ)
  ※ソウルイーター売却分処理
 
・『風たちがもたらすもの』
 【猫の業】-3000SP(レベッカ)
  ※ソウルイーター売却分処理
 
 【治癒の水薬】
 【消毒の水薬】
 【言葉の飲薬】
 【黒い投剣】
 【破魔の護符】各購入、合計800SP
 
・『交易都市リューン』(齋藤洋さん)
 【聖霊の盾】-1000SP(スピッキオ)
  ※ソウルイーター売却分処理
 
・『深山の帝王』(藤四郎さん)
 【捨身の盾】
 報酬+900SP
 
 ※ソウルイーター売却処分はソウルイーターを売った5000SP分のアイテムを購入したという表現ではなく、ストーリー上の都合で手に入った形にリプレイで表現したものです。
 
 というわけで現在の所持金は…
 
 
◇現在の所持金 4001SP◇(チ~ン♪)
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この記事のコメント

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2006-10-08 Sun 19:15 | | #[ 編集]
付帯能力は私もバリバリ使っています。

4メートルというのは…ホッキョクグマの中でも巨大な部類に入るほどのようです。
もう並の人間が太刀打ちできるレベルではないですね。
…ミノタウロスって大きな者で4~5Mだと思っていたのですが、Y2つさんはどの程度だとおもわれますか?

シグルド、相変わらず格好良いですね…惚れそうです。
2006-10-24 Tue 07:37 | URL | 愛・舞・魅 #mQop/nM.[ 編集]
 ミノタウロスはたぶん3~4メートルぐらいかと。
 確か他のヒューマノイドの雌を生殖に使うとか聞いたことがあるので、(生々しい話ですみません)大きすぎると難産かなぁ、と。
 
 良い子のみなさんには一斉に引かれそうな表現ですみません…←下品
 
 5メートルまでいくと、住み着く洞窟が限られそうですね。
 一応迷宮生息型ですし、人の武器を使うこともありますから。
 
 ホッキョクグマは強いですからねぇ。
 それの最大の奴を素手で倒す勇○郎とはいかなレベルなんでしょうかね…(分からなかったらすみません)
 
 シグルトは、「男も女も思わず惚れる」を一応目指してます。
 容姿ではなく、その生き様や考え方の格好良さで、「顔だけじゃない漢」に表現できてると良いのですが。
 
 熱血まではいきませんが、誠実で義理堅い兄ちゃんです。
 子供好きで面倒見が良かったりもします。
 口で多くを言うより、武骨に背中で語りたい、そんなリーダーです。
2006-10-24 Tue 17:27 | URL | Y2つ #TIXpuh1.[ 編集]

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